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特表2023-553800カソード活物質の多段階製造方法、及びカソード活物質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-26
(54)【発明の名称】カソード活物質の多段階製造方法、及びカソード活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231219BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231219BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231219BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20231219BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M4/131
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023530796
(86)(22)【出願日】2021-11-10
(85)【翻訳文提出日】2023-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2021081174
(87)【国際公開番号】W WO2022106268
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】20209036.1
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ゾンマー,ハイノ
(72)【発明者】
【氏名】リーヴァルト,フェリクス フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】クルツハルス,フィリップ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA23
5H050GA02
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、電極活物質を製造する方法に関し、ここで、前記方法が、以下の工程:
(a)水酸化物TM(OH)、又は少なくとも1種の酸化物TMO、又は少なくとも1種のTMのオキシ水酸化物、又は上記の少なくとも2種の組み合わせを提供する工程であって、TMが、1種以上の金属であり、少なくとも97モル%のNi、及び任意に合計で3モル%以下の、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba及びMnから選択される少なくとも1種の金属を含有する、工程と、
(b)前記水酸化物TM(OH)、又は酸化物TMO、又はTMのオキシ水酸化物、又は組み合わせを、リチウム源及びMg源と混合する工程であって、(Li+Mg)のモル量がTMの75~95モル%に相当する、工程と、
(c)工程(b)から得られる混合物を450~650℃の範囲の温度で熱処理して、それによって中間体を得る工程と、
(d)工程(c)からの中間体を、Li源、及びAl、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo及びWから選択される金属Mの少なくとも1種の化合物と混合する工程と、
(e)工程(d)から得られる混合物を500~850℃の範囲の温度で熱処理する工程と
を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質を製造する方法であって、前記方法が、以下の工程:
(a)水酸化物TM(OH)、又は少なくとも1種の酸化物TMO、又は少なくとも1種のTMのオキシ水酸化物、又は上記の少なくとも2種の組み合わせを提供する工程であって、TMが、1種以上の金属であり、少なくとも97モル%のNi、及び任意に合計で3モル%以下の、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba及びMnから選択される少なくとも1種の金属を含有する、工程と、
(b)前記水酸化物TM(OH)、又は酸化物TMO、又はTMのオキシ水酸化物、又は組み合わせを、リチウム源及びMg源と混合する工程であって、(Li+Mg)のモル量がTMの75~95モル%に相当する、工程と、
(c)工程(b)から得られる混合物を450~650℃の範囲の温度で熱処理して、それによって中間体を得る工程と、
(d)工程(c)からの中間体を、Li源、及びAl、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo及びWから選択される金属Mの少なくとも1種の化合物と混合する工程と、
(e)工程(d)から得られる混合物を500~850℃の範囲の温度で熱処理する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
(Li+Mg)と(TM+M)の合計モル比が1:1~1.05:1の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)において、LiとMgのモル比が200:1~25:1の範囲である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
Mg源がMg(OH)及びMgOから選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)において、Al源が添加される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(e)における温度が、工程(c)における温度よりも高い、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(c)及び(e)が、少なくとも80体積%の酸素の雰囲気中で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
とTMのモル比が1:50~1:250の範囲である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
一般式(LiMg1+x(TM 1-x
(式中、TMは、少なくとも97モル%のNi、及び任意に1モル%以下の、Ti、Al、Zr、V、Co、Zn、Ba及びMnから選択される少なくとも1種の金属を含有し、
はAl、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo及びWから選択され、
a:bは40:1~200:1の範囲であり、a+b=1であり、
c:dは50:1~250:1の範囲であり、c+d=1であり、
(Li+Mg)と(TM+M)の合計モル比は1:1~1.05:1の範囲であり、
0.00≦x≦0.05である)
による粒子状電極活物質。
【請求項10】
TMがニッケルである、請求項9に記載の粒子状電極活物質。
【請求項11】
が、Al、Co、Zr、又は上記の少なくとも2種の組み合わせである、請求項9又は10に記載の粒子状電極活物質。
【請求項12】
前記電極活物質が一次粒子の凝集体である二次粒子から構成され、Mが一次粒子の表面で濃縮している、請求項9から11のいずれか一項に記載の粒子状電極活物質。
【請求項13】
(A)少なくとも1種の、請求項9から12のいずれか一項に記載の電極活物質、
(B)導電状態の炭素、
(C)バインダー材料
を含有する、カソード。
【請求項14】
(A)、(B)及び(C)の合計に基づいて、
(A)80~98質量%のカソード活物質、
(B)1~17質量%の炭素、
(C)3~10質量%のバインダー材料
を含有する、請求項13に記載のカソード。
【請求項15】
少なくとも1つの請求項13又は14に記載のカソードを含有する、電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード活物質を製造する方法に関し、ここで、前記方法が、以下の工程:
(a)水酸化物TM(OH)、又は少なくとも1種の酸化物TMO、又は少なくとも1種のTMのオキシ水酸化物、又は上記の少なくとも2種の組み合わせを提供する工程であって、TMが、1種以上の金属であり、少なくとも97モル%のNi、及び任意に合計で3モル%以下の、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba及びMnから選択される少なくとも1種の金属を含有する、工程と、
(b)前記水酸化物TM(OH)、又は酸化物TMO、又はTMのオキシ水酸化物、又は組み合わせを、リチウム源及びMg源と混合する工程であって、(Li+Mg)のモル量がTMの75~95モル%に相当する、工程と、
(c)工程(b)から得られる混合物を450~650℃の範囲の温度で熱処理して、それによって中間体を得る工程と、
(d)工程(c)からの中間体を、Li源、及びAl、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo及びWから選択される金属Mの少なくとも1種の化合物と混合する工程と、
(e)工程(d)から得られる混合物を500~850℃の範囲の温度で熱処理する工程と
を含む。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新の装置である。携帯電話及びラップトップコンピュータなどの小型の装置からカーバッテリー及び他のE-モビリティ(e-mobility)用バッテリーまで、多くの応用分野が考えられてきた。電解質、電極材料及びセパレータなどの様々な電池の構成要素は、電池の性能に関して重要な役割を有する。カソード材料は特に注目されている。いくつかの材料、例えばリチウム鉄ホスフェート、リチウムコバルトオキシド、及びリチウムニッケルコバルトマンガンオキシドが提案されてきた。広範な研究調査が行われてきているが、これまでに見出された解決策は未だに改善の余地がある。
【0003】
現在、いわゆるNiリッチ(Niの量が多い)電極活物質、例えば、TM総含有量に対して75モル%以上のNiを含有する電極活物質への特定の関心が観察される。
【0004】
特定のNiリッチ材料はLiNiO(しばしばLNOと略称される)である。しかしながら、純LNOにはさまざまな欠点があり、商業的な利用への関心が低下している。これらの欠点の中で最も重要なのは、Liの化学量論から外れる傾向(Li1-zNi1+z)、及び(電気)化学、機械又は熱的性質であり得るその脱リチウム化状態の様々な不安定性問題により、化学量論的LiNiOの合成が難しいことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた電気化学特性、特に良好な容量保持率を有するNiリッチ電極活物質の製造方法を提供することであった。また、本発明の目的は、優れた電気化学特性を有するNiリッチ電極活物質を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、以下で本発明の方法とも呼ばれる、冒頭で定義された方法が見出された。本発明の方法は、以下の工程:
(a)水酸化物TM(OH)、又は少なくとも1種の酸化物TMO、又は少なくとも1種のTMのオキシ水酸化物、又は上記の少なくとも2種の組み合わせを提供する工程であって、TMが、1種以上の金属であり、少なくとも97モル%のNi、及び任意に合計で3モル%以下の、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba及びMnから選択される少なくとも1種の金属を含有する、工程と、
(b)前記水酸化物TM(OH)、又は酸化物TMO、又はTMのオキシ水酸化物、又は組み合わせを、リチウム源及びMg源と混合する工程であって、(Li+Mg)のモル量がTMの75~95モル%に相当する、工程と、
(c)工程(b)から得られる混合物を450~650℃の範囲の温度で熱処理して、それによって中間体を得る工程と、
(d)工程(c)からの中間体を、Li源、及びAl、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo及びWから選択される金属Mの少なくとも1種の化合物と混合する工程と、
(e)工程(d)から得られる混合物を500~850℃の範囲の温度で熱処理する工程と
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
したがって、本発明の方法は、本発明の文脈においてそれぞれ工程(a)、工程(b)、工程(c)、工程(d)及び工程(e)とも呼ばれる4つの工程(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)を含む。好ましくは、この5つの工程は続いて行われる。
【0008】
