(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-31
(54)【発明の名称】イッテルビウムを含有する固体リチウムイオン伝導度材料及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
C01G 25/04 20060101AFI20231024BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231024BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231024BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20231024BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231024BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231024BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C01G25/04
H01M4/36 A
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523233
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(85)【翻訳文提出日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2021078423
(87)【国際公開番号】W WO2022079156
(87)【国際公開日】2022-04-21
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】510238650
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ウォータールー
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ナザール,リンダ
(72)【発明者】
【氏名】ウー,シヤオハン
(72)【発明者】
【氏名】キム,セ ヨン
【テーマコード(参考)】
4G048
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA06
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD06
4G048AE06
5G301CA16
5G301CA18
5G301CA25
5G301CA28
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ12
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、リチウムイオンに対してイオン伝導度を有する固体材料、前記固体材料と正極活物質とを含む複合体、前記固体材料の調製方法、電気化学電池の固体電解質としての前記固体材料の使用、前記固体材料を含む電気化学電池の正極(カソード)、負極(アノード)及びセパレータからなる群から選択される固体構造体、ならびにそのような固体構造体を含む電気化学電池について説明している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
Li
3-n*xYb
1-xM
xX
y (I)
(式中、
0.05≦x≦0.95;
5.8≦y≦6.2;
nは、MとYbの原子価の差であり;
Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される1つ以上であり;
Xは、ハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上である)、
による組成を有する固体材料。
【請求項2】
0.08≦x≦0.85、好ましくは0.1≦x≦0.8、より好ましくは0.12≦x≦0.65、最も好ましくは0.15≦x≦0.6、
及び/又は、
5.85≦y≦6.15、より好ましくは5.9≦y≦6.1、最も好ましくは5.95≦y≦6.05である、請求項1に記載の固体材料。
【請求項3】
前記固体材料は結晶質であり、空間群Pnmaの斜方晶構造、及び空間群P-3m1の三方晶構造から選択される構造を有する1つ以上の結晶相を含む、請求項1又は2に記載の固体材料。
【請求項4】
Mは、Ti、Zr、Hfのうちの1つ以上、
及び/又は、
XはCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の固体材料。
【請求項5】
MはZr、
及び
XはClである、
請求項1~4のいずれか一項に記載の固体材料。
【請求項6】
- 請求項1~5のいずれか一項に記載の固体材料と、
- 正極活物質であって、前記正極活物質は、式(II):
Li
1+t[Co
xMn
yNi
zM
u]
1-tO
2 (II)
(式中、
0≦x≦1
0≦y≦1
0≦z≦1
0≦u≦0.15であり、
Mは、存在する場合、Al、Mg、Ba、B、及びNi、Co、Mn以外の遷移金属からなる群から選択される1つ以上の元素であり、
x+y+z>0
x+y+z+u=1
-0.05≦t≦0.2である)
の1つ以上の化合物を好ましくは含む、正極活物質と、
を含む複合体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の前記固体材料及び前記正極活物質とが互いに混和される、請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の前記固体材料は、前記正極活物質上にコーティングの形態で存在する、請求項6に記載の複合体。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に定義された固体材料の調製方法であって、前記方法は、
(a)以下の前駆体
(1)Liのハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上の化合物と;
(2)Ybのハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上の化合物と;
(3)Ti、Zr、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される元素Mのハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上の化合物と;
を、提供するステップであって、
ここで、反応混合物において、Li、Yb、M、ハロゲン化物及び擬ハロゲン化物のモル比は、一般式(I)に一致する、ステップと、
(b)一般式(I)による組成を有する固体材料を得るために、前記前駆体を反応させるステップとを含む、方法。
【請求項10】
前記前駆体は
(1)1つ以上の化合物LiXと、
(2)1つ以上の化合物YbX
3と、
(3)1つ以上の化合物MX
4であって、
MはTi、Zr、Hfからなる群から選択され、
及び/又は
XはCl、Br及びIからなる群から選択される、
である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
以下のステップ
(a1)前駆体(1)、(2)及び(3)を含む固体反応混合物を調製又は提供するステップと、
(b1)反応生成物が形成されるように、300℃から650℃の温度範囲で、5時間以上の合計時間で反応混合物を熱処理し、一般式(I)による組成を有する固体材料が得られるように、反応生成物を冷却するステップと、
を含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
以下のステップ
(a2)前駆体(1)、(2)及び(3)を、エーテル、H
2O、アルコールC
nH
2n+1OH(式中、1≦n≦20である)、ギ酸、酢酸、ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、ピリジン、ニトリル、N-メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、アセトン、酢酸エチル、ジメトキシエタン、1,3-ジオキソラン、及びアルキレンカーボネートからなる群から選択される溶媒中に、溶解させることによって液体反応混合物を調製又は提供するステップと;
(b2)固体残渣が得られるように液体反応混合物から溶媒を除去し、反応生成物が形成されるように、固体残渣を100℃から300℃の温度範囲で、4時間から24時間の合計時間で熱処理し、一般式(I)による組成を有する固体材料が得られるように、反応生成物を冷却するステップと、
