IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧 ▶ チャンシン メモリー テクノロジーズ インコーポレイティドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】溶剤組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20240118BHJP
   G03F 7/16 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H01L21/30 577
H01L21/30 563
G03F7/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569540
(86)(22)【出願日】2020-08-11
(85)【翻訳文提出日】2022-11-14
(86)【国際出願番号】 CN2020108436
(87)【国際公開番号】W WO2022032478
(87)【国際公開日】2022-02-17
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(71)【出願人】
【識別番号】522444346
【氏名又は名称】チャンシン メモリー テクノロジーズ インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】高 宇
(72)【発明者】
【氏名】中崎 晋
(72)【発明者】
【氏名】宮原 邦明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 透
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和孝
(72)【発明者】
【氏名】リン,ユチェン
【テーマコード(参考)】
2H225
5F146
【Fターム(参考)】
2H225CA12
2H225EA24P
5F146HA07
5F146MA02
(57)【要約】
【課題】EBR性能及びプリウェット性能を有し、かつ半導体製造プロセスにおけるEBR処理においてウェハ周縁部に形成される盛り上がり(ハンプ)の形成が抑制できる溶剤組成物を提供する。
【解決手段】(a)炭素原子数5以上のケトン化合物及び(b)ラクトン化合物を含有する溶剤組成物であって、(b)の含有量が5~90質量%である、溶剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)炭素原子数5以上のケトン化合物及び(b)ラクトン化合物を含有する溶剤組成物であって、前記(b)の含有量が5~90質量%である、溶剤組成物。
【請求項2】
前記(a)が環状ケトン化合物である、請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項3】
前記(a)がシクロヘキサノンである、請求項2に記載の溶剤組成物。
【請求項4】
前記(b)がγ-ブチロラクトンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項5】
前記(a)の含有量が5~80質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項6】
更に(c)下記式(1)で表される、アルキレングリコールアルキルエーテル及びそのカルボン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
O(C2nO) (1)
(式(1)において、Rはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びt-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表す。Rは水素原子、又は-COCH、-COC、-COC及び-COCからなる群より選択されるアシル基を表す。nは2又は3であり、xは1~4の整数である。)
【請求項7】
前記(c)の含有量が5~80質量%である、請求項6に記載の溶剤組成物。
【請求項8】
前記(a)の含有量が5~70質量%、前記(b)の含有量が5~60質量%、前記(c)の含有量が5~70質量%である、請求項6に記載の溶剤組成物。
【請求項9】
前記(c)がプロピレングリコールモノメチルエーテルである、請求項6~8のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項10】
前記(c)がプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである、請求項6~8のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項11】
