(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(54)【発明の名称】粒子状(オキシ)水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20240123BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240123BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240123BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544058
(86)(22)【出願日】2022-01-07
(85)【翻訳文提出日】2023-09-20
(86)【国際出願番号】 EP2022050224
(87)【国際公開番号】W WO2022157014
(87)【国際公開日】2022-07-28
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ベルグナー,ベンヤミン ヨハネス ヘルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ベルク,ラファエル ベンヤミン
(72)【発明者】
【氏名】ガルフェ,レンナルト カール ベルンハルト
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
4G048AE08
5H050AA07
5H050AA08
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA10
(57)【要約】
TMの粒子状(オキシ)水酸化物を製造する方法であって、TMが金属を表し、TMが少なくとも75モル%のニッケルを含み、前記方法が、以下の工程:
(a)ニッケルと、コバルト及びマンガンから選択される1種の金属との水溶性塩、及びさらに、0.05~3.0モル%の範囲の、Ti、Zr、Mg及びNbから選択される少なくとも1種の金属の化合物、及びTMに対して、0.05~2.0モル%の範囲の、α-又はβ-ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸、又はグリシン、アラニン及びセリンから選択されるアミノ酸、又はそれらのアルカリ金属塩を含有する水溶液(α)、及びアルカリ金属水酸化物を含有する水溶液(β)、及び任意にアンモニアを含有する水溶液(γ)を提供する工程と、
(b)撹拌タンク反応器において11.0~13.0の範囲のpH値で、溶液(α)、溶液(β)、及び該当する場合に溶液(γ)を組み合わせ、それによってニッケルを含有する水酸化物の固体粒子を作成する工程であって、前記固体粒子がスラリー化される、工程と
を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TMの粒子状(オキシ)水酸化物を製造する方法であって、TMが金属を表し、TMが少なくとも75モル%のニッケルを含み、前記方法が、以下の工程:
(a)ニッケルと、コバルト及びマンガンから選択される1種の金属との水溶性塩、及びさらに、0.05~3.0モル%の範囲の、Ti、Zr、Mg及びNbから選択される少なくとも1種の金属の化合物、及びTMに対して、0.05~2.0モル%の範囲の、α-又はβ-ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸、又はグリシン、アラニン及びセリンから選択されるアミノ酸、又はそれらのアルカリ金属塩を含有する水溶液(α)、及びアルカリ金属水酸化物を含有する水溶液(β)、及び任意にアンモニアを含有する水溶液(γ)を提供する工程と、
(b)撹拌タンク反応器において11.0~13.0の範囲のpH値で、溶液(α)、溶液(β)、及び該当する場合に溶液(γ)を組み合わせ、それによってニッケルを含有する水酸化物の固体粒子を作成する工程であって、前記固体粒子がスラリー化される、工程と
を含む、方法。
【請求項2】
TMが、一般式(I)
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
d (I)
(式中、aは、0.80~0.99の範囲であり、
bは、0又は0.01~0.12の範囲であり、
cは、0~0.12の範囲であり、
dは、0.0025~0.05の範囲であり、
Mは、Ti及びZrのうちの少なくとも1種であり、
a+b+c=1であり、b+c>0である)
による金属の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミノ酸がグリシンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
溶液(α)がアスコルビン酸を含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
溶液(α)が乳酸を含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
溶液(α)が、ニッケルとコバルトとマンガンの合計に対して、合計0.25~2モル%の、Ti、Zr、Mg及びNbから選択される金属を含有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
溶液(α)及び(β)が、同軸ノズルを介して容器に供給される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)が、最大0.2単位で変化するpH値で行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
TMの粒子状(オキシ)水酸化物であって、TMがニッケルと、コバルト及びマンガンのうちの少なくとも1種とを含み、TMの少なくとも75モル%がニッケルであり、前記(オキシ)水酸化物が3~20μmの範囲の平均粒径(D50)を有し、TMが、そのそれぞれの最高酸化状態であり、かつ二次粒子内に均一に分布している、Ti、Zr、Mg及びNbから選択される少なくとも1種のさらなる金属を含有し、前記(オキシ)水酸化物が有機炭素として200ppm~1.0質量%の範囲のCを含有し、二次粒子の少なくとも60体積%が、本質的に放射状に配向している凝集した一次粒子からなる、粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項10】
Ti、Mg、Nb及びZrから選択される金属(単数又は複数)が、一次粒子内にさらに均一に分布されている、請求項9に記載の粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項11】
TMが、一般式(I)
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
d (I)
(式中、aは、0.80~0.99の範囲であり、
bは、0又は0.01~0.12の範囲であり、
cは、0~0.12の範囲であり、
dは、0.0025~0.05の範囲であり、
Mは、Ti及びZrのうちの少なくとも1種であり、
a+b+c=1である)
による金属の組み合わせである、請求項9又は10に記載の粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項12】
0.97~0.99の範囲の形状係数を有する、請求項9から11のいずれか一項に記載の粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項13】
リチウムイオン電池用のカソード活物質を製造するための、請求項9から12のいずれか一項に記載の粒子状(オキシ)水酸化物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TMの粒子状(オキシ)水酸化物を製造する方法に関し、ここで、TMが金属を表し、TMが少なくとも75モル%のニッケルを含み、前記方法が、以下の工程:
(a)ニッケルと、コバルト及びマンガンから選択される1種の金属との水溶性塩、及びさらに、0.05~3.0モル%の範囲の、Ti、Zr、Mg及びNbから選択される少なくとも1種の金属の化合物、及びTMに対して、0.05~2.0モル%の範囲の、α-又はβ-ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸、又はグリシン、アラニン及びセリンから選択されるアミノ酸、又はそれらのアルカリ金属塩を含有する水溶液(α)、及びアルカリ金属水酸化物を含有する水溶液(β)、及び任意にアンモニアを含有する水溶液(γ)を提供する工程と、
(b)撹拌タンク反応器において11.0~13.0の範囲のpH値で、溶液(α)、溶液(β)、及び該当する場合に溶液(γ)を組み合わせ、それによってニッケルを含有する水酸化物の固体粒子を作成する工程であって、前記固体粒子がスラリー化される、工程と
を含む。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギーを貯蔵するための最新の装置である。携帯電話及びラップトップコンピュータなどの小型の装置からカーバッテリー及び他のE-モビリティ(e-mobility)用バッテリーまで、多くの応用分野が考えられてきた。電解質、電極材料及びセパレータなどの様々な電池の構成要素は、電池の性能に関して重要な役割を有する。カソード材料は特に注目されている。いくつかの材料、例えばリチウム鉄ホスフェート、リチウムコバルトオキシド、及びリチウムニッケルコバルトマンガンオキシドが提案されてきた。広範な研究調査が行われてきているが、これまでに見出された解決策は未だに改善の余地がある。
【0003】
電極材料は、リチウムイオン電池の特性にとって極めて重要である。リチウム含有の混合遷移金属酸化物、例えばスピネル又は層状構造の混合酸化物、特にニッケル、マンガン、及びコバルトのリチウム含有混合酸化物は、特に重要視されている(例えば、EP 1 189 296を参照されたい)。しかしながら、電極材料の化学量論だけでなく、形態及び表面特性などの他の特性も重要である。
【0004】
一般的には、対応する混合酸化物は二段階プロセスを用いて調製される。第1段階では、遷移金属(単数又は複数)の難溶性塩、例えば炭酸塩又は水酸化物を溶液から沈殿させることによって調製する。第2段階では、沈殿した遷移金属(単数又は複数)の塩を、リチウム化合物、例えばLi2CO3、LiOH又はLi2Oと混合し、高温、例えば600~1100℃で焼成する。
【0005】
既存のリチウムイオン電池は、特にエネルギー密度に関して、改善の余地がある。この目的のため、カソード活物質は高い比容量を有することが望ましい。これは、例えば、カソード活物質粒子の優れた規則的な形状によって達成することができる。通常、前駆体の形態は、焼成中に大きく変化しない限り、カソード活物質の形態に反映される。
【0006】
アップスケーリングの過程で、前駆体の製造方法がpH値の変化に対して非常に敏感であることが観察されている。小さなpH値の変化は、前駆体の特性、例えば粒径に大きな影響を与える可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い体積エネルギー密度及び優れたサイクル安定性を有するリチウムイオン電池用カソード活物質の前駆体の製造方法を提供することであった。したがって、より具体的には、本発明の目的は、高い体積エネルギー密度及び優れたサイクル安定性を有するリチウムイオン電池を製造するのに適した電池の出発材料を提供することであった。本発明のさらなる目的は、リチウムイオン電池のための好適な出発材料を調製することができる方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、以下で本発明の方法又は(本)発明による方法とも呼ばれる、冒頭で定義された方法が見出された。本発明の方法は、バッチプロセスとして実施されてもよいし、連続又は半連続プロセスとして実施されてもよい。連続プロセスが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、比較用前駆体C-pCAM.1のTEM-EDX元素マッピングを示す。
【
図2】
図2は、本発明の前駆体pCAM.2のTEM-EDX元素マッピングを示す。
【
図3】
図3は、本発明の前駆体pCAM.3のTEM-EDX元素マッピングを示す。
【
図4】
図4は、本発明の前駆体pCAM.4のTEM-EDX元素マッピングを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
したがって、本発明の方法は、以下で工程(a)及び工程(b)とも呼ばれる2つの工程を含み、それはサブ工程を含んでもよい。以下で本発明の方法をより詳細に説明する。
【0012】
いかなる理論にも拘束されることを望むことなく、我々は、Ti、Zr、Mg又はNbおよび前記の少なくとも2つの組み合わせから選択されるドーパントが電極活物質粒子中に均一に分布している場合、上記の特性が改善され、そのような均一分布は、各ドーパント(単数又は複数)が前駆体粒子中に既に均一に分布している場合に促進されると仮定する。
【0013】
本発明の方法は、TMの粒子状(オキシ)水酸化物を製造する方法であり、ここで、TMが金属を表し、TMが少なくとも75モル%のニッケルを含み、前記方法が、以下の工程:
(a)ニッケルと、コバルト及びマンガンから選択される1種の金属との水溶性塩、及びさらに、TMに対して、0.05~3.0モル%の範囲の、Ti、Zr、Mg及びNbから選択される少なくとも1種の金属の化合物、及び0.05~2.0モル%の範囲の、α-又はβ-ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸、又はグリシン、アラニン及びセリンから選択されるアミノ酸、又はそれらのアルカリ金属塩を含有する水溶液(α)、及びアルカリ金属水酸化物を含有する水溶液(β)、及び任意にアンモニアを含有する水溶液(γ)を提供する工程と、
(b)撹拌タンク反応器において11.0~13.0の範囲のpH値で、溶液(α)、溶液(β)、及び該当する場合に溶液(γ)を組み合わせ、それによってニッケルを含有する水酸化物の固体粒子を作成する工程であって、前記固体粒子がスラリー化される、工程と
を含む。
【0014】
本発明の一実施態様において、前記前駆体は、2~20μm、好ましくは3~16μm、より好ましくは5~12μmの範囲の、レーザー回折によって決定された平均粒径(D50)を有する。
【0015】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、0.35~2、好ましくは0.35~0.5又は0.8~1.4の範囲の、[(D90)-(D10)]を(D50)で除した粒径分布を有する。
【0016】
本発明の一実施態様において、TMは、一般式(I)
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.80~0.99、好ましくは0.87~0.95の範囲であり、
bは、0又は0.01~0.12、好ましくは0.03~0.08の範囲であり、
cは、0~0.12、好ましくは0.03~0.08の範囲であり、
dは、0.0025~0.05の範囲であり、
Mは、Ti及びZrのうちの少なくとも1種であり、
a+b+c=1であり、b+c>0である)
による金属の組み合わせである。
【0017】
本発明の方法は、TMの粒子状(オキシ)水酸化物を製造する方法である。本発明の文脈において、「(オキシ)水酸化物」は、水酸化物を指し、化学量論的に純水酸化物だけでなく、特に、遷移金属カチオン及び水酸化物イオンに加えて、水酸化物イオン以外のアニオン、例えば酸化物イオン及び炭酸イオン、又は遷移金属出発材料に由来するアニオン、例えば酢酸塩又は硝酸塩、特に硫酸塩アニオンも有する化合物も含む。酸化物イオンは、部分酸化、例えば乾燥中の酸素の取り込みに由来してもよい。炭酸イオンは、技術グレードのアルカリ金属水酸化物の使用に由来してもよい。
【0018】
さらに、硫酸塩が出発材料として使用された実施態様では、硫酸塩は、不純物として、例えば0.001~1モル%、好ましくは0.01~0.5モル%の割合で存在することもできる。このような硫酸塩は、本発明の文脈では無視される。
