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特表2024-508264ゲスト化合物被験物質(guest analyte compound)の分子構造を決定する方法において、ゲスト化合物被験物質を含む結晶性多核金属錯体を使用するための、ゲスト化合物被験物質を結晶性多核金属錯体に導入する条件の選択方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-26
(54)【発明の名称】ゲスト化合物被験物質(guest analyte compound)の分子構造を決定する方法において、ゲスト化合物被験物質を含む結晶性多核金属錯体を使用するための、ゲスト化合物被験物質を結晶性多核金属錯体に導入する条件の選択方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20240216BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20240216BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240216BHJP
   C07F 3/06 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G01N30/88 C
G01N30/06 E
G01N1/28 Z
C07F3/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549057
(86)(22)【出願日】2022-02-15
(85)【翻訳文提出日】2023-08-15
(86)【国際出願番号】 EP2022053638
(87)【国際公開番号】W WO2022171896
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】21157232.6
(32)【優先日】2021-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】カロリーナ フォン エッセン
(72)【発明者】
【氏名】ラーラ ローゼンベルガー
【テーマコード(参考)】
2G052
4H048
【Fターム(参考)】
2G052AB11
2G052AD26
2G052AD52
2G052EB01
2G052GA19
2G052GA27
4H048AA03
4H048AB90
4H048VA20
4H048VA30
4H048VA32
4H048VA66
4H048VB10
(57)【要約】
本発明は、被験物質であるゲスト化合物(analyte guest compound)を結晶性多核金属錯体(crystalline polynuclear metal complex)に導入するための(溶液)条件を選択するための方法に関する。選択された(溶液)条件は、被験物質であるゲスト化合物を結晶性多核金属錯体に導入して結晶構造解析試料を形成する方法において使用することができる。このような方法で得られた結晶構造解析試料を用いて、X線結晶構造解析により、被験物質であるゲスト化合物の分子構造を決定することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶X線結晶構造解析に使用するための結晶性多核金属錯体(crystalline polynuclear metal complex)に被験物質を包接させるための条件を選択する方法であって、ここで該結晶性多核金属錯体が[[M(X)(L)で表されることを特徴とし、式中、Mは金属イオン、Xは1価のアニオン、Lは式(1)
【化1】
で表される三座配位子であり、ここでArは置換または非置換の3価の芳香族基であり、X~Xは独立して2価の有機基、またはArとY、Y、またはYとを直接結合する単結合であり、Y~Yは独立して配位部分(coordinating moiety)を有する1価の有機基であり、nは任意の自然数であり、以下の工程を含む、方法:
a) 複数の溶液条件下で複数の被験物質の試料(samples of the analyte)を結晶性多核金属錯体と接触させて、溶液中に複数の被験物質試料(sample analyte)の多核金属錯体を得る工程、
b) 各被験物質試料の多核金属錯体から溶媒を蒸発させる工程、
c) 各被験物質試料の多核金属錯体に包接される被験物質の量を決定する工程、および
d) 被験物質試料の多核金属錯体に包接される被験物質の量が最も多くなる溶液条件を選択する工程。
【請求項2】
工程a)~c)が並行して実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程c)が以下を含む、請求項1または2に記載の方法:
i. 工程b)で得られた被験物質試料の多核金属錯体を洗浄する工程、
ii. 前の工程で得られた被験物質試料の多核金属錯体を溶解する工程、および
iii. 定量分析法を使用して、結晶性多核金属錯体に導入された被験物質試料の量を決定する工程。
【請求項4】
