(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-09
(54)【発明の名称】特にEUV放射線を反射するための光学素子、光学装置、及び光学素子を製造する方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20231101BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20231101BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20231101BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20231101BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G02B5/08 A
G02B5/26
G02B5/28
G02B5/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526422
(86)(22)【出願日】2021-10-05
(85)【翻訳文提出日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2021077360
(87)【国際公開番号】W WO2022089885
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】102020213639.4
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【氏名又は名称】河合 隆慶
(72)【発明者】
【氏名】ビタリー シュクロベール
【テーマコード(参考)】
2H042
2H148
2H197
2H249
【Fターム(参考)】
2H042DA01
2H042DA09
2H042DA10
2H042DA12
2H042DA16
2H042DB14
2H042DC02
2H042DC08
2H148FA05
2H148FA09
2H148FA18
2H148FA22
2H148FA24
2H148GA03
2H148GA09
2H148GA24
2H148GA32
2H148GA61
2H197AA10
2H197BA02
2H197BA03
2H197BA11
2H197BA21
2H197CA10
2H197CB16
2H197CC16
2H197GA01
2H197GA10
2H197GA12
2H197GA13
2H197GA20
2H197GA23
2H197HA03
2H249AA07
2H249AA18
2H249AA31
2H249AA33
2H249AA41
2H249AA55
2H249AA64
(57)【要約】
本発明は、基板(25)と基板(25)に成膜された反射コーティング(26)とを備えた、特にEUV放射線(16)を反射するための反射光学素子(17)に関する。本発明の一態様において、基板(25)は、その体積(V)内に少なくとも1つの貴金属(27)をドープされる。本発明のさらに別の態様において、反射コーティング(26)及び/又は基板(25)と反射コーティング(26)との間に形成された構造層(28)は、少なくとも1つの貴金属(27)をドープされる。本発明はまた、少なくとも1つの上記反射光学素子(17)を備えた光学装置、好ましくは、マイクロリソグラフィ用の、特にEUVリソグラフィ用の投影露光装置と、上記反射光学素子(17)を製造する方法とに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(25)と、
該基板(25)に成膜された反射コーティング(26)と
を含む、特にEUV放射(16)を反射するための反射光学素子(17、19)であって、
前記基板(25)は、その体積(V)内に少なくとも1つの貴金属(27)をドープされていることを特徴とする反射光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の反射光学素子において、前記基板(25)は、ガラスから、特にチタンドープ石英ガラスから、ガラスセラミックから、セラミック、好ましくは窒化ケイ素セラミック、炭化ケイ素セラミック、炭窒化ケイ素セラミック、ケイ酸アルミニウムマグネシウムセラミック、特にコーディエライトセラミックから、又は複合材料、特にシリコン含浸炭化ケイ素複合材SiSiCから形成される反射光学素子。
【請求項3】
請求項1に記載の反射光学素子において、前記基板(25)は、ケイ素から、特に単結晶、擬似単結晶、又は多結晶シリコンから形成される反射光学素子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の反射光学素子において、前記基板(25)は、該基板(25)の表面から1000nmよりも大きな、好ましくは1mmよりも大きな、より好ましくは2mmよりも大きな、特に5mmよりも大きな距離まで前記基板(25)の前記表面から延びる体積領域に前記少なくとも1つの貴金属(27)をドープされている反射光学素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の反射光学素子において、前記基板(25)は、その体積全体に前記少なくとも1つの貴金属(27)をドープされている反射光学素子。
【請求項6】
請求項1のプリアンブルに記載の、特に請求項1~5のいずれか1項に記載の反射光学素子において、
