(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-25
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池のための正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231218BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231218BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536164
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2021085732
(87)【国際公開番号】W WO2022129077
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジヘ・キム
(72)【発明者】
【氏名】イェンス・マーティン・ポールセン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンイム・シン
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ブランジェロ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB12
5H050HA02
5H050HA05
(57)【要約】
Liと、M’と、酸素とを含む電池のための正極活物質であって、M’が、60.0mol%~75.0mol%の含有量aのNiと、0.0mol%~20.0mol%の含有量xのCoと、0.0mol%~35.0mol%の含有量yのMnと、0.0mol%~2.0mol%の含有量zのドーパントDと、0.1mol%~5.0mol%の総含有量cのAl、B及びWと、を含み、当該活物質は、Al含有量AIA、B含有量BA及びW含有量WAを有し、a、x、y、z、c、AlA、BA及びWAは、ICPによって測定され、AlA、BA及びWA、すなわち、正極活物質は、XPS分析で測定すると、平均Al分率AlB、平均B分率BB及び平均W分率WBを示し、ABl/AlA、BB/BA及びWB/WAは、全て1.0より大きく、正極活物質は単結晶粉末である、正極活物質。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン充電式電池のための正極活物質であって、前記正極活物質が粉末であり、前記正極活物質は、Li、M’及び酸素を含み、M’は:
M’に対して60.0mol%~75.0mol%の含有量aのNiと、
M’に対して0.0mol%~20.0mol%の含有量xのCoと、
M’に対して0.0mol%~35.0mol%の含有量yのMnと、
M’に対して0.0mol%~2.0mol%の含有量zのDであって、Dが、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、S、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn及びZrからなる群のうちの少なくとも1つの元素を含む、Dと、
Al及びB及びWであって、Al及びB及びWの総含有量cが、M’に対して0.1mol%~5.0mol%である、Al及びB及びWと、を含み、
a、x、y、z及びcは、ICPによって測定され、
a+x+y+c+zは、100.0mol%であり、
前記正極活物質は、Al含有量AI
A、B含有量B
A及びW含有量W
Aを有し、AI
A、B
A及びW
Aは、ICP分析によって測定され、AI
A、B
A及びW
Aは、a及びx及びyの合計と比較したモル分率として表され、
前記粉末は、XPS分析によって測定すると、平均Al分率Al
B、平均B分率B
B及び平均W分率W
Bを示し、Al
B、B
B及びW
Bは、XPS分析によって測定されたCo、Mn及びNiの分率の合計と比較したモル分率として表され、
比AI
B/AI
A>1.0であり、
比B
B/B
A>1.0であり、
比W
B/W
A>1.0であり、
前記粉末は、単結晶粉末である、正極活物質。
【請求項2】
ICPによって測定すると、M’に対して、aは少なくとも62.0mol%であり、好ましくは、aは少なくとも64.0mol%である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
比Al
B/Al
A>10であり、好ましくは、比Al
B/Al
A>150である、請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
比AI
B/AI
A<800である、請求項1~3のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
比B
B/B
A>10であり、好ましくは、比B
B/B
A>30であり、より好ましくは、比B
B/B
A>115である、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項6】
比B
B/B
A<500である、請求項1~5のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項7】
比W
B/W
A>10であり、好ましくは、比W
B/W
A>50であり、より好ましくは、比W
B/W
A>115である、請求項1~6のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項8】
比W
B/W
A<500である、請求項1~7のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項9】
含有量xにおけるCoが、ICPによって測定すると、M’に対して0.0mol%~2.0mol%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記正極活物質が、レーザー回折粒径分析によって測定すると、2.0μm~7.0μmのメジアン粒径D50
Aを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項11】
