(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】無極性溶媒と極性溶媒との混合物を用いて溶媒和された溶媒和結晶性多核金属錯体、ゲスト化合物検体を含む斯かる溶媒和結晶性多核金属錯体、及びそのゲスト化合物検体の分子構造を決定する方法におけるその使用
(51)【国際特許分類】
C07F 3/06 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
C07F3/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542919
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(85)【翻訳文提出日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2022050796
(87)【国際公開番号】W WO2022152879
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】クレーメンス キューン
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA01
4H048AA02
4H048AB80
4H048AC90
4H048AD15
4H048BB11
4H048BB12
4H048BB14
4H048VA12
4H048VA32
4H048VA66
4H048VB10
(57)【要約】
本発明は、その溶媒和が極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物を用いたものである、溶媒和結晶性多核金属錯体を対象とする。これらの本発明の極性溶媒和結晶性金属錯体は、極性検体ゲスト化合物を含めた検体ゲスト化合物を吸収して、結晶構造解析用サンプルを形成することができる。検体ゲスト化合物の分子構造は、斯かる溶媒和結晶性多核金属錯体を用いて得られた結晶構造解析用サンプルを使用したX線結晶構造解析によって決定できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒和結晶性多核金属錯体であって、その溶媒和多核金属錯体が、
[[M(X)
2]
3(L)
2]
n・(Sol)
p
{式中、
Mが金属イオンであり、
Xが1価のアニオンであり、
Lが、以下の式(1)
【化1】
(式中、Arは、置換又は非置換の3価の芳香族基であり、X
1~X
3は独立に、2価の有機基であるか又はArとY
1、Y
2若しくはY
3とを直接結合する単結合であり、及びY
1~Y
3は独立に、配位部分を有する1価の有機基である)
で表される3座配位子であり、
nが任意の自然数であり、及び
pが任意の数であり、
ここで、該値pによって表される多核金属錯体の溶媒和の量は、pが0.5~6の値を有するような量であり、かつ、ここで、溶媒和の溶媒は、極性溶媒であるか又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物である}
によって表される、溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項2】
前記pが、0.5~4の値を有する、請求項1に記載の溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項3】
前記pが、1~3の値を有する、請求項2に記載の溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項4】
前記溶媒和多核金属錯体が、[(ZnX
2)
3(tpt)
2]
n・(Sol)
pである、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項5】
前記溶媒和多核金属錯体が、[(ZnCl
2)
3(tpt)
2]
n・(Sol)
p又は[(ZnI
2)
3(tpt)
2]
n・(Sol)
pである、請求項4に記載の溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項6】
前記多核金属錯体が、多孔質構造を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項7】
前記Xが、Cl、Br、及びIから成る群から選択されるハロゲンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項8】
前記溶媒和多核金属錯体が、以下のステップ:
a) 低級アルコールの嵩を、有機(無極性)溶媒とその低級アルコールとの混合物中の配位子Lの溶液の上に積層し、
b) 低級アルコール中のMX
2の溶液を、ステップa)の低級アルコールの嵩の上に積層し、
c) ステップb)で得られた溶液を15℃~40℃、好ましくは20℃~30℃の温度にて、1~10日間、好ましくは3~7日間の期間にわたり維持した後に、結晶性物質を得て、そして、
d) ステップc)の結晶性物質を、有機極性溶媒、又は無極性溶媒と極性有機溶媒との混合物で洗浄すること、
を含む方法によって得られる、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項9】
前記溶媒和多核金属錯体が、結晶性多核金属錯体の溶媒和の無極性溶媒を、極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物で交換する方法であって:無極性溶媒による溶媒和結晶性多核金属錯体を、極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物で洗浄すること、を含む方法によって得られる、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項10】
前記の極性溶媒、又は無極性溶媒と極性有機溶媒との混合物が、アセトン、THF、DCM、アセトンと無極性有機溶媒との混合物、THFと無極性有機溶媒との混合物、及びDCMと無極性有機溶媒との混合物から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項11】
