(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(54)【発明の名称】薄層クロマトグラフィープレートの評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/95 20060101AFI20231115BHJP
【FI】
G01N30/95 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528662
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(85)【翻訳文提出日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 EP2021081453
(87)【国際公開番号】W WO2022101373
(87)【国際公開日】2022-05-19
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オベルレ,ミヒャエラ
(72)【発明者】
【氏名】シュンダ,エリック
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ロベルト
(57)【要約】
薄層クロマトグラフィープレート(2)上で試料の成分を分離する分離プロセスを行った後の薄層クロマトグラフィープレート(2)の評価方法が、デジタル化ステップを含み、ここで薄層クロマトグラフィープレート(2)の照明の波長領域に関して異なる少なくとも2つのデジタル画像(1、5)が撮影される。本方法は、少なくとも2つのデジタル画像(1、5)の各々について、薄層クロマトグラフィープレート(2)の位置が識別される、位置識別ステップをさらに含む。さらに、本方法は、少なくとも2つのデジタル画像(1、5)の画像情報が、少なくとも2つのデジタル画像(1、5)のうちの少なくとも1つの中の少なくとも1つの可視スポット(9、10)を持つ少なくともすべての領域について重ね合わされ、少なくとも2つのデジタル画像(1、5)の同一領域からの画像情報の重ね合わせ(10)が、薄層クロマトグラフィーの評価に使用され得る評価ステップを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄層クロマトグラフィープレート(2)上の試料の成分を分離する分離プロセスを行った後の薄層クロマトグラフィープレート(2)の評価方法であって、それによって、デジタル化ステップ内で、薄層クロマトグラフィープレート(2)のデジタル画像(1、5)がデジタル画像デバイス(20)を用いて撮影され、それによって、位置識別ステップ内で、デジタル画像(1、5)内の薄層クロマトグラフィープレート(2)の位置が識別され、ならびにそれによって、評価ステップ内で、薄層クロマトグラフィープレート(2)上の試料成分を示す可視スポット(9、10)の位置が決定され、決定されたスポット(9、10)の位置に基づいて、薄層クロマトグラフィーを評価する方法であって、デジタル化ステップ内で、照明の波長域に関して異なる少なくとも2つのデジタル画像(1、5)が撮影されること、位置識別ステップ内で、少なくとも2つのデジタル画像(1、5)のそれぞれについて、薄層クロマトグラフィープレート(2)の位置が識別されること、ならびに、評価ステップ内で、少なくとも2つのデジタル画像(1、5)の画像情報が、少なくとも2つのデジタル画像(1、5)のうちの少なくとも1つの中の少なくとも1つの可視スポット(9、10)を持つ少なくともすべての領域について重ね合わされ、少なくとも2つのデジタル画像(1、5)の同一領域からの画像情報の重ね合わせ(10)が、薄層クロマトグラフィープレートの評価に使用され得ることを特徴とする、
前記方法。
【請求項2】
少なくとも1つのデジタル画像(1)が、可視光を用いた薄層クロマトグラフィープレート(2)の照明を用いて撮影され、少なくとも1つのデジタル画像(5)が、紫外線を用いた薄層クロマトグラフィープレート(2)の照明を用いて撮影されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも、異なる光を用いた照明を用いて3つの異なるデジタル画像(1、5)が撮影され、評価に使用されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
重ね合わせに使用される画像情報が、デジタル画像の画素の画素値に等しいか、または比例していることを特徴とする、請求項1~3に記載の方法。
【請求項5】
画像情報が、それぞれの領域内の画素の濃淡値に比例していることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
薄層クロマトグラフィーの評価が、薄層クロマトグラフィープレート(2)に沿った所定のラインまたはトラック(a、b、c)に沿った濃度測定情報の計算を包含することを特徴とする、請求項1~5の一項に記載の方法。
【請求項7】
デジタル画像(1、5)内の薄層クロマトグラフィープレート(2)の位置が、自動デジタル画像処理によって識別されることを特徴とする、請求項1~6の一項に記載の方法。
【請求項8】
画像クリーニングステップ内で、評価ステップを行なう前またはその最中に、デジタル画像(1、5)からアーチファクトが除去されることを特徴とする、請求項1~7の一項に記載の方法。
【請求項9】
評価ステップ内で、トラック識別ステップが行われ、それによって、ベースラインから溶媒前面へ流れる所定のまたは自動的に検出された数のストライプについて、ストライプ強度がそれぞれのストライプ内の画素の画素強度の合計として決定され、ならびに、それによって、ストライプ強度の局所最大を持つ、または局所最小を持つ各ストライプについて、対応するトラック(a、b、c)が識別されることを特徴とする、請求項1~8の一項に記載の方法。