を含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
電気化学電池のための固体構造体であって、前記固体構造体は、正極、負極及びセパレータからなる群から選択され、前記電気化学電池のための固体構造体は、請求項1~5のいずれか一項に記載の固体材料、又は請求項6~8のいずれか一項に記載の複合体を含む、電気化学電池のための固体構造体。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか一項に記載の固体材料、又は請求項6~8のいずれか一項に記載の複合体を含む、電気化学電池。
【請求項15】
請求項1~5のいずれか一項に記載の固体材料、又は請求項6~8のいずれか一項に記載の複合体は、請求項13に定義される固体構造体の構成要素である、請求項14に記載の電気化学電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リチウムイオンに対してイオン伝導度を有する固体材料、前記固体材料と正極活物質とを含む複合体、前記固体材料の調製方法、電気化学電池の固体電解質としての前記固体材料の使用、前記固体材料を含む電気化学電池の正極(カソード)、負極(アノード)及びセパレータからなる群から選択される固体構造体、ならびにそのような固体構造体を含む電気化学電池について説明する。
【背景技術】
【0002】
全固体リチウム電池の普及に伴い、リチウムイオンに対して高い伝導度を有する固体電解質への要求が高まっている。このような固体電解質として重要なのが、リチウム遷移金属ハロゲン化物である。
【0003】
US2019/0088995A1は、組成式:
Li6-3zYzX6
(0<z<2を満たし;XはCl又はBrを表す)によって表される固体電解質材料を開示している。US2019/0088995A1によれば、これらの材料は、室温付近で0.2*10-4S/cmから7.1*10-4S/cmの範囲のイオン伝導度を示す。
【0004】
さらなる先行技術は、
US2020/328463A1、
Andreas Bohnsackらによる、Zeitschrift fuer anorganische und allgemeine Chemie(無機及び一般化学ジャーナル)623巻、1997年9月1日、1067~1073頁及び1352~1356頁である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2019/0088995A1
【特許文献2】US2020/328463A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Andreas Bohnsackらによる、Zeitschrift fuer anorganische und allgemeine Chemie(無機及び一般化学ジャーナル)623巻、1997年9月1日、1067~1073頁及び1352~1356頁
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、350℃での熱処理によって得られた、x=0からx=0.5(下記表1参照)の範囲にわたるLi
3-xYb
1-xZr
xCl
6材料のX線回折(XRD)パターンを示したものである。
【
図2】
図2は、上記で定義された構成を有する全固体電池のサイクリックボルタモグラムを示す。
【
図3】
図3は、(LiCoO
2及びLi
2.7Yb
0.7Zr
0.3Cl
6の混合物)|Li
3PS
4|Li-In合金の構成を有する上記で定義された全固体電池の第1(実線)及び第2(破線)の充放電プロファイル(0.1C)を示している。
【
図4】
図4は、異なるなCレートにおけるサイクル数の関数として充放電容量を示したものである。電池は、高いクーロン効率と良好な容量保持率を示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
全固体リチウム電池の固体電解質としての用途に適したイオン伝導度を示し、及び、高い電池電圧を得ることができるように4以上のV vs. Li/Li+(「4Vクラス」の正極活物質)の酸化還元電位を有する正極活物質の適用を可能にするために、4V vs. Li/Li+、好ましくは4.5V vs. Li/Li+以上の電気化学的酸化安定性を示す、固体リチウムイオン伝導体に対するニーズが継続して存在する。
【0009】
本開示の目的は、電気化学電池の固体電解質として使用することができる固体材料を提供することである。より具体的には、本開示の目的は、電気化学電池の固体電解質として使用することができる固体材料を提供することであり、前記電気化学電池の正極は、4V vs. Li/Li+以上の酸化還元電位を有する正極活物質を含む。
【0010】
さらに、前記固体材料と正極活物質とを含む複合体、前記固体材料の調製方法、電気化学電池の固体電解質としての前記固体材料の使用、前記固体材料を含む電気化学電池の正極、負極及びセパレータからなる群から選択される固体構造体、ならびに前記固体構造体が前記固体材料を含むそのような固体構造体を有する電気化学電池が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様によれば、一般式(I)
Li3-n*xYb1-xMxXy (I)
(式中、
0.05≦x≦0.95;
5.8≦y≦6.2;
nは、MとYbの原子価の差であり;
Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される1つ以上であり;
Xは、ハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上である)
によって示される組成を有する固体材料が提供される。
【0012】
イッテルビウムは3価であるため、Mが4価の場合(Ti、Zr、Hfの場合)にはnは1となり、Mが5価の場合(Ta、Nb、Vの場合)にはnは2となる。
【0013】
一般式(I)による組成物は、リチウム遷移金属ハロゲン化物として、又はリチウム遷移金属擬ハロゲン化物(lithium transition metal pseudohalide)として考えることができる。
【0014】
本明細書で使用される場合、「擬ハロゲン化物(pseudohalides)」という用語(「擬ハロゲン化物(pseudohalogenides)」とも呼ばれる)は、一価のアニオンを示し、それはその化学に関してハロゲン化物アニオンに類似しており、したがって、そのような化合物の特性を実質的に変えることなく化学化合物のハロゲン化物アニオンを置換することができる。「擬ハロゲン化物イオン(pseudohalide ion)」という用語は、当技術分野で知られており、IUPAC Goldbookを参照されたい。擬ハロゲン化物アニオンの例としては、N3
-、SCN-、CN-、OCN-、BF4
-、BH4
-が挙げられる。一般式(I)の擬ハロゲン化物含有固体材料の場合には、擬ハロゲン化物アニオンは、好ましくはBF4
-及びBH4
-からなる群から選択される。
【0015】
一般式(I)のハロゲン化物含有固体材料の場合には、ハロゲン化物は、好ましくは、Cl、Br及びIからなる群から選択される。
【0016】
驚くべきことに、上記で定義された一般式(I)による組成を有する固体材料は、4以上のV vs. Li/Li+の酸化還元電位を有する正極活物質との接触において、また電気化学電池の典型的な電極添加物である元素炭素(例えばカーボンブラック、グラファイト)を含むか、又はそれらからなる電子伝導性材料との接触においても、電気化学的酸化安定性とともに良好なリチウムイオン伝導度を示し得ることを見いだした。これは、硫黄を含有する現在最新の固体電解質に対する重要な利点である。
【0017】
本明細書で定義される第1の態様による固体材料は、式(I)による組成を有することができ、ここでXはCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上のハロゲン化物、好ましくはClである。
【0018】
本明細書で定義される第1の態様による固体材料は、式(I)による組成を有することができ、ここで0.08≦x≦0.85、好ましくは0.1≦x≦0.8、より好ましくは0.12≦x≦0.65、最も好ましくは0.15≦x≦0.6である。
【0019】
本明細書で定義される第1の態様による固体材料は、式(I)による組成を有することができ、ここで5.85≦y≦6.15、より好ましくは5.9≦y≦6.1、最も好ましくは5.95≦y≦6.05である。
【0020】
