(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-21
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池内の電解液として使用するためのTEMPO誘導体の精製溶液を製造するための、アルキル化ピペリジンアミン誘導体及びピペリジンアミニウム誘導体の溶液
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20240313BHJP
C07D 211/58 20060101ALN20240313BHJP
【FI】
H01M8/18
C07D211/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561280
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2022058054
(87)【国際公開番号】W WO2022214342
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンゼル,ハラルド
(72)【発明者】
【氏名】ハイドル,アレクサンダー ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】エクスレ,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】テレス,ジョアキム ヘンリケ
(72)【発明者】
【氏名】ハーベル,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】クロプシュ,ライナー
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA03
5H126BB10
5H126GG17
5H126HH00
5H126HH08
5H126JJ05
5H126JJ08
5H126JJ09
5H126RR01
(57)【要約】
本発明は、水と、式(II)のN,N,N,2,2,6,6-ヘプタメチル-4-ピペリジンアミニウムクロリドと、少量の式(I)のN,N,N,2,2,6,6-ヘキサメチル-4-ピペリジンアミンと、副生成物と、式(III)のN,N,1,2,2,6,6,-オクタメチル-4-ピペリジンアミニウムクロリドと、を含む溶液、本溶液を製造するためのプロセス、並びに対応する式(IV)、(V)、及び(VI)のTEMPO誘導体をとりわけ含む水性混合物を製造するための本溶液の使用に関し、本水性混合物は、電気エネルギー貯蔵用のレドックスフロー電池の1つのチャンバ内で電解液として使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分:
a)水、
b)式(I)のN,N,N,2,2,6,6-ヘキサメチル-4-ピペリジンアミン
【化1】
c)任意選択により、式(I)の化合物、式(II)の化合物、又は式(III)の化合物ではない副生成物、
d)成分b)~e)の総重量の合計に基づいて90~98.5重量%の式(II)のN,N,N,2,2,6,6-ヘプタメチル-4-ピペリジンアミニウムクロリド
【化2】
e)式(III)のN,N,N,1,2,2,6,6,-オクタメチル-4-ピペリジンアミニウムクロリド
【化3】
を含む溶液であって、
前記水の含有量が前記溶液に基づいて40~70重量%の範囲内であり、式(III)の化合物に対する前記式(I)の成分の質量比が1未満であり、式(II)の化合物に対する式(III)の化合物の質量比が0.04未満である、溶液。
【請求項2】
式(II)の化合物の含有量が、成分b)~e)の総重量の合計に基づいて95~98.5重量%の範囲内である、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記水の含有量が、前記溶液に基づいて40~60重量%の範囲内である、請求項1又は2に記載の溶液。
【請求項4】
以下の工程:
i)以下を含む出発混合物
α)前記出発混合物の総重量に基づいて40~90重量%の水、
β)式(I)の化合物、
γ)任意選択により、式(I)の化合物、式(II)の化合物、及び式(III)の化合物ではない副生成物、
δ)式(II)の化合物、並びに
ε)式(III)の化合物
(ここで、式(III)の化合物に対する式(I)の化合物の質量比は1超であり、式(II)の化合物に対する式(III)の化合物の質量比は0.04未満である)を、反応容器に導入すること、
ii)水と式(I)の化合物の一部とを含む蒸留混合物を、前記反応容器の底部にある得られた混合物中の式(III)の化合物に対する式(I)の化合物の質量比が1未満になるまで蒸発させることにより、前記出発混合物から除去すること、
iii)前記反応容器の底部にある前記得られた混合物の水含有量を、前記反応容器の底部にある前記得られた混合物の総重量に基づいて40~70重量%に維持するために、工程ii)の蒸発前、蒸発中、及び/又は蒸発後に水を任意選択的に添加すること、
を含む、請求項1に記載の溶液の製造プロセス。
【請求項5】
前記工程ii)の前及び/又はその最中に水を添加しない、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
