(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-19
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン電気化学セル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240112BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240112BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240112BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240112BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240112BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240112BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240112BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20240112BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240112BHJP
H01B 1/06 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/058
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M4/1391
H01M4/131
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023534911
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(85)【翻訳文提出日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2021083363
(87)【国際公開番号】W WO2022122449
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ウー,シヤオハン
(72)【発明者】
【氏名】フフナゲル,アレクサンダー ゲオルク
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA08
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA22
5G301CA23
5G301CA30
5G301CD01
5H029AJ07
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ06
5H029CJ08
5H029CJ14
5H029CJ22
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029EJ04
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ20
5H050AA13
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA08
5H050EA15
5H050GA02
5H050GA08
5H050GA10
5H050GA15
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA17
(57)【要約】
カソード、すなわち、(a)一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがNiであり、及び、任意に、Co及びMnの少なくとも1種であり、及び、任意に、Al、Mg、及びBa、Ni、Co及びMn以外の遷移金属から選択される少なくとも1種の元素であり、xが0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%がNiである)による粒子状電極活物質を含み、前記電極活物質がMo又はWの酸化物を含む連続層で被覆され、前記粒子状電極活物質が2~20μmの範囲の平均粒子径(D50)を有する(A)カソードと、
(B)アノードと、
(C)リチウム、硫黄、及び、リンを含む固体電解質と、
を含む全固体リチウムイオン電気化学セル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カソード、すなわち
(a)一般式Li
1+xTM
1-xO
2(式中、TMがNiであり、及び、任意に、Co及びMnの少なくとも1種であり、及び、任意に、Al、Mg、及びBa、Ni、Co及びMn以外の遷移金属から選択される少なくとも1種の元素であり、xが0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%がNiである)による粒子状電極活物質を含み、前記電極活物質がMo又はWの酸化化合物を含む連続層で被覆され、且つ前記粒子状電極活物質が2~20μmの範囲の平均粒子径(D50)を有し、前記連続層が金属Mo及びMoの酸化化合物、又は金属W及びWの酸化化合物を含むカソードと、
(B)アノードと、
(C)リチウム、硫黄、及び、リンを含む固体電解質と、
を含む全固体リチウムイオン電気化学セル。
【請求項2】
TMが、一般式(I)
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
d (I)
による金属の組み合わせであり、
aは、0.6~0.99の範囲であり、
bは、0.01~0.2の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al、Mg、Ti、Mo、W、及びNbの少なくとも1種であり、
a+b+c=1である、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
電解質(C)が、25℃で0.15mS/cm以上のリチウムイオン伝導性を有する、請求項1又は2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記電解質が、式(II)
