(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】プロパントリカルボキシレート系可塑剤組成物およびこれを含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240319BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240319BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20240319BHJP
C07C 69/24 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L21/00
C08K5/11
C07C69/24
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560166
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 KR2022016617
(87)【国際公開番号】W WO2023075472
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】10-2021-0146516
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ヒュン・キュ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・ホ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウン・スク・キム
(72)【発明者】
【氏名】ソク・ホ・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】スン・テク・ウ
【テーマコード(参考)】
4H006
4J002
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB50
4H006KC12
4J002AA011
4J002AC001
4J002BB021
4J002BB061
4J002BB111
4J002BC021
4J002BD031
4J002BF031
4J002CF181
4J002CJ001
4J002CK021
4J002EH096
4J002FD010
4J002FD026
4J002FD030
(57)【要約】
本発明は、プロパントリカルボキシレートであり、アルキル基がヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールから由来することを特徴とし、これを樹脂に適用する場合、可塑化効率が高くなり、且つ優れた耐移行性、加熱減量および耐ストレス性を実現することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1のプロパントリカルボキシレートが1以上含まれたプロパントリカルボキシレート系組成物を含み、
前記プロパントリカルボキシレートのアルキル基は、ヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールを含むアルコール組成物から由来し、
前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、1-ヘキサノール、1-メチルペンタノール、2-メチルペンタノール、3-メチルペンタノール、4-メチルペンタノール、1,1-ジメチルブタノール、1,2-ジメチルブタノール、1,3-ジメチルブタノール、2,2-ジメチルブタノール、2,3-ジメチルブタノール、3,3-ジメチルブタノール、1-エチルブタノール、2-エチルブタノール、3-エチルブタノールおよびシクロペンチルメタノールからなる群から選択される2以上を含む、トリカルボキシレート系可塑剤組成物。
[化学式1]
【化1】
前記化学式1中、
R
1~R
3は、それぞれ独立して、n-ヘキシル基、分岐状ヘキシル基、シクロペンチルメチル基またはベンジル基である。
【請求項2】
前記プロパントリカルボキシレート系組成物は、下記化学式2~7のプロパントリカルボキシレートから選択される1以上を含む、請求項1に記載の可塑剤組成物。
[化学式2]
【化2】
[化学式3]
【化3】
[化学式4]
【化4】
[化学式5]
【化5】
[化学式6]
【化6】
[化学式7]
【化7】
前記化学式2~7中、
R
aは、それぞれ、n-ヘキシル基、分岐状ヘキシル基またはシクロペンチルメチル基であり、
R
bは、ベンジル基である。
【請求項3】
前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、分岐化度が2.0以下である、請求項1に記載の可塑剤組成物。
【請求項4】
前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、分岐化度が1.5以下である、請求項3に記載の可塑剤組成物。
【請求項5】
前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、1-ヘキサノール、2-メチルペンタノールおよび3-メチルペンタノールを含む、請求項1に記載の可塑剤組成物。
【請求項6】
前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、異性体混合物100重量部に対して、分岐状アルコールが40重量部以上含まれる、請求項1に記載の可塑剤組成物。
【請求項7】
前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、異性体混合物100重量部に対して、分岐状アルコールが50~95重量部含まれる、請求項1に記載の可塑剤組成物。
【請求項8】
前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、異性体混合物100重量部に対して、1-ヘキサノールが40重量部以下含まれる、請求項1に記載の可塑剤組成物。
【請求項9】
前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、1-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、3-メチルペンタノールおよびシクロペンチルメタノールを含む、請求項1に記載の可塑剤組成物。
【請求項10】
前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、異性体混合物100重量部に対して、シクロペンチルメタノールが20重量部以下含まれる、請求項9に記載の可塑剤組成物。
【請求項11】
前記ヘキシルアルコールの異性体混合物とベンジルアルコールとの重量比は、90:10~10:90である、請求項1に記載の可塑剤組成物。
【請求項12】
樹脂100重量部と、請求項1に記載の可塑剤組成物5~150重量部とを含む、樹脂組成物。
【請求項13】
