(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】プロピレンとプロパンを含むガス混合物(GM)からプロピレンを分離する新しい方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/68 20060101AFI20240116BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20240116BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20240116BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240116BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240116BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20240116BHJP
B01D 71/42 20060101ALI20240116BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20240116BHJP
B01D 71/70 20060101ALI20240116BHJP
C07C 7/144 20060101ALI20240116BHJP
C07C 11/06 20060101ALI20240116BHJP
C08G 65/40 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B01D71/68
B01D53/22
B01D69/08
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/34
B01D71/42
B01D71/64
B01D71/70 500
C07C7/144
C07C11/06
C08G65/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023542550
(86)(22)【出願日】2022-01-05
(85)【翻訳文提出日】2023-09-11
(86)【国際出願番号】 EP2022050132
(87)【国際公開番号】W WO2022152604
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】514085654
【氏名又は名称】シンガポール国立大学
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL UNIVERSITY OF SINGAPORE
【住所又は居所原語表記】21 Lower Kent Ridge Road Singapore 119077 (SG)
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】リヤン,ツァンツォン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーバー,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン,ワイ フェン
(72)【発明者】
【氏名】マレッツコ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】チュン,タイ-シュン
【テーマコード(参考)】
4D006
4H006
4J005
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA01
4D006MA09
4D006MA10
4D006MA31
4D006MB06
4D006MC29
4D006MC39
4D006MC40
4D006MC45
4D006MC58
4D006MC63X
4D006MC65
4D006NA04
4D006NA10
4D006NA40
4D006NA64
4D006PA01
4D006PB20
4D006PB70
4H006AA02
4H006AD19
4H006BC51
4J005AA25
4J005BA00
4J005BB01
4J005BB02
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホンと、トリメチルヒドロキノンを含有する少なくとも1種のジヒドロキシ成分とを含む反応混合物(RG)を変換することにより調製したポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含んで成る膜(M)を用いて、プロピレンとプロパンとを含むガス混合物(GM)からプロピレンを分離する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホンと、トリメチルハイドロキノンを含有する少なくとも1種のジヒドロキシ成分とを含む反応混合物(R
G)を変換することにより調製したポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含んで成る膜(M)を用いて、プロピレンとプロパンを含むガス混合物(GM)からプロピレンを分離する方法。
【請求項2】
前記膜(M)が保持物側と透過物側とを備え、前記ガス混合物(GM)を膜(M)の保持物側と接触させ、前記プロピレンを膜(M)の透過物側に透過させて、プロピレン富化透過物とプロピレン枯渇保持物とを得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の調製が、
I)成分として、
(A1)少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホン、
(B1)少なくとも1種のジヒドロキシ成分の総量に基づいて少なくとも20モル%のトリメチルヒドロキノンを含有する、少なくとも1種のジヒドロキシ成分、
(C)少なくとも1種の炭酸塩成分、
(D)少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒
を含む反応混合物(R
G)を変換する工程
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程I)で第1のポリマー(P1)を得、前記調製が、さらに
II)工程I)で得た第1のポリマー(P1)をハロゲン化アルキルと反応させる工程
を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
成分(B1)が、少なくとも1種のジヒドロキシ成分の総量に基づいて40~100モル%のトリメチルヒドロキノンを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
成分(D)が、N-メチルピロリドン、N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及びジメチルホルムアミドからなる群より選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応混合物(R
G)における、成分(B1)の成分(A1)に対するモル比が0.97~1.08の範囲である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記膜(M)が、多孔性支持層、緻密な選択層及び緻密な被覆層を含んで成る、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
多孔性支持層が膜(M)の保持物側を形成し、緻密な支持層が膜(M)の透過物側を形成し、選択層が膜(M)の保持物側と透過物側との間に位置する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
膜(M)の緻密な選択層が、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)から形成したものである、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
膜(M)の多孔性支持層がポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンからなる群から選択されるポリマーから形成されたものであり、膜(M)の緻密な被覆層がポリジメチルシロキサン及びポリジメチルシロキサン-コポリマーからなる群から選択されるポリマーから形成されたものである、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
膜(M)が、少なくとも5000s
-1の剪断速度で紡糸された中空糸膜である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
膜(M)の調製が、
i)ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)と少なくとも1種の溶媒を含む溶液(S)を用意する工程、
ii)溶液(S)から少なくとも1種の溶媒を分離し、膜(M)を得る工程
を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
膜(M)の調製のために、少なくとも1種の溶媒が、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド及びスルホランからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
プロピレンとプロパンを含むガス混合物(GM)からプロピレンを分離する方法に、少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホンと、トリメチルヒドロキノンを含有する少なくとも1種のジヒドロキシ成分とを含む反応混合物(R
