(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-31
(54)【発明の名称】使用済みポリアミドの水素化によるバリューチェーンリターン方法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/50 20060101AFI20231024BHJP
C07C 211/12 20060101ALI20231024BHJP
C07C 31/20 20060101ALI20231024BHJP
C07C 29/149 20060101ALI20231024BHJP
C08J 11/10 20060101ALI20231024BHJP
C08G 69/46 20060101ALI20231024BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
C07C209/50
C07C211/12 ZAB
C07C31/20 Z
C07C29/149
C08J11/10
C08G69/46
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023522786
(86)(22)【出願日】2021-10-12
(85)【翻訳文提出日】2023-06-12
(86)【国際出願番号】 EP2021078130
(87)【国際公開番号】W WO2022078997
(87)【国際公開日】2022-04-21
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】シャウプ,トマス
(72)【発明者】
【氏名】ノイマン,パウル
(72)【発明者】
【氏名】アル バタル,モナ
(72)【発明者】
【氏名】ハシミ,エー.シュテフェン ケー.
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,ウェイ
【テーマコード(参考)】
4F401
4H006
4H039
4J001
【Fターム(参考)】
4F401AA24
4F401BA06
4F401CA67
4F401CA68
4F401CA75
4F401CA90
4F401CB01
4F401EA04
4F401EA10
4F401EA17
4F401EA34
4F401EA59
4F401EA62
4F401EA67
4F401EA77
4F401FA01Z
4F401FA02Z
4F401FA20Z
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC52
4H006BA23
4H006BA48
4H006BB11
4H006BB15
4H006BB25
4H006BC10
4H039CA60
4H039CA71
4H039CE40
4J001DA01
4J001DB01
4J001EB08
4J001EC08
4J001GE13
(57)【要約】
使用済みポリアミドは、水素雰囲気中で、少なくとも1つの均一な遷移金属触媒錯体の存在下で、使用済みポリアミドを水素化してポリアミン及びポリオールを得ることによって、バリューチェーンに戻され、遷移金属は、IUPACによる元素の周期表の第7族、第8族、第9族及び第10族の金属から選択される。前記水素化は、1・10-30~10・10-30C・mの範囲の双極子モーメントを有する非還元性溶媒中で少なくとも160℃の反応温度で実施される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みポリアミドのバリューチェーンリターン方法であって、水素雰囲気中で、少なくとも1つの均一な遷移金属触媒錯体の存在下で、使用済みポリアミドを水素化してポリアミン及びポリオールを得ることを含み、前記遷移金属は、IUPACによる元素の周期表の第7族、第8族、第9族及び第10族の金属から選択される方法において、前記水素化は、1・10
-30~10・10
-30C・mの範囲の双極子モーメントを有する非還元性溶媒中で少なくとも160℃の反応温度で実施されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記非還元性溶媒は、少なくとも1つの電子対供与体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非還元性溶媒は、エーテル、アルコール及びアミンから選択され、好ましくはエーテル、より好ましくはテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン又はアニソールである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
水素化反応は、DMSOの本質的な非存在下で実施される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
反応温度は170から220℃、好ましくは180から210℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
使用済みポリアミドはポリアミド66である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
均一な遷移金属触媒錯体は、レニウム、ルテニウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム及び白金から選択される遷移金属、好ましくはルテニウムを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記均一な遷移金属触媒錯体は、遷移金属に配位可能な少なくとも1つの窒素原子と少なくとも1つのリン原子を有する少なくとも1つの多座配位子を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの多座配位子は、一般式(I)
【化1】
に適合し、ここで、
各R’は、独立してH又はC
1~C
4-アルキルであり、
R
1及びR
2は、互いに独立して、C
1~C
12-アルキル、シクロアルキル又はアリールであり、
前記アルキルは、非置換であるか、又は1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基R
7を担持し、
前記シクロアルキル及びアリールは非置換であるか、又は1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基R
8を担持し、
R
3及びR
4は、互いに独立して、H又はC
1~C
12-アルキルであり、C
1~C
12-アルキルは非置換であるか、又はアルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシル、NE
1E
2及びPR
1R
2から選択される1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基を担持し、
R
5はH又はC
1~C
12-アルキルであり、C
1~C
12-アルキルは非置換であるか、又は1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基R
7を担持し、
R
6はH又はC
1~C
4-アルキルであり、
又は
R
4及びR
6は存在せず、R
3及びR
