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特表2024-502281メラノコルチン-4受容体の選択的アゴニストとしての使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-18
(54)【発明の名称】メラノコルチン-4受容体の選択的アゴニストとしての使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5377 20060101AFI20240111BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240111BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240111BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240111BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240111BHJP
   A61P 15/10 20060101ALI20240111BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61P43/00 111
A61P3/04
A61P3/10
A61P29/00
A61P15/10
A61P17/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538838
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-14
(86)【国際出願番号】 KR2021019500
(87)【国際公開番号】W WO2022139406
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0180505
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ヒ・ドン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ス・ジン・ヨ
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・ソ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジン・ソク・パク
(72)【発明者】
【氏名】ヘ・ウォン・アン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC73
4C086GA13
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA70
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZB11
4C086ZC35
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、メラノコルチン-4受容体(MC4R)の選択的アゴニストとしての式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の下記式(1)
【化1】
(式中、R1は、C2-C5アルキルである。)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、メラノコルチン-4受容体に対する選択的アゴニスト作用を有するメラノコルチン受容体に関連する疾患の予防又は治療用薬剤。
【請求項2】
前記式(1)の化合物が、下記式(2)
【化2】
で示されるN-((3S,5S)-1-((3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボニル)-5-(モルホリン-4-カルボニル)ピロリジン-3-イル)-N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミドであることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記薬学的に許容される塩が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩のメラノコルチン-4受容体に対する選択性が、メラノコルチン-1受容体に対する割合で2以上であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項5】
前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩のメラノコルチン-4受容体に対する選択性が、メラノコルチン-1受容体に対する割合で5以上であることを特徴とする請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
前記メラノコルチン受容体に関連する疾患が、肥満、糖尿、炎症及び勃起不全症からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項7】
前記メラノコルチン受容体に関連する疾患が、肥満であることを特徴とする請求項6に記載の薬剤。
【請求項8】
色素沈着が低減されることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項9】
経口剤であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項10】
治療有効量の下記式(1)
【化3】
(式中、R1は、C2-C5アルキルである。)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体とともに含む、メラノコルチン-4受容体に対する選択的アゴニスト作用を有するメラノコルチン受容体に関連する疾患の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項11】
