IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの特許一覧

特表2024-504141低密度で良好な機械的特性を有する金属部品を製造するための材料及び方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-30
(54)【発明の名称】低密度で良好な機械的特性を有する金属部品を製造するための材料及び方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/10 20220101AFI20240123BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240123BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20240123BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20240123BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20240123BHJP
   B22F 10/16 20210101ALI20240123BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240123BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240123BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20240123BHJP
   C21D 6/02 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B22F1/10
B22F1/00 T
B22F1/00 R
B22F3/02 S
B22F3/02 M
B22F3/10 C
B22F3/24 A
B22F10/16
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D6/00 101F
C21D6/02
C22C38/00 304
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544063
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(85)【翻訳文提出日】2023-09-20
(86)【国際出願番号】 EP2022050601
(87)【国際公開番号】W WO2022157059
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/072859
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ホワン,コワン
(72)【発明者】
【氏名】ブレマッハー,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】エルマン,マリー-クレール
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018AA40
4K018BA16
4K018BA20
4K018BB02
4K018BC12
4K018CA09
4K018CA29
4K018DA03
4K018DA22
4K018DA29
4K018DA31
4K018DA32
4K018FA08
4K018KA01
4K018KA25
4K018KA32
4K018KA70
(57)【要約】
本発明は、
(a)組成物の総体積に基づいて、40~70体積%の金属粉末であって、該金属粉末が、すべて金属粉末の総質量に基づいて、
(a1)4.0~13.0質量%のクロム、
(a2)6~15質量%のアルミニウム、
(a3)4~30質量%のマンガン、
(a4)38.4~85.95質量%の鉄、
(a5)0.05~0.5質量%のチタン、
(a6)0~0.2質量%のニッケル、
(a7)0~1.5質量%のケイ素、
(a8)0~1.5質量%の炭素、
を含む合金である、金属粉末、及び
(b)組成物の総体積に基づいて、30~60体積%のポリマーバインダー
を含む、組成物に関する。
さらに、本発明は、金属射出成形又は付加製造における、このような組成物の使用方法、及びバインダーイントベッドジェットプロセスにおける、金属粉末の使用方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)組成物の総体積に基づいて、40~70体積%の金属粉末であって、該金属粉末が、すべて金属粉末の総質量に基づいて、
(a1)4.0~13.0質量%のクロム、
(a2)6~15質量%のアルミニウム、
(a3)4~30質量%のマンガン、
(a4)38.4~85.95質量%の鉄、
(a5)0.05~0.5質量%のチタン、
(a6)0~0.2質量%のニッケル、
(a7)0~1.5質量%のケイ素、
(a8)0~1.5質量%の炭素、
を含む合金である、金属粉末、及び
(b)組成物の総体積に基づいて、30~60体積%のポリマーバインダー
を含む、組成物。
【請求項2】
前記合金が、
(a1)4.5~11.0質量%のクロム、
(a2)6.2~13質量%のアルミニウム、
(a3)6~28質量%のマンガン、
(a4)44.65~82.3質量%の鉄、
(a5)0.1~0.4質量%のチタン、
(a6)0~0.15質量%のニッケル、
(a7)0.4~1.4質量%のケイ素、
(a8)0.5~1.4質量%の炭素、
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記合金が、
(a1)5.0~9.0質量%のクロム、
(a2)6.5~10質量%のアルミニウム、
(a3)10~25質量%のマンガン、
(a4)52.95~76.95質量%の鉄、
(a5)0.15~0.35質量%のチタン、
(a6)0~0.1質量%のニッケル、
(a7)0.6~1.3質量%のケイ素、
(a8)0.7~1.3質量%の炭素、
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記合金が、
(a1)4.5~11.0質量%のクロム、
(a2)6.2~13質量%のアルミニウム、
(a3)6~28質量%のマンガン、
(a4)44.65~82.3質量%の鉄、
(a5)0.1~0.4質量%のチタン、
(a6)0~0.15質量%のニッケル、
(a7)0.4~1.4質量%のケイ素、
(a8)0.5~1.4質量%の炭素、
(a9)0.0~0.6質量%の窒素、
から主になる、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリマーバインダーが、すべてポリマーバインダーの総質量に基づいて、
(b1)40~97.5質量%の少なくとも1種のポリオキシメチレン、
(b2)2~35質量%の少なくとも1種のポリオレフィン、
(b3)0、又は0.5~20質量%の少なくとも1種のさらなるポリマー、
(b4)0、又は0.01~5質量%の少なくとも1種の分散剤
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリマーバインダーが、すべてポリマーバインダーの総質量に基づいて、
(b1)40~97.5質量%の少なくとも1種のポリオキシメチレン、
(b2)2~35質量%の少なくとも1種のポリオレフィン、
(b3)0質量%の少なくとも1種のさらなるポリマー、
(b4)0.01~5質量%の少なくとも1種の分散剤
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
金属部品を形成するための金属射出成形プロセス又は付加製造プロセスにおける、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物の使用方法。
【請求項8】
(I)請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物を提供する工程と;
(II)前記組成物を射出成形してグリーンボディを形成する工程と;
(III)前記グリーンボディを酸で触媒的に脱バインダーして、ブラウンボディを形成する工程と;
(IV)非酸化性雰囲気、大気圧又は減圧下、1150~1300℃の温度で前記ブラウンボディを焼結して、焼結部品を形成する工程と;
(V)任意に前記焼結部品を溶体化焼鈍及び/又は析出硬化プロセスで熱処理する工程と
を含む、金属射出成形によって金属部品を製造する方法。
【請求項9】
(I)請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物を提供する工程と;
(II)前記組成物を溶融フィラメント製造工程に供して、グリーンボディを形成する工程と;
(III)前記グリーンボディを酸で触媒的に脱バインダーして、ブラウンボディを形成する工程と;
(IV)非酸化性雰囲気、大気圧又は減圧下、1150~1300℃の温度で前記ブラウンボディを焼結して、焼結部品を形成する工程と;
(V)任意に前記焼結部品を溶体化焼鈍及び/又は析出硬化プロセスで熱処理する工程と
を含む、付加製造によって金属部品を製造する方法。
【請求項10】
工程(IV)が、アルゴン又は水素雰囲気で行われる、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
工程(IV)が、
i. 2~7℃/分の速度で、550~650℃の温度に加熱すること、
ii. 550~650℃の温度で0.5~1.5時間保持すること、
iii. 2~7℃/分の速度で、1150~1300℃の温度に加熱すること、
iv. 1150~1300℃の温度で0.5~1.5時間保持すること、及び
v. 5~15℃/分の速度で、周囲温度まで冷却すること
を含む、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(V)が、
(i)アルゴン又は窒素中、800~1200℃の温度で15分~60分間行う溶体化焼鈍工程、及び
(ii)空気、アルゴン又は窒素中、450~550℃の温度で10分~2時間行う析出硬化工程
を含む、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
バインダーイントベッドジェット付加製造プロセスによって金属部品を製造するための、金属粉末の使用方法であって、前記金属粉末が、すべて金属粉末の総質量に基づいて、
