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特表2024-514281NK細胞係合剤関連の有害作用の防止または軽減
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-01
(54)【発明の名称】NK細胞係合剤関連の有害作用の防止または軽減
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20240325BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20240325BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240325BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240325BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20240325BHJP
【FI】
A61K45/06
A61K39/395 N
A61K31/519
A61K31/436
A61K31/506
A61P35/00
A61P43/00 121
C07K16/28 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552335
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2022060469
(87)【国際公開番号】W WO2022223651
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】21170037.2
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ヘーゲル, エレーヌ セシル
(72)【発明者】
【氏名】クライン, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ルクレール, ガブリエル
(72)【発明者】
【氏名】トーソ, アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ジマーマン, ティナ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA20
4C084MA02
4C084NA06
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C084ZC752
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC82
4C086CB05
4C086CB22
4C086GA06
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA06
4C086ZB26
4C086ZC75
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
(57)【要約】
本発明は、サイトカイン関連輸注反応などのNK細胞係合剤に関連する有害作用の防止または軽減に関する。具体的には、本発明は、Src、JAKおよび/またはmTORの阻害剤を使用した、そのような副作用の防止または軽減に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における疾患の処置における使用のためのナチュラルキラー(NK)細胞係合剤であって、前記処置が、
(a)個体へのNK細胞係合剤の投与、ならびに
(b)個体へのSrcキナーゼ(Src)、ヤヌスキナーゼ(JAK)および/または哺乳類ラパマイシン標的(mTOR)シグナル伝達の阻害剤の投与
を含む、NK細胞係合剤。
【請求項2】
個体における疾患の処置のための医薬の製造におけるNK細胞係合剤の使用であって、前記処置が、
(a)個体へのNK細胞係合剤の投与、ならびに
(b)個体へのSrc、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与
を含む、使用。
【請求項3】
個体における疾患の処置のための方法であって、前記方法が、
(a)個体へのNK細胞係合剤の投与、ならびに
(b)個体へのSrc、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与
を含む、方法。
【請求項4】
Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与が、NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の防止または軽減のためである、請求項1から3のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、使用または方法。
【請求項5】
個体へのNK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の防止または軽減における使用のための、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤。
【請求項6】
NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の防止または軽減のための医薬の製造における、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の使用。
【請求項7】
個体へのNK細胞係合剤の投与に関連する有害作用を防止または軽減する方法であって、個体へのSrc、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与を含む方法。
【請求項8】
Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤が、Src阻害剤、任意にダサチニブである、請求項1から7のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項9】
Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤が、任意にシロリムス、テムシロリムス、およびエベロリムスからなる群からmTOR阻害剤選択される、mTOR阻害剤である、請求項1から8のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項10】
Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤が、JAK阻害剤、任意にJAK1および/またはJAK2阻害剤、任意にルキソリチニブである、請求項1から9のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項11】
Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)が、NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の阻害を引き起こす、請求項1から10のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項12】
Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)が、NK細胞係合剤の投与に関連する所望の効果の阻害を引き起こさない、請求項1から11のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項13】
阻害が完全な阻害であるか、または臨床的に意味があり、かつ/または統計的に有意な阻害である、請求項11または12に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項14】
有害作用が、
(i)サイトカイン放出症候群(CRS);
(ii)発熱、低血圧および/もしくは低酸素症;ならびに/または
(iii)1つ以上のサイトカイン、特に、IL-6、IFN-γ、IL-8、TNF-α、IL-2、IL-12、IL-1β、MCP-1およびIL-10からなる群、特にIL-6、IFN-γ、IL-8およびTNF-αからなる群から選択される1つ以上のサイトカインの上昇した血清レベル
である、請求項4から13のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項15】
Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与が、(個体における)有害作用の(臨床的)発現時に行われる、請求項4から14のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項16】
Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与が、
(i)NK細胞係合剤の投与前、投与と同時、もしくは投与後;
(ii)断続的もしくは連続的;および/または
(iii)経口もしくは非経口、特に静脈内
である、請求項1から15のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項17】
Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与が、NK細胞係合剤の第1の投与に付随しており、任意に、NK細胞係合剤の第1の投与の前、投与と同時または投与の後である、請求項1から16のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項18】
NK細胞係合剤の投与が、
(i)有効用量において;
(ii)非経口、特に静脈内;および/または
(iii)個体へのNK細胞係合剤の第1の投与
である、請求項1から17のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項19】
NK細胞係合剤が、CD16結合剤である、請求項1から18のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項20】
NK細胞係合剤が、Fc領域、特にIgG Fc領域、より詳細にはIgG Fc領域を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項21】
NK細胞係合剤が、抗体、特にエフェクター増強抗体である、請求項1から20のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項22】
NK細胞係合剤が、標的細胞抗原に結合する、請求項19または20に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項23】
標的細胞抗原が、CD20である、請求項22に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項24】
NK細胞係合剤が、エフェクター増強抗CD20抗体である、請求項1から23のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項25】
抗CD20抗体が、配列番号2の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号3のHCDR2、および配列番号4のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号5の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号6のLCDR2、および配列番号7のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項24に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項26】
抗CD20抗体が、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%同一である重鎖可変領域配列、および/または配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%同一である軽鎖可変領域配列を含む、請求項24または25に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項27】
抗CD20抗体が、操作されていない抗体と比較して、Fc領域中の増加した割合の非フコシル化オリゴ糖を有するように操作されている、請求項24から26のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項28】
抗CD20抗体が、オビヌツズマブである、請求項24から27のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項29】
(NK細胞係合剤によって処置される)疾患が、がんである、請求項1から28のいずれか一項に記載のNK細胞係合剤、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法。
【請求項30】
本明細書で上に記載するような発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイトカイン関連輸注反応などのナチュラルキラー(NK)細胞係合剤に関連する有害作用の防止または軽減に関する。具体的には、本発明は、Src、JAKおよび/またはmTORの阻害剤を使用した、そのような副作用の防止または軽減に関する。
【背景技術】
【0002】
エフェクター増強抗体などのナチュラルキラー(NK)細胞係合剤は、がん免疫療法薬としてかなり有望である。しかしながら、エフェクター増強抗体などのナチュラルキラー(NK)細胞係合剤による処置は、サイトカイン放出のために安全性の責務と関連し得る。NK細胞係合剤、例えば、抗体オビヌツズマブについて報告される一般的な有害作用は、サイトカイン放出によって引き起こされ得る輸注関連反応(IRR)である。IRRの症状は、多様であり、発熱、悪寒、頭痛、吐き気、低血圧、呼吸困難、倦怠感、および/または下痢が挙げられ、生命を脅かす場合もある(例えば、Snowden et al.,International Journal of Nursing Practice (2015)21(Suppl.2),15-27を参照されたい)。これらの重度な毒性を軽減するためのアプローチが大いに必要とされている。
【0003】
Srcキナーゼ阻害剤ダサチニブは、有害作用、特に、CAR-T細胞などのT細胞係合剤(Weber et al., Blood Advances (2019) 3, 711-7; Mestermann et al., Sci Transl Med (2019) 11, eaau5907)ならびにT細胞二重特異性抗体(TCB)(Leclercq et al., J Immunother Cancer (2020) 8 (Suppl 3): A690 (abstract 653))によって引き起こされるサイトカイン放出症候群(CRS)の防止または軽減の有力な候補として同定された。これらの薬剤の望ましい活性と望ましくない活性を区別することなく、ダサチニブは、CAR-T細胞の機能性とTCB誘導性T細胞の機能性を完全にオフにする。
【0004】