G)を変換することによって調製したポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホンと、トリメチルヒドロキノンを含有する少なくとも1種のジヒドロキシ成分とを含む反応混合物(RG)を変換することにより調製したポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含んで成る膜(M)を用いて、プロピレンとプロパンとを含むガス混合物(GM)からプロピレンを分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分離及び精製のための膜技術は、1970年代後半から工業化され、収着及び蒸留といった従来のプロセスに比べ、経済的及び環境的な利点があるため、絶えず成長進歩している。
【0003】
しかし、可塑化が、高分子膜を使用したガス分離で広く見られる有害な問題のひとつである。高分子膜の可塑化は、主にCO2、H2S、プロピレン(C3H6)、プロパン(C3H8)のような凝縮性の高いガスによって引き起こされる。凝縮性の高いガスは高分子膜に溶解しやすく、高分子マトリックスを膨潤させるため、ガスの拡散経路が広くなり、鎖の移動度が高くなる。その結果、可塑化によって、通常、ガス透過率(permeability)及び/又はパーミエンス(permeance)は高くなるが、選択性は低くなる。
【0004】
このため、最新技術では、高分子膜は、O2、N2、CH4、CO2などの凝縮性の高くないガスの分離に主に使用されている。これらのガスは高分子膜の可塑化を誘発しないからである。
【0005】
これらのガスを分離するのに備えて高凝縮性ガスによる可塑化効果を克服する目的で、最新技術では、有機金属骨格(MOF)、グラフェン及び酸化グラフェン(GO)、カーボン分子篩などの無機膜を主に使用している。しかし、これらの膜は高価であり、規模の拡大化又は商業化が困難である。
【0006】
多くのガスの中でもプロピレンは重要なモノマーであり、通常は、炭化水素の熱分解によって生成するプロピレン/プロパン混合物から分離している。プロピレンとプロパンを分離する従来の方法は低温蒸留であり、非常にエネルギー集約的なプロセスである。さらに、従来の高分子膜では、プロピレンとプロパンを生産的かつ効率的に分離することは困難であった。なぜなら、プロピレンとプロパンとの有効サイズの差は非常に小さく(~0.1Å)、また、これらのガスは凝縮性が高いため、膜の可塑化を引き起こすからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、先行技術の欠点を有しないか、又はその欠点を減少した形でしか有しない高分子膜を用いて、プロピレンとプロパンを含むガス混合物からプロピレンを分離する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホンと、トリメチルハイドロキノンを含有する少なくとも1種のジヒドロキシ成分とを含む反応混合物(RG)を変換することにより調製したポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含んで成る膜(M)を用いて、プロピレンとプロパンを含むガス混合物(GM)からプロピレンを分離する方法により達成することができる。
【0009】
驚くべきことに、本発明の方法により、プロピレンとプロパンとを含むガス混合物(GM)からプロピレンを簡単で、かつ、コスト効率のよい方法で分離できることが見出された。ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含んで成る膜(M)は、先行技術の欠点を示さないか、又は減らした形でしか示さない、特に、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含んで成る膜(M)は、可塑化による選択性の損失を示さない。 さらに、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含んで成る膜(M)は、非常に高いC3H6パーミエンス(permeance)、高いC3H6/C3H8選択性及び高い耐久性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について、以下に、さらに詳細に説明する。
【0011】
ガス混合物(GM)からプロピレンを分離するための本発明の方法は、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含んで成る膜(M)を使用する。
【0012】
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)
本発明方法で使用する膜(M)に含まれるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホンと、トリメチルヒドロキノンを含有する少なくとも1種のジヒドロキシ成分とを含む反応混合物(RG)を変換(転化)することにより製造する。
【0013】
好適な実施形態において、本発明の方法に使用する膜(M)に含まれるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の調製は、以下の工程、すなわち、
I)成分として、
(A1)少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホン、
(B1)少なくとも1種のジヒドロキシ成分の総量に基づいて少なくとも20モル%のトリメチルヒドロキノンを含有する、少なくとも1種のジヒドロキシ成分、
(C)少なくとも1種の炭酸塩成分、
(D)少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒
を含む反応混合物(RG)を変換(converting)する
工程を含む。
【0014】
したがって、本発明の方法に使用する膜(M)に含まれるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、好適な実施形態では、成分(A1)から誘導される単位と成分(B1)から誘導される単位を有する。より好適な実施形態では、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、成分(A1)から誘導される単位と成分(B1)から誘導される単位とからなる。本発明の一実施形態において、工程II)(ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の調製方法の観点から以下に記載する)を実施する場合、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)末端基の少なくとも一部が成分(A1)及び(B1)から誘導されないことは、当業者には明らかなことである。
【0015】
さらに好適な実施形態では、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、式(Ia)及び/又は式(Ib)の単位を具備する。
【0016】
【0017】
式(Ia)及び(Ib)中、*は結合を示す。この結合は、例えば、式(Ia)又は(Ib)の別の単位への連結、又は以下に記載するようなアルキル又はアルコキシ末端基への連結であることができる。
【0018】
当業者にとっては、式(Ia)及び式(Ib)がそれぞれの式の可能な異性体をも包含することが明らかである。
【0019】
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の総質量に基づいて、少なくとも40質量%の式(Ia)及び/又は(Ib)の単位、より好ましくは少なくとも80質量%、最も好ましくは少なくとも90質量%の式(Ia)及び/又は(Ib)の単位を含むことが好適である。
【0020】
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、本質的に、式(Ia)及び/又は(Ib)の単位からなることがさらに好適である。
【0021】
本発明の文脈における「本質的にからなる」とは、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)が、99質量%を超える、好ましくは99.5質量%を超える式(Ia)及び/又は(Ib)の単位を含むことを意味している。
【0022】
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は式(Ia)及び/又は(Ib)の単位からなることがさらに好適である。
【0023】
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)が式(Ia)及び/又は(Ib)の単位からなる場合であっても、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は式(Ia)及び/又は(Ib)の単位とは異なる末端基を含むことは、当業者には明らかである。
【0024】
本発明の方法により得られるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、好ましくは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定した重量平均分子量(Mw)が15000~180000g/molの範囲、より好ましくは20000~150000g/molの範囲、特に好ましくは25000~125000g/molの範囲である。GPC分析は、溶媒として0.5質量%のLiBrを有するジメチルアセトアミドを用いて行い、ポリマー濃度は4mg/mLである。そのシステムはPMMA標準を用いて校正した。カラムとして3種類のポリエステルコポリマーをベースにしたユニットを使用した材料を溶解した後、得た溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過し、100μLの溶液をシステムに注入し、溶出速度を1mL/分に設定した。
