(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-11
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/847 20060101AFI20240304BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240304BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240304BHJP
B01J 35/61 20240101ALI20240304BHJP
C01B 32/16 20170101ALI20240304BHJP
【FI】
B01J23/847 M
B01J37/02 101Z
B01J37/08
B01J35/61
C01B32/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558621
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 KR2022015961
(87)【国際公開番号】W WO2023075284
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】10-2021-0146334
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】スン・ジン・キム
(72)【発明者】
【氏名】セ・ヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】オ・ゲネ・オ
(72)【発明者】
【氏名】オグ・シン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヘ・ジン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ヨン・キム
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AB08
4G146AC22B
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4G146BC09
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4G169FB14
4G169FB30
4G169FB57
4G169FC02
4G169FC06
4G169FC07
4G169FC08
(57)【要約】
本発明は、加圧条件下で触媒成分を担持することで、さらに高い嵩密度を有するカーボンナノチューブを製造することができる触媒の製造方法および前記触媒を用いたカーボンナノチューブの製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒担持液と支持体を混合して混合物を取得するステップ(S1)と、
混合物を乾燥するステップ(S2)と、
乾燥した混合物を焼成して担持触媒を取得するステップ(S3)とを含み、
前記S1ステップは、1.5bar~4.5barで行われる、カーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記S1ステップは、2bar~4barで行われる、請求項1に記載のカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記触媒担持液は、Co、NiおよびFeからなる群から選択される主触媒金属の前駆体を含む、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記触媒担持液は、MoおよびVからなる群から選択される助触媒金属の前駆体を含む、請求項3に記載のカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記触媒担持液内の主触媒金属前駆体と助触媒金属前駆体とのモル比は、5:1~20:1である、請求項4に記載のカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記支持体は、アルミニウム、マグネシウム、カルシウムおよびシリコンからなる群から選択される1種以上の金属酸化物または水酸化物である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記支持体の比表面積は、100m
2/g~1000m
2/gである、請求項1に記載のカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法。
【請求項8】
前記S2ステップは、常圧または減圧条件で行われる、請求項1に記載のカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法。
【請求項9】
前記S2ステップは、10mbar~100mbarで行われる、請求項1に記載のカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法。
【請求項10】
前記S2ステップは、50℃~200℃の温度で行われる、請求項1に記載のカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法。
