(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-01
(54)【発明の名称】層形成方法、光学素子、及び光学系
(51)【国際特許分類】
G02B 1/10 20150101AFI20240125BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240125BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240125BHJP
C23C 14/22 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
G02B1/10
G03F7/20 502
G03F7/20 521
C23C14/08 J
C23C14/22 F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545835
(86)(22)【出願日】2022-01-03
(85)【翻訳文提出日】2023-09-01
(86)【国際出願番号】 EP2022050019
(87)【国際公開番号】W WO2022161740
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】102021200747.3
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230514
【氏名又は名称】泉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】ビタリー シュクロベール
(72)【発明者】
【氏名】イェーフレイ エアクスメイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ダーク イスフォート
(72)【発明者】
【氏名】ニルス ルント
(72)【発明者】
【氏名】バーバラ モーザー
【テーマコード(参考)】
2H197
2K009
4K029
【Fターム(参考)】
2H197BA21
2H197CA06
2H197HA03
2K009BB01
2K009CC06
2K009DD04
4K029AA04
4K029AA24
4K029BA46
4K029CA01
4K029CA09
4K029DA04
4K029DB05
4K029DB21
4K029EA02
4K029EA05
4K029EA06
(57)【要約】
本発明は、フッ化物材料からなる基板(2)上に少なくとも1つの層(3)を形成する方法であって、基板(2)上に少なくとも1つのコーティング材料(9)を堆積させて層(3)を形成するステップと、コーティング材料(9)の堆積を補助するプラズマ(12)を生成するステップとを含む方法に関する。プラズマ(12)は第1ガス(G)及び第2ガス(H)を含有する混合ガス(14)から形成され、第2ガス(H)は第1ガス(G)のイオン化エネルギーよりも小さいイオン化エネルギーを有し、第1ガス(G)は希ガスであり、第2ガス(H)は別の希ガス又はフッ素含有ガスの形態の反応性ガスである。本発明は、フッ化物材料、特に金属フッ化物からなる基板(2)を備えた光学素子であって、基板(2)は前述の方法により形成された少なくとも1つの層(3)を含むコーティング(18)を有する光学素子にも関する。本発明は、特にDUV波長域用の光学系であって、少なくとも1つの上記光学素子を備えた光学系にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物材料からなる基板(2)上に少なくとも1つの層(3)を形成する方法であって、
前記基板(2)上に少なくとも1つのコーティング材料(9)を堆積させて前記層(3)を形成するステップと、
前記コーティング材料(9)の堆積を補助するプラズマ(12)を生成するステップであって、該プラズマ(12)は第1ガス(G)及び第2ガス(H)を含有する混合ガス(14)から形成され、前記第2ガス(H)は前記第1ガス(G)のイオン化エネルギーよりも小さいイオン化エネルギーを有し、前記第1ガス(G)は希ガスであり、前記第2ガス(H)は別の希ガス又はフッ素含有ガスの形態の反応性ガスであるステップと
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記希ガスは、Arであり、前記別の希ガスは、Kr及びXeを含む群から選択される方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記希ガスは、Krであり、前記別の希ガスは、Xeである方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記希ガスは、Neであり、前記別の希ガスは、Ar、Kr、及びXeを含む群から選択される方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法において、第3ガス(K)が前記混合ガス(14)に添加される方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記第3ガス(K)は、O
2、N
2、O
3、N
2O、H
2O
2、及びフッ素含有ガスを含む群から選択される方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の方法において、前記第3ガス(K)は、2体積%未満、好ましくは1体積%未満、より好ましくは0.1体積%未満、さらにより好ましくは0.01体積%未満、特に0.001体積%未満の割合で前記混合ガス(14)に添加される方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法において、前記第1ガス(G)及び前記第2ガス(H)及び/又は前記混合ガス(14)は、少なくとも1つのガス入口(15)を介して前記プラズマ(12)を生成するプラズマ源(11)に導入される方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法において、前記混合ガス(14)は、ガス入口(15)を介して前記プラズマ(12)を生成するプラズマ源(11)に前記第1ガス(G)を導入することにより形成され、前記第2ガス(H)は、前記基板(2)が配置された真空チャンバ(5)に導入されるか、又はその逆である方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法において、前記コーティング材料(9)の堆積におけるコーティング速度(R)が、10
-10m/s未満である方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法において、前記プラズマ(12)中に存在するイオン(H
+)の活性イオンエネルギー(E
i)が、100eV未満、好ましくは45eV~100eVである方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法において、前記基板(2)は、金属フッ化物である方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記基板(2)は、アルカリ土類金属フッ化物である方法。
【請求項14】
光学素子(17)であって、
フッ化物材料、特に金属フッ化物からなる基板(2)
を含み、該基板(2)は、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法により形成された少なくとも1つの層(3)を含むコーティング(18)を有する光学素子。
【請求項15】
特にDUV波長域用の光学系(21)であって、
請求項14に記載の少なくとも1つの光学素子(17)を備えた光学系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
本願は、2021年1月28日の独国特許出願第10 2021 200 747.3号の優先権を主張し、その全開示内容を参照により本願に援用する。
【0002】
本発明は、基板上に少なくとも1つの層を形成する方法であって、基板上に少なくとも1つのコーティング材料を堆積させて層を形成するステップと、コーティング材料の堆積を補助するプラズマを生成するステップとを含む方法に関する。本発明は、好ましくはフッ化物材料からなる、特に金属フッ化物からなる基板と、上述の方法により形成された少なくとも1つの層を有するコーティングとを備えた光学素子にも関する。本発明は、少なくとも1つの上記光学素子を備えた特にEUV波長域(250nm未満の波長)用の光学系にも関する。