工程i)の前記出発混合物が、式(I)の化合物と、任意選択により、式(I)の化合物、式(II)の化合物、又は式(III)の化合物ではない副生成物と、を含む反応混合物を水中でメチル化剤を用いてメチル化することにより得られ、式(I)の化合物とメチル化剤との間のモル比が1:0.90~1:1の範囲内である、請求項4又は5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記出発混合物を得るための水中でのメチル化用の前記メチル化剤が、塩化メチル及び硫酸ジメチルの群から選択される、請求項4~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記出発混合物のメチル化及び蒸発が同じ反応容器内で行われる、請求項4~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
工程ii)の蒸発中に充填塔又はエバポレータが使用される、請求項4~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
工程ii)の蒸発中のサンプ温度が40~110℃の範囲内であり、蒸発中の圧力が30~1000mbarの範囲内である、請求項4~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
工程ii)の蒸発後の前記得られた混合物の水含有量が、工程ii)の後の前記得られた混合物の総重量に基づいて40~60重量%の範囲内である、請求項4~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
電解液混合物の製造のための請求項1~3のいずれか一項に記載の溶液の使用であって、前記電解液混合物が、
A)水、
B)前記電解液混合物の総重量に基づいて20~55重量%の式(IV)の化合物2,2,6,6-テトラメチルアンモニオ)-1-ピペリジニルオキシ
【化4】
C)前記電解液混合物の総重量に基づいて0.1~6重量%のアルカリ金属カチオン
D)前記電解液混合物の総重量に基づいて0.5~12.5重量%の式(V)の化合物N,N,N,1,2,2,6,6-オクタメチル-4-ピペリジンアンモニウム-1-オキシド
【化5】
E)前記電解液混合物の総重量に基づいて0.1~20重量%の式(VI)の化合物2,2,6,6-ヘキサメチル-4-(ジメチルアミノ)-1-ピペルジニルオキシ-N-オキシド
【化6】
を含む、使用。
【請求項13】
前記電解液混合物内の式(V)の化合物N,N,N,1,2,2,6,6-オクタメチル-4-ピペリジンアンモニウム-1-オキシドの量が、前記電解液混合物の総重量に基づいて0.5~6重量%の範囲内であり、前記電解液混合物内の式(VI)の化合物2,2,6,6-ヘキサメチル-4-(ジメチルアミノ)-1-ピペルジニルオキシ-N-オキシドの量が、前記電解液混合物の総重量に基づいて0.1~0.5重量%の範囲内である、請求項12に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と、式(II)のN,N,N,2,2,6,6-ヘプタメチル-4-ピペリジンアミニウムクロリドと、少量の式(I)のN,N,N,2,2,6,6-ヘキサメチル-4-ピペリジンアミンと、副生成物と、式(III)のN,N,N,1,2,2,6,6-オクタメチル-4-ピペリジンアミニウムクロリドと、を含む溶液、本溶液を製造するためのプロセス、並びに対応する式(IV)、(V)、及び(VI)のTEMPO誘導体をとりわけ含む水性電解液混合物を製造するための本溶液の使用に関し、本水性混合物は、電気エネルギー貯蔵用のレドックスフロー電池の1つのチャンバ内で電解液として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
様々な種類の用途に向けた電気エネルギーを貯蔵することは、近い将来に解決すべき大きな課題である。国際公開第2014/26728号パンフレットには、環境に悪影響を及ぼさない長寿命のレドックスフロー電池を提供するための簡便且つ安価な方法としての、サイズで分子を選択する膜を使用することにより互いに分離されたレドックス活性電位を有するレドックスフロー電池における、2,2,6,6-テトラメチルピプデリジニル(tetramethylpipderidinyl)-オキシル(TEMPO)誘導体を含むレドックス対としての新規有機化合物の使用について記載されている。
【0003】
国際公開第2018/028830号パンフレット及びT.Janoschka,M.D.Hager,U.S.Schubertは、Angew.Chem.Int.ED 2016,55,14427-14430において、レドックスフロー電池のカソードチャンバ内で電解液として使用するための、典型的なTEMPO誘導体としての4-アンモニウム-2,2,6,6-テトラアルキル-ピペリジニル塩の製造プロセスについて記載している。国際公開第2018/028830号パンフレットには、このTEMPO誘導体の3つの異なる製造方法が開示されている。これら全ての製造方法では、アルコール、エーテル、ニトリル、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、又はそれらの混合物などの有機非プロトン性溶媒が使用される。更に、製造中、一部の中間化合物は固体であり、次の反応工程で使用する前にこれらを溶媒から分離する必要がある。最終的には極めて純粋な最終化合物が得られるが、製造中に多くの様々な溶媒が使用されており、またアニオンを交換する必要がある。最終的な4-アンモニウム-2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル塩はレドックスフロー電池内の電解液として溶液中で使用されることから、これを水溶液として使用することが好ましい。それは、水が、レドックスフロー電池内で容易に酸化又は還元され得ず、可燃性ではないため取扱いが比較的安全であり、毒性ではなく、極めて安価であり、且つ容易に入手可能であるためである。
【0004】
