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特表2023-545946コーティングされたカソード活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(54)【発明の名称】コーティングされたカソード活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231025BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231025BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231025BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023519238
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2021075435
(87)【国際公開番号】W WO2022063669
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】20198321.0
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ハン,チョンチー
(72)【発明者】
【氏名】松本 政俊
(72)【発明者】
【氏名】中山 潤平
(72)【発明者】
【氏名】柏木 順次
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050EA11
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Ni、及び任意にCo及びMnの少なくとも1つ、及び任意にAl、Mg及びBaから選択される少なくとも1種の元素、Ni、Co及びMn以外の遷移金属元素であり、xは0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%はNiである)による粒子状電極活物質を提供する工程と、
(b)前記粒子状電極活物質を、Al、Sbの少なくとも1種、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩又はリチウム塩、又はAl、Ga、In、又はBaの塩の化合物の水溶液又はスラリーで処理し、それによって前記粒子状電極活物質の表面にAl、Sb、B、Mo、W、Si及びPから選択される少なくとも1種の元素を堆積させる工程と、
(c)濾過によって水を除去する工程と、
(d)工程(c)から得られた固体残留物を、Al又はB又はSbの少なくとも1種の化合物、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩又はリチウム塩で処理し、それによって工程(c)から得られた前記固体残留物の表面にAl、B、Sb、Mo、W、Si及びPから選択される少なくとも1種の元素を堆積させる工程と、
(e)工程(d)から得られた残留物を熱処理する工程と
を含む、コーティングされたカソード活物質を製造する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Ni、及び任意にCo及びMnの少なくとも1つ、及び任意にAl、Mg及びBaから選択される少なくとも1種の元素、Ni、Co及びMn以外の遷移金属元素であり、xは0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%はNiである)による粒子状電極活物質を提供する工程と、
(b)前記粒子状電極活物質を、Al、Sbの少なくとも1種の化合物、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩又はリチウム塩、又はAl、Ga、In、又はBaの塩の水溶液又はスラリーで処理し、それによって前記粒子状電極活物質の表面にAl、Sb、B、Mo、W、Si及びPから選択される少なくとも1種の元素を堆積させる工程と、
(c)濾過によって水を除去する工程と、
(d)工程(c)から得られた固体残留物を、Al又はB又はSbの少なくとも1種の化合物、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩又はリチウム塩で処理し、それによって工程(c)から得られた前記固体残留物の表面にAl、B、Sb、Mo、W、Si及びPから選択される少なくとも1種の元素を堆積させる工程と、
(e)工程(d)から得られた残留物を熱処理する工程と
を含む、コーティングされたカソード活物質を製造する方法。
【請求項2】
TMが、一般式(I)

(NiaCobMnc)1-dMd (I)

(式中、aは0.6~0.99の範囲であり、
bは0又は0.01~0.2の範囲であり、
cは0~0.2の範囲であり、
dは0~0.1の範囲であり、
Mは、Al、Mg、Nb、Ta、Ti、Ge、Mo、W及びZrの少なくとも1種であり、
a+b+c=1である)
による金属の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(d)で添加される化合物が、それぞれ、工程(b)において水溶液又はスラリー中に含有される化合物とは異なる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ヘテロポリ酸が、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、タングステンケイ酸、モリブドケイ酸、及びそれらのそれぞれのアンモニウム塩及びリチウム塩から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(d)におけるAl又はB又はSbの前記化合物が、粒子状固体として添加される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(d)におけるAl又はB又はSbの前記化合物が、水溶液又はスラリーとして添加される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(e)が、300~700℃の範囲の最高温度での焼成工程を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(e)が、40~250℃の範囲の最高温度での乾燥工程を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
