(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(54)【発明の名称】エフェクターレスFC分子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231220BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/00 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537963
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2021086735
(87)【国際公開番号】W WO2022136238
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルナー・ディットリヒ
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ヘルマン・コーン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ランゲ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ランガー
(72)【発明者】
【氏名】ジユ・リー
(72)【発明者】
【氏名】エルコーレ・ラオ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、修飾されたFc領域であって、抗体依存性細胞毒性(ADCC)のような抗体エフェクター機能を媒介しないが、新生児Fc受容体(FcRn)への結合による長い血清半減期を維持するFc領域を含む分子を提供する。この目的のため、本発明の分子は、抗体ヒンジ領域のジスルフィド架橋を含まないが、少なくとも2つの共有結合によって、C末端で結合されている。さらに、本発明の分子は、追加のジスルフィド結合を有するCH2ドメインを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのポリペプチドを含む分子であって、
前記ポリペプチドは、抗体Fc領域を形成し、
前記2つのポリペプチドは、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合によって結合されており、
前記2つのポリペプチドは、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のN末端に位置するジスルフィド結合によって結合されておらず、
各ポリペプチドは、前記Fc領域の一部であるCH2ドメインを含み、これらのCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない追加の内部ジスルフィド結合を含み、
追加の内部ジスルフィド結合は、EU番号付けに従った以下の位置:P238CとD265C;P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される、
分子。
【請求項2】
前記追加の内部ジスルフィド結合が、EU番号付けに従った以下の位置:P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
前記追加の内部ジスルフィド結合が、EU番号付けに従った以下の位置:P238CとL328C;およびS267CとA327Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される、請求項1または2に記載の分子。
【請求項4】
前記2つの共有結合が、2つのジスルフィド結合である、請求項1~3のいずれか1項に記載の分子。
【請求項5】
Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合が、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列中に含まれる、請求項1~4のいずれか1項に記載の分子。
【請求項6】
C1qならびに/またはFcγR1、FcγR2、および/もしくはFcγR3に対する親和性が、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のN末端に位置する抗体ヒンジ領域を含む同じ分子と比較して、少なくとも10分の1に低下している、請求項1~5のいずれか1項に記載の分子。
【請求項7】
プロテインAおよび/またはFcgRnに対する親和性が、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のN末端に位置する抗体ヒンジ領域を含む同じ分子と比較して、低下していない、請求項1~6のいずれか1項に記載の分子。
【請求項8】
前記Fc領域が、IgG、IgM、IgA、IgD、またはIgEのFc領域である、請求項1~7のいずれか1項に記載の分子。
【請求項9】
前記少なくとも2つの共有結合が、各ポリペプチドのCH3またはCH4ドメインのC末端に位置する、請求項1~8のいずれか1項に記載の分子。
【請求項10】
前記Fc領域が、IgG抗体のFc領域である、請求項1~9のいずれか1項に記載の分子。
【請求項11】
前記少なくとも2つの共有結合が、各ポリペプチドのCH3ドメインのC末端に位置する、請求項1~10のいずれか1項に記載の分子。
【請求項12】
前記分子が、少なくとも1つの活性部分をさらに含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の分子。
【請求項13】
前記活性部分が、少なくとも1つのポリペプチドのCH2ドメインのN末端に位置し、前記分子が、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合のC末端に位置する活性部分を含まない、請求項12に記載の分子。
【請求項14】
前記活性部分が、抗原結合部分である、請求項12または13に記載の分子。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の分子をコードしているポリヌクレオチド。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
モノクローナル抗体に加えてFc融合タンパク質は、極めて有望な生物薬剤であり、これらの化合物のマーケットは、近年、著しく拡大している。これらの分子が成功を収めている理由は、小さい化学化合物と比較したそれらの高い特異性、安全性、および循環血中での長い半減期である。2017年までに、10種類を超えるFc融合タンパク質が承認されており、さらに審査中のものもある。抗体は、2つの異なるタンパク質鎖である軽鎖(LC)および重鎖(HC)で構成されている。1つのLCは1つのHCに共有結合されており、HCは、それらの部分で共有結合されている(ジスルフィド結合による)。LCは可変ドメイン(VL)および定常ドメイン(CL)で構成されるのに対して、HCは可変ドメイン(VH)およびいくつかの定常ドメイン(例えば、IgGのCH1、CH2、およびCH3ドメイン)からなる。機能上、抗体を、2つのFab(抗原結合断片)領域および1つのFc(結晶性断片)領域に分けることができる。各Fab領域は、4つのドメイン:VL、CL、VH、およびCH1からなる。Fc領域は、残りの定常ドメイン(IgGのCH2およびCH3ドメイン)を含む。Fab領域は、ヒンジ領域と呼ばれる柔軟な配列を介して、Fc領域に接続されている。このヒンジ領域は、HCを結合するジスルフィド架橋を含む。
【0002】
抗体は、多機能タンパク質である。抗原はFab領域によって結合され、抗体のエフェクター機能はFc領域によって媒介される。抗体のエフェクター機能は、抗体依存性細胞毒性(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、および抗体依存性補体沈着(ADCD)を含む。これらの作用は、それぞれFcガンマ受容体(FcγR)および補体タンパク質C1qへの抗体Fc領域の結合を介して媒介される。これらの抗体エフェクター機能は、自然抗体、さらに一部の改変された治療用抗体(例えば、腫瘍学における)の有効性にとって重要である。一方、前記エフェクター機能は、他の多くの改変された治療用抗体、例えば、炎症誘発性サイトカインのような可溶性標的に対する抗体にとっては望ましくない。このような抗体は、そのFab断片の結合を介して、それらの特異的な標的を、主に遮断することによって、または遮断することによってのみ作用するように設計されることが多いが、そのFc領域のあらゆるエフェクター機能は、免疫反応への干渉および潜在的に有害な免疫反応、極端な場合、抗CD28抗体TGN1412で認められた「サイトカインストーム」を引き起こす。
【0003】
一方、Fc領域は、新生児Fc受容体(FcRn)によって媒介される「再利用」機構を介して、循環血中の抗体およびFc融合タンパク質の半減期を著しく延長させる。加えて、Fc領域は、その分子の全体的な安定性に寄与し、そのFcドメインの重要で望ましい別の機能は、プロテインAに対するその強力で特異的な結合である。固定化プロテインAへの抗体およびFc融合タンパク質の結合は、通常、抗体およびFc融合タンパク質の精製中の第1の精製工程である。したがって、前記抗体分子からのFc領域の単純な除去は、重大な問題点を有するであろう。
【0004】
このため、いくつかの変異体Fc領域が、前記Fc領域の好ましい作用(半減期延長、プロテインA結合、安定化)を維持しつつ、抗体エフェクター機能を低下させるために開発されてきた。これらの取り組みは、アグリコシル化変異体および点変異を有する変異体を含む(非特許文献1)。しかし、点変異変異体の多くは少なくとも一部の抗体エフェクター機能を維持しており、アグリコシル化変異体は低下した溶解性または安定性を示す(非特許文献2)。抗体エフェクター機能を消失させる別の試みは、Fc領域へのFcγRおよびC1qの結合に寄与するヒンジ領域の修飾または除去である(非特許文献3)。このような「ヒンジ欠失」抗体は、FcγR媒介性エフェクター機能を実質的に示さないことが認められた(非特許文献4)。しかし、これらの構造によって、安定性が低下し、FcRnへの結合が損なわれており、これは、in vivo半減期がより短くなることを意味するであろう。
【0005】
このため、抗体エフェクター機能を持たないが、高い安定性を維持し、FcRn結合およびプロテインA結合が損なわれていない抗体またはFc融合タンパク質の必要性が依然として存在している。本発明は、機能的なヒンジ領域は欠如しているが、Fc部分のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合およびCH2ドメイン中の追加の内部ジスルフィド結合を含むFc領域を提供することによって、この必要性に対処している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wangら、Protein Cell.2018;9(1):63~73ページ
【非特許文献2】Dumetら、MAbs.2019;11(8):1341~1350ページ
【非特許文献3】Vidarssonら、Front Immunol.2014;5:520
【非特許文献4】Valeichら、Antibodies(Basel).2020年12月;9(4):50
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様において、本発明は、2つのポリペプチドを含む分子であって、
前記ポリペプチドは、抗体Fc領域を形成し、
前記2つのポリペプチドは、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合によって結合されており、
前記2つのポリペプチドは、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のN末端に位置するジスルフィド結合によって結合されておらず、