NK細胞係合剤の治療有効性を維持しながら、その有害作用を防止または軽減する方法が非常に望ましい。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、Srcキナーゼ(Src)、ヤヌスキナーゼ(JAK)および/または哺乳類ラパマイシン標的(mTOR)シグナル伝達の阻害剤が、NK細胞係合療法によるCRSを軽減するために使用することができることを見出した。ダサチニブなどのSrc阻害剤、テムシロリムス、シロリムスおよびエベロリムスなどのmTOR阻害剤、ならびにルキソリチニブなどのJAK阻害剤は、NK細胞係合抗体によって誘発されるサイトカイン放出を強力に防止し、同時にそのような抗体によって媒介される標的細胞の死滅を維持することが見出された。これらの結果は、NK細胞係合剤によって媒介されるIRRの発症および標的細胞の死滅に関連するサイトカイン放出のメカニズムを引き離すことができる証拠を提供し、Srcキナーゼ(Src)、哺乳類ラパマイシン標的(mTOR)および/またはヤヌスキナーゼ(JAK)の阻害剤の使用が、NK細胞係合治療に関連するIRRの軽減のための魅力的な戦略として示唆している。
【0006】
したがって、第1の態様では、本発明は、個体における疾患の処置における使用のためのナチュラルキラー(NK)細胞係合剤を提供し、ここで前記処置は、
(a)個体へのNK細胞係合剤の投与、ならびに
(b)個体へのSrcキナーゼ(Src)、ヤヌスキナーゼ(JAK)および/または哺乳類ラパマイシン標的(mTOR)シグナル伝達の阻害剤の投与
を含む。
【0007】
本発明はさらに、個体における疾患の処置のための医薬の製造におけるNK細胞係合剤の使用を提供し、ここで、前記処置は、
(a)個体へのNK細胞係合剤の投与、ならびに
(b)個体へのSrc、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与
を含む。
【0008】
本発明はまた、個体における疾患の処置のための方法を提供し、ここで、前記方法は、
(a)個体へのNK細胞係合剤の投与、ならびに
(b)個体へのSrc、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与
を含む。
【0009】
上記態様のいずれかによれば、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の防止または軽減のためであり得る。
【0010】
別の態様では、本発明は、個体へのNK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の防止または軽減における使用のための、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤を提供する。
【0011】
本発明はさらに、NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の防止または軽減のための医薬の製造における、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の使用を提供する。
【0012】
本発明はまた、個体へのNK細胞係合剤の投与に関連する有害作用を防止または軽減する方法であって、個体へのSrc、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与を含む、方法を提供する。
【0013】
上記および本明細書に記載の使用のためのNK細胞係合剤、使用のための、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤、使用または方法は、単独でまたは組み合わせて、以下に記載される特徴のいずれかを組み込むことができる(文脈が別段の指示をしない限り)。
【0014】
本明細書で特に定義しない限り、用語は、当技術分野で一般的に使用されるものとして本明細書で使用される。
【0015】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤は、Src阻害剤である。より具体的な態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤は、Srcキナーゼ阻害剤、特に小分子Srcキナーゼ阻害剤である。特定の態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤は、ダサチニブである。
【0016】
ダサチニブは、Srcキナーゼ阻害剤であり、慢性骨髄性白血病(CML)および急性リンパ芽球性白血病(ALL)の特定の症例の処置のために、(とりわけ)Sprycel(登録商標)の商品名で販売されている。そのCAS番号、IUPAC名および化学構造を以下に示す。
CAS番号:302962-49-8
IUPAC名:N-(2-クロロ-6-メチルフェニル)-2-[[6-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]-2-メチル-4-ピリミジニル]アミノ]-5-チアゾールカルボキサミド一水和物
化学構造:
【0017】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤は、mTOR阻害剤である。より具体的な態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤は、mTORキナーゼ阻害剤、特に小分子mTORキナーゼ阻害剤である。
【0018】
「mTOR」は、哺乳類ラパマイシン標的(FK506結合タンパク質12-ラパマイシン複合体関連タンパク質1(FRAP1)としても知られる)を表し、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)関連キナーゼのファミリーに属するセリン/スレオニン特異的プロテインキナーゼである。これは、異なる細胞プロセスを調節する2つの異なるタンパク質複合体、mTOR複合体1(TORC1)とmTOR複合体2(TORC2)のコアコンポーネントとして機能する。ヒトmTORは、UniProtエントリーP42345(バージョン218)に記載されている。mTOR阻害剤は、mTORを阻害する化合物である。mTORの最も確立された阻害剤は、ラパマイシンの誘導体であるいわゆるラパログである。ラパログには、シロリムス、テムシロリムス、エベロリムス、およびリダフォロリムスが含まれる。第2世代のmTOR阻害剤は、mTORの触媒部位でATPと競合するように設計されたATP競合的mTORキナーゼ阻害剤である。
【0019】
本発明において有用であると考えられる例示的なmTOR阻害剤は、以下の表1に提供される。
【0020】
いくつかの態様では、mTOR阻害剤はラパマイシンの誘導体(ラパログとしても知られる)である。
【0021】
いくつかの態様では、mTOR阻害剤は、シロリムス、テムシロリムス、エベロリムスおよびリダフォロリムスからなる群、特にシロリムス、テムシロリムス、およびエベロリムスからなる群から選択される。
【0022】
特定の態様では、mTOR阻害剤はシロリムスである。さらなる特定の態様では、mTOR阻害剤はテムシロリムスである。さらなる特定の態様では、mTOR阻害剤はエベロリムスである。
【0023】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤は、JAK阻害剤である。より具体的な態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤は、JAKキナーゼ阻害剤、特に小分子JAKキナーゼ阻害剤である。
【0024】
「JAK」はヤヌスキナーゼを表し、JAK/STAT経路を介してサイトカイン媒介シグナルを伝達する細胞内非受容体チロシンキナーゼのファミリーを指す。JAKは2つのほぼ同一のリン酸転移ドメインを持ち、1つはキナーゼ活性を示し、もう1つは最初のキナーゼ活性を負に制御する。4つのJAKファミリーメンバーは、JAK1、JAK2、JAK3、およびTYK2(チロシンキナーゼ2)である。本明細書の特定の態様では、JAKは、JAK1および/またはJAK2(JAK1/2)である。ヒトJAK1およびJAK2は、それぞれUniProtエントリーP23458(バージョン221)およびP60674(バージョン224)に記載されている。JAK阻害剤(ジャキニブとも呼ばれる)は、JAKファミリーの酵素(JAK1、JAK2、JAK3、TYK2)のうちの1つ以上の活性を阻害し、それによってJAK/STATシグナル伝達経路を妨害する化合物である。
【0025】
本発明において有用であると考えられる例示的なJAK阻害剤は、以下の表2に提供される。
【0026】
いくつかの態様では、JAK阻害剤は、JAK1および/またはJAK2(JAK1/2)阻害剤である。いくつかの態様では、JAK阻害剤は、ルキソリチニブ、バリシチニブ、モメロチニブ、ウパダシチニブ、フィルゴチニブ、アブロシチニブ、イタシチニブ、ソルシチニブ、オクラシチニブ、フェドラチニブ、ガンドチニブ、レスタウルチニブ、およびパクリチニブからなる群から選択される。
【0027】
特定の態様では、JAK阻害剤は、JAK1およびJAK2阻害剤である。特定のそのような態様では、JAK阻害剤は、ルキソリチニブ、バリシチニブ、およびモメロチニブからなる群から選択される。
【0028】
いくつかの態様では、JAK阻害剤はJAK1阻害剤である。特定のそのような態様では、JAK阻害剤は、ウパダシチニブ、フィルゴチニブ、アブロシチニブ、イタシチニブ、ソルシチニブ、およびオクラシチニブからなる群から選択される。
【0029】
いくつかの態様では、JAK阻害剤はJAK2阻害剤である。特定のそのような態様では、JAK阻害剤は、フェドラチニブ、ガンドチニブ、レスタウルチニブ、およびパクリチニブからなる群から選択される。
【0030】
特定の態様では、JAK阻害剤はルキソリチニブである。
【0031】
特定の態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤は、ダサチニブ、シロリムス、テムシロリムス、エベロリムス、およびルキソリチニブからなる群から選択される。さらなる特定の態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤は、ダサチニブ、シロリムス、およびルキソリチニブからなる群から選択される。
【0032】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、NK細胞係合剤の活性の阻害を引き起こす。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、NK細胞係合剤の別の活性の阻害を引き起こさない。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、NK細胞係合剤の第1の活性の阻害を引き起こすが、NK細胞係合剤の第2の活性の阻害を引き起こさない。これらの態様のいくつかでは、前記阻害は完全な阻害である。
【0033】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、NK細胞係合剤の第1の活性の阻害およびNK細胞係合剤の第2の活性の阻害を引き起こし、ここで、第1の活性の前記阻害は、 第2の活性の前記阻害よりも強い。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、NK細胞係合剤の第1の活性の阻害およびNK細胞係合剤の第2の活性の阻害を引き起こし、ここで、第1の活性の前記阻害は、 完全な阻害であり、第2の活性の前記阻害は部分的阻害である。
【0034】
NK細胞係合剤の「活性」は、NK細胞係合剤によって引き起こされる個体の身体における反応を指す。そのような活性には、NK細胞、特にCD16NK細胞の細胞応答(複数可)、例えば、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害活性、および活性化マーカーの発現など、ならびに/または標的細胞、特にNK細胞係合剤の標的細胞抗原を発現する標的細胞(例えば、腫瘍細胞)に対する効果、例えば、標的細胞の溶解などが含まれ得る。
【0035】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、免疫細胞、特に(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞によるサイトカイン分泌の阻害を引き起こす。いくつかの態様では、前記免疫細胞は、CD16免疫細胞である。いくつかの態様では、前記サイトカインは、IL-6、IFN-γ、IL-8、TNF-α、IL-2、IL-12、IL-1β、MCP-1およびIL-10からなる群、特にIL-6、IFN-γ、IL-8およびTNF-αからなる群から選択される1つ以上のサイトカインである。免疫細胞は、NK細胞、マクロファージ、単球、T細胞などの様々な免疫細胞型を含み得る。いくつかの態様では、前記T細胞は、γδ T細胞である。いくつかの態様では、前記阻害は完全な阻害である。
【0036】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞の活性化の阻害を引き起こさない。いくつかの態様では、前記阻害は完全な阻害である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞の活性化の阻害を引き起こし、ここで前記阻害は部分的阻害である。
【0037】
本明細書で使用される「NK細胞の活性化」または「NK細胞活性化」は、NK細胞、特にCD16NK細胞の、増殖、分化、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害活性、および活性化マーカーの発現から選択される1つ以上の細胞応答を指す。NK細胞活性化を測定するための適切なアッセイは、当技術分野で知られており、本明細書に記載されている。特定の態様では、NK細胞活性化は、活性化マーカーの発現、特に(場合によりフローサイトメトリーによって測定される)CD25および/またはCD69の発現である。特定の態様では、NK細胞活性化は、NK細胞上のCD25および/またはCD69の発現を、例えばフローサイトメトリーにより測定することによって決定される。
【0038】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞の細胞傷害活性の阻害を引き起こさない。いくつかの態様では、前記阻害は完全な阻害である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞の細胞傷害活性の阻害を引き起こし、ここで前記阻害は部分的阻害である。
【0039】
NK細胞の「細胞傷害活性」とは、NK細胞、特にCD16NK細胞による標的細胞の溶解(すなわち死滅)の誘導を指す。細胞傷害活性は、典型的には、NK細胞からのグランザイムBおよび/またはパーフォリンなどの細胞傷害性エフェクター分子の放出に関連するNK細胞の脱顆粒を伴う。
【0040】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞によるサイトカイン分泌の阻害を引き起こすが、(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞の活性化および/または細胞傷害活性の阻害を引き起こさない。これらの態様のいくつかでは、前記阻害は完全な阻害である。
【0041】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞によるサイトカイン分泌の阻害、ならびに(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞の活性化および/または細胞傷害活性の阻害を引き起こし、ここで、サイトカイン分泌の前記阻害は、活性化および/または細胞傷害活性の前記阻害よりも強い。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞によるサイトカイン分泌の阻害、ならびに(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞の活性化および/または細胞傷害活性の阻害を引き起こし、ここで、サイトカイン分泌の前記阻害は完全な阻害であり、活性化および/または細胞傷害活性の前記阻害は部分的阻害である。
