(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-09
(54)【発明の名称】住血吸虫感染症の検出のためのタンパク質
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20231101BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20231101BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/531 A
C07K14/435 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023525577
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(85)【翻訳文提出日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 EP2021079886
(87)【国際公開番号】W WO2022090343
(87)【国際公開日】2022-05-05
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ベアトリス グレコ
(72)【発明者】
【氏名】クロード ウーブレー
(72)【発明者】
【氏名】アレックス ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】マーク ピアソン
(72)【発明者】
【氏名】ハビエル ソティージョ-ガジェゴ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA50
4H045DA86
4H045EA52
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、住血吸虫感染症の検出のための診断ツールの分野に関係する。本発明は、生物学的サンプル中の抗住血吸虫抗体の検出、ひいては、ヒトの住血吸虫感染症の診断のために単独で又は組み合わせて有用な、ビルハルツ住血吸虫抗原由来のタンパク質に関係する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者からの生物学的サンプル中の抗住血吸虫(Schistosoma)抗体の検出のための、又は対象者の住血吸虫感染症を診断するための、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質の使用。
【請求項2】
対象者からの生物学的サンプル中の抗住血吸虫抗体の検出方法であって、以下のステップ:
a. 前記生物学的サンプルを、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質と接触させ;
b. 前記生物学的サンプル中の、前記少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の存在及び/又は数量を特定すること、
を含む、前記方法。
【請求項3】
対象者の住血吸虫感染症の診断方法であって、以下のステップ:
e. 前記対象者からの生物学的サンプルを、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質と接触させ;
f. 前記対象からの生物学的サンプル中の、前記少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の数量を特定すること、
を含む、前記方法。
【請求項4】
前記抗住血吸虫抗体が、抗ビルハルツ住血吸虫(Schistosoma haematobium)抗体である、請求項1に記載の使用又は請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記住血吸虫感染症が、ビルハルツ住血吸虫感染症である、請求項1に記載の使用又は請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのタンパク質が、配列番号1、配列番号2、配列番号6及び配列番号7から成る群において選択される配列を含む又はそれらから成る配列を有する、請求項1、4又は5に記載の使用、或いは請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも2つのタンパク質が使用される、請求項1、4又は5に記載の使用、或いは請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも:
- 配列番号1の配列又は配列番号6の配列を含むか又はそれらから成る配列を有するタンパク質、及び
- 配列番号2の配列又は配列番号7の配列を含むか又はそれらから成る配列を有するタンパク質、
が使用される、請求項1、4又は5に記載の使用、或いは請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
基準サンプル中に存在する、前記少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の数量を特定するステップc)、及びさらに、ステップb)で特定された抗体の数量と、ステップc)で特定された抗体の数量とを比較するステップd)、をさらに含む、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップb)で特定された数量を基準閾値と比較するステップをさらに含む、請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質、並びに任意選択で、前記少なくとも1つのタンパク質をどのように使用するかについての取扱説明書を伴ったリーフレットを含む、好ましくは本明細書中に定義される使用又は方法のためのキット。
【請求項12】
前記少なくとも1つのタンパク質が、固体支持体上に固定される、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
検出可能な標識に結合された抗ヒトIgG抗体をさらに含む、請求項11又は12に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、住血吸虫(Schistosoma)感染症の検出のための診断ツールの分野に関係する。本発明は、生物学的サンプル中の抗住血吸虫抗体の検出、及びヒトの住血吸虫感染症の診断のために単独で又は組み合わせて有用な、ビルハルツ住血吸虫(Schistosoma haematobium)抗原由来のタンパク質に関係する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
住血吸虫属の寄生的な住血吸虫の感染によって引き起こされる住血吸虫症は、1860000障害調整平均寿命の世界的な負担を有する。ビルハルツ住血吸虫は、世界中の熱帯及び亜熱帯地域で感染した約2億人の約半数で泌尿生殖器住血吸虫症を引き起こすヒトに影響を及ぼす最も一般的な種である(Steinmann et al. Lancet Infect Dis 2006; 6(7): 411-25)。そのうえ、女性のビルハルツ住血吸虫感染症は、HIV/AIDSに罹患するリスクを実質的に増大させ(Zirimenya et al. PLoS Negl Trop Dis 2020; 14(6): e0008383)、そして国際癌研究機関(IARC)は、泌尿生殖器住血吸虫症を、膀胱の扁平上皮癌腫とそれとの関係を理由にグループI癌原性物質として認識している(Moller et al. International journal of cancer Journal international du cancer 1995; 60(5): 587-9)。住血吸虫症介入課題の焦点は、病的状態の管理から根絶に移行しているので、公衆衛生問題としての住血吸虫症を排除し、かつ、選択部位における伝染を妨げるためのWHOの義務的目標が存在する。そのため、感染症を検出する方法は、疾患の新しい症例を診断し、抑制対策の有効性を算定し、及び大規模な疾病監視に適切であるように、それらの実施において適切に高感度かつ迅速であることが必要不可欠である。
【0003】
