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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-09
(54)【発明の名称】アクリル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/377 20060101AFI20231226BHJP
   C07C 57/065 20060101ALI20231226BHJP
   C07C 51/48 20060101ALI20231226BHJP
   C07C 57/07 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C07C51/377
C07C57/065
C07C51/48
C07C57/07
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539047
(86)(22)【出願日】2022-08-01
(85)【翻訳文提出日】2023-06-23
(86)【国際出願番号】 KR2022011331
(87)【国際公開番号】W WO2023063549
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】10-2021-0137931
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0091840
(32)【優先日】2022-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ビョン・ギル・リュ
(72)【発明者】
【氏名】ミ・キュン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウン・キョ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヘ・ビン・キム
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC13
4H006AD11
4H006AD16
4H006BB11
4H006BC50
4H006BC51
4H006BC52
4H006BD34
4H006BD53
4H006BD84
4H006BS10
(57)【要約】
本発明は、アクリル酸の製造方法に関し、乳酸水溶液を脱水反応させて製造された反応生成物ストリームを抽出塔、抽出剤回収塔、第1分離塔、第2分離塔および精製塔を用いて副生成物を除去し、高純度のアクリル酸を製造する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸水溶液を脱水反応させて製造された反応生成物ストリームを抽出塔に供給し、前記抽出塔で抽出剤を用いてアクリル酸を含む上部排出ストリームを分離して抽出剤回収塔に供給するステップと、
前記抽出剤回収塔でアクリル酸を含む下部排出ストリームを分離して第1分離塔に供給するステップと、
前記第1分離塔で低沸点副生成物を上部に分離し、アクリル酸を含む下部排出ストリームを分離して第2分離塔に供給するステップと、
前記第2分離塔で高沸点副生成物を下部に分離し、アクリル酸を含む上部排出ストリームを精製塔に供給するステップと、
前記精製塔でアクリル酸を含む上部排出ストリームを分離し、ヒドロキシアセトンを含む下部排出ストリームは抽出塔に還流させるステップとを含む、アクリル酸の製造方法。
【請求項2】
前記反応生成物ストリームは、アクリル酸、水、低沸点副生成物、高沸点副生成物およびヒドロキシアセトンを含む、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項3】
前記抽出塔の下部に水およびヒドロキシアセトンを分離する、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項4】
前記反応生成物ストリームに含まれたヒドロキシアセトンの含量に対する前記抽出塔の下部に分離されるヒドロキシアセトンの含量の比は、0.95~1である、請求項3に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
前記抽出剤回収塔で抽出剤を含む上部排出ストリームの一部のストリームは、前記抽出塔に還流させる、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項6】