前記樹脂は、ストレート塩化ビニル重合体、ペースト塩化ビニル重合体、エチレンビニルアセテート共重合体、エチレン重合体、プロピレン重合体、ポリケトン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ乳酸、天然ゴムおよび合成ゴムからなる群から選択される1種以上である、請求項12に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールから由来したアルキル基を有するプロパントリカルボキシレートを含む可塑剤組成物およびこれを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、可塑剤は、アルコールが、フタル酸およびアジピン酸といったポリカルボン酸と反応し、これに相当するエステルを形成する。また、人体に有害なフタレート系可塑剤の韓国内外の規制を考慮して、テレフタレート系、アジペート系、その他の高分子系などのフタレート系可塑剤の代わりに使用可能な可塑剤組成物に関する研究が続いている。
【0003】
一方、床材、壁紙、軟質および硬質シートなどのプラスチゾル業種、カレンダリング業種、押出/射出コンパウンド業種を問わず、このような環境にやさしい製品に対するニーズが増加しており、これに対する完成品別の品質特性、加工性および生産性を強化するために、変色および移行性、機械的物性などを考慮して、適切な可塑剤を使用する必要がある。
【0004】
このような様々な使用領域において業種別に求められる特性である引張強度、伸び率、耐光性、移行性、ゲル化性あるいは吸収速度などに応じて、PVC樹脂に、可塑剤、充填剤、安定剤、粘度低下剤、分散剤、消泡剤、発泡剤などの副原料などを配合する。
【0005】
一例として、PVCに適用可能な可塑剤組成物のうち、値段が相対的に安くて最も汎用的に使用されるジ(2-エチルヘキシル)テレフタレート(DEHTP)を適用する場合、硬度あるいはゾル粘度が高く、可塑剤の吸収速度が相対的に遅く、移行性およびストレス移行性も良好ではなかった。
【0006】
その改善策として、DEHTPを含む組成物として、ブタノールとのトランスエステル化反応の生成物を可塑剤として適用することが考えられるが、可塑化効率は改善するものの、加熱減量や熱安定性などが劣り、機械的物性が多少低下するなど、物性の改善が求められ、一般的に、他の二次可塑剤との混用によりこれを補完する方式を採用する以外には、現在のところ解決策がない状況である。
【0007】
しかし、二次可塑剤を適用する場合には、物性の変化に対する予測が難しく、製品単価が上昇する要因として作用する可能性があり、特定の場合以外には物性の改善が明確に示されず、樹脂との相溶性に問題を引き起こすなど、予想できない問題が発生するという欠点がある。
【0008】
また、前記DEHTP製品の劣悪な移行性と減量特性を改善するために、トリメリテート系の製品としてトリ(2-エチルヘキシル)トリメリテートやトリイソノニルトリメリテートといった物質を適用する場合、移行性や減量特性は改善するものの、可塑化効率が低下し、樹脂に適切な可塑化効果を与えるためには相当量投入しなければならないという問題がある。そのため、比較的単価が高い製品という点で、商用化が不可能な状況である。
【0009】
したがって、既存の製品としてフタレート系製品の環境的な問題を解決するための製品またはフタレート系製品の環境的な問題を改善するための環境にやさしい製品の劣悪な物性を改善した製品などの開発が求められる状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、可塑剤組成物として、アルキル基が、ヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールから由来したプロパントリカルボキシレートを含むことで、既存の可塑剤に比べて、機械的物性と耐ストレス性を同等以上の水準に維持し、且つ移行性、可塑化効率および加熱減量を改善することができる可塑剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、可塑剤組成物および前記可塑剤組成物を含む樹脂組成物を提供する。
【0012】
(1)具体的には、本発明は、下記化学式1のプロパントリカルボキシレートが1以上含まれたプロパントリカルボキシレート系組成物を含み、前記プロパントリカルボキシレートのアルキル基は、ヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールを含むアルコール組成物から由来し、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、1-ヘキサノール、1-メチルペンタノール、2-メチルペンタノール、3-メチルペンタノール、4-メチルペンタノール、1,1-ジメチルブタノール、1,2-ジメチルブタノール、1,3-ジメチルブタノール、2,2-ジメチルブタノール、2,3-ジメチルブタノール、3,3-ジメチルブタノール、1-エチルブタノール、2-エチルブタノール、3-エチルブタノールおよびシクロペンチルメタノールからなる群から選択される2以上を含むトリカルボキシレート系可塑剤組成物を提供する。
【0013】
[化学式1]
【化1】
前記化学式1中、
R
1~R
3は、それぞれ独立して、n-ヘキシル基、分岐状ヘキシル基、シクロペンチルメチル基またはベンジル基である。
【0014】
(2)本発明は、前記(1)において、前記プロパントリカルボキシレート系組成物は、下記化学式2~7のプロパントリカルボキシレートから選択される1以上を含む可塑剤組成物を提供する。
[化学式2]
【化2】
[化学式3]
【化3】
[化学式4]
【化4】
[化学式5]
【化5】
[化学式6]
【化6】
[化学式7]
【化7】
前記化学式2~7中、
R
aは、それぞれ、n-ヘキシル基、分岐状ヘキシル基またはシクロペンチルメチル基であり、
R
bは、ベンジル基である。
【0015】
(3)本発明は、前記(1)または(2)において、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、分岐化度が2.0以下である可塑剤組成物を提供する。
【0016】
(4)本発明は、前記(1)~(3)のいずれか一つにおいて、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、分岐化度が1.5以下である可塑剤組成物を提供する。
【0017】
(5)本発明は、前記(1)~(4)のいずれか一つにおいて、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、1-ヘキサノール、2-メチルペンタノールおよび3-メチルペンタノールを含む可塑剤組成物を提供する。
【0018】
(6)本発明は、前記(1)~(5)のいずれか一つにおいて、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、異性体混合物100重量部に対して、分岐状アルコールが40重量部以上含まれる可塑剤組成物を提供する。
【0019】