【0042】
本明細書における阻害は、部分的阻害または完全な阻害であり得る。完全な阻害は、部分的な阻害よりも強い阻害である。いくつかの態様における部分的阻害は、30%以下、40%以下、50%以下、60%以下、または70%以下の阻害である。いくつかの態様では、部分的阻害は、30%以下の阻害である。いくつかの態様では、部分的阻害は、40%以下の阻害である。いくつかの態様では、部分的阻害は、50%以下の阻害である。いくつかの態様では、部分的阻害は、60%以下の阻害である。いくつかの態様では、部分的阻害は、70%以下の阻害である。いくつかの態様における完全な阻害は、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%の阻害である。いくつかの態様では、完全な阻害は、少なくとも80%の阻害である。いくつかの態様では、完全な阻害は、少なくとも90%の阻害である。いくつかの態様では、完全な阻害は、100%の阻害である。いくつかの態様では、部分的阻害は、50%以下の阻害であり、完全な阻害は、少なくとも80%の阻害である。いくつかの態様では、完全な阻害は臨床的に意味があり、かつ/もしくは統計的に有意であり、ならびに/または部分的な阻害は臨床的に意味がなく、かつ/もしくは統計的に有意ではない。
【0043】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、個体において1つ以上のサイトカインの血清レベルの減少を引き起こす。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、個体において免疫細胞、特にNK細胞による1つ以上のサイトカインの分泌の減少を引き起こす。いくつかの態様では、前記免疫細胞は、CD16免疫細胞である。いくつかの態様では、前記1つ以上のサイトカインは、IL-6、IFN-γ、IL-8、TNF-α、IL-2、IL-12、IL-1β、MCP-1およびIL-10からなる群、特にIL-6、IFN-γ、IL-8およびTNF-αからなる群から選択される。免疫細胞は、NK細胞、マクロファージ、単球、T細胞などの様々な免疫細胞型を含み得る。いくつかの態様では、前記T細胞は、γδ T細胞である。
【0044】
いくつかの態様では、前記減少は、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤が(個体に)所定の時間投与されなかった後も持続する。いくつかの態様では、前記時間量は、約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、20時間、24時間、36時間、48時間、72時間、または96時間である。いくつかの態様では、前記減少は、NK細胞係合剤のその後の投与後にも持続される。特に、前記減少は、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与が停止された後/Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤のさらなる投与がなされなかった後でも持続される。血清レベル/サイトカイン分泌の前記減少は、特に、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤を投与していない個体(同じ個体を含む)における血清レベル/サイトカイン分泌と比較したものである(すなわち、そのような場合、血清レベル/サイトカイン分泌は、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与なし/投与前の血清レベル/サイトカイン分泌と比較して減少している)。血清レベル/サイトカイン分泌の前記減少は、特に、NK細胞係合剤の投与(特に第1の投与)を伴うが、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与を伴わない個体(同じ個体を含む)における血清レベル/サイトカイン分泌と比較したものである(すなわち、そのような場合、血清レベル/サイトカイン分泌は、NK細胞係合剤の投与あり/投与後であるが、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与なし/投与前の血清レベル/サイトカイン分泌と比較して減少している)。前記減少がなければ、血清レベル/サイトカイン分泌は、NK細胞係合剤(の投与)に関連して特に上昇/増加し得る。いくつかの態様では、前記減少は臨床的に意味があり、かつ/または統計的に有意である。いくつかの態様では、前記減少は、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも70%である。いくつかの態様では、前記減少は少なくとも30%である。いくつかの態様では、前記減少は少なくとも40%である。いくつかの態様では、前記減少は少なくとも50%である。いくつかの態様では、前記減少は少なくとも60%である。いくつかの態様では、前記減少は少なくとも70%である。
【0045】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の阻害を引き起こす。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、NK細胞係合剤の投与に関連する所望の効果の阻害を引き起こさない。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の阻害を引き起こすが、NK細胞係合剤の投与に関連する所望の効果の阻害を引き起こさない。これらの態様のいくつかでは、前記阻害は完全な阻害である。これらの態様のいくつかでは、前記阻害は臨床的に意味があり、かつ/または統計的に有意である。
【0046】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の阻害、およびNK細胞係合剤の投与に関連する所望の効果の阻害を引き起こし、ここで、有害作用の前記阻害は、所望の効果の前記阻害よりも強い。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の阻害、およびNK細胞係合剤の投与に関連する所望の効果の阻害を引き起こし、ここで、有害作用の前記阻害は完全な阻害であり、有益な効果の前記阻害は部分的阻害である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤(の投与)は、NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の阻害、およびNK細胞係合剤の投与に関連する所望の効果の阻害を引き起こし、ここで、有害作用の前記阻害は、臨床的に意味があり、かつ/または統計的に有意な阻害であり、有益な効果の前記阻害は、臨床的に意味がなく、かつ/または統計的に有意な阻害ではない。
【0047】
「所望の効果」とは、本明細書では特にNK細胞係合剤を用いた個体の処置における薬物療法から得られる有益かつ所望の効果であり、すなわち、例えば腫瘍細胞の死滅、腫瘍増殖の減少または遅延、腫瘍体積の減少、腫瘍転移の減少または防止、無増悪または全生存期間の増加、疾患症状の軽減などの治療効果または予防効果である。
【0048】
「有害作用」は、「副作用」または「有害事象」と表記されることもあり(特に臨床試験において)、本明細書では特にNK細胞係合剤を用いた、個体の処置における薬物療法から得られる有害かつ望ましくない効果である。
【0049】
本発明によれば、有害作用は、NK細胞係合剤の投与に関するものである。いくつかの態様では、有害作用は、NK細胞係合剤の第1の投与に関連している。いくつかの態様では、有害作用は、NK細胞係合剤の第1の投与時に起こる。いくつかの態様では、有害作用は、主に、またはNK細胞係合剤の第1の投与時にのみ起こる。いくつかの態様では、有害作用は、NK細胞係合剤の投与、特に第1の投与から12時間、24時間、36時間、48時間、72時間または96時間以内に起こる。いくつかの態様では、特に、NK細胞係合体の単回投与のみが行われる場合(NK細胞係合剤による処置の過程で)、有害作用は、NK細胞係合剤の投与から3日、4日、5日、6日、7日、10日、14日または21日以内に起こる。
【0050】
いくつかの態様では、前記有害作用は、輸注関連反応(IRR)、特にサイトカイン放出に関連するIRRである。
【0051】
「輸注関連反応」(「IRR」と略記される)は、治療剤(例えば、NK細胞係合剤)の(静脈内)投与に関連する有害作用を指す。IRRは、常に、免疫系に関与し、治療剤の投与にタイムリーに関連している。それらは、典型的には、治療剤の投与中または投与直後、すなわち、典型的には投与(典型的には静脈内注入)後24時間以内に、主には第1の投与時に起こる。場合によっては、IRRはまた、後でのみ、例えば、治療剤の投与後数日で起こり得る。通常、その後の投与により発生率と重症度は減少する。症状は、症候性の不快感から致命的な事象まで多岐にわたり、発熱、悪寒、熱病(pyrexia)、低血圧、低酸素症、呼吸困難、潮紅、皮膚発疹、筋肉痛、頻脈、頭痛、めまい、吐き気、嘔吐および/または臓器不全を含み得る。IRRは、グレード1(軽症)からグレード4(生命を脅かす)に重症度に従って等級付けされ得る。例えば、Snowden et al.,International Journal of Nursing Practice(2015)21(Suppl.2),15-27;Vogel, Clinical Journal of Oncology Nursing(2010)14,E10-21)を参照されたい。本明細書の特定の態様では、IRRは、治療剤(例えば、NK細胞係合剤)の投与中または投与直後(例えば、1日以内)の対象の血液中の腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターフェロンガンマ(IFN-γ)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)などのサイトカインのレベルの増加によって引き起こされ、有害な症状をもたらす。
【0052】
いくつかの態様では、前記有害作用は、発熱、低血圧および/または呼吸困難である。
【0053】
いくつかの態様では、前記有害作用は、1つ以上のサイトカインの上昇した血清レベルである。前記上昇した血清レベルは、特に、健常個体の血清レベル、および/またはNK細胞係合剤を投与していない個体(同じ個体を含む)の血清レベルと比較したものである(すなわち、そのような場合、血清レベルは、NK細胞係合剤を投与しない場合の血清レベルと比較して上昇している)。いくつかの態様では、前記1つ以上のサイトカインは、IL-6、IFN-γ、IL-8、TNF-α、IL-2、IL-12、IL-1β、MCP-1およびIL-10からなる群、特にIL-6、IFN-γ、IL-8およびTNF-αからなる群から選択される。
【0054】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、(個体における)有害作用の(臨床的)発現時に行われる。前記投与は、例えば、有害作用の発現(すなわち、発熱などの副作用の臨床症状の発生)後の約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、20時間または24時間以内であり得る。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、(個体における)有害作用の(臨床的)発現に応答する。
【0055】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の投与前である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の投与と同時である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の投与後である。Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与が、NK細胞係合剤の投与の前または後である場合、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤のそのような投与は、例えば、NK細胞係合剤の投与前または投与後のそれぞれ約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、20時間または24時間以内であり得る。Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、断続的または連続的であり得る。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、経口である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、非経口、特に静脈内である。
【0056】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の活性の阻害を引き起こすのに十分な用量である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の別の活性の阻害を引き起こすには不十分な用量である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の第1の活性の阻害を引き起こすのに十分な用量であるが、NK細胞係合剤の第2の活性の阻害を引き起こすには不十分な用量である。これらの態様のいくつかでは、前記阻害は完全な阻害である。
【0057】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、免疫細胞、特に(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞によるサイトカイン分泌の阻害を引き起こすのに十分な用量である。いくつかの態様では、前記免疫細胞は、CD16免疫細胞である。いくつかの態様では、前記サイトカインは、IL-6、IFN-γ、IL-8、TNF-α、IL-2、IL-12、IL-1β、MCP-1およびIL-10からなる群、特にIL-6、IFN-γ、IL-8およびTNF-αからなる群から選択される1つ以上のサイトカインである。免疫細胞は、NK細胞、マクロファージ、単球、T細胞などの様々な免疫細胞型を含み得る。いくつかの態様では、前記NK細胞はCD16NK細胞である。いくつかの態様では、前記T細胞はγδT細胞である。いくつかの態様では、前記阻害は完全な阻害である。
【0058】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞の活性化の阻害を引き起こすには不十分な用量である。いくつかの態様では、前記阻害は完全な阻害である。
【0059】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞の細胞傷害活性の阻害を引き起こすには不十分な用量である。いくつかの態様では、前記阻害は完全な阻害である。
【0060】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞によるサイトカイン分泌の阻害を引き起こすのに十分な用量であるが、(NK細胞係合剤によって誘導される)NK細胞の活性化および/または細胞傷害活性の阻害を引き起こすには不十分な用量である。これらの態様のいくつかでは、前記阻害は完全な阻害である。