各被験物質試料の多核金属錯体に包接される被験物質の量が、LC-MS/MS、LC-UV、LC-PDA(フォトダイオードアレイ検出)、LC-RF(蛍光検出)、LC-RI(屈折率検出)、LC-ELSD(光散乱検出)、およびLC-CCD(導電率検出)から選択される定量分析方法を使用して決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の溶液条件が、複数の温度条件および/または複数の溶媒を選択することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の温度条件が、4℃、25℃、および50℃から選択される2つ以上の温度で、前記複数の被験物質の試料を前記結晶性多核金属錯体と接触させることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒が、非環状または環状のアルケン、エーテル、アルコール、ケトン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、エステル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランおよびそれらの混合物から選択される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
単結晶X線結晶構造解析に使用するための結晶性多核金属錯体に被験物質を導入する方法であって、ここで前記結晶性多核金属錯体は[[M(X)(L)で表され、式中、Mは金属イオン、Xは1価のアニオン、Lは式(1)
【化2】
で表される三座配位子であり、ここでArは置換または非置換の3価の芳香族基であり、X~Xは独立して2価の有機基、またはArとY、Y、またはYとを直接結合する単結合であり、Y~Yは独立して配位部分を有する1価の有機基であり、nは任意の自然数であり、以下の工程を含む、方法:
a) 請求項1~7のいずれか一項に記載の方法を使用して、被験物質を結晶性多核金属錯体に導入するための溶液条件を選択する工程、および
b) 工程a)で選択された溶液条件で被験物質と結晶性多核金属錯体を接触させて、被験物質の結晶性多核金属錯体(analyte crystalline polynuclear metal complex)を得る工程。
【請求項9】
請求項8に記載の方法を用いて得られた被験物質の結晶性多核金属錯体を用いて、単結晶X線結晶構造解析により被験物質の結晶構造を決定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲスト化合物被験物質(guest compound analyte)を含む結晶性多核金属錯体に関する。ゲスト化合物被験物質(guest analyte compound)を含むこのような結晶性多核錯体は、このような結晶性多核金属錯体中に存在するこのようなゲスト化合物被験物質(guest compound analyte)の分子構造を決定するための結晶構造解析方法において有用である。本発明では、そのようなゲスト化合物被験物質(guest compound analyte)を結晶性多核金属錯体に導入するための条件を決定するための選択方法が記載される。本発明はまた、結晶構造分析によりゲスト化合物被験物質(guest compound analyte)の分子構造を決定する方法において得られたゲスト化合物被験物質を含む結晶性多核錯体の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物の分子構造を決定する方法として、X線単結晶構造解析が知られている。高品質な単結晶を作製できる場合、X線単結晶構造解析により有機化合物の分子構造を正確に決定することができる。
【0003】
しかしながら、有機化合物の量が非常に少なく、十分な量の単結晶が得られない場合には、X線単結晶構造解析による有機化合物の分子構造の決定は困難である。分子構造を決定したい有機化合物が室温付近で液体である場合(すなわち、有機化合物の融点が室温以下である場合)、単結晶を作製することは困難である。この困難は、たとえば、化合物が室温で結晶を形成できないことの結果である可能性がある。また、問題は単純に、十分な量の適切な純度の化合物被験物質を得ることが非常に難しいことである可能性がある。多孔質である結晶性多核錯体の使用は、化合物被験物質を規則正しく担持するためのフレームワークとして機能する。ゲスト化合物である被験物質を規則正しく組み込むことができる結晶性多核金属錯体の利用により、十分な量の被験物質の単結晶を得ることが難しい場合でもX線単結晶構造解析が可能になった。被験物質化合物の分子構造を決定するこのような方法は、結晶性多核金属錯体を結晶スポンジ(crystalline sponge)とみなす結晶スポンジ法として知られている。X線結晶構造解析におけるこの新しい技術により、非結晶性(または結晶化しにくい)化合物の結晶構造を、結晶化せずにマイクログラムスケールで取得することが可能になった。小分子の構造解明を促進するための結晶性多核金属錯体または結晶スポンジの使用は、たとえば国際公開第2014/038220号および国際公開第2016/143872号、ならびにたとえばY. Inokuma et al., Nature 2013, 495, 461-466(正誤表:Nature 2013、501)およびM. Hoshino, et al., IUCrJ, 2016, 3, 139-151に記載されている。この方法では、多孔質結晶性多核金属錯体、たとえば[(ZnX・(tpt) (式中、X=ClまたはI、tpt=2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン)は、小から中サイズの有機分子を吸収し、それらを細孔内で均一に配向させ、従来の単結晶X線結晶構造解析で観察できるようにする結晶スポンジとして機能する。