【請求項10】
薄層クロマトグラフィープレート(2)を受け入れるためのベースプレート(17)を備える耐光性開閉式デジタル化チャンバー(16)を備え、ベースプレート(17)上の薄層クロマトグラフィープレート(2)を照明するための照明デバイス(18、19)を備え、照明デバイス(18、19)で照明される薄層クロマトグラフィープレート(2)のデジタル画像(1、5)を得るためのデジタル画像デバイス(20)を備えた薄層クロマトグラフィー用評価デバイス(14)であって、ならびにデジタル画像(1、5)の評価を行うための評価ユニット(21)を備え、評価デバイス(14)が、請求項1~9に記載の方法を行うように適合されることを特徴とする、
前記デバイス。
【請求項11】
評価デバイス(14)が、評価プロセスに関するデータを、薄層クロマトグラフィーデータ記憶デバイスへ、または薄層クロマトグラフィープレート(2)の評価中に使用され得る他のデバイスへ、無線データ送信することを可能にするデータ通信ユニット(22)を含むことを特徴とする、請求項10に記載の評価デバイス(14)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄層クロマトグラフィープレート上の試料の成分を分離する分離プロセスを行った後の薄層クロマトグラフィープレートの評価方法に関し、それによって、デジタル化ステップ内で、薄層クロマトグラフィープレートのデジタル画像がデジタル画像デバイスを用いて撮影され、それによって、位置識別ステップ内で、デジタル画像内の薄層クロマトグラフィープレートの位置が識別され、ならびにそれによって、評価ステップ内で、薄層クロマトグラフィープレート上の試料成分を示す可視スポットの位置が決定され、決定されたスポットの位置に基づいて、薄層クロマトグラフィーを評価する。
【背景技術】
【0002】
背景
薄層クロマトグラフィーは、試料内の不揮発性混合物を分離するために使用されるクロマトグラフィー技術であり、試料の個々の成分を識別し、場合によっては定量できるようにさせる。薄層クロマトグラフィーは、通常、例えば、シリカゲル、酸化アルミニウム、またはセルロースのような吸着材料の薄層でコーティングされた、ガラスやプラスチックの板、またはアルミホイルであり得る薄層クロマトグラフィープレート上で行われる。この吸着剤の層は固定相として知られている。
試料がプレート上に塗布された後、移動相として知られる溶媒または溶媒混合物が毛細管現象でプレート上に引き上げられる。試料がプレートの境界に近い領域上に塗布され、溶媒混合物が同じプレートの境界から引き上げられる場合、試料はプレートにわたり溶媒混合物とともに引き上げられる。試料の異なる成分、すなわち異なる分析物が異なる速度にてプレートを上がるので、分析物の分離が達成され、結果として、引き上げられプレートにわたり移動する溶媒混合物の経路に沿って異なるスポットとなる。
【0003】
薄層クロマトグラフィープレートのかかる展開の後、試料中の異なる分析物のスポットが可視化される。これは、可視光、または紫外線を用いてプレートを照明することによってなされ得る。化学的プロセスを行って、スポットの可視性を向上させることもまた可能である。プレート上のスポットの位置およびサイズは、分析物の識別、ならびに試料中のそれぞれの分析物の量の定量測定に使用され得る。
【0004】
成分を識別するために、考察される分析物による移動距離を、移動相、すなわち溶媒混合物による総移動距離で割る。この比率が遅延係数(retardation factor)と呼ばれる。遅延係数は特有のものであるが、移動相と固定相の厳密な条件によって変化するであろう。そのため、通常は、プレートを展開し結果を分析する前に、既知の化合物の試料と、1つ以上の目的の試料がプレートへ組み合わされる。
薄層クロマトグラフィーを使用して、反応の進行を監視し、所定の混合物中に存在する化合物を識別し、および物質の純度を決定することができる。このように、薄層クロマトグラフィーは、例えば、研究開発、ならびに工業生産プロセスの監視および品質管理のような、多くの異なる用途環境において試料を分析するための確立された手段である。
【0005】
分離プロセスによって展開された薄層クロマトグラフィープレートの評価のための半自動または完全に自動化されたステップを行うことをできるようにさせる薄層クロマトグラフィープレート評価デバイスがいくつかある。いくつかのデバイスは、薄層クロマトグラフィープレートを受けるためのトレイまたはスロットを備えたデジタル化チャンバーを提供する。その後、プレートは光源で照明され、例えば、デジタルカメラや、さらにはスマートフォンのようなデジタル画像デバイスを用いてデジタル画像が撮影される。既に入手可能なデバイスの少なくともいくつかは、薄層クロマトグラフィープレートから撮影されたかかるデジタル画像内の可視スポットの可視化および識別ができるようにさせるソフトウェアを提供する。時には、薄層クロマトグラフィープレートのデジタル画像の評価は、コンピュータ上で動作する独立型ソフトウェアを使用することによって行われる。
しかしながら、これら既知のデジタル画像の評価方法は、いくつかの欠点および制限を有する。通常、展開された薄層クロマトグラフィープレートの評価に使用されるソフトウェアは、所定のサイズのプレートの評価に適合しており、ならびに、デジタル化ステップの間にプレートの位置や方向が明確に定義されている必要がある。その場合のみ、デジタル画像の画素が、薄層クロマトグラフィープレート上の対応する位置に参照され得る。かかるソフトウェアの使用は、通常、薄層クロマトグラフィープレートの1つの形状に制限される。評価の結果は、デジタル画像の記録中にプレートの手動で指定した配置および方向に大きく依存する。
