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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】2ポート弾性波センサデバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/02 20060101AFI20240312BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20240312BHJP
   G01K 7/32 20060101ALI20240312BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G01N29/02 501
G01L1/00 L
G01K7/32 S
G01N29/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547062
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(85)【翻訳文提出日】2023-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2022055415
(87)【国際公開番号】W WO2022184833
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】2102073
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598054968
【氏名又は名称】ソイテック
【氏名又は名称原語表記】Soitec
【住所又は居所原語表記】Parc Technologique des fontaines chemin Des Franques 38190 Bernin, France
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】バランドラス, シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ラローシュ, ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア, ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】クルジョン, エミリー
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047BC04
2G047BC19
2G047CB03
2G047CB04
(57)【要約】
本発明は、石英材料層表面と、第1の軸に沿って配置された、石英材料層の平坦面の上に形成された第1の交互嵌合型トランスデューサ(T1)、石英材料層の平坦面の上に形成された第1の反射構造(M1)、及び石英材料層の平坦面の上に形成された第2の反射構造(M2)と、第2の軸に沿って配置された、石英材料層の平坦面の上に形成された第2の交互嵌合型トランスデューサ(T2)、石英材料層の平坦面の上に形成された第3の反射構造(M3)、及び石英材料層の平坦面上に形成された第4の反射構造(M4)と、を備え、第1の軸と第2の軸とが互いに有限の角度だけ傾斜している、弾性波センサデバイス(20、30、40、50、60、70、80、90)に関する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦面を含む石英材料層と
第1の軸に沿って配置された、前記石英材料層の前記平坦面の上に形成された第1の交互嵌合型トランスデューサ(T1)、前記石英材料層の前記平坦面の上に形成された第1の反射構造(M1)、及び前記石英材料層の前記平坦面の上に形成された第2の反射構造(M2)と、
第2の軸に沿って配置された、前記石英材料層の前記平坦面の上に形成された第2の交互嵌合型トランスデューサ(T2)、前記石英材料層の前記平坦面の上に形成された第3の反射構造(M3)、及び前記石英材料層の前記平坦面の上に形成された第4の反射構造(M4)と、
を備え、
前記第1の軸と前記第2の軸とが互いに有限の角度だけ傾斜しており、
前記石英材料層の前記平坦面が、-14°~-24°の範囲の角度φ、-25°~-45°の範囲の角度θ、及び+8°~+28°の範囲の角度ψ、特に、-17°~-22°の範囲の角度φ、-30°~-40°の範囲の角度θ、及び+10°~+25°の範囲の角度ψ、より詳細には、-19°~-21°の範囲の角度φ、-33°~-39°の範囲の角度θ、及び+15°~+25°の範囲の角度ψを有する前記石英材料層の石英材料の結晶カットによって規定されている、
弾性波センサデバイス(20、30、40、50、60、70、80、90)。
【請求項2】
前記石英材料層がバルク基板である、請求項2に記載の弾性波センサデバイス(20、30、40、50、60、70、80、90)。
【請求項3】
バルク基板、特にSi又はサファイアバルク基板をさらに備え、前記石英材料層が前記バルク基板の上に形成されている、請求項2に記載の弾性波センサデバイス(20、30、40、50、60、70、80、90)。
【請求項4】
前記第1(T1)及び第2(T2)の交互嵌合型トランスデューサが同じ数の電極及び/又は同じメタライゼーション比及び/又は同じ開口部及び/又は同じテーパ及び/又は電極長を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の弾性波センサデバイス(20、30、40、50、60、70、80、90)。
【請求項5】
前記第1の反射構造(M1)、第2の反射構造(M2)、第3の反射構造(M3)、及び第4の反射構造(M4)のうちの少なくとも1つが、ブラッグミラーを含むか、又はブラッグミラーで構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の弾性波センサデバイス(20、30、40、50、60、70、80、90)。
【請求項6】
前記第1の反射構造(M1)が第1のブラッグミラーで構成され、前記第2の反射構造(M2)が第2のブラッグミラーで構成され、前記第3の反射構造(M3)が第3のブラッグミラーで構成され、前記第4の反射構造(M4)が第4のブラッグミラーで構成され、前記第1、第2、第3、及び第4のブラッグミラーのすべてが、同じ数及び/又は長さの電極を有する、請求項5に記載の弾性波センサデバイス(20、30、40、50、60、70、80、90)。
【請求項7】
