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特表2023-545181アクリル樹脂水分散体、その製造方法及び水性塗料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-26
(54)【発明の名称】アクリル樹脂水分散体、その製造方法及び水性塗料
(51)【国際特許分類】
   C08F 265/06 20060101AFI20231019BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20231019BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20231019BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C08F265/06
C08L51/06
C09D5/00 Z
C09D133/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522839
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-18
(85)【翻訳文提出日】2023-04-13
(86)【国際出願番号】 CN2021097899
(87)【国際公開番号】W WO2022252148
(87)【国際公開日】2022-12-08
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】大水 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】ワン シリァン
(72)【発明者】
【氏名】ウ チョン
(72)【発明者】
【氏名】チェン カイ
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
4J038
【Fターム(参考)】
4J002BN121
4J002GH01
4J002HA06
4J026AA43
4J026AA45
4J026AA47
4J026AC09
4J026BA05
4J026BA27
4J026BA29
4J026DA02
4J026FA07
4J026GA01
4J026GA06
4J026GA08
4J038CG001
4J038CG002
4J038DG262
4J038GA03
4J038GA06
4J038KA03
4J038MA08
4J038MA10
4J038MA13
4J038PB05
4J038PB07
4J038PC06
4J038PC08
(57)【要約】
アクリル重合体(a1)、アクリル重合体(a2)、及びアクリル重合体(a3)を含むアクリル重合体(A)が水性媒体(B)中に分散しているアクリル樹脂水分散体であって、前記アクリル重合体(a1)が、酸価4mgKOH/g以上15mgKOH/g未満、かつ、ガラス転移温度-70~30℃の重合体であり、前記アクリル重合体(a2)が、酸価4mgKOH/g未満、かつ、ガラス転移温度0~110℃の重合体であり、前記アクリル重合体(a3)が、酸価15mgKOH/g以上150mgKOH/g以下、かつ、ガラス転移温度0~110℃の重合体であることを特徴とするアクリル樹脂水分散体を提供する。得られる硬化塗膜は、塗膜外観に優れることから、水性塗料に好適に用いられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル重合体(a1)、アクリル重合体(a2)、及びアクリル重合体(a3)を含むアクリル重合体(A)が水性媒体(B)中に分散しているアクリル樹脂水分散体であって、前記アクリル重合体(a1)が、酸価4mgKOH/g以上15mgKOH/g未満、かつ、ガラス転移温度-70~30℃の重合体であり、前記アクリル重合体(a2)が、酸価4mgKOH/g未満、かつ、ガラス転移温度0~110℃の重合体であり、前記アクリル重合体(a3)が、酸価15mgKOH/g以上150mgKOH/g以下、かつ、ガラス転移温度0~110℃の重合体であり、アクリル重合体(A)中の前記アクリル重合体(a1)が5~35質量%であり、前記アクリル重合体(a2)が1~80質量%であり、前記アクリル重合体(a3)が10~65質量%であることを特徴とするアクリル樹脂水分散体。
【請求項2】
前記アクリル重合体(a1)の水酸基価が10~150mgKOH/gであり、前記アクリル重合体(a2)の水酸基価が10~150mgKOH/gであり、前記アクリル重合体(a3)の水酸基価が、10~150mgKOH/gである請求項1記載のアクリル樹脂水分散体。
【請求項3】
前記アクリル重合体(a1)のガラス転移温度が、前記アクリル重合体(A)のガラス転移温度より10℃以上低い請求項1又は2記載のアクリル樹脂水分散体。
【請求項4】
前記アクリル重合体(a1)、前記アクリル重合体(a2)、及び前記アクリル重合体(a3)が、有機溶剤中の溶液重合による重合体である請求項1~3いずれか1項記載のアクリル樹脂水分散体。
【請求項5】
前記アクリル重合体(A)が、前記アクリル重合体(a1)及び前記アクリル重合体(a2)の存在下で、前記アクリル重合体(a3)を重合して得られるものである請求項1~4いずれか1項記載のアクリル樹脂水分散体。
【請求項6】
