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特表2023-546911アルコキシジシロキサン、及びそれから製造される緻密なオルガノシリカ膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-08
(54)【発明の名称】アルコキシジシロキサン、及びそれから製造される緻密なオルガノシリカ膜
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/312 20060101AFI20231031BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20231031BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
H01L21/312 C
C23C16/42
C07F7/18 X CSP
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524143
(86)(22)【出願日】2021-10-20
(85)【翻訳文提出日】2023-06-08
(86)【国際出願番号】 US2021055879
(87)【国際公開番号】W WO2022087151
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】63/094,183
(32)【優先日】2020-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517114182
【氏名又は名称】バーサム マテリアルズ ユーエス,リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(74)【代理人】
【識別番号】100210697
【弁理士】
【氏名又は名称】日浅 里美
(72)【発明者】
【氏名】マンチャオ シアオ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ピー.スペンス
(72)【発明者】
【氏名】シンチエン レイ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ロバート エントリー
(72)【発明者】
【氏名】レイモンド ニコラス ブルティス
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー リン アン アクティル
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ゴードン リッジウェイ
【テーマコード(参考)】
4H049
4K030
5F058
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP02
4H049VQ02
4H049VQ05
4H049VQ78
4H049VR22
4H049VR23
4H049VR41
4H049VR42
4H049VU24
4H049VW02
4K030AA11
4K030AA14
4K030AA16
4K030BA44
4K030CA04
4K030CA12
4K030DA08
4K030FA01
4K030JA01
4K030LA02
4K030LA15
5F058AA05
5F058AC03
5F058AD05
5F058AF02
5F058AH02
(57)【要約】
【課題】改善された機械的特性を有する緻密な有機ケイ素膜の製造方法の提供。
【解決手段】以下のステップ:基材を反応チャンバ内に提供すること;反応チャンバに、アルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物を導入すること;及び反応チャンバ中のアルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物にエネルギーを適用して、アルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物の反応を引き起こし、基材に有機ケイ素膜を堆積させることを含む、緻密な有機ケイ素膜の製造方法であって、有機ケイ素膜が、約2.50~約3.30の誘電率、約6~約35GPaの弾性率、及びによって測定される約10~約40の原子%炭素を有する方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緻密なオルガノシリカ膜を製造する方法であって、この方法は、
基材を反応チャンバ内に提供すること;
前記反応チャンバに、式(I):
【化1】
(式中、Rは、線形又は分岐状のC~Cアルキル、及び環式のC~Cアルキルから選択され、Rは、水素、及び線形又は分岐状のC~Cアルキルから選択され;R3~5は、線形又は分岐状のC~Cアルキルから独立して選択され;Rは、水素、線形又は分岐状のC~Cアルキル、又はOR(式中、Rは、線形又は分岐状のC~Cアルキルから選択される。)から選択される。)
で与えられる構造を有する少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物を導入すること;及び
前記反応チャンバ中の前記少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物にエネルギーを適用して、前記少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物の反応を引き起こし、これによって前記基材にオルガノシリカ膜を堆積させること
を含み、
前記オルガノシリカ膜は、約2.50~約3.30の誘電率、及び約6~約35GPaの弾性率を有する方法。
【請求項2】
前記ガス状の組成物が、ハライド、水、金属、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種又はそれより多くの不純物を実質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物が、硬化添加剤を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
化学気相堆積法である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
プラズマ化学気相堆積法である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物は、水蒸気、水プラズマ、オゾン、酸素、酸素プラズマ、酸素/ヘリウムプラズマ、酸素/アルゴンプラズマ、窒素酸化物プラズマ、二酸化炭素プラズマ、過酸化水素、有機過酸化物、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の酸化剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物が酸化剤を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記適用するステップにおいて、前記反応チャンバがHe、Ar、N、Kr、Xe、CO、及びCOからなる群から選択される少なくとも1種のガスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記オルガノシリカ膜が、632nmにおける約1.3~約1.6の屈折率(RI)、及びXPSによって測定される約10原子%~約45原子%の炭素含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記オルガノシリカ膜が、約5nm/min~約2000nm/minの速度で堆積する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記オルガノシリカ膜が、IR分光法によって決定される約10~約40の相対的なジシリルメチレン密度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
IR分光法によって決定されるSiCHSi基の相対的な密度と、XPSで測定される前記オルガノシリカ膜の総炭素含有量を100で割った値との比が60又はそれより大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
誘電体膜の気相堆積のための組成物であって、式(I):
【化2】
(式中、Rは、線形又は分岐状のC~Cアルキル、及び環式のC~Cアルキルから選択され、Rは、水素、及び線形又は分岐状のC~Cアルキルから選択され;R3~5は、線形又は分岐状のC~Cアルキルから独立して選択され;Rは、水素、線形又は分岐状のC~Cアルキル、及びOR(式中、Rは、線形又は分岐状のC~Cアルキルから選択される。)からなる群から選択される。)
の構造を有する少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含む、組成物。
【請求項14】
前記少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物が、1-エトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-sec-ブトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-イソ-ブトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-tert-ブトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-tert-ペントキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-シクロヘキソキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-シクロペントキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-エトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-sec-ブトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-イソ-ブトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-tert-ブトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-tert-ペントキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-シクロヘキシルオキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-シクロペントキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1,3-ジエトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジ-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-エトキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-イソ-プロポキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-sec-ブトキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-イソ-ブトキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-tert-ブトキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-tert-ペントキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-シクロヘキシルオキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-シクロペントキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-メトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-ブトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-ペントキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-(1’-メチルブトキシ)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-(1’-エチルプロポキシ)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-(1’,2’-ジメチルプロポキシ)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-ヘキソキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-メトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-プロポキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-ブトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-ペントキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-(1’-メチルブトキシ)-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-(1’-エチルプロポキシ)-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-(1’,2’-ジメチルプロポキシ)-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、及び1-ヘキソキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、0~5ppm以下の塩化物イオンを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物が、1-エトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-tert-ペントキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-イソ-プロポキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-sec-ブトキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-イソ-ブトキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-tert-ブトキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-tert-ペントキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-シクロヘキソキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-シクロペントキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-sec-ブトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-イソ-ブトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-シクロペントキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-sec-ブトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-イソ-ブトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-ブトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-ペントキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-(1’-メチルブトキシ)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-(1’-エチルプロポキシ)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、及び1-(1’,2’-ジメチルプロポキシ)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
緻密なオルガノシリカ膜を製造する方法であって、この方法が、
基材を反応チャンバ内に提供すること;
前記反応チャンバに、式(II):
【化3】
(式中、Rは、線形又は分岐状のC1~アルキル、及び環式のC~Cアルキルから選択される。)
で与えられる構造を有する少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物であって、ハライド、水、金属、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される1種又はそれより多くの不純物を実質的に含まない、ガス状の組成物を導入すること;及び
エネルギーを前記反応チャンバ中の前記アルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物に適用して、前記アルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物の反応を引き起こし、前記基材にオルガノシリカ膜を堆積させること
を含み、
前記オルガノシリカ膜が、約2.50~約3.30の誘電率、及び約6~約35GPaの弾性率を有する、方法。
【請求項18】
前記少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物が、硬化添加剤を含まない、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
化学気相堆積法である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
プラズマ化学気相堆積法である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物は、水蒸気、水プラズマ、オゾン、酸素、酸素プラズマ、酸素/ヘリウムプラズマ、酸素/アルゴンプラズマ、窒素酸化物プラズマ、二酸化炭素プラズマ、過酸化水素、有機過酸化物、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の酸化剤をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物が酸化剤を含まない、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記適用するステップにおいて、前記反応チャンバがHe、Ar、N、Kr、Xe、CO、及びCOからなる群から選択される少なくとも1種のガスを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記オルガノシリカ膜が、632nmにおける約1.3~約1.6の屈折率(RI)、及びXPSによって測定される約10原子%~約45原子%の炭素含有量を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記オルガノシリカ膜が、IR分光法によって決定される約10~約45の相対的なジシリルメチレン密度を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
IR分光法によって決定されるSiCHSi基の相対的な密度と、XPSで測定される前記オルガノシリカ膜の総炭素含有量を100で割った値との比が60又はそれより大きい、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
前記オルガノシリカ膜が、632nmにおける約1.3~約1.6の屈折率(RI)、及びXPS又はSIMS又はRBSによって測定される約0.1原子%又はそれより小さい窒素含有量を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項28】
1-エトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-tert-ペントキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-イソ-プロポキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-sec-ブトキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-イソ-ブトキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-tert-ブトキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-tert-ペントキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-シクロヘキソキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-シクロペントキシ-1,3,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-sec-ブトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-イソ-ブトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-シクロペントキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-sec-ブトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-iso-ブトキシ-1,1,3,3,3-ペンタメチルジシロキサン、1-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-ブトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-ペントキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-(1’-メチルブトキシ)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-(1’-エチルプロポキシ)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、及び1-(1’,2’-ジメチルプロポキシ)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンからなる群から選択されるケイ素化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本開示に記載されるのは、膜への前駆体としてアルコキシジシロキサンを用いる、緻密なオルガノシリカ誘電体膜の形成のための組成物及び方法である。より具体的には、本開示に記載されるのは、k≧2.5の誘電率を有する緻密膜を形成するための組成物及び化学気相堆積(CVD)法であり、この膜は、従来の前駆体から製造される膜と比較して、高い弾性率と、プラズマ誘発損傷に対する優れた耐性とを有する。
【発明の概要】
【0002】
エレクトロニクス産業は、集積回路(IC)及び関連する電子デバイスの、回路及び構成要素間の絶縁層として、誘電体材料を利用する。ラインの寸法は、マイクロエレクトロニクスデバイス(例えばコンピュータチップ)の速度及びメモリー貯蔵性能を増加させるために縮小される。ラインの寸法が減少するにつれて、層間誘電体膜(ILD)の絶縁要件は、さらに厳しくなる。間隔の縮小は、RC時定数を最小限にするためのより低い誘電率を要求する(ここで、Rは伝導性ラインの抵抗であり、Cは絶縁誘電体中間層の静電容量である)。静電容量(C)は、間隔に反比例し、層間誘電体膜(ILD)の誘電率(k)に比例する。SiH又はTEOS(Si(OCHCH、テトラエチルオルトシリケート)、及びOから製造される従来のシリカ(SiO)CVD誘電体膜は、4.0を超える誘電率kを有する。より低い誘電率を有するシリカに基づいたCVD膜を製造するために産業界が試みたいくつかの方法があり、最も成功しているのは、有機基による絶縁酸化ケイ素膜のドーピングであり、約2.5~約3.5の範囲の誘電率が与えられる。このオルガノシリカガラスは、典型的には、メチルシラン又はシロキサンなどの有機ケイ素前駆体、及びO又はNOなどの酸化剤から緻密膜(密度約1.5g/cm)として堆積される。本開示では、オルガノシリカガラスは、OSGと呼ばれる。
【0003】
CVD法分野による多孔性ILDの分野における特許、公開された出願、及び出版物としては、次のものが挙げられる:EP 1 119 035 A2、及び米国特許第6,171,945号、これらは、NOなどの酸化剤及び任意選択的に過酸化物の存在下において、不安定な基を有する有機ケイ素前駆体からOSG膜を堆積させ、続いて、熱アニールにより不安定な基を除去して、多孔性のOSGを提供するプロセスを記載しており;米国特許第6,054,206号、及び第6,238,751号、これらは、堆積したOSGから本質的にすべての有機基を酸化的アニールにより除去して、多孔性の無機SiOを得ることを教示し;EP 1 037 275、これは、酸化プラズマによる後処理によって多孔性の無機SiOに変換される、水素化炭化ケイ素膜の堆積を記載しており;米国特許第6,312,793B1号、WO00/24050、及び文献記事(Grill, A. Patel, V. Appl. Phys. Lett. (2001), 79(6), pp.803-805)、これらはすべて、有機ケイ素前駆体及び有機化合物から膜を共堆積させ、続いて熱アニールして、重合した有機成分の一部が保持された、多相のOSG/有機膜を提供することを教示する。後者の参考文献において、膜の最終的な最終組成は、残留ポロゲン、及び約80~90原子%の高い炭化水素膜含有量を示す。さらに、最終的な膜は、酸素原子の一部が有機基に置換されたSiO様の網目を保持する。
【0004】
米国特許出願第2011/10113184号は、-SiCHSi-基の増加した密度、及びおおよそk=2.4~k=2.8の範囲の誘電率を有する絶縁膜をPECVDプロセスによって堆積させるために用いることができる低k前駆体のクラスを開示する。米国特許出願第2011/10113184号において、低k膜は、少なくとも1つの分岐状炭化水素基R(例えば、イソブチル、イソペンチル、ネオペンチル、又はネオヘキシル基)が、メチレン基を介して低k前駆体のケイ素原子に結合している(SiCHR)、Siに基づいた前駆体を用いて堆積される。この発明者らは、SiCHRにおいてメチレン基に分岐状炭化水素基Rを連結している結合のプラズマ解離を介して、堆積プロセス中に、高密度のSiCHSi基が膜内に形成されることを主張している。このアプローチには、3つの重大な制限がある。第一の制限は、前駆体への大きい分岐状アルキル基の組み込みが、高価であることである。第二の制限は、前駆体への1つ又はそれより多くの大きい分岐状アルキル基の組み込みにより、大きい分岐状アルキル基により増加する分子量に起因して、通常、非常に高い沸点を有する前駆体がもたらされることである。沸点の上昇は、化学前駆体を、蒸気輸送ライン又はプロセスポンプ排気においてそれを凝縮させることなく、気相試薬として反応チャンバへ輸送することを困難にすることによって、製造プロセスに悪影響を与える場合がある。第三の制限は、米国特許出願第2011/10113184で報告された低k膜中の高密度のSiCHSi基が、堆積膜がUVアニールされた後に形成されるようであることである。したがって、この特許出願に記載された低k膜におけるSiCHSi基の形成は、恐らく前駆体の選択ではなくUV硬化(すなわち堆積プロセスの後の後処理)によるものである。低k膜を紫外線照射にさらすとSiCHSi基の密度が増加することは、十分に立証されていることが認められている。第四の制限は、このアプローチにおいて報告された誘電率の値のほとんどが低く、2.8以下である。合理的な機械的特性を有する緻密な低k膜で達成可能な最低の誘電率が約2.7~2.8であることは、よく確立されている。したがって、米国公報US201110113184Aに開示されたアプローチは、堆積後処理(すなわちUVアニール)がない場合の緻密な低k膜の堆積に関するものではなく、多孔性低k膜を生成するための拘束されたポロゲンアプローチにより類似する。
【0005】