【0025】
本発明の方法によって得られるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、さらに、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって決定した数平均分子量(Mn)が、好ましくは5000~75000g/molの範囲、より好ましくは6000~60000g/molの範囲、特に好ましくは7500~50000g/molの範囲である。GPC分析は上記したように行う。
【0026】
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)のガラス転移温度(TG)は、典型的には230~260℃の範囲、好ましくは235~255℃の範囲、特に好ましくは240~250℃の範囲である。これは、第2の加熱サイクルにおいて10K/分の加熱速度で示差走査熱量測定(DSC)を介して決定する。
【0027】
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の粘度数(V.N.)は、25℃におけるN-メチルピロリドン中の1%溶液として測定する。その粘度数(V.N.)は、典型的には50~120ml/gの範囲であり、好ましくは55~100ml/gの範囲であり、最も好ましくは60~90ml/gの範囲である。
【0028】
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を調製するために工程II)(ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の調製方法の観点から後述する)を実施する場合、得られるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、通常、アルコキシ末端基を含んでなる。アルコキシ末端基は、ハロゲン化アルキルと、工程I)において本発明のこの実施形態で得られた第1のポリマー(P1)のヒドロキシ末端基の少なくとも一部との反応から生じる。ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、成分(A1)に由来するハロゲン末端基及び/又は成分(B1)に由来するヒドロキシ末端基をさらに含むことができる。これは当業者に公知である。
【0029】
本発明の文脈における「アルコキシ末端基」は、酸素に結合したアルキル基である。このアルキル基は、特に1~10個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキル基であり、特にメチル基である。したがって、アルコキシ基は好ましくはメトキシ(MeO)基である。
【0030】
次に、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、通常、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の全末端基の合計を基準として、少なくとも5%のアルコキシ末端基、好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも65%のアルコキシ末端基を含む。また、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、通常、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の全末端基の合計を基準として、最大で100%、好ましくは最大で80%、最も好ましくは最大で50%のアルコキシ末端基を含む。
【0031】
以下、プロピレンとプロパンとからなるガス混合物(GM)からプロピレンを分離するための本発明の方法で使用する膜(M)に含まれるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の調製方法について、より詳細に説明する。
【0032】
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の調製方法
水酸化物法によるポリアリーレンエーテルスルホンポリマーの生成に関する一般的な情報は、特にR.N.Johnsonら,J.Polym.Sci.A-1 5(1967)2375に記載され、炭酸塩法はJ.E.McGrathら,Polymer 25(1984)1827に記載されている。
【0033】
芳香族ビスハロゲン化合物及び芳香族ビスフェノール又はその塩から、1種以上のアルカリ金属又はアンモニウム炭酸塩又は重炭酸塩の存在下、非プロトン性溶媒中でポリアリーレンエーテルスルホンポリマーを形成する方法は当業者に知られており、例えばEP-A297363及びEP-A135130に記載されている。
【0034】
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を調製するには、好ましい実施形態では、工程I)上述の成分(A1)、(B1)、(C)及び(D)を含む反応混合物(RG)を変換することを含む。
【0035】
成分(A1)と(B1)は重縮合反応を行う。
【0036】
成分(D)は溶媒として作用し、成分(C)は縮合反応中に成分(B1)を脱プロトン化する塩基として作用する。
【0037】
反応混合物(RG)は、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を調製するための本発明に係る方法で使用する混合物を意味すると理解される。したがって、この場合には、反応混合物(RG)に関して述べたすべての詳細が、重縮合が起きる前に存在する当該混合物に関連がある。この重縮合は本発明に係る方法中に起こる。すなわち、本発明に係る方法では、成分(A1)と(B1)との重縮合によって、反応混合物(RG)が反応して、目的生成物であるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)が得られるものである。ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)目的生成物を含む、重縮合後に得られる混合物を生成物混合物(PG)ともいう。生成物混合物(PG)は通常、前記少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒(成分(D))及びハロゲン化物化合物をさらに含む。このハロゲン化物化合物は、反応混合物(RG)の変換の間に形成される。その変換の際、最初に、成分(C)は成分(B1)と反応して成分(B1)を脱プロトン化する。脱プロトン化した成分(B1)は次に成分(A1)と反応し、そこでハロゲン化物化合物が形成される。このプロセスは当業者に公知である。
【0038】
本発明の一実施形態では、工程I)で、第1のポリマー(P1)が得られる。この実施形態を以下にさらに詳細に説明する。この実施形態では、生成物混合物(PG)は第1のポリマー(P1)を含む。次いで、生成物混合物(PG)は、通常さらに、上記少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒(成分(D))と、ハロゲン化物化合物を含む。そのハロゲン化物化合物については、上述した詳細が当てはまる。
【0039】
反応混合物(RG)の各成分は、一般には、同時に反応させる。また、個々の成分を上流工程で混合し、その後反応させることもできる。また、個々の成分を反応器に供給し、そこで混合した後、反応させることも可能である。
【0040】
本発明に係る方法では、反応混合物(RG)の個々の成分は、一般には、工程I)で同時に反応させる。この反応は1段階で行うことが好ましい。これは、成分(B1)の脱プロトン化及び成分(A1)と(B1)との間の縮合反応を、中間生成物、例えば成分(B1)の脱プロトン化された種を単離することなく、単一の反応段階で行うことを意味する。
【0041】
本発明の工程I)に係る方法は、いわゆる「炭酸塩法」に従って実施することが好ましい。
【0042】
反応混合物(RG)がトルエンを含まないことがさらに好適である。また、反応混合物(RG)が水と共沸混合物を形成する物質を含まないことが特に好適である。
【0043】
成分(A1)と成分(B1)の比は、主に、理論的に塩化水素を除去しながら進行する重縮合反応の化学量論から導き出され、当業者によって既知の方法で確立される。
【0044】
成分(A1)から誘導されるハロゲン末端基の、成分(B1)から誘導されるフェノール末端基に対する比は、出発化合物としての成分(A1)に対する成分(B1)の過剰分を抑制し確立することによって調整することが好ましい。
【0045】
成分(B1)の成分(A1)に対するモル比は0.97~1.08、特に0.98~1.06、最も好ましくは0.99から1.05であることがより好ましい。
【0046】
重縮合反応における変換率(転化率)は少なくとも0.9であることが好ましい。
【0047】
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を調製するためのプロセス工程I)は、典型的には、いわゆる「炭酸塩法」の条件下で実施する。すなわち、反応混合物(RG)をいわゆる「炭酸塩法」の条件下で反応させる。反応(重縮合反応)は、一般に80~250℃の範囲、好ましくは100~220℃の範囲の温度で行う。温度の上限は、標準圧力(1013.25mbar)における前記少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒(成分(D))の沸点によって決定される。反応は一般に標準圧力で行う。また、反応は、好ましくは、0.5~12時間、特に1~10時間の範囲で実施する。