M’が、ICPによって測定すると、M’に対して、各々少なくとも0.02mol%の含有量で、Al及びB及びWを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、電池セル。
【請求項13】
ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動ビークル、及びエネルギー貯蔵システムのうちのいずれか1つの電池における、請求項1~11のいずれか一項に記載の正極活物質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン充電式電池のための正極活物質に関する。より詳細には、本発明は、Al、B及びW元素を含む粒子状正極活物質、Al及びB元素を含む当該粒子状正極活物質を含む電池、並びに、ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動ビークル及びエネルギー貯蔵システムのうちのいずれか1つでの電池における当該正極活物質の使用、に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、元素Al、B及びWを含む、リチウムイオン充電式電池(lithium-ion rechargeable battery、LIB)のための単結晶正極活物質粉末に関する。
【0003】
Al及びB元素を含む正極活物質は、例えば、米国特許出願公開第2016/336595号から既に知られている。米国特許出願公開第2016/336595号には、正極活物質粉末が、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(nickel manganese cobalt oxide、NMC)と、Al(OH)3粉末と、B2O3粉末との混合物を含み、続いて400℃で加熱されることが開示されている。NMC中のNi含有量は、約60mol%である。しかしながら、米国特許出願公開第2016/336595号による正極活物質は、初期放電容量(DQ1)が低く、不可逆容量(IRRQ)が高く、内部抵抗(SOC50%におけるDCR)が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、改善された電気化学的特性、例えば、SOC50%において以下のDQ1、IRRQ及びDCRのうちの1つ以上を有する正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、リチウムイオン充電式電池のための正極活物質を提供することによって達成され、正極活物質が粉末であり、正極活物質は、Li、M’及び酸素を含み、M’は:
M’に対して60.0mol%~75.0mol%の含有量aのNiと、
M’に対して0.0mol%~20.0mol%の含有量xのCoと、
M’に対して0.0mol%~35.0mol%の含有量yのMnと、
M’に対して0.0mol%~2.0mol%の含有量zのDであって、Dが、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、S、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn及びZrからなる群のうちの少なくとも1つの元素を含む、Dと、
Al及びB及びWであって、Al及びB及びWの総含有量cが、M’に対して0.1mol%~5.0mol%である、Al及びB及びWと、を含み、
a、x、y、z及びcは、ICPによって測定され、
a+x+y+c+zは、100.0mol%であり、
正極活物質は、Al含有量AIA、B含有量BA及びW含有量WAを有し、AlA、BA及びWAは、ICP分析によって測定され、AlA、BA及びWAは、a及びx及びyの合計と比較したモル分率として表され、
粉末は、XPS分析によって測定すると、平均Al分率AlB、平均B分率BB及び平均W分率WBを示し、AlB、BB及びWBは、XPS分析によって測定されたCo、Mn及びNiの分率の合計と比較したモル分率として表され、
比AlB/AlA>1.0であり、
比BB/BA>1.0であり、
比WB/WA>1.0であり、
粉末は、単結晶粉末である。
【0006】
SOC50%におけるより高いDQ1、より低いIRRQ及びより低いDCRが、実施例によって示され、表3及び表4に提供される結果によって裏付けられるように、本発明による正極活物質を使用して達成されることが実際に観察される。
【0007】
更に、本発明は、本発明の第1の態様による正極活物質を含む電気化学セル、及び電池における本発明の第1の態様による正極活物質の使用、を提供する。
【0008】
更なる手引きによって、本発明の教示をよりよく理解するために、図面が含まれる。当該図面は、本発明の説明を助けることを意図したものであり、本明細書で開示される発明を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1a】単結晶形態を有するEX(実施例)1による正極活物質粉末の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)画像を示している。
【
図1b】単結晶形態を有するEX2による正極活物質粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示している。
【
図2a】充電状態の関数としてのCEX(比較例)1.1、CEX1.2及びEX1に関する-10℃での放電DCRの比較を%で示している。
【
図2b】充電状態の関数としてのCEX2.1、CEX2.2及びEX2に関する-10℃での放電DCR比較を%で示している。
【
図3a】Al2p及びNi3pピークを含む66~80eVの範囲で測定されたEX2のXPSスペクトルを示している。
【
図3b】B1sピークを含む187~197eVの範囲で測定されたEX2のXPSスペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特に定義されていない限り、技術用語及び科学用語を含む、本発明の開示に使用される全ての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。更なるガイダンスによって、本発明の教示をよりよく理解するために、用語の定義が含まれる。本明細書で使用される場合、以下の用語は以下の意味を有する:
「ppm」という用語は、本明細書で使用される場合、質量基準で100万分の1部を意味する。