5は、R
3が結合している窒素原子及びR
5が結合している炭素原子とともに、6員ヘテロ芳香環を形成し、
前記6員ヘテロ芳香環は、非置換であるか、又はC
1~C
12-アルキル、シクロアルキル、アリール及びヘタリールから選択される、1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基を担持し、
前記アルキルは非置換であるか、又は1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基R
7を担持し、そして
前記シクロアルキル、アリール及びヘタリールは、非置換であるか、又はアルキル置換基を担持し、前記アルキル置換基は、非置換であるか、又はアルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシル、NE
1E
2及びPR
1R
2から選択される置換基を担持し、
各R
7は、独立してシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシル又はNE
1E
2であり、
各R
8は、独立して、C
1~C
4-アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシル又はNE
1E
2であり、及び
E
1及びE
2は、互いに独立して、発生ごとに独立して、H、C
1~C
12-アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択されるラジカルである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの多座配位子は、一般式(II)
【化2】
に適合し、ここで、
Dは、H、C
1~C
12-アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘタリールであり、
前記アルキルは、非置換であるか、又は1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基R
7を担持し、そして
前記シクロアルキル、アリール又はヘタリールは非置換であるか、又は、アルキル置換基を担持し、前記アルキル置換基は、非置換であるか、又はアルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシル、NE
1E
2及びPR
1R
2から、好ましくは、NE
1E
2及びPR
1R
2から選択される、置換基を担持する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの多座配位子は、化合物A~Gから選択され、
【化3】
ここで、Etはエチル、
iPrはイソプロピル、
tBuはtert-ブチル、Cyはシクロヘキシル、Phはフェニルである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記水素化反応は、50~500barの絶対圧、好ましくは60~300barの絶対圧、より好ましくは80~200barの絶対圧で実施される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記水素化反応は、塩基、好ましくはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアルコラート、より好ましくは、アルカリ金属tert-ブトキシドの存在下で実施される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みポリアミド(spent polyamides)のバリューチェーンリターン方法に関し、それらを水素化してポリアミンとポリオールを得ることを含む。この方法は、選択された溶媒中で、均一な遷移金属触媒錯体の存在下で実施される。
【背景技術】
【0002】
過去30年間で、世界のプラスチック需要は大幅に増加している。例えば、過去10年間で、世界中で生産されるプラスチックの量はほぼ50%増加した。30年のうちに、ほぼ4倍にもなり、2018年には3億5900万トンという量に達している。これらの事実から、前記大量のプラスチックが生産されると、使用済みプラスチックの処分又はリサイクルが必要であることは明らかになっている。例えば、モノマーとして機能できる化合物のような貴重な材料は、例えばプラスチック生産で直接再利用することによって、バリューチェーンに戻されるように、リサイクルすることが好ましい。
【0003】
そのため、使用済みプラスチックから材料を回収するための処理技術の開発が求められている。使用済みプラスチックのリサイクル方法は、材料の無駄と二酸化炭素排出量の両方を削減する必要がある。さらに、それは、高い技術的特徴を備えた貴重な材料を提供する、経済的でエネルギー効率の良い方法であるべきである。これに対して、燃焼などによる廃棄は、環境に、同様に二酸化炭素排出量に悪影響を及ぼす。
【0004】
上記のプラスチックの中でも、ポリアミド(PA)などは重要な代表格である。ポリアミドは、例えば、衣類、布地、ロープ、コード、紐、パラシュート、風船、帆、ダボ、絶縁体、歯車、オイルパンなどの用途に使用されている。
【0005】
廃プラスチックの処理に解重合方法を使用することが知られている。プラスチック廃棄物に対するこのような処理の実質的な目的は、ケミカルリサイクルである。このようなリサイクル方法では、廃プラスチックは、元のプラスチックを改質するのに適した構成モノマーに変換される。このようなリサイクル方法では、廃ポリマーを対応するモノマーに解重合する効率を向上させることが望まれる。商業的に重要なポリアミドであるナイロン66の場合、解重合によりモノマーであるヘキサメチレンジアミンとアジピン酸が生成される。
【0006】
実質的に脂肪族組成のポリアミド(以下ナイロンという)は、酸加水分解により解重合されることを知られている。このような解重合方法には過剰の硫酸が使用され、該硫酸はこの方法の溶媒としても有効に機能する。モノマー材料を回収するためには、反応が行われる硫酸溶媒からの分離又は中和する工程が必要である。酸加水分解の生成物は、アミン塩とカルボン酸である。このような方法の欠点は、問題となる大量の排出流が発生することであり、また、標的モノマーの分離と単離の困難さにも関連していることである。
【0007】
ポリアミド66(ナイロン)などのポリアミドを、塩を生成することなく価値あるモノマー化合物にリサイクルすることは、依然として困難である(参照:Plastics recycling,in Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,2020,DOI:10.1002/14356007.a21_057.pub2)。
【0008】
WO95/19950は、300℃の高圧NH3雰囲気中でルイス酸触媒を使用したポリアミド66の解重合方法を開示している。この場合、高い反応温度と窒素含有モノマー化合物のみにアクセスする制限の両方が、解重合の欠点である。
【0009】
松本ら、J.Mater.Cycles Waste Manag.,2017,19,326~331は、270℃から300℃でグリコール酸を用いた超臨界メタノール中でのポリアミド66の無触媒還元解重合を開示している。この方法では、ポリマーのジアミン単位から得られる1,6-ヘキサンジオール(最大52%)とポリマーのジカルボン酸単位から得られるアジピン酸ジメチルを得ることができる。反応温度が高いことに加え、このアプローチの欠点は、1,6-ジアミノヘキサンが得られないことである。