【背景技術】
【0003】
本願において、「基板への堆積」という表現は、基板上にコーティング材料を直接堆積させることを必ずしも意味しない。「基板への堆積」はむしろ、基板に既に塗布された1つ又は複数の層へのコーティング材料の堆積も意味する。
【0004】
特に半導体産業におけるマイクロリソグラフィ及び検査システム用の、250nm未満の波長のDUV/VUV波長域で高応力を受ける光学素子には、基板材料として概してフッ化物、特に蛍石(CaF2)及びフッ化マグネシウム(MgF2)が用いられる。高強度の照射下では、約106パルス後でさえCaF2材料の表面に最初の損傷が現れる(非特許文献1参照)。DUV/VUV放射線との相互作用の結果として、このような光学素子の体積内で局所的なフッ素欠損が起こることで、Ca金属コロイドが形成され、それ自体が大きな劣化の核となる。フッ素欠損は表面ではさらに高速で起こり、放出されたフッ素原子は環境中に排出され得る。
【0005】
例えば、CaF2からなるエキシマレーザのレーザチャンバ窓の外側では、20mJ/cm2を超えるレーザエネルギー密度で白い粉状のコーティングの形態の劣化が観察された。これに対して、フッ素含有レーザガスと接触したレーザチャンバ窓の内側では損傷がなく、これは、フッ素が粉状のコーティングの堆積の、ひいては劣化の回避に重要な物質であることを示唆している。フッ素欠損を回避するためには、レーザ混合ガス中のフッ素濃度が非常に低くても十分であり、これは例えば0.1体積%~0.2体積%のオーダであり得る。
【0006】
フッ素含有雰囲気中でスパッタリング(特許文献1、特許文献2)、反応性蒸着(特許文献3)、又は後処理(特許文献4、特許文献5、特許文献6)した高密度金属フッ化物層によるシーリングは、フッ化物光学コンポーネントの耐放射線性を高めるための有望な選択肢である。
【0007】
しかしながら、特に金属フッ化物コーティングの場合、フッ素ガスに耐性のある設備コンポーネントの使用は不便且つ高価なので、高い技術的複雑さを要する一方でシーリングの成功は僅かでしかない。さらに、このようにして作製された層は、プラズマイオンアシスト蒸着(PIAD)の場合のプラズマとの相互作用によるフッ化物材料の色中心の形成により、又はフッ素とコーティング装置のコンポーネント及び壁との反応生成物による汚染により生じる光損失が大きい(非特許文献2)。
【0008】
耐放射線性を向上させる別の方法は、酸化物Al2O3若しくはSiO2又はフッ素化SiO2での光学素子(例えばレーザチャンバ窓の外側)のシーリング(特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、特許文献14)だが、この場合のフッ化物は緻密化されていない。高エネルギー粒子によるフッ化物の損傷を回避するために、特許文献15は、緻密化されていない酸化物中間層を提案している。
【0009】
光学系の光学コンポーネントの機能のために、概して表面を改良しなければならない(例えば、反射又は反射防止コーティングを施さなければならない)。反射防止又は反射コーティングは、原理上は干渉層の塗布により行われ、その場合に非常に高い屈折率及び非常に低い屈折率を有する2つの材料が必要である。吸収が大きいので<200nmの波長域内の高出力用途に適する酸化物材料はごく僅かであり、例えばSiO2又はAl2O3なので、フッ化物層及び酸化物層を交互に組み合わせて用いるのが好ましい(特許文献16、特許文献17)。吸湿により生じるスペクトルシフトを回避するために、酸化物層の場合及びフッ化物層の場合の両方で最大の緻密化を達成することが目的である。これにより、層の堆積中の損傷による光損失が増加し得るが、可能であればこれらを回避すべきである。
【0010】
光学コーティングのコーティング材料の充填密度(以下、緻密度とも呼ぶ)は、光学コーティングの寿命にも関連する。緻密度が高いほど、又はコーティングの気孔率が低いほど、概して化学的、機械的、環境的、且つレーザ的な安定性が向上する。さらに、堆積したコーティング材料の屈折率は緻密度に応じて変わる。緻密度は、コーティング中に基板が例えば約200℃を超える温度に加熱されると高くなり得る。しかしながら、高温でのコーティングの実施は必ずしも可能ではなく、又はその効果は不十分であることが多い。
【0011】
既知の層緻密化方法は、イオン又はプラズマイオンアシスト(PIAD)である。例えば特許文献18参照。当該文献では「1分子当たりの活性エネルギー(EPM)」という用語が導入されている。この用語は、層成長において効果的なイオンビームのエネルギー入力も指し、与えられるコーティング速度に正規化される。1分子当たりのエネルギーEPMは、単位時間当たりのイオン数NiとイオンのエネルギーEiとの積を単位時間当たりの入射コーティング分子数NMで割った商として定義され、すなわち
EPM=(NiEi)/NM (1)
である。
【0012】
高エネルギーイオンによる損傷を小さく留めるようにイオンエネルギーEiを最小限に抑えなければならないので、EPMの増加により緻密度を高めるべきである。(非特許文献3参照)。したがって、イオン電流密度又は単位時間当たりのイオン数Niを増やすこと(非特許文献4参照)及び/又はコーティング速度、すなわち単位時間当たりの入射コーティング分子数NMを減らすことが有用である。考慮しなければならないさらに別の態様は、層が均一に成長するために緻密度が広範囲の蒸着角度にわたって一定でなければならないことである。
【0013】
特許文献18に記載のように、大抵のプラズマ源では、イオンエネルギーとイオン電流密度とは直結しているので、イオンエネルギーの減少はイオン電流密度の低下、ひいては緻密度を増加させる効果の大幅な低下につながる。したがって、特許文献18は、PIADのために特許文献19に記載の高周波プラズマ源の使用を提案している。一次回路及び二次回路を有する高周波整合回路網を有する上記文献に記載の高周波プラズマ源では、活性イオン電流密度及び活性イオンエネルギーを独立して調整可能であることになっており、活性イオンエネルギーと1分子当たりの活性エネルギーとの最適な組み合わせを設定することができる。しかしながら、特許文献19に記載のプラズマ源は、その製造の点で複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0023131号明細書
【特許文献2】特開2003-193231号公報
【特許文献3】特開平11-172421号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0006249号明細書
【特許文献5】特開平11-140617号公報
【特許文献6】特開2004-347860号公報
【特許文献7】独国特許発明第103 50 114号明細書
【特許文献8】独国特許出願公開第10 2006 004 835号明細書
【特許文献9】欧州特許第1614199号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2003/0021015号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2004/0202225号明細書
【特許文献12】米国特許第6,466,365号明細書
【特許文献13】米国特許第6,833,949号明細書
【特許文献14】米国特許第6,872,479号明細書
【特許文献15】欧州特許第3111257号明細書
【特許文献16】米国特許第9,933,711号明細書
【特許文献17】米国特許第10,642,167号明細書
【特許文献18】独国特許出願公開第10 2005 017 742号明細書
【特許文献19】国際公開第01/163981号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】U. Natura, S. Rix, M. Letz, L. Parthier, "Study of haze in 193nm high dose irradiated CaF2 crystals", Proc. SPIE 7504, Laser-Induced Damage in Optical Materials: 2009, 75041P (2009).