より具体的には、本明細書で定義される第1の態様による固体材料は、式(I)による組成を有することができ、ここで0.08≦x≦0.85、好ましくは0.1≦x≦0.8、より好ましくは0.12≦x≦0.65、最も好ましくは0.15≦x≦0.6、ならびに5.85≦y≦6.15、好ましくは5.9≦y≦6.1、最も好ましくは5.95≦y≦6.05である。
【0021】
さらに具体的には、本明細書で定義される第1の態様による固体材料は、式(I)による組成を有することができ、ここで
- Xは、Cl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上のハロゲン化物であり、好ましくはClであり;そして
- 0.05≦x≦0.95、より具体的には0.08≦x≦0.85、好ましくは0.1≦x≦0.8、より好ましくは0.12≦x≦0.65、最も好ましくは0.15≦x≦0.6;及び
- 5.8≦y≦6.2、より具体的には5.85≦y≦6.15、好ましくは5.9≦y≦6.1、最も好ましくは5.95≦y≦6.05である。
【0022】
あるの場合には、本明細書で定義される第1の態様による固体材料は、X線回折技術によって検出可能な結晶性であることができる。固体材料は、そのX線回折パターンで明確に定義された反射の存在によって示されるように、結晶に特徴的な長距離秩序を示す場合に、結晶性であると呼ばれる。この場合、反射の強度がバックグラウンドの10%を超えて高い場合に、その反射は明確に定義されるとみなされる。
【0023】
上記で定義された第1の態様による固体材料は、単一相又は2つ以上の相、例えば主相(一次相)及び微量の不純物及び二次相からなることができる。式(I)は、元素分析の手段によって決定可能な経験式(総式)であることが理解される。したがって、式(I)は、固体材料中に存在する全ての相について平均化された組成を規定する。しかし、上記で定義された第1の態様による固体材料は、式(I)による組成を有する少なくとも1つの相を含む。上記で定義された第1の態様による結晶性固体材料が1つより多い相を含む場合、そのように式(I)による組成を有しない相(例えば、不純物相、二次相)の質量分率は、非常に小さいため、全ての相にわたって平均された組成は式(I)に従う。二次相及び不純物相の総質量分率は、固体材料の総質量に基づいて、20%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下であり得る。
【0024】
存在する場合、二次相及び不純物相は、主に、固体材料を調製するために使用される前駆体、例えばLiX及びMX3(ここで、X及びMは上記定義の通り)、及び時には前駆体の不純物に由来し得る不純物相からなる。上記で定義された第1の態様による固体材料の調製の詳細については、本開示の第2の態様の態様で以下に提供される情報を参照されたい。
【0025】
ある特定の場合には、上記で定義された第1の態様による固体材料は、多結晶粉末の形態、又は単結晶の形態である。
【0026】
本明細書で定義される第1の態様による結晶性固体材料は、空間群Pnmaの斜方晶構造、及び空間群P-3m1の三方晶構造から選択される構造を有する1つ以上の結晶相を含むか、又はそれらからなることができる。
【0027】
ある特定の場合には、本明細書で定義される第1の態様による固体材料は、ガラス質、すなわち非晶質である。固体材料は、X線回折パターンにおいて明確に定義された反射がないことによって示されるように、結晶の特徴である長距離秩序がない場合に非晶質(アモルファス)であると呼ばれる。この文脈では、反射の強度はバックグラウンドより10%を超えて高ければ、明確に定義されるとみなされる。
【0028】
ある特定の場合には、本明細書で定義される第1の態様による固体材料は、ガラスセラミックス、すなわち少なくとも30体積%のガラス質相を有する多結晶固体である。
【0029】
本明細書で定義される第1の態様による固体材料の第1の群は、式(I)による組成を有し、ここで、Xは上記で定義された通りであり;MはTi、Zr及びHfのうちの1つ以上である。前記第1群の固体材料において、Mは4価の金属、nは1である。したがって、前記第1群の固体材料は、式(Ia)
Li3-xYb1-xMxXy (Ia)
(式中、
Mは、Ti、Zr、及びHfからなる群から選択される1つ以上であり;
Xは、ハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上であり;
0.05≦x≦0.95;
5.8≦y≦6.2である)
による組成を有する。
【0030】
上記で定義された第1群の固体材料は、式(Ia)による組成を有することができ、ここで、XはCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上のハロゲン化物である。さらに具体的には、上記で定義された第1群の固体材料は、式(Ia)による組成を有することができ、ここでXはClである。
【0031】
上記で定義された第1群の固体材料は、式(Ia)による組成を有することができ、ここで、MはZrである。より具体的には、上記で定義された第1群の固体材料は、式(Ia)による組成を有することができ、ここで、MはZrであり、XはCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上のハロゲン化物であり、好ましくはClである。
【0032】
上記で定義された第1群の固体材料は、式(Ia)による組成を有することができ、ここで0.08≦x≦0.85、好ましくは0.1≦x≦0.8、より好ましくは0.12≦x≦0.65、最も好ましくは0.15≦x≦0.6の組成である。
【0033】
上記で定義された第1群の固体材料は、式(Ia)による組成を有することができ、ここで、5.85≦y≦6.15、より好ましくは5.9≦y≦6.1、最も好ましくは5.95≦y≦6.05である。
【0034】
より具体的には、上記で定義された第1群の固体材料は、式(Ia)による組成を有することができ、ここで0.08≦x≦0.85、好ましくは0.1≦x≦0.8、より好ましくは0.12≦x≦0.65、最も好ましくは0.15≦x≦0.6、及び5.85≦y≦6.15、より好ましくは5.9≦y≦6.1、最も好ましくは5.95≦y≦6.05である。
【0035】
上記で定義された第1群の特定の固体材料は、式(Ia)による組成を有することができ、ここで、MはZrであり、XはClであり、0.05≦x≦0.95、より具体的には0.08≦x≦0.85、好ましくは0.1≦x≦0.8、より好ましくは0.12≦x≦0.65、最も好ましくは0.15≦x≦0.6であり、及び5.8≦y≦6.2、より具体的には5.85≦y≦6.15、好ましくは5.9≦y≦6.1、最も好ましくは5.95≦y≦6.05である。
【0036】
式(Ia)による固体材料(MはZr、XはClであり、xは<0.1、yは式(Ia)について上記で定義された通り)は、親化合物Li3YbCl6のようにP-3m1空間群で結晶相を示す。より多くのYb3+イオンがZr4+イオン(0.1≦x<0.3)で置換されると、斜方晶の対称性(Pnma空間群)を有する第2の結晶相が出現する。x≧0.3の場合、異なる斜方晶の対称性(Pnma空間群)を有する前記第2の結晶相が主に存在する。
【0037】
本明細書で定義される第1の態様による固体材料の第2の群は、式(I)による組成を有し、ここで、Xは上記で定義された通りであり;MはV、Nb及びTaのうちの1つ以上である。前記第2群の固体材料において、Mは5価の金属であるため、nは2である。したがって、前記第2群の固体材料は、式(Ib)
Li3-2xYb1-xMxXy (Ib)
(式中、
Mは、V、Nb及びTaからなる群から選択される1つ以上であり;
Xは、ハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上であり;
0.05≦x≦0.95;
5.8≦y≦6.2である)
による組成を有する。
【0038】
上記で定義された第2群の固体材料は、式(Ib)による組成を有することができ、ここで、XはCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上のハロゲン化物である。さらに具体的には、上記で定義された第2群の固体材料は、式(Ib)による組成を有することができ、ここで、XはClである。
【0039】
上記で定義された第2群の固体材料は、式(Ib)による組成を有することができ、ここで、MがNb及びTaの一方又は両方である。より具体的には、上記で定義された第2群の固体材料は、式(Ib)による組成を有することができ、ここで、MはNb及びTaの一方又は両方であり、XはCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上のハロゲン化物であり、好ましくはClである。