各ポリペプチドは、前記Fc領域の一部であるCH2ドメインを含み、これらのCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない追加の内部ジスルフィド結合を含み、
追加の内部ジスルフィド結合は、EU番号付けに従った以下の位置:P238CとD265C;P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される、
分子を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態において、追加の内部ジスルフィド結合は、EU番号付けに従った以下の位置:P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される。
【0009】
いくつかの実施形態において、追加の内部ジスルフィド結合は、EU番号付けに従った以下の位置:P238CとL328C;およびS267CとA327Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記2つの共有結合は、2つのジスルフィド結合である。
【0011】
いくつかの実施形態において、Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合は、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列中に含まれる。
【0012】
いくつかの実施形態において、C1qならびに/またはFcγR1、FcγR2および/もしくはFcγR3に対する親和性は、Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のN末端に位置する抗体ヒンジ領域を含む同じ分子と比較して、少なくとも10分の1に低下している。
【0013】
いくつかの実施形態において、プロテインAおよび/またはFcgRnに対する親和性は、Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のN末端に位置する抗体ヒンジ領域を含む同じ分子と比較して、低下していない。
【0014】
いくつかの実施形態において、Fc領域は、IgG、IgM、IgA、IgD、またはIgEのFc領域である。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも2つの共有結合は、各ポリペプチドのCH3またはCH4ドメインのC末端に位置する。
【0016】
いくつかの実施形態において、Fc領域は、IgG抗体のFc領域である。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも2つの共有結合は、各ポリペプチドのCH3ドメインのC末端に位置する。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記分子は、少なくとも1つの活性部分をさらに含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記活性部分は、少なくとも1つのポリペプチドのCH2ドメインのN末端に位置し、前記分子は、Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合のC末端に位置する活性部分を含まない。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記活性部分は、抗原結合部分である。
【0021】
第2の態様において、本発明は、第1の態様の任意の実施形態による分子をコードしているポリヌクレオチドを提供する。
【0022】
本発明は、Fcの潜在的に有害な抗体エフェクター機能(ADCC、ADCP、ADCD)を示さないが、すべての望ましいFcの機能性:FcRn結合を介した長い血清半減期、プロテインA結合を介した容易な精製、および高い分子安定性を維持する分子を提供する。
【0023】
本発明の分子のこれらの有利な特性は、以下の特性の組合せによる:機能的な抗体ヒンジ領域の欠如であって、抗体エフェクター機能を低下させる機能的な抗体ヒンジ領域の欠如、および少なくとも2つのC末端の共有結合に加えてCH2ドメイン中の追加の内部ジスルフィド結合であって、いずれも安定性を増強する結合。このため、本発明は、抗体エフェクター機能を持たず、FcRn結合が損なわれておらず、かつ安定性が増強されている分子を提供する。
【0024】
抗体エフェクター機能を低下させる点変異を有する既知のFc変異体(例えば、「LALA」変異(L234AおよびL235A))と比較して、本発明の分子にあるようなN末端のヒンジ領域の欠如は、ADCDをより効率的に消失させる(
図8)。
【0025】
C末端の共有結合を持たないヒンジ欠失抗体は、安定性が低下し、かつFcRn結合が損なわれる(Valeichら、Antibodies(Basel).2020年12月;9(4):50に示される通り)が、本発明の分子は、FcRn結合が損なわれていない。
【0026】
加えて、本発明の分子のCH2ドメイン中のC末端の共有結合と追加の内部ジスルフィド結合の組合せは、分子を安定化し、このため、N末端のヒンジ領域の欠如を完全に補完することができる(表6)。
【0027】
前記分子のCH2ドメインは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない追加の内部ジスルフィド結合を含む。これは、前記分子の安定性をさらに増強する。特定の内部ジスルフィド結合は、他のものより良好な安定化をもたらす。安定化という観点から、特に望ましい内部ジスルフィド結合は、P238C/L328C、S267C/A327C、およびV240C/I332Cである。
【0028】
その上、本発明の分子の2つのポリペプチドは、そのC末端の少なくとも2つの鎖間共有結合による安定した二量体を形成する。前記分子は、適切に折り畳まれており、追加のC末端の共有結合によって媒介される凝集は、認められなかった(SEC-MALSデータ、
図4および11参照)。凝集体形成を防ぐことは、凝集体がADCDを媒介し得ることから、Fc領域を含む分子にとって極めて重要である。その上、本発明の分子のC末端の共有結合は、その抗体の天然FcのC末端をマスキングし、Fc末端凝集によって媒介されるADCDも防ぐ。
【0029】
さらに、前記分子は、標準的なタンパク質発現系において、高い発現レベルを有する。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも2つのC末端の共有結合は、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列中に含まれる。この場合、前記少なくとも2つのC末端の共有結合は、この配列内の少なくとも2つのジスルフィド結合である。驚くべきことに、前記抗体ヒンジ領域の配列は、Fc部分のC末端に位置する場合も、鎖間ジスルフィド結合を形成する。前記抗体ヒンジ領域の配列は、ヒト内因性抗体ヒンジ領域から得られるため、外因性配列の使用を避けることができ、これは、抗薬物抗体(ADA)形成のリスクを減少させる。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記分子は、Fc部分のN末端に位置する活性部分を含む。いくつかの実施形態において、前記分子は、Fc領域のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合のC末端に位置する活性部分を含まない。これは、FcのC末端部分が、前記活性部分に干渉できない、例として、標的へのその結合を妨げないという利点を有する。いくつかの実施形態において、前記活性部分は、抗原結合部分である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】Fc結合タンパク質のための結合部位が示されているIgGの概略図である(A)。FcγRおよびC1qは、下部ヒンジ領域に結合する(Vidarssonら、Front Immunol.2014;5:520)。この部位は、下部CH2および上部CH3ドメインに位置するFcRnおよびプロテインAの結合部位とは異なる(Vidarssonら、Front Immunol.2014;5:520)。本発明によるエフェクターレスFc領域の概略図である(B)。Fc領域のN末端に位置するヒンジ領域は、除去され、その配列は、前記Fc領域のC末端に移行された。その上、CH1ドメインは、リンカー配列を介してCH2ドメインに接続されている。したがって、この新しい配置は、FcγRおよびC1qのための結合部位を完全に除去している。
【
図2】異なる抗TNFα抗体変異体の概観を示す図である。このFabは、アダリムマブ由来のものであり、すべての変異体において同じである。Mab01は、IgG1野生型(wt)を有するアダリムマブである。Mab02は、既知の「LALA」(L234A/L235A)変異に加えて、グリコシル化を回避するためのN297A変異を有するIgG1変異体である(Wangら、Protein Cell.2018;9(1):63~73ページ)。Mab03は、IgG1と比較して、エフェクター機能が低下しているIgG2 Fc骨格を有する。Mab04は、既知のE269RおよびK322A変異を有するIgG1 Fc骨格を有する。Mab05は、LALA(L234A/L235A)変異および追加の既知のP329A変異を有するIgG1 Fc骨格を有する。Mab06は、C末端に移動されたヒンジ領域の配列を伴い、CH1とCH2ドメインの間にリンカー配列を伴わない本発明によるFc IgG1(「逆さまの」と表記されている)である。Mab07は、CH1とCH2ドメインの間に19GS-リンカーをさらに含んでいる、本発明によるFc IgG1(「逆さまの」と表記されている)である。
【
図3】非還元および還元条件下における
図2に記載の精製された抗体変異体のSDS-PAGEを示す図である。M:タンパク質マーカー。
【
図4-1】分析用サイズ排除クロマトグラフィーおよび異なる抗体の算出された分子量を示す図である。(A)散乱光強度の尺度としてのレイリー比の相対シグナル強度が、経過時間に対してプロットされている。(B)ピークのクローズアップ図。主要なピーク画分内のタンパク質の算出された分子量が示されている。Mab06は、「ud-IgG1」と表記されており;Mab07は、「ud-IgG1(19GS)」と表記されている。
【
図5】SPRによって決定される異なる抗体へのTNFαの結合を示す図である。抗体は、チップに固定化され、ヒトTNFαは、検体として使用された。対応する抗体変異体が示されている。Mab06は、「ud-IgG1」と表記されており;Mab07は、「ud-IgG1(19GS)」と表記されている。
【
図6-1】異なるFcRに対する異なる抗体のSPR-親和性測定値を示す図である。相互作用分析のために、前記FcRは、センサーチップに固定化された。このセンサーグラムは、様々な濃度における異なる抗体の結合プロファイルを示している。Mab06は、「ud-IgG1」と表記されており;Mab07は、「ud-IgG1(19GS)」と表記されている。
【
図7】エフェクター機能:ADCCを示す図である。(A)前記アッセイのアッセイ原理の略図。膜固定抗原の結合において、エフェクター細胞は、FcγRIII活性化によって活性化される。このエフェクター細胞の活性化は、標的細胞の細胞溶解をもたらす。(B)IgG1 wt、IgG1 LALA N297A(アグリコシル化)、およびIgG1 LALA P329A変異体を用いて得られたADCCアッセイの結果。(C)IgG1 wt、IgG1 E269R、K322A、およびIgG2。(D)IgG1 wt、本発明によるFc IgG1(「ud-IgG1」)、19GS-リンカーを含む本発明によるFc IgG1(「ud-IgG1(19GS)」)。活性度は、特異的溶解%で得られる(実施例の項における「方法」を参照)。
