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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-25
(54)【発明の名称】カソード活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231018BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231018BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023520325
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(85)【翻訳文提出日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 EP2021075440
(87)【国際公開番号】W WO2022069237
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】20199673.3
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ハン,チョンチー
(72)【発明者】
【氏名】中山 潤平
(72)【発明者】
【氏名】柏木 順次
(72)【発明者】
【氏名】福満 仁志
(72)【発明者】
【氏名】ラウシャー,フランク
(72)【発明者】
【氏名】エルク,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】レツェルター,トマス
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA12
5H050AA17
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA17
(57)【要約】
以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Ni、及び任意にAl、Mg、Ba、及びNi以外の遷移金属から選択される少なくとも1種の元素であり、xは-0.05~0.2の範囲であり、TMの少なくとも50モル%はNiである)による粒子状電極活物質を提供する工程と、
(b)工程(a)で提供された粒子状電極活物質に、溶解した形態のLiOHを含有する水性媒体を添加する工程と、
(c)固液分離法によって液相を除去する工程と、
(d)工程(b)と同様の処理工程のために、工程(c)からの液相を少なくとも部分的にリサイクルする工程と
を含む、カソード活物質を製造する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Ni、及び任意にAl、Mg、Ba、及びNi以外の遷移金属から選択される少なくとも1種の元素であり、xは-0.02~0.2の範囲であり、TMの少なくとも50モル%はNiである)による粒子状電極活物質を提供する工程と、
(b)工程(a)で提供された粒子状電極活物質に、溶解した形態のLiOHを含有する水性媒体を添加する工程と、
(c)固液分離法によって液相を除去する工程と、
(d)工程(b)と同様の処理工程のために、工程(c)からの液相を少なくとも部分的にリサイクルする工程と
を含む、カソード活物質を製造する方法。
【請求項2】
TMが、一般式(I)

(NiaCobMnc)1-dMd (I)

(式中、aは、0.6~0.99の範囲であり、
bは、0又は0.01~0.2の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al、Mg、Nb、Ta、Ti、Mo、W及びZrの少なくとも1種であり、
a+b+c=1である)
による金属の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(c)における固液分離工程が濾過である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)で添加される水性媒体の電気伝導率が、室温で決定され、0.8~80mS/cmの範囲である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)で添加される水性媒体のLiOHの濃度が20~3500質量ppmの範囲である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
後続の工程(e):
(e)工程(c)からの固体残留物を熱処理する工程