【0019】
本発明の一実施態様において、沈殿したTMの(オキシ)水酸化物は、式TMOx(OH)y(CO3)t(式中、0≦x<1であり、1<y<2.2であり、0≦t<0.3、好ましくは0.005≦t<0.05である)を有する。
【0020】
一部の元素は遍在するものである。例えば、ナトリウム、銅、塩化物は、事実上すべての無機材料中に非常に少ない割合で検出可能である。本発明の文脈において、0.02モル%未満の割合のカチオン又はアニオンは無視される。したがって、0.02モル%未満のナトリウムを含む本発明の方法に従って得られる混合水酸化物は、本発明の文脈ではナトリウムを含まないと考えられる。
【0021】
本発明の方法は、攪拌タンク反応器で行われ、バッチ反応器として、攪拌タンク反応器で、連続攪拌タンク反応器で、又は少なくとも2個の連続攪拌タンク反応器のカスケードで、例えば2~4個の連続攪拌タンク反応器のカスケードで本発明の方法を行うことを含む。連続攪拌タンク反応器で本発明の方法を行うことが好ましい。連続攪拌タンク反応器は、当該連続攪拌タンク反応器からスラリー(又は母液)を連続的に(又は間隔をおいて)取り出すことを可能にする少なくとも1つのオーバーフローシステムを含有する。
【0022】
攪拌容器が連続攪拌タンク反応器又は少なくとも2個の攪拌タンク反応器のカスケードである実施態様において、それぞれの攪拌タンク反応器(単数又は複数)はオーバーフローシステムを有する。スラリーは、沈殿したTMの混合金属水酸化物及び母液を含有する。本発明の文脈において、母液は、溶液中に存在する水溶性塩及び任意にさらなる添加剤を含む。可能な水溶性塩の例には、遷移金属の対イオンのアルカリ金属塩、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウム、対応するアンモニウム塩、例えば硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム及び/又はハロゲン化アンモニウムが含まれる。最も好ましくは、母液は、硫酸ナトリウム及び硫酸アンモニウム及びアンモニアを含む。
【0023】
本発明の一実施態様において、本発明の方法は、清澄器を備えた容器内で行われる。清澄器において、母液は沈殿したTMの混合金属水酸化物から分離され、母液は取り出される。
【0024】
工程(a)では、様々な溶液が提供される:
ニッケルの水溶性塩を含有し、0.05~3.0モル%の、Ti、Zr、Mg及びNbから選択される少なくとも1種の金属の化合物、及びTMに対して、0.05~2.0モル%の範囲の、α-又はβ-ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸、又はグリシン、アラニン及びセリンから選択されるアミノ酸、又はそれらのアルカリ金属塩をさらに含有する水溶液(α)、
及びアルカリ金属水酸化物を含有する水溶液(β)、
及び任意にアンモニアを含有する水溶液(γ)。好ましくは、本発明は、溶液(γ)を使用せずに行われる。
【0025】
工程(a)では、Niの水溶性塩を含有する水溶液(溶液(α))が提供される。塩の選択はTMの組成を反映しており、ニッケルのモル含有量はTMに対して少なくとも75%である。溶液(α)はさらに、Ti、Zr、Mg及びNbから選択される少なくとも1種のさらなる金属を、例えば硫酸塩として、塩基性硫酸塩として、硝酸塩、酢酸塩又は硝酸塩として含有する。MgSO4、Mg(NO3)2、Ti(SO4)2、TiOSO4、TiO(NO3)2、Zr(SO4)2、ZrOSO4、ZrO(NO3)2、Zr(CH3COO)4、(NH4)Nb(C2O4)3、及び(NH4)NbO(C2O4)2が好ましい。
【0026】
Ti、Zr、Mg及びNbのそれぞれの化合物は、あるpH範囲、好ましくは10未満のpH値で水性媒体に可溶であり、例えば、25℃で少なくとも10g/l、好ましくは15~250g/lの溶解度を示す化合物から選択することが好ましい。その量は、ニッケルとコバルトとマンガンの合計に対して、0.05~3.0モル%の範囲であり、0.25~2.0モル%が好ましい。
【0027】
溶液(α)は、マンガン又はコバルト又はアルミニウム、又は前述の少なくとも2種の組み合わせの少なくとも1種の塩、例えば硫酸コバルト又は硫酸マンガン又はその両方をさらに含有してもよい。
【0028】
溶液(α)は、TMに対して0.01~0.05モル%の範囲の、α-又はβ-ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸、又はグリシン、アラニン及びセリンから選択されるアミノ酸、又はそれらのアルカリ金属塩をさらに含有する。α-ヒドロキシカルボン酸の例としては、乳酸、例えばL-乳酸又はD-乳酸又はそれらの混合物、β-ヒドロキシプロピオン酸、リンゴ酸、酒石酸、タルトロン酸(2-ヒドロキシマロン酸)、グリコール酸及びクエン酸が挙げられる。アルカリ金属塩の例は、カリウム塩、及び特にナトリウム塩である。
【0029】
上記酸のうち、乳酸及びアスコルビン酸が好ましく、アスコルビン酸がより好ましい。
【0030】
アルカリ金属塩の例としては、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。部分的に中和されたα-又はβ-ヒドロキシカルボン酸も可能であり、部分的に中和されたアスコルビン酸又は部分的に中和されたグリシン、アラニン又はセリンも同様である。例えば、アラニン、グリシン及びセリンのナトリウム塩が好ましい。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、このようなアミノ酸は、Zr、Ti、Mg又はNbと錯体を形成していると仮定する。
【0031】
α-アラニンは、L-アラニン又はラセミアラニンとして、又は部分的にラセミ化されたL-アラニンとして提供されてもよい。セリンは、L-セリン又はラセミセリンとして、又は部分的にラセミ化されたものとして提供されてもよい。アミノ酸としては、グリシンが好ましい。
【0032】
本発明の一実施態様において、Zr、Ti、Mg又はNbから選択される金属と、アスコルビン酸、又はグリシン、アラニン及びセリンからのアミノ酸、又はα-又はβ-ヒドロキシカルボン酸から選択される有機酸とのモル比は、3:1~1:3、好ましくは2:1~1:1の範囲である。
【0033】
前記溶液(α)は、TMの水溶性塩(単数又は複数)、例えば硫酸塩(単数又は複数)を水に溶解し、その後、グリシン、アラニン及びセリンから選択されるアミノ酸、又はそれらのアルカリ金属塩、又はアスコルビン酸、又はα-又はβ-ヒドロキシカルボン酸、及びZr、Ti、Mg又はNbの化合物を上記の量で添加することにより製造することができる。また、TMの水溶性塩(単数又は複数)、例えば硫酸塩を、前記α-又はβ-アミノ酸又はそのアルカリ金属塩の存在下で水に溶解させることも可能である。しかし、そのような溶液(α)は、前記α-又はβ-ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸又は上記アミノ酸のいずれか又はそれぞれのアルカリ金属塩(単数又は複数)の水溶液をTMの水溶性塩(単数又は複数)の水溶液と組み合わせることによって、例えば、新鮮に形成した溶液(α)を溶液(β)及び該当する場合に溶液(γ)と組み合わせる直前に形成することが好ましい。前記形成は、Yノズルでの予備混合として行われてもよい。
【0034】
ニッケル又はニッケル以外の金属の水溶性塩という用語は、25g/l以上の25℃での蒸留水中の溶解度を示す塩を指し、塩の量は結晶水及びアクオ錯体から生じる水の省略下で決定される。ニッケル及びコバルトの水溶性塩は、好ましくはNi2+及びCo2+のそれぞれの水溶性塩であり得る。ニッケル及びコバルトの水溶性塩の例は、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩及びハロゲン化物、特に塩化物である。好ましいのは硝酸塩及び硫酸塩であり、このうち硫酸塩がより好ましい。
【0035】
溶液(α)は、2~5の範囲のpH値を有してもよい。溶液(α)にアンモニアを添加しないことが好ましい。
【0036】