国際公開第2021/197877号パンフレット及び国際公開第2021/197876号パンフレットには、TEMPO誘導体のそのような水溶液を製造することができる方法について記載されている。これらの製造方法により、主要なTEMPO誘導体である式(IV)の2,2,6,6-テトラメチルアンモニオ-1-ピペリジニルオキシ、並びに式(V)及び(VI)の他のTEMPO誘導体を、水溶液の総重量に基づいて最大20重量%の量で含む水溶液が得られる。欧州特許出願公開第A-20167458.7号明細書及び欧州特許出願公開第A-20167462.9号明細書には、式(III)及び(I)の化合物の酸化生成物であり、且つレドックスフロー電池のチャンバ内のレドックス活性化合物ではない式(V)及び(VI)のTEMPO誘導体が、式(IV)のTEMPO誘導体及び電池の化学的レドックス電位に影響を及ぼさないことが記載されている。式(V)及び(VI)のTEMPO誘導体が酸化後に分解され、結果として生じる分解生成物がレドックスフロー電池の長期安定性に影響を及ぼすことが先頃判明した。更に、純粋なTEMPO誘導体(VI)は、1500J/gを超える高い分解エネルギー、50%溶液は114℃という低い開始温度でなおも900J/gを超える高い分解エネルギーを示すことが判明した。これは、大量の式(VI)の化合物との混合物は、爆発する可能性があり、それほど安定ではない可能性があることを意味している。このような高電位の混合物を扱う際には、安全性に関する多大な労力を考慮する必要がある。
【0005】
したがって、式(V)及び(VI)のTEMPO誘導体の量が低減した水性混合物を有することが好ましい。水と式(IV)、(V)、及び(VI)の3つのTEMPO誘導体全てとを含む電解液混合物から出発して式(V)及び(VI)のTEMPO誘導体を分離することは、式(IV)、(V)、及び(VI)の化合物が揮発性ではない塩であることから、蒸留では不可能である。現況技術において説明されているように、晶析によってのみ精製を実現することができる。しかしながら、晶析は、固体の取扱い、溶媒の取扱い及び再生使用、並びに洗浄の工程を伴う、複雑且つ費用のかかる工程であり、このことは必然的に生成物の損失及び溶媒の大量消費につながる。前述したように、この複雑性のために、この方法を工業スケールのプロセスに使用することができない。
【0006】
式(V)及び(VI)のTEMPO誘導体の量が低減した水性混合物を得るための別の方法は、最終酸化工程において、式(I)及び(III)の化合物の量が大幅に低減した混合物を使用することである。しかしながら、メチル化工程における反応条件の調整のみでは、式(I)及び(III)の両方の化合物の量を低減させることは不可能であることが明らかとなった。メチル化剤の量を増加させると、未変換の式(I)の化合物の量は最小限に抑えられるが、式(III)の化合物の濃度が許容不可能となる。しかし、式(II)の化合物から式(III)の化合物を分離することは、晶析(これに付随する全ての付加的な複雑な事項を含む)によってのみ可能である。そのため、これは実行可能な技術的選択肢ではない。
【0007】
メチル化剤の量を減少させると、式(III)の化合物の量は最小限に抑えられるが、式(I)の化合物の濃度が許容不可能となる。蒸留による式(I)の化合物の製造の精製工程で得られた結果から、式(I)の化合物は水と共沸混合物を形成し、この共沸混合物には式(I)の化合物が1重量%しか含まれていないことが知られている。そのため、出発混合物から式(I)の化合物を除去するためには、99kgの水を蒸発させ、1kgの未変換の式(I)の化合物を除去する必要があることが予想された。そのため、蒸発による式(I)の化合物の除去は、エネルギーの点で極めてコストが高くなるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明の目的は、
・レドックスフロー電池内の電解液として使用することができる、式(IV)の化合物と、量が低減した式(V)及び(VI)の化合物と、を含む水性混合物の製造に使用可能な、量が低減した式(I)及び(III)の化合物を含む式(II)の化合物の水溶液、並びに
・所望の低レベルの式(I)及び(III)の化合物を含む本水溶液を製造するためのプロセス、並びに晶析及び付随する固体の取扱いに必要とされる複雑性よりも低い複雑性で、且つメチル化工程後に水との共沸混合物の形態である未変換の式(I)の化合物を除去するのに必要とされるであろうエネルギー消費よりも低いエネルギー消費でこれを行うこと、
を提供することである。
【0009】
この課題は、以下の成分:
a)水、
b)式(I)のN,N,N,2,2,6,6,-ヘキサメチル-4-ピペリジンアミン
【化1】
c)任意選択により、式(I)の化合物、式(II)の化合物、又は式(III)の化合物ではない副生成物、
d)成分b)~e)の総重量の合計に基づいて90~98.5重量%の式(II)のN,N,N,2,2,6,6-ヘプタメチル-4-ピペリジンアミニウムクロリド
【化2】
e)式(III)のN,N,N,1,2,2,6,6,-オクタメチル-4-ピペリジンアミニウムクロリド
【化3】
を含む溶液であって、
水の含有量が溶液に基づいて40~70重量%の範囲内であり、式(III)の化合物に対する式(I)の成分の質量比が1未満であり、式(II)の化合物に対する式(III)の化合物の質量比が0.04未満である、溶液によって解決される。
【0010】
本発明の溶液は、式(II)の化合物の含有量が、成分b)~e)の総重量の合計に基づいて95~98.5重量%の範囲内である場合に有利である。
【0011】
本発明の溶液は、水の含有量が溶液に基づいて40~60重量%の範囲内である場合に有利である。