【0048】
生成物混合物(PG)中の得られたポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の単離は、例えば、生成物混合物(PG)を水又は水と他の溶媒との混合溶媒中で沈殿させることにより行うことができる。沈殿したポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、その後、水で抽出し、次いで乾燥させることができる。本発明の一実施態様においては、その沈殿物は酸性媒体中に取り込むこともできる。好適な酸は、例えば、有機酸又は無機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、コハク酸又はクエン酸のようなカルボン酸、及び塩酸、硫酸又はリン酸のような鉱酸である。
【0049】
一実施形態では、工程I)において第1のポリマー(P1)が得られる。そして、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を調製するための方法は、次いで、さらに以下の工程、すなわち、
II)工程I)で得られた第1のポリマー(P1)をハロゲン化アルキルと反応させる工程
を含むことが好ましい。
【0050】
当業者には、工程II)を実施しない場合には、第1のポリマー(P1)がポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)に相当することが明らかである。
【0051】
第1のポリマー(P1)は、通常、反応混合物(RG)中に含まれる成分(A1)と成分(B1)との重縮合反応の生成物である。第1のポリマー(P1)は、反応混合物(RG)の変換(転化)中に得られる上述の生成物混合物(PG)に含まれることができる。この生成物混合物(PG)は、上述したように、第1のポリマー(P1)、成分(D)及びハロゲン化物化合物を含む。第1のポリマー(P1)は、ハロゲン化アルキルと反応させるときに、この生成物混合物(PG)中に含まれ得る。
【0052】
一実施形態では、ハロゲン化物化合物を、工程I)の後で工程II)の前に、生成物混合物(PG)から分離し、第2の生成物混合物(P2G)を得る。第2の生成物混合物(P2G)は、その時、前記少なくとも1種の溶媒(成分(D))、第1のポリマー(P1)、及び任意に、ハロゲン化物化合物の痕跡を含む。
【0053】
本発明の文脈における「ハロゲン化物化合物の痕跡」とは、第2の生成物混合物(P2G)の全質量に基づいて、0.5質量%未満、好ましくは0.1質量%未満、最も好ましくは0.01質量%未満のハロゲン化物化合物を意味する。第2の生成物混合物(P2G)は、通常、第2の生成物混合物(P2G)の総質量に基づいて、少なくとも0.0001質量%、好ましくは少なくとも0.0005質量%、最も好ましくは少なくとも0.001質量%のハロゲン化物化合物を含む。
【0054】
第1の生成物混合物(P1)からのハロゲン化物化合物の分離は、例えば濾過や遠心分離など、当業者に公知の方法で行うことができる。
【0055】
第1のポリマー(P1)は通常、末端ヒドロキシ基を具備する。工程II)で、これらの末端ヒドロキシ基をハロゲン化アルキルとさらに反応させて、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を得る。好適なハロゲン化アルキルとしては、特に、1~10個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状のアルキル基を有するアルキルクロリド、特に、一級アルキルクロリド、特に、好ましくはハロゲン化メチル、特に、塩化メチルがある。
【0056】
工程II)による反応は、好ましくは90℃~160℃の範囲、特に100℃~150℃の範囲の温度で実施する。所要時間は、広範囲にわたって変化し得るものであり、通常、少なくとも5分、特に少なくとも15分である。工程II)による反応に要する時間は、15分~8時間、特に30分~4時間であることが好ましい。
【0057】
ハロゲン化アルキルの添加には様々な方法を用いることができる。さらに、化学量論的量又は過剰量のハロゲン化アルキルを添加することが可能であり、過剰量は例えば5倍までとすることができる。好適な一実施形態では、ハロゲン化アルキルは連続的に、特にガス流の形態で連続的に導入して添加する。
【0058】
工程II)では通常、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)と成分(D)を含有するポリマー溶液(PL)が得られる。工程II)において、工程I)からの生成物混合物(PG)を使用した場合には、ポリマー溶液(PL)は、通常、さらにハロゲン化物化合物を含む。工程II)の後にポリマー溶液(PL)を濾過することが可能である。これにより、ハロゲン化物化合物を除去することができる。
【0059】
好適な実施形態において、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の調製のための方法は、さらに以下の工程、すなわち、
III)工程II)で得たポリマー溶液(PL)を濾過する工程
を含む。
【0060】
ポリマー溶液(PL)中の工程II)で得たポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の単離は、生成物混合物(PG)中に得たポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の単離のように実施することができる。例えば、ポリマー溶液(PL)を水又は水と他の溶媒との混合溶媒中で沈殿させることにより単離を行うことができる。沈殿したポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、その後、水で抽出し、次いで乾燥させることができる。本発明の一実施態様においては、その沈殿物は酸性媒体中に取り込むこともできる。好適な酸は、例えば、有機酸又は無機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、コハク酸又はクエン酸のようなカルボン酸、及び塩酸、硫酸又はリン酸のような鉱酸である。
【0061】
成分(A1)
反応混合物(RG)は、成分(A1)として少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホンを含むことが好ましい。用語「少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホン」は、本明細書においては、厳密に1種の芳香族ジハロゲンスルホン及び2種以上の芳香族ジハロゲンスルホンの混合物を意味すると理解される。前記少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホン(成分(A1))は、少なくとも1種のジハロジフェニルスルホンであることが好ましい。
【0062】
したがって、本発明は、また、反応混合物(RG)が成分(A1)として少なくとも1種のジハロジフェニルスルホンを含む方法に関する。
【0063】
成分(A1)はモノマーとして使用することが好ましい。これは、反応混合物(RG)が、プレポリマーとしてではなく、モノマーとしての成分(A1)を含むことを意味する。
【0064】
反応混合物(RG)は、反応混合物(RG)中の成分(A1)の総質量に基づいて、少なくとも50質量%のジハロジフェニルスルホンを成分(A1)として含むことが好ましい。
【0065】
好適なジハロジフェニルスルホンは、4,4’-ジハロジフェニルスルホンである。成分(A1)として特に好ましいのは、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン及び/又は4,4’-ジブロモジフェニルスルホンである。特に4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、4,4’-ジフルオロジフェニルスルホンが好適であり、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンが最も好適である。
【0066】
好適な実施形態では、成分(A1)は、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン及び4,4’-ジフルオロジフェニルスルホンからなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホンを、反応混合物(RG)中の成分(A1)の総質量に基づいて、少なくとも50質量%含む。
【0067】
特に好適な実施形態においては、成分(A1)は、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン及び4,4’-ジフルオロジフェニルスルホンからなる群から選択される芳香族ジハロゲンスルホンを、反応混合物(RG)中の成分(A1)の総質量に基づいて、少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%、より好ましくは少なくとも98質量%含有する。
【0068】