さらに、薄層クロマトグラフィープレート上の可視スポットの識別および評価は、薄層クロマトグラフィープレートから撮影されるデジタル画像の品質によって制限されることはよく知られている。加えて、薄層クロマトグラフィープレートの表面上で分離された試料のスポットの可視性は、デジタル化ステップ中のプレートの照明に、すなわちプレートの照明に使用される照明デバイスの波長または発光特性にもまた依存する。
従って、薄層クロマトグラフィープレートの展開後に薄層クロマトグラフィープレートから撮影されたデジタル画像から、より多くの情報、および好ましくはより正確な情報を得ることをできるようにさせる方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上述の通り、デジタル化ステップを用い、位置識別ステップを用い、ならびに評価ステップを用いた薄層クロマトグラフィープレートの評価方法に関し、それによってデジタル化ステップ内で、照明の波長域に関して異なる少なくとも2つのデジタル画像が撮影され、それにおいて位置識別ステップ内で、少なくとも2つのデジタル画像のそれぞれについて、薄層クロマトグラフィープレートの位置が識別され、ならびに、それにおいて評価ステップ内で、少なくとも2つのデジタル画像の画像情報が、少なくとも2つのデジタル画像のうちの少なくとも1つの中の少なくとも1つの可視スポットを持つ少なくともすべての領域について重ね合わされ、少なくとも2つのデジタル画像の同一領域からの画像情報の重ね合わせが、薄層クロマトグラフィーの評価に使用され得る。本発明は、同じプレートの異なる照明が、結果として、薄層クロマトグラフィープレートの表面上で分離した試料物質のスポットの異なる視認性となるという知見を利用するものである。そのため、第1の照明では鮮明に見えるプレートの領域内のスポットが、第2の照明では見えにくかったり、または識別が困難でさえあり得る。しかしながら、異なる照明を用いて撮影された同じプレートのいくつかのデジタル画像を評価することによって、単一のデジタル画像から得られ得る結果と比較して、より多くのスポットを分析することによって、より多くのスポットを識別し、より正確な結果を得ることが可能である。
【0007】
薄層クロマトグラフィープレートと光学画像デバイスとを相互に動かすことなく、異なる照明を用いて薄層クロマトグラフィープレートの2つ以上の異なるデジタル画像を取り込むことが有利である。従って、デジタル画像の同じ画素は、薄層クロマトグラフィープレートの表面上の同じ点に対応し、そのため、各デジタル画像内で薄層クロマトグラフィープレートの形状および位置を識別する光学画像認識および光学画像分析方法を必要とせずに、デジタル画像の各々について、同じ画素が当該画素に対応する同じ現実世界の座標で参照され得る。薄層クロマトグラフィープレートの表面上の位置を参照する現実世界の座標を持つデジタル画像の画素を参照することで、薄層クロマトグラフィープレート上の展開された試料材料のスポットの実際の位置を識別できるようになる。かかる情報は、ユーザの目視検査のために薄層クロマトグラフィープレートの視覚再現内のスポットのその後の光学的マーキング、または薄層クロマトグラフィープレート表面上の所定の位置での選択されたスポットから取り出される試料材料のその後の分析に使用され得る。さらに、デジタル画像の画素を現実世界の座標で参照することによって、このデジタル画像内には見えない、あるいはほとんど見えないが、異なる照明を用いて撮影された他のデジタル画像内では見えるデジタル画像内のスポットの場所を識別することが可能になる。
【0008】
単一のデジタル画像は、互いに隣り合って配置された1つ以上の薄層クロマトグラフィープレートを含むこともある。例えば2枚または3枚の薄層クロマトグラフィープレートを一列に、または例えば2枚、4枚または6枚の薄層クロマトグラフィープレートをマトリックス状に配置し、これら全ての薄層クロマトグラフィープレートを1枚の単一デジタル画像に撮影することが可能である。任意の数の薄層クロマトグラフィープレートを、任意の配置において互いに異なる方向および距離で配置し、これらすべての薄層クロマトグラフィープレートを1枚の単一デジタル画像に撮影することさえも可能である。その後、単一のデジタル画像は自動的に分析され、各薄層クロマトグラフィープレートの境界とそれらに接する領域とを識別する既知の画像処理ソフトウェアモジュールを利用することによって、単一のデジタル画像内に含まれる全ての薄層クロマトグラフィープレートは識別され得る。その後、各薄層クロマトグラフィープレートについて、個別に、すなわち他の薄層クロマトグラフィープレートに基づく、または関連する情報を参照することなく、上述の評価方法が実施され得る。
【0009】
完全に自動化された評価プロセスができるようにするために、同じプレートから、しかし異なる照明を用いて2つのデジタル画像が撮影され、続く位置識別ステップ内で、デジタル画像内のプレートの形状、位置および方向を識別するために、画像分析法を用いて2つのデジタル画像が分析される。よく知られた方法、およびすでに入手可能なソフトウェアモジュールを用いて、デジタル画像内のプレートの形状、位置、および方向を自動的に識別することは可能である。こうして、位置識別ステップの完了後、各デジタル画像の各画素が、当該薄層クロマトグラフィープレートの表面上またはその近傍の位置へ参照され得る。かかる完全に自動化された位置識別ステップを行うことによって、手動入力または手動画像分析を必要とすることなく、各々のデジタル画像に関連する薄層クロマトグラフィープレートに関する正確な位置情報が提供される。さらに、薄層クロマトグラフィープレートの相関する位置および領域をオーバーレイ(overlay)するやり方で、2つのデジタル画像をオーバーレイすることもまた可能である。デジタル画像を重ね合わせることで、結果として薄層クロマトグラフィープレートの表面の各位置について向上された画像情報となる。かかる画像情報の重ね合わせが、少なくとも1つのデジタル画像におけるスポットを含む全ての領域について行われた場合、重ね合わせによって2つのデジタル画像からのスポットに関連する情報が加えられる。たとえスポットがデジタル画像の内の1つだけでヒトの目に見えるものであっても、ヒトの目には見えないが、それにもかかわらず、重ね合わされた画像情報を向上し、薄層クロマトグラフィープレートの表面上のスポットをより正確に分析できるようにさせる、他のデジタル画像からの情報の小さな寄与があるかもしれない。いくつかのデジタル画像を各それぞれの画素座標の相関する位置情報と重ね合わせた結果、および、薄層クロマトグラフィープレートの同一の現実世界の座標へ参照することによって、ヒトの目には見えないが薄層クロマトグラフィープレートの評価に考慮され得る薄層クロマトグラフィープレート上のスポット領域および対応する画像を識別することが可能である。