前記(c)がプロピレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの両方を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項12】
塗布液を基板に塗布して形成され、基板上の端部に付着した不要の塗布膜を除去するために用いる、請求項1~11のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項13】
前記塗布液がレジスト及び反射防止剤からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項12に記載の溶剤組成物。
【請求項14】
基板のプリウェットに用いる、請求項1~13のいずれか一項に記載の溶剤組成物。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項に記載の溶剤組成物を用いて、塗布液を基板に塗布して形成され、基板上の端部に付着した不要の塗布膜を除去することを含む、EBR処理方法。
【請求項16】
前記塗布液がレジスト及び反射防止剤からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項15に記載のEBR処理方法。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか一項に記載の溶剤組成物を用いて基板をプリウェットすることを含む、基板をプリウェットする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセスにおけるウェハ上への塗布膜形成工程において、反射防止剤、レジスト等の塗布液をスピンコーターでウェハ上に塗布した後に行われるウェハの周縁部塗布膜除去(EBR:Edge Bead Removal)の際に、塗布膜の周縁部に生じる盛り上がり(ハンプ)の高さを抑制可能であるEBR性能を有し、かつ反射防止剤、レジスト等の塗布液の使用量の削減効果を有するプリウェット性能を有する溶剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハ上にパターンを形成させるリソグラフィ工程においては、スピンコーターを用いてウェハ表面に反射防止剤、レジストなどの塗布液を塗布する。このとき、ウェハ周縁部には塗布膜が厚くなったビードが形成されるため、これを溶剤により溶解除去するEBR処理が行われている。このEBR処理では、一般にウェハを回転させながら周縁部分の塗布膜の表面及びウェハの裏面に向けてノズルから塗布膜を溶解除去するための溶剤(EBR溶剤と称する)を吐出する方法が用いられている。
【0003】
ウェハ周縁部のビードをEBR処理により溶解除去した後には、ウェハにはリング状に塗布膜が除去された領域と塗布膜が残された領域がある。これらの領域の境界付近の塗布膜周縁部には、EBR処理の際にハンプと呼ばれる塗布膜が盛り上がった部分が形成される。塗布膜のハンプが形成された部分の厚さを、周縁部よりも内側におけるハンプ形成がない平坦な塗布膜の厚さで割った比率をハンプ比と呼ぶ。このハンプはリソグラフィ工程における歩留まり低下の原因となることからEBR処理時においては塗布膜のハンプを抑制すること、すなわちハンプ比をできるだけ1に近くなるように低くすることが求められている。
【0004】
特許文献1(特開2017-92445号公報)ではEBR処理を行う際、除去液が噴出されるノズルの近傍でガスをスリット状のノズルから円周方向に吹き付けることにより、ウェハ表面に接触した除去液に対して円周外側方向に力を加えてハンプの高さを抑制している。
【0005】
特許文献2(特開2018-181963号公報)ではOK-73シンナー(プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)/プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)=0.7/0.3混合液)に表面張力の高い希釈水を添加し、溶剤及び配管を冷却することで、EBR処理液の表面張力を制御してハンプの高さの低減を試みている。
【0006】
特許文献3(特開2018-121045号公報)ではEBR処理時にスピンコーターのウェハの回転数、EBR溶剤のノズルの角度、EBR処理時間などの処理条件を適正化することでハンプの抑制が試みられている。
【0007】
このようにスピンコーターにハンプを抑制するための機能を持たせること、及び操作条件を適正化することが試みられてきた。ほかにも、塗布膜に対して適切な組成のEBR溶剤を用いることによってハンプの抑制が試みられてきた。
【0008】
例えば、特許文献4(特開2007-179043号公報)では、ホトリソグラフィ用洗浄液の組成として、γ-ブチロラクトン、アニソール及びメチルエチルケトン(MEK)の混合物が記載されている。
【0009】
特許文献5(特開2006-189518号公報)では、リソグラフィー用洗浄液の組成として、酢酸ブチル及びシクロヘキサノンの混合物が記載されている。