(a1)4.0~13.0質量%のクロム、
(a2)6~15質量%のアルミニウム、
(a3)4~30質量%のマンガン、
(a4)38.4~85.95質量%の鉄、
(a5)0.05~0.5質量%のチタン、
(a6)0質量%~0.2質量%のニッケル、
(a7)0質量%~1.5質量%のケイ素、
(a8)0質量%~1.5質量%の炭素、
を含む合金からなる、使用方法。
【請求項14】
(I)金属粉末を提供する工程であって、該金属粉末が、
(a1)4.0~13.0質量%のクロム、
(a2)6~15質量%のアルミニウム、
(a3)4~30質量%のマンガン、
(a4)38.4~85.95質量%の鉄、
(a5)0.05~0.5質量%のチタン、
(a6)0~0.2質量%のニッケル、
(a7)0~1.5質量%のケイ素、
(a8)0~1.5質量%の炭素、
を含む合金である、工程と、;
(II)前記金属粉末をバインダーイントベッドジェット工程に供してグリーンボディを形成する工程と;
(III/IV)非酸化性雰囲気、大気圧又は減圧下、1150~1300℃の温度で前記グリーンボディを脱バインダーし、焼結して、焼結部品を形成する工程と;
(V)任意に前記焼結部品を溶体化焼鈍及び/又は析出硬化プロセスで熱処理する工程と
を含む、付加製造によって金属部品を製造する方法。
【請求項15】
請求項8から12のいずれか一項に記載の方法によって製造され、7.4g/cm以下の密度、600MPa以上の極限引張強度、及び5%以上の破断伸びを有する、金属部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、元素アルミニウム及びマンガンを含む化学組成を有する鉄ベース金属粉末を用いて、7.4g/cm未満の密度、600MPa以上の引張強度、及び5%以上の延性(ductilities)を有する金属部品の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部品は、(1)金属粉末及び有機バインダーを含有する熱可塑性成形材料の射出成形、(2)金属粉末及び有機バインダーを含有する熱可塑性成形材料の3D印刷、(3)インクジェット印刷のようなプロセスで有機バインダーを使用した金属粉末の3D印刷を含む、さまざまな方法で製造することができる。これら3つのプロセスは、いずれも金属粉末及び有機バインダーを含むグリーンボディが得られ、その後、同様の後処理工程を経て、最終的な緻密な完全金属状態に到達するという点で類似している。
【0003】
(1)及び(2)の方法では、有機バインダー材料に金属粉末を高充填し、得られる複合物をフィードストックと呼ぶ。充填された熱可塑性成形材料又はフィードストックを射出成形、押出成形、3D印刷(フィードストックの顆粒状、ロッド/バー状又はフィラメント状のいずれかを使用する)、又はプレス成形してグリーンボディを形成した後、有機バインダーを除去し(いわゆる脱バインダー)、脱バインダーしたグリーンボディ又はブラウンボディを焼結する。金属及び射出成形の場合、例えばUS 5 737 683から、このプロセスは金属射出成形(MIM)として知られている。3D印刷プロセスにおけるMIMフィードストックの使用は、一般にWO 2016/012 486から知られている。
【0004】
(3)のプロセスでは、金属粉末が充填されたベッドに含有され、インクジェット印刷システムを使用してバインダーをベッドに導入し、それによって粉末を層内で結合させる。ベッドの表面を下げ、新しい粉末の層をこの表面に載せ、インクジェットプロセスを繰り返すことで、最終的に粉末ベッドから取り出すことができるグリーンボディができる。このプロセスは、一般にバインダーイントベッドジェット(BBJ)と呼ばれ、例えばUS 5 204 055に記載されている。
【0005】
MIMは、携帯電話及びアクセサリー、コンピューター、タブレット及びイヤホン、錠前及びポンプ部品、可動エンジン部品及びセンサーユニットなどに使用されるさまざまな金属部品の製造に、自動車、産業、情報通信技術(ICT)産業で広く使用されている、多用途で廃棄物の少ない工業化プロセスである。
【0006】
BBJは、プラスチック及び金属部品の製造において、工業的な採用が増加しているプロセスである。多くのMIMメーカーも、自動車、産業及び情報通信技術(ICT)産業で使用される金属部品を低廃棄でフレキシブルに生産するために、このプロセスに注目している。
【0007】
商品、人及び機械の輸送が環境に与える影響に対する意識の高まりにより、消費財、自動車及び産業機械の軽量化は、一般的になっている。軽量化は一般的に、巧みな設計又はより強度の高い材料の使用によって材料の使用量を低減することによって達成される。あるいは、特に同等の機械的性能を達成できる場合、より軽い材料、すなわちより低い密度を有する材料は、よりエレガントな解決策を提供することができる。
【0008】
鉄をベースとする金属部品の製造業界では、重量が鋼使用の大きな欠点であるため、性能を低下させることなく金属部品を軽量化する解決策が強く求められている。さらに、携帯電話、コンピュータ又はノートパソコンなどの電子機器の構造部品の分野では、装置あたりの部品総数は着実に増加しており、消費者は最終的な装置のわずかな重量増加しか許容できないため、より軽量な材料による金属部品しか適用できない。
【0009】
MIMでは、Al、Ti又はMgなどの軽量金属及びそれらの合金の使用が長年議論されてきた。これらはいずれも、装置の軽量化に大きな可能性を秘めているが、課題もある。これらの元素の純粋な金属粉末は、しばしば空気中で高い反応性を示し、周囲条件下での作業は危険である。これらの材料から安定したフィードストックを作り、安全な方法で部品を加工することは依然として難しい。部品を最終密度まで焼結することは、さらに大きな課題である。このような軽量材料のBBJも、同様の焼結プロセスが必要であり、また反応性の金属粉末を安全に取り扱う必要があるため、同様の課題に直面している。
【0010】
最後に、消費財には一定の美的要件があり、同時に大気環境下で優れた耐食性を示さなければならない。さらに、電子装置は1日に何度も使用されるため、使用中に一定の機械的負荷に耐える必要がある。このような軽量金属部品の機械的特性は、ICT産業で使用される一般的な鋼、例えば17-4PH又は316Lと同様でなければならない。
【0011】
結論として、市場では、耐食性に優れ、機械的特性が良好で、密度が低く、工業用MIM生産設備又はBBJプロセスに適用可能な金属合金をベースとする金属粉末及びMIMフィードストックの必要性が定義されている。
【0012】
アルミニウム及びマンガンを多量に含有する鋳鋼又は鍛鋼の使用は、ここ数年、自動車産業で大いに定着している(Sci.Tech.Adv.Mat.2013,14,014205)。このような材料は1950年代にすでに発表されており、興味深い特性を持つ低密度材料の可能性がすでに確認されていた(US 3 193 384)。3~13%のアルミニウム、3~30%のマンガン、及び0.1~1.5%の炭素を有する溶融鋳造部品について出版された研究では、後続の熱処理の有無にかかわらず、1GPaを超える引張強度が報告されている(Sci.Tech.Adv.Mat.2013,14,014205)。Pow.Metall.2019,62,3は、MIMフィードストックへの転換に成功している、1.5%のアルミニウム、22%のマンガン、0.4%の炭素、1.5%のケイ素、及び残りの鉄という組成を有する金属粉末を開示しているが、機械的特性及び最終的な部品密度は示されていない。多くのオーステナイトシステムは、特定の組成及び熱処理を用いて達成され、これらのシステムに基づく部品の耐食性を許容できる可能性を高めている。
【0013】
MIM技術又はBBJ技術のルートをたどった後、鋳造又は鍛造材料で実証された並外れた特性を達成するための鍵は、高い焼結部品密度に達する必要があることである(理論密度の99%以上が好ましい)。この高密度及び歪みの回避のみが、この合金を産業界で実現可能にする。MIM部品又はBBJ部品の焼結密度は、通常、錬鋼の密度より3~5%低いことを考慮すると、MIM又はBBJルートを使用してこの鋼の良好な特性を達成することが重要であることは明らかである。
【0014】
Sci.Tech.Adv.Mat.2013,14,014205及びPow.Metall.2019,62,3に記載されている合金は、脱バインダー及び焼結を困難にする相当量のアルミニウム及びマンガンを含有している。アルミニウム及びマンガンは酸素及び他の酸化剤と容易に反応する。また、マンガンは分圧が非常に低いため、高温での焼結中に部品からそれを消耗する。したがって、このような合金をMIM又はBBJプロセスに適用することが重要であることは明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】US 5 737 683
【特許文献2】WO 2016/012 486
【特許文献3】US 5 204 055
【特許文献4】US 3 193 384
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Sci.Tech.Adv.Mat.2013,14,014205
【非特許文献2】Pow.Metall.2019,62,3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の根底にある目的は、上述の欠点を有しない金属粉末、製剤及び製法を提供することである。特に、本発明の目的は、7.4g/cm未満の密度を示し、良好な機械的特性、例えば600MPa以上の引張強度又は5%以上の破断伸び、好ましくはその両方、及び5%以上の延性を示す複合金属部品の製造のための、
(1)MIMの製剤及び製法、及び
(2)金属粉末の使用及び使用方法
を提供することである。さらに、MIM製剤から製造されるグリーンボディは、脱バインダー性、好ましくは触媒的に脱バインダー性であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様は、
(a)組成物の総体積に基づいて、40~70体積%の金属粉末であって、該金属粉末が、すべて金属粉末の総質量に基づいて、
(a1)4.0~13.0質量%のクロム、
(a2)6~15質量%のアルミニウム、
(a3)4~30質量%のマンガン、
(a4)38.4~85.95質量%の鉄、
(a5)0.05~0.5質量%のチタン、
(a6)0~0.2質量%のニッケル、
(a7)0~1.5質量%のケイ素、
(a8)0~1.5質量%の炭素、
を含む合金である、金属粉末、及び