【0010】
水素化によるポリアミド66の解重合により、モノマーである1,6-ジアミノヘキサンと貴重なポリオールである1,6-ヘキサンジオールを得ることは、経済的関心が高い。1,6-ヘキサンジオールは、様々な産業プロセスで原料として使用されることができ、又は、アジピン酸に変換されてポリアミド66に至るバリューチェーンに再統合されることができる。
【0011】
【0012】
DE1695282は、高圧NH3及びH2雰囲気中で、290℃で不均一なRu-又はNi-含有水素化触媒を使用したポリアミド66の解重合方法を開示している。このアプローチの欠点は、反応条件(NH3雰囲気と高い反応温度)と、窒素含有モノマーしか得られないことである。
【0013】
A.Kumarらによる、J.Am.Chem.Soc.2020,142,14267~14275は、三座のP,N,N-配位子を有する均一系ルテニウムベースの触媒の存在下で、ナイロン12、ナイロン6及びナイロン66などのポリアミドを水素化解重合することを述べている。これまでのところ、溶媒としてのDMSO中、150℃で良好な結果が得られている。実際、溶媒としてのDMSOが重要な役割を果たすと主張されている。一方、「トルエン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、水又はジメチルホルムアミドを使用した場合には、ナイロン6の変換は観察されなかった」(14268頁右欄)と記載されている。
【0014】
しかし、前記プラスチックリサイクル方法は、ジオール及びジアミンの収率が低いこと(最大25%)、プラスチック範囲が低分子量ポリアミド(<3500g/mol)に限定されることなどの大きな欠点がある。また、極性不飽和溶媒であるDMSOの使用は、この水素化条件下ではDMSOの水素化によって副生成物としてジメチルスルフィドが生成される可能性があるため、欠点となる。さらに、生成物からのDMSO分離は、沸点が高いため困難であり、及び、DMSOは高い反応温度で分解する傾向がある(参照:Org.Process Res.Dev.2020,24,1614~1620)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、使用済みポリアミドを水素化してポリアミンとポリオールを得るための、環境に優しく経済的に有利な触媒水素化反応を提供することである。
【0016】
この目的は、使用済みポリアミドのバリューチェーンリターン方法によって達成された。この方法は、水素雰囲気中で、少なくとも1つの均一な遷移金属触媒錯体の存在下で、使用済みポリアミドを水素化してポリアミン及びポリオールを得ることを含み、前記遷移金属は、IUPACによる元素の周期表の第7族、第8族、第9族及び第10族の金属から選択され、水素化は、1・10-30~10・10-30C・mの範囲の双極子モーメントを有する非還元性溶媒中で少なくとも160℃の反応温度で実施されることを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
「バリューチェーンリターン」とは、本発明の方法によって得られた低分子生成物が、ポリアミドに至るバリューチェーンに再統合され得ること、あるいは、他のバリューチェーンでの原料として使用されることを意味するものとする。
【0018】
ポリアミドの水素化に適した溶媒は、出発材料となるポリアミドを溶解する能力、水素化条件下での化学的不活性、ポリアミドの水素化を可能にする電子的特性など、一定の特性を有しなければならない。
【0019】
本発明によれば、水素化は、1・10-30から10・10-30C・mの範囲の双極子モーメントを有する非還元性溶媒(non-reducible solvent)中で実施される。
【0020】
「非還元性」という用語は、適用される反応条件、例えば方法が操作される温度と圧力で、溶媒が水素と反応することができないことを意味する。すなわち、非還元性溶媒は、C=O、C=S、C≡N又は非芳香族C=C結合を含んでいない。
【0021】
溶媒は、温度298Kで測定されて、1・10-30~10・10-30C・mの範囲の双極子モーメントを有する。好ましくは、溶媒は、1.5・10-30~8・10-30C・mの範囲、より好ましくは、2・10-30~6・10-30C・mの範囲の双極子モーメントを有する。溶媒の双極子モーメントは、その化学的極性の相対的な尺度である。高い双極子モーメント値は、極性溶媒と相関している。一般的に使用される溶媒の双極子モーメントの基準値が、例えば、Handbook of Chemistry and Physics,CRC Press,Boca Raton,Florida,91st Edition,2010から得られ得る。
【0022】
ポリアミドの溶解度は極性の高い溶媒ほど高いと考えられる。しかしながら、極性の高い溶媒には、上述したような欠点がある。したがって、中程度の極性を有する溶媒、すなわち1・10-30から10・10-30C・mまでの双極子モーメント値を有する溶媒の本選択は、極性の高い溶媒の欠点を回避しながら、少なくとも水素化に利用できる程度にポリアミドを溶解する適切な極性の間のトレードオフである。
【0023】
好ましい実施形態では、溶媒は、少なくとも1つの電子対供与体を含む。「電子対供与体」は、溶媒に求核性を与え、それによって水素化される結合の活性化を容易にする。溶媒は、電子対供与体として機能する官能基を含む。適切な電子対供与体は、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基又はエーテル部分として結合された窒素又は酸素などの原子が挙げられる。一般に、非プロトン性溶媒が好ましい。
【0024】
一実施形態において、非還元性溶媒は、エーテル、アルコール及びアミンから選択される。
【0025】
適切なエーテル(括弧内の双極子モーメント値)は、テトラヒドロフラン(5.84・10-30C・m)、1,4-ジオキサン(1.50・10-30C・m)、アニソール(4.17・10-30C・m)、ジエチルエーテル(4.34・10-30C・m)、ジイソプロピルエーテル(4.34・10-30C・m)、ジブチルエーテル(3.90・10-30C・m)、メチルtert-ブチルエーテル(4.40・10-30C・m)及びジエチレングリコールジメチルエーテル(5.70・10-30C・m)から選択される。
【0026】
適切なアルコールは、メタノール(5.67・10-30C・m)、エタノール(5.77・10-30C・m)、n-プロパノール(5.54・10-30C・m)、イソプロパノール(5.54・10-30C・m)、tert-ブタノール(5.54・10-30C・m)、トリフルオロエタノール(6.77・10-30)、エチレングリコール(7.61・10-30C・m)及び1,3-プロパンジオール(8.41・10-30C・m)から選択される。
【0027】
適切なアミンは、1-ブチルアミン(3.34・10-30C・m)、トリエチルアミン(2.90・10-30C・m)、エチレンジアミン(6.64・10-30C・m)、モルホリン(4.94・10-30C・m)、ピペリジン(3.97・10-30C・m)及びアニリン(5.04・10-30C・m)から選択される。
