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特表2023-544010リチウム二次電池用分離膜及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-19
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用分離膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/429 20210101AFI20231012BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20231012BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20231012BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20231012BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20231012BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20231012BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20231012BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20231012BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20231012BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20231012BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20231012BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20231012BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231012BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20231012BHJP
【FI】
H01M50/429
H01M50/449
H01M50/411
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/446
H01M50/451
H01M50/457
H01M50/403 D
H01G11/52
H01G11/84
H01M50/414
H01M50/443 B
H01M10/052
H01M10/0566
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519131
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(85)【翻訳文提出日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 KR2021013157
(87)【国際公開番号】W WO2022065960
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】10-2020-0125066
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】コン-キョム・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒョク-ジュン・クウォン
(72)【発明者】
【氏名】ア-ヨン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジュ-ソン・イ
(72)【発明者】
【氏名】サン-ウク・リュ
(72)【発明者】
【氏名】ミン-チュン・パク
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AA15
5E078AB01
5E078CA06
5E078CA20
5H021BB12
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE01
5H021EE11
5H021EE21
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH06
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ22
5H029CJ28
5H029DJ04
5H029EJ03
5H029EJ11
5H029EJ12
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ02
(57)【要約】
多孔性高分子基材と、前記多孔性高分子基材の内部または前記多孔性高分子基材の内部及び少なくとも一面上に位置し、上述した化学式1で表される高分子化合物及び界面活性剤を含む親水性改質層と、を備えるリチウム二次電池用分離膜が提示される。本発明の一実施形態によれば、独特の構造を持つ高分子化合物と界面活性剤を使用することで、分離膜内のリチウムイオンの移動速度を増加させることができる。これにより、このような分離膜を使用した電池は、出力特性及びサイクル特性を改善することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性高分子基材と、前記多孔性高分子基材の内部または前記多孔性高分子基材の内部及び少なくとも一面上に位置し、下記化学式1で表される高分子化合物及び界面活性剤を含む親水性改質層と、を備え、
【化1】
化学式1において、nは6~8のうちのいずれか一つの整数である、リチウム二次電池用分離膜。
【請求項2】
前記高分子化合物は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、またはこれらのうちの二つ以上を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項3】
前記高分子化合物の含量は、前記多孔性高分子基材100重量部を基準にして1重量部以下である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項4】
前記界面活性剤は、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、またはこれらのうちの2種以上の混合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項5】