(b)組成物の総体積に基づいて、30~60体積%のポリマーバインダー
を含む組成物である。
【0019】
対象組成物を使用する場合、7.4g/cm未満の密度を有する金属部品を製造することができる。
【0020】
本発明で具体化される金属粉末組成、より具体的にはアルミニウム及びマンガンの存在を考慮すると、特に触媒脱バインダーMIMプロセスに従った場合に、金属粉末を焼結して、高い相対密度を有する焼結部品を達成できることは驚くべきことである。
【0021】
本明細書で使用される「相対密度」とは、最終的な金属部品の密度(「金属部品密度」又は単に「密度」とも呼ばれる)と理論密度との関係を意味する。本明細書で使用される「理論密度」とは、その中に閉じた空隙がなく、完全に緻密である金属の最大密度を意味する。
【0022】
本発明による熱処理後、最終的な金属部品は、同様の合金組成を使用する鍛造部品及び鋳造部品で公知の機械的特性及び腐食挙動、特に600MPa以上の極限引張強度、5%以上の破断伸び、又は好ましくはその両方を示す。
【0023】
本発明の第2の態様は、金属部品を形成するための金属射出成形プロセス又は付加製造(additive manufacturing)プロセスにおける、本明細書に記載の組成物の使用方法である。
【0024】
本発明の第3の態様は、以下の工程、
(I)本明細書に記載の組成物を提供する工程と;
(II)前記組成物を射出成形してグリーンボディを形成する工程と;
(III)前記グリーンボディを酸で触媒的に脱バインダーして、ブラウンボディを形成する工程と;
(IV)非酸化性雰囲気、大気圧又は減圧下、1150~1300℃の温度で前記ブラウンボディを焼結して、焼結部品を形成する工程と;
(V)前記焼結部品を溶体化焼鈍(solution annealing)及び/又は析出硬化プロセスで熱処理する工程と
を含む金属射出成形による金属部品の製造方法である。
【0025】
焼結及び熱処理プロファイルの特定の選択により、この組成物をMIMプロセスに効果的に導入し、7.4g/cm未満の金属部品密度でこれらの優れた機械的特性を実現することができる。
【0026】
本発明の第4の態様は、以下の工程、
(I)本明細書に記載の組成物を提供する工程と;
(II)前記組成物を溶融フィラメント製造工程に供して、グリーンボディを形成する工程と;
(III)前記グリーンボディを酸で触媒的に脱バインダーして、ブラウンボディを形成する工程と;
(IV)非酸化性雰囲気、大気圧又は減圧下、1150~1300℃の最高温度で前記ブラウンボディを焼結して、焼結部品を形成する工程と;
(V)任意に、前記焼結部品を溶体化焼鈍及び/又は析出硬化プロセスで熱処理する工程と
を含む付加製造による金属部品の製造方法である。
【0027】
本発明の第5の態様は、バインダーイントベッドジェット付加製造プロセスによって金属部品を製造するための金属粉末の使用方法であり、ここで、前記金属粉末が、すべて前記金属粉末の総質量に基づいて、
(a1)4.0~13.0質量%のクロム、
(a2)6~15質量%のアルミニウム、
(a3)4~30質量%のマンガン、
(a4)38.4~85.95質量%の鉄、
(a5)0.05~0.5質量%のチタン、
(a6)0~0.2質量%のニッケル、
(a7)0~1.5質量%のケイ素、
(a8)0~1.5質量%の炭素、
を含む合金からなる。
【0028】
本発明の第6の態様は、以下の工程、
(I)金属粉末を提供する工程であって、前記金属粉末が、
(a1)4.0~13.0質量%のクロム、
(a2)6~15質量%のアルミニウム、
(a3)4~30質量%のマンガン、
(a4)38.4~85.95質量%の鉄、
(a5)0.05~0.5質量%のチタン、
(a6)0~0.2質量%のニッケル、
(a7)0~1.5質量%のケイ素、
(a8)0~1.5質量%の炭素、
を含む合金である、工程と;
(II)前記金属粉末をバインダーイントベッドジェット工程に供して、グリーンボディを形成する工程と;
(III)前記グリーンボディを脱バインダーし、非酸化性雰囲気、大気圧又は減圧下、1150~1300℃の温度で焼結して、焼結部品を形成する工程と;
(IV)任意に、前記焼結部品を溶体化焼鈍及び/又は析出硬化プロセスで熱処理する工程と
を含む付加製造による金属部品の製造方法である。
【0029】
焼結及び熱処理プロファイルの特定の選択により、この合金をBBJプロセスに効果的に導入し、7.4g/cm未満の密度でこれらの優れた機械的特性を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に記載する金属粉末は、本発明に従ってMIMフィードストックに使用することができるが、本明細書でさらに説明するように、BBJプロセスに直接使用することもできる。どちらも金属部品をもたらす。
【0031】
金属粉末
金属粉末は、すべて金属粉末の総質量に基づいて、
(a1)4.0~13.0質量%のクロム、
(a2)6~15質量%のアルミニウム、
(a3)4~30質量%のマンガン、
(a4)38.4~85.95質量%の鉄、
(a5)0.05~0.5質量%のチタン、
(a6)0~0.2質量%のニッケル、
(a7)0~1.5質量%のケイ素、
(a8)0~1.5質量%の炭素、
を含む又はから主になる粉末状金属合金材料からなる。
【0032】
本明細書で使用する「主に」とは、他の成分、特に合金の化学的及び機械的特性に大きな影響を与えない不可避な不純物が微量に存在する可能性があることを意味する。
【0033】
クロム(Cr)は金属の耐食性に寄与する。Crはフェライト安定剤であり、少なくともそのために含有量を高くすべきではない。Crは、金属中の他の必須元素よりも燃焼熱の値が低いため、その点で、Alのより悪影響を補うために使用することができる。金属中のCr量は、4.0~13.0質量%、好ましくは4.5~11.0質量%、最も好ましくは5.0~9.0質量%である。
【0034】
アルミニウム(Al)は、金属の密度を下げたり、炭化物を形成して金属の強度に寄与したり、鋼中に窒素が存在する場合は窒化物を形成するために使用される。Alはフェライト安定剤である。また、高い燃焼熱の値を持つため、粉末の爆発傾向を高める。少なくとも後者の理由から、アルミニウムの量は多すぎてはならない。金属粉末は、6.0質量%以上、特に6.5質量%以上のアルミニウム含有量を有する。金属中のAl量は6~15質量%、好ましくは6.2~13質量%、最も好ましくは6.5~10質量%である。
【0035】
マンガン(Mn)は、主なオーステナイト安定剤として使用される。金属中のMnの量は4~30質量%である。金属粉末中のマンガンの好ましい量は6~28質量%、特に10~25質量%である。特に好ましい実施形態では、金属粉末は16.5質量%以上、特に19質量%以上のマンガン含有量を有する。
【0036】
チタン(Ti)は、炭化物及び/又は窒化物を形成することにより、金属の強度に寄与する。Tiはフェライトを安定化させ、高い燃焼熱の値を持つ。そのため、金属中に0.05~0.5質量%、好ましくは0.1~0.4質量%の量でのみ存在する。
【0037】
ニッケル(Ni)は、最大0.2質量%で存在してもよい。そのレベルを超えると、Niは、ニッケルアレルギーの人にアレルギー反応を引き起こす可能性がある。好ましくは、金属粉末のニッケル含有量は0.05質量%未満である。粉末からNiを除去すれば問題は完全に改善されるので、最も好ましくは、ニッケルの量は0質量%、すなわち金属粉末はニッケルを含まない。
【0038】
ケイ素(Si)は溶融物をより流動的にし、それによって微粒化プロセスを容易にする。Siは低い密度も有する。しかしながら、Siはフェライトを安定化させ、高い燃焼熱の値を持つ。そのため、Siは0~1.5質量%、好ましくは0.15~0.35質量%でのみ存在する。
【0039】
炭素(C)は、炭化物形成剤として使用することができ、それによって金属に機械的強度を加え、望ましくない金属間相の形成をある程度防ぐことができる。Cは、最大1.5質量%、好ましくは0.5~1.4質量%、最も好ましくは0.7~1.3質量%の量で存在してもよい。
【0040】
窒素(N)は、金属粉末中に最大0.6質量%で存在してもよい。しかしながら、窒素が多すぎると、析出物が多量に発生し、金属の延性が低下する恐れがある。
【0041】
鉄(Fe)は、バランスとして38.4~85.95質量%の量で使用され、すなわち他の成分と合計して100質量%となる。さらに、この金属には、合金の化学的及び機械的特性に大きな影響を与えない、不可避な不純物が微量に含有されてもよい。
【0042】
好ましくは、金属粉末は、
(a1)4.5~11.0質量%のクロム、
(a2)6.2~13質量%のアルミニウム、
(a3)6~28質量%のマンガン、
(a4)44.65~82.3質量%の鉄、
(a5)0.1~0.4質量%のチタン、
(a6)0~0.15質量%のニッケル、
(a7)0.4~1.4質量%のケイ素、
(a8)0.5~1.4質量%の炭素、
を含む又はから主になる粉末状金属合金材料から主になる。
【0043】
より好ましくは、金属粉末(MP)は、
(a1)5.0~9.0質量%のクロム、
(a2)6.5~10質量%のアルミニウム、
(a3)10~25質量%のマンガン、
(a4)52.95~76.95質量%の鉄、
(a5)0.15~0.35質量%のチタン、
(a6)0~0.1質量%のニッケル、
(a7)0.6~1.3質量%のケイ素、
(a8)0.7~1.3質量%の炭素、
を含む又はから主になる粉末状金属合金材料からなる。
【0044】
これらの金属は1つの粉末の中で合金化される。単一の、完全に合金化された粉末又は事前に合金化された粉末の使用が好ましい。これにより、最終的な金属部品の微細構造全体にわたって元素の均質な分布が確保され、最適な機械的性能及び耐食性が保証される。
【0045】
金属粉末を調製するためには、無機材料を粉抹にしなければならない。無機材料を粉抹にするには、当業者に公知の方法を用いることができる。例えば、無機材料を粉砕してもよい。例えば、粉砕は、分級機ミル、ハンマーミル又はボールミルで行われてもよい。
【0046】
MIMフィードストックで使用する又はBBJプロセスで直接使用する金属粉末は、ガス微粒化又は水微粒化を使用して微粒化(atomized)することもできる。これらの粉末の微粒化は通常、アルゴン及び窒素などの不活性雰囲気下で行われる。窒素は粉末の微細構造に取り込まれるという欠点があるため、アルゴンがしばしば好ましい。得られる窒化物は、最終的な焼結部品の性能にとって不利になる可能性がある。
【0047】