Li
7-r-2sPS
6-r-sX
r (II)
(式中、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素、CN、OCN、SCN、N
3、又は前記のうちの少なくとも2種の組合せであり、
0.8≦r≦1.7かつs0≦s≦(-0.25r)+0.5である)、又は、
Li
3PS
4に対応する化合物である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
電極活物質が、滴定により決定されて、0.1~0.6質量%の範囲の抽出可能なリチウムの含有量を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
電解質(C)が、Li
6PS
5Clである、請求項1~5のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の全固体リチウムイオン電気化学セルの製造方法であって、以下のステップ、
(β)電極活物質(a)と、導電性形態の炭素及び電解質(C)とを混合するステップと、
(γ1)ステップ(β)から得られる混合物を、集電体に塗布するステップと、又は、
(γ2)ステップ(β)から得られる混合物を、ペレット化するステップと、
を含む方法。
【請求項8】
前記方法が、一般式Li
1+xTM
1-xO
2による粒子状電極活物質を、Mo又はWのカルボニル錯体である化合物と混合し、次いで熱処理及びその後の酸化剤による処理により、電極活物質(A)を製造することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(a)一般式Li
1+xTM
1-xO
2(式中、TMがNiであり、及び、任意に、Co及びMnの少なくとも1種であり、及び、任意に、Al、Mg、及びBa、Ni、Co及びMn以外の遷移金属から選択される少なくとも1種の元素であり、xが0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%がNiである)による粒子状電極活物質であって、前記電極活物質の粒子がMo又はWの酸化化合物を含む連続層で被覆され、前記粒子状電極活物質が2~20μmの範囲の平均粒子径(D50)を有し、前記連続層が金属Mo及びMoの酸化化合物、又は金属W及びWの酸化化合物を含む、粒子状電極活物質と、
(b)導電性形態の炭素と、
(C)リチウム、硫黄、及び、リンを含む固体電解質と、
を含むカソード(A)。
【請求項10】
一般式Li
1+xTM
1-xO
2(式中、TMがNiであり、及び、任意に、Co及びMnの少なくとも1種であり、及び、任意に、Al、Mg、及びBa、Ni、Co及びMn以外の遷移金属から選択される少なくとも1種であり、xが0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%がNiである)による粒子状電極活物質であって、前記電極活物質の粒子がMo又はWの酸化化合物を含む連続層で被覆され、前記粒子状電極活物質が2~20μmの範囲の平均粒子径(D50)を有し、前記連続層が金属Mo及びMoの酸化化合物、又は金属W及びWの酸化化合物を含む粒子状電極活物質。
【請求項11】
請求項10に記載の粒子状電極活物質の製造方法であって、
以下のステップ、
(α1)一般式Li
1+xTM
1-xO
2(式中、TMがNiであり、及び、任意に、Co及びMnの少なくとも1種であり、及び、任意に、Al、Mg、及びBa、Ni、Co及びMn以外の遷移金属から選択される少なくとも1種であり、xが0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%がNiである)による電極活物質であって、表面にリチウムカルボネートを含む電極活物質を、Mo又はWのカルボニル鎖体である化合物と接触させるステップと、
(α2)ステップ(α1)で得られた混合物に対して、熱処理を行うステップと、
(α3)得られた生成物を酸化剤で処理するステップと、
を含む方法。
【請求項12】
ステップ(α3)における酸化剤が、酸素、オゾン、及びH
2O
2から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(α1)が溶媒の非存在下で行われる、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
一般式Li
1+xTM
1-xO
2による前記電極活物質が、表面に0.1~3質量%のリチウムカルボネートを含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(A)カソード、すなわち
(a)一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがNiであり、及び、任意に、Co及びMnの少なくとも1種であり、及び、任意に、Al、Mg、及びBa、Ni、Co及びMn以外の遷移金属から選択される少なくとも1種の元素であり、xが0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%がNiである)による(a)粒子状電極活物質を含み、前記電極活物質がMo又はWの酸化化合物を含む連続層で被覆され、且つ前記粒子状電極活物質が2~20μmの範囲の平均粒子径(D50)を有し、前記連続層が金属Mo及びMoの酸化化合物、又は金属W及びWの酸化化合物を含む(A)カソードと、
(B)アノードと、
(C)リチウム、硫黄、及び、リンを含む固体電解質と、
を含む全固体リチウムイオン電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新のデバイスである。携帯電話及びノートパソコンなどの小型機器から、自動車用電池及びe-モビリティ用電池まで、多くの応用分野が考慮されてきた。電池の性能は、電解液、電極物質、セパレータなど、電池のさまざまな構成要素により決定づけられる。特に注目されているのが、カソード物質である。リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物など、いくつかの物質が提案されている。広範囲に渡る研究がなされてきたものの、まだ改善の余地がある。
【0003】
