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  • 特表-三成分系水硬性結合材組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】三成分系水硬性結合材組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/14 20060101AFI20231228BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20231228BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20231228BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20231228BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C04B22/14 D
C04B22/14 B
C04B22/14 C
C04B22/08 A
C04B24/26 C
C04B22/06 A
C04B28/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538858
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 EP2021087441
(87)【国際公開番号】W WO2022136620
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20216954.6
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100116975
【弁理士】
【氏名又は名称】礒山 朝美
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーナ クレーマー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ドレッセン
(72)【発明者】
【氏名】ビルヘルム フュッテラー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ルドルフ
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター ゴート
(72)【発明者】
【氏名】トールステン ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】イーボンネ シェーペルス
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー エーレ
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ ボイルレ
(72)【発明者】
【氏名】ベルナー シュトール
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB23
4G112MB33
4G112MD01
4G112PB28
4G112PB31
(57)【要約】
本発明は、鉱物化合物C$(イーリマイト)と、石膏、硫酸カルシウム半水和物、無水石膏、及びこれらの混合物(まとめてC$Hと称し、xは0~2の有理数である)からなる群より選択される構成要素と、任意にCS(ビーライト)とを含み、鉱物化合物C12(ドデカカルシウムヘプタアルミネート)を添加含有することを特徴とする、三成分系水硬性結合材組成物を提案する。さらに、本発明は、この三成分系組成物の製造方法、水を含んだ建築用化学組成物の製造方法、並びにへら付け用フィラー、スクリード、及び補修モルタル、タイル用接着剤、タイル用グラウト、プラスター、ベースコート、及びシーリング材を含む建築用化学組成物における、この三成分系組成物の使用を提案する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物化合物C$(イーリマイト)と、
石膏、硫酸カルシウム半水和物、無水石膏、及びこれらの混合物(まとめてC$Hと称し、xは0~2の有理数である)からなる群より選択される構成要素とを含み、
鉱物化合物C12(ドデカカルシウムヘプタアルミネート)を添加含有することを特徴とする、
三成分系水硬性結合材組成物。
【請求項2】
鉱物化合物CS(ビーライト)をさらに含む、請求項1に記載の結合材組成物。
【請求項3】
第一の主構成成分として、前記鉱物化合物C$(イーリマイト)と、
第二の主構成成分として、硫酸カルシウムと、
任意にCS(ビーライト)と
を含む混合物が、カルシウムスルホアルミネート(CSA)セメントの形態で存在する、請求項1又は2に記載の結合材組成物。
【請求項4】
0.1~20重量%、好ましくは0.5~10重量%のC12を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の結合材組成物。
