IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

特表2024-510322リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、これを含むリチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池
<>
  • 特表-リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、これを含むリチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池 図1
  • 特表-リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、これを含むリチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池 図2
  • 特表-リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、これを含むリチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池 図3
  • 特表-リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、これを含むリチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池 図4
  • 特表-リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、これを含むリチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池 図5
  • 特表-リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、これを含むリチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池 図6
  • 特表-リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、これを含むリチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池 図7
  • 特表-リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、これを含むリチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池 図8
  • 特表-リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、これを含むリチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池 図9
  • 特表-リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、これを含むリチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質、これを含むリチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240228BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240228BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557411
(86)(22)【出願日】2022-11-24
(85)【翻訳文提出日】2023-09-19
(86)【国際出願番号】 KR2022018741
(87)【国際公開番号】W WO2023096381
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0163379
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ミン・キュ・ユ
(72)【発明者】
【氏名】スン・シク・シン
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・ホン・ジン
(72)【発明者】
【氏名】ジュネ・ウ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ア・シン
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ジュ・パク
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA14
5H050HA18
5H050HA19
(57)【要約】
本発明は、充電終止電圧4.2V~4.275Vの充放電容量に対する充電終止電圧4.1V~4.175Vの充放電容量の比率が高く、初期充放電容量に優れる正極活物質の製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S1)ニッケル、コバルトおよびマンガンを含む正極活物質前駆体を準備するステップと、
(S2)前記正極活物質前駆体およびリチウム源を混合し、焼成して、リチウム遷移金属酸化物を形成するステップと、
(S3)前記リチウム遷移金属酸化物を水洗溶液で水洗するステップとを含み、
前記焼成は、酸素濃度85%以上の雰囲気で行われ、
前記正極活物質前駆体の全体の金属元素(M)に対する前記リチウム源のリチウム(Li)のモル比(Li/M)は、1.03~1.05であり、
