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特表2023-547968試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム及びそれを用いたイオン性化合物の分析方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-15
(54)【発明の名称】試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム及びそれを用いたイオン性化合物の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/40 20060101AFI20231108BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
G01N1/40
G01N1/10 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540603
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(85)【翻訳文提出日】2022-07-07
(86)【国際出願番号】 KR2021011781
(87)【国際公開番号】W WO2022092537
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】10-2020-0143088
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0113127
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク、ビュン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、セフーン
(72)【発明者】
【氏名】ナム、ジェヒュク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ビョン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ス ヨン
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AD26
2G052AD46
2G052ED01
2G052ED06
2G052ED14
2G052GA27
(57)【要約】
【要約】
本発明は、試料内のイオン性化合物を分離及び濃縮するためのシステムを提供し、システムは、分離部と、その両側に位置する第1及び第2貯蔵部と、を含む1つ以上の試料分離デバイス;デバイスを挿入するための複数のスロットが形成された可撓性ホルダー;及びデバイスに電圧を印加するための電極;を含み、デバイスの分離部は、所定の間隔で折れて区分される2個以上のベースユニットを含み、それぞれのベースユニットは、多孔性基材及び基材の一面にパターンコーティング層及びパターンコーティング層を除いた領域に形成されて試料の移動通路になるリザーバーを含み、デバイスの第1及び第2貯蔵部は、それぞれ支持体、支持体の内部に挿入される吸収パッド、吸収パッドの一側に位置して、電極と連結されるように構成される導電性インク層、及び吸収パッドの他側に位置して、分離部と連結されるように構成される選択的イオン透過層を含む。本発明によるシステムは、複数のスロットが形成された可撓性ホルダーの使用によって試料に含まれた多数のイオン性化合物を同時に分離及び濃縮することができ、吸収パッドの使用によって大容量試料の処理が可能であり、導電性インク層を通じて均一な電場の印加を図ることにより、濃縮効率を改善することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離部と、その両側に位置する第1及び第2貯蔵部と、を含む1つ以上の試料分離デバイスと、
前記試料分離デバイスを挿入するための複数のスロットが形成された可撓性ホルダーと、
前記試料分離デバイスに電圧を印加するための電極と、を含み、
前記試料分離デバイスの分離部は、所定の間隔で折れて区分される2個以上のベースユニットを含み、それぞれの前記ベースユニットは、多孔性基材及び前記多孔性基材の一面にパターンコーティング層及び前記パターンコーティング層を除いた領域に形成されて試料の移動通路になるリザーバーを含み、
前記試料分離デバイスの第1及び第2貯蔵部は、それぞれ支持体、前記支持体の内部に挿入される吸収パッド、前記吸収パッドの一側に位置して、前記電極と連結されるように構成される導電性インク層、及び前記吸収パッドの他側に位置して、前記分離部と連結されるように構成される選択的イオン透過層を含む、試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム。
【請求項2】
前記試料分離デバイスは、折れた状態で0.1~1mmの厚さに前記可撓性ホルダーの各スロットに挿入される、請求項1に記載の試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム。
【請求項3】