【0010】
特許文献6(特開2007-178589号公報)では、ホトリソグラフィ用洗浄液の組成として、酢酸ブチル及びシクロヘキサノンの混合物、酢酸ブチル、シクロヘキサノン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)の混合物が記載されている。
【0011】
特許文献7(特開平11-218933号公報)では、レジスト洗浄除去用溶剤の組成として、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、メチルエチルケトン(MEK)及びγ-ブチロラクトンの混合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2017-92445号公報
【特許文献2】特開2018-181963号公報
【特許文献3】特開2018-121045号公報
【特許文献4】特開2007-179043号公報
【特許文献5】特開2006-189518号公報
【特許文献6】特開2007-178589号公報
【特許文献7】特開平11-218933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一方で、反射防止剤及びレジストなどの塗布液は特に高価であることから、これらの塗布液のスピンコートにおいては使用量を可能な限り減らして均一に塗布するために、スピンコートする直前にウェハ表面全体に適切な溶剤を塗布する操作が行われている。これをプリウェット処理という。
【0014】
プリウェット処理とEBR処理で異なる溶剤を用いる場合、溶剤毎に配管ライン、タンク等の設置が必要となる。OK-73シンナーとして知られている溶剤組成物(PGME/PGMEA=0.7/0.3)は、EBR処理及びプリウェット処理に従来使用されている。しかしOK-73シンナーにはEBR処理後のハンプ比が高いという問題がある。このため、ハンプの形成を抑制でき、EBR処理とプリウェット処理の両方の性能を有する溶剤組成物の開発が望ましい。
【0015】
本発明は、EBR性能及びプリウェット性能を有し、かつ半導体製造プロセスにおけるEBR処理においてウェハ周縁部に形成される盛り上がり(ハンプ)の形成が抑制できる溶剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明者らは、溶剤組成物の組成を鋭意検討した。その結果、本発明者らは、特定のケトン化合物とラクトン化合物を含有する溶剤組成物が、EBR処理においてウェハ周縁部に形成される盛り上がり(ハンプ)の形成を抑制でき、かつプリウェット性能を有することを見出した。
すなわち、本発明は以下の[1]~[20]を包含する。
[1]
(a)炭素原子数5以上のケトン化合物及び(b)ラクトン化合物を含有する溶剤組成物であって、前記(b)の含有量が5~90質量%である、溶剤組成物。
[2]
前記(a)が環状ケトン化合物である、[1]に記載の溶剤組成物。
[3]
前記(a)がシクロヘキサノンである、[2]に記載の溶剤組成物。
[4]
前記(b)がγ-ブチロラクトンである、[1]~[3]のいずれかに記載の溶剤組成物。
[5]
前記(a)の含有量が5~80質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の溶剤組成物。
[6]
更に(c)下記式(1)で表される、アルキレングリコールアルキルエーテル及びそのカルボン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を含有する[1]~[5]のいずれかに記載の溶剤組成物。
O(C2nO) (1)
(式(1)において、Rはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びt-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表す。Rは水素原子、又は-COCH、-COC、-COC及び-COCからなる群より選択されるアシル基を表す。nは2又は3であり、xは1~4の整数である。)
[7]
前記(c)の含有量が5~80質量%である、[6]に記載の溶剤組成物。
[8]
前記(a)の含有量が5~70質量%、前記(b)の含有量が5~60質量%、前記(c)の含有量が5~70質量%である、[6]に記載の溶剤組成物。
[9]
前記(c)がプロピレングリコールモノメチルエーテルである、[6]~[8]のいずれかに記載の溶剤組成物。
[10]
前記(c)がプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである、[6]~[8]のいずれかに記載の溶剤組成物。
[11]
前記(c)がプロピレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの両方を含む、[6]~[8]のいずれかに記載の溶剤組成物。
