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特表2024-513190L-グルホシネートを調製するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-22
(54)【発明の名称】L-グルホシネートを調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/30 20060101AFI20240314BHJP
   C07C 57/30 20060101ALI20240314BHJP
   C12P 13/04 20060101ALN20240314BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20240314BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
C07F9/30
C07C57/30
C12P13/04
C12N9/10
C12N9/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023559997
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 EP2022058491
(87)【国際公開番号】W WO2022207753
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】21166579.9
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディートリッヒ,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】エスクリバノ ケスタ,アナ
【テーマコード(参考)】
4B064
4H006
4H050
【Fターム(参考)】
4B064AE03
4B064CA21
4B064CB28
4B064CD15
4B064DA11
4H006AA02
4H050AA02
4H050AB04
4H050BD70
(57)【要約】
ホスフィノスリシン又は(S)-2-アミノ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフォノイル(phosphonoyl))ブタン酸)アンモニウム塩としても知られるL-グルホシネートを産生するための方法が提供される。方法は、洗練された多工程プロセスを含む。第1の工程は、D-グルホシネートからPPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)への酸化的脱アミノ化を伴う。第2の工程は、1つ以上のアミン供与体に由来するアミン基を用いたPPOからL-グルホシネートへの特異的アミノ化を伴う。第3の工程は、得られた副生成物を所望の最終生成物にも変換することによる、所望のエナンチオマーの収率の強化を伴う。第3の精製工程を加えることによって、L-グルホシネートとD-グルホシネートとの混合物中に存在するD-グルホシネートの割合が、所望のL-グルホシネートアンモニウム塩へと実質的に変換され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩から式L-(1)のL-グルホシネートアンモニウム塩を得るための方法であって、
【化1】
ここで式L-(2)中のR及びRは、互いに独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルから選択され、
前記方法は、以下の工程:
工程1:Ca(OH)を、L-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩L-(2)の水溶液に添加し、それにより、前記L-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩(L-2)が反応してL-グルホシネートカルシウム塩L-(3)となり、それにより放出した低沸点C~Cアルキルアミンが蒸留除去される、工程
工程2:(NHSOを前記L-グルホシネートのカルシウム塩L-(3)の残りの水溶液に添加し、それにより、前記L-グルホシネートL-(3)カルシウムのカルシウムイオンが硫酸アンモニウムのアンモニウムイオンと置換され、沈殿した硫酸カルシウム(セッコウ)が濾過除去される、工程
工程3:透明な濾液から水を除去することによって前記所望のアンモニウム塩L-(1)を単離する工程、を特徴とする、方法。
【請求項2】
2工程プロセスで式DL-(1)のグルホシネート-アンモニウムを脱ラセミ化することによって、式L-(2)のL-グルホシネート-アルキルアンモニウム塩が得られ、
【化2】
式中、第1の工程で、D-グルホシネートからPPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)への酸化的脱アミノ化が、D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素を用いて実施され、
第2の工程で、前記PPOが、1つ以上のアミン供与体由来のアミン基を用いて、トランスアミナーゼ(TA)酵素により、式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩へとアミノ化される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の工程で、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、アミルアミン、sec-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、及びsec-ヘキシルアミンからなる群から選択される脂肪族第二級C~Cアルキルアミンであるアミン供与体の存在下でトランスアミナーゼ(TA)酵素と反応させることにより、式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩が得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アミン供与体が、イソプロピルアミン又はsec-ブチルアミンから選択される第二級脂肪族C~Cアルキルアミン、好ましくはイソプロピルアミンである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩中のC~Cアルキルアンモニウムイオンが、請求項3で定義される脂肪族C~Cアルキルアミンのアンモニウム塩であり、好ましくはイソプロピルアミンアンモニウム又はsec-ブチルアミンアンモニウムであり、具体的にはイソプロピルアミンアンモニウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記DAAO酵素が、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)(UniProt P80324)、トリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)(UniProt Q99042)、ネオレンティヌス・レピデウス(Neolentinus lepideus)(KZT28066.1)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)(XP_006968548.1)、又はトリコスポロン・オレアギノサス(Trichosporon oleaginosus)(KLT40252.1)由来の酵素から選択される、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記DAAO酵素が変異DAAOである、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記変異DAAOがロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)由来の配列に基づく変異DAAOである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記TA酵素が、ω-トランスアミナーゼであり、好ましくは、アルスロバクター(Arthrobacter)種、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)JS2F(S)、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)JS64(S)、V・フルビアリス(V.fluvialis)JS17(S)、シュードモナス(Pseudomonas)種KNK425(S)、アルカリゲネス・デニトリフィカンス(Alcaligenes denitrificans)Y2k-2(S)、メソリゾビウム(Mesorhizobium)種LUK(S)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)SC6394(S)、モラクセラ・ラクナータ(Moraxella lacunata)WZ34(S)、ジャニバクター・テラエ(Janibacter terrae)DSM13953(S)、シュードモナス・シコリー(Pseudomonas cichorii)DSM50259(S)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)ATCC49838(S)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)KNK08-18(S)、シュードモナス(Pseudomonas)種ACC(S)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)NBRC14164(S)、バチルス・ハロトレランス(Bacillus halotolerans)(S)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)亜種、ステルコリス(stercoris)(S)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)亜種、インアクオソルム(inaquosorum)(S)、バチルス・エンドフィティカス(Bacillus endophyticus)(S)、リゾビウム・ラディオバクター(Rhizobium radiobacter)(S)、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)DSM30191(S)、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)(S)Ingram et al.