【請求項11】
前記S3ステップは、600℃~800℃の温度で0.5時間~3時間行われる、請求項1に記載のカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法。
【請求項12】
触媒担持液と支持体を混合して混合物を取得するステップ(S1)と、
混合物を乾燥するステップ(S2)と、
乾燥した混合物を焼成して担持触媒を取得するステップ(S3)と、
取得した触媒を化学気相蒸着反応器に投入するステップ(S4)と、
前記反応器に炭素源ガスを注入し、加熱して、カーボンナノチューブを合成するステップ(S5)とを含み、
前記S1ステップは、1.5bar~4.5barで行われる、カーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度のカーボンナノチューブを製造することができるカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノ素材は、素材の形状に応じて、フラーレン(Fullerene)、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube;CNT)、グラフェン(Graphene)、グラファイトナノプレート(Graphite Nano Plate)などがあり、このうち、カーボンナノチューブは、1個の炭素原子が3個の異なる炭素原子と結合した六角形のハニカム形状の黒鉛面がナノサイズの直径で丸く巻かれた巨大分子である。
【0003】
カーボンナノチューブは、中が空いて軽く、電気伝導度は銅ほど良く、熱伝導度はダイヤモンドほど優れ、引張力は鉄鋼に劣らない。巻かれた形態に応じて、シングルウォールカーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotube;SWCNT)と、マルチウォールカーボンナノチューブ(Multi-Walled Carbon Nanotube;MWCNT)と、ロープカーボンナノチューブ(Rope Carbon Nanotube)とに分けられることがある。
【0004】
最近、同時に多量のカーボンナノチューブを合成することができるカーボンナノチューブ合成技術に関する研究が活発に行われている状況であり、様々な方法のうち、流動層反応器を用いた化学気相蒸着法(Chemical Vapor Depostion、CVD)の場合、簡単に多量のカーボンナノチューブを合成できるという点で、実際、産業分野において最も好まれている。
【0005】
具体的には、前記化学気相蒸着法では、粒子状のカーボンナノチューブ製造用触媒を流動層反応器に充填した後、流動層反応器の内部に炭素源ガスおよび流動ガスを注入して前記触媒を浮遊させる。その後、反応器を加熱して浮遊する触媒の表面で炭素源ガスが分解されることで、カーボンナノチューブが合成される。
【0006】
このような化学気相蒸着法を用いたカーボンナノチューブの製造工程では、触媒の活性が全体的な製造工程の生産性を決定できる主な要素として作用し、これに伴い、さらに高い活性を有する触媒とその製造方法に関する研究が活発になされている。例えば、支持体内の主触媒成分の担持量をさらに高めるか、助触媒成分をともに担持することで、触媒の活性をさらに高めることができると知られている。ただし、助触媒と共に過量の主触媒成分を担持する場合には、かえって、助触媒が主触媒成分の分散度を阻害する問題が存在し、主触媒の担持量を増加させて触媒活性を増加させる方法には限界がある。
【0007】
したがって、カーボンナノチューブ製造用触媒の製造過程を最適化して、最終的に製造された触媒の活性をさらに改善することができる方法に関するさらなる研究が必要な状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】KR10-2015-0007266A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するためのものであり、触媒の製造過程中に混合ステップで加圧を行うことで、高嵩密度のカーボンナノチューブの製造が可能な新規なカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、カーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法およびカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【0011】
具体的には、(1)本発明は、触媒担持液と支持体を混合して混合物を取得するステップ(S1)と、混合物を乾燥するステップ(S2)と、乾燥した混合物を焼成して担持触媒を取得するステップ(S3)とを含み、前記S1ステップは、1.5~4.5barで行われるカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供する。
【0012】
(2)本発明は、前記(1)において、前記S1ステップは、2~4barで行われるカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供する。
【0013】
(3)本発明は、前記(1)または(2)において、前記触媒担持液は、Co、NiおよびFeからなる群から選択される主触媒金属の前駆体を含むカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供する。