【請求項5】
24~64重量%のイーリマイト、
6~40重量%の硫酸カルシウム(合計量)、及び
0.2~20重量%のドデカカルシウムヘプタアルミネート(C12)、
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の結合材組成物。
【請求項6】
30~75重量%の石英砂、
0~40重量%の微細フィラー、
12~32重量%のイーリマイト、
3~20重量%の硫酸カルシウム(合計量)、
0.1~20重量%のドデカカルシウムヘプタアルミネート(C12)、
0~5重量%のポゾラン、
0~20重量%の再分散性ポリマー粉末、
0~1重量%のリチウム塩、
0~0.2重量%の遅延剤、
及び任意にさらなる添加剤、
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の結合材組成物。
【請求項7】
下記を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の結合材組成物の製造方法:
以下を含む混合物を提供すること:
(a)鉱物化合物C$(イーリマイト)、
(b)石膏、硫酸カルシウム半水和物、無水石膏、及びこれらの混合物(まとめてC$Hと称し、xは0~2の有理数である)からなる群より選択される構成要素、及び任意に、
(c)鉱物化合物CS(ビーライト);及び
以下を添加すること:
(d)0.1~20重量%、好ましくは0.5~10重量%のC12(ドデカカルシウムヘプタアルミネート)。
【請求項8】
下記の工程をさらに含む、請求項7に記載の方法:
(i)任意に、さらなる添加剤を添加すること、及び
(ii)水を添加すること。
【請求項9】
$、C$H、及び任意にCSを含む結合材組成物の凝結及び硬化を促進するための、鉱物化合物C12の使用。
【請求項10】
$、C$H、及び任意にCSを含む結合材組成物の水和性能を改善するための、鉱物化合物C12の使用。
【請求項11】
$、C$H、及び任意にCSを含む結合材の収縮を低減するための、鉱物化合物C12の使用。
【請求項12】
へら付け用フィラー、スクリード、補修モルタル、タイル用接着剤、タイル用グラウト、プラスター、ベースコート、及びシーリング材を含む建築用化学組成物における、請求項1~6のいずれか一項に記載の結合材組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イーリマイト及び硫酸カルシウム、並びに任意にビーライトを含み、鉱物化合物C12(ドデカカルシウムヘプタアルミネート)を添加含有することを特徴とする三成分系水硬性結合材組成物に関する。さらに、本発明は、この三成分系組成物の製造方法、水を含んだ建築用化学組成物の製造方法、並びにへら付け用フィラー、スクリード、及び補修モルタル、タイル用接着剤、タイル用グラウト、プラスター(しっくい)、ベースコート、及びシーリング材を含む建築用化学組成物における、この三成分系組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルトランドセメントは、英国特許第5022号明細書(Joseph Aspdin、1824年)で初めて言及され、以来、さらなる開発が継続的に成されてきた。現在のポルトランドセメントは、約70重量%のCaO+MgO、約20重量%のSiO、及び約10重量%のAl+Feを含有する。ポルトランドセメントは、水の作用で硬化する。欠点として、ポルトランドセメントの製造は、環境的な影響が大きいことであり、すなわちCOフットプリントが大きいことである。
【0003】
カルシウムアルミネートセメント(「CASセメント」)は、主としてCaO・Alを含む。それは、酸化カルシウム(CaO)又は石灰石(CaCO)及びボーキサイト又はアルミネートを一緒に溶融することによって得ることができる。カルシウムアルミネートセメントは、約20~40重量%のCaO、約5重量%までのSiO、約35~80重量%のAl、及び約20重量%までのFeを含む。カルシウムアルミネートセメントは、DIN EN 14647(01/2006)に従って定められる。カルシウムアルミネートセメントは、ポルトランドセメントよりも環境的な影響が小さく、すなわちCOフットプリントが小さい。
【0004】
カルシウムスルホアルミネートセメント(「CSAセメント」)は、素早い結合、素早い強度の発現、及び収縮の低減によってポルトランドセメントと区別されている。CSAセメントは、橋梁、空港滑走路、道路補修、及び迅速な硬化が必要とされる他の多くの用途において、コンクリート中の結合材として何十年にもわたって使用されてきた。CSAセメントはまた、セルフレベリング床材、レベリング配合物、キャスト用モルタル、タイル用接着剤、グラウトなどのためのドライモルタルにも使用されている。ポルトランドセメントとは対照的に、CSAセメントは、ポルトランドセメントよりも低い温度で、すなわち1100~1300℃で焼成されることから、環境的な影響が小さく、すなわちCOフットプリントが小さい。さらに、CSAセメントは、ポルトランドセメントよりもアルカリ性が低い。しかしながら、CSAセメントの硬化時間、強度発現、及び最終強度については、依然としてさらなる改善の余地が残されている。