【0010】
本発明の態様によれば、少なくとも1つのデジタル画像が、可視光を用いた薄層クロマトグラフィープレートの照明を用いて撮影され、少なくとも1つのデジタル画像が、紫外線を用いた薄層クロマトグラフィープレートの照明を用いて撮影される。可視光は、約400 nm~750 nm、または380 nm~800 nmの間の波長領域内の波長を備える単色光であり得る。可視光は、広い発光特性を備える照明デバイスからの光、例えば、400 nmから800 nmまでの間の波長を含む白色光でもまたあり得る。紫外線は、400 nm未満の波長、好ましくは300 nm未満の波長を含む。紫外線は、ガス放電式電球から照射され得る。しかしながら、サイズおよびエネルギー消費に関連して、異なる照明に使用される照明デバイスは、好適な発光特性を備えた発光ダイオードを含んでもよい。
【0011】
多くの試料に対して、著しい照明の違いを用いた2つのデジタル画像を利用すること、すなわち、可視光を用いた照明を用いて撮影された1つのデジタル画像と紫外線を用いた照明を用いて撮影された他のデジタル画像とを利用することが有利である。その結果、一方のデジタル画像内ではあまり目立たない、または見えない多くのスポットが、他方のデジタル画像内では、はっきりと見え、識別しやすくなる。さらに、多くの薄層クロマトグラフィープレートと組み合わせた多くの溶媒にとっては、薄層クロマトグラフィープレートを展開した後の移動相の溶媒前面の位置は、可視光を用いた照明に比べて、例えば254 nmの波長を備えた紫外線を用いた照明を用いた方がよりよく見える。両方のデジタル画像のデジタル画像情報を重ね合わせることによって、寄与度の低いデジタル画像からの情報もまた考慮され、試料情報がさらに評価、分析される。
【0012】
本発明のさらに別の好ましい態様において、異なる光を用いた照明を用いた少なくとも3つの異なるデジタル画像が撮影され、評価に使用される。3つの異なる照明は、例えば白色光を用いた照明、366 nmの波長を持つ紫外線を用いた照明、および255 nmの波長を持つ紫外線を用いた照明を含み得る。多くの試料に対して、紫外線領域内の2つの異なる波長を持つ照明によって、デジタル画像情報が著しく異なることが判明している。このように、可視光を用いた照明と組み合わせた2つの異なる紫外線照明のデジタル画像を重ね合わせることによって、重ね合わされた画像の情報量が著しく向上する。多くの用途に対して、270 nmの波長を持つ、または310 nmの波長を持つ紫外線照明もまた好適であり、薄層クロマトグラフィープレートの評価に使用され得る付加情報を提供する。可視光領域内の2つの異なる照明を重ね合わせること、例えば、青色光または赤色光のいずれかを用いた照明を用いたデジタル画像を重ね合わせることもまた可能である。さらに、薄層クロマトグラフィープレートの異なるデジタル画像を取り込むために使用されるカメラまたは光学画像システムの特定の特性に対して、異なる照明もまた適合され得る。このように、例えば赤、緑、および青の領域において高い感度を持つカラーCCDを利用することによって、光学画像システムの高感度に合わせ、カラーCCDの対応する赤、緑、または青の領域の波長域において高画像強度の結果となる2種以上の異なる照明が利用され得る。
【0013】
評価ステップの間に、2つ以上のデジタル画像の画像情報が重ね合わされる。画像情報は、デジタル画像を分析することによって抽出され得るいずれの情報、例えば、薄層クロマトグラフィープレートの表面上で分離された試料のスポットの位置および強度を含み得る。しかしながら、本発明の有利な側面によれば、重ね合わせに使用される画像情報は、デジタル画像の画素の画素値に等しいか、または比例している。画素値は、デジタル画像からの当該画素の強度値または色別の値であり得る。このように、デジタル画像のいかなる事前分析なしに、ならびにいかなる手動のサポートなしに、重ね合わせが行われ得る。この特徴の別の態様によれば、デジタル画像からのかかる画素情報に基づいて画素値が計算され得、これが、例えばデジタル画像を撮影するために使用された照明の種類、または、薄層クロマトグラフィープレートの表面の異なる領域間で異なる加重情報のような付加情報を付加できるようにさせる。それぞれのデジタル画像の画素値を重ね合わせる前に、各単一のデジタル画像に対して何かしらの画像分析および自動画像向上を行うこともまた可能である。画素値の代わりに、デジタル画像の領域からの情報に基づく画像情報、例えばデジタル画像のスポット領域の平均強度を重ね合わせることもまた可能である。その結果としてのオーバーレイは、重ね合わせに考慮されたすべてのデジタル画像の画像情報を含む。重ね合わされたオーバーレイの評価および分析は、より高い精度で行われ、通常、各単一のデジタル画像の評価および分析よりも優れた結果をもたらす。2つ以上のデジタル画像を重ね合わせるために使用される画像情報を抽出すること、ならびに、後で実行される対応する画像情報の重ね合わせは、例えば、あらかじめ定義された方法およびしきい値に基づいて、自動的に行われ得る。
【0014】