【0004】
しかしながら、被験物質ゲスト分子の結晶性多核金属錯体フレームワークへの親和性が低いと、そのようなゲスト分子がフレームワーク内で規則正しい配置になる量が不十分となり、X線結晶構造解析による構造解明が損なわれる可能性がある。十分な量の被験物質ゲスト化合物を結晶性多核金属錯体中に得るには、被験物質に対する「浸漬条件」の個別の最適化を選択することが重要である。「浸漬条件」という用語は、そのような被験物質を結晶性多核金属錯体に導入するためのプロセス条件を指す。良好な結果を得るには、結晶性多核金属錯体の種類、有機溶媒、浸漬時間、温度等の様々な浸漬の組み合わせを調整するのに数週間かかる場合がある。「結晶スポンジ」(結晶性多核金属錯体)フレームワーク内の分子間非共有結合相互作用による被験物質の吸収の成功およびゲスト分子の規則的な順序を調べるには、時間のかかる XRD測定が必要になる場合がある。
【0005】
X線回折実験ならびに長時間にわたる精製および分離プロセスの前に、結晶性多核金属錯体への親和性を測定するために、Wada et. al. (粗天然物抽出物の結晶スポンジベースの構造解析[Crystalline-Sponge-Based Structural Analysis of Crude Natural Product Extract]; Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 57, 3671-3675 (2018))は、結晶スポンジフレームワークに対する被験物質ゲスト化合物の予測不可能な親和性というこの問題を克服する方法を記載した。この方法では、結晶スポンジを化合物の複合混合物(complex mixture)に浸漬する方法について記載している。浸漬後、浸漬した化合物を結晶スポンジから再抽出し、HPLC-UVで分析した。再抽出された溶液中に見出された画分を、最初の複合混合物中に見出された画分と比較して、化合物がスポンジに対して親和性を有するか有しないかを判断し、結晶スポンジに対して良好な親和性を示す化合物の分離、精製およびXRDを優先した。
【0006】
Wada et al.によって記載された方法は、1つの浸漬条件([(ZnI-(tpt)・x(シクロヘキサン)]を使用、50℃、6日間)を使用した化合物混合物に対する事前の親和性スクリーニングの適用を実証することを目的とする。また、結晶スポンジ細孔から被験物質を回収する再抽出工程には4日を要する。そのため、結晶スポンジ被験物質に親和性があるかどうかを判断するための、単一物質を使用した様々な条件下での単一化合物/混合物の迅速なテストには適していない。さらに重要なことに、そのような方法は、X線回折測定(XRD)による良好な結晶構造解析結果を得るために、被験物質ゲスト化合物を結晶スポンジに十分に包接させるのに最良の最適条件(結晶スポンジの種類、溶媒、温度)を決定するには不十分であるということである。
【0007】
さらに、Wada et al.の方法では、結晶表面(たとえば、結晶スポンジ結晶)に吸着されているが、結晶スポンジの細孔には浸透できず、吸着した物質がXRDにアクセスできない物質(被験物質ゲスト化合物)の量により、偽陽性結果が生じる可能性がある。最後に、Wada et al.によって記載された方法ではHPLC-UVが使用されるが、これは被験物質の量が非常に少ない場合(代謝産物および不純物の同定の場合等)が困難である。
【0008】
本発明の方法は、上述の欠点に対する解決策を提供する。本発明は、ゲスト化合物の結晶スポンジ錯体を適切な洗浄液で洗浄した後の結果を分析しながら、最良の浸漬条件を並行してスクリーニングすることを含む選択方法を提供する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、結晶性多核金属錯体内で十分な被験物質ゲスト化合物を得るために最適な浸漬条件をスクリーニングする際の上記の問題の解決策を提供する。本発明の選択方法において、親和性スクリーニングには、並行して使用される複数の異なる浸漬条件(結晶スポンジ材料の種類、溶媒、温度)が含まれる。これにより、ゲスト化合物被験物質(guest analyte compound)が多孔質フレームワークに包接させるための結晶スポンジに対する親和性を有するかどうかを判断できるだけでなく、最良の最適条件を直接特定することもできる。結晶スポンジの表面に吸着する被験物質ゲスト化合物からの偽陽性シグナルは、洗浄液媒体でスポンジを洗浄することによって最小限に抑えられる。長時間にわたる再抽出プロセスはスポンジの溶解によって置き換えられ、浸漬された成分がより迅速に解放される(4日ではなく12~24時間)。最後に、浸漬中に結晶スポンジに導入された被験物質ゲスト化合物の定性分析および定量分析は、UPLC/-MS/-MS等のより高感度で高速な方法で行われる。このように選択された浸漬条件により、スト化合物被験物質(guest analyte compound)は、被験物質ゲスト化合物の構造解明にX線結晶構造解析を使用する際に有用なX線回折測定を行うのに十分な量で結晶スポンジ材料にうまく導入することができる。
【0010】
一実施形態では、本発明は、単結晶X線結晶構造解析に使用するための結晶性多核金属錯体に被験物質を包接させるための条件を選択する方法を提供し、ここで該結晶性多核金属錯体は[[M(X)(L)で表され、式中、Mは金属イオン、Xは1価のアニオン、Lは式(1)