本発明の方法は、水酸化物TM(OH)、又は少なくとも1種の酸化物TMO、又は少なくとも1種のTMのオキシ水酸化物、又は上記の少なくとも2種の組み合わせから出発する。このような水酸化物TM(OH)、又は少なくとも1種の酸化物TMO、又はTMのオキシ水酸化物では、TMが、少なくとも99モル%のNi、及び任意に合計で3モル%以下、好ましくは1モル%以下のみの、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba及びMnから選択される少なくとも1種の金属を含有する。より好ましくは、TMは、少なくとも99.5モル%のNi、及び任意に合計で0.5モル%以下の、Ti、Zr及びCoから選択される少なくとも1種の金属、及び微量のみのV、Zn、Ba及びMnを含有する。さらにより好ましくは、TMはNiである。Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba及びMnなどの金属の量及び種類は、誘導結合プラズマ(「ICP」)及びシンクロトロンXRDによって決定されてもよい。
【0009】
工程(a)で提供されるTM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物は、好ましくは、球状の形状を有する粒子を指す球状の粒子から構成される。球状の粒子には、正確に球状のものだけでなく、代表サンプルの少なくとも90%(数平均)の最大直径及び最小直径が10%以下異なる粒子も含む。
【0010】
本発明の一実施態様において、工程(a)で提供されるTM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物は、一次粒子の凝集体である二次粒子から構成される。好ましくは、工程(a)で提供されるTM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物は、一次粒子の凝集体である球状の二次粒子から構成される。さらにより好ましくは、工程(a)で提供されるTM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物は、球状の一次粒子又はプレートレットの凝集体である球状の二次粒子から構成される。
【0011】
本発明の一実施態様において、工程(a)で提供されるTM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法(electroacoustic spectroscopy)によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0012】
一部の元素は遍在するものである。本発明の文脈において、不純物としての微量のナトリウム、カルシウム又は亜鉛などの遍在金属は、本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、出発材料の全金属含有量に対して0.02モル%以下の量を意味する。
【0013】
本発明の一実施態様において、TMは、合計で3モル%以下の、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMn、及び上記の少なくとも2種の組み合わせから選択される少なくとも1種の金属を含有し、Al及びZrが好ましい。前記Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMn、及び上記の少なくとも2種の組み合わせは、Ni(OH)又はNiO又はオキシ水酸化ニッケルの粒子中で均一に分布してもよく、又は表面で濃縮してもよく、均一な分布が好ましい。
【0014】
工程(a)で提供されるTM(OH)は、Ni、及び該当する場合、合計で3モル%以下の、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMnから選択される少なくとも1種の金属を、アルカリ金属水酸化物で、必要に応じて、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMnから選択される前記金属(単数又は複数)の少なくとも1種の化合物を含有する硫酸ニッケルの水溶液から沈殿し、続いて濾過及び乾燥することにより製造することができる。
【0015】
工程(a)で提供されるTMO及びTMのオキシ水酸化物は、TM(OH)を加熱し、それにより水を除去することにより製造することができる。
【0016】
TMのオキシ水酸化物は、水酸化物として化学的に結合した水、又は残留水分を有する、非化学量論的オキシ水酸化物を含むことを意味する。
【0017】
工程(b)では、工程(a)で提供された前記水酸化物TM(OH)又は酸化物TMO又はTMのオキシ水酸化物又は組み合わせを、リチウム源及びMg源と混合され、ここで、(Li+Mg)のモル量がTMの75~95モル%に相当する。
【0018】
リチウム源の例は、リチウムの無機化合物、例えばLiNO、LiO、LiOH及びLiCOであり、LiO、LiOH及びLiCOが好ましく、結晶化水はリチウム源の文脈では無視され、LiOHがさらにより好ましい。
【0019】
本発明の一実施態様において、前記リチウム源は、1~5μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。
【0020】
Mg源の例は、硝酸マグネシウム、MgO、MgCO、Mg(HCO及びMg(OH)であり、MgO及びMg(OH)が好ましく、結晶化水はマグネシウム源の文脈では無視される。Mg(OH)がさらにより好ましい。
【0021】
本発明の一実施態様において、前記マグネシウム源は、動的光散乱によって決定可能な、50nm~1μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。
【0022】
工程(b)の一実施態様において、Al、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo又はWの源も添加される。Al、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo又はWの好適な源については、以下でさらに説明する。
【0023】
工程(b)の一実施態様において、LiとMgのモル比は200:1~25:1の範囲であり、100:1~30:1が好ましい。
【0024】
工程(b)は、1つの操作として行うことができるが、工程(b)は、TM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物又は組み合わせを前記リチウム源と混合するサブ工程と、次にマグネシウム源の溶液を添加するサブ工程とを含むとが好ましい。前記サブ工程は、以下でより詳細に説明される。しかし、工程(b)を一段階で行うか、又は最初にリチウム源とマグネシウム源を混合するサブ工程(b1)、次いで得られた混合物をTM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物と組み合わせるサブス工程(b2)を行うことが好ましい。
【0025】
工程(b)は、それぞれの成分をミキサー、例えばプラウシェアミキサー又はタンブルミキサーで混合することにより行うことができる。実験室規模の実験では、ボールミル及びローラーミルを適用することも可能である。
【0026】
工程(b)は、水又は有機溶媒の添加で行うことができるが、サブ工程(b)又は任意のサブ工程において、有機溶媒又は水を添加しないことが好ましい。
【0027】
工程(b)の好ましい持続時間は、1分~60分の範囲である。
【0028】
工程(b)において、混合物が得られる。
【0029】
サブ工程(b1)は、リチウム源とマグネシウム源をミキサー、例えばプラウシェアミキサー又はタンブルミキサーで混合することによって行うことができる。実験室規模の実験では、ボールミル及びローラーミルを適用することも可能である。サブ工程(b1)から混合物が得られる。サブ工程(b1)に続いて、サブ工程(b2)が行われる。サブ工程(b2)では、水酸化物TM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物又は組み合わせMg源をサブ工程(b1)からの混合物に添加する。
【0030】
サブ工程(b1)及び(b2)は、水又は有機溶媒の添加で行うことができるが、サブ工程(b1)において有機溶媒又は水を添加しないことが好ましい。サブ工程(b1)及びサブ工程(b2)の好ましい持続時間は、1分~30分の範囲である。
【0031】
サブ工程(b)を加熱下で行うことは可能であるが、工程(b)の過程で追加の加熱を行わないことが好ましい。
【0032】
本発明の一実施態様において、工程(b)は常圧で行われる。しかし、高圧で、例えば常圧より10ミリバール~10バール高い圧力で、又は吸引しながら、例えば常圧より50~250ミリバール低い圧力で、好ましくは常圧より100~200ミリバール低い圧力で、工程(b)を行うことが好ましい。
【0033】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、容器に、TM(OH)又は酸化物TMO又はTMのオキシ水酸化物と、リチウム源と、次に前記Mg源を充填することにより行われる。
【0034】
本発明の一実施態様において、工程(b)ではアルミニウム源も添加される。好適な源は、例えばAl(NO、Al、Al(OH)、AlOOH、Al・aqであり、AlOOH及びAl、特にγ-Alが好ましい。前記アルミニウム源は、水溶液、水性スラリーとして、又は粒子形態で添加することができ、粒子形態が好ましい。
【0035】
本発明の一実施態様において、前記Al源は、動的光散乱によって決定可能な、0.5~5μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。
【0036】
本発明の一実施態様において、Al源の量は、MgとAlのモル比が5:1~1:5の範囲にあるような量である。
【0037】
工程(c)は、工程(b)から得られた混合物を、450~650℃、好ましくは475~575℃の範囲の温度で熱処理することを含む。
【0038】
工程(c)は、任意のタイプのオーブン、例えばローラーハースキルン、プッシャーキルン、ロータリーキルン、振り子キルン、又は実験室規模の試験の場合にマッフルオーブンで行うことができる。
【0039】
450~650℃の温度は、工程(c)の最高温度に対応する。
【0040】
工程(b)で得られた混合物を直接工程(c)に供することが可能である。しかしながら、温度を段階的に上昇させること、又は温度を上徐々に昇させることが好ましい。前記段階的な温度上昇又は徐々の温度上昇は、常圧、又は減圧下、例えば1~500ミリバールで行うことができる。
【0041】
その最高温度での工程(c)は、常圧下で行うことができる。
【0042】
工程(c)は、酸素含有雰囲気、例えば少なくとも80体積%の酸素を含む酸素富化空気、又は純酸素下で行われる。
【0043】
本発明の一実施態様において、工程(b)及び(c)は、低減されたCO含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(c)を行うことがさらにより好ましい。
【0044】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、ローラーハースキルン、プッシャーキルン又はロータリーキルン、又は前記の少なくとも2つの組み合わせで行われる。ロータリーキルンは、そこで製造される材料の均質化が非常に良好であるという利点を有する。ローラーハースキルン及びプッシャーキルンでは、異なる工程に関する異なる反応条件を非常に容易に設定することができる。実験室規模の実験では、箱型炉、管状炉、及び分割管状炉も使用可能である。
【0045】
本発明の一実施態様において、本発明の工程(c)は、例えば空気、酸素及び酸素富化空気のような気体の強制流の下で行われる。このようなガスの流れは、強制ガス流と呼ばれることがある。そのようなガスの流れは、1kgの工程(b)からの混合物当たり0.5~15m/h範囲の比流量を有することができる。なお、体積は、通常の条件下(298ケルビン及び1気圧)下で決定される。前記強制ガス流は、水のようなガス状の開裂生成物を除去するのに有用である。
【0046】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、2~30時間の範囲の持続時間を有する。10~24時間が好ましい。本発明の文脈において、冷却時間は無視される。
【0047】
工程(c)から、中間体が得られる。好ましくは、前記中間体を室温まで冷却させる。
【0048】
工程(d)は、工程(c)からの中間体を、Li源、及びAl、Co、Mn、Nb、Ta、Mo、Zr、W及び上記の少なくとも2種の組み合わせから選択される金属Mの少なくとも1種の化合物と混合することを含む。Al、Co、Zr、及び上記の少なくとも2種の組み合わせが好ましい。このようなMの化合物は、硝酸塩又はハロゲン化物であってもよいが、酸化物、水酸化物及びオキシ水酸化物が好ましい。
【0049】
本発明の一実施態様において、MとTMのモル比は、1:33~1:500、好ましくは1:50~1:250の範囲である。前記モル比は合計モル比であり、少なくとも2つの元素Mが選択される場合には、すべての元素Mを指す。
【0050】
工程(d)におけるリチウム源の例は、工程(b)と同様であり、したがって、リチウムの無機化合物、例えばLiNO、LiO、LiOH及びLiCOであり、LiO、LiOH及びLiCOが好ましく、結晶化水はリチウム源の文脈では無視され、工程(b)及び(d)の両方においてLiOHがさらにより好ましい。
【0051】