【非特許文献2】M. Bischoff, O. Stenzel, K. Friedrich, S. Wilbrandt, D. Gabler, S. Mewes, and N. Kaiser, “Plasma-assisted deposition of metal fluoride coatings and modeling the extinction coefficient of as-deposited single layers”, Appl.. Opt. 50 (2011) C232-C238.
【非特許文献3】R. Kaneriya, R.R. Willey, K. Patel, “Improved Magnesium Fluoride Process by Ion-Assisted Deposition”, Proc. Soc. Vac. Coat. 53 (2010) 313-319.
【非特許文献4】J. Targove et al., "Ion-assisted deposition of lanthanum fluoride thin films", Appl. Opt. 26 (1987) 3733-3737.
【非特許文献5】M.J. Shaw, "Penning ionization", Contemporary Physics, 15 (1974), 445-464.
【非特許文献6】J. Targove and H.A. Macleod, "Verification of momentum transfer as the dominant densifying mechanism in ion-assisted deposition", Appl. Opt. 27 (1988) 3779-3781.
【非特許文献7】Lias, S.G. & Liebman, J.F. Ion Energetics Data. NIST Chemistry WebBook, NIST Standard Reference Database Number 69. 165-220 (2009)
【非特許文献8】インターネット<URL:https://www.cup.uni-muenchen.de/ph/aks/wanner/newhome/uploads/Main/Ionisierungsenergien_Tabelle.pdf>
【非特許文献9】J. Harhausen, R.P. Brinkmann, R. Foest, M. Hannemann, A. Ohl and B. Schroder, "On plasma ion beam formation in the Advanced Plasma Source", Plasma Sources Sci. Technol. 21 (2012) 035012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、コーティング材料を高緻密度、低吸収、且つ低汚染で堆積させることができる、(光学活性)コーティングの少なくとも1つの層を形成する簡便な方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、少なくとも1つの上記層を有するコーティングを備えた光学素子と、少なくとも1つの当該光学素子を備えた光学系とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、第1態様において、第1ガス及び第2ガスを含有する混合ガスからプラズマが形成され、第2ガスは第1ガスのイオン化エネルギーよりも小さいイオン化エネルギーを有する、上記のタイプの方法により達成される。本願における用語「イオン化エネルギー」は、各化合物の各化学元素の第1イオン化エネルギーを意味すると理解される。
【0018】
本発明者らの認識によれば、プラズマの形成にペニングイオン化又はペニング効果を利用した場合に、電荷キャリア密度、ひいてはイオン電流密度を同じイオンエネルギーで高めることができる(非特許文献5参照)。ペニングイオン化は、特定の形態の化学イオン化、すなわち粒子衝突の際の励起エネルギーの移動である。第2粒子タイプMの(第1)イオン化エネルギーよりも大きな励起エネルギーを有する1つの粒子タイプGの励起原子が混合ガス中に生じる場合、衝突の際にMがイオン化されるようにGの励起エネルギーをMに移動させることが可能である。
G*+M→MG*→M++e-+G (2)
【0019】
ここで、中間体は必ずしも解離する必要はなく、すなわち以下のタイプのイオン化も可能である。
G*+M→MG*→MG++e- (3)
【0020】
したがって、ペニングイオン化、又は適当な混合ガスの使用により、式(1)に従って、活性イオンエネルギーEiを増加させることなく1分子当たりの活性エネルギーEPMが増加する。このように、高エネルギーイオンによるコーティングの損傷というリスクを伴わずに高充填密度又は高緻密度でコーティング材料を塗布することができる。
【0021】
本発明の一変形形態において、混合ガスの第1ガスは希ガスである。希ガスは、概して比較的高いイオン化エネルギーを有する。したがって、混合ガス中の第1ガスが希ガスであれば好都合である。さらに、概して、不活性ガス、例えば希ガスを用いてプラズマ源でプラズマが形成される。
【0022】
一発展形態において、混合ガスの第2ガスは第2希ガスである。希ガスHe、Ne、Ar、Kr、Xeは、それぞれ異なる(第1)イオン化エネルギーを有し、イオン化エネルギーは原子番号が大きいほど大きく、つまりHeが最大でXeが最小のイオン化エネルギーを有する。
【0023】
この変形形態の一発展形態において、希ガスはArであり、別の希ガスはKr及びXeを含む群から選択される。プラズマイオンアシスト用のプラズマを生成する働きをするプラズマ源は、プラズマガスとしてArを用いて動作することが多い。したがって、プラズマ源はArを用いた動作用に設計又は最適化されている場合があるので、プラズマ源のタイプによっては希ガスがArであれば好都合であり得る。