前記第1反射構造(M1)が第1ブラッグミラーで構成され、前記第2反射構造(M2)が第2ブラッグミラーで構成され、前記第3反射構造(M3)が第3ブラッグミラーで構成され、前記第4反射構造(M4)が第4ブラッグミラーで構成され、前記第1、第2、第3及び第4のブラッグミラーのそれぞれの前記電極が、それぞれ
a)互いに接続され、又は
b)接地され、又は
c)互いに接続も接地もされていない、
請求項5又は6に記載の弾性波センサデバイス(20、30、40、50、60、70、80、90)。
【請求項8】
前記第1の反射構造(M1)及び第2の反射構造(M2)が前記第1の交互嵌合型トランスデューサ(T1)に隣り合って形成され、前記第3の反射構造(M3)及び第4の反射構造(M4)が前記第2の交互嵌合型トランスデューサ(T2)に隣り合って配置されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の弾性波センサデバイス(20、30、40、50、60、70、80、90)。
【請求項9】
前記第1交互嵌合型トランスデューサ(T1)と前記第1の反射構造(R1)との間に第1の共振キャビティ(g1)が形成され、前記第1の交互嵌合型トランスデューサ(T1)と前記第2の反射構造(M2)との間に第2の共振キャビティ(g2)が形成され、
前記第2の交互嵌合型トランスデューサ(T2)と前記第3の反射構造(M3)との間に第3の共振キャビティ(g3)が形成され、前記第2の交互嵌合型トランスデューサ(T2)と前記第4の反射構造(M4)との間に第4の共振キャビティ(g4)が形成されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載の弾性波センサデバイス(60、70、80、90)。
【請求項10】
前記第2の共振キャビティ(g2)の上面が、前記第1の共振キャビティ(g1)の上面と比較して物理的及び/若しくは化学的な改質を含み、並びに/又は
前記第4の共振キャビティ(g4)の上面が、前記第3の共振キャビティ(g3)の上面と比較して物理的及び/若しくは化学的な改質を含む、
請求項9に記載の弾性波センサデバイス(60、70、80、90)。
【請求項11】
前記物理的及び/又は化学的な改質が、前記第2の共振キャビティ(g2)及び/又は第4の共振キャビティ(g4)の前記上面に形成されたメタライゼーション層又はパッシベーション層を含む、請求項10に記載の弾性波センサデバイス(60、70、80、90)。
【請求項12】
前記第1の共振キャビティ(g1)及び前記第2の共振キャビティ(g2)の延在長さが互いに異なる、請求項9~11のいずれか一項に記載の弾性波センサデバイス(60、70、80、90)。
【請求項13】
前記第1のトランスデューサ(T1)と前記第2のトランスデューサ(T2)が互いに直列又は並列に接続されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の弾性波センサデバイス(20、30、40、50、60、70、80、90)。
【請求項14】
前記弾性波センサデバイス(20、30、40、50、60、70、80、90)が、温度、化学種、歪み、圧力、回転軸のトルク、及び振動部の加速度又は周波数振動のうちの1つから選択された周囲パラメータを感知するように構成された受動表面弾性波センサデバイスである、請求項1~13のいずれか一項に記載の弾性波センサデバイス(20、30、40、50、60、70、80、90)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波タイプのセンサに関し、詳細には、対応する反射構造を有する2つのトランスデューサを備える2ポート弾性波センサデバイスに関する。
【0002】
センサは重要性が増しており、日常生活において広く普及している。微小電気機械システム(MEMS)は、小型化及びコスト削減とともに、センサの性能の向上に対する要求に応えるための魅力的な選択肢である。表面弾性波(SAW)センサ、及びそれほどではないがバルク弾性波(BAW)センサ又はラム波音響センサ或いはラブ波音響センサは、例えば温度、圧力、歪み及びトルク、並びに振動部の加速度又は周波数振動を含む測定可能な周囲パラメータが多種多様であるため、特に有利な選択肢を提供する。
【0003】
弾性波センサは、圧電効果を利用して、電気信号を機械的波/弾性波に変換する。SAWベースのセンサは、特にシリコン上に堆積させた、石英(SiO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、ランガサイト(LGS)のような単結晶圧電材料、又は窒化アルミニウム(AlN)若しくは酸化亜鉛(ZnO)のような多結晶圧電材料上に構築され、さらには、必要に応じて、例えば酸化ケイ素層のような接合層によって例えばシリコンのような支持基板に接合された圧電材料、特に例えばタンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムなどの単結晶材料の層を含むピエゾ-オン-インシュレータ(POI)複合材料上に構築される(一般に、熱弾性特性又は音響品質のような特定の特性の観点から、単結晶圧電材料と非圧電基板との任意の組合せを使用することができる)。
【0004】
表面弾性波センサの場合、交互嵌合型トランスデューサ(IDT)が電気信号の電気エネルギーを弾性波エネルギーに変換する。弾性波は、いわゆる遅延線を介してデバイス基板の表面(又はバルク)にわたって、弾性波を検出可能な電気信号に再変換する別のトランスデューサ、特にIDTまで伝搬する。一部のデバイスでは、干渉パターンを防止し、挿入損失を低減するために、機械的な吸収体及び/又は反射体が設けられている。一部のデバイスでは、他方の(出力)IDTは、生成された弾性波を反射して、センサデバイスの遠隔質問のためにアンテナに結合され得る(入力)IDTに戻す反射体によって置き換えられる。有利には、測定は完全に受動的に行うことができ、すなわち、センサは電源によって電力供給される必要はない。
【0005】
特定のクラスの弾性波センサは、変化する周囲条件に従って変化する共振周波数を示す共振器を含む。図1は、共振弾性波センサの例を示す。弾性表面波共振器は、交互嵌合型櫛型電極CとC’がブラッグミラーM間に配置された電気音響交互嵌合型トランスデューサIDTを含む。櫛型電極は、反対の電位+V及び-Vにそれぞれ設定されている。電極の幾何学的形状は、ピッチp、すなわち、励起された表面弾性波の伝搬方向におけるインターリーブ電極C及びC’の空間繰り返し周波数、励起された表面弾性波の伝搬方向に垂直な方向における電極CとC’との間のギャップの長さ、ギャップ間の電極C及びC’の長さによって与えられる音響開口領域の長さ、並びにいわゆるメタライゼーション比a/pを決定する電極C及びC’の幅aによって規定される。IDTは、例えば、励起された表面弾性波の波長λがピッチpの2倍に等しいブラッグ条件で動作することができる。