Al源の例は、Al(NO、Al、Al(OH)、AlOOH、Al・aqであり、Al(OH)、AlOOH及びAl、特にγ-Alが好ましい。
【0052】
Co源の例は、Co(NO、Co(OH)、CoO、CoCO、Co及びCoであり、Co(OH)、CoO、Co及びCoが好ましい。
【0053】
Mn源の例は、MnCO及びMnOであり、MnOが好ましい。
【0054】
Nb源の例は、Nb、Nb、及びニオブ酸、Nb・HOである。ニオブ酸では、水の量は必ずしも化学量論的ではない。
【0055】
Ta源の例は、Ta、Ta、Taである。
【0056】
Mo源の例は、Mo、MoO、LiMoOである。
【0057】
W源の例は、W、WO、LiWOである。
【0058】
Zr源の例は、ZrO、ZrO(OH)及びZr(OH)である。
【0059】
本発明の一実施態様において、Mの源の平均直径(D50)は、好ましくは10nm~100μm、好ましくは20nm~20μmの範囲である。好ましいのは、LASER回折又は動的光散乱(「DLS」)によって測定される、10nm~50nmの範囲の平均直径(D50)を有するいわゆるナノ粒子状のMの酸化物又は水酸化物、及び一般に例えば100nm~2μmの平均直径(D50)を有するMの酸化物又は水酸化物である。10~50nmの範囲の平均直径(D50)を有する、Ta、Mo及びWなどのナノ金属も好適である。
【0060】
工程(d)における化学量論は、(Li+Mg)と(TM+M)の合計モル比が1:1~1.05:1の範囲にあるように選択されてもよい。
【0061】
混合は、必要な変更を加えて、工程(b)と同時に行うことができる。
【0062】
工程(e)は、工程(d)から得られた混合物を、500~850℃の範囲の温度で熱処理することを含む。
【0063】
工程(e)は、任意のタイプのオーブン、例えばローラーハースキルン、プッシャーキルン、ロータリーキルン、振り子キルン、又は実験室規模の試験の場合にマッフルオーブンで行うことができる。
【0064】
500~850℃の温度は、工程(e)の最高温度に対応する。
【0065】
工程(d)で得られた混合物を直接工程(e)に供することが可能である。しかしながら、温度を段階的に上昇させること、又は温度を上徐々に昇させることが好ましい。前記段階的な温度上昇又は徐々の温度上昇は、常圧、又は減圧下、例えば1~500ミリバールで行うことができる。
【0066】
その最高温度での工程(e)は、常圧下で行うことができる。
【0067】
工程(e)は、酸素含有雰囲気、例えば少なくとも80体積%の酸素を含む酸素富化空気、又は純酸素下で行われる。
【0068】
本発明の一実施態様において、工程(e)は、2~30時間の範囲の持続時間を有する。6~24時間が好ましい。本発明の文脈において、冷却時間は無視される。
【0069】
工程(c)及び(e)の温度間隔は、重なっている。本発明の一実施態様において、工程(e)の温度は、工程(c)の温度よりも高く、例えば少なくとも50℃だけ高い。工程(c)が600℃又はさらに650℃で行われる実施態様において、工程(e)は、それぞれ、好ましくは650~800℃又は700~800℃の温度で行われる。
【0070】
工程(e)を行うことにより、電極活物質が得られる。前記中間体は、好ましくは室温まで冷却される。
【0071】
本発明の方法は、さらなる任意の工程、例えば、工程(c)又は(e)又はその両方の後の脱凝集、又は工程(e)に続いて未反応の塩基として存在し得る残留のリチウムを除去するための水による洗浄工程を含んでもよい。
【0072】
本発明の方法を行うことにより、優れた電気化学的特性を有する電極活物質が得られる。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、マグネシウムがリチウム層に組み込まれていることを仮定する。
【0073】
本発明のさらなる態様は、以下で本発明の電極活物質とも呼ばれる、電極活物質に関する。本発明の電極活物質は、粒子形態であり、一般式(LiMg1+x(TM 1-xを有し、ここで、TMが、少なくとも97モル%のNi、及び任意に3モル%以下の、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMnから選択される少なくとも1種の金属を含有し、
がAl、Co、Mn、Nb、Ta、Mo及びWから選択され、
a:bが40:1~200:1の範囲であり、a+b=1であり、
c:dが50:1~250:1の範囲であり、c+d=1であり、
0.00<x≦0.05であり、したがって、(Li+Mg)と(TM+M)の合計モル比が1:1~1.05:1の範囲である。
【0074】
好ましくは、TMは、少なくとも99モル%のNi、及び任意に合計で1.0モル%以下の、Al、Ti、Zr、Co、V、Zn、Ba及びCaから選択される少なくとも1種の金属を含有する。より好ましくは、TMは、少なくとも99.5モル%のNi、及び任意に合計で0.5モル%以下の、Ti、Zr及びCoから選択される少なくとも1種の金属、及び微量のみのV、Zn、Ba及びMnを含有する。さらにより好ましくは、TMはNiである。
【0075】
本発明の一実施態様において、TMは、少なくとも99モル%のNi、及び合計で1モル%以下の、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMnから選択される少なくとも1種の金属を含有し、前記Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMn、又は上記の少なくとも2種の組み合わせは、Ni(OH)の粒子中で均一に分布してもよく、又は表面で濃縮してもよく、均一な分布が好ましい。
【0076】
好ましくは、NiはNiであるか、又はTi、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMnは、TMで均一に分布し、Mは外表面にコーティングされか、又は濃度勾配を示す。
【0077】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法(electroacoustic spectroscopy)によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0078】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、DIN-ISO 9277:2003-05に従って決定された、0.1~2.0m/gの範囲の比表面積(BET)を有する。
【0079】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1種の本発明による電極活物質を含む電極に関する。これらは、特にリチウムイオン電池に有用である。少なくとも1つの本発明による電極を含むリチウムイオン電池は、良好な放電挙動を示す。少なくとも1種の本発明による電極活物質を含む電極は、以下で本発明のカソード又は本発明によるカソードとも呼ばれる。
【0080】
特に、本発明のカソードは、
(A)少なくとも1種の本発明の電極活物質、
(B)導電状態の炭素、
(C)バインダー又はバインダー(C)とも呼ばれる、バインダー材料、及び、好ましくは
(D)集電器
を含有する。
【0081】
好ましい実施態様において、本発明のカソードは、(A)、(B)及び(C)の合計に基づいて、
(A)80~98質量%の本発明の電極活物質、
(B)1~17質量%の炭素、
(C)1~15質量%のバインダー材料
を含有する。
【0082】
本発明によるカソードは、さらなる構成要素を含むことができる。それらは、集電器、例えばアルミホイル(これに限定していない)を含むことができる。それらは、導電性炭素及びバインダーをさらに含むことができる。
【0083】
本発明によるカソードは、簡潔に炭素(B)とも呼ばれる、導電性修飾の炭素を含有する。炭素(B)は、すす、活性炭、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラファイト、及び上記の少なくとも2つの組み合わせから選択することができる。
【0084】
好適なバインダー(C)は、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン(共)重合、触媒(共)重合又はフリーラジカル(共)重合により得ることができる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、並びに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択された少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適する。ポリイソプレン及びポリアクリレートはさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0085】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0086】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたエチレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばα-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びまたイソブテン、ビニル芳香族のもの、例えばスチレン、及びまた(メタ)アクリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、及びまたマレイン酸、無水マレイン酸及び無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであり得る。
【0087】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたプロピレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばエチレン、及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリプロピレンは、好ましくはイソタクチックポリプロピレン又は本質的にイソタクチックポリプロピレンである。
【0088】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0089】
別の好ましいバインダー(C)は、ポリブタジエンである。
【0090】
他の好適なバインダー(C)は、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0091】
本発明の一実施態様において、バインダー(C)は、50,000g/molから、1,000,000g/molまで、好ましくは500,000g/molまでの範囲の平均分子量Mを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0092】
バインダー(C)は、架橋された又は架橋されていない(コ)ポリマーであり得る。
【0093】
本発明の特に好ましい実施態様において、バインダー(C)は、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、1個の分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、より好ましくは1個の分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、ビニリデンフルオリド-テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーが挙げられる。
【0094】
好適なバインダー(C)は、特に、ポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリビニルクロリド又はポリビニリデンクロリド、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリビニルフルオリド及び特にポリビニリデンフルオリド及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0095】
本発明のカソードは、電極活物質に対して1~15質量%のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。他の実施態様において、本発明のカソードは0.1~1質量%未満のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。
【0096】
本発明のさらなる態様は、本発明の電極活物質、炭素及びバインダーを含む少なくとも1つのカソード、少なくとも1つのアノード、及び少なくとも1種の電解質を含有する電池である。
【0097】
本発明のカソードの実施態様は、すでに上記で詳細に記載されている。
【0098】
前記アノードは、少なくとも1種のアノード活物質、例えばカーボン(グラファイト)、TiO、酸化リチウムチタン、シリコン又はスズを含有してもよい。前記アノードは、集電器、例えば銅ホイルなどの金属ホイルをさらに含有してもよい。
【0099】