追加の工程(f)を含み、工程(f)が工程(a)で提供される電極活物質を水で処理すること、及びこの電極活物質を工程(b)に供する前に水を少なくとも部分的に除去することを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Ni、及び任意にCo及びMnの少なくとも1つ、及び任意にAl、Mg及びBaから選択される少なくとも1種の元素、Ni、Co及びMn以外の遷移金属元素であり、xは0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%はNiである)による粒子状電極活物質を提供する工程と、
(b)前記粒子状電極活物質を、Al、Sb又はBの少なくとも1種の化合物、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩又はリチウム塩、又はAl、Ga、In、又はBaの塩の水溶液又はスラリーで処理し、それによって前記粒子状電極活物質の表面にAl、Sb、B、Mo、W、Si及びPから選択される少なくとも1種の元素を堆積させる工程と、
(c)濾過によって水を除去する工程と、
(d)工程(c)から得られた固体残留物を、Al又はB又はSbの少なくとも1種の化合物、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩又はリチウム塩で処理し、それによって工程(c)から得られた前記固体残留物の表面にAl、B、Sb、Mo、W、Si及びPから選択される少なくとも1種の元素を堆積させる工程と、
(e)工程(d)から得られた残留物を熱処理する工程と
を含む、コーティングされたカソード活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新の装置である。携帯電話及びラップトップコンピュータなどの小型の装置からカーバッテリー及び他のE-モビリティ(e-mobility)用バッテリーまで、多くの応用分野が考えられてきた。電解質、電極材料及びセパレータなどの様々な電池の構成要素は、電池の性能に関して重要な役割を有する。カソード材料は特に注目されている。いくつかの材料、例えばリチウム鉄ホスフェート、リチウムコバルトオキシド、及びリチウムニッケルコバルトマンガンオキシドが提案されてきた。広範な研究調査が行われてきているが、これまでに見出された解決策は未だに改善の余地がある。
【0003】
現在、いわゆるNiリッチ(Niの量が多い)電極活物質、例えば、TM総含有量に対して75モル%以上のNiを含有する電極活物質への特定の関心が観察される。
【0004】
リチウムイオン電池、特にNiリッチ電極活物質の1つの問題は、電極活物質の表面での望ましくない反応に起因する。このような反応は、電解質又は溶媒又はその両方の分解であり得る。したがって、充電及び放電中のリチウム交換を妨げることなく、表面を保護することが試みられた。例は、例えばアルミニウムオキシド又はカルシウムオキシドで電極活物質をコーティングする試みである(例えば、US 8,993,051参照)。
【0005】
他の理論では、表面の遊離LiOH又はLiCOに望ましくない反応が割り当てられる。電極活物質を水で洗浄することにより、そのような遊離のLiOH又はLiCOを除去する試みがなされてきた(例えば、JP 4,789,066 B、JP 5,139,024 B、及びUS2015/0372300参照)。しかしながら、場合によっては、得られた電極活物質の特性が改善されないことが観察された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US 8,993,051
【特許文献2】JP 4,789,066 B
【特許文献3】JP 5,139,024 B
【特許文献4】US2015/0372300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れた電気化学特性を有するNiリッチ電極活物質の製造方法を提供することであった。また、本発明の目的は、優れた電気化学特性を有するNiリッチ電極活物質を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、以下に「本発明の方法」とも称される、冒頭で定義された方法が見出された。本発明の方法は、以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Ni、及び任意にCo及びMnの少なくとも1つ、及び任意にAl、Mg及びBaから選択される少なくとも1種の元素、Ni、Co及びMn以外の遷移金属元素であり、xは0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%はNiである)による粒子状電極活物質を提供する工程と、
(b)前記粒子状電極活物質を、Al、Sb又はBの少なくとも1種の化合物、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩又はリチウム塩、又はAl、Ga、In、又はBaの塩の水溶液又はスラリーで処理し、それによって前記粒子状電極活物質の表面にAl、Sb、B、Mo、W、Si及びPから選択される少なくとも1種の元素を堆積させる工程と、
(c)濾過によって水を除去する工程と、