請求項1~5いずれか1項記載のアクリル樹脂水分散体の製造方法であって、前記アクリル重合体(A)中の酸基の一部又は全部を中和した後、水を添加することを特徴とするアクリル樹脂水分散体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5いずれか1項記載のアクリル樹脂水分散体を含有する水性塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂水分散体、その製造方法及び水性塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、産業機械用、車両用、防食用、木工用、プラスチック用、無機建材用、床用等の塗料として、耐久性や外観に優れる理由から溶剤系の2液硬化型塗料が幅広く使用されている。しかし、これらの多くは有機溶剤を多量に含有しており、これは今日の省資源的要求にそぐわず、引火爆発の危険性を有し、また塗装乾燥時に多量の有機溶剤が飛散する事から、必ずしも環境に適合する塗料とは言えない。
【0003】
この環境適合対策として、水性樹脂組成物を用いた2液型塗料が展開されている(例えば、特許文献1参照。)。この水性樹脂組成物は、シクロアルキル(メタ)アクリレート等の特定の不飽和単量体を必須成分とする不飽和単量体の混合物を溶液重合して得られる重合体を水性媒体中に分散して得られるものであるが、耐水性等の塗膜物性は優れるものの、ピンホールや肉持ち感等の塗膜外観が溶剤系塗料に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2012/169395
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ピンホールが少なく、肉持ち感に優れる硬化塗膜が得られるアクリル樹脂水分散体、及びこれを含有する水性塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のアクリル重合体が特定比率で水性媒体に分散しているアクリル樹脂水分散体が、ピンホールが少なく、肉持ち感に優れる硬化塗膜得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、アクリル重合体(a1)、アクリル重合体(a2)、及びアクリル重合体(a3)を含むアクリル重合体(A)が水性媒体(B)中に分散しているアクリル樹脂水分散体であって、前記アクリル重合体(a1)が、酸価4mgKOH/g以上15mgKOH/g未満、かつ、ガラス転移温度-70~30℃の重合体であり、前記アクリル重合体(a2)が、酸価4mgKOH/g未満、かつ、ガラス転移温度0~110℃の重合体であり、前記アクリル重合体(a3)が、酸価15mgKOH/g以上150mgKOH/g以下、かつ、ガラス転移温度0~110℃の重合体であり、アクリル重合体(A)中の前記アクリル重合体(a1)が5~30質量%であり、前記アクリル重合体(a2)が1~80質量%であり、前記アクリル重合体(a3)が10~60質量%であることを特徴とするアクリル樹脂水分散体に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアクリル樹脂水分散体は、得られる塗膜の外観が優れることから、自動車内外装用、自動車補修用、プラスチック用、産業機械用、建材用、木工用等の各種塗料に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のアクリル樹脂水分散体は、アクリル重合体(a1)、アクリル重合体(a2)、及びアクリル重合体(a3)を含むアクリル重合体(A)が水性媒体(B)中に分散しているアクリル樹脂水分散体であって、前記アクリル重合体(a1)が、酸価4mgKOH/g以上15mgKOH/g未満、かつ、ガラス転移温度-70~30℃の重合体であり、前記アクリル重合体(a2)が、酸価4mgKOH/g未満、かつ、ガラス転移温度0~110℃の重合体であり、前記アクリル重合体(a3)が、酸価15mgKOH/g以上150mgKOH/g以下、かつ、ガラス転移温度0~110℃の重合体であり、アクリル重合体(A)中の前記アクリル重合体(a1)が5~30質量%であり、前記アクリル重合体(a2)が1~80質量%であり、前記アクリル重合体(a3)が10~60質量%であるものである。
【0010】
なお、本発明における酸価及び水酸基価は、原料組成から得られる計算値である。
【0011】
また、本発明において、ガラス転移温度とは、以下のFOXの式に従い計算により求めたものである。
FOXの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・
(Tg:求めるべきガラス転移温度、W1:成分1の質量分率、Tg1:成分1のホモポリマーのガラス転移温度)
各成分のホモポリマーのガラス転移温度の値は、Polymer Handbook(4th Edition)J.Brandrup,E.H.Immergut,E.A.Grulke著(Wiley Interscience)記載の値を用いることができる。
【0012】
前記アクリル重合体(a1)は、酸価及びガラス転移温度を考慮し、カルボキシル基を有する不飽和単量体(x)とその他の不飽和単量体(y)とを共重合することで容易に得られる。
【0013】
前記カルボキシル基を有する不飽和単量体(x)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸又はこれら不飽和ジカルボン酸のハーフエステルなどが挙げられる。これらの中でも、水への分散性がより優れることから、(メタ)アクリル酸が好ましい。なお、これらの不飽和単量体(x)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0014】