【0012】
本発明の更なる実施形態は、以下の工程
i)以下を含む出発混合物
α)出発混合物の総重量に基づいて40~90重量%の水、
β)式(I)の化合物、
γ)任意選択により、式(I)の化合物、式(II)の化合物、及び式(III)の化合物ではない副生成物、
δ)式(II)の化合物、並びに
ε)式(III)の化合物
(ここで、式(III)の化合物に対する式(I)の化合物の質量比は1超であり、式(II)の化合物に対する式(III)の化合物の質量比は0.04未満である)を、反応容器に導入すること、
ii)水と式(I)の化合物の一部とを含む蒸留混合物を、反応容器の底部にある得られた混合物中の式(III)の化合物に対する式(I)の化合物の質量比が1未満になるまで蒸発させることにより、出発混合物から除去すること、
iii)反応容器の底部にある得られた混合物の水含有量を、反応容器の底部にある得られた混合物の総重量に基づいて40~70重量%に維持するために、工程ii)の蒸発前、蒸発中、及び/又は蒸発後に水を任意選択的に添加すること、
を含む、本発明の溶液の製造プロセスである。
【0013】
本発明のプロセスは、工程ii)の前及び/又はその最中に水を添加しない場合に有利である。
【0014】
本発明のプロセスは、工程i)の出発混合物が、式(I)の化合物と、任意選択により、式(I)の化合物、式(II)の化合物、又は式(III)の化合物ではない副生成物と、を含む反応混合物を水中でメチル化剤を用いてメチル化することにより得られ、式(I)の化合物とメチル化剤との間のモル比が1:0.90~1:1の範囲内である場合に有利である。
【0015】
本発明のプロセスは、出発混合物を得るための水中でのメチル化用のメチル化剤が塩化メチル及び硫酸ジメチルの群から選択される場合に有利である。
本発明のプロセスは、出発混合物のメチル化及び蒸発が同じ反応容器内で行われる場合に有利である。
本発明のプロセスは、工程ii)の蒸発中に充填塔又はエバポレータが使用される場合に有利である。
本発明のプロセスは、工程ii)の蒸発中のサンプ温度が40~110℃の範囲内であり、蒸発中の圧力が30~1000mbarの範囲内である場合に有利である。
【0016】
本発明のプロセスは、工程ii)の蒸発後の得られた混合物の水含有量が、工程ii)の後の得られた混合物の総重量に基づいて40~60重量%の範囲内である場合に有利である。
【0017】
本発明の更なる実施形態は、電解液混合物を製造するための本発明の溶液の使用であって、この電解液混合物が、
A)水、
B)電解液混合物の総重量に基づいて20~55重量%の式(IV)の化合物2,2,6,6-テトラメチルアンモニオ)-1-ピペリジニルオキシ
【化4】
C)電解液混合物の総重量に基づいて0.1~6重量%のアルカリ金属カチオン
D)電解液混合物の総重量に基づいて0.5~12.5重量%の式(V)の化合物N,N,N,1,2,2,6,6-オクタメチル-4-ピペリジンアンモニウム-1-オキシド
【化5】
E)電解液混合物の総重量に基づいて0.1~20重量%の式(VI)の化合物2,2,6,6-ヘキサメチル-4-(ジメチルアミノ)-1-ピペルジニルオキシ(piperdinyloxy)-N-オキシド
【化6】
を含む、使用である。
【0018】
本発明の使用は、電解液混合物内の式(V)の化合物N,N,N,1,2,2,6,6-オクタメチル-4-ピペリジンアンモニウム-1-オキシドの量が、電解液混合物の総重量に基づいて0.5~6重量%の範囲内であり、電解液混合物内の式(VI)の化合物2,2,6,6-ヘキサメチル-4-(ジメチルアミノ)-1-ピペルジニルオキシ-N-オキシドの量が、電解液混合物の総重量に基づいて0.1~0.5重量%の範囲内である場合に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】式(V)の化合物のサイクリックボルタモグラムを示す。
【
図2】式(VI)の化合物のサイクリックボルタモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の溶液は、水と、式(I)のN,N,N,2,2,6,6-ヘキサメチル-4-ピペリジンアミンと、任意選択により、式(I)の化合物、式(II)の化合物、又は式(III)の化合物ではない副生成物と、成分b)~e)の総重量の合計に基づいて90~98.5重量%の式(II)のN,N,N,2,2,6,6-ヘプタメチル-4-ピペリジンアミニウムクロリドと、式(III)のN,N,N,1,2,2,6,6-オクタメチル-4-ピペリジンアミニウムクロリドと、を含む。好ましくは、本発明の溶液の水含有量は、溶液の総重量に基づいて40~70重量%の範囲内、特に40~60重量%の範囲内、更に特に40~50重量%の範囲内である。
【0021】
式(I)の化合物は、N,N,2,2,6,6-ヘキサメチル-4-ピペリジンアミンである。これは、本発明の溶液を製造するための出発分子の1つであり、本発明の溶液中に少量残存する。好ましくは、本発明の溶液中の式(III)の化合物に対する式(I)の化合物の質量比は、1未満、特に0.7未満、更に特に0.5以下である。
【0022】