MIMとBBJの両方での使用に有益なのは、レーザー回折法で測定した粒径分布が一般に0.005~100μm、好ましくは0.1~70μm、特に好ましくは0.2~30μm、最も好ましくは0.3~20μmである球状粉末である。粉末の平均粒径(直径)は、好ましくは100μm未満、より好ましくは50μm未満、最も好ましくは20μm未満である。粉末は、所望の粒径分布に達成するために、微粒化後にふるい分け又は分級してもよい。粉末の真球度を向上させ、汚染物質を除去するために、粉末のプラズマ処理を利用することもできる。
【0048】
本発明の第1の実施形態では、金属粉末はMIMフィードストック組成物の形成に使用することができる。
【0049】
MIMフィードストック
本明細書においてより具体的には「MIMフィードストック」又は「フィードストック」とも呼ばれる、本発明による組成物は、混合物の総体積に基づいて、40~70体積%の上述の金属粉末、及び30~60体積%のバインダーを含む。「MIMフィードストック」という用語は、その使用をMIMに限定することを意図しているのではなく、この組成物は付加製造又はその他の潜在的用途にも使用される可能性があることに留意されたい。
【0050】
好ましくは、フィードストックは、フィードストックの総体積に基づいて、45~65体積%の金属粉末及び35~55体積%のバインダーを含む、又は本から主になる。
【0051】
特に好ましくは、フィードストックは、フィードストックの総体積に基づいて、50~64体積%の金属粉末及び36~50体積%のバインダーを含む。
【0052】
好ましくは、フィードストックは金属粉末及びバインダーから主になり、ここで、金属粉末とバインダーの体積パーセントの合計は100%である。
【0053】
混合物は、当業者に公知の任意の方法で調製することができる。好ましくは、フィードストックは、バインダーを溶融し、金属粉末を混合することによって製造される。例えば、バインダーは二軸押出機で好ましくは150~220℃、特に170~200℃の温度で溶融することができる。金属粉末はその後、同じ範囲の温度でバインダーの溶融物の流に必要な量で計量供給される。あるいは、バインダーは、シグマニーダー押出機で、好ましくは150~220℃、特に170~200℃の温度で溶融されてもよい。金属粉末はその後、同じ範囲の温度でバインダーの溶融物の流に必要な量で計量供給される。
【0054】
金属粉末を計量供給するための特に好ましい装置は、加熱可能な金属シリンダー内に配置され、金属粉末をバインダーの溶融物中に輸送する輸送スクリューを必須の要素として含んでいる。上述したプロセスは、室温で成分を混合し、その後温度を上昇させながら押出成形するよりも、この変形態様で生じる高いせん断力の結果としてバインダーとして使用されるポリオキシメチレン(POM)の分解が大幅に回避されるという利点を有する。
【0055】
フィードストックのさらなる成分については、以下に詳述する。
【0056】
バインダー
本発明によれば、フィードストックは30~60体積%のバインダーを含む。好ましい実施態様では、混合物は、フィードストックの総体積に基づいて、35~55体積%のバインダー、特に好ましくは36~50体積%のバインダーを含む。
【0057】
本発明によれば、バインダーは、それぞれバインダーの総質量に基づいて、(b1)40~97.5質量%の少なくとも1種のポリオキシメチレン(POM)、(b2)2~35質量%の少なくとも1種のポリオレフィン(PO)、(b3)さらなるポリマー(FP)を含まないか、又は0.5~20質量%の少なくとも1種のさらなるポリマー(FP)、及び(b4)分散剤を含まないか、又は0~5質量%の少なくとも1種の分散剤を含み、又はから主になり、ここで、(b1)、(b2)、(b3)及び(b4)の質量%の合計は100%である。
【0058】
好ましい実施形態において、バインダーは、それぞれバインダーの総質量に基づいて、(b1)62~94.95質量%の少なくとも1種のポリオキシメチレン(POM)、(b2)3~20質量%の少なくとも1種のポリオレフィン(PO)、(b3)さらなるポリマー(FP)を含まないか、又は2~15質量%の少なくとも1種のさらなるポリマー(FP)、及び(b4)0.05~3質量%の少なくとも1種の分散剤を含み、又はから主になり、ここで、成分(b1)、(b2)、(b3)及び(b4)の質量%の合計は通常100%である。
【0059】
特に好ましくは、バインダーは、それぞれバインダー(B)の総質量に基づいて、(b1)83~92.9質量%の少なくとも1種のポリオキシメチレン(POM)、(b2)4~15質量%の少なくとも1種のポリオレフィン(PO)、(b3)3~10質量%少なくとも1種のさらなるポリマー(FP)、及び(b4)0.1~2質量%の少なくとも1種の分散剤を含み、又はから主になり、ここで、成分(b1)、(b2)、(b3)及び(b4)の質量%の合計は100%である。
【0060】
本発明によれば、POMはPOと異なり、POはFPと異なり、FPは分散剤と異なり、分散剤はPOMと異なる。しかしながら、POM、PO、FP及び分散剤は、同一の構成単位を含んでもよく、例えば、さらなる構成単位が異なってもよく、及び/又は分子量が異なってもよい。
【0061】
バインダーの成分(b1)POM、(b2)PE、(b3)FP、及び(b4)分散剤については、以下により詳細に説明する。
【0062】
ポリオキシメチレン
本発明によれば、バインダーは、40~97.5質量%のポリオキシメチレン(本明細書では「POM」とも称する)を含む。好ましい実施形態では、バインダーは、バインダーの総量に基づいて、62~94.95質量%のPOM、特に好ましくは83~92.9質量%のPOMを含む。
【0063】
バインダーには少なくとも1種のPOMを使用することができる。本発明における「少なくとも1種のPOM」とは、正確に1種のPOMを意味し、また2種以上のPOMの混合物も意味する。
【0064】
本発明の目的のために、「ポリオキシメチレン」又は「POM」という用語は、POM自体、すなわちポリオキシメチレンホモポリマーと、ポリオキシメチレンコポリマー及びポリオキシメチレンターポリマーとの両方を包含する。
【0065】
POMホモポリマーは通常、ホルムアルデヒド源から選択されたモノマーの重合によって調製される。
【0066】
「ホルムアルデヒド源」という用語は、POM調製の反応条件下でホルムアルデヒドを遊離することができる物質を指す。
【0067】
ホルムアルデヒド源は有利に、環状又は直鎖状のホルマールの群から、特にホルムアルデヒド及び1,3,5-トリオキサンからなる群から選択される。1,3,5-トリオキサンが特に好ましい。
【0068】
POMコポリマーは、それ自体知られており、市販されている。これらは通常、主モノマーとするトリオキサンの重合によって調製される。さらに、コモノマーが併用される。主モノマーは、好ましくは、トリオキサン及び他の環状又は直鎖状ホルマール又は他のホルムアルデヒド源の中から選択される。
【0069】
「主モノマー」という表現は、モノマーの総量、すなわち主モノマーとコモノマーの合計におけるこれらのモノマーの割合が、モノマーの総量におけるコモノマーの割合よりも大きいことを示すことを意図している。
【0070】
非常に一般的には、本発明によるPOMは、主ポリマー鎖中に少なくとも50モル%の繰り返し単位-CHO-を有する。好適なポリオキシメチレン(POM)コポリマーは、特に、繰り返し単位-CHO-、及び0.01~20モル%、特に0.1~10モル%、非常に特に好ましくは0.5~6モル%の式(I)の繰り返し単位を含むものである、
【化1】
(式中、R~Rは、それぞれ互いに独立して、H、C~Cアルキル、及びハロゲン置換C~Cアルキルからなる群から選択され;
は、化学結合、(-CR5a5b-)基、及び(-CR5a5bO-)基からなる群から選択され、
5a及びR5bは、それぞれ互いに独立して、H、及び非置換又は少なくとも一置換のC~Cアルキルからなる群から選択され、ここで、置換基は、F、Cl、Br、OH及びC~Cアルキルからなる群から選択され;
nは0、1、2又は3である)。
【0071】
nが0の場合、Rは隣接する炭素原子と酸素原子との間の化学結合である。Rが(-CR5a5bO-)基である場合、(-CR5a5bO-)基の酸素原子(O)は、式(I)の別の炭素原子(C)に結合しており、式(I)の酸素原子(O)には結合していない。換言すれば、式(I)は過酸化物化合物を含まない。式(II)についても同様である。
【0072】
本発明の文脈において、例えば式(I)におけるラジカルR~Rについて上記で定義したようなC~Cアルキルなどの定義は、この置換基(ラジカル)が1~4の炭素原子数を有するアルキルラジカルであることを意味する。アルキルラジカルは直鎖であっても分岐状であってもよく、また任意に環状であってもよい。環状成分と直鎖成分の両方を有するアルキルラジカルも同様にこの定義に該当する。アルキルラジカルの例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、及びtert-ブチルが挙げられる。
【0073】
本発明の文脈において、例えば式(I)におけるラジカルR~Rについて上記で定義したようなハロゲン置換C~Cアルキルなどの定義は、C~Cアルキルが少なくとも1つのハロゲンで置換されていることを意味する。ハロゲンは、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)及びI(ヨウ素)である。
【0074】
式(I)の繰り返し単位は、有利には、第1コモノマーとしての環状エーテルの開環によりPOMコポリマーに導入することができる。一般式(II)の第1コモノマーが好ましい、
【化2】
(式中、R~R及びnは、一般式(I)について上記で定義した通りの意味を有する)。
【0075】
第1コモノマーとして、例えば、エチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ブチレンオキシド、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキソラン及び1,3-ジオキセパンなどの環状エーテル、及びポリジオキソラン又はポリジオキセパンなどの直鎖オリゴホルマール又はポリホルマールが挙げられる。1,3-ジオキソラン及び1,3-ジオキセパンは特に好ましい第1コモノマーであり、非常に特に好ましい第一コモノマーは1,3-ジオキソランである。
【0076】
ホルムアルデヒド源と第1コモノマー及び第2コモノマーとの反応により得ることができるPOMポリマーも同様に好適である。第2コモノマーの添加により、特にPOMターポリマーの調製が可能になる。