前記その他の不飽和単量体(y)としては、例えば、スチレン、tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレンおよび/またはスチレン誘導体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリルレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基を有するアクリル単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基を有するアクリル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステル;(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メトキシブチルアクリルアミド等の窒素原子を有するアクリル単量体;。これらの単量体は、単独で用いることも、2種以上併用することもできる。
【0015】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリルアミド」とは、メタクリルアミドとアクリルアミドの一方又は両方をいう。
【0016】
また、前記アクリル重合体(a1)をイソシアネート等の硬化成分と反応させて硬化させる場合は、水酸基を有するアクリル単量体を用いることが好ましい。
【0017】
前記アクリル重合体(a1)の酸価は、4mgKOH/g以上15mgKOH/g未満であるが、水分散性及び塗膜外観がより向上することから、6~10mgKOH/gが好ましい。
【0018】
前記アクリル重合体(a1)の水酸基価は、水分散性及び塗膜外観がより向上することから、10~150mgKOH/gが好ましく、30~120mgKOH/gがより好ましい。
【0019】
前記アクリル重合体(a1)のガラス転移温度は、-70℃~30℃であるが、塗膜外観がより向上することから、-40~10℃が好ましい。
【0020】
また、前記アクリル重合体(a1)のガラス転移温度は、塗膜外観がより向上することから、前記アクリル樹脂(A)のガラス転移温度よりも10℃以上低いことが好ましく、30~110℃低いことがより好ましい。
【0021】
アクリル重合体(A)のガラス転移温度は、アクリル重合体(A)の原料となる全不飽和単量体成分から、上記したFOXの式に従い計算により求めたものである。
【0022】
前記アクリル重合体(a1)の重量平均分子量は、5,000~100,000が好ましい。
【0023】
なお、本発明において、平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する。)測定に基づきポリスチレン換算した値である。
【0024】
前記アクリル重合体(a2)は、ガラス転移温度を考慮し、前記その他の不飽和単量体(a2)を共重合することで容易に得られるが、酸価が4mgKOH/g未満となる範囲で、前記カルボキシル基を有する不飽和単量体(x)を使用してもよい。
【0025】
また、前記アクリル重合体(a2)をイソシアネート等の硬化成分と反応させて硬化させる場合は、水酸基を有するアクリル単量体を用いることが好ましい。
【0026】
前記アクリル重合体(a2)の酸価は、4mgKOH/g未満であるが、水分散性及び塗膜外観がより向上することから、2mgKOH/gがより好ましい。
【0027】
前記アクリル重合体(a2)の水酸基価は、水分散性及び塗膜外観がより向上することから、10~150mgKOH/gが好ましく、30~120mgKOH/gがより好ましい。
【0028】
前記アクリル重合体(a2)のガラス転移温度は、0℃~110℃であるが、塗膜外観がより向上することから、40~70℃が好ましい。
【0029】
前記アクリル重合体(a2)の重量平均分子量は、5,000~100,000が好ましい。
【0030】
前記アクリル重合体(a3)は、酸価及びガラス転移温度を考慮し、カルボキシル基を有する不飽和単量体(x)とその他の不飽和単量体(y)とを共重合することで容易に得られる。
【0031】
また、前記アクリル重合体(a3)をイソシアネート等の硬化成分と反応させて硬化させる場合は、水酸基を有するアクリル単量体を用いることが好ましい。
【0032】
前記アクリル重合体(a3)の酸価は、15mgKOH/g以上150mgKOH/g未満であるが、水分散性及び塗膜外観がより向上することから、40~100mgKOH/gが好ましい。
【0033】
前記アクリル重合体(a3)の水酸基価は、水分散性及び塗膜外観がより向上することから、10~150mgKOH/gが好ましく、30~120mgKOH/gがより好ましい。
【0034】
前記アクリル重合体(a3)のガラス転移温度は、0℃~110℃であるが、塗膜外観がより向上することから、40~60℃が好ましい。
【0035】
前記アクリル重合体(a3)の重量平均分子量は、5,000~100,000が好ましい。
【0036】
前記アクリル重合体(a1)、(a2)及び(a3)の製造方法としては、種々の方法を用いることができるが、塗膜外観がより向上することから、不飽和単量体原料を有機溶剤中で、重合開始剤を使用して重合させる方法が好ましい。
【0037】
前記有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素化合物;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル化合物;n-ブタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール等のアルコール化合物;エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール化合物;ヘプタン、ヘキサン、オクタン、ミネラルターペン等の脂肪族炭化水素化合物などが挙げられる。これらの中でも、前記水性媒体(B)としてそのまま利用できることから、水混和性有機溶剤を使用することが好ましい。なお、これらの有機溶剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0038】