【0040】
上記で定義された第2群の固体材料は、式(Ib)による組成を有することができ、ここで、0.08≦x≦0.85、好ましくは0.1≦x≦0.8、より好ましくは0.12≦x≦0.65、最も好ましくは0.15≦x≦0.6である。
【0041】
上記で定義された第2群の固体材料は、式(Ib)による組成を有することができ、ここで、5.85≦y≦6.15、より好ましくは5.9≦y≦6.1、最も好ましくは5.95≦y≦6.05である。
【0042】
より具体的には、上記で定義された第2群の固体材料は、式(Ib)による組成を有することができ、ここで、0.08≦x≦0.85、好ましくは0.1≦x≦0.8、より好ましくは0.12≦x≦0.65、最も好ましくは0.15≦x≦0.6、及び、5.85≦y≦6.15、好ましくは5.9≦y≦6.1、最も好ましくは5.95≦y≦6.05である。
【0043】
上記で定義された第2群の固体材料は、式(Ib)による組成を有することができ、ここで、MはNb又はTaであり、XはClであり、0.05≦x≦0.95、より具体的には、0.08≦x≦0.85、好ましくは0.1≦x≦0.8、より好ましくは、0.12≦x≦0.65、最も好ましくは、0.15≦x≦0.6であり、また、5.8≦y≦6.2、より具体的には、5.85≦y≦6.15、好ましくは5.9≦y≦6.1、最も好ましくは、5.95≦y≦6.05である。
【0044】
本明細書で定義される第1の態様による固体材料は、25℃の温度で、それぞれの場合に、0.1mS/cm以上、好ましくは0.5S/cm以上、より好ましくは1mS/cm以上のイオン伝導度を有し得る。イオン伝導度は、固体電池材料開発の分野で知られている通常の方法で、電気化学インピーダンス分光法によって決定される(詳細については、以下の実施例のセクションを参照)。
【0045】
同時に、本明細書で定義される第1の態様による固体材料は、ほとんど無視できる電子伝導度を有することができる。より具体的には、電子伝導度は、イオン伝導度よりも少なくとも3桁低く、好ましくはイオン伝導度よりも少なくとも5桁低くてよい。ある特定の場合には、本明細書で定義される第1の態様による固体材料は、10-10S/cm以下の電子伝導率を示す。電子伝導度は、異なる電圧での直流(DC)分極測定によって、電池材料開発の分野で知られている通常の方法で決定される。
【0046】
本明細書で定義される第1の態様による好ましい固体材料は、上記に開示された具体的かつ好ましい特徴のうちの1つ以上を有するものである。
【0047】
第2の態様によれば、上記で定義された第1の態様による固体材料を得るための方法が提供される。前記方法は、以下の方法ステップ:
(a)以下の前駆体
(1)Liのハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上の化合物と;
(2)Ybのハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上の化合物と;
(3)Ti、Zr、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される元素Mのハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上の化合物と;
を提供するステップであって、
前記反応混合物において、Li、Yb、M、ハロゲン化物及び擬ハロゲン化物のモル比は、一般式(I)に一致する、ステップと、
(b)一般式(I)による組成を有する固体材料を得るために、前駆体を反応させるステップと、を含む。
【0048】
上記で定義された第2の態様による方法のステップa)において、ステップb)で形成されるべき反応生成物のための前駆体を含む反応混合物が提供される。前記前駆体は
(1)1つ以上の化合物LiX;及び
(2)1つ以上の化合物YbX3;及び
(3)以下の
- MがTi、Zr及びHfからなる群から選択される化合物MX4;及び
- MがV、Nb及びTaからなる群から選択される化合物MX5;からなる群から選択される1つ以上の化合物、であって
ここで、前駆体(1)~(3)のそれぞれにおいて、他の前駆体とは独立して、Xは、ハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上であり;
Li、Yb、M及びXのモル比は、一般式(I)に一致する。
【0049】
好ましくは、反応混合物は、上記で定義された前駆体(1)、(2)及び(3)からなる。
【0050】
ある場合には、前駆体(1)~(3)のそれぞれにおいて、他の前駆体とは独立して、XはCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上である。好ましくは前駆体(1)~(3)のそれぞれにおいてXは同じであり、好ましくはClである。
【0051】
上記で定義された第2の態様によるある方法では、前駆体(3)は、化合物MX4からなる群からの1つ以上の化合物であり、ここで、MはTi、Zr及びHfからなる群から選択され、Xは上記で定義された通りである。このような方法は、上記で定義された一般式(Ia)による組成を有する固体材料を調製するために適切である。
【0052】
このように、一般式(Ia)による組成を有する固体材料の適切な前駆体は
(1)1つ以上の化合物LiX;及び
(2)1つ以上の化合物YbX3;及び
(3)MはTi、Zr及びHfからなる群から選択され、好ましくはZrである化合物MX4、からなる群からの1つ以上の化合物;であって
ここで、前駆体(1)~(3)はそれぞれにおいて、他の前駆体とは独立して、Xは、ハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上であり;
Li、Yb、M及びXのモル比は、一般式(Ia)に一致する。
【0053】
好ましくは、反応混合物は、上記で定義された前駆体(1)、(2)及び(3)からなる。
【0054】
ある場合には、前駆体(1)~(3)のそれぞれにおいて、他の前駆体とは独立して、XはCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上である。好ましくは前駆体(1)~(3)のそれぞれにおいて、Xは同じであり、好ましくはClである。
【0055】
ある態様では、前駆体(3)において、MはZrである。
【0056】
具体的には、前駆体(1)~(3)のそれぞれにおいて、他の前駆体とは独立して、XはCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上であり、前駆体(3)において、MはZrである。さらに具体的には、前駆体(1)~(3)のそれぞれにおいて、XはClであり、前駆体(3)において、MはZrである。
【0057】
上記で定義された第2の態様によるある方法では、前駆体(3)は、化合物MX5からなる群から選択される1つ以上の化合物であり、ここでMは、V、Nb及びTaからなる群から選択され、Xは上記で定義された通りである。このような方法は、上記で定義された一般式(Ib)による組成を有する固体材料を調製するのに適している。
【0058】
このように、一般式(Ib)による組成を有する固体材料の適切な前駆体は
(1)1つ以上の化合物LiX;及び
(2)1つ以上の化合物YbX3;及び
(3)MがV、Nb及びTaからなる群から選択される化合物MX5からなる群から選択される1つ以上の化合物;であって
ここで、前駆体(1)~(3)はそれぞれにおいて、他の前駆体とは独立して、Xは、ハロゲン化物及び擬ハロゲン化物からなる群から選択される1つ以上であり;
Li、Yb、M及びXのモル比は、一般式(Ib)に一致する。
【0059】
好ましくは、反応混合物は、上記で定義された前駆体(1)、(2)及び(3)からなる。
【0060】
ある場合には、前駆体(1)~(3)のそれぞれにおいて、他の前駆体とは独立して、XはCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上である。好ましくは前駆体(1)~(3)のそれぞれにおいてXは同じであり、好ましくはClである。
【0061】
ある場合には、前駆体(3)において、Mは、Nb及びTaの一方又は両方である。
【0062】
ある特定の場合には、前駆体(1)~(3)のそれぞれにおいて、他の前駆体とは独立して、XはCl、Br及びIからなる群から選択される1つ以上であり、前駆体(3)において、MはTa又はNbである。さらに具体的には、前駆体(1)~(3)のそれぞれにおいて、XはClであり、前駆体(3)において、MはTa又はNbである。
【0063】
上記で定義された第2の態様による方法は、熱化学的固体方法であってく、又は溶液ベースの方法(溶液ベースの合成)であってよい。