(2007)、アルスロバクター・シトレウス(Arthrobacter citreus)(S)、カウロバクター・クレセンタス(Caulobacter crescentus)(S)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)(S)、パラコックス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)(S)、ポラロモナス(Polaromonas)種JS666(S)、オクロバクテリウム・アンスロピ(Ochrobactrum anthropi)(S)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)(S)、アセトバクター・パステウリアヌス(Acetobacter pasteurianus)(S)、バークホルデリア・ヴェトナメンシス(Burkholderia vietnamensis)(S)、ハロモナス・エロンガタ(Halomonas elongata)(S)、バークホルデリア・グラミニス(Burkholderia graminis)(S)、サーモミクロビウム・ロゼウム(Thermomicrobium roseum)(S)、スファエロバクター・サーモフィルス(Sphaerobacter thermophilus)(S)、ゲオバチルス・サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)(S)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)(S)、バチルス・ミコイデス(Bacillus mycoides)(S)、ハロモナス(Halomonas)種CSM-2(S) 、ロドスピリルム科(Rhodospirillaceae)細菌(S)、ラブレンジア(Labrenzia)種LAB(S)、アフィピア(Afipia)種P52-10(S)、オセアニバクルム・インディクム(Oceanibaculum indicum)(S)、イルマトバクター・コッキネウス(Ilumatobacter coccineus)(S)、バリオボラックス(Variovorax)種KK3(S)、パラバークホルデリア・カリベンシス(Paraburkholderia caribensis)(S)、ヒドロゲノファーガ・パレロニ(Hydrogenophaga palleronii)(S)、ソリルブロバクター・ソリ(Solirubrobacter soli)(S)、キネオスポリア(Kineosporia)種R_H_3(S)、ロゼオモナス・デゼルティ(Roseomonas deserti)(S)、シノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)(S)、ボセア・ルピン(Bosea lupine)(S)、ボセア・バビロビエ(Bosea vaviloviae)(S)、シュードアシドボラクス・インテルメディウス(Pseudacidovorax intermedius)(S)、バークホルデリア(Burkholderia)種UYPR1.413(S))、エシェリキア・コライ(Escherichia coli)K12(S)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)(S)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)(S)、シュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)(S)、シリシバクター・ポメロイ(Silicibacter pomeroyi)(S)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)KD131(S)、ルエゲリア(Ruegeria)種TM1040(S)、メソリゾビウム・ロティ(Mesorhizobium loti)MAFF30399(S)、又はバチルス・アンシラシス(Bacillus anthracis)(S)から選択されるS-選択的ω-トランスアミナーゼ酵素である、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記TA酵素が、変異ω-トランスアミナーゼであり、好ましくは、前記TAが、アルスロバクター(Arthrobacter)種又はバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来の配列に基づく変異ω-トランスアミナーゼである、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
式DL-(1)のグルホシネート-アンモニウムを脱ラセミ化することによって式L-(1)のL-グルホシネートアンモニウム塩を得るための方法であって、
開始工程で、D-グルホシネートからPPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)への酸化的脱アミノ化が、D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素を用いて実施され、
次の工程で、前記PPOが、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、アミルアミン、sec-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、及びsec-ヘキシルアミンからなる群から選択されるアミン供与体由来のアミン基を用いて、トランスアミナーゼ(TA)酵素により、式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩へとアミノ化され、
【化3】
ここで式L-(2)中のR及びRは、互いに独立して、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルから選択され、
更に次の工程で、Ca(OH)が、式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩の水溶液に添加され、それによりこれが反応して式L-(3)のL-グルホシネートカルシウム塩となり、放出した低沸点C~Cアルキルアミンが蒸留除去され、
【化4】
また、更に次の工程で、(NHSOが式L-(3)のL-グルホシネートのカルシウム塩の残りの水溶液に添加され、それにより、前記式L-(3)のL-グルホシネートカルシウム塩のカルシウムイオンが硫酸アンモニウムのアンモニウムイオンと置換され、沈殿した硫酸カルシウム(セッコウ)が濾過除去され、
【化5】
最終工程で、透明な濾液から水を除去することによって前記所望の式L-(1)のL-グルホシネートアンモニウム塩が得られる、方法。
【請求項12】
前記全ての方法工程が、単一の容器内でワンポットプロセスとして連続的に実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記個々の方法工程が、個別の容器内でマルチポットプロセスとして連続的に実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
(ヘテロ)芳香族若しくは(ヘテロ)脂肪族、(ヘテロ)環式、又は直鎖/分岐鎖状の開放鎖の飽和又は不飽和部分であり、任意選択的に1つ以上のヘテロ原子を含む有機部分Rを有する、式(6)の有機カルボン酸RCOONHのアンモニウム塩を得るための方法であって、
(A)第1の工程であって、式(5)のカルボン酸の中間体カルシウム塩が、Ca(OH)を添加し、続いて追い出されたC~Cアルキルアミンを蒸留除去することによって、式(4)のカルボン酸のC~Cアルキルアンモニウム塩から産生され、ここで式(4)中のR及びRは、互いに独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルから選択される、第1の工程を特徴とし、
(B)第2の工程で、式(6)のカルボン酸RCOONHのアンモニウム塩が、硫酸アンモニウムを添加し、続いて沈殿したセッコウCaSOを濾過除去することにより、式(5)のカルボン酸カルシウム塩のカルシウムイオンを追い出すことによって得られる、方法。
【化6】
【請求項15】
式(5)のカルボン酸の中間体カルシウム塩が、式(4)のカルボン酸の第二級C~Cアルキルアンモニウム塩から産生され、ここで式(4)中のR及びRは、互いに独立して、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルから選択される、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除草剤グルホシネートのL-異性体を調製及び入手するための方法に関する。本発明は、D,L-グルホシネートのラセミ混合物からL-異性体を調製及び入手するのに好適である。本発明は、D,L-グルホシネートのラセミ混合物から得られたL-異性体の収率を最適化するのに特に好適である。
【0002】
更に、本発明は、酸性化合物のアルキルアンモニウム塩を対応するアンモニウム塩に変換することを目的とする方法にも概ね適用可能である。
【背景技術】
【0003】
除草剤グルホシネート(IUPAC名:(2RS)-2-アミノ-4-[ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル]酪酸又は4-[ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル]-DL-ホモアラニン(CAS登録番号51276-47-2)、及び一般名称DL-4-[ヒドロキシル(メチル)ホスフィノイル]-DL-ホモアラニネート)は、非選択性の葉面散布除草剤であり、毒物学又は環境的観点から最も安全な除草剤の1つとみなされている。
【0004】
特に、グルホシネート-アンモニウム(IUPAC名:アンモニウム(2RS)-2-アミノ-4-(メチルホスフィナト)酪酸(CAS登録番号77182-82-2))は、既知の農学的に許容可能なその塩である。
【0005】
グルホシネートアンモニウム及びその除草活性は、例えばF.Schwerdtle et al.Z.Pflanzenkr.Pflanzenschutz,1981,Sonderheft IX,pp.431-440によっても説明されている。
【0006】
Hoerlein et al.のRev.Environ.Contam.Toxicol.(Vol.138,1994)“Glufosinate(phosphinothricin),a natural amino acid with unexpected herbicidal properties”は、グルタメート合成阻害剤のグルホシネートについて考察している。
【0007】
米国特許第4,168,963号明細書には、除草活性を有するリン含有化合物が記載されており、中でも、特に、ホスフィノスリシン(2-アミノ-4-[ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル]ブタン酸(一般名:グルホシネート))及びその塩は、農芸化学(agrochemistry)(農芸化学(agricultural chemistry))分野で商業的に重要になっている。
【0008】
グルホシネートはラセミ体であり、以下の構造(1)によって表される。
【化1】
【0009】
更なるグルホシネートは2つのエナンチオマーのラセミ体であり、そのうちの一方のみが十分な除草活性を示す(例えば、米国特許第4265654号明細書及び日本特許第92448/83号公報参照)。L-グルホシネートはD-グルホシネートよりもはるかに強力である(Ruhland et al.(2002)Environ.Biosafety Res.1:29-37)。
【0010】
現在のグルホシネートの商業的化学合成法から、L-及びD-グルホシネートのラセミ混合物が得られる(Duke et al.2010 Toxins 2:1943-1962)。
【0011】
ラセミ体としてのグルホシネート及びその塩は、Basta(商標)及びLiberty(商標)の商品名で市販されている。
【0012】
