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特表2024-513177耐加水分解性が向上したポリアミド組成物、その製造方法、その用途及びそれから製造された物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-22
(54)【発明の名称】耐加水分解性が向上したポリアミド組成物、その製造方法、その用途及びそれから製造された物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/12 20060101AFI20240314BHJP
   C08L 77/02 20060101ALI20240314BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240314BHJP
   C08K 7/20 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C08L23/12
C08L77/02
C08L23/26
C08K7/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558868
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2022056470
(87)【国際公開番号】W WO2022200095
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/082406
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ホワン ピン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ,ルー ピン
(72)【発明者】
【氏名】タオ,イン
(72)【発明者】
【氏名】タン,コワン ルイ
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB12W
4J002BB20Y
4J002CL01X
4J002DL006
4J002FA046
4J002FB096
4J002FD016
4J002GN00
(57)【要約】
本発明は、耐加水分解性が向上したポリアミド組成物に関し、このポリアミド組成物が、ポリアミド組成物の総質量に基づいて、(a)10質量%~40質量%のポリアミド6、(b)35質量%超~50質量%のポリプロピレン、(c)0.5質量%~10質量%の相溶化剤、及び(d)25質量%~50質量%の補強フィラーを含む。本発明におけるポリアミド組成物は、自動車の冷却回路用の物品の調製に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)10質量%~40質量%のポリアミド6、
(b)35質量%超~50質量%のポリプロピレン、
(c)0.5質量%~10質量%の相溶化剤、及び
(d)25質量%~50質量%の補強フィラー
を含むポリアミド組成物であって、
すべての成分(a)~(d)の量が、前記ポリアミド組成物の総質量に基づくものである、ポリアミド組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド6が、前記ポリアミド組成物の総質量に基づいて、15質量%~35質量%、好ましくは20質量%~30質量%の量である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド6の粘度数が、ISO307-2007に従って決定され、95~230ml/g、好ましくは110~170ml/gである、請求項1又は2に記載のポリアミド組成物。
【請求項4】
前記ポリプロピレンが、前記ポリアミド組成物の総質量に基づいて、36質量%~45質量%、好ましくは36質量%~41質量%の量である、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリアミド組成物。
【請求項5】
前記ポリプロピレンが、5~70g/10分、好ましくは8~40g/10分のメルトインデックスを有するホモポリプロピレンであり、前記メルトインデックスが230℃及び2.16kgの荷重でISO 1133-1-2011に従って測定される、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリアミド組成物。
【請求項6】
