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特表2023-549062CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤を使用したがんの治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤を使用したがんの治療
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20231115BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231115BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20231115BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231115BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231115BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231115BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231115BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALI20231115BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C07K16/30
A61P43/00 121
A61P35/00
A61K45/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/4709
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023525020
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(85)【翻訳文提出日】2023-06-19
(86)【国際出願番号】 EP2021080075
(87)【国際公開番号】W WO2022090439
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】20204807.0
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ガーリンガー, マルコ
(72)【発明者】
【氏名】セミアニコワ, マリア
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC202
4C084ZC412
4C084ZC422
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB36
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE03
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4C085GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB03
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、がんの治療、特に、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤を使用したがんの治療に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体におけるがんの治療における使用のためのCEA CD3二重特異性抗体であって、前記治療がTGFβシグナル伝達阻害剤と組み合わせた前記CEA CD3二重特異性抗体の投与を含む、CEA CD3二重特異性抗体。
【請求項2】
個体におけるがんの治療のための医薬の製造におけるCEA CD3二重特異性抗体の使用であって、前記治療がTGFβシグナル伝達阻害剤と組み合わせた前記CEA CD3二重特異性抗体の投与を含む、使用。
【請求項3】
個体におけるがんを治療するための方法であって、前記個体にCEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤を投与することを含む、方法。
【請求項4】
CEA CD3二重特異性抗体を含む第1の医薬と、TGFβシグナル伝達阻害剤を含む第2の医薬とを含み、任意に、個体におけるがんを治療するための前記第2の医薬と組み合わせた前記第1の医薬の投与のための指示書を含む添付文書を更に含む、キット。
【請求項5】
前記CEA CD3二重特異性抗体が、
(i)CD3に特異的に結合し、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分と、
(ii)CEAに特異的に結合し、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分と
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CE3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項6】
前記CEA CD3二重特異性抗体が、CEAに特異的に結合する第3の抗原結合部分及び/又は第1のサブユニットと第2のサブユニットとから構成されるFcドメインを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項7】
前記CEA CD3二重特異性抗体が、
(i)CD3に特異的に結合し、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれかが交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)CEAに特異的に結合し、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分と、
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと
を含み、
前記第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において前記第1の抗原結合部分の前記Fab重鎖のN末端に融合しており、前記第1の抗原結合部分が、前記Fab重鎖のC末端において前記Fcドメインの前記第1のサブユニットのN末端に融合しており、前記第3の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において前記Fcドメインの前記第2のサブユニットのN末端に融合している、請求項1~6のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項8】
前記CEA CD3二重特異性抗体の前記第1の抗原結合部分が、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列とを含み、並びに/又は前記CEA CD3二重特異性抗体の前記第2の抗原結合部分及び(存在する場合)前記第3の抗原結合部分が、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項9】
前記CEA CD3二重特異性抗体の前記Fcドメインが、前記Fcドメインの前記第1のサブユニットと前記第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含み、並びに/又は前記Fcドメインが、Fc受容体への結合及び/若しくはエフェクター機能を低下させる一若しくは複数のアミノ酸置換を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項10】
前記CEA CD3二重特異性抗体がシビサタマブである、請求項1~9のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項11】
前記TGFβシグナル伝達阻害剤が、TGFβ(特に、TGFβ-1及び/又はTGFβ-2)、TGFβ(共)受容体(特にTβ1、2及び/又は3)、SMADタンパク質(特にSMAD2、3及び/又は4)、インテグリン(特に、インテグリンαvβ6)、並びに脱ユビキチン化酵素(特に、USP4及び/又はUSP15)からなる群から選択されるTGFβシグナル伝達経路の成分を標的とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項12】
前記TGFβシグナル伝達阻害剤が、TGFβ又はTGFβ(共)受容体阻害剤である、請求項1~11のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項13】
前記TGFβシグナル伝達阻害剤が、キナーゼ阻害剤、特にTGFβ受容体キナーゼ阻害剤である、請求項1~12のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項14】
前記TGFβシグナル伝達阻害剤がガルニセルチブである、請求項1~13のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項15】
前記治療が、PD-L1結合アンタゴニスト、特にアテゾリズマブの投与を更に含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項16】
前記がんがCEA陽性がんである、請求項1~15のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項17】
前記がんが、結腸直腸がん、肺がん、膵臓がん、乳がん、及び胃がんからなる群から選択されるがん、特に結腸直腸がんである、請求項1~16のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項18】
上記に記載されるとおりの発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、がんの治療、特に、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤を使用したがんの治療に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
T細胞活性化二重特異性抗体は、腫瘍細胞に対して細胞傷害性T細胞を関与させるように設計された新しいクラスのがん治療薬である。このような抗体が、T細胞上のCD3と腫瘍細胞に発現する抗原に同時に結合すると、腫瘍細胞とT細胞との間に一時的な相互作用が生じ、T細胞の活性化とそれに続く腫瘍細胞の溶解が引き起こされる。
【0003】
T細胞二重特異性抗体シビサタマブ(RG7802、RO6958688、CEA-TCB)は、T細胞受容体の特異性とは無関係に細胞表面でCEA糖タンパク質を発現する腫瘍細胞にT細胞をリダイレクトする、腫瘍細胞上のがん胎児性抗原(CEA)とT細胞上のCD3とを標的とする新規のT細胞活性化二重特異性抗体である(Bacac et al.,Oncoimmunology.2016;5(8):1-30)。T細胞リダイレクト二重特異性抗体の主な利点は、それらが新生抗原の負荷とは無関係にT細胞によるがん細胞の認識を媒介することである。CEAは多くの結腸直腸がん(CRC)の細胞表面で過剰発現しているため、シビサタマブは非超変異マイクロサテライト安定性(MSS)CRCの有望な免疫療法剤である。
【0004】
シビサタマブは、T細胞上のCD3イプシロン鎖に対する単一の結合部位と、中程度から高いCEA細胞表面発現を伴うがん細胞への結合力を調整する2つのCEA結合部位とを有する(Bacac et al.,Clin Cancer Res.2016;22(13):3286-97)。これにより、一部の組織に生理学的に存在する、CEA発現レベルが低い健康な上皮細胞を標的とすることが回避される。がん細胞表面上のCEA及びT細胞上のCD3へのシビサタマブの結合は、T細胞の活性化、サイトカイン分泌、及び細胞傷害性顆粒の放出を引き起こす。少なくとも2つの以前の化学療法レジメンに失敗したCEA発現転移性CRCを有する患者におけるシビサタマブの第I相試験では、単剤療法で又はPD-L1阻害抗体と組み合わせて治療された患者のそれぞれ11%(4/36)及び50%(5/10)において放射線収縮を伴う抗腫瘍活性を示した(Argiles et al.,Ann Oncol.2017 Jun 1;28(suppl_3):mdx302.003-mdx302.003;Tabernero et al.,J Clin Oncol.2017 May 20;35(15_suppl):3002)。この用量漸増試験の一部の患者は、最終推奨用量よりも低い用量で治療されたが、それにもかかわらず、奏効率は、腫瘍のサブグループが治療に耐性があることを示している。
【0005】
したがって、シビサタマブに対する応答率及び/又は治療有効性を増加させることが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0006】
発明の説明
患者由来の結腸直腸がんオルガノイド(PDO)を使用することで、本発明者らは、TGFβがシビサタマブの有効性に対抗する強力な免疫抑制因子であり、したがって、シビサタマブ等のCEA CD3二重特異性抗体の奏効率及び/又は治療有効性が、TGFβシグナル伝達阻害剤と組み合わせることによって増加し得ることを見出した。
【0007】
したがって、第1の態様では、本発明は、個体におけるがんの治療における使用のためのCEA CD3二重特異性抗体であって、治療がTGFβシグナル伝達阻害剤と組み合わせたCEA CD3二重特異性抗体の投与を含む、CEA CD3二重特異性抗体を提供する。
【0008】
更なる態様では、本発明は、個体におけるがんの治療のための医薬の製造におけるCEA CD3二重特異性抗体の使用であって、治療がTGFβシグナル伝達阻害剤と組み合わせたCEA CD3二重特異性抗体の投与を含む、使用を提供する。
【0009】
また更なる態様では、本発明は、個体にCEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤を投与することを含む、個体におけるがんを治療するための方法を提供する。
【0010】
一態様では、本発明は、CEA CD3二重特異性抗体を含む第1の医薬と、TGFβシグナル伝達阻害剤を第2の医薬とを含み、任意に、個体におけるがんを治療するための第1の医薬と第2の医薬を組み合わせた投与のための指示書を含む添付文書を更に含む、キットも提供する。
【0011】