前記抽出剤は、ベンゼン、トルエン、キシレン、n-ヘプタン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、1-ヘプテン、エチルベンゼン、メチルシクロヘキサン、n-ブチルアセテート、イソブチルアセテート、イソブチルアクリレート、n-プロピルアセテート、イソプロピルアセテート、メチルイソブチルケトン、2-メチル-1-ヘプテン、6-メチル-1-ヘプテン、4-メチル-1-ヘプテン、2-エチル-1-ヘキセン、エチルシクロペンタン、2-メチル-1-ヘキセン、2,3-ジメチルペンタン、5-メチル-1-ヘキセンおよびイソプロピルブチルエーテルからなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項7】
前記反応生成物ストリームは、冷却塔を経て凝縮された凝縮物である、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項8】
前記抽出塔の上部排出ストリーム内のヒドロキシアセトンの含量は、前記反応生成物ストリームに含まれたヒドロキシアセトンの含量の0.2%~15%である、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項9】
前記抽出剤回収塔の下部排出ストリームは、前記精製塔の全体段数の50%~90%の段に供給される、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項10】
前記抽出剤回収塔の運転温度は40℃~150℃であり、運転圧力は35torr~300torrである、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項11】
前記精製塔の運転温度は60℃~200℃であり、運転圧力は35torr~500torrである、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年10月15日付けの韓国特許出願第10-2021-0137931号および2022年7月25日付けの韓国特許出願第10-2022-0091840号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、アクリル酸の製造方法に関し、より詳細には、乳酸の脱水反応によりアクリル酸を製造する際に、アクリル酸の損失を低減するとともに副生成物を効果的に除去する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アクリル酸は、繊維、粘着剤、塗料、繊維加工、皮革、建築用材料などに使用される重合体原料として用いられ、その需要は拡大している。また、前記アクリル酸は、吸水性樹脂の原料としても使用され、紙おむつ、生理用ナプキンなどの吸水物品、農園芸用保水剤および工業用止水材など、工業的に多く用いられている。
【0004】
従来のアクリル酸の製造方法は、プロピレンを空気酸化する方法が一般的であるが、この方法は、プロピレンを気相接触酸化反応によってアクロレインに変換し、これを気相接触酸化反応させてアクリル酸を製造する方法であり、副生成物として酢酸が生成され、これは、アクリル酸との分離が難しい問題がある。また、プロピレンを用いたアクリル酸の製造方法は、化石資源である原油を精製して得られたプロピレンを原料とし、最近の原油価格の高騰や地球温暖化などの問題を考慮すると、原料費や環境汚染の面で問題がある。
【0005】
これに対して、炭素中立のバイオマス原料からアクリル酸を製造する方法に関する研究が行われた。例えば、乳酸(Lactic Acid、LA)の気相脱水反応によりアクリル酸(Acrylic Acid、AA)を製造する方法がある。この方法は、一般的に、300℃以上の高温および触媒の存在下で、乳酸の分子内の脱水反応によりアクリル酸を製造する方法である。しかし、乳酸の脱水反応時に、脱水反応の他に副反応が起こり、これにより、反応生成物としてアクリル酸以外にヒドロキシアセトン(Hydroxy Acetone、HA)を含む副生成物が生成される。