【0005】
CSAセメントの凝結及び硬化を促進するために、リチウム塩が多くの場合用いられる。しかしながら、リチウムは、世界的に供給が不足しており、その製造については、環境的な影響が懸念され、かつ作業条件は、好意的に解釈しても、人間的見地から問題である。促進のために必要とされるリチウムの添加を低減するか又は完全に回避することが必要とされている。
【0006】
セメント化学者表記法(Cement Chemist Notation;CCN)では、鉱物化合物の構成成分は、一般に、その酸化物の形態で表される。「C」は、CaOを表し、「A」は、Alを表し、「S」は、SiOを表し、「$」は、以降ではSOを表し、「H」は、HOを表す。
【0007】
CSAセメントは、C$(イーリマイト)及び硫酸カルシウム(石膏、硫酸カルシウム半水和物、及び/又は無水石膏(以降では、まとめてC$Hと称し、xは0~2の有理数である))を含有する。CSAセメントはまた、実質的な量のCS(ビーライト)も含有し得る。水と接触すると、CSAセメントは、水の作用で硬化し、主としてエトリンガイト(CA$32)を形成する。
【0008】
国際公開第01/74737 A1号に対応する米国特許第6,730,162 B1号明細書(要約)には、水硬性結合材の製造方法であって、少なくとも以下の2つの結合材を一緒に混合する方法が開示されている:(a)主成分の1つとして鉱物化合物C$を有する第一の水硬性結合材;及び(b)石膏を熱処理に掛けることによって得られる硫酸カルシウム半水和物及び/又は無水石膏をベースとする第二の硫酸塩結合材。この特許はまた、主成分の中でもとりわけ以下を含む結合材を提供する:(a)鉱物化合物C$;及び(b)α型又はβ型で一般式:CaSO・1/2HOの硫酸カルシウム半水和物、及び/又はIII型で一般式:CaSO・εHO(εは0~0.5の範囲内、好ましくは0.06~0.11の範囲内)の無水石膏、若しくはII型で式:CaSOの無水石膏を含む化合物。
【0009】
独国特許出願公開第10 2010 034874 A1号公報(要約)には、(A)少なくとも1つのポゾラン硬化性又は潜在水硬性の材料、(B)少なくとも1つのカルシウムスルホアルミネート、並びに(C)少なくとも1つの硫酸カルシウム半水和物及び/又は無水硫酸カルシウムを含有し、成分(A)の成分(B)に対する重量比が、5:1~1:10であり、かつ成分(B)の成分(C)に対する重量比が、50:1~1:2である鉱物結合材組成物が開示されており、さらには対応する鉱物結合材組成物を含有する建築用化学製品が開示されている。
【0010】
国際公開第2012/127066 A1号(要約)には、モルタル又はコンクリートからなるウェットコーティング製剤を製造するためのドライセメント組成物であって、特に、エフロレッセンス(白華)のない厚い無機コーティングの作製を可能とするが、対応するウェット製剤に求められる他の特性、すなわち、取り扱い易さ、作業性、ポンプ圧送性、レオロジー、混合及び適用の容易さ、さらには器具洗浄の容易さには有害な影響を与えず、かつ上記ウェット製剤から得られる硬化した物体の特性、すなわち、表面保護/シール性、硬度、耐クラック性、耐久性、及び耐火性にも有害な影響を与えることのない、ドライセメント組成物が開示されている。この発明に従う組成物は、(a)カルシウムアルミネートセメント(CAC)及び/又はカルシウムスルホアルミネートセメント(CSA)と、(c)無水石膏と、以下の組成物のうちの少なくとも1つとを含む:(b)有機結合材;(d)硬化遅延剤;(e)硬化促進剤;(f)保水剤;(g)フィラー;(h)防水剤;(i)着色剤;(j)光触媒添加剤;(k)繊維;及び(m)消泡剤。上記組成物は、ポルトランドセメントを(ほとんど完全に)含んでおらず、かつ組成物(a)/(c)の比は、90/10~99.99/0.01である。この発明はまた、セメント組成物を水と混合することによって得られるウェット製剤、このセメント組成物及び対応するウェット製剤の製造方法、ウェット製剤を適用することによって得られるコーティング、その適用、及びコーティングされた基材にも関する。
【0011】
中国特許出願公開第109987906 A号公報(要約)には、セメントベースの早強非収縮性グラウト材料が開示されている。このグラウト材料は、重量部で示す以下の原材料を含む:50~55重量部の高ビーライトスルホアルミネート特殊セメント材料、5~10重量部の重質炭酸カルシウム粉末、38~43重量部の石英砂、0.5~0.7重量部のラテックス粉末、0.5~0.7重量部の減水剤、0.36~0.5重量部の消泡剤、0.05~0.1重量部のセルロースエーテル、0.1~0.15重量部のクエン酸、及び0.03~0.05重量部の炭酸リチウム。ここで、この高ビーライトスルホアルミネート特殊セメント材料は、重量部で示す以下の原材料に対してドライブレンドを実施することによって得られる:60~70重量部の高ビーライトスルホアルミネートセメントクリンカー粉末、5~10重量部のα型高強度石膏粉末、5~10重量部のβ型石膏粉末、及び15~20重量部の超微細フライアッシュ。得られるグラウト材料は、2~4時間での早期の超高強度、非常に優れた流動性、長期的な強度成長速度及び長期的な強度、並びに硬化後のある程度の塑性膨張及び剛性膨張を有する。