【0077】
第2コモノマーは、好ましくは、式(III)の化合物及び式(IV)の化合物からなる群から選択される、
【化3】
(式中、Zは、化学結合、(-O-)基及び(-ORO-)基からなる群から選択され、ここで、Rは、非置換のC~Cアルカンジイル及びC~Cシクロアルカンジイルからなる群から選択される)。
【0078】
~Cアルカンジイルは、2の自由原子価及び1~8の炭素原子数を有する炭化水素である。本発明によるC~Cアルカンジイルは、分岐していても分岐していなくてもよい。
【0079】
~Cシクロアルカンジイルは、2の自由原子価及び3~8の炭素原子数を有する環状炭化水素である。2の自由原子価、環状及び直鎖状成分、及び3~8の炭素原子数を有する炭化水素も同様にこの定義に該当する。
【0080】
第2コモノマー(b1c)の好ましい例としては、エチレンジグリシジル、ジグリシジルエーテル、及びグリシジル化合物とホルムアルデヒド、ジオキサン又はトリオキサンから2:1のモル比で調製されたジエーテル、及び同様に2モルのグリシジル化合物と1モルの2~8個の炭素原子を有する脂肪族ジオールから調製されるジエーテル、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,3-シクロブタンジオール、1,2-プロパンジオール及び1,4-シクロヘキサンジオールのジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0081】
好ましい実施形態において、成分(b1)は、少なくとも50モル%のホルムアルデヒド源、0.01~20モル%の少なくとも1種の第1コモノマー(b1b)及び0~20モル%の少なくとも1種の第2コモノマー(b1c)の重合によって調製されるポリオキシメチレン(POM)コポリマーである。
【0082】
特に好ましい実施形態において、POMは、80~99.98モル%、好ましくは88~99モル%のホルムアルデヒド源、0.1~10モル%、好ましくは0.5~6モル%の少なくとも1種の第1コモノマー、及び0.1~10モル%、好ましくは0.5~6モル%の少なくとも1種の第2コモノマーの重合によって調製されるPOMコポリマーであってもよい。
【0083】
さらなる好ましい実施形態において、POMは、少なくとも50モル%のホルムアルデヒド源、0.01~20モル%の一般式(II)の少なくとも1種の第1コモノマー、及び0~20モル%の式(III)の化合物及び式(IV)の化合物からなる群から選択される少なくとも1種の第2コモノマーの重合によって調製されるPOMコポリマーであってもよい。
【0084】
本発明の好ましい実施形態において、POMのOH末端基の少なくとも一部がキャップされている。OH末端基をキャップする方法は当業者に公知である。例えば、エーテル化又はエステル化によって、OH末端基をキャップすることができる。
【0085】
好ましいPOMコポリマーは、少なくとも150℃の融点、及び5000g/mol~300000g/molの範囲、好ましくは6000g/mol~150000g/mol、特に好ましくは7000g/mol~100000g/molの範囲の質量平均分子量MWを有する。
【0086】
2~15、好ましくは2.5~12、特に好ましくは3~9の多分散度(Mw/Mn)を有するPOMコポリマーが特に好ましい。
【0087】
質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定は、一般にゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって行われる。GPCはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)としても知られている。
【0088】
POMの調製方法は当業者に知られている。
【0089】
ポリオレフィン
本発明によれば、バインダーは、2~35質量%のポリオレフィン(本明細書では「PE」とも称する)を含む。好ましい実施形態において、バインダーは、バインダーの総量に基づいて、3~20質量%のポリオレフィン、特に好ましくは4~15質量%のポリオレフィンを含む。
【0090】
本発明によれば、ポリオレフィンは少なくとも1種のポリオレフィンである。本発明における「少なくとも1種のポリオレフィン」とは、正確に1種のポリオレフィンを意味し、また2種以上のポリオレフィンの混合物も意味する。
【0091】
ポリオレフィンは、それ自体既知であり、市販されている。これらは通常、C~Cアルケンモノマーの重合、好ましくはC~Cアルケンモノマーの重合によって調製される。
【0092】
本発明の文脈において、C~Cアルケンとは、2~8個の炭素原子及び少なくとも1個の炭素-炭素二重結合(C=C二重結合)を有する非置換又は少なくとも一置換の炭化水素を意味する。「少なくとも1個の炭素-炭素二重結合」とは、正確に1個の炭素-炭素二重結合を意味し、また2個以上の炭素-炭素二重結合も意味する。
【0093】
換言すれば、C~Cアルケンは、2~8個の炭素原子を有する炭化水素が不飽和であることを意味する。炭化水素は分岐していても分岐していなくてもよい。1個のC=C-二重結合を有するC~Cアルケンの例としては、エテン、プロペン、1-ブテン、2-ブテン、2-メチル-プロペン(=イソブチレン)、1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、3-ヘキセン及び4-メチル-1-ペンテンが挙げられる。2個以上のC-C二重結合を有するC~Cアルケンの例としては、アレン、1,3-ブタジエン、1,4-ペンタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(=イソプレン)が挙げられる。
【0094】
~Cアルケンが1個のC-C二重結合を有する場合、それらのモノマーから調製されるポリオレフィンは直鎖状である。C~Cアルケンに2個以上の二重結合が存在する場合、それらのモノマーから調製されるポリオレフィンは架橋されていてもよい。直鎖状ポリオレフィンが好ましい。
【0095】
また、ポリオレフィンの調製中に異なるC~Cアルケンモノマーを使用して調製されるポリオレフィンコポリマーを使用することも可能である。
【0096】
好ましくは、ポリオレフィンは、ポリメチルペンテン、ポリ-1-ブテン、ポリイソブチレン、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群から選択される。ポリエチレン及びポリプロピレン、及び当業者に公知で市販されているそれらのコポリマーが特に好ましい。
【0097】
ポリオレフィンは、当業者に公知の任意の重合プロセスによって、好ましくはフリーラジカル重合によって、例えば乳化重合、ビーズ重合、溶液重合又はバルク重合によって調製することができる。可能な開始剤は、モノマー及び重合のタイプに依存して、ペルオキシ化合物及びアゾ化合物のようなフリーラジカル開始剤であり得、開始剤の量は、一般に、モノマーに基づいて0.001~0.5質量%の範囲である。
【0098】
さらなるポリマー
バインダーは、0.5~20質量%のさらなるポリマーを含んでもよい。好ましい実施形態において、バインダーは、バインダーの総量に基づいて、2~15重量%のさらなるポリマー、特に好ましくは3~10重量%のさらなるポリマーを含む。
【0099】
本発明によるさらなるポリマーは、少なくとも1種のさらなるポリマーである。本発明における「少なくとも1種のさらなるポリマー」とは、正確に1種のさらなるポリマーを意味し、また2種以上のさらなるポリマーの混合物も意味する。
【0100】
すでに上述したように、少なくとも1種のさらなるポリマーは、ポリオキシメチレン、ポリオレフィン及び以下に記載されている分散剤とは異なる。
【0101】
本発明によれば、少なくとも1種のさらなるポリマーは、好ましくは、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリアミド、ビニル芳香族ポリマー、ポリ(ビニルエステル)、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)及びそれらのコポリマーからなる群から選択される。
【0102】
好ましくは、さらなるポリマーは、ポリ(C~Cアルキレンオキシド)、脂肪族ポリウレタン、脂肪族未架橋エポキシド、脂肪族ポリアミド、ビニル芳香族ポリマー、脂肪族C~Cカルボン酸のポリ(ビニルエステル)、C~Cアルキルビニルエーテルのポリ(ビニルエーテル)、C~Cアルキルのポリ(アルキル(メタ)アクリレート)、及びこれらのコポリマーからなる群から選択される。
【0103】
好ましいさらなるポリマーについては、以下に詳述する。
【0104】
ポリエーテルは式(V)の繰り返し単位を含む、
【化4】
(式中、R11~R14は、それぞれ互いに独立して、H、C~Cアルキル、及びハロゲン置換C~Cアルキルからなる群から選択され;
15は、化学結合、(-CR15a15b-)基、及び(-CR15a15bO-)基からなる群から選択され、
ここで、R15a及びR15bは、それぞれ互いに独立して、H、及び非置換又は少なくとも一置換のC~Cアルキルからなる群から選択され、ここで、置換基は、F、Cl、Br、OH及びC~Cアルキルからなる群から選択され;
nは0、1、2又は3である)。
【0105】
nが0の場合、R15は隣接する炭素原子と酸素原子との間の化学結合である。R15が(-CR15a15bO-)基である場合、(-CR15a15bO-)基の酸素原子(O)は、式(V)の別の炭素原子(C)に結合しており、式(V)の酸素原子(O)には結合していない。換言すれば、式(V)は過酸化物化合物を含まない。式(VI)についても同様である。
【0106】
典型的なポリエーテル及びその調製法は当業者に知られている。
【0107】
本発明による好ましいポリエーテルは、例えば、ポリ(アルキレンオキシド)としても知られているポリ(アルキレングリコール)である。
【0108】
ポリアルキレンオキシド及びその調製法は当業者に知られている。ポリアルキレンオキシドは通常、水及び2価又は多価アルコールと一般式(VI)の環状エーテル、すなわちアルキレンオキシドとの相互作用によって合成される。反応は酸性又は塩基性触媒によって触媒される。この反応は、一般式(VI)の環状エーテルのいわゆる開環重合である。
【0109】
【化5】
(式中、R11~R15は、一般式(V)について上記で定義したのと同じ意味を有する)。
【0110】