【0014】
(4)本発明は、前記(1)~(3)のいずれか一つにおいて、前記触媒担持液は、MoおよびVからなる群から選択される助触媒金属の前駆体を含むカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供する。
【0015】
(5)本発明は、前記(1)~(4)のいずれか一つにおいて、前記触媒担持液内の主触媒金属前駆体と助触媒金属前駆体とのモル比は、5:1~20:1であるカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供する。
【0016】
(6)本発明は、前記(1)~(5)のいずれか一つにおいて、前記支持体は、アルミニウム、マグネシウム、カルシウムおよびシリコンからなる群から選択される1種以上の金属酸化物または水酸化物であるカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供する。
【0017】
(7)本発明は、前記(1)~(6)のいずれか一つにおいて、前記支持体の比表面積は、100~1000m2/gであるカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供する。
【0018】
(8)本発明は、前記(1)~(7)のいずれか一つにおいて、前記S2ステップは、常圧または減圧条件で行われるカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供する。
【0019】
(9)本発明は、前記(1)~(8)のいずれか一つにおいて、前記S2ステップは、10~100mbarで行われるカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供する。
【0020】
(10)本発明は、前記(1)~(9)のいずれか一つにおいて、前記S2ステップは、50~200℃の温度で行われるカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供する。
【0021】
(11)本発明は、前記(1)~(10)のいずれか一つにおいて、前記S3ステップは、600~800℃の温度で0.5~3時間行われるカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供する。
【0022】
(12)本発明は、触媒担持液と支持体を混合して混合物を取得するステップ(S1)と、混合物を乾燥するステップ(S2)と、乾燥した混合物を焼成して担持触媒を取得するステップ(S3)と、取得した触媒を化学気相蒸着反応器に投入するステップ(S4)と、前記反応器に炭素源ガスを注入し、加熱して、カーボンナノチューブを合成するステップ(S5)とを含み、前記S1ステップは、1.5~4.5barで行われるカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法により製造された触媒を使用してカーボンナノチューブを製造する場合、最終的に製造されたカーボンナノチューブの嵩密度が高く、同一反応体積を基準にさらに多いカーボンナノチューブの製造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0025】
本明細書および特許請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義し得るという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0026】
本発明で使用している用語「カーボンナノチューブ」は、カーボンナノチューブの単位体が全体または部分的にバンドル型をなすように集合して形成された二次構造物であり、前記カーボンナノチューブの単位体は、グラファイトシート(graphite sheet)がナノサイズ直径のシリンダ形状を有し、sp2結合構造を有する。ここで、前記グラファイトシートが巻かれる角度および構造に応じて、導体または半導体の特性を示すことができる。カーボンナノチューブの単位体は、壁をなしている結合数にし応じて、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT、single-walled carbon nanotube)と、ダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT、double-walled carbon nanotube)と、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT、multi-walled carbon nanotube)とに分けられ、壁の厚さが薄いほど抵抗が低い。
【0027】
本発明のカーボンナノチューブは、シングルウォール、ダブルウォールおよびマルチウォールのカーボンナノチューブ単位体のいずれか一つまたは二つ以上を含むことができる。
【0028】
カーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法