前記電解質は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0100】
電解質のための非水性溶媒は、室温で液体又は固体であり得、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートから選択される。
【0101】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C~C-アルキレングリコール、及び特にポリエチレングリコールである。ここでは、ポリエチレングリコールは、最大20モル%の1種以上のC~C-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0102】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、少なくとも400g/molであり得る。
【0103】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、最大5,000,000g/mol、好ましくは最大2,000,000g/molであり得る。
【0104】
好適な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。
【0105】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0106】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0107】
好適な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、及び特に1,3-ジオキソランである。
【0108】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートである。
【0109】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(II)及び(III)による化合物である
【化1】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なることができ、水素及びC~C-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルから選択され、好ましくは、R及びRの両方ともがtert-ブチルであることはない)。
【0110】
特に好ましい実施態様において、Rはメチルであり、R及びRはそれぞれ水素であるか、又はR、R及びRはそれぞれ水素である。
【0111】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(IV)のビニレンカーボネートである。
【0112】
【化2】
【0113】
好ましくは、溶媒又は複数の溶媒は、水を含まない状態で、すなわち、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定することができる1ppm~0.1質量%の範囲の含水量で使用される。
【0114】
電解質(C)は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。好適な電解質塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiC(C2n+1SO、リチウムイミド、例えばLiN(C2n+1SO(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SOF)、LiSiF、LiSbF、LiAlCl、及び一般式(C2n+1SOYLiの塩である
(式中、Yが酸素及び硫黄から選択される場合、t=1であり、
Yが窒素及びリンから選択される場合、t=2であり、
Yが炭素及びケイ素から選択される場合、t=3である)。
【0115】
好ましい電解質塩は、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiPF、LiBF、LiClOから選択され、LiPF及びLiN(CFSOが特に好ましい。
【0116】
本発明の実施態様において、本発明による電池は、それによって電極が機械的に分離される1つ以上のセパレータを含む。好適なセパレータは、金属リチウムに対して反応しないポリマーフィルム、特に多孔性ポリマーフィルムである。セパレータのための特に好適な材料は、ポリオレフィン、特にフィルム形成の多孔性ポリエチレン及びフィルム形成の多孔性ポリプロピレンである。
【0117】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから構成されるセパレータは、35~45%の範囲の多孔率を有することができる。好適な細孔径は、例えば30~500nmの範囲である。
【0118】
本発明の他の実施態様において、セパレータは、無機粒子で充填したPET不織布から選択することができる。このようなセパレータは40~55%の範囲の多孔率を有し得る。好適な細孔径は、例えば80~750nmの範囲である。
【0119】
本発明による電池は、任意の形状、例えば、立方体、又は円筒形ディスク又は円筒形カンの形状を有することができるハウジングをさらに含む。一変形態様において、ポーチとして構成された金属ホイルをハウジングとして使用する。
【0120】
本発明による電池は、良好な放電挙動、例えば低温(0℃以下、例えば最大-10℃以下さえ)で、非常に良好な放電及びサイクル挙動を示す。
【0121】
本発明による電池は、互いに組み合わされている、例えば直列に接続するか、又は並列に接続することができる2つ以上の電気化学セルを含むことができる。直列接続が好ましい。本発明による電池において、少なくとも1つの電気化学セルは少なくとも1つの本発明によるカソードを含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、電気化学セルの大部分は本発明によるカソードを含有する。さらにより好ましくは、本発明による電池において、すべての電気化学セルは本発明によるカソードを含有する。
【0122】
本発明はさらに、本発明による電池を機器、特にモバイル機器に使用する方法を提供する。モバイル機器の例は、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又は水上乗り物、例えばボート又は船である。モバイル機器の他の例は、手動で動くもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は例えば建築部門における電動手工具、特にドリル、バッテリー式ドライバー又はバッテリー式ステープラーである。
【0123】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例
【0124】
平均粒径(D50)は動的光散乱法(「DLS」)により測定した。特に明記されていない限り、パーセンテージは質量%である。
【0125】
LiOH・OHは、Rockwood Lithium社から購入した。Mg(OH)はSigma Aldrich社から購入し、AlはSasol社から購入し、Zr(OH)はLuxfer Mel Technologies社から購入した。ミキサーとして、ブレンダー(Kinematica)を使用した。
【0126】
I.塩基カソード活物質LiNiOの製造
I.1 前駆体の製造
工程(a.1):アンモニアを錯化剤として使用して、硫酸ニッケル水溶液(1.65mol/kg溶液)と25質量%のNaOH水溶液を組み合わせることにより、球状のNi(OH)前駆体を得た。pH値を12.6に設定した。新たに沈殿したNi(OH)を水で洗浄し、ふるいにかけて、120℃で12時間乾燥させた。得られたNi(OH)(「P-CAM.1」)は、10μmの平均粒径D50を有していた。
【0127】
II.本発明のカソード活物質、及び比較用カソード活物質の製造
II.1 C-CAM.1の製造
工程(b.1):50gの量のP-CAM.1を、22.80gのLiOH・HO、0.32gのMg(OH)、0.15gのAl及び0.25gのZr(OH)と混合した。
【0128】
工程(c.1):得られた混合物をアルミナるつぼに注ぎ、酸素雰囲気下(10回交換/時間)で、第1温度上昇において10℃ min-1、第2温度上昇において3℃ min-1の加熱速度で、600℃に1時間加熱し、次に700℃に6時間加熱した。前記熱処理は、実験室炉(Linn High Therm)を用いて行った。C-CAM.1が得られた。C-CAM.1を、10℃ min-1の冷却速度で120℃まで冷却し、さらなる処理のために乾燥室に移した。
【0129】
工程(d)も(e)も行わなかった。
【0130】
続いて、得られたC-CAM.1を32μmのメッシュサイズを使用してふるい分けし、1.0モル%のMg、0.55モル%のAl、0.24モル%のZr、及びモル比(Li+Mg)/(Ni+Al+Zr)=1.01を有するC-CAM.1を得た。
【0131】
II.2 CAM.2の製造
工程(b.2):50gの量のP-CAM.1を、17.67gのLiOH・HO、0.25gのMg(OH)、及び0.15gのAlと混合した。
【0132】
工程(c.2):得られた混合物をロータリーキルンの一部である石英ガラスバルブに注ぎ、酸素雰囲気下(100回交換/時間)、10℃ min-1の加熱速度で600℃に1時間加熱した。回転速度は20rpmであった。中間体を得た。得られた中間体を、10℃ min-1の冷却速度で室温まで冷却し、さらなる処理のために乾燥室に移した。組成は、63質量%のNi、0.13質量%のAl、0.18質量%のMg及び5.51質量%のLiであった。
【0133】
工程(d.2):ブレンダーを使用して、40gの量の工程(c.2)からの中間体を、5.23gのLiOH・HO、0.09gのMg(OH)及び0.21gのZr(OH)と混合した。混合物を得た。
【0134】
工程(e.2):工程(d.2)からの混合物をアルミナるつぼに注ぎ、実験室炉で、酸素雰囲気下(10回交換/時間)、3℃ min-1の加熱速度で700℃に6時間加熱した。得られたCAM.2を10℃ min-1の冷却速度で120℃まで冷却し、さらなる処理のために乾燥室に移した。
【0135】
続いて、CAM.2を32μmのメッシュサイズを使用してふるい分けし、0.70モル%のMg、0.45モル%のAl、0.24モル%のZr、及びモル比(Li+Mg)/(Ni+Al+Zr)=1.02(ICP-OESによって測定した)を有するCAM.2を得た。
【0136】
II.3 CAM.3の製造
工程(b.3):50gの量のP-CAM.1を、17.67gのLiOH・HO、0.25gのMg(OH)、及び0.15gのAlと混合した。
【0137】
工程(c.3):得られた混合物をアルミナるつぼに注ぎ、酸素雰囲気下(10回交換/時間)で、第1温度上昇において10℃ min-1、第2温度上昇において3℃ min-1の加熱速度で、600℃に1時間加熱し、次に700℃に6時間加熱した。前記熱処理は、実験室炉(Linn High Therm)を用いて行った。中間体を得た。得られた中間体を、10℃ min-1の冷却速度で室温まで冷却し、さらなる処理のために乾燥室に移した。組成は、63質量%のNi、0.15質量%のAl、0.21質量%のMg及び5.79質量%のLiであった。
【0138】
工程(d.3):ブレンダーを使用して、40gの量の工程(c.3)からの中間体を、4.37gのLiOH・HO、0.06gのMg(OH)及び0.21gのZr(OH)と混合した。混合物を得た。
【0139】
工程(e.3):工程(d.2)からの混合物をアルミナるつぼに注ぎ、実験室炉で、酸素雰囲気下(10回交換/時間)、3℃ min-1の加熱速度で700℃に6時間加熱した。得られたCAM.3を10℃ min-1の冷却速度で120℃まで冷却し、さらなる処理のために乾燥室に移した。
【0140】
続いて、CAM.3を32μmのメッシュサイズを使用してふるい分けし、0.8モル%のMg、0.5モル%のAl、0.24モル%のZr、及びモル比(Li+Mg)/(Ni+Al+Zr)=1.01(ICP-OESによって測定した)を有するCAM.3を得た。
【0141】
III.電気化学テスト
III.1 カソードの製造、一般手順:
電極の製造:電極は、94%のそれぞれのCAM又はC-CAM.1、3%のカーボンブラック(Super C65)及び3%のバインダー(ポリビニリデンフルオリド、Solef 5130)を含有した。61%の全固形分を有するスラリーを、N-メチル-2-ピロリドン中で混合し(遊星型ミキサー、24分、2000rpm)、ボックス型コーターでアルミホイルテープ上にキャストした。電極テープを真空中120℃で16時間乾燥し、カレンダー加工した後、直径14mmの円形電極を打ち抜き、質量を測定し、真空中120℃で12時間乾燥し、その後、Arを充填したグローブボックス内に入った。平均増量:8mg/cm、電極密度:3g/cm
【0142】
III.2 コインセルの製造