前記基板(25)と前記反射コーティング(26)との間に形成され、好ましくは格子構造(29)を形成する構造層(28)であり、貴金属(27)をドープされている構造層(28)
をさらに備えた反射光学素子。
【請求項7】
請求項1のプリアンブルに記載の、特に請求項1~6のいずれか1項に記載の反射光学素子において、前記反射コーティング(26)は、貴金属(27)をドープされている反射光学素子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の反射光学素子において、構造層(28)及び/又は前記反射コーティング(26)は、前記貴金属(27)をドープしたシリコンを含む反射光学素子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の反射光学素子において、前記反射コーティングは、EUV放射線(16)を反射するための多層コーティング(26)を形成する反射光学素子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の反射光学素子において、前記貴金属(27)は、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、Auを含む群から選択される反射光学素子。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の反射光学素子において、前記貴金属(27)のドーパント濃度が、10
10cm
-3~10
20cm
-3、好ましくは10
12cm
-3~10
16cm
-3である反射光学素子。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の反射光学素子は、投影露光装置(1)の照明光学系(2)のコレクタミラー(17)の形態である反射光学素子。
【請求項13】
光学装置、好ましくは、マイクロリソグラフィ用の、特にEUVリソグラフィ用の投影露光装置(1)であって、
請求項1~12のいずれか1項に記載の少なくとも1つの反射光学素子(17、19)を含む光学装置。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の反射光学素子(17、19)を製造する方法であって、
基板(25)を用意するステップと、
該基板(25)に反射コーティング(26)を成膜するステップであり、好ましくは該反射コーティング(26)を成膜するステップの前に前記基板(25)に構造化可能層(28’)を成膜して成膜後に構造化するステップと
を含む方法において、
前記反射コーティング(26)及び/又は前記構造化可能層(28’)は、スパッタリング堆積により成膜され、該スパッタリング堆積は、好ましくはシリコンを含む、貴金属(27)をドープしたスパッタリングターゲット(37)を用いて達成されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14のプリアンブルに記載の、特に請求項14に記載の方法において、用意された前記基板(25)は、その体積(V)内に少なくとも1つの貴金属(27)をドープされる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
本願は、2020年10月29日の独国特許出願第10 2020 213 639.4号の優先権を主張し、その全開示内容を参照により本願に援用する。
【0002】
本発明は、基板と基板に成膜された反射コーティングとを備えた、特にEUV放射線を反射する反射光学素子に関する。本方法は、少なくとも1つの上記反射光学素子を含む、例えば投影露光装置の形態の、好ましくは、マイクロリソグラフィ用の、特にEUVリソグラフィ用の光学装置にも関する。本発明は、反射光学素子を製造する方法であって、基板を用意するステップと、基板に反射コーティングを成膜するステップであり、好ましくは当該反射コーティングを成膜するステップの前に基板に構造化可能層を成膜して成膜後に構造化するステップとを含む方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
光学装置は、例えば、EUVリソグラフィ用の光学装置、すなわちEUVリソグラフィの分野で用いることができる光学系であり得る。半導体コンポーネントの製造に役立つEUVリソグラフィ用の投影露光装置だけでなく、光学装置は、例えば、かかる投影露光装置で用いるフォトマスク(以下レチクルとも称する)の検査用、構造化する半導体基板(以下ウェハとも称する)の検査用の検査システム、又はEUVリソグラフィ用の投影露光装置又はその一部の測定に、例えば投影光学ユニットの測定に用いる計測システムであり得る。
【0004】
EUVリソグラフィシステム又はEUV計測システム及びそこに設置されたコンポーネントは、低分圧の水素を添加した真空中で動作する。水素は、光学面を連続的に洗浄する働きをする。動作時に、発生したEUV光により分子状水素が励起されると、水素ラジカル(H*)及び水素イオン(H+)が形成される。これらの水素種と、例えばSi含有材料(単結晶/多結晶又は非晶質シリコン、石英ガラス、窒化ケイ素、炭化ケイ素、特にシリコン含浸炭化ケイ素複合材(SiSiC)、コーディエライトセラミックス等のケイ酸アルミニウムマグネシウムセラミックス、ガラス又は熱膨張が非常に小さいガラスセラミックス、例えばULE(登録商標)、Zerodur(登録商標)、Clearceram(登録商標)等)からなる反射光学素子(EUVミラー)の露出表面との相互作用が、揮発性水素化物、特にシランを生じさせ、これはHIO(「水素誘起ガス放出」)とも称する。揮発性水素化物がさらに光学面に堆積することで、光学コンポーネントの劣化につながり得る。