【0011】
本明細書で使用される場合、パラメータ、量、時間長などの測定可能な値を指す「約」は、指定された値から±20%以下、好ましくは±10%以下、より好ましくは±5%以下、更により好ましくは±1%以下、なおより好ましくは±0.1%以下の変動を、開示された発明でそのような変動が実行に適切である限り、包含することを意味する。但し、「約」という修飾語が指す値自体も具体的に開示されていることを理解されたい。
【0012】
端点による数値範囲の列挙には、列挙された端点だけでなく、その範囲に包含される全ての数値及び分数が含まれる。全ての百分率は、他に定義されていない限り、又はその使用から、及び使用されている文脈において、当業者にとって異なる意味が明らかでない限り、「重量%」と略記される重量百分率として理解されるべきである。
【0013】
本明細書で定義される「メジアン(中央)粒径D50」という用語は、「D50」又は「d50」又は「メジアン粒径」又は「メジアン粒径(d50又はD50)」という用語と互換的に使用することができる。D50は、本明細書において、累積体積%分布の50%における粒径として定義される。D50は、典型的には、レーザー回折粒径分析によって測定される。
【0014】
本明細書で定義される「at%」という用語は、「原子パーセント」という用語と同等であり、原子百分率を示す。所与の元素の濃度表現の「at%」という用語は、関与する化合物中の全ての原子のうち何パーセントが当該元素の原子であるかを意味する。用語「at%」は、用語「mol%」又は「モルパーセント」と同等である。
【0015】
正極活物質は、正極において電気化学的に活性である材料として定義される。活物質とは、所定の時間にわたって電圧変化にさらされたときにLiイオンを捕捉及び放出することができる材料であると理解されたい。
【0016】
正極活物質
第1の態様において、本発明は、リチウムイオン充電式電池のための正極活物質を提供し、正極活物質は粉末であり、正極活物質は、Li、M’及び酸素を含み、M’は、
M’に対して60.0mol%~75.0mol%の含有量aのNiと、
M’に対して0.0mol%~20.0mol%の含有量xのCoと、
M’に対して0.0mol%~35.0mol%の含有量yのMnと、
M’に対して0.0mol%~2.0mol%の含有量zのDであって、Dが、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、S、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn及びZrからなる群のうちの少なくとも1つの元素を含む、Dと、
Al及びB及びWであって、Al及びB及びWの総含有量cが、M’に対して0.1mol%~5.0mol%である、Al及びB及びWと、を含み、
a、x、y、z及びcは、ICPによって測定され、
a+x+y+c+zは、100.0mol%であり、
正極活物質は、Al含有量AIA、B含有量BA及びW含有量WAを有し、AIA、BA及びWAは、ICP分析によって測定され、AIA、BA及びWAは、a及びx及びyの合計と比較したモル分率として表され、
粉末は、XPS分析によって測定すると、平均Al分率AlB、平均B分率BB及び平均W分率WBを示し、AlB、BB及びWBは、XPS分析によって測定されたCo、Mn及びNiの分率の合計と比較したモル分率として表され、
比AIB/AIA>1.0であり、比BB/BA>1.0であり、比WB/WA>1.0であり、
粉末は、単結晶粉末である。
【0017】
単結晶粉末は、SEM画像における少なくとも45μm×少なくとも60μm(すなわち、少なくとも2700μm2)、好ましくは少なくとも100μm x 100μm(すなわち、少なくとも10,000μm2)の視野内にある粉末粒子の80%以上が単結晶形態を有する粉末と考える。
【0018】
粒子は、SEM又はTEMによって観察して、1つのみの粒からなる場合、又は非常に少ない数の最大5つの構成成分粒からなる場合、単結晶形態を有すると見なす。例えば、単結晶形態を有する粒子は、それぞれEX1及びEX2のSEM画像である
図1a及び
図1bに示されている。
【0019】
粒子の単結晶形態の測定の場合、レーザー回折によって測定される粉末のメジアン粒径D50の20%よりも小さい、SEMによって観察される最大直線寸法を有する粒は、無視される。これにより、本質的に単結晶であるが、それらの上にいくつかの非常に小さい他の粒が堆積している場合がある粒を、単結晶形態を有していない、と不注意に見なしてしまうことが回避される。
【0020】
本発明によるリチウムイオン充電式電池のための正極活物質は、実際に、電気化学セルにおいて使用されるときに改善された電気化学的特性を有し、SOC50%においてより高いDQ1、より低いIRRQ及びより低いDCRを達成することができる。これは、表3に示した実施例及びその結果によって例示されている。
【0021】
XPS分析は、粒子の外縁から約10nmの侵入深さで正極活物質粒子の最上層における元素の原子含有量を提供する。粒子の外縁は、「表面」とも呼ばれる。
【0022】
正極活物質粒子の組成は、ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分析、以下ICPとも呼ぶ)及びIC(イオンクロマトグラフィー)などの既知の分析方法によって測定される元素の化学量論に従って、一般式Li1+b(NiaMnyCOxAcDz)1-bO2における添え字a、x、y、z、b、c及びdとして表すことができる。ICP分析は、正極活物質粒子中の元素の重量分率を提供する。
【0023】
好ましくは、正極活物質は、ICPによって測定すると、M’に対して、少なくとも62.0mol%、より好ましくは少なくとも64.0mol%のニッケル含有量aを有する。
【0024】
好ましくは、正極活物質は、ICPによって測定すると、M’に対して、少なくとも0.0mol%、1.0mol%、少なくとも2.0mol%、又は更に少なくとも3.0mol%のコバルト含有量xを有する。本発明は、ICPによって測定すると、M’に対して、0.0、3.0、5.0、7.0、9.0、若しくは10.0mol%、又はそれらの間の任意の値のコバルト含有量xを有する正極活物質を提供する。好ましい実施形態では、正極活物質は、ICPによって測定すると、M’に対して0.0mol%~2.0mol%のコバルト含有量xを有する。