リチウムイオン電池の問題のひとつは、カソード活物質の表面で起こる好ましくない反応にある。その反応とは、電解液、又は溶媒、又はその両方の分解である可能性がある。そのため、充放電時のリチウムイオン交換を妨げずに、表面を保護することが試みられてきた。例としては、カソード活物質の表面を、例えば、酸化アルミニウム又は酸化カルシウムで被覆する試みが例として挙げられ、例えば、US8,993,051を参照されたい。
【0004】
上記の問題を解決するための別の試みは、固体リチウムイオンセルとも称される全固体リチウムイオン電気化学セルを使用することによるものである。このような全固体リチウムイオン電気化学セルでは、周囲温度で固体である電解質が使用される。電解質としては、リチウム、硫黄、リンを主成分とする物質が推奨されている。しかし、電解液の副反応はまだ排除されていない。
【0005】
一方、リチウム、硫黄、及びリンを主成分とする固体電解質は、ニッケル含有複合層状酸化物カソード物質又は他の金属酸化物カソード物質と直接接触した場合に、そのようなカソード物質と相溶性がなく、それにより、特定の場合に、それぞれの固体又は全固体リチウムイオン電気化学セル(電池)の可逆的動作を阻害することが報告されてもいる。したがって、ニッケル含有層状酸化物カソード物質又は他の金属酸化物カソード物質と、それぞれの固体電解質との直接接触を避けるために、いくつかの試みがなされており、例えば、酸化性カソード物質の高い酸化安定性と同時に高いリチウムイオン伝導性を得ること、及び前記成分を含む固体又は全固体リチウムイオン電気化学セルの安定したサイクル性能を達成又は改善することを目的として、その表面を特定の物質のシェル又はコーティングで酸化性カソード物質を被覆することにより、そのような試みがなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、先行技術のシステムの欠点を克服するリチウムイオン電気化学セルを提供することであり、そのようなリチウムイオン電気化学セルの製造方法を提供することであった。
【0007】
したがって、冒頭で定義したような全固体リチウムイオン電気化学セル(以下、本発明電気化学セルとも定義する)が見出された。本発明の文脈では、全固体リチウムイオン電気化学セル及び固体リチウムイオン電気化学セルという記載は、互換的に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の電気化学セルは、カソード(A)と、アノード(B)と、固体電解質(C)とを含み、以下、各々をより詳細に説明する。
【0009】
カソード(A)は、
(a)一般式Li1+xTM1-xO2(式中、TMがNiであり、及び、任意に、Co及びMnの少なくとも1種であり、及び、任意に、Al、Mg、及びBa、Ni、Co及びMn以外の遷移金属から選択される少なくとも1種の元素であり、xが0~0.2の範囲であり、好ましくは0.005~0.05の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%がNiである)による粒子状電極活物質を含み、前記電極活物質がタングステンの酸化物又はモリブデンの酸化物を含む連続層で被覆され、前記粒子状電極活物質が2~20μmの範囲の平均粒子径(D50)を有し、前記連続層が金属Mo及びMoの酸化化合物、又は金属W及びWの酸化化合物を含む。
【0010】
一般式Li1+xTM1-xO2による粒子状電極活物質は、リチウム化ニッケル-コバルトアルミニウム酸化物、リチウム化ニッケル-マンガン酸化物、及びリチウム化層状ニッケル-コバルト-マンガン酸化物から選択され得る。層状ニッケル-コバルト-マンガン酸化物及びリチウム化ニッケル-マンガン酸化物の例としては、一般式Li1+x(NiaCobMncM1
d)1-xO2の化合物が挙げられ、M1は、Mg、Ca、Ba、Al、Ti、Zn、Mo、Nb、V及びFeから選択され、さらなる変数は以下のように定義される。
【0011】
0≦x≦0.2、
0.50≦a≦0.99、好ましくは、0.60≦a≦0.90、
0≦b≦0.4、好ましくは、0<b≦0.2、
0.01≦c≦0.3、好ましくは、0.1≦c≦0.2、
0≦d≦0.1、
かつ、a+b+c+d=1である。
【0012】
好ましい実施形態では、粒子状電極活物質は、一般式(I)
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
による化合物から選択され、
aは0.6~0.99、好ましくは、0.8~0.98の範囲であり、
bは0.01~0.2、好ましくは、0.01~0.12の範囲であり、
cは0~0.2、好ましくは、0~0.1の範囲であり、かつ、
dは0~0.1、好ましくは、0~0.05の範囲である。
【0013】
Mは、Al、Mg、Ti、Mo、W、及びNbのうちの少なくとも1種であり、かつ
a+b+c=1であり、
さらなる変数は上記のように定義される。
【0014】
リチウム化ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物の例としては、一般式Li[NihCoiAlj]O2+fの化合物が挙げられる。f、h、i、及びjの典型的な値は、以下の通りである。
【0015】
hは0.8~0.95の範囲であり、
iは、0.015~0.19の範囲であり、
jは0.01~0.08の範囲であり、
fは、0~0.4の範囲である。
【0016】
特に好ましいものは、Li(1+x)[Ni0.33Co0.33Mn0.33](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.5Co0.2Mn0.3](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.6Co0.2Mn0.2](1-x)O2、Li(1+x)[Ni0.7Co0.2Mn0.1](1-x)O2、及びLi(1+x)[Ni0.8Co0.1Mn0.1](1-x)O2であり(それぞれxは上記定義のとおりである)、及びLi[Ni0.88Co0.065Al0.055]O2、及びLi[Ni0.91Co0.045Al0.045]O2である。
【0017】
一部の元素はユビキタスである。本発明の文脈では、微量の、不純物としてのナトリウム、カルシウム、鉄、又は亜鉛のようなユビキタス金属、本発明の明細書において考慮されない。この文脈での微量とは、TMの全金属含有量を基準にして、0.02mol%以下の量を意味する。