【0011】
【化1】
【0012】
で表される三座配位子であり、ここでArは置換または非置換の3価の芳香族基であり、X~Xは独立して2価の有機基、またはArとY、Y、またはYとを直接結合する単結合であり、Y~Yは独立して配位部分(coordinating moiety)を有する1価の有機基であり、nは任意の自然数であり、該方法は以下の工程を含む:
a) 複数の溶液条件下で複数の被験物質の試料(samples of the analyte)を結晶性多核金属錯体と接触させて、溶液中に複数の被験物質試料(sample analyte)の多核金属錯体を得る工程、
b) 各被験物質試料の多核金属錯体から溶媒を蒸発させる工程、
c) 各被験物質試料の多核金属錯体に包接される被験物質の量を決定する工程、および
d) 被験物質試料の多核金属錯体に包接される被験物質の量が最も多くなる溶液条件を選択する工程。
【0013】
別の実施形態では、工程a)からc)は並行して実行される。さらに別の実施形態では、工程c)は、結晶性多核金属錯体に吸着されているがそのフレームワーク内に導入されていない被験物質試料を除去する洗浄工程、およびその後被験物質試料の多核金属錯体を溶解し、続いて結晶性多核金属錯体に導入された被験物質試料の量を測定する工程を含む。
【0014】
さらに別の実施形態では、単結晶X線結晶構造解析で使用するための結晶性多核金属錯体に分析物を包接させるための条件を選択する方法が提供され、ここで該結晶性多核金属錯体は[[M(X)(L)で表され、式中、Mは金属イオン、Xは1価のアニオン、Lは式(1)
【0015】
【化2】
【0016】
で表される三座配位子であり、ここでArは置換または非置換の3価の芳香族基であり、X~Xは独立して2価の有機基、またはArとY、Y、またはYとを直接結合する単結合であり、Y~Yは独立して配位部分を有する1価の有機基であり、nは任意の自然数であり、該方法は以下の工程を含む:
a) 複数の溶液条件下で複数の被験物質の試料(samples of the analyte)を結晶性多核金属錯体と接触させて、溶液中に複数の被験物質試料(sample analyte)の多核金属錯体を得る工程、
b) 各被験物質試料の多核金属錯体から溶媒を蒸発させる工程、
c) 以下の工程を含む、各被験物質試料の多核金属錯体に包接される被験物質の量を決定する工程、
i. 工程b)で得られた被験物質試料の多核金属錯体を洗浄する工程、
ii. 前の工程で得られた被験物質試料の多核金属錯体を溶解する工程、および
iii. 定量分析法を使用して、結晶性多核金属錯体に導入された被験物質試料の量を決定する工程、および
d) 被験物質試料の多核金属錯体に包接される被験物質の量が最も多くなる溶液条件を選択する工程。
【0017】
さらに別の実施形態では、被験物質を結晶性多核金属錯体に導入するための溶液条件を選択する工程と、前の工程で選択された溶液条件で被験物質と結晶性多核金属錯体を接触させる工程とを含む、結晶構造分析試料を生成する方法が提供され、ここで該結晶性金属錯体は[[M(X)(L)で表され、式中、Mは金属イオン、Xは1価のアニオン、Lは式(1)
【0018】
【化3】
【0019】
で表される三座配位子であり、ここでArは置換または非置換の3価の芳香族基であり、X~Xは独立して2価の有機基、またはArとY、Y、またはYとを直接結合する単結合であり、Y~Yは独立して配位部分を有する1価の有機基であり、nは、結晶性多核金属錯体の細孔および/または空隙内に被験物質の分子を規則正しく配置するための任意の自然数である。この方法は、単結晶X線結晶構造解析に使用するための結晶性多核金属錯体に被験物質を導入することを含み、ここで結晶性多核金属錯体は[[M(X)(L)で表され、式中、Mは金属イオン、Xは1価のアニオン、Lは式(1)
【0020】
【化4】
【0021】
で表される三座配位子であり、ここでArは置換または非置換の3価の芳香族基であり、X~Xは独立して2価の有機基、またはArとY、Y、またはYとを直接結合する単結合であり、Y~Yは独立して配位部分を有する1価の有機基であり、nは任意の自然数であり、該方法は以下の工程を含む:
a) 請求項1~7のいずれか一項に記載の方法を使用して、被験物質を結晶性多核金属錯体に導入するための溶液条件を選択する工程、および
b) 工程a)で選択された溶液条件で被験物質と結晶性多核金属錯体を接触させて、被験物質の結晶性多核金属錯体(analyte crystalline polynuclear metal complex)を得る工程。
【0022】
本発明の別の態様では、分析対象の分子構造を決定するための方法が提供され、この方法は、本発明の、結晶性多核金属錯体に被験物質化合物を導入するための最適溶液条件を選択する方法を用いて選択された条件で得られる結晶構造解析用試料の製造方法により得られた結晶構造解析用試料を用いて結晶構造解析を行う工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】浸漬条件の最適化から結晶構造解析データの最終生成までの親和性のスクリーニングの完全なワークフローを含む選択方法の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