前記式(1)の化合物が、下記式(2)
【化4】
で示されるN-((3S,5S)-1-((3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボニル)-5-(モルホリン-4-カルボニル)ピロリジン-3-イル)-N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミドであることを特徴とする請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記薬学的に許容される塩が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸からなる群から選択されるのを特徴とする請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩のメラノコルチン-4受容体に対する選択性が、メラノコルチン-1受容体に対する割合で2以上であることを特徴とする請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩のメラノコルチン-4受容体に対する選択性が、メラノコルチン-1受容体に対する割合で5以上であることを特徴とする請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記メラノコルチン受容体に関連する疾患が、肥満、糖尿、炎症及び勃起不全症からなる群から選択されることを特徴とする請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記メラノコルチン受容体に関連する疾患が、肥満であることを特徴とする請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
色素沈着が低減されることを特徴とする請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項18】
経口剤であることを特徴とする請求項10に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラノコルチン-4受容体(MC4R)の選択的アゴニストとしての下記式(1)
【化1】
(式中、R1は、C2-C5アルキルである。)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
メラノコルチン受容体(MCR)は、G-タンパク質共役受容体(GPCR)の一種であり、G-タンパク質の主な役割は、2次メッセンジャーを活性化し、シグナル伝達を通じて多くの生理学的刺激に対する細胞の応答を制御することである。現在までに、メラノコルチン受容体には5つのサブタイプが同定されている。MC1Rは、主にメラノサイトとマクロファージで発現し、メラノサイトのメラニン色素を調節することにより皮膚と毛髪の色を決定する。MC2Rは、副腎と脂肪組織で発現し、副腎における副腎皮質刺激ホルモンによる副腎ホルモン分泌調節を媒介する機能が良く知られている。MC3R、MC4R及びMC5Rは、神経端部だけでなく脳内にも発現していることから、メラノコルチンペプチドによる中枢神経作用を媒介し、行動、学習、記憶、食欲、神経の発生・再生などに影響を与えることが分かっている。これまで、MC3Rは勃起不全及び炎症反応に、MC4Rは肥満及び糖尿病に関与すると知られており、各受容体の作用の特異性に関する研究が活発に行われている(非特許文献1)。その結果、MC4Rが肥満者の遺伝的研究に深く関与していることがわかり、MC4Rが除去されたノックアウトマウスが過食により肥満を発症することを示すことにより、この受容体が食欲の調節に重要な役割を果たしていることを実証した(非特許文献2、3及び4)。
【0003】
メラノコルチン受容体の中でもMC4Rは、エネルギー代謝と体重調節に関与することが知られている。他のMCRサブタイプにおいても、皮膚色素沈着、エネルギー恒常性、外分泌機能など生体内の様々な機能の調節に関与していることから、MC4Rアゴニスト化合物のMC4Rに対する選択性を確保することは、将来起こりうる副作用を予防する上で非常に重要である。特に、MC1Rは、主に皮膚細胞で発現し、メラニン色素活性を介して皮膚の色素沈着に関与することが知られている。メラノコルチン受容体に対する既存の非選択的アゴニストに現れる皮膚色素沈着の副作用は、主にMC1R刺激能及び皮膚内薬物蓄積に起因すると考えられていた。そこで、本発明者らは、既存の化合物の中から、MC4Rを選択的に活性化し得る構造と活性の関係を把握することにより、MC4Rに対して選択性を示し得る化合物の創製を試みた(非特許文献5、6、7及び8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】MacNeil DJ et al., Eur J Pharmacol 2002, 450, 93
【非特許文献2】Lu D, Willard D et al., Nature 1994, 371(6500), 799
【非特許文献3】Huszar D et al., Cell 1997, 88(1), 131
【非特許文献4】Hinney A et al., J Clin Endocrinol Metab 1990, 84(4), 1483
【非特許文献5】Wikberg et al, Eur. J. Pharmacol 1999, 375, 295-310
【非特許文献6】Wikberg, et al., Pharm Res 2000, 42 (5) 393-420
【非特許文献7】Douglas et al., Eur J Pharm 2002, 450, 93-109
