(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】アクリル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/377 20060101AFI20231213BHJP
C07C 57/045 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C07C51/377
C07C57/045
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534413
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(85)【翻訳文提出日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 KR2022008576
(87)【国際公開番号】W WO2023063526
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】10-2021-0137936
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ビョン・ギル・リュ
(72)【発明者】
【氏名】ミ・キュン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウン・キョ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヘ・ビン・キム
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC13
4H006AD11
4H006BD84
4H006BS10
(57)【要約】
本発明は、アクリル酸の製造方法に関し、反応部で乳酸水溶液を脱水反応させて反応生成物ストリームを製造するステップと、前記反応生成物ストリームは冷却部および精製部を順に経て、前記精製部の排出ストリームをアクリル酸分離塔に供給するステップと、前記アクリル酸分離塔で側面排出ストリームとして未反応乳酸を分離し、上部排出ストリームとしてアクリル酸を分離するステップとを含むアクリル酸の製造方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応部で乳酸水溶液を脱水反応させて反応生成物ストリームを製造するステップと、
前記反応生成物ストリームが冷却部および精製部を順に経て、前記精製部の排出ストリームをアクリル酸分離塔に供給するステップと、
前記アクリル酸分離塔で側面排出ストリームとして未反応乳酸を分離し、上部排出ストリームとしてアクリル酸を分離するステップとを含むアクリル酸の製造方法。
【請求項2】
前記精製部の排出ストリームは、前記アクリル酸分離塔の全体の段数に対して40%~90%の段に供給される、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項3】
前記精製部の排出ストリームは、前記アクリル酸分離塔の全体の段数に対して65%~85%の段に供給される、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項4】
前記アクリル酸分離塔の側面排出ストリームは、前記アクリル酸分離塔の全体の段数に対して20%~80%の段から排出される、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
前記アクリル酸分離塔の側面排出ストリームは、前記アクリル酸分離塔の全体の段数に対して55%~75%の段から排出される、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項6】
前記アクリル酸分離塔の運転圧力は、10torr~200torrである、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項7】
前記アクリル酸分離塔の上部排出ストリームのうち、還流されずアクリル酸を分離するストリームの流量に対する、リボイラを通過して前記アクリル酸分離塔に還流するストリームの流量の比は、0.8~1.5である、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項8】
前記アクリル酸分離塔で側面排出ストリームとして分離された未反応乳酸は、前記乳酸水溶液と混合して反応部に供給される、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項9】
前記アクリル酸分離塔の下部排出ストリームから高沸点副生成物を分離する、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項10】
前記反応生成物ストリームは、アクリル酸、水、ガス副生成物、低沸点副生成物、高沸点副生成物および未反応乳酸を含む、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項11】