前記のアセトン又はTHF又はDCMと、無極性有機溶媒との混合物が、70~20体積%の無極性有機溶媒と混合された30~80体積%のアセトン又はTHF又はDCMの混合物である、請求項10に記載の溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項12】
前記のアセトン又はTHFと無極性有機溶媒との混合物が、50体積%の無極性有機溶媒と混合された50体積%のアセトン又はTHFの混合物である、請求項11に記載の溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項13】
前記無極性溶媒が、n-ヘキサン及びシクロヘキサンから選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の溶媒和結晶性多核金属錯体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の極性溶媒和単結晶多核金属錯体を、分析対象化合物(検体)含有溶液と接触させて、その極性溶媒和単結晶多核金属錯体の細孔及び/又は空隙の中に検体分子を規則的に配列させることを含む、結晶構造解析用サンプルの製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の結晶構造解析用サンプルの製造方法によって得られた結晶構造解析用サンプルを使用して結晶構造解析を実施することを含む、分析対象化合物の分子構造を決定する方法。
【請求項16】
以下のステップ:
a) 有機(無極性)溶媒と低級アルコールとの混合物中の配位子Lの溶液の上に、メタノールの嵩を積層し、
b) 低級アルコール中のMX
2の溶液を、ステップa)の低級アルコールの嵩の上に積層し、
c) ステップb)で得られた溶液を15℃~40℃、好ましくは20℃~30℃の温度にて、1~10日間、好ましくは3~7日間の期間にわたり維持した後に、結晶性物質を得て、そして、
d) ステップc)の結晶性物質を、極性溶媒、又は無極性溶媒と極性溶媒との混合物で洗浄すること、
を含む、極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物を用いて溶媒和された溶媒和結晶性多核金属錯体を調製する方法。
【請求項17】
無極性溶媒で溶媒和された結晶性多核金属錯体を、極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物を用いて洗浄することを含む、極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物を用いて溶媒和された溶媒和結晶性多核金属錯体を調製する方法。
【請求項18】
前記の極性溶媒、又は無極性溶媒と極性有機溶媒との混合物が、アセトン、THF、DCM、アセトンと無極性有機溶媒との混合物、THFと無極性有機溶媒との混合物、及びDCMと無極性有機溶媒との混合物から選択される、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記のアセトン又はTHFと無極性有機溶媒との混合物が、70~30体積%の無極性有機溶媒と混合された30~70体積%のアセトン又はTHFの混合物である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記のアセトン又はTHFと無極性有機溶媒との混合物が、50体積%の無極性有機溶媒と混合された50体積%のアセトン又はTHFの混合物である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記無極性溶媒が、n-ヘキサン及びシクロヘキサンから選択される、請求項16~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
結晶構造解析用サンプルの製造方法であって、以下の:
a) 極性溶媒、又は極性有機溶媒と無極性有機溶媒との混合物である溶媒中の
[[M(X)
2]
3(L)
2]
n
{式中、
Mが金属イオンであり、
Xが1価のアニオンであり、
Lが、以下の式(1)
【化2】
(式中、Arは、置換又は非置換の3価の芳香族基であり、X
1~X
3は独立に、2価の有機基であるか又はArとY
1、Y
2若しくはY
3とを直接結合する単結合であり、及びY
1~Y
3は独立に、配位部分を有する1価の有機基である)
で表される3座配位子であり、
nは任意の自然数である}
によって表される単結晶多核金属錯体を、
b) 分析対象化合物(検体)含有溶液、
と接触させて、該単結晶多核金属錯体の細孔及び/又は空隙の中に検体分子を規則的に配列させることを含む、方法。
【請求項23】
前記の極性溶媒、又は無極性溶媒と極性有機溶媒との混合物が、アセトン、THF、DCM、アセトンと無極性有機溶媒との混合物、THFと無極性有機溶媒との混合物、及びDCMと無極性有機溶媒との混合物から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記のアセトン又はTHF又はDCMと、無極性有機溶媒との混合物が、70~20体積%の無極性有機溶媒と混合された30~80体積%のアセトン又はTHF又はDCMの混合物である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記のアセトン又はTHFと、無極性有機溶媒との混合物が、50体積%の無極性有機溶媒と混合された50体積%のアセトン又はTHFの混合物である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記無極性溶媒が、n-ヘキサン及びシクロヘキサンから選択される、請求項22~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