【0006】
共振周波数では、反射体間の同期の条件が満たされることにより、反射体の下で起こる様々な反射のコヒーレント加算が可能になる。共振キャビティ内では、音響エネルギーの最大値が観察され、電気的観点からは、トランスデューサによって許容される電流の振幅の最大値が観察される。原理的には、差動弾性波センサは、異なる共振周波数を示す2つ以上の共振器、又はマルチモード(いくつかの共振周波数)で動作する共振器を備えることができ、測定周波数の差が、例えば温度、圧力又は歪みとして測定される周囲パラメータ(測定量)の変動を反映する。
【0007】
しかしながら、最近の工学的進歩にもかかわらず、質問器が適切な高周波(RF)信号を送信し、この信号が受信アンテナを介して弾性波センサによって受信され、トランスデューサによって表面弾性波(又はバルク弾性波センサタイプのデバイスの場合にはバルク波)に変換され、この表面弾性波が放射アンテナを介して再送信されるRF信号に変換され、質問器によって受信され、分析されるという質問プロセス全体が、依然として厳しい技術的問題を提起している。
【0008】
信頼できる測定結果を得るためには、測定量に対して使用される共振器の共振の適切な差分感度に基づいた真の差分測定値を正確に観測しなければならない。このことは、製造プロセスの公差と、ウエハごとの物理的特性の再現性とに対して厳しい要求を課す。加えて、センサデバイスと質問器との間の相対的な動きはいずれも、センサデバイス及び質問器によって誘導的、容量的、又は放射的に形成されるRFリンクに起因して、測定結果に大きな影響を及ぼす可能性がある。測定環境における他の環境の影響、例えば温度変化も、測定結果の信頼性に影響を及ぼす。
【0009】
したがって、本発明の目的は、当技術分野の弾性波センサデバイスと比較して、より高い信号対雑音比及びより信頼性の高い測定結果を可能にする弾性波センサを提供することである。
【0010】
本発明は、平坦(上)面を含む石英材料層(石英材料で構成された又は石英材料を含む)と、第1の軸に沿って配置された、石英材料層の平坦面の上(又は平坦面上)に形成された第1の交互嵌合型トランスデューサ、石英材料層の平坦面の上(又は平坦面上)に形成された第1の反射構造、及び石英材料層の平坦面の上(又は平坦面上)に形成された第2の反射構造と、第2の軸に沿って配置された、石英材料層の平坦面の上(又は平坦面上)に形成された第2の交互嵌合型トランスデューサ、石英材料層の平坦面の上(又は平坦面上)に形成された第3の反射構造、及び石英材料層の平坦面の上(又は平坦面上)に形成された第4の反射構造と、を備え、第1の軸と第2の軸とが互いに有限の角度だけ傾斜している(すなわち、両方の軸が互いに平行に配置されていない)(2ポート)弾性波センサデバイス(純粋に電気的な観点からダイポールを表す)を提供することによって上述の目的に対処する。石英材料層の平坦面が、-14°~-24°の範囲の角度φ、-25°~-45°の範囲の角度θ、及び+8°~+28°の範囲の角度ψ、特に、-17°~-22°の範囲の角度φ、-30°~-40°の範囲の角度θ、及び+10°~+25°の範囲の角度ψ、より詳細には、-19°~-21°の範囲の角度φ、-33°~-39°の範囲の角度θ、及び+15°~+25°の範囲の角度ψを有する石英材料層の石英材料の結晶カットによって定義される。特に、結晶カットの角度は、φ=-20°、θ=-36°、及びψ=15°~25°、特に17°であってもよい。
【0011】
上記の定義は、Z軸の周りに回転させた結晶カットの対称条件(すなわち、所与の結晶カットのゼロでない角度φ及びψ)に従って、+14°~+24°の範囲の角度φ、-25°~-45°の範囲のθ、及び-8°~-28°の範囲のψと等価であることに留意されたい。より明確には、対称規則に従って、(YXwlt)/+φ/+θ/+ψカットは、(YXwlt)/-φ/+θ/-ψカットと等価であると述べることができる。
【0012】
結晶カット、したがって平坦面を規定する角度は、IEEE 176 1949 Standards on Piezoelectric Crystals,1949 from 12-12-1949に従って規定される(以下の詳細な説明も参照)。石英の結晶は、切断面(X、Z)に対して、基準系(X”、Y”、Z”)において定義された切断面(X”、Z”)を有することができ、X、Y、Zは石英の結晶軸であり、波の伝播方向は軸X’’’に沿って定義され、第1の切断面(X’、Z’)は、軸Z’が軸Zと同じである第1の基準系(X’、Y’、Z’)を定義するように、平面(X、Z)の軸Zを中心とした角度φの回転によって定義され、第2の切断面(X”、Z”)は、軸X’’が軸X’と同じである第2の基準系(X’’、Y’’、Z’’)を定義するように、平面(X’、Z’)の軸X’を中心とした角度θの回転によって定義され、軸X’’’に沿った伝播方向は、軸Y’’を中心とした平面(X’’、Z’’)における軸X’’の角度ψの回転によって定義され、本開示によると、φは-14°~-24°の範囲であり、θは-25°~-45°の範囲であり、ψは+8°~+28°の範囲である。
【0013】
石英材料層は、石英バルク基板又は非圧電バルク基板上に形成された石英層とすることができる。後者の場合、非圧電バルク基板は、シリコン基板であってもよく、任意選択で、その表面に(例えば、多結晶シリコンの層によって提供される)いわゆるトラップリッチ層を含む。トラップリッチ層により、挿入損失が低減され、シリコン基板との界面に誘起される電荷トラップによるRF損失を低減することが可能になる。基板の前記粘弾性損失を最小限に抑えることによって共振の品質係数を最大化するのに非常に興味深いサファイア基板とすることもできる。サファイアは、(イットリウム系ガーネット、より詳細にはイットリウム・アルミニウム・ガーネット-YAGとともに)その態様により最も有利な材料の1つであることが知られている。
【0014】