前記冷却部は、前記反応生成物ストリームからガス副生成物を除去し、前記精製部は、前記反応生成物ストリームから水および低沸点副生成物を除去する、請求項10に記載のアクリル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年10月15日付けの韓国特許出願第10-2021-0137936号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開始されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、アクリル酸の製造方法に関し、より詳細には、乳酸の脱水反応によりアクリル酸を製造する際に、アクリル酸の損失を低減し、且つ、副生成物を効果的に除去する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アクリル酸は、繊維、粘着剤、塗料、繊維加工、皮革、建築用材料などに使用される重合体原料として用いられ、その需要は拡大している。また、アクリル酸は、吸水性樹脂の原料としても使用され、紙おむつ、生理用ナプキンなどの吸水物品、農園芸用保水剤および工業用止水材など、工業的に多く用いられている。
【0004】
従来のアクリル酸の製造方法は、プロピレンを空気酸化する方法が一般的であるが、この方法は、プロピレンを気相接触酸化反応によってアクロレインに変換し、これを気相接触酸化反応させてアクリル酸を製造する方法であり、副生成物として酢酸が生成され、これは、アクリル酸との分離が難しい問題がある。また、プロピレンを用いたアクリル酸の製造方法は、化石資源である原油を精製して得られたプロピレンを原料とし、最近の原油価格が高騰や地球温暖化などの問題を考慮すると、原料費や環境汚染の面で問題がある。
【0005】
これに対して、炭素中立のバイオマス原料からアクリル酸を製造する方法に関する研究が進められた。例えば、乳酸(Lactic Acid、LA)の気相脱水反応によりアクリル酸(Acrylic Acid、AA)を製造する方法がある。この方法は、一般的に、300℃以上の高温および触媒の存在下で、乳酸の分子内の脱水反応によりアクリル酸を製造する方法である。乳酸の脱水反応によりアクリル酸を含む反応生成物が生成され、転化率に応じて反応生成物内には未反応乳酸が含まれる。反応生成物内に未反応乳酸が含まれている場合には、分離工程で回収したときに工程の経済性を向上させることができる。しかし、乳酸は、高濃度および高温でオリゴマー化反応が迅速に行われ、これを回収することが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記発明の背景技術で言及した問題を解決するために、乳酸の脱水反応によりアクリル酸を製造することで生成される反応生成物から未反応乳酸を効果的に回収して再使用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明の一実施形態によると、本発明は、反応部で乳酸水溶液を脱水反応させて反応生成物ストリームを製造するステップと、前記反応生成物ストリームが冷却部および精製部を順に経て、前記精製部の排出ストリームをアクリル酸分離塔に供給するステップと、前記アクリル酸分離塔で側面排出ストリームとして未反応乳酸を分離し、上部排出ストリームとしてアクリル酸を分離するステップとを含むアクリル酸の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアクリル酸の製造方法によると、アクリル酸を含む反応生成物から乳酸を回収する際に、高濃度の状態で高温に曝露する時間を制御して乳酸のオリゴマー化反応を最小化し、未反応乳酸の回収率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施例でアクリル酸の製造方法による工程フローチャートである。
【
図2】比較例でアクリル酸の製造方法による工程フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の説明および請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0011】
本発明において、用語「ストリーム(stream)」は、工程内の流体(fluid)の流れを意味し得、また、配管内で流れる流体自体を意味し得る。具体的には、「ストリーム」は、各装置を連結する配管内で流れる流体自体および流体の流れを同時に意味し得る。また、流体は、気体(gas)、液体(liquid)および固体(solid)のいずれか一つ以上の成分を含むことができる。
【0012】
以下、本発明に関する理解を容易にするために、
図1を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0013】