被験物質ゲスト化合物を結晶性多核金属錯体に導入するための最適(溶液)条件を選択する方法、およびそのような被験物質ゲスト化合物を結晶性多核金属錯体(結晶スポンジ)に導入して被験物質ゲスト化合物の分子構造を解明するための結晶X線結晶構造解析に使用するための被験物質結晶スポンジ錯体を得る際のそのような選択された方法の使用については、以下に詳細に記載する。これらの被験物質ゲスト化合物の結晶性多核金属錯体は、結晶スポンジ技術を使用したゲスト被験物質の構造解明のための方法に使用することができる。結晶スポンジ技術は、結晶性多核金属錯体を被験物質の結晶性分子スポンジとして利用し、被験物質を規則的に配置する技術である。このようにして形成された、結晶性多核金属錯体中に被験物質を含む錯体は、被験物質のX線構造解析分析を可能にする。
【0025】
本発明の実施形態に係る結晶性多核金属錯体(結晶スポンジ)は、配位部分を有する配位子と、中心金属となる金属イオンとを含む三次元網目構造を有する。本明細書において「三次元網目構造」とは、配位子(すなわち、2つ以上の配位部分および追加の単座配位子を有する配位子)と、それに結合する金属イオンとによって形成される構造単位が三次元的に繰り返し配置された網目状の構造をいう。
【0026】
この三次元網目構造により、結晶性多核金属錯体は多孔質構造となる。このような多孔質構造により、結晶性多核金属錯体の多孔質構造内に被験物質ゲスト化合物を捕捉することが可能になる。したがって、結晶性多核金属錯体は、被験物質ゲスト化合物に対する「スポンジ」として機能する。このような被験物質ゲスト化合物を本発明の結晶性錯体に導入すると、錯体分子内での被験物質ゲスト化合物の組織化された配置が可能になる。被験物質ゲスト化合物のこの組織化された配置により、単結晶X線結晶構造解析を使用して被験物質ゲスト化合物の分子構造を解明することが可能になる。したがって、このような結晶性多核金属錯体を用いた単結晶X線結晶構造解析法は、結晶スポンジ(CS)X線結晶構造解析法と呼ばれることが多い。
【0027】
結晶スポンジ技術の使用は、結晶性多核錯体(「結晶スポンジ」)への被験物質ゲスト化合物の導入の成功に依存する。被験物質ゲスト化合物ごとに、結晶スポンジ材料への導入を成功させるための条件を最適化する必要があり、適切な条件の選択には時間がかかる場合や、結晶スポンジの表面への吸収を示す場合がある。結晶スポンジに導入された被験物質ゲスト化合物のみが規則正しく配置されており、X線回折測定ではそのような導入された被験物質ゲスト化合物の構造解明のみが可能となる。現在の方法では、多くの場合、被験物質ゲスト化合物を結晶スポンジに導入するために最適ではない(溶液)条件を選択することになるが、同時に非常に時間がかかる。選択された(溶液)条件(「浸漬条件」)を使用して、十分な量の被験物質ゲスト化合物が結晶スポンジ材料に導入されることが重要である。
【0028】
本明細書に記載される本発明は、十分な量の被験物質ゲスト化合物を結晶性多核金属錯体に導入するための(溶液)条件(「浸漬条件」)をスクリーニングするためのそのような選択方法に関する。この方法は、最適な浸漬条件を選択するために複数の浸漬条件を並行してスクリーニングすることを含んでいた。さらに、本発明の方法では、被験物質ゲスト化合物と結晶性多核金属錯体から形成される錯体の洗浄工程を含む方法により、従来の方法の問題点が克服される。さらに、結晶性多核金属錯体に導入される被験物質ゲスト化合物から形成されるこのような錯体を溶解すると、以前に観察された問題が改善され、好ましくは前述の洗浄工程を伴う場合にはさらに改善されるであろう。本発明の選択方法の結果として、長時間にわたるプロセスを伴う広範な実験を行うことなく、特定の被験物質ゲスト化合物に対して最適な浸漬条件をより迅速に選択することができる。さらに、本発明の選択方法は、最適な浸漬条件のスクリーニングを可能にし、そのようなスクリーニング方法の偽陽性結果の量を大幅に減少させ、比較的容易に被験物質ゲスト化合物を結晶スポンジに導入するための最適な浸漬条件の選択を可能にするであろう。
【0029】
被験物質ゲスト化合物を結晶性多核金属錯体(結晶スポンジ)に導入しようとするときに行う必要がある選択の一つは、特定の被験物質ゲスト化合物に最適な結晶スポンジの種類である。本発明で用いられる結晶性多核金属錯体は、配位金属錯体を含み、[[M(X)(L)で表され、式中、
Mは金属イオン、
Xは1価のアニオン、
Lは式(1)
【0030】
【化5】
【0031】
で表される三座配位子であり、
ここでArは置換または非置換の3価の芳香族基であり、X~Xは独立して2価の有機基、またはArとY、Y、またはYとを直接結合する単結合であり、Y~Yは独立して配位部分(coordinating moiety)を有する1価の有機基であり、
nは任意の自然数であり、
pは任意の数である。
【0032】
式(1)における三座芳香族配位子Arは、3価の芳香族基である。Arの炭素数は、通常3~22、好ましくは3~13、より好ましくは3~6である。Arの例は、一つの6員芳香環からなる単環構造を有する3価の芳香族基、および6員芳香環が3つ縮合した縮合環構造を有する3価の芳香族基を含む。
【0033】
一つの6員芳香環からなる単環構造を有する3価の芳香族基の例は、下記式(2a)~(2d)で表される基を含む。6員芳香環が3つ縮合した縮合環構造を有する3価の芳香族基の例は、下記式(2e)で表される基を含む。なお、式(2a)~(2e)中の「*」は、X~Xの結合位置を示す。
【0034】
【化6】
【0035】