前記水洗溶液は、リチウム遷移金属酸化物100重量部に対して50重量部~110重量部使用される、正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記正極活物質前駆体の全体の金属元素(M)に対する前記リチウム源のリチウム(Li)のモル比(Li/M)は、1.035~1.045である、請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記焼成は、酸素濃度85%~100%の雰囲気で行われる、請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記焼成は、700℃~900℃で行われる、請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記正極活物質前駆体は、全体の金属元素のうちニッケルの含量が60モル%以上である、請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表される化合物である、請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
[化学式1]
LiNi1-(b+c+d)CoMn2+e
前記化学式1中、
Qは、Al、Mg、V、TiおよびZrからなる群から選択される1種以上であり、
1.0≦a≦1.3、0<b≦0.5、0<c≦0.5、0≦d≦0.1、0<b+c+d≦0.4、-0.1≦e≦1.0である。
【請求項7】
前記水洗溶液は、リチウム遷移金属酸化物100重量部に対して60重量部~100重量部使用される、請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
ニッケル、コバルトおよびマンガンを含み、全体の金属元素のうちニッケルの含量が60モル%以上であり、
下記式1で計算される値が90%~100%である、正極活物質。
[式1]
(第1放電容量)/(第2放電容量)×100
前記式1中、
第1放電容量は、0.2Cの定電流で、第1充電終止電圧までCC/CVモードで充電した後、0.2Cの定電流で、2.5VまでCCモードで放電して測定し、
第2放電容量は、0.2Cの定電流で、第2充電終止電圧までCC/CVモードで充電した後、0.2Cの定電流で、2.5VまでCCモードで放電して測定し、
ここで、第1充電終止電圧は4.1V~4.175Vであり、第2充電終止電圧は4.2V~4.275Vである。
【請求項9】
下記式2で計算される値が90%~100%である、請求項8に記載の正極活物質。
[式2]
(第1充電容量)/(第2充電容量)×100
前記式2中、
第1充電容量は、0.2Cの定電流で、第1充電終止電圧までCC/CVモードで充電した後、0.2Cの定電流で、2.5VまでCCモードで放電して測定し、
第2充電容量は、0.2Cの定電流で、第2充電終止電圧までCC/CVモードで充電した後、0.2Cの定電流で、2.5VまでCCモードで放電して測定し、
ここで、第1充電終止電圧は4.1V~4.175Vであり、第2充電終止電圧は4.2V~4.275Vである。
【請求項10】
前記正極活物質は、下記化学式1で表される化合物を含む、請求項8に記載の正極活物質。
[化学式1]
LiNi1-(b+c+d)CoMn2+e
前記化学式1中、
Qは、Al、Mg、V、TiおよびZrからなる群から選択される1種以上であり、
1.0≦a≦1.3、0<b≦0.5、0<c≦0.5、0≦d≦0.1、0<b+c+d≦0.4、-0.1≦e≦1.0である。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年11月24日付けの韓国特許出願第10-2021-0163379号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、様々な範囲の充電終止電圧で優れた充放電容量を示す二次電池を製造するための正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に関する技術開発と需要の増加に伴い、エネルギー源として、二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化し、広く使用されている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられており、中でも、作用電圧が高く、容量特性に優れたLiCoOのリチウムコバルト複合金属酸化物が主に使用されている。しかし、LiCoOは、脱リチウムによる結晶構造の不安定化のため、熱的特性が非常に劣っている。また、前記LiCoOは、高価であるため、電気自動車などの分野の動力源として大量使用するには限界がある。
【0005】
LiCoOの代わりに使用するための材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnOまたはLiMnなど)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePOなど)またはリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiOなど)などが開発されている。中でも、約200mAh/gの高い可逆容量を有し、大容量の電池の実現が容易なリチウムニッケル複合金属酸化物に関する研究および開発がより活発になされている。しかし、LiNiOは、LiCoOと比較して熱安定性が劣り、充電状態で外部からの圧力などによって内部短絡が生じると、正極活物質自体が分解されて電池の破裂および発火を引き起こす問題があった。
【0006】
そのため、LiNiOの優れた可逆容量は維持し、且つ低い熱安定性を改善するための方法として、Niの一部をMnとCoで置換したニッケルコバルトマンガン系リチウム複合金属酸化物(以下、簡単に「NCM系リチウム酸化物」とする)が開発されている。しかし、従来、現在まで開発されているNCM系リチウム酸化物は、容量特性が十分ではなく、適用には限界があった。
【0007】
上記のように、従来の技術において電池特性を向上させるための様々なコーティング層を含むリチウム二次電池用正極活物質が提供されてきた。
【0008】