現在、住血吸虫症の検出のために推薦される絶対的基準が存在せず、その上、感染症の診断のために広く使用されている方法は尿(泌尿生殖器住血吸虫症)又は糞便(腸住血吸虫症)中の寄生虫卵の顕微鏡的検出を伴い、そしてそれは、残念ながら、虫卵の排泄速度に依存している技術に起因して伝染が少ない部位において比較的に低い感度を示し(Engels et al. Am J Trop Med Hyg 1996; 54(4): 319-24)、そして、地方流行性が低い領域における診断ツールとしての価値が制限される。しかしながら、脱落した虫卵の数は、寄生虫負荷、並びに淡水接触の回数及び程度に依存する。さらに、虫卵の脱落は、日によって異なる。血液又は尿中の循環住血吸虫抗原を検出する試験は、典型的に、従来の顕微鏡法より高感度であるが、制限が存在しないわけではない。尿中の循環陽極抗原(CAA)を検出するアッセイは、中~高レベルのマンソン住血吸虫(S. mansoni)感染症を診断するのに素晴らしい能力を有する診療現場での試験として利用可能であるが、ビルハルツ住血吸虫感染症を検出する際には低い性能しかなかった(Midzi et al. Trans R Soc Trop Med Hyg 2009; 103(1): 45-51)。尿中の、可溶性虫卵抗原(SEA)などの、未精製の寄生虫調製物に対して抗体を検出するアッセイは、尿中虫卵と血清陽極抗原量の相関関係が示されているが(de Dood et al. Frontiers in immunology 2018; 9: 2635)、他の蠕虫感染症由来の抗体と交差反応し得る何千もの住血吸虫タンパク質を含む抽出物に起因する低い特異性及び再現性を有する可能性がある。組み換え抗原に基づく免疫診断のごく一部は、医学的に重要な住血吸虫のために開発された(Hinz et al. Mol Cell Probes 2017; 31: 2-21)。しかしながら、既存の免疫診断は概して、様々な住血吸虫種を識別するのに十分な特異性を欠いている。加えて、住血吸虫感染症の特定の症例では、感染が最近であるためか、又は年齢依存性の抗体応答のため、一部の感染個体では低レベルの抗体応答しかないことにより、免疫診断が優れたレベルの感度を実現することが特に重要である。
【0004】
これにより、感染しているすべての個体において、彼らの感染状態の影響を受けることなく、住血吸虫を診断するのに必要な特異性と感度を有し、かつ、他の住血吸虫種による感染症とビルハルツ住血吸虫感染症を識別できる診断ツール、特にタンパク質又は抗原の必要性が今もなお存在している。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、ヒト対象からの生物学的サンプル中の抗住血吸虫抗体、好ましくは抗ビルハルツ住血吸虫抗体、の検出のための、及び/又はヒト対象において、好ましくはヒト対象の生物学的サンプルにおいて、住血吸虫感染症を診断するための、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される、好ましくは配列番号1、配列番号2、配列番号6及び配列番号7から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質の使用を提供する。
【0006】
言い換えれば、本発明は、ヒト対象からの生物学的サンプル中の抗住血吸虫抗体の検出のための、及び/又はヒト対象からの生物学的サンプルにおいて住血吸虫感染症を診断するためのキットの製造における、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質の使用を提供する。
【0007】
本発明は、ヒト対象からの生物学的サンプル中の抗住血吸虫抗体、好ましくは抗ビルハルツ住血吸虫抗体、の検出方法であって、以下のステップ:
a. 前記生物学的サンプルを、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質と接触させ;
b. 前記生物学的サンプル中の、前記少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の存在及び/又は数量を特定すること、
を含む前記方法を更に提供する。
【0008】
本発明はまた、ヒト対象の住血吸虫感染症、好ましくはビルハルツ住血吸虫感染症、の診断方法であって、以下のステップ:
a. 前記対象者からの生物学的サンプルを、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質と接触させ;
b. 前記対象からの生物学的サンプル中の、前記少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の数量を特定すること、
を含む前記方法も提供する。
【0009】
本発明はまた、住血吸虫、好ましくはビルハルツ住血吸虫に感染した対象の治療方法であって、以下のステップ:
・ 本発明の方法に従って対象におけるビルハルツ住血吸虫感染症の存在又は不存在を診断し、
・ ビルハルツ住血吸虫感染症と診断された対象に、ビルハルツ住血吸虫感染症に適正な治療療法を投与すること、
を含む方法も提供する。
【0010】
本発明はまた、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質、並びに任意選択で、前記少なくとも1つのタンパク質をどのように使用するかについての取扱説明書を伴ったリーフレットを含む、好ましくは本明細書中に定義される使用又は方法のための、キットも提供する。
【0011】
定義
「タンパク質」、「ポリペプチド」及び「ペプチド」とは、本明細書では、ペプチド結合を介して繋ぎ合わせられたアミノ酸を含む分子を指す。一般に、「ペプチド」は、20個以下のアミノ酸の配列を指すのに使用され、及び「ポリペプチド」は、50個超のアミノ酸の配列を指すのに使用される。しかしながら、本願では、解釈の明確さ及び容易さのために、本発明の「タンパク質」、「ポリペプチド」及び「ペプチド」はすべて「タンパク質」と呼ばれる。本発明によるタンパク質、ポリペプチド及びペプチドは、精製されても、遺伝子組み換えプロセス(すなわち、生物体、宿主細胞若しくは無細胞系におけるペプチド、ポリペプチド又はタンパク質をコードする外来核酸の発現)によって製造されても、又は化学合成によって製造されてもよい。
【0012】
「感度」とは、試験、アッセイ又は診断に関して、本明細書では、疾患を患っている対象の群全体の中の疾患を患っている真陽性対象の割合を検出する試験の能力を指す。したがって、それは、疾患を患っている対象を同定する試験の潜在能力に関連する。
【0013】
「特異性」とは、試験、アッセイ又は診断に関して、本明細書では、疾患を患っていない対象の合計中の陰性試験結果を有する疾患を患っていない対象の割合を正しく検出する試験の能力を指す。言い換えれば、特異性は、疾患を患っていない対象における陰性検査結果の確率を表す。そのため、特異性は、疾患を患っていない対象を同定する、すなわち、着目の状態を排除する、試験の能力を説明する診断精度面に関する。
【0014】
(単数若しくは複数の)「抗体」とは、本明細書では、免疫グロブリンを広く指す。存在及び/又は数量が本発明に従って特定されるべき抗体を指すとき、「抗体」という用語は、天然に存在する抗体、すなわち、生物学的サンプルに加えられるであろう、及び/又は患者に注射されるであろう抗体とは対照的に、対象の免疫応答の生成物としての、対象からの生物学的サンプル中に存在するであろう抗体、を指す。このような関係においては、抗体という用語は、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMアイソタイプの抗体を指す。本発明との関連において好ましくは、本発明に従って存在及び/又は数量が特定されるべき抗体は、IgGアイソタイプのものである。本発明との関連において、「抗住血吸虫抗体」という用語は、住血吸虫抗原に結合することができる抗体であって、天然に存在する抗体を指す。
【0015】
アッセイ又は試験において生物学的なツールとして、例えば、二次抗体及び/又は検出抗体として、使用される抗体を指すとき、「抗体」という用語は、起源の種又はアイソタイプとは無関係に、その目的に合致するであろう任意のタイプの抗体である。
【0016】
配列
配列番号1は、MS3_013701由来の最小限の有用配列に相当する
配列番号2は、Sh-TSP-2由来の最小限の有用配列に相当する
配列番号3は、MS3_09198由来の最小限の有用配列に相当する
配列番号4は、MS3_10385由来の最小限の有用配列に相当する
配列番号5は、MS3_10186由来の最小限の有用配列に相当する
配列番号6は、MS3_013701の配列に相当する
配列番号7は、Sh-TSP-2の配列に相当する
配列番号8は、MS3_09198の配列に相当する
配列番号9は、MS3_10385の配列に相当する
配列番号10は、MS3_10186の配列に相当する
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ビルハルツ住血吸虫タンパク質アレイのプロービングから得られる血清及び尿IgG応答。(A)血清又は(B)尿を用いた感染集団(ビルハルツ住血吸虫風土病)と非感染集団との間のIgG応答の倍率変化及び有意性を示すボルケーノプロット。それぞれの個々のスポットは、単独のアレイ化抗原を意味する。点線は、異なった確率閾値(下から上に:一番目の線、p<0.05;二番目の線、p<0.01;三番目の線、p<0.001)を表す。(C)すべてのサンプル(血清、n=242;尿、n=117)及び(D)対応する血清及び尿サンプル(n=17)に関する血清及び尿IgG応答の相関関係を示す散布図。
【