工程(a)において、アルカリ金属水酸化物の水溶液(以下、溶液(β)とも称される)が提供される。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化リチウムが挙げられ、好ましいのは水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの組み合わせであり、さらにより好ましいのは水酸化ナトリウムである。
【0037】
溶液(β)は、ある程度の量、例えばそれぞれのアルカリ金属水酸化物の量に対して0.1~2質量%の、意図的に添加されるか、又は溶液又はそれぞれのアルカリ金属水酸化物のエージングによって添加される炭酸塩を含有してもよい。
【0038】
溶液(β)は、0.1~12mol/l、好ましくは6~10mol/lの範囲の水酸化物の濃度を有してもよい。
【0039】
溶液(β)のpH値は、好ましくは13以上、例えば14.5である。
【0040】
本発明の一実施態様において、水溶液(γ)が提供される。溶液(γ)はアンモニアを含有する。溶液(γ)は、8~10の範囲のpH値、及び1~25mol/lの範囲のアンモニア濃度を有してもよい。
【0041】
本発明の一実施態様において、水溶液(α)及び水溶液(β)、及び該当する場合に水溶液(γ)は、それらを攪拌タンク反応器で組み合わせる前に、10~75℃の範囲の温度を有する。
【0042】
工程(b)では、水溶液(α)及び水溶液(β)、及び該当する場合に水溶液(γ)は、撹拌タンク反応中、10.0~13.0の範囲のpH値で組み合わされ、それによってニッケルを含有する水酸化物の固体粒子を製造し、前記固体粒子がスラリー化されている。
【0043】
工程(b)の過程で、水溶液(α)及び水溶液(β)は、反応器に供給される。好ましくは、水溶液(α)及び水溶液(β)は、一方ではTMの金属及び他方では水酸化物イオンの化学量論が「正しい」、すなわち化学量論が沈殿させるべきそれぞれの水酸化物の化学量論と一致するように、反応器に供給される。本発明の別の実施態様において、化学量論は、水酸化物が過剰に、例えば水酸化物に対して1~5モル%で存在するように調整される。
【0044】
本発明の一実施態様において、水溶液(α)及び(β)、及び該当する場合に(γ)は、別々の入口を通して攪拌タンク反応器に供給される。本発明の一実施態様において、少なくとも1つの入口は、攪拌によって引き起こされる渦の真上に位置する。
【0045】
本発明の一実施態様において、水溶液(α)及び(β)、及び該当する場合に(γ)は、2つの入口、例えば、出口が互いに隣接して配置されている2つのパイプ、例えば、並行して、又はY-ミキサーを介して前記攪拌容器に導入される。
【0046】
本発明の好ましい実施態様において、少なくとも2つの入口は、水溶液(α)及び(β)が攪拌タンク反応器に導入される2つの同軸に配置されたパイプを含む同軸ミキサーとして設計されている。本発明の一実施態様において、工程(b)は、水溶液(α)及び(β)、及び該当する場合に(γ)が前記攪拌タンク反応器に導入される、2つ以上の同軸に配置されたパイプを用いることによって行われる。本発明の別の実施態様において、導入工程は、水溶液(α)及び(β)、及び該当する場合に(γ)が前記攪拌タンク反応器に導入される同軸に配置されたパイプの正確に1つのシステムを使用することによって行われる。
【0047】
好ましい実施態様において、水溶液(α)及び(β)は、同軸ノズルを介して攪拌タンク反応器に供給される。
【0048】
少なくとも2つの連続攪拌タンク反応器のカスケードが使用される実施態様において、水溶液(α)及び(β)、及び該当する場合に溶液(γ)は、最も上流にある攪拌タンク反応器に供給される。
【0049】
本発明で使用される攪拌タンク反応器(単数又は複数)は、スターラーを含む。そのようなスターラーは、ピッチブレードタービン、ラシュトンタービン、クロスアームスターラー、ディゾルバーブレード及びプロペラスターラーから選択することができる。スターラーは、0.1~10W/lの範囲、好ましくは1~7W/lの範囲の平均エネルギー入力をもたらす回転速度で運転することができる。
【0050】
さらに、本発明で使用される攪拌タンク反応器(単数又は複数)は、1つ以上、例えば1~4つのバッフルを含んでいてもよい。
【0051】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、20~90℃、好ましくは30~80℃、より好ましくは35~75℃の範囲の温度で行われてもよい。この温度は、攪拌タンク反応器内で決定される。
【0052】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、10分~10時間の範囲の持続時間を有する。本発明の方法が連続プロセスとして行われる実施態様において、持続時間は、平均滞留時間を指す。
【0053】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、常圧で行うことができる。他の実施態様において、工程(b)は、わずかに上昇した圧力、例えば、常圧より10~100ミリバール高い圧力で行われる。
【0054】
工程(b)は、空気下、不活性ガス雰囲気下、例えば希ガス又は窒素雰囲気下、又は還元性ガス雰囲気下で行うことができる。還元性ガスの例としては、例えば、CO及びSO2が挙げられる。不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0055】
本発明の一実施態様において、本発明の方法は、清澄器を備えた攪拌タンク反応器で行われる。清澄器において、母液は、沈殿したTMの水酸化物から分離され、母液は取り出される。
【0056】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、2つのサブ工程(b1)及び(b2)で行われ、サブ工程(b1)は、サブ工程(b2)よりも0.2~2.0単位高いpH値で行われる。言い換えれば、サブ工程(b2)におけるpH値は、サブ工程(b1)におけるpH値よりも0.2~2.0単位低い。pH値の低下は、例えば、サブ工程(b2)において、サブ工程(b1)よりも少ないアンモニアを添加することによって、又はサブ工程(b1)において、サブ工程(b2)と比較してTMに対するアルカリ金属水酸化物の比率を高く選択することによって、又は酸、例えば硫酸の添加によって、達成することができる。しかしながら、サブ工程(b2)におけるpH値は、依然として少なくとも10.0である。好ましくは、サブ工程(b2)の持続時間は、サブ工程(b1)の持続時間より長い。
【0057】
本発明の一実施態様において、サブ工程(b1)及び(b2)は、サブ工程(b1)からの固体が分離され、サブ工程(b2)のための固体種として使用されるように行われる。他の実施態様において、サブ工程(b1)及び(b2)は、サブ工程(b1)から得られたスラリーがサブ工程(b2)においてその場で使用されるように行われる。
【0058】
本発明の一実施態様において、サブ工程(b1)及び(b2)は、α-又はβ-ヒドロキシカルボン酸又はアスコルビン酸又は上記アミノ酸のいずれか又はそれぞれのアルカリ金属塩(単数又は複数)は、両方のサブ工程で、又は少なくとも1つのサブ工程、例えばサブ工程(b2)で添加されるように行われる。後者の実施態様は、TMの水溶性塩を含有するが、アミノ酸もそのそれぞれのアルカリ金属塩も含有しない溶液(α’)を溶液(β)及び任意に溶液(γ)と組み合わせることによってサブ工程(b1)を行い、続いてサブ工程(b2)において溶液(α)を溶液(β)及び任意に溶液(γ)と組み合わせることによって達成することができる。
【0059】
本発明の別の実施態様において、工程(b)は、最大でも0.2単位で変化するpH値で行われる。したがって、工程(b)の間、pH値は本質的に一定である。
【0060】
本発明の方法を行うことにより、水性スラリーが形成される。本発明の方法は、pH値の望ましくない変化に対して非常に堅牢である。前記水性スラリーから、固液分離工程、例えば濾過、噴霧乾燥、不活性ガス又は空気下での乾燥などによって、粒子状の混合水酸化物を得ることができる。空気下で乾燥した場合、部分酸化が起こり、TMの混合(オキシ)水酸化物が得られる。