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)で添加される水性媒体が、工程(c)で除去された液相を水で希釈して得られ、前記濾液を未処理の粒子状電極活物質の処理に再使用される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)で添加される水性媒体が、Sb、Mg、Zn、Sn及びTeの化合物を本質的に含まない、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Ni、及び任意にAl、Mg、Ba、及びNi以外の遷移金属から選択される少なくとも1種の元素であり、xは-0.02~0.2の範囲であり、TMの少なくとも50モル%はNiである)による粒子状電極活物質を提供する工程と、
(b)工程(a)で提供された粒子状電極活物質に、溶解した形態のLiOHを含有する水性媒体を添加する工程と、
(c)固液分離法によって液相を除去する工程と、
(d)工程(b)と同様の処理工程のために、工程(c)からの液相を少なくとも部分的にリサイクルする工程と
を含む、カソード活物質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新の装置である。携帯電話及びラップトップコンピュータなどの小型の装置からカーバッテリー及び他のE-モビリティ(e-mobility)用バッテリーまで、多くの応用分野が考えられてきた。電解質、電極材料及びセパレータなどの様々な電池の構成要素は、電池の性能に関して重要な役割を有する。カソード材料は特に注目されている。いくつかの材料、例えばリチウム鉄ホスフェート、リチウムコバルトオキシド、及びリチウムニッケルコバルトマンガンオキシドが提案されてきた。広範な研究調査が行われてきているが、これまでに見出された解決策は未だに改善の余地がある。
【0003】
現在、いわゆるNiリッチ(Niの量が多い)電極活物質、例えば、総TM含有量に対して75モル%以上のNiを含有する電極活物質への特定の関心が観察される。
【0004】
リチウムイオン電池、特にNiリッチ電極活物質の1つの問題は、電極活物質の表面での望ましくない反応に起因する。このような反応は、電解質又は溶媒又はその両方の分解であり得る。したがって、充電及び放電中のリチウム交換を妨げることなく、表面を保護することが試みられた。例は、例えばアルミニウムオキシド又はカルシウムオキシドで電極活物質をコーティングする試みである(例えば、US 8,993,051参照)。
【0005】
他の理論では、表面の遊離LiOH又はLiCOに望ましくない反応が割り当てられる。電極活物質を水で洗浄することにより、そのような遊離のLiOH又はLiCOを除去する試みがなされてきた(例えば、JP 4,789,066 B、JP 5,139,024 B、及びUS2015/0372300参照)。多くの場合、電気伝導率が10μS/cm以下である脱イオン水が使用される。しかしながら、場合によっては、得られた電極活物質の特性が改善されないか、又はさらに劣化していることが観察された。カソード活物質を多量の水で洗浄すると、初期抵抗が高くなるなど、電気化学セルにおける性能が劣化する場合がある。少量の水で洗浄すると、スラリー粘度が上昇し、スラリー流動性が低下する場合があり、生産性の観点から不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US 8,993,051
【特許文献2】JP 4,789,066 B
【特許文献3】JP 5,139,024 B
【特許文献4】US2015/0372300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れた電気化学特性を有するNiリッチ電極活物質の製造方法を提供することであった。また、本発明の目的は、優れた電気化学特性を有するNiリッチ電極活物質を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、以下に「本発明の方法」とも称される、冒頭で定義された方法が見出された。本発明の方法は電極活物質の処理を含み、ここで、洗浄に使用される水がLiOHを含有する。本発明の方法は、工程(a)、(b)、(c)及び(d)を含む。工程(b)及び(c)は、同時に又は連続して行うことができる。本発明の方法は、以下により詳細に説明される。
【0009】
本発明の方法は、以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Ni、及び任意にAl、Mg、Ba、及びNi以外の遷移金属から選択される少なくとも1種の元素であり、xは-0.02~0.2の範囲であり、TMの少なくとも50モル%、好ましくはTMの遷移金属の少なくとも50モル%、より好ましくは少なくとも60モル%、さらにより好ましくは少なくとも75モル%、まださらにより好ましくは85~95モル%はNiである)による粒子状電極活物質(以下、出発材料とも呼ばれる)を提供する工程と、