[12]
塗布液を基板に塗布して形成され、基板上の端部に付着した不要の塗布膜を除去するために用いる、[1]~[11]のいずれかに記載の溶剤組成物。
[13]
前記塗布液がレジスト及び反射防止剤からなる群から選択される少なくとも1種である、[12]に記載の溶剤組成物。
[14]
基板のプリウェットに用いる、[1]~[13]のいずれかに記載の溶剤組成物。
[15]
[1]~[11]のいずれかに記載の溶剤組成物を用いて、塗布液を基板に塗布して形成され、基板上の端部に付着した不要の塗布膜を除去することを含む、EBR処理方法。
[16]
前記塗布液がレジスト及び反射防止剤からなる群から選択される少なくとも1種である、[15]に記載のEBR処理方法。
[17]
[1]~[11]のいずれかに記載の溶剤組成物を用いて基板をプリウェットすることを含む、基板をプリウェットする方法。
[18]
塗布液を基板に塗布して形成され、基板上の端部に付着した不要の塗布膜を除去するための[1]~[11]のいずれかに記載の溶剤組成物の使用。
[19]
前記塗布液がレジスト及び反射防止剤からなる群から選択される少なくとも1種である、[18]に記載の使用。
[20]
基板をプリウェットするための[1]~[11]のいずれかに記載の溶剤組成物の使用。
【発明の効果】
【0017】
本発明の溶剤組成物は、EBR性能及びプリウェット性能を有し、かつ半導体製造プロセスにおけるEBR処理においてウェハ周縁部に形成される盛り上がり(ハンプ)の形成を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、その精神と実施の範囲内において様々な応用が可能であることを理解されたい。
【0019】
[溶剤組成物]
溶剤組成物は、(a)炭素原子数5以上のケトン化合物及び(b)ラクトン化合物を含有し、溶剤組成物中の(b)の含有量は5~90質量%である。
【0020】
(a)炭素原子数5以上のケトン化合物
ケトン化合物は、炭素原子数5以上のケトン化合物であれば、特に制限なく用いることができる。入手容易性の観点から、ケトン化合物は、炭素原子数5~11であることが好ましく、炭素原子数5~7であることがより好ましい。炭素原子数5以上であることにより、引火点が低くなりすぎず、溶剤組成物の製造及び使用における設備、作業環境等の要件を軽減することができる。
【0021】
ケトン化合物は、環状であっても非環状であってもよい。環状ケトン化合物としては、2-メチルシクロブタノン、シクロペンタノン、2-メチルシクロペンタノン、2,5-ジメチルシクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-メチルシクロヘキサノン、シクロヘプタノンなどが挙げられる。非環状ケトン化合物としては、2-ペンタノン、3-ペンタノン、4-メチル-2-ペンタノン、2,4-ジメチル-3-ペンタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、5-メチル-2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2,6-ジメチル-4-ヘプタノン、2-オクタノン、3-オクタノン、2-ノナノン、3-ノナノン、5-ノナノン、2-ウンデカノンなどが挙げられる。ケトン化合物は、環状ケトン化合物であることが好ましく、上記の環状ケトン化合物の中でも、シクロヘキサノンがより好ましい。
【0022】
溶剤組成物中の(a)の含有量は、5~80質量%であることが好ましく、10~70質量%であることがより好ましく、20~60質量%であることが更に好ましい。
【0023】
(b)ラクトン化合物
ラクトン化合物は、特に制限なく用いることができる。ラクトン化合物は、炭素原子数4~9であることが好ましく、炭素原子数4~6であることがより好ましい。ラクトン化合物は、環員数4~7であることが好ましく、環員数5又は6であることがより好ましい。好ましいラクトン化合物としては、γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、β-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-ノナラクトンなどが挙げられる。ラクトン化合物は、入手容易性の観点から、上記の中でもγ-ブチロラクトンが好ましい。
【0024】
溶剤組成物中の(b)の含有量は、5~90質量%であり、10~70質量%であることが好ましく、15~50質量%であることがより好ましく、20~45質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
(c)アルキレングリコールアルキルエーテル
溶剤組成物は、更に(c)下記式(1)で表される、アルキレングリコールアルキルエーテル及びそのカルボン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