【0028】
必要に応じて、前述の溶媒の2つ以上の混合物を使用することもできる。
【0029】
好ましい実施形態においては、非還元性溶媒は、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン又はアニソールから選択される。テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0030】
一実施形態において、水素化反応は、DMSOの本質的な非存在下で実施される。より好ましくは、水素化反応は、上記で定義した溶媒以外の溶媒の非存在下で、すなわち、本方法の条件下で還元可能であり、かつ/又は1・10-30C・m未満又は10・10-30C・m以上の双極子モーメントを有する溶媒の非存在下で実施される。
【0031】
水素化反応の正味のエネルギー収支は発熱であるが、その開始にはエネルギー(活性化エネルギー)の供給が必要である。温度が高いほど、上記溶媒によるポリアミドの可溶化が促進され、ポリアミドが水素化されやすくなる。必要な活性化エネルギーを供給し、十分な量のポリアミドを可溶化するために、水素化反応は、少なくとも160℃の高温の反応温度で実施される。一実施形態では、反応温度は170から220℃、好ましくは180から210℃である。
【0032】
水素化反応は、水素雰囲気中で実施される。これは、ポリアミドの水素化反応中に分子状水素が消費されるためである。水素圧力は、反応の結果に影響を及ぼす。圧力が低いと、通常、反応速度が遅くなり、圧力が高いと反応速度が速くなる。したがって、水素雰囲気は、高圧レベルで適切に存在する。したがって、水素化反応は、加圧された反応容器、例えばオートクレーブで起こる。一実施形態では、水素化反応は、50~500バールの絶対圧、好ましくは60~300バールの絶対圧、より好ましくは80~200バールの絶対圧で実施される。
【0033】
水素化反応は、遷移金属に配位可能な少なくとも1つの窒素原子と少なくとも1つのリン原子を有する少なくとも1つの多座配位子を含む、少なくとも1つの均質な遷移金属触媒錯体(以下、「水素化触媒」ともいう)の存在下に行われる。
【0034】
一般に、水素化反応に存在する水素化触媒の量は、広い範囲で変化させることができる。適切には、水素化触媒は、0.1~5000ppm(触媒金属として計算した質量部)、好ましくは1~2000ppm、より好ましくは50~1000ppmの量で水素化反応に存在する。
【0035】
水素化触媒は、IUPACによる元素周期表の第7族、第8族、第9族及び第10族の金属、好ましくは第8族、第9族及び第10族の金属から選択される遷移金属を含む。
【0036】
一実施形態においては、均一な遷移金属触媒錯体は、鉄、コバルト、ロジウム、オスミウム、レニウム、ルテニウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム及び白金から選択される遷移金属、好ましくはルテニウムを含む。
【0037】
一般に、均一な遷移金属触媒錯体は、反応溶液中で遷移金属を可溶化し、遷移金属を水素化のために活性な形態に維持するために、少なくとも1つの配位子を含む。好ましい配位子は、遷移金属に配位可能な少なくとも1つの窒素原子と少なくとも1つのリン原子を有する多座配位子である。
【0038】
水素化触媒は、1つ以上の追加の配位子、例えば、水素化物、アルコキシド、アリールオキシド、カルボキシレート及びアシルからなる群から選択されるアニオン、又は一酸化炭素、トリアリールホスフィン、アミン、N-ヘテロ環カルベン及びイソニトリルからなる群から選択される中性配位子をさらに含むことができる。好ましくは、水素化触媒は、一酸化炭素配位子、ハロゲン化物又は水素化物をさらに含む。
【0039】
一実施形態において、少なくとも1つの多座配位子は、一般式(I)
【化2】
に適合し、ここで
各R’は、独立してH又はC
1~C
4-アルキルであり、
R
1及びR
2は、互いに独立して、C
1~C
12-アルキル、シクロアルキル又はアリールであり、このアルキルは、非置換であるか、又は1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基R
7を担持し、そして
シクロアルキル及びアリールは非置換であるか、又は1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基R
8を有し、
R
3及びR
4は、互いに独立して、H又はC
1~C
12-アルキルであり、これは非置換であるか、又は1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基R
7を担持し、これは非置換であるか、又は、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシル、NE
1E
2及びPR
1R
2から選択される1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基を担持し、
R
5はH又はC
1~C
12-アルキルであり、これは非置換であるか、又は1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基R
7を担持し、
R
6はH又はC
1~C
4-アルキルであり、
又は
R
4及びR
6は存在せず、R
3及びR
5は、R
3が結合している窒素原子及びR
5が結合している炭素原子とともに、6員ヘテロ芳香環を形成し、
該6員ヘテロ芳香環は、非置換であるか、又はC
1~C
12-アルキル、シクロアルキル、アリール及びヘタリールから選択される、1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基を担持し、
該アルキルは非置換であるか、又は1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基R
7を担持し、そして
該シクロアルキル、アリール及びヘタリールは、非置換であるか、又は、アルキル置換基を担持し、該アルキル置換基は、非置換であるか、又は、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシル、NE
1E
2及びPR
1R
2から選択される置換基を担持し、
各R
7は、独立してシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシル又はNE
1E
2であり、
各R
8は、独立して、C
1~C
4-アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘタリール、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシル又はNE
1E
2であり、及び
E
1及びE
2は、互いに独立して、発生ごとに独立して、H、C
1~C
12-アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択されるラジカルである。
【0040】
「シクロアルキル」(「シクロアルキルオキシ」などの組み合わせでも)という用語は、3~8個の炭素原子、好ましくは4~7個の炭素原子、より好ましくは5~6個の炭素原子を有する飽和環式脂肪族炭化水素ラジカルを示す。シクロペンチル又はシクロヘキシルが好ましい。