【
図8】エフェクター機能:ADCDを示す図である。(A)前記アッセイのアッセイ原理の略図。抗原抗体複合体(免疫複合体)の形成は、補体系の動員をもたらす。結果として、標的細胞を死滅させる膜傷害複合体が構築される。(B)IgG1 wt、IgG1 LALA N297A(アグリコシル化)、およびIgG1 LALA P329A変異体。(C)IgG1 wt、IgG1 E269R、K322A、およびIgG2。(D)IgG1 wt、本発明によるFc IgG1(「ud-IgG1」)、19GS-リンカーを含む本発明によるFc IgG1(「ud-IgG1(19GS)」)。活性度は、特異的溶解%で得られる(材料および方法を参照)。
【
図9-1】異なるGLP1-RA-Fc融合タンパク質の概観を示す図である。すべての融合タンパク質は、同じGLP1配列およびFcドメインに対するリンカー配列を含有する。なお、GLP1-Fc01およびGLP1-Fc04は、IgG4由来Fcドメインを含有する。このFc変異体は、エフェクター機能を低下させる既知のF234AおよびL235A変異ならびに半抗体形成を回避するための既知のS228P変異を含有する。すべてのIgG1-Fc変異体は、エフェクター機能を低下させるLALA(L234A/L235A)変異を含有する。明確にするために、これらの変異は、図に表記されていない。本発明によるFc変異体(GLP-Fc04~GLP-Fc014)は、「逆さまの」と表記されている。
【
図10】非還元(A)および還元(B)条件下における
図9に記載の精製されたGLP1-RA-Fc融合タンパク質変異体のSDS-PAGEを示す図である。M:タンパク質マーカー。
【
図11-1】分析用サイズ排除クロマトグラフィーおよび異なるGLP1-RA Fc融合タンパク質の算出された分子量を示す図である。明確にするために、1つのグラフに7セットのデータのみを示している。(A、B)レイリー比の相対シグナル強度が、経過時間に対してプロットされている。(C、D)ピークのクローズアップ図。主要なピーク画分内のタンパク質の算出された分子量が示されている。
【
図12-1】nanoDSFを用いて決定されたGLP1-RA Fc融合タンパク質の安定性を示す図である。明確にするために、1つのグラフに最大で4つの変異体を示している。(A)変異体GLP1-Fc01~GLP1-Fc04、(B)GLP1-Fc05~GLP1-Fc08、(C)GLP1-Fc09~GLP1-Fc12、ならびに(D)GLP1-Fc13およびGLP1-14。すべての測定は、2回ずつ行われた。曲線は平均値データを表し、その標準偏差は影として示されている。各サンプルにおける蛍光強度は、330nmおよび350nmで測定されている。それぞれの上のパネルには、350nm/330nmにおける蛍光強度の比が、温度に対してプロットされている。この350nm/330nm比は、前記タンパク質のアンフォールディングにおいて誘導されたトリプトファン残基のスペクトルシフトに関する尺度である。下のパネルには、融解曲線の一次導関数が示されている。一次導関数の最大値は、タンパク質安定性の尺度としての変曲点(IP)を算出するために使用された。
【
図13】GLP1-Fc01およびGLP1-Fc04の薬力学的プロファイルを示す図である。雌db/dbマウスまたは痩せた対照に、ビヒクル(PBS)または対照に対して、10nmol/kgのGLP1-Fc01またはGLP1-Fc04を、4日毎に14日間皮下投与した。体重増加(A)および摂食血糖値(B)を、本試験全体を通して分析し、(B)をベースライン(1日目)からのグルコース変化として示した。皮下への化合物投与の時点は、矢印で示されている。データは平均値±SEMであり、1群あたりn=8である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、2つのポリペプチドを含む分子であって、前記ポリペプチドは、抗体Fc領域を形成し、前記2つのポリペプチドは、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合によって結合されており、前記2つのポリペプチドは、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のN末端に位置するジスルフィド結合によって結合されておらず、各ポリペプチドは、前記Fc領域の一部であるCH2ドメインを含み、これらのCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない追加の内部ジスルフィド結合を含み、追加の内部ジスルフィド結合は、EU番号付けに従った以下の位置:P238CとD265C;P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される、分子を提供する。
【0034】
本発明の分子設計は、分子が、Fc媒介性抗体エフェクター機能(ADCC、ADCP、ADCD)を引き起こさないが、Fc領域の望ましい機能:FcRn結合、プロテインA結合、および安定化を維持することを可能にする。本発明は、抗体エフェクター機能を担うFcγRおよびC1qのための結合部位は、抗体ヒンジ領域に部分的に位置しているが、FcRnおよびプロテインAのための結合部位は、Fc領域のよりC末端側の部分に位置している(
図1)という発見に基づいている。このため、前記ヒンジ領域の除去によって、望ましいFc機能を損なうことなく、抗体エフェクター機能が消失する。その上、本発明の分子の2つのC末端の共有結合およびCH2ドメイン中の追加の内部ジスルフィド結合は、単なるヒンジ欠失抗体変異体で認められる欠点(損なわれたFcRn結合、低下された安定性)を克服する(Valeichら、Antibodies(Basel).2020年12月;9(4):50)。
【0035】
定義
本発明が以下で詳細に説明される前に、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコール、および試薬は変更されることがあるため、これらに限定されるものではないことは理解されるべきである。本明細書で使用された用語集は、特定の実施形態を説明する目的のためのみのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるであろう本発明の範囲を限定することを意図していないことも理解されるべきである。別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0036】
本明細書の本文全体を通して、いくつかの文献が言及されている。本明細書に言及されている文献(すべての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書、使用説明書などを含む)のそれぞれは、前出または後出を問わず、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0037】
この記載および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数の指示対象を含む。
【0038】
抗体位置:抗体分子または抗体分子の断片内にあるアミノ酸の位置は、別段の指定がない限り、EU番号付けに従って指定される。
【0039】
「分子」は、本明細書で使用する場合、共有結合性相互作用および/または非共有結合性相互作用(例えば、疎水性または静電的相互作用)によって結びついている原子の群である。一実施形態において、分子のすべての原子は、共有結合性相互作用によって接続されている。
【0040】
いくつかの実施形態において、前記分子は、抗体である。いくつかの実施形態において、前記分子は、多特異性抗体である。いくつかの実施形態において、前記分子は、Fc融合タンパク質である。いくつかの実施形態において、前記分子は、Fc領域および活性部分を含むFc融合タンパク質である。
【0041】
「ポリペプチド」は、本明細書で使用する場合、ペプチド結合によって共有結合されている10個以上のアミノ酸の鎖である。したがって、「ポリペプチド」という用語は、このような鎖の長さとは関係なく、多重鎖タンパク質の鎖を表し得る。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは、多重鎖タンパク質の鎖である。
【0042】
「Fc領域」は、本明細書で使用する場合、2つのポリペプチドからなる複数の定常重鎖(CH)免疫グロブリンドメインによって形成される免疫グロブリン分子の断片である。自然抗体において、前記Fc領域は、Fc受容体および補体系の構成成分への結合を媒介する。天然のIgG、IgA、およびIgDでは、そのFc領域は、両方の重鎖のCH2およびCH3ドメインによって形成される。天然のIgMおよびIgEでは、そのFc領域は、両方の重鎖のCH2、CH3、およびCH4ドメインによって形成される。本発明のFc領域は、自然抗体のFc領域、すなわち、CH2およびCH3ドメインまたはCH2、CH3、およびCH4ドメインと同じCHドメインによって形成されることがある。本発明のFc領域は、天然の免疫グロブリンのCHドメインと同一であるか、または例えば、1つまたはいくつかの点変異を挿入することによって、天然の免疫グロブリンのCHドメインに由来するCHドメインを含む。
【0043】
「ヒンジ領域」は、本明細書で使用する場合、Fc領域とFab領域の間に位置する抗体配列の一部である。これは、セグメントの可動性を提供し、抗体分子を安定化することができる。ヒンジ領域は構造データに基づいて明確に定義され得る、例えば、IgG1ヒンジ領域は残基221~237を含む(R.Nezlin、「The Immunoglobulins」、Academic Press、1998、23~26ページ)。IgG抗体において、ヒンジ領域は、抗体の2つの重鎖を結合するジスルフィド結合を含む。IgG1およびIgG4は、このようなジスルフィド結合を2つ含むが、IgG2は4つ含み、IgG3は11含む(Liu and May、2012 MAbs.2012年1月~2月;4(1):17~23ページ)。
【0044】
本発明の分子において、ある領域が、Fc領域のN末端に位置する場合、すべての自然抗体の場合と同様に、「ヒンジ領域」とのみ称される。ヒンジ領域と同一か、または高度に類似しているアミノ酸配列が、(本発明の分子のいくつかの実施形態におけるように)Fc領域のC末端に置かれる場合、それは、「(抗体)ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列」と称される。高度に類似とは、抗体ヒンジ領域の配列と少なくとも70%同一であることを意味し、かつ/または抗体ヒンジ領域の配列の少なくとも7個の連続するアミノ酸を含むことを意味する。
【0045】
「共有結合」は、本明細書で使用する場合、原子間の電子対を共有することを伴う化学結合である。共有結合は、静電的相互作用または疎水性作用のような非共有結合性相互作用とは異なる。
【0046】
共有結合、例えば、ジスルフィド結合が、Fc領域の「C末端に位置する」ということは、前記Fc領域を形成する両方のポリペプチドにおけるアミノ酸残基、例えば、前記共有結合の形成に関与しているシステイン残基は、前記Fc領域を形成するポリペプチドの部分のC末端に位置することを意味する。
【0047】
Fc領域の「N末端に位置する」共有結合、例えば、ジスルフィド結合がないということは、前記Fc領域を形成する両方のポリペプチドにおいて、前記Fc領域を形成するポリペプチドの部分のN末端に位置するアミノ酸残基、例えば、このような共有結合の形成に関与しているシステイン残基が存在しないことを意味する。
【0048】