米国特許出願第2020075321 Aは、プラズマ化学気相堆積(PECVD)プロセスによって、高い硬度を有する低k炭素ドープ酸化ケイ素(CDO)層を形成する方法を開示する。方法は、あるキャリアガス流量のキャリアガス、及びある前駆体流量のCDO前駆体をプロセスチャンバに提供することを含む。無線周波数(RF)出力が、ある出力レベル及び周波数でCDO前駆体に適用される。CDO層は、プロセスチャンバ内の基材に堆積される。
【0006】
低k膜におけるプラズマ又はプロセス誘発損傷(PID)は、プラズマ曝露中の炭素の除去によって、特にエッチング及びフォトレジストストリッププロセス(例えば、NHに基づいたストリッププロセス)中に、引き起こされる。炭素の減少により、プラズマ損傷領域は疎水性から親水性に変化する。親水性のプラズマ損傷領域の、希薄なHFに基づいた湿式化学ポストプラズマ処理への曝露は、この損傷領域の急速溶解、及び膜のkの増加をもたらす(疎水性損傷層は、水分の更新を増加させる)。(エッチング及びフォトレジストストリッププロセスを用いて生成された)パターン化低k膜では、希薄なHFに基づいたポストプラズマ処理への曝露は、プロファイルのエロージョンをもたらす。プロファイルのエロージョンは、(金属化欠陥をもたらす)リエントラント特徴の形成、及び(静電容量の増加をもたらす)金属ライン間の間隔の低減をもたらす可能性がある。これは、高度な論理デバイスにおいて特に問題であり、そこではプロファイルのエロージョンの深さが論理1/2ピッチのかなりの割合になる可能性がある。一般に、低k膜の炭素含有量が大きいほど、PIDの深さは小さくなる。プロセス誘発損傷、及び低k膜においてもたらされるプロファイルのエロージョンは、ULSI相互接続において、特にラインのバックエンドの最低レベルで、低k材料を統合する際に、デバイス製造者が克服しなければならない重大な問題である。したがって、できる限り高い機械的強度及びPIDに対する最大の耐性の両方を有する低k膜を堆積させることが望ましい。不運にも、これらの2つの要因は、多くの場合相反する働きをする;炭素含有量の比較的高い膜がPIDに対して比較的大きい耐性を示す一方で、通常、炭素含有量が高いほど、酸化物網目内へのより多くの末端ケイ素メチル基(Si-Me又はSi(CH)の組み込みがもたらされ、膜機械的強度が低下する(図1)。
【0007】
より良好な固有の電気的特性、たとえばより低い漏れ電流密度及びより高い破壊電場を有する低k膜は、高度な集積回路の製造にとって好ましい;最小の固有の電気的要求としては、典型的には、1MV/cmの電場強度における1×10-9A/cm未満の漏れ電流密度、及び4MV/cm又はそれより大きい電気的破壊場が挙げられる。デバイス構造の破壊電場は、寸法が減少するにつれて(すなわちムーアの法則に従ってデバイススケールが減少するにつれて)減少するため、破壊電場ができる限り高い低k材料が好ましい(>4MV/cm)。これは、小さい寸法が高い電場強度をもたらす可能性があるBEOLの最低レベルにおいて特に重要である。低い漏れ電流のレベルが、集積回路の良好な信頼性を保証することも報告されている。残念ながら、本質的に漏れ電流密度が低い低k膜を堆積させることに関連した多数の挑戦がある。例えば、単一の構造形成前駆体の使用は、恐らく酸素不足に関連する欠陥の形成に起因して、高い漏れ電流密度をもたらすことが報告されている。さらに、低い漏れ電流密度は、UVアニールなどの堆積後の処理にも依存する。説明すると、堆積低k膜は、UVアニール後の同じ膜より常に高い漏れ電流密度を有することが報告されている。これは、重大な制限である。なぜならば、UVアニールは、装置のコスト、プロセスの複雑さを増加させ、スループットを低下させるからである。したがって、単一の構造形成前駆体から堆積した、より良好な固有の電気的特性、具体的には、低い漏れ電流密度(@1MV/cm)及びできる限り高い破壊場(≧4MV/cm)を有する堆積低k膜に対する必要がある
【0008】
したがって、特にラインのバックエンドの最低レベルについて、誘電率の所与の値(k≦3.5)で、プラズマ誘発損傷に対する強い耐性、高い機械的強度、及び高い破壊電圧(>5MV/cm)を有する緻密な低k膜を堆積させるために用いることができる揮発性の構造形成低k前駆体に対する必要がある。さらに、そのような前駆体から堆積した膜は、膜の機械的特性又は膜の電気的特性を改善するための堆積後処理(UV硬化など)を要求しないのがよい。すなわち、堆積膜の固有の特性は、堆積後ステップ(すなわちUV硬化)が必要とされないように、集積回路製造の要件を満たすのがよい。
【0009】
発明の概要
本開示に記載される方法及び組成物は、上に記載された1つ又はそれより多くの要求を満たす。本開示に記載される方法及び組成物は、約2.50~約3.30のkバルブを有する緻密な低k膜を堆積させるために用いることができる構造形成剤として、例えば、1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(IPOTMDS)などのアルコキシジシロキサン化合物を使用し、そのような膜は、PIDに対する予想外に高い耐性と、ジエトキシメチルシラン(DEMS(商標))などの先行技術の構造形成前駆体から製造される誘電率が同じ値の膜と同等かそれより大きい機械的特性を示し、DEMS(商標)は、機械的強度が高い膜を堆積させるように設計された、先行技術の構造形成剤である。さらに、一定の実施態様において、Hgプローブによって測定されるように、本開示に記載されるアルコキシジシロキサンから製造される膜は、DEMS(商標)などの高い機械的強度のために設計された先行技術の構造形成前駆体から製造される誘電率が同じ値の膜より高い破壊電場を有する。さらに、所望の膜特性が、UV硬化などの堆積後処理ステップの必要なしで、アルコキシジシロキサン前駆体から製造された堆積膜において観察される。
【0010】
本開示に記載されるのは、Si(式中、v+w+x+y=100%、vは10~40原子%であり、wは10~65%であり、xは5~35原子%であり、yは10~50原子%である。)によって表される材料を含む緻密な誘電体膜であり、膜は、3.5未満の誘電率を有する。一定の実施態様において、膜の炭素含有量は、高い割合のSiCHSi基で構成されており(IR分光法によって測定)、SIMS深さプロファイリングによって決定される炭素含有量を調べることによって測定される例えばO又はNHのプラズマに曝露された際の炭素除去の深さを示す。
【0011】
1つの側面において、方法は、緻密なオルガノシリカ膜を製造するために提供され、方法は、次のステップを含む:基材を反応チャンバ内に提供すること;反応チャンバに、式(I):
【化1】
(式中、Rは、線形又は分岐状のC~Cアルキル、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、又はtert-ブチル、及び環式のC~Cアルキルから選択され、Rは、水素、及び線形又は分岐状のC~Cアルキルから選択され;R3~5は、線形又は分岐状のC~Cアルキル、好ましくはメチルから独立して選択され;Rは、水素、線形又は分岐状のC~Cアルキル、又はOR(式中、Rは、線形又は分岐状のC~Cアルキルから選択される。)から選択される。)
の構造を有する少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物を導入すること;エネルギーを反応チャンバ中のアルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物に適用して、アルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物の反応を引き起こし、基材にオルガノシリカ膜を堆積させること。例示的な実施態様によれば、オルガノシリカ膜は、約2.50~約3.30の誘電率、及び約6~約35GPaの弾性率を有する。上記の式(I)について、アルキル基の組み合わせは、分子の沸点が200℃未満であるように選択される。加えて、最適な性能のために、アルキル基は、分子が、ホモリティック結合解離の際に第二級又は第三級のラジカルを形成する(例えば、SiO-R→SiO・+R・(式中、R・はイソプロピルラジカル又はtert-ブチルラジカルなどの第二級又は第三級のラジカルである。))ように選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図面の簡単な説明
図1図1は、コンピュータモデリングから得られた、機械的強度(バルク弾性率GPa)と低k誘電体膜中のメチル(Me)/Si比との間の予測される関係を示す。
図2図2は、比較例1、比較例2、及び本発明例1の3500cm-1~500cm-1のIRスペクトルを示す。吸光度は、膜厚に対して規格化され、バックグラウンドは、露出したSiウェハについて補正され、わかりやすくするために、ベースラインはオフセットされた。
図3図3は、比較例1、比較例2、及び本発明例1の1390cm-1~1330cm-1のIRスペクトルを示す。吸光度は、膜厚に対して規格化され、バックグラウンドは、露出したSiウェハについて補正され、わかりやすくするために、ベースラインはオフセットされた。
図4図4は、膜をNHプラズマを用いて損傷させた後の、比較の膜1、比較の膜2、及び本発明の膜1の炭素除去に対する耐性を示す。
図5図5は、比較の化合物DEMS(商標)及びMIPSCPを用いて堆積させた一連の低誘電率膜に対する本発明の化合物IPOTMDSを用いて堆積させた一連の低誘電率膜についての、IRによって決定される相対的なSiCHSi濃度を膜中のXPS炭素の割合で割った比を示す。
図6図6は、比較例3及び本発明例1について、適用された電場強度の関数として測定された電流密度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本開示に記載されるのは、緻密なオルガノシリカ膜を製造するための化学気相堆積(CVD)方法であって、方法は、次のステップ:基材を反応チャンバ内に提供することと;反応チャンバに、アルコキシジシロキサン(例えば、1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(IPOTMDS)又は1-エトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(EOTMDS)など)及びガス状の酸化剤(O又はNOなど)を含むガス状の組成物並びにHeなどの不活性ガスを導入することと;反応チャンバ中のアルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物にエネルギーを適用して、アルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物の反応を引き起こし、基材にオルガノシリカ膜を堆積させることと、を含み、オルガノシリカ膜は、約2.50~約3.50の誘電率を有する。例示的な実施態様によれば、オルガノシリカ膜は、約2.70~約3.30の誘電率、約6~約35GPaの弾性率、及びXPSによって測定される約15~約40の原子%炭素、好ましくは、約2.80~約3.20の誘電率、約7~約27GPaの弾性率、及びXPSによって測定される約15~約40の原子%炭素を有する。酸化剤を含まないガス状の組成物を用いて、所望の膜特性を有するオルガノシリカ膜を堆積させることもできることが認識される。
【0014】
本開示に記載されるアルコキシジシロキサン化合物は、比較的低い総炭素含有量(典型的にはXPSで25原子パーセント未満)を有する緻密な堆積OSG膜を堆積させる一方、NH又はOのプラズマに曝露された際の炭素除去に対して非常に高い耐性を示すことを可能にするユニークな性状を提供する。膜の総炭素含有量が増加するにつれて、誘電体膜からの炭素除去に対する耐性が増加することは、よく確立されている。すなわち、総炭素含有量が高い膜は、総炭素含有量が比較的低い膜より、NH又はOのプラズマに曝露された際に炭素除去の比較的小さい深さを示す。これは、米国特許第9,922,818号に示されており、そこでは、36%炭素(XPS、原子%)を含有する低k膜の炭素除去の深さは、23%炭素(XPS、原子%)を含有する低k膜より20%少ない(44nmと比較して35nm)。したがって、比較的低い総炭素含有量(<約25%、XPSで測定)を含有する、アルコキシジシロキサン構造形成前駆体を用いて製造された誘電体膜が、NH又はOのプラズマに曝露された際に、高い総炭素含有量(>約25%、XPSで測定)を有する膜を堆積させるように設計された前駆体を用いて製造された誘電体膜と、同じかより小さい炭素除去の深さを示すことができることは予想外である。米国特許第9,922,818号において開示されるように、1-メチル-1-イソ-プロポキシ-1-シラシクロペンタン(MIPSCP)などの前駆体を用いて、高い総炭素含有量(>約25%)と、NH又はOのプラズマに曝露された際の炭素除去に対する並外れた耐性とを有する膜を製造することができる。
【0015】
式(I)のアルコキシジシロキサン化合物のユニークな性状は、緻密なOSG膜の比較的低い誘電率を達成することも可能にし、そのような膜は、驚くべきことに、DEMS(商標)などの高い機械的強度を有する膜を堆積させるために設計された先行技術の構造形成前駆体から堆積した膜と同等か、より大きい機械的特性を示す。
【0016】
例えば、DEMS(商標)(高い機械的強度を有する堆積膜のために設計された先行技術の構造形成剤)は、2つのアルコキシ基、1つのメチル、及び1つのヒドリドを有する混合配位子系を提供し、これは、反応サイトのバランスを提供し、所望の誘電率を保持しながらより機械的に堅牢な膜の形成を可能にする。炭素が主に末端Si-Me基の形態で存在する、構造形成前駆体としてDEMS(商標)を用いて堆積させた膜では、(%Cに直接関係する)%Si-Meと機械的強度との関係があり、橋掛けSi-O-Si基を2つの末端Si-Me基と置き換えると、網目構造が破壊されるため、機械的特性が低下する(例えば、図1に示されるモデリング作業を参照のこと)。予想外に、式(I)のアルコキシジシロキサン化合物から製造される緻密な堆積OSG膜は、DEMS(商標)から製造される膜より高いSi-Me濃度を有し、DEMS(商標)から製造される膜と同等か、それより大きい機械的特性を示す。このように、式(I)のアルコキシジシロキサン化合物から製造されるSi-Me基の濃度がより高い膜が、DEMS(商標)などの高い機械的強度のために設計された先行技術の構造形成前駆体から製造されるSi-Me基の濃度がより低い膜と同等か、それより大きい機械的特性を有することは予想外である。
【0017】