(7)本発明は、前記(1)~(6)のいずれか一つにおいて、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、異性体混合物100重量部に対して、分岐状アルコールが50~95重量部含まれる可塑剤組成物を提供する。
【0020】
(8)本発明は、前記(1)~(7)のいずれか一つにおいて、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、異性体混合物100重量部に対して、1-ヘキサノールが40重量部以下含まれる可塑剤組成物を提供する。
【0021】
(9)本発明は、前記(1)~(8)のいずれか一つにおいて、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、1-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、3-メチルペンタノールおよびシクロペンチルメタノールを含む可塑剤組成物を提供する。
【0022】
(10)本発明は、前記(1)~(9)のいずれか一つにおいて、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、異性体混合物100重量部に対して、シクロペンチルメタノールが20重量部以下含まれる可塑剤組成物を提供する。
【0023】
(11)本発明は、前記(1)~(10)のいずれか一つにおいて、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物とベンジルアルコールとの重量比は、90:10~10:90である可塑剤組成物を提供する。
【0024】
(12)本発明は、樹脂100重量部と、前記(1)~(11)のいずれか一つによる可塑剤組成物5~150重量部とを含む樹脂組成物を提供する。
【0025】
(13)本発明は、前記(12)において、前記樹脂は、ストレート塩化ビニル重合体、ペースト塩化ビニル重合体、エチレンビニルアセテート共重合体、エチレン重合体、プロピレン重合体、ポリケトン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ乳酸、天然ゴムおよび合成ゴムからなる群から選択される1種以上である樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一実施形態による可塑剤組成物は、樹脂組成物に使用する場合、既存の可塑剤に比べて、機械的物性と耐ストレス性を同等以上の水準に維持および改善し、且つ減量特性、移行性および可塑化効率などの物性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書および特許請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常のもしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0028】
用語の定義
本明細書で用いられている「組成物」という用語は、当該組成物の材料から形成された反応生成物および分解生成物だけでなく、当該組成物を含む材料の混合物を含む。
【0029】
本明細書で用いられている「ストレート塩化ビニル重合体」という用語は、塩化ビニル重合体の種類の一つであり、懸濁重合またはバルク重合などにより重合されたものを意味することができ、数十~数百マイクロメートルサイズを有する多量の気孔が分布された多孔性粒子の形態を有し、凝集性がなく、流動性に優れた重合体を意味する。
【0030】
本明細書で用いられている「ペースト塩化ビニル重合体」という用語は、塩化ビニル重合体の種類の一つであり、微細懸濁重合、微細シード重合、または乳化重合などにより重合されたものを意味することができ、数十~数千ナノメートルサイズを有する微細で緻密な空隙がない粒子として、凝集性を有し、流動性が劣る重合体を意味する。
【0031】
「含む」、「有する」という用語およびこれらの派生語は、これらが具体的に開示されているかそうでないかに関係なく、任意の追加の成分、ステップあるいは手続きの存在を排除することを意図しない。如何なる不確実性も避けるために、「含む」という用語の使用により請求されたすべての組成物は、逆に記述されない限り、重合体であるかあるいはその他のものであるかに関係なく、任意の追加の添加剤、補助剤、あるいは化合物を含むことができる。これとは対照的に、「で本質的に構成される」という用語は、操作性に必須でないもの以外は、任意のその他の成分、ステップあるいは手続きを任意の連続する説明の範囲から排除する。「で構成される」という用語は、具体的に記述されるか列挙されていない任意の成分、ステップあるいは手続きを排除する。
【0032】
測定方法
本明細書において、組成物内の成分の含量の分析は、ガスクロマトグラフィー測定により行い、Agilent社製のガスクロマトグラフィー機器(製品名:Agilent 7890 GC、カラム:HP-5、キャリアガス:ヘリウム(flow rate 2.4mL/min)、検出器(detector):F.I.D、注入量(injection volume):1μL、初期値:70℃/4.2min、終期値:280℃/7.8min、program rate:15℃/min)により分析する。
【0033】
本明細書において、「硬度(hardness)」は、ASTM D2240に準じて、25℃でのショア硬度(Shore「A」および/またはShore「D」)を意味し、3T 10sの条件で測定し、可塑化効率を評価する指標になることができ、低いほど可塑化効率に優れることを意味する。
【0034】
本明細書において、「引張強度(tensile strength)」は、ASTM D638方法に準じて、テスト機器であるU.T.M(メーカー名:Instron、モデル名:4466)を用いて、クロスヘッドスピード(cross head speed)を200mm/min(1T)で引っ張った後、試験片が切断される地点を測定し、下記の数学式1で計算する。
【0035】
[数学式1]
引張強度(kgf/cm2)=ロード(load)値(kgf)/厚さ(cm)×幅(cm)
【0036】
本明細書において、「伸び率(elongation rate)」は、ASTM D638方法に準じて、前記U.T.Mを用いて、クロスヘッドスピード(cross head speed)を200mm/min(1T)で引っ張った後、試験片が切断される地点を測定し、下記数学式2で計算する。
【0037】
[数学式2]
伸び率(%)=伸長後の長さ/初期の長さ×100
【0038】
本明細書において「移行損失(migration loss)」は、KSM-3156に準じて、厚さ2mm以上の試験片を得て、試験片の両面にガラスプレート(Glass Plate)を付着した後、1kgf/cm2の荷重を加える。試験片を熱風循環式オーブン(80℃)で72時間放置した後、取り出し、常温で4時間冷却させる。その後、試験片の両面に付着したガラスプレート(Glass Plate)を除去した後、ガラスプレートとSpecimen Plateをオーブンに放置する前と後の重量を測定し、移行損失量を下記数学式3によって計算する。
【0039】
[数学式3]
移行損失量(%)={(初期の試験片の重量)-(オーブン放置後の試験片の重量)/(初期の試験片の重量)}×100