【0012】
カナダ特許出願公開第2922773 A1号公報(第9頁)には、22%のCS、60%のC$、5%のC12、8%のCS、及び4%のC(A,F)を含む「バーンストーン」CSAセメントが開示されている。加えて、0~20%の硫酸カルシウムも存在し得る。
【0013】
米国特許出願公開第2015/0329422 A1号公報の[0066]には、4~47%のC$及びCA、0~4%のC12、1~16%のCAF、5~19%のCSの混合物を含む結合材組成物が開示されている。硫酸塩も存在し得る。
【0014】
米国特許出願公開第2016/0107933 A1号公報(要約及び請求項1)には、ポルトランドセメントのための促進剤としてのビーライト含有カルシウムアルミネートの使用が開示されている。この目的のために、この特許出願の[0014]にはさらに、C12に近い組成を有するアモルファスカルシウムアルミネートなどの水硬性の反応性添加剤を、イーリマイトをベースとし、石灰及び無水石膏を含まないカルシウムスルホアルミネートの混合物に添加することが開示されている。しかしながら、この文献には、CSAセメントのための促進剤は開示されていない。
【0015】
Chu Yong Sik et al.,「Properties of Shrinkage Reducing Agent and Mortar with C12-based Slag and Petroleum Cokes Ash」,Journal of the Korean Ceramic Society,Vol.50,No.5,pp.319-325,2013には、普通ポルトランドセメント(「OPC」)の収縮低減のためのC12スラグが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
リチウム塩を低減又は回避するという上述した必要性に加えて、本発明の基礎を成す課題は、以下のとおりである:
結合材組成物が、ポルトランドセメントを含むべきではなく、したがって、ポルトランドセメントよりも低いpH値を有するべきであること、
結合材組成物が、より高い早期及び最終強度を有する通常のCSAセメントと比較して、より短時間で乾燥、凝結、及び硬化し、かつ硬化した組成物において、より高い耐久性を呈するべきであること、並びに
結合材組成物が、より低い温度での硬化が可能であること。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの課題は、独立請求項の技術的特徴によって解決された。従属請求項は、好ましい実施形態に関する。驚くべきことに、C$及びC$Hを含む組成物が、C12の添加によって大きく改善されることが見出された。
【0018】
本発明に従う三成分系水硬性結合材組成物の利点は、この組成物が、低リチウムであるか又はリチウム非含有でさえあり、ポルトランドセメントを含まないということである。本発明の組成物の利点は、すべての従来の二成分及び三成分の結合材システムと比較して、加工時間と固化時間との間及び固化の開始と終了との間の短い時間間隔を示し、臨界条件下であっても改善した耐久性を示し、より速い乾燥速度、より高い早期及び最終強度、低温でのより高い強度、より早期での歩行可能性及び利用可能性、収縮の低減、低温でのより速い硬化、非常に平滑な表面構造、分散系接着剤に対するより低い感受性、加工特性の改善、接着剤組成物の形態での接着強度の改善、より低いpH値、エフロレッセンス(白華)の減少、天然石適合性の改善を示すことであり、かつさらなるクロメートの低減の必要がないことである。
【0019】
第一の態様によると、本発明は、鉱物化合物C$(イーリマイト)と、石膏、硫酸カルシウム半水和物、無水石膏、及びこれらの混合物(まとめてC$Hと称し、xは0~2の有理数である)からなる群より選択される構成要素とを含み、鉱物化合物C12(ドデカカルシウムヘプタアルミネート)を添加含有することを特徴とする、三成分系水硬性結合材組成物を提供する。
【0020】
本明細書全体で用いられる場合、「添加含有」との用語は、CSAセメントに追加のC12が添加されていることを意味する。上記で説明したように、CSAセメントは、0~4%又はさらには5%のC12を含有する。鉱物化合物C12の「添加含有」とは、C12の添加によって、その天然の含有量から著しく増加していることを意味する。最初からC12が存在していなかった場合は、0.1%のC12で十分であり得る。経験則として、1%のC12が存在する場合、少なくとも0.5%のC12が添加されるべきであり;5%のC12が存在する場合、少なくとも2%のC12が添加されるべきである。上限は、約20%のC12とするべきである。