式(2a)、(2c)~(2e)で表される芳香族基は、任意の位置が置換基で置換されていてもよい。置換基の例は、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、t-ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン分子;等を含む。Arは、好ましくは式(2a)または式(2b)で表される芳香族基であり、式(2b)で表される芳香族基が特に好ましい。
【0036】
~Xは独立して2価の有機基、またはArとY、Y、またはYとを直接結合する単結合である。X~Xで表され得る2価の有機基は、Arとπ電子共役系を形成することができる基であることが好ましい。X~Xで表され得る2価の有機基がπ電子共役系を形成すると、式(1)で表される三座配位子の平面性が向上し、強固な三次元網目構造を形成しやすくなる。2価の有機基の炭素数は、2~18が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましい。
【0037】
~Yは独立して配位部分(coordinating moiety)を有する1価の有機基である。Y~Yで表される有機基は、ArおよびX~Xとともにπ電子共役系を形成することができる基であることが好ましい。Y~Yで表される有機基がπ電子共役系を形成すると、式(1)で表される三座配位子の平面性が向上し、強固な三次元網目構造を形成しやすくなる。
【0038】
~Yで表される有機基の炭素数は、5~11であることが好ましく、5~7であることがより好ましい。Y~Yで表される有機基の例は、下記式(3a)~(3f)で表される有機基を含む。なお、式(3a)~(3f)中の「*」は、X、X、またはXの結合位置を示す。
【0039】
【化7】
【0040】
式(3a)~(3f)で表される有機基は、任意の位置が置換基で置換されていてもよい。置換基の例は、Arに関して上記で記載した置換基を含む。Y~Yとしては、式(3a)で表される基が特に好ましい。
【0041】
多核金属錯体の細孔等の大きさは、式(1)で表される三座配位子におけるAr、X~X、Y~Yを適宜選択することにより調整することができる。本発明の一実施形態による方法は、分子構造を決定したい有機化合物を包接させるのに十分な大きさの細孔等を有する安定な多核金属錯体の単結晶を効率よく得ることを可能にする。
【0042】
式(1)で表される三座配位子は、平面性及び対称性が高く、配位子全体にπ共役系が広がった構造を有するものが、強固な三次元網目構造を形成しやすいため好ましい。このような三座配位子の例は、下記式(4a)~(4f)で表される配位子を含む。
【0043】
【化8】
【0044】
これらの中でも、式(1)で表される三座配位子としては、式(4a)で表される2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(TPT)が特に好ましい。
【0045】
中心金属となる金属イオンは、多座配位子と配位結合を形成して三次元網目構造を形成する金属イオンであれば特に限定されない。中心金属となる金属イオンとしては、公知の金属イオンを用いることができる。周期律表第8族~第12族に属する金属のうち、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、銀イオン等の金属イオンを用いることが好ましく、周期律表第8族~第12族に属する金属のうち2価の金属のイオンがより好ましい。大きな細孔等を有する多核金属錯体が得られやすいことから、亜鉛(II)イオンまたはコバルト(II)イオンを用いることが特に好ましい。さらにより好ましくは、亜鉛(II)イオンの使用である。
【0046】
本発明の実施形態に関連して使用される結晶性多核金属錯体は、通常、中性の多座配位子に加えて、対イオンとして機能する単座配位子の配位により安定化される。単座配位子の例は、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)等のハロゲンイオン、チオシアン酸イオン(SCN)等の一価のアニオンを含む。好ましくは、一価のアニオンは塩化物イオン(Cl)である。
【0047】
本発明の実施形態に関して用いられる結晶性多核金属錯体は、金属イオンと、金属イオンに配位する三座配位子とによって形成される三次元網目構造を有し、三次元網目構造中に三次元的に規則的に配置された細孔等を有する。
【0048】
「三次元網目構造中に三次元的に規則的に配置された細孔等」とは、細孔等がX線単結晶構造解析により観察できる程度に、三次元網目構造中に細孔等が規則的に配列していることを意味する。三次元網目構造は、三次元網目構造が上記構造的特徴を有し、かつ、被験物質ゲスト化合物、多くの場合は分子構造を決定する必要がある有機化合物を包接させるのに十分な大きさの細孔等を有する限り、特に限定されない。
【0049】
本発明の好ましい実施形態では、結晶性多核金属錯体は、金属イオンとしてZn(II)を含む。このような好ましい実施形態では、一価のアニオンは塩化物(Cl)またはヨウ化物(I)のいずれかである。このような結晶性多核金属錯体では、好ましい配位子Lは2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(TPT)である。
【0050】