請求項22~26のいずれか一項に記載の結晶構造解析用サンプルの製造方法によって得られた結晶構造解析用サンプルを使用して結晶構造解析を実施することを含む、分析対象化合物の分子構造を決定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無極性溶媒と極性溶媒との混合物を使用して溶媒和される溶媒和結晶性多核金属錯体に関し、特に、ゲスト化合物検体を含むそれらの溶媒和結晶性多核金属錯体に関する。斯かる溶媒和結晶性多核錯体は、斯かる結晶性多核金属錯体中に存在するゲスト化合物検体の分子構造を決定する結晶構造解析方法において有用である。本発明はまた、結晶構造解析を通じてゲスト化合物検体の分子構造を決定する方法における前記結晶性多核錯体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物の分子構造を決定する方法としてX線単結晶構造解析が知られている。有機化合物の分子構造は、高品質の単結晶を作製することが可能な場合には、X線単結晶構造解析を用いて正確に決定することができる。
【0003】
しかしながら、有機化合物の量が非常に少ない場合、及び十分な量の単結晶を得ることができない場合、有機化合物の分子構造を決定するために、X線単結晶構造解析を採用することは難しい。分子構造が決定される有機化合物が、室温付近で液体である場合(すなわち、有機化合物の融点が室温以下である場合)には、単結晶を作製することは困難である。この難点は、例えば、化合物が室温で結晶を形成できないことの結果としてであり得る。また、難点は、単に、適切な純度の化合物検体の十分な量を得ることが極めて困難であることであり得る。多孔質である結晶性多核錯体の使用は、化合物検体を規則的に担持するための枠組みとして作用する。
【0004】
ゲスト化合物を規則的に取り込むことができる結晶性多核金属錯体を用いることで、十分な量の検体の単結晶を得ることが困難な場合であっても、X線単結晶構造解析の利用が可能となった。このような検体化合物の分子構造を決定する方法は、結晶性多核金属錯体が結晶スポンジ扱いされる結晶スポンジ法として知られている。X線結晶構造解析におけるこの新興技術は、非結晶性(又は結晶化しにくい)化合物の結晶構造を、結晶化することなく、マイクログラムスケールで得ることを可能にする。小分子の構造解明を容易にするための結晶性多核金属錯体又は結晶スポンジの使用は、例えば国際公開番号2014/038220及び国際公開番号2016/143872並びに、例えば、Y. Inokuma et al., Nature 2013, 495, 461-466 (Corrigendum: Nature 2013, 501) 、及びM. Hoshino, et al., IUCrJ, 2016, 3, 139-151に記載されている。この方法は、多孔質結晶性多核金属錯体、例えば[(ZnX2)3・(tpt)2]n(式中、X=Cl又はI;及びtpt=2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン)を結晶スポンジとして使用し、中小の有機分子を吸収し、細孔内で均一に配向させ、従来の単結晶X線結晶構造解析によって観察可能にする。
【0005】
ゲスト化合物検体を包む結晶性多核金属錯体を調製するために、結晶性多核金属錯体はまず、その結晶化のための適当な溶媒中で調製される。得られた結晶性多核金属錯体は、ゲスト化合物検体に導入するための、次のステップに直ちに使用することも、後で使用するために保存することもできる。結晶性多核金属錯体の保存は、一般に、適当な無極性保存溶媒中である。
【0006】
結晶性多核金属錯体(結晶スポンジ)を使用するこれらの方法は、結晶性多核金属錯体を調製するのに使用される無極性溶媒中で溶解可能なそれらの検体でうまくいっているが、多くの検体が、使用した無極性溶媒(例えば、シクロヘキサン、ペンタン又はクロロホルム)中にうまく溶解しない。そのうえ、検体を溶解できる多くの極性溶媒は、慣習的に使用される結晶性多核金属錯体を保存する際に使用される無極性溶媒ともうまく(又は特定の量までしか)混合されることができない。
【0007】
現在、広く最も使用されている結晶スポンジ物質は、塩化物ベースの結晶性多核金属錯体[(ZnCl2)3(tpt)2]nである。しかしながら、極性溶媒は、慣例的に使用される斯かる結晶性多核金属錯体の結晶を破壊する傾向を有し、その結果、それらを使用できない状態にする。そのため、検体を導入するために斯かる方法で使用される結晶性多核金属錯体の無極性溶媒を、極性溶媒に対して完全に交換できないる。
【0008】
その結果、高度極性検体の構造解明は、現在の慣習的方法と結晶スポンジを使用した結晶スポンジ技術によって対処できない。結晶スポンジ技術を構造解明の高度極性検体と共に使用できるようにするであろう結晶スポンジと結晶スポンジを使用する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、結晶性多核金属錯体、特に、例えば[(ZnCl2)3(tpt)2]nや[(ZnI2)3(tpt)2]nなどの亜鉛ハロゲンベースの結晶性多核金属錯体を使用したもの使用に関して先に述べた制限に対する解決策を提供する。本発明は、極性及び無極性溶媒の混合物で溶媒和され、かつ、同じ金属-有機フレームワーク特徴を示している溶媒和結晶性多核金属錯体を提供する。結晶性多核錯体の溶媒和における極性溶媒の存在は、結晶スポンジ方法における極性検体の使用を可能にする。よって、本発明の極性溶媒和物質は、極性検体を用いた構造解明の実施を所望するときに、結晶スポンジX線結晶学的方法において使用可能であり、かつ、結晶性多核金属錯体内への(極性)検体の移動のための浸漬条件の使用を可能にする。
【0010】
一実施形態において、本発明は、溶媒和結晶性多核金属錯体を提供し、ここで、その溶媒和多核金属錯体は、
[[M(X)
2]
3(L)
2]
n・(Sol)
p
{式中、
Mが金属イオンであり、
Xが1価のアニオンであり、
Lが、以下の式(1)
【化1】
(式中、Arは、置換又は非置換の3価の芳香族基であり、X
1~X
3は独立に、2価の有機基であるか又はArとY
1、Y
2若しくはY
3とを直接結合する単結合であり、及びY
1~Y
3は独立に、配位部分を有する1価の有機基である)
で表される3座配位子であり、
nが任意の自然数であり、及び
pが任意の数であり、
ここで、該値pによって表される多核金属錯体の溶媒和の量は、pが0.5~6の値を有するような量であり、かつ、ここで、溶媒和の溶媒は、極性溶媒であるか、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物である}
によって表される。
【0011】