【0061】
本発明の方法に従って得られる前駆体は、最大の体積エネルギー密度を有する電池の製造に適したカソード活物質のための優れた出発材料である。
【0062】
本発明の別の態様は、以下で本発明の前駆体とも称する、前駆体に関する。本発明の前駆体は、一次粒子が凝集して二次粒子を形成する、TMの粒子状(オキシ)水酸化物である。
【0063】
本発明の前駆体において、TMが少なくとも75モル%のニッケルを含む。本発明の前駆体は、2~20μmの範囲の平均粒径(D50)を有する。TMは、その最高酸化状態の、二次粒子内に均一に分布している、Ti、Zr、Mg、及びNbから選択される少なくとも1種の金属、好ましくはTi及びZrのうちの少なくとも1種を含み、前記(オキシ)水酸化物は有機炭素として200ppm~1.0質量%の範囲のCを含有し、二次粒子の少なくとも60体積%が、本質的に放射状に配向している凝集した一次粒子からなる。
【0064】
本発明の一実施態様において、Ti、Mg、Nb及びZrから選択される金属(単数又は複数)が、一次粒子内にさらに均一に分布されている。
【0065】
有機炭素を定量化するために、全ての炭素は、典型的には、酸素雰囲気下で熱処理することによって二酸化炭素に変換され、赤外線分光法によってCO2を測定する。
【0066】
有機炭素は、好ましくは、グリシン、アラニン又はセリン、又はそのアルカリ金属塩である。
【0067】
放射状に配向した一次粒子の部分は、例えば、少なくとも5個の二次粒子の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)によって決定することができる。
【0068】
「本質的に放射状に配向した」とは、完全な放射状の配向を必要とせず、SEM分析において、完全な放射状の配向に対する偏差が最大11度、好ましくは最大5度であることを含む。
【0069】
さらに、二次粒子体積の少なくとも60%が半径方向に配向した一次粒子で充填されている。好ましくは、それらの粒子の体積のわずかな内側部分、例えば最大40%、好ましくは最大20%だけが、非半径方向に配向した、例えばランダムに配向した一次粒子で充填されている。
【0070】
本発明の一実施態様において、TMは、一般式(I)
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.80~0.99、好ましくは0.87~0.95の範囲であり、
bは、0又は0.01~0.12、好ましくは0.03~0.08の範囲であり、
cは、0~0.12、好ましくは0.03~0.08の範囲であり、
dは、0.0025~0.05の範囲であり、
Mは、Ti及びZrのうちの少なくとも1種であり、
a+b+c=1であり、b+c>0である)
による金属の組み合わせである。
【0071】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、N2吸着測定のための試料調製が120℃で60分間脱気することによって行われる場合、DIN 66134(1998)に従ってN2吸着によって決定される、20~600Åの孔径範囲において0.033~0.1ml/g、好ましくは0.035~0.07ml/gの範囲の全細孔/貫入容積を有する。
【0072】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、2~20μm、好ましくは3~16μm、さらにより好ましくは5~12μmの範囲の平均二次粒径D50を有する。
【0073】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、2~70m2/g、好ましくは4~50m2/gの範囲のBETによる比表面(以下、「BET表面積」とも称する)を有する。BET表面積は、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃で30分、及びこれを超えてサンプルをガス放出した後の窒素吸着によって決定することができる。
【0074】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、0.35~2、好ましくは0.35~0.5又は0.8~1.4の範囲の、[(D90)-(D10)]を(D50)で除した粒径分布を有する。
【0075】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、第1最大値が3~7μmの範囲にあり(「より小さい粒子」)、第2最大値が11~17μmの範囲にある(「より大きい粒子」)二峰性粒径分布を有する。さらにより好ましくは、より小さい粒子の総体積は、より大きい粒子の総体積の10~25%の範囲にある。
【0076】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体の粒子は、複数の同心環の構造、例えば少なくとも10個、好ましくは最大200個の環の構造を示す。このような同心環は、そのような粒子の断面を走査型電子顕微鏡(「SEM」)で分析したときに検出される。この構造は、樹木の成長輪と比較することができ、成長輪の各々は、5~500nmの範囲の強度を有する。
【0077】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体の粒子は、0.87~0.99の範囲の形状係数(form factor)を有する。この形状係数は、トップビューSEM画像から決定される周囲長及び面積から算出することができる:形状係数=(4π・面積)/(周囲長)2。
【0078】
本発明の前駆体は、高いエネルギー密度を有するカソード活物質を製造するのに非常に適している。そのようなカソード活物質は、本発明の前駆体を、それぞれ水を含まないもの又は水和物としてのリチウム源、例えばLi2O又はLiOH又はLi2CO3と混合し、例えば600~1000℃の範囲の温度で焼成することにより製造することができる。したがって、本発明のさらなる態様は、リチウムイオン電池用カソード活物質の製造のための本発明の前駆体の使用方法であり、本発明の別の態様は、リチウムイオン電池用カソード活物質を製造する方法(以下、本発明の焼成とも称する)であり、ここで、前記方法が、本発明の粒子状遷移金属(オキシ)水酸化物をリチウム源と混合する工程と、600~1000℃の範囲の温度で前記混合物を熱処理する工程とを含んでいる。好ましくは、そのような方法における本発明の前駆体とリチウム源との比は、LiとTMのモル比が0.95:1~1.2:1、より好ましくは0.98~1.05の範囲であるように選択される。
【0079】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、リチウム源と混合する前に、300~750℃の範囲の温度に加熱され、したがって、脱水又は「予備焼成」される。このような実施態様において、予備焼成された粒子状遷移金属(オキシ)水酸化物をリチウム源と混合し、前記混合物を600~1000℃の範囲の温度で熱処理する。好ましくは、予備焼成された本発明の前駆体とリチウム源との比は、LiとTMのモル比が0.95:1~1.2:1、より好ましくは0.98~1.05の範囲にあるように選択される。
【0080】
本発明焼成の例には、600~1000℃、好ましくは650~850℃の範囲の温度で熱処理することが含まれる。「熱的処理」及び「熱処理」という用語は、本発明の文脈では互換的に使用される。
【0081】
本発明の一実施態様において、本発明の焼成では、得られた混合物を0.1~10℃/分の加熱速度で600~1000℃に加熱する。
【0082】
本発明の一実施態様において、600~1000℃、好ましくは650~800℃の所望の温度に到達する前に、温度を上昇させる。例えば、まず、工程(d)から得られた混合物を350~550℃に加熱し、その後10分~4時間一定に保持し、次に650℃~800℃に上昇させ、その後650~800℃で10分~10時間保持する。
【0083】