【非特許文献8】O’Rahilly et al., Nature Med 2004, 10, 351-352
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、メラノコルチン-4受容体(MC4R)の選択的アゴニストとしての、下記式(1)
【化2】
(式中、R1は、C2-C5アルキルである。)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、治療有効量の下記式(1)
【化3】
(式中、R1は、C2-C5アルキルである。)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、メラノコルチン-4受容体に対する選択的アゴニスト作用を有するメラノコルチン受容体に関連する疾患の予防又は治療用薬剤を提供する。
【0007】
また、本発明は、治療有効量の前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体とともに含む、メラノコルチン-4受容体に対する選択的アゴニスト作用を有する、メラノコルチン受容体に関連する疾患の予防又は治療用医薬組成物を提供する。
【0008】
さらに、本発明は、治療有効量の前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩を、それを必要とする対象者に投与することを含み、メラノコルチン-4受容体に対する選択的アゴニスト作用による、メラノコルチン受容体に関連する疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、メラノコルチン-4受容体の選択的アゴニストとしての前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の一側面によれば、治療有効量の前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、メラノコルチン-4受容体に対する選択的アゴニスト作用を有する、メラノコルチン受容体に関連する疾患予防又は治療用薬剤が提供される。
【0012】
本発明の別の側面によれば、治療有効量の前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体とともに含む、メラノコルチン-4受容体に対する選択的アゴニスト作用を有する、メラノコルチン受容体に関連する疾患の予防又は治療用医薬組成物が提供される。
【0013】
本発明による一実施形態において、前記式(1)の化合物は、下記式(2)
【化4】
で示されるN-((3S,5S)-1-((3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボニル)-5-(モルホリン-4-カルボニル)ピロリジン-3-イル)-N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミドである。
【0014】
本発明による別の実施形態において、前記薬学的に許容される塩は、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などの無機酸、酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸などの有機カルボン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸又はナフタレンスルホン酸などのスルホン酸などによって形成される酸付加塩が挙げられるが、これらに限定されない。本発明による別の実施形態において、前記薬学的に許容される塩は、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸からなる群から選択され得る。本発明による別の実施形態において、前記薬学的に許容される塩は、塩酸塩である。
【0015】
本発明による別の実施形態において、前記式(1)の化合物の塩酸塩は、下記反応スキーム1に従って製造することができる。しかし、当業者は、式(1)の構造に基づいて種々の方法により式(1)の化合物を製造することができる。
<反応スキーム1>
【化5】
(式中、R2は、C1-C5アルキルであり;
R3は、非置換又は1個若しくは2個のC1-C5アルキルで置換されたC3-C8シクロアルキルであり;
R4及びR5は、それぞれ独立して、水素又はハロゲンである。)
【0016】
本発明による別の実施形態において、前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩のメラノコルチン-4受容体に対する選択性は、メラノコルチン-1受容体に対する比率(ratio)で2以上であってもよい。本発明による別の実施形態において、前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩のメラノコルチン-4受容体に対する選択性は、メラノコルチン-1受容体に対する割合で3以上であってもよい。本発明による別の実施形態において、前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩のメラノコルチン-4受容体に対する選択性は、メラノコルチン-1受容体に対する割合で4以上であってもよい。本発明による別の実施形態において、前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩のメラノコルチン-4受容体に対する選択性は、メラノコルチン-1受容体に対する割合で5以上であってもよい。
【0017】