上記又は本明細書に記載のCEA CD3二重特異性抗体、方法、使用、又はキットは、以下に記載する特徴のいずれかを、単独で又は組み合わせて組み込むことができる(文脈で別段の指示がない限り)。
【0012】
本明細書に記載のCEA CD3二重特異性抗体は、CD3とCEAとに特異的に結合する二重特異性抗体である。特に有用なCEA CD3二重特異性抗体は、例えばPCT公開番号国際公開第2014/131712(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0013】
「二重特異性」との用語は、抗体が、少なくとも2つの別個の抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。典型的には、二重特異性抗体は、2つの抗原結合部位を含み、それぞれが異なる抗原決定基に対して特異的である。特定の実施形態では、二重特異性抗体は、2つの抗原決定基、特に、2つの別個の細胞で発現した2つの抗原決定基に同時に結合することができる。
【0014】
本明細書で使用される場合、「抗原決定基」という用語は、「抗原」及び「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分-抗原複合体を形成する、抗原結合部分が結合するポリペプチド高分子上の部位(例えば、アミノ酸の連続伸長部又は異なる領域の非連続アミノ酸から構成される配座構成)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染した細胞の表面上に、他の罹患した細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中で遊離して、及び/又は細胞外マトリックス(ECM)内に認めることができる。
【0015】
本明細書で使用される用語「抗原結合部分」は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。一態様では、抗原結合部分は、標的部位に、例えば、抗原決定基を有する特定の種類の腫瘍細胞に結合する部分(例えば、第2の抗原結合部分)に指向することができる。別の態様では、抗原結合部分は、その標的抗原、例えばT細胞受容体複合抗原を通してシグナル伝達を活性化することができる。抗原結合部分は、本明細書に更に定義される抗体及びその断片を含む。特定の抗原結合部分には、抗体重鎖可変領域及び抗体軽鎖可変領域を含む、抗体の抗原結合ドメインが含まれる。特定の実施形態では、抗原結合部分は、本明細書で更に定義され、当該技術分野で知られているような抗体定常領域を含んでいてもよい。有用な重鎖定常領域には、5つのアイソタイプ:α、δ、ε、γ又はμのいずれかが含まれる。有用な軽鎖定常領域は、κ及びλの2つのアイソタイプのいずれかを含む。
【0016】
「特異的結合」とは、結合が抗原について選択的であり、望ましくない又は非特異的な相互作用とは区別可能であることを意味する。抗原結合部分が特定の抗原決定基に結合する能力は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)又は当業者には知られている他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(例えば、BIAcore機器で分析される)(Liljeblad et al.,Glyco J 17,323-329(2000))、及び従来の結合アッセイ(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))のいずれかによって測定することができる。一実施形態では、無関係なタンパク質に対する抗原結合部分の結合度は、例えばSPRによって測定される抗原に対する抗原結合部分の結合の約10%未満である。特定の実施形態では、抗原に結合する抗原結合部分、又はこの抗原結合部分を含む抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば、10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数(K)を有する。
【0017】
「親和性」は、分子(例えば受容体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えばリガンド)との間の非共有結合的相互作用の総和の強度を指す。特に断らない限り、本明細書で使用する「結合親和性」とは、結合対(例えば、抗原結合部位と抗原、又は受容体とそのリガンド)のメンバー間の1対1の相互作用を反映する、固有の結合親和性を指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(K)で表され、これは、解離速度定数と会合速度定数(それぞれ、koff及びkon)の比である。したがって、速度定数の比が同じままである限り、同等の親和性は異なる速度定数を含んでもよい。アフィニティは、本明細書に記載するものを含め、当該技術分野で公知の十分に確立された方法によって測定することができる。親和性を測定するための特定の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0018】
「CD3」は、別途明記しない限り、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)及び齧歯類(例えば、マウス及びラット)等の哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来の任意のネイティブCD3を指す。この用語は、「全長」の、未処置のCD3、及び、細胞内でのプロセシングによりもたらされる任意の形態のCD3を包含する。この用語は、CD3の天然に存在する変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。一態様では、CD3は、ヒトCD3、特にヒトCD3のイプシロンサブユニット(CD3ε)である。ヒトCD3εのアミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)受託番号P07766(バージョン144)、又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_000724.1に示されている。配列番号24も参照されたい。カニクイザル[Macaca fascicularis]CD3εのアミノ酸配列は、NCBI GenBank番号BAB71849.1に示されている。配列番号25も参照されたい。
【0019】
「がん胎児性抗原」又は「CEA」(がん胎児性抗原関連細胞接着分子5(CEACAM5)としても知られている)は、特に断りのない限り、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)、並びに齧歯類(例えばマウス及びラット)等の哺乳動物を含む、任意の脊椎動物源に由来する、任意の天然CEAを意味する。この用語は、「全長」の、未処置のCEA、及び細胞内でのプロセシングから生じる任意の形態のCEAを包含する。この用語は、CEAの天然に存在する変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。一態様では、CEAはヒトCEAである。ヒトCEAのアミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)受託番号P06731、又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_004354.2に示されている。一態様では、CEAは膜結合CEAである。一態様では、CEAは、細胞、例えばがん細胞の表面に発現したCEAである。
【0020】
本明細書で使用される場合、Fab分子等に関する「第1」、「第2」又は「第3」という用語は、各タイプの部分が2つ以上存在する場合の区別の便宜のために使用される。これらの用語の使用は、明示的に示されていない限り、二重特異性抗体の特定の順序又は配向を与えることを意図していない。
【0021】
本明細書で使用される「価数」という用語は、抗体内の特定数の抗原結合部位の存在を示す。したがって、「抗原に対する一価の結合」という用語は、抗体内の抗原に特異的な1つの(及び1つを超えない)抗原結合部位の存在を示す。
【0022】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、限定されるものではないが、それらが所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含めた、様々な抗体構造を包含する。
【0023】
「完全長抗体」、「インタクト抗体」、及び「全抗体」という用語は、天然の抗体構造に実質的に類似した構造を有する抗体を指すために、本明細書で互換的に使用される。
【0024】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部分を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例には、限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディ、直鎖抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFv)、及び単一ドメイン抗体が含まれる。特定の抗体断片の総説としては、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)を参照されたい。scFv断片の総説としては、例えば、Pluckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)を参照されたい。また、国際公開第93/16185号及び米国特許第5,571,894号及び同第5,587,458号を参照されたい。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、in vivo半減期が長くなったFab及びF(ab’)断片の説明については、米国特許第5,869,046号を参照されたい。「ダイアボディ」は、2つの抗原結合部位を有する抗体断片であり、二価であっても二重特異性であってもよい。例えば、欧州特許第404,097号、国際公開第1993/01161号、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)、及びHollinger et al.,Proc Natl Acad Sci USA 90,6444-6448(1993)を参照されたい。トリアボディ及びテトラボディも、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)に説明されている。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全て若しくは一部又は軽鎖可変ドメインの全て若しくは一部を含む抗体断片である。特定の態様では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6,248,516B1号を参照のこと)。抗体断片は、限定されないが、本明細書に記載されるように、インタクトな抗体のタンパク質分解による消化、及び組換え宿主細胞(例えば、大腸菌又はファージ)による産生を含め、種々の技術によって作られてもよい。
【0025】
「可変領域」又は「可変ドメイン」という用語は、抗原に対する抗体の結合に関与する抗体重鎖又は抗体軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH、VL)は一般に、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と3つの超可変領域(HVR)とを含んでいる、類似の構造を有する。例えば、Kindt et al.,Kuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.,91頁(2007)を参照されたい。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために充分であり得る。可変領域配列に関連して本明細書で使用される場合、「Kabatナンバリング」は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)によって記載されるナンバリングシステムを指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、重鎖及び軽鎖の全ての定常領域及びドメインのアミノ酸位置は、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に記載されるKabatナンバリングシステムに従ってナンバリングされ、本明細書では「Kabatによるナンバリング」又は「Kabatナンバリング」と呼ばれる。特定的には、Kabatナンバリングシステム(Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th ed.、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)の647~660頁を参照されたい)を、κ及びλアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLに使用し、Kabat EUインデックスナンバリングシステム(661~723頁を参照されたい)を、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2及びCH3)に使用し、この場合には、「Kabat EUインデックスによるナンバリング」と言及することによって更に明確にしている。
【0027】
本明細書で使用する場合、用語「超可変領域」又は「HVR」とは、配列内で超可変であり、抗原結合特異性を決定する、抗体可変ドメインの領域、例えば「相補性決定領域」(CDR)のそれぞれを意味する。一般的に、抗体は、6つのCDRを含み、VHに3つ(HCDR1、HCDR2、HCDR3)、VLに3つ(LCDR1、LCDR2、LCDR3)含む。本明細書における例示的なCDRとしては、以下が挙げられる:
(a)アミノ酸残基26-32(L1)、50-52(L2)、91-96(L3)、26-32(H1)、53-55(H2)及び96-101(H3)で生じる超可変ループ(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987));
(b)アミノ酸残基24-34(L1)、50-56(L2)、89-97(L3)、31-35b(H1)、50-65(H2)及び95-102(H3)に生じるCDR(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991));並びに