(b)工程(a)で提供された粒子状電極活物質に、溶解した形態のLiOHを含有する水性媒体を添加する工程と、
(c)固液分離法によって液相を除去する工程と、
(d)工程(b)と同様の処理工程のために、工程(c)からの液相を少なくとも部分的にリサイクルする工程と
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0010】
好ましい実施態様において、TMは、Co及びMnの少なくとも1つを含有する、
本発明の一実施態様において、出発材料は、3~20μm、好ましくは4~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法(electroacoustic spectroscopy)によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0011】
本発明の一実施態様において、出発材料は、0.1~1.0m/gの範囲の比表面積(BET)(以下で「BET表面積」とも称される)を有する。BET表面積は、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃で30分、及びこれを超えてサンプルをガス放出した後の窒素吸着によって決定することができる。
【0012】
本発明の一実施態様において、工程(a)で提供された粒子状物質は、20~2000ppmの、カールフィッシャー滴定によって決定された水分含有量を有し、50~1200ppmが好ましい。
【0013】
一部の元素は遍在するものである。本発明の文脈において、不純物としての微量のナトリウム、カルシウム又は亜鉛などの遍在金属は、本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、出発材料の全金属含有量に対して0.05モル%以下の量を意味する。
【0014】
本発明の一実施態様において、変数TMは、一般式(I)

(NiaCobMnc)1-dM1 d (I)

(式中、a+b+c=1であり、
aは、0.6~0.99、好ましくは0.75~0.95、より好ましくは0.85~0.95の範囲であり、
bは、0又は0.01~0.2、好ましくは0.025~0.2、より好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
cは、0~0.2、好ましくは0.025~0.2、より好ましくは0.05~0.1の範囲であり、
dは、0~0.1、好ましくは0~0.04の範囲であり、
は、Al、Mg、Ti、Nb、Mo、W及びZrの少なくとも1種、好ましくはAl、Ti、Nb、Zr及びWの少なくとも1種である)
に対応する。
【0015】
本発明の一実施態様において、変数cは0であり、MはAlであり、dは0.01~0.05の範囲である。
【0016】
本発明の別の実施態様において、変数TMは、一般式(Ia)

(Nia*Cob*Ale*)1-d*M2 d* (I a)

(式中、a+b+c=1であり、
は、0.75~0.95、好ましくは0.88~0.95の範囲であり、
は、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
は、0.01~0.2、好ましくは0.015~0.04の範囲であり、
は、0~0.1、好ましくは0~0.02の範囲であり、
は、W、Mo、Nb、Ti又はZrの少なくとも1種である)
に対応する。
【0017】
変数xは-0.05~0.2の範囲である。
【0018】
本発明の一実施態様において、TMは一般式(I)に対応し、xは、0~0.2、好ましくは0~0.1、さらにより好ましくは0.01~0.05の範囲である。
【0019】
本発明の一実施態様において、TMは一般式(Ia)に対応し、xは-0.05~0の範囲である。
【0020】
本発明の一実施態様において、TMは、Ni0.6Co0.2Mn0.2、Ni0.7Co0.2Mn0.1、Ni0.8Co0.1Mn0.1、Ni0.83Co0.12Mn0.05、Ni0.87Co0.05Mn0.08、Ni0.88Co0.06Mn0.06、Ni0.89Co0.055Al0.055、Ni0.9Mn0.1、Ni0.91Co0.045Al0.045及びNi0.85Co0.1Mn0.05から選択される。
【0021】
工程(a)で提供される電極活物質は通常、導電性炭素を含まない、すなわち、出発材料の導電性炭素の含有量は、前記出発材料に対して1質量%未満、好ましくは0.001~1.0質量%である。
【0022】