化学気相蒸着法を用いたカーボンナノチューブの合成に使用される触媒は、固体粒子形態で、様々な方法により製造されることができるが、一般的には、支持体に金属成分を担持する方式である担持法を用いて製造される。特に、担持法を用いた触媒の製造方法は、物理または化学蒸着を用いた触媒の製造方法に比べて短時間で多量の触媒を製造することができ、触媒の製造コストも低く、且つ触媒自体の活性も良好で、産業分野で最も広く用いられている。さらには、最近、担持法を用いて触媒を製造し、且つ触媒成分の活性を向上させるための助触媒成分を主触媒成分とともに担持する方式が好まれる。
【0029】
ただし、担持法を用いて製造された触媒の場合、支持体自体の物理的な特性によって担持されることができる触媒量の限界があるため、ある程度以上に触媒活性を引き上げることは簡単でない。特に、助触媒と主触媒をともに担持する場合においても、過量で担持された助触媒は、かえって主触媒の活性を低下させるため、適切な主触媒と助触媒との割合を維持し、且つ触媒活性を最も高くすることができる主触媒および助触媒の含量範囲で触媒を製造する必要がある。このような面において、最適範囲の主触媒および助触媒の含量や、担持量をさらに高めることができる支持体の構造的特性に関する研究も活発になされている状況である。
【0030】
一方、このような問題から出発して研究した結果、本発明の発明者らは、担持過程で加圧する場合、触媒成分が支持体の内部領域にさらに多く移動して、最終的に製造された触媒の活性が改善し、前記触媒から製造されるカーボンナノチューブの嵩密度も高くなることができることを見出し、これにより本発明を完成するに至った。
【0031】
したがって、本発明は、触媒担持液と支持体を混合して混合物を取得するステップ(S1)と、混合物を乾燥するステップ(S2)と、乾燥した混合物を焼成して担持触媒を取得するステップ(S3)とを含み、前記S1ステップは、1.5~4.5barで行われるカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法を提供する。
【0032】
以下、本発明のカーボンナノチューブ製造用触媒の製造方法に使用される支持体、触媒担持液および製造方法の各ステップを分けて詳細に説明する。
【0033】
支持体
本発明の触媒の製造方法に使用される支持体は、アルミニウム、マグネシウム、カルシウムおよびシリコンからなる群から選択される1種以上の金属酸化物または水酸化物であることができ、特に好ましくは、アルミニウム酸化物またはアルミニウム水酸化物であることができる。このような金属酸化物は、多孔性を有して比表面積が広いことから、触媒成分の担持時に高い触媒活性を示すことができ、機械的強度にも優れることから、カーボンナノチューブの製造過程中に触媒の粒子が崩壊するなどの現象を抑制することができる。特に、アルミニウム酸化物の場合、触媒成分の担持が容易であり、且つ耐久性に優れることから好まれる。
【0034】
前記支持体は、比表面積が100~1000m2/g、好ましくは150~600m2/gであることができる。支持体の比表面積が上述の範囲内である場合、触媒の活性を高め、且つ耐久性も良好な水準で維持することができるという利点がある。一方、前記比表面積は、BET法によって測定されることができ、さらに具体的には、BEL Japan社製のBELSORP-mini IIを用いて、液体窒素温度(77K)下での窒素ガス吸着量から計算することができる。
【0035】
前記支持体は、D50が10~70μmであり、D90が20~90μmであることができ、好ましくはD50が20~60μmであり、D90が30~80μmであることができる。また、前記支持体は、嵩密度が300~1200kg/m3であることができ、好ましくは嵩密度が500~1000kg/m3であることができる。支持体の物性が上述の範囲を満たす場合、前記支持体を含む触媒の耐久性に優れ、且つ前記触媒から製造されるカーボンナノチューブのサイズおよび物性に優れることができる。一方、前記D50およびD90は、レーザ回折方式粒度分析装置(Microtrac社製、S3500)を使用して測定することができ、嵩密度は、5mlのシリンダに測定対象となる支持体をいっぱい満たし、目盛りを読んで体積を測定した後、スケールに載せて確認された重量を、先に測定した体積で除して計算することができる。
【0036】
前記支持体の形状は、特に限定されないが、球状またはポテト状であることができる。また、前記支持体は、単位質量または単位体積当たり比較的高い表面積を有するように、多孔性構造、分子体構造、ハニカム構造などを有することができる。
【0037】
触媒担持液
本発明の触媒の製造方法において、支持体に実質的な触媒の役割を果たす活性成分を担持させるための触媒担持液が使用される。前記触媒担持液は、触媒活性を示すことができる主触媒成分と、前記主触媒成分の触媒活性を上昇させることができる助触媒成分とを含むことができる。
【0038】
前記主触媒成分は、Co、NiおよびFeからなる群から選択される1以上であることができ、好ましくはCoであることができる。主触媒成分は、炭素源ガスが分解されてカーボンナノチューブを形成する反応の活性化エネルギーを下げて反応がスムーズに行われるようにする役割を果たし、上記で述べた主触媒成分は、触媒活性が高いとともに耐久性も良好であるという利点がある。
【0039】