【0061】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、個体において1つ以上のサイトカインの血清レベルの減少を引き起こすのに十分な用量である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、個体において免疫細胞、特にNK細胞による1つ以上のサイトカインの分泌の減少を引き起こすのに十分な用量である。いくつかの態様では、前記免疫細胞は、CD16免疫細胞である。いくつかの態様では、前記1つ以上のサイトカインは、IL-6、IFN-γ、IL-8、TNF-α、IL-2、IL-12、IL-1β、MCP-1およびIL-10からなる群、特にIL-6、IFN-γ、IL-8およびTNF-αからなる群から選択される。免疫細胞は、NK細胞、マクロファージ、単球、T細胞などの様々な免疫細胞型を含み得る。いくつかの態様では、前記T細胞は、γδ T細胞である。
【0062】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の阻害を引き起こすのに十分な用量である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の投与に関連する所望の効果の阻害を引き起こすには不十分な用量である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用の阻害を引き起こすのに十分な用量であるが、NK細胞係合剤の投与に関連する所望の効果の阻害を引き起こすには不十分な用量である。これらの態様のいくつかでは、前記阻害は完全な阻害である。これらの態様のいくつかでは、前記阻害は臨床的に意味があり、かつ/または統計的に有意である。
【0063】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、有効用量である。
【0064】
薬剤、例えば、Src、JAKおよび/もしくはmTORシグナル伝達の阻害剤またはNK細胞係合剤の「有効量」または「有効用量」は、所望の治療または予防結果を達成するのに必要な投薬量および期間で有効な量を指す。
【0065】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤に利用可能な用量強度に等しい用量である。通常、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の特定の阻害剤について、いくつかの用量強度(すなわち、特定量の有効成分を含む錠剤またはカプセルなどの剤形)が利用可能である。そのような(商業的に)利用可能な用量強度で、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤を投与することが最も好都合であろう。例えば、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤がダサチニブである場合、それは好ましくは20mg、50mg、70mg、80mg、100mgまたは140mg、特に100mgの用量で投与され得る(投与は好ましくは経口投与である)。例えば、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤がエベロリムスである場合、それは好ましくは2.5mg、5mg、7.5mgまたは10mgの用量で投与され得る(投与は好ましくは経口投与である)。例えば、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤がシロリムスである場合、それは好ましくは0.5mg、1mgまたは2mgの用量で投与され得る(投与は好ましくは経口投与である)。例えば、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤がルキソリチニブである場合、好ましくは5mg、10mg、15mg、20mgまたは25mgの用量で投与され得る(投与は好ましくは経口投与である)。Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤がテムシロリムスである場合、例えば12.5mgまたは25mgの用量で投与され得る(投与は好ましくは静脈内投与であり、特に25mg/ml活性成分の溶液を使用する)。
【0066】
いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は毎日である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、1日1回である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、本明細書で言及したような用量で1日1回である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、有害作用が持続する期間である(すなわち、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、有害作用の発現から、有害作用の減少または消失までである)。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、有害作用が防止または軽減された後に中止される。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、有害作用の減少または消失後に停止される。前記減少は、特に臨床的に意味があり、かつ/または統計的に有意である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回または10回、特に、NK細胞係合剤による個体の処置の過程において、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回または10回である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日または10日間である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、1日1回で、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日または10日間である。Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、一般に、NK細胞係合剤の投与に付随している。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の第1の投与に付随している。前記第1の投与は、特に、NK細胞係合剤による個体の処置の過程におけるNK細胞係合剤の第1の投与である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の第1の投与と同時である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の第1の投与の前に行われる。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の第1の投与の後である。いくつかの態様では、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与は、NK細胞係合剤の第1の投与の後であり、NK細胞係合剤の第2の投与の前である。Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与が、NK細胞係合剤の(第1の)投与の前または後である場合、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤のそのような投与は、例えば、NK細胞係合剤の投与前または投与後のそれぞれ約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、20時間、24時間、48時間または72時間以内であり得る。
【0067】
いくつかの態様では、NK細胞係合剤の投与は、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与よりも長期間である。いくつかの態様では、NK細胞係合剤の投与は、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の投与が停止された後も継続する。いくつかの態様では、NK細胞係合剤の投与は単回投与または反復投与である。NK細胞係合剤による個体の処置の過程において、NK細胞係合剤は1回または数回投与され得る。例えば、NK細胞係合剤による個体の処置は、NK細胞係合剤の1つ以上の投与をそれぞれが含む複数の処置サイクルを含むことができる。いくつかの態様では、NK細胞係合剤の投与は、第1および第2の投与を含む。
【0068】
本発明における使用のために、NK細胞係合剤は、良好な医療行為と一致する様式で調製され、投薬され、投与されるであろう。この文脈において考慮すべき要因には、処置される特定の障害、処置される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床的症状、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジューリング、および医師に公知な他の要因が含まれる。
【0069】
いくつかの態様では、NK細胞係合剤の投与は有効用量においてである。全身投与の場合、有効用量は、細胞培養アッセイなどのin vitroアッセイから最初に推定することができる。次いで、細胞培養物で決定されるIC50を含む血中濃度範囲を達成するために、用量を動物モデルで配合してもよい。そのような情報を使用し、ヒトにおける有用な用量をさらに正確に決定することができる。また、初期投薬量を、in vivoデータから、例えば、動物モデルから、当技術分野で周知の技術を使用して概算することができる。投与量および投与間隔は、治療効果を維持するのに十分なNK細胞係合剤の血漿レベルを提供するために個別に調整され得る。注射による投与のための通常の患者投薬量は、約0.1~50mg/kg/日、典型的には約0.5~1mg/kg/日の範囲である。治療に有効な血漿レベルは、各日に複数回用量を投与することによって達成されてもよい。血漿中のレベルは、例えば、HPLCによって測定されてもよい。特に、NK細胞係合剤がエフェクター増強抗CD20抗体(例えば、オビヌツズマブ)である具体的な態様では、NK細胞係合剤の投与は、約100mg~約1000mgの用量である。いくつかの態様では、用量は100mgである。特定のそのような態様では、用量は1000mgである。
【0070】
疾患の予防または処置のために、有効量のNK細胞係合剤を投与することができる。NK細胞係合剤の適切な投与経路および投与量は、処置すべき疾患の種類、NK細胞係合剤の種類、疾患の重症度および経過、個体の臨床状態、個体の臨床歴および処置に対する応答、ならびに主治医の裁量に基づいて決定することができる。投薬は、その投与が短期かまたは長期かに部分的に依存して、任意の好適な経路、例えば、静脈内または皮下注射等の注射により行うことができる。本明細書では、単回投与または様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、パルス注入を含むがこれらに限定されない様々な投薬スケジュールが企図される。
【0071】
NK細胞係合剤ならびに、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤は、任意の適切な経路で投与することができ、同じ投与経路で投与しても、異なる投与経路で投与してもよい。いくつかの態様では、NK細胞係合剤の投与は非経口、特に静脈内である。
【0072】
いくつかの態様では、NK細胞係合剤の投与は、個体へのNK細胞係合剤の第1の投与であり、特に、NK細胞係合剤による個体の処置の過程におけるNK細胞係合剤の第1の投与である。
【0073】
いくつかの態様では、NK細胞係合剤(の投与)は、NK細胞の活性化を誘導する(すなわち、引き起こすまたは増加させる)。いくつかの態様では、NK細胞係合剤(の投与)は、NK細胞の細胞傷害活性を誘導する。いくつかの態様では、NK細胞係合剤(の投与)は、NK細胞によるサイトカイン分泌を誘導する。いくつかの態様では、前記サイトカインは、IL-6、IFN-γ、IL-8、TNF-α、IL-2、IL-12、IL-1β、MCP-1およびIL-10からなる群、特にIL-6、IFN-γ、IL-8およびTNF-αからなる群から選択される1つ以上のサイトカインである。いくつかの態様では、前記NK細胞は、CD16NK細胞である。
【0074】
いくつかの態様では、NK細胞係合剤の投与は、特にがんの部位(例えば、固形腫瘍がん内)におけるNK細胞の活性化をもたらす。前記活性化は、NK細胞の増殖、NK細胞の分化、NK細胞によるサイトカイン分泌、NK細胞からの細胞傷害性エフェクター分子の放出、NK細胞の細胞傷害活性、およびNK細胞による活性化マーカーの発現を含み得る。いくつかの態様ではNK細胞係合剤の投与は、がんの部位(例えば、固形腫瘍がん内)におけるNK細胞の数の増加をもたらす。
【0075】
「NK細胞係合剤」とは、NK細胞、特にCD16NK細胞の活性を通じてその効果を発揮する免疫療法剤を意味する。NK細胞のそのような活性は、増殖、分化、活性化マーカーの発現、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出および/または細胞傷害活性などの、NK細胞、特にCD16NK細胞の細胞応答(複数可)を含み得る。
【0076】
NK細胞係合剤は、NK細胞上のCD16の刺激、特にCD16aの刺激を通じてNK細胞の活性を誘導または増強させてもよい。したがって、いくつかの態様では、NK細胞係合剤は、CD16結合剤である。そのような態様では、NK細胞係合剤は、CD16、特にCD16aに結合する抗原結合部分、例えば、Fc領域またはCD16に結合する抗体の抗原結合ドメインを含む。
【0077】
CD16(Fcγ受容体III、FcγRIIIとしても知られる)は、ある特定の免疫細胞上で発現される細胞表面抗原である。それは、例えば、NK細胞および活性化マクロファージ上で発現される膜貫通型(CD16a、Fcγ受容体IIIa)として、ならびに好中球上で発現されるグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型(CD16b、FcγRIIIb)としての両方で存在する。本明細書で使用される「CD16」は、特に、Fcγ受容体IIIaとして知られるCD16aを指す(ヒトタンパク質に関するUniProtアクセッション番号P08637[エントリーバージョン215]および配列番号11を参照されたい)。したがって、用語「CD16陽性細胞」または「CD16細胞」とは、CD16、特にCD16aを発現する細胞を指す。
【0078】
特定の態様では、NK細胞係合剤は、Fc領域を含む。いくつかの態様では、NK細胞係合剤は、Fc領域を含む抗体、特にFc領域を含むIgG抗体、最も特にFc領域を含むIgG抗体である。いくつかの態様では、NK細胞係合剤中に含まれるFc領域は、IgG Fc領域、特にヒトIgG Fc領域である。いくつかの態様では、NK細胞係合剤中に含まれるFc領域は、IgG Fc領域、特にヒトIgG Fc領域である。
【0079】
NK細胞係合剤中に含まれるFc領域は、CD16に結合することができ、すなわち、Fc領域は、CD16に結合する(CD16結合Fc領域とも称される)。そのようなFc領域はまた、エフェクターコンピテントFc領域でもあり、すなわち、エフェクター機能、特に抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を誘導することができるFc領域である。
【0080】
「エフェクター機能」という用語は、抗体のアイソタイプによって異なる、抗体のFc領域に起因する生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては:C1q結合および補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);抗体依存性細胞貪食(ADCP);サイトカイン分泌;抗原提示細胞による免疫複合体媒介抗原取り込み;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;およびB細胞の活性化が含まれる。