前記相溶化剤が、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、プロピレンとエチレンとの無水マレイン酸グラフトコポリマー、ポリプロピレン-無水マレイン酸コポリマー、グリシジルメタクリレートグラフトポリプロピレン、及びポリエチレン-グリシジルメタクリレートコポリマーから選択される1種以上であり、好ましくは、前記相溶化剤が、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン及びプロピレンとエチレンとの無水マレイン酸グラフトコポリマーから選択され、より好ましくは、前記相溶化剤が無水マレイン酸グラフトポリプロピレンである、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリアミド組成物。
【請求項7】
前記相溶化剤の量が、前記ポリアミド組成物の総質量に基づいて、1質量%~8質量%、好ましくは3質量%~5質量%である、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリアミド組成物。
【請求項8】
前記補強フィラーが、前記ポリアミド組成物の総質量に基づいて、30質量%~40質量%、好ましくは30質量%~35質量%である、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリアミド組成物。
【請求項9】
前記補強フィラーが、5~20μm、好ましくは7~13μm、より好ましくは9~11μmの直径を有するガラス繊維である、請求項1から8のいずれか一項に記載のポリアミド組成物。
【請求項10】
前記補強フィラーが、カップリング剤で表面修飾したガラス繊維である、請求項1から9のいずれか一項に記載のポリアミド組成物。
【請求項11】
安定剤、流動助剤、核剤、滑剤、染料、顔料及び除湿剤から選択される添加剤をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のポリアミド組成物。
【請求項12】
(e)0質量%~5質量%のフェノール樹脂
をさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のポリアミド組成物。
【請求項13】
自動車の冷却回路における物品の調製に使用され、前記物品が、冷却水パイプ、冷却水フレキシブルパイプ、それらの接続要素、冷却水マニホールド、冷却水容器、冷却水補償容器、サーモスタットハウジング及び熱交換器ハウジングから選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載のポリアミド組成物。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のポリアミド組成物の製造方法であって、前記ポリアミド組成物のすべての成分を組み合わせることを含む、方法。
【請求項15】
自動車の冷却回路用の物品の調製における、請求項1から13のいずれか一項に記載のポリアミド組成物の使用方法。
【請求項16】
請求項1から13のいずれか一項に記載のポリアミド組成物から調製される、物品。
【請求項17】
前記物品が、冷却水パイプ、冷却水フレキシブルパイプ、それらの接続要素、冷却水マニホールド、冷却水容器、冷却水補償容器、サーモスタットハウジング及び熱交換器ハウジングから選択される、請求項16に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車の冷却回路に使用される物品の調製に適している、耐加水分解性が向上したポリアミド組成物に関する。また、本発明は、この組成物の調製方法、その用途、及びこの組成物から製造される物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車分野では、冷却回路で使用されるクーラントは通常、エチレングリコールと水の混合物、好ましくは1:1比のエチレングリコールと水の混合物を含む。 これに加えて、特に「ロングライフクーラント」(略してLLC)として知られるものに、少量の安定剤も使用される。
【0003】
ポリアミド(PA)は、自動車の冷却回路用の部品の製造が試みられてきた。水とエチレングリコールの混合液などのクーラントに対するポリアミド組成物の耐性は、耐加水分解性/耐解糖性として知られており、多くの場合、水/エチレングリコール混合物中120~135℃の圧力密閉スチール容器に7日間、21日間、42日間保存した標準試験試料を使用して決定される。保存手順の後、標準試験試料に、機械的試験、好ましくは引張試験、曲げ試験、又は耐衝撃性の測定を行い、得られた特性は、新たに射出成形され、水/エチレングリコールの混合物中で保存されていない標準試験試料の特性と比較される。ポリマーの機械的特性を評価する一般的な試験方法は、例えば国際規格ISO527、ISO178、ISO179及びISO180に記載されている。