【0025】
好ましくは、正極活物質は、ICPによって測定すると、M’に対して、最大35.0mol%、好ましくは最大でも30.0mol%のマンガン含有量yを有する。好ましくは、正極活物質は、ICPによって測定すると、M’に対して、少なくとも10.0mol%、少なくとも12.0mol%、又は更に少なくとも15.0mol%のマンガン含有量yを有する。本発明は、ICPによって測定すると、M’に対して、15.0、20.0、25.0、若しくは30.0mol%、又はそれらの間の任意の値のマンガン含有量yを有する正極活物質を提供する。
【0026】
好ましくは、本発明は、リチウムと、ニッケル、マンガン及び/又はコバルトの総モル量とのモル比が、0.95≦Li:Me≦1.10である正極活物質を提供し、Meは、Ni、Mn及び/又はCoの総モル分率である。
【0027】
好ましくは、本発明は、本発明の第1の態様による正極活物質を提供し、当該粒子は、Al及びB及びWを含む。ICPによって測定すると、M’に対するAl、B及びWの総含有量は、好ましくは0.1~5.0mol%、より好ましくは0.4~2.0mol%である。
【0028】
好ましくは、AlAは、ICPによって測定すると、0.025~2.0mol%であり、aとxとyとの合計と比較したモル分率として表される。
【0029】
好ましくは、BAは、ICPによって測定すると、0.025~2.0mol%であり、aとxとyとの合計と比較したモル分率として表される。
【0030】
好ましくは、WAは、ICPによって測定すると、0.025~2.0mol%であり、aとxとyとの合計と比較したモル分率として表される。
【0031】
好ましくは、ICPによって測定すると、BAは、少なくとも0.0015であり、言い換えれば少なくとも0.15mol%であり、より好ましくは、BAは、少なくとも0.0018であり、言い換えれば少なくとも0.18mol%であり、aとxとyとの合計と比較したモル分率として表される。
【0032】
好ましくは、AlAは、ICPで測定すると、最大でも0.0080、言い換えれば最大0.8mol%であり、aとxとyとの合計と比較したモル分率として表される。
【0033】
好ましくは、WAは、ICPで測定すると、0.002未満、言い換えれば0.2mol%未満であり、aとxとyとの合計と比較したモル分率として表される。
【0034】
好ましくは、比AlB/AlA>10であり、より好ましくはAlB/AlA>150である。
【0035】
好ましい実施形態では、比AlB/AlA<800である。
【0036】
好ましくは、比BB/BA>10、より好ましくは比BB/BA>30、最も好ましくは比BB/BA>115である。
【0037】
好ましい実施形態では、比BB/BA<500である。
【0038】
好ましくは、比WB/WA>10、より好ましくは比WB/WA>50、最も好ましくは比WB/WA>115である。
【0039】
好ましい実施形態では、比WB/WA<500である。
【0040】
好ましくは、正極活物質は、レーザー回折によって測定すると、2.0μm~9.0μmのメジアン粒径(d50又はD50)を有する。メジアン粒径(d50又はD50)は、Malvern Mastersizer 3000を用いて測定することができる。好ましくは、当該メジアン粒径は、2.0μm~8.0μm、より好ましくは3.0μm~7.0μm、最も好ましくは約4.0μmである。
【0041】
本発明による正極活物質は、実施例によって例示され、表3及び表4に提供した結果によって裏付けられるように、電気化学セルにおいて使用されるとき、SOC50%において、より高いDQ1、より低いIRRQ及びより低いDCRを提供するという目的を達成することが実際に観察される。
【0042】
DQ1及びIRRQは、4.4~3.0V/Li金属ウィンドウ範囲において160mA/gの1C電流定義を使用するコインセル試験手順によって測定され、SOC50%における当該DCRは、-10℃において2000mAh/gの1C電流定義を使用するフルセル試験手順によって測定される。試験手順は、§1.3に更に記載されており、参照により本明細書に含まれる。
【0043】
好ましくは、本発明の第1の態様による正極活物質は、XPSによって同定されるLiAlO2、Al2O3及びLi-B-0化合物を含む。
【0044】
電気化学セル
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による正極活物質を含む、電池セルを提供する。
【0045】
第3の態様では、本発明は、ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動ビークル、及びエネルギー貯蔵システムのうちのいずれか1つの電池における、本発明の第1の態様による正極活物質の使用を提供する。
【実施例】
【0046】
以下の実施例は、本発明を更に明確にすることを意図したものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0047】
1.分析方法の説明
1.1.誘導結合プラズマ
正極活物質粉末の組成は、Agilent 720 ICP-OES(Agilent Technologies,https://www.agilent.com/cs/library/brochures/5990-6497EN%20720-725_ICP-OES_LR.pdf)を使用する誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、ICP)法によって測定する。1グラムの粉末サンプルを、三角フラスコ(Erlenmeyer flask)内の50mLの高純度塩酸(溶液の総重量に対して少なくとも37重量%のHCl)に溶解する。粉末を完全に溶解させるまで、フラスコを時計皿でカバーし、380℃で、ホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコからの溶液を第1の250mLのメスフラスコに注ぐ。
【0048】
その後、第1のメスフラスコを、250mLの標線まで脱イオン水で充填し、続いて、完全な均質化プロセス(1回目の希釈)を行った。第1のメスフラスコからピペットで適切な量の溶液を取り出し、2回目の希釈のために第2の250mLメスフラスコに移し、第2のメスフラスコを250mLの標線まで内部標準要素及び10%塩酸で充填した後、均質化させる。最後に、この溶液をICP測定に使用する。