第1の交互嵌合型トランスデューサは、角度ψ1で第1の軸に沿って配置され、石英材料層の平坦面の上(又は平坦面上)に形成され、角度ψ1は、石英基板の軸X”を角度ψ1だけ回転させることによって規定される軸X’’’に沿った弾性波の伝搬方向を規定する。第2の交互嵌合型トランスデューサは、角度ψ2で第2の軸に沿って配置され、石英材料層の平坦面の上(又は平坦面上)に形成され、角度ψ2は、石英基板の軸X”を角度ψ2だけ回転させることによって規定される軸X’’’に沿った弾性波の伝搬方向を規定する。角度ψ1及びψ2は、+8°~+28°の範囲に含まれる。第1の軸と第2の軸との間に規定される有限の角度は、1°~10°、特に1°~6°、より詳細には2°~4°の範囲であってもよい。第1の軸と第2の軸との間の角度が有限であるため、生成された(表面)弾性波の伝搬方向が異なり、当然のことながら、弾性波の伝搬が第1及び第2の交互嵌合型トランスデューサの電極に対して垂直であるため、異なる共振周波数が生じる。
【0015】
ここで、第1のトランスデューサ、第1の反射構造、及び第2の反射構造は、第1の共振器と考えられ、第2のトランスデューサ、第3の反射構造、及び第4の反射構造は、第2の共振器と考えられる。実験により、圧電層として説明された石英材料層と、2ポート(共振器)弾性波センサデバイスの傾斜構成との組合せにより、特に正確な測定結果を得ることができることが証明された(以下の詳細な説明も参照)。特に、第1及び第2の共振器は、設計及び物理的特性に関して互いに非常に類似して形成されることがある。両者は、非常によく似た熱感度を示すことがあるが、線形差分温度感度を提供するのに十分に異なる1次周波数温度係数(TCF)を有する。したがって、一実施形態によると、第1及び第2の交互嵌合型トランスデューサは、同じ数の電極及び/又は同じメタライゼーション比及び/又は同じ開口部、及び/又は同じテーパリング及び/又は電極長を有する。第1及び第2の共振器の共振周波数において有意な差を得る(第1の軸と第2の軸との間の有限の角度によって生じる差を高める)ために、第1と第2のトランスデューサの周期(個々の電極間の分離距離)を異ならせることが有利な場合がある。原理的には、互いに直列又は並列に接続された2つの共振器を使用することによって、単一の1ポート弾性波センサデバイスを使用する場合と比べて、測定の差分感度を向上させることができる。
【0016】
本発明の弾性波センサデバイスの第1、第2、第3及び第4の反射構造の少なくとも1つは、ブラッグミラーを含むか、又はブラッグミラーで構成されている。このような反射構造は、容易に形成することができ、高い反射率を提供することができる。例えば、本発明の弾性波センサデバイスの第1、第2、第3、及び第4の反射構造はすべて、それぞれのブラッグミラーを含むか、又はそれぞれのブラッグミラーで構成されている。この場合、すべてのブラッグミラーは、同じ数及び/又は長さの電極を有することができる。さらに、この場合、各ブラッグミラーの電極は、互いにそれぞれ接続されていてもよく、接地(グランドに接続)されていてもよく、互いに接続も接地もされていない。構成の選択は、共振器の品質係数、インソレーション、さらには熱パラメータを最適化するために反射係数の実際の値をわずかに調整できるかよって動機付けられる場合がある。構造は、共振器の品質係数を最大化するために、又は所与の動作点でのデバイスの動作を最適化するために、例えば、共振器をブラッグミラーの阻止帯の中央で強制的に動作させるために、指向性効果(好ましい動作点ではない阻止帯の開始と終了との間で共振が分割される)を補正するために、又はIDT寸法をギャップのない共振器に必要な寸法よりも小さくして共振の代わりに反共振動作を促進するために、1つ又は複数のギャップを含むことができる。
【0017】
別の実施形態によると、第1、第2、第3、及び第4の反射構造のうちの少なくとも1つは、溝若しくはエッジ反射構造又は3つ以下の電極を備える短い反射体を備える。当業者であれば、所与の結晶配向、波の偏波及び電極の性質に対して達成可能な例えば20%を超える反射係数を提供するために、ブラッグミラーの溝の深さ又は電極の厚さをどのように調整すべきかを知っているであろう。
【0018】
一実施形態によると、第1及び第2の反射構造は、第1の交互嵌合型トランスデューサに隣り合って配置され、第3及び第4の反射構造は、第2の交互嵌合型トランスデューサに隣り合って配置されている(すなわち、反射構造は共振領域を規定する)。代替として、a)第1の交互嵌合型トランスデューサと第1の反射構造との間に第1の共振キャビティが形成され、第1の交互嵌合型トランスデューサと第2の反射構造との間に第2の共振キャビティが形成され、b)第2の交互嵌合型トランスデューサと第3の反射構造との間に第3の共振キャビティが形成され、第2の交互嵌合型トランスデューサと第4の反射構造との間に第4の共振キャビティが形成される。共振キャビティは、石英材料層の上部平坦面の一部を含む。
【0019】
第2の共振キャビティの上面は、第1の共振キャビティの上面と比較して物理的及び/又は化学的な改質を含むことができる。第4の共振キャビティの上面は、第3の共振キャビティの上面と比較して物理的及び/又は化学的な改質を含むことができる。例えば、物理的及び/又は化学的な改質は、第2の共振キャビティの上面に形成されたメタライゼーション層又はパッシベーション層を含む。
【0020】
メタライゼーション層は、AlCu及びTiのうちの少なくとも1つを含んでもよく、又はこれらで構成されてもよく、パッシベーション層は、Si、Al、AlN、Ta及びSiOのうちの少なくとも1つを含んでもよく、又はこれらで構成されてもよいが、これらに限定されない。メタライゼーション層は、第1のトランスデューサの電極と同じ材料で作られてもよい(したがって、電極の形成に使用されるものと同じ処理ステップで形成されてもよい)。ブラッグミラーが反射構造として使用される場合、ブラッグミラーは、メタライゼーション層及び/又は第1のトランスデューサの電極の形成に使用されるものと同じ金属材料で作られてもよい。
【0021】
第2及び第4の共振キャビティの上面を物理的に改質するための別の選択肢は、第2の共振キャビティの表面を第1の共振キャビティの上面に対して凹ませることと、第4の共振キャビティの表面を第3の共振キャビティの上面に対して凹ませることとを含む。
【0022】
第1の(第3の)共振キャビティの上面も、上述したような物理的及び/又は処理を受けることができるが、第2の(第4の)共振キャビティの表面と比較して異なるやり方で行われる。
【0023】
メタライゼーション層又はパッシベーション層によって共振キャビティの第1(第3)及び第2(第4)の上面の一方を改質することにより、交互嵌合型トランスデューサによって生成される弾性波の伝搬特性が、第2(第4)の共振キャビティにおいて、第1(第3)の共振キャビティにおけるものとは異なる結果になることがある。これにより、信頼性が非常に高く、感度の高い差動センサデバイスを提供することができる。改質のない第1及び第2の上面は、自由(露出)面、特に、石英材料層圧電層の自由面である。