一部の元素は遍在するものである。本発明の文脈において、不純物としての微量のナトリウム、カルシウム又は亜鉛などの遍在金属は、本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、出発材料の全金属含有量に対して0.02モル%以下の量を意味する。
【0023】
工程(b)では、溶解した形態のLiOHを含有する水性媒体が添加される、すなわち、それが工程(a)で提供された粒子状電極活物質に添加される。このようなLiOHは、非晶質溶液又は結晶LiOHの形態で添加され、視覚検査によって、前記水性媒体が透明な溶液のように見える点まで溶解される。別の実施態様において、LiOHは、以前のサイクルの工程(c)の濾液の全部又は一部を使用することによって添加される(以下を参照)。
【0024】
本発明の一実施態様において、工程(b)で添加される水性媒体は、室温(25℃)で決定された、0.8~80mS/cm、好ましくは2~30mS/cmの範囲の電気伝導率を有する。
【0025】
本発明の一実施態様において、工程(b)で添加される水性媒体は、20~3500ppm、好ましくは100~2000ppmの範囲のリチウムの濃度を有する。前記ppmは、百万分の1であり、質量によるppmを指す。
【0026】
本発明の一実施態様において、工程(b)で添加される水性媒体は、Sb、Mg、Zn、Sn及びTeの化合物を本質的に含まない。この文脈において、本質的に含まないとは、工程(b)での水性媒体が、添加時にSb、Mg、Zn、Sn及びTeのそれぞれを0.01質量%未満で含有することを意味する。
【0027】
前記水性媒体は、10~14の範囲、好ましくは少なくとも11のpH値を有してもよい。pH値は工程(b)の開始時に測定される。工程(b)の過程中で、pH値が少なくとも10、例えば11~13まで上昇することが観察される。工程(b)の開始時にpH値が10~11の範囲にある実施態様では、pH値が11超~13まで上昇する。工程(b)の開始時にpH値が3~10未満の範囲にある実施態様では、pH値は工程(b)の過程中で11~13まで上昇する。
【0028】
工程(b)で使用される前記水性製剤の水硬度、特にカルシウム及びマグネシウムが少なくとも部分的に除去されることが好ましい。好ましくは、脱イオン水は、溶解した形態のLiOHを含有する溶液を作るために使用される。
【0029】
本発明の一実施態様において、工程(b)は5~45℃の範囲の温度で行われ、10~30℃が好ましい。
【0030】
本発明の一実施態様において、工程(b)は常圧で行われる。しかし、高圧で、例えば常圧より10ミリバール~10バール高い圧力で、又は吸引しながら、例えば常圧より50~250ミリバール低い圧力で、好ましくは常圧より100~200ミリバール低い圧力で、工程(b)を行うことが好ましい。
【0031】
例えば、工程(b)は、例えば、フィルター装置の上方に位置するため、容易に排出することができる容器内で行うことができる。そのような容器は出発材料で充填され、続いて水性媒体が導入されてもよい。他の実施態様において、そのような容器は水性媒体で充填され、続いて出発材料が導入される。他の実施態様において、出発材料と水性媒体は同時に導入される。
【0032】
本発明の一実施態様では、工程(b)において、水と電極活物質の量は、1:3~5:1、好ましくは1:2~2:1の範囲の質量比を有する。
【0033】
工程(b)は、混合操作、例えば、振とうによって、又は特に攪拌又は剪断によってサポートされてもよい。以下を参照されたい。
【0034】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、1分~90分、好ましくは1分~60分未満の範囲の持続時間を有する。工程(b)において、水処理及び水の除去が重複して又は同時に行われる実施態様では、5分以上の持続時間が可能である。
【0035】
本発明の一実施態様において、工程(b)による処理及び工程(c)による水の除去は、連続して行われる。
【0036】
工程(b)による水性媒体での処理後又は処理中に、水は、例えばバンドフィルター又はフィルタープレスでの任意のタイプの濾過によって除去されてもよい。
【0037】
本発明の一実施態様において、工程(b)の開始後遅くとも3分で、工程(c)が開始される。工程(c)は、例えば固液分離によって、例えばデカンテーションによって、又は好ましくは濾過によって、処理された粒子状物質から水を部分的に除去することを含む。前記「部分的に除去すること」は、部分的に分離することとも呼ばれる。
【0038】
工程(c)の一実施態様において、工程(b)で得られたスラリーは、遠心分離機、例えばデカンター遠心分離機又はフィルター遠心分離機、又はフィルター装置、例えば吸引フィルター又はフィルタープレス、又は工程(b)が行われる容器の直下に好ましく配置されているベルトフィルターに直接排出される。その後、濾過が開始される。