それぞれの画素値は、デジタル画像および結果としての重ね合わせの画像情報を保存するために使用される任意の色別の形式またはファイル形式であり得る。ほとんどの用途では、重ね合わされる画像情報は、すべての異なる色を合計した、すなわちすべての波長にわたる画像情報を合計した強度値に比例し得る。しかしながら、画像情報を、予め設定された色域へ、または単一色へ制限することが有利になることもある。例えば、画像情報は、デジタル画像の画素色の緑色成分として選択され得る。
重ね合わせは、デジタル画像の全表面に対して、好ましくは、デジタル画像内で識別された薄層クロマトグラフィープレートの全表面に対して行われ得る。少なくとも1つのデジタル画像内で識別されたスポットを含む薄層クロマトグラフィープレートの表面の領域のみに重ね合わせを制限することもまた可能である。
【0015】
本発明のさらに別の態様において、画像情報は、それぞれの領域内の画素の濃淡値に比例している。薄層クロマトグラフィープレートからグレースケール画像を撮影したり、または異なる色別の形式で撮影されたデジタル画像をグレースケール形式に変換することが好ましいと考えられている。通常、画像情報の著しい損失はないが、重ね合わせ、およびその後の評価に必要な計算量が削減され得る。
【0016】
本発明の有利な側面によれば、評価ステップの中で、トラック識別ステップが行われ、それによって、ベースラインから溶媒前面に流れるあらかじめ決定された数のストライプについて、ストライプ強度がそれぞれのストライプ内の画素の画素強度の合計として決定され、ならびに、それによって、ストライプ強度の局所最大を持つ、または局所最小を持つ各ストライプについて、対応するトラックが識別される。トラックの数は、薄層クロマトグラフィープレート上に展開されたトラックの正しい数を識別するユーザによって手動でプリセットされ得る。例えば画素強度に基づく自動化された画像分析を用いて、トラック数の自動化された判定を提供することもまた可能であり、ユーザにとってより便利である。適切なソフトウェアによって行われる画像分析を容易にするため、トラックの一般的な形状および方向がプリセットされ得る。しかしながら、ほとんどの用途では、ほとんどのスポットは、最長長さの方向がトラックの方向に対して垂直(通常、トラックはいくつかのかかるスポットを含む)である楕円形であるため、単一のトラック内に位置するスポットの形状および方向に基づいてトラックを自動的に識別することが可能である。薄層クロマトグラフィープレートの種類、およびデジタル画像を作成するために使用される照明によって、スポットは暗い背景上に明るい領域として、または明るい背景上に暗い領域として可視化されるであろう。従って、ストライプ強度は、それぞれのストライプに隣接する領域の強度と比較した場合、局所最大または局所最小のいずれかになり得る。
【0017】
本発明の別の好ましい側面によれば、薄層クロマトグラフィーの評価は、薄層クロマトグラフィープレートに沿った所定のラインまたはトラックに沿った濃度測定情報の計算を包含する。薄層クロマトグラフィープレートを1つ以上の試料で展開する間、各試料は薄層クロマトグラフィープレートの表面上の所定の直線トラックに沿って分離されるであろう。トラックとは、展開の間に試料材料の分離によって覆われる、薄層クロマトグラフィープレートの表面に対応する横長の領域である。トラックの方向は、薄層クロマトグラフィープレートの展開の間の移動相の移動方向に等しい。トラックの幅は、トラックに沿って見える少なくとも1つのスポットの幅に等しく、通常、このトラックにて薄層クロマトグラフィープレートへ塗布された試料材料の幅に対応する。試料材料の分離の方向に沿っていくつかのスポットが見える場合、トラックの幅は、このトラックに沿ったいずれかのスポットの最大幅、またはこのトラックに沿ったすべてのスポットのすべてのそれぞれの幅の平均値を計算することによって計算された平均幅値のいずれかに適合され得る。このように、この情報を使用して、かかるトラックに沿った画像情報に集中し得る。トラックの方向に沿って、つまり薄層クロマトグラフィープレートの展開および試料材料の分離の間の移動相の移動方向に沿って、すべての画素値を合計することによって、各試料に対する各トラックを識別することが可能である。想定されるトラックの最小幅は、トラックの最小幅に対応する画素数としてプリセットされ得る。そして、トラックの方向に沿った和演算の結果である総画素値が、トラックの方向と直交する方向に沿って計算される。総画素値が、少なくともトラックの最小幅について、プリセットされたトラック最小レベルを超えている、またはプリセットされたトラック最大値未満である場合には、トラックの方向に沿ったこのストライプは、試料のトラックとして識別され、その内部でこの試料のトラックに沿って試料が分離されたのである。デジタル画像の、または2つ以上のデジタル画像の重ね合わせの評価および分析は、その後、識別されたすべての試料のトラックに集中されたり、または制限され得る。
【0018】
本発明の態様によれば、デジタル画像内の薄層クロマトグラフィープレートの位置は、自動デジタル画像処理によって識別される。かかる識別は、2つ以上のデジタル画像の重ね合わせ、ならびに自動化されたトラック検出を包含する、薄層クロマトグラフィープレートの評価に必要ないくつかの、またはすべてのステップ、すなわちデジタル化ステップ、位置識別ステップ、および評価ステップを行う、よく知られ、ソフトウェアプログラム内で容易に履行され得るソフトウェアモジュールまたは方法を用いて行われ得る。薄層クロマトグラフィープレートの位置の識別に加えて、かかるプレートのサイズや方向をも自動デジタル画像処理によって決定され得る。
【0019】