図2】IgG抗体は、ビルハルツ住血吸虫風土病集団からの血清中の上位タンパク質及びビルハルツ住血吸虫の可溶性虫卵抗原(Sh-SEA)のE.コリ(E.coli)発現遺伝子組み換えバージョンに応答する。(A)抗MS3_10385;(B)抗MS3_10186;(C)抗MS3_09198;(D)抗MS3_01370;(E)抗Sh-TSP-2;(F)抗Sh-SEA。虫卵陽性対象を、高度(10mlの尿あたり≧50個の虫卵)又は低度(10mlの尿あたり1~49個の虫卵)の強度の感染症を有すると特徴づけした(WHO層化)。「虫卵 -ve/CAA +ve」=より高感度な循環陽極抗原(CAA)検出試験によって陽性(感染)として分類される虫卵陰性対象。「虫卵 -ve/CAA -ve」=CAA検出試験によって抗原陰性と確認された虫卵陰性対象。「non-end. -ve」=風土病のない地域からの対象。プロットしたデータは、ジンバブエ及びガボンコホートの両方の応答を表す。反応性カットオフは、無風土病陰性群(点線)の値の平均+3SDとして特定された。それぞれの感染群と非感染群との間の抗体レベルの差の有意性は、スチューデントt検定によって分析された
★p≦0.05、
★★p≦0.01、
★★★p≦0.001、
★★★★p≦0.0001。
【
図3】IgG抗体は、ビルハルツ住血吸虫風土病集団からの尿中の上位タンパク質及びビルハルツ住血吸虫の可溶性虫卵抗原(Sh-SEA)のE.コリ(E.coli)発現遺伝子組み換えバージョンに応答する。(A)抗MS3_10385;(B)抗MS3_10186;(C)抗MS3_09198;(D)抗MS3_01370;(E)抗Sh-TSP-2;(F)抗Sh-SEA。虫卵陽性対象を、高度(10mlの尿あたり≧50個の虫卵)又は低度(10mlの尿あたり1~49個の虫卵)の強度の感染症を有すると特徴づけした(WHO層化)。「虫卵 -ve/CAA +ve」=より高感度な循環陽極抗原(CAA)検出試験によって陽性(感染)として分類される虫卵陰性対象。「虫卵 -ve/CAA -ve」=CAA検出試験によって抗原陰性と確認された虫卵陰性対象。「non-end. -ve」=風土病のない地域からの対象。プロットしたデータは、ジンバブエ及びザンジバルコホートの両方の応答を表す。反応性カットオフは、無風土病陰性群(点線)の値の平均+3SDとして特定された。それぞれの感染群と非感染群との間の抗体レベルの差の有意性は、スチューデントt検定によって分析された
★p≦0.05、
★★p≦0.01、
★★★p≦0.001、
★★★★p≦0.0001。
【
図4】血清を使用した泌尿生殖器住血吸虫症の診断のための診療現場での免疫クロマトグラフィー試験(PoC-ICT)の試験的開発の結果。ガボンコホートからのELISA確認済み血清サンプルを使用した、MS3_01370又はSh-TSP-2ICTの陽性(黒塗り枠)及び陰性(白抜き枠)を示す結果を示す図解(高度、n=10;低度、n=22;虫卵 -ve/CAA +ve、n=4;虫卵 -ve/CAA -ve、n=14;non-end. -ve、n=10)。サンプルを虫卵負荷の減少によって左から右へと仕分け、そして、感染集団の中のFoRパーセンテージ(感度)を画像の右側に表示する。PoC-ICTの簡単な説明:サンプルリザーバに加えられた血清中の抗MS3_01370又は抗Sh-TSP-2IgGの捕獲と検出を容易にするために、細片を、試験ラインにおいてMS3_01370又はSh-TSP-2のいずれかでコートした。試験及び対照ラインのバンドの外観を、陽性結果と見なし、そして対照ラインのバンドのみを陰性結果と見なした。試験バンドに最少(+1)~最大(+4)強度のスコアを付与し、0のスコアを陰性結果に付与した。2人の独立したリーダーが検査結果に同意しなければならなかった。実施したあらゆる試験が、対照ラインにおけるバンドの外観によって確認されるように、妥当性が確認された。
【
図5】様々な診断流体を用いたビルハルツ住血吸虫タンパク質アレイのプロービングから得られたすべてのスポットの個々の平均SIを伴ったビルハルツ住血吸虫感染強度(尿中虫卵負荷)の相関関係を示す散布図。(A)血清。(B)尿。
【
図6】それぞれの診断流体の最少抗体特性の診断結果(曲線下面積-AUC)を示す受信者動作特性曲線。(A)血清。(B)尿。
【
図7】抗体は、ビルハルツ住血吸虫風土病集団からの人尿を用いたELISAによって作り出された上位タンパク質の細胞ベースの遺伝子組み換えバージョンの組み合わせに対して応答する。(A)抗MS3_10385+抗MS3_10186+抗MS3_09198 IgG応答。(B)抗MS3_10385+抗MS3_09198+抗MS3_01370+抗Sh-TSP-2 IgG応答。(C)抗MS3_09198+抗MS3_01370+抗Sh-TSP-2 IgG応答。(D)抗MS3_01370 IgG応答+抗Sh-TSP-2 IgG 応答。虫卵陽性対象を、高度(10mlの尿あたり≧50個の虫卵)又は低度(10mlの尿あたり1~49個の虫卵)の感染症を有すると特徴づけした(WHO層化)。「虫卵 -ve/CAA +ve」=より高感度な循環陽極抗原(CAA)検出試験によって陽性(感染)として分類される虫卵陰性対象。「虫卵 -ve/CAA -ve」=CAA検出試験によって抗原陰性と確認された虫卵陰性対象。「non-end. -ve」=風土病のない地域からの対象。プロットしたデータは、ジンバブエ及びザンジバルコホートの両方の応答を表す。反応性カットオフは、無風土病陰性群(点線)の値の平均+3SDとして特定された。それぞれの感染群と非感染群との間の応答の有意性は、スチューデントt検定によって分析された
★p≦0.05、
★★p≦0.01、
★★★p≦0.001、
★★★★p≦0.0001。
【
図8】IgG ELISAに基づく認識頻度(FoR)パターンは、ビルハルツ住血吸虫風土病集団の感染個体からの尿を使用した上位タンパク質及びSh-SEAの細胞ベースの遺伝子組み換えバージョンの組み合わせに対して応答する。サンプルを虫卵負荷の減少によって左から右へと仕分けした。各抗原に関して、黒塗りのバーは、ザンジバルコホートからのサンプルによる認識を表し、及び白抜きのバーは、コホートにかかわらず、認識なし(ELISAによって決定されるカットオフを下回る)を示す。「組み合わせ1」 = MS3_10385 + MS3_10186 + MS3_09198、「組み合わせ2」 = MS3_10385 + MS3_09198 + MS3_01370 + Sh-TSP-2、「組み合わせ3」 = MS3_09198 + MS3_01370 + Sh-TSP-2、「組み合わせ4」 = MS3_01370 + Sh-TSP-2。感染した集団の中のFoRパーセンテージ(感度)をパターンの右側に表示する。「Zim」=ジンバブエコホート、「Zan」=ザンジバルコホート、「all」=組み合わせた両コホートからのサンプル。適切な比較を容易にするために、全4つの組み換え抗原組み合わせについてアッセイされなかったあらゆるサンプル(n=148)を排除するために、データセットを刈り込んだ。
【
図9】他の住血吸虫種によるビルハルツ住血吸虫診断抗原の認識を示す血清IgG ELISA。「Sh」=この試験において以前に使用されたガボンコホートからのビルハルツ住血吸虫感染血清サンプル。「Sm」=-マンソン住血吸虫感染血清サンプル。「Sj」=日本住血吸虫感染血清サンプル。「non-end. -ve」=この試験において以前に使用された無風土病地域からの血清サンプル。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の詳細な説明
本発明は、ビルハルツ住血吸虫に対する抗体検出、及び/又は対象者からの血清又は尿などの生物学的サンプルにおける住血吸虫感染症の診断、に有用なタンパク質の発見に一部基づいている。発明者らは、実験部分で例示されるように、尿又は血清などの生物学的サンプルを使用して、いくつかの特異的タンパク質が、ビルハルツ住血吸虫感染症による宿主免疫反応の一部として対象によって産生された抗体、特にIgG、を検出するのに効率的に使用できることを実証した。ビルハルツ住血吸虫トランスクリプトームの一部である、これらのタンパク質のそれぞれは、感染宿主の抗体による高い感度かつ特異性で認識されるので、彼らの尿中に寄生虫卵が少ない患者であってもビルハルツ住血吸虫感染症の診断を可能にし、したがって、その感染症がまだ初期ステージにある新規症例の検出を容易にする。加えて、これらのタンパク質は、他の住血吸虫種による感染症の結果として生じる抗体に対するよりも、ビルハルツ住血吸虫感染症の結果として宿主、特にヒト、において生じる抗体に対してより高い特異性を有する。本明細書中に開示されたタンパク質、並びにそれに基づく使用、方法及びキットは、効果的な治療戦略を設計するためにそれが使用できる点において、特に開業医に有用な特異的かつ早期の診断を可能にする。そのため、本発明は、対象からの生物学的サンプル中のビルハルツ住血吸虫に対する抗体の存在を検出するための抗原として単独で又は組み合わせて使用できる、及びビルハルツ住血吸虫感染症を診断するために使用できる、タンパク質に関係する。本発明は、本発明を実装するために有用であり得、かつ、例えばビルハルツ住血吸虫感染症又はそれらに関連する感染症の治療療法などの任意の治療的介入に先立つ準備的な措置として使用され得る、方法及びキットを提供する。