本開示に記載されるアルコキシジシロキサン化合物は、ジエトキシメチルシラン(DEMS(商標))及びMIPSCPなどの先行技術の構造形成前駆体と比較して、それが、誘電体膜に異なるタイプの炭素の配分を組み入れること可能にするユニークな性状を提供する。例えば、構造形成剤としてDEMS(商標)を用いて堆積させた緻密なOSG膜では、膜中の炭素は、主に末端Si-Me基(Si(CH))の形態で存在し;小さい密度のジシリルメチレン基(SiCHSi)が膜中に存在することもある。本開示に記載される、例えば1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(IPOTMDS)などのアルコキシジシロキサン前駆体を用いて、誘電率の所与の値で、DEMS(商標)に基づいた膜より総炭素含有量が大きい緻密なOSG膜を堆積させることができる。しかし、アルコキシジシロキサン前駆体を用いて製造される膜における炭素の配分は、DEMS(商標)を用いて製造される膜におけるものとは大きく異なる。アルコキシジシロキサン前駆体を用いて製造される膜は、DEMS(商標)などの先行技術の構造形成剤を用いて製造される膜より、より高い濃度の末端Si-Me基(Si(CH))、及びはるかに高い濃度の橋掛けSiCHSi基を有する。すなわち、本発明のアルコキシジシロキサン前駆体を用いて製造される膜では、DEMS(商標)などの先行技術の構造形成前駆体と比較して、膜中の総炭素のはるかに大きい割合が、橋掛けSiCHSi基として組み入れられる。
【0018】
しかし、先行技術のケイ素含有構造形成前駆体(例えばDEMS(商標))は、反応チャンバ内でひとたびエネルギーを与えられると重合して、ポリマー主鎖中に-O-結合(例えば、-Si-O-Si又は-Si-O-C-)を有する構造を形成するが、例えばIPOTMDS分子などのアルコキシジシロキサン化合物は、主鎖中のいくつかの-O-ブリッジが-CH-メチレンブリッジと置換した構造を形成するように重合する。構造形成前駆体としてDEMS(商標)を用いて堆積させた、炭素が主に末端Si-Me基の形態で存在する膜では、%Si-Meと機械的強度との関係があり、橋掛けSi-O-Si基を2つの末端Si-Me基と置き換えると、網目構造が破壊されるため、機械的特性が低下する(例えば、図1の弾性率とケイ素原子当たりのメチル基との予測された関係を参照のこと)。理論により拘束されるものではないが、アルコキシジシロキサン化合物の場合、前駆体構造は、構造形成剤中の末端Si-Me基(Si(CH))の高い比率を膜の網目構造中の橋掛けメチレン基(ジシリルメチレン(SiCHSi))に変換するプラズマ中での反応を容易にすると考えられる。このように、これは、橋掛け基の形態で炭素を組み入れることができるため、機械的強度の観点から、網目構造は、膜中の炭素含有量を増加させることによって破壊されることはない。さらに、これは、膜に炭素を追加し、膜が、膜のエッチング、フォトレジストのプラズマアッシング、及び銅表面のNHプラズマ処理などのプロセスによる炭素減少に対してより弾性的であるようにする。例えばIPOTMDSなどの式(I)のアルコキシジシロキサン化合物を用いて製造される膜の別のユニークな性状は、総炭素含有量に占めるSiCHSi基の割合が、DEMS(商標)及びMIPSCPなどの先行技術の構造形成剤と比較して高いことである。
【0019】
1-メチル-1-イソ-プロポキシ-1-シラシクロペンタン(MIPSCP)などの他の先行技術の構造形成前駆体は、ジシリルメチレン基(SiCHSi)の濃度が高い緻密なOSG膜を堆積させることができる。しかし、高濃度のジシリルメチレン基(SiCHSi)を含有するMIPSCPから堆積した緻密なOSG膜は、高い総炭素含有量も有し、結果として1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(IPOTMDS)などの本開示に記載されたアルコキシジシロキサン前駆体から堆積した緻密なOSG膜と比較して、総炭素のより小さい割合が、ジシリルメチレン基として組み込まれている。さらに、MIPSCPから堆積した緻密なOSG膜は、高濃度の末端Si-Me基(Si(CH)も含有する。図1に示されるように、高濃度の末端Si-Me基は、膜の機械的強度に悪影響を与え、最終的に、構造形成剤としてMIPSCPを用いて達成可能な最も高い機械的強度を制限する。
【0020】
アルコキシジシロキサンは、緻密なオルガノシリカ膜の比較的低い誘電率を達成することと、ジエトキシメチルシラン(DEMS(商標))及び1-イソ-プロポキシ-1-メチルシラシクロペンタン(MIPSCP)などの先行技術の構造形成前駆体と比較して、同等かそれより大きい機械的特性を示すこととを可能にするユニークな性状を提供する。理論により拘束されることはないが、本発明に係るアルコキシジシロキサンは、プラズマ化学気相堆積中に、MeSiOMe又はMeSiOEtなどの先行技術(Bayer,Cら、“Overall Kinetics of SiOx Remote-PECVD using Different Organosilicon Monomers,”116-119 Surf. Coat. Technol. 874 (1999))で開示されるメチルラジカルより安定なラジカル、たとえば(アルコキシジシロキサン中のアルコキシ基に応じて)Rが、イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、シクロペンチル又はシクロヘキシルなどの分岐状又は環式のC~C10アルキルからなる群から選択される場合、(CHCH・、(CH)(CHCH)HC・、(CHC・、sec-ペンチル、tert-ペンチル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルを提供することができると考えられる。(CHCH・、(CH)(CHCH)HC・、(CHC・、sec-ペンチル、tert-ペンチル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルなどのプラズマ中でより安定なラジカルのより高い密度は、(SiCH・を形成する)前駆体中の末端ケイ素メチル基(Si-(CH)のうちの1つからの水素原子の抜き取りの可能性を増加させ、堆積膜中の橋掛けSi-CH-Si基の形成を容易にすることができる。おそらくIPOTMDSの場合には、前駆体中の4つの末端ケイ素メチル基(ケイ素原子当たり2つ)の存在が、ケイ素原子当たりのより少数の末端メチル基を含有する前駆体と比較して、堆積膜における高密度のジシリルメチレン基(Si-CH-Si)の形成を促進する。おそらくIPOTMDSの場合には、Si-H結合の存在は、前駆体中のケイ素当たりの2つの末端メチル基への素早い接近を容易にし、H原子より大きい配位子を含有する前駆体と比較して、堆積膜における高密度のジシリルメチレン基(Si-CH-Si)の形成を促進する。本件において開示される好ましい特性を有する膜は、式(I)(式中、R=Me又はEt)のアルコキシジシロキサンから堆積させることもできる。
【0021】
ケイ素前駆体としてアルコキシジシロキサンを用いて達成される従来よりも優れた利点のうちのいくつかとしては、以下に制限されるものではないが、次のものが挙げられる:
合成がより低コストで容易
PIDに対する高い耐性
高い弾性率
総炭素含有量に占めるSiCHSiの割合が高い
高い初期破壊電圧(EBD
【0022】
1つの側面において、方法は、PIDに対する改善された耐性及び高い機械的特性を有する緻密なオルガノシリカ膜を製造するために提供され、方法は、以下のステップを含む:基材を反応チャンバ内に提供すること;反応チャンバに、式(I):
【化2】
(式中、Rは、線形又は分岐状のC~Cアルキル、好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル又はtert-ブチル、及び環式のC~Cアルキルから選択され;Rは、水素、及び線形又は分岐状のC~Cアルキル、好ましくはメチルから選択され;R3~5は、線形又は分岐状のC~Cアルキル、好ましくはメチルから独立して選択され;Rは、水素、線形若しくは分岐状のC~Cアルキル又はOR(式中、Rは、線形又は分岐状のC~Cアルキルから選択される。)から選択される。)
の構造を有する少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物を、酸素源と共に、又は酸素源なしで導入すること。上記の式(I)については、アルキル基の組み合わせは、分子の沸点が200℃未満であるように選択される。加えて、最適な性能のために、アルキル基は、ホモリティック結合解離の際に第二級又は第三級のラジカルを形成する(例えば、SiO-R→SiO・+R・(式中、R・は、エネルギーが反応チャンバ中のガス状の組成物に適用された際に形成されるイソプロピルラジカル又はtert-ブチルラジカルなどの第二級又は第三級のラジカルである。))ように選択される。次いで、エネルギーが、反応チャンバ中のアルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物に適用されて、アルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物の反応を引き起こし、基材に有機ケイ素膜が堆積する。例示的な実施態様によれば、オルガノシリカ膜は、約2.70~約3.20の誘電率、及び約7~約27GPaの弾性率を有する。基材温度は、得られる緻密なオルガノシリカ膜の特性に影響を及ぼすこともあり、例えば、300~400又は350~400℃などの比較的高い温度が好ましい場合がある。一定の実施態様において、酸素源は、水蒸気、水プラズマ、オゾン、酸素、酸素プラズマ、酸素/ヘリウムプラズマ、酸素/アルゴンプラズマ、窒素酸化物プラズマ、二酸化炭素プラズマ、過酸化水素、有機過酸化物、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0023】
1つの特定の実施態様において、方法は、PIDに対する改善された耐性及び高い機械的特性を有する緻密なオルガノシリカ膜を製造するために提供され、方法は、以下のステップを含む:基材を反応チャンバ内に提供すること;反応チャンバに、式(II):
【化3】
(式中、Rは、線形又は分岐状のC1~アルキル、好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、又はtert-ブチル、好ましくはエチル、イソプロピル又はsec-ブチル、又はtert-ブチル、及び環式のC~Cアルキルから選択される。)
で与えられる構造を有する少なくとも1種のアルコキシジシロキサン化合物を含むガス状の組成物を、酸素源と共に、又は酸素源なしで;Heなどの不活性ガスと共に、又は不活性ガスなしで導入すること。次いで、エネルギーが、反応チャンバ中のアルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物に適用されて、アルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物の反応を引き起こし、基材に有機ケイ素膜が堆積する。例示的な実施態様によれば、オルガノシリカ膜は、約2.70~約3.20の誘電率、及びSi-CH-Si結合による約7~約27GPaの比較的高い弾性率を有する。
【0024】
表Iは、式(II)を有する好ましいアルコキシジシロキサンを示す。多数の化合物が開示されているが、最も好ましい分子は、分子の沸点が200℃未満(好ましくは150℃未満)であるように選択されたアルキル基(R1~6)の組み合わせを有するものである。加えて、最適な性能のために、R1~6は、ホモリティック結合解離の際に第二級又は第三級のラジカルを形成する(例えば、Si-R2~5→Si・+R2~5・又はSiO-R→SiO・+R・(式中、R・及びR・はイソプロピルラジカル又はtert-ブチルラジカルなどの第二級又は第三級のラジカルである。))ように選択される。アルコキシジシロキサンの最も好ましい例は、それぞれ、760Torrで110℃~180℃の予測沸点を有する、1-エトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(IPOTMDS)又は1-sec-ブトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(SBOTMDS)である。
【0025】
式(II)を有する好ましいアルコキシジシロキサン化合物のリスト
【表1-1】




【表1-2】



【0026】
本発明に係る式(I)又は(II)を有するアルコキシジシロキサン、及び本発明に係る式(I)又は(II)を有するアルコキシジシロキサン化合物を含む組成物は、好ましくは、ハロゲン化物イオンを実質的に含まない。本開示で用いられる「実質的に含まない」という用語は、ハロゲン化物イオン(又はハライド)、例えば、塩化物(すなわち、HClなどの塩化物含有種、又は少なくとも1つのSi-Cl結合を有するケイ素化合物)、及びフッ化物、臭化物及びヨウ化物などのハロゲン化物イオンに関する場合、イオンクロマトグラフィー(IC)による測定で5ppm未満(質量)を意味し、好ましくは、ICによる測定で3ppm未満、より好ましくは、ICによる測定で1ppm未満、最も好ましくはICによる測定で0ppmを意味する。塩化物は、式(I)又は(II)を有するケイ素前駆体化合物の分解触媒として働くことが知られている。最終製品中のかなりの量の塩化物は、ケイ素前駆体化合物を劣化させる可能性がある。ケイ素前駆体化合物の緩やかな劣化は、膜堆積プロセスに直接影響を与え、半導体製造者が膜仕様を満たすことを困難にする場合がある。加えて、貯蔵寿命又は安定性は、ケイ素前駆体化合物のより高い劣化速度によって悪影響を受け、これによって、1~2年の貯蔵寿命を保証することが困難になる。
【0027】
式(I)又は(II)を有するアルコキシジシロキサンは、好ましくは、Li、Na、K、Mg2+、Ca2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Ni2+、Cr3+などの金属イオンを実質的に含まない。本開示で用いられる「実質的に含まない」という用語は、Li、Na、K、Mg、Ca、Al、Fe、Ni、Crに関する場合、ICP-MSによる測定で、5ppm未満(質量)、好ましくは3ppm未満、より好ましくは1ppm未満、最も好ましくは0.1ppmを意味する。いくつかの実施態様において、式(I)を有するケイ素前駆体化合物は、Li、Na、K、Mg2+、Ca2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Ni2+、Cr3+などの金属イオンを含まない。本開示で用いられる金属不純物を「含まない」という用語は、Li、Na、K、Mg、Ca、Al、Fe、Ni、Crに関する場合、ICP-MSによる測定で1ppm未満、好ましくは0.1ppm(質量)を意味し、最も好ましくはICP-MS又は金属の測定のための他の分析法による測定で0.05ppm(質量)を意味する。加えて、式(I)を有するアルコキシジシロキサンは、緻密なオルガノシリカ膜を堆積させるための前駆体として用いられる場合、GCによる測定で、好ましくは98質量%又はそれより高い、より好ましくは99質量%又はそれより高い純度を有する。