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、及び93~101(H3)で生じる抗原接触(MacCallum et al.J.Mol.Biol.262:732-745(1996))。
【0028】
特に指示がない限り、CDRは、上記Kabat et al.に従い決定される。当業者は、CDRの表記は、上記Chothia、上記McCallum、又は、任意の他の、科学的に認可された命名システムに従い決定することができることを理解するであろう。
【0029】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、及びFR4からなる。したがって、HVR及びFR配列は、一般に、VH(又はVL)において以下の順序で現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0030】
抗体又は免疫グロブリンの「クラス」は、抗体又は免疫グロブリンの重鎖が有する定常ドメイン又は定常領域の種類を指す。抗体には5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG、IgG、IgG、IgG、IgA、及びIgAに更に分類することができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、μと呼ばれる。
【0031】
「Fab分子」とは、免疫グロブリンの重鎖(「Fab重鎖」)のVHドメイン及びCH1ドメインと、免疫グロブリンの軽鎖(「Fab軽鎖」)のVLドメイン及びCLドメインと、からなるタンパク質を指す。
【0032】
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも呼ばれる)とは、Fab重鎖及び軽鎖の可変ドメイン及び定常ドメインが交換されている(すなわち、互いに置き換わっている)Fab分子を意味し、すなわち、クロスオーバーFab分子は、軽鎖可変ドメインVL及び重鎖定常ドメイン1 CH1(VL-CH1、N末端からC末端方向に)から構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメインVH及び軽鎖定常ドメインCL(VH-CL、N末端からC末端方向に)から構成されるペプチド鎖と、を含む。明確性のために、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖定常ドメイン1 CH1を含むペプチド鎖は、本明細書では、(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。逆に、Fab軽鎖及びFab重鎖の定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖可変ドメインVHを含むペプチド鎖は、本明細書では、(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。
【0033】
これに対して、「従来の」Fab分子とは、その天然フォーマットにおけるFab分子、即ち重鎖の可変ドメイン及び定常ドメイン(NからC末端の方向に、VH-CH1)で構成される重鎖と、軽鎖の可変ドメイン及び定常領域(NからC末端の方向に、VL-CL)で構成される軽鎖とを含むFab分子を意味する。
【0034】
「免疫グロブリン分子」という用語は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、約150,000ダルトンのヘテロテトラマー糖タンパク質であり、ジスルフィド結合した2つの軽鎖と2つの重鎖で構成される。N末端からC末端まで、それぞれの重鎖は、可変ドメイン(VH)(可変重鎖ドメイン又は重鎖可変領域とも呼ばれる)と、その後に3つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)(重鎖定常領域とも呼ばれる)を有する。同様に、N末端からC末端まで、それぞれの軽鎖は、可変ドメイン(VL(可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変領域とも呼ばれる)と、その後に定常軽鎖(CL)ドメイン(軽鎖定常領域とも呼ばれる)を有する。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)又はμ(IgM)と呼ばれる5種類の1つに割り当てられてもよく、このいくつかは、例えば、γ(IgG)、γ(IgG)、γ(IgG)、γ(IgG)、α(IgA)及びα(IgA)等のサブタイプに更に分類されてもよい。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種類のうちの1つに割り当てられてもよい。免疫グロブリンは、免疫グロブリンヒンジ領域を介して接続する、2つのFab分子とFcドメインとから本質的になる。
【0035】
「Fcドメイン」又は「Fc領域」という用語は、本明細書において、定常領域の少なくとも一部を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を規定するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域及びバリアントFc領域を含む。IgG重鎖のFc領域の境界は、わずかに変動してもよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226から、又はPro230から、重鎖のカルボキシ末端まで伸長するよう定義されている。しかしながら、宿主細胞によって産生される抗体は、重鎖のC末端から1つ以上、特に1つ又は2つのアミノ酸の翻訳後開裂を受けてもよい。したがって、完全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現によって、宿主細胞によって産生する抗体は、完全長重鎖を含んでいてもよく、又は完全長重鎖の開裂した変異体を含んでいてもよい。これは、重鎖の最終的な2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)及びリジン(K447、Kabat EUインデックスによるナンバリング)である場合であってもよい。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)、又はC末端グリシン(Gly446)及びリジン(K447)が存在してもよく、又は存在していなくてもよい。本明細書で特に明記されない限り、Fc領域又は定常領域におけるアミノ酸残基のナンバリングは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991(上も参照されたい)に記載されるような、EUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)に従う。Fcドメインの「サブユニット」は、本明細書で使用される場合、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチドのうちの1つ、すなわち、安定した自己会合が可能な、免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含むポリペプチドを指す。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメインを含む。
【0036】
「Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットの会合を促進する修飾」は、ホモ二量体を形成するためのFcドメインサブユニットを含むペプチドと同一のポリペプチドとの会合を減らすか又は防ぐ、ペプチド骨格の操作又はFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。会合を促進する修飾は、本明細書で使用される場合、特に、会合することが望ましい2つのFcドメインサブユニット(すなわち、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニット)のそれぞれに対し、別個の修飾を含み、修飾は、2つのFcドメインサブユニットの会合を促進するように、互いに相補的である。例えば、会合を促進する修飾は、それぞれ立体的又は静電的に望ましい会合を行うように、Fcドメインサブユニットの片方又は両方の構造又は電荷を変えてもよい。したがって、(ヘテロ)二量化は、第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと、第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間で起こり、それぞれのサブユニットに融合する更なる構成要素(例えば、抗原結合部分)が同じではないという意味で、同一ではない場合がある。いくつかの態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメイン内のアミノ酸変異、具体的には、アミノ酸置換を含む。特定の態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットのそれぞれに、別個のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。
【0037】
用語「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域に起因する生物学的活性を指し、抗体のアイソタイプによって変わる。抗体エフェクター機能の例としては、以下のものが挙げられる:C1q結合及び補体依存性細胞障害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、サイトカイン分泌、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込み、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)のダウンレギュレーション、及びB細胞活性化。
【0038】
参照ポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」とは、配列を整列させ、最大の配列同一性パーセントを得るために必要ならばギャップを導入した後、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮しない場合の、参照ポリペプチドのアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージであると定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアラインメントは、当技術分野の技術の範囲内にある種々の様式で、例えば、公的に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、Clustal W、Megalign(DNASTAR)ソフトウェア又はFASTAプログラムパッケージを用いて達成することができる。当業者であれば、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントのための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、ここでの目的のために、%アミノ酸 配列同一性の値は、FASTAパッケージバージョン36.3.8cのggsearchプログラムを用いて又はその後BLOSUM50比較行列を用いて生成される。FASTAプログラムパッケージは、W.R.Pearson and D.J.Lipman(1988),“Improved Tools for Biological Sequence Analysis”,PNAS 85:2444-2448;W.R.Pearson(1996)“Effective protein sequence comparison”Meth.Enzymol.266:227-258;及びPearson et.al.(1997)Genomics 46:24-36によって認定され、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_down.shtml.から公的に利用可能である。あるいは、ggsearch(global protein:protein)プログラム及びデフォルトオプション(BLOSUM50;open:-10;ext:-2;Ktup=2)を用いて、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/index.cgiでアクセス可能な公開サーバを使用して配列を比較し、ローカルではなくグローバルなアライメントを確実に実行することができる。アミノ酸同一性率は、アウトプットアラインメントヘッダーで与えられる。
【0039】
「活性化Fc受容体」は、抗体のFcドメインによる連結の後に、エフェクター機能を発揮するために受容体を含む細胞を刺激するシグナル伝達事象を誘発するFc受容体である。ヒト活性化Fc受容体としては、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)及びFcαRI(CD89)が挙げられる。
【0040】
「結合の低減」、例えば、Fc受容体に対する結合の低減は、例えば、SPRによって測定される場合、それぞれの相互作用についての親和性の低下を指す。明確性のために、本用語はまた、親和性のゼロ(又は分析方法の検出限界を下回る)までの低減、即ち、相互作用の完全な終止も含む。逆に、「結合上昇」は、個々の相互作用に対する結合親和性における上昇を指す。
【0041】
「融合された(されている)」とは、構成要素(例えばFab分子とFcドメインサブユニット)が、直接的に又は1つ以上のペプチドリンカーを介して、ペプチド結合で連結されていることを意味する。
【0042】
CEA CD3二重特異性抗体は、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、CEAに特異的に結合する第2の抗原結合部分とを含む。
【0043】
一態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0044】
一態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0045】
特定の態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、
(i)CD3に特異的に結合し、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分と、
(ii)CEAに特異的に結合し、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分と、を含む。