【0064】
上記で定義されたた第2の態様による熱化学的固体方法は、以下のステップ
(a1)前駆体(1)、(2)及び(3)を含む固体反応混合物を調製又は提供するステップと、
(b1)反応生成物が形成されるように、300℃から650℃の温度範囲で5時間から50時間の合計時間で反応混合物を熱処理し、一般式(I)による組成を有する固体材料が得られるように、反応生成物を冷却するステップと、
を含む。
【0065】
上記で定義された熱化学的固体方法のステップ(a1)において、固体反応混合物は、前駆体を混合することによって得ることができる。前駆体の混合は、前駆体を一緒に粉砕する手段によって実施することができる。粉砕は、任意の適切な手段を用いて行うことができる。
【0066】
ステップ(a1)で調製又は提供される反応混合物は、ペレットに形成されることができ、これをステップ(b1)で熱処理する。その後、ペレット又は塊の形態の固体材料が得られ、これは、さらなる処理のために粉末状に粉砕され得る。
【0067】
ステップ(a1)において、いかなる取り扱い操作も保護ガス雰囲気下で行われることは有用である。
【0068】
上記で定義された第2の態様による方法のステップ(b1)では、反応混合物を反応させ、その結果、一般式(I)による組成を有する固体材料が得られるようにしてよい。言い換えれば、ステップ(b1)では、反応混合物中の前駆体が互いに反応して、一般式(I)による組成を有する固体材料が得られる。
【0069】
方法ステップ(a1)で調製された反応混合物は、前駆体の反応を可能にするために方法ステップ(b1)で熱処理される。前記反応は、実質的に固体反応であると考えられ、すなわち、固体状態の反応混合物で起こる。
【0070】
熱処理は、密閉容器内で行うことができる。密閉容器は、密閉石英管、又は熱処理の温度に耐えることができ、かつ前駆体のいずれとも反応しない任意の他のタイプの容器、例えばガラス質炭素るつぼ又はタンタルるつぼなどでもよい。
【0071】
ステップ(b1)では、反応混合物を、300℃から650℃の温度範囲で、5時間から50時間の合計時間にわたって熱処理し、反応生成物が形成することができる。より具体的には、ステップ(b1)では、反応混合物を、350℃から650℃の温度範囲で、5時間から15時間の合計時間にわたって熱処理することができる。ステップ(b1)における熱処理は、真空下又は保護ガス雰囲気下で実施することができる。
【0072】
ステップ(b1)の熱処理の時間が終了すると、形成された反応生成物を冷却させる。こうして、一般式(I)による組成を有する固体材料を得る。反応生成物の冷却は、好ましくは、1分間に1~10℃の冷却速度で行われる。
【0073】
上記で定義された第2の態様による溶液ベースの方法は、以下のステップ
(a2)前駆体(1)、(2)及び(3)を、エーテル、H2O、アルコールCnH2n+1OH(ここで、1≦n≦20)、ギ酸、酢酸、ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、ピリジン、ニトリル、N-メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、アセトン、酢酸エチル、ジメトキシエタン、1,3-ジオキソラン、アルキレンカーボネートからなる群から選択される溶媒中に溶解させることによって液体反応混合物を調製又は提供するステップと;
(b2)固体残渣が得られるように液体反応混合物から溶媒を除去し、反応生成物が形成されるように固体残渣を100℃から300℃の温度範囲で4時間から24時間の合計時間で熱処理し、一般式(I)による組成を有する固体材料が得られるように反応生成物を冷却ステップと、
を含む。
【0074】
溶液ベースの方法のステップ(a2)では、上記の前駆体(1)、(2)及び(3)を、エーテル、H2O、アルコールCnH2n+1OH(1≦n≦20)、ギ酸、酢酸、ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、ピリジン、ニトリル、ジメチルスルホキシド、アセトン、酢酸エチル、ジメトキシエタン、1,3-ジオキソラン、N-メチルピロリジノン、アルキレンカーボネートからなる群から選択される溶媒中に溶解させることによって液体反応混合物を調製がされる。前記群から選択される2つ以上の溶媒の混合物も可能である。好ましい溶媒は、エーテル、1≦n≦6のアルコール、ピリジンである。
【0075】
溶液ベースの方法のステップ(a2)で調製される液体反応混合物は、エーテル、H2O、アルコールCnH2n+1OH(1≦n≦20)、ギ酸、酢酸、ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、ピリジン、ニトリル、ジメチルスルホキシド、アセトン、酢酸エチル、ジメトキシエタン、1,3ジオキソラン、N-メチルピロリジノン及びアルキレンカーボネートからなる群から選択される溶媒中の上記で定義された前駆体(1)、(2)及び(3)の溶液の形態である。前記群から選択される2つ以上の溶媒の混合物も可能である。好ましい溶媒は、エーテル、1≦n≦6のアルコールCnH2n+1OH、ピリジンである。
【0076】
溶液ベースの方法のステップ(a2)で調製された液体反応混合物中の前駆体(1)、(2)及び(3)の合計含有量は、液体反応混合物の総質量(全ての前駆体と溶媒の質量の合計)に基づいて、1%~80%の範囲、好ましくは3%~30%の範囲である。
【0077】
溶液ベースの方法は、前駆体(1)、(2)及び(3)の、又は混合物の機械化学的粉砕(すなわち、反応性粉砕)を伴わない。
【0078】
本明細書に記載の方法による溶液ベースの合成は、前駆体の親密な混合を提供し、対応する材料の純粋な熱化学合成において適用される熱処理と比較して、溶液ベースの方法のステップ(b2)における後続の熱処理の温度及び/又は期間を潜在的に低減することが現在のところ想定されている。
【0079】
溶液ベースの方法のステップ(a2)では、好ましくは、いかなる取り扱い操作も保護ガス雰囲気下で行われる。
【0080】
溶液ベースの方法のステップ(b2)では、液体反応混合物は、固体残渣が得られるように溶媒を除去し、その後固体残渣の熱処理(焼結)を行うことによって、一般式(I)による固体材料に移行する。
【0081】
溶液ベースの方法のステップ(b2)では、溶媒の除去は、好ましくは、動的真空下(反応容器からの溶媒の蒸気の連続除去)で0℃から100℃、好ましくは20℃から40℃の範囲の温度で溶液を減圧(標準圧力101.325kPaに対して)することによって達成される。
【0082】
溶液ベースの方法のステップ(b2)では、溶媒を除去した後、得られた残渣の熱処理は、好ましくは、密閉容器内で、1~12時間、より好ましくは4~8時間の時間、100℃から300℃までの範囲、さらに好ましくは100℃から250℃までの範囲、最も好ましくは100℃から200℃までの範囲の温度で行われる。
【0083】
溶液ベースの方法のステップ(b2)の熱処理は、真空下又は保護ガス雰囲気下で実施される。
【0084】
必要に応じて、上記のような本発明による溶液ベースの方法によって得られた固形材料を粉砕して粉末にする。
【0085】
本明細書で定義される第2の態様による好ましい方法は、上記に開示された1つ以上の具体的な特徴を有するものである。
【0086】
第3の態様によれば、
- 上記で定義された第1の態様による固体材料、又は上記で定義された第2の態様による方法によって得られた固体材料と、
- 正極活物質と、
を含む複合体が提供される。
【0087】
本開示の文脈では、電気化学電池の放電時に正味の正電荷が発生する電気化学電池の電極を正極(カソード)と呼び、正極の還元によって前記正味の正電荷が発生する正極の成分を「正極活物質」と呼ぶ。
【0088】
上記で定義された複合体において、上記で定義された第1の態様による固体材料、又は上記で定義された第2の態様による方法によって得られた固体材料は、Li+イオン(リチウムイオン)に対して伝導性を有する固体電解質として機能する。
【0089】
好ましい正極活物質は、4以上のV vs. Li/Li+の酸化還元電位を有する正極活物質(「4Vクラス」の正極活物質)であり、高い電池電圧を得ることを可能にする。このような正極活物質のいくつかは、当技術分野で知られている。
【0090】
好ましい正極活物質は、一般式(II)
Li1+t[CoxMnyNizMu]1-tO2 (II)
(式中、
0≦x≦1
0≦y≦1
0≦z≦1
0≦u≦0.15
存在する場合、Mは、Al、Mg、Ba、B、及びNi、Co、Mn以外の遷移金属からなる群から選択される1つ以上の元素であり、
x+y+z>0
x+y+z+u=1
-0.05≦t≦0.2)