【0019】
本発明は、対象者からの生物学的サンプル中の抗住血吸虫抗体、好ましくは抗ビルハルツ住血吸虫抗体、の検出のための、及び/又は対象者において、好ましくは対象者の生物学的サンプルにおいて、住血吸虫感染症を診断するための、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される、好ましくは配列番号1、配列番号2、配列番号6及び配列番号7から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質の使用を提供する。
【0020】
言い換えれば、本発明は、対象者からの生物学的サンプル中の抗住血吸虫抗体の検出のための、及び/又は対象者からの生物学的サンプルにおいて住血吸虫感染症を診断するためのキットの製造における、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質の使用を提供する。
【0021】
本発明は、対象者からの生物学的サンプル中の抗住血吸虫抗体、好ましくは抗ビルハルツ住血吸虫抗体の検出方法であって、以下のステップ:
c. 前記生物学的サンプルを、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質と接触させ;
d. 前記生物学的サンプル中の、前記少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の存在及び/又は数量を特定すること、
を含む前記方法を更に提供する。
【0022】
好ましくは、少なくとも1つのタンパク質は、単離又は遺伝子組み換えタンパク質、より好ましくは遺伝子組み換えタンパク質である。「遺伝子組み換えタンパク質」とは、本明細書では、遺伝子工学及び/又は組み換え技術によって製造されたタンパク質を指す。簡単に言えば、組み換え技術によってタンパク質を発現させるために、タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、好適な無細胞系又は細胞系などの発現系において発現を調整できるプロモーターや他の調節配列と動作可能な接続状態に置かれ、そして、その発現系は、発現が起こるのに十分な時間にわたり、かつ、そうした条件下に置かれる。あるいは、単離タンパク質は、Merrifield, J. Amer. Chem. Soc, 85:2149-54 (1963)によって大まかに記載されたものなどの固相合成を使用して調製されてもよいが、当該技術分野で知られている他の同等な化学合成法を使用してもよい。固相ペプチド合成は、好適な樹脂に保護アミノ酸を連結することによってペプチドのC末端(又はN末端)から開始され得る。
【0023】
好ましくは、少なくとも1つのタンパク質は、配列番号1、配列番号2、配列番号6及び配列番号7から成る群において選択される配列を含む又はそれらから成る、好ましくはそれらから成る配列を有する。より好ましくは、少なくとも1つのタンパク質は、配列番号1及び配列番号6から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る、好ましくはそれらから成る配列を有する。
【0024】
有利なことには、本発明の使用及び/又は方法において、検出及び/又は診断の特異性及び感度を増強するために、2以上の、本明細書で定義されるタンパク質が使用される。好ましくは、それらの実施形態において、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも2つのタンパク質が使用される。より一層好ましくは、それらの実施形態において、配列番号1の配列又は配列番号6の配列を含むか又はそれらから成る配列を有するタンパク質と、配列番号2の配列又は配列番号7の配列を含むか又はそれらから成る配列を有するタンパク質が、少なくとも使用される。
【0025】
本発明のタンパク質の配列又は構造は、例えば、N末端若しくはC末端配列の付加、又は着目の分子への結合体形成によって、本発明の方法やキットにおけるその利用を容易にするために修飾されてもよい。有利なことには、本発明のタンパク質は、列挙した配列を含み、かつ、追加N末端ペプチド配列及び/又は追加C末端配列をさらに含む。斯かる実施形態において、追加N-末端ペプチド配列及び/又は追加C末端配列は、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は20個のアミノ酸を含むか又はそれらから成る。有利なことには、本発明のタンパク質は、例えばビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン又は血清アルブミンなどのリガンド又は担体タンパク質に結合される。
【0026】
「生物学的サンプル」とは、本明細書中では、対象者から入手されたサンプルを指す。生物学的サンプルは、組織及び/又は生体液を含んでもよい。斯かるサンプルは、インビトロ、エクスビボ又はインビボにおいて入手され得る。非限定的な例として、生物学的サンプルは、対象者の組織、臓器、細胞、又は任意の単離画分から選択されてもよい。生物学的サンプルはまた、血液、血漿、リンパ、唾液、尿、大便、涙液、汗、精液、又は脳脊髄液、滑膜、胸膜、腹膜、又は心膜、及び任意のそれらの画分又は抽出物から選択されてもよい。好ましくは、生物学的サンプルは、IgG抗体を含めた生体液である。当該技術分野で知られていうように、ヒトにおいて、IgG抗体は、血液、血清、唾液、尿、リンパ液、脳脊髄液及び腹水中に見られる。より好ましくは、生物学的サンプルは、血液、血漿、血清及び尿である。より一層好ましくは、生物学的サンプルは、血清及び尿から成る一覧から選択される。さらに好ましくは、生物学的サンプルは血清である。
【0027】
前記サンプルあ、当該技術分野で既知の任意の技術によって入手できる。生物学的サンプルは前処理されて、着目の抗体の保全を持続してもよく、及び/又はそれらを更なる分析により利用しやすいようにしてもよい。生物学的サンプルは、例えば、遠心分離、精製、或いは抗体、特にIgG及び/又はそれらの濃縮物への接近を容易にするための他の処理ステップを受けてもよい。生物学的サンプルはまた、本発明のタンパク質との非特異的な方法での反応の影響を受けやすい抗体、特にIgG、の存在を制限するか又はより低くするように前処理されてもよい。生物学的サンプルは、例えば、(本発明のタンパク質が遺伝子組み換えによって産生される生物種に対して反応する非特異的抗体が生物学的サンプルから取り除かれるか又は遮断される)予備吸着ステップを受けてもよい。斯かる予備吸着ステップは、本発明によるタンパク質が産生される生物体からのサンプル又は抽出物と、生物学的サンプルとを接触させることによって実装されてもよい。例えば、生物学的サンプルは、特に、本発明のタンパク質がE.コリで産生される遺伝子組み換えタンパク質であるとき、E.コリ溶解物と接触させられることによって、抗E.コリ抗体に関して予備吸着され得る。
好ましくは、本発明による方法では、抗体の存在及び/又は数量は、IgG抗体の存在及び/又は数量を指す。
【0028】
抗体に関して使用される「結合ができる」とは、本明細書において、免疫原性アッセイの普通の実験条件下において定義されたタンパク質に結合することができる抗体を指す。好ましくは、抗体は、本明細書中に定義される少なくとも1つのタンパク質に特異的に結合することができる。本発明との関連において、定義されたタンパク質に「特異的に結合する」抗体は、抗体-タンパク質複合体の検出を可能にするのに十分な量及び時間にわたり、それと物理的会合を形成するか又は物理的会合を受ける。「特異的に」又は「優先的に」とは、抗体が、他のタンパク質、例えば、生物学的サンプル中に含まれる他のタンパク質、に比べて、定義されたタンパク質に関してより高い親和性を有することを意味する。本発明との関連において、抗体を指すときの「親和性」という用語は、前記抗体が定義されたタンパク質又はその一部に結合する強度を示し、そして、抗体とその抗原との間の親和性定数(1/KDと定義される。ここで、KDは古典的に定義される解離定数である)によって計測され、そして、反応速度定数の計測は、平衡状態又は親和定数(1/KD)を定義するのに使用できる。これにより、標的に関する抗体の親和性は、解離定数に対して逆相関する、すなわち、KD値が小さいほど、標的に関する抗体の親和性はより高い。例えば、抗体は、サンプル中の他のタンパク質に比べて、少なくとも約1.5倍、2倍、2.5倍、3倍又はそれよりより高い、定義されたタンパク質に対する親和性を有する。斯かる親和性又は特異性の程度は、競合的結合アッセイを含めた、さまざまな所定の手順によって特定できる。本発明との関連において、本発明のタンパク質が、抗住血吸虫抗体に対して特異的に結合する能力に関して選択されたこと、すなわち、本発明のタンパク質が、ヒト生物学的サンプル中に存在する他の抗体に比べて、抗住血吸虫抗体、特に抗ビルハルツ住血吸虫抗体、に対してより高い親和性を有すること、を理解すべきである。
【0029】