(d)工程(c)から得られた固体残留物を、Al又はB又はSbの少なくとも1種の化合物、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩又はリチウム塩で処理し、それによって工程(c)から得られた前記固体残留物の表面にAl、B、Sb、Mo、W、Si及びPから選択される少なくとも1種の元素を堆積させる工程と、
(e)工程(d)から得られた残留物を熱処理する工程と
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の方法は、本発明の文脈においてそれぞれ工程(a)、工程(b)、工程(c)、工程(d)及び工程(e)とも呼ばれる5つの工程(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)を含む。工程(b)及び(c)は、同時に又は好ましくは引き続いて開始されてもよい。工程(b)及び(c)は、同時に又は引き続いて、又は好ましくは少なくとも部分的に重複して又は同時に行われてもよい。工程(d)は、工程(c)の完了後に行われる。
【0010】
本発明の方法は、一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Ni、及び任意にCo及びMnから選択される少なくとも1種の遷移金属、及び任意にAl、Mg及びBaから選択される少なくとも1種の元素を含み、TMの少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも75モル%はNiであり、xは0~0.2、好ましくは0.05~0.2の範囲である)による電極活物質から出発する。前記物質は、以下で出発材料とも呼ばれる。
【0011】
本発明の一実施態様において、出発材料は、3~20μm、好ましくは4~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法(electroacoustic spectroscopy)によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0012】
本発明の一実施態様において、出発材料は、0.1~2.0m/gの範囲の比表面積(BET)(以下で「BET表面積」とも呼ばれる)を有する。BET表面積は、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃で30分、及びこれを超えてサンプルをガス放出した後の窒素吸着によって決定することができる。
【0013】
本発明の一実施態様において、工程(a)で提供される粒子状物質は、20~2000ppmの、カールフィッシャー滴定によって決定された水分含有量を有し、50~1200ppmが好ましい。
【0014】
本発明の一実施態様において、変数TMは、一般式(I)

(NiaCobMnc)1-dM1 d (I)

(式中、a+b+c=1であり、
aは、0.6~0.99、好ましくは0.75~0.95、より好ましくは0.85~0.95の範囲であり、
bは、0又は0.01~0.2、好ましくは0.025~0.2、より好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
cは、0~0.2、好ましくは0.025~0.2、より好ましくは0.05~0.1の範囲であり、
dは、0~0.1、好ましくは0~0.04の範囲であり、
は、Al、Mg、Ta、Ti、Ge、Nb、Mo、W及びZrの少なくとも1種、好ましくはAl、Ti、Zr及びWの少なくとも1種である)
に対応する。
【0015】
本発明の一実施態様において、変数cは0であり、MはAlであり、dは0.01~0.05の範囲である。
【0016】
本発明の別の実施態様において、変数TMは、一般式(Ia)

(Nia*Cob*Ale*)1-d*M2 d* (I a)

(式中、a+b+c=1であり、
は、0.75~0.95、好ましくは0.88~0.95の範囲であり、
は、0.025~0.2、好ましくは0.025~0.1の範囲であり、
は、0.01~0.2、好ましくは0.015~0.04の範囲であり、
は、0~0.1、好ましくは0~0.02の範囲であり、
は、W、Mo、Ti又はZrの少なくとも1種である)
に対応する。
【0017】
変数xは0~0.2の範囲である。
【0018】
本発明の一実施態様において、TMは一般式(I)に対応し、xは、0~0.2、好ましくは0~0.1、さらにより好ましくは0.01~0.05の範囲である。
【0019】
本発明の一実施態様において、TMは一般式(Ia)に対応し、xは-0.05~0の範囲である。
【0020】
本発明の一実施態様において、TMは、Ni0.6Co0.2Mn0.2、Ni0.7Co0.2Mn0.1、Ni0.8Co0.1Mn0.1、Ni0.83Co0.12Mn0.05、Ni0.89Co0.055Al0.055、Ni0.9Co0.045Al0.045及びNi0.85Co0.1Mn0.05から選択される。
【0021】
工程(a)で提供される電極活物質は通常、導電性炭素を含まない、すなわち、出発材料の導電性炭素の含有量は、前記出発材料に対して1質量%未満、好ましくは0.001~1.0質量%である。
【0022】
一部の元素は遍在するものである。本発明の文脈において、不純物としての微量のナトリウム、カルシウム又は亜鉛などの遍在金属は、本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、出発材料の全金属含有量に対して0.02モル%以下の量を意味する。
【0023】
工程(b)では、前記粒子状電極活物質は、Al、Sb、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩若しくはリチウム塩の少なくとも1種の化合物の水溶液又はスラリーで処理され、それによって前記粒子状電極活物質の表面にAl、Sb、B、Mo、W、Si及びPから選択される少なくとも1種の元素を堆積させる。ヘテロポリ酸が使用される場合、好ましくは、W、Si及びPから選択される元素が堆積される。