【0028】
重要なことには、式(I)を有するアルコキシジシロキサン化合物は、好ましくは、合成中に用いられる出発物質又は合成中に生成される副生物由来のものなどの酸素含有又は窒素含有不純物を実質的に含まない。例としては、以下に制限されるものではないが、テトラメチルジシロキサン、有機アミン、たとえばトリエチルアミン、ピリジン、及び反応を促進するために用いられる他の有機アミンが挙げられる。本開示で用いられる酸素含有又は窒素含有不純物を「含まない」という用語は、テトラメチルジシロキサン、テトラメチルジシラザン、有機アミン、たとえばトリエチルアミン、ピリジン、及び他の有機アミンに関する場合、GCによる測定で、10000ppm以下、好ましくは500ppm(質量)以下を意味し、最も好ましくは、GC又は分析のための他の分析法による測定で、100ppm(質量)以下を意味する。本開示で定義される酸素含有不純物は、少なくとも1つの酸素原子を有する化合物であり、出発材料に由来するか、式(I)を有するアルコキシジシロキサン化合物の合成から生成される。これらの酸素含有不純物は、式(I)を有するアルコキシジシロキサン化合物に近い沸点を有する場合があり、したがって、精製の後に製品に残る可能性がある。同様に、本開示で定義される窒素含有不純物は、少なくとも1つの窒素原子を有する化合物であり、出発材料に由来するか、式(I)を有するアルコキシジシロキサン化合物の合成から生成される。これらの窒素含有不純物は、式(I)を有するアルコキシジシロキサン化合物に近い沸点を有する場合があり、したがって、精製の後に製品に残る可能性がある。
【0029】
低k誘電体膜は、オルガノシリカガラス(「OSG」)の膜又は材料である。オルガノシリケートは、エレクトロニクス産業において、例えば低k材料として用いられる。材料特性は、膜の化学的な組成及び構造に依存する。有機ケイ素前駆体の種類が膜の構造と組成に強い影響を与えるため、所望の誘電率を達成するのに必要な量の多孔性のを追加しても機械的に堅固でない膜を与えないことを保証するのに要求される膜特性を提供する前駆体を用いることは有益である。本開示に記載される方法及び組成物は、電気的及び機械的特性の望ましいバランス、並びに高炭素含有量として改善されたインテグレーションプラズマ耐性を提供する他の有益な膜特性を有する低k誘電体膜を生成する手段を提供する。
【0030】
本開示に記載される方法及び組成物の一定の実施態様において、ケイ素含有誘電体材料の層は、反応チャンバを用いる化学気相堆積(CVD)プロセスによって、基材の少なくとも一部に堆積される。したがって、方法は、基材を反応チャンバ内に提供するステップを含む。適切な基材としては、以下に制限されるものではないが、半導体材料、たとえば、ガリウムひ素(「GaAs」)、シリコン、及びケイ素を含有する組成物、たとえば、結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコン、エピタキシャルシリコン、二酸化ケイ素、(「SiO」)、ケイ素ガラス、窒化ケイ素、融解石英、ガラス、石英、ホウケイ酸ガラス、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。他の適切な材料としては、クロム、モリブデン、並びに半導体、集積回路、フラットパネルディスプレイ、及びフレキシブルディスプレイアプリケーションにおいて一般に用いられる他の金属が挙げられる。基材は、例えば、シリコン、SiO2、オルガノシリケートガラス(OSG)、フッ素化シリケートガラス(FSG)、炭窒化ホウ素、炭化ケイ素、水素化炭化ケイ素、窒化ケイ素、水素化窒化ケイ素、炭窒化ケイ素、水素化炭窒化ケイ素、窒化ホウ素、有機無機複合材料、フォトレジスト、有機ポリマー、多孔性の有機材料及び無機材料及び複合体、酸化アルミニウム及び酸化ゲルマニウムなどの金属酸化物などの追加の層を有してよい。さらなる層は、ゲルマノシリケート、アルミノシリケート、銅、及びアルミニウム、及び以下に制限されるものではないが、TiN、Ti(C)N、TaN、Ta(C)N、Ta、W、又はWNなどの拡散バリア材料であってもよい。
【0031】
例えば、反応チャンバは、典型的には、熱CVD若しくはプラズマCVD反応器、又は様々な方法でのバッチ炉タイプ反応器である。1つの実施態様において、液体輸送システムを利用することができる。液体輸送配合物において、本開示に記載される前駆体は、ニートの液体形態で輸送することができ、代わりに、これを含む溶媒配合物又は組成物で用いることもできる。したがって、一定の実施態様において、前駆体配合物は、基材に膜を形成する所与の最終用途適用において望ましく、有利であり得るような適切な性質の溶媒成分(1種又は複数種)を含んでよい。
【0032】
本開示に開示される方法は、反応チャンバにアルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物を導入するステップを含む。いくつかの実施態様において、組成物は、追加の反応物、例えば、酸素含有種、例えばO2、及びNO、ガス状又は液状の有機物質、CO又はCOなどを含んでよい。1つの特定の実施態様において、反応チャンバに導入される反応混合物は、O2、O、NO、NO、CO、水、H、オゾン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の酸化剤を含む。代替的な実施態様において、反応混合物は酸化剤を含まない。
【0033】
本開示に記載される誘電体膜を堆積させるための組成物は、約40~約100質量パーセントのアルコキシジシロキサンを含む。
【0034】
実施態様において、アルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物は、堆積膜の弾性率をさらに増加させるために、硬化添加剤と共に用いることができる。
【0035】
実施態様において、アルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物は、例えば塩化物などのハライドを実質的に含まないか、含まない。
【0036】
アルコキシジシロキサンに加えて、追加の材料を、堆積反応の前、間、及び/又は後に反応チャンバに導入することができる。そのような材料としては、例えば、不活性ガス(例えば、He、Ar、N、Kr、Xe等、これは、比較的揮発性の低い前駆体のキャリアガスとして用いることができ、かつ/または堆積材料の硬化を促進し、改善された膜特性を提供することができる)が挙げられる。
【0037】
アルコキシジシロキサンを含む用いられる試薬は、別個の源から別々に、または混合物として反応器に運ぶことができる。試薬は、任意の数の手段によって、好ましくは、プロセス反応器への液体の輸送を可能にするのに適切なバルブ及び付属品が取り付けられた加圧可能なステンレス鋼ベッセルを用いて、反応器システムに輸送することができる。好ましくは、前駆体は、ガスとしてプロセス減圧チャンバに輸送され、すなわち、液体は、それがプロセスチャンバに輸送される前に気化される必要がある。
【0038】
他の実施態様において、本開示に開示される方法は、反応チャンバに1-アルコキシ-1-メチルシラシクロペンタン及びアルコキシジシロキサンの混合物を含むガス状の組成物を導入するステップを含む。
【0039】
本開示に開示される方法は、反応チャンバ中のアルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物にエネルギーを適用して、アルコキシジシロキサンを含むガス状の組成物の反応を引き起こし、基材にオルガノシリカ膜を堆積させるステップを含み、オルガノシリカ膜は、いくつかの実施態様では約2.50~約3.30、他の実施態様では2.80~3.20、さらに好ましい実施態様では2.80~3.10の誘電率;約6~約35GPa、好ましくは7~27GPaの弾性率;及びXPSによる測定で約15~約40の原子%炭素を有する。エネルギーをガス状試薬に適用して、アルコキシジシロキサン、及び他の反応物(存在する場合)の反応を引き起こし、基材に膜を形成する。そのようなエネルギーは、例えば、プラズマ、パルスプラズマ、ヘリコンプラズマ、高密度プラズマ、誘導結合プラズマ、遠隔プラズマ、熱フィラメント、及び熱(すなわち非フィラメント)及び方法によって提供することができる。二次rf周波数源を用いて、基材表面でプラズマ特性を変更することができる。二次RF周波数は、一次RF周波数と共に適用しても、二次RF周波数の適用に続いて適用してもよい。好ましくは、膜は、プラズマ化学気相堆積(「PECVD」)によって形成される。
【0040】
ガス状試薬の各々の流量は、単一の300mmウェハ当たり、好ましくは、10~7000sccm、より好ましくは30~3000sccmの範囲である。必要とされる実際の流量は、ウェハサイズ及びチャンバ構成に依存してよく、300mmウェハ又は単一のウェハチャンバに制限されるものではない。
【0041】
一定の実施態様において、膜は、毎分約5~約400ナノメートル(nm)の堆積速度で堆積する。他の実施態様において、膜は、毎分約30~200ナノメートル(nm)の堆積速度で堆積する。
【0042】
堆積中の反応チャンバ内の圧力は、典型的には、約0.01~約600トール又は約1~15トールの範囲である。
【0043】
厚さは、必要に応じて種々様々であってよいが、膜は、好ましくは、0.001~500ミクロンの厚さに堆積する。非パターン化表面に堆積したブランケット膜は、優れた均一性を有し、例えば、基材の5mmの最も外側のエッジが均一性の統計的計算に含まれない合理的なエッジ除外で、基材にわたって1標準偏差に対して3%未満の厚さの変動を有する。
【0044】
本発明のOSG製品に加えて、本発明は、製品が製造されるプロセス、製品及び化合物を用いる方法、並びに製品を調製するのに有用な組成物を含む。例えば、半導体デバイス上に集積回路を製造するプロセスは、米国特許第6,583,049号に開示され、これは、参照によって本開示に組み込まれる。
【0045】
開示された方法によって製造される緻密なオルガノシリカ膜は、特に、エッチング及びフォトレジストストリッププロセス中の、プラズマ誘発損傷に対する優れた耐性を示す。
【0046】
開示された方法によって製造される緻密なオルガノシリカ膜は、同じ誘電率を有するが、アルコキシジシロキサンではない前駆体から製造された緻密なオルガノシリカ膜に対して、所与の誘電率について優れた機械的特性を示す。典型的には、得られる(堆積されたままの)オルガノシリカ膜は、いくつかの実施態様では約2.50~約3.30、他の実施態様では約2.80~約3.20、さらに別の実施態様では約2.80~約3.10の誘電率、約6~約35GPaの弾性率、及びXPSによる測定で、約15~約40の原子%炭素を有する。他の実施態様において、得られるオルガノシリカ膜は、いくつかの実施態様では約2.50~約3.30、他の実施態様では約2.80~約3.20、さらに別の実施態様では約2.80~約3.10の誘電率、約6~約35GPaの弾性率を有し、他の実施態様において、得られるオルガノシリカ膜は、いくつかの実施態様では約7~約27GPa、他の実施態様では約7~約23GPaの弾性率、及びXPSによる測定で、約15~約40の原子%炭素を有する。いくつかの実施態様において、窒素のとり込みは、緻密なオルガノシリカ膜の誘電性を潜在的に増加させたり、緻密なオルガノシリカ膜の電気的特性に悪影響を与えたりする可能性があると考えられているため、したがって、窒素含有量は、XPS、SIMS若しくはRBS、又は任意の分析法による測定で、0.1原子%又はそれ未満、好ましくは0.1原子%又はそれ未満、最も好ましくは0.01原子%又はそれ未満であることが期待される。加えて、オルガノシリカ膜は、FTIRスペクトルからの計算で、約1~約45、又は約5~約40、又は約10~約40の相対的なジシリルメチレン密度を有する。いくつかの実施態様において、オルガノシリカ膜は、約5nm/min~約200nm/min、又は約5nm/min~約100nm/minの速度で堆積する。他の実施態様において、オルガノシリカ膜は、約100nm/min~約500nm/min、又は約100nm/min~約350nm/min、又は約200nm/min~約350nm/minのより高い速度で堆積する。重要なことには、式(I)を有するアルコキシジシロキサンは、既存のSi-O-Si結合を有するため、他のアルコキシシランより高い堆積速度を提供することが予想される。
【0047】
説明の全体にわたって、シンボル「約」又は「約」は、値からの約5.0%の偏差を指し、例えば、約3.00は、約3.00(±0.15)を示す。
【0048】
得られる緻密なオルガノシリカ膜は、堆積後に後処理プロセスに供してもよい。したがって、本開示で用いられる「後処理」という用語は、材料特性をさらに高めるために、エネルギー(例えば、熱、プラズマ、光子、電子、マイクロ波等)又は化学物質で膜を処理すること示す。
【0049】
後処理が実施される条件は、種々様々であってよい。例えば、後処理は、高圧下、又は減圧環境下で実施することができる。
【0050】
UVアニールは、以下の条件下で実施される好ましい方法である。
【0051】
環境は、不活性(例えば窒素、CO、希ガス(He、Ar、Ne、Kr、Xe)等)、酸化性(例えば酸素、空気、希酸素環境、酸素に富んだ環境、オゾン、一酸化二窒素等)、又は還元性(希薄又は濃縮水素、炭化水素(飽和、不飽和、線形又は分岐、芳香族)等)であってよい。圧力は、好ましくは約1Torr~約1000Torrである。しかし、減圧環境が、熱アニール、及び他の後処理手段について好ましい。温度は、好ましくは200~500℃であり、昇温速度は0.1~100deg℃/minである。全UVアニール時間は、好ましくは0.01min~12時間である。
【0052】
本発明は、以下の例を参照してより詳細に示されるが、それに制限されるとはみなされないと理解されるべきである。本発明に記載された前駆体は、既存の多孔性低k膜に対して、同様のプロセス利点(すなわち、誘電率の所与の値について、プラズマ誘発損傷に対するより大きい耐性、及び同等か、それより高い機械的特性)で多孔性低k膜を堆積させるために用いることもできることも認識される。
【実施例
【0053】

すべての実験は、300mmAMAT Producer SEで実施され、それは、2つのウェハに膜を同時に堆積させる。したがって、前駆体とガスの流量は、2つのウェハに同時に膜を堆積させるのに要求される流量に対応する。各ウェハ処理ステーションは、それ自体の独立したRF電源を有するため、ウェハごとに示されるRF出力は正確である。両方のウェハ処理ステーションは同じ圧力で維持されるため、示される堆積圧力は正確である。堆積の後、いくつかの膜は、UV硬化又はアニールに供された。UV硬化は、300mmAMAT Producer(商標)NanocureTM UV cure moduleで実施され、ウェハは、10Torr未満の1つ又はそれより多くの圧力、及び400℃以下の1つ又はそれより多くの温度で、ヘリウムガス流の下で保持された。