【0018】
本発明の一実施形態では、リチウム化ニッケル-コバルトアルミニウム酸化物又は層状リチウム遷移金属酸化物のような粒子状物質の粒子が、それぞれ凝集している。つまり、ゲルダートの分類によれば、粒子状物質は流動化しにくく、したがってゲルダートC領域に該当する。しかし、本発明の過程では、すべての実施形態で、機械的な攪拌は必要ない。
【0019】
粒子状電極活物質は、2~20μm、好ましくは2~15μm、より好ましくは3~12μmの範囲の平均粒子径(D50)を有する。平均粒子径は、例えば、光散乱法又はレーザ回折法により決定することができる。粒子は、通常、一次粒子からの凝集体からなり、上記の粒子径は、二次粒子径を意味する。
【0020】
本発明の一実施形態では、前記二次粒子は、凝集した一次粒子からなる。前記一次粒子は、100~300nmの範囲の平均粒子径(D50)を有していてもよい。
【0021】
本発明の一実施形態では、粒子状物質は、0.1~1.5m2/gの範囲の比表面(以下、「BET表面」ともいう)を有する。BET表面は、さらにDIN ISO 9277:2010に準じて、試料を200℃で30分以上アウトガスさせた後、窒素吸着により決定してもよい。
【0022】
前記電極活物質は、Mo(モリブデン)又はW(タングステン)の酸化物化合物、例えば、MoO3、MoO2、又はWO3を含む連続層で被覆される。さらなる例としては、Li2MoO4、Li2WO4、Li6WO6、Li4WO5、Li6W2O9、Li2W2O7、Li2W4O13、Li2W5O16、及び非化学量論化合物、例えば0<w<1で式LiwMO3又はLiwWO3のW又はMoブロンズ化合物から選択される。
【0023】
前記連続層は、モリブデン又はタングステンのいずれかの酸化物化合物(複数種可)を含むことが好ましい。
【0024】
本発明の文脈では、用語「連続層」とは、TEM又はSEMで、有意な隙間が検出されないコーティングが0.2~200nm、好ましくは1~100nm、より好ましくは5~50nmの範囲の平均厚さを有する層を意味する。前記層の厚さは、同じバッチの異なる粒子で異なっていてもよく、特定の粒子で±50%異なっていてもよい。このように、連続層は、電極活物質に付着した個別粒子とは区別される。
【0025】
前記連続層は、Mo又はWの酸化物化合物を2種以上含んでもよく、例えば、WO3とLi2WO4との組み合わせを含んでもいてよい。前記酸化物化合物は、それぞれMo又はW以外のカチオン、例えばLiを含んでいてもよい。
【0026】
前記連続層は、金属W又は金属Moをさらに含む。したがって、前記連続層は、金属Mo及びMoの酸化物化合物を含み、又は前記層は、金属W及びWの酸化物を含む。好ましくは、前記層は、金属Mo及びMoの酸化物化合物、又は金属W及びWの酸化化合物のいずれかを含む。金属形態のW又はMoのモル比は、前記コーティング中の、それぞれ全W又はMoを基準にして、1~50%の範囲であることが好ましい。
【0027】
前記連続層は、Mo又はW以外の少なくとも1種の金属の酸化物をさらに含んでいてもよい。
【0028】
このようなコーティングの平均厚さは非常に薄くてもよく、例えば、0.1~100nm、例えば5~20nmであってもよい。他の実施形態では、平均厚さは、25~50nmの範囲であってもよい。この文脈での平均厚さとは、粒子表面あたりm2のMo(又はW又はZr又はNb)酸化物種の量を計算し、Mo又はW又はZr又はNbの蒸着におけるステップでの変換をそれぞれ100%と仮定して、数学的に決定した平均厚さを意味する。
【0029】
カソード(A)は、カソード活物質(a)を、導電性炭素(b)及び固体電解質(C)との組み合わせで含む。カソード(A)はさらに、集電体、例えばアルミ箔又は銅箔又はインジウム箔、好ましくはアルミニウム箔を含む。
【0030】
導電性炭素(B)の例としては、スス、活性炭、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラファイト、及び、前記の少なくとも2種の組合せが挙げられる。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、本発明カソードは、以下、
(a)70~96質量%のカソード活物質と、
(b)2~10質量%の導電性炭素と、
(C)2~28質量%の固体電解質と、
を含み、
パーセントは、(a)、(b)及び(C)の合計を基準にする。
【0032】
前記アノード(B)は、シリコン、スズ、インジウム、シリコンスズ合金、炭素(グラファイト)、TiO2、リチウムチタン酸化物、例えばLi4Ti5O12又はLi7Ti5O12、又は前記の少なくとも2種の組み合わせなどの少なくとも1種のアノード活物質を含む。前記アノードはさらに、例えば銅箔などの金属箔のような集電体を含んでいてもよい。
【0033】
本発明の電気化学セルは、さらに、
(C)リチウム、硫黄及びリンを含む固体電解質(以下、電解質(C)又は固体電解質(C)とも称する)
を含む。
【0034】
なお、この文脈は、用語「固体」は、周囲温度での状態を意味する。
【0035】
本発明の一実施形態では、固体電解質(C)は、例えばインピーダンス分光法により測定可能な、25℃でリチウムイオン伝導性が0.1mS/cm以上、好ましくは0.1~30mS/cmの範囲である。
【0036】
本発明の一実施形態では、固体電解質(C)は、Li3PS4を含み、さらに好ましくは直方晶系β-Li3PS4を含む。
【0037】
本発明の一実施形態では、固体電解質(C)は、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-ZmSn(m及びnは正数であり、Zはゲルマニウム、ガリウム及び亜鉛からなる群から選択される)、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LiyPOz(y及びzは正数である)、Li7P3S11、Li3PS4、Li11S2PS12、Li7P2S8I、及びLi7-r-2sPS6-r-sXr(Xは塩素、臭素、ヨウ素、フッ素、CN、OCN、SCN、N3(アジド)又は前記の少なくとも2種の組み合わせから選択され、好ましくは、Xは塩素である)からなる群から選択され、変数は以下のように定義される。
【0038】