前記可撓性ホルダーに形成されたスロットは、曲がった時、内部直径が拡張される、請求項1または2に記載の試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム。
【請求項4】
前記可撓性ホルダーは、シリコン系ポリマーまたは熱可塑性ゴムで製造された、請求項1から3のいずれか一項に記載の試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム。
【請求項5】
前記選択的イオン透過層は、前記吸収パッドと前記分離部との間に膜形態で介在されて形成されるか、前記吸収パッドにパターニング方式でコーティングされて形成される、請求項1から4のいずれか一項に記載の試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム。
【請求項6】
前記吸収パッドと前記分離部との間に追加の吸収パッドが含まれるように構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム。
【請求項7】
前記吸収パッドと前記分離部との間に吸水性樹脂(SAP)粒子がさらに含まれるように構成される、請求項1から6のいずれか一項に記載の試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム。
【請求項8】
前記支持体は、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)またはこれらの混合物で形成された、請求項1から7のいずれか一項に記載の試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム。
【請求項9】
前記吸収パッドは、3~5mmの長さ及び0.1~0.2mmの厚さを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム。
【請求項10】
前記吸収パッドは、セルロース繊維、ゼラチン繊維、澱粉繊維またはこれらのうち、2以上の混合物で製造された、請求項1から9のいずれか一項に記載の試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム。
【請求項11】
前記導電性インク層は、前記吸収パッドに銀含有ペーストをコーティングして形成された、請求項1から10のいずれか一項に記載の試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム。
【請求項12】
前記選択的イオン透過層は、ナフィオン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルアミン塩酸塩またはこれらの混合物で形成された、請求項1から11のいずれか一項に記載の試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システムを用いて試料内のイオン性化合物を分析する方法であって、
(ステップS1)前記試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システムの試料分離デバイスにイオン性化合物-含有試料を注入する段階と、
(ステップS2)前記試料分離デバイスを折って可溶性ホルダーの各スロットに挿入した後、電圧を印加して試料の分離及び濃縮を行う段階と、
(ステップS3)前記折れた試料分離デバイスを広げて濃縮された成分を回収して分析する段階と、
を含む、方法。
【請求項14】
前記ステップS1でイオン性化合物-含有試料は、0.01~2mlの量で注入される、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年10月30日付の大韓民国特許出願10-2020-0143088号及び2021年8月26日付の大韓民国特許出願10-2021-0113127号に基づいた優先権の利益を主張し、前記特許文献に開示されたあらゆる内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、試料内のイオン性化合物の分離及び濃縮システム及びそれを用いたイオン性化合物の分析方法に係り、より詳細には、試料に含まれた多数のイオン性化合物をそれぞれ同時に分離及び濃縮することができるシステム及びそれを用いたイオン性化合物の分析方法に関する。
【背景技術】
【0003】
イオン性化合物、例えば、有機酸は、食品添加物、医薬品、バイオエネルギー原料、電子機器部品の洗浄剤、可塑剤原料などの多様な用途として使われており、さまざまな疾病の診断、食品及び素材の物性評価のために、試料内の有機酸の分離及び分析が必要である。
【0004】
一般的に、試料内の有機酸の分離は、抽出溶媒を利用した液状抽出法によって行われているが、前記抽出溶媒として強い酸性または塩基性溶液が主に使われることによって、毒性による環境汚染の問題がある。また、分離された有機酸は、分析に先立って蒸留法またはメンブレンを含めたさまざまな濃縮機器を用いて濃縮されるが、このような濃縮は、装備が巨大であり、高いエネルギー消耗を必要とする限界がある。例えば、TurboVap(製造社:Biotage)のような窒素濃縮器を使用する場合、分離された有機酸を分取した後、窒素を注入して濃縮が行われるが、有機酸が含まれた試料は、一般的に沸点が高い水を溶媒として使用するので、前記溶媒を揮発させるためには高温が要求され、窒素ガスを持続的に注入しなければならない煩わしさがある。