前記重合開始剤としては、例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド化合物;1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス(4,4-ジtert-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジtert-アミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジtert-ヘキシルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジtert-オクチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジクミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等のパーオキシケタール化合物;クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド化合物;1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジtert-ブチルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド化合物;デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド化合物;ビス(tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシカーボネート化合物;tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等のパーオキシエステル化合物などの有機過酸化物と、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチル)ブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾ化合物などが挙げられる。なお、これらの重合開始剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0039】
前記アクリル重合体(A)は、前記アクリル重合体(a1)、(a2)及び(a3)を含むものであるが、塗膜外観が向上することから、前記アクリル重合体(a1)及び前記アクリル重合体(a2)の存在下で、前記アクリル重合体(a3)を重合して得られたものが好ましい。
【0040】
前記アクリル樹脂(A)の製造方法としては、例えば、先ず前記アクリル重合体(a1)を重合し、その存在下で、前記アクリル重合体(a2)を重合し、前記アクリル重合体(a1)及び前記アクリル重合体(a2)の存在下で、前記アクリル重合体(a3)を重合する方法や、先ず前記アクリル重合体(a2)を重合し、その存在下で、前記アクリル重合体(a1)を重合し、前記アクリル重合体(a1)及び前記重合体(B)の存在下で、前記アクリル重合体(a3)を重合する方法が挙げられる。
【0041】
前記水性媒体(B)としては、水、親水性有機溶剤、及びこれらの混合物が挙げられる。該親水性有機溶剤としては水と分離することなく混和する水混和性有機溶剤が好ましく、中でも水に対する溶解度(水100gに溶解する有機溶剤のグラム数)が25℃において3g以上の有機溶剤が好ましい。これら水混和性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル(一般名:3-メトキシブタノール)、3-メチル-3-メトキシブタノール(製品名:ソルフィット、株式会社クラレ製)等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。なお、これらの水性媒体(B)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0042】
本発明のアクリル樹脂水分散体は、前記アクリル重合体(A)が前記水性媒体(B)中に分散しているものであるが、前記アクリル重合体(A)を前記水性媒体(B)中に分散する方法としては、転相乳化法が好ましい。
【0043】
前記転相乳化法としては、例えば、上記方法で得た前記アクリル重合体(A)に塩基性化合物を添加することで、前記アクリル重合体(A)中の酸基の一部又は全部を中和し、さらにその後に水を添加することで水に分散する方法が挙げられる。
【0044】
前記塩基性化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-アミノエタノール等のモノアルカノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン等の有機アミン;アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基性化合物;テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラ-n-ブチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムハイドロオキサイドの四級アンモニウムハイドロオキサイドなどが挙げられる。これらの中でも有機アミンおよびアンモニア(アンモニア水でもよい。)を使用することが好ましい。なお、これらの塩基性化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0045】