デジタル画像内の薄層クロマトグラフィープレートの識別、またはトラックの数、トラックの方向、およびトラックの幅の識別は、前述の自動デジタル画像処理ステップによって行われ、それぞれの識別結果に対する提言が結果としてなされ、それがユーザによって再検討され、確認または補正のいずれかがされるために可視化され得る。かくして、薄層クロマトグラフィープレートの自動識別、またはその上の1つ以上のトラックの識別に失敗した場合は、ユーザがそれぞれの識別を手動でサポートまたは確定することができる。しかしながら、ほとんどの場合、ユーザはデジタル画像内の薄層クロマトグラフィープレートまたはトラックの自動化された識別の結果を確認することができるであろう。
さらに、本発明のさらに別の側面によれば、評価ステップを行なう前またはその最中に、画像クリーニングステップ内で、デジタル画像からアーチファクト(artifacts)を除去することが可能である。試料素材のスポットのサイズおよび形状は、近似され得る。薄層クロマトグラフィープレートのきれいな表面よりも暗い、または明るい領域は、スポットを定義するプリセットパラメータと比較され得て、スポットの基準に一致しないすべてのかかる領域はアーチファクトとして破棄され得る。すべてのスポットはトラック内に位置する必要があるため、すでに決定されていたトラック情報を利用し、トラックの外側のすべてのより暗い部分またはより明るい部分を破棄することもまた可能である。
【0020】
スポット内のアーチファクトを除去することもまた可能である。既知の画像ノイズ低減アルゴリズムを利用することによって、スポット内のアーチファクトが識別され、例えば、アーチファクトによって影響を受けた画素強度を、アーチファクトによって影響を受けていないそれぞれのスポットの隣接する部分の画素強度に置き換えることによって、適切な補正が行われ得る。
【0021】
上述したステップの多くは、電子データ処理デバイスを利用することによって行われ得る。ほとんどのステップに対して、好適かつ適切なソフトウェアプログラムは、通常のデータ処理デバイス上で履行され得る。例えば、短時間の間に大きなデジタル画像に対して自動化された画像分析方法を行うように構成された、個別に適合したハードウェアを利用することもまた可能である。
【0022】
本発明はまた、薄層クロマトグラフィープレートを受け入れるためのベースプレートを備える耐光性開閉式デジタル化チャンバーを備え、ベースプレート上の薄層クロマトグラフィープレートを照明するための照明デバイスを備え、照明デバイスで照明される薄層クロマトグラフィープレートのデジタル画像を得るためのデジタル画像デバイスを備え、ならびにデジタル画像の評価を行うための評価ユニットを備えた、薄層クロマトグラフィー用評価デバイスに関する。先行技術において記載されている、または分離された試料を用いて薄層クロマトグラフィープレートの評価を行うために利用可能な評価デバイスは、通常、所定のサイズの薄層クロマトグラフィープレートに対して行われ得るいくつかの基本的な評価ステップに制限されている。ほとんどの場合、薄層クロマトグラフィープレートの評価およびさらなる分析には、手動入力、および薄層クロマトグラフィープレートの評価において著しいスキルと経験とを持つユーザとの対話処理が必要である。
そのため、薄層クロマトグラフィープレートの評価に対する付加サポートを提供し、評価プロセスに必要な一部またはすべてのステップを自動的に行うことができるようにさせる評価デバイスが必要とされる。
【0023】
本発明の有利な側面によれば、評価デバイスは上述の方法を行うように適合されている。評価デバイスは、デジタル化チャンバーに挿入された薄層クロマトグラフィープレートを、異なる波長を持つ光を用いて照明するように適合された2つ以上の異なる照明デバイスを含む。さらに、評価デバイスは、上述の評価方法、すなわち、デジタル化チャンバーの内部にある薄層クロマトグラフィープレートから異なる照明を用いて2つ以上の異なるデジタル画像を撮影し、2つ以上の異なるデジタル画像の画像情報を正しく重ね合わせることを行うために適合され好適である評価ユニットを含む。評価ユニットは、好ましくは、デジタル画像処理方法を行って、薄層クロマトグラフィープレートのサイズ、位置および方向を自動的に識別することもまたできる。本発明の別の側面によれば、評価ユニットは、薄層クロマトグラフィープレートの表面内のトラックを識別し、分離された試料のスポットを定義するプリセットされた基準に一致しないアーチファクトを除去するようにもまた設計され、かつ構成される。かかる評価デバイスを用いて、手動入力またはユーザとの対話処理を必要とせず、異なる薄層クロマトグラフィープレートの完全に自動化された評価が行われ得る。もちろん、評価プロセスのその後の再検討または、評価プロセスの最中またはその後に好ましいと判断された場合の手動入力または対話処理をできるようにさせるために、評価の最中に行われる各単一ステップの結果を表示したり、または保存したりすることも可能である。
【0024】
本発明の別の側面によれば、評価デバイスは、評価プロセスに関するデータを、薄層クロマトグラフィーデータ記憶デバイスまたは薄層クロマトグラフィープレートの評価の最中に使用され得る他のデバイスへ、無線データ送信することを可能にするデータ通信ユニットを含む。このように、薄層クロマトグラフィープレートの評価に関連すると思われるすべての情報およびデータは、将来の使用、例えば評価プロセスを再検討したり、または繰り返したりすることのために、この情報およびデータを保存するための記憶デバイスに送信され得る。さらに、保存された情報およびデータは、世界中のいずれの場所からでも容易にアクセスされ、取り出され得る。このように、薄層クロマトグラフィープレートの評価の結果は、いずれの場所や時間にても解析され、ならびに他のデータと比較され得て、かつ評価デバイスの場所に制限されない。また、デジタル画像が撮影された薄層クロマトグラフィープレートへ物理的にアクセスする必要なしに、評価の結果は簡単にアクセス、および異なるデータ形式に変換され得るので、異なるデバイスを用いて、または異なる場所や時間にて異なる種類のデータ分析を行うことも可能である。さらに、デジタル画像および対応する画素情報、または薄層クロマトグラフィープレート上のスポットに関する情報は、薄層クロマトグラフィープレートと一緒に、薄層クロマトグラフィープレートのさらなる分析に使用され得る別のデバイスに転送され得る。例として、薄層クロマトグラフィープレートは、薄層クロマトグラフィープレートからプリセットされたスポット領域内のいくつかの試料材料を自動的に除去することができる自動質量分析計内へ転送され得る。除去され、試料材料をその後分析するためのスポット領域は、薄層クロマトグラフィープレートの評価の結果内に含まれ、この薄層クロマトグラフィープレートの評価結果に基づいて、評価デバイスを用いてあらかじめ行われた自動化された方法によって識別、選択、およびプリセットされた情報となり得る。