本発明による好ましいポリ(アルキレンオキシド)は、環中に2~6個の炭素原子を有する一般式(VI)のモノマーに由来する。換言すれば、好ましくは、ポリ(アルキレンオキシド)は、ポリ(C~Cアルキレンオキシド)である。特に好ましくは、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキセパン及びテトラヒドロフラン(IUPAC名:オキソラン)からなる群から選択されるモノマーに由来するポリ(アルキレンオキシド)である。換言すれば、特に好ましくは、ポリ(アルキレンオキシド)は、ポリ-1,3ジオキソラン、ポリ-1,3ジオキセパン及びポリテトラヒドロフランからなる群から選択される。
【0111】
一実施形態において、ポリ(アルキレンオキシド)はOH末端基を含むことができる。別の実施形態において、ポリ(アルキレンオキシド)のOH末端基の少なくとも一部を、キャップすることができる。OH末端基をキャップする方法は、当業者に公知である。例えば、エーテル化又はエステル化によって、OH末端基をキャップすることができる。
【0112】
ポリ(アルキレンオキシド)の質量平均分子量は、好ましくは1000~100000g/molの範囲、特に好ましくは1200~80000g/molの範囲、より好ましくは1500~50000g/molの範囲である。
【0113】
ポリウレタンは、カルバメート単位を有するポリマーである。ポリウレタン及びその調製法は当業者に知られている。
【0114】
本発明においては、脂肪族ポリウレタンが好ましい。これらは、例えば、脂肪族ポリイソシアネートと脂肪族ポリヒドロキシ化合物との重付加によって調製することができる。ポリイソシアネートの中では、一般式(VII)のジイソシアネートが好ましい、

OCN-R-NCO (VII)

(式中、Rは、置換又は非置換のC~C20アルカンジイル又はC~C20シクロアルカンジイルであり、ここで、置換基は、F、Cl、Br及びC~Cアルキルからなる群から選択される)。
【0115】
好ましくは、Rは、置換又は非置換のC~C12アルカンジイル又はC~C15シクロアルカンジイルである。
【0116】
~C20アルカンジイルは、2の自由原子価及び1~20の炭素原子数を有する炭化水素である。本発明によるC~C20アルカンジイルは、分岐していても分岐していなくてもよい。
【0117】
本発明の文脈において、C~C20シクロアルカンジイルなどの定義は、C~C20シクロアルカンジイルを意味する。C~C20シクロアルカンジイルは、2の自由原子価及び4~20の炭素原子数を有する環状炭化水素である。2の自由原子価、環状及び直鎖状成分、及び4~20の炭素原子数を有する炭化水素も同様にこの定義に該当する。
【0118】
好ましいジイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,2-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン、1,4-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン及びイソホロンジイソシアネート(IUPAC名:5-イソ-シアナト1(イソシアナトメチル)1,3,3トリメチル-シクロヘキサン)からなる群から選択される。
【0119】
ジイソシアネートは、オリゴマー、例えば二量体又は三量体の形態で使用することもできる。ポリイソシアネートの代わりに、例えばフェノール又はカプロラクタムの付加反応によって、上記のイソシアネートから得られる従来のブロックされたポリイソシアネートを使用することも可能である。
【0120】
脂肪族ポリウレタンの調製に適したポリヒドロキシ化合物は、例えば、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエステルアミド又はポリアセタール、又はそれらの混合物である。
【0121】
ポリウレタンの調製に適した鎖延長剤は、低分子量ポリオール、特にジオール及びポリアミン、特にジアミン又は水である。
【0122】
ポリウレタンは、好ましくは熱可塑性であり、従って好ましくは本質的に未架橋であり、すなわち分解の顕著な兆候なしに繰り返し溶融することができる。それらの還元比粘度は、ジメチルホルムアミド中30℃で測定して、一般に0.5~3dl/g、好ましくは1~2dl/gである。
【0123】
ポリエポキシドは少なくとも2個のエポキシド基を含む。エポキシド基は、グリシジル基又はオキシラン基としても知られている。「少なくとも2個のエポキシド基」とは、正確に2個のエポキシド基を意味し、また3個以上のエポキシド基も意味する。
【0124】
ポリエポキシド及びその調製は当業者に知られている。例えば、ポリエポキシドは、エピクロルヒドリン(IUPAC名:クロルメチルオキシラン)とジオール、ポリオール又はジカルボン酸との反応によって調製される。このようにして調製されるポリエポキシドは、エポキシド末端基を有するポリエーテルである。
【0125】
ポリエポキシドを調製する別の可能な方法は、グリシジル(メタ)アクリレート(IUPAC名:オキシラン-2-イルメチル-2-メチルプロプ-2-エノエート)とポリオレフィン又はポリアクリレートとの反応である。これにより、エポキシ末端基を有するポリオレフィン又はポリアクリレートが得られる。
【0126】
好ましくは、脂肪族未架橋ポリエポキシドが使用される。エピクロルヒドリンと2,2ビス(4-ヒドロキシフェニル)-プロパン(ビスフェノールA)とのコポリマーが特に好ましい。
【0127】
成分(b3)(少なくとも1種のさらなるポリマー(FP))は、ポリアミドも含むことができる。脂肪族ポリアミドが好ましい。
【0128】
好適なポリアミドの固有粘度は、一般に150~350ml/g、好ましくは180~275ml/gである。ここでは、固有粘度は、ISO 307に従って、25℃で96質量%の硫酸中の0.5質量%のポリアミドの溶液から測定される。
【0129】
好ましいポリアミドは半結晶性又は非晶質ポリアミドである。
【0130】
成分(b3)として好適なポリアミドの例は、7~13環員を有するラクタムに由来するものである。他の好適なポリアミドは、ジカルボン酸とジアミンとの反応によって得られるものである。
【0131】
ラクタムに由来するポリアミドの例は、ポリカプロラクタム、ポリカプリロラクタム、及び/又はポリラウロラクタムに由来するポリアミドである。
【0132】
ジカルボン酸とジアミンから得られるポリアミドを使用する場合、使用できるジカルボン酸は、6~14個の炭素原子、好ましくは6~10個の炭素原子を有するアルカンジカルボン酸である。芳香族ジカルボン酸も好適である。
【0133】
ここでジカルボン酸として挙げることができる例は、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、及びまたテレフタル酸及び/又はイソフタル酸である。
【0134】
好適なジアミンの例は、4~14個の炭素原子を有するアルカンジアミン、特に6~8個の炭素原子を有するアルカンジアミン、及びまた芳香族ジアミン、例えばm-キシリレンジアミン、ジ(4-アミノフェニル)メタン、ジ(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、及び1,5-ジアミノ-2-メチルペンタンである。
【0135】
他の好適なポリアミドは、上記および後述のモノマーの2種以上の共重合によって得られるもの、及び複数のポリアミドの任意の所望の混合比での混合物である。
【0136】
好ましいポリアミドは、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、及びポリカプロラクタム、及びまた特にカプロラクタム単位の割合が75~95質量%であるナイロン6/6,6である。
【0137】
ナイロン6と他のポリアミド、特にナイロン6/6,6(PA 6/66)との混合物が特に好ましく、80~50質量%のPA 6と20~50質量%のPA 6/66との混合物が特に好ましく、ここで、PA 6/66が、混合物中のPA 6/66の総質量に基づいて75~95質量%のカプロラクタム単位を含む。
【0138】
以下の非排他的なリストは、上記のポリアミド、及び他の好適なポリアミド、及びまた含まれるモノマーを含む:
ABポリマー:
PA 4 ピロリドン
PA 6 ε-カプロラクタム
PA 7 エタノールラクタム
PA 8 カプリロラクタム
PA 9 9-アミノペラルゴン酸
PA 11 11-アミノウンデカン酸
PA 12 ラウロラクタム
AA/BBポリマー:
PA 46 テトラメチレンジアミン、アジピン酸
PA 66 ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸
PA 69 ヘキサメチレンジアミン、アゼライン酸
PA 610 ヘキサメチレンジアミン、セバシン酸
PA 612 ヘキサメチレンジアミン、デカンジカルボン酸
PA 613 ヘキサメチレンジアミン、ウンデカンジカルボン酸
PA 1212 1,12-ドデカンジアミン、デカンジカルボン酸
PA 1313 1,13-ジアミノトリデカン、ウンデカンジカルボン酸
PA 6T ヘキサメチレンジアミン、テレフタル酸
PA MXD6 m-キシリレンジアミン、アジピン酸
PA 6I ヘキサメチレンジアミン、イソフタル酸
PA 6-3-T トリメチルヘキサメチレンジアミン、テレフタル酸
PA 6/6T (PA 6及びPA 6Tを参照)
PA 6/66 (PA 6及びPA 66を参照)
PA 6/12 (PA 6及びPA 12を参照)
PA 66/6/610 (PA 66、PA 6及びPA 610を参照)
PA 6I/6T (PA 6I及びPA 6Tを参照)
PA PACM 6 ジアミノジシクロヘキシルメタン、アジピン酸
PA PACM 12 ジアミノジシクロヘキシルメタン、ラウロラクタム
PA 6I/6T/PACMT PA 6I/6T+ジアミノジシクロヘキシルメタン
PA 12/MACMI ラウロラクタム、ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタン、イソフタル酸
PA 12/MACMT ラウロラクタム、ジメチルジアミノジシクロヘキシルメタン、テレフタル酸
PA PDA-T フェニレンジアミン、テレフタル酸。
【0139】
好ましいポリアミドはPA 6、PA 66、及びPA PACM 6である。
【0140】