一方、同一の二次電池をエネルギー貯蔵装置(SS、Energy Storage System)と電気車(EV、Electric Vehicle)の用途に全て使用する場合、通常、充電終止電圧として4.2Vまたは4.1Vを使用する。したがって、様々な用途に使用するためには、4.2V容量と4.1V容量が一様に優秀に実現される必要があり、4.2V容量が高くても4.1V容量が低い場合、エネルギー貯蔵装置と電気車の両方に使用することは難しいという限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本公開特許第2021-012807号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、充電終止電圧4.2V~4.275Vの充放電容量に対する充電終止電圧4.1V~4.175Vの充放電容量の比率が高く、初期充放電容量に優れる正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、(S1)ニッケル、コバルトおよびマンガンを含む正極活物質前駆体を準備するステップと、(S2)前記正極活物質前駆体およびリチウム源を混合し、焼成して、リチウム遷移金属酸化物を形成するステップと、(S3)前記リチウム遷移金属酸化物を水洗溶液で水洗するステップとを含み、前記焼成は、酸素濃度85%以上の雰囲気で行われ、前記正極活物質前駆体の全体の金属元素(M)に対する前記リチウム源のリチウム(Li)のモル比(Li/M)は、1.03~1.05であり、前記水洗溶液は、リチウム遷移金属酸化物100重量部に対して50~110重量部使用される、正極活物質の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含み、全体の金属元素のうちニッケルの含量が60モル%以上であり、下記式1で計算される値が90%~100%である正極活物質を提供する。
[式1]
(第1放電容量)/(第2放電容量)×100
前記式1中、
第1放電容量は、0.2Cの定電流で、第1充電終止電圧までCC/CVモードで充電した後、0.2Cの定電流で、2.5VまでCCモードで放電して測定し、
第2放電容量は、0.2Cの定電流で、第2充電終止電圧までCC/CVモードで充電した後、0.2Cの定電流で、2.5VまでCCモードで放電して測定し、
ここで、第1充電終止電圧は4.1V~4.175Vであり、第2充電終止電圧は4.2V~4.275Vである。
【0013】
また、本発明は、前記正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によって製造した正極活物質は、充電終止電圧が4.2V~4.275Vである時の充放電容量および充電終止電圧が4.1V~4.175Vである時の充放電容量がいずれも優れることから、エネルギー貯蔵装置と電気車などの様々な用途に全て使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1~5、比較例1および2の充電終止電圧4.25V充電容量に対する充電終止電圧4.175V充電容量の比率を示す図である。
図2】実施例1~5、比較例1および2の充電終止電圧4.25V放電容量に対する充電終止電圧4.175V放電容量の比率を示す図である。
図3】実施例6~9、比較例3の充電終止電圧4.25V充電容量に対する充電終止電圧4.175V充電容量の比率を示す図である。
図4】実施例6~9、比較例3の充電終止電圧4.25V放電容量に対する充電終止電圧4.175V放電容量の比率を示す図である。
図5】Li/MによるdQ/dV変化を示すグラフである。
図6】実施例3および比較例1のSOC別のDCIRを示すグラフである。
図7】実施例3および比較例1の20℃での容量維持率(%)を示すグラフである。
図8】実施例3および比較例1の40℃での容量維持率(%)を示すグラフである。
図9】実施例3、10、11、比較例4および5の充電終止電圧4.25V充電容量に対する充電終止電圧4.175V充電容量の比率を示す図である。
図10】実施例3、10、11、比較例4および5の充電終止電圧4.25V放電容量に対する充電終止電圧4.175V放電容量の比率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に関する理解を容易にするために、本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
本明細書および特許請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0018】
<正極活物質の製造方法>
本発明の正極活物質の製造方法は、(S1)ニッケル、コバルトおよびマンガンを含む正極活物質前駆体を準備するステップと、(S2)前記正極活物質前駆体およびリチウム源を混合し、焼成して、リチウム遷移金属酸化物を形成するステップと、(S3)前記リチウム遷移金属酸化物を水洗溶液で水洗するステップとを含み、前記焼成は、酸素濃度85%以上の雰囲気で行われ、前記正極活物質前駆体の全体の金属元素(M)に対する前記リチウム源のリチウム(Li)のモル比(Li/M)は、1.03~1.05であり、前記水洗溶液は、リチウム遷移金属酸化物100重量部に対して50~110重量部使用されることを特徴とする。
【0019】
本発明では、正極活物質前駆体をリチウム源と混合した後、焼成するステップにおいて大気雰囲気の酸素濃度条件を限定するとともに、正極活物質前駆体の全体の金属元素(M)に対するリチウム源のリチウム(Li)のモル比(Li/M)を1.03~1.05の数値範囲に限定し、且つ水洗時の水洗溶液の含量を適切な範囲に調節することで、二次電池に活用された時に充電終止電圧4.2V~4.275Vの条件および充電終止電圧4.1V~4.175Vの条件の両方において充放電容量が優れ、結果、充電終止電圧4.2V~4.275Vの条件の充放電容量に対する充電終止電圧4.1V~4.175Vの条件の充放電容量の比率が高い正極活物質を製造した。
【0020】
以下、各ステップ別に詳細に説明する。
【0021】
ステップ(S1)
ニッケル、コバルトおよびマンガンを含む正極活物質前駆体を準備する。
【0022】
前記正極活物質前駆体は、全体の金属元素のうちニッケル(Ni)の含量が60モル%以上である高含量ニッケル(High-Ni)の正極活物質前駆体であることができ、全体の金属元素のうちニッケル(Ni)の含量が80モル%以上であることができる。前記のように全体の金属元素のうちニッケル(Ni)の含量が60モル%以上である高含量ニッケル(High-Ni)の正極活物質前駆体を使用して形成されたリチウム遷移金属酸化物は、高容量の確保が可能である。
【0023】