【0024】
この変形形態の代替的な発展形態において、希ガスはKrであり、別の希ガスはXeである。非特許文献6によれば、コーティング材料の堆積における緻密度は、イオン化エネルギーではなく主に運動量の移動の影響を受ける。したがって、重い希ガスを用いるほど、軽い希ガスイオンの使用よりも緻密化に関して高い効果が得られる(Kr>Ar>Ne)。したがって、緻密化のためには、混合ガスが重い希ガス又は希ガスイオンを含有すれば有利であり得る。
【0025】
さらに別の代替的な発展形態において、希ガスはNeであり、別の希ガスはAr、Kr、及びXeを含む群から選択される。希ガスのネオンは、Ar、Kr、及びXrに比べて比較的大きな第1イオン化エネルギーを有し、これは、比較的大きなエネルギー移動が可能なのでペニングイオン化に好都合である。Kr又はXe等の重い希ガスとの混合により、比較的軽い希ガスであるネオンを用いる場合でも、コーティング材料への比較的大きな運動量の移動、ひいてはコーティング材料の高緻密化を達成することができる。
【0026】
さらに別の変形形態において、第2ガスは反応性ガスである。希ガスと希ガスよりも小さなイオン化エネルギーを有する反応性ガスとの混合ガスも、コーティング材料の堆積の補助に好都合であり得る。反応性ガスは、例えばフッ素含有ガスであり得るが、他の反応性ガス、例えば酸素又はオゾンを用いることも可能である。
【0027】
混合ガスは、例えばクリプトン(イオン化エネルギー14eV)及びNF3(イオン化エネルギー13eV)又はキセノン(イオン化エネルギー12.1eV)及びテトラフルオロエチレンC2F4(イオン化エネルギー10.1eV)の混合物であり得る。反応性ガスのイオン化エネルギーが希ガスのイオン化エネルギーよりも小さければ、第1ガスとして希ガスと第2ガスとして反応性ガスとを含有する他の混合ガスも原理上は可能である。多数の化学元素又は化合物のイオン化エネルギーを、例えば非特許文献7又は非特許文献8で調べることができる。
【0028】
第1ガス及び第2ガスからなる混合ガスの第2ガスは、通常は10体積%未満、1体積%未満、又は0.1体積%未満の割合で存在する。原理上は混合ガスに3つ以上のガス、特に3つ以上の希ガスが存在し得ることが明らかであろう。
【0029】
さらに別の変形形態において、混合ガスは第3ガスを含むか、又は第3ガスが混合ガスに添加される。第3ガスは、O2、N2、及びフッ素含有ガスを含む群から選択されることが好ましい。第3ガス、例えばフッ素含有ガスは、フッ化物雰囲気中でのコーティング材料の堆積を行う働きをし得る。フッ素含有ガスは、例えば、F2、CF4、SF6、フッ化キセノン、例えばXeF2、XeF4、XeF6、NF3、HF、BF3、CH3F、C2F4を含む群から選択されるガスであり得る。
【0030】
一発展形態において、第3ガスは、2体積%未満、好ましくは1体積%未満、より好ましくは0.01体積%未満、さらにより好ましくは0.001体積%未満、特に0.001体積%未満の割合で混合ガスに添加される。概して、混合ガスに添加される第3ガスの割合がごく僅かであれば好都合である。
【0031】
プラズマは、プラズマ源で生成される。一般には、プラズマの生成のために従来のプラズマ源にガスが1つだけ、例えば希ガスが供給される。プラズマ源内には通常はイオン化空間が形成され、供給されたガスがそこでイオン化されてプラズマが形成される。前述の混合ガスからの堆積を補助するプラズマを生成する方法には様々なものがある。
【0032】
一変形形態において、第1ガス及び第2ガス及び/又は混合ガスは、少なくとも1つのガス入口を介してプラズマを生成するプラズマ源に導入される。混合ガスを形成した後に、ガス入口を介してプラズマ源又はイオン化空間に供給することが可能である。プラズマ源が2つ以上のガス入口を有する場合、第1ガスは第1ガス入口に供給され、第2ガスは第2ガス入口に供給される。その場合、混合ガスは、プラズマ源内でのみ形成される。ガス供給用の2つのガス入口を有するプラズマ源が、例えば非特許文献9に記載されている。
【0033】
代替的な変形形態において、混合ガスは、ガス入口を介してプラズマを生成するプラズマ源に第1ガスを導入し、基板が配置された真空チャンバに第2ガスを導入することにより、又はその逆により、つまりガス入口を介してプラズマ源に第2ガスを導入し、真空チャンバに第1ガスを導入することにより形成される。
【0034】
その場合、混合ガスは、コーティング材料でのコーティングが行われる真空チャンバ内でプラズマ源の外部でのみ形成される。第1/第2ガスが、プラズマ源の近くで、より詳細にはプラズマ源の出口開口の近くで真空チャンバに供給されれば好都合である。この目的は、非特許文献9に記載のように、プラズマ源の出口開口に直接隣接して配置されたガスシャワーにより果たすことができる。プラズマ源への第2ガスの流入又は供給は、陰極又はプラズマ源の他のコンポーネントの劣化につながり得るので、プラズマ源の外部での第2ガスのこの供給は、特に第2ガスが反応性ガスである場合に好都合である。
【0035】
さらに別の変形形態において、コーティング材料の堆積のコーティング速度又は蒸着速度は、10-10m/s未満である。式(1)に関連して前述したように、コーティング速度又は単位時間当たりの入射コーティング分子数NMを減らすことにより、1分子当たりのエネルギーEPMを増加させることが可能である。しかしながら、コーティング速度が小さすぎると、真空チャンバ内に存在する残留ガスが堆積したコーティング材料に導入されてしまうので、選択されるコーティング速度は小さすぎないようにすべきである。コーティング速度が小さいと、堆積時に本質的に一定の緻密度、すなわち蒸着角度に依存するとしても僅かにしか依存しない緻密度を発生させることもできる。
【0036】
さらに別の実施形態において、プラズマ中に存在するイオンの活性イオンエネルギーは、100eV未満、好ましくは45eV~100eVである。活性イオンエネルギーの定義については、全体を参照により本願の内容に援用する特許文献18を参照されたい。例えば非特許文献3の