【0049】
1.2.粒径分布
正極活物質粉末の粒径分布(particle size distribution、PSD)は、粉末試料の各々を水性媒体中に分散させた後、Hydro MV湿式分散付属品を備えたMalvern Mastersizer 3000(https://www.malvernpanalytical.com/en/products/product-range/mastersizer-range/mastersizer-3000#overview)を使用して、レーザー回折粒径分析によって、測定する。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D50は、Hydro MV測定値によるMalvern Mastersizer 3000から取得された累積体積%分布の50%における粒径として定義される。
【0050】
1.3.コインセル試験
1.3.1.コインセルの調製
1.3.1.1.CEX1.1、CEX1.2、EX1、CEX2.1、CEX2.2及びEX2
正極の作製に関しては、溶媒(NMP,Mitsubishi)中に正極活物質粉末、コンダクタ(Super P,Timcal)、バインダー(KF#9305,Kureha)を、重量比90:5:5の配合で含有するスラリーを、高速ホモジナイザーによって作製する。均質化したスラリーを、230μmのギャップを有するドクターブレードコータを使用してアルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングした箔をオーブン内で120℃にて乾燥させ、次いで、カレンダーツールを使用して40μmのギャップでプレスする。
【0051】
次に、これを真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に除去する。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard2320)を、正極と、負極としてのリチウム箔との間に配置する。EC/DMC(1:2)中1MのLiPF6を、電解質として使用し、セパレータと電極との間に滴下する。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0052】
1.3.1.2.EX3.1、及びEX3.2
正極の作製に関しては、溶媒(NMP,Mitsubishi)中に正極活物質粉末、コンダクタ(Super P,Timcal)、バインダー(KF#9305,Kureha)を、重量比96.5:1.5:2.0の配合で含有するスラリーを、高速ホモジナイザーによって作製する。均質化したスラリーを、ドクターブレードコータを使用して170μmのギャップでアルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングした箔を、オーブン内で120℃で乾燥させ、次いで、油圧カレンダーツールを使用して、530バールの圧力でプレスする。
【0053】
次に、これを真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に除去する。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard2320)を、正極と、負極としてのリチウム箔との間に配置する。EC/DMC(1:2)中1MのLiPF6を、電解質として使用し、セパレータと電極との間に滴下する。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0054】
1.3.2.試験方法
試験方法は、従来の「一定のカットオフ電圧」試験である。本発明における従来のコインセル試験は、表1に示したスケジュールに従う。各セルを、Toscat-3100コンピュータ制御ガルバノスタットサイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(Toyo製、http://www.toyosystem.com/image/menu3/toscat/TOSCAT-3100.pdf)を使用して、25℃でサイクルする。
【0055】
1C電流定義は160mAh/gである。初期充電容量(CQ1)及び放電容量(DQ1)は、4.3V~3.0V/Li金属の範囲域(window range)において、0.1CのCレートで、定電流モード(CC)で測定される。
【0056】
不可逆容量IRRQは、以下のように%で表される。
【0057】
【0058】
【0059】
フルセル試験
1.3.3.フルセル調製
2000mAh(フレキシブル)パウチ型セルは以下のように調製する。正極活物質粉末、導電剤としてコンダクタ(Super-P、Timcal(Imerys Graphite&Carbon))、グラファイト(KS6,Timrex(Imerys Graphite&Carbon),http://www.imerys-graphite-and-carbon.com/wordpress/wp-app/uploads/2014/04/Powder-Metallurgy.pdf)、及びバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF 1710,クレハ,https://www.kureha.co.jp/en/business/material/pdf/KFpolymer_BD_en.pdf)を、分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone、NMP)に添加し、正極活物質粉末、導電剤、及びバインダーの重量比を、96/1/1/2にする。その後、混合物を混練して混合スラリーを調製する。次いで、得られた混合スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔から作製された集電体の両面に適用する。適用領域の幅は88.5mmであり、長さは425mmである。正極活物質の典型的な装填重量は、約16.9±0.2mg/cm2である。次いで、電極を乾燥させ、4.5Mpaの圧力を使用して、電極密度3.25±0.05g/cm3までカレンダー加工する。また、正極の端部には、カソード集電体タブとして機能するアルミニウム板がアーク溶接されている。