【0004】
オレフィンとアクリレートのコポリマーと混合され、さらに安定剤を含むポリアミドが、自動車の冷却回路に適用するのに十分な加水分解安定性を有することは、EP 2562220 A1から知られている。また、ガラス繊維で強化されたPA6,6(ナイロン-6,6の)から作られた複合材料は、クーラントに対する耐性が良好であるため、自動車の冷却回路用の部品を製造するための自動車構造に定着している。PA6,6は160℃でエチレングリコールに溶解し始め、従来のエチレングリコールと水の1:1の混合物でも100℃超になるとガラス繊維強化ポリアミドを攻撃することが知られている。加水分解/解糖として知られるこのプロセスは、低温では比較的ゆっくりと進行するが、高温になると加速される。
【0005】
PA6,6及び部分的にアリール化されたポリアミドについては、WO2017189761A1、DE4214193A1、EP2933285A1、US5360888A及びUS20070066727A1が、その加水分解安定性を改善するために、特定の安定剤としてモノマー、オリゴマー又はポリマーカルボジイミド等を適用することを教示している。しかしながら、他の一般的なポリマーと比較して、PA6,6及び部分的にアリール化されたポリアミドを使用することの欠点は、それらが比較的高価であることである。
【0006】
PA6,6より安価なPA6は、耐クーラント性において劣った性能を示し、PA6,6に少量のPA6を導入しても、耐クーラント性特性は劇的に低下するため、PA6は自動車産業において冷却回路用途には適していないと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】EP 2562220 A1
【特許文献2】WO2017189761A1
【特許文献3】DE4214193A1
【特許文献4】EP2933285A1
【特許文献5】US5360888A
【特許文献6】US20070066727A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、自動車の冷却回路用の物品の調製に適し、自動車の冷却回路用の物品の加水分解安定性の要件を満たし、特に経済的な観点から先行技術の欠点を克服したポリアミド組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、上記の問題を解決するために試み、驚くべきことに、ポリアミド6(PA6)をベースとし、さらにポリプロピレン(略称PP)及び相溶化剤を含む組成物が、加水分解安定性の点で自動車産業の要求を満たすことができることを見出した。PA6の組成物は、一般的に自動車産業における冷却回路用途には適していないと考えられているという偏見にもかかわらず、本発明の発明者は、PA6をベースとする組成物をそのような用途に適合させ、そのような用途におけるコストを劇的に低下させることに大きな進歩を遂げた。
【0010】
本発明の発明者らは、PA6を一定量のPP及び相溶化剤と混合すると、耐加水分解性が改善され、自動車の冷却回路に適した物品を調製することができることを初めて見出した。
【0011】
本発明の一態様にいて、ポリアミド組成物の総質量に基づいて、
(a)10質量%~40質量%のポリアミド6(PA6)、(b)35質量%超~50質量%のポリプロピレン(PP)、(c)0.5質量%~10質量%の相溶化剤、及び(d)25質量%~50質量%の補強フィラー
を含むポリアミド組成物が提供される。
【0012】
さらに、本発明は、ポリアミド組成物の全成分を射出成形、押出成形又はブロー成形することを含む、ポリアミド組成物の製造方法を提供する。
【0013】
まださらに、本発明は、冷却媒体に接触する物品の調製、特に自動車の冷却回路における、ポリアミド組成物の使用方法を提供する。
【0014】
まださらに、本発明は、上記ポリアミド組成物から調製される物品を提供する。
【0015】
本発明によれば、上記ポリアミド組成物から調製された物品は、改善された耐加水分解性を達成した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。本明細書で使用される以下の用語は、特に指定のない限り、以下の意味を有する。
【0017】