ビニル芳香族ポリマーは、モノマー単位として非置換又は少なくとも一置換のスチレンを有するポリオレフィンである。好適な置換基は、例えばC~Cアルキル、F、Cl、Br及びOHである。好ましいビニル芳香族ポリマーは、ポリスチレン、ポリ-α-メチルスチレン、及びアクリル酸エステル、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群から選択されるコモノマーを最大30質量%有するそれらのコポリマーからなる群から選択される。
【0141】
ビニル芳香族ポリマーは市販されており、当業者に知られている。これらのポリマーの調製も当業者に知られている。
【0142】
好ましくは、ビニル芳香族ポリマーは、フリーラジカル重合、例えば乳化重合、ビーズ重合、溶液重合又はバルク重合によって調製される。可能な開始剤は、モノマー及び重合のタイプに依存して、ペルオキシ化合物及びアゾ化合物のようなフリーラジカル開始剤であり得、開始剤の量は、一般に、モノマーに基づいて0.001~0.5質量%の範囲である。
【0143】
ポリ(ビニルエステル)およびその調製法は当業者に知られている。ポリ(ビニルエステル)は、好ましくはビニルエステルの重合によって調製される。本発明の好ましい実施態様において、ビニルエステルは脂肪族C1~C6カルボン酸のビニルエステルである。好ましいモノマーはビニルアセテート及びビニルプロピオネートである。これらのモノマーはポリ(ビニルアセテート)及びポリ(ビニルプロピオネート)ポリマーを形成する。
【0144】
ポリ(ビニルエーテル)は、ビニルエーテルモノマーの重合によって調製される。ポリ(ビニルエーテル)及びその調製法は当業者に知られている。好ましい実施態様において、ビニルエーテルは脂肪族C1~C8アルキルエーテルのビニルエーテルである。好ましいモノマーは、メチルビニルエーテル及びエチルビニルエーテルであり、重合中にポリ(メチルビニルエーテル)及びポリ(エチルビニルエーテル)を形成する。
【0145】
好ましくは、ポリ(ビニルエーテル)は、フリーラジカル重合、例えば乳化重合、ビーズ重合、溶液重合、懸濁重合又はバルク重合によって調製される。可能な開始剤は、モノマー及び重合のタイプに依存して、ペルオキシ化合物及びアゾ化合物のようなフリーラジカル開始剤であり得、開始剤の量は、一般に、モノマーに基づいて0.001~0.5質量%の範囲である。
【0146】
本発明におけるポリ(アルキル(メタ)アクリレート)は、ポリ(アルキルアクリレート)、ポリ(アルキルメタクリレート)及びそれらのコポリマーを含む。ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)は、式(VIII)のモノマーに由来する単位を含み、
【化6】
ここで、Rは、H及びC1~C8アルキルからなる群から選択され、
は、式(IX)のラジカルである、
【化7】
(式中、R10は、C~C14アルキルである)。
【0147】
好ましくは、Rは、H及びC~C-アルキルからなる群から選択され、特に好ましくは、Rは、H又はメチルである。好ましくは、R10は、C~C-アルキルであり、特に好ましくは、R10はメチル又はエチルである。
【0148】
式(VIII)中のRがHであり、Rが式(IX)のラジカルであり、式(IX)中のR10がメチルである場合、式(VIII)のモノマーはメチルアクリレートである。
【0149】
式(VIII)中のRがHであり、Rが式(IX)のラジカルであり、式(IX)中のR10がエチルである場合、式(VIII)のモノマーはエチルアクリレートである。
【0150】
式(VIII)中のRがメチルであり、Rが式(IX)のラジカルである場合、式(VI)のモノマーはメタクリル酸エステルである。
【0151】
ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)は、モノマーとして、それぞれポリ(アルキル(メタ)アクリレート)の総量に基づいて、好ましくは40~100質量%のメタクリル酸エステル、特に好ましくは70~100質量%のメタクリル酸エステル、より好ましくは80~100質量%のメタクリル酸エステルを含む。
【0152】
別の好ましい実施形態において、ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)は、モノマーとして、それぞれポリ(アルキル(メタ)アクリレート)の総量に基づいて、20~100質量%のメチルアクリレート、エチルアクリレート又はそれらの混合物、好ましくは40~100質量%のメチルアクリレート、エチルアクリレート又はそれらの混合物、特に好ましくは50~100質量%のメチルアクリレート、エチルアクリレート又はそれらの混合物を含む。
【0153】
成分(b1)、(b2)及び(b3)の調製について上述したモノマーは、重合反応中にその構造が変化し得ることを当業者は知っている。その結果、ポリマーの構成単位は、それらが由来するモノマーと同じではない。しかしながら、当業者であれば、どのモノマーがポリマーのどの構成単位に対応するかを知っている。
【0154】
射出成形による配合又は加工の条件下では、成分(b1)のポリオキシメチレン(POM)と成分(b3)の少なくとも1種のさらなるポリマー(FP)との間で実質的にトランスアセタール化は起こらない、すなわち実質的にコモノマー単位の交換は起こらない。
【0155】
溶融フィラメント製造プロセスに特に有用である本発明の別の実施形態では、少なくとも1種のさらなるポリマー(FP)は、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリアミド、ビニル芳香族ポリマー、ポリ(ビニルエステル)、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(アルキル(メタ)アクリレート)及びそれらのコポリマーからなる群から選択される。
【0156】
分散剤
本発明の一実施形態において、混合物は、0~5体積%の分散剤を含んでもよい。好ましい実施形態において、混合物は、混合物の総体積に基づいて、それぞれ0.05~3体積%の分散剤、特に好ましくは0.1~3体積%の分散剤を含む。
【0157】
分散剤としては、1種以上の分散剤を使用することができる。
【0158】
有用な分散剤は一般に当該技術分野で知られている。例としては、200~600g/molの低分子量を有するオリゴマーポリエチレンオキシド、ステアリン酸、ステアラミド、ヒドロキシステアリン酸、脂肪アルコール、脂肪アルコールスルホネート及びエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマー、及び特に好ましくは脂肪酸エステルが挙げられる。
【0159】
金属射出成形プロセス
MIMフィードストックの金属射出成形は、以下の工程:
(I)本明細書に記載の組成物を提供する工程と;
(II)前記組成物を射出成形してグリーンボディを形成する工程と;
(III)前記グリーンボディを酸で触媒的に脱バインダーして、ブラウンボディを形成する工程と;
(IV)非酸化性雰囲気、大気圧又は減圧下、1150~1300℃の温度で前記ブラウンボディを焼結して、焼結部品を形成する工程と;
(V)前記焼結部品を溶体化焼鈍及び/又は析出硬化プロセスで熱処理する工程と
によって行われる。
【0160】
射出成形
工程(II)は、典型的には、従来のスクリュー射出成形機又はプランジャー射出成形機及び当該技術分野で公知のプロセスを用いて行われる。好ましくは、80℃~140℃の鋳型温度、160℃~200℃のスクリュー温度、及び500バール~2000バールの射出圧力が利用される。このプロセスにより、三次元のグリーンボディが製造される。
【0161】
脱バインダー
工程(II)の後に工程(III)が続き、この工程では、バインダーの少なくとも一部が三次元グリーンボディから除去される。バインダーの少なくとも一部の除去は、触媒的脱バインダーとも呼ばれる。本発明の目的のための「プロセス工程(III)」及び「触媒的脱バインダー」という用語は同義であり、本発明全体を通して互換的に使用される。
【0162】
工程(III)でバインダーの少なくとも一部を除去するために、三次元グリーンボディは、好ましくはガス状の酸を含む雰囲気で処理される。適切なプロセスは、例えばUS 2009/0288739及びUS 5 145 900に記載されている本発明によれば、。このプロセス工程(III)は、好ましくはバインダーの融点未満の温度で行われる。一般には、プロセス工程(III)は、20~150℃、特に好ましくは100~140℃の範囲の温度で行われる。好ましくは、プロセス工程(III)は、0.1~24時間、特に好ましくは0.5~12時間行われる。
【0163】
必要な処理時間は、処理温度及び処理雰囲気中の酸の濃度、及びまた三次元物体の大きさによって異なる。
【0164】
本発明のプロセス工程(III)に好適な酸は、例えば、室温で気体であるか、処理温度以下で気化することができる無機酸である。例としては、ハロゲン化水素及び硝酸が挙げられる。ハロゲン化水素は、フッ化水素、塩化水素、臭化水素及びヨウ化水素である。好適な有機酸は、大気圧で130℃未満の沸点を有するもの、例えばギ酸、酢酸又はトリフルオロ酢酸及びそれらの混合物である。沸点が130℃を超える酸、例えばメタンスルホン酸は、低沸点の酸及び/又は水との混合物として投与する場合、プロセス工程(III)で利用することもできる。プロセス工程(III)のための好ましい酸は、硝酸、水中の10質量%のシュウ酸溶液、又は水中の50体積%のメタンスルホン酸の混合物である。
【0165】
さらに、BF、及びその無機エーテルとの付加物は酸として使用することができる。
【0166】
キャリアガスを使用する場合、一般に、キャリアガスは酸に通過され、事前に酸を担持される。このようにして酸が担持されたキャリアガスは、次いでプロセス工程(III)が行われる温度にもたらされる。酸の凝縮を避けるために、この温度は、有利には担持温度よりも高い。好ましくは、プロセス工程(iv)が行われる温度は、担持温度より少なくとも1℃、特に好ましくは少なくとも5℃、最も好ましくは少なくとも10℃高い。
【0167】
好ましくは、計量装置によってキャリアガス中に酸を混合し、ガス混合物を、酸がもはや凝縮できないような温度まで加熱する。好ましくは、この温度は、酸及び/またはキャリアガスの昇華及び/又は気化温度より少なくとも1℃、特に好ましくは少なくとも5℃、最も好ましくは少なくとも10℃高い。
【0168】
キャリアガスは一般に、触媒的脱バインダー工程の反応条件下で不活性な任意のガスである。本発明による好ましいキャリアガスは窒素である。バインダー除去は減圧下で行うこともできる。
【0169】