前記界面活性剤は、高温保管後にも30%以上の電解液透過度を有し、前記電解液透過度は、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネート(3:7体積比)に1M LiFPを含む電解液100重量部に前記界面活性剤0.5重量部を添加して組成物を製造する段階と、前記製造された組成物を密封した後70℃のオーブンで6時間保管する段階とを経た結果物を、常温(25℃)条件で紫外可視分光分析装置を用いて測定される、請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項6】
前記界面活性剤の含量は、前記高分子化合物100重量部を基準にして1.0重量部以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項7】
前記分離膜の少なくとも一面上に無機物粒子、及び前記無機物粒子を固定及び連結させるバインダー高分子を備える多孔性コーティング層をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項8】
前記多孔性コーティング層は、下記化学式1で表される高分子化合物をさらに含み、
【化2】
化学式1において、nは6~8のうちのいずれか一つの整数である、請求項7に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項9】
前記化学式1で表される高分子化合物の含量は、前記無機物粒子100重量部を基準にして10重量部以下である、請求項8に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項10】
前記バインダー高分子は、粒子状または非粒子状である、請求項7から9のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項11】
前記無機物粒子は、誘電率定数が5以上である無機物粒子、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、またはこれらのうちの二つ以上の混合物である、請求項7から10のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項12】
前記無機物粒子は、親水性である、請求項11に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項13】
前記無機物粒子は、前記無機物粒子の表面にシラン基がグラフトされている、請求項7から12のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜。
【請求項14】
正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に介在された分離膜及び電解液を含み、
前記分離膜は、請求項1から13のいずれか一項に記載の分離膜である、リチウム二次電池。
【請求項15】
(S1)水系溶媒に下記化学式1で表される高分子化合物と界面活性剤が分散または溶解された基材改質用組成物を用意する段階と、
(S2)多数の気孔を有して疎水性である多孔性高分子基材の少なくとも一面上に前記基材改質用組成物を塗布及び乾燥する段階と、を含み、
【化3】
化学式1において、nは6~8のうちのいずれか一つの整数である、リチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項16】
前記(S2)段階は、前記界面活性剤と前記高分子化合物が前記多孔性高分子基材の内部に浸透して、前記多孔性高分子基材を親水性に改質する段階である、請求項15に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項17】
前記(S2)段階の後、
前記基材改質用組成物が塗布及び乾燥された多孔性高分子基材の少なくとも一面に、溶媒、無機物粒子、バインダー高分子を含む多孔性コーティング層形成用組成物を乾燥及び塗布して多孔性コーティング層を形成する段階(S3)をさらに含む、請求項15または16に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項18】
前記溶媒は、水系溶媒または有機系溶媒である、請求項17に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項19】
前記多孔性コーティング層形成用組成物は、前記化学式1で表される高分子化合物をさらに含む、請求項17または18に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【請求項20】
前記(S3)段階は、相対湿度30~80%で行われる、請求項17から19のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池などの電気化学素子に使用可能な分離膜及びその製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2020年9月25日付け出願の韓国特許出願第10-2020-0125066号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
近年、エネルギー貯蔵技術に対する関心が益々高まっている。携帯電話、カムコーダー及びノートパソコン、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡がるとともに、電気化学素子の研究と開発に対する努力がますます具体化されている。電気化学素子はこのような面から最も注目されている分野であり、なかでも充放電可能な二次電池の開発には関心が集まっている。近年はこのような電池の開発において、容量密度及び比エネルギーを向上させるために新たな電極と電池の設計に関連する研究開発が行われている。
【0004】
現在適用されている二次電池のうち1990年代初頭に開発されたリチウム二次電池は、水溶液電解液を使用するNi-MH、Ni-Cd、硫酸-鉛電池などの従来の電池に比べて、作動電圧が高くてエネルギー密度が格段に高いという長所から脚光を浴びている。
【0005】
リチウム二次電池などの電気化学素子は多くのメーカーで生産されているが、それらの安全特性はそれぞれ異なる様相を呈する。このような電気化学素子の安全性を評価及び確保することは非常に重要である。例えば、分離膜は、正極と負極との間の短絡を防止し、それと同時にリチウムイオンの移動通路を提供するため、電池の安全性及び出力特性に影響を及ぼす重要な因子である。
【0006】