【0005】
したがって、試料からイオン性化合物である有機酸をより効率的に分離及び濃縮する前処理方法が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、試料に含まれた多数のイオン性化合物をそれぞれ同時に分離及び濃縮することができるシステム及びこれを用いて有機酸を分析する方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、試料内のイオン性化合物を分離及び濃縮するためのシステムを提供し、前記システムは、分離部と、その両側に位置する第1及び第2貯蔵部と、を含む1つ以上の試料分離デバイス;前記デバイスを挿入するための複数のスロットが形成された可撓性ホルダー;及び前記デバイスに電圧を印加するための電極;を含み、前記デバイスの分離部は、所定の間隔で折れて区分される2個以上のベースユニットを含み、前記それぞれのベースユニットは、多孔性基材及び前記基材の一面にパターンコーティング層及び前記パターンコーティング層を除いた領域に形成されて試料の移動通路になるリザーバーを含み、前記デバイスの第1及び第2貯蔵部は、それぞれ支持体、前記支持体の内部に挿入される吸収パッド、前記吸収パッドの一側に位置して、前記電極と連結されるように構成される導電性インク層、及び前記吸収パッドの他側に位置して、前記分離部と連結されるように構成される選択的イオン透過層を含む。
【0008】
また、本発明は、前記システムを用いて試料内のイオン性化合物を分析する方法を提供し、前記方法は、(ステップS1)前記システムの試料分離デバイスにイオン性化合物-含有試料を注入する段階;(ステップS2)前記試料分離デバイスを折って可溶性ホルダーの各スロットに挿入した後、電圧を印加して試料の分離及び濃縮を行う段階;及び(ステップS3)前記折れた試料分離デバイスを広げて濃縮された成分を回収して分析する段階;を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるシステムは、スロットが形成された可撓性ホルダーの使用によって試料に含まれた多数の有機酸を同時に分離及び濃縮することができ、吸収パッドの使用によって大容量試料の処理が可能であり、導電性インク層を通じて均一な電場の印加を図ることにより、濃縮効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態による分離及び濃縮システムの構造を概略的に示した図面である。
図2A】本発明の一実施形態によるシステムに含まれた可溶性ホルダーを概略的に例示した図面である。
図2B】本発明の一実施形態によるシステムに含まれた可溶性ホルダーに形成されたスロットの構造を概略的に例示した図面である。
図3A】本発明の一実施形態によるシステムに含まれた試料分離デバイスのさまざまな様態を例示した図面である。
図3B】本発明の一実施形態によるシステムに含まれた試料分離デバイスのさまざまな様態を例示した図面である。
図3C】本発明の一実施形態によるシステムに含まれた試料分離デバイスのさまざまな様態を例示した図面である。
図4】本発明の一実施形態によるシステムに含まれた試料分離デバイスの分離部を概略的に例示した図面である。
図5】本発明の一実施形態によるシステムで吸収パッドに導電性インク層の形成有無による電場の均一性を確認した図面である。
図6】本発明の一実施形態によるシステムを用いて試料を分離及び濃縮して分析する過程を例示した図面である。
図7A】実施例1による試料の分離/濃縮の結果を示した図面である。
図7B】実施例1による試料の分離/濃縮の結果を示した図面である。
図8A】比較例1による試料の分離/濃縮の結果を示した図面である。
図8B】比較例1による試料の分離/濃縮の結果を示した図面である。
図9】実施例1及び比較例1の濃縮効率を比較して示した図面である。
図10】実施例2による試料の分離/濃縮の結果を示した図面である。
図11】実施例3による試料の分離/濃縮の結果を示した図面である。
図12】実施例4による試料の分離/濃縮の結果を示した図面である。
図13】実施例5による試料の分離/濃縮の結果を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は、通常的に、または辞書的な意味として限定されて解釈されてはならず、発明者は、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義できるという原則を踏まえて、本発明の技術的思想に符合する意味と概念として解釈されねばならない。
【0012】
本発明の一実施形態は、試料に含まれた多数の有機酸をそれぞれ同時に分離及び濃縮することができるシステムに関するものである。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態による分離及び濃縮システム1の構造を概略的に示したものであって、前記システム1は、試料分離デバイス10、前記デバイスを折れた状態で挿入するための可撓性ホルダー20及び前記デバイスに電圧を印加するための電極30を含みうる。
【0014】