図1からも明らかなように、上記オーダ内の活性イオンエネルギーは、緻密層の堆積に好都合であることが分かった。100eVを超えるイオンエネルギーを堆積に用いた場合、概して高エネルギーイオンによるコーティングの損傷の増加があり得る。活性イオンエネルギーが小さすぎる場合、緻密度が低下する。
【0037】
さらに別の変形形態において、基板は、フッ化物材料、好ましくは金属フッ化物、特にアルカリ土類金属フッ化物を含む群から選択される。前述のように、250nm~200nmの波長のDUV波長域の用途では、透過光学素子に用いられる基板は、250nm未満の波長で透明な材料であることから多くの場合は金属フッ化物、特にアルカリ土類金属フッ化物、例えば蛍石(CaF2)又はフッ化マグネシウム(MgF2)である。前述の方法は、原理上は他の基板、例えば石英ガラス(SiO2)の基板にも適用できることが明らかであろう。
【0038】
コーティング材料は、例えばPVD(物理蒸着)法を用いて堆積させることができる。例えば、コーティング材料は、熱蒸着により、特に電子ビーム蒸着により堆積させることができる。コーティング材料を堆積させる他の方法、例えばスパッタリングを用いることも可能である。ここに記載するプロセスでは、プラズマイオンアシストが可能又は実行可能である任意の堆積方法を用いることが可能である。しかしながら、堆積で選択される温度は高すぎないようにすべきであり、概して約200℃を超えるべきではない。
【0039】
コーティング材料は、例えば、酸化物材料、例えばSiO2、又はフッ化物材料、例えばMgF2であり得る。他の材料を用いてコーティングの層を形成することも可能であることが明らかであろう。
【0040】
本発明のさらに別の態様は、好ましくはフッ化物材料からなる、特に金属フッ化物からなる基板を備えた光学素子であって、基板は前述の方法により形成された少なくとも1つの層を含むコーティングを有する光学素子に関する。基板の材料は、例えば石英ガラス(SiO2)であり得る。基板がフッ化物材料から形成される場合、材料は、例えばCaF2又はMgF2であり得る。基板は、平面状のシートの形態をとり得るが、湾曲基板でもあり得る。それに対応して、層又はコーティングが塗布される基板の表面も平面状又は湾曲状であり得る。
【0041】
コーティングは、例えば酸化物材料又はフッ化物材料を含有し得る1つ又は複数の層を含み得る。コーティングの全ての層を前述の方法によるプラズマイオンアシストを用いて基板に塗布する必要は必ずしもない。その代わりに、前掲の特許文献15に記載のように、個々の層が緻密化されない可能性がある。しかしながら、概して、最大の緻密化を達成するために、コーティングの全ての層が前述の方法を用いて塗布されれば有利である。
【0042】
コーティングは、例えば干渉層のスタックの形態をとり得ると共に、非常に高い屈折率及び非常に低い屈折率を有する2つの層を含み得る。コーティングは、例えば光学素子の反射を増減する働きをし得る。ここで、例えば特許文献16又は特許文献17に記載のように、フッ化物層及び酸化物層を交互に組み合わせて用いるのが好ましい。酸化物又はフッ化物材料だけでなく、他の有用なコーティング材料、例えばオキシフッ化物もある。
【0043】
本発明のさらに別の態様は、特にDUV波長域用の、すなわち250nm未満の波長用の光学系に関する。光学系は、前述のように形成された少なくとも1つの光学素子を備える。光学系は、例えば、DUVリソグラフィシステム又は例えばマスク又はウェーハの検査用の検査システムであり得るが、レーザ、例えばエキシマレーザでもあり得る。
【0044】
本発明のさらに他の特徴及び利点は、本発明に必須の詳細を示す図面の図を参照した以下の本発明の例示的な実施例の説明から、また特許請求の範囲から明らかになる。個々の特徴のそれぞれを、単独で又は本発明の一変形形態において複数の任意の組み合わせで実施することができる。
【0045】
実施例を概略図に示し、以下の説明において解説する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】基板のコーティング用のコーティング装置の概略図である。
【
図2】原子番号の関数としての複数の化学元素の第1イオン化エネルギーの概略図である。
【
図3】イオンエネルギー、コーティング速度、及び蒸着角度の関数としての緻密度の概略図である。
【
図4】
図1のコーティング装置で塗布されたコーティングを有する光学素子の例の概略図である。
【
図5】
図4の光学素子を備えたDUVリソグラフィシステムの例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下の図面の説明において、同一の参照符号を同一の又は同一の機能を有するコンポーネントに用いる。
【0048】
図1は、基板2上に層、図示の例では層3を形成する又は堆積させるコーティング装置1の概略図を示す。コーティング装置1は、真空チャンバ5を囲む高真空気密容器4を有する。ターボ分子ポンプ6が、真空チャンバ5を排気する働きをする。真空チャンバ5内には、複数の基板を搭載することができる保持デバイス7が配置されるが、
図1には基板のうち1つの基板2しか示さない。保持デバイス7は、惑星系のように形成され、
図1に矢印で示すようにコーティング中に基板を回転させる主軸を有する。同様に
図1に矢印で示すように、コーティング中に特定の基板2がその対称軸周りにさらに回転する。図示の例の基板2は、反射防止コーティングを塗布される平行平面板である。図示の例の基板2は、フッ化カルシウム(CaF
2)から形成されるが、異なる材料から形成されてもよい。基板2の材料は、例えば、別のフッ化物材料、例えば金属フッ化物、特にアルカリ土類金属フッ化物であり得る。
【0049】