【0046】
一態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0047】
一態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0048】
一態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0049】
一態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号15の重鎖可変領域配列と、配列番号16の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0050】
いくつかの態様では、第1及び/又は第2の抗原結合部分は、Fab分子である。いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれか、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である。そのような態様では、第2の抗原結合部分は、好ましくは、従来のFab分子である。
【0051】
いくつかの態様では、第1及び第2の抗原結合部分は、任意にペプチドリンカーを介して、互いに融合されている。
【0052】
いくつかの態様では、第1及び第2の抗原結合部分は、それぞれFab分子であり、(i)第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されているか、又は(ii)第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されているか、のいずれかである。
【0053】
いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、CD3に対する一価の結合を提供する。
【0054】
特定の態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、CD3に特異的に結合する単一の抗原結合部分と、CEAに特異的に結合する2つの抗原結合部分とを含む。よって、いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、CEAに特異的に結合する、第3の抗原結合部分、特にFab分子、より具体的には従来のFab分子を含む。第3の抗原結合分子は、第2の抗原結合部分に関して記載される特徴の全て(例えば、CDR配列、及び/又は可変領域配列)を、単独で又は組み合わせて組み込むことができる。いくつかの態様では、第3の抗原結合部分は、第1の抗原結合部分と同一である(例えば、第3の抗原結合分子は、従来のFab分子でもあり、同じアミノ酸配列を含む)。
【0055】
特定の態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを更に含む。一態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメインである。特定の態様では、FcドメインはIgG Fcドメインである。別の態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメインである。より具体的な態様では、Fcドメインは、位置S228にアミノ酸置換、特にアミノ酸置換S228Pを含むIgG Fcドメインである(Kabat EUインデックスナンバリング)。このアミノ酸置換は、in vivoでのIgG抗体のFabアーム交換を低減する(Stubenrauch et al.,Drug Metabolism and Disposition 38,84-91(2010)を参照されたい)。更に特定の態様では、Fcドメインは、ヒトFcドメインである。特定の好ましい態様では、Fcドメインは、ヒトIgG Fcドメインである。ヒトIgG Fc領域の例示的配列は、配列番号23に提示されている。
【0056】
第1の抗原結合部分、第2の抗原結合部分、及び、存在する場合、第3の抗原結合部分が、それぞれFab分子であるいくつかの態様では、(a)(i)第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されているか、又は(ii)第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されているかのいずれか一方であり、且つ、(b)存在する場合、第3の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合されている。
【0057】
特定の態様では、Fcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間の最も長いタンパク質-タンパク質相互作用の部位は、CH3ドメインの中にある。したがって、一態様では、当該修飾は、FcドメインのCH3ドメインの中にある。
【0058】
具体的な態様では、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾は、いわゆる「ノブ・イントゥ・ホール」修飾であり、Fcドメインの2つのサブユニットの一方に「ノブ(knob)」修飾及びFcドメインの2つのサブユニットの他方に「ホール(hole)」修飾を含む。ノブ・イントゥ・ホール技術は、例えば、米国特許第5,731,168号、米国特許第7,695,936号、Ridgway et al.,Prot Eng 9,617-621(1996)及びCarter,J Immunol Meth 248,7-15(2001)に記載される。一般的に、この方法は、第1のポリペプチドの界面にある隆起(「ノブ」)と、第2のポリペプチドの界面にある対応する空洞(「ホール」)とを導入することを含み、その結果、隆起が、ヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体形成を妨害するように空洞内に位置することができる。隆起は、第1のポリペプチドの接触面からの小さなアミノ酸側鎖をそれより大きな側鎖(例えば、チロシン又はトリプトファン)で置き換えることにより構築される。隆起と同一又は同様の大きさの相補性空洞が、大きなアミノ酸側鎖を、より小さなアミノ酸側鎖(例えば、アラニン又はトレオニン)と置き換えることによって、第2のポリペプチドの界面に作られる。
【0059】
したがって、いくつかの態様では、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸残基を、より大きな側鎖量を有するアミノ酸残基で置き換えることにより、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空洞に配置可能な第1のサブユニットのCH3ドメイン内に隆起を生成し、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸残基を、より小さな側鎖量を有するアミノ酸残基で置き換えることにより、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の隆起が配置可能な第2のサブユニットのCH3ドメイン内に空洞を生成する。好ましくは、より大きな側鎖量を有する当該アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)及びトリプトファン(W)からなる群から選択される。好ましくは、より小さな側鎖体積を有する当該アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)及びバリン(V)からなる群から選択される。隆起及び空洞は、ポリペプチドをコードする核酸を変えることによって、例えば、部位特異的変異導入法によって、又はペプチド合成によって作り出すことができる。
【0060】
具体的なそのような態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、位置366のトレオニン残基がトリプトファン残基と置き換わっており(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、位置407のチロシン残基がバリン残基と置き換わっており(Y407V)、任意に、位置366のトレオニン残基がセリン残基と置き換わっており(T366S)、位置368のロイシン残基がアラニン残基と置き換わっている(L368A)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。更なる態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、追加的に位置354のセリン残基がシステイン残基と置き換わっており(S354C)又は位置356のグルタミン酸残基がシステイン残基と置き換わっており(E356C)(特に、位置354のセリン残基がシステイン残基と置き換わっており)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、追加的に位置349のチロシン残基がシステイン残基と置き換わっている(Y349C)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。好ましい態様では、Fcドメインの第1のサブユニットは、アミノ酸置換S354C及びT366Wを含み、Fcドメインの第2のサブユニットは、アミノ酸置換Y349C、T366S、L368A及びY407Vを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0061】
いくつかの態様では、Fcドメインは、Fc受容体への結合を低下させる、及び/又はエフェクター機能を低下させる1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0062】
特定の態様では、Fc受容体は、Fcγ受容体である。一態様では、Fc受容体は、ヒトFc受容体である。一態様では、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な態様では、Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体であり、より具体的には、ヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIaであり、最も具体的には、ヒトFcγRIIIaである。一態様では、エフェクター機能は、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞媒介細胞障害(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、及びサイトカイン分泌の群から選択される1つ以上である。特定の態様では、エフェクター機能は、ADCCである。
【0063】
典型的には、同じ1つ以上のアミノ酸置換が、Fcドメインの2つのサブユニットのそれぞれに存在する。一態様では、1つ以上のアミノ酸置換は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を低減する。一態様では、1つ以上のアミノ酸置換は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を、少なくとも2分の1、少なくとも5分の1又は少なくとも10分の1に低減する。
【0064】
一態様では、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、P331及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。より具体的な態様では、Fcドメインは、L234、L235及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。いくつかの態様では、Fcドメインは、アミノ酸置換L234A及びL235A(Kabat EUインデックスによるナンバリング)を含む。そのような一態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。一態様では、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を含む。より具体的な態様では、アミノ酸置換は、P329A又はP329G、特にP329Gである(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。一態様では、Fcドメインは、位置P329にアミノ酸置換を含み、E233、L234、L235、N297及びP331から選択される位置に更なるアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。より具体的な態様では、更なるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D又はP331Sである。特定の態様では、Fcドメインは、位置P329、L234及びL235にアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。より具体的な態様では、Fcドメインは、アミノ酸変異L234A、L235A及びP329G(「P329G LALA」、「PGLALA」又は「LALAPG」)を含む。具体的には、好ましい態様では、Fcドメインのそれぞれのサブユニットは、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含み(Kabat EUインデックスナンバリング)、すなわち、Fcドメインの第1及び第2のサブユニットのそれぞれにおいて、位置234のロイシン残基はアラニン残基と置き換わっており(L234A)、位置235のロイシン残基はアラニン残基と置き換わっており(L235A)、位置329のプロリン残基はグリシン残基と置き換わっている(P329G)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。そのような一態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。
【0065】
いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、第1、第2及び第3の抗原結合部分(特にFab分子)と、第1及び第2のサブユニットで構成されるFcドメインと、任意に1つ以上のペプチドリンカーとから本質的になる。
【0066】
CEA CD3二重特異性抗体の構成要素を互いに直接融合させても、又は好ましくは1つ以上の適切なペプチドリンカーを介して融合させてもよい。Fab分子の融合が、FcドメインのサブユニットのN末端へのものである場合、それは典型的には免疫グロブリンヒンジ領域を介するものである。