「内部ジスルフィド結合」は、本明細書で使用する場合、1つの免疫グロブリンドメイン、例えば、CHドメイン内の2つのシステイン残基によって形成されるジスルフィド結合である。これは、内部ジスルフィド結合が、常に鎖内ジスルフィド結合であって、異なるポリペプチド鎖を結合する鎖間ジスルフィド結合ではないことを意味する。「対応する野生型CH2ドメインに存在しない内部ジスルフィド結合」は、「追加の内部ジスルフィド結合」とも呼ばれ、天然のCH2ドメイン、すなわち、本発明の修飾されたCH2の由来となる天然のIgG、IgM、IgA、IgD、またはIgEのCH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合である。
【0049】
いくつかの実施形態において、内部ジスルフィドは、以下の位置:P238CとD265C;P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合から選択される。
【0050】
「リンカー」は、本明細書で使用する場合、分子の2つの領域を結合する短くて柔軟なアミノ酸配列である。例として、リンカーは、Fab領域とFc領域;活性部分とFc領域;またはFc領域と少なくとも2つの鎖間共有結合を含む分子のC末端領域を結合することができる。典型的なリンカーは、アミノ酸1~20個からなる。
【0051】
いくつかの実施形態において、前記リンカーは、いくつかのグリシンおよび/またはセリン残基を含む。いくつかの実施形態において、前記リンカーは、グリシンおよび/またはセリン残基からなる。いくつかの実施形態において、前記リンカーは、天然の抗体分子のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記リンカーは、前記Fc領域のCH2およびCH3ドメインの由来となる天然の抗体分子のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列を含む。
【0052】
一実施形態において、Fc領域および少なくとも2つの鎖間共有結合を含むC末端領域は、アミノ酸6個からなるリンカーによって結合されている。一実施形態において、Fc領域および少なくとも2つの鎖間共有結合を含むC末端領域は、アミノ酸1個からなるリンカーによって結合されている。
【0053】
「活性部分」は、本明細書で使用する場合、分子または分子の一部であり、これが生物学的構造物(例えば、前記分子に対する受容体)と相互作用することによって、生物学的機能を発揮する。
【0054】
いくつかの実施形態において、活性部分は、ペプチドである。いくつかの実施形態において、活性部分は、受容体アゴニストまたは受容体アンタゴニストである。いくつかの実施形態において、活性部分は、酵素である。いくつかの実施形態において、活性部分は、サイトカインである。いくつかの実施形態において、活性部分は、抗原結合部分である。
【0055】
「抗原結合部分」は、本明細書で使用する場合、抗体または抗体断片であって、このような抗体の標的に結合する能力がある抗体または抗体断片である。抗原結合部分の例は、Fab断片、F(ab)2断片、scFv(一本鎖可変断片)、sdAb(単一ドメイン抗体)、VHH、ISVD(免疫グロブリン単一可変ドメイン)、(例えば、NANOBODY分子)、およびVNAR(可変新抗原受容体)である。
【0056】
Fc領域
本発明のいくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG、IgM、IgA、IgD、またはIgE抗体のFc領域を形成する。本発明のいくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG抗体のFc領域を形成する。本発明のいくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成する。本発明のいくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG2抗体のFc領域を形成する。本発明のいくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG3抗体のFc領域を形成する。本発明のいくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG4抗体のFc領域を形成する。本発明のいくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、異なる抗体クラスまたはサブクラスのCHドメイン、例えば、IgG1のCH3ドメインおよびIgG4のCH2ドメインを含む混合Fc領域を形成する。
【0057】
C末端の共有結合
いくつかの実施形態において、前記少なくとも2つの共有結合は、少なくとも2つのジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、前記少なくとも2つの共有結合は、2つのジスルフィド結合である。
【0058】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも2つの共有結合は、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列中に含まれている。いくつかの実施形態において、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列は、抗体ヒンジ領域の配列と同一である。いくつかの実施形態において、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列は、抗体ヒンジ領域の配列と高度に類似している。いくつかの実施形態において、前記配列は、抗体ヒンジ領域の配列と少なくとも70%の同一性を有する。いくつかの実施形態において、前記配列は、抗体ヒンジ領域の配列と少なくとも75%の同一性を有する。いくつかの実施形態において、前記配列は、抗体ヒンジ領域の配列と少なくとも80%の同一性を有する。いくつかの実施形態において、前記配列は、抗体ヒンジ領域の配列と少なくとも90%の同一性を有する。いくつかの実施形態において、前記配列は、抗体ヒンジ領域の配列の少なくとも7個の連続するアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、前記配列は、抗体ヒンジ領域の配列の少なくとも10個の連続するアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、前記配列は、抗体ヒンジ領域の配列の少なくとも15個の連続するアミノ酸を含む。
【0059】
いくつかの実施形態において、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列は、IgG4ヒンジ領域の配列と同一であるか、または高度に類似している。いくつかの実施形態において、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列は、ESKYGPPCPPCP(配列番号1)、ESKYGPPCPPCPA(配列番号2)、ESKYGPPCPPCPAPEAA(配列番号3)、GGGGSAESKYGPPCPPCP(配列番号4)、GGGGSAESKYGPPCPPCPA(配列番号5)、GGGGSAESKYGPPCPPCPAPEAA(配列番号6)から選択される。いくつかの実施形態において、前記少なくとも2つの共有結合は、プロリン-システインリッチ配列中に含まれる。いくつかの実施形態において、前記プロリン-システインリッチ配列は、GPPCPPCP(配列番号7)、GPPCPPCPA(配列番号8)、GPPCPPCPAPEAA(配列番号9)から選択される。
【0060】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも2つの共有結合は、非天然アミノ酸間のクリックケミストリーによって生成された共有結合である。
【0061】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも2つの共有結合は、各ポリペプチドのCH2、CH3および/またはCH4ドメインのC末端に位置する。
【0062】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも2つの共有結合は、各ポリペプチドのCH2および/またはCH3ドメインのC末端に位置する。
【0063】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも2つの共有結合は、各ポリペプチドのCH2およびCH3ドメインのC末端に位置する。
【0064】
CH2ドメインの内部ジスルフィド結合
各ポリペプチドは、Fc領域の一部であるCH2ドメインを含み、これらのCH2ドメインのそれぞれが、対応する野生型CH2ドメインに存在しない内部ジスルフィド結合を含む。前記内部ジスルフィド結合は、以下の位置:P238CとD265C;P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記内部ジスルフィド結合は、以下の位置:P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記内部ジスルフィド結合は、以下の位置:P238CとL328C;およびS267CとA327Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記内部ジスルフィド結合は、P238CとD265Cのシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、前記内部ジスルフィド結合は、P238CとL328Cのシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、前記内部ジスルフィド結合は、S267CとA327Cのシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、前記内部ジスルフィド結合は、V240CとI332Cのシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合である。P238CとA327Cのシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合である内部ジスルフィド結合も開示される。
【0065】
いくつかの実施形態において、ポリペプチドのそれぞれは、Fc領域を形成している免疫グロブリンドメインのC末端を、前記免疫グロブリンドメインのC末端に位置するジスルフィド結合のうちの1つに結合させるリンカーを含む。いくつかの実施形態において、前記リンカーは、アミノ酸6個を含む。
【0066】
例示的な実施形態
いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、少なくとも2つのジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、2つのジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列中に含まれる。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、プロリン-システインリッチ配列中に含まれる。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、非天然アミノ酸間のクリックケミストリーによって生成された共有結合である。
【0067】
いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、少なくとも2つのジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、2つのジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列中に含まれる。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、プロリン-システインリッチ配列中に含まれる。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、非天然アミノ酸間のクリックケミストリーによって生成された共有結合である。
