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特表2023-554216コーティングされたカソード活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】コーティングされたカソード活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231220BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231220BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231220BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20231220BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M4/131
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023523227
(86)(22)【出願日】2021-10-12
(85)【翻訳文提出日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2021078103
(87)【国際公開番号】W WO2022078980
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】20201960.0
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21200525.0
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】武内 良介
(72)【発明者】
【氏名】シン,ジ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】沼田 恵里
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清太郎
(72)【発明者】
【氏名】エルク,クリストフ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
4G048AE07
5H050AA05
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、一般式Li1+x(TM1-y 1-xによる電極活物質を製造する方法に関し、ここで、TMが、Niと、Co、Mn及びAlのうちの少なくとも1つと、任意にMg、Al、Ti、Zr及びWから選択される少なくとも1種の金属との組み合わせを含み、MがNb及びTaから選択され、yが、0.001~0.01未満の範囲であり、xが0~0.2の範囲であり、前記方法が、以下の工程:
(a)以下の成分
(A)Mn、Co及びNiの粒子状混合酸化物又は(オキシ)水酸化物、
(B)水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択される少なくとも1種のリチウム化合物、及び
(C)Nb又はTaの非晶質化合物
を混合する工程と、
(b)前記混合物を700~1000℃の範囲の温度での熱処理に供する工程と
を含み、
TMの遷移金属の少なくとも60モル%がNiである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li1+x(TM1-y 1-xによる電極活物質を製造する方法であって、TMが、Niと、Co、Mn及びAlのうちの少なくとも1つと、任意にMg、Al、Ti、Zr及びWから選択される少なくとも1種の金属との組み合わせを含み、xが0~0.2の範囲であり、MがNb及びTaから選択され、yが、0.001~0.01未満の範囲であり、前記方法が、以下の工程:
(a)以下の成分
(A)Mn、Co及びNiの粒子状混合酸化物又は(オキシ)水酸化物、
(B)水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択される少なくとも1種のリチウム化合物、及び
(C)Nb又はTaの非晶質化合物
を混合する工程と、
(b)前記混合物を700~1000℃の範囲の温度での熱処理に供する工程と
を含み、
TMの遷移金属の少なくとも60モル%がNiである、方法。
【請求項2】
TMが、一般式(I)による金属の組み合わせである

(NiaCobMnc)1-dM2 d (I)

(式中、aは0.6~0.99の範囲であり、
bは0.005~0.2の範囲であり、
cは0.005~0.2の範囲であり、
dは0~0.1の範囲であり、
は、Al、Mg、W、Ti及びZrの少なくとも1つであり、
a+b+c=1である)、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)における前記混合が、乾燥状態で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)がロータリーキルン又はローラーハースキルンで行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(C)が、非晶質ニオブ酸Nb又は非晶質Taである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(C)が1~100μmの範囲の平均粒径(D50)を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
Al、Ti及びZrの酸化物又は(オキシ)水酸化物から選択される化合物(D)が工程(a)に存在する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前駆体(A)が、ニッケル、コバルト及びマンガンの混合水酸化物を共沈させ、その後に空気下で乾燥させ、脱水することによって得られる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
一般式Li1+x(TM1-y 1-xによる電極活物質であって、TMが、Niと、Co、Mn及びAlのうちの少なくとも1つと、任意にMg、Al、Ti、Zr及びWから選択される少なくとも1種の金属との組み合わせを含み、xが0~0.2の範囲であり、MがNb及びTaから選択され、yが、0.001~0.01未満の範囲であり、平均粒径(D50)が3~20μmの範囲であり、TMの少なくとも60モル%がNiであり、Nb又はTaがそれぞれ、バルクと比較して一次粒子の表面に濃縮しており、このような電極活物質が一次粒子の凝集体である二次粒子から構成される、電極活物質。
【請求項10】
TMが、一般式(I)による金属の組み合わせである

(NiaCobMnc)1-dM2 d (I)

(式中、aは0.6~0.99の範囲であり、
bは0.005~0.2の範囲であり、
cは0.005~0.2の範囲であり、
dは0~0.1の範囲であり、
は、Al、Mg、W、Ti、Mo及びZrの少なくとも1つであり、
a+b+c=1である)、請求項9に記載の電極活物質。