【0025】
データ転送は、手動でトリガーされ得るか、または自動的に行われ得る。データ通信ユニットは、例えばWLANインタフェース、Bluetoothインタフェース、またはNFCインタフェースのような標準化された通信インタフェースを含んでもよい。評価デバイスから、評価デバイスの近く、すなわち同じ場所にある、あるいは評価デバイスから遠く離れた、すなわち別の場所または国にある記憶デバイスへのデータ転送をできるようにさせる、個別に構成されたデータ通信ユニットを利用することもまた可能である。評価デバイスから、ルータとして機能し評価デバイスの近く、すなわち同室内に位置する付加データ送信デバイスへの第1のデータ送信用の第1のデータ送信プロトコルを使用することによってデータ送信を提供し、その後、付加データ送信デバイスから、どこにでも、および評価デバイスから遠く離れた場所に位置し得る記憶デバイスへの第2の、かつ異なるデータ送信プロトコルを使用してデータを送信することもまた可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明は、以下の詳細な説明および添付図面を参照するとき、より完全に理解され、さらなる特徴が明らかになるであろう。図面は単に代表的なものであり、特許請求の範囲を制限することを意図するものではない。実際、当業者は、以下の明細書を読み、本図面を見れば、本発明の革新的な概念から逸脱することなく、さまざまな改造および変形がなされ得ることを認めることもある。図面内に描かれた同様の部品は、同じ参照数字によって参照される。
【0027】
【
図1-a】
図1は、同じ薄層クロマトグラフィープレートの2つのデジタル画像の概略視を図示し、各々が異なる光を用いて照明され、それによってそれぞれの照明において見える試料材料のスポットを示している。
【
図1-b】
図1は、同じ薄層クロマトグラフィープレートの2つのデジタル画像の概略視を図示し、各々が異なる光を用いて照明され、それによってそれぞれの照明において見える試料材料のスポットを示している。
【
図2】
図2は、薄層クロマトグラフィープレートのサイズ、位置、および方向を識別するためにデジタル画像処理を行った後の2つのデジタル画像を重ね合わせたものの概略視を図示する。
【
図3】
図3は、分離した試料材料のトラックを追加表現するとともに、
図2において表示した重ね合わせの拡大概略視を図示する。
【
図4】
図4は、薄層クロマトグラフィープレートの展開の間の、トラックの識別を示しながら、試料材料のベースラインへ平行かつ溶媒の移動方向へ垂直な線に沿った画素値の合計を図示する。
【
図5】
図5は、
図3に示した単一トラックに沿った濃度測定情報を図示する。
【
図6】
図6は、本発明による評価方法を行うために設計および構成された、本発明による評価デバイスの概略断面視を図示する。
【0028】
図1は左側に、矢印3で示される移動方向に沿って分離された3つの異なる試料を持つ薄層クロマトグラフィープレート2の第1のデジタル画像1を図示する。第1のデジタル画像1は、
図6においてより詳細に図示される評価デバイス4内の耐光性デジタル化チャンバー内部で撮影された。第1のデジタル画像1の取得中、薄層クロマトグラフィープレート2は、可視光、すなわち400 nmから800 nmの間の波長域内で広い発光範囲を持つ白色光で照明された。
図1は右側に、紫外線で、すなわち366 nm付近の狭い波長帯域を持つ光で照明された同じ薄層クロマトグラフィープレート2の第2のデジタル画像5を図示する。このように、デジタル化ステップを行った後、異なる照明を用いて撮影された同じ薄層クロマトグラフィープレート2の画像を含む2つのデジタル画像1、5が利用可能となる。
2つのデジタル画像1、5が撮影される前に行われた薄層クロマトグラフィープレート2の展開の間に、3つの試料の各々は、薄層クロマトグラフィープレート2の下縁6へ通常平行であるベースラインへ隣接する浸漬領域から、薄層クロマトグラフィープレート2の表面7をわたり移動方向3に沿って、薄層クロマトグラフィープレート2の上縁8近くの溶媒前面に向かって移動した溶媒にさらされた。3つの試料の成分は、移動方向3に沿って、別個のスポット9、10に分離される。しかしながら、異なる照明により、いくつかのスポット9、10は2つのデジタル画像1、5のうちの1つにおいてのみ見えるが、いくつかの他のスポット9、10は両方のデジタル画像1、5において見える。スポット9、10に加えて、デジタル画像1、5の各々の内部には、分離された試料材料を意味しないが、例えば、薄層クロマトグラフィープレート2の埃または他の汚染物によって生成されたアーチファクト11、12もまたある。
位置識別ステップ内で、デジタル画像1、5内の薄層クロマトグラフィープレート2のサイズおよび位置が、例えば、デジタル画像1、5内の任意のサイズおよび方向の横長形状の境界線を決定するためのよく知られた方法を使用したデジタル画像処理によって決定される。その後、デジタル画像1、5の各々について、薄層クロマトグラフィープレート2の画像が、薄層クロマトグラフィープレート2の表面7上の座標に参照される。
