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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-10
(54)【発明の名称】アクリル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/377 20060101AFI20231102BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20231102BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231102BHJP
【FI】
C07C51/377
C07C57/055 A
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524945
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(85)【翻訳文提出日】2023-04-24
(86)【国際出願番号】 KR2021016059
(87)【国際公開番号】W WO2022103087
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0150320
(32)【優先日】2020-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0150793
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】インホ・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ヒイン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・オ・イム
(72)【発明者】
【氏名】ジヨン・イ
(72)【発明者】
【氏名】デホ・ホン
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC13
4H006BA06
4H006BA35
4H006BC10
4H006BC13
4H006BC18
4H006BC35
4H006BD81
4H006BS10
4H039CA29
4H039CG10
(57)【要約】
本発明は、アクリル酸の製造方法に関し、より詳しくは、乳酸分子を脱水してアクリル酸を製造する方法に関する。本発明の製造方法によれば、高い変換率および収率で乳酸からアクリル酸を製造できながらも、既存に比べてエネルギー消費をさらに節約することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガスを用いて反応器に乳酸水溶液を供給する第1段階;
乳酸水溶液を気化させる第2段階;
前記気化した乳酸分子を脱水触媒と接触させる第3段階;および
アクリル酸を得る第4段階を含み、
前記第2~第4段階の温度がそれぞれ独立して調節される、
アクリル酸の製造方法。
【請求項2】
前記第2段階は、200℃~290℃の温度条件で行われる、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項3】
前記第2段階は、石英の存在下で行われる、請求項1または2に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項4】
前記第3段階は、350℃超および400℃以下の温度条件で行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
前記脱水触媒は、リン酸カルシウム系触媒、リン酸ナトリウム系触媒、およびリン酸アルミニウム系触媒からなる群より選択された1種以上を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項6】
前記第1段階では、触媒の重量に対する乳酸の供給重量を基準とした時、0.01~10/hourの流量で乳酸水溶液が供給される、請求項1から5のいずれか一項に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項7】
前記第1段階の乳酸水溶液の濃度は、10~80wt%である、請求項1から6のいずれか一項に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項8】
前記第1~第4段階は、単一反応管および加熱部を備えた形態の反応器を用いて行われ;
前記単一反応管は、乳酸水溶液が供給される供給部と、乳酸水溶液を気化させる気化部と、気化した乳酸分子を脱水触媒と接触させる触媒部と、アクリル酸を排出する排出部とを含み;