前記主触媒成分は、触媒担持液内の前駆体の形態で含まれることができる。具体的には、前記主触媒前駆体は、主触媒成分のハロゲン化物、窒化物、酸化物、硝酸化物、硫酸化物、硫化物、水酸化物または金属塩などを含むことができ、さらに具体的にはCoの場合、Co(NO3)2・6H2O、Co2(CO)8、[Co2(CO)6(t-BuC=CH)]、Co(OAc)2またはCoCl2・6H2Oを、Feの場合、Fe(NO3)2・6H2O、Fe(NO3)2・9H2O、Fe(NO3)3、Fe(OAc)2、FeSO4・7H2OまたはFeCl2・4H2Oを、Niの場合、Ni(NO3)2・6H2O、NiCl2・2H2O、Ni(CO)4またはNi(OAc)2・4H2Oを使用することができる。上記で述べた主触媒前駆体を使用する場合、以降、乾燥および焼成過程で、主触媒成分の消失を最小化し、且つ高い活性を有する触媒を製造することができるという利点がある。
【0040】
前記助触媒成分は、MoおよびVからなる群から選択される1以上であることができ、好ましくはVであることができる。助触媒成分は、主触媒成分の分散度を高めて触媒の活性をさらに高める役割を果たし、上記で述べた助触媒成分は、上述の助触媒成分との相乗効果が高く、支持体の担持が容易であるという利点がある。
【0041】
前記助触媒成分も前駆体形態で触媒担持液に含まれることができる。軌跡として、前記助触媒前駆体は、助触媒成分のハロゲン化物、窒化物、酸化物、硝酸化物、硫酸化物、硫化物、水酸化物または金属塩などを含むことができ、さらに具体的には、Moの場合、(NH4)6Mo7O24・4H2O、Mo(CO)6、(NH4)MoS4またはMoO3を、Vの場合、NH4VO3、NaVO3、V(CO)6、V2SO4・7H2O、V2O3またはV2O5を使用することができる。上記で述べた前駆体は、入手が相対的に容易であるとともに、簡単に酸化物形態に転換可能であるという利点がある。
【0042】
前記触媒担持液の溶媒は、上述の主触媒前駆体および助触媒前駆体を溶解させることができ、且つ以降、乾燥過程で簡単に除去されることができるものであればよく、例えば、水、エタノール、メタノールまたはブタノールのようなアルコール類溶媒、トルエンまたはキシレンのような芳香族炭化水素溶媒などを使用することができるが、これに制限されない。
【0043】
前記触媒担持液内の主触媒成分と助触媒成分とのモル比は、10:0.1~10:10、好ましくは10:0.5~10:5であることができる。主触媒成分と助触媒成分とのモル比が上述の条件を満たす場合、二つの成分間の相乗効果が最大化することができ、具体的には、支持体内の活性成分の絡み合いを最小化し、且つ触媒の活性を極大化することができる。
【0044】
前記触媒担持液内の主触媒成分の濃度は、2~15重量%、好ましくは3~10重量%であることができ、助触媒成分の濃度は、0.1~1.5重量%、好ましくは0.3~1.0重量%であることができる。触媒担持液内の各成分の濃度が上述の範囲内である場合、主触媒および助触媒成分がさらに簡単に担持されることができる。
【0045】
前記触媒担持液内には、主触媒前駆体および助触媒前駆体の他に、有機酸がさらに含まれることができる。本発明で使用される有機酸は、例えば、マルチカルボン酸であることができ、これは、カルボキシル基を一つ以上含む化合物であり、錯化剤(complexing agent)として溶解性が高く、沈殿を抑制しながら触媒の合成を容易にし、活性化剤(activator)としてカーボンナノチューブの合成を増大させる。前記マルチカルボン酸は、ジカルボン酸、トリカルボン酸およびテトラカルボン酸から選択される1以上であることができ、例えば、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、または酒石酸などを使用することができる。
【0046】
前記有機酸は、触媒担持液の全重量に対して0.1~1.5重量%含まれることができる。このような範囲内で、触媒溶液での主触媒および助触媒の金属成分の沈殿が発生せず、以降、焼成過程でのクラックの発生も抑制されることができる。
【0047】
また、主触媒前駆体および助触媒前駆体の和と、有機酸のモル比としては約5:1~30:1の範囲で適切に混合されることができ、このようなモル比を満たす場合、製造された担持触媒から合成されるカーボンナノチューブの嵩密度をさらに高めることができる。
【0048】
混合ステップ(S1)
触媒担持液内の主触媒および助触媒成分を支持体に担持するために、触媒担持液と支持体を混合するステップが先に行われる。このような混合過程は、担持法を用いた触媒の製造方法で一般的に適用される事項であるが、本発明では、従来の方法とは異なり、混合過程中に圧力を加えることで、支持体の内部に投入される触媒成分をより多くすることができる。
【0049】
具体的には、本発明の触媒の製造方法では、1.5~4.5barの圧力、好ましくは2~4barの圧力下で混合ステップを行う。上述の圧力条件下で混合を行う場合、支持体の内部に投入される触媒成分が最大化することができ、圧力が上述の範囲より低い場合には、加圧による効果があまりなく、圧力が上述の範囲より高い場合には、加圧に必要なエネルギーが増加して経済性が低下し、混合設備が加圧を十分に耐えられない状況が発生し得る。
【0050】
上述の圧力条件以外の条件は、混合工程に適用されることができる事項が特に制限なく適用されることができる。
【0051】
一方、本ステップでは、触媒の全重量に対して、主触媒成分の含量が1~30重量%、好ましくは3~20重量%、さらに好ましくは5~15重量%になるように支持体および触媒担持液が混合されることができる。主触媒成分の含量が上述の範囲内になるようにする場合、触媒活性を極大化することができる。