【0021】
イーリマイト(C$)は、カルシウムスルホアルミネート、Ca(AlOSOの天然に存在する形態である。イーリマイトは、CSAセメントの構成成分として最も一般的に見られる。その製造は、適切な量の微粉砕したアルミナ、炭酸カルシウム、及び硫酸カルシウムを、好ましくは少量のFeなどの融剤の存在下で、1100~1300℃で加熱することによって行われる。1350℃を超えて加熱すると、イーリマイトは分解し始める。
【0022】
硫酸カルシウム(C$H)は、式:CaSOを有し、かつ関連する水和物を有する無機化合物である。1つの特定の水和物は、焼き石膏(Plaster of Paris)としてよく知られているものであり、また別の水和物は、鉱物石膏として天然に存在する。主たる水和状態は、無水石膏(x=0)、半水和物(x=0.5)、及び二水和物(石膏、x=2)である。硫酸カルシウムは、技術的には、例えば煙道ガスの脱硫において、廃棄物として発生する。
【0023】
ドデカカルシウムヘプタアルミネート(Ca12Al1433又はC12)は、天然にはほとんど存在しない無機固体である。それは、カルシウムアルミネートセメントにおける重要な相であり、かつポルトランドセメント製造時の中間体(900~1200℃)である。C12は、固相反応を介して製造することができ、すなわち、炭酸カルシウム及び酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウムの粉末の混合物を空気中で加熱することによって製造することができる。これは、市販されている。
【0024】
本発明による組成物は、さらに、CS(ビーライト)を含有してもよい。ビーライトは、工業用鉱物であり、ポルトランドセメントの製造において重要である。その主たる構成成分は、ケイ酸二カルシウム、CaSiOである。ビーライトに富むCSAセメントは、CSAセメントの耐久性をさらに改善し、同時に普通ポルトランドセメント(「OPC」)よりも小さい環境フットプリントを提供するために開発された。
【0025】
$(イーリマイト)、硫酸カルシウム(C$H)、及び任意のCS(ビーライト)の混合物は、通常のCSAセメントの形態で存在し得る。しかしながら、これらの成分を、必要に応じて一緒に混合することができる。
【0026】
本発明による組成物において、添加されるC12の量は、0.1~20重量%であり得る。0.1重量%よりも少ない量では、恐らく測定可能な効果が得られず、その一方で20重量%よりも多い量では、高価値材料の浪費となる。C12の添加量は、好ましくは0.2~20重量%、より好ましくは0.5~10重量%の範囲内である。CSAセメント中に1%のC12が存在する場合、少なくとも0.5%のC12が添加されるべきである。経験則として、5%のC12が存在する場合、少なくとも2%のC12が添加されるべきである。
【0027】
リチウム非含有組成物又はリチウムが非常に少ない組成物の場合、CSAセメントのC$H含有量を増加させることが有利である。約50重量%のC$、約25重量%のCS、約5重量%の無水石膏、及び他の少量の相を含有する典型的なCSAセメントに対して、約35重量%の硫酸カルシウムを添加することができ、添加後、水和した生成物中に過剰な石膏が残される。
【0028】
一般的な配合物を以下に示す(割合を重量%で表す):
砂を含まない配合物
24~64% イーリマイトに富むクリンカー
6~40% 硫酸カルシウム(合計量)
0.2~20% ドデカカルシウムヘプタアルミネート(C12
【0029】
砂を含む配合物
30~75% 石英砂
0~40% 微細フィラー(例:石灰石粉末)
12~32% イーリマイトに富むクリンカー
3~20% 硫酸カルシウム(合計量)
0.1~20% ドデカカルシウムヘプタアルミネート(C12
0~5% ポゾラン
0~20% 再分散性ポリマー粉末(例:アクリレートコポリマー又はEVAコポリマー)
0~1% リチウム塩
0~0.2% 遅延剤(例:酒石酸)
及び任意にさらなる添加剤(例:増粘剤、流動化剤)
【0030】
上述のさらなる添加剤は、接着剤、増粘剤、流動化剤、界面活性剤、繊維、錯化剤、収縮低減剤、可撓性付与剤(軟化剤)、疎水性化剤、ポルトランドセメント、CASセメント、及びこれらの混合物から選択することができる。
【0031】
第二の態様によると、本発明は、下記を含む結合材組成物の製造方法を提供する:
鉱物化合物C$(イーリマイト)と、石膏、硫酸カルシウム半水和物、無水石膏、及びこれらの混合物(まとめてC$Hと称し、xは0~2の有理数である)からなる群より選択される構成要素と、任意に鉱物化合物CS(ビーライト)との混合物を提供すること、及び
0.1~20重量%、好ましくは0.5~10重量%のC12(ドデカカルシウムヘプタアルミネート)を添加すること。
好ましくは、結合材組成物を使用する前に、水も添加される。
【0032】