リチウム二次電池用分離膜は、主な原料が延伸されたポリオレフィンであるため、疎水性を持っている。したがって、多孔性高分子基材が厚いほど電解液の含浸が容易ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、多孔性高分子基材の特性を疎水性から親水性に改質した分離膜を提供することである。
【0008】
また、これにより、このような分離膜を使用した電池の性能を改善しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、下記具現例によるリチウム二次電池用分離膜を提供する。
【0010】
第1具現例によれば、
多孔性高分子基材と、前記多孔性高分子基材の内部または前記多孔性高分子基材の内部及び少なくとも一面上に位置し、下記化学式1で表される高分子化合物及び界面活性剤を含む親水性改質層と、を備えることを特徴とするリチウム二次電池用分離膜が提供される。
【0011】
【化1】
【0012】
化学式1において、nは6~8のうちのいずれか一つの整数である。
【0013】
第2具現例によれば、第1具現例において、
前記高分子化合物は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、またはこれらのうちの二つ以上を含み得る。
【0014】
第3具現例によれば、第1具現例または第2具現例において、
前記高分子化合物の含量は、前記多孔性高分子基材100重量部を基準にして1重量部以下であり得る。
【0015】
第4具現例によれば、第1具現例~第3具現例のうちいずれか一具現例において、
前記界面活性剤は、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、またはこれらのうちの2種以上の混合物であり得る。
【0016】
第5具現例によれば、第1具現例~第4具現例のうちのいずれか一具現例において、
前記界面活性剤は、高温保管後にも30%以上の電解液透過度を有し、前記電解液透過度は、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネート(3:7体積比)に1M LiFPを含む電解液100重量部に前記界面活性剤0.5重量部を添加して組成物を製造する段階と、前記製造された組成物を密封した後70℃のオーブンで6時間保管する段階とを経た結果物を、常温(25℃)条件で紫外可視分光分析(UV-Vis spectrophotometer)装置を用いて測定し得る。
【0017】
第6具現例によれば、第1具現例~第5具現例のうちのいずれか一具現例において、
前記界面活性剤の含量は、前記多孔性高分子基材100重量部を基準にして0.5重量部以下であり得る。
【0018】
第7具現例によれば、第1具現例~第6具現例のうちのいずれか一具現例において、
前記分離膜の少なくとも一面上に無機物粒子、及び前記無機物粒子を固定及び連結させるバインダー高分子を備える多孔性コーティング層を含み得る。
【0019】
第8具現例によれば、第7具現例において、
前記多孔性コーティング層は、下記化学式1で表される高分子化合物をさらに含み得る。
【0020】
【化2】
【0021】
化学式1において、nは6~8のうちのいずれか一つの整数である。
【0022】
第9具現例によれば、第8具現例において、
前記化学式1で表される高分子化合物の含量は、前記無機物粒子100重量部を基準にして10重量部以下であり得る。
【0023】
第10具現例によれば、第7具現例~第9具現例のうちのいずれか一具現例において、
前記バインダー高分子は粒子状または非粒子状であり得る。
【0024】
第11具現例によれば、第7具現例~第10具現例のうちのいずれか一具現例において、
前記無機物粒子は、誘電率定数が5以上である無機物粒子、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、またはこれらのうちの二つ以上の混合物であり得る。
【0025】
第12具現例によれば、第7具現例~第11具現例のうちのいずれか一具現例において、
前記無機物粒子は、親水性(hydrophilic)であり得る。
【0026】
第13具現例によれば、第7具現例~第12具現例のうちのいずれか一具現例において、
前記無機物粒子は、前記無機物粒子の表面にシラン(silane)基がグラフトされ得る。
【0027】
本発明の他の一態様は、下記具現例によるリチウム二次電池を提供する。
【0028】
第14具現例によれば、
正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に介在された分離膜及び電解液を含み、
前記分離膜は、第1具現例~第13具現例のうちのいずれか一具現例による分離膜であることを特徴とするリチウム二次電池が提供される。
【0029】
本発明のさらに他の一態様は、下記具現例によるリチウム二次電池用分離膜の製造方法を提供する。
【0030】
第15具現例によれば、
(S1)水系溶媒に下記化学式1で表される高分子化合物と界面活性剤が分散または溶解された基材改質用組成物を用意する段階と、
(S2)多数の気孔を有して疎水性(hydrophobic)である多孔性高分子基材の少なくとも一面上に前記基材改質用組成物を塗布及び乾燥する段階と、を含むリチウム二次電池用分離膜の製造方法が提供される。
【0031】
【化3】
【0032】
化学式1において、nは6~8のうちのいずれか一つの整数である。
【0033】
第16具現例によれば、第15具現例において、
前記(S2)段階は、前記界面活性剤と前記高分子化合物が前記多孔性高分子基材の内部に浸透して、前記多孔性高分子基材を親水性に改質する段階であり得る。
【0034】
第17具現例によれば、第15具現例または第16具現例において、
前記(S2)段階の後、
前記基材改質用組成物が塗布及び乾燥された多孔性高分子基材の少なくとも一面に、溶媒、無機物粒子、バインダー高分子を含む多孔性コーティング層形成用組成物を乾燥及び塗布して多孔性コーティング層を形成する段階(S3)をさらに含み得る。
【0035】
第18具現例によれば、第17具現例において、
前記溶媒は、水系溶媒または有機系溶媒であり得る。
【0036】
第19具現例によれば、第17具現例または第18具現例において、
前記多孔性コーティング層形成用組成物は、前記化学式1で表される高分子化合物をさらに含み得る。
【0037】
第20具現例によれば、第17具現例~第19具現例のうちのいずれか一具現例において、
前記(S3)段階は、相対湿度30~80%で行われ得る。
【発明の効果】
【0038】
本発明の一具現例によれば、独特の構造を持つ高分子化合物と界面活性剤を使用することで、電解液の含浸性及び分離膜内のリチウムイオンの移動速度を増加させることができる。
【0039】
これにより、このような分離膜を使用した電池は、出力特性及びサイクル特性を改善することができる。
【0040】
また、前記分離膜及び電池の製造方法を提供することができる。
【0041】