本発明による別の実施形態において、前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩のメラノコルチン-4受容体に対する選択性は、受容体のアゴニスト活性を測定し、比較することによって確認することができる。例えば、メラノコルチン-4受容体(MC4R)及びメラノコルチン-1受容体(MC1R)に対するアゴニスト活性をEC50(half maximal effective concentration、最大アゴニスト活性の50%を誘導する濃度)で測定した後、EC50の場合、数値が小さいほどアゴニスト能に優れており、MC1RのEC50のMC4RのEC50の比(MC1R/MC4R)を計算すると、比の値が大きいほどMC4Rの選択性に優れていることが確認できる。
【0018】
本発明による別の実施形態において、前記メラノコルチン受容体に関連する疾患は、肥満、糖尿、炎症及び勃起不全症からなる群から選択することができる。本発明による別の実施形態において、前記メラノコルチン受容体に関連する疾患は、肥満であってもよい。
【0019】
本発明による別の実施形態において、前記薬剤又は医薬組成物は、色素沈着を低減することができる。本発明による前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩は、メラノコルチン受容体の他のサブタイプと比較して、メラノコルチン-4受容体に対して優れた選択性有する。例えば、本発明による前記式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩は、メラノコルチン-4受容体と比較して、メラノコルチン-1受容体対比に対する優れた選択性が有し、それにより皮膚色素沈着が低減され、メラノコルチン受容体に関連する疾患を効率的に予防又は治療することができる。
【0020】
本発明による別の実施形態において、個々の対象に対する「治療有効量」は、前記の薬理学的効果、すなわち治療効果を達成するのに十分な量を指す。化合物の量は、対象の状態及び重症度、投与方式、及び治療される対象の年齢に応じて変化し得るが、当業者であればその知識に基づいて決定することができる。
【0021】
本発明による別の実施形態において、前記式(1)の化合物の治療有効投与量は、例えば、投与の頻度と強度に応じて、典型的には1日あたり約0.1~500mg範囲である。成人の筋肉内又は静脈内投与の典型的な1日量は、1日あたり約0.1~300mgの範囲であり、分割単位用量で投与することができる。患者によっては、より高用量の1日投与量が必要な場合もある。
【0022】
本発明において、「医薬組成物」は、本発明の有効成分に加えて、担体、希釈剤、賦形剤などの他の化学成分を含むことができる。したがって、前記医薬組成物には、必要に応じて、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、又はそれらの組み合わせを含むことができる。医薬組成物は、体内への化合物の投与を容易にする。化合物を投与するための様々な方法には、経口、注射、エアロゾル、非経口及び局所投与などが含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書において、「担体(carrier)」は、細胞又は組織への化合物の投入を容易にする化合物を意味する。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、生物体の細胞又は組織内への多くの有機化合物の投入を容易にする従来の担体である。
【0024】
本明細書において、「希釈剤(diluent)」は、生物学的に活性な形態を安定化させるだけでなく、化合物を溶解する溶媒中で希釈される化合物を意味する。この分野では、緩衝液に溶解した塩が希釈剤として使用される。従来使用されている緩衝液は、体液中の塩の形態を模倣したリン酸緩衝食塩水である。緩衝剤塩は、低濃度で溶液のpHを制御できるため、緩衝希釈剤は化合物の生物学的活性をほとんど変化させない。
【0025】
本明細書において、「薬学的に許容される」とは、化合物の生物学的活性と物性を損なわない性質を意味する。
【0026】
本発明による化合物は、様々な薬学的に投与される剤形として製剤化することができる。本発明の医薬組成物の製造において、有効成分、具体的には式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩は、製造される剤形を考慮して選択された薬学的に許容される担体と混合される。例えば、本発明の医薬組成物は、必要に応じて注射剤、経口剤などとして製剤化することができる。
【0027】
本発明の化合物は、公知の医薬用担体と賦形剤を用いて常法により製剤化し、単位又は複数のユニットの容器に挿入することができる。製剤は油又は水性溶媒中の溶液、懸濁液又はエマルションであってもよく、従来の分散剤、懸濁化剤又は安定化剤を含む。また、本発明の化合物は、例えば、使用前に無菌で、蒸発物質を含まない水に溶解される乾燥粉末の形態であってもよい。本発明の化合物は、ココアバター又はその他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を使用することによって坐剤に製剤化することができる。経口投与のための固体投与形態には、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉末及び顆粒が含まれる。カプセル剤や錠剤が好ましい。錠剤及び丸剤は腸溶コーティングされていることが好ましい。固体形態は、本発明の化合物をスクロース、ラクトース、デンプンなどの不活性希釈剤、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、崩壊剤、結合剤などから選択される少なくとも1つの担体と混合することによって製造される。さらに、経皮投与剤形、例えば、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、パッチ又は噴霧剤として製剤化することができる。本発明による別の実施形態において、前記薬剤又は医薬組成物は、経口剤であってもよい。
【0028】
本明細書において、「予防」という用語は、疾患に罹患する可能性を低減又は排除することを指す。