【0024】
Al、Sb、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩若しくはリチウム塩のそのような化合物は、少なくとも10g/l水の、20℃で決定される溶解度を有する。溶解度を決定する場合、そのような化合物のHO又はアンモニア配位子は無視される。他の実施態様では、Al又はSbのそのような化合物は、20℃で決定して、水に難溶性又は不溶性であり、例えば、0.1g/l以下である。
【0025】
Alの水溶性化合物の例は、Al(SO、KAl(SO、Al(NO、及びAlのアクア錯体、例えばアルミニウムクロリドのヘキサアクア錯体(hexaquo complex)(これに限定されない)である。
【0026】
水に難溶性又は不溶性であるアルミニウム化合物の例は、例えば、Al、Al(OH)、AlOOH、Al・aqであり、AlOOH及びAlが好ましい。
【0027】
Sbの水溶性化合物の例はSb(SO及びSbClである。水に難溶性又は不溶性であるSbの化合物の例は、Sb(OH)、Sb・aq、Sb(SO、SbOOH、LiSbO及びSbである。Sb(+V)の化合物の例は、Sb、LiSb、LiSbO、LiSbO、LiSbO、LiSbO、Sb(Sb(III)Sb(V)O)、及びSb(+V)のオキシ水酸化物、例えばSbO(OH)、Sb(OH)、Sb(OH)、SbOH、SbOH(これらに限定されない)である。
【0028】
本発明の一実施態様において、工程(b)で使用されるヘテロポリ酸は、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、タングステンケイ酸、モリブドケイ酸、及び前記の少なくとも2種の組み合わせ、及びそれらのそれぞれのアンモニウム塩及びリチウム塩、例えば、モノ-、ジ-又はトリアンモニウム塩及びモノ-、ジ-及びトリリチウム塩から選択される。タングステンのヘテロポリ酸、特にリンタングステン酸及びタングステンケイ酸、及びそれらのそれぞれのアンモニウム塩及びリチウム塩、例えば、モノ-、ジ-又はトリアンモニウム塩が好ましい。
【0029】
ヘテロポリ酸の例は、M [PW1240]、M[PW1240]、M [SiW1240]、M [SiW1240]、M [(W34)、M (P2171)、M (PW1240)、M (SiW1240)、M (P1862)、M (PW1139)及びM 10(SiW34)であり、ここで、Mが、H、NH 、Li及び前記の少なくとも2種の組み合わせから選択される。MがAl、Ga、In、Baから選択され、化学量論係数がそれに応じて調整される実施態様も可能である。
【0030】
本発明の一実施態様において、ヘテロポリ酸又はAl若しくはSbの化合物の量は、TMに対して、0.05~1.5モル%、好ましくは0.15~0.9モル%の範囲である。
【0031】
工程(b)における前記水溶液又はスラリーは、2~14の範囲、好ましくは少なくとも3.5、より好ましくは5~11の範囲のpH値を有してもよい。
【0032】
本発明の一実施態様において、工程(b)で使用される水溶液又はスラリーのpH値は、塩基性Li化合物、特にLiOHの添加により制御される。
【0033】
該当する場合、pH値は工程(b)の開始時に測定される。電極活物質、水及びヘテロポリ酸の添加順序に応じて、工程(b)の過程中で、pH値が少なくとも10、例えば11~14まで上昇し得ることが観察される。工程(b)の開始時にpH値が10~11の範囲にある実施態様では、pH値が11超~14まで上昇する。工程(b)の開始時にpH値が3~10未満の範囲にある実施態様では、pH値は11~14まで上昇する。工程(b)で使用される前記水性製剤の水硬度が、特にカルシウムが少なくとも部分的に除去されることが好ましい。脱塩水を使用することが好ましい。
【0034】
本発明の一実施態様において、工程(b)では、電極活物質及び水溶液又はスラリーは、それぞれ、1:5~5:1、好ましくは2:1~1:2の範囲の質量比を有する。
【0035】
工程(b)は、混合操作、例えば振とう、又は特に攪拌又は剪断によってサポートされてもよい。以下を参照されたい。
【0036】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、1分~90分、好ましくは1分~60分未満の範囲の持続時間を有する。工程(b)において、水処理及び水の除去が重複して又は同時に行われる実施態様では、5分以上の持続時間が可能である。
【0037】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、好ましくは、5~45℃の範囲の温度で行われる。室温がさらにより好ましい。
【0038】
本発明の一実施態様において、工程(b)による処理及び工程(c)による水の除去は連続的に行われる。
【0039】
工程(b)による水性媒体での処理後又は処理中に、水は、例えばバンドフィルター又はフィルタープレスでの任意のタイプの濾過によって除去されてもよい。
【0040】
本発明の一実施態様において、工程(b)の開始後遅くとも3分で、工程(c)が開始される。工程(c)は、例えば固液分離によって、例えばデカンテーションによって、又は好ましくは濾過によって、処理された粒子状物質から水を部分的に除去することを含む。前記「部分的に除去すること」は、部分的に分離することとも呼ばれる。
【0041】
工程(c)の一実施態様において、工程(b)で得られたスラリーは、遠心分離機、例えばデカンター遠心分離機又はフィルター遠心分離機、又はフィルター装置、例えば吸引フィルター又はフィルタープレス、又は工程(b)が行われる容器の直下に好ましく配置されているベルトフィルターに直接排出される。その後、濾過が開始される。
【0042】