本明細書に添付される図面は、本発明の望ましい実施形態を例示するものであり、発明の内容とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。一方、本明細書に添付される図面における要素の形状、大きさ、縮尺または比率などはより明確な説明を強調するため誇張されることもある。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】実施例1による分離膜の電解液含浸性関連度を調べるための電解液含浸性テストの結果を示した写真である。
図2】比較例1による分離膜の電解液含浸性関連度を調べるための電解液含浸性テストの結果を示した写真である。
図3】比較例2による分離膜の電解液含浸性関連度を調べるための電解液含浸性テストの結果を示した写真である。
図4】(a)及び(b)は実施例1による分離膜の熱収縮率テストの直後を示した写真である。
図5】(a)及び(b)は比較例1による分離膜の熱収縮率テストの直後を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の具現例を詳しく説明する。これに先立ち、本明細書及び請求範囲において使用された用語や単語は通常的及び辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施例及び図面に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施形態に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0044】
本明細書の全体において、ある部分が他の構成要素を「含む」、「備える」とは、特に言及しない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0045】
また、本明細書の全体で使われる用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示されるとき、その数値でまたはその数値に近接した意味として使われ、本願の理解を助けるために正確又は絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使われる。
【0046】
本発明の一態様は、リチウム二次電池用分離膜及びその製造方法に関する。
【0047】
電気化学素子で使用する分離膜は、正極と負極との間の短絡を防止すると同時に、リチウムイオンの移動通路を提供することから、電池の安全性及び出力特性に影響を及ぼす重要な因子である。
【0048】
リチウム二次電池用分離膜は、主な原料が延伸されたポリオレフィンのような高分子であるため、疎水性を持っている。したがって、多孔性高分子基材が厚いほど電解液の含浸が容易ではない。
【0049】
電解液の含浸を容易にするため、多孔性高分子基材上に無機物粒子を導入したが、この場合にも電解液の含浸が著しく改善されることはなかった。多孔性高分子基材の表面をコロナ表面処理して改質した場合にも、表面の改質が持続的に維持されない問題があった。多孔性高分子基材上に親水性の有機物添加剤(additive)を投入した他の方法でも成功した例はなかった。最後に、分散剤を使用して多孔性高分子基材の界面性質を疎水性(hydrophobic)から親水性(hydrophilic)に改質しようとしたが、効果が十分ではなかった。
【0050】
本発明の一態様は、上記のような問題を解決するためのものである。すなわち、分離膜内の気孔に電解液が円滑に浸透できるようにして、電池の性能(出力及び容量維持率)を画期的に改善させようとするものである。
【0051】
本発明の一態様によるリチウム二次電池用分離膜は、
多孔性高分子基材と、前記多孔性高分子基材の内部または前記多孔性高分子基材の内部及び少なくとも一面上に位置し、下記化学式1で表される高分子化合物及び界面活性剤を含む親水性改質層と、を備える。
【0052】
【化4】
【0053】
化学式1において、nは6~8のうちのいずれか一つの整数である。
【0054】
上記のように、本発明の一態様による分離膜は、多数のフィブリルを含む多孔性高分子基材、前記化学式1で表される高分子化合物及び界面活性剤を必ず含むものである。このとき、前記高分子化合物は独特の構造を持つものであって、界面活性剤とともに分離膜に含まれる場合、分離膜の内部へと電解液が浸透され易くする。これは、界面活性剤によって、疎水性である多孔性高分子基材内のフィブリルの表面に、前記親水性を持つ高分子化合物が近く接近できるためである。これにより、前記化学式1で表される高分子化合物の中空部の内部で電解液が捕獲され得る。結果的に、疎水性である多孔性高分子基材を親水性に改質することができる。
【0055】
本発明の一態様による分離膜は、多孔性高分子基材内に下記化学式1で表される高分子化合物を含むものである。
【0056】
【化5】
【0057】
化学式1において、nは6~8のうちのいずれか一つの整数である。
【0058】
前記高分子化合物は、6個~8個のグルコース単位体が環状に配列されているシクロデキストリンであり得る。このとき、グルコース単位体の個数が6個である場合をα-シクロデキストリン、7個である場合をβ-シクロデキストリン、8個である場合をγ-シクロデキストリンとする。したがって、本発明において、前記高分子化合物は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、またはこれらのうちの二つ以上であり得る。
【0059】
本発明の具体的な一実施形態において、前記高分子化合物の含量は、前記多孔性高分子基材100重量部を基準にして1重量部以下、0.8重量部以下、または0.5重量部以下、及び0.01重量部以上、または0.3重量部以上であり得る。上記の数値範囲内で高分子化合物の量が適切であり、多孔性高分子基材の親水性を高めて本発明の効果を達成することができる。
【0060】
本発明の一態様による分離膜は、多孔性高分子基材内に界面活性剤を含むものである。
【0061】
前記界面活性剤は、上述したように、前記高分子化合物が多孔性高分子基材内のフィブリルに近付くことを手伝う補助剤である。
【0062】
本発明の具体的な一実施形態において、前記界面活性剤は、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、またはこれらのうちの2種以上の混合物であり得る。
【0063】
中でも特に、フッ素系界面活性剤を使用することが望ましい。フッ素系界面活性剤は、非イオン系界面活性剤に比べて多孔性高分子基材に対するコーティング性がよく、酸化電位が高くて電池内における副反応の危険度が低いという長所がある。
【0064】
本発明の具体的な一実施形態において、前記フッ素系界面活性剤は、分子当り5以上25以下のフッ素を含み得、また下記構造式で表される化合物から選択される1種以上であり得る。