【0060】
市販の負極が用いられる。要するに、グラファイトと、炭素と、カルボキシ-メチル-セルロース-ナトリウム(carboxy-methyl-cellulose-sodium、CMC)と、スチレンブタジエン-ゴム(styrenebutadiene-rubber、SBR)との重量比95/1/1.5/2.5の混合物を、厚さ8μmの銅箔の両面に適用する。負極の端部には、負極集電体タブとして機能するニッケル板をアーク溶接する。負極活物質の典型的な装填重量は、10±0.5mg/cm2である。
【0061】
エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)とエチルメチルカーボネート(ethyl methyl carbonate、EMC)とジエチルカーボネート(diethyl carbonate、DEC)、体積比1:1:1と、1体積%のビニレンカーボネート(vinylene carbonate、VC)との混合溶媒中に、1.2mol/Lの濃度でヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)塩を溶解させることによって、非水電解質を得る。1重量%のLiPO2F2を含む添加剤を、上記電解質に導入する。
【0062】
螺旋状に巻かれた電極集合体を得るために、正極、負極、及びそれらの間に差し込まれた、厚さ13μmの微多孔質ポリマーフィルム(旭化成)から作製されたセパレータのシートを、巻線コアロッドを使用して螺旋状に巻いた。次いで、集合体及び電解質は、露点-50℃の乾燥室内で、アルミニウム積層されたパウチ内に入れられ、これにより、平坦なパウチ型のリチウム充電式電池が調製される。充電式電池の設計容量は、4.25Vまで充電したときに2000mAhである。非水電解質液を、室温で8時間含浸させる。電池は、その予想される最大容量の15%まで予備充電し、室温で1日エージングする。次いで、電池をガス抜きし、アルミニウムパウチを密封する。使用するための電池を、以下のように調製する:CCモード(定電流)において0.2C(1C=2000mA)の電流を使用して最大4.25V、次いで、CVモード(定電圧)においてC/20のカットオフ電流に達するまで、電池を充電し、その後、CCモードにおいて0.2Cレートで放電して2.7Vのカットオフ電圧まで下げる。
【0063】
1.3.4.フルセル試験
1.3.4.1.フルセルサイクル寿命試験
下記条件下で25℃にて、調製したフルセル電池を数回充放電して、それらの充電-放電サイクルの性能を測定する:
a.1Cレート下のCCモードにおいて最大4.25V、次いで、CVモードにおいてC/20に達するまで、第1の充電を実施し、
b.次いで、セルを、10分間休止するように設定し、
c.CCモードにおいて1Cレートで第1の放電を行って、2.7Vに下げ、
d.次いで、セルを、10分間休止するように設定し、
e.充電-放電サイクルを、電池が約80%の保持容量に達するまで続ける。100サイクル毎に、CCモードにおいて0.1Cレートで放電を一回行って、2.7Vに下げる。
【0064】
1.3.4.2.放電直流抵抗
内部抵抗又は直流抵抗(Direct Current Resistance、DCR)は、以下のように、-10℃で電池に好適なパルス試験によって、測定される:
a.1Cレート下のCCモードにおいて最大4.25V、次いで、CVモードにおいてC/20に達するまで、第1の充電を実施し、
b.次いで、セルを、10分間休止するように設定し、
c.CCモードにおいて1Cレートで第1の放電を行って、90%SOCに下げ、
d.次いで、セルを、20分間休止するように設定し、
e.第2の放電を、1.5Cレートで10秒間実施し、続いて、40秒間休止し、
f.第2の充電を、1.5Cレートで10秒間実施し、続いて、1分間休止し、
g.ステップb~fを、SOC10%に達するまで、10%間隔で繰り返す。DCRを、各SOCレベルで測定し、SOC50%におけるDCRを比較する。
【0065】
1.4.X線光電子分光法(XPS)
本発明では、X線光電子分光法(XPS)を使用して、正極活物質粉末粒子の表面を分析する。XPS測定では、シグナルは、サンプルの最上部、すなわち、表面層の最初の数ナノメートル(例えば、1nm~10nm)から取得される。したがって、XPSによって測定される全ての元素は、表面層に含有されている。
【0066】
正極活物質粉末粒子の表面分析では、XPS測定は、Thermo K-α+分光計(Thermo Scientific,https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/IQLAADGAAFFACVMAHV)を使用して、行う。
【0067】
単色Al Kα放射線(hυ=1486.6eV)は、400μmのスポットサイズ及び45°の測定角度で使用される。表面に存在する元素を特定するための広範な調査スキャンは、200eVのパスエネルギーで実施される。284.8eVの結合エネルギーに最大強度(又は中心)を有するC1sピークは、データ収集後のキャリブレーションピーク位置として使用される。その後、特定された各元素に対して、50eVにて正確なナロースキャンが少なくとも10回スキャンされ、正確な表面組成が測定される。
【0068】
曲線当てはめは、シャーリー型バックグラウンド処理及びスコフィールド感度係数を使用して、CasaXPS Version2.3.19PR1.0(Casa Software,http://www.casaxps.com/)を用いて行う。当てはめパラメータは、表2aによる。線形状GL(30)は、70%ガウス線及び30%ローレンツ線を有するガウス/ローレンツ積公式である。LA(α,β,m)は非対称な線形状であり、式中、α及びβはピークのテール広がりを定義し、mは幅を定義する。
【0069】
【0070】
Al、Co及びWピークについては、表2bに従って各々定義されたピークに関する制約が、設定される。Ni3p及びW5p3は、定量化されていない。
【0071】
【0072】
表2cは、Al及びB関連化合物に関する最大ピーク強度位置範囲の基準を示している。
【0073】
【0074】
*Alピーク1の結合エネルギーの範囲は、構造中にドープされたAlの量によって変化する。
【0075】