本発明で使用される前記正極活物質前駆体は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含むNCM系化合物であってもよく、またはニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびアルミニウム(Al)を含むNCA系化合物であってもよく、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)の4成分を必ず含む4成分系正極活物質前駆体であってもよい。
【0024】
容量、効率および寿命特性の面において、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含むNCM系化合物またはニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)の4成分を必ず含む4成分系正極活物質前駆体がより好ましい。前記4成分系正極活物質前駆体で正極活物質を製造する場合、正極活物質の安定性を向上させることができ、NCM/NCA正極活物質より出力特性および容量特性を劣化させないとともに寿命を向上させることができる。
【0025】
ステップ(S2)
前記正極活物質前駆体およびリチウム源を混合し、焼成して、リチウム遷移金属酸化物を形成する。
【0026】
ここで、前記正極活物質前駆体の全体の金属元素(M)に対する前記リチウム源のリチウム(Li)のモル比(Li/M)は、1.03~1.05であり、好ましくは1.035~1.045、1.037~1.043であることができる。
【0027】
従来、一般的に、正極活物質前駆体の全体の金属元素(M)に対するリチウム源のリチウム(Li)のモル比(Li/M)を約1.0~1.1の範囲にしていたが、この場合、充電終止電圧4.1V~4.175V容量が充電終止電圧4.2V~4.275V容量に対して相対的に低い問題があり、様々な用途に適用することが困難であった。
【0028】
これを解決するために、本発明では、前記のように、正極活物質前駆体の全体の金属元素(M)に対する前記リチウム源のリチウム(Li)のモル比(Li/M)を1.03~1.05に制御しており、これは、十分な量のリチウムを投入して充電時にhexagonal(H2)からhexagonal(H3)への相転移(phase transition)が低い電圧から開始するように調節したものである。結果、充電終止電圧4.2V~4.275Vの充放電容量に対する充電終止電圧4.1V~4.175Vの充放電容量の比率を高めることができた。これと同時に、Li/Mの上限値は1.05に限定することで、過剰に多い量のリチウムによって4.2V~4.275V充放電容量と平均電圧が低下することは防止している(図5)。
【0029】
前記Li/Mが1.03未満である場合、相転移電位が高くて、充電終止電圧4.1V~4.175Vの充放電容量が低い問題が現れ、前記Li/Mが1.05を超える場合、NiサイトをLiが占める比率が過剰であり、かえって充電終止電圧4.2V~4.275Vの充放電容量が低くなる問題が現れる。
【0030】
このように、本発明の製造方法で使用するLi/Mの範囲は、様々な充電終止電圧で一様に優れた充放電特性を示し、且つ定量的な容量値も高くなるように特定したものである。
【0031】
本発明において、前記焼成は、酸素濃度85%以上の雰囲気で行われ、具体的には、85%~95%の雰囲気、または87%~93%の雰囲気で行われることができる。
【0032】
本発明では、上述のように、正極活物質前駆体の全体の金属元素(M)に対する前記リチウム源のリチウム(Li)のモル比(Li/M)を制御し、且つ焼成が行われる酸素濃度を85%以上に限定している。これにより、Li/M比率を高めて相転移電位を下げる効果をさらに極大化し、本発明の目的をさらに効果的に実現することができる。
【0033】
前記酸素濃度が85%未満である場合、相転移電位が高くて相対的に低い充電終止電圧(4.1V~4.175V)での容量が低下する問題が現れる。
【0034】
また、前記正極活物質前駆体の全体の金属元素(M)に対する前記リチウム源のリチウム(Li)のモル比(Li/M)は、1.035~1.045であり、且つ、前記焼成は、酸素濃度85%超~95%未満の雰囲気で行われることができる。
【0035】
また、前記範囲の酸素雰囲気下で、5時間~30時間焼成を行うことができる。
【0036】
本発明において、前記焼成は、700~900℃で行われることができ、より好ましくは、700~850℃、730~750℃で行われることができる。また、前記焼成時に、焼成温度まで2~10℃/minの昇温速度で昇温させることとができ、より好ましくは、3~7℃/minの昇温速度で昇温させることができる。
【0037】
本発明において、前記リチウム源としては、リチウム含有硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、ハライド、水酸化物またはオキシ水酸化物などが使用されることができ、水に溶解されることができる限り特に限定されない。具体的には、前記リチウム源は、LICO、LiNO、LiNO、LiOH、LiOH・HO、LiH、LiF、LiCl、LiBr、LiI、CHCOOLi、LiO、LiSO、CHCOOLi、またはLiなどであることができ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されることができる。
【0038】
本発明において、前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表される化合物であることができる。
【0039】
[化学式1]
LiNi1-(b+c+d)CoMn2+e
【0040】
前記化学式1中、
Qは、Al、Mg、V、TiおよびZrからなる群から選択される1種以上であり、
1.0≦a≦1.3、0<b≦0.5、0<c≦0.5、0≦d≦0.1、0<b+c+d≦0.4、-0.1≦e≦1.0である。
【0041】
ステップ(S3)
前記リチウム遷移金属酸化物を水洗溶液で水洗する。
【0042】
高含量ニッケル(High-Ni)のリチウム複合遷移金属酸化物の場合、正極活物質の表面にLiOH、LiCOの形態で存在するリチウム副生成物の残留量が高まり、これに伴いガスが発生し、スウェリング(swelling)現象が発生する問題が生じ得る。したがって、残留リチウム副生成物を除去するための水洗工程を行う。