被験物質ゲスト化合物を導入するための結晶性多核金属錯体の選択に加えて、結晶性多核金属錯体に包接される十分な量の被験物質ゲスト化合物を達成するには、最適な(溶液)条件(「浸漬条件」)の選択が重要である。このような(溶液)条件は、たとえば、被験物質ゲスト化合物含有溶液が結晶性多核金属錯体と接触している期間中に使用される選択された溶媒、および選択された温度を指す。さらに、選択方法を成功させるには、実際に結晶性多核金属錯体に導入される被験物質ゲスト化合物の量が正確に、および好ましくは迅速または比較的迅速な方法で決定されることが必要である。
【0051】
したがって、本発明は、単結晶X線結晶構造解析に使用するための結晶性多核金属錯体への被験物質の導入のための条件を選択する方法に関し、ここで結晶性多核金属錯体は[[M(X)(L)で表され、式中、Mは金属イオン、Xは1価のアニオン、Lは式(1)
【0052】
【化9】
【0053】
で表される三座配位子であり、ここでArは置換または非置換の3価の芳香族基であり、X~Xは独立して2価の有機基、またはArとY、Y、またはYとを直接結合する単結合であり、Y~Yは独立して配位部分を有する1価の有機基であり、nは任意の自然数であり、該方法は以下の工程を含む:
a) 複数の溶液条件下で複数の被験物質の試料(samples of the analyte)を結晶性多核金属錯体と接触させて、溶液中に複数の被験物質試料(sample analyte)の多核金属錯体を得る工程、
b) 各被験物質試料の多核金属錯体から溶媒を蒸発させる工程、
c) 各被験物質試料の多核金属錯体に包接される被験物質の量を決定する工程、および
d) 被験物質試料の多核金属錯体に包接される被験物質の量が最も多くなる溶液条件を選択する工程。
【0054】
最適に選択された方法をより迅速にスクリードするために、上述の実施形態のような方法を並行して実行することができ、ここで該方法工程a)~c)は並行して実行される。これにより、複数の可能な浸漬条件を同時にスクリーニングすることが可能になり、結晶スポンジに十分な量の被験物質ゲスト化合物を導入する、最適な種類の結晶スポンジおよび浸漬条件を選択するプロセスが大幅に削減される。
【0055】
別の実施形態では、上記方法の工程c)は、上記方法の工程b)で得られた被験物質試料(sample analyte)多核金属錯体を洗浄する工程、得られた被験物質試料多核金属錯体を溶解する工程、および結晶性多核金属錯体に導入すされた被験物質試料(被験物質ゲスト化合物)の量を定量分析法を用いて測定する工程をさらに含む。この洗浄工程により、結晶性多核金属錯体に外部から吸着される被験物質ゲスト化合物の量が減少する。このような結晶スポンジの外表面に吸着した被験物質ゲスト化合物は規則的に配列しておらず、X線結晶構造解析を用いた構造解明には役立たない。浸漬条件が被験物質ゲスト化合物を結晶性多核金属錯体にうまく導入しているかどうかを判断する場合、結晶性多核金属錯体の外表面に吸着された被験物質ゲスト化合物は分析に含めるべきではない。結晶スポンジの外表面に吸着した被験物質ゲスト化合物を適切な溶液または洗浄液で洗浄して除去することにより、結晶スポンジ材料に導入された被験物質ゲスト化合物の量をより正確に測定することができる。
【0056】
結晶性多核金属錯体の外表面から被験物質ゲスト化合物を除去する任意の洗浄液または溶液を使用することができる。好ましくは、洗浄液または溶液は、結晶スポンジ、または結晶スポンジに導入された被験物質ゲスト化合物に影響を与えない。好ましい洗浄液または溶液は希薄水溶液であり、より好ましくは洗浄液は水である。洗浄工程は、約15℃~約40℃の温度、好ましくはほぼ室温(すなわち、約20℃~約30℃、または25℃+/-5℃)で短期間行われる。好ましくは、この洗浄時間は約1分~約15分、より好ましくは約2分~約10分、さらにより好ましくは約3分~約7分である。
【0057】
得られた被験物質試料である多核金属錯体を溶解する工程は、実験的浸漬条件中に多核金属錯体に導入された被験物質ゲスト化合物(被験物質試料)を放出することを目的としている。得られた被験物質試料である多核金属錯体の溶解には、結晶性多核金属錯体の結晶構造を破壊して溶解する適切な溶解媒体が含まれる。結晶構造を溶解する任意の溶解媒体を使用することができる。好ましい実施形態では、溶解媒体は、アセトン、アセトニトリル、水、およびメタノールの混合物を含む。より好ましい実施形態では、溶解媒体は、それぞれ25%V/Vのアセトン、アセトニトリル、水、およびメタノールの混合物である。溶解媒体を使用して被験物質試料の結晶性多核金属錯体を溶解する工程は、6~36時間、好ましくは10~30時間、より好ましくは12~24時間実行される。溶解は、約15℃~約40℃の温度、好ましくはほぼ室温(すなわち、約20℃~約30℃、または25℃+/-5℃)で行われる。
【0058】
実験的浸漬条件下で結晶性多核金属錯体への導入に成功した被験物質ゲスト化合物を含む得られた被験物質溶液を定量分析に供する。結晶スポンジに導入された被験物質ゲスト化合物の定量的な量を決定するために、材料は、LC-MS/MS、LC-UV、LC-PDA(フォトダイオードアレイ検出)、LC-RF(蛍光検出)、LC-RI(屈折率検出)、LC-ELSD(光散乱検出)、LC-CCD(導電率検出)から選択される定量分析方法で分析される。ここでのLCへの言及は液体クロマトグラフィーを指す。そのような液体クロマトグラフィーは、HPLCおよびUPLCのようなあらゆる種類の液体クロマトグラフィーを含む。
【0059】