この場合、乳酸の脱水反応により生成される副生成物であるヒドロキシアセトンを完全に除去し難い問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記発明の背景技術で言及した問題を解決するために、乳酸の脱水反応によりアクリル酸を製造する時に、副生成物を効果的に除去し、且つアクリル酸の損失を最小化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明の一実施形態によると、本発明は、乳酸水溶液を脱水反応させて製造された反応生成物ストリームを抽出塔に供給し、前記抽出塔で抽出剤を用いてアクリル酸を含む上部排出ストリームを分離して抽出剤回収塔に供給するステップと、前記抽出剤回収塔でアクリル酸を含む下部排出ストリームを分離して第1分離塔に供給するステップと、前記第1分離塔で低沸点副生成物を上部に分離し、アクリル酸を含む下部排出ストリームを分離して第2分離塔に供給するステップと、前記第2分離塔で高沸点副生成物を下部に分離し、アクリル酸を含む上部排出ストリームを精製塔に供給するステップと、前記精製塔でアクリル酸を含む上部排出ストリームを分離し、ヒドロキシアセトンを含む下部排出ストリームは抽出塔に還流させるステップとを含むアクリル酸の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアクリル酸の製造方法によると、アクリル酸を含む反応生成物からアクリル酸と沸点が類似するヒドロキシアセトンを完全に除去することで、ヒドロキシアセトンの残留によってアクリル酸製品の純度が低くなる問題を解決し、ヒドロキシアセトンを分離して除去する過程でアクリル酸の損失を最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態でアクリル酸の製造方法による工程フローチャートである。
図2】比較例でアクリル酸の製造方法による工程フローチャートである
図3】比較例でアクリル酸の製造方法による工程フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の説明および請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常のもしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0011】
本発明において、用語「ストリーム(stream)」は、工程内の流体(fluid)の流れを意味し得、また、配管内で流れる流体自体を意味し得る。具体的には、前記「ストリーム」は、各装置を連結する配管内で流
れる流体自体および流体の流れを同時に意味し得る。また、前記流体は、気体(gas)、液体(liquid)および固体(solid)のいずれか一つ以上の成分を含むことができる。
【0012】
以下、本発明に関する理解を容易にするために、図1を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0013】
本発明によると、アクリル酸の製造方法が提供される。より具体的には、乳酸水溶液を脱水反応させて製造された反応生成物ストリームを抽出塔100に供給し、前記抽出塔100で抽出剤を用いて、アクリル酸を含む上部排出ストリームを分離して抽出剤回収塔200に供給するステップと、前記抽出剤回収塔200でアクリル酸を含む下部排出ストリームを分離して第1分離塔300に供給するステップと、前記第1分離塔300で低沸点副生成物を上部に分離し、アクリル酸を含む下部排出ストリームを分離して第2分離塔310に供給するステップと、前記第2分離塔310で高沸点副生成物を下部に分離し、アクリル酸を含む上部排出ストリームを精製塔400に供給するステップと、前記精製塔400でアクリル酸を含む上部排出ストリームを分離し、ヒドロキシアセトンを含む下部排出ストリームは抽出塔100に還流させるステップとを含むことができる。
【0014】
具体的には、従来のアクリル酸の製造方法は、プロピレンを空気酸化する方法が一般的であるが、この方法は、プロピレンを気相接触酸化反応によってアクロレインに変換し、これを気相接触酸化反応させてアクリル酸を製造する方法であり、副生成物として酢酸が生成され、これは、アクリル酸との分離が難しい問題がある。また、プロピレンを用いたアクリル酸の製造方法は、化石資源である原油を精製して得られたプロピレンを原料とし、最近の原油価格の高騰や地球温暖化などの問題を考慮すると、原料費や環境汚染の面で問題がある。
【0015】
従来のアクリル酸の製造方法の問題を解決するために、炭素中立のバイオマス原料からアクリル酸を製造する方法に関する研究が行われた。例えば、乳酸(Lactic Acid、LA)の気相脱水反応によりアクリル酸(Acrylic Acid、AA)を製造する方法がある。この方法は、一般的に、高温および触媒の存在下で、乳酸の分子内の脱水反応によりアクリル酸を製造する方法である。しかし、乳酸の脱水反応時に、脱水反応の他に副反応が起こり、これにより、反応生成物としてアクリル酸以外に副生成物が生成され、特に、アクリル酸と沸点が類似するヒドロキシアセトン(Hydroxy Acetone、HA)が生成される。この場合、蒸留方法では、ヒドロキシアセトンを完全に除去することが困難であった。