【0065】
【化6】
【0066】
上記の構造式において、n及びmは、それぞれ1~10の整数である。
【0067】
前記フッ素系界面活性剤の例としては、2-[メチル[(ノナフルオロブチル)スルホニル]アミノ]エチルアクリレート(FC4430、3M社製)などがあり得る。
【0068】
本発明の具体的な一実施形態において、前記界面活性剤は、高温保管後にも30%以上、または40~90%の電解液透過度を有し得る。このとき、前記電解液透過度は、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネート(3:7体積比)に1M LiFPを含む電解液100重量部に前記界面活性剤0.5重量部を添加して組成物を製造する段階と、前記製造された組成物を密封した後70℃のオーブンで6時間保管する段階とを経た結果物を、常温(25℃)条件で紫外可視分光分析装置を用いて測定し得る。
【0069】
前記界面活性剤の電解液透過度がこのような範囲を満足する場合、電池内における副反応を制御する面で有利である。
【0070】
本発明の具体的な一実施形態において、前記界面活性剤の含量は、前記高分子化合物100重量部を基準にして1.0重量部以下、0.7重量部以下、または0.5重量部以下、及び0.05重量部以上、0.1重量部以上、または0.5重量部以上であり得る。上記の数値範囲内で高分子化合物の量が適切であり、多孔性高分子基材の親水性を高めて本発明の効果を果たすことができる。また、上記の範囲で電池性能の副作用を最小化することができる。
【0071】
一方、本発明の一態様による分離膜は、分離膜の少なくとも一面上に無機物粒子及びバインダー高分子を備える多孔性コーティング層をさらに含み得る。
【0072】
このとき、前記無機物粒子は、電気化学的に安定さえすれば特に制限されない。すなわち、本発明で使用可能な無機物粒子は、適用される電気化学素子の作動電圧範囲(例えば、Li/Li基準で0~5V)で酸化及び/または還元反応が起きないものであれば特に制限されない。特に、無機物粒子として誘電率の高い無機物粒子を使用すると、液体電解質内の電解質塩、例えばリチウム塩の解離度増加に寄与して電解液のイオン伝導度を向上させることができる。
【0073】
上述した理由から、前記無機物粒子は、誘電率定数が5以上である無機物粒子、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、またはこれらのうちの二つ以上の混合物であり得る。
【0074】
前記誘電率定数が5以上である無機物粒子は、Al、SiO、ZrO、AlO(OH)、Al(OH)、TiO、BaTiO、Pb(ZrTi1-x)O(PZT、ここで0<x<1)、Pb1-xLaZr1-yTi(PLZT、ここで、0<x<1、0<y<1)、(1-x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O-xPbTiO(PMN-PT、ここで0<x<1)、ハフニア(HfO)、SrTiO、SnO、CeO、MgO、NiO、CaO、ZnO及びSiCからなる群より選択された1種または2種以上の混合物であり得る。
【0075】
前記リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子は、リチウムホスフェート(LiPO)、リチウムチタンホスフェート(LiTi(PO、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(LiAlTi(PO、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、(LiAlTiP)系ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(LiLaTiO、0<x<2、0<y<3)、リチウムゲルマニウムチオホスフェート(LiGe、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、リチウムナイトライド(Li、0<x<4、0<y<2)、SiS系ガラス(LiSi、0<x<3、0<y<2、0<z<4)及びP系ガラス(Li、0<x<3、0<y<3、0<z<7)からなる群より選択された1種または2種以上の混合物であり得る。
【0076】
前記無機物粒子の平均粒径は、特に制限されないが、均一な厚さの多孔性コーティング層の形成及び適切な孔隙率のため、0.001~10μmの範囲であることが望ましく、より望ましくは100nm~2μm、さらに望ましくは150nm~1μmであり得る。
【0077】
本発明の具体的な一実施形態において、前記無機物粒子は親水性であり得る。親水性無機物粒子を使用することで、電解液含浸性をさらに高めることができる。例えば、前記無機物粒子は、Al(OH)またはMg(OH)であり得る。
【0078】
本発明の具体的な一実施形態において、前記多孔性コーティング層は、ガラス転移温度(glass transition temperature、T)が-200~200℃であるバインダー高分子を含み得るが、これは最終的に形成される多孔性分離膜の柔軟性及び弾性などのような機械的物性を向上できるためである。このようなバインダー高分子は、無機物粒子同士の間を連結及び安定的に固定するバインダーの役割を果たすことで、多孔性分離膜の機械的物性の低下防止に寄与する。
【0079】
また、前記バインダー高分子は、イオン伝導能力を必ずしも有する必要はないが、イオン伝導能力を有する高分子を使用する場合、電気化学素子の性能をさらに向上させることができる。したがって、前記バインダー高分子はできるだけ高い誘電率定数を有するものを使用し得る。実際、電解液における塩の解離度は電解液溶媒の誘電率定数に依存するため、前記バインダー高分子の誘電率定数が高いほど電解質における塩解離度を向上させることができる。このようなバインダー高分子の誘電率定数は1.0~100(測定周波数=1kHz)の範囲が使用可能であり、特に10以上であり得る。
【0080】
上述した機能の他に、前記バインダー高分子は、液体電解液の含浸時にゲル化することで高い電解液膨潤度(degree of swelling)を示す特徴を有し得る。そのため、前記バインダー高分子の溶解度指数、すなわちヒルデブラント溶解度指数(Hildebrand solubility parameter)は15~45MPa1/2、15~25MPa1/2または30~45MPa1/2の範囲である。したがって、ポリオレフィン類のような疎水性高分子よりは極性基を多く有する親水性高分子をより望ましく使用し得る。前記溶解度指数が15MPa1/2未満または45MPa1/2超過の場合、通常の電池用液体電解液によって膨潤(swelling)され難いおそれがあるためである。