XPSによって測定されたAl、B及びWの表面含有量は、粒子の表面層中のAl、B及びWそれぞれの、当該表面層中のNi、Mn及びCoの総含有量で割られたモル分率として表される。これは以下のように計算される。
【0076】
【0077】
2.実施例及び比較例
比較例1
CEX1.1とラベル付けした単結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製する:
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.68Mn0.27Co0.05を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH1)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(continuous stirred tank reactor、CSTR)内での共沈プロセスによって調製する。
【0078】
ステップ2)第1の混合:ステップ1)で調製したTMH1を、工業用ブレンダー内で、LiOHと混合して、リチウムと金属(Ni、Co及びMn)との比が1.03である第1の混合物を得る。
【0079】
ステップ3)1回目の焼成:ステップ2)からの第1の混合物を、酸化雰囲気中で、925℃で10時間焼成して、第1の焼成粉末を得、続いて、エアジェットミリング及び篩い分けを行う。
【0080】
ステップ4)第2の混合:ステップ3)から得られたミリングされた粉末を、工業用ブレンダー内で、各々ミリングされた粉末中のNi、Mn及びCoの総モル含有量に対して、アルミナ粉末(Al2O3)からの500ppmのAl、Co3O4粉末からの2.0mol%のCo、ZrO2粉末からの0.25mol%のZr、及びLiOHからの2.0mol%のLiと混合して、第2の混合物を得る。
【0081】
ステップ5)第2の焼成:ステップ4)からの第2の混合物を、酸素雰囲気中、775℃で12時間焼成して、第2の焼成体を得る。
【0082】
ステップ6)粉砕及び篩い分け:ステップ5)から得られた第2の焼成体を粉砕し、アルミナ粉末と一緒に篩い分けする。500ppmのAlを含む篩い分けされた粉末は、Malvern Mastersizer 3000で測定されたレーザー回折によって測定すると、4μmのメジアン粒径を有する。
【0083】
ステップ7)第3の混合:工程6)からの篩い分けされた粉末を、工業用ブレンダー内でH3BO3粉末と混合して、500ppmのBを含む第3の混合物を得る。
【0084】
ステップ8)第3の焼成:ステップ7)からの第3の混合物を、酸化雰囲気中で、375℃にて7時間焼成し、続いて、粉砕し、ステップ5)からの混合物の総重量に対して500ppmの、アルミナ粉末からのAlと一緒に篩い分けする。このステップからの生成物は、CEX1.1とラベル付けした粉砕粉末である。
【0085】
ステップ3)におけるエアジェットミリングにより、CEX1.1は、単結晶粉末である。
【0086】
CEX1.1は、米国特許出願公開第2016/336595号の文献によるものである。
【0087】
CEX1.2は、より多くのH3BO3粉末がステップ7)において添加されることを除いて、CEX1.1と同じ方法に従って調製して、1000ppmのBを含む第3の混合物を得る。
【0088】
実施例1
EX1は、ステップ7)において、WO3粉末をH3BO3粉末と一緒に添加することを除いて、CEX1.1と同じ方法に従って調製し、500ppmのB及び2000ppmのWを含む第3の混合物を得る。
【0089】
比較例2
CEX2.1とラベル付けした単結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製する:
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.73Mn0.20Co0.07を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH2)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈プロセスによって調製する。
【0090】
ステップ2)第1の混合:ステップ1)で調製したTMH2を、工業用ブレンダー内で、LiOHと混合して、リチウムと金属(Ni、Co及びMn)との比が1.00である第1の混合物を得る。
【0091】
ステップ3)第1の焼成:ステップ2)からの第1の混合物を、酸化雰囲気中で、915℃にて11時間焼成して、第1の焼成粉末を得る。
【0092】
ステップ4)湿式ビーズミリング:ステップ3)からの第1の焼成粉末を、第1の焼成粉末中のNi、Mn及びCoの総モル含有量に対して0.5mol%のCoを含有する溶液中でビーズミリングし、続いて、粉砕及び篩い分けプロセスによって、ミリングされた粉末を得る。ビーズミリング固体と溶液との重量比は65%である。
【0093】
ステップ5)第2の混合:ステップ4)から得られたミリングされた粉末を、工業用ブレンダー内で、各々ミリングされた粉末中のNi、Mn及びCoの総モル含有量に対して、CO3O4粉末からの2.0mol%のCo、ZrO2粉末からの0.25mol%のZr、及びLiOHからの8.5mol%のLiと混合して、第2の混合物を得る。
【0094】
ステップ6)第2の焼成:ステップ5)からの第2の混合物を、酸素雰囲気中、775℃で12時間焼成して、第2の焼成体を得る。
【0095】
ステップ7)粉砕及び篩い分け:ステップ6)から得られた第2の焼成体を、粉砕し、アルミナ粉末と一緒に篩い分けして、篩い分けされた粉末を得る。500ppmのAlを含む篩い分けされた粉末は、Malvern Mastersizer 3000で測定されたレーザー回折によって測定すると、3.5μmのメジアン粒径を有する。
【0096】
ステップ8)第3の混合:工程7)からの篩い分けされた粉末を、工業用ブレンダー内でH3BO3粉末と混合して、500ppmのBを含む第3の混合物を得る。
【0097】
ステップ9)第3の焼成:ステップ8)からの第3の混合物を、酸化雰囲気中で、375℃にて7時間焼成し、続いて、粉砕し、ステップ9)からの混合物の総重量に対して500ppmの、アルミナ粉末からのAlと一緒に篩い分けする。このステップからの生成物は、CEX2.1とラベル付けした粉砕粉末である。
【0098】
ステップ4)における湿式ミリングにより、CEX4.1は、単結晶粉末である。
【0099】