また、前記塩基性化合物の使用量としては、アクリル樹脂水分散体の分散性及び貯蔵安定性がより向上することから、前記アクリル重合体(A)の有する酸基の中和率が、50~100%の範囲となる量であることが好ましい。
【0046】
本発明のアクリル樹脂水分散体には、塗料配合時に、硬化剤を配合できる。該硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、アミノ樹脂、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられるが、得られる塗膜の外観がより向上することから、ポリイソシアネート化合物が好ましい。なお、これらの硬化剤は単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0047】
前記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、m-フェニレンビス(ジメチルメチレン)ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、2-メチル-1,3-ジイソシアナトシクロヘキサン、2-メチル-1,5-ジイソシアナトシクロヘキサン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ジイソシアネート化合物などが挙げられる。
【0048】
また、前記ポリイソシアネート化合物として、上記のジイソシアネート化合物を多価アルコールと付加反応させて得られるイソシアネート基を有するプレポリマー;上記のジイソシアネート化合物を環化三量化させて得られるイソシアヌレート環を有する化合物;上記のジイソシアネート化合物を水と反応させて得られる尿素結合やビュレット結合を有するポリイソシアネート化合物;2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、3-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート等のイソシアネート基を有するアクリル単量体の単独重合体;前記イソシアネート基を有するアクリル単量体と、その他のアクリル単量体、ビニルエステル化合物、ビニルエーテル化合物、芳香族ビニル単量体、フルオロオレフィン等の単量体と共重合することによって得られるイソシアネート基を有する共重合体なども用いることができる。
【0049】
前記ポリイソシアネート化合物は、本発明のアクリル樹脂水分散体と配合した際に、安定性、硬化性に優れ、可使時間の自由度が高い点から、上記したポリイソシアネート化合物を変性した水分散性ポリイソシアネートが好ましい。
【0050】
前記ポリイソシアネート化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0051】
前記ポリイソシアネート化合物の配合量としては、高強度の塗膜が得られることから、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基と、前記アクリル重合体(A)中の水酸基との当量比(NCO/OH)で、0.5~2.0となる範囲が好ましく、0.8~1.5となる範囲がより好ましい。
【0052】
なお、上記のウレタン化反応は、反応の進行を促進させるため、ウレタン化触媒の存在下で行うこともできる。前記ウレタン化触媒としては、例えば、トリエチルアミン等のアミン化合物、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、オクチル錫トリラウレート、ジオクチル錫ジネオデカネート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル酸錫等の有機錫化合物、オクチル酸亜鉛(2-エチルヘキサン酸亜鉛)等の有機金属化合物などが挙げられる。
【0053】
本発明の水性塗料は、上述した以外のその他の配合物として、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、顔料、顔料分散剤、増粘剤等の添加剤を使用することができる。
【0054】
本発明の水性塗料の塗装方法としては、例えば、スプレー、アプリケーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、コンマコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、キスコーター、シャワーコーター、ホイーラーコーター、スピンコーター、ディッピング、スクリーン印刷等の方法が挙げられる。また、塗装後、塗膜とする方法としては、常温~120℃の範囲で乾燥させる方法が挙げられる。
【実施例
【0055】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。
【0056】
(実施例1:アクリル樹脂水分散体(1)の製造)