【0016】
これに対して、本発明では、前記従来の問題を解決するために、乳酸の脱水反応によりアクリル酸を製造し、これによって生成される副生成物、特に、アクリル酸(沸点:141℃)と沸点が類似して分離が難しいヒドロキシアセトン(沸点:145℃)を完全に除去するために抽出方法を用いており、ここで、ヒドロキシアセトンを完全に除去するための方法と同時に、アクリル酸の損失を最小化する方法を提供する。
【0017】
本発明の一実施形態によると、乳酸水溶液を脱水反応させて製造された反応生成物ストリームを抽出塔100に供給することができる。ここで、前記反応生成物は、冷却塔を経て凝縮された凝縮物であることができる。
【0018】
具体的には、乳酸水溶液を反応器に供給して脱水反応させてアクリル酸を含む反応生成物を製造することができる。ここで、脱水反応は、触媒の存在下で気相反応により行われることができる。例えば、乳酸水溶液の乳酸濃度は、10重量%以上、20重量%以上または30重量%以上および40重量%以下、50重量%以下、60重量%以下または70重量%以下であることができる。
【0019】
反応器は、通常の乳酸の脱水反応が可能な反応器であることができ、反応器は、触媒が充填された反応管を含むことができ、反応管に原料である乳酸水溶液の揮発成分を含む反応ガスを通過させながら気相接触反応によって乳酸を脱水させて、アクリル酸を生成することができる。反応ガスは、乳酸の他に、濃度の調整のための水蒸気、窒素および空気のいずれか一つ以上の希釈ガスをさらに含むことができる。
【0020】
反応器の運転条件は、通常の乳酸の脱水反応条件下で行われることができる。ここで、反応器の運転温度は、反応器の温度の制御のために使用される熱媒体などの設定温度を意味し得る。
【0021】
乳酸の脱水反応に使用される触媒は、例えば、硫酸塩系触媒、リン酸塩系触媒および硝酸塩系触媒からなる群から選択される1種以上を含むことができる。具体的な例として、硫酸塩は、NaSO、KSO、CaSOおよびAl(SOを含むことができ、前記リン酸塩は、NaPO、NaHPO、NaHPO、KPO、KHPO、KHPO、CaHPO、Ca(PO、AlPO、CaHおよびCaを含むことができ、前記硝酸塩は、NaNO、KNOおよびCa(NOを含むことができる。また、触媒は、担持体に担持されることがある。担持体は、例えば、珪藻土、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、炭化物およびゼオライトからなる群から選択される1種以上を含むことができる。
【0022】
乳酸の脱水反応により製造される反応生成物は、目的とする生成物であるアクリル酸の他に、水(HO)およびヒドロキシアセトンなどの副生成物をさらに含むことができる。
【0023】
反応生成物は、冷却塔に供給して冷却させることができる。具体的には、乳酸の脱水反応により製造される反応生成物は気相として、冷却塔を経て凝縮させることができる。冷却塔の上部にはガス副生成物を分離することができ、液相の凝縮物は下部に排出されることができ、ここで、凝縮物は、本発明において抽出塔100に供給される反応生成物ストリームであることができる。
【0024】
本発明の一実施形態によると、抽出塔100では、別の抽出剤を用いて、反応生成物ストリーム内に含まれたアクリル酸を上部排出ストリームとして分離することができる。
【0025】
抽出剤は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、n-ヘプタン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、1-ヘプテン、エチルベンゼン、メチルシクロヘキサン、n-ブチルアセテート、イソブチルアセテート、イソブチルアクリレート、n-プロピルアセテート、イソプロピルアセテート、メチルイソブチルケトン、2-メチル-1-ヘプテン、6-メチル-1-ヘプテン、4-メチル-1-ヘプテン、2-エチル-1-ヘキセン、エチルシクロペンタン、2-メチル-1-ヘキセン、2,3-ジメチルペンタン、5-メチル-1-ヘキセンおよびイソプロピルブチルエーテルからなる群から選択される1種以上を含むことができる。具体的な例として、抽出剤は、トルエンであることができる。
【0026】
抽出塔100で抽出剤を供給して抽出する方式は、周知の方式であれば、如何なるものでも可能であり、例えば、十字流(cross current)、向流(counter current)、並流(co-current)など、特に制限なく、如何なる方式でも使用可能である。