前記加熱部は、前記単一反応管を囲んだ形態で、前記気化部を加熱するための第1加熱部と、前記第1加熱部と非連続的であり、前記気化部と触媒部との境界部位および触媒部の前段を加熱するための第2加熱部と、前記第2加熱部と非連続的であり、前記触媒部の後段を加熱するための第3加熱部とを含み、
前記加熱部によって前記第2~第4段階の温度がそれぞれ独立して調節される、
請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項9】
前記第1加熱部は、前記単一反応管の気化部の内部が200℃~290℃の温度条件で維持されるように加熱する、
請求項8に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項10】
前記第2加熱部および第3加熱部は、前記単一反応管の触媒部の内部が350℃超過および400℃以下の温度条件で維持されるように加熱する、
請求項8または9に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項11】
前記第2加熱部の設定温度が第3加熱部の設定温度より高い、請求項8から10のいずれか一項に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項12】
前記第2加熱部の設定温度が第3加熱部の設定温度より15℃~30℃高い、請求項11に記載のアクリル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2020年11月11日付の韓国特許出願第10-2020-0150320号および2021年11月4日付の韓国特許出願第10-2021-0150793号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、アクリル酸の製造方法に関し、より詳しくは、乳酸分子を脱水してアクリル酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アクリル酸は、カルボン酸と不飽和性二重結合を分子内に同時に持つ有機化合物であって、その構造が非常に簡単で、多様な物質に変換可能でありながらも、重合可能なため、多様な産業分野で使用されている。
【0004】
具体的には、アクリル酸は、高吸水性樹脂(superabsorbent polymer)の製造に必要なポリアクリル酸、粘・接着剤、塗料などに使用されるか、他の形態のアクリレート系単量体を製造するための原料として使用されてもよいし、またはアクリルアミド、アクリロニトリル、スチレン、およびアルファオレフィンなど、その他の多様な単量体との重合原料として使用されてもよい。
【0005】
このようなアクリル酸は、ナフサクラッキングなど、原油の精製および分離過程で生成されるプロピレンを用いて製造されることが一般的である。
【0006】
しかし、最近、原油枯渇および環境問題への関心が高まるにつれ、環境にやさしい原料を用いてアクリル酸を製造する方法への関心が高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書は、高い変換率および収率で乳酸からアクリル酸を製造できる方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書は、キャリアガスを用いて反応器に乳酸水溶液を供給する第1段階;乳酸水溶液を気化させる第2段階;気化した乳酸分子を脱水触媒と接触させる第3段階;およびアクリル酸を得る第4段階を含み、第2~第4段階の温度がそれぞれ独立して調節される、アクリル酸の製造方法を提供する。
【0009】
発明の一実施形態によれば、第2段階は、約200℃~約290℃の温度条件、好ましくは約200℃以上、または約230℃以上、または約250℃以上、および約290℃以下、または約270℃以下、または約260℃の温度条件で行われる。
【0010】
そして、第2段階は、石英の存在下で行われる。
【0011】
発明の他の実施形態によれば、第3段階は、350℃超および約400℃以下の温度条件、好ましくは350℃超、または約355℃以上、または約360℃以上、および約400℃以下、または約390℃以下、または約380℃以下の温度条件で行われる。
【0012】
そして、脱水触媒は、リン酸カルシウム系触媒、リン酸ナトリウム系触媒、およびリン酸アルミニウム系触媒からなる群より選択された1種以上を含むことができる。
【0013】
発明の他の実施形態によれば、第1段階では、触媒の重量に対する乳酸の供給重量を基準とした時、約0.01~約10/hourの流量、または0.1~約5/hour、または約0.1~約1/hourの流量で乳酸水溶液が供給される。
【0014】
そして、この時、第1段階の乳酸水溶液の濃度は、約10~約80wt%であることが好ましい。