攪拌、冷却及び加熱装置を備えた反応器に、ジエチレングリコールジメチルエーテル(以下、「MDM」と略記する。)790質量部を仕込み135℃まで加熱した。その後、n-ブチルアクリレート(以下、「nBA」と略記する。)500質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、「HEMA」と略記する。)125質量部、アクリル酸(以下、「AA」と略記する。)5質量部のモノマー混合物と、MDM25質量部中にtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート(以下、「P-O」と略記する。)25質量部を溶解させた溶液とを30分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a1-1)を得た。
ここへ、メチルメタクリレート(以下、「MMA」と略記する。)1080質量部、n-ブチルメタクリレート(以下、「nBMA」と略記する。)900質量部、HEMAを700質量部、スチレン(以下、「St」と略記する。)490質量部のモノマー混合物と、MDM 150質量部中にP-O 150質量部を溶解させた溶液とを180分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a2-1)を得た。
ここへ、MMA270質量部、nBA 190質量部、HEMA 320質量部、St 260質量部、AA120質量部のモノマー混合物と、MDM 50質量部中にP-O 50質量部を溶解させた溶液とを90分かけて2系列等速滴下した。135℃に維持したまま60分保持し、アクリル重合体(a3-1)を得た後、混合物を90℃まで冷却した。ジメチルエタノールアミン(以下、「DMEA」と略記する。)120質量部を添加した後、水を5500質量部加えて、アクリル樹脂水分散体(1)を製造した。アクリル樹脂水分散体(1)の樹脂固形分は43.0質量%であり、中和率は78%であった。
【0057】
(実施例2:アクリル樹脂水分散体(2)の製造)
攪拌、冷却及び加熱装置を備えた反応器に、MDM 790質量部を仕込み135℃まで加熱した。その後、nBMA 500質量部、HEMA 125質量部、AA 5質量部のモノマー混合物と、MDM 25質量部中にP-O 25質量部を溶解させた溶液とを30分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a1-2)を得た。
ここへ、MMA 250質量部、nBMA 1730質量部、HEMAを700質量部、St 490質量部のモノマー混合物と、MDM 150質量部中にP-O 150質量部を溶解させた溶液とを180分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a2-2)を得た。
ここへ、MMA 70質量部、nBMA 390質量部、HEMA 320質量部、St 260質量部、AA 120質量部のモノマー混合物と、MDM 50質量部中にP-O 50質量部を溶解させた溶液とを90分かけて2系列等速滴下した。135℃に維持したまま60分保持し、アクリル重合体(a3-2)を得た後、混合物を90℃まで冷却した。DMEA 120質量部を添加した後、水を5500質量部加えて、アクリル樹脂水分散体(2)を製造した。アクリル樹脂水分散体(2)の樹脂固形分は43.4質量%であり、中和率は78%であった。
【0058】
(実施例3:アクリル樹脂水分散体(3)の製造)
攪拌、冷却及び加熱装置を備えた反応器に、Exxon Mobil Chemical製SOLVESSO 100 (以下、「S100」と略記する。) 410質量部と、プロピレングリコールn-ブチルエーテル(以下、「PnB」と略記する。)380質量部を仕込み135℃まで加熱した。その後、MMA 1250質量部、nBMA 900質量部、HEMAを700質量部、St 320質量部のモノマー混合物と、PnB 150質量部中にP-O 150質量部を溶解させた溶液とを180分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a2-3)を得た。
ここへ、nBA 500質量部、HEMA 125質量部、AA 5質量部のモノマー混合物と、PnB 25質量部中にP-O 25質量部を溶解させた溶液とを30分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a1-3)を得た。
ここへ、MMA 340質量部、nBA 190質量部、HEMA 320質量部、St 180質量部、AA 120質量部のモノマー混合物と、PnB 50質量部中にP-O 50質量部を溶解させた溶液とを90分かけて2系列等速滴下した。135℃に維持したまま60分保持し、アクリル重合体(a3-3)を得た後、混合物を90℃まで冷却した。DMEA 120質量部を添加した後、水を5500質量部加えて、アクリル樹脂水分散体(3)を製造した。アクリル樹脂水分散体(3)の樹脂固形分は44.6質量%であり、中和率は78%であった。
【0059】
(実施例4:アクリル樹脂水分散体(4)の製造)
攪拌、冷却及び加熱装置を備えた反応器に、S100を410質量部と、PnB 380質量部を仕込み135℃まで加熱した。その後、nBA 400質量部、HEMAを70質量部、St 25質量部、AA 5質量部のモノマー混合物と、PnB 25質量部中にP-O 25質量部を溶解させた溶液とを30分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a1-4)を得た。
ここへ、MMA 840質量部、nBMA 570質量部、nBA 270質量部、HEMA 820質量部、ベンジルメタクリレ-ト(以下、「BzMA」と略記する。)440質量部、St 150質量部のモノマー混合物と、PnB 150質量部中にP-O 150質量部を溶解させた溶液とを180分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a2-4)を得た。