【0027】
抽出塔100では、反応生成物ストリームと抽出剤を接触させて抽出液と抽残液を分離することができる。例えば、抽出液は、抽出剤にアクリル酸が溶解されたものであることができ、抽出液は、抽出塔100の上部排出ストリームとして排出されることができる。ここで、抽出塔100の上部排出ストリームは、抽出剤回収塔200に供給されることができる。
【0028】
また、抽残液は、水を含む廃水として、抽出塔100の下部に分離されることができる。ここで、抽出塔100の下部には、水とともに副生成物のうちヒドロキシアセトンがともに分離されて排出されることができるが、全量排出されず、一部は抽出液に流出されてアクリル酸とともに後段に移送される問題がある。具体的には、抽出塔100でヒドロキシアセトンを除去するために、抽出剤の使用量を調節することができるが、抽出剤の使用量を増加させても投入されたヒドロキシアセトンを全量除去することは難しく、この場合、抽出塔100の下部に水とともに排出されるアクリル酸の含量が増加し、アクリル酸の損失が増加する問題があり得る。
【0029】
これに対して、本発明では、後段の精製塔400の運転条件を調節してヒドロキシアセトンを効果的に分離させて抽出塔100に還流させることで、抽出塔100の下部排出ストリームとしてヒドロキシアセトンを全量分離して除去することができ、この場合に、アクリル酸の損失を最小化することができる。
【0030】
例えば、反応生成物ストリームに含まれたヒドロキシアセトンの含量に対する抽出塔100の下部に分離するヒドロキシアセトンの含量比は、0.95~1,0.97~1または0.99~1であることができ、具体的には、抽出塔100に供給される反応生成物ストリーム内に含まれたヒドロキシアセトンの全量が抽出塔100で除去されることができる。これにより、精製塔400で高純度のアクリル酸を分離することができる。
【0031】
抽出塔100の上部排出ストリームは、アクリル酸を含むことができ、さらに、抽出剤およびヒドロキシアセトンを含むことができる。抽出塔100の上部排出ストリーム内のヒドロキシアセトンの含量は、反応生成物ストリームに含まれたヒドロキシアセトンの含量の0.2%~15%、3%~13重量%または5重量%~10%であることができる。具体的には、抽出塔100の上部排出ストリーム内のヒドロキシアセトンの含量を前記のように制御することで、抽出塔100の下部に水とともに損失されるアクリル酸の含量を最小化し、精製塔400での分離のためのエネルギー使用量を低減することができる。
【0032】
本発明の一実施形態によると、抽出塔100の上部排出ストリームは、抽出剤回収塔200に供給され、抽出剤回収塔200でアクリル酸を含む下部排出ストリームを分離し、第1分離塔300に供給することができる。また、抽出剤回収塔200において、抽出剤は、上部排出ストリームとして分離されることができ、抽出剤回収塔200の上部排出ストリームの一部のストリームは、抽出塔100に還流させて抽出剤を再使用することができる。ここで、抽出剤回収塔200の下部排出ストリームは、アクリル酸とともに、副生成物として、低沸点副生成物、高沸点副生成物およびヒドロキシアセトンを含むことができる。
【0033】
抽出剤回収塔200の運転条件は、抽出剤回収塔200に供給される成分の含量および抽出剤の種類などに応じて変化する。抽出剤回収塔200の運転温度は、例えば、40℃~150℃、45℃~130℃または50℃~110℃であることができる。また、抽出剤回収塔200の運転圧力は、35torr~300torr、70torr~250torrまたは100torr~200torrであることができる。前記のように抽出剤回収塔200を運転する場合、高温で生じる副反応を抑制し、アクリル酸の回収率を高めることができる。
【0034】
本発明の一実施形態によると、第1分離塔300は、反応生成物内に含まれた副生成物のうち低沸点副生成物を分離するためのものであることができる。具体的には、抽出剤回収塔200の下部排出ストリームを第1分離塔300に供給し、第1分離塔300で低沸点副生成物を上部に分離し、アクリル酸を含む下部排出ストリームを分離し、第2分離塔310に供給することができる。
【0035】
本発明の一実施形態によると、第2分離塔310は、反応生成物内に含まれた副生成物のうち高沸点副生成物を分離するためのものであることができる。具体的には、第1分離塔300の下部排出ストリームを第2分離塔310に供給し、第2分離塔310で高沸点副生成物を下部に分離し、アクリル酸を含む上部排出ストリームを分離し、精製塔400に供給することができる。