【0039】
本発明の特に好ましい実施態様において、工程(b)及び(c)は、フィルタープレス又は攪拌機付きフィルター装置、例えば攪拌機付き圧力フィルター又は攪拌機付き吸引フィルターで行われる。工程(b)に従って出発材料と水性媒体を組み合わせた後、最大で3分後、又はその直後でも、濾過を開始することによって水性媒体の除去を開始させる。実験室規模では、工程(b)及び(c)はビュヒナー漏斗で行われてもよく、工程(b)及び(c)は手動攪拌によってサポートされてもよい。
【0040】
好ましい実施態様において、工程(b)は、フィルター装置、例えばフィルター内のスラリー又はフィルターケーキの撹拌を可能にする撹拌フィルター装置で行われる。
【0041】
本発明の一実施態様において、工程(c)による水の除去は、1分~1時間の範囲の持続時間を有する。
【0042】
本発明の一実施態様において、工程(b)、及び該当する場合に工程(c)における撹拌は、1分当たり1~50回転(「rpm」)の範囲の速度で行われ、5~20rpmが好ましい。
【0043】
本発明の一実施態様において、濾材は、セラミック、焼結ガラス、焼結金属、有機ポリマーフィルム、不織布、及び織物から選択することができる。
【0044】
本発明の一実施態様において、工程(b)及び(c)は、低減されたCO含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(b)及び(c)を行うことがさらにより好ましい。
【0045】
工程(c)から、残留物が、好ましくは湿潤フィルターケーキの形態で得られる。そのようなフィルターケーキの水分含有量は、2~20質量%、好ましくは3~9質量%の範囲であってもよい。
【0046】
乾燥のために、空気又は不活性ガスを固体残留物に吹き込む場合、そのような空気又は不活性ガスは、それぞれ、同様に低減されたCO含有量を有することが好ましい。
【0047】
さらに、工程(c)から、液相、例えば濾液が得られる。前記液相は、リチウム化合物、特に水酸化リチウムを溶解した形態で含有する。
【0048】
工程(d)は、工程(c)からの液相を、工程(b)と同様の処理工程のために、少なくとも部分的にリサイクルすることを含む。
【0049】
本発明の一実施態様において、工程(c)で得られた水性媒体は、少なくとも部分的にリサイクルされる。例えば、工程(b)で添加される水性媒体は、工程(c)で除去された液相(全部又は一部)を水で希釈して得られ、前記濾液を未処理の粒子状電極活物質の処理に再利用する。例えば、工程(b)で添加される水性媒体は、工程(c)で除去された液相の一部を水で添加して得られ、次のバッチで工程(b)に使用される。他の例では、工程(b)で添加される水性媒体は、工程(c)で除去された液相全体を水で添加して得られ、次のバッチでの工程(b)に使用される。
【0050】
好ましくは、工程(c)は濾過として行われ、濾液の一部、例えば5~75体積%は、水を添加することによって再利用され、次のバッチでの工程(b)に使用される。
【0051】
任意に、本発明の方法は、後続の工程(e)を含んでもよい:
(e)工程(c)からの固体残留物を熱処理する工程。
【0052】
この文脈において、「後続」という用語は、工程(e)が工程(c)の後に行われるが、工程(d)とは独立することを意味する。
【0053】
工程(e)は、任意のタイプのオーブン、例えばローラーハースキルン、プッシャーキルン、ロータリーキルン、振り子キルン、又は実験室規模の試験の場合にマッフルオーブンで行うことができる。
【0054】
工程(e)による熱処理の温度は、200~900℃、好ましくは250~600℃、さらにより好ましくは275~550℃の範囲であり得る。前記温度は工程(e)の最高温度を指す。
【0055】
工程(d)から得られた物質を直接工程(e)に供することが可能である。しかしながら、温度を段階的に上げること、又は温度を徐々に上げること、又は工程(d)の後に得られた物質を最初に40~185℃の範囲の温度で乾燥させて、その後に工程(e)に供すること、又は濾過などの固液分離法によって水を除去することが好ましい。
【0056】
前記段階的な上昇又は徐々の上昇は、常圧又は減圧、例えば0.1~500ミリバールの圧力下で行うことができる。
【0057】
その最高温度での工程(e)は常圧下で行われてもよい。
【0058】
本発明の一実施態様において、工程(e)は、酸素含有雰囲気、例えば、空気、酸素富化空気又は純酸素の下で行われる。
【0059】
工程(e)の前に100~250℃の範囲の温度で乾燥を行う実施態様において、そのような乾燥は、10分~5時間の持続時間で行うことができる。