本発明によると、アクリル酸の製造方法が提供される。より具体的には、反応部10で乳酸水溶液を脱水反応させて反応生成物ストリームを製造するステップと、前記反応生成物ストリームが、冷却部20および精製部30を順に経て、前記精製部30の排出ストリームをアクリル酸分離塔100に供給するステップと、前記アクリル酸分離塔100で側面排出ストリームとして未反応乳酸を分離し、上部排出ストリームとしてアクリル酸を分離するステップとを含むことができる。
【0014】
具体的には、従来のアクリル酸の製造方法は、プロピレンを空気酸化する方法が一般的であるが、この方法は、プロピレンを気相接触酸化反応によってアクロレインに変換し、これを気相接触酸化反応させてアクリル酸を製造する方法であり、副生成物として酢酸が生成され、これは、アクリル酸との分離が難しい問題がある。また、プロピレンを用いたアクリル酸の製造方法は、化石資源である原油を精製して得られたプロピレンを原料とし、最近の原油価格が高騰や地球温暖化などの問題を考慮すると、原料費や環境汚染の面で問題がある。
【0015】
従来のアクリル酸の製造方法の問題を解決するために、炭素中立のバイオマス原料からアクリル酸を製造する方法に関する研究が進められた。例えば、乳酸(Lactic Acid、LA)の気相脱水反応によりアクリル酸(Acrylic Acid、AA)を製造する方法がある。この方法は、一般的に、高温および触媒の存在下で乳酸の分子内の脱水反応によりアクリル酸を製造する方法である。乳酸の脱水反応によりアクリル酸を含む反応生成物が生成され、この際、転化率に応じて反応生成物内には未反応乳酸が含まれる。反応生成物内に未反応乳酸が含まれている場合には、分離工程で回収したときに工程の経済性を向上させることができる。しかし、乳酸は、高濃度および高温でオリゴマー化反応が迅速に行われるため、これを回収することが困難であった。
【0016】
これに対して、本発明では、従来の問題を解決するために、乳酸の脱水反応により製造されたアクリル酸を含む反応生成物から乳酸を分離するが、高濃度の乳酸が高温に曝露される時間を短縮して乳酸のオリゴマー化を防止することにより、未反応乳酸の回収率を向上させる方法を提供する。
【0017】
本発明の一実施形態によると、前記反応部10に乳酸水溶液を供給して脱水反応させて、アクリル酸を含む反応生成物を製造することができる。ここで、脱水反応は、触媒の存在下で気相反応で行われることができる。例えば、乳酸水溶液の乳酸の濃度は、10重量%以上、20重量%以上または30重量%以上および40重量%以下、50重量%以下、60重量%以下または70重量%以下であることができる。乳酸は、高濃度で存在する場合、平衡反応によって二量体、三量体などのオリゴマーが形成され、前記範囲の濃度の水溶液形態で使用することができる。
【0018】
反応器は、通常の乳酸の脱水反応が可能な反応器であり得、前記反応器は、触媒が充填された反応管を含むことができ、反応管に原料である乳酸水溶液の揮発成分を含む反応ガスを通過させながら気相接触反応によって乳酸を脱水させてアクリル酸を生成することができる。反応ガスは、乳酸以外に、濃度の調整のための水蒸気、窒素および空気のいずれか一つ以上の希釈ガスをさらに含むことができる。
【0019】
反応器の運転条件は、通常の乳酸の脱水反応条件下で行われることができる。ここで、反応器の運転温度は、反応器の温度の制御のために使用される熱媒体などの設定温度を意味し得る。
【0020】
乳酸の脱水反応に使用される触媒は、例えば、硫酸塩系触媒、リン酸塩系触媒および硝酸塩系触媒からなる群から選択される1種以上を含むことができる。具体的な例として、硫酸塩は、Na2SO4、K2SO4、CaSO4およびAl2(SO4)3を含むことができ、リン酸塩は、Na3PO4、Na2HPO4、NaH2PO4、K3PO4、K2HPO4、KH2PO4、CaHPO4、Ca3(PO4)2、AlPO4、CaH2P2O7およびCa2P2O7を含むことができ、硝酸塩は、NaNO3、KNO3およびCa(NO3)2を含むことができる。また、触媒は、担持体に担持されることがある。担持体は、例えば、珪藻土、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、炭化物およびゼオライトからなる群から選択される1種以上を含むことができる。
【0021】
乳酸の脱水反応により製造される反応生成物は、目的とする生成物であるアクリル酸以外に、水(H2O)、ガス副生成物、低沸点副生成物、高沸点副生成物、および未反応乳酸をさらに含むことができる。
【0022】
乳酸の脱水反応によりアクリル酸を製造する方法は、従来のプロピレンを空気酸化する方法に比べて、原料競争力を確保することができ、環境汚染の問題を解消することができるが、乳酸の転化率が低く、副生成物が多様に生成されてアクリル酸の収率が低い。したがって、経済性を向上させるための工程開発が必要である。これに対して、本発明では、未反応乳酸の回収率を高めて経済性を向上させるための方法を提供することができる。
【0023】
本発明の一実施形態によると、反応生成物ストリームは、冷却部20および精製部30を順に経て、精製部30の排出ストリームをアクリル酸分離塔100に供給して乳酸を回収することができる。