本発明の特に好ましい実施態様において、工程(b)及び(c)は、攪拌機付きフィルター装置、例えば攪拌機付き圧力フィルター又は攪拌機付き吸引フィルターで行われる。工程(b)に従って出発材料と水性媒体を組み合わせた後、最大で3分後、又はその直後でも、濾過を開始することによって水性媒体の除去を開始させる。実験室規模では、工程(b)及び(c)はビュヒナー漏斗で行われてもよく、工程(b)及び(c)は手動攪拌によってサポートされてもよい。
【0043】
好ましい実施態様において、工程(b)は、フィルター装置、例えばフィルター内のスラリー又はフィルターケーキの撹拌を可能にする撹拌フィルター装置で行われる。
【0044】
本発明の一実施態様において、工程(c)による水の除去は、1分~1時間の範囲の持続時間を有する。
【0045】
本発明の一実施態様において、工程(b)、及び該当する場合に工程(c)における撹拌は、1分当たり1~50回転(「rpm」)の範囲の速度で行われ、5~20rpmが好ましい。
【0046】
本発明の一実施態様において、濾材は、セラミック、焼結ガラス、焼結金属、有機ポリマーフィルム、不織布、及び織物から選択することができる。
【0047】
本発明の一実施態様において、工程(b)及び(c)は、低減されたCO含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(b)及び(c)を行うことがさらにより好ましい。
【0048】
工程(c)から、残留物が、好ましくは湿潤フィルターケーキの形態で得られる。そのようなフィルターケーキの水分含有量は、3~20質量%、好ましくは4~9質量%の範囲であってもよい。
【0049】
工程(d)では、工程(c)からの固体残留物は、Al又はB又はSb、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩又はリチウム塩の少なくとも1種の化合物で処理され、それによって工程(c)からの前記固体残留物の表面にAl、B、Sb、Mo、W、Si及びPから選択される少なくとも1種の元素を堆積させる。
【0050】
工程(d)で添加されるアルミニウムの化合物の例は、水溶性化合物及び水不溶性化合物から選択されてもよい。Alの水溶性化合物の例は、Al(SO、KAl(SO又はAl(NOである。Alの水不溶性化合物の例は、例えばAl、Al(OH)、AlOOH、Al・aqであり、AlOOH及びAlが好ましい。本発明の文脈において、AlOOHは必ずしも等モル量の酸化物と水酸化物を含むとは限らず、Al(O)(OH)と呼ばれることもある。
【0051】
工程(b)又は(d)で使用される無機アルミニウム化合物、特にAl及びAl(O)(OH)は、純粋なもの(≧99.9モル%のAl、Siを含む全金属に対して)であってもよく、又は例えば0.1~5モル%の量の、酸化物、例えばLa、Ce、チタニア又はジルコニアでドープされていてもよい。
【0052】
アンチモンの化合物の例は、Sb(+III)の化合物及びSb(+V)の化合物である。Sb(+III)の化合物の例は、Sb(OH)、Sb・aq、Sb(SO、SbOOH、LiSbO及びSbである。Sb(+V)の化合物の例は、Sb、LiSb、LiSbO、LiSbO、LiSbO、LiSbO、Sb(Sb(III)Sb(V)O)、及びSb(+V)のオキシ水酸化物、例えばSbO(OH)、Sb(OH)、Sb(OH)、SbOH、SbOH(これらに限定されない)である。Sb(OH)、Sb・aq及びSbが好ましい。
【0053】
本発明の一実施態様において、前記水不溶性アルミニウム又はアンチモン化合物は、水に分散させ、X線回折によって決定して、200nm~5μm、好ましくは250nm~2μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。
【0054】
本発明の一実施態様において、Al又はB又はSbの少なくとも1種の化合物は、粒子状の固体として、例えば粉末として添加される。本発明の別の実施態様において、Al又はSb又はヘテロポリ酸の少なくとも1種の化合物は、水性スラリー又は溶液として、例えばTMに対して0.05~1.5モル%、好ましくは0.15~1.2モル%の範囲の量で添加される。
【0055】
本発明の一実施態様において、工程(d)で添加される化合物は、工程(b)において水溶液又はスラリー中に含有される化合物とは異なる。工程(d)で添加される金属は、工程(b)において水溶液又はスラリー中に含有される金属とは異なることが好ましい。例えば、工程(b)でAl(SOの水溶液を使用し、工程(d)でAlを添加することも可能であるが、工程(b)の水溶液又はスラリーの化合物における金属が、工程(d)で添加されるAl又はSbの化合物における金属とは異なることがより好ましい。好ましい実施態様において、工程(b)では、ヘテロポリ酸の水溶液が使用され、工程(d)では、Al又はSbの化合物が添加される。別の好ましい実施態様において、工程(b)では、Alの化合物、例えばAl(SO(これに限定されない)の水溶液が使用され、工程(d)では、アンチモンの化合物、例えばSb(これに限定されない)、又はホウ素の化合物、例えばホウ酸又はB(これに限定されない)が添加される。別の好ましい実施態様において、工程(b)では、アンチモンの化合物、例えばSb(SO(これに限定されない)の水溶液が使用され、工程(d)では、Alの化合物、例えばAl又はAl(OH)(これに限定されない)、又はホウ素の化合物、例えばホウ酸又はB(これに限定されない)が添加される。別の好ましい実施態様において、工程(b)では、アンチモンの化合物、例えばSb(これに限定されない)の水性スラリーが使用され、工程(d)では、Alの化合物、例えばAl又はAl(OH)(これに限定されない)、又はホウ素の化合物、例えばホウ酸又はB(これに限定されない)が添加される。
【0056】
本発明の一実施態様において、工程(b)~(d)は、同じ容器、例えば攪拌機付きフィルター装置、例えば攪拌機付き圧力フィルター又は攪拌機付き吸引フィルターで行われる。