【0043】
また、残留リチウム副生成物を適切に除去してリチウム二次電池の物性を向上させるために、前記水洗溶液は、リチウム遷移金属酸化物100重量部に対して50~110重量部使用され、より具体的には、リチウム遷移金属酸化物100重量部に対して60~110重量部使用されることができる。
【0044】
水洗溶液の含量が前記範囲から逸脱する場合、例えば、水洗溶液がリチウム遷移金属酸化物100重量部に対して50重量部未満である場合、残留リチウムを十分に水洗することができず、リチウム遷移金属酸化物の表面に残存するリチウムによって、これを二次電池に使用した時に、充電終止電圧4.2V~4.275Vの充放電容量が低くなり、水洗溶液がリチウム遷移金属酸化物100重量部に対して110重量部を超える場合、リチウム遷移金属酸化物の表面のリチウムが過剰に全て水洗されて内部のリチウムが表面に移動し、これによって、二次電池の充電終止電圧4.2V~4.275Vの充放電容量が低くなる問題が生じ得る。
【0045】
前記水洗するステップは、水洗溶液にリチウム遷移金属酸化物を投入し、撹拌する方法で行われることができる。
【0046】
前記水洗溶液の溶媒は、脱イオン水、蒸留水またはこれらの組み合わせであることができ、この場合、リチウムの溶解が容易であり、リチウム遷移金属酸化物の表面の残留リチウムを効果的に除去することができる。
【0047】
また、前記水洗時の温度は、30℃以下、好ましくは-10~30℃、または0~20℃であることができ、水洗時間は、10分~1時間、好ましくは20分~40分程度であることができる。水洗温度および水洗時間が前記範囲を満たす時に、リチウム副生成物が効果的に除去されることができる。
【0048】
<正極活物質>
本発明による正極活物質は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含み、全体の金属元素のうちニッケルの含量が60モル%以上であり、下記式1で計算される値が90%~100%であることを特徴とする。
【0049】
[式1]
(第1放電容量)/(第2放電容量)×100
【0050】
前記式1中、
第1放電容量は、0.2Cの定電流で、第1充電終止電圧までCC/CVモードで充電した後、0.2Cの定電流で、2.5VまでCCモードで放電して測定し、
第2放電容量は、0.2Cの定電流で、第2充電終止電圧までCC/CVモードで充電した後、0.2Cの定電流で、2.5VまでCCモードで放電して測定し、
ここで、第1充電終止電圧は4.1V~4.175Vであり、第2充電終止電圧は4.2V~4.275Vである。
【0051】
また、下記式2で計算される値が90%~100%であることをさらに満たすことができる。
【0052】
[式2]
(第1充電容量)/(第2充電容量)×100
【0053】
前記式2中、
第1充電容量は、0.2Cの定電流で、第1充電終止電圧までCC/CVモードで充電した後、0.2Cの定電流で、2.5VまでCCモードで放電して測定し、
第2充電容量は、0.2Cの定電流で、第2充電終止電圧までCC/CVモードで充電した後、0.2Cの定電流で、2.5VまでCCモードで放電して測定し、
ここで、第1充電終止電圧は4.1V~4.175Vであり、第2充電終止電圧は4.2V~4.275Vである。
【0054】
また、前記第1放電容量および第2放電容量の測定前、または第1充電容量および第2充電容量の測定前、二次電池を充放電して活性化するステップを先に行うことができ、ここで、活性化のための充電終止電圧は、前記第1充電終止電圧、または第2充電終止電圧と同一もしくは相違してもよい。
【0055】
例えば、0.2Cの定電流で、4.2V~4.275Vの電圧までCC/CVモードで充電した後、0.2Cの定電流で、2.5VまでCCモードで放電して活性化した後、第1充電容量および第2充電容量を測定することができる。
【0056】
上述のように、本発明による正極活物質は、充電終止電圧4.2V~4.275Vの条件および充電終止電圧4.1V~4.175Vの条件の両方において充放電容量が優れ、特に、充電終止電圧を下げても充放電容量が著しく低下しないことを特徴とする。したがって、第2充電終止電圧(4.2V~4.275V)の充放電容量に対する第1充電終止電圧(4.1V~4.175V)の充放電容量の比率が高い値で計算され、式1で表される放電容量の比率が90%~100%であり、式2で表される充電容量の比率が90%~100%である。
【0057】
前記正極活物質は、下記化学式1で表されるリチウム遷移金属酸化物を含むことができる。
【0058】
[化学式1]
LiNi1-(b+c+d)CoMn2+e
【0059】
化学式1に関する定義は、上述のとおりである。
【0060】
<リチウム二次電池用正極およびリチウム二次電池>
また、本発明は、上述の方法により製造された正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供する。
【0061】
具体的には、前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一面に位置し、上記の正極活物質を含む正極活物質層とを含む。
【0062】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したものなどが使用されることができる。また、前記正極集電体は、通常、3~500μmの厚さを有することができ、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して、正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など様々な形態で使用されることができる。
【0063】
前記正極活物質層は、正極活物質とともに、導電材およびバインダーを含むことができる。
【0064】
この際、前記正極活物質は、正極活物質層の全重量に対して、80重量%~99重量%、より具体的には85重量%~98重量%の含量で含まれることができる。上記の含量範囲で含まれる時に、優れた容量特性を示すことができる。
【0065】