触媒的脱バインダーは、好ましくは、バインダーのポリオキシメチレン(POM)が、POMの総質量に基づいて、少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%、特に好ましくは少なくとも95質量%の程度まで除去されるまで続けられる。これは、例えば、質量減少の高さで確認することができる。
【0170】
当業者には、触媒的脱バインダー工程の温度において、三次元グリーンボディに含まれる金属粉末が化学的及び/又は物理的な反応を起こす可能性があることが知られている。特に、金属粉末の粒子が融合し、固相転移、及び/又は酸性雰囲気又はキャリアガスと化学反応を起こす可能性がある。
【0171】
バインダーについても同様である。触媒的脱バインダー工程中では、バインダーの組成が変化する可能性がある。
【0172】
付加製造
MIMに加えて、フィラメント、ロッド/バー及び顆粒押出成形に基づく溶融フィラメント製造を含む付加製造法を、上述のフィードストックからグリーンボディを調製するために採用することができる。付加製造におけるこのようなフィードストックの使用は、一般にWO 2016/012486に記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれている。
【0173】
BBJプロセス
事前に配合したフィードストックの使用の代わりに、US 5 204 055に記載され、さらに以下に詳述されるように、グリーンボディを調製するためにバインダーを含む事前配合を行わずに、金属粉末をその場でバインダーイントベッドジェットプロセスに使用することもできる。
【0174】
上述した金属粉末は、以下の工程で説明できるバインダーイントベッドジェット(本明細書では「BBJ」とも呼ぶ)プロセスに直接導入することができる:
1.)限られた領域に金属粉末の層を堆積させる工程;
2.)インクジェット印刷のような機構を介して、前記粉末材料の層の1つ以上の選択された領域にバインダーを適用し、前記金属粉末の層を前記1つ以上の選択された領域で結合させる工程;
3.)工程1及び2を選択された回数繰り返して、選択された数の層を製造し、前記さらなる材料により、前記連続する層を互いに結合させる工程;
4.)前記1つ以上の選択された領域ではない未結合の金属粉末を除去して、最終的なグリーンボディを提供する工程。
【0175】
BBJシステムでは、典型的なバインダーには、セルロース系バインダーのような水溶性ポリマー樹脂、又はブチラール樹脂のような溶媒ベースのポリマー樹脂が含まれる。テトラエチルオルトシリケート又はその他のシリケートのような反応性システムも使用することができる。
【0176】
BBJプロセスの場合、グリーン部品は、MIMプロセスについて後述する焼結プロセス、又は特に工程(i)及び(ii)の期間及び速度においてこのプロセスをわずかに変更したプロセスに導入することができる。MIMプロセスについて後述する熱処理は、BBJ及び焼結ルートで製造された焼結部品に使用することができる。
【0177】
焼結
プロセス工程(III)の後に、三次元ブラウンボディが焼結されるプロセス工程(IV)が続いてもよい。プロセス工程(IV)は「焼結」とも呼ばれる。本発明の目的における「プロセス工程(IV)」及び「焼結」という用語は同義であり、本発明全体を通して互換的に使用される。
【0178】
焼結後の三次元物体は三次元焼結体である。三次元焼結体は、最初の金属粉末の固化した形態を含み、バインダーを本質的に含まない。
【0179】
本発明による「バインダーを本質的に含まない」とは、三次元焼結体が5体積%未満、好ましくは2体積%未満、特に好ましくは0.5体積%未満、最も好ましくは0.01体積%未満のバインダーを含むことを意味する。
【0180】
当業者には、焼結プロセス中に金属粉末が一緒に焼結して焼結した無機粉末を得ることが知られている。さらに、焼結プロセス中に金属粉末は化学的及び/又は物理的反応を受け得る。その結果、三次元ブラウンボディ中に含まれる金属粉末は、通常、三次元焼結体中に含まれる焼結無機粉末とは異なる。
【0181】
本発明の一実施形態では、プロセス工程(III)の後、プロセス工程(IV)の前に、プロセス工程(III)で得られた三次元ブラウンボディを、好ましくは250~700℃、特に好ましくは250~600℃の温度で、好ましくは0.1~12時間、特に好ましくは0.3~6時間加熱して、残留のバインダーを完全に除去することができる。
【0182】
本発明の一実施形態では、プロセス工程(IV)は以下の温度プロファイルによって定義される:
i. 2~7℃/分の速度で、550~650℃の温度に加熱すること、
ii. 550~650℃の温度で0.5~1.5時間保持すること、
iii. 2~7℃/分の速度で、1150~1300℃の温度に加熱すること、
iv. 1150~1300℃の温度で0.5~1.5時間保持すること、及び
v. 5~15℃/分の速度で、周囲温度まで冷却すること。
【0183】
好ましくは、プロセス工程(IV)は以下の温度プロファイルによって定義される:
i. 2~7℃/分の速度で、550~650℃の温度に加熱すること、
ii. 550~650℃の温度で0.5~1.5時間保持すること、
iii. 2~7℃/分の速度で、1200~1250℃の温度に加熱すること、
iv. 1200~1250℃の温度で0.5~1.5時間保持すること、及び
v. 5~15℃/分の速度で、周囲温度まで冷却すること。
【0184】
プロセス工程(IV)は、好ましくは、水素又はアルゴン雰囲気、及び大気圧を使用して行われる。減圧の使用も可能である。
【0185】
後処理
最後に、プロセス工程(IV)の後に得られた金属部品の熱処理を含む任意の最終プロセス工程(V)を行うと、目標特性が最もよく満たされる。好ましい熱処理は、焼鈍及び/又は析出硬化工程を含む。
【0186】
焼鈍工程は、好ましくは、非酸化性雰囲気中、例えばアルゴン又は窒素雰囲気中(これらに限定さていない)で行うことができる。焼鈍工程は、好ましくは800~1200℃の温度で15~60分間行われてもよい。
【0187】
析出硬化工程は、好ましくは450~550℃で30分~5時間、特に窒素、アルゴン又は空気中(これらに限定さていない)で行われてもよい。
【0188】
本発明の一実施形態では、プロセス工程(V)は以下の温度プロファイル及び条件によって定義される:
(i)アルゴン又は窒素中、800~1200℃の温度で15分~60分間行う溶体化焼鈍工程、及び
(ii)空気、アルゴン又は窒素中、450~550℃の温度で10分~2時間行う析出硬化工程。
【0189】
本発明の態様を使用することにより、7.4g/cm以下、好ましくは7.0g/cm以下、最も好ましくは6.9g/cm以下の密度を有する金属部品を製造することができる。さらに、600MPa以上、好ましくは700MPa以上、より好ましくは750MPa以上、最も好ましくは800MPa以上の引張強度を有する金属部品が得られる。最後に、本発明による金属部品は、5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは12%以上、さらにより好ましくは15%以上、最も好ましくは18%以上の延性(破断伸び)を有することができる。
【0190】
すべてのパーセント、ppm、又は同等の値は、別段の指示がない限り、それぞれの組成物の総質量に対する質量に関する。すべての引用文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0191】
以下の実施例は、本発明の範囲を制限することなく、本発明をさらに説明するものである。
【実施例
【0192】
メルトフローレート(MFR)は、ISO 1133-1に従って、190℃及び21.6kgで測定した。
【0193】
引張強度、降伏強度、破断伸びはISO 6892-1:2019 Bに従って測定した。
【0194】
金属粉末の粒径は、Beckman Coulter LS 13320で行った静的光散乱測定によって決定した。
【0195】
金属粉末の化学組成は、Agilent 5110で行った誘導結合プラズマ-光学電子分光法を使用して決定した。
【0196】
以下の表1に示す特性を有するガス微粒化した金属粉末を得た。
【0197】
【表1】
【0198】
これらの粉末を、シグマニーダーで7~8質量%のPOM、0.7~0.8質量%のPE及び0.25~0.3質量%の添加剤を含むバインダーとブレンドすることにより、MIMフィードストックに変換した。63.7体積%の金属粉末の充填量を目標とした。得られたフィードストックの特性を以下の表2に示している。
【0199】
【表2】
【0200】
900~1000バールの射出圧力、800~100バールのパック圧力、約190℃のノズル温度、約125℃の鋳型温度、及び8~12m/分のスクリュー速度を使用して、フィードストック1及び2を射出成形し、グリーンボディ形状を製造した。
【0201】
アルゴン又は水素雰囲気下、モリブデン炉で、これらのグリーンボディを焼結した。以下の温度プロファイルを利用した:
i. 5℃/分で、室温から600℃まで加熱すること、
ii. 600℃で1時間保持すること、
iii. 5℃/分で、600℃から1220~1250℃まで加熱すること、
iv. 1220~1250℃で1時間保持すること、及び最後に
v.5~15℃/分で、炉を周囲温度まで冷却すること。
【0202】
焼結の雰囲気及び温度が最終的な金属部品の焼結密度(SD)に与える影響は、以下の表3に見ることができる。
【0203】
【表3】
【0204】
表3から、最高温度が1220℃から1235℃の間で変化すると、両方のフィードストックとも密度に変化が生じることが明らかである。以下の傾向が見られる:
- フィードストック2において、アルゴン中での焼結と水素中での焼結にはわずかな違いが観察され、高温の水素中では密度がわずかに低くなる;
- フィードストック1は、1220℃ではフィードストック2よりも焼結密度が低いが(両方の雰囲気とも)、1235℃ではフィードストック2よりも密度が高い(両方の雰囲気とも)。
【0205】
アルゴン雰囲気下、1235℃でフィードストック1及び2を焼結して製造した金属部品を、さらに熱処理した。様々な熱処理条件の詳細、及びこれらと焼結密度が最終的な部品の機械的特性に与える影響を以下の表4に示している。
【0206】
【表4】
【0207】
表4から、フィードストック1及び2の両方において幅広い熱処理プログラムを使用すると、600MPaの最低引張強度を達成できることが明らかである。非常に高い延性(破断伸び)も同時に達成できる。
【国際調査報告】