0.8≦r≦1.7かつ0≦s≦(-0.25r)+0.5。
【0039】
固体電解質(C)の特に好ましい例は、Li6PS5Clであり、したがって、r=1.0かつs=0であり、Xは塩素である。
【0040】
本発明の一実施形態では、電解質(C)は、Si、Sb、Snの少なくとも1種がドープされている。Siは、好ましくは、元素として提供される。Sb及びSnは、好ましくは、硫化物として提供される。
【0041】
本発明の一実施形態では、本発明の電気化学セルは、カソード(A)の総質量に対して、1~50質量%、好ましくは3~30質量%の総量で固体電解質(C)を含む。
【0042】
本発明電気化学セルは、さらにハウジングを含む。
【0043】
本発明の電気化学セルは、0.1~300MPa、好ましくは1~100MPaの範囲の内圧で動作(充電及び放電)され得る。
【0044】
本発明の電気化学セルは、-50℃~+200℃、好ましくは-30℃~+120℃の範囲の温度で動作され得る。
【0045】
本発明の電気化学セルは、複数回のサイクル後でも、非常に低い容量低下など優れた特性を示す。
【0046】
本発明の電気化学セルは、複数回のサイクル後でも、非常に低い容量低下など優れた特性を示す。
【0047】
本発明のさらなる態様は、本発明電気化学セルの製造方法に関するものであり、以下、本発明方法とも称する。本発明方法は、以下のステップ、
(β)電極活物質(a)を、導電性の形態の炭素(b)と、固体電解質(C)と、及び、任意に、バインダー(c)と混合するステップと、
(γ1)ステップ(β)から得られる混合物を、集電体に塗布するステップと、又は、
(γ2)ステップ(β)から得られる混合物を、ペレット化するステップと、
を含む。
【0048】
電極活物質(a)、及び導電性の形態の炭素(b)、及び、固体電解質(C)については、前述したとおりである。
【0049】
ステップ(β)は、例えばボールミルのような粉砕機で行ってもよい。
【0050】
ステップ(β)は、溶媒の存在下で行ってもよい。
【0051】
ステップ(γ1)は、スキージで行ってもよく、ドクターブレードで行ってもよく、ドロップキャスト、スピンコート、又はスプレーコーティングで行ってもよい。ステップ(γ1)は、溶媒の存在下で行われることが好ましい。
【0052】
ステップ(γ2)は、ダイで、又はモールドで、乾燥粉末を圧縮することで行ってもよい。ステップ(γ2)は、溶媒の非存在下で行われる。50MPa~500MPaの範囲の圧力が加えられることが好ましい。好ましい好適な圧力は、375MPaである。
【0053】
以上のステップにより、カソード(A)が得られる。
【0054】
本発明の一実施形態では、本発明方法は、以下の方法、
(α1)一般式Li1+xTM1-xO2(式中、変数が上記のように定義され、前記活物質が、表面にリチウムカルボネートを含み、aが0.2までであり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%がNiである)による電極活物質であって、表面にリチウムカルボネートを含む電極活物質を、Mo又はWのカルボニル鎖体である化合物と接触させるステップと、
(α2)ステップ(α1)で得られた混合物に対して、熱処理を行うステップと、
(α3)酸化剤で処理するステップと、
による電極活物質(a)の製造を含む。
【0055】
本発明の文脈では、Moのカルボニル錯体は、Moと、Mo及びmol化合物あたり、少なくとも1個のCO配位子とを含む化合物である。本発明の文脈では、Wのカルボニル錯体は、Wと、W及びmol化合物あたり少なくとも1個のCO配位子とを含む化合物である。
【0056】
Moのカルボニル錯体は、CO以外の配位子、例えばNOを含んでいてもよい。Moのカルボニル錯体は、対イオンを有するイオン性、例えばアニオン性又はカチオン性であってよい。
【0057】
Wのカルボニル錯体についても、同じことが同様に適用される。
【0058】
カルボニル錯体の例としては、Mo(CO)2Cp*、Mo(CO)3(EtCN)3、W(CO)4(MeCN)2、W(CO)3(C6H3Me3)が挙げられ、Cp*はペンタメチルシクロペンタジエニル、MeCnはアセトニトリル、及びC6H3は1,3,5-トリメチルベンゼンである。Moのカルボニル錯体の特に好ましい例は、Mo(CO)6であり、Wのカルボニル錯体の特に好ましい例は、W(CO)6である。
【0059】
ステップ(α1)は、一般式Li1+xTM1-xO2による粒子状電極活物質を、溶液中で、スラリー中で、Mo又はWのカルボニル錯体と、又は、気相にある、Mo又はWのカルボニル錯体と接触させることを含む。
【0060】
本発明の一実施形態では、ステップ(α1)は、一般式Li1+xTM1-xO2による粒子状電極活物質を、ナノ粒子ジルコニア種のスラリー又は分散液に混合することにより、例えば、一般式Li1+xTM1-xO2による粒子状電極活物質に、有機溶媒中のMo又はWのカルボニル錯体の溶液又はスラリーを添加した後に、又は、一般式Li1+xTM1-xO2による粒子状電極活物質を、有機溶媒中のMo又はWの前記カルボニル錯体の溶液又はスラリーに添加した後に、振盪又は撹拌などの混合操作により、行われることが好ましい。この文脈で、かかる有機溶媒とは、エーテル、環状又は非環状、環状及び非環状のアセタール、トルエンなどの芳香族炭化水素、シクロヘキサン及びシクロペンタンなどの非芳香族環状炭化水素、及び塩素化炭化水素などの非プロトン性溶媒であるが、これに限定されない。ただし、ステップ(α1)で溶媒を使用せず、一般式Li1+xTM1-xO2による粒子状電極活物質とMo又はWのカルボニル錯体とをバルクで、すなわち溶媒の非存在下で混合することが好ましい。
【0061】
W又はMoのカルボニル化合物が好ましい。
【0062】
ステップ(α1)において、Mo又はWの前記カルボニル錯体が気相にある実施形態では、Mo又はWのこのようなカルボニル錯体を蒸発させ、前記電極活物質を、Mo又はWのカルボニル錯体を含み、所望によりキャリアガスで希釈したガスの流れに接触させることが可能である。
【0063】