【0024】
上述した例のすべてにおいて、第1の共振キャビティ及び第2の共振キャビティの共振のスペクトル応答をより明確に分離し、以て第1及び第2の共振器を互いに分離するために、第1の共振キャビティ及び第2の共振キャビティの延在長さは互いに異なっていてもよく、第3の共振キャビティ及び第4の共振キャビティの延在長さは互いに異なっていてもよい。
【0025】
特定の実施形態によると、上述した例のすべてにおいて、第1及び第2の交互嵌合型トランスデューサは、2つの部分にそれぞれ分割され、さらなる反射構造がトランスデューサのそれぞれの2つの部分間に配置されてもよい。このような構成は、第1及び第2の共振器の共振間を十分に明確に分離できるほど第1及び第2のトランスデューサの反射係数が十分に強くないという動作状況において有利な場合がある。第1(第2)の交互嵌合型トランスデューサの第1の部分は、第1の数の電極を備え、第1(第2)の交互嵌合型トランスデューサの第2の部分は、第2の数の電極を備え、第1の電極の数は、第2の数とは異なっていてもよい。加えて、又は代替として、第1の数の電極のうちの少なくとも一部の電極の長さは、第2の数の電極のうちの少なくとも一部の電極の長さ(すなわち、表面弾性波の進行方向に垂直な方向の2つのトランスデューサの長さ)と異なってもよい。さらに、第1(第2)のトランスデューサの第1及び第2の部分の開口部は、互いに異なっていてもよい。このような手法によって、散乱、波の速度の変化、最適な共振条件の変化などに起因する、メタライゼーション又はパッシベーション層によって引き起こされる固有損失を補償するための微調整が利用可能になる。
【0026】
さらに、上述した実施形態のうちの1つによる弾性波センサデバイスにおいてカスケード共振キャビティを形成し、共振の数を減らして一意の測定結果を得ることができる。したがって、上述した例のうちの1つによる弾性波センサデバイスは、第1及び第3の共振キャビティが、第1及び第3の反射構造の反射サブ構造によってそれぞれ互いに分離された第1のサブキャビティを備え、第2及び第4の共振キャビティが、第2及び第4の反射構造の反射サブ構造によってそれぞれ互いに分離された共振サブキャビティを備えるように構成されてもよい。反射サブ構造のそれぞれは、互いに平行に配置された細長い電極で構成されてもよい。
【0027】
一般に、上述の例のうちの1つによる弾性波センサデバイスは、周囲パラメータ、例えば、温度、化学種、歪み、圧力、又は回転軸のトルクのうちの1つを感知するように構成された受動表面弾性波センサデバイスであってもよい。
【0028】
さらに、周囲パラメータ、例えば、温度、歪みレベル、圧力又は回転軸のトルクレベル、化学種などを監視/測定するためのシステムが設けられ、このシステムは、質問デバイスと、質問デバイスに通信可能に結合された上述の実施形態のうちの1つによる弾性波センサデバイス及び/又は弾性波センサアセンブリとを備える。
【0029】
弾性波センサに質問を行うための質問デバイスは、弾性波センサデバイスにRF質問信号を送信するように構成された送信アンテナと、送受信アンテナを含むこともできる弾性波センサデバイスからRF応答信号を受信するように構成された受信アンテナと、感知されるべき周囲パラメータを決定するためにRF応答信号を処理/分析するための処理手段と、を備えることができる。
【0030】
本発明のさらなる特徴及び利点は、図面を参照して説明される。説明では、本発明の好ましい実施形態を例示することが意図された添付の図面を参照する。このような実施形態は、本発明の全範囲を表すものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】従来技術による表面弾性波センサデバイスの一例である。
図2】本発明の一実施形態による2ポート弾性波センサデバイスを示す原理図である。
図3】本発明の一実施形態による、2ポート弾性波センサデバイスを示す原理図である。
図4】本発明の一実施形態による、2ポート弾性波センサデバイスを示す原理図である。
図5】本発明の一実施形態による、2ポート弾性波センサデバイスを示す原理図である。
図6】本発明の一実施形態による、トランスデューサとミラーとの間に形成された共振キャビティを備える2ポート弾性波センサデバイスを示す原理図である。
図7】本発明の一実施形態による、トランスデューサとミラーとの間に形成された共振キャビティを備える2ポート弾性波センサデバイスを示す原理図である。
図8】本発明の一実施形態による、トランスデューサとミラーとの間に形成された共振キャビティを備える2ポート弾性波センサデバイスを示す原理図である。
図9】本発明の一実施形態による、トランスデューサとミラーとの間に形成された共振キャビティを備える2ポート弾性波センサデバイスを示す原理図である。
図10】圧電板の座標及び角度を示す図である。
図11】3回転結晶カットの座標及び角度を示す図である。
【0032】
本発明は、高い信号対雑音比、感度及び信頼性、特に、環境の影響及び測定量の変動に起因しない残留応力に対する堅牢性、並びに差分測定の高い精度を特徴とする、弾性波センサ、特に受動SAWセンサを提供する。これらの利点は、特に、IEEE 176 1949 Standards on Piezoelectric Crystals,1949 from 12-12-1949に従って、-14°~-24°の範囲の角度φ、-25°~-45°の範囲の角度θ、及び+8°~+28°の範囲の角度ψ、特に、-17°~-22°の範囲の角度φ、-30°~-40°の範囲の角度θ、及び+10°~+25°の範囲の角度ψ、より詳細には、-19°~-21°の範囲の角度φ、-33°~-39°の範囲の角度θ、及び+15°~+25°の範囲の角度ψで規定される結晶カットから得られる平坦面によって特徴付けられる共振キャビティを提供する圧電石英材料層を使用することによって達成される。
【0033】
温度測定に関しては、例えば、得られる共振周波数感度によって、1ケルビン当たり1ppmを超える差分測定感度が、10ppb・K-2未満、さらには5ppb・K-2未満の2次TCF感度(絶対値)で可能になり、したがって、広い温度範囲(典型的には100Kの範囲)にわたって準線形周波数-温度変動が保証される。弾性波センサは、質問された弾性波センサからの応答スペクトルを決定するように構成された任意の質問器によって質問され得る。質問される弾性波センサは、例えば、共振器デバイス、例えば、差動SAWセンサとすることができる。言うまでもなく、本発明は、弾性波センサ又は誘電体共振器、RLC回路などを使用する任意のデバイスで実施することができる。