コイン型電気化学セルをアルゴン充填グローブボックス内で組み立てた。アノード:0.58mm厚のLiホイル、ガラス繊維セパレータ(Whatman GF/D)でカソードから分離した。質量比3:7のエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)中の95μlの量の1MのLiPFを電解質として使用した。組み立て後、自動圧着機でセルを圧着して閉じた。その後、セルを人工気候室に移し、バッテリーサイクラー(Series4000、MACCOR)に接続した。
【0143】
III.2 コインセルテスト
すべてのテストは25℃で行った。特定の放電工程で初期放電容量の70%に達するまで、以下のCレートを適用することにより、Maccor 4000バッテリーサイクラーを用いて、室温3.1~4.3Vで、セルを定電流的にサイクルした。
【0144】
テストプロトコルは、C/10での2サイクルから始まる、初期形成部分&速度試験部分から構成している。すべてのサイクルにおいて、電圧ウィンドウを3.0~4.3Vに設定した。初期の1Cレートとして、200mA g-1が想定された。その後のすべてのサイクルにおいて、充電を、C/2及び4.3Vで30分間、又は電流がC/100未満までCCCVに設定した。セルをC/5で5サイクル放電させた後、段階的に放電速度を上げた(C/10、C/5、C/2、1C、2C、3C)。その後、1Cレートを1C放電の容量に適合させた。レート試験の後、DCIR法により充電依存性セル抵抗の状態を決定した。短い電位緩和の後、400mA g-1の電流パルスを10秒間印加した。各電流パルスに続いて、セルをC/5で30分間放電し、その後セル電圧が3V未満に低下するまで繰り返した。この初期期間の後、セルをC/10で2サイクル放電と1Cで50サイクル放電で交互にサイクルした。各第2のC/10サイクルでは、100、50、25%のSOCで5分間セル電位を緩和し、その後、100 mA g-1で30秒間の電流パルスを印加し、DCIR法でセル抵抗を計算し、2.5Cレート放電パルスで30分間放電した。
【0145】
【表1】
【手続補正書】
【提出日】2022-06-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質を製造する方法であって、前記方法が、以下の工程:
(a)水酸化物TM(OH)、又は少なくとも1種の酸化物TMO、又は少なくとも1種のTMのオキシ水酸化物、又は上記の少なくとも2種の組み合わせを提供する工程であって、TMがNiである、工程と、
(b)前記水酸化物TM(OH)、又は酸化物TMO、又はTMのオキシ水酸化物、又は組み合わせを、リチウム源及びMg源と混合する工程であって、(Li+Mg)のモル量がTMの75~95モル%に相当する、工程と、
(c)工程(b)から得られる混合物を450~650℃の範囲の温度で熱処理して、それによって中間体を得る工程と、
(d)工程(c)からの中間体を、Li源、及びAl、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo及びWから選択される金属Mの少なくとも1種の化合物と混合する工程と、
(e)工程(d)から得られる混合物を500~850℃の範囲の温度で熱処理する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
(Li+Mg)と(TM+M)の合計モル比が1:1~1.05:1の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)において、LiとMgのモル比が200:1~25:1の範囲である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
Mg源がMg(OH)及びMgOから選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)において、Al源が添加される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(e)における温度が、工程(c)における温度よりも高い、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(c)及び(e)が、少なくとも80体積%の酸素の雰囲気中で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
とTMのモル比が1:50~1:250の範囲である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
一般式(LiMg1+xNi 1-x
(式中、M はAl、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo及びWから選択され、
a:bは40:1~200:1の範囲であり、a+b=1であり、
c:dは50:1~250:1の範囲であり、c+d=1であり、
(Li+Mg)と(TM+M)の合計モル比は1:1~1.05:1の範囲であり、
0.00≦x≦0.05である)
による粒子状電極活物質。
【請求項10】
TMがニッケルである、請求項9に記載の粒子状電極活物質。
【請求項11】
が、Al、Co、Zr、又は上記の少なくとも2種の組み合わせである、請求項9又は10に記載の粒子状電極活物質。
【請求項12】
前記電極活物質が一次粒子の凝集体である二次粒子から構成され、Mが一次粒子の表面で濃縮している、請求項9から11のいずれか一項に記載の粒子状電極活物質。
【請求項13】
(A)少なくとも1種の、請求項9から12のいずれか一項に記載の電極活物質、
(B)導電状態の炭素、
(C)バインダー材料
を含有する、カソード。
【請求項14】
(A)、(B)及び(C)の合計に基づいて、
(A)80~98質量%のカソード活物質、
(B)1~17質量%の炭素、
(C)3~10質量%のバインダー材料
を含有する、請求項13に記載のカソード。
【請求項15】
少なくとも1つの請求項13又は14に記載のカソードを含有する、電気化学セル。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード活物質を製造する方法に関し、ここで、前記方法が、以下の工程:
(a)水酸化物TM(OH)、又は少なくとも1種の酸化物TMO、又は少なくとも1種のTMのオキシ水酸化物、又は上記の少なくとも2種の組み合わせを提供する工程であって、TMが、1種以上の金属であり、少なくとも97モル%のNi、及び任意に合計で3モル%以下の、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba及びMnから選択される少なくとも1種の金属を含有する、工程と、
(b)前記水酸化物TM(OH)、又は酸化物TMO、又はTMのオキシ水酸化物、又は組み合わせを、リチウム源及びMg源と混合する工程であって、(Li+Mg)のモル量がTMの75~95モル%に相当する、工程と、
(c)工程(b)から得られる混合物を450~650℃の範囲の温度で熱処理して、それによって中間体を得る工程と、
(d)工程(c)からの中間体を、Li源、及びAl、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo及びWから選択される金属Mの少なくとも1種の化合物と混合する工程と、
(e)工程(d)から得られる混合物を500~850℃の範囲の温度で熱処理する工程と
を含む。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新の装置である。携帯電話及びラップトップコンピュータなどの小型の装置からカーバッテリー及び他のE-モビリティ(e-mobility)用バッテリーまで、多くの応用分野が考えられてきた。電解質、電極材料及びセパレータなどの様々な電池の構成要素は、電池の性能に関して重要な役割を有する。カソード材料は特に注目されている。いくつかの材料、例えばリチウム鉄ホスフェート、リチウムコバルトオキシド、及びリチウムニッケルコバルトマンガンオキシドが提案されてきた。広範な研究調査が行われてきているが、これまでに見出された解決策は未だに改善の余地がある。
【0003】
現在、いわゆるNiリッチ(Niの量が多い)電極活物質、例えば、TM総含有量に対して75モル%以上のNiを含有する電極活物質への特定の関心が観察される。
【0004】
特定のNiリッチ材料はLiNiO(しばしばLNOと略称される)である。しかしながら、純LNOにはさまざまな欠点があり、商業的な利用への関心が低下している。これらの欠点の中で最も重要なのは、Liの化学量論から外れる傾向(Li1-zNi1+z)、及び(電気)化学、機械又は熱的性質であり得るその脱リチウム化状態の様々な不安定性問題により、化学量論的LiNiOの合成が難しいことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた電気化学特性、特に良好な容量保持率を有するNiリッチ電極活物質の製造方法を提供することであった。また、本発明の目的は、優れた電気化学特性を有するNiリッチ電極活物質を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、以下で本発明の方法とも呼ばれる、冒頭で定義された方法が見出された。本発明の方法は、以下の工程:
(a)水酸化物TM(OH)、又は少なくとも1種の酸化物TMO、又は少なくとも1種のTMのオキシ水酸化物、又は上記の少なくとも2種の組み合わせを提供する工程であって、TMが、1種以上の金属であり、少なくとも97モル%のNi、及び任意に合計で3モル%以下の、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba及びMnから選択される少なくとも1種の金属を含有する、工程と、
(b)前記水酸化物TM(OH)、又は酸化物TMO、又はTMのオキシ水酸化物、又は組み合わせを、リチウム源及びMg源と混合する工程であって、(Li+Mg)のモル量がTMの75~95モル%に相当する、工程と、
(c)工程(b)から得られる混合物を450~650℃の範囲の温度で熱処理して、それによって中間体を得る工程と、
(d)工程(c)からの中間体を、Li源、及びAl、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo及びWから選択される金属Mの少なくとも1種の化合物と混合する工程と、
(e)工程(d)から得られる混合物を500~850℃の範囲の温度で熱処理する工程と
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
したがって、本発明の方法は、本発明の文脈においてそれぞれ工程(a)、工程(b)、工程(c)、工程(d)及び工程(e)とも呼ばれる5つの工程(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)を含む。好ましくは、この5つの工程は続いて行われる。
【0008】
本発明の方法は、水酸化物TM(OH)、又は少なくとも1種の酸化物TMO、又は少なくとも1種のTMのオキシ水酸化物、又は上記の少なくとも2種の組み合わせから出発する。このような水酸化物TM(OH)、又は少なくとも1種の酸化物TMO、又はTMのオキシ水酸化物では、TMが、少なくとも99モル%のNi、及び任意に合計で3モル%以下、好ましくは1モル%以下のみの、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba及びMnから選択される少なくとも1種の金属を含有する。より好ましくは、TMは、少なくとも99.5モル%のNi、及び任意に合計で0.5モル%以下の、Ti、Zr及びCoから選択される少なくとも1種の金属、及び微量のみのV、Zn、Ba及びMnを含有する。さらにより好ましくは、TMはNiである。Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba及びMnなどの金属の量及び種類は、誘導結合プラズマ(「ICP」)及びシンクロトロンXRDによって決定されてもよい。
【0009】
工程(a)で提供されるTM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物は、好ましくは、球状の形状を有する粒子を指す球状の粒子から構成される。球状の粒子には、正確に球状のものだけでなく、代表サンプルの少なくとも90%(数平均)の最大直径及び最小直径が10%以下異なる粒子も含む。
【0010】
本発明の一実施態様において、工程(a)で提供されるTM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物は、一次粒子の凝集体である二次粒子から構成される。好ましくは、工程(a)で提供されるTM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物は、一次粒子の凝集体である球状の二次粒子から構成される。さらにより好ましくは、工程(a)で提供されるTM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物は、球状の一次粒子又はプレートレットの凝集体である球状の二次粒子から構成される。
【0011】
本発明の一実施態様において、工程(a)で提供されるTM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法(electroacoustic spectroscopy)によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0012】