【0054】
一定の具体的な実施態様及び例に関して上に示し、記載したが、それにもかかわらず、本発明は、示された詳細に制限されることは意図されない。むしろ、様々な変更が、特許請求の範囲の均等物の範囲及び範囲内の詳細において、本発明の精神から逸脱することなくなされてよい。例えば、この文書において広く記載されたすべての範囲は、より広い範囲内にある、その範囲内のすべてのより狭い範囲を含むことが、明確に意図される。本発明において開示されたアルコキシジシロキサンを、高い弾性率、高いXPS炭素含有量、及びプラズマ誘発損傷に対する高い耐性を有する多孔性低k膜の堆積のための構造形成剤として用いることができることも認識される。
【0055】
厚さ及び屈折率は、WoollamモデルM2000 Spectroscopic Ellipsometerで測定された。誘電率は、中抵抗率のp型ウェハ(8~12オームcmの範囲)上でHgプローブ技術を用いて決定された。FTIRスペクトルは、12インチウェハを扱うための窒素パージされたPike Technologies Map300が取り付けられたThermo Fisher Scientific Model iS50分光計を用いて測定された。FTIRスペクトルを用いて、膜中の橋掛けジシリルメチレン基の相対的な密度を計算した。赤外分光法によって決定される膜中の橋掛けジシリルメチレン基の相対的な密度(すなわちSiCHSi密度)は、1360cm-1付近を中心とするSiCHSi赤外バンドの面積を約1250cm-1~920cm-1のSiOバンドの面積で割ったものに1E4をかけたものとして定義される。FTIRスペクトルを用いて、膜中の末端ケイ素メチル基の相対的な密度を計算した。赤外分光法によって決定される、膜中の末端ケイ素メチル基の相対的な密度(すなわち、Si(CH(x=1、2、3)密度)は、1273cm-1付近を中心とするSi(CH赤外バンドの面積を約1250cm-1~920cm-1のSiOバンドの面積で割ったものに1E2をかけたものとして定義される。膜中の総炭素のうちSiCHSi基で構成される割合は、IR分光法によって決定されるSiCHSi基の相対的な密度と、XPSによって測定される膜の総炭素含有量を100で割った値との比として定義される。この比は、丸める前のIR分光法によって決定されるSiCHSi基の相対的な密度の実験値(有効数字最大4桁)、及びXPS炭素含有量の実験値(有効数字最大4桁)を用いて計算された(例えば、IPOTMDSに基づいた本発明例1の膜について、比は、実際には、表1に示されるように、丸めた後の24/(25/100)=96ではなく、97である。)。表1~4において、IR分光法によって決定されるSiCHSi基の相対的な密度と、XPSによって測定される膜の総炭素含有量を100で割った値との、報告された比は、最も近い整数に丸められた。機械的特性は、KLA iNano Nano Indenterを用いて決定された。
【0056】
組成のデータは、X線光電子分光法(XPS)によって得られた。XPSは、アルミニウムK-アルファ1486.68eV源を備えるThermo Fisher Thermo K-Alpha XPSを用いて実施され、検出器は、試料表面に対して垂直な角度である。装置は、各測定の前に内部Au標準を用いて較正される。バルク組成は、1keV Arスパッタリングガンを用いて、材料の上部約20nmをスパッタリングした後に調べられる。報告された原子量パーセント(%)値は、水素を含まない。
【0057】
ダイナミックSIMSプロファイルは、スパッタリングによって低k膜の表面から材料を除去するように低エネルギーCs+イオンの連続的な集束ビームを用いて得られた。低エネルギーCs+イオンを用いて、衝突カスケードにより原子混合を低減し、深さ分解能を最大化した。スパッタ速度は、膜-ウェハ界面のすぐ近くまでスパッタし、次いで、スタイラスプロフィロメーターでスパッタされた深さを測定することによって較正された。分析されているものと同様の緻密な低k膜のRBS/HFSデータを用いて、SIMSプロファイルを定量化した。ダイナミックSIMS深さプロファイルを得るために用いたパラメータは、調べられたすべてのプラズマ損傷低k膜に関して同じであった。
【0058】
以下に示される例の各前駆体について、堆積条件は、目的の誘電率において高い機械的強度を有する膜を生成するように最適化された。
【0059】
一定の具体的な実施態様及び例に関して上に示し、記載したが、それにもかかわらず、本発明は、示された詳細に制限されることは意図されない。むしろ、様々な変更が、特許請求の範囲の均等物の範囲及び範囲内の詳細において、本発明の精神から逸脱することなくなされてよい。例えば、この文書において広く記載されたすべての範囲は、より広い範囲内にある、その範囲内のすべてのより狭い範囲を含むことが、明確に意図される。本発明において開示されたアルコキシジシロキサンを、プラズマ誘発損傷に対する高い耐性、及び高い機械的特性を有する多孔性低k膜の堆積のための構造形成剤として用いることができることも認識される。
【0060】
合成例1:1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの合成
【0061】
93.7g(1.56mol)のイソプロピルアルコール(無水)は、室温で209g(1.56mol)の1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン及び1.25Lの無水THF中の0.01%モル濃度の触媒に滴下された。一日経過後、GC-MSは、所望の生成物m/z192の形成を示した。GCは、所望の生成物と二置換体との比が9:1であることを示した。溶媒は、大気圧にて蒸留によって除去された。生成物は、28Torrの減圧下、51℃の蒸気温度にて221.8gの量で単離され、純度95%であった。収率は74%であった。
【0062】
合成例2:1-sec-ブトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの合成
【0063】
0.21g(2.8mmol)の2-ブタノールは、室温で0.38g(2.8mmol)の1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン及び3mLの無水THF中の0.03%モル濃度の触媒に滴下された。1時間後、GC-MSは、所望の生成物m/z206の形成を示した。
【0064】
合成例3:1-tertブトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの合成
【0065】
0.21g(2.8mmol)のt-ブタノールは、室温で0.38g(2.8mmol)の1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン及び3mLの無水THF中の0.03%モル濃度の触媒に滴下された。1時間後、GC-MSは、所望の生成物m/z206の形成を示した。
【0066】
合成例4:1-シクロヘキソキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの合成
【0067】
0.28g(2.8mmol)のシクロヘキサノールは、室温で0.38g(2.8mmol)の1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン及び3mLの無水THF中の0.03%モル濃度の触媒に滴下された。1時間後、GC-MSは、所望の生成物m/z232の形成を示した。
【0068】
他の化合物は、例1~4と同様に製造され、GC-MSによって特性評価された。各化合物の分子量(MW)、構造、及び対応する主なMSフラグメンテーションピークは、以下のとおりこれらの同定を確認するために以下に提供される。
【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】

【表2-4】

【表2-5】

【表2-6】

【表2-7】
【0069】
比較例1:ジエトキシメチルシラン(DEMS(商標))からの緻密なOSG膜の堆積。
【0070】
緻密なDEMS(商標)に基づいた膜は、以下の300mm処理のプロセス条件を用いて堆積された。DEMS(商標)前駆体は、1250標準立方センチメートル毎分(sccm)のHeキャリアガス流を用いる2500mg/minの流量、25sccmのO、380ミリインチのシャワーヘッド/加熱ペデスタル間隔、350℃のペデスタル温度、7.5Torrのチャンバ圧で直接液体注入(DLI)を介して反応チャンバに輸送され、これに、615ワット、13.56MHzのプラズマが適用された。膜の様々な性状(例えば、誘電率(k)、弾性率及び硬度、赤外スペクトルによるSi(CH及びSiCHSiの相対的な密度、並びにXPSによる原子組成(原子パーセント炭素、原子パーセント酸素、及び原子パーセントケイ素))は、上記のように得られた。これは、表1に提供される。
【0071】
比較例2:1-メチル-1-イソ-プロポキシ-1-シラシクロペンタン(MIPSCP)からの緻密なOSG膜の堆積。
【0072】
緻密な1-メチル-1-イソ-プロポキシ-1-シラシクロペンタン(MIPSCP)に基づいた膜は、以下の300mm処理のプロセス条件を用いて堆積された。1-メチル-1-イソ-プロポキシ-1-シラシクロペンタン前駆体は、750標準立方センチメートル毎分(sccm)のHeキャリアガス流を用いる850mg/minの流量、8sccmのO、380ミリインチのシャワーヘッド/加熱ペデスタル間隔、390℃のペデスタル温度、7.5Torrのチャンバ圧で直接液体注入(DLI)を介して反応チャンバに輸送され、これに、275ワット、13.56MHzのプラズマが適用された。膜の様々な性状(例えば、誘電率(k)、弾性率及び硬度、赤外スペクトルによるSi(CH及びSiCHSiの相対的な密度、並びにXPSによる原子組成(原子パーセント炭素、原子パーセント酸素、及び原子パーセントケイ素))は、上記のように得られた。これは、表1に提供される。
【0073】
比較例3:DEMS(商標)からの緻密なOSG膜の堆積。
【0074】
緻密なDEMS(商標)に基づいた膜は、以下の300mm処理のプロセス条件を用いて堆積された。DEMS(商標)前駆体は、1500標準立方センチメートル毎分(sccm)のHeキャリアガス流を用いる1500mg/minの流量、75sccmのO、380ミリインチのシャワーヘッド/加熱ペデスタル間隔、350℃のペデスタル温度、7.5Torrのチャンバ圧で直接液体注入(DLI)を介して反応チャンバに輸送され、これに、465ワット、13.56MHzのプラズマが適用された。膜の様々な性状(例えば、誘電率(k)、弾性率及び硬度、赤外スペクトルによるSi(CH及びSiCHSiの相対的な密度、並びにXPSによる原子組成(原子パーセント炭素、原子パーセント酸素、及び原子パーセントケイ素))は、上記のように得られた。これは、表2に提供される。
【0075】
比較例4:DEMS(商標)からの緻密なOSG膜の堆積。
【0076】
緻密なDEMS(商標)に基づいた膜は、以下の300mm処理のプロセス条件を用いて堆積された。DEMS(商標)前駆体は、1500標準立方センチメートル毎分(sccm)のHeキャリアガス流を用いる2000mg/minの流量、25sccmのO、380ミリインチのシャワーヘッド/加熱ペデスタル間隔、350℃のペデスタル温度、7.5Torrのチャンバ圧で直接液体注入(DLI)を介して反応チャンバに輸送され、これに、217ワット、13.56MHzのプラズマが適用された。膜の様々な性状(例えば、誘電率(k)、弾性率及び硬度、赤外スペクトルによるSi(CH及びSiCHSiの相対的な密度、並びにXPSによる原子組成(原子パーセント炭素、原子パーセント酸素、及び原子パーセントケイ素))は、上記のように得られた。これは、表3に提供される。
【0077】
本発明例1:1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンからの緻密なOSG膜の堆積。
【0078】
オルガノシリケート(OSG)膜は、ケイ素前駆体として1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを用いて堆積される。300mmウェハに複合膜を堆積させるための堆積条件は、以下のとおりである:前駆体は、1399ミリグラム/分(mg/min)の1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの流量、975標準立方センチメートル毎分(sccm)のヘリウムキャリアガス流、19sccmのO、380ミリインチのシャワーヘッド/ウェハ間隔、400℃のウェハチャック温度、6.7Torrのチャンバ圧で、直接液体注入(DLI)を介して反応チャンバに輸送され、これに、427Wのプラズマが適用された。膜の様々な性状(例えば、誘電率(k)、弾性率及び硬度、赤外スペクトルによるSi(CH及びSiCHSiの相対的な密度、並びにXPSによる原子組成(原子パーセント炭素、原子パーセント酸素、及び原子パーセントケイ素))は、上記のように得られた。これは、表1及び3に提供される。
【0079】
本発明例2:1-エトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンからの緻密なOSG膜の堆積。
【0080】
オルガノシリケート(OSG)膜は、ケイ素前駆体として1-エトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを用いて堆積される。300mmウェハに複合膜を堆積させるための堆積条件は、以下のとおりである:前駆体は、1400ミリグラム/分(mg/min)の1-エトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの流量、925標準立方センチメートル毎分(sccm)のヘリウムキャリアガス流、19sccmのO、380ミリインチのシャワーヘッド/ウェハ間隔、400℃のウェハチャック温度、6.7Torrのチャンバ圧で、直接液体注入(DLI)を介して反応チャンバに輸送され、これに、425Wのプラズマが適用された。膜の様々な性状(例えば、誘電率(k)、弾性率及び硬度、赤外スペクトルによるSi(CH及びSiCHSiの相対的な密度、並びにXPSによる原子組成(原子パーセント炭素、原子パーセント酸素、及び原子パーセントケイ素))は、上記のように得られた。これは、表1に提供される。