「存在及び/又は数量を特定する」とは、対象からの生物学的サンプル中に存在する抗体に関するとき、本明細書中において、調査下における特定の抗体の存在に関する質的又は量的な特定を指す。「抗体を含むサンプル」又は「サンプル中の抗体の存在及び/又は数量の特定」という語句は、抗体が含まれていない又は検出されないサンプル又は特定を排除することを意味するものではない。一般的な意味において、本願発明は、住血吸虫、特にビルハルツ住血吸虫、の感染に対する宿主の免疫応答の一部としての抗体がサンプル中に存在するかどうかを特定するための、そのため、斯かる抗体がサンプル中(is)に存在しないか又は検出されない状況を排除することを意図していない、アッセイに関わる。本発明との関連において、本発明で定義される少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の存在及び/又は数量は、これだけに限定されるものではないが、タンパク質検出チップ、ビーズベースのアッセイ、ラテラルフローデバイス、及び酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を含めた、当該技術分野で知られている任意の適切な技術を使用して特定できる。好ましくは、生物学的サンプル中の抗体の存在及び/又は数量は、免疫学的アッセイ、より好ましくは抗原ベースの免疫学的アッセイ、によってアッセイされる。斯かるアッセイは、典型的に、タンパク質/抗体複合体形成の定量的検出を可能にし、そしてさらに、実験条件は、本発明による少なくとも1つのタンパク質と、存在が特定される抗体との間の特異的結合に起因する、検出されるタンパク質/抗体複合体形成を確実にするように、容易に設定される。
【0030】
本発明との関連において、「免疫学的アッセイ」という用語は、当該技術分野で一般的に理解されている、すなわち、免疫学的試薬、通常、抗体と、そのリガンドとの間の相互作用に基づく、検体を検出又は計測するための手段であるアッセイを指す、と理解されるであろう。明快のために、「抗原ベースの免疫学的アッセイ」が本明細書中にここで、1又はいくつかの抗原を免疫学的アッセイに指す用語は、検出する試薬として使用される、及び/又は抗体である検体を定量化する。明確化のために、「抗体ベースの免疫学的アッセイ」という用語は、本明細書中において、抗原である検体を検出及び/又は定量化するための試薬として1又はいくつかの抗体が使用される免疫学的アッセイを指す。明確化のために、「抗体ベースの免疫学的アッセイ」という用語は、抗原である検体を検出及び/又は定量化するための試薬として1又はいくつかの抗体が使用される免疫学的アッセイを指す。典型的には、抗原ベースの免疫学的アッセイの場合では、着目の少なくとも1つの抗原を固体支持体上に固定し、そして、試験されるサンプルを、サンプル中のいずれかの特定の抗体が固定された抗原に結合するような条件下で直接接触させる。着目の抗原に結合することができる斯かる特定の抗体がサンプル中に存在する場合、複合体が形成され、そしてその存在及び/又は数量が、直接又は間接的な手段のいずれか、例えば、二次抗体、によって検出できる。
【0031】
例えば、標準的な固相ELISAとラテラルフロー免疫学的アッセイは、抗原ベースの免疫学的アッセイ又は抗体ベースの免疫学的アッセイのいずれかを実施するのに使用でき、かつ、さまざまな患者サンプルからのタンパク質又は抗体の数量又は濃度を特定するのに特に有用である、定量的な免疫学的アッセイである。これらの技術は、周知であり、そして、文献に十分に記載されている、例えば、抗原特異的酵素結合免疫吸着測定法(抗原特異的ELISA)は、Engvallら(The Journal of Immunology. 109 (1): 129-135 (1972)中)によって記載されており、及びラテラルフロー試験とも呼ばれるラテラルフロー免疫学的アッセイは、例えば、Koszula及びGallotta(Essays Biochem. 60(1):111-20 (2016)中)によって記載された。
【0032】
好ましくは、抗体の存在及び/又は数量は、ELISA又はラテラルフロー免疫学的アッセイによってアッセイされる。好ましくは、本発明で定義される少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の存在及び/又は数量の特定は、本発明の少なくとも1つのタンパク質と、生物学的サンプル中に存在する抗体、好ましくはIgG、との間で形成される複合体の形成を検出するステップを含む。
【0033】
好ましくは、本発明の少なくとも1つのタンパク質と、生物学的サンプル中に存在する抗体、好ましくはIgG、との間で形成される複合体の形成の検出は、検出抗体とも呼ばれる二次抗体の使用を伴う。本発明との関連において、「二次抗体」という用語は、生物学的サンプル中に存在する抗住血吸虫抗体に結合することができる抗体を指す。抗ヒトIgG抗体が、二次抗体として使用でき、かつ、本発明の少なくとも1つと、アッセイされるサンプル中に存在するIgG抗住血吸虫(Schisostoma)抗体との間で形成される複合体の検出を可能にすることは、すぐに明らかにされる。本発明との関連において、「抗ヒトIgG抗体」という用語は、ヒトIgG抗体に特異的な抗体、すなわち、他のヒト免疫グロブリンに対するそれらの親和性に比べて、より大きい親和性でヒトIgG抗体に結合することができる抗体、を指す。斯かる抗ヒトIgG抗体は、典型的には免疫学的アッセイにおいて二次抗体として使用され、その製造及び使用は当該技術分野で周知であり、かつ、それらは市販されている。本発明との関連において、前記抗ヒトIgG抗体は、モノクローナル又はポリクローナルであり得、そして、マウス、ラット又はヤギなど対象(すなわち、ヒト)の種以外の任意の種起源であり得る。当該技術分野で典型的に実施されるように、抗ヒトIgG抗体は検出可能な標識に結合され得る。好ましくは、二次抗体は、抗ヒト抗体、好ましくは抗ヒトIgG抗体である。
【0034】
好ましくは、本発明の方法において、抗体の存在及び/又は数量は、免疫学的アッセイによって、好ましくはELISA又はラテラルフロー免疫学的アッセイによってアッセイされ、かつ、抗ヒトIgG抗体、好ましくは検出可能な標識に結合された抗ヒトIgG抗体の使用を伴う。
【0035】
「検出可能な標識」とは、本明細書中では、分光的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的又は化学的な手段によって検出可能であって、検体、検体類似体、検出装置用試薬、又は結合パートナーに結合する分子又は組成物を指す。酵素、金コロイド粒子、着色ラテックス粒子を含めた標識の例は、例えば、US4,275,149、US4,313,734、US4,373,932及びUS4,954,452に開示されている。有用な標識の追加の例としては、これだけに限定されるものではないが、放射性同位体も、補因子、リガンド、化学発光又は蛍光剤、タンパク質吸着銀粒子、タンパク質吸着鉄粒子、タンパク質吸着銅粒子、タンパク質吸着セレニウム粒子、タンパク質吸着硫酸粒子、タンパク質吸着テルル粒子、タンパク質吸着炭素粒子、及びタンパク質連結染料包(dye sacs)を含む。標識への化合物(例えば、検出装置用試薬)の付加は、共有結合、吸着プロセス、キレートなどで見られる疎水及び/又は静電結合、又はこれらの結合や相互作用の組み合わせによってなされることができ、及び/又は連結基が関与し得る。好ましくは、検出可能な標識は、フルオロフォア、化学発光、及び放射性標識から成る一覧において選択される。好適な標識の例としては、金コロイド、フルオロフォア(例えば、FITC若しくはTexas Redなどの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質、又はQdotプローブなどのナノ結晶など)又は酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ(AP)又はβ-ガラクトシダーゼなど)が挙げられ、すべて免疫学的アッセイにおいて一般的に使用される。
【0036】
本発明との関連において、そして、その分野での一般的な実施であるように、当業者は、例えば、Bovine Serum Albumin(BSA)などの抗住血吸虫(Schisostoma)抗体の非特異的タンパク質を使用すること、並びにアッセイされるサンプルと接触する状態に斯かるタンパク質を置くこと、によって、免疫学的アッセイの選択性と特異性を保証又は改善するように、免疫学的アッセイの条件を設定してもよい。本発明との関連において、抗住血吸虫(Schisostoma)抗体に対して非特異的なタンパク質は、抗住血吸虫(Schisostoma)抗体、例えば、住血吸虫(Schisostoma)属以外の種からのタンパク質、好ましくは吸虫以外の種を起源とするタンパク質、に特異的に結合しそうにないタンパク質を指す。
【0037】