さらに特に好適な実施形態において、成分(A1)は、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン及び4,4’-ジフルオロジフェニルスルホンからなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホンから本質的になる。「本質的にからなる」とは、この場合には、成分(A1)が、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン及び4,4’-ジフルオロジフェニルスルホンからなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ジハロゲンスルホン化合物を、それぞれの場合、反応混合物(RG)中の成分(A1)の総質量に基づいて、99質量%を超えて、好ましくは99.5質量%を超えて、特に好ましくは99.9質量%を超えて含むことを意味すると理解される。これらの実施形態において、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンが成分(A1)として特に好適である。
【0069】
さらに特に好適な実施形態では、成分(A1)は4,4’-ジクロロジフェニルスルホンからなる。
【0070】
成分(B1)
反応混合物(RG)は、好ましくは、成分(B1)として、少なくとも1種のジヒドロキシ成分の総量に基づいて、少なくとも20モル%のトリメチルヒドロキノンを含有する少なくとも1種のジヒドロキシ成分を含む。用語「少なくとも1種のジヒドロキシ成分」は、本明細書においては、厳密に1種のジヒドロキシ成分、及び2種以上のジヒドロキシ成分の混合物を意味すると理解される。成分(B1)は、厳密に1種のジヒドロキシ成分又は厳密に2種のジヒドロキシ成分の混合物であることが好ましい。最も好ましい成分(B1)は、厳密に1種のジヒドロキシ成分である。
【0071】
使用するジヒドロキシ成分は、典型的には2個のフェノール性ヒドロキシル基を有する成分である。反応混合物(RG)は少なくとも1種の炭酸塩成分を含むので、反応混合物(RG)中の成分(B1)のヒドロキシル基は部分的に脱プロトン化された形態で存在することがある。
【0072】
成分(B1)はモノマーとして使用することが好ましい。これは、反応混合物(RG)が、プレポリマーとしてではなく、モノマーとしての成分(B1)を含むことを意味する。
【0073】
成分(B1)は、前記少なくとも1種のジヒドロキシ成分の総量に基づいて、少なくとも20モル%のトリメチルヒドロキノンを含有する。成分(B1)は、反応混合物(RG)中の少なくとも1種のジヒドロキシ成分の総量に基づいて、好ましくは50~100モル%、より好ましくは80~100モル%、最も好ましくは95~100モル%のトリメチルヒドロキノンを含有する。
【0074】
好適な実施形態では、成分(B1)は本質的にトリメチルヒドロキノンからなる。
【0075】
この場合における「本質的にからなる」とは、成分(B1)が、反応混合物(RG)中の成分(B1)の総量に基づいて、それぞれの場合において99モル%を超える、好ましくは99.5モル%を超える、特に好ましくは99.9モル%を超えるトリメチルヒドロキノンを含むことを意味すると理解される。
【0076】
さらに好適な実施形態では、成分(B1)はトリメチルヒドロキノンからなる。
【0077】
トリメチルハイドロキノンは、2,3,5-トリメチルハイドロキノンとしても知られる。CAS番号は700-13-0である。その調製方法は当業者に知られている。
【0078】
成分(B1)として含まれ得る適切なさらなるジヒドロキシ成分は当業者に知られており、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホンからなる群から選択される。原則として、ビスフェノールA(IUPAC名:4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール)などの他の芳香族ジヒドロキシ化合物も含まれ得る。
【0079】
成分(C)
反応混合物(RG)は、成分(C)として少なくとも1種の炭酸塩成分を含むことが好ましい。この場合、「少なくとも1種の炭酸塩成分」という用語は、厳密に1種の炭酸塩成分及び2種以上の炭酸塩成分の混合物を意味すると理解される。少なくとも1種の炭酸塩成分は少なくとも1種の金属炭酸塩であることが好ましい。金属炭酸塩は無水であることが好ましい。
【0080】
金属炭酸塩としては、アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ土類金属炭酸塩が好ましい。金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属炭酸塩が特に好ましい。炭酸カリウムが最も好ましい。
【0081】
例えば、成分(C)は、反応混合物(RG)中の少なくとも1種の炭酸塩成分の総質量に基づいて、少なくとも50質量%、より好ましくは少なくとも70質量%、最も好ましくは少なくとも90質量%の炭酸カリウムを含む。
【0082】
好適な実施形態では、成分(C)は本質的に炭酸カリウムからなる。
【0083】
この場合における「本質的にからなる」とは、成分(C)が、反応混合物(RG)中の成分(C)の総質量に基づいて、それぞれの場合において99質量%を超えて、好ましくは99.5質量%を超えて、特に好ましくは99.9質量%を超えて炭酸カリウムを含むことを意味すると理解される。
【0084】
特に好適な実施形態では、成分(C)は炭酸カリウムからなる。
【0085】
炭酸カリウムとしては、200μm未満の体積加重平均粒径を有する炭酸カリウムが特に好適である。炭酸カリウムの体積加重平均粒径は、N-メチルピロリドン中の炭酸カリウムの懸濁液中で、粒度分析装置を用いて測定する。
【0086】
好適な実施形態では、反応混合物(RG)はアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を含まない。
【0087】
成分(D)
反応混合物(RG)は、成分(D)として少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒を含むことが好ましい。本発明による「少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒」とは、厳密に1種の非プロトン性極性溶媒、及び2種以上の非プロトン性極性溶媒の混合物を意味すると理解される。
【0088】
適切な非プロトン性極性溶媒は、例えば、アニソール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ジフェニルスルホン及びN-ジメチルアセトアミドからなる群から選択される。
【0089】
成分(D)としては、N-メチルピロリドン、N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミドからなる群から選択することが好ましい。成分(D)として特に好適なのは、N-メチルピロリドンである。
【0090】
成分(D)はスルホランを含まないことが好適である。また、反応混合物(RG)はスルホランを含まないことがさらに好適である。
【0091】
成分(D)は、N-メチルピロリドン、N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を、反応混合物(RG)中の成分(D)の総質量に基づいて、少なくとも50質量%含むことが好適である。成分(D)としては、N-メチルピロリドンが特に好適である。
【0092】
さらに好適な実施形態では、成分(D)は本質的にN-メチルピロリドンからなる。
【0093】
「本質的にからなる」とは、この場合、成分(D)が、N-メチルピロリドン、N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒(中でもN-メチルピロリドンを優先)を、98質量%を超えて、特に好ましくは99質量%を超えて、より好ましくは99.5質量%を超えて含むことを意味すると理解される。
【0094】
好適な実施形態においては、成分(D)はN-メチルピロリドンからなる。なお、N-メチルピロリドンは、NMP又はN-メチル-2-ピロリドンとも呼ばれる。
【0095】
プロピレンを分離する本発明の方法で使用する膜(M)
プロピレンを分離する本発明の方法で使用する膜(M)については、以下により詳細に説明する。
【0096】
好適な実施形態では、膜(M)は、多孔性支持層、緻密な選択層及び緻密な被覆層を備えて成る。
【0097】
好ましい実施形態では、多孔性支持層は膜(M)の保持物(retentate)側を形成し、緻密な被覆層は膜(M)の透過物(permeate)側を形成し、選択層は膜(M)の保持物側と透過物側との間に位置する。
【0098】
ガス混合物(GM)からのプロピレンの分離は、主に、膜(M)の緻密な選択層によって行われる。
【0099】
特に好適な実施形態では、膜(M)の緻密な選択層は、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)から形成される。
【0100】
特に好適な実施形態では、膜(M)の多孔性支持層は、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーから形成され、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)が特に好ましい。
膜(M)の緻密な被覆層は、膜(M)の緻密な被覆層の総質量に基づいて、好ましくは少なくとも70質量%、より好ましくは少なくとも90質量%、最も好ましくは少なくとも98質量%のポリジメチルシロキサン及び/又はポリジメチルシロキサンコポリマーを含んで成り、ポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
【0101】
さらに好適な実施形態では、膜(M)の緻密な被覆層は本質的にポリジメチルシロキサンからなる。
【0102】
「本質的にからなる」とは、膜(M)の緻密な被覆層が、膜(M)の緻密な被覆層の総質量に基づいて、98質量%を超える、好ましくは99質量%を超える、最も好ましくは99.5質量%を超えるポリジメチルシロキサンを含むことを意味する。