【0024】
本発明の一実施形態によると、冷却部20は、一つ以上の冷却塔を含むことができ、反応生成物ストリームは、冷却塔に供給され冷却され得る。具体的には、乳酸の脱水反応により製造される反応生成物は、気相として、冷却塔を経て凝縮されることができる。冷却塔の上部にはガス副生成物を分離することができ、液相の凝縮物は下部に排出されることができ、この際、凝縮物は、後段の精製部30に供給され得る。ここで、ガス副生成物は、水、一酸化炭素、二酸化炭素、希釈ガスおよびアセトアルデヒドなどをガス成分として含むことができる。
【0025】
本発明の一実施形態によると、精製部30は、水分離塔および低沸点分離塔を含むことができる。例えば、水分離塔は、蒸留または抽出により、反応生成物から水を分離することができる。
【0026】
水分離塔で抽出により反応生成物から水を分離する場合、水分離塔には別の抽出剤が供給され、抽出剤を用いて、反応生成物ストリーム内に含まれたアクリル酸を水分離塔の上部排出ストリームとして分離することができる。また、抽出剤を回収するためのステップをさらに経ることができる。
【0027】
抽出剤は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、n-ヘプタン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、1-ヘプテン、エチルベンゼン、メチルシクロヘキサン、n-ブチルアセテート、イソブチルアセテート、イソブチルアクリレート、n-プロピルアセテート、イソプロピルアセテート、メチルイソブチルケトン、2-メチル-1-ヘプテン、6-メチル-1-ヘプテン、4-メチル-1-ヘプテン、2-エチル-1-ヘキセン、エチルシクロペンタン、2-メチル-1-ヘキセン、2,3-ジメチルペンタン、5-メチル-1-ヘキセンおよびイソプロピルブチルエーテルからなる群から選択される1種以上を含むことができる。具体的な例として、抽出剤は、トルエンであることができる。
【0028】
水分離塔で抽出剤を供給して抽出する方式は、周知の方式であれば、いかなるものでも可能であり、例えば、十字流(cross current)、向流(counter current)、並流(co-current)など、特に制限なく、如何なる方式でも使用可能である。
【0029】
水分離塔で反応生成物ストリームと抽出剤を接触させて抽出液と抽残液を分離することができる。例えば、抽出液は、抽出剤にアクリル酸が溶解したものであることができ、抽出液は、前記水分離塔の上部排出ストリームとして排出されることができる。ここで、水分離塔の上部排出ストリームは、抽出剤を除去した後、低沸点分離塔に供給されることができる。
【0030】
また、抽残液は、水を含む廃水として、水分離塔の下部に分離されることができる。ここで、水分離塔の下部には、水とともに水溶性副生成物がともに分離され排出されることができる。
【0031】
低沸点分離塔では、水分離塔の上部排出ストリームの供給を受けて蒸留により低沸点副生成物を除去することができ、低沸点副生成物が除去された反応生成物は、低沸点分離塔の下部排出ストリームとして排出されることができる。ここで、アクリル酸分離塔100に供給される精製部30の排出ストリームは、低沸点分離塔の下部排出ストリームであることができる。
【0032】
反応生成物ストリームは、冷却部20および精製部30を順に経て、ガス副生成物、水および低沸点副生成物が除去され得る。
【0033】
前記精製部30の排出ストリームは、アクリル酸、未反応乳酸および高沸点副生成物を含むことができる。精製部30の排出ストリーム内の未反応乳酸の含量は、反応部10で反応および工程条件などに応じて異なる乳酸の転化率によって変化し、例えば、0.5重量%以上、2重量%以上または5重量%以上および10重量%以下、15重量%以下または20重量%以下であることができる。このように、未反応乳酸が反応生成物内に存在した場合、分離工程で回収または除去する必要があるが、従来、未反応乳酸の回収が難しく、ほとんどが高沸点副生成物とともに除去されていたが、本発明では、未反応乳酸を高い回収率で回収することで工程の経済性を向上させた。
【0034】
本発明の一実施形態によると、精製部30の排出ストリームは、アクリル酸分離塔100に供給して乳酸を回収することができる。具体的には、アクリル酸分離塔100は、反応生成物からアクリル酸を分離し、未反応乳酸を回収して再使用するためのものであり得る。
【0035】
アクリル酸分離塔100の運転条件は、精製部30の排出ストリームの組成に応じて各成分を分離する際に分離効率を高めるために調節されることができる。
【0036】
アクリル酸分離塔100の運転圧力は、10torr以上、30torr以上または50torr以上および80torr以下、100torr以下または200torr以下であることができる。アクリル酸分離塔100を前記範囲内の運転圧力で運転する場合、アクリル酸分離塔100でアクリル酸、未反応乳酸および高沸点副生成物それぞれを分離する際に、分離効率が高く、高温で生じる副反応を抑制することができる。