【0068】
いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG4抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、少なくとも2つのジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG4抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、2つのジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG4抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列中に含まれる。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG4抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、プロリン-システインリッチ配列中に含まれる。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、非天然アミノ酸間のクリックケミストリーによって生成された共有結合である。
【0069】
いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合を含む。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合であって、以下の位置:P238CとD265C;;P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される前記内部ジスルフィド結合を含む。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合であって、以下の位置:P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される前記内部ジスルフィド結合を含む。
【0070】
いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、少なくとも2つのジスルフィド結合であり、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合を含む。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、2つのジスルフィド結合であり、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合を含む。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列中に含まれ、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合を含む。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、プロリン-システインリッチ配列中に含まれ、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合を含む。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、非天然アミノ酸間のクリックケミストリーによって生成された共有結合であり、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合を含む。
【0071】
いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、少なくとも2つのジスルフィド結合であり、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合であって、以下の位置:P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される前記内部ジスルフィド結合を含む。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、2つのジスルフィド結合であり、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合であって、以下の位置:P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される前記内部ジスルフィド結合を含む。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列中に含まれ、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合であって、以下の位置:P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される前記内部ジスルフィド結合を含む。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、プロリン-システインリッチ配列中に含まれ、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合であって、以下の位置:P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される前記内部ジスルフィド結合を含む。いくつかの実施形態において、前記2つのポリペプチドは、IgG1抗体のFc領域を形成し、前記少なくとも2つの共有結合は、非天然アミノ酸間のクリックケミストリーによって生成された共有結合であり、前記Fc領域のCH2ドメインのそれぞれは、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合であって、以下の位置:P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される前記内部ジスルフィド結合を含む。
【0072】
いくつかの実施形態において、前記分子は、抗体であり、内因性配列のみを含む。いくつかの実施形態において、前記分子は、多特異性抗体であり、内因性配列のみを含む。いくつかの実施形態において、前記分子は、単一特異性抗体であり、内因性配列のみを含む。
【0073】
いくつかの実施形態において、前記分子は、活性部分を含む。いくつかの実施形態において、前記活性部分は、抗原結合部分である。いくつかの実施形態において、前記活性部分は、ペプチドである。いくつかの実施形態において、前記活性部分は、受容体アゴニストまたは受容体アンタゴニストである。いくつかの実施形態において、前記活性部分は、酵素である。いくつかの実施形態において、前記活性部分は、サイトカインである。いくつかの実施形態において、前記活性部分は、ケモカインである。いくつかの実施形態において、前記活性部分は、毒素である。いくつかの実施形態において、前記活性部分は、放射線造影剤である。いくつかの実施形態において、前記活性部分は、栄養素である。
【0074】
いくつかの実施形態において、前記分子は、Fc部分のN末端に位置する活性部分を含む。いくつかの実施形態において、前記分子は、Fc領域のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合のC末端に位置する活性部分を含まない。これは、FcのC末端部分が、前記活性部分に干渉できない、例として、標的へのその結合を妨げないという利点を有する。いくつかの実施形態において、前記活性部分は、抗原結合部分である。
【0075】
いくつかの実施形態において、各ポリペプチドは、Fc部分のN末端に位置する抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態において、各ポリペプチドは、Fc部分のN末端に位置するFab断片の重鎖を含む。いくつかの実施形態において、各ポリペプチドは、Fc部分のN末端に位置するISVDを含む。
【0076】
ポリヌクレオチド、ベクター、細胞
第2の態様において、本発明は、本発明の分子をコードする1つまたはそれ以上のポリヌクレオチドに関する。これは、上記のすべての実施形態を指す。第2の態様による1つまたはそれ以上のポリヌクレオチドは、本発明の分子との複合体に含まれる1つまたはそれ以上の追加のポリペプチドもコードすることがある。一実施形態において、前記1つまたはそれ以上のポリヌクレオチドは、抗体または抗体様構造物をコードする。一実施形態において、前記1つまたはそれ以上のポリヌクレオチドは、単離される。
【0077】
第3の態様において、本発明は、本発明の第2の態様による1つまたはそれ以上のポリヌクレオチドを含む1つまたはそれ以上の発現ベクターに関する。「ベクター」という用語は、本明細書で使用する場合、コード情報を宿主細胞に導入するために使用される任意の分子(例えば、核酸、プラスミド、またはウイルス)を指す。「ベクター」という用語は、核酸分子であって、それが融合されている別の核酸を輸送する能力のある核酸分子を含む。ある種類のベクターは、「プラスミド」であり、これは、追加のDNAセグメントか挿入されることがある環状の二本鎖DNA分子を指す。別の種類のベクターは、ウイルスベクターであって、追加のDNAセグメントが、そのウイルスゲノムに挿入されることがある、ウイルスベクターである。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞内で自律複製する能力がある(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入において、宿主細胞のゲノムに組み込まれることが可能であり、それによって、この宿主ゲノムと共に複製される。加えて、特定のベクターは、それらが含む遺伝子の発現を指示する能力がある。このようなベクターは、「発現ベクター」として本明細書で言及される。
【0078】
第4の態様において、本発明は、本発明の第2の態様による1つまたはそれ以上のポリヌクレオチドを含む細胞または本発明の第3の態様によるもう1つまたはそれ以上の発現ベクターに関する。多種多様な細胞発現系は、細菌細胞(例えば、大腸菌(E.coli))、酵母細胞、昆虫細胞、または哺乳動物細胞(例えば、マウス細胞、ラット細胞、ヒト細胞など)のような原核および真核細胞の使用を含めて、前記ポリヌクレオチドを発現するために使用されることがある。この目的のために、本発明のポリヌクレオチドが、細胞内で発現され、また一実施形態においては、前記細胞を培養している培地中に分泌され、そこから発現産物を回収できるように、前記ポリヌクレオチドまたは発現ベクターを用いて、細胞を形質転換するか、または細胞にトランスフェクトする。
【0079】
内部ジスルフィド結合を有するCH2ドメイン