【0015】
発明の他の側面によれば、第1~第4段階は、単一反応管および加熱部を備えた形態の反応器を用いて行われ;単一反応管は、乳酸水溶液が供給される供給部と、乳酸水溶液を気化させる気化部と、気化した乳酸分子を脱水触媒と接触させる触媒部と、アクリル酸を排出する排出部とを含み;前記加熱部は、前記単一反応管を囲んだ形態で、前記気化部を加熱するための第1加熱部と、前記第1加熱部と非連続的であり、前記気化部と触媒部との境界部位および触媒部の前段を加熱するための第2加熱部と、前記第2加熱部と非連続的であり、前記触媒部の後段を加熱するための第3加熱部とを含み;前記加熱部によって第2~第4段階の温度がそれぞれ独立して調節されるものであってもよい。
【0016】
この時、第1加熱部は、単一反応管の気化部の内部が約200℃~約290℃の温度条件で維持されるように加熱するものであってもよい。これは前述した前記第2段階の温度条件で、具体的には、約200℃~約290℃の温度条件、好ましくは約200℃以上、または約230℃以上、または約250℃以上、および約290℃以下、または約270℃以下、または約260℃の温度条件を指すものであってもよい。
【0017】
そして、前記第2加熱部および第3加熱部は、前記単一反応管の触媒部の内部が350℃超および約400℃以下の温度条件で維持されるように加熱するものであってもよい。これは前述した前記第3段階の温度条件で、350℃超および約400℃以下の温度条件、好ましくは350℃超、または約355℃以上、または約360℃以上、および約400℃以下、または約390℃以下、または約380℃以下の温度条件を指すものであってもよい。
【0018】
この時、第2加熱部の設定温度が第3加熱部の設定温度より高い。
【0019】
そして、具体的には、第2加熱部の設定温度は、第3加熱部の設定温度より約15℃~約30℃程度さらに高いことが好ましい。
【0020】
本発明において、第1、第2などの用語は多様な構成要素を説明するのに使用され、前記用語は1つの構成要素を他の構成要素と区別するための目的でのみ使用される。
【0021】
また、本明細書で使用される用語は単に例示的な実施例を説明するために使用されたものであり、本発明を限定しようとする意図ではない。
【0022】
単数の表現は、文脈上明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。
【0023】
本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素、またはこれらの組み合わせを説明するためのものであり、1つまたはそれ以上の他の特徴や、数字、段階、構成要素、これらの組み合わせまたは付加の可能性を排除するわけではない。
【0024】
また、本明細書において、各層または要素が各層または要素の「上に」形成されるものと言及された場合には、各層または要素が直接各層または要素の上に形成されることを意味したり、他の層または要素が各層の間、対象体、基材上に追加的に形成されてもよいことを意味する。
【0025】
本発明は、多様な変更が加えられて様々な形態を有し得るが、特定の実施例を例示して下記に詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に限定するものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるすべての変更、均等物乃至代替物を含むことが理解されなければならない。
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の一側面によれば、キャリアガスを用いて反応器に乳酸水溶液を供給する第1段階;乳酸水溶液を気化させる第2段階;前記気化した乳酸分子を脱水触媒と接触させる第3段階;およびアクリル酸を得る第4段階を含み、前記第2~第4段階の温度がそれぞれ独立して調節される、アクリル酸の製造方法が提供される。
【0027】
発明の他の側面によれば、第1~第4段階は、単一反応管および加熱部を備えた形態の反応器を用いて行われ;単一反応管は、乳酸水溶液が供給される供給部と、乳酸水溶液を気化させる気化部と、気化した乳酸分子を脱水触媒と接触させる触媒部と、アクリル酸を排出する排出部とを含み;前記加熱部は、前記単一反応管を囲んだ形態で、前記気化部を加熱するための第1加熱部と、前記第1加熱部と非連続的であり、前記気化部と触媒部との境界部位および触媒部の前段を加熱するための第2加熱部と、前記第2加熱部と非連続的であり、前記触媒部の後段を加熱するための第3加熱部とを含み;前記加熱部によって前記第2~第4段階の温度がそれぞれ独立して調節されるものであってもよい。
【0028】