本発明の溶液は、式(I)の化合物、式(II)の化合物、及び式(III)の化合物ではないいくらかの副生成物を任意選択的に含む。これらの副生成物は、既知のプロセスに従ってトリアセトンアミンをジメチルアミンとともに使用することによる、式(I)の化合物の製造によって得られる。その後、式(I)の化合物は、少なくとも95%の純度、好ましくは少なくとも97%の純度が得られるまで蒸留により精製される。この蒸留は極めて重要である。なぜならば、さもなければ次工程での副生成物の量が多くなりすぎるためである。式(I)の化合物のこの製造プロセス中に形成され、且つ式(I)の化合物、式(II)の化合物、及び式(III)の化合物ではない全ての生成物は、本発明において「副生成物」として理解されるものとする。これらの副生成物は、例えば、トリアセトンジアミン、トリアセトンアミン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ジイソブチルケトン、2,6-ジメチルヘプタ-2,5-ジエン-4-オン、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-イソプロピル-2,2,6,6-テトラメチル-1,3-ジヒドロピリジン、4-イソプロピル-2,2,6,6-テトラメチル-1,3-ジヒドロピペリジン、及び4-(メチルアミノ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンの群から選択される。好ましくは、本発明の溶液中の副生成物の量は、式(I)の化合物、式(II)の化合物、式(III)の化合物、及び副生成物の総重量の合計に基づいて、0~0.3重量%の範囲内、特に0~0.2重量%の範囲内、更に特に0~0.15重量%の範囲内である。
【0023】
本発明の溶液の主成分は、N,N,N,2,2,6,6-ヘプタメチル-4-ピペリジンアミニウムクロリドである式(II)の化合物である。好ましくは、式(II)の化合物の量は、式(I)の化合物、式(II)の化合物、式(III)の化合物、及び本発明の溶液の式(I)の化合物、式(II)の化合物、又は式(III)の化合物ではない副生成物の総重量の合計に基づいて、90~98.5重量%の範囲内、特に95~98.5重量%の範囲内、更に特に96~98.5重量%の範囲内である。
【0024】
式(III)の化合物は、N,N,N,1,2,2,6,6-オクタメチル-4-ピペリジンアミニウムクロリドである。これは、メチル化剤を用いた式(I)の化合物のメチル化中の副産物として得られる。好ましくは、式(II)の化合物に対する式(III)の化合物の質量比は、0.04未満、特に0.03未満である。
【0025】
式(I)、(II)、(III)の化合物、及び副生成物の総量の合計は、本発明の溶液の総量に基づいて、好ましくは40~60重量%の範囲内、特に45~60重量%の範囲内、より好ましくは50~60重量%の範囲内である。
【0026】
本発明の溶液は、本発明のプロセスによって得られる。本発明のプロセスは、以下の工程:
i)以下を含む出発混合物
α)出発混合物の総重量に基づいて40~90重量%の水、
β)式(I)の化合物、
γ)任意選択により、式(I)の化合物、式(II)の化合物、及び式(III)の化合物ではない副生成物、
δ)式(II)の化合物、並びに
ε)式(III)の化合物
(ここで、式(III)の化合物に対する式(I)の化合物の質量比は1超であり、式(II)の化合物に対する式(III)の化合物の質量比は0.04未満である)を、反応容器に導入すること、
ii)水と式(I)の化合物の一部とを含む蒸留混合物を、反応容器の底部にある得られた混合物中の式(III)の化合物に対する式(I)の化合物の質量比が1未満になるまで蒸発させることにより、出発混合物から除去すること、
iii)反応容器の底部にある得られた混合物の水含有量を、反応容器の底部にある得られた混合物の総重量に基づいて40~70重量%に維持するために、工程ii)の蒸発前、蒸発中、及び/又は蒸発後に水を任意選択的に添加すること、
を含む。
【0027】
第1の工程i)では、出発混合物が使用される。本発明のプロセスにおける「出発混合物」とは、出発混合物の総量に基づいて40~90重量%の水と、式(I)の化合物と、式(II)の化合物と、式(III)の化合物と、任意選択により副生成物と、を含む混合物であって、式(III)の化合物に対する式(I)の化合物の質量比が1超であり、式(II)の化合物に対する(III)の化合物の質量比が0.04未満であるものを意味するものとする。
【0028】
出発混合物は、式(I)の化合物と、任意選択により副生成物と、を含む混合物を水中でメチル化剤を用いてメチル化することによって得られる。
【0029】
式(I)の化合物及び任意選択により副生成物を水中でメチル化する場合、メチル化剤は、塩化メチル及び硫酸ジメチルの群から選択される。水中での好ましいメチル化剤は、塩化メチルである。
【0030】
水中でのメチル化の場合、式(I)の化合物及び任意選択により副生成物を水に溶解し、メチル化剤を用いてメチル化する。好ましくは、式(I)の化合物と任意選択による副生成物との水溶液は、メチル化反応における式(I)の化合物1mol当たり、0.9~1.0mol、特に0.95~1.0mol、より好ましくは0.98~1.0molのメチル化剤を用いてメチル化される。「メチル化反応における式(I)の化合物」という語句は、メチル化反応の開始時に水に溶解している式(I)の化合物の量を意味するものであり、メチル化後に溶液中に依然として残存している式(I)の化合物の量を意味するものではない。水中でのメチル化の間、反応温度は、好ましくは0~60℃の範囲内、特に0~40℃の範囲内、より好ましくは15~25℃である。温度は、外部加熱、冷却によって、又は温度が60℃を超えて上昇しないように式(I)の化合物の水性混合物にメチル化剤を緩徐に添加することによって、制御することができる。温度が60℃を超えて上昇しないように、メチル化剤を緩徐に添加すること及び外部冷却を使用することが好ましい。メチル化の完了後に得られる混合物は、この混合物の水含有量が混合物の総量に基づいて40~90重量%の範囲内である場合、出発混合物である。
【0031】