【0005】
文献には、揮発性水素化物の形成を防止又は低減することができる様々な手法が開示されている。
【0006】
特許文献1は、水素含有雰囲気に曝されたEUVリソグラフィ装置のコンポーネントを(例えば、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、及び白金の群からの)貴金属の保護層で少なくとも部分的に覆うことを提案している。保護層の最小厚さは、保護層が水素イオン及び/又は水素ラジカルを透過させることができないように選択されるべきである。
【0007】
特許文献2は、周囲の水素プラズマのエッチング効果からの保護を提供するシールドが、ギャップにより隔てられて本体の少なくとも1つの表面領域に取り付けられた光学素子を開示している。シールドと表面領域との間の距離は、周囲のプラズマのデバイ長の2倍未満である。シールドは、本体に間接的に又は直接的に施すこともできる。シールドは、水素再結合材料(例えば、Ir、Ru、Pt、Pd)からなり得るか、又は水素再結合材料のコーティングを有し得る。ギャップには、充填材(例えば、酸化アルミニウム、窒化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化タングステン、金属、好ましくは貴金属、特にRu、Rh、Pd、Ir、Pt、Au、及びそれらの組成物)が部分的に又は完全に充填され得る。さらに別の実施形態において、シールドはコーティングの形態をとり得る。
【0008】
特許文献3は、水素の脱離温度が340K未満である水素脱離材料(例えば、Pd、Ag、Au、及びそれらの合金)の最上層を有する、EUV放射線を反射する光学素子を開示している。水素を放出するという所望の効果を達成するために、最上層は必ずしも連続層を形成する必要はない。クラスタ又は島の形態の水素脱離材料の材料蓄積も、相互間の距離が十分に小さければこの目的を果たすことができる。
【0009】
特許文献4は、表面領域と活性化水素(H+、H*)との接触時に少なくとも1つの揮発性水素化物を形成する少なくとも1つの材料を本体が含む、動作時に水素プラズマに曝されるEUVミラーを開示している。揮発性水素化物の形成を防止するために、貴金属イオン(例えば、Rh、Ru、Ir、Au、Pd、Pt)が本体の表面領域に注入される。表面下の表面近傍の体積領域への貴金属イオンの注入により、揮発性水素化物の形成を大幅に低減することができる。これは、貴金属イオンが概して原子状水素を形成するための活性化水素の、すなわち水素ラジカル及び/又は水素イオンの再結合に対する強い触媒効果を有することを利用したものである。前述の解決手段とは対照的に、貴金属イオンの注入には本体のドーピングがあるにすぎず、層の形成はない。
【0010】
しかしながら、例えば反射光学素子が構造化された光学ユニットである場合、本体の表面近傍の体積領域への貴金属イオンの注入では限られた保護しか得られない。このような光学ユニットでは、例えば格子構造の形態の構造化を形成するために、例えば非晶質シリコンの構造化可能層が基板に成膜される。格子構造は、例えば、EUVコレクタミラー上に形成されて分光フィルタとして働くことができる。構造化された表面を完全に均一に覆った堆積は非常に困難なので(層は多くの場合に急峻なエッジに細孔、チャネル、又は他の欠陥若しくは不規則性を有する)、このような構造層、及び反射多層Mo-Si層又はコーティングのシリコン層は、反応性水素種によるエッチングアタックを受ける。
【0011】
特許文献5は、格子構造の形態の分光フィルタを備えた投影露光装置の照明光学ユニット用のミラーを開示している。格子構造は、複数のSi-Mo二重層を有する反射コーティングの形態の連続した保護層により完全に覆われ得る。格子構造の低エッジ急峻度が、保護層での格子構造の被覆を改善することができ、このようにして反射光学素子の水素安定性を高めることができる。
【0012】
比較的高いエッジ急峻度の場合でも格子構造の完全な被覆を達成しようとする場合、特許文献6に記載のように、反射多層コーティングは、表面適合(コンフォーマル)コーティングとして成膜され得る。ここでは、3次元プロファイルに沿っても本質的に一定の層厚にするために原子層堆積の形態のコンフォーマル又は等方性コーティングプロセスが提案されている。しかしながら、Mo及びSiの二重層を50層よりも多く有し得る反射多層コーティングを原子層堆積により成膜するのは非常に複雑である。
【0013】
特許文献7は、第1層、第2層、及び第3層を有する保護層系を備えた光学素子を記載している。金属粒子及び/又はイオンが、保護層系の少なくとも1つの層に注入され得る。イオンは、貴金属イオン、例えば貴金属イオン、特に白金族金属イオンであり得る。保護層系の少なくとも1つの層は、金属(ナノ)粒子を、例えば貴金属粒子(例えば、Pd、Pt、Rh、Ir)の形態の(外来)原子をドープされたものであり得る。貴金属イオン又は外来原子は、水素及び/又は酸素遮断剤として働くことができる。
【0014】
上述の手法は全て、複雑な形態の3次元物体の大面積加工を想定しており、これにはかなりの複雑度が伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】独国特許出願公開第102015215014号明細書
【特許文献2】国際公開第2019/025162号
【特許文献3】独国特許出願公開第102017222690号明細書
【特許文献4】国際公開第2019/179861号
【特許文献5】国際公開第2020/109225号