【0067】
抗原結合部分は、Fcドメインに又は互いに、直接的に又は1個以上のアミノ酸、典型的には約2~20個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを介して融合していてもよい。ペプチドリンカーは、当該技術分野に知られており、本明細書に説明されている。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば(GS)、(SG、(GS)、G(SG又は(GS)ペプチドリンカーが含まれる。「n」は、一般的に、1~10、典型的には2~4の整数である。いくつかの態様では、当該ペプチドリンカーは、少なくとも5アミノ酸の長さ、いくつかの態様では5から100アミノ酸の長さ、更なる態様では10から50アミノ酸の長さを有する。いくつかの態様では、当該ペプチドリンカーは(GxS)又は(GxS)であり、G=グリシン、S=セリン、且つ(x=3、n=3、4、5又は6、及びm=0、1、2又は3)、又は(x=4、n=1、2、3、4又は5、及びm=0、1、2、3、4又は5)、いくつかの態様ではx=4及びn=2又は3、更なる態様ではx=4及びn=2、なお更なる態様ではx=4、n=1及びm=5である。いくつかの態様では、当該ペプチドリンカーは(GS)である。他の態様では、当該ペプチドリンカーはGSGである。加えて、リンカーは、免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)を含んでいてもよい。特に、Fab分子がFcドメインサブユニットのN末端に融合する場合、免疫グロブリンヒンジ領域又はその一部を介して、更なるペプチドリンカーを伴い又は伴うことなく融合していてもよい。
【0068】
好ましい態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、
(i)CD3に特異的に結合し、配列番号1重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれか、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)CEAに特異的に結合し、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第2及び第3の抗原結合部分であって、それぞれFab分子、特に従来のFab分子である、第2及び第3の抗原結合部分と、
(iii)第1のサブユニット及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、を含み、
第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されており、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されており、第3の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合されている。
【0069】
一態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0070】
一態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0071】
一態様では、第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0072】
一態様では、第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号15の重鎖可変領域配列と、配列番号16の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0073】
上記の態様によるFcドメインは、Fcドメインに関して上に記載される特徴の全てを単独で又は組み合わせて組み込んでもよい。
【0074】
一態様では、抗原結合部分及びFc領域は、ペプチドリンカー、特に、配列番号19及び配列番号20にあるようなペプチドリンカーによって、互いに融合している。一態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、配列番号17の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチド(特に、2つのポリペプチド)と、配列番号18の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号19の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号20の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドとを含む。
【0075】
特に好ましい態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、配列番号17の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号18の配列を含むポリペプチドと、配列番号19の配列を含むポリペプチドと、配列番号20の配列を含むポリペプチドとを含む。
【0076】
特に好ましい態様では、CEA CD3二重特異性抗体はシビサタマブ(WHO Drug Information(International Nonproprietary Names for Pharmaceutical Substances),Recommended INN:List 80,2018,vol.32,no.3,p.438)である。
【0077】
当業者に知られるであろう他のCEA CD3二重特異性抗体も、本発明における使用が検討されている。
【0078】
本明細書におけるCEA CD3二重特異性抗体は、トランスフォーミング成長因子(TGF)βシグナル伝達阻害剤と組み合わせて使用される。
【0079】
「TGFβシグナル伝達阻害剤」という用語は、TGFβ経路を介したシグナル伝達を阻害する分子を指す。「TGFβ」は、TGFβ、TGFβ1、2及び3の3つのアイソフォーム全てを包含する。特定の態様では、TGFβは、TGFβ1、特にヒトTGFβ1である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、ヒトTGFβシグナル伝達経路の阻害剤である。
【0080】
TGFβシグナル伝達経路は、TGFβと、そのI型受容体及びII型受容体であるTβRI及びTβRII(それぞれ、シングルパス膜貫通受容体であり、内因性セリン/トレオニンキナーゼ活性を有する)との相互作用によって活性化され得る。
【0081】
TGFβは潜在型で分泌され、これはインテグリン依存性過程を介して活性化され得る。インテグリンαvβ6は、潜在型TGFβの活性化に役割を果たす。活性化されたTGFβは、最初にTGFβ共受容体ベータグリカン(TβRIIIとも呼ばれる)と係合する。ベータグリカン上に提示された後、TGFβはTβRIIに結合し、その後、TβRIを動員してヘテロマーシグナル伝達複合体を形成する。TβRIは、そのグリシン-セリン隣接膜ドメイン中のセリン及びトレオニン残基においてTβRIIによってリン酸化される(受容体転移ホルスホリル化)。活性化されたTβRIは、下流のエフェクタータンパク質SMAD2及びSMAD3をリン酸化し、その後、SMAD2及びSMAD3は、SMAD4とのヘテロマー複合体へと集合する。SMAD複合体は核に移行し、そこで転写因子として作用して遺伝子発現を調節する。TGFβシグナル伝達標的遺伝子には、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤-1(PAI-1)及びSMAD7遺伝子が含まれる。SMAD7は、E3ユビキチンリガーゼSMURF2を動員してTβR1を活性化し、それによって、プロテオソーム/リソソーム分解のためにこの受容体を標的化することで、TGFβ/SMADシグナル伝達の阻害剤として作用する。TβR1のユビキチン化は、USP4/15脱ユビキチン化酵素によって逆転され得る。
【0082】
TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβシグナル伝達に関与する1つ以上のタンパク質を標的とし、例えば、そのようなタンパク質とTGFβシグナル伝達経路の他の成分(複数可)との間の相互作用を阻害すること、そのようなタンパク質の分解を促進すること、そのようなタンパク質の発現を阻害/低減すること、又はそのようなタンパク質の機能(例えば酵素機能)を阻害することによって、TGFβシグナル伝達経路の活性を阻害する分子であり得る。例示的な阻害部位には、TGFβリガンド、TGFβ(共)受容体(Tβ1、2及び/又は3)、SMADタンパク質(特にSMAD2、3及び/又は4)、潜在型TGFβの活性化に関与するインテグリン、例えばインテグリンαvβ6、又は脱ユビキチン化酵素、例えばUSP4/15が含まれるが、これらに限定されない。追加的又は代替的に、TGFβシグナル伝達経路の活性が、TGFβシグナル伝達をダウンレギュレーションするタンパク質(例えば、SMAD7及び/又はSMURF2等)の機能を促進することによって阻害される場合がある。
【0083】
TGFβシグナル伝達及びその阻害剤は、例えば、Huynh et al.,Biomolecules(2019)9,743 or Akhurst,Cold Spring Harb Perpect Biol(2017)9,a022301(いずれもその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に概説されている。
【0084】
TGFβシグナル伝達阻害剤には、様々なモダリティ、例えば中和抗体、リガンドトラップ、TGFβシグナル伝達経路の成分の変異型、受容体チロシンキナーゼ阻害剤等の小分子、ペプチド又はアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれ得る。
【0085】
一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβシグナル伝達に関与する2つ以上のタンパク質の相互作用を阻害する。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβシグナル伝達に関与する1つ以上のタンパク質の分解を促進する。一態様では、TGFβ阻害剤は、TGFβシグナル伝達に関与する1つ以上のタンパク質の発現を阻害又は低減する。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβシグナル伝達に関与する1つ以上のタンパク質の機能(例えば酵素機能)を阻害する。一態様では、TGFβシグナル伝達に関与するそのようなタンパク質(複数可)は、TGFβ(特にTGFβ-1及び/又はTGFβ-2)、TGFβ(共)受容体(特にTβ1、2及び/又は3)、SMADタンパク質(特にSMAD2、3及び/又は4)、インテグリン(特にインテグリンαvβ6)及び脱ユビキチン化酵素(特にUSP4及び/又はUSP15)からなる群から選択される。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ(特にTGFβ-1及び/又はTGFβ-2)、TGFβ(共)受容体(特にTβ1、2及び/又は3)、SMADタンパク質(特にSMAD2、3及び/又は4)、インテグリン(特にインテグリンαvβ6)及び脱ユビキチン化酵素(特にUSP4及び/又はUSP15)からなる群から選択されるTGFβシグナル伝達経路の成分を標的とする(例えば、特異的に結合する)。
【0086】
一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ、特にTGFβ-1及び/又はTGFβ-2の阻害剤である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ、特にTGFβ-1及び/又はTGFβ-2と、TGFβ(共)受容体、特にTβRI、TβRII及び/又はTβRIIIとの相互作用を阻害する。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ、特にTGFβ-1及び/又はTGFβ-2を標的とする(例えば、特異的に結合する)。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ、特にTGFβ-1及び/又はTGFβ-2に結合する抗体、特にヒト及び/又はモノクローナル抗体である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、抗体フレソリムマブ(GC1008としても知られる)(完全ヒト化IgGモノクローナルpan-TGFβ1/2/3抗体;例えば、Morris et al.,PloS ONE 2014,9,e90353(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)である。一態様では、TGFβ阻害剤は、抗体LY2382770(TβM1としても知られる)(IgGモノクローナルTGFβ1抗体;例えば、Cohn et al.,Int J Oncol 2014,45,2221-31(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)である。一態様では、TGFβ阻害剤は、Bedinger et al.,Mabs 2016,8,389-404(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている抗体XPA.42.681又は抗体XPA.42.089である。
【0087】
一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ、特にTGFβ-1及び/又はTGFβ-2、最も具体的にはTGFβ-2の発現を阻害又は低減する。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤はアンチセンスオリゴヌクレオチドである。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、トラベダーセン(AS12009としても知られる)(例えば、Vallieres,IDrugs 2009,12(7),445-53(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)である。トラベデルセン(Trabedersen)は、配列5’-CGGCATGTCTATTTTGTA-3’を有する一本鎖ホスホロチオエートアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(18量体)である。
【0088】