【0103】
特に好適な実施形態では、膜(M)の緻密な被覆層はポリジメチルシロキサンから形成される。
【0104】
特に好適な実施形態では、膜(M)の多孔性支持層がポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)から形成され、かつ、膜(M)の緻密な被覆層がポリジメチルシロキサンから形成される。
【0105】
好適な実施形態において、膜(M)は、膜(M)の総質量に基づいて、少なくとも50質量%のポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)、より好ましくは少なくとも70質量%、最も好ましくは少なくとも90質量%のポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含む。
【0106】
膜(M)の調製中(以下に記載する)、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は前記少なくとも1つの溶媒から分離される。したがって、得られた膜(M)は、前記少なくとも1種の溶媒を本質的に含まない。
本発明の文脈における「本質的に含まない」とは、膜(M)が、膜(M)の総質量に基づいて、最大で3質量%、好ましくは最大で1.5質量%、特に好ましくは最大で0.5質量%の前記少なくとも1種の溶媒を含むことを意味する。膜(M)は、膜(M)の総質量に基づいて、好ましくは少なくとも0.0001質量%、より好ましくは少なくとも0.001質量%、特に好ましくは少なくとも0.005質量%の前記少なくとも1種の溶媒を含む。
【0107】
本発明の好適な実施形態では、膜(M)は緻密な膜である。
【0108】
膜(M)が緻密な膜である場合、膜(M)には通常、実質的に孔がない。
【0109】
緻密な膜は、通常、溶液流延(キャスティング)法によって得られる。この方法では、流延した溶液に含まれる溶媒を蒸発させる。通常、緻密な分離層(溶媒の蒸発後に緻密な分離層を与える溶液)を、ポリスルホン、好ましくはポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)、ポリアクリロニトリル及び/又はセルロースアセテートのような別のポリマーである可能性がある、多孔性支持層上に流延(キャスト)する。緻密な分離層の上に、好ましくはポリジメチルシロキサンの緻密な被覆層を塗布することが好ましい
膜(M)は任意の厚さを有することができる。例えば、膜(M)の厚さは1~300μmの範囲、好ましくは3~200μmの範囲、最も好ましくは5~100μmの範囲である。
【0110】
膜の調製
プロピレンを分離するための本発明の方法で使用する膜(M)の調製方法は、当業者に公知である。
【0111】
この方法では、以下の工程、
i)ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)と少なくとも1種の溶媒を含む溶液(S)を用意する工程、
ii)溶液(S)から少なくとも1種の溶媒を分離し、膜(M)を得る工程
を含む方法によって得られる膜(M)を使用することが好ましい。
【0112】
工程i)
工程i)では、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)と少なくとも1種の溶媒を含む溶液(S)を用意する。
【0113】
本発明の文脈における「少なくとも1種の溶媒」とは、厳密に1種の溶媒を意味し、2種以上の溶媒の混合物も意味する。
【0114】
工程i)では、溶液(S)は、当業者に公知の任意の方法によって用意することができる。例えば、溶液(S)は、工程i)で、撹拌装置及び好ましくは温度制御装置を含み得る慣用の容器に用意することができる。溶液(S)は、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を少なくとも1種の溶媒に溶解することにより用意することが好ましい。
【0115】
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を少なくとも1種の溶媒に溶解して溶液(S)を用意することは、攪拌下で行うことが好ましい。
【0116】
工程i)は、好ましくは高温で、特に20~120℃の範囲、より好ましくは40~100℃の範囲の温度で実施する。当業者であれば、少なくとも1種の溶媒に応じて温度選択するであろう。
【0117】
溶液(S)は、少なくとも1種の溶媒に完全に溶解したポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含むことが好ましい。これは、溶液(S)が、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の固体粒子を含まないことが好ましいことを意味する。したがって、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)は、好ましくは、濾過によっては、少なくとも1種の溶媒から分離することができない。
【0118】
溶液(S)は、溶液(S)の全質量に基づいて0.001~50質量%のポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含むことが好ましい。より好ましくは、工程i)の溶液(S)は、0.1~35質量%のポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含み、最も好ましくは、溶液(S)は、溶液(S)の総質量に基づいて0.5~25質量%のポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を含む。
少なくとも1種の溶媒としては、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)に対して当業者に知られている任意の溶媒が好適である。少なくとも1種の溶媒は水に可溶であることが好ましい。したがって、少なくとも1種の溶媒は、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルラクトアミド、ジメチルホルムアミド及びスルホランからなる群から選択することが好ましい。N-メチルピロリドン及びジメチルラクトアミドが特に好ましい。少なくとも1種の溶媒としては、ジメチルラクトアミド及びN-メチルピロリドンが最も好ましい。
【0119】
溶液(S)は、少なくとも1種の溶媒を、溶液(S)の総質量に基づいて、好ましくは50~99.999質量%の範囲、より好ましくは70~99.9質量%の範囲、最も好ましくは75~99.5質量%の範囲で含む。
【0120】
工程i)で用意される溶液(S)には、さらに膜調製用の添加剤を含ませることができる。
【0121】
膜調製のための適切な添加剤は当業者に知られており、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドコポリマー(PEO-PPO)及びポリ(テトラヒドロフラン)(ポリTHF)がある。ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリエチレンオキシド(PEO)は、膜調製用の添加剤として特に好ましい。
【0122】
膜調製のための添加剤は、例えば、溶液(S)中に、溶液(S)の総質量に基づいて、0.00~20質量%、好ましくは0.01~15質量%、より好ましくは0.1~10質量%の範囲の量で含ませることができる。
【0123】
当業者には、溶液(S)中に含まれるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)、少なくとも1種の溶媒、及び任意で含ませる膜調製用添加剤の質量パーセントは、合計で、典型的には100質量%になることが明らかである。
【0124】
工程i)の持続時間は、広い範囲内で変動する可能性がある。工程i)の継続時間は、好ましくは10分~96h(時間)の範囲、特に10分~48時間の範囲、より好ましくは15分~12時間の範囲である。当業者は、少なくとも1種の溶媒中のポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)の均一な溶液が得られるように、工程i)の持続時間を選択する。
【0125】
さらに、溶液(S)の均質性を向上させるために、脱気と濾過の工程を適用することができる。
【0126】
溶液(S)中に含まれるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)については、本発明の方法で得られるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)について示した実施形態及び選択優先事項が当てはまる。
【0127】
工程ii)
工程ii)においては、前記少なくとも1種の溶媒を溶液(S)から分離して、膜(M)の緻密な分離層を得る。工程ii)で溶液(S)から前記少なくとも1種の溶媒を分離する前に、工程i)で用意した溶液(S)を濾過して濾過溶液(fS)を得ることが可能である。溶液(S)から少なくとも1種の溶媒を分離するための、以下に述べる実施形態及び優先事項は、本発明のこの実施形態で使用する濾過溶液(fS)から該少なくとも1種の溶媒を分離するためにも、同様に適用される。
【0128】
溶液(S)からの少なくとも1種の溶媒の分離は、ポリマーから溶媒を分離するのに適した、当業者に公知の任意の方法により行うことができる。
【0129】
好ましくは、溶液(S)からの少なくとも1種の溶媒の分離は、相転換(phase inversion)法を介して行う。
【0130】