【0052】
乾燥ステップ(S2)
混合した触媒担持液の主触媒および助触媒前駆体を効率的に酸化物形態に転換するために、焼成ステップの前に、混合物から先に溶媒を除去する乾燥ステップが必要である。
【0053】
本ステップでの乾燥は、通常、乾燥に使用される設備により行われることができ、常圧または減圧条件で行われることができる。乾燥が常圧で行われる場合、オーブンなどの設備を介して行われることができ、減圧条件で行われる場合には、減圧設備が備えられた乾燥機などの設備を介して行われることができる。乾燥が減圧条件で行われる場合、その圧力は、10~100mbar、好ましくは50~100mbarであることができる。上述の圧力範囲内で減圧して乾燥を行う場合、さらに多い溶媒が除去されることができるという利点がある。
【0054】
乾燥が行われる温度は、50~200℃であることができ、常圧乾燥の場合には、特に、100~150℃、減圧乾燥の場合には、50~100℃であることができる。減圧条件での乾燥がより容易であることから、減圧乾燥での温度は、常圧乾燥に比べて低くてもよい。上述の温度条件内で触媒担持液の溶媒がさらにスムーズに除去されることができ、温度が低すぎる場合には、溶媒が十分に除去されないこともあり、温度が高すぎる場合には、溶媒は十分に除去されるが、触媒成分や支持体が消失する問題がともに発生し得る。
【0055】
焼成ステップ(S3)
前回の乾燥ステップを経て溶媒を十分に除去した後、乾燥した混合物を焼成することで、最終的な触媒を取得することができる。焼成過程では、支持体の表面および内部の主触媒と助触媒前駆体成分が酸化物に転換されて、触媒活性を有することができる。
【0056】
前記焼成は、600~800℃、好ましくは650~750℃の温度で行われることができる。また、前記焼成は、0.5~3時間、好ましくは1~2時間行われることができる。本ステップでの焼成温度が低すぎるか、焼成時間が短すぎる場合には、触媒前駆体が十分に酸化物形態に転換されることができず、焼成温度が高すぎるか、焼成時間が長すぎる場合には、かえって、支持体の構造的崩壊や、担持した助触媒および主触媒成分の脱落などが発生し得る。
【0057】
本ステップまで経て製造されたカーボンナノチューブ製造用触媒の主触媒成分の含量は、5~20重量%、好ましくは10~15重量%であることができる。前記主触媒成分の含量は、製造過程で投入される主触媒前駆体内の主触媒成分の質量を最終的に取得した触媒の質量で除して計算されることができ、これとは別に、ICP-OES分析により触媒粒子内の主触媒成分の含量を測定することでも計算することができる。
【0058】
カーボンナノチューブの製造方法
本発明は、上述の触媒の製造方法により製造された触媒を用いてカーボンナノチューブを製造する方法を提供する。具体的には、本発明は、触媒担持液と支持体を混合して混合物を取得するステップ(S1)と、混合物を乾燥するステップ(S2)と、乾燥した混合物を焼成して担持触媒を取得するステップ(S3)と、取得した触媒を化学気相蒸着反応器に投入するステップ(S4)と、前記反応器に炭素源ガスを注入し、加熱して、カーボンナノチューブを合成するステップ(S5)とを含み、前記S1ステップは、1.5~4.5barで行われるカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【0059】
前記カーボンナノチューブの製造方法において、前記S1~S3ステップは、上記の触媒の製造方法で説明したとおりである。
【0060】
前記S4ステップは、先に行われたステップを介して取得した触媒を化学気相蒸着反応器に投入するステップであり、投入された触媒は、以降、流動しながら表面でカーボンナノチューブを合成する。本方法で使用される反応器は、化学気相蒸着反応器であり、一般的に、カーボンナノチューブの合成に使用されるものであれば、特別な設計制限なしに適用が可能である。一方、本ステップでは、反応器の内部温度の確保のために、触媒とともに、予め合成されたカーボンナノチューブ粒子を一部投入してもよい。カーボンナノチューブ粒子を触媒とともに投入する場合、少ない量の触媒だけでも、十分な反応器の内部温度を確保することができ、均一な反応器が可能であるという利点がある。
【0061】
一方、本発明の製造方法において、前記炭素源ガスは、高温状態で分解されてカーボンナノチューブを形成することができる炭素含有ガスであり、具体的な例として、脂肪族アルカン、脂肪族アルケン、脂肪族アルキン、芳香族化合物など、様々な炭素含有化合物が使用可能であり、より具体的には、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、エタノール、メタノール、アセトン、一酸化炭素、プロパン、ブタン、ベンゼン、シクロヘキサン、プロピレン、ブテン、イソブテン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、アセチレン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどの化合物を使用することができる。
【0062】