本発明のシステム1は、図2A及び図2Bに例示したように、複数のスロットが形成された可撓性ホルダー20に1つ以上の折れた試料分離デバイス10を搭載した後、前記デバイスに注入された試料内の有機酸の種類別に適した電圧を印加することにより、互いに異なる有機酸を同時に分離及び濃縮することができる。すなわち、本発明のシステムを利用する場合、有機酸の種類によって最適の電圧を多チャンネルで適用することにより、さまざまな有機酸を一回の工程で分離及び濃縮することができる。
【0015】
図2A及び図2Bを参照する時、前記可撓性ホルダー20には、均等な間隔で形成された複数のスロットが形成されており、可撓性によって曲がった時、内部直径が拡張されて試料分離デバイス10を折れた状態で挿入する時、空間を確保することができる。例えば、前記可撓性ホルダー20の各ホルダーに1つ以上の試料分離デバイス10がそれぞれ折れた状態で0.1~1mmの厚さ、例えば、0.2mmの厚さに挿入されて、各デバイスに安定して電圧を印加することができる。前記可撓性ホルダーのサイズは、特に制限がなく、スロット個数は、分析しようとする試料の数によって多様に変更可能である。
【0016】
本発明のシステムにおいて、前記試料分離デバイス10は、試料を注入して分離及び濃縮を行うための部材であって、具体的に、分離部100と、その両側に位置する第1及び第2貯蔵部200、300と、を含みうる(図3Aから図3C参照)。
【0017】
前記試料分離デバイス10に含まれた分離部100は、図4に例示したように、所定の間隔で折れる形態の3D構造を示すことができ、折れて区分される単位として2個以上のベースユニットを構成することができる。
【0018】
前記分離部100は、親水性材質の多孔性基材111に疎水性物質をパターンコーティングすることで製造可能である。これにより、前記2個以上のベースユニットは、それぞれ疎水性のパターンコーティング層112とコーティングされず、露出された領域として親水性のリザーバー113を含みうる。
【0019】
前記多孔性基材は、毛細管現象によって液体が移動しながら疎水性物質の吸着または浸透が容易な物質で構成され、例えば、親水性の紙またはセルロース材質である。そのうち、紙は、ファイバー構造によって別途の外部動力なしでも液体の移動が円滑であって、有利に使われる。
【0020】
前記パターンコーティング層112の形成に使われる疎水性物質は、ワックス(wax)のようなアルコール脂肪酸エステルであるが、これに限定されるものではない。
【0021】
前記リザーバー113は、基材111上で疎水性のパターンコーティング層112を除いた親水性領域に該当し、前記2個以上のベースユニットが折れた時、互いに連結されて分析対象の試料またはバッファを貯蔵するか、移動する通路を提供することができる。また、前記2個以上のベースユニットのうち、一部のリザーバーを選択して試料またはバッファが注入される。このようなリザーバーの形態は、特に制限がなく、例えば、円状、三角状、四角状などの多様な形態として具現可能である。
【0022】
本発明において、前記パターンコーティング層112及びリザーバー113を含むベースユニットのサイズ、形態及び個数は、必要に応じて設定することができ、特に制限はない。1つの例として、前記ベースユニットは、0.1~0.15mm、例えば、0.13mmの厚さ、60~70mmの面積、及び8~10mmの容積を有しうる。
【0023】
一方、前記分離部100の両側には、試料を注入することができる第1貯蔵部200及び第2貯蔵部300をそれぞれ積層させることができる。
【0024】
図3Aに例示したように、前記第1貯蔵部200及び第2貯蔵部300は、支持体210、310、前記支持体の内部に挿入される吸収パッド220、320、前記吸収パッドの一側に位置して電極30と連結されるように構成される導電性インク層230、330、及び前記吸収パッドの他側に位置して分離部100と連結されるように構成される選択的イオン透過層240、340を含みうる。
【0025】
前記支持体210、310は、吸収パッド220、320を固定するために内部ホールを備えた部材であって、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)またはこれらの混合物で形成されうる。前記支持体のサイズ及び厚さは、内部に固定される吸収パッドによって変わりうる。例えば、吸収パッドが4.8mmの直径を有する場合、前記支持体は、1mmの厚さ及び24mm×24mmのサイズを有しうる。
【0026】
前記吸収パッド220、320は、試料を大容量(例えば、0.01ml~最大2ml)で処理するために導入されたものであって、試料またはバッファを大容量で担持することができる。
【0027】
前記吸収パッドは、OH官能基を有する繊維、例えば、セルロース繊維、ゼラチン繊維、澱粉繊維またはこれらのうち、2以上の混合物で製造されたものであり、3~5mmの長さ及び0.1~0.2mmの厚さを有しうる。
【0028】
このような吸収パッドで電極と隣接した面に形成された導電性インク層230、330は、電極を通じて電圧が印加された時、均一な電場の形成を図るためのものであって、銀含有ペースト(paste)のような導電性インクを吸収パッドにコーティングして構成することができる。このような導電性インク層を適用する場合、分離部100を構成する2個以上のベースユニットで特定層に集中的に所望する有機酸成分を濃縮して濃縮効率を向上させ(図5の(b)参照)、かつ、導電性インク層が形成されない場合、外部電圧による電場が均一に形成されず、濃縮効率が低くなる(図5の(a)参照)。