【請求項11】
がNbである、請求項9又は10に記載の電極活物質。
【請求項12】
が、バルクと比較して二次粒子の表面に濃縮している、請求項9から11のいずれか一項に記載の電極活物質。
【請求項13】
(α)少なくとも1種の、請求項9から12のいずれか一項に記載の電極活物質、
(β)導電状態の炭素、
(γ)バインダー材料
を含有する、カソード。
【請求項14】
(α)、(β)及び(γ)の合計に基づいて、
(α)80~98質量%のカソード活物質、
(β)1~17質量%の炭素、
(γ)3~10質量%のバインダー材料
を含有する、請求項13に記載のカソード。
【請求項15】
少なくとも1つの、請求項13又は14に記載のカソードを含有する電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式Li1+x(TM1-y 1-xによる電極活物質を製造する方法に関し、ここで、TMが、Niと、Co、Mn及びAlのうちの少なくとも1つと、任意にMg、Al、Ti、Zr及びWから選択される少なくとも1種の金属との組み合わせを含み、xが0~0.2の範囲であり、MがNb及びTaから選択され、yが、0.001~0.01未満、好ましくは0.001~0.0065、より好ましくは0.002~0.005の範囲であり、
(a)以下の成分
(A)Mn、Co及びNiの粒子状混合酸化物又は(オキシ)水酸化物、
(B)水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択される少なくとも1種のリチウム化合物、及び
(C)Nb又はTaの非晶質化合物
を混合する工程と、
(b)前記混合物を700~1000℃の範囲の温度での熱処理に供する工程と
を含み、
TMの金属の少なくとも60モル%がNiである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新の装置である。携帯電話及びラップトップコンピュータなどの小型の装置からカーバッテリー及び他のE-モビリティ(e-mobility)用バッテリーまで、多くの応用分野が考えられてきた。電解質、電極材料及びセパレータなどの様々な電池の構成要素は、電池の性能に関して重要な役割を有する。カソード材料は特に注目されている。いくつかの材料、例えばリチウム鉄ホスフェート、リチウムコバルトオキシド、及びリチウムニッケルコバルトマンガンオキシドが提案されてきた。広範な研究調査が行われてきているが、これまでに見出された解決策は未だに改善の余地がある。
【0003】
カソード活物質は、一般に2段階プロセスを使用することにより製造される。第1段階では、遷移金属(単数又は複数)の難溶性化合物を、例えば炭酸塩又は水酸化物などの溶液から沈殿させることによって製造する。前記難溶性塩は、多くの場合、前駆体とも呼ばれる。第2段階では、前駆体をリチウム化合物、例えばLiCO、LiOH又はLiOと混合し、高温、例えば600~1100℃で焼成する。特別なレシピでは、ドーパント、例えばアルミナ、チタニア、ジルコニア、又はW、Moなどの遷移金属の酸化物又は(オキシ)水素化物を添加することができる。
【0004】
しかしながら、これらは、様々な温度での容量損失、特に45℃以上の温度での容量損失、特にそのような高温での容量損失に関しては、まだ改善の余地がある。さらに、45℃以上のような高温でのサイクル安定性及びCレート性能も同様に改善することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、45℃以上での容量、特にそのような高温での容量損失が改善された電池を提供すること、及びそのような電池に適したカソード活物質を提供することであった。さらに、本発明の目的は、45℃以上での容量、特にそのような高温での容量損失が改善された電池用のカソード活物質を製造する方法を提供することも目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、以下で本発明の方法又は(本)発明による方法とも呼ばれる、冒頭で定義された方法が見出された。
【0007】
本発明の方法は、以下で工程(a)及び工程(b)としても定義される、冒頭で定義された一連の2つの工程を含む。以下、本発明の方法をより詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
工程(a)は、
(A)Niと、Mn、Co及びAlのうちの少なくとも1つとの粒子状混合酸化物又は(オキシ)水酸化物(以下、前駆体(A)とも呼ばれる)、
(B)水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択される少なくとも1種のリチウム化合物(以下、リチウム源(B)又はリチウムの源(B)とも呼ばれる)、及び
(C)Nb又はTaの、好ましくはNbの非晶質化合物
を混合することを含む。
【0009】
前駆体(A)は、ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムのうちの少なくとも1つとの粒子状混合酸化物又は(オキシ)水酸化物である。前駆体(A)の金属の50モル%超がニッケルである。
【0010】
本発明の一実施態様において、前駆体(A)の金属部分はTMに対応し、前駆体(A)における金属の少なくとも60モル%がNiである。本発明の別の実施態様において、前駆体(A)の金属部分はTMに対応せず、混合工程(a)中に化合物(D)が添加される。
【0011】
本発明の一実施態様において、前記前駆体(A)は、Mg、Al及びYの少なくとも1つ、又はTi、Zr、Fe、Mo及びWから選択される少なくとも1種の遷移金属を含む。他の実施態様において、前記前駆体は、ニッケル及びコバルト又はマンガン又はアルミニウム以外の金属を含有しない。
【0012】
本発明の一実施態様において、TMは、一般式(I)による金属の組み合わせである

(NiaCobMnc)1-dM2 d (I)

(式中、aは0.6~0.99、好ましくは0.6~0.95、より好ましくは0.8~0.93の範囲であり、
bは0.005~0.2、好ましくは0.05~0.1の範囲であり、
cは0.005~0.2、好ましくは0.03~0.15の範囲であり、
dは0~0.1、好ましくは0.01~0.05の範囲であり、
Mは、Al、Mg、Ti、Mo、W及びZrの少なくとも1つであり、
b+c>0であり、
a+b+c=1である)。
【0013】
前記前駆体(A)は、好ましくは、TMに対応する化学量論比で、ニッケル及びコバルト及び/又はマンガンの硝酸塩、酢酸塩又は好ましくは硫酸塩を含有する水溶液から、ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムのうちの少なくとも1つと、該当する場合にさらなる金属とを複合水酸化物として共沈させることにより得られる。前記共沈は、連続、半連続又はバッチプロセスで、アルカリ金属水酸化物、例えば水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを添加することによって達成することができる。その後、前記共沈に続いて、例えば濾過により母液を取り出し、及びその後に水を除去する。