【0041】
「ヘテロシクロアルキル」(「ヘテロシクロアルコキシ」などの組み合わせでも)という用語は、飽和3~8員環状炭化水素ラジカルを示し、ここで、1つ以上の炭素原子はO、S、N及びPから選択されるヘテロ原子、又はそれらの組み合わせによって置換される。ピロリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、ピペリジル、ピペラジニル、モルホリニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオフェンなど、またそれらのメチル-、エチル-、プロピル-、イソプロピル-及びtert-ブチル置換誘導体が好ましい。
【0042】
「アリール」(アリールオキシなどの組み合わせでも)という用語は、単環又は縮環(annelated)の芳香族炭素環を示し、好ましくはフェニル又はナフチルラジカル、より好ましくはフェニルラジカルを示す。
【0043】
「ヘタリール」(ヘタリールオキシなどの組み合わせでも)という用語は、3~8員芳香族炭素環を示し、ここで、1つ以上の炭素原子はO、S、N及びPから選択されるヘテロ原子、又はそれらの組み合わせによって置換されており、それらはまた1つ又は2つの芳香族環で縮環されて得る。フリル、チエニル、ピロリル、ピリジル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、ピリミジニル、ピラジニルなど、またそれらのメチル-、エチル-、プロピル-、イソプロピル-及びtert-ブチル-置換誘導体が好ましい。最も好ましくは、ヘタリールはピリジルである。
【0044】
好ましくは、R’はHである。
【0045】
好ましくは、R1及びR2は同一であり、イソプロピル、シクロヘキシル、tert-ブチル、及びフェニルからなる群から選択される。
【0046】
好ましくは、R3は、H又はC1~C3-アルキルである。
【0047】
好ましくは、R4は、H又は-(CH2)2-PR1R2、例えば-(CH2)2-PPh2である。
【0048】
好ましくは、R5は、H又はC1~C3-アルキルである。
【0049】
好ましくは、R6は、Hである。
【0050】
さらに好ましい実施形態では、R6及びR4は存在せず、R3及びR5は、R3が結合している窒素原子及びR5が結合している炭素原子とともに、6員ヘテロ芳香環を形成している。好ましくは、6員ヘテロ芳香環は、ヘテロ原子が1位にあって、-CR’R’-PR1R2が2位にあると仮定して、好ましくは6位に1つの置換基を担持する。
【0051】
一実施形態において、少なくとも1つの多座配位子は、一般式(II)
【化3】
に適合し、ここで、
Dは、H、C
1~C
12-アルキル、シクロアルキル、アリール又はヘタリールであり、
該アルキルは、非置換であるか、又は1、2、3、4もしくは5個の同一又は異なる置換基R
7を担持し、そして
該シクロアルキル、アリール又はヘタリールは、非置換であるか、又は、アルキル置換基を担持し、該アルキル置換基は、非置換であるか、又は、アルコキシ、シクロアルコキシ、ヘテロシクロアルコキシ、アリールオキシ、ヘタリールオキシ、ヒドロキシル、NE
1E
2及びPR
1R
2から選択される置換基、好ましくはNE
1E
2及びPR
1R
2を担持する。
【0052】
好ましい実施形態において、Dは、NE1E2で置換されたC1~C12-アルキル;非置換のヘタリール;又はNE1E2又はPR1R2で置換されたC1~C12-アルキルを担うヘタリールである。
【0053】
より好ましい実施形態において、Dは、NE1E2によって置換されたメチル基;非置換の2-ピリジル;又は-CH2-NE1E2又は-CH2-PR1R2によって6位で置換されている2-ピリジルである。
【0054】
一実施形態において、少なくとも1つの多座配位子は、化合物A~Gから選択され、
ここで、Etはエチル、
iPrはイソプロピル、
tBuはtert-ブチル、Cyはシクロヘキシル、Phはフェニルである:
【化4】
【0055】
均質な、例えばルテニウムベースの、水素化触媒錯体は、それ自体知られている。このような触媒錯体は、水素化に有効な環境において、触媒活性ルテニウムを許容する。この目的のために、様々な配位子系が研究されてきた;例えば、BINAP-(Noyori)、P,N,N-(Milstein)又はP,N,P-配位子(Takasago)は、水素化反応に成功裏に用いられた。
【0056】
好ましい実施形態では、遷移金属はルテニウムであり、多座配位子は化合物A~Gのうちの1つに適合する。
【0057】
水素化触媒は、予め形成された金属錯体の形で使用することができ、該金属錯体は金属化合物と1つ以上の配位子を含む。
【0058】
好ましい実施形態において、水素化触媒は、化合物H~Qから選択される、予め形成されたルテニウム触媒であり、
ここで、Etはエチル、
iPrはイソプロピル、
tBuはtert-ブチル、Cyはシクロヘキシル、Phはフェニルである:
【化5】
【0059】
本発明で使用される触媒を調製するために、特別な技術又は特殊な技術は必要ない。しかし、活性の高い触媒を得るためには、不活性雰囲気下、例えば、窒素、アルゴンなどの雰囲気下で操作を行うことが好ましい。
【0060】
あるいは、水素化触媒は、金属化合物(以下、「プレ触媒」ともいう)と、少なくとも1つの適切な配位子とを組み合わせて、反応媒体中で触媒的に活性な金属錯体を形成することにより、反応混合物中でその場に形成される(「水素化触媒」)。また、水素化触媒は、金属化合物と、少なくとも1つの補助配位子とを組み合わせて、反応媒体中で触媒的に活性な金属錯体を形成することにより、補助配位子の存在下でその場に形成されることも可能である。
【0061】
適切なプレ触媒は、遷移金属の中性金属錯体、酸化物及び塩から選択される。好ましいプレ触媒は、レニウム、ルテニウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム及び白金、より好ましくはルテニウムの金属錯体、酸化物及び塩から選択される。
【0062】
本願明細書において、「COD」は1,5-シクロオクタジエンを表し、「Cp」はシクロペンタジエニルを表し、「Cp*」はペンタメチルシクロペンタジエニルを表し、「binap」は2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチルを表す。
【0063】
適切なレニウムプレ触媒は、過レニウム酸アンモニウム、クロロトリカルボニル(2,2’-ビピリジン)レニウム(I)、クロロトリカルボニル(4,4’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビピリジン)レニウム(I)、シクロペンタジエニルレニウムトリカルボニル、ヨードジオキソビス(トリフェニルホスフィン)レニウム(V)、メチルトリオキソレニウム(VII)、ペンタメチルシクロペンタジエニルレニウムトリカルボニル、レニウムカルボニル、塩化レニウム(V)、臭化レニウムペンタカルボニル、およびトリフルオロメチルスルホナトトリカルボニル(2,2’-ビピリジン)レニウム(I)から選択される。
【0064】