別の実施形態において、以下のステップ:
a) 有機(無極性)溶媒と低級アルコールとの混合物中の配位子Lの溶液の上に、メタノールの嵩を積層し、
b) 低級アルコール中のMX2の溶液を、ステップa)の低級アルコールの嵩の上に積層し、
c) ステップb)で得られた溶液を15℃~40℃、好ましくは20℃~30℃の温度にて、1~10日間、好ましくは3~7日間の期間にわたり維持した後に、結晶性物質を得て、そして、
d) ステップc)の結晶性物質を、極性溶媒、又は無極性溶媒と極性溶媒との混合物で洗浄すること、
を含む、極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物を用いて溶媒和された溶媒和結晶性多核金属錯体を調製する方法が提供される。
【0012】
本明細書中で使用される場合、低級アルコールという用語は、1~6、好ましくは1~4個の炭素原子を有するアルコールを指す。
【0013】
別の実施形態において、極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物を用いて溶媒和された溶媒和結晶性多核金属錯体を調製する方法であって、以下の:極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物を用いて、無極性溶媒で溶媒和された結晶性多核金属錯体を洗浄することを含む、方法が提供される。
【0014】
さらに別の実施形態において、結晶構造解析用サンプルの製造方法であって、本発明の溶媒和結晶性多核金属錯体を分析対象化合物(検体)含有溶液に接触させて、水和結晶性多核金属錯体の細孔及び/又は空隙の中に検体分子を規則的に配列させることを含む、方法が提供される。その検体は、極性分析対象化合物を含む。この方法は、
a) 極性溶媒、又は極性有機溶媒と無極性有機溶媒との混合物である溶媒中の
[[M(X)
2]
3(L)
2]
n
{式中、
Mが金属イオンであり、
Xが1価のアニオンであり、
Lが、以下の式(1)
【化2】
(式中、Arは、置換又は非置換の3価の芳香族基であり、X
1~X
3は独立に、2価の有機基であるか又はArとY
1、Y
2若しくはY
3とを直接結合する単結合であり、及びY
1~Y
3は独立に、配位部分を有する1価の有機基である)
で表される3座配位子であり、
nは任意の自然数である}
によって表される単結晶多核金属錯体を、
b) 分析対象化合物(検体)含有溶液、
と接触させて、該単結晶多核金属錯体の細孔及び/又は空隙の中に検体分子を規則的に配列させること、を含む。
【0015】
本発明の別の実施形態において、極性分析対象化合物を含めた分析対象化合物の分子構造を決定する方法が提供され、前記方法は、本発明の溶媒和結晶性多核金属錯体を用いて結晶構造解析用サンプルを製造する方法により得られた、結晶構造解析用サンプルを使用する結晶構造解析を実施することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の詳細な説明
極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物を用いて溶媒和された溶媒和結晶性多核金属錯体、及び検体であるゲスト化合物の分子構造を解明するための単結晶X線結晶構造解析におけるその使用、並びに前記溶媒和結晶性多核金属錯体の調製方法について、以下に詳述する。これらの溶媒和結晶性多核金属錯体は、極性検体、又は結晶スポンジ技術を使用した極性溶媒を必要とする検体の構造解明方法で使用できる。結晶スポンジ技術では、斯かる検体を規則的に配列させるための、検体用の結晶性分子スポンジとして結晶性多核金属錯体を利用する。そのように形成された、結晶性多核金属錯体の中に検体を含む錯体は、該検体のX線結晶解析を可能にする。
【0017】
本発明の実施形態に関連して用いられる溶媒和結晶性多核金属錯体それ自体は、配位部分を有する配位子と、中心金属として機能する金属イオンとを含む三次元網目構造を有する。本明細書に用いられる「三次元網目構造」という用語は、配位子(すなわち、2つ以上の配位部分及び付加的な単座配位子とを有する配位子)と、配位子に結合している金属イオンとにより形成される構造単位が三次元的に繰り返し配列した網目様構造を指す。
【0018】
この三次元網目構造は、結晶性多核金属錯体が多孔質構造を有する結果につながる。前記多孔質構造は、結晶性多核金属錯体の多孔質構造内に検体ゲスト化合物を捕捉することを可能にする。このように結晶性多核金属錯体は、検体ゲスト化合物の「スポンジ」として作用する。本発明の結晶錯体におけるこのような検体ゲスト化合物の導入は、錯体分子内での検体ゲスト化合物の組織化された配置を可能にする。この検体ゲスト化合物の組織化された配置により、単結晶X線結晶構造解析を用いて検体ゲスト化合物の分子構造を解明することができる。それゆえ、このような結晶性多核金属錯体を用いた単結晶X線結晶構造解析法は、結晶スポンジ(CS)X線結晶構造解析法と呼ばれることが多い。
【0019】
極性検体又は溶解のために極性溶媒を必要とする検体に対する結晶スポンジ技術の使用は、おおむね不可能である。現在使用されている結晶性多核分子複合体は、無極性溶媒中のこうした状態が多核金属錯体の安定性や品質に必要とされると考えられ、無極性溶媒中で調製及び保存される。多孔質結晶性多核金属錯体内への、極性検体又は溶解のための極性溶媒を必要とする検体の導入は、例えば、n-ヘキサンやシクロヘキサンなどの無極性溶媒を用いた溶媒和によって損なわれる。
【0020】
本明細書中に記載した本発明は、その無極性溶媒が極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物に対して完全に又は部分的に交換され、そして、該検体を溶解するのに使用されるべきより大量のより極性の高い溶媒の使用と、結晶性多核金属錯体の多孔質構造を用いた斯かる極性検体の導入を可能にする溶媒和結晶性多核金属錯体に向けられる。加えて、結晶性多核金属錯体(結晶スポンジ)溶媒のより高い極性は、その結晶スポンジ構造内へ検体を導入する一方で、検体が、沈殿するよりむしろ、溶液中に残れるようにする。
【0021】
極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物で溶媒和された本発明の溶媒和結晶性多核金属錯体は、配位金属錯体を包含し、かつ、