本発明の発明者らは、気化した乳酸分子において触媒の存在下で脱水反応を進行させてアクリル酸を得る一連の反応において、気化段階、および脱水段階を細分化して各段階の温度を独立して調節する場合、副産物の生成を低減しながらも、反応の効率を高めて、アクリル酸の収率および乳酸変換率を画期的に向上させられるという事実を見出して、本発明を完成するに至った。
【0029】
気化した乳酸分子において触媒の存在下で行われる脱水反応は、次のような反応メカニズムで表される。
【化1】
【0030】
つまり、乳酸分子の脱水反応は、乳酸分子のカルボニルアルファ位置に連結されたヒドロキシ基が触媒によって離脱し、カルボニルベータ位置に連結された水素が同じく触媒によって除去されながらアクリル酸陰イオンが形成された後、触媒の水素がアクリル酸のカルボン酸陰イオンに連結されながらアクリル酸が生成されるものと説明できる。
【0031】
このような反応は、気化した乳酸分子に対して触媒の存在下でよく進行することが知られているが、i)カルボキシル除去反応(decarboxylation)またはカルボニル除去反応(decarbonylation)によるアルデヒド生成反応、ii)アクリル酸の還元によるプロパン酸生成反応、iii)縮合によるペンタンジオン(pentanedione)生成反応、およびiv)二量体化による環状エステル形成反応(auto-esterification by dimerization)など、アクリル酸ではない他の副産物が形成される反応と競合するため、その反応条件を細かく調節する必要がある。
【0032】
まず、第1段階において、反応物、つまり、フィードに供給される乳酸は、乳酸水溶液の形態で、約10~約80wt%の濃度範囲にあることが好ましい。
【0033】
乳酸の濃度が過度に低い場合、気化段階で気化反応の効率および後行する乳酸脱水反応の効率が過度に低くなる問題があり、乳酸の濃度が過度に高い場合、乳酸水溶液中の二量体(dimer)などのオリゴマーの含有量が高くなって、副産物の乳酸脱水反応の効率が低くなり、副産物の生成が促進される問題点が発生しうる。
【0034】
そして、第1段階では、触媒の重量に対する供給乳酸の重量を基準とした時、約0.01および約10/hourの流量、または0.1~約5/hour、または約0.1~約1/hourの流量で乳酸水溶液が供給される。
【0035】
乳酸水溶液の供給量が過度に少ない場合、乳酸が高温で滞留する時間が長くなるにつれて熱分解による損失比率が大きくなり、それ以外にもその他の副反応が増加する問題点が発生しうる。乳酸水溶液の供給量が過度に多い場合、乳酸が熱源によって十分に気化できず、気化部および触媒層の上端部の温度が下がって触媒性能が低下する問題点が発生しうる。
【0036】
そして、フィードに供給される乳酸は、キャリアガスによって供給される。この時使用されるキャリアガスは、窒素、あるいは18族気体など、気化反応あるいは脱水反応に影響を及ぼさない不活性気体を使用することができる。
【0037】
反応に使用されるキャリアガスの流量は、供給される乳酸水溶液対比、約1~約1000倍、または約10~約500倍、または約20~約300倍の量が使用できる。
【0038】
発明の一実施形態によれば、第2段階、つまり、乳酸分子の気化反応は、約200℃~約290℃の温度条件、好ましくは約200℃以上、または約230℃以上、または約250℃以上、および約290℃以下、または約270℃以下、または約260℃の温度条件で行われる。
【0039】
気化反応の温度が過度に低い場合、気化反応の効率が低下し、これによって後行する脱水反応の効率も低下する問題点が発生し、気化反応の温度が過度に高い場合、気化した乳酸分子においてカルボキシル除去反応(decarboxylation)またはカルボニル除去反応(decarbonylation)がより優勢に行われて、アルデヒドの生成が促進される問題点が発生しうる。
【0040】
そして、第2段階は、石英の存在下で行われる。具体的には、石英は、表面積が広い石英綿(Quartz wool)、または石英粉末(Quartz particle)の形態であってもよい。
【0041】
つまり、供給部に供給された乳酸分子は、キャリアガスの流れにより反応器内部の気化部で石英綿などの表面に吸着し、その状態で石英綿などから熱が供給されて気化できる。
【0042】
そして、前述のように、このような反応に用いられる反応器は、単一反応管および加熱部を備え、加熱部が単一反応管を囲んだ形態であってもよい。この時、気化部を加熱するための第1加熱部は、単一反応管の気化部の内部が約200℃~約290℃の温度条件で維持されるように加熱するものであってもよい。これは前述した第2段階の温度条件で、具体的には、約200℃~約290℃の温度条件、好ましくは約200℃以上、または約230℃以上、または約250℃以上、および約290℃以下、または約270℃以下、または約260℃の温度条件を指すものであってもよい。