本明細書で使用される冠詞「a」及び「an」は、冠詞の文法的目的語の1つ又は1つ超(すなわち、少なくとも1つ)を意味する。例として、「an element」は、1つの要素又は1つ超の要素を意味する。
【0018】
本明細書で使用される「約」という用語は、当業者であれば、同じ機能又は結果を達成するという文脈において、言及された値と同等であると考える数値の範囲を指す。
【0019】
本明細書で使用される「1つを含む」という用語は、「少なくとも1つを含む」という用語と同義であると理解されるべきであり、「間」という用語は、限界値を含むと理解されるべきである。
【0020】
他に特定されない限り、全てのパーセンテージ(%)は「質量パーセント」である。
【0021】
(a)ポリアミド6
PA6に特定の制限はなく、当該分野で公知の多くのタイプの方法によって製造されるPA6は、本発明によるポリアミド組成物中の成分(a)として使用することができる。PA6を製造するための工業的に関連する方法としては、溶融物中での縮合、カプロラクタムの加水分解重合などが挙げられる。
【0022】
ポリアミド組成物中のPA6は、ポリアミド組成物の総質量に基づいて、10質量%~40質量%、好ましくは15質量%~35質量%、又はより好ましくは15質量%~30質量%の量である。
【0023】
成分(a)として使用されるPA6の粘度数は、好ましくは95~230ml/g、特に好ましくは110~170ml/gであり、ここで、相対粘度は、ISO307-2007に従って、25℃で96質量%の硫酸溶液中で決定又は測定することができる。
【0024】
本発明におけるポリアミド6は、ポリアミド6のホモポリマーであることができ、ポリアミド6と他の結晶性ポリアミドとのコポリマーであることもでき、コポリマー中の他のポリアミドの総モル質量は、50モル%未満、好ましくは20モル%未満、より好ましくは10モル%未満である。他の結晶性ポリアミドは、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド及びそれらの混合物であり得る。他の結晶性ポリアミドの例としては、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド6T/6I(テレフタル酸:イソフタル酸=6:4~8:2)が挙げられる。
【0025】
本発明におけるポリアミド6は、ポリアミド6と他のポリアミドとのブレンドであり得る。ポリアミド組成物中の他のポリアミドの量は、ポリアミド組成物の総質量に基づいて、0~20質量%、好ましくは0~10質量%の量である。他のポリアミドは、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド及びそれらの混合物であり得る。他のポリアミドの例としては、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド6T/6I(テレフタル酸:イソフタル酸=6:4~8:2)が挙げられる。
【0026】
(b)ポリプロピレン
驚くべきことに、相溶化剤と共に35質量%超~50質量%のPPをPA6を含む組成物に添加すると、本発明のポリアミド組成物から調製される物品の耐加水分解性を向上させることができることが見出された。
【0027】
ポリアミド組成物中のPPの量は、ポリアミド組成物の総質量に基づいて、35質量%超~50質量%、好ましくは36質量%~45質量%、より好ましくは36質量%~41質量%である。
【0028】
ポリプロピレンは、ホモポリプロピレン又はプロピレンと他のコモノマーとのコポリマーであることができる。好ましくは、本発明におけるポリプロピレンは、5~70g/10分のメルトインデックスを有するホモポリプロピレン、好ましくは8~40g/10分のメルトインデックスを有するホモポリプロピレンであり、メルトインデックスは、230℃及び2.16kgの荷重でISO 1133-1-2011に従って測定されるポリプロピレン樹脂である。
【0029】
(c)相溶化剤
物品の調製を容易にするために、相溶化剤がポリアミド組成物にさらに添加される。本発明の関連で「相溶化剤」という用語は、一般に、他の非混和性ポリマーの混合をより良くすることができる化合物を指す。
【0030】
相溶化剤は、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、プロピレンとエチレンとの無水マレイン酸グラフトコポリマー、ポリプロピレン-無水マレイン酸コポリマー、グリシジルメタクリレートグラフトポリプロピレン、及びポリエチレン-グリシジルメタクリレートコポリマーから選択される1種以上である。好ましくは、相溶化剤は、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン及びプロピレンとエチレンとの無水マレイン酸グラフトコポリマーから選択される。最も好ましくは、相溶化剤は無水マレイン酸グラフトポリプロピレンである。