【特許文献6】国際公開第2013/113537号
【特許文献7】独国特許出願第10 2019 212 910.2号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、低い複雑度で実施可能な、反応種からの、特に反応性水素種からの保護を可能にする、反射光学素子、光学装置、及び光学素子を製造する方法を特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、その第1態様において、基板の体積内に少なくとも1つの貴金属をドープした前述のタイプの光学素子により達成される。
【0018】
本発明者らの認識では、前掲の特許文献4に記載のように表面近傍の体積領域にその後貴金属イオンを注入する場合よりも、貴金属の形態の水素再結合材料での基板材料のドーピングを、基板の製造プロセス中でもはるかに効率的に行うことができる。
【0019】
特許文献4に記載の本体とは対照的に、本発明の反射光学素子の場合の貴金属でのドーピングは、1000nm未満の注入深さを有する表面近傍の体積領域に限定されない。その代わりに、基板は、体積内にも、すなわち基板の表面から1000nmよりも大きな、例えば1mmよりも大きな、2mmよりも大きな、5mmよりも大きな距離等にある体積領域でも貴金属をドープされる。特に、基板は、その体積全体で貴金属をドープされたものであり得る。
【0020】
一実施形態において、基板は、ガラス又は熱膨張が非常に小さいガラスセラミック、例えばチタンドープ石英ガラス(ULE(登録商標))、Zerodur(登録商標)、Clearceram(登録商標)等、セラミック、例えば窒化ケイ素セラミック、炭化ケイ素セラミック、炭窒化ケイ素セラミック、ケイ酸アルミニウムマグネシウムセラミック、特にコーディエライトセラミックから、又は複合材料、特にシリコン含浸炭化ケイ素複合材(SiSiC)から形成される。原理上、EUVリソグラフィで用いる基板材料のいずれに貴金属をドープすることも可能である。
【0021】
基板は、シリコンから、特に単結晶、擬似単結晶、又は多結晶シリコンから、又は場合によっては非晶質シリコンから形成されることが好ましい。金の形態の(論文"Properties of Gold-Doped Silicon", C. B. Collins et al., Phys. Rev. 105(1957) 1168-1173参照)又は白金の形態の貴金属をドープしたシリコンが市販されており、したがって反射光学素子の基板の製造に用いることができる。金又は白金で飽和した単結晶シリコンは、例えば、マイクロ波技術で高出力発電機の窓として(論文"Radiation effects on dielectric losses of Au-doped silicon", J. Molla et al., Journal of Nuclear Materials, 258-263 (1998) 1884-1888参照)又は放射線検出器で(論文"Gold and Platinum Doped Radiation Resistant Silicon Diode Detectors", R. L. Dixon et al., Radiation Protection Dosimetry 17 (1986) 527-530参照)適用される。
【0022】
単結晶シリコンはさらに、x線、EUV、及びシンクロトロン光学系用の基板の製造で一般的な材料であり、この目的の研磨技術は確立している。単結晶シリコンの製造で有用な方法は、チョクラルスキー法("Ein neues Verfahren zur Messung der Kristallisationsgeschwindigkeit der Metalle"[金属の結晶化速度を測定する新規方法], J. Czochralski, Zeitschrift fur physikalische Chemie, 92 (1918) 219-221参照)又はブリッジマン・ストックバーガー法("Certain Physical Properties of Single Crystals of Tungsten, Antimony, Bismuth, Tellurium, Cadmium, Zinc, and Tin", P.W. Bridgeman, Proceedings of the American Academy of Arts and Sciences 60 (1925) 305-383参照)等のあらゆる従来法である。これらの方法は、金又は白金で飽和した単結晶シリコンの製造にも適している。
【0023】
特に大きな結晶のために、Schott Solar AGは、垂直温度勾配凝固法(VGF法)に基づく擬似単結晶シリコンを製造する方法(独国特許出願公開第102012110147号、独国特許出願公開第102012102597号)を開発している。この方法又はVGF法は、金又は白金で飽和した擬似単結晶シリコンの製造に適している。
【0024】
本発明のさらに別の態様は、本発明の第1態様の反射光学素子と特に組み合わせることができる前述のタイプの反射光学素子に関する。この反射光学素子は、基板と反射コーティングとの間に形成され且つ格子構造を形成するか又は有することが好ましい構造層を備え、構造層は(少なくとも)1つの貴金属をドープされる。
【0025】
上述のように、反射コーティングは、構造層の保護層を形成することができ、これは、反応性水素種のエッチングアタックを、ひいては揮発性水素化物のガス放出を防止又は少なくとも制限する。しかしながら、格子構造のフランクが例えば60°を超える過剰なフランク急峻度を有する場合、構造層は、例えば原子層堆積による複雑な等方性コーティング法で成膜されない限り、概して反射コーティングにより完全に覆われることはない。