【0081】
本発明例3:1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンからの緻密なOSG膜の堆積。
【0082】
オルガノシリケート(OSG)膜は、ケイ素前駆体として1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを用いて堆積される。300mmウェハに複合膜を堆積させるための堆積条件は、以下のとおりである:前駆体は、800ミリグラム/分(mg/min)の1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの流量、975標準立方センチメートル毎分(sccm)のヘリウムキャリアガス流、8sccmのO、380ミリインチのシャワーヘッド/ウェハ間隔、400℃のウェハチャック温度、6.7Torrのチャンバ圧で、直接液体注入(DLI)を介して反応チャンバに輸送され、これに、375Wのプラズマが適用された。膜の様々な性状(例えば、誘電率(k)、弾性率及び硬度、赤外スペクトルによるSi(CH及びSiCHSiの相対的な密度、並びにXPSによる原子組成(原子パーセント炭素、原子パーセント酸素、及び原子パーセントケイ素))は、上記のように得られた。これは、表2に提供される。
【0083】
本発明例4:1-エトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンからの緻密なOSG膜の堆積。
【0084】
オルガノシリケート(OSG)膜は、ケイ素前駆体として1-エトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを用いて堆積される。300mmウェハに複合膜を堆積させるための堆積条件は、以下のとおりである:前駆体は、1400ミリグラム/分(mg/min)の1-エトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの流量、925標準立方センチメートル毎分(sccm)のヘリウムキャリアガス流、8sccmのO、380ミリインチのシャワーヘッド/ウェハ間隔、400℃のウェハチャック温度、6.7Torrのチャンバ圧で、直接液体注入(DLI)を介して反応チャンバに輸送され、これに、350Wのプラズマが適用された。膜の様々な性状(例えば、誘電率(k)、弾性率及び硬度、赤外スペクトルによるSi(CH及びSiCHSiの相対的な密度、並びにXPSによる原子組成(原子パーセント炭素、原子パーセント酸素、及び原子パーセントケイ素))は、上記のように得られた。これは、表2に提供される。
【0085】
本発明例5:1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンからの緻密なOSG膜の堆積。
【0086】
オルガノシリケート(OSG)膜は、ケイ素前駆体として1-イソプロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを用いて堆積される。300mmウェハに複合膜を堆積させるための堆積条件は、以下のとおりである:前駆体は、800ミリグラム/分(mg/min)の1-イソ-プロポキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの流量、975標準立方センチメートル毎分(sccm)のヘリウムキャリアガス流、30sccmのO、380ミリインチのシャワーヘッド/ウェハ間隔、400℃のウェハチャック温度、6.7Torrのチャンバ圧で、直接液体注入(DLI)を介して反応チャンバに輸送され、これに、410Wのプラズマが適用された。膜の様々な性状(例えば、誘電率(k)、弾性率及び硬度、赤外スペクトルによるSi(CH及びSiCHSiの相対的な密度、並びにXPSによる原子組成(原子パーセント炭素、原子パーセント酸素、及び原子パーセントケイ素))は、上記のように得られた。これは、表4に提供される。
【0087】
低k膜に化学的に組み込まれる末端Si(CH)基の量は、誘電率及び機械的強度の両方に影響する。末端Si(CH)基の量を増加させると、誘電率が低下し、膜の機械的強度が低下する。図1は、低k膜の予測されるバルク弾性率の図を提供し、メチル基は、網目においてケイ素原子当たりに加えられたものである。図1は、追加のメチル基が加えられるにつれて、バルク弾性率が連続的に低下することを示す。しかし、膜内にSi(CH)基が少なすぎる場合、誘電率が悪影響を受ける場合がある。したがって、所与の誘電率について、末端メチル基で置換されたSi原子の割合を制限する手段を有することが望ましい。なぜならば、これにより、機械的特性を最大化することができるからである。SiCHSi架橋基の形態で炭素を膜に加える手段を有することが、さらに望ましい。炭素は、架橋基の形態で組み込むことが望ましい。なぜならば、機械的強度の観点から、網目構造は、炭素含有量を増加させることによって乱されることはなく、膜に同じ量の炭素を末端Si(CH基の形態で組み入れる場合に比べてより高い機械的強度を達成することができるからである。SiCHSi架橋基の形態で炭素を膜に加えることにより、膜のエッチング、フォトレジストのプラズマアッシング、及び銅表面のNHプラズマ処理などのプロセスによるOSG膜の炭素減少に対して、膜がより弾性的であるようにすることもできる。OSG膜における炭素減少は、膜の実効誘電率の増加、ウェット洗浄ステップ中の膜エッチング及びフィーチャの曲がりの問題、並びに/又は銅拡散バリアを堆積させる際の集積化問題を引き起こす場合がある。
【0088】
表1は、構造形成剤として、本発明に記載された、例えば、IPOTMDS、及びEOTMDSなどのアルコキシジシロキサン前駆体を用いて製造された3.0の誘電率を有する膜が、DEMS(商標)構造形成剤又はMIPSCP構造形成剤を用いて製造された膜に対して、誘電率の同じ値において、同等か、それより大きい機械的強度を有することを示す。同様に、表2は、構造形成剤として、本発明に記載された、例えば、IPOTMDS、及びEOTMDSなどのアルコキシジシロキサン前駆体を用いて製造された3.1の誘電率を有する膜が、DEMS(商標)構造形成剤を用いて製造された膜に対して、誘電率の同じ値において、同等か、それより大きい機械的強度を有することを示す。
【表3】
【0089】
3.0の誘電率を有する膜に関する表1のデータを検討する。表1の本発明のIPOTMDSに基づいた膜の弾性率は、比較のDEMS(商標)に基づいた膜より20%大きく、表1の本発明のEOTMDSに基づいた膜の弾性率は、比較のDEMS(商標)に基づいた膜より27%大きい。本発明のIPOTMDS及びEOTMDSに基づいた膜の両方の弾性率は、比較のMIPSCPに基づいた膜の弾性率に類似する。しかし、図1のコンピュータモデリング作業に基づき、最も低い密度のSi(CH)基を有する膜は、最も高い機械的強度を有すると予想され、最も高い密度のSi(CH)基を有する膜は、最も低い機械的強度を有すると予想される。表1に示されるように、これはそうではない。説明すると、本発明に記載されたアルコキシジシロキサン前駆体(IPOTMDS、及びEOTMDS)を用いて製造された膜の(それらの赤外スペクトルから決定される)相対的なSi(CH)密度は、比較のDEMS(商標)に基づいた膜のSi(CH)密度より20%大きい。しかし、本発明に記載されたアルコキシジシロキサン前駆体(IPOTMDS、及びEOTMDS)を用いて製造された膜の弾性率及び硬度は、先行技術の構造形成剤DEMS(商標)を用いて製造された膜の弾性率及び硬度より大きい。同様に、比較のMIPSCPに基づいた膜は、比較のDEMS(商標)に基づいた膜より高いSi(CH)密度(+8%)及びより高い機械的強度(+20%)を有する。したがって、本発明に記載されたアルコキシジシロキサン前駆体、例えばIPOTMDS、及びEOTMDSを用いて製造された膜、並びにMIPSCPを用いて製造された膜は、先行技術の構造形成剤DEMS(商標)を用いて製造された膜より高いSi(CH)密度及びより高い機械的強度を有する。これは、予想外であり、Si(CH)密度以外の要因がこれらの膜の機械的強度に寄与していることを示す。
【表4】
【0090】
3.1の誘電率を有する膜に関する表2のデータを検討する。表2の本発明のIPOTMDSに基づいた膜の弾性率は、比較のDEMS(商標)に基づいた膜より29%大きく、表1の本発明のEOTMDSに基づいた膜の弾性率は、比較のDEMS(商標)に基づいた膜より18%大きい。本発明のアルコキシジシロキサン前駆体を用いて製造された膜のSi(CH)密度は、先行技術の前駆体DEMS(商標)を用いて製造された膜のSi(CH)密度より大きい。例えば、本発明のアルコキシジシロキサン前駆体IPOTMDSを用いて製造された膜のSi(CH)密度は、比較のDEMS(商標)に基づいた膜のSi(CH)密度より32%大きく、その一方で、本発明のアルコキシジシロキサン前駆体EOTMDSを用いて製造された膜のSi(CH)密度は、比較のDEMS(商標)に基づいた膜のSi(CH)密度より36%大きい。例えばIPOTMDS、及びEOTMDSなどのアルコキシジシロキサン前駆体を用いて製造された膜が、比較のDEMS(商標)に基づいた膜に対してより高いSi(CH)密度及びより高い機械的強度の両方を有することは、予想外である。これは、Si(CH)密度以外の要因が、これらの膜の機械的強度に寄与していることを示す。
【0091】
表1に要約された3つの異なる膜についての3500cm-1~500cm-1の透過赤外スペクトルが図2に示され;3つの膜は、すべて3.0の誘電率を有する。図3は、3つの膜すべてについての1360cm-1付近を中心とするジシリルメチレン(SiCHSi)赤外バンドの拡大図を示す。IPOTMDS構造形成前駆体を用いて製造された膜についてのSiCHSiバンドのピーク吸光度は、DEMS(商標)構造形成前駆体を用いて製造された膜についてのSiCHSiバンドのピーク吸光度の二倍より大きい。MIPSCP構造形成前駆体を用いて製造された膜についてのSiCHSiバンドのピーク吸光度は、DEMS(商標)構造形成前駆体を用いて製造された膜についてのSiCHSiバンドのピーク吸光度よりほぼ二倍大きい。したがって、赤外スペクトルは、IPOTMDS構造形成剤を用いて製造された膜が、先行技術のMIPSCP構造形成前駆体を用いて製造された膜に対してより高いSiCHSi基の濃度を有し、IPOTMDS及びMIPSCPに基づいた膜の両方が、先行技術のDEMS(商標)構造形成前駆体を用いて製造された膜に対してはるかに高いSiCHSi基の濃度を有することを示す。
【0092】
表1は、例えばIPOTMDS及びEOTMDS等の、本発明に記載されたアルコキシジシロキサン前駆体を用いて製造された3.0の誘電率を有する膜が、DEMS(商標)構造形成剤又はMIPSCP構造形成剤を用いて製造された膜に対して、誘電率の同じ値において著しく大きいSiCHSi密度を有することを示す。同様に、表2は、本発明に記載されたアルコキシジシロキサン前駆体(IPOTMDS、及びEOTMDS)を用いて製造された、3.1の誘電率を有する膜が、DEMS(商標)構造形成剤を用いて製造された膜に対して、誘電率の同じ値において著しく大きいSiCHSi密度を有することを示す。
【0093】
3.0の誘電率を有する膜に関する表1のデータを検討する。表1において、本発明のIPOTMDSに基づいた膜のSiCHSi密度は、比較のDEMS(商標)に基づいた膜より300%大きく、表1において、本発明のEOTMDSに基づいた膜のSiCHSi密度は、比較のDEMS(商標)に基づいた膜より267%大きい。本発明のIPOTMDS及びEOTMDSに基づいた膜の両方のSiCHSi密度は、比較のMIPSCPに基づいた膜のSiCHSi密度より少なくとも16%大きい。3.1の誘電率を有する膜に関する表2のデータを検討する。表1において、本発明のIPOTMDSに基づいた膜のSiCHSi密度は、比較のDEMS(商標)に基づいた膜より300%大きく、表1において、本発明のEOTMDSに基づいた膜のSiCHSi密度は、比較のDEMS(商標)に基づいた膜より257%大きい。理論により拘束されるものではないが、DEMS(商標)から製造された比較の膜に対する、アルコキシジシロキサン構造形成前駆体(IPOTMDS及びEOTMDS)を用いて製造された膜のSi(CH)密度の増加に伴い、機械的強度が予想外に増加することは、DEMS(商標)から製造された比較の膜に対してそれらのSiCHSi密度が非常に高いことに起因する。説明すると、表1及び2のデータは、IPOTMDS及びEOTMDSに基づいた膜のSi(CH)密度が、誘電率が同じ値のDEMS(商標)に基づいた膜のSi(CH)密度より約20~約35%大きく、IPOTMDS及びEOTMDSに基づいた膜のSiCHSi密度が、誘電率が同じ値のDEMS(商標)に基づいた膜のSiCHSi密度より約255~300%大きいことを示す。低k膜において橋掛けSiCHSi基として炭素を組み込むと、三次元網目構造が維持され、膜の機械的強度が維持されるか増加するため、IPOTMDS及びEOTMDSに基づいた膜のDEMS(商標)に基づいた膜に対するSiCHSi密度の大幅な増加は、DEMS(商標)に基づいた膜に対するIPOTMDS及びEOTMDSに基づいた膜のSi(CH)密度のわずかな増加に由来する機械的強度の減少を相殺するはずである。
【0094】
本発明に係る式(I)又は式(II)を有するアルコキシジシロキサン前駆体を用いて製造される膜の場合には、前駆体構造は、構造形成剤の3つ又は4つの末端Si-Me基(Si(CH))の高い割合を膜の網目構造中の橋掛けメチレン基(ジシリルメチレン、SiCHSi)に変換するプラズマ中の反応を促進すると考えられる。このように、機械的強度の観点から、膜の炭素含有量を増加させることによって網目構造が乱されないように、炭素を橋掛け基の形態で組み込むことができる。さらにこれは、膜に炭素を加えて、膜のエッチング、フォトレジストのプラズマアッシング、及び銅表面のNHプラズマ処理などのプロセスによる炭素減少に対して膜をより弾性的にする。おそらく、IPOTMDS及びEOTMDSの場合には、前駆体における4つの末端ケイ素メチル基の存在(ケイ素原子当たり2つ)は、先行技術の構造形成剤DEMS(商標)などのケイ素原子当たりより少ない末端メチル基を含有する前駆体と比較して、堆積膜中の高密度のジシリルメチレン基(SiCHSi)の形成を促進する。MIPSCPの場合には、SiCHSi基の形成は、堆積中の環状構造の破壊によるものであるとも考えられる。しかし、表1に示されるように、本発明のアルコキシジシロキサン前駆体(IPOTMDS及びEOTMDS)から堆積した膜のSiCHSi基の密度は、誘電率が同じ値の比較のMIPSCP構造形成剤から堆積した膜のSiCHSi基の密度より著しく大きい。実際に、式(II)によって記載されるアルコキシジシロキサン前駆体から堆積した低k膜は、我々の実験室で堆積させた低k膜の中で最も高いSiCHSi密度をもたらした。したがって、例えばIPOTMDS、及びEOTMDSなどの式(I)及び(II)によって記載される本発明のアルコキシジシロキサン前駆体から堆積した膜は、例えばDEMS(商標)、及びMIPSCPなどの先行技術の構造形成剤から堆積した膜に対して、予想外に高い機械的特性及び予想外に高いSiCHSi密度を有する。