【0036】
本発明の一実施形態によると、第1分離塔300および第2分離塔310は、それぞれ、蒸留により、成分間の沸点差を用いて分離するための装置であることができる。ここで、抽出剤回収塔200の下部排出ストリームに含まれている低沸点副生成物と高沸点副生成物は、第1分離塔300と第2分離塔310を経て除去されるが、アクリル酸と沸点が類似するヒドロキシアセトンは分離されず、第2分離塔310で上部排出ストリームとしてアクリル酸を分離する時にともに排出される。したがって、第2分離塔310の上部排出ストリームとしてアクリル酸を製品化する場合、製品の純度が低くなる問題がある。
【0037】
これに対して、本発明では、第2分離塔310の上部排出ストリームを精製塔400に供給し、精製塔400で高純度のアクリル酸を含む上部排出ストリームと、ヒドロキシアセトンとアクリル酸を含む下部排出ストリームを分離し、精製塔400の下部排出ストリームを抽出塔100に還流させることで、抽出塔100でヒドロキシアセトンを全量除去し、精製塔400の上部排出ストリームとしてアクリル酸を高純度で分離することができた。
【0038】
具体的には、前記抽出塔100の下部には、水とともに副生成物のうちヒドロキシアセトンがともに分離され排出されることができるが、ヒドロキシアセトンが全量排出されない場合には、排出されないヒドロキシアセトンが抽出液に流出されアクリル酸とともに後段に移送される。この場合、精製塔400でヒドロキシアセトンを分離しなければならないため、高純度のアクリル酸の取得量が低下する問題が発生し得る。
【0039】
一方、抽出塔100でヒドロキシアセトンを除去するために、抽出剤の使用量を調節することができるが、この場合、抽出剤の使用量を増加させても投入されたヒドロキシアセトンを全量除去することは難しく、特に、抽出塔100の下部に水とともに排出されるアクリル酸の含量が増加し、アクリル酸の損失が増加する問題があり得る。
【0040】
したがって、ヒドロキシアセトンを含む精製塔400の下部排出ストリームを抽出塔100に還流させることで、抽出塔100で抽出によってヒドロキシアセトンを抽残液として分離する場合、アクリル酸精製システム内に導入するヒドロキシアセトンを全量除去するに加え、精製塔400の上部から高純度のアクリル酸を高い取得量で得ることができる利点がある。
【0041】
本発明の一実施形態によると、精製塔400の運転温度は、例えば、60℃~200℃、80℃~150℃または90℃~110℃であることができる。また、前記精製塔400の運転圧力は、35torr~500torr、70torr~350torrまたは100torr~200torrであることができる。前記のように精製塔400を運転する場合、副反応によるアクリル酸損失の問題はなく、上部排出ストリームとして高純度のアクリル酸を分離し、前記アクリル酸の一部を下部排出ストリームとして排出するとともにヒドロキシアセトンをともに分離することができる。
【0042】
第2分離塔310の上部排出ストリームは、精製塔400の全体段数の50%~90%、55%~85%または60%~80%の段に供給されることができる。精製塔400の供給段を前記範囲内に調節することで、精製塔400での分離効率を増加させることができ、これにより、抽出塔100に還流される精製塔400の下部排出ストリームの組成を制御することができる。ここで、精製塔400の全体段数は、15段~70段、18段~55段または20段~35段であることができる。
【0043】
精製塔400の下部排出ストリームは、反応生成物ストリームと混合ストリームを形成して抽出塔100に供給されることができる。反応生成物ストリームが精製塔400に還流される精製塔400の下部排出ストリームと混合ストリームを形成して抽出塔100に供給されることで、アクリル酸の損失を最小化し、且つ前記抽出塔100の下部にヒドロキシアセトンを全量除去することができる。
【0044】
本発明の一実施形態によると、アクリル酸の製造方法において、必要な場合、蒸留塔、凝縮器、再沸器、バルブ、ポンプ、分離器および混合器などの装置をさらに設置することができる。
【0045】
以上、本発明によるアクリル酸の製造方法について記載および図面に図示しているが、前記の記載および図面の図示は、本発明を理解するための核心的な構成のみを記載および図示したものであって、前記記載および図面に図示している工程および装置以外に、別に記載および図示していない工程および装置は、本発明によるアクリル酸の製造方法を実施するために適宜応用されて用いられることができる。