真空チャンバ5内には電子ビーム蒸着器8が配置され、そこにコーティング材料9が導入されている。堆積中、電子ビーム蒸着器8は、蒸着円錐10を発生させ、その中にコーティング対象の基板2が配置されるので、コーティング材料9を、電子ビーム蒸着器8を向いたコーティング対象の基板2の表面に堆積させることができる。図示の例におけるコーティング材料9はSiO2だが、別の材料、例えば酸化物若しくはフッ化物材料又はオキシフッ化物でもあり得る。
【0050】
真空チャンバ5内には、プラズマ12を生成する働きをするプラズマ源11も配置され、プラズマ12は、プラズマジェットの形態でコーティング対象の基板2の表面に指向される。非特許文献9に詳細に記載されるように、プラズマ源11はDCプラズマ源である。プラズマ源11は、リング状の陽極13bに囲まれた棒状の陰極13aを有する。プラズマ源11のイオン化空間内でガス、より詳細には混合ガス14をイオン化して、このようにしてプラズマ12を生成するために、陰極13aと陽極13bの間でプラズマ12の生成用の電界を発生させる。コイル(図示せず)が、陽極13bの外側を囲み、イオン化空間内で軸方向磁界を発生させる。
【0051】
図1でも明らかなように、混合ガス14は、図示の例ではプラズマ源11のイオン化空間の底部に配置されたガス入口15を介してプラズマ源11に供給される。プラズマ源11に混合ガス14を供給するために、ガス入口15をプラズマ源11の他の場所に位置決めしてもよいことが明らかであろう。
【0052】
図1でも明らかなように、混合ガス14は、真空チャンバ5の外側に同様に配置された混合ユニット16で形成される。混合ユニット16は、第1ガスリザーバ内の第1ガスGを第2ガスリザーバ内の第2ガスHと混合するために弁装置を有する。弁装置を用いて、2つのガスG、Hの混合比を調整することが場合によっては可能だが、これは必ずしも必要ではない。ここに記載する用途では、概して、第2ガスHが混合ガス14に10体積%未満、1体積%未満、又は0.1体積%未満の割合で存在すれば十分である。
【0053】
混合ガス14は、化学イオン化、すなわち第1ガスGの分子又は原子と第2ガスHの分子又は原子との間の粒子衝突の際の励起エネルギーの移動を発生させるために、プラズマ源11に供給される。以下の考察では、混合ガス14の第2ガスHは、第1ガスGの(第1)イオン化エネルギーよりも小さい(第1)イオン化エネルギーを有する。この場合、例えば前述の式(2)及び(3)に従ってペニングイオン化を行うことができ、つまり、衝突の際に、第2ガスMがイオン化されるように第1ガスGの励起エネルギーを第2ガスMに移動させることができるか、又は2つのガスG、Mが例えばGM+形態のイオン化種を共に形成し得る。
【0054】
図1に示す例では、第3ガスKが、2つのガスG、Hを含む混合ガス14に添加される。第3ガスKは、混合ユニット16に添加することができるが、
図1に示すように、プラズマ源11の別のガス入口15aを介して混合ガス14に第3ガスKを供給することも可能である。別のガス入口15aは、いわゆるガスシャワーであり、第3ガスKをプラズマ源11の出口開口付近まで近づけてから出す。したがって、2つのガスG、Hの混合ガス14は、プラズマ源11の出口で又はイオン化空間の出口で形成される。
【0055】
図示の例の第3ガスは、フッ化物ガスだが、別の種類のガス、例えばO2又はN2であってもよい。この場合、混合ガス14の第3ガスKの割合は、0.001体積%未満である。第3ガスKの割合は、代替的により大きくてもよく、例えば1体積%未満又は2体積%未満であってもよい。
【0056】
フッ化物ガスは、例えば、F2、CF4、SF6、フッ化キセノン、例えばXeF2、XeF4、XeF6、NF3、HF、BF3、CH3F、C2F4を含む群から選択されるガスであり得る。この場合の第3フッ化物ガスKは、真空チャンバ5内のフッ素含有雰囲気を生成する働きをする。フッ素化SiO2の堆積のために、基板2への堆積にフッ化物ガスKを用いてコーティング材料9のフッ素化も可能である。第3フッ化物ガスKが、他のコーティング材料9のフッ素化にも役立つことができることが明らかであろう。
【0057】
(第1)ガス入口15を介した混合ガス14の供給の代替として、第1ガス入口15を介して第1ガスGを、第2ガス入口(図示せず)を介して第2ガスHを、プラズマ源11又はイオン化空間に供給することが可能である。その場合、混合ガス14は、プラズマ源11に、より詳細にはイオン化空間にのみ形成される。
【0058】
代替として、第1ガスGは、例えば第1ガス入口15を介してプラズマ源11又はイオン化空間に導入することができ、第2ガスHは、プラズマ源11の外側で真空チャンバ5に導入される。その場合、例えば、第2ガスHは、第3ガスKに関連して前述したように、ガスシャワーを形成する別のガス入口15aを介してプラズマ源11の出口開口付近に供給され得る。原理上、代替として、混合ガス14を形成するために第2ガスHを真空チャンバ5内の他の場所に導入してもよい。第1ガスG及び第2ガスHの役割を交換することもできる。
【0059】
別のガス入口15aを介した第2ガスHの供給は、特に第1ガスGが希ガスであり第2ガスHが反応性ガス、例えば酸素、オゾン、又はフッ素含有ガスである場合に好都合である。プラズマ源11のイオン化空間への反応性ガスの供給は、そこに配置されたコンポーネントに損傷を与えることになる可能性がある。例えばリング状の形態であり放射状の入口開口を有し得る別のガス入口15aを介した第2ガスHの供給により、そのような損傷を回避することができる。混合ガス14は、例えば、クリプトン(イオン化エネルギー14eV)及びNF3(イオン化エネルギー13eV)又はキセノン(イオン化エネルギー12.1eV)及びテトラフルオロエチレンC2F4(イオン化エネルギー10.1eV)の混合物であり得るが、他の種類の混合ガス14を用いることも可能である。
【0060】
第1ガスG及び第2ガスNは希ガスであってもよく、
図2は、その(第1)イオン化エネルギーE
+(eV)を原子番号Nの関数として示す。希ガスの第1イオン化エネルギーE