O(C2nO) (1)
(式(1)において、Rはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びt-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基を表す。Rは水素原子、又は-COCH、-COC、-COC及び-COCからなる群より選択されるアシル基を表す。nは2又は3であり、xは1~4の整数である。)
が水素原子である場合、式(1)はアルキレングリコールアルキルエーテルを表し、Rがアシル基である場合、式(1)はアルキレングリコールアルキルエーテルのカルボン酸エステルを表す。Rは、水素原子又は-COCH(アセチル基)であることが好ましい。
【0026】
式(1)で表されるアルキレングリコールアルキルエーテルとしては、たとえば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。式(1)で表されるアルキレングリコールアルキルエーテルのカルボン酸エステルとしては、上記アルキレングリコールアルキルエーテルのアセテート、プロピオネート、ブチレートなどが挙げられる。
【0027】
溶剤組成物中の(c)の含有量は、5~80質量%であることが好ましく、10~75質量%であることがより好ましく、15~70質量%であることがさらに好ましい。
【0028】
(a)、(b)及び(c)の合計に対する(c)の含有量は、5~70質量%であることが好ましく、7~65質量%であることがより好ましく、10~55質量%であることが更に好ましい。
【0029】
一実施形態では、(c)はプロピレングリコールモノメチルエーテルであることが好ましい。(c)がプロピレングリコールモノメチルエーテルである場合、溶剤組成物中のプロピレングリコールモノメチルエーテルの含有量は、5~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがより好ましく、15~50質量%であることが更に好ましい。
【0030】
別の実施形態では、(c)はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートであることが好ましい。(c)がプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである場合、溶剤組成物中のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの含有量は、5~50質量%であることが好ましく、10~45質量%であることがより好ましく、15~40質量%であることが更に好ましい。
【0031】
更に別の実施形態では、(c)はプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)の両方を含むことが好ましい。この場合、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に対するプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)の質量比は、PGME/PGMEA=1.0~3.0であることが好ましく、1.5~2.5であることがより好ましい。溶剤組成物中のプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)の合計の含有量は、5~50質量%であることが好ましく、7~45質量%であることがより好ましく、10~40質量%であることが更に好ましい。
【0032】
溶剤組成物が(c)を含む場合、(a)の含有量が5~70質量%、(b)の含有量が5~80質量%、(c)の含有量が5~70質量%であることが好ましく、(a)の含有量が10~60質量%、(b)の含有量が10~60質量%、(c)の含有量が10~50質量%であることがより好ましい。
【0033】
(c)がプロピレングリコールモノメチルエーテルである場合、(a)の含有量が10~70質量%、(b)の含有量が5~60質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテルの含有量が10~70質量%であることが好ましく、(a)の含有量が15~60質量%、(b)の含有量が10~50質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテルの含有量が15~50質量%であることがより好ましい。
【0034】
(c)がプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである場合、(a)の含有量が5~60質量%、(b)の含有量が10~70質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの含有量が5~50質量%であることが好ましく、(a)の含有量が10~50質量%、(b)の含有量が20~55質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの含有量が10~45質量%であることがより好ましい。