本発明の文脈における相転換法とは、溶解したポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)を固相に変換する方法を意味する。従って、相転換法は沈殿法と表現することもできる。工程ii)によれば、この変換は、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)から少なくとも1種の溶媒を分離することにより行う。当業者には適切な相転換法が知られている。
【0131】
相転換法は、例えば、溶液(S)を冷却することによって行うことができる。この冷却の間に、この溶液(S)中に含まれるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)が沈殿する。相転換法を実施する別の可能性は、溶液(S)を、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)に対して非溶媒である水性液体と接触させることである。そうすると、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)が同様に沈殿する。ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)に対して非溶媒である好適な水性液体は、例えば、液体状態で後述するプロトン性極性溶媒である。本発明の文脈において好ましい別の相転換法は、溶液(S)を少なくとも1種のプロトン性極性溶媒に浸漬する(immersing)ことによる相転換である。
【0132】
したがって、一実施形態では、工程ii)において、溶液(S)を少なくとも1種のプロトン性極性溶媒に浸漬することによって、溶液(S)中に含まれる少なくとも1種の溶媒を、溶液(S)中に含まれるポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)から分離する。
【0133】
つまり、膜(M)の緻密な分離層は、溶液(S)を少なくとも1種のプロトン性極性溶媒に浸漬することにより形成される。
【0134】
適切な少なくとも1種のプロトン性極性溶媒は当業者に知られている。少なくとも1種のプロトン性極性溶媒は、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)に対して非溶媒であることが好ましい。
【0135】
好適なプロトン性極性溶媒の少なくとも1つは、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、グリセロール、エチレングリコール及びそれらの混合物である。
【0136】
工程ii)は、通常、工程ii)で得られる膜(M)の緻密な分離層の形態に対応する形態の溶液(S)を用意することを包含する。
【0137】
したがって、本発明の一実施形態では、工程ii)は、溶液(S)を流延して溶液(S)のフィルムを得ること、又は溶液(S)を少なくとも1つの紡糸口金に導いてこれを通過させて溶液(S)の少なくとも1つの中空繊維を得ることを含む。
【0138】
したがって、好適な一実施形態では、工程ii)は以下の工程:
ii-1)工程i)で用意した溶液(S)を流延して、溶液(S)のフィルムを得る工程、
ii-2)工程ii-1)で得た溶液(S)の膜から少なくとも1種の溶媒を蒸発させて、膜(M)の緻密な分離層を得る工程
を含む。
【0139】
これは、膜(M)の緻密な分離層が、溶液(S)の膜から少なくとも1種の溶媒を蒸発させることによって形成されることを意味する。
【0140】
工程ii-1)では、溶液(S)を、当業者に公知の方法によって流延することができる。通常、溶液(S)の流延は、20~150℃の範囲、好ましくは40~100℃の範囲の温度に加熱したキャスティングナイフを用いて行う。
【0141】
溶液(S)は、通常、ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)又は溶液(S)に含まれる少なくとも1種の溶媒と反応しない、基材上に流延する。
【0142】
溶液(S)は多孔性支持層上に流延することが好ましい。この溶液はスピンコーティングによって不活性基材上に流延することもできる。
【0143】
膜(M)の緻密な分離層を得るために、工程ii)の分離は、通常、溶液(S)中に含まれる少なくとも1種の溶媒を蒸発させることによって行われる。
【0144】
中空糸膜を得るには、乾湿式紡糸法を採用することができる。溶液(S)はいろいろ異なるポリマー濃度を有することができ、これにより多孔質内層の表面空孔率及び孔径を変動させことができる。輸送抵抗を最小にするためには、高度に多孔質の支持層が好ましい。したがって、溶媒含有量の高いボア液(bore fluids)が好ましい。ボア液中の溶媒含有量は50質量%を超えることが好ましい。高度に欠陥のない選択層を形成するには、極性沈殿浴中で沈殿させることが好適である。エタノール、プロパノール又は1,3-プロパンジオールのような水混和性溶媒を50質量%未満さらに含む水中での沈殿が好適である。溶液(S)からの中空繊維の調製に関するさらなる詳細は、T.-S.Chung et.al.,Journal of Membrane Science 541(2017)367に記載されている。さらに、高度に欠陥のない選択層を調製するためには、高い剪断速度での紡糸が不可欠である。C3H6/C3H8-分離に対して高い選択性を得るためには、5000s-1を超える高い剪断速度での紡糸が好ましい。
【0145】
次いで、中空繊維の外側をポリジメチルシロキサン層でディップコーティング法により被覆して緻密な被覆層を形成する。この方法の詳細は、T.-S.Chung et.al.,Journal of Membrane Science 541(2017)367に記載されている。
【0146】
ガス混合物(GM)からのプロピレンの分離方法
膜(M)を用いてプロピレンとプロパンとを含むガス混合物(GM)からプロピレンを分離するための本発明の方法の好適な実施形態では、膜(M)は保持物側と透過物側とを有し、ガス混合物(GM)は膜(M)の保持物側と接触させる。
【0147】
ガス混合物(GM)中に含まれるプロピレンは、膜(M)の透過物側に透過し、膜(M)の透過物側ではプロピレンが濃縮された富化(enriched)透過物が得られ、膜(M)の保持物側ではプロピレンが減少した枯渇(depleted)保持物が得られる。
【0148】
従って、本発明の別の目的は、膜(M)が保持物側と透過物側とを備え、ガス混合物(GM)を膜(M)の保持物側と接触させ、プロピレンを膜(M)の透過物側に透過させて、プロピレンが富化した透過物とプロピレンが枯渇した保持物とを得る、方法である。
【0149】
ガス混合物(GM)は、通常、ガス混合物(GM)の総質量に基づいて、プロピレン10~90%、プロパン10~90%、その他のガス0~80%を含む。
【0150】
ガス混合物中に含まれる他のガスは、水素又は他の炭化水素化合物からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0151】
膜(M)の保持物側の圧力は、膜(M)の透過物側の圧力よりも高くすることも、低くすることも、等しくすることもできる。好適な実施形態では、膜(M)の保持物側の圧力は、膜(M)の透過物側の圧力より高い。圧力差は通常、2~15barの範囲である。
【実施例】
【0152】
本発明について、以下の実施例によってさらに説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0153】
使用する成分
DCDPS:4,4’-ジクロロジフェニルスルホン
TMH:トリメチルヒドロキノン
DHDPS:4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン
ビスフェノールA:4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール
炭酸カリウム:K2CO3;無水;体積平均粒径32.4μm
NMP:N-メチルピロリドン
PESU:ポリエーテルスルホン(ULTRASON(登録商標)E3010)
PPSU:ポリフェニレンスルホン(ULTRASON(登録商標)P3010)
DMAc:ジメチルアセトアミド
一般的手順
ポリマーの粘度数は25℃で、NMP中1%溶液で測定する。
【0154】
ポリマーの単離は、脱塩水中のポリマーのNMP溶液を室温(25℃)で滴下させることによって行う。滴下高さは0.5m、処理量は約2.5リットル/hである。次いで、得られたビーズを85℃で20時間、水で抽出する(水処理量160リットル/h)。ビーズを減圧下(100mbar未満)、150℃で24h(時間)乾燥させる。
【0155】
得られた生成物のガラス転移温度は、示差走査熱量測定により、2回目の加熱サイクルにおいて10K/分の昇温速度で測定する。
【0156】
数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、PMMA(ポリ(メチルメタクリレート))を標準物質とするDMAc/LiBr中でのGPCによって測定する。
【0157】
メチル末端基の含有量は、1H-NMRで測定し、3,8~4ppmのシグナルを積分する(CDCl3/TMS)。Cl末端基の含有量は、サンプルのCl含有量によって測定し、管内焼却によって決定する。
【0158】
OH末端基の含有量は電位差滴定によって決定する。
【0159】
得られたポリマーの熱安定性は熱重量分析で測定する。その測定にはNetsch STA 449F3-装置を使用した。測定は以下の方法で行った。すなわち、試料を150℃の真空中(圧力<1mbar)で24時間乾燥させた。その後、試料を、大気下で20K/分の加熱速度で380℃まで加熱し、この温度で30分間保持する。「減量加熱(loss heating)」は加熱中の質量損失を示し、「減量アニール(loss annealing)」は30分間の保持中の質量損失を示す。