ここへ、MMA 420質量部、nBA 190質量部、HEMA 360質量部、BzMA 200質量部、St 70質量部、AA 120質量部のモノマー混合物と、PnB 50質量部中にP-O 50質量部を溶解させた溶液とを90分かけて2系列等速滴下した。135℃に維持したまま60分保持し、アクリル重合体(a3-4)を得た後、混合物を90℃まで冷却した。トリエタノールアミン(TEOA)50質量部とメチルジエタノールアミン(MDEA)140質量部を添加した後、水を5500質量部加えて、アクリル樹脂水分散体(4)を製造した。アクリル樹脂水分散体(4)の樹脂固形分は44.4質量%であり、中和率は87%であった。
【0060】
(比較例1:アクリル樹脂水分散体(R1)の製造)
攪拌、冷却及び加熱装置を備えた反応器に、MDM 790質量部を仕込み135℃まで加熱した。その後、MMA 220質量部、nBMA 1830質量部、HEMA 805質量部、St 490質量部のモノマー混合物と、MDM 150質量部中にP-O 150質量部を溶解させた溶液とを180分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a2-5
)を得た。
ここへ、MMA 94質量部、nBMA 785質量部、HEMAを345質量部、St 210質量部、AA 120質量部のモノマー混合物と、MDM 68質量部中にP-O 68質量部を溶解させた溶液とを90分かけて2系列等速滴下した。135℃に維持したまま60分保持し、アクリル重合体(a3-5)を得た後、混合物を90℃まで冷却した。DMEA 120質量部を添加した後、水を5500質量部加えて、アクリル樹脂水分散体(R1)を製造した。アクリル樹脂水分散体(R1)の樹脂固形分は43.5質量%であり、中和率は81%であった。
【0061】
(比較例2:アクリル樹脂水分散体(R2)の製造)
攪拌、冷却及び加熱装置を備えた反応器に、MDM 790質量部を仕込み135℃まで加熱した。その後、nBA 500質量部、HEMA 125質量部のモノマー混合物と、MDM 25質量部中にP-O 25質量部を溶解させた溶液とを30分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a1’-6)を得た。
ここへ、MMA 1080質量部、nBMA 900質量部、HEMAを700質量部、St 490質量部のモノマー混合物と、MDM 150質量部中にP-O 150質量部を溶解させた溶液とを180分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a2-6)を得た。
ここへ、MMA 270質量部、nBA 190質量部、HEMA 320質量部、St 260質量部、AA 120質量部のモノマー混合物と、MDM 50質量部中にP-O 50質量部を溶解させた溶液とを90分かけて2系列等速滴下した。135℃に維持したまま60分保持し、アクリル重合体(a3-6)を得た後、混合物を90℃まで冷却した。DMEA 120質量部を添加した後、水を5500質量部加えて、アクリル樹脂水分散体(R2)を製造した。アクリル樹脂水分散体(R2)の樹脂固形分は43.0質量%であり、中和率は81%であった。
【0062】
(比較例3:アクリル樹脂水分散体(R3)の製造)
攪拌、冷却及び加熱装置を備えた反応器に、MDM 790質量部を仕込み135℃まで加熱した。その後、nBA 100質量部、HEMA 125質量部、St 400質量部、AA 5質量部のモノマー混合物と、MDM 25質量部中にP-O 25質量部を溶解させた溶液とを30分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a1’-7)を得た。
ここへ、MMA 1080質量部、nBMA 900質量部、HEMAを700質量部、St 490質量部のモノマー混合物と、MDM 150質量部中にP-O 150質量部を溶解させた溶液とを180分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a2-7)を得た。
ここへ、MMA 270質量部、nBA 190質量部、HEMA 320質量部、St 260質量部、AA 120質量部のモノマー混合物と、MDM 50質量部中にP-O 50質量部を溶解させた溶液とを90分かけて2系列等速滴下した。135℃に維持したまま60分保持し、アクリル重合体(a3-7)を得た後、混合物を90℃まで冷却した。DMEA 120質量部を添加した後、水を5500質量部加えて、アクリル樹脂水分散体(R3)を製造した。アクリル樹脂水分散体(R3)の樹脂固形分は43.0質量%であり、中和率は78%であった。
【0063】
(比較例4:アクリル樹脂水分散体(R4)の製造)
攪拌、冷却及び加熱装置を備えた反応器に、MDM 790質量部を仕込み135℃まで加熱した。その後、nBA 500質量部、HEMA 125質量部、AA 5質量部のモノマー混合物と、MDM 25質量部中にP-O 25質量部を溶解させた溶液とを30分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a1-8)を得た。
ここへ、MMA 1080質量部、nBMA 900質量部、HEMAを700質量部、St 440質量部、AA50質量部のモノマー混合物と、MDM 150質量部中にP-O 150質量部を溶解させた溶液とを180分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a2’-8)を得た。