一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ(共)受容体、特にTβRI、TβRII及び/又はTβRIII阻害剤である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ(共)受容体、特にTβRI、TβRII及び/又はTβRIIIと、TGFβ、特にTGFβ-1及び/又はTGFβ-2との相互作用を阻害する。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ(共)受容体、特にTβRI、TβRII及び/又はTβRIIIと、別のTGFβ(共)受容体、特にTβRI、TβRII及び/又はTβRIIIとの相互作用を阻害する。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ受容体、特にTβRI、TβRII及び/又はTβRIIIを標的とする(例えば、特異的に結合する)。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ受容体、特にTβRI、TβRII及び/又はTβRIII、より具体的にはTβRIIに結合する抗体、特にヒト及び/又はモノクローナル抗体である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、抗体LY3022859(IMC-TR1としても知られる)(例えば、Zhong et al.,Clin Cancer Res 2010,16,1191-205;Tolcher et al.,Cancer Chemother Pharmacol 2017,79,673-680(両方とも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)である。
【0089】
一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ(共)受容体、特にTβRI、TβRII及び/又はTβRIII、より具体的にはTβRI及び/又はTβRII、最も具体的にはTβRIの機能、特に酵素的機能、最も具体的にはキナーゼ機能を阻害する。一態様において、TGFβシグナル伝達阻害剤は小分子である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、キナーゼ阻害剤、特にTGFβ受容体キナーゼ阻害剤である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、ガルニセルチブ(LY2157299としても知られる)(例えば、Faivre et al.,J Clin Oncol 2017,34,4070(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)である。ガルニセルチブの構造、IUPAC名、CAS番号を以下に示す。
[IUPAC名:4-(5,6-ジヒドロ-2-(6-メチル-2-ピリジニル)-4H-ピロロ(1,2-b)ピラゾール-3-イル)-6-キノリンカルボキサミド;CAS番号:700874-72]
【0090】
別の態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、バクトセルチブ(TEW-7197としても知られる)である(例えば、Jin et al.,J Med Chem 2014,22,4213-38(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照)。バクトセルチブの構造、IUPAC名及びCAS番号を以下に示す。
[IUPAC名:2-フルオロ-N-[[5-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-([1,2,4]トリアゾロ[1,5-a]ピリジン-6-イル)-1H-イミダゾール-2-イル]メチル]アニリン;CAS番号:1352608-82-2]
【0091】
一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβリガンドトラップである。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ(共)受容体、特にTβRI、TβRII及び/又はTβRIIIの可溶性形態である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ受容体、特にTβRI、TβRII及び/又はTβRIIIの細胞外ドメインの一部、特に(その一部)を含む。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβ受容体、特にTβRI、TβRII及び/又はTβRIIIの細胞外ドメインの一部、特に(その一部)を含み、更なるタンパク質ドメイン、特にFcドメイン、より具体的にはヒト及び/又はIgG1 Fcドメインを含む融合タンパク質である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TβRIIの細胞外ドメイン(の一部)とFcドメイン(例えば、Muraoka et al.,J Clin Investig 2002,109,1551-1559(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)とを含む融合タンパク質である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TβRIII(ベータグリカン)の細胞外ドメイン(の一部)及び(ヒト)Fcドメイン(例えば、Bandyopadhyay et al.,Cancer Res 2002,62,4690-4695(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)を含む融合タンパク質である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、2つ以上のTGFβ受容体、特にTβRI、TβRII及びTβRIIIのうち2つ以上の細胞外ドメインの一部、特に(その一部)を含む融合タンパク質である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TβRIIの細胞外ドメインの一部、特に(その一部)と、TβRIIIの細胞外ドメインの一部、特に(その一部)とを含む融合タンパク質である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、融合タンパク質RER(TβRIIIの単一の細胞外ドメイン及びTβRIIの2つの細胞外ドメインを含む;例えば、Qin et al.,Oncotarget 2016,7,86087-86102(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)である。
【0092】
一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、インテグリン、特にインテグリンαvβ6阻害剤である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβシグナル伝達に関与するインテグリン、特にインテグリンαvβ6を標的とする(例えば、特異的に結合する)。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβシグナル伝達に関与するインテグリン、特にインテグリンαvβ6に結合する抗体、特にヒト及び/又はモノクローナル抗体である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、抗体264RAD(例えば、Eberlein et al.,Oncogene 2013,32,4406-4416(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照)である。
【0093】
一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、脱ユビキチン化酵素、特にUSP4及び/又はUSP15阻害剤である。
【0094】
一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、SMADタンパク質、特にSMAD2、3及び/又は4阻害剤である。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、SMADタンパク質、特にSMAD2、3及び/又は4と、別のSMADタンパク質、特にSMAD2、3及び/又は4との相互作用を阻害する。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、SMADタンパク質、特にSMAD2、3及び/又は4とDNAとの相互作用を阻害する。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、SMAD相互作用ペプチドアプタマーである。SMAD相互作用ペプチドアプタマーは、例えばCui et al.,Oncogene 2005,24,3864-3874(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、細胞透過性ペプチドである。SMAD3を選択的に標的とする細胞透過性ペプチドが、例えば、Kang et al.,J Clin Invest 2017,127,2541-2554(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載される。
【0095】
一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβシグナル伝達に関与するタンパク質、例えば対応する天然タンパク質と比較してアミノ酸の欠失/置換/付加、又はドメインの欠失/置換/付加を有するタンパク質の改変型である。一態様では、そのような修飾タンパク質は、対応する天然タンパク質と比較して、機能が低下又は逆転している(例えば、拮抗的ではなく作動的、又はその逆)。一態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、TGFβの修飾型(例えば、変異体TGFβ)、特にアンタゴニスト機能を有するTGFβの修飾型である。
【0096】
当業者に知られるであろう他のTGFβシグナル伝達阻害剤も、本発明における使用が検討されている。
【0097】
「がん」という用語は、制御されていない細胞増殖を典型的に特徴とする哺乳動物における生理学的症状を指す。がんの例には、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が含まれるが、これらに限定されない。そのようながんのより具体的な例には、扁平上皮がん、肺がん(小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺がん、肺の非扁平上皮がん及び扁平上皮がんを含む)、腹膜のがん、肝細胞がん、胃(gastric)がん又は胃(stomach)がん(胃腸がんを含む)、膵臓がん(転移性膵臓がんを含む)、神経膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、ヘパトーマ、乳がん(局所進行性、再発性又は転移性のHER-2陰性乳がん、及び局所再発性又は転移性のHER2陽性乳がんを含む)、結腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん又は子宮がん、唾液腺がん、腎臓がん又は腎がん、肝臓がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝臓癌腫及び様々な種類の頭頸部がん、並びにB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中間グレード/濾胞性NHL;中悪性度びまん性NHL;高悪性度免疫芽球性NHL;高悪性度リンパ芽球性NHL;高悪性度小型非切れ込み核細胞性NHL;巨大病変NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;及びワルデンシュトレームマクログロブリン血症を含む);慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);毛状細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ増殖性障害(PTLD)、並びに脂肪腫症、浮腫(脳腫瘍に関連するもの等)、及びメグズ症候群に関連する異常な血管増殖が含まれる。
【0098】
本発明のCEA CD3二重特異性抗体、方法、使用、及びキットのいくつかの態様では、がんは、固形腫瘍がんである。「固形腫瘍がん」とは、(例えば、一般的には固形腫瘍を形成しない白血病等の血液がんとは対照的に)肉腫又は癌腫等の患者の体の特定の位置に位置する別個の腫瘍塊(腫瘍転移も含む)を形成する悪性腫瘍を意味する。がんの非限定的な例には、膀胱がん、脳がん、頭頸部がん、膵臓がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、皮膚がん、扁平細胞癌腫、骨がん、肝臓がん及び腎臓がんが含まれる。本発明の文脈で企図される他の固形腫瘍がんには、限定されないが、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、脳下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頸部、神経系(中枢及び末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、筋肉、脾臓、胸部領域及び泌尿生殖器系に位置する新生物が含まれる。前がん症状又は病変及びがん転移も含まれる。
【0099】
いくつかの態様では、がんは、CEA陽性がんである。「CEA陽性がん」又は「CEA発現がん」とは、がん細胞でのCEAの発現又は過剰発現により特徴づけられるがんを意味する。CEAの発現は、例えば、免疫組織化学(IHC)又はフローサイトメトリー法によって決定され得る。一態様では、がんはCEAを発現する。一態様では、がんは、CEAに特異的な抗体を使用する免疫組織化学(IHC)によって決定されるように、腫瘍細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%又は少なくとも80%でCEAを発現する。
【0100】
いくつかの態様では、患者におけるがん細胞は、PD-L1を発現する。PD-L1の発現は、IHC又はフローサイトメトリー法によって決定され得る。
【0101】
いくつかの態様では、がんは、結腸がん、肺がん、卵巣がん、胃がん、膀胱がん、膵臓がん、子宮内膜がん、乳がん、腎臓がん、食道がん、前立腺がん、又は本明細書に記載の他のがんである。