IUPAC名(2S)-2-アミノ-4-[ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル]酪酸(CAS登録番号35597-44-5)であり、グルホシネート-Pとも呼ばれるL-グルホシネートは、商業的に入手することもでき、又は例えば、米国特許第10260078B2号明細書、国際公開第2006/104120号パンフレット、米国特許第5530142号明細書、欧州特許第0248357A2号明細書、同第0249188A2号明細書、同第0344683A2号明細書、同第0367145A2号明細書、同第0477902A2号明細書、同第0127429号明細書及びJ.Chem.Soc.Perkin Trans.1,1992,1525-1529に記載されるとおりに調製することができる。
【0013】
しかしながら、ラセミ体の、従来の、つまり動的速度論的分割(国際公開第18108794号パンフレットにおけるものなど)、若しくは酵素触媒ラセミ体分割(例えば欧州特許第0054897号明細書におけるPGアミダーゼによるものなど)のいずれかに基づく、又は不斉水素化などの不斉合成(欧州特許第0238954号明細書又は同第1864989号明細書におけるものなど)に基づく、エナンチオ選択的合成は、入手困難な出発物質又はその他の助剤などの追加の助剤を必要とするか、或いは、合成をより複雑にし、その結果より高価にする追加の合成工程を必要とする。したがって、これらのアプローチのいずれも、未だに、ラセミ材料の合成と比較して費用競争力があると証明されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このため、活性なエナンチオマーL-グルホシネートに対する必要性を考慮すると、主に、より好ましくは専ら、活性なL-形態を産生する方法が依然として必要とされる。
【0015】
更に、単純且つ費用効率の高い方法で、特に、十分に定評がある、既に登録されており、農業的に信頼性の高い塩であるグルホシネートのアンモニウム塩を得ることに対する必要性も存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
L-グルホシネートを産生するための、新規且つ費用効率の高い方法が本明細書で説明される。特に、そのアンモニウム塩を得るため。
【0017】
グルホシネートが初めてラセミ混合物として合成された。市販のグルホシネート含有除草製品の大半が、L-グルホシネートとD-グルホシネートとの50:50混合物を含んでいるが、上述したような観察される除草活性は、L-グルホシネートによって実行され、D-グルホシネートは活性ではなく、その代わりに、キラル除草不活性化合物を環境中に解放する。
【0018】
したがって、専ら、又は少なくとも主に、グルホシネートの活性L-異性体を提供する、効率的、単純、及び費用効率の高い方法が必要とされている。
【0019】
L-グルホシネートを得るための従来技術の1つの方法は、D,L-グルホシネートの脱ラセミ化によるものである。
【0020】
例えば、国際公開第2017151573号パンフレットは、2工程プロセス(スキーム1)での式DL-(1)のラセミグルホシネート-アンモニウムの脱ラセミ化を記載しており、第1の工程は、D-グルホシネートからPPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)への酸化的脱アミノ化を伴い、第2の工程は、1つ以上のアミン供与体に由来するアミン基を用いたPPOから式L-(1)のL-グルホシネートアンモニウムへの特異的アミノ化を伴う。
【0021】
スキーム1:
【化2】
しかし、これらの2つの反応を組み合わせることにより、L-グルホシネートの割合は、ラセミグルホシネート混合物から出発して実質的に増加し、つまり実質的にL-グルホシネートからなる組成物が得られることになると言われているが、着目すべきプロセスの不備が依然として存在する。
【0022】
反応の全体像は、式L-(1)のL-グルホシネートアンモニウムは、化学量論比で得られないが、副生成物として、L-グルホシネートのアミン供与体のアンモニウム塩も得られることを明らかにする。
【0023】
例えば、アミン供与体がスキーム1aに示されるイソプロピルアミンである場合、これにより、塩、すなわち所望の式L-(1)のL-グルホシネート-アンモニウムと未登録の式L-(2)のL-グルホシネート-イソプロピルアンモニウムとの混合物が得られる。
【0024】
スキーム1a:
【化3】
したがって、得られたL-グルホシネートアンモニウム塩L-(1)が、続いて精製又は実質的に精製されて除草剤として使用され得るとしても、式L-(2)のL-グルホシネート-イソプロピルアンモニウム塩は、同様にそれから利益を得て、同様に所望のL-グルホシネートアンモニウム塩を得るために更に処理される必要がある。
【0025】
一般に、L-グルホシネートの副生成物を更に処理することは、その性質によっては、プロセス全体に魅力がなくなるほど冗長で、手間がかかり、且つ時間のかかるものとなる可能性を有する。
【0026】
国際公開第2017151573号パンフレットに記載されるとおり、適切なアミン供与体の選択は、D-グルホシネートからL-グルホシネートへの経済的な変換に重要である。供与体の利用可能性及び費用、供与体の回収の可能性、並びに所望のL-グルホシネートからの副生成物、例えばケト副生成物の分離などの様々な問題が列挙されている。
【0027】
国際公開第2017151573号パンフレットでは、フェニルエチルアミン、L-アスパルテート又はラセミアスパルテート、L-グルタメート又はラセミグルタメート、L-アラニン又はラセミアラニン、sec-ブチルアミン及びイソプロピルアミンなどの低価格のアミン供与体を含むいくつかの異なるアミン供与体を受容するトランスアミナーゼ酵素(enyzme)が使用され得ることが推奨されている。L-グルホシネートから副産物のアセトンを除去することによって、反応を完了に導くことができるため、後者は、任意選択的に有利であると言われている。しかしながら、依然として、いくつかの、場合によっては後続する、問題に直面することになる。
【0028】
例えば、アミノ化の副生成物、例えば供与体分子から得られるケト化合物を、反応混合物から連続的に除去することができない場合は、第1に、反応の平衡を移動させて所望の反応を完了に導くためにアミン供与体を極めて過剰に適用する必要があり、第2に、所望のL-グルホシネートから超過したアミン供与体を後で除去するために追加の精製工程が必要となる。
【0029】
しかしながら、供与体分子から得られたケト化合物を反応混合物から容易に連続的に除去することができる場合であっても、イソプロピルアミンから得られたアセトンの場合と同様に、その他の後続する問題と直面することになる。
【0030】
例えば、アルキルアミンが供与体として用いられる場合、このアルキルアミンはアンモニアよりも強力な塩基であるため、望ましくない副反応として、出発アンモニウム塩からのアンモニアの追い出しが観察される。これにより、L-グルホシネートのアルキルアンモニウム塩の形成がもたらされるが、これは、規制当局の承認を受けていないため、農業用途に、また市販の組成物には使用することができない。
【0031】
これを考慮すると、従来技術で選択される好ましいアミノ供与体はグルタメートであったが、これは、アミノ基転移反応から得られるケト酸副産物、すなわちα-ケトグルタレートが、十分に実証され且つ周知される方法で単離及び/又は精製することができ、また、医薬品、食品添加物、及び生体材料の合成を含む様々な用途に更に使用することができるためである。更に、これは、任意選択的に反応中で再利用するために、ラセミグルタメート又はL-グルタメートのいずれかへと化学的に変換することが可能であり、化学的還元的アミノ化が、ケト基からアミンへの変換を伴うことが言及されている。
【0032】
しかし、こうした言及にも関わらず、イソプロピルアミンは好ましいアミン供与体であるとみなされなかった。
【0033】
更に、上記で指摘したとおり、すぐに使用することが可能な野生型のトランスアミナーゼ酵素を容易に発見できる証拠はない。非常に多くの場合で、所望のアミン供与体を通常は受容せず、所望の基質を最終的に受容するためには進化する必要があるこうした野生型トランスアミナーゼが、更なる課題を呈し得る。
【0034】
上記で示す問題を考慮すると、解決すべき問題は、最初に、不要なL-グルホシネートのアミン供与体塩を混合物から効果的に分離すること、及び、続いて、更に、より良好なことに、これをL-グルホシネートのアンモニウム塩L-(1)へと直接変換し、それにより所望のアンモニウム塩の収率を増加させること、の両方である。
【0035】
本発明の溶液とは、一面では、アミン供与体の正しい選択、及び経済的且つ環境に優しい方法でアミン供与体を除去し、それにより、所望のL-グルホシネートアンモニウム塩のより高い化学量論的収率を得る工程を指す。
【0036】
驚くべきことに、容易、単純、環境保護及びコストの面で効率的な方法を可能とする、L-グルホシネート、及び、特に、都合良く望ましいD,L-グルホシネートラセミ体由来のL-グルホシネートのアンモニウム塩を得るための新規な方法が発見された。
【0037】
したがって、第1に、アミン供与体が脂肪族C~Cアルキルアミンから選択される必要があることが判明した。これは、式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩をもたらす。
【0038】
こうした脂肪族C~Cアルキルアミンを選択することの利点は、その低い沸点のために、これらが単蒸留によって容易に除去され得ることである。
【0039】
スキーム1.A:
【化4】
したがって、式L-(2)中のR及びRは、互いに独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、及びペンチルからなる群から選択される。
【0040】
好ましくは、脂肪族C~Cアルキルアミンは、脂肪族第二級C~Cアルキルアミンである。より好ましくは、脂肪族第二級C~Cアルキルアミンは、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、アミルアミン、sec-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、及びsec-ヘキシルアミンからなる群から選択される。
【0041】
アミノ基転移後の次の課題は、不要な副生成物であるL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩L-(2)を所望のL-グルホシネートアンモニウム塩L-(1)から成功裏に分離し、それにより、好ましくはL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩L-(2)を所望のL-グルホシネートアンモニウム塩L-(1)へと効率的に変換することである。
【化5】
【0042】
この問題は、第1の中間工程でCa(OH)を添加することによって解決することができ、これは、L-グルホシネートアルキルアンモニウム塩L-(2)をカルシウム塩L-(3)に変換し、それにより放出した低沸点C~Cアルキルアミンが容易に蒸留除去され得る。
【0043】
スキーム2-1:
【化6】
より弱い塩基であるL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩L-(2)中のアルキルアミンは、より強い塩基であるCa(OH)によってその塩から追い出され、式L-(3)のL-グルホシネートのカルシウム塩が形成される。低沸点を有する放出されたアミン供与体C~Cアルキルアミンが、続いて蒸留除去され得る。
【0044】