【0034】
本発明の弾性波センサデバイスのうちの1つに質問する質問デバイス(ユニットとも呼ばれる)は、RF質問信号をセンサデバイスに送信するための送信アンテナと、センサデバイスからRF応答信号を受信するための受信アンテナとを備えることができる。送信アンテナによって送信されるRF質問信号は、RFシンセサイザ又は制御発振器、並びに任意選択で、送信アンテナによって送信される信号の適切な周波数転換及び/又は増幅を提供する何らかの信号整形モジュールを備えることができる信号発生器によって生成されてもよい。信号発生器によって生成されたRF質問信号は、周波数が弾性波センサデバイスの共振周波数に応じて選択されたパルス信号又はバースト信号であってもよい。放射アンテナと受信アンテナは、同じアンテナであってもよいことに留意されたい。この場合、例えば、適切に制御されたスイッチによって、放射プロセスと受信プロセスを互いに同期させるべきである。
【0035】
さらに、質問デバイスは、受信アンテナに接続された処理手段を備えることができる。処理手段は、フィルタリング手段及び/又は増幅手段を備えることができ、受信アンテナによって受信されたRF応答信号を分析するように構成されてもよい。例えば、センサデバイスは、434MHz又は866MHz又は915MHz又は2.45GHz(前記ISMバンド)の共振周波数で動作する。
【0036】
質問デバイスは、長いRFパルスを送信することができ、送信が停止した後、センサデバイスの共振キャビティは、Q/πFに等しい時定数τで、それらの共振固有周波数で放電し、ここで、Fは中心周波数であり、Qは共振の品質係数であり、Qは、共振中心周波数と、質問プロセスで使用される帯域通過の半値幅との比に相当する。例えば、Qは、共振器が前記共振で動作するように設計されている場合、共振器のアドミタンス(前記コンダクタンス)の実部に基づいて推定される共振品質係数に相当する。質問デバイスの処理手段によって実行されるスペクトル分析により、1つ又は複数の共振器周波数を計算することができ、以て周囲パラメータを感知することができる。受信されたRF応答信号は、処理手段によって、当技術分野で知られているように、いわゆるI-Qプロトコルに従ってRF質問信号と混合されて、実部及び虚部(信号振幅がY及び信号位相がφの同相成分I=Ycosφ及び直交成分Q=Ysinφ)を抽出することができ、次いで、そこから係数(modulus)及び位相を導出することができる。
【0037】
図2図5は、本発明の表面弾性波(SAW)センサデバイスの例示的な実施形態を示す。図2図5に示すセンサデバイス20、30、40、50は、圧電体層として石英材料層Qを用いて形成されている。石英材料層Qは、石英バルク基板であるか、又は何らかの非圧電バルク基板、例えばSi基板の上に形成された石英層である。石英材料層Qは、ピエゾ-オン-インシュレータ(POI)基板の一部であってもよい。石英層は、例えば酸化ケイ素層のような(誘電体)接合層によって非圧電バルク基板に接合されてもよい。非圧電バルク基板との界面には、いわゆるトラップリッチ層(例えば、多結晶シリコン)が存在し得る。
【0038】
石英材料層Qは、上部動作平坦面を含み、石英材料層Qの平坦面は、-14°~-24°の範囲の角度φ、-25°~-45°の範囲の角度θ、及び+8°~+28°の範囲の角度ψを有する石英材料層の石英材料の結晶カットによって規定され、角度は、IEEE 176 1949 Standards on Piezoelectric Crystals,1949 from 12-12-1949に従って規定される。上述した利点を少なくとも部分的に提供するのは、この特定のカットファミリーである。
【0039】
本発明の一実施形態によるSAWセンサデバイス、例えば、図2図5に示すSAWセンサデバイス20、30、40及び50は、第1の交互嵌合型(櫛形)トランスデューサT1、第1のブラッグミラーM1、及び第2のブラッグミラーM2を備える第1の共振器R1と、第2の交互嵌合型(櫛形)トランスデューサT2、第3のブラッグミラーM3、及び第4のブラッグミラーM4を備える第2の共振器R2と、を備える。トランスデューサT1及びT2は、電磁波を受信し、その電磁波を表面弾性波に変換するためのアンテナ(図2には図示せず)に接続されてもよく、この表面弾性波は、ミラーによる反射後に再び感知され、RF信号に再び変換され、RF応答信号として、アンテナ(又は別のアンテナ)によって読取り器に送信される。
【0040】
第1及び第2の共振器R1及びR2は、互いに類似させることができる。特に、第1及び第2のトランスデューサT1、T2は、同じ数の電極及び/又は同じメタライゼーション比及び/又は同じ開口部及び/又は同じテーパ及び/又は電極長を有することができる。第1及び第2のトランスデューサT1、T2は、第1及び第2の共振器R1、R2の共振周波数の有意な差を得るために、異なる周期(個々の電極間の分離距離)を有することができる。
【0041】
本発明によると、第1及び第2の共振器R1、R2は、互いに対して傾斜しており、すなわち、石英材料層Qの平坦面の上に形成された第1の交互嵌合型トランスデューサT1、石英材料層Qの平坦面の上に形成された第1のブラッグミラーM1、及び石英材料層Qの平坦面の上に形成された第2のブラッグミラーM2は、第1の軸に沿って配置され、石英材料層Qの平坦面の上に形成された第2の交互嵌合型トランスデューサT2、石英材料層Qの平坦面の上に形成された第3のブラッグミラーM3、及び石英材料層Qの平坦面の上に形成された第4のブラッグミラーM4は、第2の軸に沿って配置され、第1の軸と第2の軸とが互いに有限の角度だけ傾斜している。第1の軸は、角度ψ1の軸に対応し、角度ψ1は、石英基板の軸X”を角度ψ1だけ回転させることによって規定される軸X’’’に沿った弾性波の伝搬方向を規定する。第2の軸は、角度ψ2の軸に対応し、角度ψ2は、石英基板の軸X”を角度ψ2だけ回転させることによって規定される軸X’’’に沿った弾性波の伝搬方向を規定する。角度ψ1及びψ2は、石英基板に対して規定された角度ψの+8°~+28°の範囲に含まれる。第1の軸と第2の軸との間の有限の角度は、1°~10°、特に1°~6°、より詳細には2°~4°の範囲であってもよく、その結果、生成された(表面)弾性波の伝搬方向が異なり、当然ながら、第1の共振器R1と第2の共振器R2の共振周波数が異なることになる。