この際、前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こさず、電子伝導性を有するものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記導電材は、正極活物質層の全重量に対して1~30重量%含まれることができる。
【0066】
前記バインダーは、正極活物質粒子の間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの様々な共重合体などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記バインダーは、正極活物質層の全重量に対して1~30重量%含まれることができる。
【0067】
前記正極は、上記の正極活物質を用いる以外は、通常の正極の製造方法により製造されることができる。具体的には、上記の正極活物質および選択的に、バインダーおよび導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した正極合材を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造されることができる。この際、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類および含量は、上述のとおりである。
【0068】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であることができ、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造歩留まりを考慮して、前記正極活物質、導電材およびバインダーを溶解または分散させ、以降、正極の製造のための塗布時に、優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0069】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極合材を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されることもできる。
【0070】
また、本発明は、前記正極を含む電気化学素子を製造することができる。前記電気化学素子は、具体的には、電池、キャパシタなどであることができ、より具体的には、リチウム二次電池であることができる。
【0071】
前記リチウム二次電池は、具体的には、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と負極との間に介在されるセパレータと、電解質とを含み、前記正極は、上述のとおりであるため、具体的な説明を省略し、以下、残りの構成についてのみ具体的に説明する。
【0072】
また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0073】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含む。
【0074】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、高い導電性を有するものであれば、特に制限されず、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使用されることができる。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有することができ、正極集電体と同様、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して、負極活物質の結合力を強化することもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など、様々な形態で使用されることができる。
【0075】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的に、バインダーおよび導電材を含む。
【0076】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用されることができる。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金など、リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のように、リチウムをドープおよび脱ドープすることができる金属酸化物;またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されることができる。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が使用されてもよい。また、炭素材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素などがいずれも使用可能である。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)および硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0077】
前記負極活物質は、負極活物質層の全重量に対して80重量%~99重量%含まれることができる。
【0078】
前記バインダーは、導電材、活物質および集電体の間の結合を容易にする成分であり、通常、負極活物質層の全重量100重量部に対して0.1重量部~10重量部添加される。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの様々な共重合体などが挙げられる。
【0079】
前記導電材は、負極活物質の導電性をより向上させるための成分であり、負極活物質層の全重量に対して10重量%以下、具体的には5重量%以下で添加されることができる。このような導電材は、当該電池において化学的変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば、特に制限されず、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用されることができる。