【0060】
本発明の一実施態様において、工程(e)は、低減されたCO含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(e)を行うことがさらにより好ましい。
【0061】
本発明の一実施態様において、工程(e)は、1~10時間、好ましくは90分~6時間の範囲の持続時間を有する。
【0062】
本発明の一実施態様において、電極活物質のリチウム含有量は、前記電極活物質のリチウム含有量に対して、0.04~0.5質量%、好ましくは0.05~0.3質量%還元される。前記還元は主に、いわゆる残留リチウムに影響を及ぼす。いわゆる残留リチウムは、例えば1MのHClを用いた抽出及び滴定によって決定することができる。
【0063】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、電極活物質の表面は、LiOHを添加しない洗浄プロセスよりも、本発明の方法によって悪影響を受けることは少ないと仮定する。純水を採用するプロセスにおけるリチウム化合物の迅速な抽出は、本特許請求の範囲に従った潜在的に遅い反応よりも、電極活物質により多くの構造的損傷を与える可能性があると考えられる。
【0064】
工程(c)と工程(e)の間、又は工程(e)の後に、1つ以上の追加の任意の工程(f)、例えば、コーティング工程、ホウ酸処理工程、又はAl、Sb、Te、ヘテロポリ酸の少なくとも1つのスラリー又は溶解形態の水性製剤を使用してコーティングを行ってもよい。
【0065】
本発明の方法により処理された電極活物質は、ガス発生、サイクル安定性、比容量及びカソード製造中の低下したゲル化傾向に関して優れた挙動を示す。また、本発明の方法により、フィルター装置の空間速度を上げること、及びリチウム塩を含有する廃液の生成を減少することを可能にする。
【0066】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例
【0067】
総説:N-メチル-2-ピロリドン:NMP。
【0068】
脱イオン水は、23℃で5μS/cmの導電率を有していた。
【0069】
超乾燥空気:除湿した空気、露点-30℃未満、CO含有量50ppm未満。導電率を25℃で測定した。
【0070】
I.カソード活物質の合成
I.1 前駆体TM-OH.1の合成
脱イオン水、及び1kgの水当たり49gの硫酸アンモニウムを撹拌タンク反応器に入れた。溶液を55℃に温度調節し、水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、pH値を12に調整した。
【0071】
硫酸遷移金属水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を1.8の流量比で同時に供給し、総流量を8時間の滞留時間とすることにより、共沈反応を開始させた。遷移金属溶液は、Ni、Co及びMnを8.7:0.5:0.6のモル比及び1.65mol/kgの合計の遷移金属濃度で含有した。水酸化ナトリウム水溶液は、6の質量比での25質量%の水酸化ナトリウム溶液及び25質量%のアンモニア溶液であった。水酸化ナトリウム水溶液を別に供給することにより、pH値を12に維持した。すべての供給の始動から始めて、母液を継続的に取り出した。33時間後、すべての供給流を停止した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水で洗浄し、空気中120℃で乾燥させ、ふるいにかけることにより、混合遷移金属(TM)水酸化物前駆体TM-OH.1を得た。
【0072】
I.2 TM-OH.1のカソード活物質への変換
I.2.1 塩基カソード活物質B-CAM.1の製造、工程(a.1)
B-CAM.1(塩基):混合遷移金属水酸化物前駆体TM-OH.1をAl(平均粒径が6nm)と混合してNi+Co+Mn+Alに対して2モル%のAlの濃度を得、LiOH一水和物と混合して1.03のLi/(TM+Al)モル比を得た。混合物を760℃に加熱し、80%の酸素と20%(体積に対する)との窒素の混合物の強制流中に10時間保持した。室温まで冷却した後、得られた粉末を解凝集し、32μmのメッシュでふるいにかけて、塩基カソード活物質B-CAM 1を得た。
【0073】
Malvern InstrumentsからのMastersize 3000機でレーザー回折の技術を使用して決定されたD50は14.0μmであった。Al含有量は、ICP分析によって決定し、780ppmに対応した。250℃で決定した残留水分は300ppmであった。
【0074】
I.2.2 比較用カソード活物質の製造、工程C-(b.1)~(e.1)