第2の中間工程で、式L-(3)のL-グルホシネートのカルシウム塩の残った水溶液に、硫酸アンモニウムが添加されることになり、これは水溶液中で解離し、硫酸イオンは非水溶性の硫酸カルシウム(CaSO)(一般にその水和セッコウ又はプラスターとして知られる)を形成し、これは沈殿し、これに対し、所望のL-グルホシネートアンモニウム塩L-(1)は水溶液中に溶解した状態を維持する。
【0045】
スキーム2-2
【化7】
セッコウは、無害、非毒性、及び本質的に安全な材料であり、濾過によって簡単に除去することが可能である。今や所望の式L-(1)のL-グルホシネートアンモニウム塩を含有する残った水溶液から、溶媒を除去することによって純粋な塩を得ることが可能であり、アンモニウム塩L-(1)はほぼ定量的収率で得られる。
【0046】
D-グルホシネートをL-グルホシネートに変換するための方法の個々の好ましい実施形態を、本明細書の下記で説明する。
【0047】
実施形態は、D-及びL-グルホシネートのラセミ混合物の低コスト原料を除草製品へと変換するための好ましく好適な手段を組み込み、ここで除草活性のあるL-エナンチオマーであるL-グルホシネートは大幅に強化されている。
【0048】
本発明の方法は、変換するための手段及び方法、並びに所望のL-エナンチオマーの割り当て及びその単離を強化するための手段を含む。
【0049】
本方法はいくつかの工程を含み、これらは、1つの単一容器中で連続して行われ得る(ワンポットプロセス)か、又はいくつかの個別の容器中で連続的に行われ得る(マルチポットプロセス)かのいずれかである。
【0050】
DAAO酵素
第1の工程は、D-グルホシネート(D-及びL-グルホシネートのラセミ混合物中に存在し得る)からPPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)への酸化的脱アミノ化である。
【0051】
スキーム1-1
【化8】
この工程は、好ましくは、D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素によって触媒される。
【0052】
しかしながら、D-グルホシネートからPPOへの酸化的脱アミノ化は、いくつかのクラスの酵素によって触媒されてもよいが、酵素以外の方法で行われてもよい。可能な酵素としては、DAAO、DAAD(D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(DAAD)酵素)、及びD-アミノ酸デヒドラターゼが挙げられる。
【0053】
一実施形態では、DAAO酵素は、D-グルホシネートからPPOへの変換を触媒するために用いられる。こうした反応は、以下の化学量論を有する:
D-グルホシネート+O+HO=>H+NH+PPO。
【0054】
反応緩衝水溶液における酸素の可溶性は、グルホシネートの可溶性と比較して一般的に低いため、効率的なプロセスのためには、酸素がDAAO反応の期間全体にわたって導入されなければならない。
【0055】
最初に、D-グルホシネートは、30g/L超から最大140g/Lで存在する。
【0056】
酸素は、典型的には、初期は約8mg/Lで存在するが、反応のために十分な量の酸素が途切れずに継続することを可能にするために、反応全体にわたって添加される。水は、典型的には500g/L超で存在するが、これは必須ではない。
【0057】
いくつかのDAAO酵素が当該技術分野で知られており、これらは、基質としてのD-グルホシネートを受容することが可能であり、反応を誘導するのに十分な活性を提供する限り、本明細書で説明される方法に使用され得る。本方法に使用することができるDAAO酵素としては、活性が増加するように修飾された、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、トリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)、フザリウム(Fusarium)種、カンジダ(Candida)種、シゾササッカロミセス(Schizosasaccharomyces)種、バーティシリウム(Verticillium)種、ネオレンティヌス・レピデウス(Neolentinus lepideus)、トリコデルマ・レーシ(Trichoderma reesei)、トリコスポロン・オレアギノサス(Trichosporon oleaginosus)などに由来するものが挙げられる。
【0058】
特定の出発酵素は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2017/151573号パンフレットに、特に第7頁から開始して、記載及び同定されている。
【0059】
追加のDAAO酵素は、配列相同性及び機能的スクリーンを含む様々な方法で同定可能である。本明細書では、DAAO酵素が変異DAAO酵素である場合、これは、基質としてD-グルホシネートを受容できる必要がある。その他のDAAO酵素も、同様に、D-グルホシネートを受容し、より高い活性を有するように修飾され得る。同様に、既知のDAAO酵素を突然変異誘起によって改善することができ、且つ/又は新規なDAAO酵素を同定することができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、変異酵素は、本明細書に記載の方法で作製及び試験が可能である。変異DAAO酵素(例えばロドトルラ・グラシリス(Rhodotorula gracilis)由来の)は、野生型配列と比較して、変異配列中の位置に、1つの変異、2つの変異、3つの変異、又は4つ以上の変異(例えば、4つの変異、5つの変異、6つの変異、7つの変異、8つの変異、9つの変異、若しくは10の変異、又はそれ以上)を含み得る。本明細書ではまた、国際公開第2017/151573号パンフレットにおける開示を参照する。
【0061】
その他の好適なDアミノ酸オキシダーゼは、真菌源から入手可能である。
【0062】
示されるように、DAAO酵素は、本発明の方法で使用するために同定及び試験することが可能である。酵素が基質としてD-グルホシネートを受容するがどうかを決定するために、生成物形成の酸素電極アッセイ(Hawkes,2011)、比色分析アッセイ(Berneman A,Alves-Ferreira M,Coatnoan N,Chamond N,Minoprio P(2010)Medium/High Throughput D-Amino Acid Oxidase Colorimetric Method for Determination of D-Amino Acids.Application for Amino Acid Racemases.J Microbial Biochem Technol 2:139-146)、及び/又は直接測定(高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、又は液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)などによる)を用いることができる。
【0063】
DAAO酵素によって触媒される反応には酸素が必要である。いくつかの実施形態では、反応率を高めるために、ヘッドスペース中に、又は反応槽内にガスを散布することによって、のいずれかで、酸素、酸素富化空気、酸素富化ガス流、又は空気を反応に導入する。
【0064】
DAAO酵素がD-グルホシネートからPPOへの変換を触媒するときは、過酸化水素(H)が発生する。これは、酵素及び生体内変換のその他の構成要素(例えば生成物及び/又は基質)に有害である場合がある。したがって、一実施形態では、DAAO酵素に加えてカタラーゼなどの酵素を使用して、過酸化水素の除去を触媒することができる。カタラーゼは、以下の化学量論で過酸化水素の分解を触媒する:2H=>2HO+O
【0065】
いくつかの実施形態では、過酸化水素は、触媒性及び非触媒性の分解反応を用いて除去することが可能である。例えば、過酸化水素は、光熱及び/又はpHを用いた非触媒性の分解反応によって除去することが可能である。過酸化水素は、例えば遷移金属及びその他の剤、例えばヨウ化カリウムを用いる触媒性の分解反応によっても除去することが可能である。過酸化水素の除去に加えて、カタラーゼを用いることで酸素(O)も生成される。DAAOが機能するには酸素が必要であるため、カタラーゼによる酸素の生成は、DAAO酵素を用いたD-グルホシネートからPPOへの変換の促進を補助することができる。
【0066】
その他の酵素を用いて、D-グルホシネートからPPOへの変換を触媒してもよい。例えば、基質としてD-グルホシネートを受容するDAAD酵素は、以下の化学量論で使用することができる:D-グルホシネート+HO+受容体=>NH+還元受容体+PPO。
【0067】
DAADが用いられる方法では、DAAD触媒反応は、酸化還元補因子の再生を含み得ることが理解される。これは、還元受容体がD-グルホシネートからより多くの電子を受容することができるように、還元受容体を酸化させることを伴う。
【0068】
D-グルホシネートからPPOへの実質的に完全な(80%超、85%超、90%超、若しくは95%超、又は80~100%、85~99%、90~99%、若しくは95~99%)変換は、24時間以内、18時間以内、12時間以内、又は8時間以内に起こり得る。
【0069】
TA酵素
第2の工程は、1つ以上のアミン供与体由来のアミン基を用いた、トランスアミナーゼ(TA)酵素による、PPOから式L-(1)のL-グルホシネートアンモニウム塩及び式L-(2)のアルキルアンモニウム塩への特異的アミノ化である。
【0070】
スキーム1-2
【化9】
この第2の工程は、例えばトランスアミナーゼ(TA)酵素、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(LAAD)酵素を用いた、又は化学変換によるPPOからL-グルホシネートへの変換を伴う。
【0071】
好ましい一実施形態では、方法は、TAにより触媒される反応である。
【0072】
トランスアミナーゼ(TA)は、一般的には医薬産業及び精密化学産業用のキラルアミンの産生にとって重要な酵素である。これらの産業で使用するための新規なTAmが、培養微生物からの活性誘導法及び相同配列検索から、環境DNAライブラリのキーモチーフ及びメタゲノムマイニングを用いた検索までを含む様々なアプローチを使用して発見されている(Kelly et al.(2020)Appl Microbiol Biotech 104:4781-4794)。
【0073】
反応が、アミン供与体及び/又はトランスアミナーゼの不在下でD-グルホシネートがPPOへと実質的に変換される2段階プロセスとして実施される場合、第2段階におけるPPOの出発量は、典型的には30g/L~140g/Lの範囲にわたる。反応が1段階プロセスで実施される場合、PPOの出発量は、典型的には1g/L未満であり、反応中のPPOの最高レベルは、典型的には25g/L未満である。アミン供与体は、最初は、ラセミグルホシネートの出発量よりも1~6倍モル過剰で存在する。
【0074】
本明細書に記載される方法で有用なTAとしては、大腸菌(Escherichia coli)(UniProt P22256)由来のgabTトランスアミナーゼが挙げられ、これは、基質としてのPPOとの所望の反応を触媒することが示されている(Bartsch et al.(1990)Appl Environ Microbiol.56(1):7-12)。別の酵素は、イソプロピルアミンをアミン供与体として使用して、より高い速度で所望の反応を触媒するように進化している(Bhatia et al.(2004)Peptide Revolution:Genomics,Proteomics & Therapeutics,Proceedings of the Eighteenth American Peptide Symposium,Ed.Michael Chorev and Tomi K.Sawyer,July 19-23,2003,pp.47-48)。更に、ストレプトマイセス・ハイグロスコピカス(Streptomyces hygroscopicus)、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)などといった多数の微生物由来のTA酵素を、本明細書に記載される方法の実施に使用することができる。