【0040】
本明細書において、「加熱減量(volatile loss)」は、試験片を80℃で72時間作業した後、試験片の重量を測定する。
【0041】
[数学式4]
加熱減量(%)={(初期の試験片の重量)-(作業後の試験片の重量)/(初期の試験片の重量)}×100
【0042】
前記様々な測定条件の場合、温度、回転速度、時間などの詳細条件は、場合によって多少相違し得、相違する場合には、その測定方法および条件を別に明示する。
【0043】
以下、本発明に関する理解を容易にするために、本発明をより詳細に説明する。
【0044】
本発明の一実施形態によると、下記の化学式1のプロパントリカルボキシレートが1以上含まれたプロパントリカルボキシレート系組成物を含み、前記プロパントリカルボキシレートのアルキル基は、ヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールを含むアルコール組成物から由来し、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、1-ヘキサノール、1-メチルペンタノール、2-メチルペンタノール、3-メチルペンタノール、4-メチルペンタノール、1,1-ジメチルブタノール、1,2-ジメチルブタノール、1,3-ジメチルブタノール、2,2-ジメチルブタノール、2,3-ジメチルブタノール、3,3-ジメチルブタノール、1-エチルブタノール、2-エチルブタノール、3-エチルブタノールおよびシクロペンチルメタノールからなる群から選択される2以上を含むトリカルボキシレート系可塑剤組成物が提供される。
【0045】
【0046】
前記化学式1中、
R1~R3は、それぞれ独立して、n-ヘキシル基、分岐状ヘキシル基、シクロペンチルメチル基またはベンジル基である。
【0047】
前記可塑剤組成物は、1,2,3-プロパントリカルボン酸またはその誘導体とヘキシルアルコール混合物およびベンジルアルコールを含むアルコール組成物との直接エステル化反応、もしくはトリアルキル1,2,3-トリカルボキシレートと前記アルコール組成物とのトランスエステル化反応により生成される生成物であることができ、この時に適用されるヘキシルアルコールの混合物は、互いに異なる構造を有するヘキシルアルコールの混合物、すなわち、構造異性体の混合物であることができる。さらに具体的には、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、1-ヘキサノール、1-メチルペンタノール、2-メチルペンタノール、3-メチルペンタノール、4-メチルペンタノール、1,1-ジメチルブタノール、1,2-ジメチルブタノール、1,3-ジメチルブタノール、2,2-ジメチルブタノール、2,3-ジメチルブタノール、3,3-ジメチルブタノール、1-エチルブタノール、2-エチルブタノール、3-エチルブタノールおよびシクロペンチルメタノールからなる群から選択される2以上を含むことができる。
【0048】
上述のエステル化反応またはトランスエステル化反応において、反応物として使用されるアルコール組成物内のヘキシルアルコール混合物とベンジルアルコールとの組成比、もしくはヘキシルアルコール異性体混合物内に含まれたアルコールに応じて、前記化学式1のR1~R3のアルキル基が定められることができ、最終組成物には、前記3個のアルキル基に、ヘキシルアルコールの異性体アルキル基およびベンジル基がそれぞれ3個、2個または1個が結合した様々な組成物が含まれることができ、最終組成物内の成分の比率は、反応するヘキシルアルコール混合物内の各構造異性体成分の比率と、アルコール組成物内のヘキシルアルコールの異性体混合物とベンジルアルコールとの比率に応じて定められることができる。
【0049】
このように、トリカルボキシレート系可塑剤を適用するにあたり、アルキル基がヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールを含むアルコール組成物から由来したものを使用する場合には、アルキル基がヘキシルアルコールの異性体混合物のみから由来するものに比べて、改善した移行性、加熱減量および引張強度を示すことができ、アルキル基の炭素数が6に達しないアルコールから由来するものに比べて、より優れた機械的物性を提供することができる。より具体的には、引張強度、伸び率および加熱減量が大きく改善することができ、アルキル基の炭素数が6を超える場合に比べて、可塑化効率に優れることができ、耐移行性および耐ストレス性がより優れることができる。
【0050】
さらに具体的には、前記プロパントリカルボキシレート系組成物は、下記化学式2~7のプロパントリカルボキシレートから選択される1以上を含むことができ、特に好ましくは、下記化学式2~7のプロパントリカルボキシレートをすべて含むことができる。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
前記化学式2~7中、
Raは、それぞれ、n-ヘキシル基、分岐状ヘキシル基またはシクロペンチルメチル基であり、
Rbは、ベンジル基である。
【0058】
前記化学式2~7で表されるトリカルボキシレートは、すべてのアルキル基がヘキシルアルコール異性体混合物から由来したもの(化学式2)、2個のアルキル基はヘキシルアルコール異性体混合物から由来し、1個のアルキル基はベンジルアルコールから由来したもの(化学式3および4)、1個のアルキル基はヘキシルアルコール異性体混合物から由来し、2個のアルキル基はベンジルアルコールから由来したもの(化学式5および6)およびすべてのアルキル基がベンジルアルコールから由来したもの(化学式7)を意味する。本発明の可塑剤組成物内の前記化学式2~7で表される各トリカルボキシレートの相対的な比率は、エステル化反応またはトランスエステル化反応に使用されたアルコール組成物内のヘキシルアルコール異性体混合物とベンジルアルコールとの組成比に応じて異なり得る。
【0059】
一方、本発明のアルコール組成物に含まれるヘキシルアルコール異性体混合物は、分岐化度が、2.0以下であり、好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.0以下であることができる。具体的には、前記分岐化度は、1.5以下であることができ、1.3以下であることができ、さらに好ましくは1.1以下であることができる。また、0.1以上であることができ、0.2以上であることができ、0.3以上であることができ、最も好ましくは0.7以上であることができる。このヘキシルアルコールの異性体混合物の分岐化度は、ヘキシルアルコールから生成されたトリカルボキシレート系可塑剤組成物にも同様に維持されることができる。分岐化度が高すぎると、物性間のバランスが崩れて、製品が、いずれか一つ以上の評価基準に達しない問題が発生し得るが、好ましい範囲として1.5以下である場合には、機械的物性だけでなく、移行損失と加熱減量の改善がより最適化することができ、物性間のバランスに優れることができる。
【0060】