【0057】
本発明の方法は、後続の工程(e)を含む:
(e)工程(d)から得られた物質を熱処理する工程。
【0058】
Al又はB又はSbの前記化合物(単数又は複数)が水性スラリー又は水溶液として添加される実施態様では、前記工程(e)が特に好ましい。
【0059】
工程(e)は、任意のタイプのオーブン、例えばローラーハースキルン、プッシャーキルン、ロータリーキルン、振り子キルン、又は実験室規模の試験の場合にマッフルオーブンで行うことができる。
【0060】
工程(e)による熱処理の温度は、40~650℃、好ましくは70~600℃の範囲であり得る。前記温度は工程(e)の最高温度を指す。
【0061】
工程(d)から得られた物質を直接工程(e)に供し、濾過などの固液分離法によって水を除去することも可能である。
【0062】
温度を段階的に上げること、又は温度を徐々に上げること、又は工程(d)の後に得られた物質を最初に40~250℃の範囲の温度で乾燥させて(サブ工程(e1))、その後に250℃超~650℃でサブ工程(e1)に供することが好ましい。
【0063】
前記段階的な上昇又は徐々の上昇は、常圧又は減圧、例えば0.1ミリバール(「真空」)~500ミリバールの圧力下で行うことができる。
【0064】
その最高温度での工程(e)は常圧下で行われてもよい。
【0065】
本発明の一実施態様において、工程(e)は、酸素含有雰囲気、例えば、空気、酸素富化空気又は純酸素の下で行われる。
【0066】
工程(e)の前に40~250℃の範囲の温度で乾燥を行う実施態様において、そのような乾燥は、10分間~12時間の持続時間で行うことができる。
【0067】
本発明の一実施態様において、工程(e)は、低減されたCO含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(e)を行うことがさらにより好ましい。
【0068】
本発明の一実施態様において、工程(e)は、1~10時間、好ましくは90分~6時間の範囲の持続時間を有する。
【0069】
本発明の一実施態様において、電極活物質のリチウム含有量は、0.04~1質量%、好ましくは0.05~0.5質量%還元される。前記還元は主に、いわゆる残留リチウムに影響を及ぼし、パーセンテージは出発材料の総リチウム含有量に対するものである。
【0070】
本発明の方法を行うことにより、優れた電気化学特性を有する電極活物質が得られる。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、ヘテロポリ酸又はB又はSb又はAl(場合によっては)の分解生成物が、電極活物質の表面に堆積したリチウム化合物の捕捉につながると仮定する。
【0071】
本発明の一実施態様において、工程(a)で提供される電極活物質が工程(b)の前に水で処理される場合、追加の工程(f)が行われる。そのような実施態様において、水は、工程(f)の終了時に少なくとも部分的に除去される。
【0072】
本発明の一実施態様において、工程(f)は、工程(a)で提供される電極活物質を水中にスラリー化し、次に固液分離法によって水を少なくとも部分的に除去し、50~450℃の範囲の最高温度で乾燥させることにより行われる。
【0073】
工程(f)の一実施態様において、工程(f)で使用される水は、アンモニア、又は少なくとも1種の遷移金属塩、例えばニッケル塩又はコバルト塩をさらに含有し手もよい。このような遷移金属塩は、好ましくは、電極活物質に対して有害でない対イオンを持つ。硫酸塩及び硝酸塩が使用可能である。塩化物は好ましくない。
【0074】
本発明の一実施態様において、工程(f)は5~85℃の範囲の温度で行われ、10~60℃が好ましい。
【0075】
本発明の一実施態様において、工程(f)は常圧で行われる。しかし、高圧で、例えば常圧より10ミリバール~10バール高い圧力で、又は吸引しながら、例えば常圧より50~250ミリバール低い圧力で、好ましくは常圧より100~200ミリバール低い圧力で、工程(f)を行うことが好ましい。
【0076】
例えば、工程(f)は、例えば、フィルター装置の上方に位置するため、容易に排出することができる容器内で行うことができる。そのような容器は出発材料で充填され、続いて水性媒体が導入されてもよい。他の実施態様において、そのような容器は水性媒体で充填され、続いて出発材料が導入される。他の実施態様において、出発材料と水性媒体は同時に導入される。
【0077】
本発明の一実施態様では、工程(f)において、電極活物質と全水性媒体との体積比は、3:1~1:5、好ましくは2:1~1:2の範囲である。
【0078】
工程(f)は、混合操作、例えば、振とうによって、又は特に攪拌又は剪断によってサポートされてもよい。以下を参照されたい。
【0079】
本発明の一実施態様において、工程(f)は、1分~30分、好ましくは1分~5分未満の範囲の持続時間を有する。工程(f)において、水処理及び水の除去が重複して又は同時に行われる実施態様では、5分以上の持続時間が可能である。
【0080】
本発明の方法によって得られるカソード活物質は、多くの利点を有する。そのようなカソード活物質から作られたカソードは、改善したサイクル安定性、減少したガス発生、及びサイクル時の減少した電解質分解を示す。ヘテロポリ酸が熱処理により分解し、一次粒子中に拡散することは、例えば、TEMにより示される。
【0081】
実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例
【0082】
総説:N-メチル-2-ピロリドン:NMP。
【0083】
超乾燥空気:除湿した空気、露点-30℃未満、CO含有量50ppm未満。
【0084】
(SiW1240)・nHO(n=30)を水に溶解した。得られた溶液は、以下で「SiW12・aq」と呼ばれる。
【0085】
カソード活物質の合成
I.1 前駆体TM-OH.1の合成