【0081】
抗体依存性細胞傷害(ADCC)は、免疫エフェクター細胞、特にNK細胞による抗体でコーティングされた標的細胞の溶解につながる免疫メカニズムである。本明細書で使用される場合、「増加されたADCC」または「増強されたADCC」と言う用語は、上で定義されたADCCのメカニズムによって、標的細胞を取り囲む培地中の抗体の所定の濃度において、所定の時間中に溶解される標的細胞の数における増加、および/またはADCCのメカニズムによって、所定の時間中に所定の数の標的細胞の溶解を達成するのに必要な、標的細胞を取り囲む培地中の抗体の濃度における減少のいずれかとして定義される。ADCCにおける増加は、(当業者に既知である)同じ標準的な産生、精製、配合組成および貯蔵方法を使用するが、操作されていない同じ種類の宿主細胞によって産生される同じ抗体により媒介されるADCCに対する増加である。例えば、本明細書に記載の方法によって、変更されたグリコシル化パターンを有するように(例えば、グリコシルトランスフェラーゼ、GnTIII、または他のグリコシルトランスフェラーゼを発現するように)操作された宿主細胞によって産生された抗体により媒介されるADCCにおける増加は、同じ種類の操作されていない宿主細胞によって産生される同じ抗体によって媒介されたADCCに対する増加である。
【0082】
抗体のADCC活性を評価するためのアッセイは、当該技術分野において既知である。抗体のADCC活性を評価するためのin vitroアッセイの例は、米国特許第5,500,362号;Hellstrom et al. Proc Natl Acad Sci USA 83, 7059-7063 (1986)、およびHellstrom et al., Proc Natl Acad Sci USA 82, 1499-1502 (1985);米国特許第5,821,337号;Bruggemann et al., J Exp Med 166,1351-1361 (1987)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ方法を用いてもよい(例えば、フローサイトメトリー(CellTechnology,Inc.Mountain View,CA)のためのACTI(商標)非放射性細胞傷害性アッセイ、およびCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega,Madison,WI)を参照されたい)。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。これに代えて、またはこれに加えて、抗体のADCC活性は、in vivoで、例えば、Clynes et al.,Proc Natl Acad Sci USA 95,652-656(1998)に開示されるものなどの動物モデルにおいて評価されてもよい。
【0083】
本明細書で企図されるNK細胞係合剤は、典型的には、腫瘍細胞などの標的細胞上の標的細胞抗原への結合を可能にする抗原結合部分をさらに含む。したがって、いくつかの態様では、NK細胞係合剤は、標的細胞抗原に結合する。そのようなNK細胞係合剤は、NK細胞の活性を通じて標的細胞の溶解など、それらの標的細胞への効果を発揮する。
【0084】
本明細書で使用される「標的細胞抗原」は、標的細胞、例えば、がん細胞または腫瘍間質の細胞などの腫瘍中の細胞の表面に提示される抗原決定基を指す(その場合、「腫瘍細胞抗原」)。好ましくは、標的細胞抗原はCD16ではなく、かつ/またはCD16とは異なる細胞で発現される。いくつかの態様では、標的細胞抗原はCD20、特にヒトCD20である。
【0085】
本明細書で使用される場合、「抗原決定基」という用語は、「抗原」および「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分-抗原複合体を形成する、抗原結合部分が結合するポリペプチド巨大分子上の部位(例えば、アミノ酸の連続伸長部または非連続アミノ酸の異なる領域から構成される配座構成)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染した細胞の表面上に、他の疾患細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中で遊離して、および/または細胞外マトリックス(ECM)中に認めることができる。
【0086】
本明細書で使用される場合、「抗原結合部分」という用語は、抗原決定基に結合する(特異的に結合することを含む)ポリペプチド分子を指す。いくつかの態様では、抗原結合部分は、それが付着している実体(例えば、第2の抗原結合部分)を、標的部位、例えば、抗原決定基を有する特定のタイプの腫瘍細胞に向かわせることができる。抗原結合部分は、本明細書にさらに定義される抗体およびその断片を含む。特定の抗原結合部分は、抗体重鎖可変領域と抗体軽鎖可変領域とを含む、抗体の抗原結合ドメインを含む。特定の態様では、抗原結合部分は、本明細書でさらに定義され、当技術分野で知られている抗体定常領域を含み得る。有用な重鎖定常領域は、α、δ、ε、γまたはμの5つのアイソタイプのいずれかを含む。有用な軽鎖定常領域は、κおよびλの2つのアイソタイプのいずれかを含む。
【0087】
「特異結合」とは、結合が抗原について選択的であり、望ましくないまたは非特異的な相互作用とは区別可能であることを意味する。本明細書において、「結合(bind)」または「結合(binding)」という用語は、一般に「特異的結合」を指す。抗原結合部分が特定の抗原決定基に結合する能力は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)または当業者には知られている他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(例えば、BIAcore機器で分析される)(Liljeblad et al.,Glyco J 17,323-329(2000))、および従来の結合アッセイ(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))のいずれかによって測定することができる。いくつかの態様では、無関係なタンパク質に対する抗原結合部分の結合度は、例えばSPRによって測定される抗原に対する抗原結合部分の結合の約10%未満である。ある特定の態様では、抗原に結合する抗原結合部分、またはその抗原結合部分を含む抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、または≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば10-8Mから10-13Mまで、例えば10-9Mから10-13Mまで)の解離定数(K)を有する。
【0088】
特定の態様では、NK細胞係合剤は、NK細胞上の抗原決定基(例えば、CD16、特にCD16a)および標的細胞上の抗原決定基(例えば、CD20などの標的細胞抗原)に同時に結合することができる。いくつかの態様では、NK細胞係合剤は、CD16および標的細胞抗原への同時結合によってNK細胞および標的細胞を架橋することができる。いくつかの態様では、そのような同時結合は、標的細胞、特に標的細胞抗原(例えば、CD20)発現腫瘍細胞の溶解をもたらす。いくつかの態様では、そのような同時結合は、NK細胞の活性化をもたらす。いくつかの態様では、このような同時結合は、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子放出、細胞傷害活性、および活性化マーカーの発現の群から選択される、NK細胞の細胞応答をもたらす。いくつかの態様では、標的細胞抗原への同時の結合なしでのCD16へのNK細胞係合剤の結合は、NK細胞活性化をもたらさない。いくつかの態様では、NK細胞係合剤は、NK細胞の細胞傷害活性を標的細胞へ向けることができる。
【0089】
例示的なNK細胞係合剤には、抗体、特にオビヌツズマブ、イムガツズマブ、マルゲツキシマブ、モガムリズマブなどのエフェクター増強抗体が挙げられる。これらの例示的なNK細胞係合剤は、(操作された)Fcドメインを通してCD16(特にCD16A)に結合する。さらなる例示的なNK細胞係合剤には、抗体の抗原結合ドメインを通してCD16(特にCD16A)に結合する抗体、特にCD16および標的細胞抗原に結合する二重/多重特異性抗体(例えば、抗原結合ドメインを通してCD16Aおよび標的細胞抗原に結合する、ROCK(登録商標)(リダイレクトされた最適化細胞殺傷;Affimed)プラットフォームに基づく四価の二重特異性抗体)が挙げられる。NK細胞係合剤はまた、CD16(特にCD16A)および第2のNK細胞抗原、ならびに標的細胞抗原に結合する三重特異性/三官能性抗体(例えば、CD16A(Fcドメインを通して)、NKG2Dおよび標的細胞抗原(抗原結合ドメインを通して)に結合するTriNKET(商標)(三重特異性NK細胞エンゲージャー治療薬;Dragonfly)プラットフォームに基づく抗体、またはCD16A(Fcドメインを通して)、NKp46および標的細胞抗原(抗原結合ドメインを通して)に結合する三官能性NK細胞エンゲージャー(NKCE;Innate Pharma)に基づく抗体)であってもよい。
【0090】
本明細書の「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、種々の抗体構造を包含し、所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および抗体断片を含むが、これらに限定されない。
【0091】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」、および「全抗体」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、天然抗体構造と実質的に類似した構造を有する抗体を指す。
【0092】
「抗体断片」とは、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子である。抗体断片の例には、限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディ、直鎖状抗体、単鎖抗体分子(例えばscFv)、および単一ドメイン抗体が含まれる。特定の抗体断片の総説としては、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)を参照されたい。scFv断片の総説としては、例えば、Pluckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)を参照されたい。また、国際公開第93/16185号および米国特許第5,571,894号および同第5,587,458号を参照されたい。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、in vivo半減期が長くなったFabおよびF(ab’)断片の説明については、米国特許第5,869,046号を参照されたい。ダイアボディは、二価または二重特異性であり得る2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第404,097号、国際公開第1993/01161号、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)、およびHollinger et al.,Proc Natl Acad Sci USA 90,6444-6448(1993)を参照されたい。トリアボディおよびテトラボディも、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)に説明されている。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全てまたは一部または軽鎖可変ドメインの全てまたは一部を含む抗体断片である。特定の態様では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6,248,516号B1を参照)。抗体断片は、限定されないが、本明細書に記載されるように、インタクトな抗体のタンパク質分解による消化、および組換え宿主細胞(例えば、大腸菌またはファージ)による産生を含め、種々の技術によって作られてもよい。
【0093】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗原に対する抗体の結合に関与する抗体重鎖または抗体軽鎖のドメインを指す。天然の抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、一般に、類似の構造を有しており、各ドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と、3つの超可変領域(HVR)とを含む。例えば、Kindtら、Kuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.,page91(2007)を参照されたい。単一のVHドメインまたはVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために十分であり得る。可変領域配列に関して本明細書で使用される「Kabat番号付け」は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)によって記載された番号付けシステムを指す。
【0094】
本明細書で使用される場合、重鎖および軽鎖の全ての定常領域およびドメインのアミノ酸位置は、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に記載される、本明細書では「Kabatによる番号付け」または「Kabat番号付け」と呼ばれるKabat番号付けシステムに従って番号付けされる。特定的には、Kabat番号付けシステム(Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th ed.、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)の647~660頁を参照されたい)を、κおよびλアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLに使用し、Kabat EUインデックス番号付けシステム(661~723頁を参照されたい)を、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2およびCH3)に使用し、この場合には、「Kabat EUインデックスによる番号付け」と言及することによって本明細書でさらに明確にしている。
【0095】
本明細書で使用される「超可変領域」または「HVR」という用語は、配列が超可変であり、抗原結合特異性を決定する抗体可変ドメインの各領域、例えば「相補性決定領域」(「CDR」)を指す。通常、抗体は、6つのCDR;VHに3つ(HCDR1、HCDR2、HCDR3)、およびVLに3つ(LCDR1、LCDR2、LCDR3)を含む。本明細書の例示的なCDRには、以下が含まれる:
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、および96~101(H3)に存在する超可変ループ(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987));
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)、および95~102(H3)に存在するCDR(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991));