【0102】
特定の態様では、がんは、結腸直腸がん、肺がん、膵臓がん、乳がん、及び胃がんからなる群より選択されるがんである。好ましい態様では、がんは結腸直腸がん(CRC)である。一態様では、結腸直腸がんは、転移性結腸直腸がん(mCRC)である。一態様では、結腸直腸がんは、マイクロサテライト安定性(MSS)結腸直腸がんである。一態様では、結腸直腸がんは、マイクロサテライト安定性転移性結腸直腸がん(MSS mCRC)である。
【0103】
本明細書における「患者」、「対象」又は「個体」は、がんの1つ以上の徴候、症候、又は他の指標を経験しているか又は経験したことがある、治療に適格な任意の単一のヒト対象である。いくつかの態様では、患者は、がんを有するか、又はがんを有すると診断されている。いくつかの態様では、患者は、局所進行若しくは転移性がんを有するか、又は局所進行若しくは転移性がんを有すると診断されている。患者は、CEA CD3二重特異性抗体又は別の薬物で以前に治療されていても、治療されていなくてもよい。特定の態様では、患者は、CEA CD3二重特異性抗体で以前に治療されていない。患者は、CEA CD3二重特異性抗体療法が開始される前に、CEA CD3二重特異性抗体以外の1つ以上の薬物を含む療法で治療されていてもよい。
【0104】
本明細書で使用される場合、「治療(treatment)」(及びその文法的な変化形、例えば、「治療する(treat)」又は「治療すること(treating)」)は、治療される個体における疾患の本来の経過を変える試行における臨床的介入を指し、予防のために、又は臨床病理の経過の間に行うことができる。治療の所望の効果としては、限定されるものではないが、疾患の発症又は再発を予防すること、症状の軽減、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的結果の減弱、転移を予防すること、疾患進行速度を低下させること、病状の寛解又は緩和、及び回復又は予後の改善が挙げられる。
【0105】
CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤は、有効量で投与される。
【0106】
薬剤、例えば、医薬組成物の「有効量」は、所望の治療結果又は予防結果を達成するために必要な投薬量及び所要期間で有効な量を指す。
【0107】
一態様では、CEA CD3二重特異性抗体の投与は、特にがんの部位(例えば、固形腫瘍がん内)で、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の活性化をもたらす。当該活性化は、T細胞の増殖、T細胞の分化、T細胞によるサイトカイン分泌、T細胞からの細胞傷害性エフェクター分子放出、T細胞の細胞傷害性活動、及びT細胞による活性化マーカーの発現を含み得る。一態様では、CEA CD3二重特異性抗体の投与は、がんの部位(例えば、固形腫瘍がん内)で、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の数の増加をもたらす。
【0108】
上記及び本明細書に記載されるCEA CD3二重特異性抗体、方法、使用又はキットのいくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤による治療又は投与は、CEA CD3二重特異性抗体単独による治療又は投与と比較して、T細胞、特にCD4 T細胞及び/又はCD8 T細胞の増殖の増大を、特にがんの部位においてもたらす。上記及び本明細書に記載されるCEA CD3二重特異性抗体、方法、使用又はキットのいくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤による治療又は投与は、CEA CD3二重特異性抗体単独による治療又は投与と比較して、T細胞、特にCD4 T細胞及び/又はCD8 T細胞の活性化の増大を、特にがんの部位においてもたらす。特定の態様では、活性化は、活性化マーカー(CD25及び/又はCD69等)の発現、T細胞の細胞傷害活性(特にがん細胞の溶解)及び/又はT細胞によるサイトカイン(具体的には、IL-2、TNF-α及び/又はインターフェロン-γ)分泌を含む。上記及び本明細書に記載されるCEA CD3二重特異性抗体、方法、使用又はキットのいくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤による治療又は投与は、CEA CD3二重特異性抗体単独による治療又は投与と比較して、T細胞、特にCD4 T細胞及び/又はCD8 T細胞による細胞溶解性分子(例えば、グランザイム及び/又はパーフォリン)の発現の増大を、特にがんの部位においてもたらす。
【0109】
上記又は本明細書のCEA CD3二重特異性抗体、方法、使用、又はキットのいくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβ阻害剤の治療又は投与は、個体における応答をもたらし得る。いくつかの態様では、応答は、完全奏功であり得る。いくつかの態様では、応答は、治療の中止後の持続的応答であり得る。いくつかの態様では、応答は、治療の中止後に持続される完全奏功であり得る。他の態様では、応答は、部分奏功であり得る。いくつかの態様では、応答は、治療の中止後に持続される部分奏功であり得る。いくつかの態様では、応答は、CEA CD3二重特異性抗体単独(すなわち、TGFβシグナル伝達阻害剤不使用)の治療又は投与と比較して改善され得る。
【0110】
いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβ阻害剤の治療又は投与は、CEA CD3二重特異性抗体単独(すなわち、TGFβシグナル伝達阻害剤不使用)で治療された対応する患者集団と比較して、患者集団の奏効率を増加させ得る。
【0111】
本発明の併用療法は、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤の投与を含む。
【0112】
本明細書で使用される場合、「組み合わせ(併用)」(及びその文法的変化形、例えば「組み合わせる」又は「組み合わせること」)は、本発明によるCEA CD3二重特異性抗体とTGFβシグナル伝達阻害剤の組み合わせを包含し、ここで、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤が同時に体内で生物学的効果を発揮することができることを条件として、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤は、同じ又は異なる容器に入っており、同じ又は異なる薬学的調合物に入っており、一緒に又は別々に投与され、同時に又は連続して、任意の順序で投与され、同じ又は異なる経路によって投与される。例えば、本発明によるCEA CD3二重特異性抗体とTGFβシグナル伝達阻害剤を「組み合わせること」は、特定の薬学的調合物中のCEA CD3二重特異性抗体を初めに投与し、続いて、別の薬学的調合物中のTGFβシグナル伝達阻害剤を投与すること、又はその逆を意味し得る。
【0113】
CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤は、当該技術分野で知られる任意の適切なやり方で投与され得る。一態様では、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤は、連続して(異なる時間に)投与される。別の態様では、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤は、同時に(同じ時間に)投与される。理論に縛られることを望むものではないが、TGFβシグナル伝達阻害剤をCEA CD3二重特異性抗体より前に及び/又はそれと同時に投与することが有利であり得る。いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、TGFβシグナル伝達阻害剤とは別個の組成物に入っている。いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、TGFβシグナル伝達阻害剤と同じ組成物に入っている。
【0114】
CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤は、任意の適切な経路で投与されてよく、同じ投与経路によって又は異なる投与経路によって投与されてもよい。いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、静脈内、筋肉内、皮下、局所、経口、経皮、腹腔内、眼窩内、移植により、吸入により、髄腔内、脳室内、又は鼻腔内で投与される。特定の態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、静脈内で投与される。いくつかの態様では、TGFβシグナル伝達阻害剤は、静脈内、筋肉内、皮下、局所、経口、経皮、腹腔内、眼窩内、移植により、吸入により、髄腔内、脳室内、又は鼻腔内で投与される。有効量のCEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤が、疾患の予防又は治療のために投与され得る。治療される疾患の種類、CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤の種類、疾患の重症度及び経過、個体の臨床症状、個体の病歴及び治療への応答、並びに主治医の裁量に基づいて、CEA CD3二重特異性抗体及び/又はTGFβシグナル伝達阻害剤の適切な投与経路又は投与量が決定され得る。投薬は、その投与が短期か又は長期かに部分的に依存して、任意の適切な経路、例えば、静脈内又は皮下注射等の注射により行うことができる。本明細書では、単回投与又は様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、パルス注入を含むがこれらに限定されない様々な投与スケジュールが企図される。CEA CD3二重特異性抗体及びTGFβシグナル伝達阻害剤は、一度に又は一連の治療にわたって患者に適切に投与される。
【0115】
本発明の組み合わせは、単独で、又は他の薬剤と組み合わせて治療に用いることができる。例えば、本発明の組み合わせは、少なくとも1つの追加の治療剤と共投与され得る。特定の態様では、追加の治療剤は、抗がん剤、例えば、化学療法剤、腫瘍細胞増殖の阻害剤、又は腫瘍細胞アポトーシスのアクチベーターである。特定の態様では、追加の治療剤は、アテゾリズマブ等のPD-L1結合アンタゴニストである。
【0116】
上記又は本明細書中のCEA CD3二重特異性抗体、方法、使用、又はキットのいくつかの態様では、治療は、PD-L1結合アンタゴニスト、特にアテゾリズマブの投与を更に含む。
【0117】
本発明の組み合わせは、放射線療法と組み合わせることもできる。
【0118】
本明細書で提供されるキットは、典型的には、1つ以上の容器と、容器上若しくは容器に関連するラベル又は添付文書とを含む。適切な容器としては、例えば、瓶、バイアル、シリンジ、静注溶液袋等が挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチック等の様々な材料から形成され得る。容器は、組成物単独で、又は症状を治療、予防及び/又は診断するのに有効な別の組成物と組み合わせられた組成物を保持し、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、静脈内溶液バッグ又は皮下注射針によって穿刺可能なストッパーを有するバイアルであり得る)。組成物中の少なくとも一つの活性剤は、本発明の組み合わせに使用されるCEA CD3二重特異性抗体である。別の活性剤は、本発明の組み合わせに使用されるTGFβシグナル伝達阻害剤であり、これは、二重特異性抗体のように同じ組成物及び容器に入っていてもよく、又は異なる組成物及び容器で提供されていてもよい。ラベル又は添付文書は、本組成物(複数可)ががん等の選択された症状を治療するために使用されることを示す。
【0119】
一態様では、本発明は、同じ又は別個の容器に(a)CEA CD3二重特異性抗体、及び(b)TGFβシグナル伝達阻害剤を含み、任意に(c)がんを治療するための方法としての組み合わせ治療の使用を指示する印刷された指示書を含む添付文書を更に含む、がんの治療を目的とするキットを提供する。さらに、キットは、(a)中に組成物が含有されている第1の容器であって、組成物がCEA CD3二重特異性抗体を含む、第1の容器と、(b)中に組成物が含有されている第2の容器であって、組成物がTGFβシグナル伝達阻害剤を含む、第2の容器と、任意に、(c)中に組成物が含有されている第3の容器であって、組成物が細胞傷害性薬剤あるいは治療剤を更に含む、第3の容器とを含み得る。一態様では、更なる治療剤は、PD-L1結合アンタゴニスト、特にアテゾリズマブである。本発明のこれらの態様におけるキットは、組成物ががんを治療するために使用することができることを示す添付文書を更に含み得る。代替的又は追加的に、本キットは、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンガー溶液、及びデキストロース溶液等の薬学的に許容される緩衝液を含む第3(又は第4)の容器を更に含んでもよい。本製造品は、他のバッファー、希釈剤、フィルタ、針及びシリンジを含む、商業的及びユーザーの観点から望ましい他の材料を更に備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0120】
図1】in vitroでのシビサタマブ(CEA-TCB)免疫療法に対するTGFβの効果。(A)組換えTGFβの存在下又は非存在下で、事前活性化CD8 T細胞との12日間の共培養中にシビサタマブ又はDP47-TCBで処理した、細胞表面CEA発現レベルが高い3つの患者由来結腸直腸がんオルガノイド株(PDO)の成長曲線。(B)2つのPDO株を使用し、CD8 T細胞の代わりにCD4 T細胞を使用したことを除いて、(A)と同じ。(C)2つのPDO株を使用し、事前活性化CD8 T細胞の代わりにex vivo CD8 T細胞を使用したことを除いて、(A)と同じ。全ての実験を3回実施し、示される結果は平均値である。
図2】(A)事前活性化T細胞を用いた12日目のPDO成長の定量。(B)ex vivo T細胞を用いた12日目のPDO成長の定量。エラーバーは、3回の反復から計算された1つの標準偏差を表す。
図3】CD8 T細胞のグランザイム発現及び増殖に対するTGFβの効果。(A)PDOを発現する高細胞表面CEAとの8日間の共培養後にフローサイトメトリーによって測定したex vivo CD8 T細胞におけるグランザイム発現。(B)PDOを発現する高細胞表面CEAとの8日間の共培養後にフローサイトメトリーによって評価した、DP47-TCB又はシビサタマブのいずれかで処理したex vivo CD8 T細胞の増殖。(C)共培養物を組換えTGFβで処理したことを除いて、(B)と同じ。