ここで、分岐化度とは、組成物内に含まれた物質に結合したアルキル基が何個の分岐炭素を有するかを意味することができ、当該物質の重量比に応じてその程度が決定されることができる。例えば、アルコール混合物に、n-ヘキシルアルコールが60重量%、メチルペンタノールが30重量%、そしてエチルブタノールが10重量%含まれていると仮定すると、前記各アルコールの分岐炭素数は、それぞれ、0、1および2であり、分岐化度は、[(60×0)+(30×1)+(10×2)]/100で計算されて0.5であることができる。一方、本発明の分岐化度を定義するにあたり、シクロペンチルメタノールの場合、分岐炭素数は、0とみなす。
【0061】
前記ヘキシルアルコール異性体混合物は、1-ヘキサノールおよび2-メチルペンタノールを含むことができる。このように、異性体混合物内に1-ヘキサノールと2-メチルペンタノールがともに含まれると、物性間のバランスを維持することができ、加熱減量の面で優れた効果を得ることができる。好ましくは、3-メチルペンタノールをさらに含むことができ、この場合、物性間のバランスが非常に優れる利点がある。
【0062】
前記2-メチルペンタノールを含む分岐状ヘキシルアルコールは、異性体混合物100重量部に対して、40重量部以上含まれることができ、50重量部以上、60重量部以上含まれることができ、好ましくは65重量部以上、70重量部以上含まれることができる。最大量としては、全て分岐状であることができ、99重量部以下、98重量部が含まれることができ、好ましくは95重量部以下、または90重量部以下含まれることができる。この範囲で、分岐状ヘキシルアルコールが含まれる場合には、機械的物性の改善を期待することができる。
【0063】
また、前記1-ヘキサノールの直鎖状アルコールは、異性体混合物100重量部に対して、50重量部以下含まれることができ、40重量部以下であることができ、好ましくは30重量部以下であることができる。前記1-ヘキサノールは、成分内に存在しないこともできるが、少なくとも2重量部以上含まれることができ、この場合、物性間のバランスを維持し、且つ機械的物性が改善する利点を有することができる。直鎖状アルコールは、理論上、優れた効果を奏するものと知られているが、本発明では、このような理論上の結果と相違する結果を得ており、分岐状のアルコールが含まれた異性体混合物が適用される場合がより物性のバランスに優れることを確認した。
【0064】
また、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物は、1-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、3-メチルペンタノールおよびシクロペンチルメタノールを含むことができる。好ましくは、シクロペンチルメタノールをさらに含むことで、物性間のバランスは維持し、且つ機械的物性および可塑化効率を小幅に改善することができる。
【0065】
この場合、前記シクロペンチルメタノールは、異性体混合物100重量部に対して、20重量部以下であることができ、好ましくは15重量部以下であることができ、存在しないか、これによる効果を得るための最小量は2重量部であることができる。
【0066】
具体的には、最終組成物内に分岐状アルキル基が、全体のアルキル基のうちどの程度の比率で存在するか、さらには、分岐状アルキル基のうち特定の分岐アルキル基が如何なる比率で存在するかなどの特徴によって、可塑化効率と移行性/減量特性の物性にバランスを取ることができ、引張強度と伸び率のような機械的物性および耐ストレス性も同等以上の水準を維持することができ、これは、上述のヘキシルアルコールの異性体の成分およびその成分比から達成することができる。
【0067】
これにより、既存のフタレート系製品の環境的な問題を除去し、且つ減量特性をより改善した製品の実現が可能であり、既存のテレフタレート系製品に比べて、移行性および減量特性を著しく改善した可塑剤組成物を提供することができる。
【0068】
一方、本発明のアルコール組成物内において、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物とベンジルアルコールとの重量比は、90:10~10:90であることができ、好ましくは90:10~30:70であることができ、特に好ましくは90:10~50:50であることができる。上述の範囲内で、可塑剤組成物の可塑化効率に優れ、且つ耐移行性および耐ストレス性に優れることができる。
【0069】
本発明の一実施形態による可塑剤組成物を製造する方法は、当業界において周知の方法であり、上述の可塑剤組成物を製造することができる場合であれば、特に制限なく適用可能である。
【0070】
例えば、1,2,3-プロパントリカルボン酸、その無水物または誘導体とヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールを含むアルコール組成物を直接エステル化反応させて前記組成物を製造することができ、トリアルキル1,2,3-プロパントリカルボキシレートとヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールを含むアルコール組成物をトランスエステル化反応させて組成物を製造することもできる。
【0071】
本発明の一実施形態による可塑剤組成物は、前記エステル化反応を適切に行って製造された物質であり、上述の条件に合致するものとして、各系別のトリカルボキシレート間の重量比などが好ましく合わせられる場合であれば、製造方法が特に制限されない。
【0072】
一例として、前記直接エステル化反応は、1,2,3-プロパントリカルボン酸またはその誘導体とヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールを含むアルコール組成物を投入した後、触媒を添加し、窒素雰囲気下で反応させるステップと、未反応の原料を除去するステップと、未反応の原料および触媒を中和(または非活性化)するステップと、不純物を除去(例えば、減圧蒸留など)濾過するステップとにより行われることができる。
【0073】
前記ヘキシルアルコールの異性体混合物の成分および成分の重量比は、上述のとおりである。前記ヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールを含むアルコール組成物は、酸100モル%に対して、200~900モル%、200~700モル%、200~600モル%、250~600モル%、あるいは270~600モル%範囲内で使用されることができ、このアルコールの含量を制御することにより、最終組成物内の成分比を制御することができる。
【0074】
前記触媒は、一例として、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、アルキル硫酸などの酸触媒、乳酸アルミニウム、フッ化リチウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化カルシウム、塩化鉄、リン酸アルミニウムなどの金属塩、ヘテロポリ酸などの金属酸化物、天然/合成ゼオライト、カチオンおよびアニオン交換樹脂、テトラアルキルチタネート(tetra alkyl titanate)およびそのポリマーなどの有機金属から選択される1種以上であることができる。具体的な例として、前記触媒は、テトラアルキルチタネートを使用することができる。好ましくは、活性温度が低い酸触媒として、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などが適切である。