【0043】
ただし、本明細書全体において、各反応の反応条件としての温度と、反応器の各部位に位置した第1~第3加熱部の設定温度とは、互いに異なっていてもよい。具体的には、第1~第3加熱部の設定温度は、それぞれ対応する反応条件の温度よりも高く設定されることが好ましい。これはキャリアガスの流れにより反応器の内部に外部気体および反応物が連続的に供給され、特に、供給部に供給される反応物の温度が気化部の温度より低いことが一般的であり、また、気化部では、乳酸および水の気化によって持続的に温度が低くなり、さらに、気化反応が進行する気化部の温度が、脱水反応が進行する触媒部の温度より低いことに起因する。
【0044】
このような観点で、第1加熱部は、気化部の目標温度、つまり、前述した気化反応の好ましい温度より約15~約30℃程度高く設定されることが好ましい。
【0045】
そして、気化した乳酸単分子を含む気相の反応物は、キャリアガスの流れにより連続的に触媒の存在する触媒部に移動して、脱水反応、つまり、第3段階に投入される。
【0046】
発明の他の実施例によれば、前記第3段階は、350℃超過および約400℃以下の温度条件、好ましくは350℃超過、または約355℃以上、または約360℃以上、および約400℃以下、または約390℃以下、または約380℃以下の温度条件で行われる。
【0047】
第3段階の温度が過度に低い場合、乳酸変換率およびアクリル酸の収率が大きく低下する問題点が発生し、第3段階の温度が過度に高い場合、i)カルボキシル除去反応(decarboxylation)またはカルボニル除去反応(decarbonylation)によるアルデヒド生成反応、ii)アクリル酸の還元によるプロパン酸生成反応、iii)縮合によるペンタンジオン(pentanedione)生成反応などがさらに促進されて、副産物が増加する問題点が発生しうる。
【0048】
そして、前述のように、脱水反応条件としての触媒部の温度と、反応器の各部位に位置した第2および第3加熱部の設定温度とは、互いに異なっていてもよい。
【0049】
具体的には、第2加熱部は、反応器の内部で、i)気化部と触媒部との境界部位およびii)触媒部の前段を加熱するために、単一反応管中にこれに対応する部分を囲んだ形態であってもよいし、第3加熱部は、iii)触媒部の後段を加熱するために、単一反応管中にこれに対応する部分を囲んだ形態であってもよい。
【0050】
そして、第2加熱部および第3加熱部は、単一反応管の触媒部の内部が350℃超過および約400℃以下の温度条件で維持されるように加熱するものであってもよい。これは前述した第3段階の温度条件で、350℃超過および約400℃以下の温度条件、好ましくは350℃超過、または約355℃以上、または約360℃以上、および約400℃以下、または約390℃以下、または約380℃以下の温度条件を指すものであってもよい。
【0051】
この時、第2加熱部の設定温度が第3加熱部の設定温度より高いことが好ましく、具体的には、第2加熱部の設定温度は、第3加熱部の設定温度より約15℃~約30℃程度さらに高いことが好ましい。
【0052】
例えば、第2および第3加熱部は、触媒部の目標温度、つまり、前述した脱水反応の好ましい温度より約15~約30℃程度高く設定されることが好ましいが、特に、第2加熱部は、第3加熱部より高い温度、例えば、約15℃~約30℃程度さらに高い温度に設定可能である。
【0053】
前述のように、キャリアガスの流れにより反応器の内部に外部気体および反応物が連続的に供給される反応の形態によって、気化部および触媒部の前段の温度が持続的に低くなるが、反応器全体の温度を各部位ごとに区分せずに同一に設定する場合、気化部および触媒部の前段の温度が低くなって反応全体の効率が大きく低下しうるからである。
【0054】
従来技術の場合、これを防止するために、反応器の全体温度をさらに高く設定したり、反応進行前に反応器を予熱して、目標温度に到達した後、反応に投入するなどの方法を用いていた。しかし、この場合、無駄にエネルギーが費やされ、高い温度条件で前述した副反応によって反応の効率が低下しうるのに対し、触媒部の前段の温度が低くなる問題点を依然として解決しにくかった。
【0055】
本発明の場合、気化部、気化部と触媒部との境界部、および触媒部の前段、触媒部の後段の温度を各反応の必要に応じて異なって設定し、特に、温度条件の変化が急激になる、気化部と触媒部との境界部位に熱を供給できる別途の加熱部、つまり、第2加熱部を位置させて、エネルギー効率をさらに高めながらも、反応効率も向上させることができる。
【0056】