【0035】
(c)がプロピレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの両方を含む場合、(a)の含有量が5~60質量%、(b)の含有量が10~80質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート合計の含有量が5~50質量%であることが好ましく、(a)の含有量が10~50質量%、(b)の含有量が20~75質量%、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート合計の含有量が7~45質量%であることがより好ましい。
【0036】
[塗布膜]
溶剤組成物は、反射防止膜、レジスト膜などの種々の塗布膜に適用できる。塗布膜は、シリコンウェハなどの基板上にスピンコーターなどを用いて塗布液を塗布することによって形成される。塗布液は、好ましくはレジスト及び反射防止剤からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0037】
レジストは、ポジ型、ネガ型のいずれでもよく、例としてゴム系ネガレジスト、g線用フォトレジスト、i線用フォトレジスト、KrF用フォトレジスト、ArF用フォトレジスト、EUV用フォトレジスト、電子ビーム用フォトレジストが挙げられる。光酸発生剤を含む化学増幅型レジストも使用可能である。レジストは、アルカリ水溶液により現像できるものが好ましく用いられる。具体的には、例えば、ナフトキノンジアジド化合物とノボラック樹脂等のベース樹脂とを含有するポジ型レジスト、光酸発生剤と、酸により分解してアルカリ水溶液に対する溶解性が増大する化合物と、アルカリ可溶性樹脂とを含有するポジ型レジスト、光酸発生剤と、酸により分解し、アルカリ水溶液に対する溶解性が増大する基を有するアルカリ可溶性樹脂とを含有するポジ型レジスト、光酸発生剤と、架橋剤と、アルカリ可溶性樹脂とを含有するネガ型レジストが挙げられる。レジストのベース樹脂としては、ノボラック樹脂、ポリヒドロキシスチレン、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル酸エステルの重合体、ヒドロキシスチレン(メタ)アクリル酸共重合体、シルセスキオキサンが挙げられる。「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルの総称である。
【0038】
反射防止剤としては、公知の反射防止剤を用いることができ、例として有機反射防止剤、ケイ素含有反射防止(SiARC)剤などが挙げられる。
【0039】
有機反射防止剤としては、例えば、吸光性化合物と樹脂とを含有する組成物、化学結合により連結した吸光性基を有する樹脂と架橋剤とを含有する組成物、吸光性化合物と架橋剤とを含有する組成物、吸光性を有する高分子架橋剤を含有する組成物が挙げられる。
【0040】
吸光性化合物としては、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、アゾ化合物、ナフタレン、アントラセン、アントラキノン、トリアジン及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0041】
樹脂としては、ポリエステル、ポリイミド、ポリスチレン、ポリ(4-ヒドロキシスチレン)、4-ヒドロキシスチレンとアルキルメタクリレート、アルキルアクリレート及び/又はスチレンとの共重合体、ノボラック樹脂、ポリアセタール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、フルオロカーボンポリマー、ナフタレン骨格を有するポリマー、ノルボルネン骨格を有するポリマー及び無水マレイン酸共重合体などの脂環式ポリマーが挙げられる。
【0042】
化学結合により連結した吸光性基を有する樹脂としては、アントラセン環、ナフタレン環、ベンゼン環、キノリン環、キノキサリン環、チアゾール環などの吸光性芳香環構造を有する樹脂を挙げることができる。特に、アントラセン環、ナフタレン環、ベンゼン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂、ノボラック樹脂が好ましく用いられる。
【0043】
架橋剤としては、アミノ基の水素原子がメチロール基及びアルコキシメチル基からなる群から選択される少なくとも1つで置換されたメラミン、ベンゾグアナミン、尿素、グリコールウリルが挙げられる。
【0044】