【0026】
しかしながら、例えば非晶質シリコンから形成され得る構造層(前掲の特許文献5参照)に水素再結合材料として働く貴金属をドープすることで、構造層を水素アタックから保護することができる。以下で詳細に説明するように、貴金属でのドーピングをもたらすために、スパッタリング堆積による構造層又は構造化可能層の成膜時に貴金属をドープしたスパッタリングターゲットを用いることが可能である。
【0027】
本発明のさらに別の態様は、第1態様及び/又は第2態様における反射光学素子と特に組み合わせることができ且つ反射コーティング、特に反射Mo-Siコーティングの少なくとも1つのシリコン層に貴金属がドープされる、前述のタイプの反射光学素子に関する。
【0028】
特に反射コーティングが構造層に成膜される場合、又は反射コーティング自体が構造化されて例えば格子構造を形成する場合、例えば論文"Multilayer EUV optics with integrated IR suppression gratings", T. Feigl et al., Proceedings of 2016 EUVL Workshop (P69), Berkeley, June 13-16, 2016)に示すように、反射コーティングの個々の層のアンダーエッチングがあり得る。この場合のアンダーエッチングは、(構造化された)反射コーティングの側面で、通常はエッチングアタックを特に受けやすい反射コーティングの個々の層で、通常は起こる。
【0029】
一発展形態において、構造層及び/又は反射コーティングは、貴金属をドープしたシリコンを含む。上述のように、構造層の材料は、例えば、比較的単純に構造化できる非晶質シリコンであり得る。反射コーティングが、垂直入射角(45°未満)のEUV放射線の反射に用いるような多層コーティングである場合、これは、反射コーティングが設計される動作波長に応じて、Mo及びSiの交互層(二重層)を有し得る。上述のように、シリコンは、水素と接触すると揮発性シランを形成し得る。シランの形成は、反射Mo-SiコーティングのSi層に貴金属をドープすることにより防止又は少なくとも低減することができる。貴金属をドープしたスパッタリングターゲットをスパッタリング堆積で用いる場合、反射コーティング、より具体的には反射コーティングの個々の層は、堆積時に貴金属を既にドープされ得る(下記参照)。
【0030】
シリコンに貴金属をドープした場合、使用が好ましいドーパント濃度(下記参照)ではドープされたシリコンの吸収の大幅な増加は見込まれないので、ドーピングは、HIO耐性及び放射線耐性の改善をさほど労せずに達成することができる。
【0031】
さらに別の実施形態において、反射コーティングは、EUV放射線を反射する多層コーティングを形成する。かかる多層コーティングは、動作波長の屈折率の実部が大きい材料及び動作波長の屈折率の実部が小さい材料の複数の交互層を通常は有する。材料は、例えば、シリコン及びモリブデンだが、動作波長に応じて他の材料の組み合わせが可能である。
【0032】
さらに別の実施形態において、貴金属は、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、Au、及びそれらの組み合わせ又は合金を含む群から選択される。上述のように、貴金属は、概して原子状水素を形成するための活性化水素の、すなわち水素ラジカル及び/又は水素イオンの再結合に対する強い触媒効果を有する。同じく上述のように、Pt又はAuドープシリコンは市販されているので、特にこれを用いることが可能である。しかしながら、基板、構造層、及び/又は反射コーティングの体積を形成するか又は体積内にある他の材料に貴金属をドープすることも可能であることが明らかであろう。
【0033】
さらに別の実施形態において、基板の体積、構造層、及び/又は反射コーティングにおける貴金属のドーパント濃度は、1010cm-3~1020cm-3、好ましくは1012cm-3~1016cm-3である。記載したドーパント濃度は、EUV放射線の吸収を著しく増加せることなく、反射コーティングの構造層に貴金属を、例えばAu又はPtをドープすることを可能にする。ドーパント濃度の値の上記範囲は、基板のドーピングに有利であることも分かった。
【0034】
さらに別の実施形態において、反射光学素子は、投影露光装置の照明光学ユニット用のコレクタミラーの形態をとる。かかるコレクタミラーは、例えば、反射コーティングを有する表面に対応する1つ又は複数の楕円反射面及び/又は双曲反射面を有し得る。照明放射線は、斜入射(GI)で、すなわち45°よりも大きな入射角で、又は垂直入射(NI)で、すなわち45°よりも小さな入射角でコレクタミラーの反射面に入射し得る。
【0035】
コレクタミラーは、外来光すなわちEUV波長域外の、例えば赤外波長域の波長の放射線を抑制するために分光フィルタとして働く格子構造の形態の構造層を通常は有する。反射光学素子が必ずしもコレクタミラーの形態をとる必要はなく、任意の他の反射光学素子であってもよいことが明らかであろう。
【0036】
本発明のさらに別の態様は、上述の少なくとも1つの反射光学素子を備えた光学装置、好ましくは、マイクロリソグラフィ用の、特にEUVリソグラフィ用の投影露光装置に関する。かかる投影露光装置は、結像する構造を含むレチクルに放射源からの照明放射線を伝達する照明光学系と、レチクルの構造をウェハに結像する投影光学ユニットとを備える。反射光学素子は、照明光学系に配置され得るが、投影光学系に配置されてもよい。