本発明のプロセスの工程ii)では、蒸留混合物を、反応容器の底部にある得られた混合物中の式(III)の化合物に対する式(I)の化合物の質量比が1未満になるまで蒸発させることにより出発混合物から除去するために、工程i)の出発混合物を加熱する。「蒸留混合物」とは、水と、式(I)の化合物の一部と、副生成物と、を含む混合物を意味するものとする。蒸留混合物は、水、式(I)の化合物の一部、副生成物を含み、式(III)の化合物を一切含まないことが好ましく、特に、蒸留混合物は、水、式(I)の化合物の一部、及び副生成物からなり、更に特に、蒸留混合物は、水及び式(I)の化合物の一部からなる。好ましくは、蒸留混合物中の式(I)の化合物の量は、出発混合物中の式(I)の化合物の総量に基づいて、90~99.9重量%の範囲内、特に91~98重量%の範囲内、更に特に92~97重量%の範囲内である。
【0032】
得られた混合物中の式(I)及び(III)の化合物の含有量は、本発明のプロセスの工程ii)において、反応容器の底部のサンプから試料を採取することにより測定される。「得られた混合物」とは、水と、式(I)の化合物と、式(II)の化合物と、式(III)の化合物と、任意選択により副生成物と、を含むあらゆる混合物であって、式(I)の化合物の含有量が出発混合物中の含有量よりも少ないものを意味するものとする。好ましくは、反応容器は、本発明のプロセスの工程ii)の蒸発中に試料を採取するための少なくとも1つの側部出口を有する。好ましくは、試料は、本発明のプロセスの工程ii)の間に連続的に採取及び測定される。工程ii)は、反応容器の底部の得られた混合物中の式(III)の化合物に対する式(I)の化合物の質量比が1未満、好ましくは0.7未満、特に0.5未満となった時点で終了する。
【0033】
好ましくは、蒸留混合物の蒸発の完了後に得られた混合物の水含有量は、得られた混合物の総量に基づいて40~70重量%の範囲内、特に40~60重量%の範囲内である。この特別な場合では、得られた混合物が本発明の溶液である。
【0034】
好ましくは、工程ii)の蒸発中のサンプ内温度は、40~110℃の範囲内、特に60~110℃の範囲内、更に特に90~110℃の範囲内である。好ましくは、工程ii)の蒸発中の圧力は、30~1000mbarの範囲内、特に700~1000mbarの範囲内、更に特に900~1000mbarの範囲内である。
【0035】
好ましくは、本発明のプロセスの工程ii)において出発混合物から蒸留混合物を蒸発除去するために、充填塔又はエバポレータが使用される。
【0036】
本発明のプロセスの特別な実施形態では、本発明のプロセスの工程ii)の前、その最中、及びその後に水を添加することができる。添加する水の量は、得られた混合物の総量に基づいて40~70重量%、好ましくは40~60重量%の水含有量となるように、得られた混合物中に不足している量のみである。本発明のプロセスの工程ii)の蒸発中に水を添加する場合、反応容器へと得られた混合物に水を連続的に添加するために、反応容器は追加の側部出口を有することになる。本発明のプロセスの工程iii)で添加される水は、液体水として及び/又は蒸気として添加することができる。好ましくは、液体水が本発明のプロセスの工程iii)で使用される。好ましくは、本発明のプロセスの工程ii)の前及び/又はその最中に水は添加されず、特に、水は、得られた混合物に本発明のプロセスの工程ii)の蒸発後に添加され、更に特に、得られた混合物に本発明のプロセスの工程ii)の蒸発後に添加される水の量は、本発明のプロセスの工程ii)において出発混合物から蒸発除去された蒸留混合物の量と同じ量である。
【0037】
好ましくは、工程ii)の蒸発中のサンプ内温度は、40~110℃の範囲内、特に60~110℃の範囲内、更に特に90~110℃の範囲内である。好ましくは、工程ii)の蒸発中の圧力は、30~1000mbarの範囲内、特に700~1000mbarの範囲内、更に特に900~1000mbarの範囲内である。
【0038】
水中でメチル化剤を用いた式(I)の化合物及び任意選択により副生成物のメチル化、並びに本発明のプロセスの工程ii)における蒸留混合物の分離は、異なる又は同じ反応容器内で行われ得る。水中でメチル化剤を用いた式(I)の化合物及び任意選択により副生成物のメチル化は、同じ反応容器内で行われることが好ましく、更に特に、メチル化工程及び本発明のプロセスの工程ii)における蒸留混合物の分離は、1つの(同じ)反応容器内でのみ行われる。
【0039】
本発明の更なる実施形態では、本発明の溶液は、水と、電解液混合物の総重量に基づいて20~55重量%の式(IV)の化合物2,2,6,6,-テトラメチルアンモニオ)-1-ピペリジニルオキシと、電解液混合物の総重量に基づいて0.1~6重量%のアルカリ金属カチオンと、電解液混合物の総重量に基づいて0.5~12.5重量%の式(V)の化合物N,N,N,1,2,2,6,6-オクタメチル-4-ピペリジンアンモニウム-1-オキシドと、電解液混合物の総重量に基づいて0.1~20重量%の式(VI)の化合物2,2,6,6-ヘキサメチル-4-(ジメチルアミノ)-1-ピペルジニルオキシ-N-オキシドと、を含む電解液混合物の製造に使用される。「電解液混合物」とは、水と、式(IV)、(V)、(VI)の化合物と、アルカリ金属カチオンと、を含むあらゆる混合物であって、式(IV)、(V)、(VI)の化合物及びアルカリ金属カチオンの量が上述の範囲内であるものを意味するものとする。好ましくは、電解液混合物内の式(V)の化合物N,N,N,1,2,2,6,6オクタメチル-4-ピペリジンアンモニウム-1-オキシドの量は、電解液混合物の総重量に基づいて0.5~6重量%の範囲内であり、電解液混合物内の式(VI)の化合物2,2,6,6-ヘキサメチル-4-(ジメチルアミノ)-1-ピペルジニルオキシ-N-オキシドの量は、電解液混合物の総重量に基づいて0.1~0.5重量%の範囲内である。