【0029】
前記吸収パッドの他側に位置する選択的イオン透過層240、340は、電極を通じて電圧が印加される時、イオン濃度分極(ion concentration polarization、ICP)を誘導することができる。
【0030】
前記イオン濃度分極は、電極で印加された外部電場によって試料内に存在するイオンが各イオンの電気的性質と反対である電極側に導かれながら移動する電気泳動(electrophoresis、EP)、すなわち、陽イオンと陰イオンとの移動現象が起こるが、選択的イオン透過層によって特定イオンのみ透過されてイオン欠乏(depletion)とイオン濃縮(enrichment)との境界層が形成される現象を意味する。
【0031】
本発明で分析しようとする有機酸は、およそ陰イオンの形態を帯び、電圧印加時に(+)極に移動する。本発明のシステムは、基本的に(+)極及び(-)極のそれぞれに連結される導電性インク層の前側に選択的イオン透過層としてナフィオン層が位置する場合、単一有機酸-含有試料を濃縮時に(-)極側の吸収パッドに注入された試料内の有機酸(陰イオン)は、電圧印加時に(+)極の方向に移動し、緩衝液内の陽イオンは、前記ナフィオン層を通過して(-)極の方向に移動することによって、(-)極の付近でイオン欠乏領域が形成され、(+)極の付近ではイオン濃縮領域が形成されて陰イオンが(+)極側で濃縮される。一方、混合試料の場合には、本発明のシステムで折れた分離部の中間に試料が注入され、電圧印加時に、電気泳動によって陽イオンは(-)極に、陰イオンは(+)極に分離されて移動した後、濃縮される。すなわち、陰イオンは、ICPによって濃縮が起こり、陽イオンは、電気泳動によって(-)極の方向に移動しながらナフィオン層の疎水性によって、その前側で濃縮される。
【0032】
このような選択的イオン透過層は、選択的にイオン透過が可能な物質であれば、如何なる物質でも具現可能であり、例えば、ナフィオン(nafion)、ポリスチレンスルホン酸(polystyrene sulfonate)またはポリアリルアミン塩酸塩(polyallylamine hydrochloride)などの高分子電解質(polyelectrolyte)で形成されうる。
【0033】
本発明の一実施形態において、前記選択的イオン透過層は、前記吸収パッドと前記分離部との間に膜形態で介在されて形成されるか(図3A図3C)、前記吸収パッドに選択的イオン透過性物質をパターニング方式でコーティングされて形成されうる(図3B)。
【0034】
一方、本発明のシステムは、図3Bに示すように、吸収パッドと分離部との間に追加の吸収パッドが含まれるように構成することができる。図3Bを参照する時、第1貯蔵部200及び第2貯蔵部300は、それぞれ2個の吸収パッドを含んでおり、吸収パッド220'、320'と分離部100と間に吸収パッド220"、320"が積層されている。
【0035】
また、本発明のシステムは、図3Cに示すように、吸収パッドと分離部との間に吸水性樹脂(super absorbent polymer、SAP)粒子がさらに含まれるように構成することができる。図3Cを参照する時、第1貯蔵部200は、吸収パッド220と分離部100との間にSAP粒子を導入し、その導入のために、下部支持体211を上部支持体210と積層された形態で追加使用することができる。
【0036】
前記のような本発明のシステムを利用する場合、複数の試料分離デバイスにそれぞれ均一な電場を印加し、大容量の試料を注入して、短時間内に多様な種のイオン性化合物を同時に分離及び濃縮することができる。
【0037】
したがって、本発明は、前記システムを用いて試料内のイオン性化合物を分析する方法を提供する。
【0038】
図6は、本発明の一実施形態によるシステムを用いて試料を分離及び濃縮して分析する過程を例示したものであって、前記方法は、下記の段階を含みうる:
(ステップS1)前記システムの試料分離デバイスにイオン性化合物-含有試料を注入する段階;
(ステップS2)前記試料分離デバイスを折って可溶性ホルダーの各スロットに挿入した後、電圧を印加して試料の分離及び濃縮を行う段階;及び
(ステップS3)前記折れた試料分離デバイスを広げて濃縮された成分を回収して分析する段階。
【0039】
前記ステップS1で、前記イオン性化合物-含有試料は、0.01~2mlの量で注入される。すなわち、本発明では、マイクロスケールで試料を処理する既存の技術とは異なって、大容量で試料を処理することができる。
【0040】
前記ステップS2での電圧は、複数の試料分離デバイスにそれぞれ、例えば、500~1000秒間10~100V、例えば、50Vの条件で印加される。
【0041】
前記ステップS3で濃縮された成分は、通常の分析方法、例えば、HS-GC/MS、LC/MSなどを用いて分析される。
【0042】
以下、本発明の理解を助けるために、実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、さまざまな他の形態に変形され、本発明の範囲が、下記の実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0043】