【0031】
ポリアミド組成物中の相溶化剤の量は、ポリアミド組成物の総質量に基づいて、0.5質量%~10質量%、好ましくは1質量%~8質量%、より好ましくは3質量%~5質量%である。
【0032】
相溶化剤中の無水マレイン酸及びグリシジルメタクリレートの量は、相溶化剤の総質量に基づいて、好ましくは0.02質量%~2.5質量%、より好ましくは0.8質量%~1.8質量%である。
【0033】
(d)補強フィラー
本発明における補強フィラーは、例えば、繊維状の補強フィラーであり得、好ましくは、ガラス繊維、セラミック繊維、炭素繊維、及び熱安定性ポリマー繊維から選択される。より好ましくは、前記補強フィラーはガラス繊維である。
【0034】
ポリアミド組成物中の補強フィラーの量は、ポリアミド組成物の総質量に基づいて、25質量%~50質量%、好ましくは30質量%~40質量%、より好ましくは30質量%~35質量%である。
【0035】
本発明で使用されるガラス繊維に特に制限はなく、当業者に公知の任意のガラス繊維が本発明において好適である。ガラス繊維は、当業者に公知のプロセスによって製造することができ、適切であれば、特にカップリング剤又はカップリング剤システム、好ましくはシランをベースとするカップリング剤システムを用いて、表面処理又は表面修飾することができる。しかしながら、前処理は必須ではない。シランに加えて、ポリマー分散体、フィルム形成剤、分岐剤及び/又はガラス繊維加工助剤を使用することも可能である。
【0036】
1つの好ましい実施態様において、5~20μm、好ましくは7~13μm、特に好ましくは9~11μmの直径を有するガラス繊維が使用される。
【0037】
組み込まれるガラス繊維は、チョップドガラス繊維の形態、又は連続フィラメントストランド(ロービング)の形態のいずれかをとることができる。使用することができるガラス繊維の長さは、ポリアミド組成物にチョップドガラス繊維の形態で組み込む前に、一般的にそして典型的に1~5mmである。ガラス繊維の平均長さは、例えば共押出しにより他の成分と一緒に加工した後、通常100~600μm、好ましくは150~400μmである。
【0038】
本発明において、ガラス繊維の種類は特に限定されず、A-ガラス繊維、E-ガラス繊維、D-ガラス繊維、C-ガラス繊維、R-ガラス繊維、E-CR-ガラス繊維、S-ガラス繊維を使用することができる。
【0039】
他の成分
本発明のポリアミド組成物は、添加剤が本発明におけるポリアミド組成物の所望の特性に悪影響を及ぼさない限り、種々の添加剤を含むこともできる。
【0040】
1つの好ましい実施態様において、本発明によるポリアミド組成物は、成分PA6、PP、相溶化剤、補強フィラーに加えて、少なくとも1種の他の従来の添加剤を含むことができ、ここで、全ての質量パーセントの合計は常に100である。
【0041】
本発明の目的のために好ましい添加剤には、安定剤、流動助剤、核剤、滑剤、染料、顔料、除湿剤などが含まれる。上記の添加剤及び他の好適な添加剤は、例えば、Gaechter,Mueller,Kunststoff-Additive [Plastics Additives],第3版,Hanser-Verlag,Munich,Vienna,1989年及びPlastics Additives Handbook,第5版,Hanser-Verlag,Munich,2001年に記載されている。添加剤は単独で、又は混合物又はマスターバッチの形態で、好ましくはマスターバッチの形態で使用することができる。
【0042】
好ましい安定剤は、熱安定剤及びUV安定剤である。好ましく使用される安定剤は、アルカリ金属のハロゲン化物、好ましくはハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウム及び/又はハロゲン化リチウムと組み合わせた銅(I)ハロゲン化物、好ましくは塩化物、臭化物又はヨウ化物であり、使用される他の好ましい安定剤は、立体障害フェノール、ヒドロキノン、ホスファイト、芳香族2級アミン、例えばジフェニルアミン、置換レゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール又はベンゾフェノン、及びまた前記群の様々に置換された代表物又はこれらの混合物である。典型的な安定剤は、例えば次亜リン酸ナトリウム、ジフェニルアミンを含む。