溶媒の例は、上記のとおりである。環状アセタールの例としては、1,3-ジオキサン、及び特には、1,3-ジオキソランが挙げられる。非環状アセタールの例としては、1,1-ジメトキシエタン、1,1-ジエトキシエタン、及びジエトキシメタンが挙げられる。好適な非環状エーテルの例としては、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。好適な環状エーテルの例としては、テトラヒドロフラン(「THF」)、及び1,4-ジオキサンが挙げられる。塩素化炭化水素の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、及び1,2-ジクロロエタンが挙げられる。
【0064】
本発明の一実施形態では、ステップ(α1)における接触は、0~120℃、好ましくは10~50℃の範囲の温度で行われる。好ましくは、ステップ(α1)は、周囲温度で行われる。
【0065】
本発明の一実施形態では、ステップ(α1)における混合の時間は、1秒~12時間、好ましくは60秒~10時間の範囲である。
【0066】
本発明の一実施形態では、ステップ(α1)による処理前の一般式Li1+xTM1-xO2による粒子状電極活物質の残留水分量は、50~2000ppmの範囲、好ましくは100~400ppmの範囲である。残留水分量は、カール・フィッシャー滴定により決定してもよい。
【0067】
本発明の一実施形態では、ステップ(α1)による処理前の一般式Li1+xTM1-xO2による粒子状電極活物質の抽出可能リチウム含有量は、総リチウム含有量の0~10質量%、好ましくは0.1~3質量%の範囲である。抽出可能なリチウム含有量は、ステップ(α1)による処理前の一般式Li1+xTM1-xO2による電極活物質を、予め定められた量の水性HCl、例えば予め定められた量の水性0.1M HCl中に分散させ、その後塩基で滴定することで決定してもよい。
【0068】
本発明の一実施形態では、ステップ(α1)は、15~45℃、好ましくは20~30質量%、さらに好ましくは周囲温度で行われる。
【0069】
本発明の一実施形態では、ステップ(α1)は、10~60分、好ましくは20~40分の範囲の持続時間を有する。
【0070】
ステップ(α1)は、混合に適した任意のタイプの容器、例えば攪拌槽反応器、又はロータリーキルン又はフリーフォール-ミキサーで行ってもよい。実験室規模では、ビーカー及び丸底フラスコも好適である。Mo又はWのカルボニル錯体が気相にある実施形態では、流動床反応器及びロータリーキルンも好適である。
【0071】
ステップ(α1)の完了後、該当する場合、溶媒は、蒸発により、又は固液分離法、例えばデカンテーション又は濾過により除去してもよい。濾過が適用される実施形態では、得られるフィルターケーキは、例えば、減圧で及び50~120℃の範囲の温度で、乾燥してもよい。
【0072】
ステップ(α2)は、ステップ(α1)で得られた混合物に対して熱処理を行うことを含む。ステップ(α2)における熱処理は、それぞれカルボニル錯体の蒸発温度又は分解温度のいずれか低い方の温度より高い温度を意味する。前記分解温度は、触媒反応により、バルク分解温度より低くてもよい。
【0073】
本発明の一実施形態では、ステップ(α2)は、150~800℃、好ましくは200~780℃、さらに好ましくは250~750℃の範囲の温度で行われる。
【0074】
本発明の一実施形態では、ステップ(α2)は、不活性ガス、例えば窒素、又は希ガス下で行われる。
【0075】
本発明の一実施形態では、ステップ(α2)は、1秒~24時間、好ましくは10分~10時間の範囲の持続時間を有する。
【0076】
本発明の一実施形態では、ステップ(α2)は、オートクレーブ、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、又はプッシャーキルン内で行われる。実験室規模の実施形態では、ステップ(α2)は、マッフル炉などの炉内、又はチューブ炉内、又は封体管内で行ってもよい。
【0077】
ステップ(α2)における圧力は、1バール~20バールの範囲であってよく、好ましいのは2バール~10バールである。ステップ(α2)の過程で、一酸化炭素が放出され、次に、ステップ(α2)はCOの含有量が増加する雰囲気下で行われる。
【0078】
ステップ(α2)により、物質が得られる。続くステップ(α3)では、ステップ(α2)からの物質を、酸化剤で処理する。
【0079】
適切な酸化剤の例としては、酸素、オゾン、オゾンと酸素との混合物、有機過酸化物及びH2O2などの過酸化物であり、酸素は空気又は合成空気に由来するものでもよい。
【0080】
本発明の一の実施形態では、ステップ(α3)は、150~600℃、好ましくは300~500℃、さらに好ましくは350~450℃の範囲の温度で行われる。
【0081】
本発明の一実施形態では、ステップ(α3)は、流動床、パックドベッドリアクター、CVD/MOCVD/ALD反応器又は向流反応器、ロータリーキルン、ローラーハースキルン又はプッシャーキルンにおいて行われる。実験室規模の実施形態では、ステップ(α3)は、マッフル炉のような炉内又はチューブ炉内で行ってもよい。
【0082】
本発明の一実施形態では、ステップ(α3)は、1分~12時間、好ましくは10分~5時間の範囲の持続時間を有する。
【0083】
本発明の電極活物質(a)の製造は、さらなる操作、特にステップ(α1)の後の、例えば窒素又は希ガスによるフラッシング操作、ステップ(α2)の後の一酸化炭素を除去する1つ以上の放出操作、及びステップ(α3)の後の解凝集操作を含んでもいてもよい。
【0084】
本発明方法は、さらに、以下のステップを含んでいてもよい。
【0085】
アノード(B)及び固体電解質(C)を提供するステップ、
及び、カソード(A)、アノード(B)及び固体電解質(C)を、任意にセパレータを備えたハウジング内で組み立てるステップ。好ましくは、固体電解質(C)の余分な層がセパレータとして機能してもよく、エチレン-プロピレンコポリマーのようなセパレータは必要ない。
【0086】
しかし、最初に、固体電解質(C)とカソード活物質(a)とを、例えば、混合機及び押出機で混合又は粉砕して組み合わせることが好ましい。次に、アノード(B)、及びあればセパレータを加え、組み合わせたカソード(A)、アノード(B)及びセパレータとしての固体電解質(C)をハウジング内に配置する。
【0087】