による組成を有する材料からなる群から選択される。
【0091】
式(II)による特定の正極活物質において、Mは、Al、Mg、Ti、Mo、Nb、W及びZrのうちの1つであり得る。式(II)の例示的な正極活物質は、Li1+t[Ni0.88Co0.08Al0.04]1-tO2,Li1+t[Ni0.905Co0.0475Al0.0475]1-tO2,及びLi1+t[Ni0.91Co0.045Al0.045]1-tO2(ここでそれぞれの場合において-0.05≦t≦0.2)である。
【0092】
適切な正極活物質は、例えば、リチウムと、ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群の1つ以上の構成員とを含む酸化物である。それらの正極活物質は、一般式(IIa):
Li1+t[CoxMnyNiz]1-tO2 (IIa)
(式中、
0≦x≦1
0≦y≦1
0≦z≦1
x+y+z=1
-0.05≦t≦0.2)
による組成を有する。
【0093】
好ましくは、一般式(IIa)による正極活物質は、リチウムと、ニッケル及びマンガンのうちの少なくとも1つとの混合酸化物である。より好ましくは、正極活物質は、リチウムと、ニッケルと、コバルト及びマンガンからなる群のうちの1つ又は両方の構成員との混合酸化物である。
【0094】
式(IIa)による例示的な正極活物質は、LiCoO2,Li1+t[Ni0.85Co0.10Mn0.05]1-tO2,Li1+t[Ni0.87Co0.05Mn0.08]1-tO2,Li1+t[Ni0.83Co0.12Mn0.05]1-tO2,及びLi1+t[Ni0.6Co0.2Mn0.2]1-tO2(NCM622)及びLiNi0.5Mn1.5O4(ここでそれぞれの場合において-0.05≦t≦0.2)である。
【0095】
上記で定義された第1の態様による固体材料と組み合わせて使用され得る例示的な正極活物質は、式(IIb):
Li1+tA1-tO2(IIb)、
(式中、
Aはニッケルと、
コバルト及びマンガンからなる群のうちの1つ又は両方の構成員との混合酸化物を含み、任意に
- ニッケル、コバルト及びマンガンからなる群から選択されない1つ以上のさらなる遷移金属であって、ここで、前記さらなる遷移金属は、好ましくはモリブデン、チタン、タングステン、ジルコニウムからなる群から選択される、遷移金属、
- アルミニウム、バリウム、ホウ素及びマグネシウムからなる群から選択される1つ以上の元素を含み、
ここで、Aの遷移金属のうち、少なくとも50モル%がニッケルであり;
tは、-0.05から0.2の範囲の数値である)
の化合物である。
【0096】
式(IIb)による組成を有する適切な正極活物質は、WO2020/249659A1に記載されている。
【0097】
上記で定義された第1の態様による固体材料と組み合わせて使用され得る式(IIb)の例示的な正極活物質は、Li1+t[Ni0.85Co0.10Mn0.05]1-tO2,Li1+t[Ni0.87Co0.05Mn0.08]1-tO2,Li1+t[Ni0.83Co0.12Mn0.05]1-tO2,Li1+t[Ni0.6Co0.2Mn0.2]1-tO2,Li1+t[Ni0.88Co0.08Al0.04]1-tO2,Li1+t[Ni0.905Co0.0475Al0.0475]1-tO2,及びLi1+t[Ni0.91Co0.045Al0.045]1-tO2(ここでそれぞれの場合において-0.05≦t≦0.2)である。
【0098】
上記で定義された複合体では、正極活物質及び上記で定義された第1の態様による固体材料を互いに混和することができる。より具体的には、本明細書で定義される第3の態様による複合体では、正極活物質及び上記で定義された第1の態様による固体材料は、互いに、及び1つ以上の結合剤及び/又は1つ以上の電子伝導性材料と混和されることができる。典型的な電子伝導性材料は、元素炭素、例えば、カーボンブラック、グラファイト及びカーボンナノファイバーを含むか、それらからなる。典型的な結合剤には、ポリ(ビニリデンフルオロライド)(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリイソブテン、ポリ(エチレンビニルアセテート)、ポリ(アクリロニトリルブタジエン)などが挙げられる。
【0099】
本明細書で定義される複合体は、コーティング粒子状材料の形態であってよい。前記コーティング粒子状材料は、
C1)各コア粒子が少なくとも1つの正極活物質を含む、複数のコア粒子と;
C2)コア粒子の表面上に配置されたコーティングであって、
- 炭酸アニオン
- 及び、上記で定義された一般式(I)による組成を有する少なくとも1つの固体材料とを含む、コーティング、
を含む。
【0100】
コーティング粒子状材料において、コーティングC2)は、コーティング粒子状材料に存在するコア粒子C1)の少なくとも一部の表面に配置され、好ましくは、コア粒子C1)の総数の50%超の表面に、より好ましくはコア粒子C1)の総数の75%以上の表面に、さらにより好ましくはコア粒子C1)の総数の90%以上の表面に、もっとよりさらに好ましくはコア粒子C1)の総数の95%以上の表面に配置される。本開示の目的のために、コーティングC2)が表面に配置されているコア粒子C1)の部分は、コーティング粒子状材料の代表的なサンプルに対して行われる電子顕微鏡検査によって決定されることができる。
【0101】
コーティング粒子状材料acにおいて、コーティングC2)は、(個々の)コア粒子C1)の表面の少なくとも一部に配置され、好ましくはコア粒子C1)の全表面の50%超に配置され、より好ましくはコア粒子C1)の全表面の75%以上に、さらに好ましくはコア粒子C1)の全表面の90%以上に配置される。本開示の目的のために、コーティングC2)が配置されるコア粒子C1)の表面の部分は、コーティング粒子状材料の(個々の)コーティングされた粒子の(代表的な)サンプル又はコーティング粒子状材料の(代表的な)サンプルに対して行われる電子顕微鏡検査によって決定されることができる。
【0102】
コーティング粒子状材料において、コーティングC2)中に存在するリチウムは、好ましくは、上記の一般式(I)による組成を有する固体材料及び炭酸リチウム(Li2CO3)の一部として存在する。好ましくは、コーティングC2)中に存在するリチウムの総量は、上記の一般式(I)による組成を有する固体材料及び炭酸リチウム(Li2CO3)の部分として存在する。
【0103】
コーティング粒子状材料において、コーティングC2)は、複数のコーティングされていないコア粒子C1)の総質量に対して、いずれの場合も、≧0.12%、又は≧0.15%の総量で炭酸アニオンを含むことができる。より具体的には、コーティングC2)は、複数のコーティングされていないコア粒子C1)の総質量に対して、0.12%~3.0%、好ましくは0.15%~2.5%、より好ましくは0.15%~2.0%、さらにより好ましくは0.15%~1.0%の範囲の総量で炭酸アニオンを含むことができる。コーティングC2)中の炭酸リチウムの含有量が多すぎると、リチウムイオン伝導度が低下し得る。
【0104】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、現時点では、コア粒子C1)の表面に存在する炭酸塩は、正極活物質が微量の二酸化炭素及び湿度の存在下で調製又は保存された場合に生成される、正極活物質の不可避的不純物に起因し、及び/又は、特定の場合には、正極活物質の合成のための前駆体として炭酸リチウムを使用したことに起因し、及び/又は、空気中又は酸素中でコーティング粒子状物質(詳細は下記参照)を調製する際に使用される液体反応混合物の有機溶媒の分解、及び正極活物質の粒子表面の残留リチウムとの反応性に起因する、と考えられている。
【0105】
本明細書に記載のコーティング粒子状材料において、コーティングC2)中に存在する炭酸イオンの少なくとも一部は、イオン性化合物の一部として、例えば、塩の一部として存在し得る。ここで、コーティングC2)中に存在する炭酸イオンの少なくとも一部、好ましくはコーティングC2)中に存在する炭酸イオンの総量は、炭酸リチウムとして存在する。
【0106】
本開示の目的のために、コーティングC2)中に存在する炭酸イオンの量は、質量分析と組み合わせた酸滴定によって、より好ましくは、コーティング粒子状材料の代表的なサンプルで行われ、WO2020/249659A1の実施例のセクションで定義される方法に従って決定され得る。
【0107】
コーティングC2)の厚さは、1nmから1μmの範囲、好ましくは1nmから50nmの範囲であってよい。
【0108】
ある場合には、本明細書に記載のコーティング粒子状材料は、