【0043】
使用される好ましい核剤は、フェニルホスフィン酸ナトリウム又はフェニルホスフィン酸カルシウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、及びまた好ましくはタルク粉末である。
【0044】
使用される好ましい滑剤及び離型剤は、エステルワックス、ペンタエリスリトールテトラステアレート(PETS)、長鎖脂肪酸、特に好ましくはステアリン酸又はベヘン酸及びそのエステル、これらの塩、特に好ましくはステアリン酸Ca又はステアリン酸Zn、 及びまたアミド誘導体、好ましくはエチレンビスステアリン酸アミド又はモンタンワックス、好ましくは28~32個の炭素原子の鎖長を有する直鎖の飽和カルボン酸の混合物、及びまた低分子量ポリエチレンワックス又は低分子量ポリプロピレンワックスである。
【0045】
使用される好ましい可塑剤は、ジオクチルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルベンジルフタレート、炭化水素オイル及びN-(n-ブチル)ベンゼンスルホンアミドである。
【0046】
使用される好ましい顔料又は染料は、二酸化チタン、ウルトラマリンブルー、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、ペリレン、ニグロシン及びアントラキノンである。
【0047】
好ましい除湿剤は、例えばポリアミド組成物全体の0~5質量%の量を有するフェノールである。
【0048】
1つの好ましい実施態様において、ポリアミド組成物は、ポリアミド組成物の総質量に基づいて、
(a)15質量%~30質量%のPA6、
(b)36質量%~45質量%のポリプロピレン、
(c)0.02質量%~2.5質量%の相溶化剤、
(d)25質量%~50質量%の補強フィラー、及び
(e)0質量%~10質量%の添加剤
を含む。
【0049】
1つの好ましい実施態様において、ポリアミド組成物は、ポリアミド組成物の総質量に基づいて、
(a)15質量%~30質量%のPA6、
(b)36質量%~45質量%のポリプロピレン、
(c)0.02質量%~2.5質量%の相溶化剤、
(d)25質量%~50質量%の補強フィラー、及び
(e)1質量%~8質量%の除湿剤、及び0質量%~5質量%の安定剤、着色剤、核剤及び滑剤
を含む。
【0050】
1つの好ましい実施態様において、ポリアミド組成物は、ポリアミド組成物の総質量に基づいて、
(a)15質量%~30質量%のPA6、
(b)36質量%~45質量%のポリプロピレン、
(c)0.02質量%~2.5質量%の、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、プロピレンとエチレンの無水マレイン酸グラフトコポリマー、ポリプロピレン-無水マレイン酸コポリマーから選択される相溶化剤、
(d)25質量%~50質量%の補強フィラー、及び
(e)1質量%~5質量%の除湿剤、及び1質量%~5質量%の安定剤、着色剤、核剤及び滑剤
を含む。
【0051】
1つの好ましい実施態様において、ポリアミド組成物は、ポリアミド組成物の総質量に基づいて、
(a)15質量%~30質量%のPA6、
(b)36質量%~45質量%のポリプロピレン、
(c)0.02質量%~2.5質量%の、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、プロピレンとエチレンの無水マレイン酸グラフトコポリマー、ポリプロピレン-無水マレイン酸コポリマーから選択される相溶化剤であって、相溶化剤における無水マレイン酸の量が、無水マレイン酸の総質量に基づいて、0.02質量%~2.5質量%、好ましくは0.8質量%~1.8質量%である、相溶化剤、
(d)25質量%~50質量%の補強フィラー、及び
(e)1質量%~5質量%の除湿剤、及び1質量%~5質量%の安定剤、着色剤、核剤及び滑剤
を含む。
【0052】
本発明はまた、射出成形、押出成形又は発泡成形によってポリアミド組成物の全成分を組み合わせることを含む、ポリアミド組成物の製造方法を開示する。好ましい実施態様において、製造は押出成形又は溶融混練であり得る。好ましい押出成形プロセスは以下の通りである:ポリアミド組成物の全成分をスクリュー押出機のメインスロートに供給し、押出成形する。
【0053】
本発明はまた、冷却媒体、特に自動車の冷却回路に接触する物品の調製におけるポリアミド組成物の使用方法を開示する。自動車の冷却回路は、例えば、冷却水分配システム、冷却水タンク、冷却水膨張容器、サーモスタットハウジング、冷却水パイプ、熱交換器ハウジング及び冷却システムコネクタを含む。