最初に、ある固体電解質(C)とカソード活物質(a)とを、例えば共粉砕とその後の圧縮により組み合わせ、別途、アノード活物質と、固体電解質(C)及び導電性炭素とを、例えば共粉砕とその後の圧縮により組み合わせ、上記カソード(A)の層とアノード(B)の層及び固体電解質(C)のさらなる層を、1~450MPa、好ましくは50~450MPa、より好ましくは75~400MPaの圧力下で組み合わせることことがさらに好ましい。
【0088】
本発明のさらなる態様は、以下、
一般式Li1+xTM1-xO2による(a)粒子状電極活物質(式中、TMがNiであり、及び、任意に、Co及びMnの少なくとも1種であり、及び、任意に、Al、Mg、及びBa、Ni、Co及びMn以外の遷移金属から選択される少なくとも1種であり、xが0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%がNiである)を含み、前記電極活物質がMo又はW、又はNb又はZrの、好ましくは、Mo又はWの酸化物化合物を含む連続層で被覆され、前記粒子状電極活物質が2~20μmの範囲の平均粒子径(D50)を有する粒子状電極活物質と、
(b)導電性形態の炭素と、
(C)リチウム、硫黄、及び、リンを含む固体電解質と、
を含むカソード(A)に関する。
【0089】
粒子状電極活物質(a)、炭素(b)及び固体電解質(C)は、上記に記載されている。
【0090】
任意に、バインダー(c)が存在してもよい。任意に、集電体が存在してもよい。
【0091】
本発明のカソード(A)及びそれを含む全固体電池は、良好な放電スペック容量、及び最も重要なことにサイクル中の改善された容量保持を示す。
【0092】
本発明を、実施例によりさらに説明する。
【0093】
パーセンテージは、特に断りのない限り、質量%である。
【0094】
I.カソード活物質の製造
(b.1):スーパーC65、TIMCAL社
(C.1):Li6PS5Cl、NEI社から入手可能
rpm:1分間あたりの回転数
barg:バーゲージ、常圧以上のバー
I.1 カソード活物質用の前駆体の提供
TM-OH.1として、Ni、Co、及びMnの共沈水酸化物を使用し、モル比Ni:Co:Mnが8.5:1:0.5で、球状粒子、レーザ回折法により決定して、平均粒子径(D50)3.52μm、(D90)5.05μmであり、Ni、Co、及びMnが均一に分布していた。
【0095】
I.2. 無処理カソード活物質の製造
B-CAM.1(比較例):TM.1-OHとLiOH一水和物とを、モル比Li/TMが1.02となるように混合した。この混合物を760℃に加熱し、酸素60%、窒素40%(体積比)の混合ガスの強制流に10時間保持した。周囲温度まで冷却した後、粉末を解凝集し、32μmのメッシュで篩い、ベースとなる電極活性マテリアルB-CAM1を得た。
【0096】
電極活物質B-CAM.1のD50は、Malvern Instruments社のMastersize 3000装置で、レーザ回折法の技術を使用して決定して、3.5μmであった。250℃での残留水分量は650ppmと測定された。
【0097】
II.本発明カソード活物質の製造
II.1 本発明CAM.1の製造
ステップ(α1.1):50gのB-CAM.1を、1.90gのW(CO)6 と、500mLのポリプロピレン製ねじ口瓶中で混合した。混合物を得た。
【0098】
ステップ(α2.1):ガラスライナーと撹拌棒とを備えた300mLのステンレス製オートクレーブに、ステップ(α1.1)からの混合物を充填した。オートクレーブを窒素雰囲気下で密閉し、次いで窒素を加えて10bargの圧力にし、0bargまで減圧することにより3回フラッシュした。100rpmで磁気攪拌を開始した。その後、オートクレーブを外気温250℃に加熱し、250℃で5時間維持した。この間、オートクレーブの圧力は5.0bargまで上昇した。オートクレーブを周囲温度まで冷却し、0bargまで減圧し、上記のように窒素で2回フラッシングした。その後、ダイアフラムポンプで排気し、周囲空気で通気した。このステップを3回行った。オートクレーブをもう1回窒素でフラッシュし、窒素雰囲気下で開けて、物質を取り出した。
【0099】
ステップ(α3.1):その後、ステップ(α2.1)の物質をチューブ炉に移し、純酸素流通下で400℃、2時間加熱した(加熱速度:5℃ min-1)。得られた生成物を回収した(本発明品CAM.1)。
【0100】
SEM(走査型電子顕微鏡)により示されるように、CAM.1の粒子は、酸化タングステン化合物の連続層を有していた。
【0101】
II.2 さらなる本発明カソード活物質の製造
手順II.1を基本的に繰り返したが、表1による修正を加えた。
【0102】
【0103】
SEM(走査型電子顕微鏡)により示されるように、CAM.2の粒子は、酸化タングステン化合物の連続層を有していた。
【0104】
III 電極の製造、セルの製造と試験
III.1 電極の製造
B-CAM.1又はCAM.1~CAM.8のいずれかの70%と、30質量%の(C.1)とを混合した後、カソード活物質と(C)との合計を基準として、1質量%の(b.1)を添加して、カソード組成物を調製した。カソード合成物の調製には、アルゴン雰囲気下、遊星ボールミル(Fritsch社製)を用いて(直径10mmのZrO2ボール10個)、140rpmで30分間、活物質を(b.1)及び(C.1)と混合した。CAM.1、CAM.2、CAM.3、CAM.4の場合、本発明カソード(A.1)、(A.2)、(A.3)又は(A、4)を得た。B-CAM.1の場合、比較例のカソードC-(A.5)を得た。
【0105】
炭素コーティングしたLi4Ti5O12(NEI社)30質量%、(C.1)60質量%、及び(B.1)10質量%を遊星ボールミルで混合し、アノード組成物を調製した。アノード組成物(B.1)を得た。
【0106】
III.2 セルの製造
固体電気化学セルの製造は、100mgの(C.1)を125MPaの圧力で圧縮して固体電解質ペレットとし、この固体電解質ペレットに65mgのアノード(B.1)を125MPaで圧縮して、反対側に11~12mgのカソード(A.1)~(A.4)のいずれか又は12mgの比較例のカソードC-(A.5)を375MPaで圧縮した。このようにして得られたペレットを、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなる円筒状のケースに、2本のステンレス鋼棒で挟んで圧縮した。電気化学セルを得た。
【0107】
III.3 セル試験