ケイ素含有反射防止剤は、ケイ素含有ポリマーを含む組成物であり、ケイ素-ケイ素σ結合をArF光(193nm)の吸光部位として用いる。ケイ素含有ポリマーとしては、フェニル基がペンダントされたポリシラン;ケイ素含有基がペンダントされたポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリビニルマレイミド、セルロース、アミロース、デキストラン、プルラン及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0045】
[EBR処理方法]
溶剤組成物は、EBR処理に好適に用いられる。EBR処理とは、塗布液を塗布した基板上の、端部に付着した不要の塗布膜を除去する処理である。溶剤組成物を用いたEBR処理方法は特に限定されず、当分野で公知の方法により実施できる。例えば、表面に塗布膜が形成された基板を回転保持部に保持させて回転させた状態で、ノズルから塗布膜の外縁よりも所定距離内側の位置に向けて溶剤組成物を吐出し、必要に応じて乾燥処理を行う。
【0046】
EBR処理後のハンプ比は、1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがより好ましく、1.3以下であることが更に好ましい。
【0047】
[プリウェット処理方法]
溶剤組成物は、プリウェット処理に好適に用いられる。溶剤組成物を用いたプリウェット処理方法は特に限定されず、当分野で公知の方法により実施できる。例えば、基板を回転保持部に保持させ、ノズルから溶剤組成物を吐出する一方、基板の回転を開始し、遠心力によって溶剤を基板の表面全体に塗布する。プリウェット処理後に塗布液を塗布することで、塗布液の使用量を低減することができる。
【0048】
[基板]
溶剤組成物が適用される基板は、特に限定されない。例えば、シリコンウェハ、ガラス基板、金属基板などが挙げられる。
【実施例
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によってなんら限定されるものではない。
【0050】
以下の実施例及び比較例では、下記の反射防止剤又はレジストを使用した。
反射防止剤A:信越化学工業株式会社製「ODL301」
反射防止剤B:日産化学株式会社製「LT8003」
反射防止剤C:日産化学株式会社製「HM918」(シリコン系反射防止剤)
反射防止剤D:信越化学株式会社製「SHB961」(シリコン系反射防止剤)
レジストA:信越化学株式会社製「X198」(化学増幅型レジスト)
レジストB:東京応化工業株式会社製「P6255」(化学増幅型レジスト、ベース樹脂:アクリル樹脂)
【0051】
1.溶剤組成物の調製
[実施例1]
シクロヘキサノン(昭和電工(株)製 電子工業用グレード品)6.0gとγ-ブチロラクトン(昭和電工(株)製 電子工業用グレード品)54.0gを室温、大気雰囲気中で110mLのガラス製サンプル瓶で秤量、混合して、実施例1の溶剤組成物を調製した。
[実施例2~22、比較例1~7]
実施例1と同様にして、表1に示す各組成の溶剤組成物を調製した。表1の組成におけるプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)は、昭和電工(株)製 電子工業用グレード品であった。
【0052】
2.EBR処理試験
以下の手順により、反射防止剤A~D又はレジストA~Bの塗布膜を形成し、EBR処理後のハンプ比の算出を行った。
【0053】
[反射防止剤AのEBR処理試験]
(1)プリウェット処理
スピンコーター(株式会社アクティブ製、ACT-300AIIS)のウェハ保持部(スピンチャック)に6インチのシリコンウェハをセットし、静止したウェハの中心部に、PGME:PGMEA=0.700:0.300(質量比)からなる処理液(OK-73シンナーとして知られている組成)1.5~2.0gをノズルから分注した。その後ウェハを1000rpmの回転数で10.5秒間回転させることで、ウェハ表面を溶剤でコーティングするプリウェット処理を行った。
(2)反射防止剤の塗布
プリウェット処理したウェハ上に反射防止剤A 0.2~0.25gを1300rpmの回転数で30秒間、700rpmの回転数で3秒間スピンコートすることでウェハ全体に厚さ100nmの反射防止膜を形成した。
(3)EBR処理
反射防止膜が形成されたウェハを1000rpmで回転させ、ウェハの端部から2mmの位置に向けて、8gの表1の溶剤組成物を20秒間かけて放出して塗布膜の周縁部分を洗浄除去した。更に、3000rpmの回転数で20秒間保持して洗浄部分を風乾させた。
(4)ベーキング処理
EBR処理後のウェハを250℃に加熱したホットプレート上に60秒間置いてベーキング処理を行い、更に、350℃に加熱したホットプレート上に60秒間置いてベーキング処理を行い、室温まで冷却した。
(5)ハンプ比の算出