【0037】
上述のように、反射光学素子は、かかる投影露光装置において低分圧の水素を添加した真空環境に配置される。投影露光装置の動作中に、EUV放射線との相互作用により反応性水素種が生じる。基板、構造層、及び/又は反射コーティングに貴金属をドープすることにより、基板、構造層、及び/又は反射コーティングのHIO耐性及び放射線耐性の両方を低コストで不便なく改善することが可能である。
【0038】
本発明のさらに別の態様は、反射コーティング及び/又は構造化可能層をスパッタリング堆積により成膜する前述のタイプの方法であって、好ましくはシリコンを含む、貴金属をドープしたスパッタリングターゲットがスパッタリング堆積で用いられる方法に関する。
【0039】
スパッタリング堆積では、固体材料(スパッタリングターゲット)に高エネルギーイオンが衝突する。これにより、スパッタリングターゲットから粒子又は原子が分離され、気相に変換されて被成膜体(基板)に堆積される。スパッタリングターゲットから分離した原子が基板に達するために、スパッタリング堆積は、通常は高真空の処理室で行われる。高エネルギーイオンは、例えば希ガスイオン、特にアルゴンイオンであり得る。複数の種類のスパッタリング堆積がある。
【0040】
DC電圧スパッタリング堆積では、プラズマを生成して、正に帯電した希ガスイオンをスパッタリングターゲット(カソード)へ加速させると共にスパッタリングターゲットから叩き出された負に帯電した粒子を基板(アノード)へ加速させるために、スパッタリングターゲットと基板との間にDC電圧が印加される。マグネトロンスパッタリングリングでは、イオン化率を高めるために、電場に磁場を重畳させる。堆積が同様に可能なさらなる種類のスパッタリング堆積は、例えば、HFスパッタリング、反応性スパッタリング、イオンビームスパッタリング、又は原子ビームスパッタリングである。
【0041】
上述のように、構造化すべき層又は反射コーティングの層のスパッタリング堆積用のスパッタリングターゲットは、貴金属をドープされ得る。この目的で、例えば、金又は白金をドープしたシリコンのスパッタリングターゲットを製造すること、及びそれらを構造化可能層又は反射コーティングのスパッタリング堆積に用いることが可能である。ここで、金又は白金をドープしたシリコンが市販されていることを利用することが可能である。しかしながら、スパッタリングターゲットに他の貴金属をドープしてもよいことが明らかであろう。
【0042】
本発明のさらに別の態様は、特に上記方法と組み合わせることができる前述のタイプの方法に関する。この方法では、その後のコーティングに備えた基板が、その体積内に少なくとも1つの貴金属をドープされる。この場合、基板は、その製造中に少なくとも1つの貴金属を既にドープされ、ドープされた基板はコーティングの用意ができる。
【0043】
この態様において、反射コーティング及び場合によっては構造化可能層でのコーティングは、貴金属をドープしたスパッタリングターゲットを用いて行うこともできるが、そうであるとは限らない。特に、反射光学素子が構造層又は構造化可能層を有しない場合、貴金属をドープしていない従来の反射コーティングを基板に成膜することが可能である。
【0044】
反射光学素子が必ずしもEUV波長域の放射線を反射するよう設計される必要はなく、他の波長域の放射線を反射するよう、例えばVUV波長域の放射線を反射するよう設計されてもよいことが明らかであろう。
【0045】
本発明のさらに他の特徴及び利点は、本発明に必須の詳細を示す図面の図を参照した以下の本発明の例示的な実施例の説明から、また特許請求の範囲から明らかになる。個々の特徴のそれぞれを、単独で又は本発明の一変形形態において複数の任意の組み合わせで実施することができる。
【0046】
実施例を概略図に示し、以下の説明において解説する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】EUVリソグラフィ用の投影露光装置の概略子午断面図である。
【
図2】貴金属をドープした基板を有する、
図1の投影露光装置の反射光学素子の概略図である。
【
図3】反射光学素子が貴金属をドープした構造層を有する、
図2と同様の概略図である。
【
図4】貴金属をドープしたスパッタリングターゲットを有するスパッタリング堆積システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下の図面の説明において、同一の参照符号を同一の又は同一の機能を有するコンポーネントに用いる。
【0049】
マイクロリソグラフィの投影露光装置1の必須構成要素について、
図1を参照して例として以下で説明する。投影露光装置1及びその構成要素の基本構成の説明は、ここでは限定的とみなすべきではない。
【0050】
投影露光装置1の照明系2は、放射源3だけでなく、物体面6の物体視野5の照明用の照明光学ユニット4を有する。ここで露光されるのは、物体視野5に配置されたレチクル7である。レチクル7は、レチクルホルダ8により保持される。レチクルホルダ8は、レチクル変位ドライブ9により特に走査方向に変位可能である。
【0051】
説明の目的で、直交xyz座標系を
図1に示す。x方向は図の平面に対して垂直に延びる。y方向は水平に延び、z方向は鉛直に延びる。走査方向は
図1においてy方向に延びる。z方向は物体面6に対して垂直に延びる。
【0052】