C1)各コア粒子が少なくとも1つの正極活物質、好ましくは、上記で定義された一般式(II)による組成を有する少なくとも1つの正極活物質を含む、複数のコア粒子と;
C2)コア粒子の表面上に配置されたコーティングであって、
- 炭酸アニオン、好ましくは炭酸リチウム;
- 及び、上記で定義された一般式(I)による、好ましくは上記で定義された一般式(Ia)による組成を有する少なくとも1つの固体材料と
を含む、コーティング、
を含むか、又はそれらからなる。
【0109】
上記で定義されたコーティング粒子状材料を調製するための方法は、以下のステップ
(i)第2の態様の文脈で上述した溶液ベースの方法のステップ(a2)のように、液体反応混合物を調製又は提供するステップと、
(ii)各コア粒子が少なくとも1つの正極活物質を含む、複数のコア粒子C1)を調製又は提供するステップと、
(iii)コア粒子C1)及び液体反応混合物を互いに接触させるステップと、
(iv)固体残渣が得られるように液体反応混合物の溶媒を除去し、上記で定義されたようなコーティング粒子状材料が得られるように、固体残渣を100℃から300℃の温度範囲で、4時間から12時間の合計時間で熱処理をするステップと、
を含む。
【0110】
液体反応混合物の調製(ステップ(i))は、第2の態様の溶液ベースの方法の文脈で上に開示されたように実施される。液体反応混合物の調製のための好ましい特定の前駆体に関しては、本開示の第2の態様の文脈で上に提供された開示が参照される。液体反応混合物を調製するための好ましい特定の溶媒に関しては、本開示の第2の態様の溶液ベースの方法について上記で提供された開示を参照されたい。
【0111】
少なくとも1つの正極活物質を含む(ステップ(ii))、好ましくは少なくとも1つの正極活物質からなるコア粒子C1)を調製する方法は、当該技術分野において既知である。少なくとも1つの正極活物質を含む、又はそれからなる、コア粒子C1)は、市販されている。好ましい特定の正極活物質については、上記を参照されたい。
【0112】
上記で定義されたコーティング粒子状材料を調製するための方法のステップ(iii)では、コア粒子C1)及び液体反応混合物は、任意の適切な技術によって、例えば混合及び/又は噴霧によって互いに接触させることができる。改善されたされた又は完成された接触のために、例えば混合物又はゲルの調製を完了するために、好ましくは15℃から30℃の範囲の温度で、15分から60分の範囲の時間、超音波処理を使用することができる。
【0113】
上記で定義されたコーティング粒子状材料を調製するための方法のステップ(iv)では、液体反応混合物(ステップ(i)で調製したもの)の溶媒の除去は、好ましくは、0℃から100℃の範囲、好ましくは20℃から40℃の温度で減圧(標準圧力101.325kPaに対して)することによって達成される。
【0114】
ステップ(iv)において、固体残渣を熱処理することは、固体残渣を焼成することを含んでよい。ステップ(iv)における熱処理は、二酸化炭素、酸素、空気、窒素、N2O又はアルゴンの存在下で実施することができる。
【0115】
ステップ(iv)では、固体残渣は、熱処理の前に粉砕されてよい。
【0116】
上記で定義されたコーティング粒子状材料を調製するための方法は、一般式(I)による組成を有する固体材料の溶液ベース合成(本開示の第2の態様の文脈で上述したように)と、溶液ベース合成によって得られる一般式(I)による組成を有する前記固体材料を含むコーティングC2)で正極活物質を含むコア粒子C1)をコーティングすることと、の組み合わせと考えることができると理解される。言い換えれば、上記で定義されたコーティング粒子状材料を調製するための方法において、一般式(I)による組成を有する固体材料の溶液ベース合成(本開示の第2の態様の文脈で上述したように)は、液体反応混合物中の正極活物質を含むコア粒子C1)の存在下で実施される。したがって、一般式(I)による組成を有する固体材料の溶液ベースの合成(本開示の第2の態様の文脈で上述したように)は、正極活物質を含むコア粒子C1)上のコーティングC2)の一部として、このような固体材料を直接形成することを可能にする。
【0117】
上記で定義された第3の態様による複合体は、電気化学電池のための正極(カソード)を調製するために使用され得る。
【0118】
上記で定義された第3の態様による複合体は、電気化学電池の正極(カソード)に使用されることができる。
【0119】
電気化学的な酸化安定性に優れるため、本開示の第1の態様による固体材料(上記に定義した)は、4以上、好ましくは4.5以上のV vs.Li/Li+の酸化還元電位を有する正極活物質と直接接触する固体電解質として適用されることができる。正極活物質の放電時、固体電解質の酸化副反応は実質的に発生しない。
【0120】
これは、電気化学電池の構成の適用が可能になり得るため重要な利点であり、正極活物質は、上記で定義された第1の態様による固体材料の形態の固体電解質と直接接触し、その結果、正極活物質と固体電解質との間の保護層を省略することができる。そのため、電気化学電池の構成及びその製造方法の複雑さが軽減され、また、保護層によって必然的に導入される追加のオーミック抵抗が省略される。
【0121】
本明細書で定義された第3の態様による好ましい複合体は、上記で開示された特定かつ好ましい特徴のうちの1つ以上を有するものである。
【0122】
上記で定義された第1の態様による固体材料、又は上記で定義された第2の態様による方法によって得られた固体材料は、電気化学電池のための固体電解質として使用され得る。ここで、固体電解質は、電気化学電池のための固体構造体の構成要素を形成することができ、前記固体構造体は、正極、負極及びセパレータからなる群から選択される。したがって、上記で定義された第1の態様による固体材料、又は上記で定義された第2の態様による方法によって得られた固体材料は、単独で、又は正極、負極又はセパレータなどの電気化学電池のための固体構造体を製造するための追加の構成要素と組み合わされて、使用されることができる。固体電解質の望ましくない分解が実質的にないことは、電池の性能を著しく向上させることができる。
【0123】
したがって、本開示は、電気化学電池のための固体電解質としての、上記で定義された第1の態様による固体材料、又は上記で定義された第2の態様による方法によって得られた固体材料の使用をさらに提供する。より具体的には、本開示は、電気化学電池のための固体構造体の構成要素としての、上記で定義された第1の態様による固体材料、又は上記で定義された第2の態様による方法によって得られた固体材料の使用をさらに提供し、前記固体構造体は、正極、負極及びセパレータからなる群から選択される。
【0124】
本開示の文脈では、放電中に正味の負電荷が生じる電気化学電池の電極は負極と呼ばれ、放電中に正味の正電荷が生じる電気化学電池の電極は正極と呼ばれる。セパレータは、電気化学電池において、正極と負極を電子的に分離するものである。
【0125】
全固体電気化学電池の正極は、通常、正極活物質の他にさらなる構成要素としての固体電解質を含む。また、全固体電気化学電池の負極は、通常、負極活物質の他にさらなる構成要素としての固体電解質を含む。前記固体電解質は、上記で定義された第1の態様による固体材料、又は上記で定義された第2の態様による方法によって得られた固体材料であってよい。
【0126】
電気化学電池、特に全固体リチウム電池の固体構造体の形態は、特に製造される電気化学電池の形態そのものに依存する。
【0127】
本開示は、電気化学電池のため固体構造体をさらに提供し、固体構造体は、正極、負極及びセパレータからなる群から選択され、前記固体電解質は、上記で定義された第1の態様による固体材料、又は上記で定義された第2の態様による方法によって得られた固体材料であってよい。より具体的には、電気化学電池のための固体構造体は、上記で定義された第3の態様による複合体を有する正極であり得る。
【0128】
本開示は、さらに、上記で定義された第1の態様による固体材料、又は上記で定義された第2の態様による方法によって得られた固体材料を含む電気化学電池を提供する。前記電気化学電池において、上記で定義された第1の態様による固体材料、又は上記で定義された第2の態様による方法によって得られた固体材料は、正極、負極及びセパレータからなる群から選択される1つ以上の固体構造体の構成要素を形成し得る。より具体的には、上記で定義された電気化学電池であって、ある好ましい場合において、上記で定義された第1の態様による固体材料、又は上記で定義された第2の態様による方法によって得られた固体材料が、4以上、好ましくは4.5以上のV vs. Li/Li+の酸化還元電位を有する正極活物質と直接接触することができる、電気化学電池が提供される。
【0129】
上記で定義された電気化学電池は、以下の構成要素、
α)少なくとも1つの負極