【0029】
その後行われる評価ステップの間で、まず、2つのデジタル画像1、5からの薄層クロマトグラフィープレート2の2つの画像が、対応する画素値を重ねることによってオーバーレイされる。2つのデジタル画像1、5の重ね合わせのための画素値のオーバーレイは、例えば、2つのデジタル画像1、5からの画素値を加えることによって、又は最大画素値を採用することによって、または画素値の加重和を計算することによって行なわれ得て、それによって、それぞれの加重係数が、入手可能ないずれのデジタル画像情報に基づいてプリセットされるか、または決定され得る。結果としてのオーバーレイ、すなわち重ね合わせ13は、
図2に図示される。重ね合わせ13は、可視光照明または紫外線照明のいずれかの間に見えるすべてのスポット9、10を示す。2つのデジタル画像1、5内の薄層クロマトグラフィープレート2の画像のサイズと位置とがあらかじめ一致しているため、スポット9、10の位置もまた一致している。このように、重ね合わせ13は、それぞれのデジタル画像1、5の各々が含むように、試料に関するより多くの情報を含む。
【0030】
図3は、薄層クロマトグラフィープレート2の2つの画像の重ね合わせ13をより詳細に、かつ拡大視において図示する。トラック識別ステップの間、移動方向3に沿ってベースラインすなわち下縁6から溶剤前線すなわち上縁8まで流れる多数のストライプについて、正規化されたストライプ強度I/I0が、それぞれのストライプ内の画素の画素強度の合計として決定され、それによって、ストライプ強度I/I0の局所最大を持つ各ストライプについて対応するトラックが識別される。薄層クロマトグラフィープレート2の移動方向3は、薄層クロマトグラフィープレート2で参照された座標系のY軸に沿って配置される。各ストライプはY軸に平行に流れる。X軸に平行に流れる線に沿った各位置または画素について、合計されたストライプ強度I/I0を
図4に示す。ストライプ強度I/I0は、重ね合わせ13をグレースケール画像に変換することによって、およびそれぞれのストライプに沿った各画素の濃淡値を加えることによって計算され得る。トラックa、bまたはcを識別するために、例えば、トラックを形成するストライプの最小幅または数、およびトラックに必要とされるストライプ強度I/I0の最小ストライプ強度しきい値またはトラック最小レベル14のような、いくつかの適切な基準がプリセットされ得る。計算されたストライプ強度I/I0に基づいて、全ての基準を満たすストライプ強度I/I0を持つ画素の範囲として、トラックa、bおよびcが識別され得る。かかるやり方において識別されたトラックa、bおよびcが、
図3および4において破線で示されている。
【0031】
対応するトラックa、bおよびcに沿って分離されたそれぞれの試料に対応するトラックa、bおよびcが識別された後、移動方向3に沿って、すなわちY軸に沿って、Y軸の同じ値を持つトラックa、bまたはc内の、すなわち対応するトラックa、bまたはcにわたって、すべての画素値を合計することによって、トラック濃度測定情報が計算され得る。
図5は、
図3におけるトラックbについて計算されたかかるトラック濃度測定情報を図示する。かかるトラック濃度測定は、薄層クロマトグラフィープレート2を用いて行われた試料分離の結果をさらに分析するための基礎となり得る。
評価ステップの間に行われる画像クリーニングステップ内で、アーチファクト11、12は、事前定義された基準と、ならびに以前識別されたトラックa、bおよびcに関するトラック情報と比較される。アーチファクト11は、トラックa、bおよびcいずれの外側にあり、そのために破棄される。アーチファクト12はトラックcの内側にあるが、スポット9、10の形状およびサイズに関する事前定義された基準を満たさず、この理由により廃棄される。
【0032】
図3、4および5において、スポット9、10の、ストライプ強度I/I0の、およびトラック濃度測定の異なるハッチングが、2つの異なるデジタル画像1、5から結果としての重ね合わせ13へのそれぞれの寄与、および重ね合わせ13に基づいて計算された情報を示している。
【0033】
図6は、評価デバイス4の例示的な態様を図示する。評価デバイス4は、スライド可能なやり方でデジタル化チャンバー16の内部に取り付けられ、デジタル化チャンバー16の外へ直線的に移動して薄層クロマトグラフィープレート2を受けたり外したりできるベースプレート17を備える、耐光性の遮蔽されたデジタル化チャンバー16を囲むハウジング15を含む。
【0034】
評価デバイス14は、発光ダイオードから発せられる可視光を用いて薄層クロマトグラフィープレート2を照明するための第1の照明デバイス18、および対応する発光ダイオードから発せられる波長366 nmを持つ紫外線を用いて薄層クロマトグラフィープレート2を照明するための第2の照明デバイス19をさらに含む。第1の照明デバイス18および第2の照明デバイス19は、光を発して、ベースプレート17上に配置される薄層クロマトグラフィープレート2を照明することができる、ガス放電ランプまたは他の照明デバイスでもあり得る。評価デバイス14はまた、第1の照明デバイス18または第2の照明デバイス19のいずれかを用いて照明された薄層クロマトグラフィープレート2からデジタル画像1、5を撮影するためのデジタル画像デバイス20をも含む。
【0035】
デジタル画像1、5は、上述の評価方法を行う評価ユニット21を用いて処理される。すべての画像情報および追加データは、データ通信ユニット22へ送られ、
図6に示されていないデータ記憶デバイスへ送信され得る。評価デバイス14はまた、ユーザへ関連情報を表示するためのディスプレイ23もまた含む。ディスプレイ23は、いくつかのユーザ入力、例えば、評価プロセスの間のいくつかのまたはすべてのステップを行うための、いくつかのトリガー情報を可能にさせるタッチセンサーディスプレイであり得る。
【国際調査報告】