【0075】
触媒の使用量は、種類に応じて相違することができ、一例として、均一触媒の場合には、反応物の総100重量%に対して、0.01~5重量%、0.01~3重量%、1~5重量%あるいは2~4重量%の範囲内、また、不均一触媒の場合には、反応物の全量の5~200重量%、5~100重量%、20~200重量%、あるいは20~150重量%の範囲内であることができる。
【0076】
この際、前記反応温度は、100~280℃、100~250℃、あるいは120~230℃の範囲内であることができる。
【0077】
他の一例として、前記トランスエステル化反応は、トリアルキル1,2,3-プロパントリカルボキシレートと、前記ヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールを含むアルコール組成物が反応することであり得る。不純物を最少化する観点で、前記トリアルキル1,2,3-プロパントリカルボキシレートのアルキル基は、ヘキシル基またはベンジル基であることが好ましく、この場合、前記トリカルボキシレートのヘキシル基が直鎖状である場合、ヘキシルアルコールの異性体混合物は、分岐状アルコールを含むか、トリカルボキシレートのヘキシル基が分岐状である場合、ヘキシルアルコールの異性体混合物は、直鎖状アルコールを含むようにして、最終的に得られる1,2,3-プロパントリカルボキシレートのアルキル基が直鎖状および分岐状のヘキシル基をいずれも含むようにすることができる。
【0078】
本発明で使用される「トランスエステル化反応」は、下記反応式1のように、アルコールとエステルが反応して、以下の反応式1に示されているように、エステルのR’’がアルコールのR’と互いに相互交換される反応を意味する。
【0079】
【0080】
一般的に、前記トランスエステル化反応が行われると、アルキル基が2種である場合には、アルコールのアルコキシドがエステル化合物に存在する3個のエステル(RCOOR’’)基の炭素を攻撃する場合;エステル化合物に存在する2個のエステル(RCOOR’’)基の炭素を攻撃する場合;エステル化合物に存在する1個のエステル(RCOOR’’)基の炭素を攻撃する場合;反応が行われていない未反応の場合;のように、4つの場合の数に応じて4タイプのエステル組成物が生成されることができる。
【0081】
ただし、本発明による可塑剤組成物に含まれるトリカルボキシレートの場合、エステル基の結合位置に応じて2個のエステル基が交換される場合および1個のエステル基が交換される場合に対しては、それぞれ3種ずつ形成されることができ、それによって、最終組成物内には、最大8種の化合物が混合されていることができる。しかし、本発明によるヘキシルアルコールの異性体混合物の場合、存在するアルキル基が2種以上であるため、その種類はより様々であることができる。
【0082】
また、前記トランスエステル化反応は、酸-アルコール間のエステル化反応に比べて、廃水の問題が引き起こされないという利点がある。
【0083】
前記トランスエステル化反応によって製造された混合物は、アルコールの添加量に応じて前記混合物の組成比を制御することができる。前記アルコールの添加量は、トリアルキル1,2,3-プロパントリカルボキシレート化合物100重量部に対して、0.1~200重量部、具体的には1~150重量部、さらに具体的には5~100重量部であることができる。参考までに、最終組成物内の成分比を決定するものは、前記直接エステル化反応でのように、アルコールの添加量であることができる。
【0084】
本発明の一実施形態によると、前記トランスエステル化反応は、120~190℃、好ましくは135~180℃、さらに好ましくは141~179℃の反応温度下で、10分~10時間、好ましくは30分~8時間、さらに好ましくは1~6時間行われることが好ましい。前記温度および時間の範囲内では、最終可塑剤組成物の成分比を効率的に制御することができる。この際、前記反応時間は、反応物を昇温した後、反応温度に逹した時点から計算されることができる。
【0085】
前記トランスエステル化反応は、酸触媒または金属触媒下で実施されることができ、この場合、反応時間が短縮する効果がある。
【0086】
前記酸触媒は、一例として、硫酸、メタンスルホン酸またはp-トルエンスルホン酸などであることができ、前記金属触媒は、一例として、有機金属触媒、金属酸化物触媒、金属塩触媒または金属自体であることができる。
【0087】
前記金属成分は、一例として、スズ、チタンおよびジルコニウムからなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらの2種以上の混合物であることができる。
【0088】
また、前記トランスエステル化反応の後、未反応のアルコールと反応副生成物などを蒸留させて除去するステップをさらに含むことができる。前記蒸留は、一例として、前記アルコールと反応副生成物の沸点の差を用いて別に分離する2ステップ蒸留であることができる。さらに他の一例として、前記蒸留は、混合蒸留であることができる。この場合、エステル系可塑剤組成物を所望の組成比で比較的安定的に確保することができる効果がある。前記混合蒸留は、未反応のアルコールと反応副生成物を同時に蒸留することを意味する。
【0089】
本発明の他の一実施形態によると、上述の可塑剤組成物および樹脂を含む樹脂組成物が提供される。
【0090】
前記樹脂は、当分野において周知の樹脂を使用することができる。例えば、ストレート塩化ビニル重合体、ペースト塩化ビニル重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン重合体、プロピレン重合体、ポリケトン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ乳酸、天然ゴム、合成ゴムおよび熱可塑性エラストマーからなる群から選択される1種以上の混合物などを使用することができるが、これに制限されるものではない。
【0091】
前記可塑剤組成物は、前記樹脂100重量部に対して、5~150重量部、好ましくは5~130重量部、または10~120重量部含まれることができる。
【0092】
一般的に、可塑剤組成物が使用される樹脂は、溶融加工またはプラスチゾル加工により樹脂製品として製造されることができ、溶融加工樹脂とプラスチゾル加工樹脂は、各重合方法に応じて異なるように生産されるものであることができる。
【0093】
例えば、塩化ビニル重合体は、溶融加工に使用される場合、懸濁重合などで製造され平均粒径が大きい固体状の樹脂粒子が使用され、このような塩化ビニル重合体は、ストレート塩化ビニル重合体と称し、プラスチゾル加工に使用される場合、乳化重合などで製造され微細な樹脂粒子としてゾル状態の樹脂が使用され、このような塩化ビニル重合体は、ペースト塩化ビニル樹脂と称する。