【0075】
所望される場合、酵素は、それらの活性を増加させる突然変異誘起によっても進化できる。変異TA酵素は、Schulz et al.,Appl Environ Microbiol.(1990)Jan.56(1):1-6に概説されるアッセイ、及び/又はHPLC、LC-MS、若しくは類似の製品による生成物の直接測定によって、所望の活性に関して選択することができる。
【0076】
本方法で使用するための更なるTA酵素は、Prozomix Limited(Northumberland,United Kingdom)、SyncoZymes(Shanghai,China)、Evocatal(Monheim am Rhein,Germany)、Codexis(Redwood City,CA)、又はAbcam(Cambridge,United Kingdom)によって販売されるTAの群を、所望の活性に関してスクリーニングすることによって同定することができる。或いは、配列相同性を用いて、新規なTA酵素を同定することもできる。
【0077】
最終的に、TA酵素はまた、所望の反応を触媒することが可能な生物からも同定でき、また更には、より良好な選択性及びより高い生産量を有する経済的な産生を可能にする酵素工学によって更に修正及び最適化され得る。
【0078】
後者は、例えば参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2020/025577号パンフレット中で行われ、これは改善されたオメガ-トランスアミナーゼ(ω-TA)活性を有するタンパク質、改善されたω-TA活性を有するそれぞれのタンパク質をコードする核酸分子、並びにキラルアミン及びアミノ酸の立体選択的合成、又はエナンチオマー混合物中のキラルアミン異性体を増加させるための方法を説明する。特に、それぞれの野生型ωTAと比較して、改善された反応速度、改善された基質受容、及び改善された比活性度を有し、したがって、経済効率の高いアミノ化生成物の産生プロセスの開発を可能にする修飾をそのアミノ酸配列中に含むω-トランスアミナーゼ(ω-TA)変異体が提供される。これらの変異体は、エナンチオマー的に強化された、ほぼ純粋又は純粋なホスホ-アミノ酸の化合物、例えばグルホシネートを産生し得る。
【0079】
国際公開第2020025577号パンフレット中の好ましいω-TA変異体は、(S)-アミンをエナンチオマー過剰で含み、したがって(S)-グルホシネートをエナンチオマー過剰で得るために特に好適な組成物の産生を可能にし、ここでグルホシネートに対して(S)-エナンチオマーという用語は、同じ所望のL-グルホシネートを同定する。好都合なことに、それぞれのω-TA変異体は、組成物中の(R)-エナンチオマーの量を同時に低減させるため、得られる不活性なグルホシネートのエナンチオマーはより少なくなる。
【0080】
PPOからL-グルホシネートへの実質的に完全な変換は、24時間以内、18時間以内、12時間以内、又は8時間以内に起こり得る。この文脈で、実質的に完全なとは、PPOからL-グルホシネートへの変換が、約80%超、約85%超、約90%超、約95%超、約98%超、又は約99%超(又は約80~約100%、約85~約100%、約90~約100%、若しくは約95~約99%)であることを意味する。
【0081】
アミン供与体
アミン供与体分子とは、アミン基をアミン受容体分子に提供し、それによってアミン供与体分子のアミン基がカルボニル基となる分子を含むアミン基である。
【0082】
本発明で選択されるアミン供与体分子は、C~Cアルキルアミンである。
【0083】
上記で詳細に説明したとおり、アミン供与体は、その低い沸点のため、単蒸留によって容易に除去され得るために、脂肪族C~Cアルキルアミンから選択される。
【0084】
好ましくは、アミン供与体は、第二級脂肪族C~Cアルキルアミンから選択される。
【0085】
したがって、本発明の一実施形態では、脂肪族第二級C~Cアルキルアミンは、好ましくは、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、アミルアミン、sec-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、及びsec-ヘキシルアミンからなる群から選択される。
【0086】
本発明のより好ましい実施形態では、脂肪族第二級C~Cアルキルアミンは、イソプロピルアミン又はsec-ブチルアミンのいずれかである。
【0087】
特に好ましい脂肪族第二級C~Cアルキルアミンは、イソプロピルアミンであり、これは式L-(2a)のL-グルホシネートのイソプロピルアンモニウム塩をもたらす。
【0088】
スキーム1a:
【化10】
Kelly et al.(2017,Chem.Rev.2018,118,1,349-367)は、例えば、アラニンが、酵素による広範な受容、及びピルベート副産物を除去するための様々な選択肢に関して、TA触媒反応のためのアミン供与体として評判が高いことを証明したことを記載している。しかしながら、アラニンの使用により、出発物質の側で好ましくない反応平衡がもたらされることが指摘される。後に、Kelly et al.((2020)Appl Microbiol Biotech 104:4781-4794)は、既知のS-選択性TAのもの全体にわたりよく分散した配列を有するTAの進化的多様性を説明している。そのうちの1つ(「pQR2189」と呼ばれる)は、アミノ供与体イソプロピルアミン(「IPAm」)を受容する能力を示した。
【0089】
イソプロピルアミンの利点は、その許容できる化学薬品価格、及び副産物を除去できることの容易さだけではなく、変換率の改善における大幅な進歩もある。
【0090】
イソプロピルアミンは、本発明の方法でアミノ供与体分子として用いられる場合、ω-TAの作用によりアセトンに変換される。アセトンは、比較的低温で蒸発するという利点をもたらす揮発性化合物である。これは、反応が起きている間に反応混合物からω-TAによって生成されたアセトンを除去することを可能にし、反応の平衡が、本発明のアミンの生成方法によって生成された所望のアミンに向かって移動するという有利な効果をもたらす。これにより、1つの反応パートナーが欠けていることでω-TAによって触媒される逆反応が低減するため、所望のアミンを大量に得ることができる。
【0091】
上述の国際公開第2020025577号パンフレットは、2-ブチルアミン及びイソプロピルアミンなどのアミノ供与体分子として用いられるアルキルアミンにも言及している。
【0092】
TAに対するアミン供与体としての役割にあるイソプロピルアミンは、アミン供与体としてイソプロピルアミン及びその他の様々な化合物を用いることにより、ケト酸からの非天然アミノ酸のエナンチオ選択的合成における様々なトランスアミナーゼの挙動を開示する、Park et al.(2013,Organic & Biomolecular Chemistry 11,6929-6933)などの他の文献で見出すことができる。
【0093】
好ましくは、アミンを生成するためのアミン供与体分子は、10g/L(グラム/リットル)~250g/L、より好ましくは15g/L~200g/L、更により好ましくは17g/L~180g/Lの量で提供される。
【0094】
例示的な実施形態
本明細書の以下では、本発明を更に定義するための例示的であるが非限定的な実施形態を記載する。
【0095】
式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩から式L-(1)のL-グルホシネートアンモニウム塩を得るための方法であって、
【化11】
ここで式L-(2)中のR及びRは、互いに独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルから選択され、
方法は、以下の工程:
工程1:Ca(OH)を、L-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩L-(2)の水溶液に添加し、それにより、L-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩(L-2)が反応してL-グルホシネートカルシウム塩L-(3)となり、それにより放出した低沸点C~Cアルキルアミンが蒸留除去される、工程
工程2:(NHSOをL-グルホシネートのカルシウム塩L-(3)の残りの水溶液に添加し、それにより、L-グルホシネートL-(3)カルシウムのカルシウムイオンが硫酸アンモニウムのアンモニウムイオンと置換され、沈殿した硫酸カルシウム(セッコウ)が濾過除去される、工程
工程3:透明な濾液から水を除去することによって所望のアンモニウム塩L-(1)を単離する工程、を特徴とする、方法。
【0096】
工程1の蒸留が70℃超~130℃、好ましくは75~120℃、及び具体的には80~110℃の温度で実施される上述の方法。これに関連して、蒸留は、好ましくは大気圧(別名、標準圧)下で実施する。蒸留は、減圧下、好ましくは100mbar~大気圧未満、より好ましくは100mbar~1000mbar未満、及び具体的には100mbar~900mbarで実施してもよい。これに関連して、蒸留は、20~110℃、又は30~120℃の温度で実施してもよい。
【0097】
工程2が、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、及びこれらの混合物からなる群から選択されるアルコール、具体的にはメタノールの添加を更に含む、上述の方法。これに関連して、アルコールは、好ましくは25~75℃、より好ましくは30~70℃、更により好ましくは35~65℃、及び具体的には40~60℃の温度で添加される。
【0098】
工程2が工程1に続いて、濾過工程を除いて実施される、上述の方法。
【0099】
2工程プロセスで式DL-(1)のグルホシネート-アンモニウムを脱ラセミ化することによって、式L-(2)のL-グルホシネート-アルキルアンモニウム塩が得られ、
【化12】
式中、第1の工程で、D-グルホシネートからPPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)への酸化的脱アミノ化が、D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素を用いて実施され、
第2の工程で、PPOが、1つ以上のアミン供与体由来のアミン基を用いて、トランスアミナーゼ(TA)酵素により、式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩へとアミノ化される、上記の方法。
【0100】