[[M(X)
2]
3(L)
2]
n・(Sol)
p
{式中、
Mが金属イオンであり、
Xが1価のアニオンであり、
Lが、以下の式(1)
【化3】
(式中、Arは、置換又は非置換の3価の芳香族基であり、X
1~X
3は独立に、2価の有機基であるか又はArとY
1、Y
2若しくはY
3とを直接結合する単結合であり、及びY
1~Y
3は独立に、配位部分を有する1価の有機基である)
で表される3座配位子であり、
nが任意の自然数であり、及び
pが任意の数であり、
ここで、該値pによって表される多核金属錯体の溶媒和の量は、pが0.5~6の値を有するような量であり、かつ、ここで、溶媒和の溶媒は、極性溶媒であるか、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物である}によって表される。
【0022】
式(1)中の3座の芳香族配位子Arは、3価の芳香族基である。Arの炭素数は、通常3~22であり、好ましくは3~13であり、より好ましくは3~6である。Arの例としては、例えば、1つの6員芳香環からなる単環構造を有する3価の芳香族基、及び3つの6員芳香環が縮合した縮合環構造を有する3価の芳香族基が挙げられる。
【0023】
1つの6員芳香環からなる単環構造を有する3価の芳香族基の例としては、それぞれ下記式(2a)~(2d)で表される基が挙げられる。3つの6員芳香環が縮合した縮合環構造を有する3価の芳香族基の例としては、下記式(2e)で表される基が挙げられる。なお、式(2a)~(2d)中の「*」は、X1~X3が結合する位置を示す。
【0024】
【0025】
式(2a)及び式(2c)~(2e)で表される芳香族基は、任意の位置に置換基で置換されていてもよい。置換基の例には、アルキル基、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、及びat-ブチル基;アルコキシ基、例えばメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、及びn-ブトキシ基など;ハロゲン原子、例えば、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子;などが挙げられる。Arは、式(2a)又は(2b)で表される芳香族基であることが好ましく、式(2b)で表される芳香族基であることが特に好ましい。
【0026】
X1~X3は、独立に2価の有機基である、又はArとY1、Y2、又はY3とを直接結合する単結合である。X1~X3で表され得る2価の有機基としては、Arとともにπ電子共役系を形成し得る基であることが好ましい。X1~X3で表され得る2価の有機基がπ電子共役系を形成する場合、式(1)で表される3座配位子の平面性が向上し、強固な3次元網目構造が形成されやすくなる。2価の有機基の炭素数は、2~18であることが好ましく、2~12であることがより好ましく、2~6であることがさらに好ましい。
【0027】
Y1~Y3は、それぞれ独立に、配位部分を有する1価の有機基である。Y1~Y3で表される有機基は好ましくは、Ar及びX1~X3とともにπ電子共役系を形成できる基である。Y1~Y3で表される有機基がπ電子共役系を形成する場合、式(1)で表される3座配位子の平面性が向上し、強固な三次元網目構造が形成されやすくなる。
【0028】
Y1~Y3で表される有機基の炭素数は、5~11であることが好ましく、5~7であることがより好ましい。Y1~Y3で表される有機基の例としては、それぞれ下記式(3a)~(3f)で表される有機基が挙げられる。 なお、式(3a)~(3f)中の「*」は、X1、X2、又はX3が結合する位置を示す。
【0029】
【0030】
式(3a)~(3f)で表される有機基は、任意の位置に置換基で置換されてもよい。置換基の例としては、Arに関連して上述したものが挙げられる。式(3a)で表される基は、Y1~Y3として特に好ましい。
【0031】
多核金属錯体の細孔の大きさなどは、式(1)で表される3座配位子におけるAr、X1~X3、Y1~Y3を適宜選択することにより調整され得る。本発明の一実施形態に記載の方法により、分子構造が決定される有機化合物を含むのに十分な大きさの細孔などを有する多核金属錯体の安定な単結晶を効率的に得ることができる。
【0032】
式(1)で表される3座配位子は、平面性及び対称性が高く、π共役系が配位子全体に亘る構造を有することが、強固な三次元網目構造を形成しやすいため好ましい。このような3座配位子の例としては、それぞれ下記式(4a)~(4f)で表される配位子が挙げられる。
【0033】
【0034】
これらの中でも、式(1)で表される3座配位子として、式(4a)で表される2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(TPT)が特に好ましい。
【0035】
中心金属として機能する金属イオンは、金属イオンが多座配位子とともに配位結合を形成して三次元網目構造を形成するものであれば特に限定されない。中心金属として機能する金属イオンは、公知の金属イオンが用いられ得る。周期表第8~12族に属する金属の中で、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、又は銀イオンなどの金属のイオンを用いることが好ましく、周期表第8~12族に属する金属の中でも、2価の金属のイオンであることがより好ましい。亜鉛(II)イオンやコバルト(II)イオンを用いることは、細孔などの大きな多核金属錯体が得られやすいことから特に好ましい。さらに好ましいのは、亜鉛(II)イオンの使用である。
【0036】
本発明の実施形態に関連して使用される結晶性多核金属錯体は、通常、中性多座配位子に加えて、対イオンとして機能する単座配位子の配位のために安定化される。単座配位子の例としては、1価のアニオン、例えば、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)及びヨウ化物イオン(I-)などのハロゲンイオン、並びにチオシアン酸イオン(SCN-)が挙げられる。好ましくは、1価のアニオンは塩化物イオン(Cl-)である。
【0037】