【0094】
この際、前記ストレート塩化ビニル重合体の場合、可塑剤は、重合体100重量部に対して5~80重量部の範囲内で含まれることが好ましく、ペースト塩化ビニル重合体の場合、重合体100重量部に対して40~120重量部の範囲内で含まれることが好ましい。
【0095】
前記樹脂組成物は、充填剤をさらに含むことができる。前記充填剤は、前記樹脂100重量部に対して、0~300重量部、好ましくは50~200重量部、さらに好ましくは100~200重量部であることができる。
【0096】
前記充填剤は、当分野において周知の充填剤を使用することができ、特に制限されない。例えば、シリカ、マグネシウムカーボネート、カルシウムカーボネート、硬質炭、タルク、水酸化マグネシウム、チタンジオキシド、マグネシウムオキシド、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムシリケート、マグネシウムシリケートおよび硫酸バリウムから選択される1種以上の混合物であることができる。
【0097】
また、前記樹脂組成物は、必要に応じて、安定化剤などのその他の添加剤をさらに含むことができる。前記安定化剤などのその他の添加剤は、一例として、それぞれ、前記樹脂100重量部に対して、0~20重量部、好ましくは1~15重量部であることができる。
【0098】
前記安定化剤は、例えば、カルシウム-亜鉛の複合ステアリン酸塩などのカルシウム-亜鉛系(Ca-Zn系)安定化剤またはバリウム-亜鉛(Ba-Zn系)安定化剤を使用することができるが、これに特に制限されるものではない。
【0099】
前記樹脂組成物は、上述のように、溶融加工およびプラスチゾル加工のいずれにも適用可能であり、例えば、溶融加工は、カレンダリング加工、押出加工、または射出加工が適用されることができ、プラスチゾル加工は、コーティング加工などが適用されることができる。
【0100】
実施例
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例をあげて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が以下で詳述する実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0101】
実施例1
攪拌機、凝縮器およびデカンターが設置された反応器に、1,2,3-プロパントリカルボン酸500.2g、ヘキシルアルコールの異性体混合物867.5g、ベンジルアルコール371.8gおよびテトラブチルチタネート(TnBT)1.5gを投入した後、窒素雰囲気下でエステル化反応させて反応を終了し、触媒および製品をアルカリ水溶液で中和し、未反応のアルコールおよび水分を精製して、最終的に可塑剤組成物を得た。
【0102】
ここで使用したヘキシルアルコールの異性体混合物のアルコール組成は、1-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、3-メチルペンタノールおよびシクロペンチルメタノールを10:40:45:5の重量比で混合したものである。
【0103】
実施例2
前記実施例1と同様に実施するが、ヘキシルアルコールの異性体混合物として、1-ヘキサノール、2-メチルペンタノールおよび3-メチルペンタノールが20:35:45の重量比で混合されたものを使用して可塑剤組成物を得た。
【0104】
実施例3
前記実施例1と同様に実施するが、ヘキシルアルコールの異性体混合物として、1-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、3-メチルペンタノールおよびシクロペンチルメタノールが10:45:30:15の重量比で混合されたものを使用して可塑剤組成物を得た。
【0105】
実施例4
前記実施例1で、ヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールの全重量は同様に使用するが、前記二つのアルコール間の重量比が90:10になるようにして可塑剤組成物を得た。
【0106】
実施例5
前記実施例1で、ヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールの全重量は同様に使用するが、前記二つのアルコール間の重量比が50:50になるようにして可塑剤組成物を得た。
【0107】
比較例1
ジオクチルフタレート(DOP、LG化学製)を可塑剤として使用した。
【0108】
比較例2
ジイソノニルフタレート(DINP、LG化学製)を可塑剤として使用した。
【0109】
比較例3
ジ(2-エチルヘキシル)テレフタレート(GL300、LG化学製)を可塑剤として使用した。
【0110】
比較例4
ジブチルテレフタレート(DBTP)、ブチル(2-エチルヘキシル)テレフタレート(BEHTP)およびジ(2-エチルヘキシル)テレフタレート(DEHTP)をそれぞれ6.3重量%、38.8重量%および54.9重量%で含む組成物(GL500、LG化学製)を可塑剤として使用した。
【0111】
比較例5
前記実施例1で1,2,3-プロパントリカルボン酸の代わりにクエン酸326.4gを使用した以外は、同様に実施して可塑剤組成物を得た。
【0112】
比較例6
前記比較例5でさらにエステル化反応の後、酢酸無水物を投入し、アセチル化した以外は、同様に実施して可塑剤組成物を得た。
【0113】
比較例7
前記実施例1でベンジルアルコールの使用なしにヘキシルアルコールの異性体混合物のみを1239.3g使用した以外は、同様に実施して可塑剤組成物を得た。
【0114】
比較例8
前記実施例1でヘキシルアルコールの異性体混合物の使用なしにベンジルアルコールのみを1239.3g使用した以外は、同様に実施して可塑剤組成物を得た。
【0115】
比較例9
前記実施例1でヘキシルアルコールの異性体混合物の代わりに2-メチルペンタノール単一化合物を867.5g使用した以外は、同様に実施して可塑剤組成物を得た。
【0116】
比較例10
前記実施例1でヘキシルアルコールの異性体混合物の代わりにn-ブタノール単一化合物を820g使用した以外は、同様に実施して可塑剤組成物を得た。
【0117】
比較例11
前記実施例1でヘキシルアルコールの異性体混合物の代わりに2-エチルヘキサノール単一化合物を1440g使用した以外は、同様に実施して可塑剤組成物を得た。
【0118】
前記実施例および比較例で使用されている酸とアルコールの種類をまとめて、下記表1に示した。
【0119】
【表1】
PTCA:プロパントリカルボン酸
CA:クエン酸
ACA:アセチルクエン酸
1-H:1-ヘキサノール
2-MP:2-メチルペンタノール
3-MP:3-メチルペンタノール
CYP-M:シクロペンチルメタノール
BA:ベンジルアルコール
【0120】
実験例1:シート性能の評価
実施例および比較例の可塑剤を使用して、ASTM D638に準じて、以下のような処方および作製条件で試験片を作製した。
【0121】
(1)処方:ストレート塩化ビニル重合体(LS100)100重量部、可塑第50重量部および安定剤(BZ-153T)3重量部
【0122】
(2)配合:98℃で700rpmでミキシング