本発明との関連において、抗住血吸虫抗体の存在及び/又は数量を特定するステップは、アッセイから得られたデータを取得するステップ、及び前記データを抗住血吸虫抗体の存在及び/又は数量に相当する情報内に表す及び/又は計算する更なるステップ、を含み得ることを理解しなければならない。例えば、抗住血吸虫抗体の存在及び/又は数量の特定は、免疫学的アッセイからのデータ、例えば、免疫学的アッセイの完了後にサンプルで検出された検出可能な標識のレベルに対するデータなど、を取得し、そして任意選択で、例えば、前記データを基準値又は1セットの基準値と比較することによって、生物学的サンプル中の抗住血吸虫抗体の存在及び/又は数量をこのデータからさらに特定する、ステップを含んでもよい。基準値又は基準値のセットは、予定された値又は予定された標準値などのセット、或いは較正目的のために確立された値のセットであってもよい。
【0038】
実験部分で十分に詳述されたように、対象者からの生物学的サンプル中の抗住血吸虫IgGの存在及び/又は数量が、前記対象における住血吸虫、特にビルハルツ住血吸虫感染症の診断と相関することが、発明者らによって確証された。そのうえ、本明細書中に開示され、かつ、本発明の抗住血吸虫抗体の検出方法で使用されるタンパク質は、住血吸虫の他の種による宿主の感染症に起因する生物学的サンプル中で天然に生じるヒトIgGに比べて、抗ビルハルツ住血吸虫IgGに対してより高い特異性を有する。
【0039】
本明細書に記載した抗住血吸虫抗体の検出方法が、住血吸虫感染症、特にビルハルツ住血吸虫感染症の診断において有用であり得、そのうえ、有利なことに、対象者のマンソン住血吸虫又は日本住血吸虫感染と、ビルハルツ住血吸虫感染症を識別するのに使用できることが、すぐに明らかになる。
【0040】
本発明はまた、対象者における、住血吸虫感染症、好ましくはビルハルツ住血吸虫感染症、の診断方法であって、以下のステップ:
a. 前記対象者からの生物学的サンプルを、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質と接触させ;
b. 前記対象からの生物学的サンプル中の、前記少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の数量を特定すること、
を含む前記方法も提供する。
【0041】
本明細書中に記載した抗住血吸虫抗体の検出方法と関連して本明細書中に定義される特徴は、住血吸虫感染症の診断方法に適用される。好ましくは、抗住血吸虫抗体の検出方法はインビトロ法である。
好ましくは、本発明による住血吸虫感染症の診断方法は、ステップb)で特定した数量と、基準サンプル中に存在する前記少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の数量とを比較するステップc)をさらに含む。
【0042】
本発明との関連において、基準サンプル中に存在する、前記少なくとも1つのタンパク質に結合することができる、抗体の数量は、予定された閾値であるか、又は前記方法の活性ステップとして本発明の方法を実装する過程で決定されるかのいずれであってもよい。よって、ある実施形態において、本発明による住血吸虫感染症の診断方法は、基準サンプル中に存在する前記少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の数量を特定するステップc)、そしてさらに、ステップb)で特定された抗体の数量と、ステップc)で特定された抗体の数量とを比較するステップd)、を含む。好ましくは、基準サンプルは、住血吸虫に感染していない1若しくは複数の対象から、好ましくはビルハルツ住血吸虫に感染していない1若しくは複数の対象から、の生物学的サンプルに由来する。別の実施形態において、本発明による住血吸虫感染症の診断方法は、ステップb)で特定される数量を基準閾値と比較するステップを含む。本発明との関連において、基準閾値は、好ましくは、基準サンプル中に存在する前記少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の数量であり、ここで、該基準サンプルは、住血吸虫に感染していない1若しくは複数の対象から、好ましくはビルハルツ住血吸虫に感染していない1若しくは複数の対象から、の生物学的サンプルに由来する。
【0043】
好ましくは、本発明による住血吸虫感染症の診断方法は、対象の住血吸虫感染症の存在又は不存在のステップc)の比較又はステップd)の比較から診断する更なるステップをさらに含む。好ましくは、前記診断ステップにおいて:
- ステップc)で特定された抗体の数量又は基準閾値より高い、ステップb)で特定される数量は、対象の住血吸虫感染症の存在を示し、そして
- ステップc)で特定された抗体の数量又は基準閾値以下の、ステップb)で特定される数量は、対象の住血吸虫感染症の不存在を示す。
【0044】
より好ましくは、住血吸虫感染症の診断方法において:
- ステップc)で特定された抗体の数量又は基準閾値は、基準サンプル中に存在する前記少なくとも1つのタンパク質に結合することができる抗体の数量であり、ここで、該基準サンプルは、ビルハルツ住血吸虫に感染していない1若しくは複数の対象からの生物学的サンプルに由来し、
そして、前記診断ステップにおいて:
- ステップc)で特定された抗体の数量又は基準閾値より高い、ステップb)で特定される数量は、対象のビルハルツ住血吸虫感染症の存在を示し、そして
- ステップc)で特定された抗体の数量又は基準閾値以下の、ステップb)で特定される数量は、対象のビルハルツ住血吸虫感染症の不存在を示す。
【0045】
利用可能な住血吸虫症治療の有効性が、感染症の原因となる住血吸虫種に大きく依存することは、注目に値する。例えば、プラジカンテル及びオキサムニキンはマンソン住血吸虫に対する有効性に関して同等であると考えられるが、オキサムニキン(oxaminiquine)は、ビルハルツ住血吸虫によって引き起こされた疾患の泌尿生殖器型に対して有効性を欠くことが示されている。本発明によるビルハルツ住血吸虫感染症の診断方法は、治療療法を設計又は適合させるために、治療的介入に先立って準備的な措置として使用されてもよい。
【0046】
よって、本発明はまた、住血吸虫、好ましくはビルハルツ住血吸虫に感染した対象の治療方法であって、以下のステップ:
・ 本発明の方法に従って対象におけるビルハルツ住血吸虫感染症の存在又は不存在を診断し、
・ ビルハルツ住血吸虫感染症と診断された対象に、ビルハルツ住血吸虫感染症に適正な治療療法を投与すること、
を含む方法も提供する。
【0047】
本発明との関連において、ビルハルツ住血吸虫感染症に適切な治療療法としては、プラジカンテル、メトリホナート、アルテスネイト又はメフロキンが挙げられる。好ましくは、ビルハルツ住血吸虫感染症に適切な治療療法は、プラジカンテル、メトリホナート、及びプラジカンテルと、メトリホナート、アルテスネイト又はメフロキンのいずれかとの組み合わせから成る一覧において選択される。さらに好ましくは、ビルハルツ住血吸虫感染症に適切な治療療法は、プラジカンテルを含むか又はそれから成る。
【0048】
本発明はまた、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9及び配列番号10から成る群において選択される配列を含むか又はそれらから成る配列を有する少なくとも1つのタンパク質、並びに任意選択で、前記少なくとも1つのタンパク質をどのように使用するかについての取扱説明書を伴ったリーフレットを含む、好ましくは本明細書中に定義される使用又は方法のための、キットも提供する。
【0049】
好ましくは、本発明によるキットは、検出可能な標識に結合された抗ヒトIgG抗体をさらに含む。
好ましくは、本発明によるキットでは、前記少なくとも1つのタンパク質は、固体支持体上に固定される。
【0050】
「固体支持体」とは、本明細書中において、不溶性であるか、又はその後の反応によって不溶性にすることができる材料を指す。数多くの、様々な固体支持体が、当業者に知られており、そして、これだけに限定されるものではないが、ニトロセルロース、反応トレイのウェルの壁、マルチウェルプレート、試験管、ポリスチレンビーズ、磁性ビーズ、膜、マイクロ粒子(ラテックス粒子など)、及びヒツジ(又は他の動物の)赤血球が挙げられる。検出装置用試薬による接近を可能にするのに十分な多孔性、及び捕獲試薬を固定するのに好適な表面親和性を有する任意の好適な多孔性物質が、この用語によって企図される。例えば、ニトロセルロースの多孔構造は、さまざまな試薬、例えば捕獲試薬、に対して優れた吸着及び吸着特質を有する。ナイロンは類似の特徴を有しているので、同様に好適である。微細孔構造は、水和状態でゲル構造を有する材料なので、有用である。
【0051】