本発明の実施形態に関連して用いられる結晶性多核金属錯体は、金属イオンと金属イオンに配位した3座配位子とにより形成される三次元網目構造を有し、及び三次元網目構造に規則的に三次元的に配列され得る細孔などを有する。
【0038】
「三次元網目構造中に規則的に三次元的に配列された細孔など」という表現は、細孔などがX線単結晶構造解析により細孔などが観察できる程度に規則的に三次元網目構造に配列されていることを意味する。三次元網目構造は、三次元網目構造が上記構造的特徴を有する限り特に限定されずに、細孔などが、分子構造が決定される検体ゲスト化合物、多くの場合、有機化合物を含むのに十分な大きさを有する。
【0039】
しかしながら、検体ゲスト化合物を導入する従来の方法は、無極性溶媒を含有する結晶性多核金属錯体を使用する。その結果、結晶スポンジ技術は、検体ゲスト化合物として結晶スポンジ内に極性検体を導入することを試みたとき、困難に遭遇する。その溶解のために極性環境(極性溶媒)を必要とする検体ゲスト化合物に関して同じことが当てはまる。本発明の溶媒和結晶性多核金属錯体は、極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物で溶媒和され、ここで、該結晶性多核金属錯体の溶媒和の量は、該多核金属錯体のユニットあたり0.5~6分子の極性溶媒和物又は極性溶媒和物と無極性溶媒和物との混合物である。好ましい溶媒和物の量は、0.5~4分子の溶媒和物であり、より一層好ましくは0.5~2分子の溶媒和物であり、より一層好ましくは溶媒和の量は、多核金属錯体のユニットあたり、1~2分子の溶媒和物である。
【0040】
結晶スポンジが使用される対象分析物の特徴に従って、適切な極性溶媒が選択できる。そのため、選択された極性溶媒が、その検体を溶解するのに最も適切な溶媒であり得る。しかしながら、選択された極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物は、結晶スポンジの安定性と品質を損なわないはずである。その一実施形態において、本発明の極性溶媒は、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(DCM)、アセトンと無極性有機溶媒との混合物、THFと無極性有機溶媒との混合物、及びDCMと無極性有機溶媒との混合物から選択される。極性溶媒と無極性溶媒との混合物が溶媒和物として使用される場合、その混合物は、その一実施形態において、70~20体積%の無極性有機溶媒と混合された30~80体積%の極性溶媒との混合物である。一実施形態において、その混合物は、70~30体積%の無極性有機溶媒と混合された30~70体積%の極性溶媒との混合物である。一実施形態において、溶媒和物として使用される極性溶媒と無極性溶媒との混合物は、70~30体積%の無極性有機溶媒と混合された30~70体積%のTHF、アセトン又はDCMの混合物である。別の実施形態において、その混合物は、60~40体積%の無極性有機溶媒と混合された40~60体積%のTHF、アセトン又はDCMの混合物である。一実施形態において、その溶媒は、80体積%の極性溶媒と20体積%の無極性有機溶媒との混合物であり、斯かる実施形態において好ましい極性溶媒はTHF又はアセトンであり、かつ、無極性有機溶媒はシクロヘキサン又はn-ヘキサンである。さらに別の実施形態において、その溶媒は、50体積%の無極性有機溶媒と混合された50体積%のTHF、アセトン又はDCMの混合物である。無極性(有機)溶媒は、シクロヘキサンやn-ヘキサンを含めた好適な無極性溶媒のいずれかである。その溶媒和物が、極性溶媒であるか、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物である、溶媒和結晶性多核金属錯体は、極性検体が導入されるための結晶スポンジの多孔環境内への導入を可能にする。加えて、その溶媒和が極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物を用いたものである、本発明の斯かる溶媒和結晶性多核金属錯体もまた使用されることができ、ここで、斯かる溶媒和結晶スポンジは、検体が極性溶媒中に溶解される調製法に検体を導入するために使用される。本発明の結果として、結晶スポンジ法は、そのどちらもが従来の結晶性多核金属錯体を使用してうまく達成できない、極性検体又は極性溶媒中への溶解を必要とする検体を導入するように拡張できる。
【0041】
別の実施形態において、溶媒和結晶性多核金属錯体は、以下のステップ:a) 有機(無極性)溶媒、例えばCHCl3又はシクロヘキサン又はn-ヘキサンと、例えばメタノールなどの低級アルコールの混合物中の配位子Lの溶液上に、例えばメタノールなどの低級アルコールの嵩を積層し、b) 低級アルコール中のMX2の溶液を、ステップa)の低級アルコールの嵩の上に積層し、c) ステップb)で得られた溶液を約15℃~40℃、好ましくは約20℃~30℃の温度にて約1~10日間、好ましくは約3~7日間の期間にわたり維持した後に結晶性物質を得て、そしてd) ステップc)の結晶性物質を、極性溶媒、又は無極性溶媒と極性溶媒との混合物で洗浄すること、を含む方法によって製造される。本明細書中で使用される場合、低級アルコールという用語は、1~6、好ましくは1~4個の炭素原子を有するアルコールを指す。好ましい実施形態において、低級アルコールは、メタノール又はエタノールであり、より一層好ましいのは、低級アルコールがメタノールである場合である。好ましくは、本明細書中で使用される場合、極性溶媒は、THF、アセトン若しくはDCM、又は30~80体積%の極性溶媒と70~20体積%の無極性溶媒、好ましくは30~70体積%の極性溶媒と70~30体積%の無極性溶媒との混合物である。より一層好まれるのは、70~30体積%の無極性有機溶媒と混合された30~70体積%のTHF、アセトン又はDCMの混合物である極性溶媒との混合物である。別の実施形態において、極性溶媒/無極性溶媒混合物は、60~40体積%の無極性有機溶媒と混合された40~60体積%のTHF、アセトン又はDCMの混合物である。好ましい実施形態において、溶媒は、80体積%の極性溶媒と20体積%の無極性溶媒との混合物であり、好ましくはここで、極性溶媒はTFH又はアセトンであり、かつ、無極性溶媒はシクロヘキサン又はn-ヘキサンである。代替の好ましい実施形態において、溶媒は、50体積%の無極性有機溶媒と混合された50体積%のTHF、アセトン又はDCMの混合物である。無極性(有機)溶媒は、シクロヘキサンやn-ヘキサンを含めた好適な親油性無極性溶媒のいずれかである。