第2の工程で、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、アミルアミン、sec-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、及びsec-ヘキシルアミンからなる群から選択される脂肪族第二級C~Cアルキルアミンであるアミン供与体の存在下でトランスアミナーゼ(TA)酵素と反応させることにより、式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩が得られる、上述の方法。好ましくは、アミン供与体が、イソプロピルアミン又はsec-ブチルアミンから選択される第二級脂肪族C~Cアルキルアミンであり、より好ましくはイソプロピルアミンである。
【0101】
式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩中のC~Cアルキルアンモニウムイオンが、本明細書で上述される脂肪族C~Cアルキルアミンのアンモニウム塩である、本明細書で上述される方法。好ましくは、式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩中のC~Cアルキルアンモニウムイオンは、イソプロピルアミンアンモニウム又はsec-ブチルアミンアンモニウム、より好ましくはイソプロピルアミンアンモニウムである。
【0102】
DAAO酵素が、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)(UniProt P80324)、トリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)(UniProt Q99042)、ネオレンティヌス・レピデウス(Neolentinus lepideus)(KZT28066.1)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)(XP_006968548.1)、又はトリコスポロン・オレアギノサス(Trichosporon oleaginosus)(KLT40252.1)由来の酵素から選択される、上述の方法。
【0103】
好ましくは、DAAO酵素は変異DAAOであり、より好ましくは、変異DAAOはロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)由来の配列に基づく変異DAAOである。
【0104】
TA酵素がω-トランスアミナーゼである、上述の方法。
【0105】
好ましくは、TA酵素は、アルスロバクター(Arthrobacter)種、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)JS2F(S)、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)JS64(S)、V.フルビアリス(V.fluvialis)JS17(S)、シュードモナス(Pseudomonas)種KNK425(S)、アルカリゲネス・デニトリフィカンス(Alcaligenes denitrificans)Y2k-2(S)、メソリゾビウム(Mesorhizobium)種LUK(S)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)SC6394(S)、モラクセラ・ラクナータ(Moraxella lacunata)WZ34(S)、ジャニバクター・テラエ(Janibacter terrae)DSM13953(S)、シュードモナス・シコリー(Pseudomonas cichorii)DSM50259(S)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)ATCC49838(S)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)KNK08-18(S)、シュードモナス(Pseudomonas)種ACC(S)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)NBRC14164(S)、バチルス・ハロトレランス(Bacillus halotolerans)(S)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)亜種、ステルコリス(stercoris)(S)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)亜種、インアクオソルム(inaquosorum)(S)、バチルス・エンドフィティカス(Bacillus endophyticus)(S)、リゾビウム・ラディオバクター(Rhizobium radiobacter)(S)、クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)DSM30191(S)、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)(S)Ingram et al.(2007)、アルスロバクター・シトレウス(Arthrobacter citreus)(S)、カウロバクター・クレセンタス(Caulobacter crescentus)(S)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)(S)、パラコックス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)(S)、ポラロモナス(Polaromonas)種JS666(S)、オクロバクテリウム・アンスロピ(Ochrobactrum anthropi)(S)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)(S)、アセトバクター・パステウリアヌス(Acetobacter pasteurianus)(S)、バークホルデリア・ヴェトナメンシス(Burkholderia vietnamensis)(S)、ハロモナス・エロンガタ(Halomonas elongata)(S)、バークホルデリア・グラミニス(Burkholderia graminis)(S)、サーモミクロビウム・ロゼウム(Thermomicrobium roseum)(S)、スファエロバクター・サーモフィルス(Sphaerobacter thermophilus)(S)、ゲオバチルス・サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)(S)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)(S)、バチルス・ミコイデス(Bacillus mycoides)(S)、ハロモナス(Halomonas)種CSM-2(S)、ロドスピリルム科(Rhodospirillaceae)細菌(S)、ラブレンジア(Labrenzia)種LAB(S)、アフィピア(Afipia)種P52-10(S)、オセアニバクルム・インディクム(Oceanibaculum indicum)(S)、イルマトバクター・コッキネウス(Ilumatobacter coccineus)(S)、バリオボラックス(Variovorax)種KK3(S)、パラバークホルデリア・カリベンシス(Paraburkholderia caribensis)(S)、ヒドロゲノファーガ・パレロニ(Hydrogenophaga palleronii)(S)、ソリルブロバクター・ソリ(Solirubrobacter soli)(S)、キネオスポリア(Kineosporia)種R_H_3(S)、ロゼオモナス・デゼルティ(Roseomonas deserti)(S)、シノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)(S)、ボセア・ルピン(Bosea lupine)(S)、ボセア・バビロビエ(Bosea vaviloviae)(S)、シュードアシドボラクス・インテルメディウス(Pseudacidovorax intermedius)(S)、バークホルデリア(Burkholderia)種UYPR1.413(S)、)、エシェリキア・コライ(Escherichia coli)K12(S)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)(S)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)(S)、シュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)(S)、シリシバクター・ポメロイ(Silicibacter pomeroyi)(S)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)KD131(S)、ルエゲリア(Ruegeria)種TM1040(S)、メソリゾビウム・ロティ(Mesorhizobium loti)MAFF30399(S)、又はバチルス・アンシラシス(Bacillus anthracis)(S)から選択されるS-選択的ω-トランスアミナーゼ酵素である。
【0106】
より好ましくは、TA酵素は変異ω-トランスアミナーゼである。
【0107】
最も好ましくは、TAは、アルスロバクター(Arthrobacter)種又はバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来の配列に基づく変異ω-トランスアミナーゼである。
【0108】
特に、好ましい選択されるω-トランスアミナーゼ変異体は、国際公開第2020/025577号パンフレットに記載される。
【0109】
式DL-(1)のグルホシネート-アンモニウムを脱ラセミ化することによって式L-(1)のL-グルホシネートアンモニウム塩を得るための方法であって、開始工程で、D-グルホシネートからPPO(2-オキソ-4-(ヒドロキシ(メチル)ホスフィノイル)酪酸)への酸化的脱アミノ化が、D-アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)酵素を用いて実施され、次の工程で、PPOが、エチルアミン、N-プロピルアミン、イソプロピルアミン、N-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、アミルアミン、sec-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、及びsec-ヘキシルアミンからなる群から選択されるアミン供与体由来のアミン基を用いて、トランスアミナーゼ(TA)酵素により、式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩へとアミノ化され、
【化13】
ここで式L-(2)中のR及びRは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルから選択され、
更に次の工程で、Ca(OH)が、式L-(2)のL-グルホシネートC~Cアルキルアンモニウム塩の水溶液に添加され、それによりこれが反応して式L-(3)のL-グルホシネートカルシウム塩となり、放出した低沸点C~Cアルキルアミンが蒸留除去され、
【化14】
また、更に次の工程で、(NHSOが式L-(3)のL-グルホシネートのカルシウム塩の残りの水溶液に添加され、それにより、式L-(3)のL-グルホシネートカルシウム塩のカルシウムイオンが硫酸アンモニウムのアンモニウムイオンと置換され、沈殿した硫酸カルシウム(セッコウ)が濾過除去され、
【化15】
また、最終工程で、透明な濾液から水を除去することによって所望の式L-(1)のL-グルホシネートアンモニウム塩が得られる、方法。
【0110】
全ての方法工程が、単一の容器内でワンポットプロセスとして連続的に実施される、本明細書で上述される方法。