【0029】
本明細書において、「治療」という用語は、疾患の症状を示す対象における疾患の進行を阻止、遅延又は緩和させることを意味する。
【発明の効果】
【0030】
本発明による薬剤又は医薬組成物は、メラノコルチン-4受容体に対する優れた選択性により、他のメラノコルチン受容体に対する作用による副作用の危険がなく、安全性を確保しつつ、肥満、糖尿、炎症又は勃起不全症などのメラノコルチン受容体に関連する疾患を効率的に予防又は治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】マウスモデルに薬物を反復投与し、皮膚及び血漿中の薬物の濃度を測定した結果である(比較物質:セトメラノチド)。
図2】サルを用いた反復毒性試験により皮膚と体毛の色素沈着パターンを確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、実施例を挙げて本願発明をより詳細に説明する。しかしながら、本発明の保護範囲は、これらの実施例に限定されるものではないことを理解されたい。
【0033】
製造例:N-((3S,5S)-1-((3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボニル)-5-(モルホリン-4-カルボニル)ピロリジン-3-イル)-N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミド塩酸塩の合成
【化6】
表題化合物は、下記工程A、B、C及びDを通じて得られた。
【0034】
工程A:メチル(2S,4S)-1-((3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボニル)-4-(N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミド)ピロリジン-2-カルボキシレートの製造
製造例1で得られたメチル(2S,4S)-4-(N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミド)ピロリジン-2-カルボキシレート塩酸塩(28.7g、82.73mmol)、製造例2で得られた(3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボン酸(24.5g、86.87mmol)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(22.2g、115.83mmol)及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(15.7g、115.83mmol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(400mL)に溶解し、N,N’-ジイソプロピルエチルアミン(72.0mL、413.66mmol)をゆっくり添加した。室温で16時間撹拌した後、反応溶媒を減圧濃縮し、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで2回抽出した。有機層を塩化ナトリウム水溶液と水で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を減圧下で濃縮し、カラム・クロマトグラフィーで精製して、表題化合物(41.19g、87%)を得た。
MS [M+H] = 575 (M+1)
【0035】
工程B:(2S,4S)-1-((3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボニル)-4-(N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミド)ピロリジン-2-カルボン酸の製造
前記工程Aで得られたメチル(2S,4S)-1-((3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボニル)-4-(N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミド)ピロリジン-2-カルボキシレート(39.4g、68.62mmol)をメタノール(450mL)に溶解し、6N水酸化ナトリウム水溶液(57.2mL、343.09mmol)を加えた。室温で16時間撹拌し、6N塩酸水溶液で薬pH5に調整した後、反応溶液を減圧濃縮した。濃縮液をジクロロメタンで溶解し、不溶固体を濾紙でろ過した。ろ液を減圧下で濃縮して粗生成物(38.4g、99%)を得、これを精製せずに次の工程で使用した。
MS [M+H] = 561 (M+1)
【0036】
工程C:N-((3S,5S)-1-((3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボニル)-5-(モルホリン-4-カルボニル)ピロリジン-3-イル)-N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミドの製造
前記工程Bで得られた(2S,4S)-1-((3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボニル)-4-(N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミド)ピロリジン-2-カルボン酸(38.4g、68.60mmol)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(18.4g、96.04mmol)及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(13.0g、96.04mmol)をN,N’-ジメチルホルムアミド(200mL)に溶解し、モルホリン(5.9mL、68.80mmol)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(59.7mL、343.02mmol)を順次ゆっくり加えた。室温で16時間撹拌した後、反応溶液を減圧濃縮し、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで2回抽出をした。有機層を塩化ナトリウム水溶液と水で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過した。ろ液を減圧下濃縮し、カラム・クロマトグラフィーで精製して表題化合物(37.05g、86%)を得た。