【0042】
別の実施形態において、極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物を用いて無極性溶媒で溶媒和された結晶性多核金属錯体を洗浄することを含む、極性溶媒、又は極性溶媒と無極性溶媒との混合物を用いて溶媒和された溶媒和結晶性多核金属錯体を調製する方法が提供される。本明細書中で使用される場合、極性溶媒は、THF、アセトン若しくはDCM、又は30~80体積%の極性溶媒と70~20体積%の無極性溶媒との混合物である。一実施形態において、混合物は、70~30体積%の無極性有機溶媒と混合された30~70体積%の極性溶媒との混合物である。より一層好まれるのは、70~30体積%の無極性有機溶媒と混合された30~70体積%のTHF、アセトン又はDCMの混合物である極性溶媒との混合物である。別の実施形態において、極性溶媒/無極性溶媒混合物は、60~40体積%の無極性有機溶媒と混合された40~60体積%のTHF、アセトン又はDCMの混合物である。好ましい実施形態において、溶媒は、80体積%の極性溶媒と20体積%の無極性溶媒との混合物であり、好ましくはここで、極性溶媒はTFH又はアセトンであり、かつ、無極性溶媒はシクロヘキサン又はn-ヘキサンである。代替の好ましい実施形態において、溶媒は、50体積%の無極性有機溶媒と混合された50体積%のTHF、アセトン又はDCMの混合物である。無極性(有機)溶媒は、シクロヘキサンやn-ヘキサンを含めた好適な親油性無極性溶媒のいずれかである。
【0043】
さらに別の実施形態において、溶媒和結晶性多核金属錯体は、先に記載した二つの方法のいずれかによって得られたものである。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、溶媒和結晶性多核金属錯体は、金属イオンとしてZn(II)を含む。このような好ましい実施形態において、一価アニオンは、塩化物(Cl-)又はヨウ化物(I-)のいずれかである。斯かる溶媒和結晶性多核金属錯体において、好ましい配位子Lは、2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(TPT)である。
【0045】
さらに、斯かる好ましい実施形態において、溶媒和物は、極性溶媒対無極性溶媒の1:1混合物であり、ここで、該極性溶媒は、アセトン又はTHF又はDCMであり、かつ、該無極性溶媒は、シクロヘキサン又はn-ヘキサンである。
【0046】
このような溶媒和形態において、好ましい態様における結晶性多核金属錯体は、[(ZnX2)3-(tpt)2]n・(Sol)p{式中、Xは塩化物(Cl)、ヨウ化物(I)及び臭化物(Br)から選択されるハロゲンであり、nは任意の自然数であり、並びにpは0.5~3の任意の数である}によって表される。好ましくは、Xは、塩化物(Cl)及びヨウ化物(I)から選択されるハロゲンである。より好ましくは、溶媒和多核金属錯体は、[(ZnCl2)3(tpt)2]n・(Sol)p又は[(ZnI2)3(tpt)2]n・(Sol)pであり、ここで、Solは、THF/シクロヘキサン(1:1)、THF/n-ヘキサン(1:1)、アセトン/シクロヘキサン(1:1)、アセトン/n-ヘキサン(1:1)、DCM/シクロヘキサン(1:1)又はDCM/n-ヘキサン(1:1)である。いくつかの斯かる好ましい実施形態において、溶媒和結晶性多核金属錯体は、[(ZnCl2)3(tpt)2]n・(Sol)2である。
【0047】
本発明の溶媒和結晶性多核金属錯体は、極性分析対象化合物を含めた分析対象化合物の分子構造を決定するための、単結晶X線結晶構造解析等のスポンジ法に用いるための任意の公知の方法において用いることができる。斯かるスポンジ法では、分析対象化合物はまず、結晶構造解析用サンプルを得るために、本発明の溶媒和結晶性多核金属錯体に導入される。前記結晶構造解析用サンプルは、本発明の溶媒和単結晶多核金属錯体を分析対象化合物(検体)含有溶液に接触させて、含水単結晶多核金属錯体の細孔及び/又は空隙の中に検体の分子を吸収させることを含む方法により得ることができる。本発明の結晶性多核金属錯体における細孔が規則的かつ整理されていることを考慮すると、X線結晶構造解析により分子構造を決定する方法に有用であるために、前記検体が規則的に吸収される。
【0048】
そのようにして、本発明の他の実施形態においては、分析対象化合物の分子構造を決定する方法が提供され、前記方法は、本発明に記載の結晶構造解析用サンプルの製造方法により得られた結晶構造解析用サンプルを用いて結晶構造解析を実施することを含む。
【実施例】
【0049】
実施例1:ZnCl2-tptの結晶化と80%のTHF及び20%のシクロヘキサン又はn-ヘキサンから成る混合物の溶媒交換
21.27mgのtris(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(tpt)を16mLのCHCl3及び0.833mLのメタノールに溶解する。18.42mgのZnCl2を2.3mLのメタノールに溶解する。試験管に5mLのtpt溶液を充填する。400μLのMeOHをtpt溶液の上に慎重に積層する。最後に、600μLのZnCl2溶液をメタノール層の上に慎重に積層し、その一方で、溶液の即時混合を避ける。そのように調製した層状溶液を、周囲温度にて約3日間にわたり閉鎖環境に保持する。
3日後に、ブロック~短針形状、かつ、100~300μmの大きさの結晶をCHCl3中で採取する。
【0050】
採取した結晶からのCHCl3を、CHCl3とシクロヘキサンの混合物(9:1)で交換し、そして約8時間の期間にわたって静置した。その後、9:1混合物を、CHCl3とシクロヘキサンの8:2混合物で交換し、そして少なくとも更に8時間にわたり静置した。その手順を、採取した結晶が100%のシクロヘキサンの中に保存されるまで繰り返す。
【0051】