【0123】
(3)試験片の作製:ロールミル(Roll mill)で160℃で4分間、プレス(press)で180℃で2.5分間(低圧)および2分間(高圧)作業して、1T、2Tおよび3Tシートを作製
【0124】
(4)評価項目
1)硬度(hardness):ASTM D2240に準じて、25℃でのショア硬度(Shore「A」および「D」を3T試験片で10秒間測定した。数値が小さいほど可塑化効率に優れるものと評価される。
【0125】
2)引張強度(tensile strength)および引張残率(tensile strength retention):ASTM D638の方法に準じて、テスト機器であるU.T.M(製造社;Instron、モデル;4466)を用いて、200mm/minのクロスヘッドスピード(cross head speed)で引っ張った後、1T試験片が切断される地点を測定した。引張強度は、以下のように計算した。
【0126】
引張強度(kgf/cm2)=ロード(load)値(kgf)/厚さ(cm)×幅(cm)
【0127】
引張残率は、100℃のオーブンで試験片を168時間放置した後、試験片に残存する引張強度の比率を測定するものであり、測定方法は、上述の引張強度の測定方法と同一である。
【0128】
3)伸び率(tensile elongation)および伸長残率(tensile elongation retention)の測定:ASTM D638の方法に準じて、前記U.T.Mを用いて、200mm/minのクロスヘッドスピード(cross head speed)で引っ張った後、1T試験片が切断する地点を測定した後、伸び率を以下のように計算した。
【0129】
伸び率(%)=伸長後の長さ/初期の長さ×100で計算した。
【0130】
伸長残率は、100℃のオーブンで試験片を168時間放置した後、試験片に残存する伸び率の比率を測定するものであり、測定方法は、上述の伸び率の測定方法と同一である。
【0131】
4)移行損失(migration loss)の測定:KSM-3156に準じて、厚さ2mm以上の試験片を得て、1T試験片の両面にガラスプレート(Glass Plate)を付着した後、1kgf/cm2の荷重を加えた。試験片を熱風循環式オーブン(80℃)で72時間放置した後、取り出し、常温で4時間冷却させた。その後、試験片の両面に付着されたガラスプレートを除去した後、ガラスプレートとSpecimen Plateをオーブンに放置する前と後の重量を測定し、移行損失量を以下のような式によって計算した。
移行損失量(%)={(常温での試験片の初期の重量-オーブン放置後の試験片の重量)/(常温での試験片の初期の重量}×100
【0132】
5)加熱減量(volatile loss)の測定:前記作製された試験片を80℃で72時間作業した後、試験片の重量を測定した。
【0133】
加熱減量(重量%)=初期の試験片の重量-(80℃、72時間作業後の試験片の重量)/初期の試験片の重量×100で計算した。
【0134】
6)ストレステスト(耐ストレス性):厚さ2mmの試験片を折り曲げた状態で23℃で168時間放置した後、移行程度(にじみ出る程度)を観察し、その結果を数値で記載し、0に近いほど優れた特性を示した。
【0135】
(5)評価結果
上記項目の評価結果を下記表2および表3に示した。
【0136】
【0137】
【0138】
上記表2および表3を参照すると、本発明の一実施形態による可塑剤組成物を適用した実施例1~5の場合、既存の製品として使用されている比較例1および2に比べて、著しく優れた可塑化効率および移行性を示し、引張特性および伸長特性においても優れた効果を示すことを確認することができる。比較例1および2は、優れた性能を示すが、フタレート系であって環境にやさしくない問題がある既存の製品であり、前記結果は、フタレートを含まず、環境にやさしい本発明の可塑剤組成物が、前記既存の製品を十分に代替することを超え、より改善した性能を実現することができることを示唆する。
【0139】
また、比較例3および4は、環境にやさしい製品であり、前記比較例1および2の代わりに使用されている製品であるが、移行性と耐ストレス性が、既存の製品および本発明の実施例1~5に比べて大きく劣っている問題があり、可塑化効率の面でも本発明の実施例1~5に比べて劣っている。
【0140】
なお、比較例5および6は、本発明の実施例1~5と同様に、ヘキシルアルコールの異性体混合物を適用し、この際、1,2,3-プロパントリカルボン酸ではなく、クエン酸またはアセチルクエン酸を適用したものであるが、クエン酸を使用した比較例5の場合、可塑化効率、引張特性、伸長特性、移行性および耐ストレス性において、全般的に実施例1~5に比べて劣る効果を示す。アセチルクエン酸を使用した比較例6の場合、可塑化効率と伸び率の面で実施例1~5に比べて劣っており、移行損失および耐ストレス性の面でも実施例1~5に比べて多少劣っている。
【0141】
一方、比較例7および8は、アルコール組成物として、ヘキシルアルコールの異性体混合物とベンジルアルコールのいずれか一つのみを使用したものであるが、ヘキシルアルコールの異性体混合物のみを使用した比較例7の場合、引張強度、移行性および加熱減量の面で実施例1~5に比べて劣っており、ベンジルアルコールのみを使用した比較例8の場合、可塑化効率、伸長特性、移行性および耐ストレス性の面で実施例1~5に比べて劣っている。これより、ベンジルアルコールとヘキシルアルコールの異性体混合物をともに適用することで、前記二つのアルコールの相乗効果によって全般的な物性の面が改善し、各物性間のバランスも優秀に維持される点を確認することができる。
【0142】
最後に、比較例9は、ヘキシルアルコールの異性体混合物の代わりに、ヘキシルアルコールの一つである2-メチルペンタノールを単独適用したものであり、実施例1~5に比べて劣っている引張特性、伸長特性、移行性および加熱減量を示す。比較例10および11は、ベンジルアルコールとともに使用されるアルコールとして、ヘキシルアルコールではなく、炭素数4のアルコールを適用するか(比較例10)、炭素数8のアルコールを適用したもの(比較例11)であり、比較例10は、引張特性と加熱減量の面で大きく劣る効果を示し、比較例11は、可塑化効率、伸長特性、移行性および耐ストレス性の面で大きく劣る効果を示す。これより、1,2,3-プロパントリカルボン酸と反応するアルコールとして、ヘキシルアルコールの異性体混合物とベンジルアルコールを含むアルコール組成物を適用する場合にのみ、本発明の実施例1~5のような優れた物性が実現され、前記二つのアルコールのいずれか一つの代わりに他のアルコールを使用する場合には、特定の物性が劣化する現象が発生し、これによって、優れた性能の可塑剤組成物を提供できないことを確認することができる。
【0143】
これにより、本発明の実施例のように、1,2,3-プロパントリカルボン酸とヘキシルアルコールの異性体混合物およびベンジルアルコールを含むアルコール組成物のエステル化反応物を可塑剤として適用する場合、既存の製品を十分に代替可能であり、且つ優れた性能を示す可塑剤を実現できることを確認することができた。
【国際調査報告】