本発明の一実施態様において、本発明の焼成は、ローラーハースキルン、プッシャーキルン、又はロータリーキルン、又は前記の少なくとも2つの組み合わせで行われる。ロータリーキルンは、そこで作られる材料の均質化が非常に良好であるという利点を有する。ローラーハースキルン及びプッシャーキルンでは、異なる工程に関する異なる反応条件を非常に容易に設定することができる。実験室規模の実験では、箱型炉、管状炉及び分割管状炉も可能である。
【0084】
本発明の一実施態様において、本発明の焼成は、酸素含有雰囲気、例えば窒素-空気混合物、希ガス-酸素混合物、空気、酸素又は酸素富化空気中で行われる。好ましい実施態様において、工程(d)における雰囲気は、空気、酸素及び酸素富化空気から選択される。酸素富化空気は、例えば、体積比50:50の空気と酸素の混合物であってよい。他の選択肢としては、体積比1:2の空気と酸素の混合物、体積比1:3の空気と酸素の混合物、体積比2:1の空気と酸素の混合物、及び体積比3:1の空気と酸素の混合物が挙げられる。
【0085】
本発明の一実施態様において、本発明の焼成は、ガス流、例えば空気、酸素及び酸素富化空気の流れの下で行われる。そのようなガス流は強制ガス流とも呼ばれる。そのようなガスの流れは、一般式Li1+xTM1-xO2による材料1kg当たり、0.5~15m3/hの範囲の比流量を有することができる。体積は、通常の条件下(298ケルビン及び1気圧)で決定される。前記ガス流は、水及び二酸化炭素のようなガス状分解生成物の除去に有用である。
【0086】
本発明の一実施態様において、本発明の焼成は、1時間~30時間の範囲の持続時間を有する。10時間~24時間が好ましい。600℃を超える温度での時間は、加熱及び保持がカウントされるが、この文脈では冷却時間は無視される。
【0087】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1つの本発明による粒子状カソード活物質を含む電極に関する。これらは特にリチウムイオン電池に有用である。少なくとも1つの本発明による電極を含むリチウムイオン電池は、良好なサイクル挙動/安定性を示す。少なくとも1つの本発明による粒子状カソード活物質を含む電極は、以下で本発明のカソード又は本発明によるカソードとも呼ばれる。
【0088】
具体的には、本発明のカソードは、
(1)少なくとも1種の、本発明の粒子状カソード活物質、
(2)導電状態の炭素、
(3)バインダー又はバインダー(3)とも呼ばれるバインダー材料、及び好ましくは、
(4)集電器
を含有する。
【0089】
好ましい実施態様において、本発明のカソードは、(1)、(2)及び(3)の合計に基づいて、
(A)80~98質量%の本発明の粒子状カソード活物質、
(B)1~17質量%の炭素、
(C)1~15質量%のバインダー
を含有する。
【0090】
本発明によるカソードは、さらなる構成要素を含むことができる。それらは、集電器、例えばアルミホイル(これに限定していない)を含むことができる。それらは、導電性炭素及びバインダーをさらに含むことができる。
【0091】
本発明によるカソードは、簡潔に炭素(2)とも呼ばれる、導電性修飾の炭素を含有する。炭素(2)は、すす、活性炭、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラファイト、及び上記の少なくとも2つの組み合わせから選択することができる。
【0092】
好適なバインダー(3)は、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン(共)重合、触媒(共)重合又はフリーラジカル(共)重合により得ることができる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、並びに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択された少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択することができる。ポリプロピレンも適する。ポリイソプレン及びポリアクリレートはさらに適している。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0093】
本発明の文脈において、ポリアクリロニトリルは、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0094】
本発明の文脈において、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたエチレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばα-オレフィン、例えばプロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン、及びまたイソブテン、ビニル芳香族のもの、例えばスチレン、及びまた(メタ)アクリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリル酸のC1~C10-アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、及びまたマレイン酸、無水マレイン酸及び無水イタコン酸を含むエチレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリエチレンはHDPE又はLDPEであり得る。
【0095】
本発明の文脈において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合されたプロピレン、及び50モル%以下の少なくとも1つのさらなるコモノマー、例えばエチレン、及びα-オレフィン、例えばブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンを含むプロピレンのコポリマーも意味すると理解される。ポリプロピレンは、好ましくはイソタクチックポリプロピレン又は本質的にイソタクチックポリプロピレンである。
【0096】
本発明の文脈において、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC1~C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーも意味すると理解される。
【0097】
別の好ましいバインダー(3)は、ポリブタジエンである。
【0098】
他の好適なバインダー(3)は、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0099】
本発明の一実施態様において、バインダー(3)は、50,000g/molから、1,000,000g/molまで、好ましくは500,000g/molまでの範囲の平均分子量MWを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0100】
バインダー(3)は、架橋された又は架橋されていない(コ)ポリマーであり得る。
【0101】
本発明の特に好ましい実施態様において、バインダー(3)は、ハロゲン化(コ)ポリマー、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ素化(コ)ポリマーは、1個の分子当たり少なくとも1個のハロゲン原子又は少なくとも1個のフッ素原子、より好ましくは1個の分子当たり少なくとも2個のハロゲン原子又は少なくとも2個のフッ素原子を有する少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味すると理解される。例としては、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、ビニリデンフルオリド-テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ビニリデンフルオリド-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーが挙げられる。
【0102】