【0160】
実施例1:ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)
温度計、ガス導入管、Dean-Stark-トラップを備えた4リットルのガラス製反応器に、574.34g(2.00mol)のDCDPS、304.38g(2.00mol)のTMH、290.24g(2.10mol)の炭酸カリウムを窒素雰囲気下、950mlのNMPに懸濁させる。混合物を1時間にわたって190℃まで加熱する。反応水は連続的に蒸留除去する。8h(時間)の反応期間の後、NMP(2050ml)で希釈することにより反応を停止する。反応期間は190℃での滞留時間であるとみなす。混合物を1時間にわたって室温まで冷却し、生成した塩化カリウムを濾別する。
【0161】
実施例2:ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)PTPESU 1
温度計、ガス導入管、Dean-Stark-トラップを備えた4リットルのガラス製反応器に、574.34g(2.00mol)のDCDPS、304.38g(2.00mol)のTMH、290.24g(2.10mol)の炭酸カリウムを窒素雰囲気下、950mlのNMPに懸濁させる。混合物を1時間にわたって190℃に加熱する。反応水を連続的に留去する。8h(時間)の反応期間後、生成物混合物をNMP(1000ml)の添加により130℃に冷却する。反応期間は190℃での滞留時間とみなす。その後、50gのメチルクロライドを60分間かけて反応器に添加し、混合物を30分間窒素でパージし、最後にNMP(1050ml)を添加した後、室温まで冷却する。生成した塩化カリウムを濾別する。
【0162】
実施例3:ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)PTPESU 2
温度計、ガス導入管、Dean-Stark-トラップを備えた4リットルのガラス製反応器に、574.34g(2.00mol)のDCDPS、153.66g(1.01mol)のTMH、250.28g(1.00mol)のDHDPS、及び290.24g(2.10mol)の炭酸カリウムを、窒素雰囲気下、950mlのNMPに懸濁させる。混合物を1時間にわたって190℃まで加熱する。反応水を連続的に留去する。8h(時間)の反応期間後、生成物混合物をNMP(1000ml)の添加により130℃に冷却する。反応期間は190℃での滞留時間とみなす。その後、50gのメチルクロライドを60分間かけて反応器に添加し、混合物を30分間窒素でパージし、最後にNMP(1050ml)を添加した後、室温まで冷却する。生成した塩化カリウムを濾別する。
【0163】
実施例4:ポリアリーレンエーテルスルホンポリマー(P)
温度計、ガス導入管、Dean-Stark-トラップを備えた4リットルのガラス製反応器に、574.34g(2.00mol)のDCDPS、307.36g(2.02mol)のTMH、290.24g(2.10mol)の炭酸カリウムを窒素雰囲気下、950mlのNMPに懸濁させる。混合物を1時間にわたって190℃まで加熱する。反応水を連続的に留去する。8h(時間)の反応期間後、生成物混合物をNMP(1000ml)の添加により130℃に冷却する。反応期間は190℃での滞留時間とみなす。その後、50gのメチルクロライドを60分間かけて反応器に添加し、混合物を30分間窒素でパージし、最後にNMP(1050ml)を添加した後、室温まで冷却する。生成した塩化カリウムを濾別する。
【0164】
比較例5
ポリアリーレンエーテルスルホンポリマーを文献(Roseら, Polymer 1996,37,1735)の手順に従って調製した。DCDPS、TMH及び炭酸カリウムを、溶媒としてのスルホラン及びアセオトロピック剤としてのトルエン中で使用した。比較例4では、反応時間は250℃で8hであり、また、比較例5では、反応時間は250℃で10hであった。
【0165】
比較例6
温度計、ガス導入管、Dean-Stark-トラップを備えた4リットルのガラス製反応器に、574.34g(2.00mol)のDCDPS、250.28g(1.00mol)のDHDPS、171.21g(0.75mol)のビスフェノールA、38.04g(0.25mol)のTMH、及び304.06g(2.20mol)の炭酸カリウムを、窒素雰囲気下、950mlのNMPに懸濁させる。混合物を1時間にわたって190℃まで加熱する。反応水を連続的に留去する。8h(時間)の反応期間後、生成物混合物をNMP(1000ml)の添加により130℃に冷却する。反応期間は190℃での滞留時間とみなす。その後、50gのメチルクロライドを60分間かけて反応器に添加し、混合物を30分間窒素でパージし、最後にNMP(1050ml)を添加した後、室温まで冷却する。生成した塩化カリウムを濾別する。
【0166】
調製したポリマー及び比較例7として生のPESUについて得られた特性を表1に示す。
【0167】
【0168】
本発明の方法によって、より高い分子量とより狭い分子量分布のポリマーが得られることが明らかである。さらに、本発明の方法によって得られるポリマーの熱安定性は著しく高い。
【0169】
ガス分離膜
中空糸膜を、他の文献(T.-S.Chung,J.Membr.Sci.541(2017)367)に見られる乾湿式紡糸法を採用して作製した。紡糸口金流路の外径(OD)は1.2mm、内径(ID)は0.8mmであった。詳細な中空糸紡糸条件とパラメータを表2に示す。簡単に述べると、中空繊維を製造するために、以下の手順を適用した。(1)ドープ調製:ポリマー/NMP混合物を2つ口丸底ガラスフラスコ中でメカニカルスターラー(IKA(登録商標)、EUROSTAR、EURO-STD)を用いて60℃で一晩撹拌し続けた。(2)紡糸:ドープとボア液をISCOシリンジポンプに移し、一晩脱気した後、特定の条件(表2参照)に従って中空糸を紡糸した。(3)後処理:紡糸後の中空糸を切断し、水浴に3日間浸漬し、毎日水を交換して残留溶媒を除去した。(4)乾燥:溶媒交換法で中空糸を乾燥させた。この方法では、中空糸を新鮮なメタノール循環浴に30分間3回浸漬した後、次にn-ヘキサンを用いて同様の操作を繰り返した。溶媒交換した中空糸を、室温(例えば約25℃)の空気中で少なくとも24h時間乾燥させた。次に、乾燥したままの中空糸を試験及び他の特性評価に使用した。
【0170】
その後、中空糸をモジュールに組み立てた。10~20本の中空糸を含む中空糸膜モジュールを、先に述べたプロトコル(T.-S.Chung,J.Membr.Sci.541(2017)367)に従って作製した。簡単に説明すると、中空糸の一端は速硬化性エポキシ樹脂(Araldite(登録商標)、スイス)で封止し、他端は通常のエポキシ樹脂を塗布してアルミニウムホルダーに埋め込んだ。中空糸の有効長は約15cmであった。
【0171】
初期状態の中空糸膜モジュールについて、PDMSを被覆する前にガス透過試験を行った。中空糸の選択性を回復させるため、モジュール作製後、シリコンゴムすなわちPDMS(Sylgard(登録商標)184)でヘキサン中の3.0質量%PDMS溶液を用いて中空糸膜を被覆した。膜をPDMS溶液に約5分間浸漬した。その後、膜を乾燥させ、室温の空気中で少なくとも48h(時間)硬化させた。
【0172】
中空糸膜についての純ガス透過試験を、他の文献(T.-S.Chung,J.Membr.Chung,J.Membr.Sci.541(2017)367)に記載されているような透過セルシステム装置を使用して周囲温度(約25℃)で実施した。ガス透過流量は、万能ガス流量計(Agilent、ADM1000、0.5~1000ml/分)及び手動シャボン玉流量計(有効測定容量=0.50ml、マーキング高さ=10cm)を用いて測定した。手動式シャボン玉流量計を使用したのは、極めて低いガス流量でも高い精度(例えば<0.01ml/分)で測定することができるからである。凝縮性ガス(エタン、エチレン、プロパン、プロピレンなど)については、可塑化の発現を促進し、安定した透過流束を得るために、少なくとも30分間、各試験圧力で中空糸をコンディショニングした。ガス透過試験のために、各紡糸条件について少なくとも3種類の膜モジュールを製造した。本研究では、特に断りのない限り、平均結果を報告したものである。
【0173】
純ガスパーミエンス(J)は、以下の式に従って計算することができる。
【0174】
【0175】
ここで、Qはガス透過流量(cm3/分)、nは各モジュールの中空糸の数、Dは中空糸の外径(cm)、Lmは中空糸の有効長(cm)、ΔPは膜貫通圧力差(cmHg)である。パーミエンス(permeance)の単位はGPU(1GPU=1×10-6cm3(STP)/(cm2 s cmHg))である。純ガスパーミエンス選択性(αi/j)は以下のように定義される。
【0176】
【0177】
ここで、JiとJjは、それぞれ、ガスiとjのパーミエンスである。
【0178】
混合ガス試験を、欠陥のない中空糸膜について室温(25±2℃)で行った。等モル混合ガス(プロパン/プロペン=50/50モル%)を供給物として使用した。混合ガス透過試験には5barの膜貫通圧力(5barは当研究室の周囲条件における混合ガスの最大安定圧力である)を適用した。透過物の組成は、ガスクロマトグラフィー(GC;Agilent、7890A)を用いて分析した。
【0179】
【0180】
新しい膜の耐久性を確認するため、C3H6とC3H8による純ガス濾過試験を90日間実施した。PTPESU1をベースにした繊維の場合、C3H6/C3H8の選択性は、この間に約184から150に低下しただけであった。
【0181】
表2から明らかなように、本発明の膜は、混合物C3H6/C3H8に対して、PESUをベースとする参考膜と比較して、特別に高い選択性を示す。
【国際調査報告】