【0042】
図2図5に示す表面弾性波センサ20、30、40及び50は、励起された表面弾性波の波長が櫛形トランスデューサT1及びT2の櫛形電極のピッチの数倍であるブラッグ条件で動作することができる。動作がブラッグ条件で行われる場合、櫛型トランスデューサ自体が実質的にミラーとして機能する。しかしながら、トランスデューサT1及びT2の反射係数が、個々の共振間を十分に明確に分離できるほど十分に強くない動作状況では、トランスデューサT1及びT2のそれぞれを2つの部分に分割し、それぞれの間に追加のミラーを配置することが有利である。分割トランスデューサ及び追加のミラーによるキャビティ共振分離の改善は、レイリー波又はより一般的には楕円偏光波での動作に特に有用である。
【0043】
第1及び第2のトランスデューサT1、T2の電極は、AlCuで作られてもよく、又はAlCuを含んでもよいことに留意されたい。例えば、モリブデン又は金又は白金又はタングステンのような比較的原子番号が大きい材料を使用することで、より大きな反射係数が可能になる場合がある。さらに、図2図5に示す弾性波センサデバイス20、30、40、及び50の構成は、横波モードを抑制するために電極の横方向広がりがトランスデューサT1及びT2の長さに沿って変化するテーパ状トランスデューサT1及びT2を含むことができることに留意されたい。さらに、横波モードを抑制するために、電極のエッジに補助的な質量負荷を設けることができる。
【0044】
異なる実施形態によると、共振器R1とR2(トランスデューサT1とT2)は、互いに直列又は並列に接続することができる。図2に示す実施形態では、弾性波センサデバイス20の共振器R1とR2は、互いに並列に接続され、ミラーM1、M2、M3及びM4のそれぞれの電極は、互いに接続(短絡)されている。図3に示す実施形態では、弾性波センサデバイス30の共振器R1とR2は、互いに並列に接続され、ミラーM1、M2、M3及びM4は、接地に接続されている。図4に示す実施形態では、弾性波センサデバイス40の共振器R1とR2は、互いに並列に接続され、ミラーM1、M2、M3及びM4のそれぞれの電極は、互いに接続されていない。図5に示す実施形態では、弾性波センサデバイス50の共振器R1とR2は、互いに直列に接続され、ミラーM1、M2、M3、及びM4のそれぞれの電極は、互いに接続されている。図2図5では、弾性波の生成のためにトランスデューサT1及びT2によって受信される電磁波(すなわち、質問信号)はEによって示され、逆変換された弾性波信号(すなわち、応答信号)はSによって示されている。
【0045】
図2図5に示す構成により、例えば、共振器R1及びR2の共振周波数の変動、したがって、実際の温度に依存する共振周波数の差に基づいて、温度を正確に感知することができる。
【0046】
図2図5に示す実施形態では、ミラーM1、M2、M3、及びM4は、トランスデューサT1及びT2に隣り合って配置されている。他の実施形態によると、共振キャビティは、第1のトランスデューサT1と第1及び第2のミラーM1、M2との間にそれぞれ形成され、並びに/又は共振キャビティは、第2のトランスデューサT2と第3及び第4のミラーM3、M4との間にそれぞれ形成されている。
【0047】
図6は、図2に示したものと同様の例示的な実施形態を示す。図2に示す構成とは異なり、図6に示す実施形態では、弾性波センサデバイス60は、第1のトランスデューサT1と第1のミラーM1との間に形成された長さg1の第1の共振キャビティと、第1のトランスデューサT1と第2のミラーM2との間に形成された長さg2の第2の共振キャビティとを備える。同様に、長さg3の第3の共振キャビティが、第2のトランスデューサT2と第3のミラーM3との間に形成され、長さg4の第4の共振キャビティが、第2のトランスデューサT2と第4のミラーM4との間に形成されている。代替として、第1の共振器R1又は第2の共振器R2は、長さg1及びg2の共振キャビティ、又はg3及びg4の共振キャビティのみをそれぞれ有する。
【0048】
原理的には、第1のトランスデューサT1と第1のミラーM1との間の共振キャビティの上面は、第1のトランスデューサT1と第2のミラーとの間の共振キャビティの上面と比較して物理的及び/又は化学的な改質を含むことができ、又はその逆も可能である。同様に、第2のトランスデューサT2と第3のミラーM3との間の共振キャビティの上面は、第2のトランスデューサT2と第4のミラーM4との間の共振キャビティの上面と比較して物理的及び/又は化学的な改質を含むことができ、又はその逆も可能である。長さがg1、g2、g3及びg4のキャビティのすべて又は一部は、物理的及び/若しくは化学的な改質並びに/又は延在長さg1、g2、g3及びg4に関して互いに異なっていてもよい。
【0049】
差分パラメトリック感度を示す伝搬波モードを達成するために、物理的及び/又は化学的な改質を施すための様々な手段がある。これらの手段には、例えば、メタライゼーション層及び/若しくはパッシベーション層の形成並びに/又は局所ドーピングによる物理的及び/又は化学的な改質の実現が含まれる。例えば、長さg1の共振キャビティの領域に約100nmの厚さのメタライゼーション層を形成してもよく、長さg2の共振キャビティにメタライゼーション層を形成しなくてもよい。メタライゼーション層は、トランスデューサT1及びT2並びに/又はブラッグミラーM1、M2、M3、及びM4の電極と同じ材料で形成されてもよい。
【0050】
櫛型トランスデューサT1及びT2並びにブラッグミラー構造M1、M2、M3、及びM4の電極の形成とメタライゼーションに同じ材料を使用する場合、これらの素子はすべて同じ堆積プロセスで堆積させることができる。他の実施形態では、メタライゼーションに異なる材料が使用される。例えば、ある材料のあるメタライゼーション層又はパッシベーション層が、第1の共振キャビティ上に形成され、別の材料の別のメタライゼーション層又はパッシベーション層が、共振器R1及びR2の一方又はそれぞれの第2の共振キャビティ上に形成される。別の例によると、共振器R1及びR2の一方又はそれぞれの共振キャビティの一方に正の温度シフト材料、例えばSiO又はTaが形成され、共振キャビティの他方に負の温度シフト材料、例えばSi又はAlNが形成されるか、又は追加の材料が形成されない。
【0051】