有用な固体支持体の更なる例としては:天然の高分子炭水化物、並びにこれらを合成的に改質、架橋又は置換した誘導体、例えば寒天、アガロース、架橋アルギン酸、置換及び架橋グアルゴム、セルロースエステル、特に硝酸及びカルボン酸とのエステル、混合セルロースエステル及びセルロースエーテル;窒素含有天然ポリマー、例えばタンパク質及び誘導体、例えば架橋又は改質ゼラチン;天然炭化水素ポリマー、例えばラテックス及びゴム;適当な多孔質構造を有するように製造し得る合成ポリマー、例えばビニルポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ポリビニル、酢酸ポリビニル及びその部分的加水分解誘導体、ポリアクリルアミド、ポリメタクリレート、前記重縮合物のコポリマー及びターポリマー、例えばポリエステル、ポリアミド及び他のポリマー、例えばポリウレタン又はポリエポキシド;多孔質無機物質、例えばアルカリ土類金属及びマグネシウムの硫酸塩又は炭酸塩、例えば硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム及びマグネシウムのケイ酸塩;アルミニウム又はケイ素の酸化物又は水和物、例えばクレー、アルミナ、タルク、カオリン、ゼオライト、シリカゲル又はガラス(これらの物質はフィルターとして前記ポリマー物質と共に使用し得る);並びに前記物質類の混合物又はコポリマー、例えば既存の天然ポリマー上で合成ポリマーの重合を開始することによって得られるグラフトコポリマーが挙げられる。
【0052】
タンパク質は、イオン相互作用、疎水性相互作用、共有結合によって、又は、例えばポリリシンなどの当該技術分野で知られているいずれかの基質への吸着によって、固体支持体上に固定され得る。固体支持体の表面は、該支持体への剤(例えば、捕獲試薬)の共有結合を引き起こす化学プロセスによって活性化され得る。別段の物理的に制約される場合を除いて、固体支持体は、フィルム、シート、細片、又はプレートなどの任意の好適な形状で使用されてもよく、或いはそれは、紙、ガラス、プラスチックフィルム、又は織物などの適切な不活性担体上にコートされるか、又はそこに接着若しくはラミネートされてもよい。
【0053】
本発明の範囲はまた、具体例に関する以下の説明からも明らかになる。
【実施例】
【0054】
材料と方法
試験デザインとコホート
この試験に使用したすべてのサンプルを、倫理的な承認を得た先の試験から利用し、そして、尿サンプルの顕微鏡解析によって特定される虫卵負荷に基づいて層化した(高度、10mlの尿あたり≧50個の虫卵;又は低度、10mlの尿あたり1~49個の虫卵)。虫卵陰性サンプルを、アップコンバーティング蛍光体ラテラルフローCAAアッセイを使用した循環陽極抗原(CAA)の存在に関してさらに試験し(de Dood et al. Frontiers in immunology 2018; 9: 2635)、そして、虫卵陰性/CAA陽性又は虫卵陰性/CAA陰性であるとして分類した。タンパク質アレイを、ジンバブエ及びガボンのビルハルツ住血吸虫風土病地域からの血清及び尿サンプルを用いてプロービングした。ELISAを、ジンバブエ及びガボンからの血清サンプルの同じコホートと、ジンバブエだけからの尿サンプルの同じコホートを使用して実施した(ガボン尿コホートをアレイプロービングで使い尽くした)。追加ELISAバリデーションを、排除設定:タンザニア連合共和国ザンジバル、からの尿サンプルを使用して実施した。種特異性分析を、フィリピンからの日本住血吸虫に感染したサンプル及びエチオピアからのマンソン住血吸虫に感染したサンプルを使用して実施した。ICT評価を、ガボンコホートからの血清サンプルを用いて実施した(表1)。
【0055】
【0056】
ヒト血清及び尿を用いたビルハルツ住血吸虫タンパク質アレイのプロービング
アレイ化抗原に対する血清IgG応答を、抗ヒトIgG-Qdotコンジュゲート(アレイブロッキングバッファー中1:100)を二次/検出抗体として使用するので、そのため、分離検出試薬との第三のインキュベーションを必要としないという例外を有する、以前に記載した(Ochodo et al. Cochrane Database Syst Rev 2015; (3): CD009579)ヒト血清(アレイブロッキングバッファー/10%のE.コリ溶解物中1:50)を用いたプロービングによって特定した。尿IgG応答を、ヒト尿サンプルを最初に15倍に濃縮し、PBSにバッファー交換した後にアレイブロッキングバッファー/10%のE.コリ溶解物で1:5に希釈し、そしてアレイに適用したことを除いて、同様にプロービングアレイによって特定した。
【0057】
ビルハルツ住血吸虫タンパク質アレイの構造、プロービング、及び分析
成体ビルハルツ住血吸虫外被、可溶性排泄又は分泌物(ES)及びEV、並びに虫卵ステージからのES(Sotillo et al. PLoS Negl Trop Dis 2019; 13(5): e0007362)に存在するタンパク質、そしてマンソン住血吸虫の幼住血吸虫外被プロテオーム17のビルハルツ住血吸虫オルソログを、アレイにプリントするために選択した。残存タンパク質は、マンソン住血吸虫プロテオームアレイからの選択タンパク質のビルハルツ住血吸虫オルソログから成った。PCRを使用して寄生虫cDNAからのあらゆる遺伝子を増幅した代わりに、アレイ化したタンパク質のオープンリーディングフレームを商業的に合成したことを除いて、アレイ構造は先に記載したものと同じであった。寄生虫抽出を、陽性対照としてアレイに含めた。
【0058】
アレイ化した抗原に対する血清IgG応答を、抗ヒトIgG-Qdotコンジュゲート(アレイブロッキングバッファー中1:100)を二次/検出抗体として使用するという例外を有する、以前に記載した(Gaze et al. PLoS Pathog 2014; 10(3): e1004033)ヒト血清(アレイブロッキングバッファー/10%のE.コリ溶解物中1:50)を用いたプロービングによって特定した。尿IgG応答を、ヒト尿サンプルを最初に15倍に濃縮し、PBSにバッファー交換した後に、アレイブロッキングバッファー/10%のE.コリ溶解物で1:5に希釈したことを除いて、同様にプロービングアレイによって特定した。
【0059】
ビルハルツ住血吸虫タンパク質アレイのデータ分析とバイオインフォマティクス
血清及び尿を用いたアレイのプロービングからもたらされたデータセットを別々に分析した。それぞれのスポットのシグナル強度(SI)を、バックグラウンド補正し、そして、VSN Bioconductorパッケージを使用したGMineの分散安定化正規化(vsn)法を使用して変換した(Proietti et al. Sci Rep 2016; 6: 38178)。抗体応答を、そのタンパク質のすべての感染個体人に関する平均SIが、すべての無風土病陰性のSIの平均+1.5標準偏差(SD)より大きかった場合に、反応性であると見なした。感染群対非感染群における抗体応答間の有意差を、スチューデントt-検定によって判定した。受信者動作特性(ROC)曲線及び曲線下面積(AUC)値を、ROCR Rパッケージを使用して各抗体応答に関してもたらし、そして、それらの応答のタンパク質標的を、応答の有意性順に格付けした。
【0060】
診断流体として血清又は尿のいずれかを使用した、感染個体と非感染個体とを最も効果的に識別し得る抗体識別特性を生じる1セットの抗原を同定した。最初に、各データセットに関して、非感染集団と比較して、感染集団で有意に高かった抗体応答の標的であったすべての抗原を選択した。これらから、感染集団の30%未満及び非感染集団の30%超の陽性(反応性)の頻度を有する応答の抗原標的も除外した。これらのトリミング済みデータセットの抗原を、感染集団と非感染集団との間の平均SIの最大~最少倍率変化、並びに感染集団の反応性の頻度によってソートした。各データセットの上位5つの抗原を、サポートベクタ機械分類機を作り上げるのに使用した。その性能はモンテカルロクロス確認によって評価した(Proietti et al.. Sci Rep 2016; 6: 38178)。
【0061】
抗体識別特性の同定
診断流体として血清又は尿のいずれかを使用した、感染個体と非感染個体とを最も効果的に識別し得る抗体識別特性を生じることができる1セットの抗原を同定した。最初に、各データセットに関して、感染集団と非感染集団との間で(複数の試験のための矯正後に)有意に上方制御される抗体応答を引き起こすすべての抗原を選択した(血清、n=208;尿、n=45)。これらから、感染集団の30%未満(血清、n=178;尿、n=7)及び非感染集団の30%超(血清、n=9;尿、n=13)の陽性(反応性)の頻度を有する抗体応答を誘発する抗原も除外した。これらのトリミング済みデータセットの抗原(血清、n=21;尿、n=25)を、感染集団と非感染集団との間の平均SIの最大~最少倍率変化、並びに感染集団の反応性の頻度によってソートした。各データセットの上位5つの抗原を、サポートベクタ機械分類機を作り上げるのに使用した。その性能はモンテカルロクロス確認によって評価した。反復的に、15個のサンプルを、訓練セットとして無作為に選択し、そして、残りのサンプルを、試験セットとして使用した。次に、モデルを、学習データに当てはめ、そして、
感染又は非感染としてサンプルを分類する際のモデルの予測精度を、試験セットを使用して評価した。このプロセスを4回繰り返した。次に、モデルの予測性能を、4つのモンテカルロ交差確認実行のすべてにわたってROC曲線を平均することによって評価した。
【0062】
EV由来TSPの選択
ビルハルツ住血吸虫EVプロテオーム中に存在するTSPを、存在量(タンパク質スペクトルカウント)によって仕分けし、そして、文献で報告された診断有効性の相同体を有する最多TSP(n=3)を、更なる評価のために選択した。