一部の元素は遍在するものである。本発明の文脈において、不純物としての微量のナトリウム、カルシウム又は亜鉛などの遍在金属は、本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、出発材料の全金属含有量に対して0.02モル%以下の量を意味する。
【0013】
本発明の一実施態様において、TMは、合計で3モル%以下の、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMn、及び上記の少なくとも2種の組み合わせから選択される少なくとも1種の金属を含有し、Al及びZrが好ましい。前記Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMn、及び上記の少なくとも2種の組み合わせは、Ni(OH)又はNiO又はオキシ水酸化ニッケルの粒子中で均一に分布してもよく、又は表面で濃縮してもよく、均一な分布が好ましい。
【0014】
工程(a)で提供されるTM(OH)は、Ni、及び該当する場合、合計で3モル%以下の、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMnから選択される少なくとも1種の金属を、アルカリ金属水酸化物で、必要に応じて、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMnから選択される前記金属(単数又は複数)の少なくとも1種の化合物を含有する硫酸ニッケルの水溶液から沈殿し、続いて濾過及び乾燥することにより製造することができる。
【0015】
工程(a)で提供されるTMO及びTMのオキシ水酸化物は、TM(OH)を加熱し、それにより水を除去することにより製造することができる。
【0016】
TMのオキシ水酸化物は、水酸化物として化学的に結合した水、又は残留水分を有する、非化学量論的オキシ水酸化物を含むことを意味する。
【0017】
工程(b)では、工程(a)で提供された前記水酸化物TM(OH)又は酸化物TMO又はTMのオキシ水酸化物又は組み合わせを、リチウム源及びMg源と混合され、ここで、(Li+Mg)のモル量がTMの75~95モル%に相当する。
【0018】
リチウム源の例は、リチウムの無機化合物、例えばLiNO、LiO、LiOH及びLiCOであり、LiO、LiOH及びLiCOが好ましく、結晶化水はリチウム源の文脈では無視され、LiOHがさらにより好ましい。
【0019】
本発明の一実施態様において、前記リチウム源は、1~5μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。
【0020】
Mg源の例は、硝酸マグネシウム、MgO、MgCO、Mg(HCO及びMg(OH)であり、MgO及びMg(OH)が好ましく、結晶化水はマグネシウム源の文脈では無視される。Mg(OH)がさらにより好ましい。
【0021】
本発明の一実施態様において、前記マグネシウム源は、動的光散乱によって決定可能な、50nm~1μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。
【0022】
工程(b)の一実施態様において、Al、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo又はWの源も添加される。Al、Zr、Co、Mn、Nb、Ta、Mo又はWの好適な源については、以下でさらに説明する。
【0023】
工程(b)の一実施態様において、LiとMgのモル比は200:1~25:1の範囲であり、100:1~30:1が好ましい。
【0024】
工程(b)は、1つの操作として行うことができるが、工程(b)は、TM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物又は組み合わせを前記リチウム源と混合するサブ工程と、次にマグネシウム源の溶液を添加するサブ工程とを含むとが好ましい。前記サブ工程は、以下でより詳細に説明される。しかし、工程(b)を一段階で行うか、又は最初にリチウム源とマグネシウム源を混合するサブ工程(b1)、次いで得られた混合物をTM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物と組み合わせるサブス工程(b2)を行うことが好ましい。
【0025】
工程(b)は、それぞれの成分をミキサー、例えばプラウシェアミキサー又はタンブルミキサーで混合することにより行うことができる。実験室規模の実験では、ボールミル及びローラーミルを適用することも可能である。
【0026】
工程(b)は、水又は有機溶媒の添加で行うことができるが、サブ工程(b)又は任意のサブ工程において、有機溶媒又は水を添加しないことが好ましい。
【0027】
工程(b)の好ましい持続時間は、1分~60分の範囲である。
【0028】
工程(b)において、混合物が得られる。
【0029】
サブ工程(b1)は、リチウム源とマグネシウム源をミキサー、例えばプラウシェアミキサー又はタンブルミキサーで混合することによって行うことができる。実験室規模の実験では、ボールミル及びローラーミルを適用することも可能である。サブ工程(b1)から混合物が得られる。サブ工程(b1)に続いて、サブ工程(b2)が行われる。サブ工程(b2)では、水酸化物TM(OH)又はTMO又はTMのオキシ水酸化物又は組み合わせMg源をサブ工程(b1)からの混合物に添加する。
【0030】
サブ工程(b1)及び(b2)は、水又は有機溶媒の添加で行うことができるが、サブ工程(b1)において有機溶媒又は水を添加しないことが好ましい。サブ工程(b1)及びサブ工程(b2)の好ましい持続時間は、1分~30分の範囲である。
【0031】
サブ工程(b)を加熱下で行うことは可能であるが、工程(b)の過程で追加の加熱を行わないことが好ましい。
【0032】
本発明の一実施態様において、工程(b)は常圧で行われる。しかし、高圧で、例えば常圧より10ミリバール~10バール高い圧力で、又は吸引しながら、例えば常圧より50~250ミリバール低い圧力で、好ましくは常圧より100~200ミリバール低い圧力で、工程(b)を行うことが好ましい。
【0033】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、容器に、TM(OH)又は酸化物TMO又はTMのオキシ水酸化物と、リチウム源と、次に前記Mg源を充填することにより行われる。
【0034】
本発明の一実施態様において、工程(b)ではアルミニウム源も添加される。好適な源は、例えばAl(NO、Al、Al(OH)、AlOOH、Al・aqであり、AlOOH及びAl、特にγ-Alが好ましい。前記アルミニウム源は、水溶液、水性スラリーとして、又は粒子形態で添加することができ、粒子形態が好ましい。
【0035】
本発明の一実施態様において、前記Al源は、動的光散乱によって決定可能な、0.5~5μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。
【0036】
本発明の一実施態様において、Al源の量は、MgとAlのモル比が5:1~1:5の範囲にあるような量である。
【0037】
工程(c)は、工程(b)から得られた混合物を、450~650℃、好ましくは475~575℃の範囲の温度で熱処理することを含む。
【0038】
工程(c)は、任意のタイプのオーブン、例えばローラーハースキルン、プッシャーキルン、ロータリーキルン、振り子キルン、又は実験室規模の試験の場合にマッフルオーブンで行うことができる。
【0039】
450~650℃の温度は、工程(c)の最高温度に対応する。
【0040】
工程(b)で得られた混合物を直接工程(c)に供することが可能である。しかしながら、温度を段階的に上昇させること、又は温度を上徐々に昇させることが好ましい。前記段階的な温度上昇又は徐々の温度上昇は、常圧、又は減圧下、例えば1~500ミリバールで行うことができる。
【0041】
その最高温度での工程(c)は、常圧下で行うことができる。
【0042】
工程(c)は、酸素含有雰囲気、例えば少なくとも80体積%の酸素を含む酸素富化空気、又は純酸素下で行われる。
【0043】
本発明の一実施態様において、工程(b)及び(c)は、低減されたCO含有量、例えば、0.01~500質量ppmの範囲の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で行われ、0.1~50質量ppmが好ましい。CO含有量は、例えば赤外光を使用する光学的方法によって決定することができる。例えば赤外光に基づく光学的方法での検出限界未満の二酸化炭素含有量を有する雰囲気下で、工程(c)を行うことがさらにより好ましい。
【0044】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、ローラーハースキルン、プッシャーキルン又はロータリーキルン、又は前記の少なくとも2つの組み合わせで行われる。ロータリーキルンは、そこで製造される材料の均質化が非常に良好であるという利点を有する。ローラーハースキルン及びプッシャーキルンでは、異なる工程に関する異なる反応条件を非常に容易に設定することができる。実験室規模の実験では、箱型炉、管状炉、及び分割管状炉も使用可能である。
【0045】
本発明の一実施態様において、本発明の工程(c)は、例えば空気、酸素及び酸素富化空気のような気体の強制流の下で行われる。このようなガスの流れは、強制ガス流と呼ばれることがある。そのようなガスの流れは、1kgの工程(b)からの混合物当たり0.5~15m/h範囲の比流量を有することができる。なお、体積は、通常の条件下(298ケルビン及び1気圧)下で決定される。前記強制ガス流は、水のようなガス状の開裂生成物を除去するのに有用である。
【0046】
本発明の一実施態様において、工程(c)は、2~30時間の範囲の持続時間を有する。10~24時間が好ましい。本発明の文脈において、冷却時間は無視される。
【0047】
工程(c)から、中間体が得られる。好ましくは、前記中間体を室温まで冷却させる。
【0048】
工程(d)は、工程(c)からの中間体を、Li源、及びAl、Co、Mn、Nb、Ta、Mo、Zr、W及び上記の少なくとも2種の組み合わせから選択される金属Mの少なくとも1種の化合物と混合することを含む。Al、Co、Zr、及び上記の少なくとも2種の組み合わせが好ましい。このようなMの化合物は、硝酸塩又はハロゲン化物であってもよいが、酸化物、水酸化物及びオキシ水酸化物が好ましい。
【0049】
本発明の一実施態様において、MとTMのモル比は、1:33~1:500、好ましくは1:50~1:250の範囲である。前記モル比は合計モル比であり、少なくとも2つの元素Mが選択される場合には、すべての元素Mを指す。
【0050】
工程(d)におけるリチウム源の例は、工程(b)と同様であり、したがって、リチウムの無機化合物、例えばLiNO、LiO、LiOH及びLiCOであり、LiO、LiOH及びLiCOが好ましく、結晶化水はリチウム源の文脈では無視され、工程(b)及び(d)の両方においてLiOHがさらにより好ましい。
【0051】
Al源の例は、Al(NO、Al、Al(OH)、AlOOH、Al・aqであり、Al(OH)、AlOOH及びAl、特にγ-Alが好ましい。
【0052】
Co源の例は、Co(NO、Co(OH)、CoO、CoCO、Co及びCoであり、Co(OH)、CoO、Co及びCoが好ましい。
【0053】
Mn源の例は、MnCO及びMnOであり、MnOが好ましい。
【0054】
Nb源の例は、Nb、Nb、及びニオブ酸、Nb・HOである。ニオブ酸では、水の量は必ずしも化学量論的ではない。
【0055】
Ta源の例は、Ta、Ta、Taである。
【0056】
Mo源の例は、Mo、MoO、LiMoOである。
【0057】
W源の例は、W、WO、LiWOである。
【0058】
Zr源の例は、ZrO、ZrO(OH)及びZr(OH)である。
【0059】
本発明の一実施態様において、Mの源の平均直径(D50)は、好ましくは10nm~100μm、好ましくは20nm~20μmの範囲である。好ましいのは、LASER回折又は動的光散乱(「DLS」)によって測定される、10nm~50nmの範囲の平均直径(D50)を有するいわゆるナノ粒子状のMの酸化物又は水酸化物、及び一般に例えば100nm~2μmの平均直径(D50)を有するMの酸化物又は水酸化物である。10~50nmの範囲の平均直径(D50)を有する、Ta、Mo及びWなどのナノ金属も好適である。
【0060】
工程(d)における化学量論は、(Li+Mg)と(TM+M)の合計モル比が1:1~1.05:1の範囲にあるように選択されてもよい。
【0061】
混合は、必要な変更を加えて、工程(b)と同時に行うことができる。
【0062】
工程(e)は、工程(d)から得られた混合物を、500~850℃の範囲の温度で熱処理することを含む。
【0063】
工程(e)は、任意のタイプのオーブン、例えばローラーハースキルン、プッシャーキルン、ロータリーキルン、振り子キルン、又は実験室規模の試験の場合にマッフルオーブンで行うことができる。
【0064】
500~850℃の温度は、工程(e)の最高温度に対応する。