MS [M+H] = 630 (M+1)
【0037】
工程D:N-((3S,5S)-1-((3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボニル)-5-(モルホリン-4-カルボニル)ピロリジン-3-イル)-N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミド塩酸塩の製造
前記工程Cで得られたN-((3S,5S)-1-((3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボニル)-5-(モルホリン-4-カルボニル)ピロリジン-3-イル)-N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミド(5.0g、7.95mmol)を酢酸エチル(50mL)に溶解し、2N塩酸酢酸エチル溶液(3.97mL、15.89mmol)をゆっくり加えた。室温で30分間撹拌した後、反応溶媒を減圧下濃縮した。得られた粗固体を、ヘキサンとジエチルエーテルを用いて粉砕することにより精製して表題化合物(5.23g、99%)を得た。
MS [M+H] = 630 (M+1)
1H NMR (500 MHz, CD3OD) δ 7.49-7.44 (m, 4H), 4.83 (m, 1H), 4.23-4.20 (m, 1H), 3.95-3.91 (m, 2H), 3.79-3.47 (m, 14H), 3.03-3.00 (m, 1H), 2.86-2.82 (m, 1H), 2.73-2.67 (m, 1H), 2.20-2.14 (m, 1H), 1.97 (m, 1H), 1.80-1.62 (m, 5H), 1.50 (s, 9H), 1.44-1.27 (m, 3H), 1.06-1.04 (m, 9H)
【0038】
実施例1:MC1R及びMC4Rのインビトロ活性比較実験
製造例で得られたN-((3S,5S)-1-((3S,4R)-1-(tert-ブチル)-4-(4-クロロフェニル)ピロリジン-3-カルボニル)-5-(モルホリン-4-カルボニル)ピロリジン-3-イル)-N-((1s,4R)-4-メチルシクロヘキシル)イソブチルアミド塩酸塩(以下、「試験化合物」という)をメラノコルチン受容体アゴニストとして知らされたα-MSH、NDP-α-MSH及びMTII(メラノタンII)を比較物質として、以下のルシフェラーゼアッセイ、結合親和性、β-アレスチン及びcAMPアッセイによりMC1R及びMC4Rに対する活性を測定した。その結果を表1~4にそれぞれ示した。
【0039】
実施例1-1:ルシフェラーゼアッセイ
メラノコルチン-1受容体(MC1R)及びメラノコルチン-4受容体(MC4R)に対するアゴニスト能を測定のために、MC1R、MC4R及びCRE(cAMP応答エレメント)制御下のルシフェラーゼ遺伝子(CRE-LUC)を恒常的に発現する細胞株を樹立した。MC1R及びMC4R遺伝子を含む哺乳動物細胞発現ベクター(pCDNA3(Neo))(Invitrogen社製)を製造した後、CRE(cAMP応答エレメント)の調節下でルシフェラーゼ遺伝子(CRE-LUC)を発現させるベクター(pCRE-Luc)(Stratagen社製)とともにLipofectamine(登録商標)2000(Invitrogen社製)を用いてヒト胚性腎臓(HEK)細胞株を形質転換した。形質転換細胞株(HEK MC1R-Luc及びHEK MC4R-Luc)を24時間、5%CO2が存在する37℃のインキュベーターで10%熱不活性化ウシ胎児血清(GIBCO/BRL)を含むルベッコ改変イーグルス培地(DMEM)を使用して培養した。前記細胞株を10mLの選択培地(10%熱不活化ウシ胎児血清(GIBCO/BRL)、100単位/mLペニシリン(GIBCO/BRL)、100単位/mLストレプトマイシン(GIBCO/BRL)、800μg/mLのGeneticin(G418)(GIBCO/BRL)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM))の存在下で4日間培養した。選択培地によって死滅した細胞を、新しい選択培地10mLに培地を交換して除去する過程を、4日に1回、3回反復した。最終的にされた増殖したクローンによって形成された個々のコロニーを、顕微鏡下で1ウェルあたり1mLの選択培地を含む24-ウェル細胞培養プレートに移し、4日間培養した。フォルスコリン(SIGMA社製)を最終濃度10μMになるように処理し、5%CO2の存在下、37℃インキュベーター内で5時間培養した。各ウェルを50μLのBright-Gloルシフェラーゼ試薬(Promega社製)で処理し、室温で15分間放置した後、ルミノメーター(Victor社製)を使用して各ウェルの発光を測定した。フォルスコリンの処理により、基本値の100倍以上の発光を示すクローンを選別し、各化合物のMC1R及びMC4Rアゴニスト能の測定に用いた。
【0040】