【0014】
前記前駆体(A)は、粒子状であり、すなわち、粒子の状態である。本発明の一実施態様において、前駆体(A)の平均粒径(D50)は、3~16μm、好ましくは5~12μm、より好ましくは7~10μmの範囲である。本発明の文脈における平均粒径(D50)は、例えば光散乱によって決定することができる、体積に基づく粒径の中央値を指す。一実施態様において、前駆体は単峰性粒径分布を有する。他の実施態様において、前駆体の粒子分布は、例えば、1~5μmの範囲における1つの最大値と、7~16μmの範囲における更なる最大値とを有する二峰性であってもよい。
【0015】
前駆体(A)の二次粒子の粒子形状は、好ましくは、球形を有する粒子である球体である。球状の球体には、正確に球状のものだけでなく、代表サンプルの少なくとも90%(数平均)の最大直径及び最小直径が10%以下異なる粒子も含む。
【0016】
本発明の一実施態様において、前駆体(A)は、一次粒子の凝集体である二次粒子から構成される。好ましくは、前記前駆体は、一次粒子の凝集体である球状の二次粒子から構成される。さらにより好ましくは、前記前駆体は、球状の一次粒子又はプレートレットの凝集体である球状の二次粒子から構成される。
【0017】
本発明の一実施態様において、前駆体(A)は、0.5~0.9の範囲の粒径分布スパンを有することができ、このスパンは、[(D90)-(D10)]を(D50)で除したものと定義され、全てLASER分析により決定される。本発明の別の実施態様において、前記前駆体は、1.1~1.8の範囲の粒径分布スパンを有してもよい。
【0018】
本発明の一実施態様において、前駆体(A)の比表面積(BET)は、例えばDIN-ISO 9277:2003-05に従って、窒素吸着によって決定され、2~10m/g又はさらに10超~100m/gの範囲である。
【0019】
一部の金属は、遍在するもの、例えばナトリウム、カルシウム又は亜鉛であり、微量のそれらは事実上どこにでも存在するが、そのような微量は本発明の明細書では考慮されない。この文脈における金属の微量とは、TMの全金属含有量に対して0.05モル%以下の量を意味する。
【0020】
前駆体(A)は、硫酸塩、例えば、イオンクロマトグラフィーによって決定される0.1~0.5質量%の硫酸塩を含有してもよい。前記前駆体は、炭酸塩、例えば0.1~2質量%の炭酸塩を含有してもよく、各パーセントは前駆体の総質量に関連するものである。
【0021】
リチウムの源(B)は、炭酸リチウム、酸化リチウム、LiO、及び水酸化リチウム、LiOHから選択され、水酸化リチウムの水和物、例えばLiOH・HO(これに限定されない)を含む。LiOH及びLiOH・HOが好ましい。
【0022】
本発明の一実施態様において、前記リチウムの源(B)は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察、又は乾電池を用いたレーザー回折式粒径測定装置により決定された10~500μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。
【0023】
工程(a)に存在する第3の化合物は、Nb又はTaの、好ましくはNbの非晶質化合物である(以下、化合物(C)とも呼ばれる)。化合物(C)は、非晶質Nb又は非晶質Taから選択することができ、ニオブ酸を含む非晶質Nb、例えばNb・aq又はNb・nHO(nが例えば、0.2~5である)、Nbと水の化学量論が正確に1:1ではないが主にNb・HOとして表されるものが好ましい。化合物(C)が非晶質であるか否かの判定は、X線回折分析により行うことができる。非晶質サンプルの場合、X線回折図には鋭いピークが観察されない。
【0024】
本発明の一実施態様において、前記化合物(C)は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察、又はレーザー回折式粒径測定装置により決定された、1~100μm、好ましくは1.2~16.5μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。
【0025】
本発明の一実施態様において、化合物(D)、例えばAl、Ti及びZrの酸化物又は(オキシ)水酸化物が工程(a)に存在する。例としては、ルチル及びアナターゼから選択されるTiO(アナターゼが好ましい)、さらに塩基性チタニア、例えばTiO(OH)、ZrO、Zr(OH)、Al(OH)、Al、Al・aq及びAlOOHが挙げられる。Al化合物、例えばAl(OH)、α-Al、γ-Al、Al・aq及びAlOOH、及びTiO及びZr(OH)が好ましい。
【0026】
本発明の一実施態様において、化合物(D)は、TMの式(I)における変数dに対応する量で存在する。
【0027】
本発明の一実施態様において、リチウム対TM及び化合物(C)、及び該当する場合に化合物(D)の工程(a)における金属のモル量の差は、0~0.2、好ましくは0.001~0.1、さらにより好ましくは0.002~0.005の範囲である。
【0028】
工程(a)を行うための好適な装置の例としては、高剪断ミキサー、タンブラーミキサー、プラウシェアミキサー及び自由落下ミキサーが挙げられる。
【0029】
本発明の一実施態様において、工程(a)は、室温から200℃、好ましくは20~50℃の範囲の温度で行われる。
【0030】
本発明の一実施態様において、工程(a)は、10分~2時間の持続時間を有する。工程(b)で追加の混合が行われるかどうかに応じて、工程(a)で完全な混合が達成されなければならない。
【0031】
工程(a)において有機溶媒、例えばグリセロール若しくはグリコール、又は水を添加することが可能であるが、工程(a)を乾燥状態で、すなわち水又は有機溶媒を添加せずに行うことが好ましい。
【0032】
前駆体(A)と、リチウムの源(B)と、化合物(C)と、任意に化合物(D)との混合は、例えば、リチウムの源(B)及び化合物(C)を最初に混合して、このような混合物に前駆体(A)を添加することによって、又は前駆体(A)及びリチウムの源(B)を最初に混合し、次に化合物(C)及び任意に化合物(D)を添加することによって、又は化合物(C)及び前駆体(A)を最初に混合し、次にリチウムの源(B)を添加することによって、すべて一度に又はサブ工程で行われてもよい。1つの工程で前駆体(A)及びリチウムの源(B)及び化合物(C)を最初に混合することが好ましい。
【0033】
工程(a)から混合物が得られる。
【0034】
工程(b)は、前記混合物を、例えば600~950℃、好ましくは650~925℃の範囲の温度での熱処理に供することを含む。
【0035】
本発明の一実施態様において、工程(a)からの混合物は、0.1~10℃/分の加熱速度で650~1000℃まで加熱される。
【0036】
本発明の一実施態様において、650~1000℃、好ましくは750~900℃の所望の温度に到達する前に、温度を上昇させる。例えば、まず、工程(a)からの混合物を350~550℃に加熱し、その後10分~4時間の時間一定に保持し、その後650℃~1000℃に上昇させる。
【0037】