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、および93~101(H3)に存在する抗原接触部(MacCallum et al.,J.Mol.Biol.262;732-745(1996))。
【0096】
特に指示がない限り、CDRは、上記Kabat et al.に従い決定される。当業者は、CDRの表記は、上記Chothia、上記McCallum、または、任意の他の、科学的に受容された命名システムに従い決定することもできることを理解するであろう。
【0097】
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3およびFR4からなる。したがって、HVRおよびFR配列は、概して、VH(またはVL)で次の順序で表示される:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0098】
抗体または免疫グロブリンの「クラス」は、抗体または免疫グロブリンの重鎖が保有する定常ドメインまたは定常領域の種類を指す。抗体には、次の5種類の主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA、およびIgAにさらに分けることができる。免疫グロブリンの様々なクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。
【0099】
「免疫グロブリン分子」という用語は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、約150,000ダルトンのヘテロテトラマー糖タンパク質であり、ジスルフィド結合した2つの軽鎖と2つの重鎖で構成される。N末端からC末端に、各重鎖は可変重鎖ドメインまたは重鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VH)を有し、それに続いて重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)を有する。同様に、N末端からC末端に、各軽鎖は可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)を有し、それに続いて軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインを有する。免疫グロブリンの重鎖は、α (IgA)、δ (IgD)、ε (IgE)、γ (IgG)またはμ (IgM)と呼ばれる5種類のうちの1つに割り当てることができ、そのうちのいくつかはサブタイプ、例えばγ (IgG)、γ (IgG)、γ (IgG)、γ (IgG)、α (IgA) およびα (IgA)にさらに分類することできる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる2種類のうちの1つに割り当てられてもよい。免疫グロブリンは、本質的に、免疫グロブリンヒンジ領域を介して接続する2つのFab分子と1つのFcドメインからなる。
【0100】
「Fcドメイン」または「Fc領域」という用語は、本明細書において、定常領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語には、天然配列Fc領域および変異Fc領域が含まれる。IgG重鎖のFc領域の境界は、わずかに変動してもよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、Cys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシ末端まで延びるよう規定されている。しかしながら、宿主細胞によって産生される抗体は、重鎖のC末端から1つ以上の、特に1つまたは2つのアミノ酸の翻訳後切断を受け得る。したがって、完全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現によって、宿主細胞によって産生される抗体は、完全長重鎖を含み得るか、または完全長重鎖の切断されたバリアントを含み得る。これは、重鎖の最後の2つのC末端アミノ酸がグリシン (G446) およびリジン (K447、Kabat EUインデックスによる番号付け) である場合に当てはまる。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)、またはC末端グリシン(Gly446)およびリジン(K447)が存在してもよく、または存在していなくてもよい。本明細書に別途指定のない限り、Fc領域または定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991(上記も参照されたい)に記載されている、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。
【0101】
特に好ましい態様では、本明細書のFcドメインは、ヒトIgGFcドメインである。ヒトIgGFc領域の例示的な配列は、配列番号1で与えられる。
【0102】
本発明の特定の態様では、NK細胞係合剤は、抗体、特にエフェクター増強抗体である。
【0103】
増強されたエフェクター機能、特に増強されたADCC能力を有する抗体は、がん治療の分野における新興種である。抗体のそのFc領域によって媒介されるエフェクター機能が、抗体ベースのがん治療における重要な作用機序であることが認識されている。これに関して特に重要なのは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、すなわち、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)および他の免疫エフェクター細胞による抗体でコートされた標的細胞(例えば、腫瘍細胞)の破壊であり、これは、細胞の表面に結合した抗体がエフェクター細胞上の活性化Fc受容体と相互作用すると引き起こされる。
【0104】
したがって、治療用抗体のADCC活性を増強させることは、強い関心を引くものとなり、ADCC増強に関する様々な方法が記載されている。例えば、Shieldsら(J Biol Chem9(2),6591-6604(2001))は、Fc領域(残基のEU番号付け)の298位、333位、および/または334位でのアミノ酸置換がADCCを改善することを示した。あるいは、抗体のグリコシル化を変更することによって、Fc受容体結合およびエフェクター機能の増加を得ることができる。がん免疫療法において最も一般的に使用される抗体であるIgG1型抗体は、Fc領域の各CH2ドメイン中のAsn297に保存されたN結合型グリコシル化部位を有する。Asn297に結合した2つの複合二分岐オリゴ糖はCH2ドメインの間に埋め込まれ、ポリペプチド骨格と広範な接触を形成し、それらの存在は、抗体がADCCを含むエフェクター機能を媒介するために不可欠である(Lifely et al.,Glycobiology5,813-822(1995);Jefferis et al.,Immunol Rev163,59-76(1998);Wright and Morrison、Trends Biotechnol15,26-32(1997))。その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、Umanaら(Nat Biotechnol17,176-180(1999)および米国特許第6,602,684号(国際公開第99/54342号)は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞における二分されたオリゴ糖の形成を触媒するグリコシルトランスフェラーゼであるβ(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)の過剰発現が、それらの細胞で産生される抗体のin vitro ADCC活性を大幅に増加させることを示した。産生細胞株におけるGnTIIIの過剰発現は、一般に、非フコシル化であり、ハイブリッド型である、二分されたオリゴ糖が豊富な抗体をもたらす。GnTIIIに加えて、マンノシダーゼII(ManII)が産生細胞株で過剰発現される場合、複合型の二分された、非フコシル化オリゴ糖に富む抗体が得られる(Ferraraら、Biotechn Bioeng93,851-861(2006))。両方のタイプの抗体は、非修飾のグリカンを含む抗体と比較して、ADCCの大幅な増加を示すが、N-グリカンの大部分が複合型である抗体のみが、顕著な補体依存性細胞傷害を誘導することができる(Ferrara et al.,Biotechn Bioeng93,851-861(2006))。オリゴ糖コアの最も内側のN-アセチルグルコサミン残基からのフコースの除去は、ADCC活性の増加にとって重要な因子であると考えられる(Shinkawa et al.,J Biol Chem278,3466-3473(2003))。したがって、α(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ欠損宿主細胞での発現を含む、フコシル化が減少した抗体を産生するさらなる方法が開発された(Yamane-Ohnuki et al.,Biotech Bioeng 87,614-622(2004);Niwa et al.,J Immunol Methods 306,151-160(2006))。
【0105】
糖操作された抗EGFR抗体イムガツズマブ、ならびに糖操作された抗CD20抗体オビヌツズマブが含まれるいくつかのエフェクター増強抗体は、臨床において有望な結果を示している。オビヌツズマブは、特定の形態の濾胞性リンパ腫(FL)および慢性リンパ性白血病(CLL)の処置用に、商品名Gazyva(登録商標)/Gazyvaro(登録商標)で販売されている。
【0106】
本発明の様々な態様に関して本明細書で定義される「エフェクター増強抗体」は、対応する操作されていない抗体と比較して、エフェクター機能の増加、特にADCC活性の増加および/またはCD16(特にCD16a)結合の増加を有するように操作された抗体である。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、対応する操作されていない抗体と比較して、少なくとも2倍、少なくとも10倍、またはさらには少なくとも100倍増加したエフェクター機能を有する。特定の態様では、増加したエフェクター機能は、CD16、特にCD16a、最も特にヒトCD16aへの結合の増加である。いくつかのそのような態様では、CD16に対する結合親和性は、対応する操作されていない抗体の結合親和性と比較して、少なくとも2倍、特に少なくとも10倍増加する。いくつかの態様では、エフェクター機能の増加は、ADCCの増加である。いくつかのそのような態様では、ADCCは、対応する操作されていない抗体によって媒介されるADCCと比較して、少なくとも2倍、特に少なくとも10倍増加する。いくつかの態様では、エフェクター機能の増加は、活性化Fc受容体への結合の増加およびADCCの増加である。
【0107】
エフェクター機能の増加は、例えば、Fc領域の糖操作または抗体のFc領域へのアミノ酸突然変異の導入から生じ得る。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、Fc領域における1つ以上のアミノ酸突然変異の導入によって操作される。いくつかのそのような態様では、アミノ酸突然変異はアミノ酸置換である。特定のそのような態様では、アミノ酸置換は、Fc領域の298位、333位、および/または334位(残基のEU番号付け)にある。さらなる好適なアミノ酸突然変異は、例えば、Shields et al.,J Biol Chem9(2),6591-6604(2001);米国特許第6,737,056号;国際公開第2004/063351号および同第2004/099249号に記載されている。変異体Fc領域は、当技術分野で周知の遺伝学的または化学的方法を用いるアミノ酸の欠失、置換、挿入または修飾により調製することができる。遺伝的方法には、コード化DNA配列の部位特異的突然変異誘発、PCR、遺伝子合成などを含んでいてもよい。正確なヌクレオチド変化は、例えば配列決定によって確認することができる。
【0108】
いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、Fc領域におけるグリコシル化の修飾によって操作される。特定の態様では、エフェクター増強抗体は、操作されていない抗体と比較して、Fc領域における非フコシル化オリゴ糖の割合が増加するように操作される。抗体のFc領域中の非フコシル化オリゴ糖の割合の増加は、エフェクター機能の増加、特にADCCの増加を有する抗体をもたらす。
【0109】
特定の態様では、エフェクター増強抗体は、糖操作されていない抗体と比較して、Fc領域において増加した割合の非フコシル化オリゴ糖を含む糖操作された抗体である。いくつかのそのような態様では、抗体は、操作されていない宿主細胞と比較して増加したβ(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)活性を有するように操作された宿主細胞において産生される。より具体的な態様では、宿主細胞は、操作されていない宿主細胞と比較して増加したα-マンノシダーゼII(ManII)活性を有するようにさらに操作される。宿主細胞は、β(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)活性を有する1つ以上のポリペプチドの過剰発現によって、β(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)活性が増加するように操作され得る。同様に、宿主細胞は、α-マンノシダーゼII(ManII)活性を有する1つ以上のポリペプチドの過剰発現によって、増加したα-マンノシダーゼII(ManII)活性を有するように操作され得る。この糖操作方法論は、Umana et al.,Nat Biotechnol17,176-180(1999);Ferraraら、Biotechn Bioeng93、851-861(2006);国際公開第99/54342号; 同第2004/065540号、同第03/011878号により詳細に記載されており、これらの各々の全内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0110】
代替的な態様では、エフェクター増強抗体は、糖操作されていない抗体と比較して、Fc領域において増加した割合の非フコシル化オリゴ糖を含む糖操作された抗体であり、抗体は、減少したα(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する宿主細胞において産生される。減少したα(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する宿主細胞は、α(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が破壊されているか、またはそれ以外の場合は不活性化している、例えば、ノックアウトされている細胞であり得る(yamane-Ohnuki et al.,Biotech Bioeng 87,614(2004);Kanda et al.,Biotechnol Bioeng,94(4),680-688(2006);Niwa et al.,J Immunol Methods306,151-160(2006)を参照されたい)。
【0111】