図4】TGFβ阻害剤ガルニセルチブによるシビサタマブ活性に対するTGFβ阻害効果の逆転。組換えTGFβ並びにガルニセルチブの存在下又は非存在下で、ex vivo CD8 T細胞との12日間の共培養中にシビサタマブ又はDP47-TCBで処理した、細胞表面CEA発現レベルが高い2つの患者由来結腸直腸がんオルガノイド株(PDO)の成長曲線。
【実施例
【0121】
以下は、本発明の方法及び組成物の例である。上に提供された一般的な説明を考慮すると、種々の他の態様が実施されてもよいことが理解される。
【0122】
実施例1.in vitroでのシビサタマブ(CEA-TCB)免疫療法に対するTGFβの効果。
細胞表面CEA発現レベルが高い3つの患者由来結腸直腸がんオルガノイド株(PDO)を、2:1のエフェクター:標的比での同種CD8 T細胞との12日間の共培養中に、組換えTGFβ1(10ng/ml)の存在下又は非存在下のいずれかで、シビサタマブ(20nM)又は対応する非標的対照抗体DP47-TCB(VH領域及びVL領域についてはそれぞれ配列番号21及び22を参照)(20nM)で処理した(図1A)。核GFP標識オルガノイド細胞の成長を蛍光顕微鏡法によってモニターした。末梢血単核細胞(PBMC)を抽出し、続いてIL-2及びCD3/CD28ビーズで刺激し、in vitroで拡大することによって、CD8 T細胞を同種異系の健康なドナーから生成した。CD8 T細胞及びPDO+/-TGFβ(10ng/ml)を一緒に72時間プレインキュベートした後、シビサタマブ又はDP47-TCBを添加した。
【0123】
CD8 T細胞の代わりに2つのPDO株及びCD4 T細胞を使用して同じ実験を繰り返した(図1B)。CD4+CD25-T細胞を同種異系健常ドナーPBMCから単離し、上記のようにin vitroで増殖させた。
【0124】
TGFβは、CD8 T細胞及びCD4 T細胞の両方に対するシビサタマブの有効性を損ない、高い抗原発現を有する標的細胞を使用した場合でも強力な免疫抑制活性を実証した。
【0125】
初期スクリーニングは、in vitroで増殖させ、予め活性化したCD8 T細胞を用いて生成した。腫瘍に関与するT細胞の多くはナイーブ状態であり得るので、本発明者らはまた、健康なドナー血液試料からex vivoで抽出されたCD8 T細胞に対する影響を試験した。TGFβの効果は、活性化T細胞及びex vivo T細胞に対して同様であった(図1C)。
【0126】
実施例2.12日目のPDO成長の定量。
DP47-TCB処理PDOに対するシビサタマブ処理PDOの成長を計算するために、0日目から12日目までの増殖の倍数変化を計算し、1を引いた。次いで、シビサタマブ処理PDOの倍数変化をDP47-TCB処理対照の倍数変化で除し、百分率に変換した。これにより、DP47-TCB処理対照の0日目から12日目までの成長が100%に正規化される。
【0127】
予想されるように、シビサタマブによる処理は、DP47-TCB処理(対照)PDOと比較してPDOの成長を減少させた。しかしながら、TGFβの添加により、この成長阻害はCD8 T細胞とCD4 T細胞の両方の存在下で減少し、すなわち、TGFβは、CD8 T細胞とCD4 T細胞の両方について、シビサタマブ単独で処理したPDOと比較して、シビサタマブ処理PDOの成長を増加させた(図2)。
【0128】
PDOと8日間共培養したCD8 T細胞のFACS分析により、TGFβがCEA-TCB処理中にT細胞グランザイム発現を強く低下させ(図3A)、T細胞の増殖も(図3B図3C)低下させることが確認された。したがって、TGFβは、増殖及びエフェクター機能を遮断することによって、シビサタマブ媒介性腫瘍制御を強力に抑制する。
【0129】
実施例3.シビサタマブとTGFβ阻害剤の併用療法
併用療法がシビサタマブの有効性に対するTGFβの効果にどのように対抗し得るかを調べた。
【0130】
高いCEAレベルを安定的に発現するPDOを、エフェクター:標的(E:T)比1:1での2D共培養において健康なドナーPBMCから単離されたex vivo同種CD8 T細胞と組み合わせた。TGFβ(10ng/ml)と共にT細胞をプレインキュベートした後、TGFβ阻害剤ガルニセルチブを用いて又は用いずにDP47又はシビサタマブ処理のいずれかを加えた。
【0131】
GFP PDOの増殖は、蛍光顕微鏡でコンフルエンシーの変化をモニタリングすることによって追跡し、併用療法の有効性は、単剤療法及び併用療法条件からの成長の減少を比較することによって評価した。
【0132】
ガルニセルチブは、CD8 T細胞及びシビサタマブと共培養した2つのPDOモデルにおいてTGFβ効果を強く低下させた(図4)。
【0133】
実施例4.材料及び方法
患者由来オルガノイドの生成
CRC-01由来のPDO培養物を、粗細断によってコア生検から直接確立し、続いて成長因子還元マトリゲル(Corning)に包埋した。CRC-05及びCRC-07から非常に小さい生検断片が入手可能であり、これらを初めに、Institute of Cancer ResearchのTumour Profiling Unit(Home office licence number PD498FF8D)によって、メスCD1ヌードマウスの皮下又は腎臓被膜下に移植した。腫瘍が成長すると、マウスを選別し、腫瘍を取り出し、ヒト腫瘍解離キット(Miltenyi Biotec)を使用してgentleMAX Octo解離器で解離させた。Mouse Cell Depletion Kit(Miltenyi Biotec)を使用してマウス細胞を磁気的に除去し、精製したヒト腫瘍細胞を成長因子還元マトリゲル中に包埋した。1X Glutamax、100単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシン、1X B27、1X N2、10mM HEPES(全てThermo Fisher)、1mM N-アセチルシステイン、10mMニコチンアミド、10μM SB202190、10nMガストリン、10μM Y27632(Sigma Aldrich)、10nMプロスタグランジンE2、500nM A-83-01、100ng/ml Wnt3a(Biotechne)、50ng/ml EGF(Merck)、1μg/ml R-Spondin、100ng/ml Noggin、及び100ng/ml FGF10(Peprotech)が補充されたAdvanced DMEM/F12培地を使用して、PDOを記載されるようにマトリゲル内で拡大させた(Sato et al.,Gastroenterology.2011;141(5):1762-72)。マトリゲルマトリックス中で少なくとも2ケ月継続的に成長させた後(最低12継代)、PDOを初めにeGFPタグ付けし(以下を参照)、その後、20%ウシ胎児血清(FBS)、1X Glutamax、2%Matrigelを含有する100単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM/F12(Sigma Aldrich)中で成長するように適合させた。PDO培養物を、これらの条件で維持し、T細胞共培養アッセイ及びFACS分析の必要に応じて使用した。各PDO株で結腸がんドライバー遺伝子の遺伝子分析を実施し、これらは、一致した腫瘍生検で同定された変異と同一であった。
【0134】
核eGFPでのPDOの標識
GFPタグ付けヒストン2Bコンストラクト(pLKO.1-LV-H2B-GFP)(Beronja et al.,Nat Med.2010 Jul;16(7):821-7)を導入することによりPDOの核を標識し、自動顕微鏡による細胞の定量を可能にした。ウイルス生成のために、10%FBS、1X Glutamax、及び100単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたDMEM中でHEK-293T細胞を培養した。TransIT-293トランスフェクション試薬(Mirus)を使用して、9μgのpLKO.1-LV-H2B-GFP、2.25μgのpsPAX2パッケージングプラスミド(Didier Trono;Addgene plasmid #12260;http://n2t.net/addgene:12260;RRID:Addgene_12260から贈与)、及び0.75ugのpMD2.Gエンベローププラスミド(Didier Trono;Addgene plasmid # 12259;http://n2t.net/addgene:12259;RRID:Addgene_12259から贈与)を含有するプラスミド混合物を一晩トランスフェクションすることにより、レンチウイルス粒子を生成した。翌日、細胞の培地を交換し、24時間後にウイルスを採取し、使用前に0.45μMフィルタに通した。レンチウイルス導入のために、マトリゲル中の培養物からPDOを採取し、TrypLE Express(Thermo Fisher)を使用して単一の細胞に解離し、ペレット成形した。ウイルス及び1nM ポリブレン(Sigma Aldrich)を添加した培地にペレットを再懸濁し、300×gで1時間遠心分離した。培地を交換する前に、試料を再懸濁し、6時間から一晩の間、培養液に播種した。回収及び拡大の後、eGFP陽性細胞をフローサイトメトリーによってソートし、使用前に更に拡大させた。
【0135】
末梢血単核細胞からのCD8/CD4 T細胞の単離及び増殖
末梢血単核細胞(PBMC)を、製造業者のプロトコルに従って(GE Healthcare)Ficoll-Paqueを用いてバフィーコートから単離した。CD8 T細胞を、Human CD8 Dynabeads FlowCompキット(Thermo Fisher)を用いてPBMCから単離した。Dynabeads Regulatory CD4+/CD25+T Cellキット(Thermo Fisher)を用いて、PBMCからCD4+CD25-T細胞を単離した。CD8及びCD4 T細胞の純度をフローサイトメトリー(Alexa Fluor 488抗ヒトCD8、Sony Biotechnology;APC-Cy7抗ヒトCD4、Biolegend)によって評価し、少なくとも90%のCD8又はCD4陽性細胞を有する集団のみをex vivo T細胞として実験で直接使用するか、又は予め活性化したT細胞を生成するための製造業者のプロトコルに従って、10%FBS(Labtech)、1X Glutamax、100単位ペニシリン/ストレプトマイシン及び30U/mL IL-2(Sigma Aldrich)を補充したRPMI 1640中のCD3/CD28 Dynabeads Human T-Activatorキット(Thermo Fisher)を用いて拡大させるために使用した。
【0136】
TGFβで処理したPDO及びCD8/CD4 T細胞の共培養
TrypLE ExpressでPDOを採取し、10%FBSを含むDMEM/F12 Ham培地(Sigma Aldrich)で中和した。細胞を70μmフィルタを通してフィルタにかけ、計数し、10%FBS(Labtech)、1X Glutamax及び100単位ペニシリン-ストレプトマイシンを補充したRPMI培地(Thermo Fisher)に再懸濁した。-4日目に、96ウェルプレート(Corning Special Optics Microplate)のウェルあたり5000個の腫瘍細胞を播種した。-3日目に、予め活性化されたCD8又はCD4 T細胞を、TGFβ(10ng/ml、R&D Systems)の有無にかかわらず、2:1のエフェクター対標的(E:T)比で添加した。TGFβを含む又は含まない72時間のプレインキュベーション後、0日目に、ウェルを20nMのシビサタマブ又は20nMの非標的化陰性対照抗体DP47-TCB(両方ともRocheによって提供される)で処理した。ex vivo CD8 T細胞実験のために、T細胞をTGFβ(10ng/ml)と72時間プレインキュベートした後、0日目にDP47-TCB又はシビサタマブ+/-TGFβと共にエフェクター:標的比1:1で腫瘍細胞に添加した。腫瘍細胞のみも対照として含めた。全ての条件を3連でプレーティングした。
【0137】
TGFβ阻害剤ガルニセルチブによるPDO及びT細胞共培養の処理
Ex vivo CD8 T細胞を上記のようにPBMCから単離し、TGFβ(10ng/ml)と72時間プレインキュベートした後、上記のように96ウェルプレート中に5000腫瘍細胞/ウェルの密度で24時間前に播種した腫瘍細胞と組み合わせた(E:T 1:1)。同日(0日目)に、共培養物を20nMのシビサタマブ又は20nMの非標的化陰性対照抗体DP47-TCB+/-TGFβ(10ng/ml)+/-ガルニセルチブ(5μM又は10μM、Tocris)のいずれかで処理した。全ての条件を3連でプレーティングした。
【0138】
免疫蛍光顕微鏡法によるがん細胞成長評価
Celigo Imaging Cytometer(Nexcelom Bioscience)でGFPコンフルエンスアプリケーションを使用して、12日間の期間にわたってGFPコンフルエンスを48~96時間毎に定量化した。GFPコンフルエンス分析は、共培養物中のT細胞を誤ってカウントすることなく、複数の時点にわたって、GFP陽性PDO細胞の成長を追跡することが可能であった。コンフルエンス分析は、更に、PDO中心等のがん細胞密度の高い領域において不正確な結果をもたらした細胞核をカウントすることよりも優れていた。スフェロイド直径の測定に対するコンフルエンス分析の主な利点は、非常に変化しやすい形状を示すPDOの成長でさえも追跡する能力である。おそらく成長培地の枯渇に起因するPDOが成長遅延を示す前に、10~12日目に得られた読み取り値から成長減少率を計算した。成長低下率を計算するために、0日目から12日目までの成長の倍数変化を計算し、1を引いた。次いで、シビサタマブ処理PDOの倍数変化をDP47-TCB処理対照の倍数変化で除し、百分率に変換し、そのようにしてDP47-TCB処理対照の0日目から12日目までの成長を100%に正規化した。
【0139】
統計学的分析
標準偏差は、GraphPad Prismを使用して、1時点当たり3回の反復から計算した。
***
【0140】
上述の発明は、理解を明確にする目的のために説明及び実施例によってある程度詳細に記載されているが、これらの記載及び実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に引用される全ての特許及び科学文献の開示は、その全体が参考として明示的に組み込まれる。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
【配列表】
2023549062000001.app
【国際調査報告】