HEK MC1R-Luc細胞及びHEK MC4R-Luc細胞を96-ウェルのルミノメーター細胞培養プレート(Costar社製)の各ウェルに1、00μLの培養液に2.5×104細胞になるように添加し、6%CO2の存在下、37℃のインキュベーターで18時間培養した。前記培養液を用いて各工程濃度に希釈したMCRアゴニストを、最終DMSO濃度が1%を越えないように処理し、6%CO2の存在下、37℃のインキュベーターで5時間培養した。各ウェルを50μLのBright-Gloルシフェラーゼ試薬(Promega社製)で処理し、室温で5分間放置した後、ルミノメーター(Victor社製)を用いて各ウェルの発光を測定した。各工程濃度で希釈したアゴニストによって誘導される発光量を、10μMのNDP-α-MSH処理によって示される量に対する相対的な%値に換算した。EC50は、各アゴニストによって誘導できる最大発光量の50%を誘導する濃度として表示した。前記測定値は、統計ソフトウェア(Prizm)を使用して測定した。
【0041】
前記実験により得られた各化合物のMC1R及びMC4Rのアゴニスト能を測定した結果をEC50(nM)単位で表1に示した。
【表1】
【0042】
実施例1-2:結合親和性
ヒト組換えMC1Rを発現するCHO-K1細胞株及びMC4Rを発現するHEK-293細胞株を樹立した後、各細胞株から膜を回収した。96-ウェル細胞培養プレートに細胞株膜と工程別濃度に希釈したMCRアゴニストを含む25mM HEPES-KOH吸着緩衝液(pH7.0)を加えて反応した。EC50は、各アゴニストによって誘導され得る最大結合の50%を誘導させる濃度として計算され、その結果を表2に示した。
【表2】
【0043】
実施例1-3:β-アレスチンアッセイ
Prolink(PK)-タグ付きMC1R、MC4Rと酵素受容体(EA)-タグ付きβ-アレスチンが同時に発現するPathhunter eXpressβ-アレスチン細胞株(U2OS細胞株)を樹立した。この細胞株のMCR-PK部分が活性化されると、β-アレスチン-EAが動員され、β-ガラクトシダーゼ酵素断片である酵素受容体(EA)とProlink(PK)が相互作用する。活性化された酵素は、β-ガラクトシダーゼ活性によって基質を加水分解して化学発光信号を生成し、その活性を測定することができる。 Pathhunter eXpressβ-アレスチン細胞株(U2OS細胞株)を培養した後、細胞を細胞培養プレートの各ウェルに播種し、5%CO2の存在か、37℃のインキュベーターで48時間培養した。培養後、緩衝液で5倍に希釈されたサンプルを5μL加え、ビヒクル濃度を1%とし、各工程濃度で希釈したMCRアゴニスト化合物を加えた後、37℃で90分間反応させた。各アゴニスト化合物の活性(%)は、100%x(サンプルの平均RLU値-ビヒクルコントロールの平均RLU値)/(コントロールリガンドの平均最大値-ビヒクルコントロールの平均RLU値)で示し、前記値は、CBISデータ解析スイート(ChemInnovation社製、CA)によって分析した。前記実験により得られた各化合物のメラノコルチン受容体の活性能を測定した結果をEC50(nM)単位で表3に示した。
【表3】
【0044】
実施例1-4:cAMPアッセイ
MC1R及びMC4Rがそれぞれ過発現させたcAMPH unter Gs-共役細胞株(CHO-K1細胞株)を、アゴニスト反応による細胞内cAMPレベル増加を測定できるように樹立した後、細胞を白血球培養プレートの各ウェルに細胞を接種し、5%CO2の存在下、37℃のインキュベーターで24時間培養した。培養後、培地を除去して、2:1HBBS/10mM HEPES:cAMP XS+Ab試薬を15μL加えた。緩衝液で4倍に希釈したサンプルを5μl加えた後、ビヒクル濃度は1%とし、各工程濃度で希釈したMCRアゴニスト化合物を加え、37℃で30分間反応させた。各アゴニスト化合物の活性(%)は、100%x(サンプルの平均RLU値-ビヒクルコントロールの平均RLU値)/(最大コントロールの平均RLU値-ビヒクルコントロールの平均RLU値)で示し、前記値は、CBISデータ解析スイート(ChemInnovation社製、CA)によって分析した。前記実験により得られた各化合物のメラノコルチン受容体のアゴニスト能をEC50(nM)単位で測定した結果を表4に示した。
【表4】
【0045】
前記表1~4において、EC50値が低いほど、対応する受容体のアゴニスト能が良好であることを示す。MC4Rに対する特異性は、MC1RのEC50とMC4RのEC50の比を計算することにより確認することができ、この比の値が大きいほどMC4Rに対する選択性に優れていることを示す。本願発明の試験化合物の前記比は、少なくとも5から最大37.98までである。このことから、本発明の試験化合物は、皮膚色素沈着に関与するMC1Rと比較して、生体内でのエネルギー代謝及び体重制御に関与するMC4Rに対して優れた選択性を示すことが確認された。
【0046】
実施例2:皮膚内薬物の濃度及び分布の測定
MC4Rアゴニストのオフターゲット効果である皮膚色素沈着については、レプチン受容体が欠損したdb/dbマウスモデルに反復投与した後の皮膚及び血漿中の薬物濃度を測定することにより薬物の分布及び蓄積を評価した。その結果を図1に示した。比較物質として、MC1Rに比べてMC4Rに対する選択性が低いMC4Rアゴニストペプチドで臨床試験において皮膚色素沈着を示すことが報告(Clement et al., Nature Medicine, 2018)されたセトメラノチド(Ac-RC[dA]H[dF]RWC-NH2 (ジスルフィド) (AcOH塩))を用いた。
【0047】
図1から分かるように、本願発明の試験化合物は、反復投与しても皮膚に比較的蓄積しないことが確認された。
【0048】
実施例3:皮膚色素沈着の測定
MC4Rアゴニストのオフターゲット効果である皮膚色素沈着の発生の可能性を確認するため、サルを用いた反復毒性試験により皮膚と体毛での色沈着パターンを側指定した結果を図2に示した。
【0049】
図2から分かるように、本願発明の試験化合物は、2週間反復投与しても皮膚と体毛に色素沈着が生じないことが確認された。
図1
図2
【国際調査報告】