【0046】
以下、実施例を参照して、本発明をより詳細に説明する。しかし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇および技術思想の範囲内で様々な変更および修正が可能であることは、通常の技術者にとって明白であり、これらのみに本発明の範囲が限定されるものではない。
【0047】
実施例
実施例1
図1に図示された工程フローチャートにしたがって、Aspen社製のAspen Plusシミューレータを用いて、アクリル酸の製造工程をシミュレーションした。
【0048】
具体的には、反応器に50重量%濃度の乳酸水溶液と、希釈ガスとして窒素(N)を供給し、脱水反応によりアクリル酸(AA)を含む反応生成物を製造して、前記反応生成物を含む反応器排出ストリームを冷却塔に供給し、前記冷却塔でガス副生成物を上部に分離し、凝縮物である液相の反応生成物を抽出塔100に供給した。
【0049】
前記抽出塔100で抽出剤としてトルエンを用いてアクリル酸を上部排出ストリームとして分離して抽出剤回収塔200に供給し、下部に水を分離した。ここで、抽出塔100の運転温度は40℃に、運転圧力は750torrに制御した。
【0050】
前記抽出剤回収塔200で上部排出ストリームとして抽出剤を分離し、前記抽出剤回収塔200の上部排出ストリームの一部のストリームは、前記抽出塔100に還流させた。また、前記アクリル酸を含む抽出剤回収塔200の下部排出ストリームは、第1分離塔300に供給した。ここで、抽出剤回収塔200の運転温度は、上部54.1℃、下部96.9℃に制御し、運転圧力は110torrに制御した。
【0051】
前記第1分離塔300で上部に低沸点副生成物を分離し、アクリル酸を含む下部排出ストリームは第2分離塔310に供給した。また、前記第2分離塔310で下部に高沸点副生成物を分離し、アクリル酸を含む上部排出ストリームを精製塔400の15段に供給した。
【0052】
前記精製塔400で上部に高純度のアクリル酸を分離し、副生成物であるヒドロキシアセトンとアクリル酸を含む下部排出ストリームは抽出塔100に還流させた。ここで、精製塔400の運転温度は、上部62.5℃、下部65.6℃に制御し、運転圧力は110torrに制御し、精製塔400の全体段数は20段である。
【0053】
ここで、各ストリームの温度および圧力と各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例2
実施例1で、乳酸水溶液の濃度を20重量%にした以外は、実施例1と同じ方法で行った。
【0056】
ここで、各ストリームの温度および圧力と各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表2に示した。
【0057】
【表2】
【0058】
比較例
比較例1
図2に図示されている工程フローチャートにしたがって、Aspen社製のAspen Plus シミューレータを用いて、アクリル酸の製造工程をシミュレーションした。
【0059】
具体的には、反応器に50重量%濃度の乳酸水溶液と、希釈ガスとして窒素(N)を供給して、脱水反応により、アクリル酸(AA)を含む反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む反応器排出ストリームは冷却塔に供給し、前記冷却塔でガス副生成物を上部に分離し、凝縮物である液相の反応生成物を抽出塔100に供給した。
【0060】
前記抽出塔100で抽出剤としてトルエンを用いて、アクリル酸を上部排出ストリームとして分離して抽出剤回収塔200に供給し、下部に水を分離した。ここで、抽出塔100の運転温度は40℃に、運転圧力は750torrに制御した。
【0061】
前記抽出剤回収塔200で上部排出ストリームとして抽出剤を分離し、前記抽出剤回収塔200の上部排出ストリームの一部のストリームは前記抽出塔100に還流させた。前記アクリル酸を含む抽出剤回収塔200の下部排出ストリームは、第1分離塔300に供給した。ここで、抽出剤回収塔200の運転温度は、上部54.1℃、下部96.9℃に制御し、運転圧力は110torrに制御した。
【0062】
前記第1分離塔300で上部で低沸点副生成物を分離し、アクリル酸を含む下部排出ストリームは、第2分離塔310に供給した。また、前記第2分離塔310で下部に高沸点副生成物を分離し、上部排出ストリームとしてアクリル酸を分離した。
【0063】
ここで、各ストリームの温度および圧力と各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表3に示した。