工程(a)において、少なくとも1種の溶媒が使用された実施形態において、工程(b)の一部として、又は個別に、工程(b)を開始する前に、このような溶媒(単数又は複数)は、例えば、このような溶媒(単数又は複数)の濾過、蒸発又は蒸留によって、除去される。蒸発及び蒸留が好ましい。
【0038】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、ローラーハースキルン、プッシャーキルン又はロータリーキルン、又は前記の少なくとも2つの組み合わせで行われる。ロータリーキルンは、そこで製造される材料の均質化が非常に良好であるという利点を有する。ローラーハースキルン及びプッシャーキルンでは、異なる工程に関する異なる反応条件を非常に容易に設定することができる。実験室規模の実験では、箱型炉、管状炉、及び分割管状炉も使用可能である。
【0039】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、酸素含有雰囲気中、例えば窒素-空気の混合物中、希ガス-酸素の混合物中、空気中、酸素中、又は酸素富化空気中で実施される。好ましい実施態様において、工程(b)における雰囲気は、空気、酸素及び酸素富化空気から選択される。酸素富化空気は、例えば、体積比50:50の空気と酸素の混合物であってよい。他の選択肢としては、体積比1:2の空気と酸素の混合物、体積比1:3の空気と酸素の混合物、体積比2:1の空気と酸素の混合物、及び体積比3:1の空気と酸素の混合物が挙げられる。
【0040】
本発明の一実施態様において、工程(a)におけるリチウムの化学量論は、TMと、ドーパント(単数又は複数)からのリチウム以外の金属との合計に対して90~95モル%の範囲であり、該当する場合、工程(b)に続いて、リチウムの源との別の混合工程及び別の熱処理工程が続く。
【0041】
加熱後、焼成した材料を室温まで冷却する。本発明の文脈において、冷却に必要な時間は、工程(b)の持続時間に関して無視される。
【0042】
本発明の方法により、一般式Li1+x(TM1-y 1-xによる電極活物質が得られ、ここで、TMが、Niと、Co、Mn及びAlのうちの少なくとも1つと、任意にMg、Al、Ti、Zr及びWから選択される少なくとも1種の金属との組み合わせを含み、xが0~0.2の範囲であり、MがNb及びTaから選択され、yが、0.001~0.01未満、好ましくは0.01~0.0065、より好ましくは0.002~0.003の範囲である。
【0043】
前記電極活物質は、高い初期容量を有し、25℃で、さらに45℃でも容量損失及び抵抗増加が非常に低い。
【0044】
本発明のさらなる態様は、以下で本発明の電極活物質又は本発明のカソード活物質とも呼ばれる、電極活物質に関する。本発明の電極活物質は、一般式Li1+x(TM1-y 1-xを有し、ここで、TMが、Niと、Co、Mn及びAlのうちの少なくとも1つと、任意にMg、Al、Ti、Zr及びWから選択される少なくとも1種の金属との組み合わせを含み、xが0~0.2の範囲であり、MがNb及びTaから選択され、yが、0.001~0.01未満、好ましくは0.001~0.0065、より好ましくは0.002~0.003の範囲であり、平均粒径(D50)が3~20μmの範囲であり、TMの少なくとも60モル%がNiであり、Nb又はTaがそれぞれ、バルクと比較して一次粒子の表面に濃縮している。前記濃縮は、TEM/XPSによって検出される。
【0045】
本発明の電極活物質は、本発明の方法によって製造されてもよい。
【0046】
本発明の一実施態様において、本発明の電極活物質の平均粒径(D50)は、3~16μm、好ましくは5~12μm、より好ましくは1~10μmの範囲である。本発明の文脈における平均粒径(D50)は、例えば光散乱によって決定することができる、体積に基づく粒径の中央値を指す。一実施態様において、前駆体は単峰性粒径分布を有する。他の実施態様において、前駆体の粒子分布は、例えば、1~5μmの範囲における1つの最大値と、7~16μmの範囲における更なる最大値とを有する二峰性であってもよい。
【0047】
本発明のカソード活物質は、一次粒子の凝集体である二次粒子から構成される。好ましくは、前記前駆体は、一次粒子の凝集体である球状の二次粒子から構成される。さらにより好ましくは、前記前駆体は、球状の一次粒子又はプレートレットの凝集体である球状の二次粒子から構成される。
【0048】
本発明の一実施態様において、本発明のカソード活物質の平均粒径(D50)は、3~16μm、好ましくは5~12μm、より好ましくは1~10μmの範囲である。本発明の文脈における平均粒径(D50)は、例えば光散乱によって決定することができる、体積に基づく粒径の中央値を指す。一実施態様において、前駆体は単峰性粒径分布を有する。他の実施態様において、前駆体の粒子分布は、例えば、1~5μmの範囲における1つの最大値と、7~16μmの範囲における更なる最大値とを有する二峰性であってもよい。
【0049】
本発明のカソード活物質の二次粒子の粒子形状は、好ましくは、球形を有する粒子である球体である。球状の球体には、正確に球状のものだけでなく、代表サンプルの少なくとも90%(数平均)の最大直径及び最小直径が10%以下異なる粒子も含む。
【0050】
本発明の一実施態様において、本発明のカソード活物質は、一次粒子の凝集体である二次粒子から構成される。好ましくは、前記前駆体は、一次粒子の凝集体である球状の二次粒子から構成される。さらにより好ましくは、前記前駆体は、球状の一次粒子又はプレートレットの凝集体である球状の二次粒子から構成される。
【0051】
本発明の一実施態様において、本発明のカソード活物質は、0.5~0.9の範囲の粒径分布スパンを有することができ、このスパンは、[(D90)-(D10)]を(D50)で除したものと定義され、全てLASER分析により決定される。本発明の別の実施態様において、前記前駆体は、1.1~1.8の範囲の粒径分布スパンを有してもよい。
【0052】
本発明の一実施態様において、本発明のカソード活物質の比表面積(BET)は、例えばDIN-ISO 9277:2003-05に従って、窒素吸着によって決定され、0.1~1.5m/g、好ましくは0.2~1.0m/gの範囲である。
【0053】
本発明の一実施態様において、本発明のカソード活物質におけるTMは、一般式(I)による金属の組み合わせである

(NiaCobMnc)1-dM2 d (I)

(式中、aは0.6~0.99、好ましくは0.6~0.95、より好ましくは0.8~0.93の範囲であり、
bは0.005~0.2、好ましくは0.05~0.1の範囲であり、
cは0.005~0.2、好ましくは0.03~0.15の範囲であり、
dは0~0.1、好ましくは0.01~0.05の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Mg、Ti、Mo、W及びZrの少なくとも1つであり、
b+c>0であり、
a+b+c=1である)。
【0054】
一部の金属は、遍在するもの、例えばナトリウム、カルシウム又は亜鉛であり、微量のそれらは事実上どこにでも存在するが、そのような微量は本発明の明細書では考慮されない。この文脈における金属の微量とは、TMの全金属含有量に対して0.05モル%以下の量を意味する。