CEX2.2は、より多くのH3BO3粉末がステップ8)において添加されることを除いて、CEX2.1と同じ方法に従って調製して、1000ppmのBを含む第3の混合物を得る。
【0100】
実施例2
EX2は、ステップ8)においてWO3粉末をH3BO3粉末と一緒に添加することを除いて、CEX2.1と同じ方法に従って調製して、500ppmのB及び2000ppmのWを含む第3の混合物を得る。
【0101】
比較例3
CEX3とラベル付けした単結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製する:
ステップ1)遷移金属酸化水酸化物前駆体の調製:金属組成Ni0.70Mn0.30を有するニッケル系遷移金属酸化水酸化物粉末(TMH3)を、混合したニッケルマンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)内での共沈プロセスによって調製する。ステップ2)第1の混合:ステップ1)で調製したTMH2を、工業用ブレンダー内で、LiOHとZrO2と混合して、リチウムの金属(Ni、Co及びMn)に対する比が1.05及び1000ppmのZrを有する第1の混合物を得る。
【0102】
ステップ3)第1の焼成:ステップ2)からの第1の混合物を、酸化雰囲気中で、935℃にて10時間焼成して、第1の焼成粉末を得る。
【0103】
ステップ4)湿式ビーズミリング:ステップ3)からの第1の焼成粉末を、ビーズミリングし、続いて粉砕及び篩い分けプロセスによって、ミリングされた粉末を得る。ビーズミリング固体と溶液との重量比は60%である。
【0104】
ステップ5)第2の焼成:ステップ4)から得られたビーズミリングされた粉末を、空気中で、775℃にて12時加熱して、CEX3とラベル付けした第2の焼成粉末を得る。
【0105】
ステップ4)における湿式ミリングにより、CEX3は、単結晶粉末である。
【0106】
実施例3
EX3とラベル付けした単結晶正極活物質を、以下のステップに従って調製する:
ステップ1)混合:CEX3を、工業用ブレンダー内で、各々CEX3中のNi、Mn及びCoの総モル含有量に対して、Al2O3粉末からの250ppmのAl、H3BO3粉末からの250ppmのB及びWO3粉末からの3000ppmのWと混合して、混合物を得る。
【0107】
ステップ2)焼成:ステップ1)からの混合物を、酸素雰囲気中、375℃で8時間焼成して、焼成体を得る。生成物を、粉砕し、EX3とラベル付けする。
【0108】
【0109】
*ICP測定により算出したとき、M’は、ICPにより分析したときの他の元素の総モル分率である。
n.a:データなし
【0110】
【0111】
【0112】
*ICPによって分析されたNi、Mn及びCoの総モル分率に対して計算された。
**XPSによって分析されたNi、Mn及びCoの総モル分率に対して計算された。
【0113】
表3に、実施例及び比較例の組成並びにそれらの対応する電気化学的特性を要約する。CEX1.1とCEX1.2との比較は、CEX1.2において余分なBを添加すると、DQ1がわずかに増加し、IRRQが減少するが、同時に、SOC50%における高いDCRによって示された望ましくない内部抵抗が増加することを示している。一方、CEX1.1及びCEX1.2と同じNi/M’含有量を有するEX1は、コインセル試験においてより高いDQ1及びより低いIRRQ、SOC50%においてより低いDCR、並びにフルセル試験においてより良好なサイクル寿命を実証しており、Wの存在の必要性を示している。同様に、CEX2.1及びCEX2.2と同じNi/M’含有量を有するEX2は、コインセル試験においてより高いDQ1及びより低いIRRQ、並びにフルセル試験においてSOC50%にてより低いDCRを実証している。
図2a及び
図2bは、SOC10%からSOC90%までの完全放電DCR測定を示しており、EX1及びEX2は両方とも、実施例及び反例の各Ni/M’群の中で、全てのSOC%において最低の放電DCRを示している。
【0114】
表4は、共に70:30mol%のNi:MnでCEX3とEX3との間の電気化学的特性の比較を示している。Al、B及びWを全て含むEX3は、より高いDQ1及びより低いIRRQによって示された電気化学的特性の改善を示している。
【0115】
上記表3及び表4は、EX1、EX2及びEX3におけるAl、B及びWの存在が、本発明による正極活物質のDQ1及びIRRQの電気化学的特性を改善するのに有利であることを示している。
【0116】
表5は、Ni、Mn及びCoの総モル分率に対するAl、B及びWの分率を示しているEX2のXPS分析結果をまとめたものである。表5はまた、ICPの分析結果とも比較している。1より高いモル比は、試料の最上部の、すなわち、表面層の最初の数ナノメートル(例えば1nm~10nm)からシグナルが取得されるXPS測定に関連して、当該Al、B及びWが正極活物質の表面において濃縮されることを示唆している。一方、ICP測定からのAl、B及びWのモル比は、粒子全体から得られる。したがって、XPSのICPに対する比が1より大きいということは、当該元素Al、B又はWが主に正極活物質の表面上に存在することを示している。XPSのICPに対する比が1より高いのは、EX2におけるAl、B及びWについて観察される。
【0117】
製造方法から、EX1もまた、ICPによって測定された場合と比較して、XPSによって測定されたAl、B及びWの存在率の比が1よりも著しく高いことに留意されたい。
【0118】
更に、XPSピーク位置は、調製プロセスに由来する化合物と関連付けられる。
図3aは、Ni3pピークと重なるEX2のAlピークを示しており、
図3bは、EX2のB1sピークを示している。ピークデコンボリューションを実施して、表2cに列挙した基準によるピーク位置に基づいて各化合物の寄与を分離する。3つの異なるAl含有化合物及びNi3p寄与が
図3aで分離されており、その結果は、EX2が、表面上にAl
2O
3、LiAlO
2及びLiAl
nMe
1-nO
2を含むことを示している。
図3bでは、B1sピークは、H
3BO
3に属するピーク、及び同様のピーク位置を有するLi-B-O化合物に属する別のピークにデコンボリューションされている。Li-B-O化合物は、Li
2B
4O
7及びLi
4B
2O
5であり得るが、これらに限定されない。
【国際調査報告】