【0040】
本発明の溶液を用いて、電解液混合物を製造することができる。電解液混合物は、レドックスフロー電池内の電解液として使用され得る。好ましくは、電解液混合物は、そのようなレドックスフロー電池においてカソード液として使用される。レドックスフロー電池は、通常、カソード溶液用及びアノード溶液用の2つのチャンバを使用することにより構築され、各々がポンプを介してカソード溶液及びアノード溶液の貯蔵タンクにそれぞれ接続されている。両方のチャンバは、イオン伝導性膜によって分離されており、電極を備えている。カソードチャンバ及び接続されたカソード貯蔵タンクには、電解液混合物が充填されている。アノードチャンバ及び接続されたアノード貯蔵タンクには、アノード用の電解液が充填されている。レドックスフロー電池内のレドックス活性化合物は、充電及び放電中に異なるレドックスレベルの間で変化する。放電には、電解液を貯蔵タンクから電極へとポンプで送る必要があり、他方、充電には逆のプロセスが使用される。したがって、本発明の溶液を使用することにより得られる電解液混合物を電解液として含むレドックスフロー電池は、様々な用途に向けた電気エネルギーを貯蔵するための簡便且つ多機能な方法である。
【実施例】
【0041】
全般:
1H-NMR法:
式(II)の化合物の
1H-NMRデータ:
【化7】
1H-NMR(500MHz,D
2O):δ [ppm]=3.68(tt,J=12.5Hz,2.8Hz 1H,H
1),3.07(s,9H,H
6),2.02-2.08(m,2H,H
3),1.32(t,J=12.5Hz,2H,H
2),1.14(s,6H,H
5),1.12(s,6H,H
4).
【0042】
式(III)の化合物の
1H-NMRデータ:
【化8】
1H-NMR(500MHz,D
2O):δ [ppm]=3.62(tt,J=12.5Hz,3.1Hz,1H,H
7),3.00(s,9H,H
12),2.15(s,3H,H
13),2.08-2.02(m,2H,H
9),1.55(t,J=12.5Hz,2H,H
8),1.15(s,6H,H
11),1.05(s,6H,H
10).
【0043】
式(I)の化合物の
1H-NMRデータ:
【化9】
1H-NMR(500MHz,D
2O):δ [ppm]=2.83(tt,J=12.3Hz,3.2Hz,1H,H
14),2.27(s,6H,H
19),1.88(dd,J=12.7Hz,3.2Hz,2H,H
15),1.28(s,6H,H
17),1.24(s,6H,H
18),1.17(dd,J=12.7Hz,12.3Hz,6H,H
16).
【0044】
式(I)、(II)、及び(III)の化合物のモル比は、δ=3.68ppm(式(II)の化合物からの1H)、2.15ppm(式(III)の化合物からの3H)、及び2.27ppm(式(I)の化合物からの6H)における1H-NMRシグナルの積分を比較することにより、最も都合よく決定することができる。
【0045】
そのため、式(I)の化合物:式(II)の化合物:式(III)の化合物のモル比は、次の積分の比と同じである:
(式(II)の化合物からのδ=3.68ppmにおけるシグナルの積分):(式(III)の化合物からのδ=2.15ppmにおけるシグナルの積分)/3:(式(I)の化合物からのδ=2.27ppmにおけるシグナルの積分)/6
【0046】
サイクリックボルタンメトリー法:
それぞれの実施例から得られた溶液を、N-オキシル化合物の濃度が1.0重量%になるまで0.1mol/L塩化ナトリウム水溶液で希釈する。前記溶液を、標準的な3電極構成(作用電極:ガラス状炭素(φ=2mm)、対極:白金線、参照電極:Ag/AgCl、3mol/L KCl水溶液)を備えた電気化学セルに入れる。PGU 20V-2A-Eポテンショスタット(IPS)を使用して、電位を1200mVまで上昇させ、次いで±20mV/sの走査速度で1200mV~-700mVの間でサイクルさせる(合計3サイクル)。
【0047】
ガスクロマトグラフィー分析方法
次の方法を使用してGC分析を実施した:カラム Restek Rtx 5 Amine、カラム長30m、カラム直径0.32mm、膜厚1.5μm;温度プログラム:60℃で開始、5K/分で190℃まで上昇、10K/分で280℃まで上昇、合計分析時間40分。
【0048】
実施例1(比較例):
本実施例では、ジメチルアミンによるトリアセトンアミンの還元的アミノ化による式(I)の化合物の合成で得た粗生成物混合物を使用した。82重量%の式(I)の化合物及び10重量%の水を含有し、残りは他の有機不純物であるこの粗生成物混合物を、高性能精留塔(理論段数約110)を備えたバッチ蒸留装置に装填して周囲圧力で蒸留した。得られた第1留分は主に水からなり、0.8~1.0重量%の式(I)の化合物を含有していた。還流比を増加させても、留出物中の式(I)の化合物の含有量は変化しなかった。式(I)の化合物が周囲圧力で水と共沸混合物(約1重量%の式(I)の化合物を含有する)を形成することを、別の実験で確認した。したがって、式(I)の化合物を含有する水性混合物から式(I)の化合物を除去するためには、除去すべき(I)1kg当たり、99kgの水を蒸発させる必要があることが予想された。
【0049】
実施例2(比較例):