【0055】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1種の本発明による粒子状カソード活物質を含む電極に関する。これらは、特にリチウムイオン電池に有用である。少なくとも1つの本発明による電極を含むリチウムイオン電池は、良好なサイクル挙動/安定性を示す。少なくとも1種の本発明による粒子状カソード活物質を含む電極は、以下で本発明のカソード又は本発明によるカソードとも呼ばれる。
【0056】
特に、本発明のカソードは、
(α)少なくとも1種の本発明の粒子状カソード活物質、
(β)導電状態の炭素、
(γ)バインダー又はバインダー(γ)とも呼ばれるバインダー材料、及び、好ましくは
(δ)集電器
を含有する。
【0057】
好ましい実施態様において、本発明のカソードは、(α)、(β)及び(γ)の合計に基づいて、
(α)80~98質量%の本発明の粒子状カソード活物質、
(β)1~17質量%の炭素、
(γ)1~15質量%のバインダー
を含有する。
【0058】
本発明によるカソードは、さらなる構成要素を含むことができる。それらは、集電器、例えばアルミホイル(これに限定していない)を含むことができる。それらは、導電性炭素及びバインダーをさらに含むことができる。
【0059】
本発明によるカソードは、簡潔に炭素(β)とも呼ばれる、導電性修飾の炭素を含有する。炭素(β)は、すす、活性炭、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラファイトから、及び上記の少なくとも2種の組み合わせから選択することができる。
【0060】
好適なバインダー(γ)は、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン(共)重合、触媒(共)重合又はフリーラジカル(共)重合により得ることができる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、並びに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択された少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適する。ポリイソプレン及びポリアクリレートはさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0061】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0062】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたエチレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばα-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びまたイソブテン、ビニル芳香族のもの、例えばスチレン、及びまた(メタ)アクリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、及びまたマレイン酸、無水マレイン酸及び無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであり得る。
【0063】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたプロピレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばエチレン、及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリプロピレンは、好ましくはイソタクチックポリプロピレン又は本質的にイソタクチックポリプロピレンである。
【0064】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0065】
別の好ましいバインダー(γ)は、ポリブタジエンである。
【0066】
他の好適なバインダー(γ)は、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0067】
本発明の一実施態様において、バインダー(γ)は、50,000g/molから、1,000,000g/molまで、好ましくは500,000g/molまでの範囲の平均分子量Mを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0068】
バインダー(γ)は、架橋された又は架橋されていない(コ)ポリマーであり得る。
【0069】
本発明の特に好ましい実施態様において、バインダー(γ)は、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、1個の分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、より好ましくは1個の分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、ビニリデンフルオリド-テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーが挙げられる。
【0070】
好適なバインダー(γ)は、特にポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリビニルクロリド又はポリビニリデンクロリド、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリビニルフルオリド及び特にポリビニリデンフルオリド、及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0071】
本発明のカソードは、カソード活物質に対して1~15質量%のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。他の実施態様において、本発明のカソードは0.1~1質量%未満のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。
【0072】
本発明のさらなる態様は、本発明のカソード活物質、炭素及びバインダーを含む少なくとも1つのカソード、少なくとも1つのアノード、並びに、少なくとも1種の電解質を含有する電池である。
【0073】
本発明のカソードの実施態様は、上記で詳細に説明したとおりである。
【0074】
前記アノードは、少なくとも1種のアノード活物質、例えば炭素(グラファイト)、TiO、酸化チタンリチウム、シリコン又はスズを含有してもよい。前記アノードは、集電器、例えば、銅ホイルなどの金属ホイルをさらに含有してもよい。
【0075】
前記電解質は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0076】