工程C-(b.1):10mlの導電率が5μS/cm未満の脱イオン水をビーカーに入れた。100gの量のB-CAM.1を添加した。得られたスラリーを室温で60分間撹拌し、前記撹拌の間、スラリー温度を25℃に維持した。
【0075】
工程C-(c.1):その後、フィルタープレスでの濾過によって、水を除去した。湿潤フィルターケーキが残った。
【0076】
工程(e.1):超乾燥空気中で、得られたフィルターケーキを70℃で2時間、次に120℃で10時間乾燥させた。次に、得られた粉末を45μmのふるいでふるい分けすることにより、カソード活物質C-CAM.1を得た。
【0077】
I.2.3 本発明のカソード活物質、CAM.2の例の合成
上記のように工程(a.2)を行った。
【0078】
工程(b.2):工程C-(c.1)からの濾液を脱イオン水で質量比1:9で希釈した。電気伝導率は8.3mS/cmであった。、67mlの得られた透明溶液をビーカーに入れ、100gのB-CAM.1を添加した。得られたスラリーを室温で60分間攪拌した。
【0079】
工程(c.2):その後、フィルタープレスでの濾過によって、液相を除去した。湿潤フィルターケーキが残った。
【0080】
工程(d.2):濾液を再び水で質量比1:9で希釈し、工程(b.2)と同様の処理工程に使用した。
【0081】
工程(e.2):超乾燥空気中で、得られたフィルターケーキを70℃で2時間、次に120℃で10時間乾燥させた。次に、得られた粉末を45μmのふるいでふるい分けすることにより、カソード活物質CAM.2を得た。
【0082】
I.2.4 さらなる実験
さらなる実験では、工程(c.2)で得られた濾液を水性製剤の製造に使用した(表1参照)。
【0083】
【表1】
【0084】
II.カソード活物質のテスト
II.1 電極の製造、一般手順
正極:PVDFバインダー(Solef(登録商標)5130)をNMP(Merck)中に溶解して、8.0質量%の溶液を製造した。電極の調製では、バインダー溶液(4質量%)及びカーボンブラック(Li250、3.5質量%)をNMP中に懸濁させた。遊星遠心ミキサー(ARE-250、Thinky Corp.;日本)を使用して混合した後、本発明のCAM.2~CAM.7又は塩基カソード活物質C-CAM.1のいずれか(92.5質量%)を添加し、懸濁液を再度混合して、塊のないスラリーを得た。スラリーの固形分を65%に調整した。KTF-Sロールツーロールコーター(Mathis AG)を使用して、スラリーをAlホイル上にコーティングした。使用前に、すべての電極をカレンダ加工した。カソード材料の厚さは70μmであり、15mg/cmに対応した。バッテリーを組み立てる前に、すべての電極を120℃で7時間乾燥させた。
【0085】
II.2 電解質の製造
EL塩基1の総質量に基づいて、12.7質量%のLiPF、26.2質量%のエチレンカーボネート(EC)、及び61.1質量%のエチルメチルカーボネート(EMC)を含有する塩基電解質組成物(EL塩基1)を調製した。この塩基電解質製剤に、2質量%のビニレンカーボネート(VC)を添加した(EL塩基2)。
【0086】
III テストセルの製造
III.1 コイン型ハーフセル
III.1.1で記載されているように調製したカソードと、動作電極及び対極としてのリチウム金属とを含むコイン型ハーフセル(直径20mm、厚さ3.2mm)をそれぞれ組み立て、Arを充填したグローブボックス中に密封した。さらに、カソード、アノード、及びセパレータをカソード//セパレータ//Liホイルの順に重ね合わせて、ハーフコインセルを製造した。その後、0.15mLの上記(II.2)に記載されているEL塩基1をこのコインセル中に導入した。
【0087】
III.2 コインハーフセル性能の評価
製造したコイン型電池を使用して、セル性能を評価した。電池の性能については、セルの初期容量及び反応抵抗を測定した。初期性能及びサイクルを以下のように測定した:II.3.1によるコインハーフセルを、室温で4.3V~2.8Vの間の電圧範囲でテストした。初期サイクルでは、CC-CVモードで初期リチウム化を行った。すなわち、0.01Cに達するまで0.1Cの定電流(CC)を印加した。10分間の休止時間の後、2.8Vまで0.1Cの定電流で還元リチウム化を行った。結果を表2にまとめた。
【0088】
セルの反応抵抗成長を以下の方法によって計算した:初期性能の評価後、コインセルを4.3Vまで充電し、ポテンショスタットと周波数応答分析システム(Solartron CellTest System 1470E)を用いて電気化学インピーダンス分光法(EIS)により抵抗を測定した。EISスペクトルから、オーム抵抗及び反応抵抗が得られた。結果を表2にまとめた。
【0089】
結果
【0090】
【表2】
【国際調査報告】