+についての順序は以下の通りである(イオン化エネルギーが最大のものから最小のものへ):He、Ne、Ar、Kr、Xe。
【0061】
混合ガス14の2つの希ガスG、Hには様々な選択肢がある。例えば、第1ガスGはArとすることができ、第2ガスHはKr又はXeとすることができる。
図1に示すプラズマ源11がArを用いた動作用に設計されているので、Arを含有する混合ガス14の使用が好都合である。特に、Ar及びKrの混合ガスが好都合であることが分かった。
【0062】
代替として、混合ガス14の第1ガスGはNeであり、混合ガス14の第2ガスHは、Ar、Kr、及びXeを含む群から選択される可能性がある。第2ガスHがArである場合、その結果は、ペニングイオン化の典型的な例となる(E+(Ne)=16.5eV、E+(Ar)=15.8eV、すなわちE+(Ne)>E+(Ar)):
Ne*+Ar→Ar++e-+Ne (4)
【0063】
代替として、混合ガス14は、第1希ガスGとしてクリプトン及び第2希ガスHとしてキセノンを含有し得る。層3の緻密度は、イオンエネルギーではなくプラズマ12に存在するイオンH+の運動量の移動に主に影響されるので、これは好都合である。したがって、概して、混合ガス14で重い希ガスを用いるほど、軽い希ガスの場合よりも大きく緻密化される。
【0064】
図3で明らかなように、緻密度D(任意単位)は、他のパラメータ、例えばイオンエネルギーE、蒸着又はコーティング速度R、及び蒸着角度β(
図1参照)にも応じて変わる。
図3に示す4つの図は、イオン化エネルギーEに差があり、左から右へいくほど増加する(E1からE4)。
図3に示す図は、左から右へいくほど大きくなる4つのコーティング速度R1~R4での緻密度をそれぞれ示す。各コーティング速度R1~R4で、緻密度が蒸着角度βに依存することが示されている。
図3で明らかなように、緻密度は、ほとんどの図で最小蒸着角度β
minから最大蒸着角度β
maxまで増加する。
【0065】
コーティング材料9の堆積のコーティング速度Rは、10-10m/s未満であれば好都合であることが分かった。これが好都合なのは、第1に、式(1)から明らかなように、コーティング速度Rが小さくなるほど1分子当たりのエネルギーEPMが大きくなるからである。コーティング速度Rが小さいと、緻密度は本質的に一定であるか又は蒸着角度に依存しないので、同様にこれは好都合である。しかしながら、真空チャンバ5内に存在する残留ガスが堆積したコーティング材料9に導入されるのを回避するために、選択されるコーティング速度Rは小さすぎないようにすべきである。
【0066】
例えば非特許文献3の
図1から明らかなように、活性イオンエネルギーEが約100eV未満であれば緻密度に好都合である。プラズマ12中に存在するイオンH
+の活性イオンエネルギーEの好都合な値は、約60eV~約100eVである。
【0067】
図4は、コーティング18の全ての層3が
図1のコーティング装置1で前述のように塗布された光学素子17を示す。
図4に示す例の光学素子17の設計は、前掲の特許文献16又は特許文献17に記載の通りである。しかしながら、光学素子17又はコーティング18の設計は異なるものでもよいことが明らかであろう。
【0068】
光学素子17は、CaF2からなる基板2を有する。低屈折率のフッ化化合物からなる第1層3aが、基板2に塗布される。第1層3aは、基板2に直接塗布することができるが、基板2と第1層3aとの間に接着促進層又は別の種類の機能層が塗布される可能性もある。コーティング18はさらに、コーティング18の第1層3aと最終層3dとの間に配置された層系19を含む。図示の例の最終層3dは、酸化化合物である。
【0069】
図4に示す例の層系19は、フッ化化合物及び酸化化合物をそれぞれ含む2対の交互層3b、3cを有する。層系19の第1層3aに隣接した層3bは、酸化化合物を含む。層3bに塗布された層3cは、フッ化化合物を含む。したがって、コーティング18全体は、3つのフッ化物層及び酸化物層3a~3dの交互配列からなる。酸化物層3b、3bの材料は、例えばSiO
2等であり得る。フッ化物層3a、3cの材料は、例えばAlF
3、MgF
2等であり得る。
図4に示す光学素子17の代替として、コーティング18は、奇数の層も有し得る。その場合、第1層及び最終層が例えば酸化物層であり得ることで、コーティング18内の酸化物層及びフッ化物層の交互配列が維持され得る。
【0070】
図4に示すコーティング18は、コーティング18を塗布される基板2の表面でのDUV放射線の反射を回避するための反射防止コーティングとして働く。基板2は、反対側にも対応するコーティング18を有し得ることが明らかであろう。基板2は、フッ化物材料以外の材料、例えば石英ガラス(SiO
2)からも形成され得る。
【0071】
図5は、250nm未満の波長、特に100nm~200nm又は190nmの範囲の波長でのDUVリソグラフィ装置の形態の光学系21の概略図を示す。DUVリソグラフィ装置21は、必須のコンポーネントとして、照明系22及び投影系23の形態の2つの光学系を有する。露光プロセスの実施のために、DUVリソグラフィ装置21は放射源24を有し、これは、例えば193nm、157nm、又は126nmのDUV波長域の波長の放射線25を発する例えばエキシマレーザであり得ると共に、DUVリソグラフィ装置21の一体部品であり得る。
【0072】
放射源24が発した放射線25は、レチクルとも称するマスク26を照明することができるように照明系22を用いて調整される。
図5に示す例では、露光系22は、透過光学素子及び反射光学素子の両方を有する。代表的に、
図5は例えば、放射線25を集束させる透過光学素子27と放射線25を偏向させる反射光学素子28とを示す。既知のように、照明系22において、多種多様な透過光学素子、反射光学素子、又は他の光学素子を任意の方法で、さらにより複雑な方法で相互に組み合わせることができる。
【0073】