別の態様において、本発明は、CH2ドメインであって、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合を含む前記CH2ドメインを提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、IgG1 CH2ドメインであって、野生型IgG1 CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合を含む前記CH2ドメインを提供する。いくつかの実施形態において、IgG1 CH2ドメイン中の前記内部ジスルフィド結合は、EU番号付けに従った以下の位置:P238CとD265C;P238CとA327C;P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、IgG1 CH2ドメイン中の前記内部ジスルフィド結合は、以下の位置:P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、IgG1 CH2ドメイン中の前記内部ジスルフィド結合は、システイン残基P238CとD265Cの間に形成されたジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、前記内部ジスルフィド結合は、システイン残基P238CとA327Cの間に形成されたジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、IgG1 CH2ドメイン中の前記内部ジスルフィド結合は、システイン残基P238CとL328Cの間に形成されたジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、IgG1 CH2ドメイン中の前記内部ジスルフィド結合は、システイン残基S267CとA327Cの間に形成されたジスルフィド結合である。いくつかの実施形態において、前記内部ジスルフィド結合は、システイン残基V240CとI332Cの間に形成されたジスルフィド結合である。
【0080】
いくつかの実施形態において、本発明は、CH2ドメインであって、対応する野生型CH2ドメインには存在しない少なくとも2つの内部ジスルフィド結合を含む前記CH2ドメインを提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、IgG1 CH2ドメインであって、前記野生型IgG1 CH2ドメインには存在しない少なくとも2つの内部ジスルフィド結合を含む前記CH2ドメインを提供する。いくつかの実施形態において、IgG1 CH2ドメイン中の前記内部ジスルフィド結合は、EU番号付けに従った以下の位置:P238CとD265C;P238CとA327C;P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、IgG1 CH2ドメイン中の前記内部ジスルフィド結合は、以下の位置:P238CとD265Cに加えてS267CとA327C;P238CとD265Cに加えてV240CとI332C;P238CとA327CおよびV240CとI332C;P238CとL328Cに加えてS267CとA327C;P238CとL328Cに加えてV240CとI332C;S267CとA327Cに加えてV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成される。
【0081】
前記分子を安定化するために、追加のジスルフィド結合、例えば、当該分野に記載されるCH3ドメイン中のドメイン内ジスルフィド結合(Wozniak-Knopp PLoS One.2012;7(1):e30083)を導入することも可能である。
【0082】
いくつかの実施形態において、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合を含むCH2ドメインは、より大きな分子の一部である。いくつかの実施形態において、前記分子は、抗体である。いくつかの実施形態において、前記分子は、多特異性抗体である。いくつかの実施形態において、前記分子は、単一特異性抗体である。
【実施例】
【0083】
実施例1は、抗TNF抗体であるアダリムマブの取扱いを示す一方で、実施例2は、GLP1受容体アゴニスト(RA)Fc融合タンパク質を使用する。
【0084】
方法
以下の項目は、以下の実施例で使用された方法を要約している。
【0085】
タンパク質構築物およびタンパク質発現
CHOまたはHEK293細胞において、すべてのタンパク質を一時的に発現させた。異なる抗体変異体の配列は、その配列表に示されている。異なるタンパク鎖に対するDNAを、合成し(Thermo Fisher Scientific)、培養上清への適切なタンパク質分泌のために必要とされるCMVプロモーター配列およびリーダー配列下の発現ベクターにクローニングした。発現および精製は、基本的に、Beckerら、(2019)Protein Expr Purif.2019年1月;153:1~6ページに記載される通りに行われた。要約すると、DNA:PEIの比が1:3であるPEIを使用して、細胞にトランスフェクトした。発現を6日間行い、遠心分離(20分、3000g、4℃)によって、細胞を培養上清から分離した。培養上清を、0.22μmで濾過し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Gibco/Thermo Fisher Scientific)で平衡化したMabSelect Sureカラム(GE Healthcare)に充填した。溶出後、タンパク質を脱塩し、PBS(Gibco)で平衡化したSuperdex200(GE Healthcare)サイズ排除クロマトグラフィーカラムを使用して、さらに精製した。
【0086】
GLP1-RA Fc融合タンパク質に対する配列の両側を、リーダー配列またはHisタグに続いてTev切断部位を含有するリーダー配列のいずれかで直接挟んだ。Hisタグを介した精製のために、タンパク質を、300mM NaCl、50mMトリス、pH8.0で平衡化したHisタグ精製樹脂(cOmplete、Roche)カラムに捕捉した。300mM NaCl、50mMトリス、pH8.0、5mMイミダゾールを用いて、カラムを洗浄し、300mM NaCl、50mMトリス、pH8.0、500mMイミダゾールを用いて、前記タンパク質を溶出した。室温にて一晩、100mM NaCl、50mM、50mMトリス、pH8.0中でTev切断を行い、切断混合物を、プロテインAカラムに直接充填し、さらに精製した。Hisタグが存在しない場合、上記の通り、プロテインAを使用して、前記タンパク質を精製した。
【0087】
SDS-PAGE分析
タンパク質サンプル(5μgタンパク質)を、4×LDSサンプル緩衝液(Life Technologies/Thermo Fisher Scientific)または50mMジチオトレイトールを含む4×LDSサンプル緩衝液のいずれかと、それぞれ、非還元条件または還元条件下のSDS-PAGE分析のために混合した。サンプルを、泳動緩衝液としてMES(Life Technologies/Thermo Fisher Scientific)を用いた4~12%SDS-PAGEに載せる前に、99℃にて5分間インキュベートした。BenchMarkタンパク質ラダーを、マーカーとして使用した(Invitrogen/Thermo Fisher Scientific)。
【0088】
分析用サイズ排除クロマトグラフおよび多角度静的光散乱測定(SEC-MALS)
分析用サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を、新たに脱気し、0.2μmで濾過したPBS(Gibco)で平衡化したSuperdex200 10/HRカラム(GE Healthcare)を使用して実行した。すべてのサンプルにおいて、サンプル量は50μLであり、すべてのサンプルにおいて、タンパク質濃度は、3mg/mLに調整された。AKTA精製装置(GE Healthcare)を、クロマトグラフィーシステムとして使用した。前記システムを、多角度静的光散乱(MALS)検出器(miniDawn、Wyatt)および濃度検出器として屈折率(RI)検出器(Shodex RI-101、昭和電工)に接続した。ASTA5.3.4.20(Wyatt)ソフトウェアを使用して、データ解析を行った。すべてのサンプルに対して、0.185の屈折率増分(dn/dc)値を使用した。
【0089】
MS分析
LC-MSによって、タンパク質の完全性を確認した。タンパク質サンプルを、PNGaseFを含有するddH2O(1:50v/v)(グリセロール非含有、New England Biolabs)で0.5mg/mLに希釈したタンパク質12.5μgを用いて、37℃にて15時間脱グリコシル化した。サンプルを、還元条件下で分析する場合、0.1Mジチオトレイトールを加えた。LC-MS分析を、デュアルESIインターフェイスおよびAgilent1290/1260Infinity LCシステムを備えたAgilent6540 Ultra High Definition(UHD)Q-TOFで行った。逆相(RP)クロマトグラフィーを、ガードカラムPLRP-S300A 5μm、3×5mm(Agilent)を用いたPLRP-S1000A 5μm、50×2.1mm(Agilent)を使用して、200μL/分およびカラム温度80℃で行った。
【0090】
タンパク質1μgをカラムに注入し、漸増するアセトニトリル濃度を用いた直線濃度勾配を用いて、0~17分まで溶出した。使用された溶出液は、LC水および0.1ギ酸を含有する緩衝液Aならびに90%アセトニトリル、10%LC水、および0.1ギ酸を含有する緩衝液Bであった。ソフトウェアMassHunter Bioconfirm B.06(Agilent)を使用して、得られた質量データを解析した。GPMAWソフトウェアバージョン10.32(Lighthouse Data、Denmark)を使用して、タンパク質のアミノ酸配列に基づいた分子量を算出した。
【0091】
表面プラズモン共鳴分析
FcRに結合する抗体のすべての分析を、Biacore T200機器(GE Healthcare)で実行した。抗His捕捉を使用して、FcγR結合アッセイを行った。抗テトラHis(Qiagen)を、pH7.2のPBS(Gibco)へと緩衝液を交換し、pH4.0の10mM酢酸ナトリウムで25μg/mLに希釈し、GE Healthcareによって提供されたアミンカップリングキットを使用して、表面密度約10,000RUまで、シリーズS CM5チップに直接固定した。Hisタグ付き組換えヒトおよびマウスFcγR(FcyRI/CD64 #1257-FC;FcγRIIa/CD32a(R167) #1330-CD;FcγRIIb/c/CD32b/c #1875-CD;FcγRIIIa/CD16a #4325-FC;FcγR4/CD16-2 #4325-FC;R&D Systems)を、HBS-EP+(pH7.4の10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05%界面活性剤P20)で2μg/mLに希釈し、流速10μL/分で30秒間注入した。抗体を、3000から37nMまで連続3倍希釈し、2回ずつ、捕捉された受容体に対して2分間注入した。hFcγRIへの結合のために、300nMから3.7nMまでの連続希釈液を作製した。前記表面を、pH1.5の10mMグリシンを用いて、30秒間再生した。センサーグラムを、BiaEvaluationソフトウェア(GE Healthcare)を使用して処理し、1:1結合モデルに適合させて、反応速度定数を得た。ビオチン化FcRnを使用して、FcRn結合測定を行った。ビオチン化ヒトFcRnタンパク質は、Immunitrack(#ITF01)から購入された。ビオチン化FcRnの可逆的捕捉のため、ビオチン捕捉キット(GE Healthcare)を使用した捕捉アッセイが使用された。ビオチン捕捉試薬溶液を、流速2μL/分で300秒間注入することによって、CAPチップ表面を調製した。FcRnタンパク質を、一般に100RUの捕捉レベルに達するまで、濃度0.5μg/mLおよび流速10μL/分で90秒間捕捉した。分析されたタンパク質を、HBS-EP+緩衝液中、1600nM~12.5nMの1:1希釈系列に使用した。前記タンパク質を、60秒間注入し、緩衝液注入による分離を、120秒間測定した。HBS-EP+緩衝液を、アッセイ緩衝液として、流速30μL/分で使用した。製造業者の説明通り、ビオチン捕捉キットの再生溶液を用いて、チップ表面を再生した。捕捉されたFcRnを含まないフローセルを基準として使用し、かつ緩衝液注入の減算を使用して(二重参照)、結合曲線をBIAcore T200評価ソフトウェアv2.0で解析した。平衡解離定数(KD)を、各タンパク質濃度についての平衡結合反応(Req)の包括的な定常状態データの適合によって決定した。