【0080】
例えば、前記負極活物質層は、負極集電体上に、負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した負極合材を塗布し乾燥することで製造されるか、または前記負極合材を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されることができる。
【0081】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであり、通常、リチウム二次電池においてセパレータとして使用されるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗であるとともに、電解液の含湿能力に優れるものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用されることができる。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が使用されてもよい。また、耐熱性または機械的強度の確保のために、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされたセパレータが使用されてもよく、選択的に、単層または多層構造として使用されることができる。
【0082】
また、本発明で使用される電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0083】
具体的には、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0084】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関わるイオンが移動することができる媒質の役割を果たすものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R-CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3-ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが使用されることができる。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと直鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用することが、電解液が優れた性能を示すことができる。
【0085】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記リチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAl0、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが使用されることができる。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0Mの範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度および粘度を有することから優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0086】
前記電解質には、前記電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池の容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などのために、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれることもできる。この際、前記添加剤は、電解質の全重量100重量部に対して0.1~5重量部含まれることができる。
【0087】
前記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および寿命特性を安定的に示すことから、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどのポータブル機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などにおいて有用である。
【0088】
したがって、本発明の他の一実施形態によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびこれを含む電池パックが提供される。
【0089】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのいずれか一つ以上の中大型デバイスの電源として用いられることができる。
【0090】
本発明のリチウム二次電池の外形は、特に制限されないが、缶を使用した円筒型、角型、パウチ(pouch)型またはコイン(coin)型などであることができる。
【0091】
本発明によるリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用されるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールにおいて単位電池としても好ましく使用されることができる。
【0092】
[実施例]
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、これらのみに本発明の範囲が限定されない。
【0093】
正極活物質の製造
実施例1
正極活物質前駆体Ni0.86Co0.1Mn0.02Al0.02(OH)の全体の金属元素(M)に対するリチウム源LiOHのリチウム(Li)のモル比(Li/M)が1.030になるようにヘンシェルミキサー(700L)に投入し、中心部300rpmで20分間ミキシング(mixing)した。混合した粉末をアルミナるつぼに入れ、5℃/minで昇温させて、酸素濃度90%雰囲気下で、790℃で10時間焼成し、リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0094】