脱イオン水、及び1kgの水当たり49gの硫酸アンモニウムを撹拌タンク反応器に入れた。溶液を55℃に温度調節し、水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、pH値を12に調整した。
【0086】
硫酸遷移金属水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を1.8の流量比で同時に供給し、総流量を8時間の滞留時間とすることにより、共沈反応を開始させた。遷移金属溶液は、Ni、Co及びMnを8.3:1.2:0.5のモル比及び1.65mol/kgの合計の遷移金属濃度で含有した。水酸化ナトリウム水溶液は、6の質量比での25質量%の水酸化ナトリウム溶液及び25質量%のアンモニア溶液であった。水酸化ナトリウム水溶液を別に供給することにより、pH値を12に維持した。すべての供給の始動から始めて、母液を継続的に取り出した。33時間後、すべての供給流を停止した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水で洗浄し、空気中120℃で乾燥させ、ふるいにかけることにより、混合遷移金属(TM)水酸化物前駆体TM-OH.1を得た。
【0087】
I.2 TM-OH.1のカソード活物質への変換
I.2.1 塩基カソード活物質B-CAM.1の製造、工程(a.1)
B-CAM.1(塩基):混合遷移金属水酸化物前駆体TM-OH.1を、1.03のLi/TMモル比でLiOH一水和物と混合した。混合物を765℃に加熱し、酸素の混合物の強制流中に10時間保持した。室温まで冷却した後、得られた粉末を解凝集し、32μmのメッシュでふるいにかけて、塩基カソード活物質B-CAM 1を得た。
【0088】
Malvern InstrumentsからのMastersize 3000機でレーザー回折の技術を使用して決定されたD50は11.0μmであった。250℃で決定した残留水分は300ppmであった。
【0089】
I.2.2 比較用カソード活物質の製造、工程(b.1)~(e.1)
工程(b.1):ビーカーに67mlの脱イオン水を入れた。100gの量のBC-CAM.1を添加した。得られたスラリーを室温で5分間撹拌し、前記撹拌の間、スラリー温度を25℃±5℃に維持した。
【0090】
工程(c.1):その後、フィルタープレスでの濾過によって、水を除去した。湿潤フィルターケーキが残った。
【0091】
工程(d)は行わなかった。
【0092】
工程(e1.1):得られたフィルターケーキを70℃で2時間、次に185℃で10時間真空乾燥させた。次に、得られた粉末を45μmのふるいでふるい分けすることにより、カソード活物質C-CAM.1を得た。
【0093】
I.2.3.本発明のカソード活物質、CAM.2の例の製造
上記のように工程(a.1)を行った。
【0094】
工程(b.2):ビーカーに67mlの脱イオン水を入れた。100gの量のB-CAM.1を添加した。Si又はWの水酸化物又はオキシ水酸化物の新たに沈殿した懸濁液が得られ、これにSiW12・aqを添加した。W/TMのモル比は0.003であった。得られたスラリーを室温で5分間撹拌した。
【0095】
工程(c.2):その後、フィルタープレスでの濾過によって、水を除去した。湿潤フィルターケーキが残った。
【0096】
工程(d.2):表1に従って、工程(c.2)から得れた湿潤フィルターケーキにAl(SO・aqを添加した。Al/(TM)のモル比は0.003であった。Al(SO・aqを有する湿潤フィルターケーキをプラスチックバッグに移し、室温で5分間スクランブルした。
【0097】
工程(e1.2):得られたフィルターケーキを70℃で2時間、次に185℃で10時間真空乾燥させた。次に、得られた粉末を45μmのふるいでふるい分けすることにより、本発明のカソード活物質CAM.2を得た。
【0098】
CAM.3の例
上記のように工程(a.1)~(e1.2)を行った。
【0099】
工程(e2.3):得られた粉末を、マッフルオーブン内で酸素を強制的に流しながら、300℃で3時間かけて400℃に加熱した。
【0100】
したがって、工程(b)においてAl(SO、又はSiW12・aq、又はSbの量を変更し、又は工程(d)においてAl(SO、又はSiW12・aq、又はSiW12・aq又はAl(SOに加えて又はその代わりにHBOを導入することにより、さらなる本発明のカソード活物質を製造した。結果を表1にまとめた。
【0101】
【表1】
【0102】
II.カソード活物質のテスト
II.1 電極の製造、一般手順
正極:PVDFバインダー(Solef(登録商標)5130)をNMP(Merck)中に溶解して、8.0質量%の溶液を製造した。電極の調製では、バインダー溶液(4質量%)及びカーボンブラック(Li250、3.5質量%)をNMP中に懸濁させた。遊星遠心ミキサー(ARE-250、Thinky Corp.;日本)を使用して混合した後、本発明のCAM.2~CAM.13又は塩基カソード活物質B-CAM.1のいずれか(92.5質量%)を添加し、懸濁液を再度混合して、塊のないスラリーを得た。スラリーの固形分を65%に調整した。KTF-Sロールツーロールコーター(Mathis AG)を使用して、スラリーをAlホイル上にコーティングした。使用前に、すべての電極をカレンダ加工した。カソード材料の厚さは45μmであり、15mg/cmに対応した。バッテリーを組み立てる前に、すべての電極を120℃で7時間乾燥させた。
【0103】
II.2 電解質の製造
12.7質量%のLiPF、26.2質量%のエチレンカーボネート(EC)、及び61.1質量%のエチルメチルカーボネート(EMC)を含有する塩基電解質組成物(EL塩基1)を調製した。
【0104】
II.3 テストセルの製造
II.3.1 コイン型ハーフセル