【0092】
抗体へのヒトTNFαの結合を、Biacore3000機器(GE Healthcare)において表面プラズモン共鳴を使用して実行した。抗体を、前記チップに固定化し、TNFαを、検体として使用した。抗体の捕捉のために、ヒト抗体捕捉キット(GE Healthcare)を使用した。前記捕捉抗体を、ヒト抗体捕捉キットに関する記載の通り、標準手順を使用して、研究グレードCM5チップ(GE Life Sciences)上の第一アミン基(典型的には、10.000RU)を介して固定化した。分析された抗体を、典型的には30RUである最大の分析物結合シグナルをもたらすであろう調整されたRU値を用いて、流速10μL/分で捕捉した。濃度100nMにおける組換えヒトTNFα(Sigma-Aldrich、#H8916)に対して、結合トレースを、会合時間および解離時間、それぞれ240秒および300秒を用いて測定した。HBS-EPを、アッセイ緩衝液として、流速30μL/分で使用した。ヒト抗体捕捉キットの再生溶液を用いて、チップ表面を再生した。捕捉された抗体を含まないフローセルを基準として使用し、かつ緩衝液注入の減算を使用して(二重参照)、結合トレースをBIAevaluationプログラムパッケージv4.1で分析した。
【0093】
ADCCおよびADCD in vitroアッセイ
ヒトTNFαの変異形態を、CHO-K1細胞株にトランスフェクトすることによって、標的細胞を生成した。この変異形態は、膜プロテアーゼによって不完全にのみ切断されることが知られており、細胞表面に残る。このTNFα形態を、選択のためのネオマイシン耐性遺伝子をさらに含有するCMVプロモーター下の哺乳動物発現ベクターにクローニングした。細胞を、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS、Gibco)および選択のための1mg/mLのG418アンチビオティカム(antibioticum)(Invivogen、Toulouse、France)を含有するHam’s F12培地(Biowest、Nuaille、France)で増殖させた。いずれのアッセイも、同じ標的細胞を使用し、クロム(51Cr)放出アッセイに基づいている。ADCDアッセイでは、標的細胞を、PBSで洗浄し、トリプシンと共に4分間インキュベートした。細胞を、51Crで標識し、1ウェルあたり約3000細胞で96ウェルプレートに播種し、5%FBSを含有するRPM1-1640(Biowest)培地を用いて培養した。固定濃度のモルモット補体(標準補体、Tebubio)および抗体を、様々な濃度で加えて、37℃でさらに4時間培養した。放射能測定のために、一定量を抜き取り、LumaPlate(PerkinElmer)に移し、MicroBeta Jetデバイス(PerkinElmer)を使用して、ガンマ線計測を行った。ADCDアッセイの記載と同様の方法で、ADCCアッセイを実行したが、補体を加える代わりに、エフェクター細胞を、10:1(エフェクター細胞:標的細胞)の割合で加えた。使用されたエフェクター細胞は、文献(Clemenceauら、Blood.2006;107(12):4669~4677ページ)に記載される通り、ヒトFcγRIIIa(V158)受容体を発現する単一クローンのヒト細胞傷害性Tリンパ球であった。すべてのアッセイには、陰性対照が含まれており、これには、それぞれ補体またはエフェクター細胞が加えられなかった(自然放出)。0.75%Triton X-100を、前記細胞培養培地に加えることによって、最大51Cr放出が得られた。結果は、特異的放出%として表記され、式:特異的放出%=(実験放出-自然放出)/(最大放出-自然放出)に従って算出される。すべての測定は、3回ずつ行われた。
【0094】
マウスにおける薬力学
マウス試験は、Covance(Covance Laboratories Inc、Greenfield、IN)で実行された。すべての手順は、米国農務省(USDA)の動物福祉法(9CFR第1、2、および3部)およびGuide for the Care and Use of Laboratory animals(Institute for Laboratory Animal Research)を遵守した。
【0095】
雌db/db(BKS.Cgo-+Leprdb/+Leprdb/OlaHsd)または痩せたマウス(BKS.Cg-[lean]/OlaHsd)は、Envigoから入手した。試験開始時、動物は12週齢であり、n=8匹に群分けされた。マウスには、Purina5008を自由に摂食させ、水の摂取を自由にし、12時間点灯/消灯サイクルを継続させた。層別化基準として、HbA1c値(溶血血液法)は、投与前期間の7日目に決定した。HbA1cは、先行する約4週間の間の平均血糖レベルに関するバイオマーカーである。低いHbA1c値、中間のHbA1c値、および高いHbA1c値は、可能な限り等しく群全体にわたって分散させ、同程度のHb1Ac群平均とした。すべての動物に、4日間に1回、適用量5mL/kgのビヒクル(PBS、Gibco Ref14190)または10nmol/kgの化合物を皮下投与した。投与前期間の9日目ならびに投与期間の1、5、9、および13日目(投与後0および4時間)、加えて2、3、4、6、7、8、10、11、12、および14日目に、血液サンプルを、麻酔なしで尾先端から採取し、グルコメーターを用いて、血糖を測定した。体重を、1日1回測定した。
【0096】
GLP1受容体活性アッセイ
ヒトグルカゴン様ペプチド-1(GLP1)受容体に対する化合物のアゴニズムを、ヒトGLP1受容体を安定して発現する組換えPSC-HEK-293細胞株のcAMP応答を測定する機能アッセイによって決定した。細胞を、37℃に置いたT175培養フラスコ内の培地(DMEM/10%FBS)中、コンフルエント近くまで増殖させ、10%DMSOを含有する細胞培養培地中1~5×107細胞/mLの濃度で、2mLバイアル内に採取した。各バイアルは、1.8mLの細胞を含有した。前記バイアルを、イソプロパノール中-80℃まで緩徐に凍結し、次に、保存のための液体窒素に移した。これらを使用する前に、凍結された細胞を、37℃で速やかに解凍し、細胞緩衝液(1×HBSS;20mM HEPES、実施例の条件に示される場合は0.1%HSAを添加)20mLで洗浄した(900rpmで5分)。細胞を、アッセイ緩衝液(2mM IBMXを添加した細胞緩衝液)に再懸濁し、細胞密度を1×106細胞/mLに調整した。測定のために、5μLの細胞(最終5000細胞/ウェル)および試験化合物5μLを、384-ウェルプレートに加え、続いて室温で30分インキュベートした。細胞のcAMP含有率を、均一時間分解蛍光技術を使用して決定した。(HTFR、CisBio)。溶解緩衝液(キットの構成成分)で希釈されたHTRF試薬の添加後、前記プレートを1時間インキュベートし、続いて665/620nmにおける蛍光比を測定した。アゴニストのin vitro効力を、最大応答の50%活性化(EC50)をもたらす濃度を決定することによって定量化した。
【0097】
熱安定性測定
nanoDSF技術に基づいたPrometheus NT Flexデバイス(NanoTemper Technologies)を使用して、熱安定性の分析を行った。前記デバイスは、蛍光測定と同時に散乱情報の回収を可能にするAggregation Opticsを備えている。製造業者の使用説明書に従って、1℃/分の熱傾斜を用いた20℃~95℃の範囲で、測定を行った。すべてのタンパク質サンプルを、PBSに溶解し、タンパク質濃度を、0.5mg/mLに調整した。測定は、2回ずつ行われた。ソフトウェアPR ThermControl V.2.1(NanoTemper Technologies)を使用して、データ解析を行った。
【実施例1】
【0098】
本発明によるアダリムマブのFc変異体の生成
本発明によるFc分子の概念は、抗TNF抗体であるアダリムマブに対して試験された。本発明者らは、本発明によるFcアダリムマブの2つの異なるバージョン(
図2、mab06(重鎖 配列番号10)およびmab07(重鎖 配列番号11))を生成した。これら2つの構築物は、ヒンジ領域を置き換えているリンカーの長さのみ異なっていた。比較目的のため、エフェクター機能をサイレンスすることが知られているFc-骨格変異体も生成した(
図2、mab02、mab04、mab05)。Fabは、すべての構築物において同じであった。CHOまたはHek293細胞において、すべての抗体を、一時的に発現させ、二段階精製手順を使用して精製した。興味深いことに、最大収量は、本発明によるFc変異体を用いることで得られた(表1)。
【0099】
【0100】
SDS-PAGE(
図3)およびMALSと組み合わせた分析用サイズ排除クロマトグラフィーによって、すべての抗体の均一性を分析した。光散乱測定は、大きな粒子、例えば、凝集体の検出のための極めて高感度の方法である。さらに、これは、参照分子を必要とすることなく、分子量の算出を可能にする。すべての抗体サンプルにおいて、凝集体の存在は、検出限界を下回った(
図4)。すべての抗体に対して得られた算出分子量は、前記算出値と良好に一致していた。加えて、すべての抗体変異体の同一性は、MSによって確認された(表2)。
【0101】
【0102】
19GS-リンカーを有する本発明によるFc IgG1変異体(mab07)は、わずかに早くSECカラムから溶出する。この分子において、Fabドメインは、長いリンカー(GGGGGGGSGGGGSGGGGSA、配列番号12)を介して、Fc領域に結合されている。この配列は、明らかに、より開いた立体配置を可能にし、わずかに拡大した流体力学的半径が得られる。その抗原であるヒトTNFαへの結合は、表面プラズモン共鳴-測定によって確認された(
図5)。
【0103】
FcRに対する結合アッセイ
本発明によるアダリムマブのFc変異体は、IgGヒンジ領域に位置するFcγR結合部位が欠けている(
図1)。したがって、それらはFcγRに結合することはない。本発明によるFc変異体のFcγRへの結合が、実際に消失したかどうかを確認するため、本発明者らは、表面プラズモン共鳴を使用し、変異をサイレンスする他の抗体変異体と比較して、固定されたFcγRへの結合を測定した。本発明者らは、ヒトFcγRI、FcγRIIa、b、およびc、ならびにFcγRIIIaへの結合を分析した。加えて、本発明者らは、多くの抗体およびFc融合タンパク質がマウスモデルで分析されていることから、マウス活性化FcγRIVを含めた。最後に、抗体およびFc融合タンパク質の再利用のために重要なヒトFcRn受容体も試験パネルに含まれた。結果は、表3に要約され、対応するセンサーグラムは、
図6に示される。
【0104】
【0105】
非修飾IgG1骨格(mab01)は、すべてのFcγRに結合する。最大の結合親和性は、高親和性の結合受容体として知られているFcγRIを用いて得られた。非修飾IgG2(mab03)は、比較目的で試験され、FcRγIIa、FcγRIIb/cへのいくらかの結合、およびFcRγIIIaへのより少ない程度の結合を示す。本発明によるFc IgG1を有する抗体(mab06、mab07)は、試験されたすべてのFcγRへの検出可能な結合を示さなかった。これは、IgG1 LALA N297A(mab02)およびIgG1 LALA P329A(mab05)骨格変異体についても言える。IgG1 E269R、K322A変異体(mab04)では、FcγRIへの高親和性の結合が、依然として測定される。FcγRIIIaおよびマウスFcγRIVへのこの変異体の結合は、著しく減少するが、依然として検出可能であった。分析されたすべてのFc変異体は、hFcRnに対する同様の結合親和性を示す。