投影露光装置1は、投影光学ユニット10を備える。投影光学ユニット10は、物体視野5を像面12の像視野11に結像する働きをする。レチクル7上の構造が、像面12の像視野11の領域に配置されたウェハ13の感光層に結像される。ウェハ13は、ウェハホルダ14により保持される。ウェハホルダ14は、ウェハ変位ドライブ15により特にy方向に変位可能である。一方ではレチクル変位ドライブ9によるレチクル7の変位と、他方ではウェハ変位ドライブ15によるウェハ13の変位とは、相互に同期し得る。
【0053】
放射源3は、EUV放射源である。放射源3は、特に以下で使用放射線又は照明放射線とも称するEUV放射線16を出射する。特に、使用放射線は、5nm~30nmの範囲の波長を有する。放射源3は、プラズマ源、例えばLPP(「レーザ生成プラズマ」)源又はGDPP(「ガス放電プラズマ」)源であり得る。これは、シンクロトロンベースの放射源でもあり得る。放射源3は自由電子レーザ(FEL)であり得る。
【0054】
放射源3から発生する照明放射線16は、コレクタミラー17により集束される。コレクタミラー17は、1つ又は複数の楕円反射面及び/又は双曲反射面を有するコレクタミラーであり得る。照明放射線16は、斜入射(GI)で、すなわち45°よりも大きな入射角で、又は垂直入射(NI)で、すなわち45°よりも小さな入射角でコレクタミラー17の少なくとも1つの反射面に入射し得る。コレクタミラー17は、第1に使用放射線に対する反射率を最適化するために、第2に外来光を抑制するために構造化且つ/又はコーティングされ得る。
【0055】
照明放射線16は、コレクタミラー17の下流の中間焦点面18の中間焦点を伝播する。中間焦点面18は、放射源3及びコレクタミラー17を有する放射源モジュールと照明光学ユニット4との間を分離し得る。
【0056】
照明光学ユニット4は、偏向ミラー19と、ビーム経路でその下流に配置された第1ファセットミラー20とを備える。第1ファセットミラー20は、以下で視野ファセットとも称する複数の個別の第1ファセット21を含む。
図1は、例として上記ファセット21のいくつかのみを示す。照明光学ユニット4のビーム経路で、第1ファセットミラー20の下流に第2ファセットミラー22が配置される。第2ファセットミラー22は、複数の第2ファセット23を含む。
【0057】
照明光学ユニット4は、結果として二重ファセットシステムを形成する。この基本原理は、フライアイインテグレータとも称する。第2ファセットミラー22を用いて、個別第1ファセット21が物体視野5に結像される。第2ファセットミラー22は、物体視野5の上流のビーム経路で最後のビーム整形ミラー又は実際に照明放射線16に対する最終ミラーでもある。
【0058】
投影光学ユニット10は、複数のミラーMiを含み、これらには投影露光装置1のビーム経路におけるそれらの配置に従って連続番号を付す。
【0059】
図1に示す例において、投影光学ユニット10は、6個のミラーM1~M6を含む。4個、8個、10個、12個、又は任意の他の数のミラーMiでの代替も同様に可能である。最後から2番目のミラーM5及び最終ミラーM6はそれぞれ、照明放射線16のための通過開口を有する。投影光学ユニット10は、二重遮蔽光学ユニットである。投影光学ユニット10は、0.5よりも大きく、0.6よりも大きくてもよく、例えば0.7又は0.75であり得る像側開口数を有する。
【0060】
照明光学ユニット4のミラーと同様に、ミラーMiは、照明放射線16に対する高反射コーティングを有し得る。
【0061】
図2は、照明放射線16を反射する反射コーティング26が成膜された単結晶シリコンの基板25を有する、照明光学系4の偏向ミラー19を示す。偏向ミラー19は、水素イオン(H+)及び水素ラジカル(H*)の形態の反応性水素種に曝される。反応性水素種H+、H*は、基板25の露出した、例えば側方の表面25aで基板25のシリコン材料と反応して、例えばシランの形態の揮発性水素化物を形成し得る。揮発性水素化物は、さらに光学面に堆積することでその劣化につながり得る。
【0062】
揮発性水素化物の形成を抑えるために、
図2に示す例の偏向ミラー19の基板25は、その体積Vの全体に貴金属27、より具体的には金をドープされる。シリコン基板25に注入された金原子の形態の貴金属27は、水素再結合材料として働き、反応性水素種H+、H*を反応させて分子状水素を形成する効果があり、したがって揮発性水素化物の形成を抑える。
【0063】
金原子での基板25のドーピングは、単結晶シリコン基板25の製造時に行われている。単結晶シリコン基板25は、その製造時に融液から引き揚げられた(チョクラルスキー法)。基板25を引き上げた融液の材料は、ここでは貴金属27をドープされていた。貴金属27をドープした単結晶シリコン基板25を他の方法で、例えばブリッジマン・ストックバッカー法を用いて製造することも同様に可能である。貴金属を、例えば金をドープした擬似単結晶シリコン基板25又は多結晶シリコン基板を製造することも可能である。
【0064】
シリコン基板25に他の貴金属を、例えばRu、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、及びそれらの組み合わせ又は合金をドープすることも可能である。シリコン基板25へのAu又はPtのドーピングは、この種類の材料が既に市販されているので有利であることが分かっている。しかしながら、シリコン基板25にAu又はPt以外の少なくとも1つの貴金属をドープすることも当然可能である。
【0065】