適切なルテニウムプレ触媒は、[Ru(メチルアリル)2COD]、[Ru(pシメン)Cl2]2、[Ru(ベンゼン)Cl2]n、[Ru(CO)2Cl2]n、[Ru(CO)3Cl2]2、[Ru(COD)(アリル)]、[RuCl3・H2O]、[Ru(アセチルアセトナート)3]、[Ru(DMSO)4Cl2]、[Ru(PPh3)3(CO)(H)Cl]、[Ru(PPh3)3(CO)Cl2]、[Ru(PPh3)3(CO)(H)2]、[Ru(PPh3)3Cl2]、[Ru(PPh3)3Cl2]、[Ru(Cp)(PPh3)2Cl]、[Ru(Cp)(CO)2Cl]、[Ru(Cp)(CO)2H]、[Ru(Cp)(CO)2]2、[Ru(Cp*)(CO)2Cl]、[Ru(Cp*)(CO)2H]、[Ru(Cp*)(CO)2]2、[Ru(インデニル)(CO)2Cl]、[Ru(インデニル)(CO)2H]、[Ru(インデニル)(CO)2]2、ルテノセン、[Ru(binap)(Cl)2]、[Ru(2,2’ビピリジン)2(Cl)2・H2O]、[Ru(COD)(Cl)2H]2、[Ru(Cp*)(COD)Cl]、[Ru3(CO)12]、[Ru(テトラフェニルヒドロキシシクロペンタジエニル)(CO)2H]、[Ru(PMe3)4(H)2]、[Ru(PEt3)4(H)2]、[Ru(Pn-Pr3)4(H)2]、[Ru(Pn-Bu3)4(H)2]、及び[Ru(Pn-オクチル3)4(H)2]、好ましくは[Ru(メチルアリル)2COD]、[Ru(COD)Cl2]2、[Ru(Pn-Bu3)4(H)2]、[Ru(Pn-オクチル3)4(H)2]、[Ru(PPh3)3(CO)(H)Cl]及び[Ru(PPh3)3(CO)(H)2]、より好ましくは[Ru(PPh3)3(CO)(H)Cl]から選択される。
【0065】
適切なイリジウムプレ触媒は、[IrCl3・H2O]、KIrCl4、K3IrCl6、[Ir(COD)Cl]2、[Ir(シクロオクテン)2Cl]2、[Ir(エテン)2Cl]2、[Ir(Cp)Cl2]2、[Ir(Cp*)Cl2]2、[Ir(Cp)(CO)2]、[Ir(Cp*)(CO)2]、[Ir(PPh3)2(CO)Cl]、および[Ir(PPh3)3Cl]、好ましくは[Ir(COD)Cl]2、[Ir(シクロオクテン)2Cl]2、および[Ir(Cp*)Cl2]2から選択される。
【0066】
適切なニッケルプレ触媒は、[Ni(COD)2]、Ni(CO)4、NiCl2、NiBr2、NiI2、Ni(OAc)2[Ni(AcAc)2]、[Ni(Cl)2(TMEDA)]、[Ni(Cl)2(DME)]、[Ni(Br)2(DME)]、[Ni(Cl)2(PPh3)2]、[Ni(CO)2(PPh3)]、[Ni(Cl)(メタリル)]2、[Ni(CO3)]、ニッケル(II)ジメチルグリオキシム、ニッケル(II)2エチルヘキサン酸、ニッケル(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナート、ビス(N,N’-ジ-t-ブチルアセトアミジナート)ニッケル(II)、シュウ酸ニッケル(II)、Ni(NO3)2、ステアリン酸ニッケル(II)、Ni(SO4)、ニッケル(II)テトラフルオロボレート六水和物、ニッケル(II)トリフルオロアセチルアセトナート二水和物、及びニッケル(II)トリフルオロメタンスルホネートから選択される。
【0067】
適切なパラジウムプレ触媒は、アリル(シクロペンタジエニル)パラジウム(II)、ビス[(トリメチルシリル)メチル](1,5-シクロオクタジエン)パラジウム(II)、アリルパラジウムクロリド二量体、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム(II)、ビス[1,2ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(0)、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、trans-ビス(ジシクロヘキシルアミン)ビス(アセテート)-パラジウム(II)、ビス(2-メチルアリル)パラジウムクロリド二量体、ビス(トリ-t-ブチルホスフィン)-パラジウム(0)、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリ-o-トリルホスフィン)-パラジウム(0)、クロロメチル(1,5-シクロオクタジエン)パラジウム(II)、ジアセテート[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]パラジウム(II)、ジアセテートビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジアセテート(1,10-フェナントロリン)パラジウム(II)、ジ-μ-ブロモビス(トリ-t-ブチルホスフィノ)二パラジウム(I)、trans-ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジブロモ(1,5-シクロオクタジエン)パラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(ジ-t-ブチル-フェニルホスフィノ)パラジウム(II)、ジ-μ-クロロビス{2-[(ジメチルアミノ)メチル]フェニル}ジ-パラジウム、trans-ジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(II)、trans-ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)-パラジウム(II)、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム(II)、cis-ジクロロ(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム(II)、cis-ジメチル(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム(II)、(1-メチルアリル)パラジウムクロリド二量体、酢酸パラジウム(II)、パラジウム(II)アセチルアセトナート、安息香酸パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、パラジウム(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナート、ヨウ化パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)、トリフルオロ酢酸パラジウム(II)、トリメチル酢酸パラジウム(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、及びトリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)から選択される。
【0068】