パッシベーションは、Si、Al、又はAlNで作られた、又はこれらを含むパッシベーション層を形成することによって実現されてもよい。他の実施形態によると、両方の共振キャビティ上に材料層を形成することができる。さらに、1つ又は複数の共振キャビティ上に形成された材料層は、弾性波の伝搬方向に沿って不均一な厚さを有してもよい。さらに、1つ又は複数の共振キャビティ上に多層を形成してもよい。これに関連して、一般に、共振キャビティ上に材料層を設けると、特に、Pt、Au又はWのような大きい原子番号の材料の層を使用した場合、質量負荷効果に起因して弾性波の位相速度が低下する可能性があることに留意すべきである。この効果は、比較的高い音響速度を示す層、例えば、石英材料層に隣り合うAlN、Si、Alを追加することによって補償することができる。共振キャビティは、表面処理の違いによって、得られる共振特性が異なるため、測定量に対して異なる感度を呈し、したがって、差分測定が可能になる。
【0052】
代替として、又は加えて、物理的及び/又は化学的な改質は、共振器R1及びR2の一方又はそれぞれの共振キャビティの一方の表面を、共振キャビティの他方の表面に対して凹ませることを含むことができる。
【0053】
図3図5に示す構成は、代替の実施形態に従って、上述したような第1及び/又は第2の共振器の共振キャビティも示すことができる。例えば、図7は、図3に示す弾性波センサデバイス30に類似しているが、第1及び第2の共振器R1、R2が共振キャビティを含む弾性波センサデバイス70を示し、図8は、図4に示す弾性波センサデバイス40に類似しているが、第1及び第2の共振器R1、R2が共振キャビティを含む弾性波センサデバイス80を示し、図9は、図5に示す弾性波センサデバイス50に類似しているが、第1及び第2の共振器R1、R2が共振キャビティを含む弾性波センサデバイス90を示す。
【0054】
図2図5に示す上述の実施形態では、ブラッグミラーM1、M2、M3、及びM4が反射構造として設けられている。しかしながら、代替の実施形態によると、ブラッグミラーのうちの1つ又は複数は、純粋なせん断モードでの誘導のための側部/エッジ反射構造に置き換えられてもよい。これにより、ブラッグ反射がエネルギー損失又はモード変換なしに、平面反射に置き換えられるという点で、非常にコンパクトな構成を達成することができる。純粋なせん断モードでの誘導のための側部/エッジ反射構造を有する構成は、液体中の周囲パラメータを感知するのに特に有用である。せん断波は、液体中でのプロービングに非常に適している。特に、(例えば、誘電率kが30よりも大きい)高k材料とともに、高結合モード(>5%)は、液体中での用途にとって魅力的である。他の実施形態によると、1つ又は複数の反射構造は、3つ以下の電極を含む短い反射体の形態で実現される。
【0055】
さらに、複数のミラー電極構造を含むカスケード接続された共振キャビティによって、単純な共振キャビティが置き換えられ得ることに留意されたい。2つの共振間のスペクトル距離並びに共振の結合係数は、ミラー電極構造及び共振サブキャビティの数によって制御することができる。
【0056】
上述したすべての実施形態は、限定を意図するものではなく、本発明の特徴及び利点を示す例としての役割を果たす。上述した特徴の一部又は全部は、異なる方法で組み合わせることもできることを理解されたい。
【0057】
本開示では、結晶カットは、IEEE176 1949 Standards on Piezoelectric Crystals,1949 from 12-12-1949に従って定義されている。この規格では、SAW用途のための結晶カットは、3つの角度、すなわち、前記結晶の基準構成に従って結晶の回転を定義するφ及びθと、波が伝搬する方向、したがって前記波を送出することができるトランスデューサの位置を示す平面(φ、θ)内で定義される伝搬方向ψとによって一意に定義される。Y及びXは、結晶プレートの初期状態を定義するための基準と考えられる結晶軸を示す。第1の軸は、前記プレートに垂直な軸であり、第2の軸は、プレートの長さに沿っている。プレートは長方形と仮定され、その長さl、その幅w、及びその厚さtによって特徴付けられる(図10参照)。所与の(YX)軸系を考慮すると、長さlは結晶軸Xに沿っており、幅wはZ軸に沿っており、厚さtはY軸に沿っている。(YXwlt)/0°/0°/0°の場合は、実際に図10に示す構成と一致することに留意されたい。
【0058】
ここで、どの角度もゼロではないと仮定して、3回転又は3回転カットの一般的な場合を考える。この状況では、石英の結晶は、切断面(X、Z)に対して、基準系(X”、Y”、Z”)で定義された切断面(X”、Z”)を有し、ここで、図11に示すように、X、Y、Zは石英の結晶軸であり、波の伝播方向は軸X’’’に沿って定義され、第1の切断面(X”、Z”)は、軸Z’が軸Zと同じである第1の基準系(X’、Y’、Z’)を定義するように、平面(X、Z)の軸Zを中心として角度φだけ回転することによって定義され、第2の切断平面(X’’、Z’’)は、軸X’’が軸X’と同じである第2の基準系(X’’、Y’’、Z’’)を定義するように、平面(X’、Z’)の軸X’を中心として角度θだけ回転することによって定義され、軸X’’’に沿った伝播方向は、軸Y’’を中心として平面(X’’、Z’’)において軸X’’の角度ψの回転によって定義される。
【0059】
以下、石英についていくつかの対称性規則について振り返る。石英は、クラス32の三方晶である。したがって、石英は、三元軸、すなわちZ軸によって特徴付けられ、その周りに以下の関係を確立することができる。
(YXw)/φ=(YXw)/φ+120°
他の2つの軸は二元であり、したがって、以下の対称関係が成り立つ。
(YXl)/θ=(YXl)/θ+180°、(YXt)/ψ=(YXt)/ψ+180°
単純な幾何学的理由から、以下の軸のセットが等価であることを示すのは容易である。
(YXwlt)/+φ/+θ/+ψ=(YXwlt)/-φ/+θ/-ψ
実際には、上面をφのプラス符号(表面波が伝搬すると仮定される面)で識別すると仮定すると、プレートの底面は、符号をマイナスに変えることによって得られる。対称操作によってψの符号が変わらないことを考慮すると、符号ψは、底部側のZ’’’の方向は変わらないと考えられるが、実際には180°回転している。したがって、上面の状況を回復するには、ψに180°の回転を加えることが必須であり、これは、実際には符号の変化と等価である。Z(φ=0°)を中心とした回転のない結晶カットについては、以下の対称性が有効であることに留意されたい。
【0060】
(YXlt)/+θ/+ψ=(YXlt)/+θ/-ψ。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】