電解質のための非水性溶媒は、室温で液体又は固体であり得、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートから選択される。
【0077】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C~C-アルキレングリコール及び特にポリエチレングリコールである。ここでは、ポリエチレングリコールは、20モル%以下の1種以上のC~C-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0078】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、少なくとも400g/molであり得る。
【0079】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mは、最大5,000,000g/mol、好ましくは最大2,000,000g/molであり得る。
【0080】
好適な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。
【0081】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0082】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0083】
好適な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、及び特に1,3-ジオキソランである。
【0084】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートである。
【0085】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(II)及び(III)による化合物である
【化1】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なることができ、水素及びC~C-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルから選択され、好ましくは、R及びRの両方ともがtert-ブチルであることはない)。
【0086】
特に好ましい実施態様において、Rはメチルであり、R及びRはそれぞれ水素であるか、又はR、R及びRはそれぞれ水素である。
【0087】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(IV)のビニレンカーボネートである。
【0088】
【化2】
【0089】
好ましくは、溶媒又は複数の溶媒は、水を含まない状態で、すなわち、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定することができる1ppm~0.1質量%の範囲の含水量で使用される。
【0090】
電解質は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。好適な電解質塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiC(C2n+1SO、リチウムイミド、例えばLiN(C2n+1SO(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SOF)、LiSiF、LiSbF、LiAlCl、及び一般式(C2n+1SOYLiの塩である
(式中、Yが酸素及び硫黄から選択される場合、t=1であり、
Yが窒素及びリンから選択される場合、t=2であり、
Yが炭素及びケイ素から選択される場合、t=3である)。
【0091】
好ましい電解質塩は、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiPF、LiBF、LiClOから選択され、LiPF及びLiN(CFSOが特に好ましい。
【0092】
他の実施態様において、本発明は全固体電池に関し、電解質は室温で固体である。
【0093】
本発明の一実施態様において、そのような固体電解質は、0.1mS/cm以上、好ましくは0.1~30mS/cmの範囲の、例えばインピーダンス分光法によって測定可能な、25℃でのリチウムイオン伝導度を有する。
【0094】
本発明の一実施態様において、そのような固体電解質は、LiPS、なおより好ましくは斜方晶系β-LiPSを含む。
【0095】
本発明の一実施態様において、固体電解質(C)は、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-P-Z(式中、m及びnは正数であり、Zはゲルマニウム、ガリウム及び亜鉛からなる群から選択されるものである)、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiPO(式中、y及びzは正数である)、Li11、LiPS、Li11PS12、LiI、及びLi7-r-2sPS6-r-s(式中、Xは塩素、臭素又はヨウ素であり、変数は以下のように定義される:
0.8≦r≦1.7
0≦s≦(-0.25r)+0.5)
からなる群から選択される。
【0096】
固体電解質(C)の特に好ましい例はLiPSClであり、したがって、r=1.0であり、s=0である。
【0097】
本発明の実施態様において、本発明による電池は、それによって電極が機械的に分離される1つ以上のセパレータを含む。好適なセパレータは、金属リチウムに対して反応しないポリマーフィルム、特に多孔性ポリマーフィルムである。セパレータのための特に好適な材料は、ポリオレフィン、特にフィルム形成の多孔性ポリエチレン及びフィルム形成の多孔性ポリプロピレンである。
【0098】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから構成されるセパレータは、35~45%の範囲の多孔率を有することができる。好適な細孔径は、例えば30~500nmの範囲である。
【0099】
本発明の他の実施態様において、セパレータは、無機粒子で充填したPET不織布から選択することができる。このようなセパレータは40~55%の範囲の多孔率を有し得る。好適な細孔径は、例えば80~750nmの範囲である。
【0100】
本発明による電池は、任意の形状、例えば、立方体、又は円筒形ディスク又は円筒形カンの形状を有することができるハウジングをさらに含むことができる。一変形態様において、ポーチとして構成された金属ホイルをハウジングとして使用する。
【0101】
本発明による電池は、非常に良好なサイクル安定性及び低い容量損失を示す。
【0102】
本発明による電池は、互いに組み合わされている、例えば直列に接続するか、又は並列に接続することができる2つ以上の電気化学セルを含むことができる。直列接続が好ましい。本発明による電池において、少なくとも1つの電気化学セルは少なくとも1つの本発明によるカソードを含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、電気化学セルの大部分は本発明によるカソードを含有する。さらにより好ましくは、本発明による電池において、すべての電気化学セルは本発明によるカソードを含有する。