【0037】
精製部30の排出ストリームは、アクリル酸分離塔100の全体の段数に対して、40%以上、50%以上、60%以上または65%以上および80%以下、85%以下または90%以下の段に供給されることができる。ここで、アクリル酸分離塔100の全体の段数は、10段~70段であることができる。例えば、アクリル酸分離塔100の全体の段数が100段である場合、最上段が1段、最下段が100段であることができ、アクリル酸分離塔100の全体の段数の60%~80%の段は、アクリル酸分離塔100の60段~80段を意味し得る。前記アクリル酸分離塔100に供給される精製部30の排出ストリームの供給段を前記範囲で制御することで、アクリル酸分離塔100でアクリル酸、乳酸および高沸点副生成物の分離効率を高めることができる。
【0038】
アクリル酸分離塔100では、上部排出ストリームからアクリル酸を分離し、側部排出ストリームから乳酸を分離し、下部排出ストリームから高沸点副生成物を分離することができる。
【0039】
アクリル酸分離塔100の側面排出ストリームは、アクリル酸分離塔100の全体の段数に対して、20%以上、30%以上、50%以上または55%以上および70%以下、75%以下または80%以下の段から排出されることができる。アクリル酸分離塔100の側部排出ストリームの排出段を前記範囲で制御することで、高純度の未反応乳酸を側面に分離して回収することができ、乳酸が高温に露出する時間を最小化し、且つ高沸点副生成物とともに下部に排出される乳酸の損失を最小化することができる。
【0040】
アクリル酸分離塔100の側面排出ストリームに含まれた未反応乳酸の含量は、精製部30の排出ストリームに含まれた未反応乳酸の含量の70%以上、70%~90%または75%~90%であり得る。アクリル酸分離塔100で側面排出ストリームとして分離された未反応乳酸は、乳酸水溶液と混合して反応部10に供給することができる。アクリル酸分離塔100の側面排出ストリームとして未反応乳酸を回収し、反応部10で再使用することで、工程の経済性を向上させることができる。
【0041】
アクリル酸分離塔100の上部排出ストリームは、コンデンサを通過して、一部のストリームはアクリル酸分離塔100に還流され、残りのストリームとしてアクリル酸を分離することができる。また、アクリル酸分離塔100の下部排出ストリームの一部のストリームは、リボイラを通過して前記アクリル酸分離塔100に還流され、残りのストリームとして高沸点副生成物を分離することができる。
【0042】
アクリル酸分離塔100の上部排出ストリームのうち還流されずアクリル酸を分離するストリームの流量に対するリボイラを通過してアクリル酸分離塔100に還流されるストリームの流量の比は、0.8以上、0.85以上または0.95以上および1.3以下、1.4以下または1.5以下であることができる。前記のように、アクリル酸分離塔100の上部排出ストリームのうち還流されずアクリル酸を分離するストリームの流量に対する下部リボイラを通過して還流されるストリームの流量の比を制御することにより、未反応乳酸が高温で運転されるアクリル酸分離塔100の下部リボイラを経る時間を短縮して、乳酸のオリゴマー化反応が進むことを防止することができる。
【0043】
本発明の一実施形態によると、アクリル酸の製造方法において、必要な場合、蒸留塔、凝縮器、再沸器、バルブ、ポンプ、分離器および混合器などの装置をさらに設置することができる。
【0044】
以上、本発明によるアクリル酸の製造方法について記載および図面に図示しているが、前記の記載および図面の図示は、本発明を理解するための核心的な構成のみを記載および図示したものであって、前記記載および図面に図示している工程および装置以外に、別に記載および図示していない工程および装置は、本発明によるアクリル酸の製造方法を実施するために適宜応用されて用いられることができる。
【0045】
以下、実施例を参照して、本発明をより詳細に説明する。しかし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇および技術思想の範囲内で様々な変更および修正が可能であることは、通常の技術者にとって明白であり、これらのみで本発明の範囲が限定されるものではない。
【0046】
実施例
実施例1
図1に図示された工程フローチャートにしたがって、Aspen社製のAspen Plusシミューレータを用いて、アクリル酸製造工程をシミュレーションした。
【0047】
具体的には、反応部10に、乳酸水溶液と、希釈ガスとして窒素(N2)を供給し、脱水反応によりアクリル酸(AA)を含む反応生成物を製造した。前記反応生成物ストリームを含む反応部10の排出ストリームは冷却部20に供給してガス副生成物を除去し、前記ガス副生成物が除去された反応生成物は精製部30に供給した。前記精製部30で反応生成物から水と低沸点副生成物を除去し、前記水と低沸点副生成物が除去された精製部30の排出ストリームはアクリル酸分離塔100の15段に供給した。ここで、前記アクリル酸分離塔100の全体の段数は20段である。