本発明の製造方法では、炭素源ガスとともに流動ガスを化学気相蒸着反応器に注入することができる。前記流動ガスは、流動層反応器内で合成されるカーボンナノチューブと触媒粒子の流動性を付与するためのものであり、炭素源ガスやカーボンナノチューブと反応せず、且つ高い熱安定性を有するガスを使用することができる。例えば、窒素ガスや不活性ガスを前記流動ガスとして使用することができる。
【0063】
また、本発明の製造方法では、炭素源ガスおよび流動ガスとともに、還元ガスを注入することができる。前記還元ガスは、炭素源ガスの分解をさらに促進することができ、例えば、水素ガスを前記還元ガスとして使用することができる。
【0064】
本発明の製造方法において、合成ステップでの加熱は、反応器の内部温度が600~800℃になるようにすることができる。反応器内の温度が上述の範囲内である場合、炭素源ガスが簡単に分解されて容易にカーボンナノチューブを合成することができる。温度が上述の範囲に及ばなかった場合には、カーボンナノチューブがよく製造されない問題があり、温度が上述の範囲から逸脱する場合には、加熱に多くの費用がかかるだけでなく、触媒粒子自体が分解する問題が発生し得る。
【0065】
本発明が提供するカーボンナノチューブの製造方法で製造されたカーボンナノチューブは、20kg/m3以上、好ましくは23kg/m3以上、特に好ましくは24kg/m3以上の嵩密度を示すことができ、50kg/m3以下、好ましくは40kg/m3以下の嵩密度を示すことができる。嵩密度が上述の範囲内であるカーボンナノチューブは、分散性および伝導性が特に優れることができる。
【0066】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例および実験例を参照して詳細に説明する。しかし、本発明がこれらの実施例および実験例によって制限されるものではない。本発明による実施例は、様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が以下で詳述する実施例に限定されるものと解釈してはならない。本発明の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0067】
実施例1
比表面積が190m2/g、D50が50μmであるアルミナ支持体を準備した。また、水にコバルト前駆体Co(NO3)2・6H2Oとバナジウム前駆体NH4VO3を10:1のモル比で混合および溶解させて触媒担持液を製造した。触媒担持液内のコバルト濃度は8.4重量%であり、バナジウム濃度は0.7重量%であった。製造された触媒担持液に先に準備したアルミナ支持体を投入し、混合して、触媒内のコバルト含量が13重量%になるようにし、この時の圧力は2barに維持した。混合が完了した後、混合物を常圧および120℃の条件で乾燥した後、720℃および空気の中で1時間30分間焼成し、触媒を取得した。下記表1での常圧乾燥は、本実施例1と同じ条件で乾燥したことを意味する。
【0068】
実施例2~7
前記実施例1と同様に実施するが、混合過程での圧力、乾燥条件およびコバルト含量を下記表1のように異ならせて触媒を取得した。一方、下記表1での減圧乾燥は、80mbarおよび80℃の条件で乾燥が行われることを意味する。
【0069】
比較例1~4
前記実施例1と同様に実施するが、混合時に加圧を行わず、その他、乾燥条件およびコバルト含量を異ならせて触媒を取得した。各比較例の製造条件は、下記表1にまとめた。
【0070】
【0071】
実験例1.触媒から製造されたカーボンナノチューブの物性の確認
前記実施例および比較例で製造された触媒を化学気相蒸着反応器に投入し、前記反応器に、窒素、水素およびエチレンガスを1:1:1の体積比で投入した。その後、反応器内の温度を680℃にしてカーボンナノチューブを合成した。取得したカーボンナノチューブの嵩密度および収率を測定し、下記表2にまとめ、嵩密度および収率は、以下の方法で測定した。
【0072】
1)嵩密度:5mlのシリンダに製造されたカーボンナノチューブパウダーを満たし、目盛りを読んで体積を測定した後、スケールに載せて確認されたカーボンナノチューブの重量を、先に測定した体積で除して計算した。
【0073】
2)収率:下記式にしたがって計算した。
収率=(製造されたカーボンナノチューブの全重量-製造時に使用された触媒の重量)/製造時に使用された触媒の重量
【0074】
【0075】
前記表2から確認することができるように、実施例の触媒を使用した場合、比較例の触媒を使用した場合に比べてさらに高い嵩密度を有するカーボンナノチューブが製造されることを確認した。製造されるカーボンナノチューブの嵩密度が高いということは、同じ反応器体積内でさらに多い量のカーボンナノチューブが合成されたことを意味し、本発明の触媒の製造方法を用いて製造された触媒のカーボンナノチューブ合成能力に優れることを意味する。なお、触媒使用量に対してどの程度のカーボンナノチューブが合成されたかを比較することができる収率の面でも、同じコバルト含量に対して、実施例による触媒において概してさらに高い収率が示された。一方、本発明の実施例より高い圧力条件で混合を行った比較例4の場合、製造されるカーボンナノチューブの嵩密度が実施例より高かったものの、収率自体が実施例に比べて劣っていた。これより、本発明の触媒の製造方法を用いて触媒を製造し、これによりカーボンナノチューブを合成する場合、経済的に多量のカーボンナノチューブを製造することができることを確認した。
【国際調査報告】