適切な白金プレ触媒は、テトラクロロ白金酸アンモニウム(II)、ビス(トリ-t-ブチルホスフィン)白金(0)、ビス(エチレンジアミン)白金(II)クロリド、ジブロモ(1,5-シクロオクタジエン)白金(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)白金(II)、cis-ジクロロビス(ジエチルスルフィド)白金(II)、cis-ジクロロビス(ピリジン)白金(II)、cis-ジクロロビス(トリエチルホスフィン)白金(II)、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)白金(II)、cis-ジクロロジアンミン白金(II)、ジ-μ-クロロ-ジクロロビス(エチレン)二白金(II)、ジクロロ(ジシクロペンタジエニル)白金(II)、ジ-μ-ヨードビス(エチレンジアミン)二白金(II)硝酸塩、ジヨード(1,5-シクロオクタジエン)白金(II)、ジメチル(1,5-シクロオクタジエン)白金(II)、白金(II)アセチルアセトナート、白金(II)アセチルアセトナート、臭化白金(II)、塩化白金(II)、ヨウ化白金(II)、ビス(オキサラト)白金酸カリウム(II)二水和物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二白金(0)から選択される。
【0069】
一般式(I)に適合する多座配位子を含む上記の水素化触媒は、追加の塩基を必要とせずに、水素化反応に使用されることができる。しかし、通常、水素化触媒に触媒量の塩基を組み合わせることで、より高い活性が得られる。
【0070】
一実施形態では、水素化反応は、塩基、好ましくはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアルコラートの存在下で実施される。好ましくは、塩基はカリウムtert-ブトキシドのようなアルカリ金属アルコラートである。
【0071】
一般に、塩基は、使用される水素化触媒の量の範囲内で水素化反応に存在する。適切には、塩基は、水素化触媒の量に基づいて、1~50当量、好ましくは1~10当量、より好ましくは1~4当量の量で存在する。
【0072】
使用済みポリアミドを水素化するための本発明の方法は、水素化触媒が液相に存在する液-ガス反応の技術分野で当業者に知られている慣用の装置及び/又は反応器を用いて実施されることができる。本発明方法では、原則として、既述の温度及び既述の圧力での気液反応に基本的に適した任意の反応器を使用することが可能である。気液及び液液反応システムに適した標準的な反応器については、例えば:Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,2005,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co.KGaA、3.3章の、Reactor Types and their Industrial Applications and Reactors for gas-liquid reactionを参照されたい。適切な例としては、例えば、撹拌槽反応器、管状反応器又は気泡塔反応器などが挙げられる。ポリアミド、水素化触媒、溶媒及び塩基の供給は、互いに同時又は別々に行われることができる。反応は、バッチモードで不連続に行われてよく、又はリサイクルありまたはリサイクルなしで連続的、半連続的に行われてよい。反応空間における平均滞留時間は、広範囲で、好ましくは15分~100時間の範囲、より好ましくは1~50時間の範囲で変化させることができる。
【0073】
特に、本発明は、出発材料として使用済みポリアミドを含む。この文脈では、「使用済みポリアミド」という用語は、製造された目的で既に使用された時点で、ポリアミドから製造されたアイテムを示す。
【0074】
一般に、ホモポリマーポリアミドは、開環重合反応(例えば、カプロラクタムなどの環状アミドをモノマーとして使用する)又は重縮合反応(例えば、α,ω-アミノカルボン酸;又はジアミンとジカルボン酸をモノマーとして使用する)により製造される。例えば、ジアミンとジカルボン酸の重縮合によって製造されるポリアミドの工業的に重要な代表は、ポリアミド66(ナイロン)である。
【0075】
本方法は、直接回収される(ポリアミン)か、又はポリウレタンに容易に変換できるポリオール、ポリエステル又はポリアミドを合成するためのジカルボン酸に再酸化できるような貴重な合成構成要素として得られる両方の出発材料成分の再利用を可能にする。
【0076】
一実施形態では、使用済みポリアミドは、ポリアミド66である。
【0077】
ポリアミド、例えばポリアミド66(ナイロン)は、大規模に生産される技術的なポリマーである(参照:Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、2013、DOI:10.1002/14356007.a21_179.pub3)。一般に、それは1,6ジアミノヘキサンとアジピン酸の反応により製造され、以下の一般式に従う:
【化6】
【0078】
本発明で使用される使用済みポリアミドは、製造された目的のために使用された後の時点で、ポリアミドから製造されたアイテムから得られる。水素化に供する前に、アイテムは機械的な粉砕に供されてよい。すなわち、例えば、密度の割合により、すなわち空気、液体、または磁気による細断、ふるい分け、または分離によって、アイテムをさらに選別し、適切なサイズにする。任意に、これらの断片は、その後、不純物、例えば紙のラベルを除去するためのプロセスを受けることができる。
【0079】
一般に、ポリアミドを膨潤又は部分的に溶解させるのに十分な量の溶媒を使用する。水素化反応が進行すると、ポリアミドは徐々に反応液に溶解する。適切には、溶媒と使用済みポリアミドの比率は、ポリアミド1kgあたり0.1~100L溶媒、好ましくは1kgあたり1~20L溶媒の範囲にある。
【0080】
水素化の後に得られた反応混合物の後処理、特にポリアミンとポリオールの単離は、場合に応じて、例えば濾過、又は減圧下での蒸留によって、実現することができる。好ましくは、後処理はいくつかの工程を含む。例えば、アミン又はジオールのような揮発性化合物は、蒸留によって分離されることができる。これにより、水素化触媒は蒸留残渣に残り、リサイクルが可能になる。触媒は、生成物から分離されると、再利用のために反応器に戻すことができる。あるいは、触媒溶液を溶媒で希釈して再利用することができる。上述の分離方法は、本明細書に記載された本発明の方法の様々な実施形態のいずれかと組み合わせることができることを理解されたい。
【実施例】
【0081】
本発明は、以下の実施例に基づいてさらに説明し、例示することができる。しかしながら、これらの実施例は単に説明のために含まれるものであり、本発明の範囲をいかなる意味でも限定することを意図していないことが理解されよう。
【0082】
すべての化学物質と溶媒は、Sigma-Aldrich又はABCRから購入され、特に指定がない限り、さらに精製せずに使用した。1H-、13C-、31P NMRスペクトルはBruker Avance 200又は400MHz分光計で記録し、溶媒の残留プロトン(1H)又は炭素(13C)共鳴ピークを参照した。化学シフト(δ)はppmで報告されている。31P NMRスペクトルは、外部標準(D3PO4のアンプル)を参照した。
【0083】
水素化触媒P及びQを、文献のプロトコルに従って調製した:E.Balaraman,J.Am.Chem.Soc.2010,132,16756~16758頁及びD.Srimani,Adv.Synth.Catal.2013,355,2525~2530頁。
【0084】
【0085】