【0106】
機能的細胞アッセイ(ADCCおよびADCD)
ADCCおよびADCDは、抗体のエフェクター機能にとって、最も重要な機構である。したがって、本発明者らは、本発明によるアダリムマブのFc変異体が、ADCCまたはADCDを誘導しないことを確かめたいと考えた。ADCCアッセイにおいて、膜固定抗原を発現する標的細胞を、対象とする抗体およびエフェクター細胞と共にインキュベートした。エフェクター細胞は、標的細胞に繋げられると、活性化され、前記標的細胞を死滅させる(
図7A)。分析されたすべての抗体変異体は、検出可能な特異的標的細胞溶解を示さないが、IgG1 wt変異体は、有意な特異的細胞溶解を誘発する(
図7B~D)。
【0107】
ADCD機構は、補体系の活性化によって細胞死に繋がる。補体カスケードは、標的細胞の細胞表面における抗原抗体複合体へのC1qタンパク質の結合によって惹起される。補体カスケード活性化の最終段階は、いわゆる膜傷害複合体の形成であり、これは、細胞溶解に繋がる(
図8A)。IgG1 LALA N297A(mab02)およびIgG2骨格(mab03)は、有意な特異的細胞溶解を、依然として誘発することができる(
図8B、C)。IgG1 E269R、K322A変異体(mab04)は、より低レベルであるが、依然として検出可能な特異的細胞溶解を惹起する。本発明によるFc IgG1変異体(mab06、mab07)およびIgG1 LALA P329A変異体(mab05)では、特異的細胞溶解が認められないか、または有意な特異的細胞溶解が認められなかった(
図8B、D)。
【実施例2】
【0108】
GLP1受容体アゴニストFc-ドメイン融合タンパク質
ペプチドFc融合タンパク質のための本発明によるFcフォーマットを評価し、in vivo機能性を試験するために、本発明者らは、GLP1受容体アゴニスト(RA)Fc融合タンパク質を使用した。このため、本発明者らは、ペプチドリンカーを介して、ヒトGLP1-RAをIgG4 Fc領域(
図9、GLP1-Fc01および04)またはIgG1 Fc領域(
図9、GLP1-Fc02、05~014)に融合した。
図9は、様々なGLP1-RA-Fc融合タンパク質変異体の概観を示す。
【0109】
IgG4(GLP1-Fc04)およびIgG1(GLP1-Fc05)に対する本発明による単純なFc変異体に加えて、本発明者らは、IgG1(GLP1-Fc06~14)に対する本発明による9つのFc変異体であって、CH2ドメインに追加の内部ジスルフィド結合を含むFc変異体を生成した。これは、IgG CH2ドメインが、IgG CH3ドメインよりも先にアンフォールディングすることが知られているため、CH2ドメインを、さらに安定化することを意図されている。追加の内部ジスルフィド結合を有する変異体のうちの6つは、C末端に、野生型ヒンジ領域の配列に由来する配列を有する(GLP-Fc06~11)が、他の3つの変異体は、C末端に、短縮されたプロリン-システインリッチ配列を有していた(GLP-Fc12~14)。SDS-PAGE(
図10)およびMALSと組み合わせた分析用サイズ排除クロマトグラフィー(
図11)を用いて、すべてのGLP1-Fc-RA融合タンパク質を、均一性について分析した。分析されたすべてのサンプルにおいて、凝集体の存在は、検出限界を下回り、得られた分子量は、ホモ二量体分子の算出モル質量と良好に一致した(表4)。
【0110】
【0111】
比較目的のために、本発明者らは、重鎖間にいかなる共有結合も有さない変異体も含めた(GLP1-Fc03)。他の試験された変異体とは対照的に、このGLP1-Fc03変異体は、非還元条件下におけるSDS-PAGEで、明確な分離を示した。
【0112】
すべての変異体についての活性は、GLP1-R活性化アッセイで確認された。導入されたジスルフィド結合が、FcRnへの結合に干渉しないことを明確にするため、FcRnへの結合を、pH6.0における表面プラズモン共鳴技術を使用して確認した。GLP1活性データおよびFcRnに対する結合データは、表5に示される。
【0113】
【0114】
GLP1-RA-Fc融合タンパク質の熱安定性は、DSF法を用いて分析された(
図12、表6)。
【0115】
【0116】
GLP1-Fc01(非修飾IgG4骨格)は、1つの主なアンフォールディングイベントを示す。GLP1-Fc02(非修飾IgG1骨格)は、より安定化されたタンパク質となり、2番目のアンフォールディングイベントが、明確に検出可能である。GLP1-Fc03(重鎖間にいかなる共有結合も有さない変異体)は、GLP1-Fc01およびGLP1-Fc02よりも熱に不安定である。GLP1-Fc04(本発明によるFc IgG4変異体)は、GLP1-Fc03よりもわずかに安定している。GLP1-Fc02およびGLP1-Fc03において、そのCH3ドメインは、IgG1由来であるのに対して、GLP-Fc01およびGLP1-Fc04では、そのCH3ドメインが、IgG4由来である。明確な2番目のアンフォールディングイベントが、IgG1由来CH3ドメインを有する変異体においてのみ測定されることは、明白である(
図12A)。これらのデータに基づいて、IgG1 Fc骨格が、さらなる操作のために選ばれた。内部ジスルフィド結合は、本発明によるFc変異体GLP1-Fc06~GLP1-Fc10における安定性をさらに改善するために、CH2ドメインに導入された。GLP1-Fc06は、わずかに高い熱安定性を示し、GLP-Fc07は、安定化をまったく示さなかったが、GLP1-Fc08、GLP1-Fc09、およびGLP1-Fc10における導入されたジスルフィド結合は、IgG1 LALA Fc骨格(GLP1-Fc-02;
図12、表6)と同等の安定性を有するタンパク質をもたらした。
【0117】
本発明によるFc変異体をさらに安定化するため、ヒンジ領域に相当するFc領域とC末端配列の間のリンカー配列を除去した(GLP1-Fc11)。別の手法において、ヒンジ領域に相当するC末端配列を、プロリン-システインリッチ配列に短縮した(GLP1-Fc12)。これらのタンパク質において、2番目のアンフォールディングイベント(CH3ドメイン)のための熱安定性の増強が得られた(
図12C、表6)。CH2ドメイン内の内部ジスルフィド結合および短縮されたプロリン-システインリッチ配列の安定化効果は、GLP1-Fc13およびGLP1-Fc14において組み合わされている(
図12D、表6)。
【0118】
in vivoにおける機能性
GLP1-Fc04では、本来のヒンジは除去されていないが、そのシステインがセリンに変異されていた。これは、本発明によるGLP1-RA Fc融合タンパク質のFc変異体であって、その親分子に可能な限り類似したFc変異体を得るために行われ、この変異体は、直接薬力学解析のために選ばれた。両方のタンパク質を、db/db-マウスに、4日毎に14日間皮下投与し、血糖に加えて体重もモニターした(
図13)。-1日目における平均体重(各群n=8)は、24.9g(痩せたビヒクル対照)、54.2g(db/dbビヒクル対照)、55.4g(GLP1-Fc01群)、および54.8g(GLP1-Fc04群)であった。処置期間後の平均体重は、25.2g(痩せたビヒクル対照、+1.2%)、57.7g(db/dbビヒクル対照、+6.5%)、53.8g(GLP1-Fc01群、-2.9%)、および50.4g(GLP1-Fc04群、-2.6%)であった。痩せたビヒクル対照において、体重は、処置期間中ほぼ一定を維持したのに対して、db/dbビヒクル対照では、体重が増加した。処置された群はいずれも、同程度の範囲で体重が減少した。両方の化合物、GLP1-Fc01およびGLP1-Fc04は、血糖の変化に対して識別可能な効果を示さなかった。これらの所見は、GLP1-RAは、本発明によるFc変異体に融合される場合、その完全な活性を維持することを示唆する。前記期間にわたる血糖変化のプロファイルが一致することは、本発明によるFc変異体の再利用機能が、in vivoで損なわれていないことを示唆する。
【0119】
開示項目
以下の項目についても開示される:
1.2つのポリペプチドを含む分子であって、
前記ポリペプチドは、抗体Fc領域を形成し、
前記2つのポリペプチドは、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合によって結合されており、
前記2つのポリペプチドは、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のN末端に位置するジスルフィド結合によって結合されていない、
分子。
2.前記2つの共有結合が、2つのジスルフィド結合である、請求項1に記載の分子。
3.前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合が、抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列に相当する配列中に含まれる、請求項1または2に記載の分子。
4.C1qならびに/またはFcγR1、FcγR2、および/もしくはFcγR3に対する親和性が、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のN末端に位置する抗体ヒンジ領域を含む同じ分子と比較して、少なくとも10分の1に低下している、請求項1~3のいずれか一項に記載の分子。
5.プロテインAおよび/またはFcgRnに対する親和性が、前記Fc領域を形成する各ポリペプチドの部分のN末端に位置する抗体ヒンジ領域を含む同じ分子と比較して、低下していない、請求項1~4のいずれか一項に記載の分子。
6.前記Fc領域が、IgG、IgM、IgA、IgD、またはIgEのFc領域である、請求項1~5のいずれか一項に記載の分子。
7.前記少なくとも2つの共有結合が、各ポリペプチドのCH2、CH3、および/またはCH4ドメインのC末端に位置する、請求項1~6のいずれか一項に記載の分子。
8.前記Fc領域が、IgG抗体のFc領域である、請求項1~7のいずれか一項に記載の分子。
9.前記少なくとも2つの共有結合が、各ポリペプチドのCH2および/またはCH3ドメインのC末端に位置する、請求項1~8のいずれか一項に記載の分子。
10.前記少なくとも2つの共有結合が、各ポリペプチドのCH2およびCH3ドメインのC末端に位置する、請求項1~9のいずれか一項に記載の分子。
11.各ポリペプチドが、前記Fc領域の一部であるCH2ドメインを含み、これらのCH2ドメインのそれぞれが、対応する野生型CH2ドメインには存在しない内部ジスルフィド結合を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の分子。
12.前記追加の内部ジスルフィド結合が、EU番号付けに従った以下の位置:P238CとD265C;P238CとA327C;P238CとL328C;S267CとA327C;およびV240CとI332Cにおけるシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合からなる群から選択される、請求項11に記載の分子。
13.前記ポリペプチドのそれぞれが、前記Fc領域を形成しているポリペプチドの部分のC末端を、Fc領域を形成しているポリペプチドの前記部分のC末端に位置する少なくとも2つの共有結合に結合させるリンカーを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の分子。
14.前記分子が、少なくとも1つの活性部分をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の分子。
15.請求項1~14のいずれか一項に記載の分子をコードしているポリヌクレオチド。
【配列表】
【国際調査報告】