【0103】
本発明はさらに、本発明による電池を機器、特にモバイル機器に使用する方法を提供する。モバイル機器の例は、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又は水上乗り物、例えばボート又は船である。モバイル機器の他の例は、手動で動くもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は例えば建築部門における電動手工具、特にドリル、バッテリー式ドライバー又はバッテリー式ステープラーである。
【実施例
【0104】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
【0105】
Nb・HO:ニオブ酸、非晶質
出発材料:
I.焼成のための出発材料の提供
I.1 前駆体(A.1)の合成
1kgの水当たり49gの硫酸アンモニウムの水溶液を撹拌タンク反応器に入れた。溶液を55℃に温度調節し、水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、pH値を12に調整した。
【0106】
硫酸遷移金属水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液を1.8の流量比で同時に供給し、総流量を8時間の滞留時間とすることにより、共沈反応を開始させた。遷移金属溶液は、Ni、Co及びMnを8.8:0.6:0.6のモル比及び1.65mol/kgの合計の遷移金属濃度で含有した。水酸化ナトリウム水溶液は、25質量%の水酸化ナトリウム溶液及び25質量%のアンモニア溶液を6の質量比で含有した。水酸化ナトリウム水溶液を別に供給することにより、pH値を12に維持した。すべての供給の始動から始めて、母液を継続的に取り出した。33時間後、すべての供給流を停止した。得られた懸濁液を濾過し、蒸留水で洗浄し、空気中120℃で乾燥させ、ふるいにかけることにより、混合遷移金属(TM)オキシ水酸化物前駆体TM-OH.1(前駆体(A.1))を得た。(D50):10μm。
【0107】
I.2:混合工程
混合遷移金属オキシ水酸化物前駆体TM-OH.1をLiOH一水和物と、1.05のLi/(Ni+Co+Mn)モル比で混合した。この混合物を780℃に加熱し、100%の酸素の混合物の強制流下で10時間保持した。室温まで冷却した後、得られた粉末を脱凝集させ、45μmメッシュでふるい分け、電極活物質B-CAM 1を得た。
【0108】
Malvern InstrumentsからのMastersize 3000機でレーザー回折の技術を使用して決定されたD50は10.0μmであった。Li及び遷移金属の含有量は、ICP分析により決定した。250℃で決定した残留水分は300ppm未満であった。
【0109】
II.本発明のカソード活物質及び比較用カソード活物質の合成
II.1 CAM.1(本発明)の合成
TM-OH.1、及び1.4μmのD50を有する非晶質Nb・HOを、LiOH一水和物と、1.05のLi/(Ni+Co+Mn)モル比、及び0.003のNb/(Ni+Co+Mn)モル比で混合した。この混合物を760℃に加熱し、100%の酸素の強制流下で10時間保持した。室温まで冷却した後、得られた粉末を脱凝集させ、45μmメッシュでふるい分け、電極活物質CAM.1を得た。
【0110】
II.2 CAM.2(本発明)の合成
TM-OH.1、及び16.2μmのD50を有する非晶質ニオブ酸Nb・HOを、LiOH一水和物と、1.05のLi/(Ni+Co+Mn)モル比、及び0.003のNb/(Ni+Co+Mn)モル比で混合した。この混合物を760℃に加熱し、100%の酸素の強制流下で10時間保持した。室温まで冷却した後、得られた粉末を脱凝集させ、45μmメッシュでふるい分け、電極活物質CAM.2を得た。
【0111】
II.3 CAM.3(本発明)の合成
TM-OH.1、及び1.5μmのD50を有する非晶質酸化ニオブNbを、LiOH一水和物と、1.05のLi/(Ni+Co+Mn)モル比、及び0.003のNb/(Ni+Co+Mn)モル比で混合した。この混合物を760℃に加熱し、100%の酸素の強制流下で10時間保持した。室温まで冷却した後、得られた粉末を脱凝集させ、45μmメッシュでふるい分け、電極活物質CAM.3を得た。
【0112】
II.4 C-CAM.4(比較用)の合成
TM-OH.1、及び51.2μmのD50を有する結晶性酸化ニオブNbを、LiOH一水和物と、1.05のLi/(Ni+Co+Mn)モル比、及び0.003のNb/(Ni+Co+Mn)モル比で混合した。この混合物を760℃に加熱し、100%の酸素の混合物の強制流下で10時間保持した。室温まで冷却した後、得られた粉末を脱凝集させ、45μmメッシュでふるい分け、電極活物質C-CAM.4を得た。
【0113】
比較用材料C-CAM.5~C-CAM.7をこれに準じて作製したが、1.4μmの(D50)のNb・HOをそれぞれ1%、2%又は3%を使用した。比較用材料C-CAM.8~C-CAM.10をこれに準じて作製したが、16.2μmの(D50)のNb・HOをそれぞれ1%、2%又は3%を使用した。
【0114】
各CAM.1、CAM.2、CAM.3及びC-CAM.4~C-CAM.10は、一次粒子の凝集体である二次粒子で構成されていた。
【0115】
CAM.1、CAM.2、及びCAM.3のそれぞれにおいて、一次粒子の大部分と比較して、一次粒子の表面にNbの濃縮を検出することができた。
【0116】
III カソード活物質のテスト
III.1 電極の製造
III.1.1 正極の製造
PVDFバインダー(Solef(登録商標)5130)をNMP(Merck)中に溶解して、7.5質量%の溶液を製造した。電極の調製では、バインダー溶液(3質量%)、グラファイト(SFG6L、2質量%)及びカーボンブラック(Super C65、1質量%)をNMP中に懸濁させた。遊星遠心ミキサー(ARE-250、Thinky Corp.;日本)を使用して混合した後、本発明のCAM.1~CAM.4又は比較用カソード活物質(94質量%)を添加し、懸濁液を再度混合して、塊のないスラリーを得た。スラリーの固形分を65%に調整した。KTF-Sロールツーロールコーター(Mathis AG)を使用して、スラリーをAlホイル上にコーティングした。使用前に、すべての電極をカレンダ加工した。カソード材料の厚さは70μmであり、15mg/cmに対応した。バッテリーを組み立てる前に、すべての電極を105℃で7時間乾燥させた。
【0117】
III.2 電解質の製造
EL塩基1の総質量に基づいて、12.7質量%のLiPF、26.2質量%のエチレンカーボネート(EC)、及び61.1質量%のエチルメチルカーボネート(EMC)を含有する塩基電解質組成物(EL塩基1)を調製した。
【0118】
III.3 テストセル:コイン型ハーフセルの製造
III.1.1で記載されているように調製したカソードと、動作電極及び対極としてのリチウム金属ホイルとを含むコイン型ハーフセル(直径20mm、厚さ3.2mm)を、III.2で記載した電解液を0.15mL注入してそれぞれ組み立て、Arを充填したグローブボックス中に密封した。カソード、セパレータ、及びリチウム金属ホイルをそれぞれ重ね合わせて、ハーフコインセルを製造した。