【0111】
個々の方法工程が、個別の容器内でマルチポットプロセスとして連続的に実施される、本明細書で上述される方法。
【0112】
蒸留工程が70℃超~130℃、好ましくは75~120℃、及び具体的には80~110℃の温度で実施される上述の方法。これに関連して、蒸留は、好ましくは大気圧(別名、標準圧)下で実施する。蒸留は、減圧下、好ましくは100mbar~大気圧未満、より好ましくは100mbar~1000mbar未満、及び具体的には100mbar~900mbarで実施してもよい。これに関連して、蒸留は、20~110℃、又は30~120℃の温度で実施してもよい。
【0113】
(NHSOが添加される場合、工程は、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、及びこれらの混合物からなる群から選択されるアルコール、具体的にはメタノールの添加を更に含む、上述の方法。これに関連して、アルコールは、好ましくは25~75℃、より好ましくは30~70℃、更により好ましくは35~65℃、及び具体的には40~60℃の温度で添加される。
【0114】
(NHSOの添加が蒸留工程に続いて、濾過工程を除いて実施される、上述の方法。
【0115】
(ヘテロ)芳香族若しくは(ヘテロ)脂肪族、(ヘテロ)環式、又は直鎖/分岐鎖状の開放鎖の飽和又は不飽和部分であり、任意選択的に1つ以上のヘテロ原子を含む有機部分Rを有する、式(6)の有機カルボン酸RCOONHのアンモニウム塩を得るための方法であって、
(A)第1の工程であって、式(5)のカルボン酸の中間体カルシウム塩が、Ca(OH)を添加し、続いて追い出されたC~Cアルキルアミンを蒸留除去することによって、式(4)のカルボン酸のC~Cアルキルアンモニウム塩から産生され、ここで式(4)中のR及びRは、互いに独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルから選択される、第1の工程を特徴とし、
(B)第2の工程で、式(6)のカルボン酸RCOONHのアンモニウム塩が、硫酸アンモニウムを添加し、続いて沈殿したセッコウCaSOを濾過除去することにより、式(5)のカルボン酸カルシウム塩のカルシウムイオンを追い出すことによって得られる、方法。
【化16】
【0116】
式(5)のカルボン酸の中間体カルシウム塩が、式(4)のカルボン酸の第二級C~Cアルキルアンモニウム塩から産生され、ここで式(4)中のR及びRは、互いに独立して、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルから選択される、本明細書で上述される方法。
【0117】
工程(A)の蒸留が70℃超~130℃、好ましくは75~120℃、及び具体的には80~110℃の温度で実施される、本明細書で上述される方法。これに関連して、蒸留は、好ましくは大気圧(別名、標準圧)下で実施する。蒸留は、減圧下、好ましくは100mbar~大気圧未満、より好ましくは100mbar~1000mbar未満、及び具体的には100mbar~900mbarで実施してもよい。これに関連して、蒸留は、20~110℃、又は30~120℃の温度で実施してもよい。
【0118】
工程(B)が、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、及びこれらの混合物からなる群から選択されるアルコール、具体的にはメタノールの添加を更に含む、本明細書で上述される方法。これに関連して、アルコールは、好ましくは25~75℃、より好ましくは30~70℃、更により好ましくは35~65℃、及び具体的には40~60℃の温度で添加される。
【0119】
工程(B)が工程(A)に続いて、濾過工程を除いて実施される、本明細書で上述される方法。
【0120】
調製方法
上述のとおり、本発明のL-グルホシネートの調製方法は、数工程のプロセスを伴い、このプロセスは、第1の工程でL-グルホシネート塩中の弱(C~C)アルキルアンモニウムイオンをカルシウムによって置換し、続いて放出した低沸点の(C~C)アルキルアミンを蒸留除去するための、Ca(OH)などの強塩基を含むカルシウムの使用を特徴とする。続いて、第2の工程で、イソプロピルアミンが除去された、L-グルホシネートのカルシウム塩L-(3)の残った水溶液に、硫酸アンモニウムを添加する。
【0121】
硫酸アンモニウムは水溶液中で解離し、硫酸イオンは、一般にセッコウとして知られる非水溶性の硫酸カルシウム(CaSO)を形成し、これは沈殿し、所望のアンモニウム塩L-(1)は、ほぼ定量的収率で得られる。
【0122】
スキーム2:
【化17】
沈殿したセッコウ(又はプラスター)は、溶液から容易に濾過除去することができ、アンモニウム塩L-(1)を含有する残った水溶液から、溶媒を除去することによって純粋な塩を得ることが可能である。
【0123】
スキーム2aに示される本発明の好ましい実施形態では、好ましいアミン供与体は31.4℃の沸点を有するイソプロピルアミンであり、したがって、これは、水溶液から容易に除去が可能である。
【0124】
スキーム2a:
【化18】
この新規な本発明のプロセス工程は、D,L-グルホシネートの脱ラセミ化プロセスに組み込まれ、これは、上述したD-グルホシネートからPPOへの酸化的脱アミノ化から開始する。続くアミノ基転移反応工程の後で、L-グルホシネートをPPOから直接得ることができるが、相当な量の副生成物、すなわち式L-(2a)のL-グルホシネートイソプロピルアンモニウムも得られ、これは、本明細書の上記で概説したように、続いて本発明に従い更に処理されることとなる。
【0125】
本明細書で上述したように、本発明の方法は、L-グルホシネートの調製に使用及び適用されるが、この変換は、広く適用が可能であり、グルホシネート又はリン化合物に特に限定されるものではなく、下記のスキームXに示すように、式(6)のカルボン酸の任意のアンモニウム塩を得るために容易に適用することも可能であり、式中のRは、任意選択的に1つ以上のヘテロ原子を含む、有機(ヘテロ)芳香族若しくは(ヘテロ)脂肪族、(ヘテロ)環式、又は直鎖/分岐鎖の開放鎖の、任意の飽和又は不飽和部分である。本明細書では、同様に、中間体Ca塩(5)が、式(4)のカルボン酸のC~Cアルキルアンモニウム塩(ここで、式(4)中のR及びRは、互いに独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルから選択される)から、Ca(OH)を添加し、続いて追い出されたC~Cアルキルアミンを蒸留除去することによって生成され、第2の工程では、最初に硫酸アンモニウムを添加し、続いて沈殿したセッコウを濾過除去することによって、カルボン酸の所望の(非置換)アンモニウム塩(6)も得ることができる。
【0126】
スキームX:
【化19】
スキームX中のRは、任意の有機部分であってよく、式(4)中のR及びRは、互いに独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルから選択される。
【0127】
個々の例示及び図示の目的のため、本明細書の下記のスキームXaで調製実施例を示し、ここで塩は2-フェニルプロパン酸のイソプロピルアンモニウム塩(7)であり、つまり、アニオンは非リンカルボキシレートであり、これは、Ca(OH)を添加してイソプロピルアミンを除去した後で中間体Ca塩(8)と共に形成され、硫酸アンモニウムを添加しセッコウが沈殿した後で2-フェニルプロピオン酸のアンモニウム塩(9)へと変換される。
【0128】
スキームXa:
【化20】
このプロセスは、「ワンポット」で行われてもよく、又は複数の容器中で、すなわち別個の変換で行われてもよい。
【0129】
反応が単一の容器又は槽で行われる場合、TA酵素は、DAAO酵素と共に添加されてもよく、又は後の時点で、例えば、DAAO酵素に酸化的脱アミノ化の一部又はほぼ全てを触媒させた後で添加されてもよい。
【0130】
酵素は、いくつかの方法によって反応に添加され得る。
【0131】
1つのアプローチは、例えば大腸菌(E.coli)、S.セレビシエ(S.cerevisiae)、P.パストリス(P.pastoris)などの微生物中で酵素を発現させ、全細胞を全細胞生体触媒として反応に添加することである。別のアプローチは、酵素を発現させ、微生物を溶解し、細胞溶解物を添加することである。更に別のアプローチは、溶解物から酵素を精製、又は部分的に精製し、純粋な、又は部分的に純粋な酵素を反応に添加することである。上記のアプローチと組み合わせ可能な更なるアプローチは、酵素を支持体に固定化することである(例示的な戦略は、Datta et al.(2013)3 Biotech.Feb;3(1):1-9に概説される)。反応に複数の酵素が必要な場合、酵素を1つ又はいくつかの微生物中で発現させることができ、これは全ての酵素を単一の微生物内で発現させることを含む。
【0132】
反応に複数の酵素が必要な場合、酵素を1つ又はいくつかの微生物中で発現させることができ、これは全ての酵素を単一の微生物内で発現させることを含む。
【0133】
上記のアプローチと組み合わせ可能な更なるアプローチは、酵素を支持体に固定化することである(例示的な戦略は、Datta et al.(2013)3 Biotech.Feb;3(1):1-9に概説される)。Datta et al.で概説されているとおり、また限定することを意図するものではないが、酵素を、単独で又は組み合わせで、例えば、酵素自体の凝集体を含む天然若しくは合成のポリマー、又は無機支持体に、吸着させることもでき、又は共有結合又は非共有結合させることもでき、又はその内部に閉じ込めることもできる。一旦固定化されたら、酵素及び支持体を、バルク溶液中に分散させてもよく、又は床、カラムに充填させてもよく、又は反応溶液と酵素とを相互作用させるための任意の数の類似の手段。本明細書で想定されるDAAO反応に曝気処理は重要であるため、酵素固定化のために気泡カラム又は類似するものを用いてよい。例えば、反応混合物を、固定化された酵素のカラムに流通させてもよく(流通反応)、固定化された酵素の固定床又はカラムに添加し、反応させてから、反応槽の底部又は頂部から除去してもよく(栓流)、又は分散した固定化酵素に添加して反応させ、続いて固定化酵素を濾過、又は遠心分離などによって除去してもよい(バッチ)。このように、本発明の方法においては、酵素固定化のための任意の方法を用いてよい。
【0134】
DAAO、TA、及び/又はその他の反応は、緩衝液中で行われ得る。
【0135】