【0095】
誘電体膜からの炭素除去に対する耐性が、膜の総炭素含有量が増加するにつれて増加することは、十分に確立されている。例えば、我々の知る限りでは、先行技術の前駆体1-メチル-1-エトキシ-1-シラシクロペンタン(MESCP)、又はその誘導体、例えば1-メチル-1-エトキシ-1-シラシクロペンタン(MIPSCP)を用いて製造された膜が、これまでに堆積された緻密な低k膜の中で、NHプラズマに曝露された場合の炭素除去に対する最も強い耐性を有することが報告されている(米国特許9,922,818号)。これは、これらの膜の非常に高い炭素含有量(典型的には>30%)に起因する。これは、米国特許第9,922,818号に示されており、36%の炭素(XPS、原子%)を含有する、MESCP構造形成前駆体及びシクロオクタンの組み合わせを用いて製造された低k膜に関するNHプラズマへの曝露に続く炭素除去の深さは、23%の炭素(XPS、原子%)を含有する、DEMS(商標)構造形成前駆体及びシクロオクタンの組み合わせを用いて製造された低k膜より20%少ない(44nmと比較して35nm)。したがって、DEMS(商標)構造形成前駆体を用いて堆積された膜(比較膜1)、MIPSCP構造形成前駆体を用いて堆積された膜(比較膜2)、及び表1に与えられたIPOTMDS構造形成前駆体を用いて堆積された膜(本発明の膜1)を比較すると、MIPSCP構造形成前駆体を用いて堆積された膜は、NHプラズマに曝露された際の炭素除去に対する最も大きい耐性を有するはずである一方で、DEMS(商標)構造形成前駆体を用いて堆積された膜は、NHプラズマに曝露された際の炭素除去に対する最も小さい耐性を有するはずである。
【0096】
図4は、(DEMS(商標)構造形成剤を用いて堆積された)比較膜1、(MIPSCP構造形成剤を用いて堆積された)比較膜2、(IPOTMDS構造形成剤を用いて堆積された)本発明の膜1の、NHプラズマを用いて膜を損傷させた後の動的SIMSプロファイルを示す。4つの膜すべてを300Wのプラズマ出力で25秒間NHプラズマに曝露して、集積化において見られるプラズマ損傷条件をモデル化した。(プラズマ誘発損傷の深さとしても示される)炭素除去の深さは、動的SIMS深さプロファイリングによって示される、膜から炭素が除去された深さで示される。
【0097】
IPOTMDS及びMIPSCP構造形成前駆体を用いて製造された膜について、SIMS深さプロファイリングによって決定される、NHプラズマへの曝露後の炭素除去の深さは、約15nmであり、一方で、DEMS(商標)構造形成前駆体を用いて製造された膜についてのNHプラズマへの曝露後の炭素除去の深さははるかに大きく、約24nmである。DEMS(商標)構造形成前駆体を用いて製造された膜についての高い炭素除去の深さは、この膜が最も低い総炭素含有量を有するため、予想される。予想外に、MIPSCPに基づいた膜は最も大きい炭素含有量(そのSIMS深さプロファイルから決定された34原子%炭素)を有するものの、MIPSCPを用いて製造された膜からの炭素除去の深さは最も小さくはない。より驚くべきことに、式(II)に記載されるアルコキシジシロキサン化合物(例えばIPOTMDS)を用いて製造された膜は、SIMS深さプロファイリングによって決定される、先行技術のMIPSCP構造形成剤を用いて製造された膜と同じ炭素除去の小さい深さを有する。IPOTMDS構造形成化合物を用いて製造された膜は、MIPSCP構造形成剤を用いて製造された膜に対してより低い総炭素含有量(28%未満の炭素)を有するため、これはかなり予想外である。これは、例えば、IPOTMDS及びEOTMDSなどの式(I)及び式(II)で記載されるアルコキシジシロキサン化合物を用いて製造された膜の別の独特の性状であり、それは、式(I)及び式(II)に記載されるアルコキシジシロキサン化合物を用いて製造される膜が、比較的低い総炭素含有量(<約28原子%)を有する膜について予想されるものよりNHプラズマに曝露された際の炭素除去に対するはるかに高い耐性を有するということである。
【0098】
理論より拘束されるものではないが、例えばIPOTMDSなどの式(I)及び式(II)に記載されるアルコキシジシロキサン化合物を用いて製造される膜のプラズマ誘発損傷に対する非常に高い耐性は、これらの膜の炭素の独特の配分に起因する;高いジシリルメチレン基の密度(>約20、IR分光法により決定)、及び総炭素含有量のうちの高い割合がジシリルメチレン基で構成されていること(>60、IR分光法及びXPSの組み合わせにより決定)を伴う、比較的低い総炭素含有量(<約28原子%)。説明すると、表1に示されるように、IPOTMDS及びEOTMDS構造形成前駆体を用いて製造された膜は、先行技術の構造形成剤MIPSCP(56)及びDEMS(商標)(33)を用いて製造された膜に対して、総炭素含有量に占めるジシリルメチレン基の割合が最も高い(それぞれ97及び77)。実際に、先行技術の構造形成剤MIPSCPは、NHプラズマへの曝露後の炭素除去に対する強い耐性を提供するために、炭素の割合が高い膜を堆積させるように特に設計された。この膜は、総炭素の高い割合(34原子%、そのSIMS深さプロファイルから測定)及びその赤外スペクトルによって決定されるSiCHSi基の高い密度を含有する一方で、末端メチル基などの炭素の他の形態の高い密度も含有する。MIPSCPに基づいた膜の高い総炭素含有量は、総炭素含有量のうちのMIPSCPに基づいた膜内のジシリルメチレン基で構成されることができる割合を制限する。対照的に、IPOTMDS及びEOTMDS構造形成前駆体を用いて製造された膜は、我々が知っているあらゆる低k膜の中で、総炭素含有量に占めるジシリルメチレン基の割合が最も高い。これは、例えばIPOTMDS及びEOTMDSなどの式(I)及び式(II)に記載されるアルコキシジシロキサン化合物を用いて製造される膜の別の独特の性状であり、これは、式(I)及び式(II)に記載されるアルコキシジシロキサン化合物を用いて製造される膜が、任意の既知の低k膜の中で総炭素含有量に占めるジシリルメチレン基の割合が最も高く、比較的低い総炭素含有量(<約28原子%)で構成されるということである。この独特の炭素の配分のこの効果は、MIPSCPに基づいた膜などのはるかに大きい総炭素含有量を有する膜のプラズマ誘発損傷に対する耐性と同等か、それより大きいプラズマ誘発損傷に対する予想外に高い耐性である。このように、低k誘電体膜のより高い総炭素含有量が、NHプラズマに曝露された際の炭素除去に対する高い耐性を提供することができる一方で、膜中の炭素のタイプも重要な役割を果たす。
【0099】
緻密な低k誘電体膜の一連の堆積は、225~615ワットのプラズマ出力、6.7~9.5Torrのチャンバ圧、350~400℃の基材温度、0~125sccmのOガス流、625~1550sccmのHeキャリアガス流、0.600~2.500g/minの前駆体液体流、及び0.380インチの電極間隔の様々なプロセス条件下、300mmPECVD反応器で、低k前駆体としてIPOTMDS、MIPSCP、又はDEMS(商標)のいずれかを用いて堆積された。各膜の総炭素含有量に占めるジシリルメチレン基の割合は、その赤外スペクトルから決定されるSiCHSi基の相対的な密度と膜のXPS炭素の割合(XPS炭素(原子%)/100)との比として計算された。図5は、様々な誘電率を有する、IPOTMDS前駆体、MIPSCP前駆体、及びDEMS(商標)前駆体を用いて製造された緻密なOSG膜についての総炭素含有量に占めるジシリルメチレン基の割合間の関係を示す。図5は、誘電率を約2.7から約3.4に増加させた場合、先行技術のMIPSCP及びDEMS(商標)に基づいた低k膜は、IPOTMDSに基づいた膜に対して、誘電率の同じ値において、総炭素含有量に占めるジシリルメチレン基の割合がはるかに低いことを示す。これは、誘電率の同様の値で、緻密な低k誘電体膜を堆積させるための、例えばIPOTMDSなどの式(I)及び式(II)のアルコキシジシロキサン化合物を用いることの重要な利点のうちの1つを示し、アルコキシジシロキサン前駆体IPOTMDSを用いて、他の先行技術の構造形成剤と同じか、それより高い、総炭素含有量に占めるジシリルメチレン基の割合を有する膜を堆積させることができる。したがって、例えばIPOTMDSなどの式(I)及び式(II)のアルコキシジシロキサン化合物を用いて製造された膜の独特の性状のうちの1つは、総炭素含有量がかなり低く(<約28原子%)、総炭素含有量に占めるSiCHSi基の割合が、DEMS(商標)及びMIPSCPなどの先行技術の構造形成剤から製造される膜より著しく大きいことである。予想外に、炭素のこの独特の配分は、先行技術の構造形成剤MIPSCPから製造される膜などのはるかに高い総炭素含有量を有する膜のプラズマ誘発損傷に対する耐性と同等か、それより大きいプラズマ誘発損傷に対する耐性をもたらす。
【0100】
図6は、1mV/cm~8mV/cmの電場強度の関数として、DEMS(商標)構造形成剤を用いて製造された緻密なOSG膜、及びIPOTMDS構造形成剤からの緻密なOSG膜の漏れ電流密度を示す。破壊電場は、少なくとも2Xの漏れ電流密度の突然の上昇として定義される。したがって、IPOTMDS前駆体を用いて製造された膜の破壊電場が、5.0mV/cmの電場強度で生じる一方で、DEMS(商標)前駆体を用いて製造された膜の破壊電場が、4.6mV/cmの電場強度で生じる。寸法が減少すると、デバイス構造の破壊場が減少するため、可能な限り高い破壊電場(>4mV/cm)を有する低誘電率膜が、集積回路製造のためには好ましい。より高い破壊電場強度は、小さい寸法が高い電場強度をもたらす可能性があるBEOLの最低レベルにおいて特に重要である。図6は、IPOTMDSなどの式(I)及び式(II)のアルコキシジシロキサン化合物を用いて製造される膜が、DEMS(商標)などの先行技術の構造形成剤を用いて製造された膜に対してより高い破壊電場を有しており、したがって、集積回路製造にとって好ましいであろうということを示す。
【0101】
図6に示される2つの膜の特性は、表3に示される。両方の膜は、3.0の誘電率を有する。IPOTMDS構造形成剤を用いて製造された膜は、DEMS(商標)構造形成剤を用いて製造された膜より高い機械的特性を有し、その弾性率及び硬度は、それぞれ、DEMS(商標)構造形成剤を用いて製造された膜より20%及び29%大きい。IPOTMDS構造形成剤を用いて製造された膜のIR分光法によって決定される相対的なジシリルメチレン(SiCHSi)密度は、DEMS(商標)構造形成剤を用いて製造された膜の相対的なジシリルメチレン密度より380%大きい。DEMS(商標)構造形成剤を用いて製造された膜に対して、IPOTMDS構造形成剤を用いて製造された膜の総炭素のうちジシリルメチレン基として組み込まれた割合は、162%大きい。したがって、IPOTMDSなどの式(I)又は式(II)のアルコキシジシロキサン化合物を用いて製造された膜は独特の性状を有し、それは、好ましい膜特性の独特の組み合わせをもたらす:DEMS(商標)又はMIPSCPなどの先行技術の低k構造形成剤から堆積した膜に対して、予想外に高いプラズマ誘発損傷に対する耐性、予想外に高い機械的特性、予想外に高いSiCHSi基の密度、及び予想外に高い破壊電場(≧5mV/cm)。理論により拘束されるものではないが、これらの独特の膜特性は、これらの膜の炭素の独特の配分に起因する;DEMS(商標)又はMIPSCPなどの先行技術の低k構造形成剤から堆積した膜に対して、高いジシリルメチレン基の密度(>20)、及び総炭素含有量のより高い割合がジシリルメチレン基で構成されていること(>60)を伴う、比較的低い総炭素含有量(<約28原子%)。そのような独特の膜は、例えばIPOTMDS及びEOTMDSなどの式(I)及び式(II)に記載される本発明のアルコキシジシロキサン化合物を用いて堆積させることができる。
【表5】
【0102】
ここまでに議論したすべての膜特性は、堆積膜(堆積されたままの膜)に関する。それは、UV硬化などのいかなる堆積後処理も受けていない低k膜である。堆積膜は、堆積後処理を受けた膜に対していくつかの利点を有する。例えば、UV硬化などの堆積後処理は、スループットを低下させ、堆積プロセスにコスト及び複雑さを追加する。しかし、UV硬化などの堆積後処理を用いて、一定の膜特性を改善すること、たとえば、堆積膜の機械的特性を増加させることができることが認識される。
【0103】
式(II)に記載されるアルコキシジシロキサン前駆体構造IPOTMDSを用いて堆積した本発明の緻密なOSG膜(本発明例5)のUV硬化前後の特性が、表4に示される。UV硬化前後の膜の誘電率は、3.2であり;すなわち、UV硬化は、膜の誘電率を変更しなかった。UV硬化膜は、堆積膜より高い機械的特性を有し、その弾性率及び硬度は、堆積膜より18%大きい。IR分光法によって決定されるUV硬化膜の相対的なジシリルメチレン(SiCHSi)密度は、堆積膜の相対的なジシリルメチレン密度より14%大きい。IR分光法によって決定されるUV硬化膜の相対的なSi(CH)密度は、堆積膜の相対的なSi(CH)密度より30%小さい。したがって、この例は、堆積膜のUV硬化が、膜の誘電率を増加させることなく、膜機械的特性及びSiCHSi密度を増加させ、そのSi(CH)密度を減少させることができることを示す。
【表6】
【0104】
したがって、式(I)及び式(II)で与えられるアルコキシジシロキサン化合物は、特にラインのバックエンドの最低レベルについて、集積回路製造において、緻密な堆積低k材料に対する緊急のニーズを満たす。例えばIPOTMDS及びEOTMDSなどの式(I)及び式(II)で与えられるアルコキシジシロキサン化合物を用いて、誘電率の所与の値(k≦3.5)で、プラズマ誘発損傷に対する最も高い耐性、高い機械的強度、高いSiCHSi密度、及び高い破壊電圧(>5mV/cm)を有する緻密な低k膜を堆積させることができる。さらに、そのような前駆体から堆積した膜は、膜機械的特性又は膜電気的特性を改善するための、UV硬化などの堆積後処理を要求しない。すなわち、これらの堆積膜の固有の特性は集積回路製造の要件を満たし、堆積後ステップ(すなわちUV硬化)は要求されない。しかし、UV硬化は、所望の場合に、その誘電率を増加させることなく、一定の膜特性をさらに改善する、たとえば膜の機械的強度をさらに高めるために用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】