上述のような貴金属での基板25のドーピングは、EUVリソグラフィ用の反射光学素子の製造に適した他の基板材料の場合にも行うことができる。これらの基板材料は、例えば、石英ガラス、ガラス又は熱膨張が非常に小さいガラスセラミック、例えばULE(登録商標)、Zerodur(登録商標)、Clearceram(登録商標)等、セラミック、例えば窒化ケイ素、炭化ケイ素、特にシリコン含浸炭化ケイ素複合材(SiSiC)、コーディエライトセラミック等のケイ酸アルミニウムマグネシウムセラミック等である。基板25のドーピングを、2つ以上の異なる貴金属27で行うこともできることが明らかであろう。
【0066】
図3は、例として
図1の投影露光装置1の照明光学ユニット2のコレクタミラー17を示す。コレクタミラー17は、構造層28が基板25と反射コーティング26との間に形成される点が
図2に示す偏向ミラー19とは異なる。構造層28は、格子構造29の形態の構造面を有し、非晶質シリコンから形成される。格子構造29は、外来光の、すなわちEUV波長域外の、例えば赤外波長域の波長の放射線を抑制するための分光フィルタとして働く。反射コーティング26は、構造層28又は格子構造29に成膜される。
【0067】
原理上、構造層28は、成膜された反射コーティング26により反応性水素種H+、H*から保護される。しかしながら、
図3に示す例では、格子構造29の(最大)エッジ急峻度は大きく、約90°である。構造層28を完全に覆う連続層の形態の反射コーティング26の成膜は、成膜が等方性コーティング法により、例えば原子層堆積により行われる場合は、このように大きなエッジ急峻度でも可能である。しかしながら、図示の例では等方性コーティング法を用いて約50層のSi/Mo二重層を有する多層コーティングを形成する反射コーティング26の成膜は、非常に複雑である。さらに、
図3に示すように、コレクタミラー17は平坦ではなく、通常は楕円又は双曲線の曲率を有し、これがさらに原子層堆積によるコーティングを困難にする。
【0068】
図示の例では、反射コーティング26は、異方性コーティングにより、より具体的にはスパッタリング堆積により構造層28に成膜される。構造層28は、反応性水素種H+、H*からの保護のために貴金属27をドープされる。構造層28に成膜された反射コーティング26についても同様であり、それは、この反射コーティング26又はより具体的にはそのシリコン含有層が、特に格子構造29の急峻なフランクに沿って反応性水素種H+、H*に曝されるからである。反射コーティング26に保護層系(図示せず)を成膜することが可能であり、保護層系では貴金属が同様に1つ又は複数の層に注入され得る。
【0069】
構造層28、反射コーティング26、及び場合によっては保護層系の1つ又は複数の層のドーピングの効率的な実施のために、
図4を参照して以下で説明するように、貴金属27をドープしたスパッタリングターゲット37を用いたスパッタリング堆積が行われる。
【0070】
図4は、高真空の処理室31を有するスパッタリング堆積システム30を非常に単純な形態で示す。処理室31には、ガス入口を介してアルゴンの形態の希ガス32が供給される。希ガス32は、処理室31の板状のカソード33と板状のアノード34との間の空間に入り、ここに経時的に一定の電場が発生する。電場の発生のために、経時的に一定の電圧がカソード33とアノード34との間に配置される。カソード33の空間から離れた側に配置された磁石35が、電場に加えて空間内に磁場36を発生させる。
【0071】
希ガス32は、カソード33とアノード34との間の空間でイオン化されて希ガスイオン32aを形成し、希ガスイオン32aは、カソード33へ加速されてそこに取り付けられたスパッタリングターゲット37から負に帯電した粒子38を叩き出し、粒子38は、アノード34の方向に加速されてそこに取り付けられた反射光学素子17の基板25に堆積する。
【0072】
図示の例のスパッタリングターゲット37は、貴金属27をドープした単結晶又は擬似単結晶シリコンから形成される。ドーピングの効果として、スパッタリング堆積で基板25に堆積した構造化可能層28’も同様に貴金属27をドープされている。これに対応して、貴金属27をドープしたシリコンのスパッタリングターゲット37を用いて反射コーティング26、又はより具体的には反射コーティング26のシリコン層を堆積させることも可能である。
【0073】
反射コーティング26の成膜前に、格子構造29を有する構造層28を形成するために構造化可能層28’が構造化される。構造化は、例えば、構造化層を用いた構造化可能層28’のドライ又はウェットケミカルエッチングプロセスにより行うことができる。犠牲層として働く構造化層は、例えば、リソグラフィ露光を用いて又は他の何らかの方法で構造化され得る。
【0074】
基板25の体積V、構造層28、及び反射コーティング26における貴金属27のドーパント濃度は、通常は1010cm-3~1020cm-3、好ましくは1012cm-3~1016cm-3のオーダである。このようなドーパント濃度の場合、反射コーティング26又は構造層28又は基板25におけるドープされたシリコンの吸収の大幅な増加は見込まれないので、ここに記載のドーピングは、反射光学素子17のHIO耐性及び放射線耐性の改善を低コストで不便なく達成することができる。
【0075】
貴金属27でのドーピングは、必ずしも基板25と構造層28及び反射コーティング26との両方で行われる必要がないことが明らかであろう。例えば、他の何らかの方法で反応性水素種から保護されるのであれば、基板25のドーピングを省くことが可能である。このような保護は、例えば、全体を参照により本願に援用する前掲の特許文献2に記載のシールドにより達成することができる。反射コーティング26により完全に覆われるのであれば、構造層28のドーピングが不要である場合もある。
【国際調査報告】