脱フコシル化抗体を産生可能な細胞株の他の例には、タンパク質のフコシル化が欠損したLec13 CHO細胞が挙げられる(Ripka et al.,Arch Biochem Biophys 249、533~545(1986);米国特許出願第2003/0157108号;および国際公開第2004/056312号、特に実施例11)。あるいは、本発明において有用な抗体は、欧州特許第1 176 195 A1号、国際公開第03/084570号、国際公開第03/085119号、および米国特許出願公開第2003/0115614号、同第2004/093621号、同第2004/110282号、同第2004/110704号、同第2004/132140号、米国特許第6,946,292号(Kyowa)に開示されている技術に従って、例えば、抗体産生に使用される宿主細胞におけるGDP-フコース輸送体タンパク質の活性を低減または廃止することによって、Fc領域のフコース残基が減少するように糖操作することもできる。
【0112】
本発明において有用な糖操作された抗体は、国際公開第03/056914号(GlycoFi,Inc.)または国際公開第2004/057002号および国際公開第2004/024927号(Greenovation)で教示されるものなどの、修飾糖タンパク質を産生する発現系でも産生され得る。
【0113】
いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、操作されていない抗体と比較して、Fc領域において増加した割合の非フコシル化オリゴ糖を有するように操作される。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体のFc領域中のN結合型オリゴ糖の少なくとも約20%、約40%、約60%または約80%、好ましくは少なくとも約40%が非フコシル化である。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体のFc領域中のN結合型オリゴ糖の約40%から約80%が非フコシル化である。非フコシル化オリゴ糖は、ハイブリッド型または複合型であり得る。
【0114】
いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、操作されていない抗体と比較して、Fc領域において増加した割合の二分されたオリゴ糖を有するように操作される。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体のFc領域中のN結合型オリゴ糖の少なくとも約20%、約40%、約60%または約80%、好ましくは少なくとも約40%が二分されている。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体のFc領域中のN結合型オリゴ糖の約40%~約80%が二分されている。二分されたオリゴ糖は、ハイブリッド型または複合型であり得る。
【0115】
いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、操作されていない抗体と比較して、Fc領域において増加した割合の二分された、非フコシル化オリゴ糖を有するように操作される。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体のFc領域中のN結合型オリゴ糖の少なくとも約20%、約40%、約60%または約80%、好ましくは少なくとも約40%が二分され、非フコシル化である。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体のFc領域中のN結合型オリゴ糖の約40%~約80%が二分され、非フコシル化である。二分された、非フコシル化オリゴ糖は、ハイブリッド型または複合型であり得る。
【0116】
いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、そのFc領域中に、少なくとも約20%、約40%、約60%または約80%の非フコシル化オリゴ糖を有する抗体である。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、そのFc領域中に、少なくとも約40%の非フコシル化オリゴ糖を有する抗体である。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、そのFc領域中に、少なくとも約20%、約40%、約60%または約80%の二分されたオリゴ糖を有する抗体である。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、そのFc領域中に、少なくとも約40%の二分された、非フコシル化オリゴ糖を有する抗体である。
【0117】
抗体Fc領域のオリゴ糖構造は、当該技術分野において周知の方法、例えば、Umana et al.,Nat Biotechnol 17,176-180(1999)またはFerrara et al.,Biotechn Bioeng93,851-861(2006)に記載されるMALDI TOF質量分析法により分析することができる。非フコシル化オリゴ糖の割合は、Asn297に結合した全てのオリゴ糖(例えば、複合体、ハイブリッド、高マンノース構造)に対する、フコース残基を欠くオリゴ糖の量であり、MALDI TOF MSによってN-グリコシダーゼF処理試料で同定された量である。Asn297は、Fc領域の約297位に位置するアスパラギン残基を指す(Fc領域残基のEU番号付け);ただし、Asn297はまた、抗体のマイナーな配列変化のために、位置297の上流または下流、すなわち位置294と300の間の約±3個のアミノ酸に位置していてもよい。二分された、または二分された非フコシル化オリゴ糖の割合は、同様に決定される。
【0118】
本明細書で使用される場合、用語「操作する、操作された、操作」は、ペプチド骨格の任意の操作、または天然に存在するポリペプチドもしくは組換えポリペプチドまたはその断片の翻訳後修飾を含むと考えられる。操作には、アミノ酸配列、グリコシル化パターン、または個々のアミノ酸の側鎖基の修飾、およびこれらの手法の組み合わせが含まれる。特に接頭辞「glyco-」が付いた「操作」、ならびに用語「グリコシル化操作」には、細胞内で発現される糖タンパク質のグリコシル化の変化を達成するためのオリゴ糖合成経路の遺伝子操作を含む、細胞のグリコシル化機構の代謝操作が含まれる。さらに、グリコシル化操作には、グリコシル化に対する突然変異および細胞環境の影響が含まれる。いくつかの態様では、グリコシル化操作は、グリコシルトランスフェラーゼ活性における変化である。グリコシルトランスフェラーゼとしては、β(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)、β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ (GalT)、β(1,2)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI(GnTI)、β(1,2)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII(GnTII)およびα(1,6)-フコシルトランスフェラーゼが挙げられる。特定の態様では、操作は、変更されたグルコサミニルトランスフェラーゼ活性および/またはフコシルトランスフェラーゼ活性の変化(例えば、上で述べたような)をもたらす。
【0119】
「結合の増加」、例えばCD16への結合の増加は、例えばSPRによって測定される、それぞれの相互作用に対する親和性の増加を指す。
【0120】
「親和性」は、分子の単一の結合部位(例えば、受容体)と、その結合パートナー(例えば、リガンド)との間の非共有結合的相互作用の合計強度を指す。本明細書で使用される場合、特に断らない限り、「結合親和性」は、結合対 (例えば、抗原結合部分と抗原、または受容体とそのリガンド)のメンバー間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、概して、解離定数(K)によって表すことができ、解離速度定数と会合速度定数(それぞれkoffおよびkon)の比である。したがって、速度定数の比が同じである限り、同等の親和性が異なる速度定数を含み得る。親和性は、ここに記載するものを含め、当技術分野で既知の十分に確立された方法によって測定することができる。親和性を測定するための特定の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0121】
CD16への結合親和性は、例えば、標準的な機器、例えばBIAcore機器(GE Healthcare)を使用する表面プラズモン共鳴(SPR)によって容易に決定することができ、そのようなCD16は、組換え発現によって得られてもよい。いくつかの態様では、CD16(特にCD16a)への結合親和性は、25℃で表面プラズモン共鳴によって測定される。
【0122】
いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、完全長抗体である。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、IgG抗体である。いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、IgG抗体である。エフェクター増強抗体は、Fc領域、特にIgG Fc領域、より詳細にはIgG Fc領域を含む。いくつかの態様では、Fc領域は、ヒトFc領域、特にヒトIgG Fc領域、より詳細にはヒトIgG Fc領域である。
【0123】
エフェクター増強抗体は、腫瘍細胞などの標的細胞上の標的細胞抗原に結合する。
【0124】
いくつかの態様では、エフェクター増強抗体は、CD20、特にヒトCD20に結合する(すなわち、エフェクター増強抗体は、抗CD20抗体、特に抗ヒトCD20抗体である)。
【0125】
「Bリンパ球抗原B1」としても知られる「CD20」は、特に断らない限り、霊長類(例えば、ヒト)、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物源由来の任意の天然CD20を指す。この用語は、「完全長」の未処理のCD20ならびに細胞の処理から生じるCD20の任意の形態を包含する。この用語は、CD20の天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアントまたは対立遺伝子バリアントも包含する。いくつかの態様では、CD20はヒトCD20である。ヒトCD20は、UniProt(www.uniprot.org)アクセッション番号P11836(エントリーバージョン202)に記載されており、ヒトCD20のアミノ酸配列も配列番号10に示される。
【0126】
いくつかの態様では、NK細胞係合剤は、エフェクター増強抗CD20抗体である。いくつかの態様では、抗CD20抗体はIgG抗体、特にIgG抗体である。いくつかの態様では、抗CD20抗体は、完全長抗体である。いくつかの態様では、抗CD20抗体は、Fc領域、特にIgG Fc領域、より詳細にはIgG1 Fc領域を含む。いくつかの態様では、抗CD20抗体は、ヒトFc領域、特にヒトIgG Fc領域、より詳細にはヒトIgG Fc領域を含む。いくつかの態様では、抗CD20抗体は、操作されていない抗体と比較して、Fc領域において増加した割合の非フコシル化オリゴ糖を有するように操作される。いくつかの態様では、抗CD20抗体のFc領域中のN結合型オリゴ糖の少なくとも約40%は非フコシル化である。
【0127】
いくつかの態様では、抗CD20抗体は、配列番号2の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号3のHCDR2、および配列番号4のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号5の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号6のLCDR2、および配列番号7のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む。いくつかの態様では、抗CD20抗体は、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%同一である重鎖可変領域配列、および/または配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%同一である軽鎖可変領域配列を含む。いくつかの態様では、抗CD20抗体は、配列番号8の重鎖可変領域配列および/または配列番号9の軽鎖可変領域配列を含む。
【0128】
特定の態様では、抗CD20抗体はオビヌツズマブ(推奨INN,WHO Drug Information,Vol. 26,No. 4,2012,p. 453)である。本明細書で使用される場合、オビヌツズマブはGA101と同義である。商品名は、GAZYVA(登録商標)またはGAZYVARO(登録商標)である。
【0129】
参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入した後、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした場合の、参照ポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定するためのアラインメントは、当分野の技術の範囲内にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、Clustal W, Megalign (DNASTAR) ソフトウェアまたはFASTAプログラムパッケージのような公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成することができる。当業者であれば、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含め、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、ここでの目的のために、%アミノ酸配列同一性の値は、FASTAパッケージバージョン36.3.8cのggsearchプログラムを用いてまたはその後BLOSUM50比較行列を用いて生成される。FASTAプログラムパッケージは、W.R.Pearson and D.J.Lipman(1988),「Improved Tools for Biological Sequence Analysis」,PNAS 85:2444-2448;W.R.Pearson (1996)「Effective protein sequence comparison」Meth.Enzymol. 266:227ー258;およびPearson et.al.(1997)Genomics 46:24-36によって著され、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_down.shtmlから公的に入手可能である。または、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/index.cgiでアクセス可能な公的なサーバーを使用し、ggsearch(global protein:protein)プログラムおよびデフォルトオプション(BLOSUM50;オープン:-10;ext:-2;Ktup=2)を用い、ローカルではなくグローバルのアラインメントを確実に行い、配列を比較することができる。パーセントアミノ酸同一性は、出力アラインメントヘッダ中に与えられる。
【0130】
いくつかの態様では、(NK細胞係合剤によって処置される)疾患はがんである。
【0131】