III.1.1で記載されているように調製したカソードと、動作電極及び対極としてのリチウム金属とを含むコイン型ハーフセル(直径20mm、厚さ3.2mm)をそれぞれ組み立て、Arを充填したグローブボックス中に密封した。さらに、カソード、アノード、及びセパレータをカソード//セパレータ//Liホイルの順に重ね合わせて、ハーフコインセルを製造した。その後、0.15mLの上記(III.2)に記載されているEL塩基1をこのコインセル中に導入した。
【0105】
III.コインハーフセル性能の評価
製造したコイン型電池を使用して、セル性能を評価した。電池の性能については、セルの初期容量及び反応抵抗を測定した。初期性能及びサイクルを以下のように測定した:II.3.1によるコインハーフセルを、室温で4.3V~2.8Vの間の電圧範囲でテストした。初期サイクルでは、CC-CVモードで初期リチウム化を行った。すなわち、0.01Cに達するまで0.1Cの定電流(CC)を印加した。10分間の休止時間の後、2.8Vまで0.1Cの定電流で還元リチウム化を行った。サイクルでは、電流密度が0.1Cであり、充放電を25回繰り返した。
【0106】
セルの反応抵抗を以下の方法によって計算した:
初期性能の評価後、コインセルを4.3Vまで充電し、ポテンショスタットと周波数応答分析システム(Solartron CellTest System 1470E)を用いて電気化学インピーダンス分光法(EIS)により抵抗を測定した。EISスペクトルから、オーム抵抗及び反応抵抗が得られた。結果を表2にまとめた。[%]の相対抵抗は、100%とするC-CAM.1に基づくセルの抵抗に基づくものである。
【0107】
サイクル保持を以下の方法によってテストした:
0.1Cで25サイクル後、コインセルを4.3Vまで再充電し、電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって抵抗を再度測定した。26サイクル目の抵抗値と2サイクル目の抵抗値との比を抵抗成長として定義した。結果を表2にまとめた。[%]の相対抵抗成長は、100%とするC-CAM.1に基づくセルの抵抗成長に基づくものである。
【0108】
【表2】
【手続補正書】
【提出日】2022-03-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)一般式Li1+xTM1-x(式中、TMは、Ni、及び任意にCo及びMnの少なくとも1つ、及び任意にAl、Mg及びBaから選択される少なくとも1種の元素、Ni、Co及びMn以外の遷移金属元素であり、xは0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%はNiである)による粒子状電極活物質を提供する工程と、
(b)前記粒子状電極活物質を、TMに対して0.05~1.5モル%の量の、Al、Sbの少なくとも1種の化合物、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩又はリチウム塩の水溶液で処理し、それによって前記粒子状電極活物質の表面にAl、Sb、B、Mo、W、Si及びPから選択される少なくとも1種の元素を堆積させる工程であって、前記処理が振とう、攪拌及び剪断から選択される混合操作によってサポートされる、工程と、
(c)濾過によって水を除去する工程と、
(d)Al又はB又はSbの少なくとも1種の化合物を粒子状固体として添加することにより、又はAl又はSbの少なくとも1種の化合物又はヘテロポリ酸を水性スラリー又は溶液として添加することにより、工程(c)から得られた固体残留物を、Al又はB又はSbの少なくとも1種の水溶性化合物、又は少なくとも1種のヘテロポリ酸、又はそのそれぞれのアンモニウム塩又はリチウム塩で処理し、それによって工程(c)から得られた前記固体残留物の表面にAl、B、Sb、Mo、W、Si及びPから選択される少なくとも1種の元素を堆積させる工程と、
(e)工程(d)から得られた残留物を熱処理する工程と
を含む、コーティングされたカソード活物質を製造する方法であって、
金属に関して、工程(d)で添加される化合物が、それぞれ、工程(b)において水溶液又はスラリー中に含有される化合物とは異なる、方法
【請求項2】
TMが、一般式(I)

(NiaCobMnc)1-dMd (I)

(式中、aは0.6~0.99の範囲であり、
bは0又は0.01~0.2の範囲であり、
cは0~0.2の範囲であり、
dは0~0.1の範囲であり、
Mは、Al、Mg、Nb、Ta、Ti、Ge、Mo、W及びZrの少なくとも1種であり、
a+b+c=1である)
による金属の組み合わせである、請求項1に記載の方法
【請求項3】
ヘテロポリ酸が、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、タングステンケイ酸、モリブドケイ酸、及びそれらのそれぞれのアンモニウム塩及びリチウム塩から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(d)におけるAl又はB又はSbの前記化合物が、粒子状固体として添加される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(d)におけるAl又はB又はSbの前記化合物が、水溶液又はスラリーとして添加される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(e)が、300~700℃の範囲の最高温度での焼成工程を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(e)が、40~250℃の範囲の最高温度での乾燥工程を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
追加の工程(f)を含み、工程(f)が工程(a)で提供される電極活物質を水で処理すること、及びこの電極活物質を工程(b)に供する前に水を少なくとも部分的に除去することを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】