それらの結晶からのシクロヘキサンを、シクロヘキサンとTHFの混合物(9:1)で交換し、そして約8時間の期間にわたって静置した。その後、9:1混合物を、シクロヘキサンとTHFの8:2混合物で交換し、そして少なくとも更に8時間にわたり静置した。その手順を、採取した結晶が80%のTHFの中に保存されるまで繰り返す。
【0052】
同じプロセスを、n-ヘキサンとTHFを用いて溶媒和された結晶スポンジのために繰り返した。このプロセスでは、n-ヘキサンを、シクロヘキサンの代わりに使用した。
両プロセスでは、検体化合物を導入するための結晶スポンジ法で使用するのに十分なサイズの安定した結晶スポンジを得た。
実施例2:ZnCl2-tptの結晶化と80%のアセトン及び20%のシクロヘキサン又はn-ヘキサンから成る混合物の溶媒交換
21.27mgのtris(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(tpt)を16mLのCHCl3及び0.833mLのメタノールに溶解する。18.42mgのZnCl2を2.3mLのメタノールに溶解する。試験管に5mLのtpt溶液を充填する。400μLのMeOHをtpt溶液の上に慎重に積層する。最後に、600μLのZnCl2溶液をメタノール層の上に慎重に積層し、その一方で、溶液の即時混合を避ける。そのように調製した層状溶液を、周囲温度にて約3日間にわたり閉鎖環境に保持する。
3日後に、ブロック~短針形状、かつ、100~300μmの大きさの結晶をCHCl3中で採取する。
【0053】
採取した結晶からのCHCl3を、CHCl3とシクロヘキサンの混合物(9:1)で交換し、そして約8時間の期間にわたって静置した。その後、9:1混合物を、CHCl3とシクロヘキサンの8:2混合物で交換し、そして少なくとも更に8時間にわたり静置した。その手順を、採取した結晶が100%のシクロヘキサンの中に保存されるまで繰り返す。
【0054】
それらの結晶からのシクロヘキサンを、シクロヘキサンとアセトンの混合物(9:1)で交換し、そして約8時間の期間にわたって静置した。その後、9:1混合物を、シクロヘキサンとアセトンの8:2混合物で交換し、そして少なくとも更に8時間にわたり静置した。その手順を、採取した結晶が80%のアセトンの中に保存されるまで繰り返す。
【0055】
同じプロセスを、n-ヘキサンとアセトンを用いて溶媒和された結晶スポンジのために繰り返した。このプロセスでは、n-ヘキサンを、シクロヘキサンの代わりに使用した。
両プロセスでは、検体化合物を導入するための結晶スポンジ法で使用するのに十分なサイズの安定した結晶スポンジを得た。
【0056】
実施例3:ZnCl2-tptの結晶化と100%のDCMへの溶媒交換
21.27mgのtris(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(tpt)を16mLのCHCl3及び0.833mLのメタノールに溶解する。18.42mgのZnCl2を2.3mLのメタノールに溶解する。試験管に5mLのtpt溶液を充填する。400μLのMeOHをtpt溶液の上に慎重に積層する。最後に、600μLのZnCl2溶液をメタノール層の上に慎重に積層し、その一方で、溶液の即時混合を避ける。そのように調製した層状溶液を、周囲温度にて約3日間にわたり閉鎖環境に保持する。
3日後に、ブロック~短針形状、かつ、100~300μmの大きさの結晶をCHCl3中で採取する。
【0057】
採取した結晶からのCHCl3を、CHCl3とシクロヘキサンの混合物(9:1)で交換し、そして約8時間の期間にわたって静置した。その後、9:1混合物を、CHCl3とシクロヘキサンの8:2混合物で交換し、そして少なくとも更に8時間にわたり静置した。その手順を、採取した結晶が100%のシクロヘキサンの中に保存されるまで繰り返す。シクロヘキサンを用いて溶媒和された[(ZnCl2)3(tpt)2]nの得られた結晶を採取し、そして同じ条件(すなわち、純粋なシクロヘキサン中)で保存した。
【0058】
それらの結晶からのシクロヘキサンを、シクロヘキサンとDCMの混合物(9:1)で交換し、そして約8時間の期間にわたって静置した。その後、9:1混合物を、シクロヘキサンとDCMの8:2混合物で交換し、そして少なくとも更に8時間にわたり静置した。その手順を、採取した結晶が100%のDCMの中に保存されるまで繰り返す。
【0059】
同じプロセスを、n-ヘキサンとDCMを用いて溶媒和された結晶スポンジのために繰り返した。このプロセスでは、n-ヘキサンを、シクロヘキサンの代わりに使用した。
両プロセスでは、検体化合物を導入するための結晶スポンジ法で使用するのに十分なサイズの安定した結晶スポンジを得た。
【0060】
実施例4:溶媒としてアセトンとシクロヘキサンの混合物を用いた結晶性ZnCl2-tpt多核金属錯体内への検体の導入
1μgのダイゼイン(7-ヒドロキシ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-4H-クロメン-4-オン)を1μLのDMEに溶解し、そして差込型コニカルボトムを備えたネジ蓋バイアル内で、25μLのシクロヘキサンと25μLのアセトンの混合物中のZnCl2-tptの結晶スポンジに加えた。そのバイアルを、セプタム付キヤツプで閉じ、0.8mmの針を挿入し、そしてそのバイアルを、溶媒が完全に留去するまで、50℃にて約22時間にわたりインキュベータ内に置いておく。
X線結晶学による成功した構造解明によって確認されるように、十分な量の検体が結晶スポンジ内に導入された。
【0061】
実施例5:溶媒としてTHFとシクロヘキサンの混合物を用いた結晶性ZnCl2-tpt多核金属錯体内への検体の導入
1μgのダイゼイン(7-ヒドロキシ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-4H-クロメン-4-オン)を1μLのDMEに溶解し、そして差込型コニカルボトムを備えたネジ蓋バイアル内で、25μLのシクロヘキサンと25μLのTHFの混合物中のZnCl2-tptの結晶スポンジに加えた。そのバイアルを、セプタム付キヤツプで閉じ、0.8mmの針を挿入し、そしてそのバイアルを、溶媒が完全に留去するまで、50℃にて約22時間にわたりインキュベータ内に置いておく。
X線結晶学による成功した構造解明によって確認されるように、十分な量の検体が結晶スポンジ内に導入された。
【国際調査報告】