好適なバインダー(3)は、特に、ポリビニルアルコール及びハロゲン化(コ)ポリマー、例えばポリビニルクロリド又はポリビニリデンクロリド、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリビニルフルオリド及び特にポリビニリデンフルオリド及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0103】
本発明のカソードは、本発明のカソード活物質に対して1~15質量%のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。他の実施態様において、本発明のカソードは0.1~1質量%未満のバインダー(単数又は複数)を含んでもよい。
【0104】
本発明のさらなる態様は、本発明のカソード活物質、炭素及びバインダーを含む少なくとも1つのカソード、少なくとも1つのアノード、及び少なくとも1種の電解質を含有する電池である。
【0105】
本発明のカソードの実施態様は、すでに上記で詳細に記載されている。
【0106】
前記アノードは、少なくとも1種のアノード活物質、例えばカーボン(グラファイト)、TiO2、酸化リチウムチタン、シリコン又はスズを含有してもよい。前記アノードは、集電器、例えば銅ホイルなどの金属ホイルをさらに含有してもよい。
【0107】
前記電解質は、少なくとも1種の非水性溶媒、少なくとも1種の電解質塩、及び任意に添加剤を含んでもよい。
【0108】
電解質のための非水性溶媒は、室温で液体又は固体であることができ、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、及び環状又は非環状有機カーボネートから選択される。
【0109】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C1~C4-アルキレングリコール、及び特にポリエチレングリコールである。ここでは、ポリエチレングリコールは、最大20モル%の1種以上のC1~C4-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2個のメチル又はエチル末端キャップを有するポリアルキレングリコールである。
【0110】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量MWは、少なくとも400g/molであり得る。
【0111】
好適なポリアルキレングリコール、特に好適なポリエチレングリコールの分子量MWは、最大5000000g/mol、好ましくは最大2000000g/molであり得る。
【0112】
好適な非環状エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、1,2-ジメトキシエタンが好ましい。
【0113】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0114】
好適な非環状アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0115】
好適な環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、及び特に1,3-ジオキソランである。
【0116】
好適な非環状有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートである。
【0117】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(II)及び(III)による化合物である
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なることができ、水素、及びC
1~C
4-アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルから選択され、好ましくは、R
2及びR
3の両方ともがtert-ブチルであることはない)。
【0118】
特に好ましい実施態様において、R1はメチルであり、R2及びR3はそれぞれ水素であるか、又はR1、R2及びR3はそれぞれ水素である。
【0119】
さらに別の実施態様において、式(IIIa)において、R1はフッ素であり、R2及びR3の両方は水素である。
【0120】
別の好ましい環状有機カーボネートは、式(IV)のビニレンカーボネートである。
【0121】
【0122】
好ましくは、溶媒又は複数の溶媒は、水を含まない状態で、すなわち、例えば、カールフィッシャー滴定によって決定することができる1ppm~0.1質量%の範囲の含水量で使用される。
【0123】
電解質は、少なくとも1種の電解質塩をさらに含む。好適な電解質塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC(CnF2n+1SO2)3、リチウムイミド、例えばLiN(CnF2n+1SO2)2(式中、nは1~20の範囲の整数である)、LiN(SO2F)2、Li2SiF6、LiSbF6、LiAlCl4、及び一般式(CnF2n+1SO2)tYLiの塩である
(式中、Yが酸素及び硫黄から選択される場合、t=1であり、
Yが窒素及びリンから選択される場合、t=2であり、
Yが炭素及びケイ素から選択される場合、t=3である)。
【0124】
好ましい電解質塩は、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiPF6、LiBF4、LiClO4から選択され、LiPF6及びLiN(CF3SO2)2が特に好ましい。
【0125】
本発明の実施態様において、本発明による電池は、それによって電極が機械的に分離される1つ以上のセパレータを含む。好適なセパレータは、金属リチウムに対して反応しないポリマーフィルム、特に多孔性ポリマーフィルムである。セパレータのための特に好適な材料は、ポリオレフィン、特にフィルム形成の多孔性ポリエチレン及びフィルム形成の多孔性ポリプロピレンである。
【0126】
ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンから構成されるセパレータは、35~45%の範囲の多孔率を有することができる。好適な細孔径は、例えば30~500nmの範囲である。
【0127】
本発明の他の実施態様において、セパレータは、無機粒子で充填したPET不織布から選択することができる。このようなセパレータは40~55%の範囲の多孔率を有し得る。好適な細孔径は、例えば80~750nmの範囲である。
【0128】
本発明による電池は、任意の形状、例えば、立方体、又は円筒形ディスク又は円筒形カンの形状を有することができるハウジングをさらに含む。一変形態様において、ポーチとして構成された金属ホイルをハウジングとして使用する。
【0129】
本発明による電池は、良好なサイクル安定性及び低い容量損失を示す。
【0130】
本発明による電池は、互いに組み合わされている、例えば直列に接続するか、又は並列に接続することができる2つ以上の電気化学セルを含むことができる。直列接続が好ましい。本発明による電池において、少なくとも1つの電気化学セルは少なくとも1つの本発明によるカソードを含有する。好ましくは、本発明による電気化学セルにおいて、電気化学セルの大部分は本発明によるカソードを含有する。さらにより好ましくは、本発明による電池において、すべての電気化学セルは本発明によるカソードを含有する。
【0131】
本発明はさらに、本発明による電池を機器、特にモバイル機器に使用する方法を提供する。モバイル機器の例は、車両、例えば自動車、自転車、航空機、又は水上乗り物、例えばボート又は船である。モバイル機器の他の例は、手動で動くもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は例えば建築部門における電動手工具、特にドリル、バッテリー式ドライバー又はバッテリー式ステープラーである。
【0132】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0133】
総説:
平均粒径(D50)は動的光散乱法(「DLS」)により決定した。特に明記されていない限り、パーセンテージは質量%である。
【0134】
TEM分析:
試料をEpofix樹脂(Struers,コペンハーゲン,デンマーク)に包埋した。透過型電子顕微鏡(TEM)用の超薄サンプル(~100nm)を超微細加工で調製し、TEMサンプル搬送グリッドに移した。このサンプルを、HAADF-STEM条件下で200/300keVで動作するTecnai OsirisとThemis Z3.1装置(Thermo-Fisher,Waltham,USA)を使用して、TEMによって画像化した。SuperX G2検出器を用いたエネルギー分散型X線分光法(EDXS)により、化学組成マップを取得した。Velox(Thermo-Fisher)及びEsprit(Bruker,Billerica,USA)ソフトウェアパッケージを使用して、画像及び元素マップを評価した。
【0135】
超微細加工は通常、一次粒子の断面を作らず、一次粒子の粒界に沿って二次粒子をスライスする。EDSは、サンプルの全厚さにわたって統合した化学組成を決定する。一次結晶の内側領域のコーティング元素のシグナルは、粒子の上下の表面コーティングによるものである。
【0136】
オーバーフロー装置及び3つの注入口、及びpH値調整回路を備えた250ml攪拌タンク反応器(反応器1)で、共沈反応を行った。pH値は23℃で測定したpH値である。
【0137】
(有機)炭素の量を定量するために、100mgの材料を使い捨てセラミックカップに入れた。約0.5gの鉄顆粒をサンプルに添加し、約1.5gのタングステン顆粒の層で混合物を覆った。Eltra CS 800分析装置の誘導炉中に純酸素気流中でサンプルを加熱し、サンプルの炭素を二酸化炭素に変換し、赤外分光分析により燃焼ガス中の炭素を定量した。
【0138】
I.前駆体の製造
I.1 比較用前駆体C-pCAM.1の製造
工程(a.1):以下の水溶液を提供した:
水溶液C-(α.1)は、1.65mol/kgの溶液の合計濃度で、モル比はNi:Co:Mn=80:10:10でニッケル、コバルト及びマンガンの硫酸塩、及びさらにZr:ニッケルとコバルトとマンガンの合計=0.034:1でZrO(NO3)2を含有していた;
水溶液(β.1):NaOHの25質量%水溶液;
水溶液(γ.1):NH3の25質量%水溶液。
【0139】
工程C-(b.1):
反応器1に200mlの脱イオン水を入れ、一定の窒素オーバーフローで55℃に加熱した。溶液(β.1)でpH値を12.1に調整した。その後、水溶液C-(α.1)、(β.1)及び(γ.1)の同時添加を開始した。NH
3/TM比が0.25となるように、溶液(γ.1)の流量を調整した。溶液(β.1)の流量を調整し、反応器1のpH値を12.10の一定値に維持した。容器内の液体レベルを一定に維持しながら、反応器1を連続的に運転した。容器からNi、Co、Mn及びZrの混合水酸化物をフリーオーバーフローで回収し、水で洗浄し、篩い分け、空気中120℃で12時間乾燥して、比較用前駆体C-pCAM.1を得た。C-pCAM.1の平均粒径(D50)は10.4μmであった。
図1は、ドーパントであるZrの不均一な分布を示している。有機炭素の含有量は検出レベル未満であった。
【0140】
I.2 本発明の前駆体pCAM.2の製造
工程(a.2):以下の水溶液を提供した:
水溶液(α.2)は、1.65mol/kgの溶液の合計濃度で、モル比はNi:Co:Mn=80:10:10でニッケル、コバルト及びマンガンの硫酸塩、及びさらにZr:ニッケルとコバルトとマンガンの合計=0.004:1でZrO(CH3COO)4、及びL-乳酸を含有し、乳酸:Zrのモル比が2:1であった;
水溶液(β.1):NaOHの25質量%水溶液;
水溶液(γ.1):NH3の25質量%水溶液。
【0141】
工程(b.2):
反応器1に200mlの脱イオン水を入れ、一定の窒素オーバーフローで55℃に加熱した。溶液(β.1)でpH値を12.04に調整した。その後、水溶液(α.2)、(β.1)及び(γ.1)の同時添加を開始した。NH
3/TM比が0.25となるように、溶液(γ.1)の流量を調整した。溶液(β.1)の流量を調整し、反応器1のpH値を12.04の一定値に維持した。容器内の液体レベルを一定に維持しながら、反応器1を連続的に運転した。容器からNi、Co、Mn及びZrの混合水酸化物をフリーオーバーフローで回収し、水で洗浄し、篩い分け、空気中120℃で12時間乾燥して、本発明の前駆体pCAM.2を得た。pCAM.2の平均粒径(D50)は10.2μmであった。
図2におけるTEM/EDX図は、ドーパントであるZrの均一な分布を示している。有機炭素の含有量は0.33質量%であった。
【0142】
I.3 本発明の前駆体pCAM.3の製造
工程(a.3):以下の水溶液を提供した:
水溶液(α.3)は、1.65mol/kgの溶液の合計濃度で、モル比はNi:Co:Mn=80:10:10でニッケル、コバルト及びマンガンの硫酸塩、及びさらにTi:ニッケルとコバルトとマンガンの合計=0.004:1でTiOSO4、及びアスコルビン酸を含有し、アスコルビン酸:Tiのモル比が1:1であった;
水溶液(β.1):NaOHの25質量%水溶液;
水溶液(γ.1):NH3の25質量%水溶液。
【0143】
工程(b.3):
反応器1に200mlの脱イオン水を入れ、一定の窒素オーバーフローで55℃に加熱した。溶液(β.1)でpH値を11.73に調整した。その後、水溶液(α.3)、(β.1)及び(γ.1)の同時添加を開始した。NH
3/TM比が0.25となるように、溶液(γ.1)の流量を調整した。溶液(β.1)の流量を調整し、反応器1のpH値を11.73の一定値に維持した。容器内の液体レベルを一定に維持しながら、反応器1を連続的に運転した。容器からNi、Co、Mn及びTiの混合水酸化物をフリーオーバーフローで回収し、水で洗浄し、篩い分け、空気中120℃で12時間乾燥して、本発明の前駆体pCAM.3を得た。pCAM.3の平均粒径(D50)は7.9μmであった。
図3におけるTEM/EDX図は、ドーパントであるTiの均一な分布を示している。有機炭素の含有量は0.54質量%であった。
【0144】
I.4 本発明の前駆体pCAM.4の製造
工程(a.4):以下の水溶液を提供した:
水溶液(α.4)は、1.65mol/kgの溶液の合計濃度で、モル比はNi:Co:Mn=80:10:10でニッケル、コバルト及びマンガンの硫酸塩、及びさらにZr:ニッケルとコバルトとマンガンの合計=0.004:1でZrO(CH3COO)4、及びアスコルビン酸を含有し、アスコルビン酸:Zrのモル比が1:1であった;
水溶液(β.1):NaOHの25質量%水溶液;
水溶液(γ.1):NH3の25質量%水溶液。
【0145】
工程(b.4):
反応器1に200mlの脱イオン水を入れ、一定の窒素オーバーフローで55℃に加熱した。溶液(β.1)でpH値を11.72に調整した。その後、水溶液(α.4)、(β.1)及び(γ.1)の同時添加を開始した。NH
3/TM比が0.25となるように、溶液(γ.1)の流量を調整した。溶液(β.1)の流量を調整し、反応器1のpH値を11.72の一定値に維持した。容器内の液体レベルを一定に維持しながら、反応器1を連続的に運転した。容器からNi、Co、Mn及びZrの混合水酸化物をフリーオーバーフローで回収し、水で洗浄し、篩い分け、空気中120℃で12時間乾燥して、本発明の前駆体pCAM.3を得た。pCAM.3の平均粒径(D50)は9.7μmであった。
図4におけるTEM/EDX図は、ドーパントであるZrの均一な分布を示している。有機炭素の含有量は0.60質量%であった。
【0146】
II.カソード活物質の製造
一般手順:
それぞれの脱水した前駆体を、まず酸素雰囲気下、約300℃で5時間熱処理し、室温まで冷却した後、LiOH・H2Oと1.01:1のLi:TMのモル比で混合した。得られた混合物をアルミナるつぼに注ぎ、酸素雰囲気下(10回交換/時間)3℃/分の加熱速度で、350℃で4時間、次いで750℃で6時間加熱した。得られた材料を10℃/分の冷却速度で室温まで冷却し、その後、30μmのメッシュサイズを用いて篩い分けして、p-CAM.1から比較用材料C-CAM.1、p-CAM.2、p-CAM.3、p-CAM.4から本発明のカソード活物質CAM.2、CAM.3、CAM.4をそれぞれ得た。
【国際調査報告】