本発明の選択方法においてスクリーニングされる実験的浸漬条件は、結晶スポンジの種類の選択に加えて、被験物質であるゲスト化合物を結晶性多核金属錯体に浸漬する際の溶媒の種類、温度条件を含む。したがって、本発明の方法は、複数の温度条件および/または複数の溶媒を含む複数の(溶液)条件(すなわち、浸漬条件)のスクリーニングを含む。好ましくは、実験溶媒は、特定の種類の結晶性多核金属錯体(結晶スポンジ)と組み合わせて使用される任意の異なる溶媒である。このような溶媒は、非環式および環式アルカン、アルケン、エーテル、アルコール、ケトン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、エステル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン(THF)およびそれらの混合物から選択される。スクリーニング方法で評価される実験温度条件に関しては、これらは特定の結晶性多核金属錯体によっても異なり、被験物質であるゲスト化合物を結晶性多核金属錯体に「浸漬する」ための一連の実験温度を含むことができる。このような温度は、たとえば4℃、25℃、および50℃、または任意の他の適切な浸漬温度から選択することができる。
【0060】
さらに、上記の各実験浸漬条件下での結晶スポンジの目視検査は、被験物質であるゲスト化合物を結晶性多核金属錯体に導入するための最適な浸漬条件を選択するための基準として使用することができる。
【0061】
さらに、本明細書に記載の選択方法は、単一の被験物質ゲスト化合物の最適な浸漬条件を決定するのに有用であるだけでなく、ゲスト被験物質化合物の混合物中の各ゲスト被験物質化合物の最適な浸漬条件を決定する単一のスクリーニングでも使用することができる。このような方法では、本明細書に記載の実施形態のいずれかにおける決定工程は、定量的分析方法だけでなく、定性的分析方法も含むことになる。このような方法の一部の実施形態では、定量的分析方法および定性的分析方法は、たとえば、LC-MS/MS、LC-UV、LC-PDA(フォトダイオードアレイ検出)、LC-RF(蛍光検出)、LC-RI(屈折率検出)、LC-ELSD(光散乱検出)、LC-CCD(導電率検出)から選択される分析方法等の同じ分析方法であってもよい。本発明のこのような方法では、混合物中の各被験物質ゲスト化合物に対する最適な浸漬条件の選択は、複数の浸漬条件が被験物質ゲスト化合物の混合物に対して同時にスクリーニングされる場合に基づいて決定することができる。
【0062】
本発明の別の実施形態では、単結晶X線結晶構造解析に使用するための結晶性多核金属錯体に被験物質を導入する方法が提供され、ここで結晶性多核金属錯体は[[M(X)(L)で表され、式中、Mは金属イオン、Xは1価のアニオン、Lは式(1)
【0063】
【化10】
【0064】
で表される三座配位子であり、ここでArは置換または非置換の3価の芳香族基であり、X~Xは独立して2価の有機基、またはArとY、Y、またはYとを直接結合する単結合であり、Y~Yは独立して配位部分を有する1価の有機基であり、nは任意の自然数であり、該方法は以下の工程を含む:
a) 上記実施形態のいずれかに記載の方法を使用して、被験物質を結晶性多核金属錯体に導入するための溶液条件を選択する工程、および
b) 工程a)で選択された溶液条件で被験物質と結晶性多核金属錯体を接触させて、被験物質の結晶性多核金属錯体を得る工程。
【0065】
さらに別の実施形態では、本発明は、上述の実施形態のいずれかにおける方法を使用して得られた被験物質多核金属錯体を使用する、単結晶X線結晶構造解析によって被験物質の結晶構造を決定する方法を提供する。図1では、最適な浸漬条件を選択し、その後そのような浸漬条件を使用して、X線結晶構造解析を使用した構造解明に使用する結晶スポンジに導入される適切な量の被験物質ゲスト化合物を得る方法を示している。
【0066】
実施例
実施例1: デヒドロニフェジピンの最適な浸漬条件の選択。
化合物デヒドロニフェジピンを以下のように浸漬および処理した。1000ngのデヒドロニフェジピン(ジクロロメタン中1mg/mL)の同時浸漬を、両方の結晶スポンジタイプ(ZnClおよびZnI)を使用して、2つの異なる保存溶媒(シクロヘキサンおよびn-ヘキサン)に、2つの異なる温度(25°℃および50℃)で24時間以上行った。その後、得られた物質を水洗し、結晶サイズの測定を行った。続いて、結晶スポンジ錯体を溶解媒体に溶解した。その後、浸漬した被験物質の定量を行い、様々な浸漬条件を比較した。定量結果および結晶の顕微鏡観察(結晶性/湿り気/色)により、さらなるXRD実験の準備に明確な優先順位が与えられた。一番上の条件は、50℃のシクロヘキサン中のZnI、続いて25℃のシクロヘキサン中のZnI、および50℃のn-ヘキサン中のZnCl、および50℃のn-ヘキサン中のZnClである。XRD結果は、最優先の浸漬条件が下位ランクの浸漬条件よりも優れた結果を示していることを強調している。浸漬溶媒としてシクロヘキサンを使用し、浸漬温度を50℃としたZnIスポンジ中のデヒドロニフェジピンの構造決定は成功した。25℃のシクロヘキサン中のZnIには被験物質は割り当てすることができず(assignable)、50℃のn-ヘキサンスポンジ中のZnClは浸漬後に破壊され、50℃のシクロヘキサンスポンジ中のZnClでは、XRDではデヒドロニフェジピンも溶媒(シクロヘキサン)も割り当てされなかった。
【0067】
このように、この方法は、X線結晶構造解析による構造解明の成功によって確認されるように、十分な量の被験物質を結晶スポンジに導入するための最適な浸漬条件を選択するための選択方法を提供した。
図1
【国際調査報告】