【0081】
前記多孔性分離膜では、無機物粒子が充填されて互いに接触した状態で、前記バインダー高分子によって互いに結着し、これにより無機物粒子同士の間にインタースティシャル・ボリューム(interstitial volume)が形成される。前記無機物粒子同士の間のインタースティシャル・ボリュームは、空き空間になって気孔を形成する。
【0082】
すなわち、バインダー高分子は、無機物粒子同士が互いに結着した状態を維持できるようにこれらを互いに付着、例えば、バインダー高分子が無機物粒子同士の間を連結及び固定している。また、前記多孔性分離膜の気孔は、無機物粒子同士の間のインタースティシャル・ボリュームが空き空間になって形成された気孔であり、これは無機物粒子による充填構造(closely packed or densely packed)で実質的に接触する無機物粒子によって限定される空間である。
【0083】
このようにさらに含まれるバインダー高分子としては、当技術分野で通常使用されるものであれば制限なく適用可能であり、一例としてポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアリレート、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、及びカルボキシメチルセルロースなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0084】
このとき、前記バインダー高分子は、粒子状または非粒子状であり得る。前記バインダー高分子が粒子状である場合は、前記バインダー高分子が溶媒に溶解されない場合である。前記バインダー高分子が非粒子状である場合は、前記バインダー高分子が溶媒に溶解される場合である。このとき、前記溶媒は水系溶媒または有機系溶媒であり得る。
【0085】
本発明の一態様による分離膜は、多孔性コーティング層の成分として、上述した無機物粒子及びバインダー高分子の外にその他の添加剤をさらに含み得る。
【0086】
一方、本発明の具体的な一実施形態において、多孔性コーティング層は、前記化学式1で表される高分子化合物を含み得る。
【0087】
前記高分子化合物については、上述した内容を援用可能である。
【0088】
このように前記高分子化合物を多孔性コーティング層にさらに含む場合、電解液との含浸性をさらに改善することができる。
【0089】
本発明の他の一態様は、リチウム二次電池用分離膜の製造方法を提供する。
【0090】
具体的には、(S1)水系溶媒に前記化学式1で表される高分子化合物と界面活性剤が分散または溶解された基材改質用組成物を用意する段階と、(S2)多数の気孔を有して疎水性である多孔性高分子基材の少なくとも一面上に前記基材改質用組成物を塗布及び乾燥する段階と、を含むことを発明の特徴とする。
【0091】
以下、具体的に説明する。
【0092】
(S1)段階では、水系溶媒に前記化学式1で表される高分子化合物と界面活性剤が分散または溶解された基材改質用組成物を用意する。
【0093】
このとき、水系溶媒は水であり得、追加的に所定量のアルコールをさらに含み得る。このとき、高分子化合物と界面活性剤は、前記水系溶媒に分散されたものであり得る。このとき、高分子化合物、界面活性剤については、上述した内容を援用可能である。
【0094】
このとき、高分子化合物と界面活性剤を水系溶媒に分散させる方法としては、当業界で周知の通常の方法が用いられ、例えば超音波分散機、ボールミル、ビーズミル、ディスパーサ(disperser)、ミキサ(mixer)などを用い得、特にボールミルまたはビーズミルが望ましい。このとき、処理時間は容量に応じて変わり得るが、1~20時間が適切であり、破砕された高分子化合物、界面活性剤の粒度はボールミルまたはビーズミルに使われたビーズのサイズ及びボールミル(またはビーズミル)時間によって制御し得る。
【0095】
次いで、多数の気孔を有して疎水性である多孔性高分子基材の少なくとも一面上に前記基材改質用組成物を塗布及び乾燥する(S2)。
【0096】
本発明において、前記多孔性高分子基材は、多孔性膜であって、正極と負極とを電気的に絶縁させて短絡を防止すると共にリチウムイオンの移動経路を提供可能であり、通常に電気化学素子の分離膜素材として使用可能なものであれば、特に制限なく使用可能である。
【0097】
前記多孔性高分子基材は、具体的には、多孔性高分子フィルム基材または多孔性高分子不織布基材であり得る。
【0098】
前記多孔性高分子フィルム基材は、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィンからなる多孔性高分子フィルムであり得、このようなポリオレフィン多孔性高分子フィルム基材は、例えば80~150℃の温度でシャットダウン(shut-down)機能を発現する。
【0099】
このとき、ポリオレフィン多孔性高分子フィルムは、高密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリペンテンなどのポリオレフィン系高分子をそれぞれ単独でまたはこれらの2種以上を混合して形成し得る
【0100】
また、前記多孔性高分子フィルム基材は、ポリオレフィンの他にポリエステルなどの多様な高分子を用いてフィルム状に成形して製造してもよい。また、前記多孔性高分子フィルム基材は、2層以上のフィルム層が積層された構造で形成され得、各フィルム層は上述したポリオレフィン、ポリエステルなどの高分子を単独でまたはこれらを2種以上混合した高分子から形成され得る。
【0101】
また、前記多孔性高分子フィルム基材及び多孔性不織布基材は、上記のようなポリオレフィン系の他に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルファイド、ポリエチレンナフタレートなどをそれぞれ単独でまたはこれらを混合した高分子から形成され得る。
【0102】
前記多孔性高分子基材の厚さは、特に制限されないが、詳しくは1~100μm、より詳しくは5~50μmであり、最近電池の高出力化/高容量化が進んでいることから、多孔性高分子基材は薄膜を用いることが有利である。前記多孔性高分子基材に存在する気孔の直径は10nm~100nm、10nm~70nm、10nm~50nm、または10nm~35nmであり、気孔度は5%~90%、望ましくは20%~80%であり得る。但し、本発明において、このような数値範囲は具体的な実施形態または必要に応じて容易に変形され得る。
【0103】
前記多孔性高分子基材の気孔は、多様なタイプの気孔構造があり、ポロシメーター(porosimeter)を用いて測定されるかまたはFE-SEM上で観察された気孔の平均サイズのいずれか一つでも上述した条件を満足すれば本発明に含まれる。
【0104】