マスク26は、その表面に、半導体コンポーネントの製造の状況で投影系23を用いて露光対象の光学素子29、例えばウェーハに転写される構造を有する。図示の例では、マスク26は、透過光学素子として設計される。代替的な実行例において、マスク26は、反射光学素子としても設計され得る。投影系22は、図示の例では少なくとも1つの透過光学素子を有する。図示の例は、代表的に、例えばマスク26上の構造をウェーハ29の露光に望まれるサイズに縮小する働きをする2つの透過光学素子30、31を示す。投影系23の場合も、特に反射光学素子を設けることが可能であり、任意の光学素子を所望に応じて既知の方法で相互に組み合わせることが可能である。透過光学素子のない光学装置もDUVリソグラフィに用いることができることに留意されたい。
【0074】
図4に示す光学素子17は、例えば、DUVリソグラフィシステム21の露光系22の透過光学素子27、又はマスク26、又は投影系23の透過光学素子30、31であり得る。
【0075】
DUVリソグラフィシステムの形態の
図5に示す光学系21の代替として、特にDUV波長域用の別の光学系が
図4に示す少なくとも1つの光学素子17を含むことも可能である。光学系21は、例えばウェーハ検査システム又はマスク検査システムであり得る。エキシマレーザ24も、前述のようにコーティング18が塗布された基板2を含む光学素子17を含むことができる。光学素子17は、例えばレーザチャンバの出射窓であり得る。
【0076】
要約すると、前述のように、層3、3a~3d又はコーティング18を光学素子17の基板2に堆積させることができ、これにより、高放射線強度での照射の場合でも光学素子17の長寿命又は高い耐放射線性と組み合わせて高い緻密度が確保される。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物材料からなる基板(2)上に少なくとも1つの層(3)を形成する方法であって、
前記基板(2)上に少なくとも1つのコーティング材料(9)を堆積させて前記層(3)を形成するステップと、
前記コーティング材料(9)の堆積を補助するプラズマ(12)を生成するステップであって、該プラズマ(12)は第1ガス(G)及び第2ガス(H)を含有する混合ガス(14)から形成され、前記第2ガス(H)は前記第1ガス(G)のイオン化エネルギーよりも小さいイオン化エネルギーを有し、前記第1ガス(G)は希ガスであり、前記第2ガス(H)は別の希ガ
スであるステップと
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記希ガスは、Arであり、前記別の希ガスは、Kr及びXeを含む群から選択される方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記希ガスは、Krであり、前記別の希ガスは、Xeである方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記希ガスは、Neであり、前記別の希ガスは、Ar、Kr、及びXeを含む群から選択される方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法において、第3ガス(K)が前記混合ガス(14)に添加される方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記第3ガス(K)は、O
2、N
2、O
3、N
2O、H
2O
2、及びフッ素含有ガスを含む群から選択される方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の方法において、前記第3ガス(K)は、2体積%未満、好ましくは1体積%未満、より好ましくは0.1体積%未満、さらにより好ましくは0.01体積%未満、特に0.001体積%未満の割合で前記混合ガス(14)に添加される方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法において、前記第1ガス(G)及び前記第2ガス(H)及び/又は前記混合ガス(14)は、少なくとも1つのガス入口(15)を介して前記プラズマ(12)を生成するプラズマ源(11)に導入される方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法において、前記混合ガス(14)は、ガス入口(15)を介して前記プラズマ(12)を生成するプラズマ源(11)に前記第1ガス(G)を導入
し、前記基板(2)が配置された真空チャンバ(5)に
前記第2ガス(H)を導入
することにより形成されるか、又はその逆である方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法において、前記コーティング材料(9)の堆積におけるコーティング速度(R)が、10
-10m/s未満である方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法において、前記プラズマ(12)中に存在するイオン(H
+)の活性イオンエネルギー(E
i)が、100eV未満、好ましくは45eV~100eVである方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法において、前記基板(2)は、金属フッ化物である方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記基板(2)は、アルカリ土類金属フッ化物である方法。
【請求項14】
光学素子(17)であって、
フッ化物材料、特に金属フッ化物からなる基板(2)
を含み、該基板(2)は、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法により形成された少なくとも1つの層(3)を含むコーティング(18)を有する光学素子。
【請求項15】
特にDUV波長域用の光学系(21)であって、
請求項14に記載の少なくとも1つの光学素子(17)を備えた光学系。
【国際調査報告】