実施例1:
図1に例示したように、試料分離デバイス10、前記デバイスを挿入するための可撓性ホルダー20及び前記デバイスに電圧を印加するための電極30を含むシステムを準備した。この際、前記試料分離デバイスの分離部は、12個のベースユニットで構成し、第1及び第2貯蔵部は、ナフィオン層がコーティングされた吸収パッド及び銀ペーストがコーティングされた吸収パッドを支持体に挿入して構成した。
【0044】
前記試料分離デバイス10の吸収パッドに下記の構造の有機酸成分(PTS4-)を注入し、前記試料分離デバイスを0.2mmの厚さに折って可撓性ホルダー20のスロットに挿入した後、電圧を印加して試料内の有機酸の分離及び濃縮を行った(下記表1には、適用された条件を示した)。前記試料分離デバイスに濃縮された成分を回収して、下記の条件で分析した。
【化1】
【0045】
【表1】
【0046】
実施例1による試料の分離/濃縮に対する結果を図7A及び図7B (HPLC/UV chromatogram)、及び表2に示した。
【0047】
【表2】
【0048】
前記表2から分かるように、試料分離デバイス10の12個のベースユニットのうち、10~12番目の層でPTS4-の陰イオン成分が集中的に濃縮された。すなわち、10~12番目の層で濃縮強度の全体値(26,281)として初期値(3,875)に比べて、約7倍であった。このように、ベースユニットの特定層で試料の濃縮を集中させたことは、吸収パッドに銀ペーストのコーティングを通じて均一な電場が提供された影響であると見なされる。
【0049】
比較例1:
実施例1で吸収パッドに銀ペーストコーティング層を形成していないことを除いては、同じ過程を行い、その結果を図8A及び図8B (HPLC/UV chromatogram)、及び表3に示した。
【0050】
【表3】
【0051】
前記表3から分かるように、比較例1では、試料分離デバイス10の12個のベースユニットで特定層ではない多様な層に分散されて試料が濃縮され、濃縮強度が実施例1に比べて減少した。これは、吸収パッドに銀ペーストコーティング層を適用しないことによって、不均一な電場が印加されて多様な層に試料が分散されたと見なされる。
【0052】
前記実施例1及び比較例1によるPTS4-の濃縮の結果を比較して図9に示し、銀ペースト(導電性コーティング層)を適用した実施例1の濃縮効率が、比較例1に比べて著しく向上したことを確認することができる。
【0053】
実施例2:
試料分離デバイス10の吸収パッドと分離部との間にSAP樹脂2mgをさらに導入しながら試料を0.6mlの量で注入することを除いては、実施例1と同じ過程を行い、その結果を図10に示した。
【0054】
図10から分かるように、12個のベースユニットのうち、10~12番目の層でPTS4-の陰イオン成分が集中的に濃縮された。すなわち、本発明によるシステムでは、吸収パッド及びSAP樹脂を導入することにより、試料の大容量処理が可能であるということを確認した。
【0055】
実施例3:
試料としてアクリル酸含有試料を使用して、下記表4の条件で分離及び濃縮を行った後、濃縮された成分を回収して、下記の条件で分析することを除いては、実施例1と同じ過程を行った。
【0056】
[表4]
【表4】
【表5】
【0057】
実施例3によるアクリル酸の分離及び濃縮の結果(HS-GC/MS chromatogram)を図11に示した。
【0058】
図11から分かるように、試料分離デバイスの12個のベースユニットのうち、10~11番目の層でアクリル酸が集中的に濃縮された。
【0059】
実施例4:
試料分離デバイス10の分離部を12個のベースユニットから24個のベースユニットに変更し、下記の構造の陰イオン(PTS4-)及び陽イオン(Ru(bph) 2+)を含有する試料0.02mlを前記分離部の11番目の層に注入することを除いては、実施例1と同じ過程を行った。
【化2】
【0060】
実施例4による試料の分離/濃縮の結果を図12に示した。
【0061】
図12から分かるように、陽イオン/陰イオンが混合された試料を11番目の層に注入した後、50Vの電圧を印加した時、陰イオン(PTS4-)は、(-)極から(+)極の方向に移動して2~4番目の層で濃縮され、陽イオン(Ru(bph))は、(+)極から(-)極の方向に移動して15番目の層で濃縮された。また、分離度(α)を陰イオン及び陽イオンの相対距離(mm)として計算した結果、260と算出された。
【0062】
実施例5:
試料分離デバイス10の分離部を12個のベースユニットから24個のベースユニットに変更し、PTS4-、クエン酸、フマル酸及びニコチンアミドの4種の有機酸を含有する試料を0.06mlの量で注入することを除いては、実施例1と同じ過程を行った。その結果を図13に示した。
【0063】
図13において、PTS4-(19th layer)、クエン酸(17th layer)、フマル酸(18th layer)及びニコチンアミド(8th layer)が同時に分離及び濃縮されたということを確認することができる。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8a
図8b
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】