ここで、一般に知られている一軸延伸乾式分離膜の場合においては、FE-SEM上で機械方向(MD、縦方向)の気孔サイズではなく、垂直方向(TD、横方向)の気孔サイズにおける中央の気孔サイズを基準にし、その他に網構造を有する多孔性高分子基材(例えば、湿式PE分離膜)はポロシメーターで測定した気孔サイズを基準にし得る。
【0105】
前記基材改質用組成物を前記多孔性高分子基材に塗布する方法は、特に限定しないが、スロットコーティングやディップコーティング方法を使用することが望ましい。スロットコーティングは、スロットダイを通じて供給された組成物が基材の全面に塗布される方式であって、定量ポンプから供給される流量によってコーティング層の厚さを調節可能である。また、ディップコーティングは、組成物で満たされたタンクに基材を浸漬してコーティングする方法であって、組成物の濃度及び組成物タンクから基材を引き上げる速度によってコーティング層の厚さを調節可能である。より正確にコーティング厚さを制御するため、浸漬した後、マイヤーバー(Mayer bar)などを用いて後計量してもよい。
【0106】
このように基材改質用組成物が塗布された多孔性高分子基材をオーブンのような乾燥器を用いて乾燥することで、多孔性高分子基材内のフィブリルを疎水性から親水性に改質することができる。これは、前記界面活性剤と前記高分子化合物が前記多孔性高分子基材の内部に浸透したためである。
【0107】
前記(S2)段階の後に、前記基材改質用組成物が塗布及び乾燥された多孔性高分子基材の少なくとも一面に、前記溶媒、無機物粒子、バインダー高分子を含む多孔性コーティング層形成用組成物を乾燥及び塗布して多孔性コーティング層を形成する段階(S3)をさらに含み得る。
【0108】
このとき、使用される溶媒は水系溶媒または有機系溶媒であり得る。
【0109】
このとき、前記溶媒は、使用しようとするバインダー高分子と溶解度指数が類似し、沸点(boiling point)が低いものが望ましい。これは、均一な混合及び以降の溶媒除去を容易にするためである。使用可能な溶媒の非制限的な例としては、水、アセトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン及びシクロヘキサンの中から選択された1種の化合物または2種以上の混合物が挙げられる。
【0110】
無機物粒子を分散させる方法としては、当業界で周知の通常の方法が用いられ、例えば超音波分散機、ボールミル、ビーズミル、ディスパーサ、ミキサなどを用い得、特にボールミルまたはビーズミルが望ましい。このとき、処理時間は容量に応じて変わり得るが、1~20時間が適切であり、破砕された無機物粒子の粒度はボールミルまたはビーズミルに使われたビーズのサイズ及びボールミル(またはビーズミル)時間によって制御し得る。
【0111】
前記多孔性コーティング層形成用組成物を前記多孔性高分子基材に塗布する方法は、特に限定しないが、スロットコーティングやディップコーティング方法を使用することが望ましい。スロットコーティングは、スロットダイを通じて供給された組成物が基材の全面に塗布される方式であって、定量ポンプから供給される流量によってコーティング層の厚さを調節可能である。また、ディップコーティングは、組成物で満たされたタンクに基材を浸漬してコーティングする方法であって、組成物の濃度及び組成物タンクから基材を引き上げる速度によってコーティング層の厚さを調節可能である。より正確にコーティング厚さを制御するため、浸漬した後、マイヤーバーなどを用いて後計量してもよい。
【0112】
このように多孔性コーティング層形成用組成物が塗布された多孔性高分子基材をオーブンのような乾燥器を用いて乾燥することで、多孔性高分子基材上に多孔性コーティング層を形成する。
【0113】
前記多孔性コーティング層では、無機物粒子とバインダー高分子とは充填されて互いに接触した状態で前記バインダー高分子によって互いに結着し、これにより無機物粒子同士の間にインタースティシャル・ボリュームが形成され、前記無機物粒子同士の間のインタースティシャル・ボリュームは空き空間になって気孔を形成し得る。
【0114】
すなわち、バインダー高分子は、無機物粒子同士が互いに結着した状態を維持できるように、これらを互いに付着させて無機物粒子同士の間を連結及び固定し得る。また、前記多孔性コーティング層の気孔は、無機物粒子同士の間のインタースティシャル・ボリュームの空き空間になって形成された気孔であり、これは無機物粒子による充填構造(closely packed or densely packed)で実質的に接触する無機物粒子によって限定される空間であり得る。
【0115】
前記乾燥は、乾燥チャンバ(drying chamber)で行われ得、このとき、非溶媒の塗布のため乾燥チャンバの条件は特に制限されない。
【0116】
但し、本発明の場合、加湿条件で乾燥するため、前記バインダー高分子が多孔性コーティング層の表面に主に分布し得る。前記乾燥段階は、相対湿度30%以上、35%以上、または40%以上、及び80%以下、75%以下、または70%以下で行われ得る。例えば、40%~80%範囲で行われ得る。また、前記乾燥段階は、20~70℃の温度範囲で0.1分~2分間行われ得る。
【0117】
前記多孔性コーティング層の厚さは、特に制限されないが、詳しくは1~10μm、より詳しくは1.5~8μmであり、前記多孔性コーティング層の気孔度も特に制限されないが、35~65%であることが望ましい。
【0118】
一方、前記多孔性コーティング層形成用組成物は、前記化学式1で表される繰り返し単位を含む高分子化合物を含み得る。
【0119】
前記高分子化合物については、上述した内容を援用可能である。
【0120】
このように高分子化合物を多孔性コーティング層にさらに含む場合、電解液との含浸性をさらに改善することができる。
【0121】
本発明の一態様による電気化学素子は、正極、負極、及び前記正極と負極との間に介在された分離膜を含み、前記分離膜は上述した本発明の一実施形態による分離膜である。
【0122】
このような電気化学素子は、電気化学反応を行うあらゆる素子を含み、具体的には、すべての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池またはスーパーキャパシタ素子のようなキャパシタなどが挙げられる。特に、前記二次電池のうちリチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池などを含むリチウム二次電池であり得る。
【0123】