【0063】
E.コリにおける遺伝子組み換えタンパク質の製造
免疫識別特性とEVプロテオームセット(MS3_10385、MS3_10186、MS3_06193、MS3_01466、MS3_05950、MS3_09198、MS3_013701及びSh-TSP-2)から選択した8つの抗原を、先に記載のとおりE.コリで発現させた(Pearson et al. PLoS Negl Trop Dis 2012; 6(X): e1564)。MS3_06193、MS3_01466、及びMS3_05950の発現収率は、さらなる開発を保証するには低すぎるレベルであった。
【0064】
血清及び尿IgG応答のELISAバリデーション
各生体液におけるE.コリ発現及び精製遺伝子組み換えタンパク質に対するIgG応答をELISAによって計測した。プレート(Greiner)を、抗原でコートし、ブロッキングし、及び血清(1:50)と、それに続いてヤギ抗ヒトIgG-HRP(Sigma、1:5000)を用いてプロービングし、そしてTMBを用いて現像した。各抗原に対する尿IgG応答を、尿サンプルを1:10に希釈したことを除いて、同様に計測した。多重抗原に対する尿IgG応答を同様に実施し、そしてプレートを2μg/mlに希釈した抗原でコートした。種特異性分析を、血清ELISAのように実施した。アッセイを三連で実施し、そして、ブランク修正値を、Graphpad Prism7を使用してプロットした。反応性カットオフを、無風土病陰性群の平均+3SDとして特定した。ROC曲線を、Graphpad Prism7を使用して作成した。
【0065】
PoC-ICTの試験的な開発
PoC試験開発のために、ラテラルフローICTを設計した(Serve Science, Bangkok, Thailand)。コンジュゲートパッドを、10ODの金コンジュゲートマウス抗ヒトIgGでコートし、そして、遺伝子組み換え(1.0mg/ml)MS3_01370.1又はSh-TSP-2のいずれかを試験ラインにスプレーし、及び1.0mg/mlの抗マウスIgGを対照ラインにスプレーした。血清(5μl、バッファーBS-007で希釈した1:10)をサンプルリザーバに適用し、3滴のバッファーBS-007をサンプルリザーバに適用し、そして、試験を15分後に読み出した。各細片について、試験及び対照ラインのバンドは陽性結果であり、対照ラインのバンドだけが陰性結果であり、そして、対照ラインにバンドがなかった場合、試験は無効であった。陽性試験のバンド強度を、最大(+4)~最少(+1)強度の四段階評価によりスコア化した。0のスコアを陰性結果に与えた。検査結果を2つの独立した、かつ、盲検の試験官によって確認した。
【0066】
結果
多数のアレイ化抗原に対する血清及び尿IgG応答は、非感染集団に対して感染集団で有意に上昇した(血清、n=208、尿、n=45)(
図1A及びB)。抗原が生じさせる上位20の最も有意な応答を列挙し(表2)、
プロテオミクス試験で検出されたこれらの大部分、及びこれらの、各データセットの少なくとも半分は、寄生虫プロテオームのEV画分から同定された。これらの上位20の抗原のうちの7つ(35%)が、2つのデータセットの間で共有された。当てはめた(n=17)血清及び尿サンプルの一部からの応答間の有意な相関関係によって支持された(R
2=0.613、p<0.0001)、アレイを精査するのに使用したすべてのサンプル(血清、n=243、尿、n=117)からの血清及び尿IgG応答の間に有意な相関関係が存在する(R
2=0.651、p<0.0001)(
図1C及びD)。尿に関して、IgG SIは、感染強度と有意に相関関係があったが(R
2=0.234、p<0.05)、感染強度と血清IgG SIとの相関関係はなかった(R
2=0.087、p>0.05)(
図5)。
【0067】
【0068】
【0069】
診断流体として血清又は尿のいずれかを使用することによって感染集団と非感染集団とを最も効率的に識別し得る抗体識別特性を同定した(表3)。このセットから、最低4つの抗原で、いずれかの診断サンプルにおける0.98の診断精度(AUC)を有する抗体識別特性を生み出すことができると特定した(
図6)。この応答の標的である抗原としては、IPSE(MS3_10186)、セルピン(MS3_10385)、2つのCD63様TSP(MS3_09198及びMS3_01370)、並びに16kDaカルシウム結合タンパク質(MS3_05950)が挙げられる。これらの抗原の大部分を、ビルハルツ住血吸虫EVプロテオームから同定した。
【0070】
タンパク質アレイプロービングから同定した抗原の診断性能の妥当性を確認するために、免疫識別特性又はEVプロテオームセット(MS3_10385、MS3_10186、MS3_09198、MS3_01370、及びSh-TSP-2)のいずれかからの5つの抗原を、ELISAによるIgG応答を計測するのに使用した。尿IgG応答を、ビルハルツ住血吸虫について低い伝染地域からのサンプルを使用してさらに評価した(Knopp et al. Lancet Glob Health 2019; 7(8): e1118-e29)。すべての組み換え抗原に対する血清抗体応答は、高度及び中度感染強度群に対する応答だけが有意に達したMS3_10186.1及びMS3_09198.1以外、すべての感染コホートにおいて有意に反応性であった。組み換え抗原に関して、虫卵陰性/CAA陽性群(最低レベルの感染を有するコホート)において最も有意に反応性である抗体応答は、Sh-TSP-2に対してであった。精製組み換え抗原に対する抗体応答に関して、(ジンバブエとガボンコホートの両方を組み合わせた)感染集団と非感染集団とを識別する最大能力を有するものは、MS3_0371とSh-TSP-2に対するものであり、それぞれ0.93と0.97のAUCを生じた(表4)。感染集団の間の認識頻度(FoR)パターン分析では、MS3_0170及びSh-TSP-2が最も頻繁に認識される2つの組み換え抗原であり、特にSh-TSP-2の場合に、これらの分子の高AUC値と一致し、これが低い感染強度を有する個体による高い認識に起因する(データ未掲載)ことを明らかにした。すべての組み換え抗原に対する特異性は、すべてのアッセイに関するストリンジェント反応性カットオフセット(すべての無風土病陰性サンプルの平均+3SD)により、試験したすべてのコホートにおいて100%であった。
【0071】
【0072】
高度及び中度の感染強度群におけるすべての組み換え抗原に対する尿IgG応答は、対照と比較して、有意に反応性であった。さらに、低度及び虫卵陰性/CAA陽性感染強度群の両方における抗Sh-TSP-2応答もまた、対照と比較して、有意に上昇した(
図3)。すべての組み換え抗原に対する抗体応答のAUC値は、ジンバブエコホートにおいて高く(>0.89)、かつ、Sh-TSP-2(0.93)以外のすべての組み換え抗原についてザンジバル(0.57~0.69)の除外設定からのコホートにおいて控え目であった(表5)。
【0073】
【0074】
尿に関して、Sh-TSP-2の高い診断性能は、血清コホートのように、低感染強度群において、試験した他のものすべてを上回る、この抗原の認識を示す、FoRパターン分析に反映された(データ未掲載)。試験した分子のFoRパターンの差を前提として、抗原の様々な組み合わせを試験して、これらのカクテルが感染集団の中でより高い陽性率を引き出し、かつ、診断性能を増強するかどうか確認した。すべての抗原組み合わせが、対照と比較して、すべての感染コホートからの有意な応答をもたらした(
図7)。しかしながら、
これらの組み合わせの使用は、Sh-TSP-2のみと比較して、感染集団におけるAUC又はFoR値の増大をもたらさなかった(表6、
図8)。血清ELISAと同様に、試験したすべてのコホートにおけるすべての組み換え抗原に対する特異性が、絶対的な事象であった。
【0075】
【0076】
マンソン住血吸虫又は日本住血吸虫のいずれかに単一感染している個体からの血清におけるSh-TSP-2及びMS3_01370(2つの最高性能抗原)の認識の程度。両抗原を、日本住血吸虫感染症、及びSh-TSP-2の場合、マンソン住血吸虫感染症からの血清抗体によって有意に低い程度まで認識した(
図9)。
【0077】
最後に、Sh-TSP-2及びMS3_01370の診断性能が分野適合形式に変換できるか評価した。感染者の血清中のそれらの同族抗体の存在を捕捉し、そして、検出するように、試験ラインにコートした各抗原を用いて、PoC-ICTを設計した(製造業者によって推奨されたこの流体と共に使用するために、ICT設計を最適化した)。Sh-TSP-2又はMS3_01370のいずれかでコートしたICTは、尿濾過によって虫卵陰性であり、かつ、CAAについてのみ陽性である個体においてでさえ、サンプル採取したコホートからあらゆるレベルの感染強度にて抗体を検出した(それぞれ89%及び75%の感度)。両方のセットのICTとも、100%の特異性を示し、試験したあらゆる無風土病サンプルについて陰性結果を返した。
【配列表】
【国際調査報告】