【0119】
IV セル性能の評価
IV.1 コイン型ハーフセル性能の評価
III.3.1に記載のコイン型セルを使用して、セル性能を評価した。電池性能について、初期性能に関する初期容量及びクーロン効率、セルの長期安定性に関する25℃と45℃でのサイクル容量保持率及び抵抗成長を測定した。
【0120】
IV.1.1 初期性能
以下のように初期性能を測定した:
III.3.1に従って作製したコイン型ハーフセルを、25℃で4.3V~3.0Vの間の電圧範囲でテストした。初期サイクルでは、CC-CVモードで初期充電を行った。すなわち、4.3Vに達するまで0.1Cの定電流(CC)を印加し、0.01Cに達するまで4.3V(CV)で保持した。10分間の休止期間の後、0.1C~3.0VのCCモードで初期放電を行った。セルを安定させるために数サイクルを行った後、CC-CVモードで0.5Cの充電を同じ電圧範囲で行い、CCモードで0.1Cでの放電容量をモニターした。
【0121】
IV.1.2 25℃でのサイクル性能
以下のように25℃でのサイクル性能を測定した:
IV.2.1に従って初期性能テストを行った後、セルを、25℃で4.3V~3.0Vの間の電圧範囲でテストし、CC-CVモードで行った。すなわち、4.3Vに達するまで0.5Cの定電流(CC)を印加し、0.01Cに達するまで4.3V(CV)で保持した。10分間の休止期間後、1C~3.0VのCCモードで放電を行った。1サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量の比で、容量保持率を算出した。
【0122】
100サイクル後、コインハーフセルをIV.1.1の条件下でテストし、同じ電圧範囲で0.5Cの充電を行い、0.1Cでの放電容量をテストし、サイクル試験前後の放電容量値を比較した。
【0123】
IV.1.3 45℃でのサイクル性能
以下のように45℃でのサイクル性能を測定した:
III.3.1に従って作製したコイン型ハーフセルを、45℃で4.25V~3.0Vの間の電圧範囲でテストした。初期サイクルでは、CC-CVモードで初期充電を行った。すなわち、4.25Vに達するまで0.1Cの定電流(CC)を印加し、0.01Cに達するまで4.25V(CV)で保持した。10分間の休止期間の後、0.1C~3.0VのCCモードで初期放電を行った。
【0124】
初期性能テストを行った後、セルを、45℃で4.25V~3.0Vの間の電圧範囲でサイクルし、CC-CVモードで充電を行った。すなわち、4.25Vに達するまで0.5Cの定電流(CC)を印加し、0.01Cに達するまで4.25V(CV)で保持した。10分間の休止期間後、0.5C~3.0VのCCモードで放電を行った。1サイクル目の放電容量と30サイクル目の放電容量の比で、容量保持率を算出した。並行して、放電時のセル電圧の初期低下から、サイクル中のセル抵抗の上昇をモニターした。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【手続補正書】
【提出日】2022-03-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li1+x(TM1-y 1-xによる電極活物質を製造する方法であって、TMが、一般式(I)による金属の組み合わせであり、

(Ni a Co b Mn c ) 1-d M 2 d (I)

(式中、aは0.6~0.99の範囲であり、
bは0.005~0.2の範囲であり、
cは0.005~0.2の範囲であり、
dは0~0.1の範囲であり、
は、Al、Mg、W、Ti及びZrの少なくとも1つであり、
a+b+c=1である)
xが0~0.2の範囲であり、MがNb及びTaから選択され、yが、0.001~0.01未満の範囲であり、前記方法が、以下の工程:
(a)以下の成分
(A)Mn、Co及びNiの粒子状混合酸化物又は(オキシ)水酸化物、
(B)水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムから選択される少なくとも1種のリチウム化合物、及び
(C)Nb又はTaの非晶質化合物
を混合する工程と、
(b)前記混合物を700~1000℃の範囲の温度での熱処理に供する工程と
を含み、
TMの遷移金属の少なくとも60モル%がNiである、方法
【請求項2】
工程(a)における前記混合が、乾燥状態で行われる、請求項に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)がロータリーキルン又はローラーハースキルンで行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(C)が、非晶質ニオブ酸Nb又は非晶質Taである、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(C)が1~100μmの範囲の平均粒径(D50)を有する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
Al、Ti及びZrの酸化物又は(オキシ)水酸化物から選択される化合物(D)が工程(a)に存在する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前駆体(A)が、ニッケル、コバルト及びマンガンの混合水酸化物を共沈させ、その後に空気下で乾燥させ、脱水することによって得られる、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
一般式Li1+x(TM1-y 1-xによる電極活物質であって、TMが、一般式(I)による金属の組み合わせであり、

(Ni a Co b Mn c ) 1-d M 2 d (I)

(式中、aは0.6~0.99の範囲であり、
bは0.005~0.2の範囲であり、
cは0.005~0.2の範囲であり、
dは0~0.1の範囲であり、
は、Al、Mg、W、Ti及びZrの少なくとも1つであり、
a+b+c=1である)
xが0~0.2の範囲であり、MがNb及びTaから選択され、yが、0.001~0.01未満の範囲であり、平均粒径(D50)が3~20μmの範囲であり、TMの少なくとも60モル%がNiであり、Nb又はTaがそれぞれ、バルクと比較して一次粒子の表面に濃縮しており、このような電極活物質が一次粒子の凝集体である二次粒子から構成される、電極活物質
【請求項9】
がNbである、請求項に記載の電極活物質
【請求項10】
(α)少なくとも1種の、請求項8又は9に記載の電極活物質、
(β)導電状態の炭素、
(γ)バインダー材料
を含有する、カソード。
【請求項11】
(α)、(β)及び(γ)の合計に基づいて、
(α)80~98質量%のカソード活物質、
(β)1~17質量%の炭素、
(γ)3~10質量%のバインダー材料
を含有する、請求項10に記載のカソード。
【請求項12】
少なくとも1つの、請求項10又は11に記載のカソードを含有する電気化学セル。
【国際調査報告】