製造されたリチウム遷移金属酸化物300gを10℃純水240mLに入れて(リチウム遷移金属酸化物100重量部に対する水の含量80重量部に換算)30分間撹拌して水洗し、20分間フィルタリングを行った。フィルタリングしたリチウム遷移金属酸化物を真空オーブンで、130℃で10時間乾燥し、正極活物質を製造した。
【0095】
実施例2~11、比較例1~5
下記表1のように反応条件を変更した以外は、実施例1と同様に正極活物質を製造した。
【0096】
【表1】
【0097】
リチウム二次電池の製造
前記で製造されたそれぞれの正極活物質、カーボンブラック導電材およびPVdFバインダーをN-メチルピロリドン溶媒の中で、95:2.5:2.5の比率の重量比で混合して正極合材(粘度:5000mPa・s)を製造し、これをアルミニウム集電体の一面に塗布した後、130℃で乾燥してから圧延して正極を製造した。
【0098】
一方、負極としてリチウムメタルを使用した。
【0099】
前記のように製造された正極と負極との間に多孔性ポリエチレンのセパレーターを介在して電極組立体を製造し、前記電極組立体をケースの内部に位置させた後、ケースの内部に電解液を注入してコインハーフセル(coin half cell)であるリチウム二次電池を製造した。ここで、電解液は、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート(EC/DMC/EMCの混合体積比=3/4/3)からなる有機溶媒に1.0M濃度のリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)を溶解させて製造した。
【0100】
実験例1:充放電容量の比率の評価
各リチウム二次電池セルに対して、25℃で、一回目のサイクルで、CC/CVモードで、0.2C、充電終止電圧4.25Vになるまで充電(終了電流0.005C)し、0.2Cの定電流で、2.5Vになるまで放電した。二回目のサイクルで、同じ条件で、充電終止電圧4.175V、放電終止電圧2.5Vにして行った。三回目のサイクルでは、同じ条件で、充電終止電圧4.25V、放電終止電圧2.5Vにして行った。
【0101】
下記表2には、二回目のサイクルおよび三回目のサイクルの充電容量および充電容量の比率を、表3には、二回目のサイクルおよび三回目のサイクルの放電容量および放電容量の比率を示した。
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
前記表2および表3、図1図4に示したように、本発明の製造方法によって製造した実施例1~9のリチウム二次電池では、充電終止電圧4.25Vおよび4.175Vそれぞれにおいて充放電容量がいずれも優れ、Li/Mの値が1.03未満である比較例1、焼成条件の酸素濃度が85%未満である比較例3に比べて、充放電容量の比率が著しく改善したことを確認することができた。
【0105】
一方、Li/Mの値が1.05超である比較例2の場合、Liが過量で投入されたため、充放電容量がいずれも実施例に比べて低い値であり、出力特性自体が低下したことが分かった。
【0106】
一方、水洗工程時に、正極活物質100重量部に対して50~110重量部から逸脱するように水を使用した比較例4および5を参照すると、比較例4では、水洗時に水を過剰に少なく使用して、正極活物質の表面に残留リチウム量が高くて抵抗として作用し、充放電容量の比率が低くなり、90%から逸脱することを確認し、比較例5では、水洗時に水を過量で使用して、表面のリチウムが過剰に水洗され、これによって正極活物質の内部のリチウムが外部に移動し、そのため、充放電容量の比率が低くなることを確認した。
【0107】
実験例2:初期容量の評価
前記実験例1で測定した一回目のサイクルの充電容量および放電容量を下記表4にまとめた。
【0108】
【表4】
【0109】
前記表4と同様、実施例は、初期充放電容量がいずれも優れ、Li/Mの値が1.05超である比較例2は、初期充放電容量が全般的に減少したことを確認した。
【0110】
このように、本発明によって製造した正極活物質を用いる場合、リチウム二次電池の充電終止電圧4.2V~4.275Vの充放電容量に対する充電終止電圧4.1V~4.175Vの充放電容量の比率が高く、且つ初期充放電容量も優れることが分かった。
【0111】
実験例3:二次電池の常温DCIR(mohm)の評価
前記実施例3、比較例1のリチウム二次電池を対象として、SOC別にDCIR特性を評価し、その結果を図6に示した。
【0112】
具体的には、リチウム二次電池を25℃で、0.5C、CC-CVの充電条件で、2回の充放電を行い(電圧駆動の範囲:3.0~4.2V、SOC100%)、また、0.5C CC-CVの条件で充電した後、SOC10%に逹するまで0.5C放電を行い、下記式によるDCIRを計算した。
【0113】
ここで、SOC100からSOC10領域までSOC10単位別にそれぞれ測定した。
【0114】
DCIR=(V-V)/I
(V=pulse前の電圧、V=pulse10s後の電圧、I=印加電流)
【0115】
【表5】
【0116】
前記結果のように、本発明による実施例の正極活物質を用いたリチウム二次電池では、比較例に比べて、良好な常温DCIR特性が確保されたことを確認した。特に、SOC10%、SOC100%では、実施例の優れたDCIR特性がさらに著しいことが分かった。
【0117】
実験例4:寿命特性の評価
実施例3、比較例1のリチウム二次電池に対して、寿命特性を評価した。
【0118】
具体的には、20℃で、以下の条件で充放電を行って1回目のサイクルとし、70回目のサイクルまで繰り返して容量維持率(%)を評価し、その結果を図7に示した。
【0119】
-充電条件(CP/CV):充電終止電圧4.1V、0.5CP、終了電流0.005C
-放電条件(CP/CV):0.5CP、3.0V cut-off
【0120】
また、温度条件を40℃に変更して同じ実験を行った結果を図8に示した
【0121】
図7および図8と同様、実施例の場合、比較例に比べて、サイクルの繰り返しによる容量の低下が抑制されて寿命特性が改善したことが分かり、このような効果は、様々な温度条件において全て現れることを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】