【0064】
【表3】
【0065】
比較例2
前記比較例1で、前記抽出塔100に供給される抽出剤の流量を制御した以外は、前記比較例1と同じ方法で行った。
【0066】
ここで、各ストリームの温度および圧力と各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表4に示した。
【0067】
【表4】
【0068】
前記表1~4を参照すると、本発明によるアクリル酸の製造方法で副生成物を分離し、アクリル酸を回収する実施例1および実施例2の場合、前記アクリル酸の純度が99%以上であり、前記抽出塔100で損失されるアクリル酸の量が非常に少ないことを確認することができた。また、前記反応生成物内に含まれたヒドロキシアセトンの全量が前記抽出塔100で水とともに排出されることを確認することができた。
【0069】
これと比較して、比較例1は、実施例1に比べて精製塔400を備えていない場合として、前記第2分離塔310の上部排出ストリームに残留するヒドロキシアセトンの量が多くてアクリル酸の純度が低く、前記抽出塔100で損失されるアクリル酸の量が増加したことを確認することができた。
【0070】
また、比較例2は、比較例1の抽出塔100でヒドロキシアセトンの全量を除去するために、前記抽出塔100に供給する抽出剤の量を減少させた場合であり、この場合、前記抽出塔100で水とともに排出されて損失されるアクリル酸の量が増加したことを確認することができた。
【0071】
比較例3
図3に図示されている工程フローチャートにしたがって、Aspen社製のAspen Plusシミューレータを用いて、アクリル酸の製造工程をシミュレーションした。
【0072】
前記実施例1で、精製塔400の下部排出ストリームを抽出塔100に還流せず排出した以外は、前記実施例1と同じ方法で行った。
【0073】
ここで、各ストリームの温度および圧力と各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表5に示した。
【0074】
【表5】
【0075】
比較例4
前記比較例3で、前記抽出塔100に供給される抽出剤の流量を制御した以外は、前記比較例3と同じ方法で行った。
【0076】
ここで、各ストリームの温度および圧力と各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表6に示した。
【0077】
【表6】
【0078】
前記表1~2および表5~6を参照すると、本発明によるアクリル酸の製造方法で副生成物を分離し、アクリル酸を回収する実施例1および実施例2の場合、前記アクリル酸の純度が99%以上であり、前記抽出塔100で損失されるアクリル酸の量が非常に少ないことを確認することができた。また、前記反応生成物内に含まれたヒドロキシアセトンの全量が前記抽出塔100で水とともに排出されることを確認することができた。
【0079】
これと比較して、比較例3および4は、実施例1に比べて精製塔400の下部排出ストリームを抽出塔100に還流しない場合として、抽出塔100に導入されるストリームに含まれた副生成物であるヒドロキシアセトンが抽出塔100の下部排出ストリームとして全量排出されなかったことを確認することができた。抽出塔100の下部排出ストリームとして排出されなかったヒドロキシアセトンの系(system)内の蓄積を防止するために、精製塔400の下部から排出させる場合、精製塔400の下部から一部のアクリル酸の損失が発生することを確認することができる。
【0080】
また、比較例4は、比較例3の抽出塔100でヒドロキシアセトンの全量を除去するために、前記抽出塔100に供給する抽出剤の量を2倍に増加させた場合であり、この場合、抽出剤であるトルエンの量を増加させても前記抽出塔100からヒドロキシアセトンの全量が排出されることができず、水とともに排出されて損失されるアクリル酸の量が増加したことを確認することができた。特に、実施例1で抽出塔100の下部から損失されるアクリル酸の質量流量に比べて比較例4で抽出塔100の下部から損失されるアクリル酸の質量流量は35%程度増加することが分かる。
【0081】
さらに、精製塔400の下部排出ストリームを抽出塔100に還流しなかった比較例3および4の場合、前記精製塔400の上部から純度が高いアクリル酸を回収することは可能であったが、高純度アクリル酸の取得量が実施例1および2に比べて低下していることを確認することができる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】