【0054】
まださらに、本発明は、上記のポリアミド組成物から調製された物品を提供する。本発明の物品は、好ましくは冷却媒体と接触する物品であり、好ましくは自動車の冷却回路に使用される。好ましくは、この物品は、冷却水パイプ、冷却水フレキシブルパイプ、それらの接続要素、冷却水マニホールド、冷却水容器、冷却水補償容器、サーモスタットハウジング及び熱交換器ハウジングから選択される。
【0055】
本発明によれば、上記ポリアミド組成物から調製された物品は、改善された耐加水分解性を達成した。
【0056】
本発明において、上述したすべての技術的特徴を自由に組み合わせて、好ましい実施態様を形成することができる。
【実施例
【0057】
以下の非限定的な実施例は、本発明の様々な特徴及び特性を例示するものであり、本発明の範囲はこれに限定して解釈されるべきではない。
【0058】
実施例及び比較例の配合を以下の表1に示し、そこで使用される特定の成分は以下の通りである:
PA6:BASFから購入した、Ultramid(登録商標)B27 E
PP:Formosa Plasticsから購入した、YUNGSOX(登録商標)1250D
ガラス繊維:CPICから購入した、ECS301HP10
相溶化剤
MAH-POE:DOWから購入した、Fusabond N493
MAH-EP:DOWから購入した、Fusabond N353
MAH-PP:DOWから購入した、Fusabond N613
フェノール樹脂:SUMITOMO BAKELITE EUROPEから購入した、Durez 28391。
【0059】
前記添加剤の組成を以下に示す:
安定剤:NaHP次亜リン酸ナトリウム 0.05質量%
安定剤:Naugard 445 0.7質量%
核剤:タルク100 0.15質量%
滑剤:PETS 0.2質量%
着色剤
Ultrabatch 420 special black 4:30%のカーボンブラック+70%のPA6 0.33質量%
Ultrabatch 434:40%のニグロシン+60%のPA6 0.25質量%。
【0060】
以下の実施例の押出条件は次の通りであった:
原料を一緒にドライブレンダーで混合し、二軸押出機に供給し、245℃の温度で溶融押出し、ペレット化し、ペレット状のポリアミド組成物を得た。
【0061】
80Tの型締力を有する射出成形機LS-80で、235℃~250℃の溶融温度で乾燥したペレットを加工して、試験試料を得た。
【0062】
実施例E1~E6及び比較例C1~C6のポリアミド組成物の全成分をそれぞれ表1に示している。
【0063】
曲げ強度試験をDIN EN ISO 178に従って実施し、値をMPaで示した。
【0064】
試料をG48/水の混合物(質量比1:1)中、135℃で1000時間エージングした後に、エージング後の曲げ強度を決定した。エージング後、室温でDIN EN ISO 178に従って曲げ強度を決定し、その値をMPaで示した。
【0065】
【表1】
【0066】
E1~E6の結果から、それぞれ本明細書に記載した範囲のPA6、PP及び相溶化剤を含むポリアミド組成物は、エージング前及びエージング後の両方において満足のいく曲げ強度を提供し、エージング後の表面チェックはひび割れ又は泡がなく優れている。
【0067】
対照的に、PA6、ガラス繊維及び少量の添加剤のみを含み、PP及び相溶化剤を含有しないC1のポリアミド組成物は、エージング後の曲げ強度を達成するには明らかに不十分であり(35.9MPaのみ)、その一方で、その表面チェックの結果は小さなひび割れを示す。
【0068】
相溶化剤を含まなく、36質量%のPPをさらに含むC2の組成物は、エージング前の曲げ強度が大幅に悪化している。C2は、さらに大きな気泡を有する表面チェックのため、自動車の冷却回路への実用には適していない。41質量%のPPを含むC4の組成物は、C2の組成物と類似しており、試験した特性は同様に満足できるものではなかった。
【0069】
また、C2の組成物に相溶化剤として5質量%のMAH-POEを添加することにより、C3はC2に比べてエージング後の曲げ強度が向上したが、C3のエージング前の曲げ強度は全く向上せず、表面チェックでも大きな気泡を示すため、自動車の冷却回路への実用にも適していない。
【0070】
以上の実施例及び比較例から、本発明で開示したPPと特定の相溶化剤の組み合わせは、自動車の冷却回路に使用される物品を調製するのに適した、改善された耐加水分解性を有するポリアミド組成物を得るのに寄与することが実証された。
【国際調査報告】