本明細書で使用される場合、「処置(treatment)」(およびその文法的な変化形、例えば、「処置する(treat)」または「処置すること(treating)」)は、処置される個体において疾患の本来の経過を変えようとする試行における臨床的介入を指し、予防のためにまたは臨床病理の経過の間に実施することができる。処置の所望の効果としては、疾患の発症または再発の予防、症状の軽減、疾患の任意の直接的または間接的な病理学的結果の減弱、転移の予防、疾患進行率を低下させること、症状の寛解または緩和、および回復または改善された予後が挙げられるが、これらに限定されない。
【0132】
「がん」という用語は、制御されていない細胞増殖を典型的に特徴とする哺乳動物における生理学的状態を指す。がんの例には、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病が含まれるが、これらに限定されない。がんの非限定的な例には、白血病などの血液がん、膀胱がん、脳がん、頭頸部がん、膵臓がん、胆管がん、甲状腺がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、皮膚がん、扁平上皮癌、肉腫、骨がん、および腎臓がんが含まれる。他の細胞増殖障害には、限定されないが、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頸部、(中枢および末梢)神経系 、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、脾臓、胸部、および泌尿生殖器系に位置する腫瘍が含まれる。前がんの状態または病変およびがん転移も含まれる。
【0133】
いくつかの態様では、がんは、NK細胞係合剤(例えば、エフェクター増強抗体)の標的細胞抗原を発現するがんである。
【0134】
いくつかの態様では、がんは、CD20発現がんである(NK細胞係合剤、例えばエフェクター増強抗体の標的細胞抗原がCD20である特定の態様において)。「CD20陽性がん」または「CD20発現がん」とは、がん細胞におけるCD20の発現または過剰発現を特徴とするがんを意味する。CD20の発現は、例えば、定量的リアルタイムPCR(CD20 mRNAレベルを測定する)、免疫組織化学(IHC)、またはウエスタンブロットアッセイによって決定され得る。いくつかの態様では、がんはCD20を発現する。いくつかの態様では、がんは、CD20に特異的な抗体を使用する免疫組織化学(IHC)によって決定されるように、腫瘍細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%または少なくとも80%でCD20を発現する。
【0135】
いくつかの態様では、がんはB細胞がん、特にCD20陽性B細胞がんである。いくつかの態様では、がんは、非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、多発性骨髄腫(MM)またはホジキンリンパ腫(HL)からなる群から選択される。特定の態様では、がんは、非ホジキンリンパ腫(NHL)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、および辺縁帯リンパ腫(MZL)からなる群から選択される。より詳細な態様では、がんはFLである。いくつかの態様では、がんはCLLである。
【0136】
いくつかの態様では、がんは、NK細胞係合剤によって処置可能である。いくつかの態様では、NK細胞係合剤は、がんの処置に適応される。
【0137】
本明細書の「個体」または「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物としては、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、齧歯類(例えば、マウスおよびラット)が挙げられる。ある特定の態様では、個体または対象は、ヒトである。いくつかの態様では、個体は、疾患、特に、NK細胞係合剤によって処置可能なまたは処置されるべき疾患を有する。いくつかの態様では、個体は、がん、特に、NK細胞係合剤によって処置可能なまたは処置されるべきがんを有する。特に、本明細書における個体は、がんの1以上の徴候、症状、または他の指標を経験しているかまたは経験したことのある、処置に適格な任意の単一のヒト対象である。いくつかの態様では、個体は、がんを有するか、またはがん、特に上記のがんのいずれかと診断されている。いくつかの態様では、個体は、局所進行性がんもしくは転移性がんを有するか、または局所進行性がんもしくは転移性がんと診断されている。個体は、NK細胞係合剤(例えば、エフェクター増強抗体)もしくは別の薬物で以前に処置されていてもよく、またはそのような処置を受けていなくてもよい。特定の態様では、患者はNK細胞係合剤(例えばエフェクター増強抗体)で以前に処置されていない。患者は、NK細胞係合剤療法が開始される前に、NK細胞係合剤以外の(例えば、エフェクター増強抗体以外の)1つ以上の薬物を含む療法で処置されていてもよい。
【0138】
いくつかの態様では、個体は、1つ以上のサイトカインの上昇した血清レベルを有する。いくつかの態様では、前記上昇した血清レベルは、個体に対するNK細胞係合剤の投与に関連する。前記上昇した血清レベルは、特に、健常個体の血清レベル、および/またはNK細胞係合剤を投与していない個体(同じ個体を含む)の血清レベルと比較したものである(すなわち、そのような場合、血清レベルは、NK細胞係合剤を投与しない場合の血清レベルと比較して上昇している)。いくつかの態様では、前記1つ以上のサイトカインは、IL-6、IFN-γ、IL-8、TNF-α、IL-2、IL-12、IL-1β、MCP-1およびIL-10からなる群、特にIL-6、IFN-γ、IL-8およびTNF-αからなる群から選択される。
【0139】
本発明の態様のいずれかによるサイトカインは、インターロイキン(IL)-6、インターフェロン(IFN)-γ、IL-8、腫瘍壊死因子(TNF)-α、 IL-2、単球走化性タンパク質(MCP)-1、IL-12、IL-1βおよびIL-10からなる群から選択される1つ以上のサイトカインであり得る。いくつかの態様では、サイトカインは、IL-6、IFN-γ、IL-8およびTNF-α、IL-2ならびにMCP-1からなる群から選択される1つ以上のサイトカインである。いくつかの態様では、サイトカインは、IL-6、IFN-γ、IL-8、TNF-α、およびMCP-1からなる群から選択される1つ以上のサイトカインである。いくつかの態様では、サイトカインは、IL-6、IFN-γ、IL-8およびTNF-αからなる群から選択される1つ以上のサイトカインである。いくつかの態様では、サイトカインは、IL-6である。いくつかの態様では、サイトカインは、IFN-γである。いくつかの態様では、サイトカインは、IL-8である。いくつかの態様では、サイトカインは、TNF-αである。いくつかの態様では、サイトカインは、MCP-1である。いくつかの態様では、サイトカインは、IL-1βである。いくつかの態様では、サイトカインは、IL-10である。いくつかの態様では、サイトカインは、IL-12である。いくつかの態様では、サイトカインは、IL-2である。
【0140】
好ましくは、本発明の態様のいずれかによるNK細胞は、CD16NK細胞である。
【0141】
いくつかの態様では、NK細胞係合剤による処置またはNK細胞係合剤の投与は、個体における応答をもたらし得る。いくつかの態様では、応答は完全な応答であり得る。いくつかの態様では、応答は、処置の中止後に持続する応答であり得る。いくつかの態様では、応答は、処置の中止後に持続する完全な応答であり得る。いくつかの態様では、応答は部分応答であり得る。いくつかの態様では、応答は、処置の中止後に持続する部分応答であり得る。いくつかの態様では、NK細胞係合剤ならびに、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤による処置または投与は、NK細胞係合剤単独で(すなわち、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤なしで)の処置または投与と比較して、応答を改善し得る。いくつかの態様では、NK細胞係合剤ならびに、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤の処置または投与は、NK細胞係合剤単独で(すなわち、Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤なしで)処置された対応する患者集団と比較して、患者集団における奏効率を増加させ得る。
【0142】
NK細胞係合剤は、治療において単独で、または他の薬剤と一緒に使用され得る。例えば、NK細胞係合剤は、少なくとも1つの追加の治療剤と共投与され得る。特定の態様では、追加の治療剤は、抗がん剤、例えば、化学療法剤、腫瘍細胞増殖の阻害剤、または腫瘍細胞アポトーシスの活性化剤である。特に、NK細胞係合剤がエフェクター増強抗CD20抗体(例えば、オビヌツズマブ)である具体的な態様では、追加の治療剤は、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾンもしくはプレドニゾロン、クロラムブシルまたはベンダムスチンから選択される。いくつかのそのような態様では、追加の治療剤は、化学療法剤の組み合わせ、特に、 シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびプレドニゾンもしくはプレドニゾロンの組み合わせ(CHOP)、またはシクロホスファミド、ビンクリスチン、およびプレドニゾンもしくはプレドニゾロンの組み合わせ(CVP)である。
【0143】
Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤は、NK細胞係合剤の投与に関連する有害作用、特にCRSの防止または軽減のために、単独で、または1つ以上の他の薬剤と一緒に使用することができる。Src、JAKおよび/またはmTORシグナル伝達の阻害剤は、例えば、IL-6Rアンタゴニスト(例えば、トシリズマブ)、ステロイド(例えば、メチルプレドニゾロンまたはデキサメタゾンなどのコルチコステロイド)またはTNF-αアンタゴニスト(例えば、エタネルセプト)と一緒に使用することができる。
【0144】
【図面の簡単な説明】
【0145】
図1】全血アッセイにおけるオビヌツズマブ誘発性CD19B細胞枯渇に対する100nMのルキソリチニブ(ruxo)、100nMのシロリムス(siro)、100nMのダサチニブ(dasa)の効果である。新鮮な全血を、100nMのルキソリチニブ、100nMのシロリムス、および100nMのダサチニブの存在下および非存在下で、100、10、1および0.1μg/mLのオビヌツズマブまたはPGLALA IgGと共に48時間インキュベートした。PGLALA IgGは、サイレントFc領域を有し、陰性対照である。48時間の時点で、血液を採集し、溶解させて、フローサイトメトリーによって、生細胞中のCD19B細胞の割合を測定した。n=2人のドナーの平均値。
図2A-C】全血アッセイにおける100、10、1および0.1μg/mLのオビヌツズマブについての、オビヌツズマブ誘発性IFN-γ(A)、IL-2(B)、およびTNF-α(C)に対する100nMのルキソリチニブ(ruxo)、100nMのシロリムス(siro)、100nMのダサチニブ(dasa)の効果である。新鮮な全血を、100nMのルキソリチニブ、100nMのシロリムス、および100nMのダサチニブの存在下および非存在下で、100、10、1および0.1μg/mLのオビヌツズマブまたはPGLALA IgGと共に48時間インキュベートした。PGLALA IgGは、サイレントFc領域を有し、陰性対照である。24時間の時点で、血清を採集し、Luminexによってサイトカインを分析した。n=2人のドナーの平均値。
図2D-F】全血アッセイにおける100、10、1および0.1μg/mLのオビヌツズマブについての、オビヌツズマブ誘発性IL-6(D),IL-8(E)およびMCP-1(F)に対する100nMのルキソリチニブ(ruxo)、100nMのシロリムス(siro)、100nMのダサチニブ(dasa)の効果である。新鮮な全血を、100nMのルキソリチニブ、100nMのシロリムス、および100nMのダサチニブの存在下および非存在下で、100、10、1および0.1μg/mLのオビヌツズマブまたはPGLALA IgGと共に48時間インキュベートした。PGLALA IgGは、サイレントFc領域を有し、陰性対照である。24時間の時点で、血清を採集し、Luminexによってサイトカインを分析した。n=2人のドナーの平均値。
【実施例
【0146】
以下は、本発明の方法および組成物の実施例である。上に提供された一般的な説明が与えられると、様々な他の態様が実施され得ることが理解される。
【0147】
実施例1.JAK1/2阻害剤のルキソリチニブ、mTOR阻害剤のシロリムス、およびSrc阻害剤のダサチニブは、FcγR媒介の輸注反応を防止することができる。
CD20標的化エフェクター増強抗体のオビヌツズマブ(Gazyva(登録商標))は、FcγRシグナル伝達を介してB細胞を枯渇させるため、FcγRシグナル伝達を介して誘導されるサイトカイン放出によって特徴付けられる輸注反応のリスクと関連する可能性がある。mTOR阻害剤のシロリムス、JAK1/2阻害剤のルキソリチニブおよびSrc阻害剤のダサチニブがFcγRシグナル伝達を介して誘導されるサイトカイン放出を予防することができるかどうかを評価するために、シロリムス、ルキソリチニブおよびダサチニブの存在下および非存在下でオビヌツズマブの漸増用量を使用する全血アッセイを実施した。サイレントFc部分を有する対応する抗CD20 IgG(「PGLALA」突然変異L234A、L235A、P329G(Kabat EU番号付け)を含む)を陰性対照として使用した(「PGLALA IgG」)。このアッセイでは、新鮮な全血を、100nMのシロリムス、100nMのルキソリチニブおよび100nMのダサチニブの存在下および非存在下で、100μg/mL~0.1μg/mLの範囲の濃度のオビヌツズマブと一緒にインキュベートする。サイトカイン放出に対する異なるキナーゼ阻害剤の影響を評価するために、24時間後に血清を採集し、サイトカインをLuminexで分析した。B細胞枯渇に対する異なるキナーゼ阻害剤の影響を評価するために、48時間後に血液を溶解し、B細胞枯渇をフローサイトメトリーで測定した。
【0148】
その結果、100nMのシロリムス、100nMのルキソリチニブおよび100nMのダサチニブによる処置は、48時間の時点でオビヌツズマブによって誘発されるB細胞枯渇を防止しなかった(図1)。しかしながら、100nMのダサチニブによる処置は、IFN-γ、IL-2、TNF-α、IL-6、IL-6、およびMCP-1のレベルを大幅に低下させた(図2A~F)。100nMのシロリムスおよび100nMのルキソリチニブによる処置は、IFN-γ、TNF-α、IL-6、IL-6およびMCP-1のレベルも低下させ、IL-2のレベルもより低い程度に低下させた(図19A~F)。
【0149】
mTOR阻害剤のシロリムス、JAK1/2阻害剤のルキソリチニブ、およびSrc阻害剤のダサチニブはサイトカイン放出を低減させ、Src阻害剤は3つのクラスのキナーゼ阻害剤の中でサイトカイン放出の低減において最も強力であった。しかしながら、驚くべきことに、キナーゼ阻害剤(ダサチニブを含む)は、オビヌツズマブ誘発性B細胞枯渇を妨害しなかった。したがって、本発明者らは、これらのキナーゼ阻害剤は、FcγRを介する抗体シグナル伝達による処置後の輸注反応を軽減するために使用できる可能性があることを提案する。
【0150】
上述の発明は、理解を明確にする目的のために説明および実施例によってある程度詳細に記載されているが、これらの説明および実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。ここに引用される全ての特許および科学文献の開示は、参照によりその全体が明示的に援用される。
図1
図2A-C】
図2D-F】
【配列表】
2024514281000001.app
【国際調査報告】