【0065】
工程(d)で得られた混合物を直接工程(e)に供することが可能である。しかしながら、温度を段階的に上昇させること、又は温度を上徐々に昇させることが好ましい。前記段階的な温度上昇又は徐々の温度上昇は、常圧、又は減圧下、例えば1~500ミリバールで行うことができる。
【0066】
その最高温度での工程(e)は、常圧下で行うことができる。
【0067】
工程(e)は、酸素含有雰囲気、例えば少なくとも80体積%の酸素を含む酸素富化空気、又は純酸素下で行われる。
【0068】
本発明の一実施態様において、工程(e)は、2~30時間の範囲の持続時間を有する。6~24時間が好ましい。本発明の文脈において、冷却時間は無視される。
【0069】
工程(c)及び(e)の温度間隔は、重なっている。本発明の一実施態様において、工程(e)の温度は、工程(c)の温度よりも高く、例えば少なくとも50℃だけ高い。工程(c)が600℃又はさらに650℃で行われる実施態様において、工程(e)は、それぞれ、好ましくは650~800℃又は700~800℃の温度で行われる。
【0070】
工程(e)を行うことにより、電極活物質が得られる。前記中間体は、好ましくは室温まで冷却される。
【0071】
本発明の方法は、さらなる任意の工程、例えば、工程(c)又は(e)又はその両方の後の脱凝集、又は工程(e)に続いて未反応の塩基として存在し得る残留のリチウムを除去するための水による洗浄工程を含んでもよい。
【0072】
本発明の方法を行うことにより、優れた電気化学的特性を有する電極活物質が得られる。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、マグネシウムがリチウム層に組み込まれていることを仮定する。
【0073】
本発明のさらなる態様は、以下で本発明の電極活物質とも呼ばれる、電極活物質に関する。本発明の電極活物質は、粒子形態であり、一般式(LiMg1+x(TM 1-xを有し、ここで、TMが、少なくとも97モル%のNi、及び任意に3モル%以下の、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMnから選択される少なくとも1種の金属を含有し、
がAl、Co、Mn、Nb、Ta、Mo及びWから選択され、
a:bが40:1~200:1の範囲であり、a+b=1であり、
c:dが50:1~250:1の範囲であり、c+d=1であり、
0.00<x≦0.05であり、したがって、(Li+Mg)と(TM+M)の合計モル比が1:1~1.05:1の範囲である。
【0074】
好ましくは、TMは、少なくとも99モル%のNi、及び任意に合計で1.0モル%以下の、Al、Ti、Zr、Co、V、Zn、Ba及びCaから選択される少なくとも1種の金属を含有する。より好ましくは、TMは、少なくとも99.5モル%のNi、及び任意に合計で0.5モル%以下の、Ti、Zr及びCoから選択される少なくとも1種の金属、及び微量のみのV、Zn、Ba及びMnを含有する。さらにより好ましくは、TMはNiである。
【0075】
本発明の一実施態様において、TMは、少なくとも99モル%のNi、及び合計で1モル%以下の、Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMnから選択される少なくとも1種の金属を含有し、前記Al、Ti、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMn、又は上記の少なくとも2種の組み合わせは、Ni(OH)の粒子中で均一に分布してもよく、又は表面で濃縮してもよく、均一な分布が好ましい。
【0076】
好ましくは、NiはNiであるか、又はTi、Zr、V、Co、Zn、Ba又はMnは、TMで均一に分布し、Mは外表面にコーティングされか、又は濃度勾配を示す。
【0077】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、3~20μm、好ましくは5~16μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法(electroacoustic spectroscopy)によって決定することができる。粒子は通常、一次粒子からの凝集体から構成され、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0078】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質は、DIN-ISO 9277:2003-05に従って決定された、0.1~2.0m/gの範囲の比表面積(BET)を有する。
【0079】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1種の本発明による電極活物質を含む電極に関する。これらは、特にリチウムイオン電池に有用である。少なくとも1つの本発明による電極を含むリチウムイオン電池は、良好な放電挙動を示す。少なくとも1種の本発明による電極活物質を含む電極は、以下で本発明のカソード又は本発明によるカソードとも呼ばれる。
【0080】
特に、本発明のカソードは、
(A)少なくとも1種の本発明の電極活物質、
(B)導電状態の炭素、
(C)バインダー又はバインダー(C)とも呼ばれる、バインダー材料、及び、好ましくは
(D)集電器
を含有する。
【0081】
好ましい実施態様において、本発明のカソードは、(A)、(B)及び(C)の合計に基づいて、
(A)80~98質量%の本発明の電極活物質、
(B)1~17質量%の炭素、
(C)1~15質量%のバインダー材料
を含有する。
【0082】
本発明によるカソードは、さらなる構成要素を含むことができる。それらは、集電器、例えばアルミホイル(これに限定していない)を含むことができる。それらは、導電性炭素及びバインダーをさらに含むことができる。
【0083】
本発明によるカソードは、簡潔に炭素(B)とも呼ばれる、導電性修飾の炭素を含有する。炭素(B)は、すす、活性炭、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラファイト、及び上記の少なくとも2つの組み合わせから選択することができる。
【0084】
好適なバインダー(C)は、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン(共)重合、触媒(共)重合又はフリーラジカル(共)重合により得ることができる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、並びに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択された少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適する。ポリイソプレン及びポリアクリレートはさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0085】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0086】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたエチレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばα-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びまたイソブテン、ビニル芳香族のもの、例えばスチレン、及びまた(メタ)アクリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、及びまたマレイン酸、無水マレイン酸及び無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであり得る。
【0087】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたプロピレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばエチレン、及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリプロピレンは、好ましくはイソタクチックポリプロピレン又は本質的にイソタクチックポリプロピレンである。
【0088】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0089】
別の好ましいバインダー(C)は、ポリブタジエンである。
【0090】
他の好適なバインダー(C)は、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0091】
本発明の一実施態様において、バインダー(C)は、50,000g/molから、1,000,000g/molまで、好ましくは500,000g/molまでの範囲の平均分子量Mを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0092】
バインダー(C)は、架橋された又は架橋されていない(コ)ポリマーであり得る。
【0093】
本発明の特に好ましい実施態様において、バインダー(C)は、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、1個の分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、より好ましくは1個の分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、ビニリデンフルオリド-テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーが挙げられる。
【0094】
好適なバインダー(C)は、特に、ポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリビニルクロリド又はポリビニリデンクロリド、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリビニルフルオリド及び特にポリビニリデンフルオリド及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0095】
本発明のカソードは、電極活物質に対して1~15質量%のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。他の実施態様において、本発明のカソードは0.1~1質量%未満のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。
【0096】
本発明のさらなる態様は、本発明の電極活物質、炭素及びバインダーを含む少なくとも1つのカソード、少なくとも1つのアノード、及び少なくとも1種の電解質を含有する電池である。
【0097】
本発明のカソードの実施態様は、すでに上記で詳細に記載されている。
【0098】
前記アノードは、少なくとも1種のアノード活物質、例えばカーボン(グラファイト)、TiO、酸化リチウムチタン、シリコン又はスズを含有してもよい。前記アノードは、集電器、例えば銅ホイルなどの金属ホイルをさらに含有してもよい。
【0099】
前記電解質は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0100】
電解質のための非水性溶媒は、室温で液体又は固体であり得、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートから選択される。
【0101】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C~C-アルキレングリコール、及び特にポリエチレングリコールである。ここでは、ポリエチレングリコールは、最大20モル%の1種以上のC~C-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0102】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、少なくとも400g/molであり得る。
【0103】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、最大5,000,000g/mol、好ましくは最大2,000,000g/molであり得る。
【0104】
好適な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。
【0105】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0106】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0107】
好適な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、及び特に1,3-ジオキソランである。
【0108】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートである。