本発明の分離膜とともに適用される正極及び負極の両電極としては、特に制限されず、当業界で周知の通常の方法で電極活物質を電極集電体に結着した形態で製造し得る。前記電極活物質のうち正極活物質の非制限的な例としては、従来の電気化学素子の正極に使用される通常の正極活物質を使用可能であり、特にリチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物、またはこれらを組み合わせたリチウム複合酸化物を使用することが望ましい。負極活物質の非制限的な例としては、従来の電気化学素子の負極に使用される通常の負極活物質を使用可能であり、特にリチウム金属またはリチウム合金、炭素、石油コークス(petroleum coke)、活性炭、グラファイト、またはその他の炭素類などのようなリチウム吸着物質などが望ましい。正極集電体の非制限的な例としては、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの組み合わせによって製造されるホイルなどがあり、負極集電体の非制限的な例としては、銅、金、ニッケルまたは銅合金、またはこれらの組み合わせによって製造されるホイルなどがある。
【0124】
本発明の電気化学素子で使用される電解液は、Aのような構造の塩であり、AはLi、Na、Kのようなアルカリ金属陽イオンまたはこれらの組み合わせからなるイオンを含み、BはPF 、BF 、Cl、Br、I、ClO 、AsF 、CHCO 、CFSO 、N(CFSO 、C(CFSO のような陰イオンまたはこれらの組み合わせからなるイオンを含む塩を、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトンまたはこれらの混合物からなる有機溶媒に溶解または解離したものであるが、これらに限定されることはない。
【0125】
前記電解液の注入は、最終製品の製造工程及び求められる物性に応じて、電池製造工程のうち適切な段階において行えばよい。すなわち、電池組み立ての前または電池組み立ての最終段階などにおいて注入すればよい。
【0126】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形され得、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0127】
<実施例1>
溶媒である水にβ-シクロデキストリン(TCI社製)と界面活性剤としての2-[メチル[(ノナフルオロブチル)スルホニル]アミノ]エチルアクリレート(FC4430、3M社製)とを重量比99.5:0.5で添加して基材改質用組成物を用意した。このとき、前記界面活性剤は、高温保管後にも48%の電解液透過度を有した。このとき、前記電解液透過度は、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネート(3:7体積比)に1M LiFPを含む電解液100重量部に前記界面活性剤0.5重量部を添加して組成物を製造する段階と、前記製造された組成物を密封した後70℃のオーブンで6時間保管する段階とを経た結果物を、常温(25℃)条件で紫外可視分光分析装置を用いて測定した。
【0128】
その後、多孔性高分子基材として厚さ9μmのポリエチレン多孔性フィルム(気孔度:45%)を前記基材改質用組成物が含まれた含浸槽に浸漬してから乾燥し、溶媒を除去して分離膜を製造した。このとき、ポリエチレン多孔性フィルム100重量部を基準にして前記β-シクロデキストリンの含量と界面活性剤の含量との和は0.5重量部であった。ここで、β-シクロデキストリンの含量と界面活性剤の含量との和である0.5重量部のうちのβ-シクロデキストリンと界面活性剤との重量比は、当初の基材材質用組成物に含まれているβ-シクロデキストリンと界面活性剤との重量比である99.5:0.5の比率が維持された。これに対するテスト結果を表1及び表2に示した。
【0129】
<比較例1>
厚さ9μmのポリエチレン多孔性フィルム(気孔度:45%)を比較例1として用意した。
【0130】
これに対するテスト結果を表1及び表2に示した。
【0131】
<比較例2>
溶媒である水99.5mlに界面活性剤(FC4430、3M社製)0.5gを添加して基材改質用組成物を用意した。
【0132】
その後、厚さ9μmのポリエチレン多孔性フィルム(気孔度:45%)を前記基材改質用組成物が含まれた含浸槽に浸漬してから乾燥し、溶媒を除去して分離膜を製造した。このとき、ポリエチレン多孔性フィルム100重量部を基準にした前記界面活性剤の含量は0.5重量部であった。
【0133】
これに対するテスト結果を表1に示した。
【0134】
<比較例3>
溶媒である水99.5mlにβ-シクロデキストリン0.5gを添加して基材改質用組成物を用意した。
【0135】
その後、厚さ9μmのポリエチレン多孔性フィルム(気孔度:45%)を前記基材改質用組成物が含まれた含浸槽に浸漬してから乾燥し、溶媒を除去して分離膜を製造した。このとき、ポリエチレン多孔性フィルム100重量部を基準にした前記β-シクロデキストリンの含量は、位置毎のバラツキが大きくて代表値を提示し難い。これに対するテスト結果を表1に示した。
【0136】
【表1】
【0137】
このとき、分離膜の引張強度は、分離膜を15mm×100mmに裁断して試料を用意し、その後、用意した試料を用いてASTM-D882に準拠して500mm/分の速度でMD方向及びTD方向にそれぞれ引っ張ったとき、試片が破断する時点の強度を測定した。
【0138】
電解液滴加(drop)テストによる濡れ性の様相は、プロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート(PC/DMC/EMC=20:40:40重量%)溶媒に1Mのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)が溶解された電解液2μlを分離膜の表面にインジェクションした後、5分後の経過を観察した。テスト結果を図1~3に示した。
【0139】
一方、水滴接触角は、接触角測定装置(KRUSS社製、モデル:DSA100)を用いて測定した。具体的には、一定量の溶液(水)一滴を分離膜の表面に滴下した後、イメージを測定して基材と水滴との角度を測定して接触角を測定した。
【0140】
【表2】
【0141】
このとき、熱収縮率は、(最初長さ-120℃/1時間の熱収縮処理後の長さ)/(最初長さ)×100で算定した。
【0142】
比較例1のように表面処理を全く施していない場合は、実施例1に比べて接触角が約28%大きくなり、図2に示されたように、電解液との濡れ性が向上していないことが確認できる。
【0143】
比較例2のように、シクロデキストリンを含まず、界面活性剤のみを含む場合にも比較例1と同様に、電解液濡れ性が向上していないことが確認できる。
【0144】
一方、表1の実施例1に示されたように、界面活性剤とシクロデキストリンとを同時に使用した場合は、電解液に対する濡れ性が向上して接触角が小さくなることが確認できる。
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5(a)】
図5(b)】
【国際調査報告】