ここへ、MMA 270質量部、nBA 190質量部、HEMA 320質量部、St 260質量部、AA 120質量部のモノマー混合物と、MDM 50質量部中にP-O 50質量部を溶解させた溶液とを90分かけて2系列等速滴下した。135℃に維持したまま60分保持し、アクリル重合体(a3-8)を得た後、混合物を90℃まで冷却した。DMEA 120質量部を添加した後、水を5500質量部加えて、アクリル樹脂水分散体(R4)を製造した。アクリル樹脂水分散体(R4)の樹脂固形分は43.0質量%であり、中和率は78%であった。
【0064】
(比較例5:アクリル樹脂水分散体(R5)の製造)
攪拌、冷却及び加熱装置を備えた反応器に、MDM 790質量部を仕込み135℃まで加熱した。その後、nBA 1450質量部、HEMA 360質量部、AA 15質量部のモノマー混合物と、MDM 70質量部中にP-O 70質量部を溶解させた溶液とを30分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a1-9)を得た。
ここへ、MMA 780質量部、nBMA 650質量部、HEMAを510質量部、St 355質量部、AA 50質量部のモノマー混合物と、MDM 110質量部中にP-O 110質量部を溶解させた溶液とを180分かけて2系列等速滴下した。反応容器を135℃に維持したまま30分保持し、アクリル重合体(a2-9)を得た。
ここへ、MMA 195質量部、nBA 140質量部、HEMA 230質量部、St 190質量部、AA 85質量部のモノマー混合物と、MDM 35質量部中にP-O 35質量部を溶解させた溶液とを90分かけて2系列等速滴下した。135℃に維持したまま60分保持し、アクリル重合体(a3-9)を得た後、混合物を90℃まで冷却した。DMEA 120質量部を添加した後、水を5500質量部加えて、アクリル樹脂水分散体(R5)を製造した。アクリル樹脂水分散体(R5)の樹脂固形分はは43.2質量%であり、中和率は97%であった。
【0065】
実施例1~4の各アクリル重合体の性状値、及び組成を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
比較例1~5の各アクリル重合体の性状値、及び組成を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
(実施例5:水性塗料(1)の調製及び評価)
上記で得たアクリル樹脂水分散体(1)40.0質量部に、レベリング剤(ビックケミー株式会社製「BYK-380N」)0.2質量部、イソシアネート硬化剤(DIC株式会社製「バーノックDNW-5500」)11.4質量部、及びイオン交換水7質量部を混合し、水性塗料(1)を得た後、各評価を行った。
【0070】
[硬化塗膜の作製]
ABS板及びガラス板に上記で得た水性塗料をスプレーにて乾燥膜厚が30μmになるように塗装し、熱風乾燥機を用いて70℃で30分間乾燥を行った後、25℃で1週間養生し、硬化塗膜を得た。
【0071】
[光沢の評価]
上記で得たABS板上の硬化塗膜について、JIS試験方法K 5600-4-7:1999に準拠し、20°ならびに60°の鏡面光沢度を測定した。
【0072】
[ピンホールの評価]
上記で得たABS板上の硬化塗膜について、ピンホールの程度を目視評価した。
〇:ピンホールなし
△:ピンホールややあり
×:ピンホール多い
【0073】
[肉持ち感の評価]
上記で得たABS板上の硬化塗膜について、肉持ち感の程度を目視評価した。
〇:肉持ち感あり
△:肉持ち感ややあり
×:肉持ち感なし
【0074】
[鉛筆硬度の評価]
【0075】
上記で得たガラス板上の硬化塗膜について、JIS S 6006:2007に規定された鉛筆を用いて、JIS K 5600-5-4:1999に準じて、傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を鉛筆硬度として測定した。
【0076】
(実施例6~8:水性塗料(2)~(4)の調製及び評価)
配合を表3の通りに変更し、水性塗料(2)~(4)を得た後、各評価を行った。
【0077】
(比較例6~10:水性塗料(R1)~(R5)の調製及び評価)
配合を表4の通りに変更し、水性塗料(R1)~(R5)を得た後、各評価を行った。
【0078】
水性塗料(1)~(4)及び(R1)~(R5)の組成及び評価結果を表3及び4に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
実施例1~4のアクリル樹脂水分散体から得られる塗膜は、塗膜外観及び塗膜硬度に優れることが確認された(実施例5~8)。
【0082】
比較例1は、アクリル重合体(a1)に相当するアクリル重合体を含まない例であるが、ピンホールが多く塗膜外観が不十分であることが確認された(比較例6)。
【0083】
比較例2は、アクリル重合体(a1)に相当するアクリル重合体の酸価が、本発明の下限より低い例であるが、肉持ちがなく、塗膜外観が不十分であることが確認された(比較例7)。
【0084】
比較例3は、アクリル重合体(a1)に相当するアクリル重合体のガラス転移温度が、本発明の上限より高い例であるが、ピンホールが多く、肉持ちがなく、塗膜外観が不十分であることが確認された(比較例8)。
【0085】
比較例4は、アクリル重合体(a2)に相当するアクリル重合体の酸価が、本発明の上限より高い例であるが、ピンホールが多く、肉持ちがなく、塗膜外観が不十分であることが確認された(比較例9)。
【0086】
比較例5は、アクリル重合体(A)中のアクリル重合体(a1)が上限である30質量%よりも多い例であるが、ピンホールが多く、塗膜外観が不十分であることが確認された(比較例10)。
【国際調査報告】