第三の態様によると、本発明は、C$、C$H、及び任意にCSを含む結合材組成物のための硬化促進剤としての、鉱物化合物C12(ドデカカルシウムヘプタアルミネート)の使用を提供する。
【0033】
さらに、本発明は、上記で述べた結合材組成物の使用であって、へら付け用フィラー、スクリード、及び補修モルタル、タイル用接着剤、タイル用グラウト、プラスター(しっくい)、ベースコート、及びシーリング材を含む組成物における使用を提供するが、これらに限定されるものではない。
【0034】
次に、本発明について、以下の非限定的な実施例及び参考例を参照し、及び添付の図面を参照してさらに詳細に説明する。
【0035】
原材料は、重量基準の割合である「重量%」で表される。「Rp.」は、配合を意味する。(23/50)という表現は、試験を23℃及び50%の相対湿度で行ったことを意味する。(5/90)という表現は、試験を5℃及び90%の相対湿度で行ったことを意味する。
【0036】
「微細フィラー」は、Rheinkalk GmbHから入手した粒径が約1~45μmの石灰石粉末である。「イーリマイトに富むクリンカー」は、約50重量%のイーリマイトを含有し、Heidelberg Cement AGから入手した「i.tech(登録商標)ALICEM」である。「硫酸カルシウム」は、クリンカー中の硫酸カルシウムに、任意に添加した硫酸カルシウム(無水石膏)を加算したものである。C12は、IMERYS Aluminatesからの「TERNAL EP」である。「再分散性ポリマー粉末」は、例えばWacker AGから「VINNAPAS」として市販されているエチレン酢酸ビニルコポリマーである。「遅延剤」は、酒石酸であり、「さらなる添加剤」は、増粘剤及び流動化剤である。「ポゾラン」は、メタカオリン、マイクロシリカ、フライアッシュ、ガラス粉、及びこれらの混合物から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、室温におけるセルフレベリング組成物の収縮を示す。
図2図2は、+5℃におけるセルフレベリング組成物の収縮を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
一般的方法
水及び粉末の温度は、23℃±1℃に調節する。撹拌器として電動ドリルを備えたポリエチレンバケツで、1kgの試料及び水を、均一となって塊がなくなるまで混合する(約1分間)。これよりも小さいバッチを、電動キッチンミキサーを備えたキッチンボウル中で混合してもよい。
【0039】
方法A
スパチュラを混合組成物中に浸漬し、5分間の間隔で引き上げる。スパチュラから落下する液滴は、組成物中に落ちて戻る。液滴が組成物の液面に完全に沈む場合、組成物はまだ使用可能である。落下する液滴によって組成物の表面に凸状のメニスカスが形成された時点で、加工時間の終了に到達する。方法Eは同様であるが、組成物の粘稠度は、この場合には熟練の作業者が判断する。
【0040】
方法B
のし台(spreading table)を水平に置く。試験リングをのし台の中央に置く。十分な量のセルフレベリング組成物を、23℃±1℃で試験リング中に注ぎ入れる。例えば1、10、又は15分間後に、リングを、のし台に対して垂直方法に素早く引き上げる。丁度1分間後に、スランプ(すなわち、スランプの直径)を2回、互いに直角方向に測定する。平均値を、スランプ[cm]として記録する。
【0041】
方法D
接着引張強度及び耐垂れ性(sag resistance)[mm]を、DIN EN 12004-2:2017-05に従って測定する。
【実施例
【0042】
例1
【表1】
【0043】
12を添加剤として用いた場合、硬化は、通常の気候及び低い温度で促進され、かつ収縮は最小限に抑えられている。また、圧縮強度及び曲げ引張強度も改善されている。図1及び図2は、非常に改善された収縮値を示している。
【0044】
例2
【表2-1】
【0045】
【表2-2】
【0046】
12を添加剤として用いた結果、より高い(早期)強度が得られ、かつ硬化が促進されている。収縮も膨張も低下する傾向にある。より多くのC12を使用すると、(早期)強度がより高くなる。しかしながら、10%の量は、4時間強度及び収縮又は膨張挙動に悪影響を及ぼしており、但し、(早期)強度及び硬化は、依然として良好である。
【0047】
例3
【表3】
【0048】
12を添加剤として用いた結果、より高い(早期)強度が得られ、硬化は促進され、かつ収縮は低減されている。より多くのC12を使用すると、(早期)強度がより高くなる。しかしながら、10%の量は、(早期)強度に悪影響を及ぼしている。
【0049】
例4
【表4】
【0050】
12を添加剤として用いると、より高い(早期)強度が得られ、硬化は、通常の気候及び低い温度で促進され、かつ収縮又は膨張挙動は最小限に抑えられる。
【0051】
例5
【表5】
【0052】
12を添加剤として用いると、OPCではなく、CSAセメントにおいて、非常により少ない量の結合材及びリチウム塩を使用しながら、5℃でのより速い硬化時間及びより高い早期強度が得られる。
図1
図2
【国際調査報告】