【0109】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(II)及び(III)による化合物である
【化1】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なることができ、水素及びC~C-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルから選択され、好ましくは、R及びRの両方ともがtert-ブチルであることはない)。
【0110】
特に好ましい実施態様において、Rはメチルであり、R及びRはそれぞれ水素であるか、又はR、R及びRはそれぞれ水素である。
【0111】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(IV)のビニレンカーボネートである。
【0112】
【化2】
【0113】
好ましくは、溶媒又は複数の溶媒は、水を含まない状態で、すなわち、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定することができる1ppm~0.1質量%の範囲の含水量で使用される。
【0114】
電解質(C)は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。好適な電解質塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiC(C2n+1SO、リチウムイミド、例えばLiN(C2n+1SO(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SOF)、LiSiF、LiSbF、LiAlCl、及び一般式(C2n+1SOYLiの塩である
(式中、Yが酸素及び硫黄から選択される場合、t=1であり、
Yが窒素及びリンから選択される場合、t=2であり、
Yが炭素及びケイ素から選択される場合、t=3である)。
【0115】
好ましい電解質塩は、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiPF、LiBF、LiClOから選択され、LiPF及びLiN(CFSOが特に好ましい。
【0116】
本発明の実施態様において、本発明による電池は、それによって電極が機械的に分離される1つ以上のセパレータを含む。好適なセパレータは、金属リチウムに対して反応しないポリマーフィルム、特に多孔性ポリマーフィルムである。セパレータのための特に好適な材料は、ポリオレフィン、特にフィルム形成の多孔性ポリエチレン及びフィルム形成の多孔性ポリプロピレンである。
【0117】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから構成されるセパレータは、35~45%の範囲の多孔率を有することができる。好適な細孔径は、例えば30~500nmの範囲である。
【0118】
本発明の他の実施態様において、セパレータは、無機粒子で充填したPET不織布から選択することができる。このようなセパレータは40~55%の範囲の多孔率を有し得る。好適な細孔径は、例えば80~750nmの範囲である。
【0119】
本発明による電池は、任意の形状、例えば、立方体、又は円筒形ディスク又は円筒形カンの形状を有することができるハウジングをさらに含む。一変形態様において、ポーチとして構成された金属ホイルをハウジングとして使用する。
【0120】
本発明による電池は、良好な放電挙動、例えば低温(0℃以下、例えば最大-10℃以下さえ)で、非常に良好な放電及びサイクル挙動を示す。
【0121】
本発明による電池は、互いに組み合わされている、例えば直列に接続するか、又は並列に接続することができる2つ以上の電気化学セルを含むことができる。直列接続が好ましい。本発明による電池において、少なくとも1つの電気化学セルは少なくとも1つの本発明によるカソードを含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、電気化学セルの大部分は本発明によるカソードを含有する。さらにより好ましくは、本発明による電池において、すべての電気化学セルは本発明によるカソードを含有する。
【0122】
本発明はさらに、本発明による電池を機器、特にモバイル機器に使用する方法を提供する。モバイル機器の例は、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又は水上乗り物、例えばボート又は船である。モバイル機器の他の例は、手動で動くもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は例えば建築部門における電動手工具、特にドリル、バッテリー式ドライバー又はバッテリー式ステープラーである。
【0123】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例
【0124】
平均粒径(D50)は動的光散乱法(「DLS」)により測定した。特に明記されていない限り、パーセンテージは質量%である。
【0125】
LiOH・OHは、Rockwood Lithium社から購入した。Mg(OH)はSigma Aldrich社から購入し、AlはSasol社から購入し、Zr(OH)はLuxfer Mel Technologies社から購入した。ミキサーとして、ブレンダー(Kinematica)を使用した。
【0126】
I.塩基カソード活物質LiNiOの製造
I.1 前駆体の製造
工程(a.1):アンモニアを錯化剤として使用して、硫酸ニッケル水溶液(1.65mol/kg溶液)と25質量%のNaOH水溶液を組み合わせることにより、球状のNi(OH)前駆体を得た。pH値を12.6に設定した。新たに沈殿したNi(OH)を水で洗浄し、ふるいにかけて、120℃で12時間乾燥させた。得られたNi(OH)(「P-CAM.1」)は、10μmの平均粒径D50を有していた。
【0127】
II.本発明のカソード活物質、及び比較用カソード活物質の製造
II.1 C-CAM.1の製造
工程(b.1):50gの量のP-CAM.1を、22.80gのLiOH・HO、0.32gのMg(OH)、0.15gのAl及び0.25gのZr(OH)と混合した。
【0128】
工程(c.1):得られた混合物をアルミナるつぼに注ぎ、酸素雰囲気下(10回交換/時間)で、第1温度上昇において10℃ min-1、第2温度上昇において3℃ min-1の加熱速度で、600℃に1時間加熱し、次に700℃に6時間加熱した。前記熱処理は、実験室炉(Linn High Therm)を用いて行った。C-CAM.1が得られた。C-CAM.1を、10℃ min-1の冷却速度で120℃まで冷却し、さらなる処理のために乾燥室に移した。
【0129】
工程(d)も(e)も行わなかった。
【0130】
続いて、得られたC-CAM.1を32μmのメッシュサイズを使用してふるい分けし、1.0モル%のMg、0.55モル%のAl、0.24モル%のZr、及びモル比(Li+Mg)/(Ni+Al+Zr)=1.01を有するC-CAM.1を得た。
【0131】
II.2 CAM.2の製造
工程(b.2):50gの量のP-CAM.1を、17.67gのLiOH・HO、0.25gのMg(OH)、及び0.15gのAlと混合した。
【0132】
工程(c.2):得られた混合物をロータリーキルンの一部である石英ガラスバルブに注ぎ、酸素雰囲気下(100回交換/時間)、10℃ min-1の加熱速度で600℃に1時間加熱した。回転速度は20rpmであった。中間体を得た。得られた中間体を、10℃ min-1の冷却速度で室温まで冷却し、さらなる処理のために乾燥室に移した。組成は、63質量%のNi、0.13質量%のAl、0.18質量%のMg及び5.51質量%のLiであった。
【0133】
工程(d.2):ブレンダーを使用して、40gの量の工程(c.2)からの中間体を、5.23gのLiOH・HO、0.09gのMg(OH)及び0.21gのZr(OH)と混合した。混合物を得た。
【0134】
工程(e.2):工程(d.2)からの混合物をアルミナるつぼに注ぎ、実験室炉で、酸素雰囲気下(10回交換/時間)、3℃ min-1の加熱速度で700℃に6時間加熱した。得られたCAM.2を10℃ min-1の冷却速度で120℃まで冷却し、さらなる処理のために乾燥室に移した。
【0135】
続いて、CAM.2を32μmのメッシュサイズを使用してふるい分けし、0.70モル%のMg、0.45モル%のAl、0.24モル%のZr、及びモル比(Li+Mg)/(Ni+Al+Zr)=1.02(ICP-OESによって測定した)を有するCAM.2を得た。
【0136】
II.3 CAM.3の製造
工程(b.3):50gの量のP-CAM.1を、17.67gのLiOH・HO、0.25gのMg(OH)、及び0.15gのAlと混合した。
【0137】
工程(c.3):得られた混合物をアルミナるつぼに注ぎ、酸素雰囲気下(10回交換/時間)で、第1温度上昇において10℃ min-1、第2温度上昇において3℃ min-1の加熱速度で、600℃に1時間加熱し、次に700℃に6時間加熱した。前記熱処理は、実験室炉(Linn High Therm)を用いて行った。中間体を得た。得られた中間体を、10℃ min-1の冷却速度で室温まで冷却し、さらなる処理のために乾燥室に移した。組成は、63質量%のNi、0.15質量%のAl、0.21質量%のMg及び5.79質量%のLiであった。
【0138】
工程(d.3):ブレンダーを使用して、40gの量の工程(c.3)からの中間体を、4.37gのLiOH・HO、0.06gのMg(OH)及び0.21gのZr(OH)と混合した。混合物を得た。
【0139】
工程(e.3):工程(d.2)からの混合物をアルミナるつぼに注ぎ、実験室炉で、酸素雰囲気下(10回交換/時間)、3℃ min-1の加熱速度で700℃に6時間加熱した。得られたCAM.3を10℃ min-1の冷却速度で120℃まで冷却し、さらなる処理のために乾燥室に移した。
【0140】
続いて、CAM.3を32μmのメッシュサイズを使用してふるい分けし、0.8モル%のMg、0.5モル%のAl、0.24モル%のZr、及びモル比(Li+Mg)/(Ni+Al+Zr)=1.01(ICP-OESによって測定した)を有するCAM.3を得た。
【0141】
III.電気化学テスト
III.1 カソードの製造、一般手順:
電極の製造:電極は、94%のそれぞれのCAM又はC-CAM.1、3%のカーボンブラック(Super C65)及び3%のバインダー(ポリビニリデンフルオリド、Solef 5130)を含有した。61%の全固形分を有するスラリーを、N-メチル-2-ピロリドン中で混合し(遊星型ミキサー、24分、2000rpm)、ボックス型コーターでアルミホイルテープ上にキャストした。電極テープを真空中120℃で16時間乾燥し、カレンダー加工した後、直径14mmの円形電極を打ち抜き、質量を測定し、真空中120℃で12時間乾燥し、その後、Arを充填したグローブボックス内に入った。平均増量:8mg/cm、電極密度:3g/cm
【0142】
III.2 コインセルの製造
コイン型電気化学セルをアルゴンを充填したグローブボックス内で組み立てた。アノード:0.58mm厚のLiホイル、ガラス繊維セパレータ(Whatman GF/D)でカソードから分離した。質量比3:7のエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)中の95μlの量の1MのLiPFを電解質として使用した。組み立て後、自動圧着機でセルを圧着して閉じた。その後、セルを人工気候室に移し、バッテリーサイクラー(Series4000、MACCOR)に接続した。
【0143】
III.2 コインセルテスト
すべてのテストは25℃で行った。特定の放電工程で初期放電容量の70%に達するまで、以下のCレートを適用することにより、Maccor 4000バッテリーサイクラーを用いて、室温3.1~4.3Vで、セルを定電流的にサイクルした。
【0144】
テストプロトコルは、C/10での2サイクルから始まる、初期形成部分&速度試験部分から構成している。すべてのサイクルにおいて、電圧ウィンドウを3.0~4.3Vに設定した。初期の1Cレートとして、200mA g-1が想定された。その後のすべてのサイクルにおいて、充電を、C/2及び4.3Vで30分間、又は電流がC/100未満までCCCVに設定した。セルをC/5で5サイクル放電させた後、段階的に放電速度を上げた(C/10、C/5、C/2、1C、2C、3C)。その後、1Cレートを1C放電の容量に適合させた。レート試験の後、DCIR法により充電依存性セル抵抗の状態を決定した。短い電位緩和の後、400mA g-1の電流パルスを10秒間印加した。各電流パルスに続いて、セルをC/5で30分間放電し、その後セル電圧が3V未満に低下するまで繰り返した。この初期期間の後、セルをC/10で2サイクル放電と1Cで50サイクル放電で交互にサイクルした。各第2のC/10サイクルでは、100、50、25%のSOCで5分間セル電位を緩和し、その後、100 mA g-1で30秒間の電流パルスを印加し、DCIR法でセル抵抗を計算し、2.5Cレート放電パルスで30分間放電した。
【0145】
【表1】
【国際調査報告】