そして、脱水触媒は、リン酸カルシウム系触媒、リン酸ナトリウム系触媒、およびリン酸アルミニウム系触媒からなる群より選択された1種以上を含むことができ、その他の反応条件は、本発明の属する技術分野にて一般に使用されるものであれば、本明細書で限定した内容と相反しない限り、特別な制限なく使用可能である。
【0057】
さらに具体的には、脱水触媒としては、CaSO4/Na2SO4;Na4P2O7/CaSO4;Na4P2O7/Ca3(PO4)2;NaH2PO4-NaHCO3/SiO2;AlPO4-NH3;Ca3(PO4)2/CaSO4;Ca2P2O7;Ca5(PO4)3(OH)などが挙げられる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の製造方法によれば、高い変換率および収率で乳酸からアクリル酸を製造できながらも、既存に比べてエネルギー消費をさらに節約することができる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用および効果をより詳述する。ただし、このような実施例は発明の例として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が定められるのではない。
【実施例
【0060】
単一反応管として、内径が7/8インチであり、長さが860mmである石英材質の反応管(reaction cylinder)を用意した。
【0061】
前記単一反応管の上端から下側に、約150mmの位置から約300mmの位置に石英砂がこぼれないように反応性のないガラス管および石英綿を入れて、石英砂(Quartz sand)を充填して、気化部を構成した。
【0062】
触媒としては、リン酸カルシウム触媒を直径約3mm、長さ約3mmの円筒状ペレットに成形したものを使用した。
【0063】
そして、前記気化部の下端から約300mmの長さの領域に、同じく触媒がこぼれないように反応性のないガラス管と石英綿を入れて、これに前記触媒約50gを充填して、触媒部を構成した。
【0064】
前記単一反応管の上端から下側に約100mmの位置から、単一反応管の気化部に対応する領域全体を囲む形態で約200mmの長さの第1加熱部を備えた。
【0065】
これとは別個に、第1加熱部の後段から、単一反応管の気化部および触媒部の境界部位、および触媒部の前段に対応する領域を囲む形態で約100mmの長さの第2加熱部を備えた。
【0066】
これとは別個に、第2加熱部の後段から単一反応管の触媒部の後段に対応する領域を囲む形態で約200mmの長さの第3加熱部を備えた。
【0067】
これとは別個に、第2加熱部の後段から単一反応管の排出部に対応する領域を囲む形態で約200mmの長さの第4加熱部を備えた。
【0068】
単一反応管の触媒部の前段および後段には、内部温度を測定できるように熱電対を備えるようにした。
【0069】
キャリアガスとしては窒素を用い、流速は約80ml/minとし、約40wt%の濃度の乳酸水溶液を約0.4ml/minの流速に設定して、反応器に供給した。供給された乳酸水溶液の密度は約1.08g/mlで、乳酸水溶液の供給速度は、乳酸の量を基準とした時、約10.37g/hourであり、供給された触媒(50g)の基準重量(1g)に対して、約0.21/hourで計算された。
【0070】
排出部から得られる生成物サンプルを集めて、凝縮器で約4℃に冷却して液相で捕集し、HPLCを用いて得られたアクリル酸の量を確認した。
【0071】
反応時、第1~第4加熱部の設定温度をそれぞれ異なるものとし、気化反応および脱水反応を進行させながら触媒部の前段および後段の温度を測定した。
【0072】
前記測定結果を次の表にまとめた。
【表1】
【0073】
表1を参照すれば、本発明の一実施例によるアクリル酸の製造方法は、高い変換率および収率で乳酸からアクリル酸を製造できることを明確に確認できる。
【0074】
また、比較例1、2のように第1加熱部(乳酸気化、第2段階)の温度が300℃以上に上昇する場合には、触媒部の前段の温度を実施例1、2と類似に設定したにもかかわらず、実施例1および2よりアセトアルデヒドが生成される比率がさらに高くなることを確認できるが、これは、乳酸気化の温度が過度に高くて、脱水反応よりはカルボキシル除去(decarboxylation)反応あるいはカルボニル除去(decarbonylation)反応がより優勢になることに起因すると見られる。
【0075】
上記の実施例と比較例による結果を対照すれば、本発明の一実施例のように、キャリアガスを用いて反応器に乳酸水溶液を供給する段階、乳酸水溶液を気化させる段階、気化した乳酸分子を脱水触媒と接触させる段階、およびアクリル酸を得る段階など、乳酸気化反応の各段階の温度を独立して調節する場合、乳酸変換率とアクリル酸の収率を極大化させることができながらも、アセトアルデヒド生成などの副反応を効率的に抑制できることが分かる。
【国際調査報告】