2つのステンレス鋼製ダイ及び内径10mmのPEEKスリーブを備える特注の2電極セルを用いて、電気化学試験を行った。まず、Li6PS5Cl(100mg)の固体電解質を0.5tの圧力で圧縮した。次に、カソード合成物(~12mg)を固体電解質ペレットに3.5tで圧縮し、続いてアノード合成物(65mg)をもう一方側に圧縮した。電気化学サイクル中は、55MPaの安定した圧力が維持された。ガルバノスタティック放電/充電及び定格容量の測定は、Maccor 3000バッテリーテスターを用いて45℃で行った。組み立てたままのセルのカットオフ電圧は、Li4Ti5O12/Li7Ti5O12に対して1.35及び2.75Vであり、1.0Cは190mA gNCM
-1に相当する。その結果を表2にまとめた。
【0108】
【0109】
【0110】
【手続補正書】
【提出日】2022-03-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カソード、すなわち
(a)一般式Li
1+xTM
1-xO
2(式中、TMがNiであり、及び、任意に、Co及びMnの少なくとも1種であり、及び、任意に、Al、Mg、及びBa、Ni、Co及びMn以外の遷移金属から選択される少なくとも1種の元素であり、xが0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%がNiである)による粒子状電極活物質を含み、前記電極活物質がMo又はWの酸化化合物を含む連続層で被覆され、且つ前記粒子状電極活物質が2~20μmの範囲の平均粒子径(D50)を有し、前記連続層が金属Mo及びMoの酸化化合物、又は金属W及びWの酸化化合物を含むカソードと、
(B)アノードと、
(C)リチウム、硫黄、及び、リンを含む固体電解質と、
を含む全固体リチウムイオン電気化学セル。
【請求項2】
TMが、一般式(I)
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
d (I)
による金属の組み合わせであり、
aは、0.6~0.99の範囲であり、
bは、0.01~0.2の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Al、Mg、Ti、Mo、W、及びNbの少なくとも1種であり、
a+b+c=1である、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
電解質(C)が、25℃で0.15mS/cm以上のリチウムイオン伝導性を有する、請求項1又は2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記電解質が、式(II)
Li
7-r-2sPS
6-r-sX
r (II)
(式中、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素、CN、OCN、SCN、N
3、又は前記のうちの少なくとも2種の組合せであり、
0.8≦r≦1.7かつs0≦s≦(-0.25r)+0.5である)、又は、
Li
3PS
4に対応する化合物である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
電極活物質が、滴定により決定されて、0.1~0.6質量%の範囲の抽出可能なリチウムの含有量を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
電解質(C)が、Li
6PS
5Clである、請求項1~5のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項7】
一般式Li
1+xTM
1-xO
2(式中、TMがNiであり、及び、任意に、Co及びMnの少なくとも1種であり、及び、任意に、Al、Mg、及びBa、Ni、Co及びMn以外の遷移金属から選択される少なくとも1種であり、xが0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%がNiである)による粒子状電極活物質であって、前記電極活物質の粒子がMo又はWの酸化化合物を含む連続層で被覆され、前記粒子状電極活物質が2~20μmの範囲の平均粒子径(D50)を有し、前記連続層が金属Mo及びMoの酸化化合物、又は金属W及びWの酸化化合物を含む粒子状電極活物質。
【請求項8】
(a)請求項7に記載の粒子状電極活物質と、
(b)導電性形態の炭素と、
(C)リチウム、硫黄、及び、リンを含む固体電解質と、
を含むカソード(A)。
【請求項9】
請求項
7に記載の粒子状電極活物質の製造方法であって、
以下のステップ、
(α1)一般式Li
1+xTM
1-xO
2(式中、TMがNiであり、及び、任意に、Co及びMnの少なくとも1種であり、及び、任意に、Al、Mg、及びBa、Ni、Co及びMn以外の遷移金属から選択される少なくとも1種であり、xが0~0.2の範囲であり、TMの遷移金属の少なくとも50モル%がNiである)による電極活物質であって、表面にリチウムカルボネートを含む電極活物質を、Mo又はWのカルボニル鎖体である化合物と接触させるステップと、
(α2)ステップ(α1)で得られた混合物に対して、
それぞれカルボニル錯体の蒸発温度又は分解温度のいずれか低い方の温度より高い温度で、熱処理を行うステップと、
(α3)得られた生成物を酸化剤で処理するステップと、
を含む方法。
【請求項10】
ステップ(α3)における酸化剤が、酸素、オゾン、及びH
2O
2から選択される、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(α1)が溶媒の非存在下で行われる、請求項
9又は
10に記載の方法。
【請求項12】
一般式Li
1+xTM
1-xO
2による前記電極活物質が、表面に0.1~3質量%のリチウムカルボネートを含む、請求項
9~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか一項に記載の全固体リチウムイオン電気化学セルの製造方法であって、以下のステップ、
(β)請求項7に記載の電極活物質と、導電性形態の炭素及び電解質(C)とを混合するステップと、
(γ1)ステップ(β)から得られる混合物を、集電体に塗布するステップと、又は、
(γ2)ステップ(β)から得られる混合物を、ペレット化するステップと、
を含む方法。
【国際調査報告】