生体内変換反応に一般に使用される例示的な緩衝液としては、トリス、ホスフェート、若しくはグッド緩衝液のうちのいずれか、例えば2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES);N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA);ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES);N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES);β-ヒドロキシ-4-モルホリンプロパンスルホン酸(MOPSO);コラミンクロリド;3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS);N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES);2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸(TES);4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES);3-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸(DIPSO);アセトアミドグリシン、3-(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ(-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(TAPSO);ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(POPSO);4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)(HEPPSO);3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPS);トリシン;グリシンアミド;ビシン;又は3-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]プロパン-1-スルホン酸(TAPS)が挙げられる。追加の例示的な緩衝液の処方は、Whittall,J.and Sutton,P.W.(eds)(2012)Front Matter,in Practical Methods for Biocatalysis and Biotransformations 2,John Wiley & Sons,Ltd,Chichester,UKで見ることができる。アンモニウムも緩衝液としての役割を果たすことができる。
【0136】
DAAO、TA、及び/又はその他の反応は、(ラセミグルホシネートアンモニウムの添加に起因して存在するアンモニウム以外の)緩衝液を添加することなく、又は低レベル(1mM未満)の緩衝液を添加して行われ得る。特に、固定化されたDAAO及びTAは、1mM未満のリン酸緩衝液の存在下、且つラセミグルホシネートアンモニウムの添加に起因して存在するアンモニウム以外の緩衝液の不在下で、安定且つ活性であり得る。
【0137】
いくつかの実施形態では、反応は、pH4~pH10(例えば、pH6~pH9、例えば約pH7.5~pH8)であり得る所定のpH範囲内で起こる。
【0138】
いくつかの実施形態では、反応は所定の温度で起こる。温度は、室温から溶媒の沸点までの間、最も典型的には室温から50℃までの間の一点に維持してよい。
【0139】
示されるように、本明細書に記載の方法は、(L-グルホシネートとD-グルホシネートとのラセミ混合物ではなく)実質的に純粋なL-グルホシネートの組成物を提供する。実質的に純粋なL-グルホシネートとは、D-グルホシネートの約80%超、約85%超、約90%超、約95%超、約96%超、約97%超、約98%超、又は約99%超がL-グルホシネートに変換され、組成物中に存在するD-グルホシネートとL-グルホシネートとの合計と比較して約80%超、約85%超、約90%超、約95%超、約96%超、約97%超、約98%超、又は約99%超のL-グルホシネートを有する組成物をもたらすことを意味する。これに関連して、用語「~超」とは、最大100%の範囲を指すことを理解されたい。
【0140】
任意選択的に、L-グルホシネートは、生体内変換反応混合物から部分的又は完全に精製され得る。多くの代替的手順を用いてもよく、これとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:a)-20℃から溶液の沸点までの様々な温度でエーテル若しくは水などの好適な溶媒を用いる、生体内変換混合物からの結晶化、b)生体内変換混合物の真空濃縮、及びそれに続く、-20℃から溶液の沸点までの様々な温度でエーテル若しくは水などの好適な溶媒を用いる、こうして生成された濃縮物の結晶化、又はc)生体内変換混合物の真空濃縮、及びそれに続く、DCM、メタノール(MeOH)、EtOAc、アンモニア(NH)、若しくはこれらの混合物、例えばDCM/MeOH若しくはEtOAC/MeOH/NHなどの溶媒中で、シリカゲル若しくはオクタデシルシランリガンドなどの固定化相を通した、こうして生成された移動相としての濃縮物の分別精製。或いは、生体内変換混合物は、雑草の予防又は駆除のためのそのまま(且つ/又は様々な補助剤を添加して)用いてもよい。酵素は、支持されている場合は、単純な濾過によって除去することが可能であり、或いは、溶液中で遊離している場合は、限外濾過を使用することによって、セライト若しくはカーボンなどの吸収剤を使用することによって、又は当業者に周知の様々な技術により変性させることによって、除去することが可能である。L-グルホシネートは、イオン交換クロマトグラフィー又はアミノ酸の保持に効果的であることが知られているその他の固相によって、或いはグルホシネートの非水溶性塩を形成することが知られている好適な有機又は無機対イオンを添加することによりカチオン又はアニオン塩として結晶化させることによって、反応混合物から単離することができる。こうした塩は、当業者に周知の標準法によって、製剤に好適なグルホシネートの形態へと変換され得る。或いは、L-グルホシネートは、低級アルコール、ケトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルなどの水混和性溶媒を添加することによる結晶化を介して、双性イオン、カチオン塩、又はアニオン塩として単離され得る。或いは、グルホシネートは、水の除去、メタノールなどの有機溶媒中の溶解、脱塩、続く双性イオンとしての結晶化、又は、変換、及びそれに続く許容可能な塩形態、例えばHCl塩又はアンモニウム塩としての結晶化、によって単離され得る。或いは、L-グルホシネート以外の成分の一部又は全部を、任意選択的に濃縮された生体内変換混合物から除去してもよく、続いてこの混合物を、雑草の予防又は駆除のためのそのまま(且つ/又は様々な補助剤を添加して)用いてもよい。或いは、生体内変換混合物は、雑草の予防又は駆除のためのそのまま(且つ/又は様々な補助剤を添加して)用いてもよい。任意選択的に、未反応のままのアミン供与体などの成分を、部分的又は完全に単離し、後続の反応で用いてもよい。任意選択的に、未反応のPPOを、部分的又は完全に単離し、ラセミグルホシネートへと化学変換し、後続の反応で用いてもよい。
【0141】
一実施形態では、L-グルホシネートは生体内変換混合物から単離されず、D-グルホシネート、PPO、及びL-グルホシネートを含む組成物が得られる。この組成物は、除草組成物としてそのまま使用され得る。
【0142】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態の説明のみを目的としており、用語は、例示的であることを意図し、限定を意図するものではないことを理解されたい。別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解するものと同じ意味を有する。本明細書で説明及び例示される個々の実施形態のそれぞれは、本発明の範囲又は趣旨から逸脱することなしに他のいくつかの実施形態のうちいずれかの特徴と容易に分離又は組み合わせの可能な個別の構成要素及び特徴を有する。任意の列挙される方法は、列挙される事象の順序どおりに実施してもよく、論理的に可能な任意の他の順序で実施してもよい。本明細書に記載されるものと類似又は均等の任意の方法及び材料を、本発明の実践又は試験に使用してもよいが、代表的な例示的方法及び材料を以下で説明する。
【0143】
以下の実施例は、限定としてではなく、例示として提供される。
【0144】
カルボン酸の所望のエナンチオマーのアンモニウム塩を得るための本発明の調製プロセスの有効性を、本明細書に示す以下の図で証明する。
【図面の簡単な説明】
【0145】
図1】L-イソプロピル-アンモニウムグルホシネートL-(2)のH-NMRスペクトル。
図2】L-アンモニウムグルホシネートL-(1)のH-NMRスペクトル。
図3】イソプロピル-アンモニウム2-フェニルプロピオネート(7)のH-NMRスペクトル。
図4】アンモニウム-2-フェニルプロピオネート(9)のH-NMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0146】
実施例1
L-イソプロピルアンモニウムグルホシネートL-(2)からL-アンモニウムグルホシネートL-(1)への変換:
【化21】
5.5g(30mmol)のL-ホスホノトリシン(phosphonothricin)L-(10)(Zeiss,H.-J.;J.Org.Chem.1991,56,1783)を、室温で、80mLの水及び1.9g(33mmol)のイソプロピルアミンに溶解した。溶液を室温で1時間攪拌し、0.5mLの透明溶液の試料を真空濃縮し、H-NMR分析に供した。得られた固体残渣のH-NMRスペクトル分析は、イソプロピルアンモニウム塩L-(2)が得られたことを確認した(図1を参照)。
【0147】
残留溶液に、75mLの水及び1.48g(20mmol)の水酸化カルシウムを添加した。カルシウム塩L-(3)のわずかに濁った溶液が得られた。標準圧下で、100mLの水を溶液から蒸留除去した。当初、沸点は88~95℃であり、後で、蒸留の終了に近づくと、100℃であった。1N-HSOでの蒸留液の滴定によって、最初に得られたイソプロピルアミンのうち1.85g(98%に相当する)が除去されたことが示され得る。
【0148】
Ca塩L-(3)の残留溶液を50℃に冷却し、50mLのメタノールで更に希釈した。2.64g(20mmol)の(NHSOを溶液に添加し、これを室温で終夜攪拌し、翌日、沈殿した白色固体のセッコウを濾過除去した。得られた透明な濾液を濃縮乾固させ、白色固体残渣(H-NMR、図2を参照)は、m.p.の融点が205℃(分解)のアンモニウム塩L-(1)(一水和物)6.2g(96%)をもたらした。左旋性化合物としてのそのエナンチオマー純度を、HPLC分析を介して、且つその旋光度((-)方向)によって実証した。
【0149】
実施例2
L-イソプロピルアンモニウム2-フェニルプロピオネート(7)からアンモニウム2-フェニルプロピオネート(9)への変換:
【化22】
4.5g(30mmol)の2-フェニルプロピオン酸及び1.9g(33mmol)のイソプロピルアミンを、室温で80mLの水に溶解し、溶液を室温で1時間攪拌した。得られた透明溶液の0.5mLの試料を取り、真空濃縮し、H-NMR分析に供した。固体残渣のH-NMRスペクトル分析は、イソプロピルアンモニウム塩(7)が得られたことを確認した(図3を参照)。
【0150】
溶液を75mLの水で希釈し、1.20g(16mmol)の水酸化カルシウムを添加した。このカルシウム塩(8)の懸濁液から、60mLの水を標準圧で蒸留除去した。当初、沸点は88~95℃であり、続いて、蒸留の終了に近づくと、100℃であった。1NのHSOでの蒸留液の滴定は、1.80g(96%)のイソプロピルアミンが水で除去されたことを示した。
【0151】
Ca塩(8)の残留懸濁液を50℃に冷却し、50mLのメタノールで希釈した。2.10g(16mmol)の(NHSOを懸濁液に添加し、続いてこれを室温で終夜攪拌した。翌日、沈殿した白色固体のセッコウを濾過除去した。得られた透明な濾液を、50mLのメチル-t-ブチルエーテルで洗浄し、水相を更に濃縮した。得られた無色の結晶質残渣は、4.2g(84%)の所期のアンモニウム塩(9)であることが示され、これはH-NMRによって確認された(図4を参照)。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】