β)少なくとも1つの正極、
γ)少なくとも1つのセパレータ、
を含み、
ここで、3つの構成要素のうち少なくとも1つが、上記で定義された第1の態様による固体材料、又は上記で定義された第2の態様による方法によって得られた固体材料を含む固体構造体(正極、負極及びセパレータからなる群から選択される)である、充電式電気化学電池であることができる。
【0130】
適切な正極活物質(電気化学的に活性な正極材料)及び適切な負極活物質(電気化学的に活性な負極材料)は、当技術分野で知られている。例示的な正極活物質は、第3の態様の文脈で上に開示されている。上述のような電気化学電池において、負極α)は、負極活物質として、黒鉛質炭素、金属リチウム、又はリチウムを含有する金属合金を含むことができる。上述のような電気化学電池は、アルカリ金属含有電池、特にリチウムイオン含有電池であってよい。リチウムイオン含有電池では、Li+イオンによって電荷移動が行われる。
【0131】
電気化学電池は、円盤状又は角柱状の形状を有することができる。電気化学電池は、スチール又はアルミニウムで作られ得るハウジングを含むことができる。
【0132】
上記のような複数の電気化学電池を組み合わせて、固体電極と固体電解質の両方を有する全固体電池とすることもできる。本開示のさらなる態様は、電池、より具体的にはアルカリ金属イオン電池、特に、上述のような少なくとも1つの電気化学電池、例えば上述のような2つ以上の電気化学電池を含むリチウムイオン電池に言及する。上述のような電気化学電池は、アルカリ金属イオン電池において、例えば直列接続又は並列接続で互いに組み合わせることができる。直列接続が好ましい。
【0133】
本明細書に記載されている電気化学電池、又は、バッテリーは、自動車、コンピュータ、パーソナルデジタルアシスタント、携帯電話、時計、ビデオカメラ、デジタルカメラ、温度計、電卓、ノートパソコンBIOS、通信機器又はリモートカーロック、及び発電所のエネルギー貯蔵装置などの定置型応用装置を製造又は操作するために使用され得る。本発明のさらなる態様は、少なくとも1つの本発明の電池又は少なくとも1つの本発明の電気化学電池を使用することによって、自動車、コンピュータ、パーソナルデジタルアシスタント、携帯電話、時計、ビデオカメラ、デジタルカメラ、温度計、電卓、ノートパソコンBIOS、通信機器、リモートカーロック、及び発電所用のエネルギー貯蔵装置などの定置型応装置を製造又は操作するための方法である。
【0134】
本開示のさらなる態様は、自動車、電気モータで動作する自転車、ロボット、航空機(例えば、ドローンを含む無人航空機)、船舶又は定置型エネルギー貯蔵装置における、上述のような電気化学電池の使用である。
【0135】
本開示は、上述のような少なくとも1つの本発明の電気化学電池を含む装置をさらに提供する。好ましいのは、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又はボートもしくは船などの水上車両などのモバイル装置である。モバイル装置の他の例は、例えばコンピュータ、特にノートパソコン、電話機、又は電動工具(例えば建設部門のもの)、特にドリル、バッテリー駆動ドライバー又はバッテリー駆動タッカーなど、携帯可能なものである。
【0136】
本発明について、以下の実施例によってさらに説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0137】
1.固体材料の調製
一般式(Ia)による組成を有する本発明の第1の態様による固体材料は、上述したような熱化学的固体方法によって調製された。表1に示される組成を得るための割合で、下記の前駆体
(1)LiCl
(2)YbCl3
(3)ZrCl4
からなる反応混合物を、アルゴン封入グローブボックス内で乳鉢と乳棒を用いて前駆体(1)、(2)及び(3)を均一に混合することによって、調製した(ステップa1)。各反応混合物を真空密閉石英管内で450℃、36時間、350℃又は650℃で加熱処理して反応させ(ステップb1)、各場合とも、得られた反応生成物を2℃/分の速度で冷却し、表1に示される一般式(I)による組成を有する粉末状の固体材料を得た。
【0138】
2.構造解析
上述のように得られた固体材料の粉末X線回折(XRD)測定は、PIXcel二次元検出器を備えたCu-Kα線を用いるPANalytical Empyrean回折計を使用することにより、室温で実施した。相同定用のXRDパターンは、アルゴン下で0.3mmのガラスキャピラリーにサンプルを封入し、デバイシェラージオメトリーで得た。
【0139】
上述のように得られた固体材料は、
図1に示されるXRDパターンから導き出せるように、多結晶であり、不純物がほとんどないか又は全くないものであった。
【0140】
図1は、350℃での熱処理によって得られた、x=0からx=0.5(下記表1参照)の範囲にわたるLi
3-xYb
1-xZr
xCl
6材料のX線回折(XRD)パターンを示したものである。Li
3YbCl
6(x=0)のXRDパターンは、これまで報告されていない三方晶構造(空間群:P-3m1)に対応する。0<x<0.1の場合は、同じ構造が優勢になると予想される。より多くのYb
3+イオンがZr
4+イオン(0.1≦x<0.3)によって置換されると、斜方晶の対称性(Pnma空間群)を有する第2の結晶相が現れ、混合物は二相性を示す。x≧0.3の場合、斜方晶の対称性(Pnma空間群)を有する前記第二の結晶相が唯一の相として存在する。
【0141】
3.イオン伝導度
ペレット形態のLi3-xYb1-xZrxCl6(0≦x≦0.8)サンプルのイオン伝導度をイオンブロッキングTi電極:Ti|Li3-xYb1-xZrxCl6|Tiを有する電池構成を用いたACインピーダンス技術によって決定した。ペレットは374MPaでプレスされた。ナイキストプロットは、MTZ-35インピーダンスアナライザー(Bio-logic)を用いて、1MHz~1Hzの周波数範囲で記録された。25℃でのリチウムイオンの伝導度と、アレニウス式
σT=ATexp(-Ea/kBT)
(ここで、σTは温度Tにおけるイオン伝導度、Tは温度(単位K)、ATは頻度因子、Eaは活性化エネルギー、kBはボルツマン定数である)に従って温度の関数として伝導度から常法により決定される活性化エネルギーと、を全ての材料について以下の表1に示す。
【0142】
【0143】
表1は、Ybの一部をZrで置換した場合、0.2≦x≦0.5付近でプラトーを通過した後、イオン伝導度が増加することを示している。YbをZrでさらに置換しても、イオン伝導度のさらなる増加はない。
【0144】
4.電気化学試験
電気化学試験には、LiCoO2(一般的な正極活物質)とLi3-xYb1-xZrxCl6(x=0.3)を80:20の質量比で混合して複合体を調製した。Li3PS4ペレット(50mg)の層上に、調製した電極複合体(10mg)を広げることによって作用電極を形成した。Li-In合金を対極として使用した。全ての組み立ては、電気化学試験を行う前に、集電体として2本のTiロッドを備えたポリ(アリール-エーテル-エーテル-ケトン)(PEEK)型(直径:10mm)内で、374MPaで加圧して行った。結果として得られる全固体電池は、(LiCoO2Li2.7Yb0.7Zr0.3Cl6の混合物)|Li3PS4|Li-In合金の構成を有する。
【0145】
上記で定義された構成を有する全固体電池のサイクリックボルタモグラムを
図2に示す。スキャン速度は1mVs
-1であった。第1スキャンでは、3.5V vs Li/Li
+以上の電圧範囲に幅広い酸化ピークが発生し、第2スキャンでは、約3.3V vs Li/Li
+から約4.7V vs Li/Li
+までの電位範囲に顕著な負極電流は発生しない。第1サイクルでは、おそらく不動態化層の形成により、Li
3PS
4と作用電極の界面が安定化し、作用電極に存在するLi
3-xYb
1-xZr
xCl
6(x=0.3)が、正極活物質LiCoO
2と接触して電気化学酸化安定性を実質的に示すことがわかる。
【0146】
図3は、(LiCoO
2及びLi
2.7Yb
0.7Zr
0.3Cl
6の混合物)|Li
3PS
4|Li-In合金の構成を有する上記で定義された全固体電池の第1(実線)及び第2(破線)の充放電プロファイル(0.1C)を示している。
【0147】
電池は、120mAhg-1を超える放電容量を示す。Li+の脱インターカレーションの前に、酸化的な副反応は起こらなかった。第2プロファイルは第1プロファイルと大きな差はなく、すなわち充電/放電はほぼ可逆的に起こる。
【0148】
図4は、異なるなCレートにおけるサイクル数の関数として充放電容量を示したものである。電池は、高いクーロン効率と良好な容量保持率を示している。
【国際調査報告】