【0048】
アクリル酸分離塔100で上部排出ストリームは、コンデンサを通過し、一部のストリームを前記アクリル酸分離塔100に還流させ、残りのストリームからアクリル酸を分離した。また、前記アクリル酸分離塔100の下部排出ストリームの一部のストリームは、リボイラを通過して前記アクリル酸分離塔100に還流させ、残りのストリームから高沸点副生成物を分離した。また、前記アクリル酸分離塔100の13段に未反応乳酸を含む側部排出ストリームを分離し、前記アクリル酸分離塔100の側部排出ストリームは前記乳酸水溶液と混合して反応部10に供給した。ここで、前記アクリル酸分離塔100の上部排出ストリームのうち還流されずアクリル酸を分離するストリームの流量に対するリボイラを通過して前記アクリル酸分離塔100に還流する流量の比は1.3に制御した。
【0049】
各ストリームの温度および圧力と各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表1に示した。
【0050】
【0051】
実施例2
前記実施例1で、前記精製部30の排出ストリームを前記アクリル酸分離塔100の10段に供給し、前記アクリル酸分離塔100の8段に未反応乳酸を含む側部排出ストリームを分離した以外は、前記実施例1と同じ方法で行った。
【0052】
ここで、各ストリームの温度および圧力と各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表2に示した。
【0053】
【0054】
比較例
比較例1
図2に図示された工程フローチャートにしたがって、Aspen社製のAspen Plusシミューレータを用いて、アクリル酸製造工程をシミュレーションした。
【0055】
具体的には、反応部に、乳酸水溶液と、希釈ガスとして窒素(N2)を供給して、脱水反応によりアクリル酸(AA)を含む反応生成物を製造した。反応生成物ストリームを含む反応部の排出ストリームを冷却部に供給してガス副生成物を除去し、前記ガス副生成物が除去された反応生成物を精製部30に供給した。精製部で反応生成物から水と低沸点副生成物を除去し、水と低沸点副生成物が除去された精製部の排出ストリームをアクリル酸分離塔100の3段に供給した。ここで、前記アクリル酸分離塔100の全体の段数は段である。
【0056】
前記アクリル酸分離塔100で上部排出ストリームは、コンデンサを通過し、一部のストリームは前記アクリル酸分離塔100に還流させ、残りのストリームからアクリル酸を分離した。また、前記アクリル酸分離塔100の下部排出ストリームの一部のストリームは、リボイラを通過して前記アクリル酸分離塔100に還流させ、残りのストリームから高沸点副生成物と未反応乳酸を分離し、乳酸回収塔200に供給した。
【0057】
前記乳酸回収塔200で上部排出ストリームは、コンデンサを通過し、一部のストリームは前記乳酸回収塔200に還流させ、残りのストリームから未反応乳酸を回収した。また、前記乳酸回収塔200の下部排出ストリームの一部のストリームはリボイラを通過して前記乳酸回収塔200に還流させ、残りのストリームから高沸点副生成物を分離した。前記乳酸回収塔200の上部排出ストリームから回収した乳酸は、前記乳酸水溶液と混合して反応部に供給した。
【0058】
各ストリームの温度および圧力と各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表3に示した。
【0059】
【0060】
表1~表3を参照すると、本発明によるアクリル酸の製造方法で反応生成物から未反応乳酸を回収する実施例1および実施例2の場合、アクリル酸の純度が99.9%~100%であり、乳酸の回収率が75%以上であることを確認することができた。特に、精製部30の排出ストリームの供給段をアクリル酸分離塔100全体の段数の65%~85%の段に制御し、前記アクリル酸分離塔100の側部排出ストリームの排出段を55%~75%に制御し、前記アクリル酸分離塔100の上部排出ストリームのうち還流されずアクリル酸を分離するストリームの流量に対するリボイラを通過して前記アクリル酸分離塔100に還流される流量の比を1~1.5に制御した実施例1の場合、アクリル酸の純度が100%に達し、乳酸の回収率がより高いことを確認することができた。
【0061】
これと比較して、比較例1の場合、従来、アクリル酸分離塔100で下部に高沸点副生成物とともに排出される未反応乳酸を回収するために任意に設計したものであり、前記アクリル酸分離塔100の下部排出ストリームを後段の乳酸分離塔に供給し、前記乳酸分離塔で乳酸を回収することで、前記高濃度の未反応乳酸が前記アクリル酸分離塔100の下部から高温で排出され、後段の塔でまた加熱されるなど、高濃度の状態で高温に曝露される時間が長くなり、平衡反応速度が上昇することによって乳酸のオリゴマー化反応が促進され、未反応乳酸の回収率が低下する問題があり、追加のエネルギーが使用される問題があった。
【国際調査報告】