このようにしてシリコンウェハ上に形成させた反射防止膜の周縁部及び平坦部の厚さを、接触式プロファイラー(KLA-TENCOR社製、P-12)でスキャンすることで測定した。ハンプの高さ(シリコンウェハの表面からハンプの頂点までの高さ)を反射防止膜の膜厚(シリコンウェハ表面から、反射防止膜の周縁部よりウェハ中心部に向かって位置する平坦な部分までの高さ)で割ることで、ハンプ比を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
[反射防止剤BのEBR処理試験]
(2)、(4)の操作を下記の通りとしたこと以外は、「反射防止剤AのEBR処理試験」と同様にして、EBR処理後のハンプ比の算出を行った。
(2)反射防止剤の塗布
プリウェット処理したウェハ上に反射防止剤B 0.2~0.25gを2000rpmの回転数で30秒間、3000rpmの回転数で5秒間、2000rpmの回転数で5秒間スピンコートすることでウェハ全体に厚さ190nmの反射防止膜を形成した。
(4)ベーキング処理
EBR処理後のウェハを180℃に加熱したホットプレート上に60秒間置いてベーキング処理を行い、更に、350℃に加熱したホットプレート上に60秒間置いてベーキング処理を行い、室温まで冷却した。
【0055】
[反射防止剤CのEBR処理試験]
(2)、(4)の操作を下記の通りとしたこと以外は、「反射防止剤AのEBR処理試験」と同様にして、EBR処理後のハンプ比の算出を行った。
(2)反射防止剤の塗布
プリウェット処理したウェハ上に反射防止剤C 0.2~0.25gを2700rpmの回転数で30秒間、700rpmの回転数で3秒間スピンコートすることでウェハ全体に厚さ40nmの反射防止膜を形成した。
(4)ベーキング処理
EBR処理後のウェハを220℃のホットプレート上に60秒間置いてベーキング処理を行い、室温まで冷却した。
【0056】
[反射防止剤DのEBR処理試験]
(2)、(4)の操作を下記の通りとしたこと以外は、「反射防止剤AのEBR処理試験」と同様にして、EBR処理後のハンプ比の算出を行った。
(2)反射防止剤の塗布
プリウェット処理したウェハ上に反射防止剤D 0.2~0.25gを1250rpmの回転数で30秒間、700rpmの回転数で3秒間スピンコートすることでウェハ全体に厚さ40nmの反射防止膜を形成した。
(4)ベーキング処理
EBR処理後のウェハを220℃のホットプレート上に60秒間置いてベーキング処理を行い、室温まで冷却した。
【0057】
[レジストAのEBR処理試験]
(2)、(4)の操作を下記の通りとしたこと以外は、「反射防止剤AのEBR処理試験」と同様にして、EBR処理後のハンプ比の算出を行った。
(2)レジストの塗布
プリウェット処理したウェハ上にレジストA 0.2~0.25gを1000rpmの回転数で30秒間、3000rpmの回転数で5秒間、2000rpmの回転数で5秒間スピンコートすることでウェハ全体に厚さ100nmのレジスト膜を形成した。
(4)ベーキング処理
EBR処理後のウェハを100℃のホットプレート上に60秒間置いてベーキング処理を行い、室温まで冷却した。
【0058】
[レジストBのEBR処理試験]
(2)、(4)の操作を下記の通りとしたこと以外は、「反射防止剤AのEBR処理試験」と同様にして、EBR処理後のハンプ比の算出を行った。
(2)レジストの塗布
プリウェット処理したウェハ上にレジストB 0.2~0.25gを1000rpmの回転数で40秒間、3000rpmの回転数で5秒間、2000rpmの回転数で5秒間スピンコートすることでウェハ全体に厚さ90nmのレジスト膜を形成した。
(4)ベーキング処理
EBR処理後のウェハを120℃のホットプレート上に60秒間置いてベーキング処理を行い、室温まで冷却した。
【0059】
3.プリウェット処理試験
以下の手順により、表1の溶剤組成物についてプリウェット処理液としての性能を評価した。
(1)プリウェット処理
スピンコーター(株式会社アクティブ製、ACT-300AIIS)のウェハ保持部(スピンチャック)に6インチのシリコンウェハをセットし、静止したウェハの中心部に表1の溶剤組成物1.5gをノズルから分注した。その後ウェハを1000rpmの回転数で10.5秒間回転させることで、ウェハ表面を溶剤組成物でコーティングするプリウェット処理を行った。
(2)反射防止剤の塗布
プリウェット処理したウェハ上に反射防止剤Dを1250rpmの回転数で30秒間、700rpmの回転数で3秒間スピンコートすることでウェハ全体に厚さ40nmの反射防止膜を形成した。
(3)性能評価
プリウェット処理液として比較例5の溶剤組成物を用いた場合を基準として、ウェハ全体をコーティングするために必要な反射防止剤Dの量を比較し、以下のように反射防止剤の使用量の削減効果を評価した。なお、比較例5の組成(PGME:PGMEA=0.700:0.300(質量比))は、OK-73シンナーとして知られており、プリウェット処理液として一般的に用いられる組成である。
合格:比較例5よりも反射防止剤の使用量が少なかった。
不合格:比較例5よりも反射防止剤の使用量が多かった。
【0060】
【表1-1】
【表1-2】
【国際調査報告】