欧州特許出願公開第A-20167458.7号明細書に記載されているように、式(I)の化合物(純度:99.7%)の水溶液を0.9当量の塩化メチルでメチル化することにより、式(II)の化合物を含む出発混合物を得た。得られた生成物は、カール・フィッシャー滴定により決定した場合、49.3重量%の水を含有する。有機材料には、以下が含まれる(水は除外。1H-NMR:500MHz、D2O中で測定):式(II)の化合物92.2%、式(I)の化合物5.0%、式(III)の化合物2.5%。他の全ての副生成物の合計は0.3%未満であった。
【0050】
上記混合物100gを、理論段数が10段のみの塔を備えたバッチ蒸留装置に装入し、水500gで希釈する。周囲圧力での蒸留を開始し、5つの留分(それぞれ約100gが含まれる)を収集した。サンプ温度を約100℃で維持した。各留分の収集後、サンプの試料を採取し、NMR(1H-NMR:500MHz、D2O中)により分析し、サンプ内の式(I)、(II)、及び(III)の化合物の含有量を決定した。表1は、各蒸留留分1~5を除去した後のサンプの組成を示す。
【0051】
表1のデータから、式(I)の化合物をサンプ生成物から除去するために留去する必要があった水の量は、除去された式(I)の化合物1グラム当たり173gの水である。理論段数が少ないことを考慮すると、式(I)の化合物を除去するために留去すべき水の量は、実施例1の結果を基に予想される範囲内である。
【0052】
【0053】
実施例3(本発明):
実施例2を繰り返した。但し、今回は蒸留装置に500gの同じ水溶液を装填したが水を添加しなかった。次に、周囲圧力下での蒸留を開始した。当初100℃であったサンプ温度を着実に上昇させ、サンプ温度が107℃に達したときに蒸留を停止した(これは式(II)の化合物の沸点である213.5℃よりも十分に低いことに留意されたい)。この時点までに、94.1gの留出物を収集した。加熱を停止し、94.1gの純水をサンプに添加した。これは、冷却時に式(II)の化合物が沈殿するのを回避するために必要である。
【0054】
次に、GCを介して留出物を分析した。出発混合物中に含まれていた式(I)の化合物のほぼ全量及び塩ではない微量副生成物の大部分が、留出物中に含まれていた。
【0055】
周囲温度まで冷却後、サンプをNMR(1H-NMR:500MHz、D2O中)で分析した。これには、水を除くと、式(II)の化合物96.6%、式(I)の化合物0.5%、及び式(III)の化合物2.8%が含まれていた。他の全ての副生成物の合計は0.06%未満であった。この場合、蒸発させる必要があった水の量は、除去された式(I)の化合物1グラム当たりわずか7.1gの水であった。
【0056】
実施例4(本発明):
純度97.6%(GCで測定)の式(I)の化合物184.3g(0.976mol)を、水315mlに溶解させる。これには以下の不純物が含まれている:4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(0.09重量%)、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリドン(0.22重量%)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(0.25重量%)、N,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジンアミン(1.25重量%)、4-イソ-プロピル-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン(0.345重量%)、その他いくつかの少量の未同定副生成物。この水性混合物を蒸留塔に接続した反応容器内で撹拌した。塩化メチル22.4L(0.999mol)をこの水性混合物に12時間の時間枠の間にガスとして添加する。このメチル化反応の間、外部冷却デバイスを使用して混合物の温度を20℃に維持する。その後、反応容器から残留塩化メチルを除去するために、反応容器を窒素でパージする。生成混合物の試料を、NMR(1H-NMR:500MHz、D2O中)により分析した。水を除くと、混合物には式(II)の化合物81.9%、式(I)の化合物15.7%、及び式(III)の化合物0.8%が含まれている。他の全ての少量副生成物の合計は、全体の1.5%未満であった。カール・フィッシャー滴定により測定した水含有量は、66.1重量%であった。
【0057】
この混合物は、蒸留塔を備えた反応容器内に残留しており、これを常圧下で加熱する。反応容器内のサンプの温度が107℃に達するまで留出物を集める。次に、蒸留を停止して留出物を分析した。得られた留出物の重量は203.9gであった。GCを介して留出物を分析した。出発混合物に当初含まれていた式(I)の化合物の量の約97%及び他の副生成物の大部分が、留出物中に見出された。
【0058】
サンプに残留した物質の重量は333.5gであった。試料を採取し、NMR(1H-NMR:500MHz、D2O中)を介して分析した。これには、水を除くと、式(II)の化合物98.1%、式(I)の化合物0.5%、及び式(III)の化合物1.3%が含まれていた。他の全ての少量副生成物の合計は0.12%未満であった。カール・フィッシャー滴定より決定した水含有量は、46.7重量%であった。したがって、反応混合物中に含まれていた式(I)の化合物の97.3%が蒸留により除去された。蒸発させる必要があった水の量は、除去された(I)の1g当たり4.7gの水となった。
【0059】
実施例5:
式(V)の化合物のサイクリックボルタンメトリーを測定する(
図Iを参照されたい)。
図Iのサイクリックボルタモグラムは不可逆的であり、これは、式(V)の化合物が酸化の際に分解され、これがレドックスフロー電池の長期安定性に悪影響を及ぼすことを示している。
【0060】
実施例6:
式(VI)の化合物のサイクリックボルタンメトリーも測定した(
図IIを参照されたい)。
【国際調査報告】