第一段階:50mLのシュレンク管に、6-メチル-2,2’-ビピリジン(511mg,3.00mmol)を15mLのEt2Oに溶解し、0℃に冷却し、LDA(3.50mL,THF/ヘキサン中1M)を滴下添加した。0℃で1時間撹拌した後、iPrOH/液体N2によって-80℃まで冷却し、5mLのEt2O中のClPCy2(815g,3.50mmol)をゆっくりと添加した。冷却浴を1時間後に取り外し、混合物を徐々に室温に戻し、一晩撹拌した。反応混合物を、10mLの脱気水を黄色いスラリーに加えることによってクエンチした。有機相を分離し、水相をエーテル(2×5mL)で抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、溶媒を除去して、粘着性のある橙色の油として粗配位子(31P NMRに基づく純度は52%)を得た。これをさらに精製することなく、次の段階で直接使用した。
【0086】
第二段階:第一段階で得られた配位子を20mLのTHFに溶解させた。RuHCl(CO)(PPh3)3(952mg,1.00mmol)を加え、混合物を70℃で5時間撹拌し、その後室温に冷却した。溶媒を真空下で約10mLに減らし、20mLのEt2Oを残りの赤橙色の分散体に添加した。溶液をカニューレで除去し、固体をEt2O(2×10mL)で洗浄し、真空下で乾燥させ、465.2mgの橙色の生成物を得た(Ruに基づく収率87%)。
31P {1H}NMR(122MHz,CD2Cl2)δ83.68。
1H NMR(301MHz,CD2Cl2)δ9.22-9.13(m,1H),8.07-7.97(m,1H),7.93(d,J=8.0Hz,1H),7.86(td,J=8.0,1.6Hz,1H),7.82(td,J=8.0,0.9Hz,1H),7.49(d,J=7.7Hz,1H),7.45-7.39(m,1H),3.82-3.56(m,2H),2.46-2.27(m,2H),2.08-0.99(m,20H),-14.83(d,J=23.6Hz,1H)。
13C{1H}NMR(126MHz,CD2Cl2)δ207.71(d,J=14.9Hz),161.70(d,J=5.1Hz),156.38,154.78(d,J=2.7Hz),153.51(d,J=1.7Hz)、137.30、136.51、126.42(d、J=1.9Hz)、123.13(d、J=9.6Hz)、122.76(d、J=1.6Hz)、119.73,40.59(d,J=22.2Hz)、38.59(d,J=23.4Hz),35.76(d,J=28.9Hz),31.01(d,J=2.9Hz),29.60(d,J=4.2Hz),28.61(d,J=4.5Hz),28.20(d,J=13.6Hz)、27.73、27.56(d、J9.2Hz)、26.82(d、J=4.4Hz)、26.74(d、J=3.5Hz)、26.71(d,J=2.0Hz)、26.35(d、J=1.5Hz)。
HRMS(ESI):m/z calcd.for C24H32N2OPRu[M-Cl]+:497.1296,found:497.1291。
【0087】
【0088】
アルゴン雰囲気の下、テフロン製インサートを備えた60mLのPremexオートクレーブに、0,3g(繰り返し単位として計算して1.25mmol)のポリアミド66(アジピン酸と15%過剰の1,6-ヘキサメチレンジアミンを反応させて得られる;MW=8240g/mol;アミノ末端基含有量=1748mmol/kg;酸末端基含有量=14mmol/kg)を投入した。表1に示されたルテニウム錯体(0.01mmol)、KOtBu及び溶媒を上記のように添加した。オートクレーブを閉じ、グローブボックス外側で表1に示す圧力までH2を充填し、アルミニウムブロック(表1に示すように反応温度に予熱)に入れた。反応終了後(20時間)、オートクレーブを加熱ブロックから取り出し、水浴で室温まで冷却した。慎重に内圧を解放した。オートクレーブを開け、GC分析用の内部標準としてメシチレンを添加した。ジアミンとジオールの量は、較正されたGCの結果に従って得られた(表1を参照)。
【0089】
【0090】
表1の結果は、ジオール及びジアミンの収率が反応温度の上昇とともに増加することを示している。アニソールと比較して、溶媒THFではより高い収率が得られる。
【0091】
実施例2:ポリアミド試料の水素化
アルゴン雰囲気の下、テフロン製インサートを備えた60mL Premexオートクレーブに、0.5g(繰り返し単位に応じて2.08mmol)ポリアミド66(BASF SEから入手可能なUltramide A27;アジピン酸と1,6-ヘキサメチレンジアミンからの1:1ポリアミド)を投入した。ルテニウム錯体H(0.01mmol)、KOtBu(0.04mmol)及びTHF(5mL)を添加した。オートクレーブを閉じ、グローブボックス外側でH2(100バールの絶対圧)を充填し、アルミニウムブロック(反応温度200℃に予熱)に入れた。反応終了後(20時間)、オートクレーブを加熱ブロックから取り出し、水浴で室温まで冷却した。慎重に内圧を解放した。オートクレーブを開け、GC分析用の内部標準としてメシチレンを添加した。ジアミンとジオールの量は、較正されたGCの結果に従って得られた。収率ジアミン:19%(39mmol);収率ジオール18%(37mmol);ジアミンに応じたターンオーバー数:39。
【0092】
比較例1.不均一系触媒を用いた実施1~3
【化9】
【0093】
触媒Hの代わりに表2に示されるルテニウム触媒を使用したことを除いて、実施例1を繰り返した。溶媒としてTHFを使用した。オートクレーブを密閉し、H2を充填する前にH2で数回フラッシュした。その後、オートクレーブを予熱したアルミニウムブロック(200℃)に入れた。反応終了後、オートクレーブを加熱ブロックから取り出し、水浴で室温まで冷却した。慎重に内圧を解放した。次に、オートクレーブを開け、GC分析用の内部標準としてメシチレンを混合物に添加した。ジアミンとジオールの量は、較正されたGCの結果に従って得られた(表2を参照)。
【0094】
【0095】
表2の結果は、不均一系触媒がポリアミド66の水素化に適さないことを示す。実施1及び2では、水素化は起こらない。実施3では、ジアミンのみが検出された。
【0096】
比較例2:不均一系触媒を用いた1,6-ヘキサンジオールの変換
テフロン製インサートを備えた60mLのPremexオートクレーブに、5mLのTHFに溶解した0.5mmolの1,6-ヘキサンジオールを投入した。シリカ上の不均一触媒ルテニウム100mgを添加した。オートクレーブを密閉し、H2(100バール)を充填する前にH2で数回フラッシュした。その後、オートクレーブを予熱したアルミブロック(200℃)に入れた。反応終了後、オートクレーブを加熱ブロックから取り出し、水浴で室温まで冷却した。慎重に内圧を解放した。その後、オートクレーブを開け、GC分析用の内部標準としてメシチレンを混合物に添加した。29時間後、1,6-ヘキサンジオールは検出されなかった。ジオールは反応中に消費された。反応生成物は確認できなかった。おそらく、1,6-ヘキサンジオールを脱酸素してヘキサンを得た。
【0097】
実施例3:均一系触媒を用いた1,6-ヘキサンジオールの変換
不均一系触媒の代わりに触媒Qを使用したことを除いて、比較例2を繰り返した。この実験では、1,6-ヘキサンジオールの水素化又は脱酸素化は起こらなかった。この観察により、均一系触媒を使用することの重要性が明確になった。
【国際調査報告】