(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-03
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、これを含む正極およびリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240327BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240327BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240327BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240327BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 E
H01M4/131
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564203
(86)(22)【出願日】2022-05-03
(85)【翻訳文提出日】2023-10-19
(86)【国際出願番号】 KR2022006322
(87)【国際公開番号】W WO2022235047
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】10-2021-0058086
(32)【優先日】2021-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ナ・リ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ホ・オム
(72)【発明者】
【氏名】チェ・ジン・イム
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ウォン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ノ・ウ・カク
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヘ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ビュン・フン・ジュン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA09
(57)【要約】
本発明は、容量特性と寿命特性に優れる電池を実現することができる正極活物質を提供するための発明であり、第1リチウム遷移金属酸化物および前記第1リチウム遷移金属酸化物より平均粒径(D50)が小さい第2リチウム遷移金属酸化物を含み、前記第1リチウム遷移金属酸化物の粒子強度は、140MPa以上であり、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物の粒子強度の差は、10MPa以下である正極活物質、これを含む正極およびリチウム二次電池に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1リチウム遷移金属酸化物および前記第1リチウム遷移金属酸化物より平均粒径(D
50)が小さい第2リチウム遷移金属酸化物を含み、
前記第1リチウム遷移金属酸化物の粒子強度は、140MPa以上であり、
前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物の粒子強度の差は、10MPa以下である、正極活物質。
【請求項2】
前記第2リチウム遷移金属酸化物は、前記第1リチウム遷移金属酸化物より粒子強度が小さいか同一である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記第2リチウム遷移金属酸化物の粒子強度は、130MPa以上190MPa以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記正極活物質は、バイモーダル粒度分布を有する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記第1リチウム遷移金属酸化物の平均粒径(D
50)は、6μm~25μmである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記第2リチウム遷移金属酸化物の平均粒径(D
50)は、1μm~12μmである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立して、遷移金属のうちニッケルのモル比が60%以上であるリチウム遷移金属酸化物である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立して、下記の化学式1で表される組成を有する、請求項1に記載の正極活物質。
[化学式1]
Li
1+aNi
xCo
yM
1
zM
2
wO
2
前記化学式1中、
0≦a≦0.30、0.60≦x<1.0、0<y<0.40、0<z<0.40、0≦w≦0.10であり、
M
1は、MnおよびAlから選択される1種以上であり、
M
2は、W、Mo、Cr、Zr、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上である。
【請求項9】
前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物は、60:40~90:10の重量比で含まれる、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項10】
請求項1に記載の正極活物質を含む正極活物質層を含み、
前記正極活物質層に含まれる第1リチウム遷移金属酸化物は、下記式1を満たす、正極。
[式1]
【数1】
前記式1中、
AとPは、それぞれ、第1リチウム遷移金属酸化物の粒子の断面の面積と周長である。
【請求項11】
前記正極活物質層は、空隙率が15体積%~30体積%である、請求項10に記載の正極。
【請求項12】
請求項10に記載の正極を含む、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年5月4日付けの韓国特許出願第10-2021-0058086号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、これを含む正極およびリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に関する技術の開発と需要の増加に伴い、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化し、広く使用されている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられており、中でも、作用電圧が高く、容量特性に優れたLiCoO2などのリチウムコバルト複合金属酸化物が主に使用されている。しかし、LiCoO2は、脱リチウムによる結晶構造の不安定化のため、熱的特性が劣る。また、前記LiCoO2は、高価であるため、電気自動車などの分野の動力源として大量使用するには限界がある。
【0005】
前記LiCoO2の代わりに使用するための材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnO2またはLiMn2O4など)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePO4など)またはリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiO2など)などが開発されている。中でも、約200mAh/gの高い可逆容量を有して大容量の電池の実現が容易なリチウムニッケル複合金属酸化物に関する研究開発がより活発になされている。しかし、前記LiNiO2は、LiCoO2に比べて熱安定性が劣り、充電状態で外部からの圧力などによって内部短絡が生じると、正極活物質自体が分解し、電池の割れおよび発火を引き起こす問題があった。そのため、前記LiNiO2の優れた可逆容量は維持し、且つ低い熱安定性を改善するための方法として、Niの一部をCo、MnまたはAlで置換したリチウム遷移金属酸化物が開発されている。
【0006】
このようなリチウム遷移金属酸化物、特に、高含量のニッケル(Ni-rich)を含むリチウム遷移金属酸化物を正極活物質として使用するリチウムイオン電池の場合、電池の容量、高出力可否および高温でのガス発生可否は、正極活物質の組成、不純物の含量、表面に存在するリチウム副生成物の含量のような化学的特性だけでなく、正極活物質粒子のサイズ、表面積、密度および形状など、物理的特性にも影響を受ける。
【0007】
一般的に、電池のエネルギー体積密度(volumetric energy density)を最大限に高めるために、大粒径を有する正極活物質と小粒径を有する正極活物質を混合して使用することで、小粒径の正極活物質が大粒径の正極活物質の粒子の間の空隙を埋めることによって電池のエネルギー体積密度を向上する方法が使用されており、より稠密な構造の正極活物質層を製造するために、ロールプレスを用いて正極活物質層を圧延する方法が用いられている。ここで、大粒径を有する正極活物質と小粒径を有する正極活物質との粒子強度の差によって、圧延時に、相対的に粒子強度が弱い粒子に過剰なクラック(crack)が発生し、粒子の最初の形状が無くなるだけでなく、電解液との接触面積が過剰に広くなることから、これを電池に適用する場合、寿命特性が低下する問題があった。
【0008】
したがって、エネルギー体積密度を改善し、正極の製造のための圧延時に、粒子の割れを抑制して、寿命特性を改善することができる正極活物質の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、平均粒径が相違する2種のリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質を圧延する時に、粒子の割れを抑制することができる正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、正極活物質、正極およびリチウム二次電池を提供する。
【0011】
(1)本発明は、第1リチウム遷移金属酸化物および前記第1リチウム遷移金属酸化物より平均粒径(D50)が小さい第2リチウム遷移金属酸化物を含み、前記第1リチウム遷移金属酸化物の粒子強度は、140MPa以上であり、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物の粒子強度の差は、10MPa以下である正極活物質を提供する。
【0012】
(2)本発明は、前記(1)において、前記第2リチウム遷移金属酸化物は、前記第1リチウム遷移金属酸化物より粒子強度が小さいか同一である正極活物質を提供する。
【0013】
(3)本発明は、前記(1)または(2)において、前記第2リチウム遷移金属酸化物の粒子強度は、130MPa以上190MPa以下である正極活物質を提供する。
【0014】
(4)本発明は、前記(1)~(3)のいずれか一つにおいて、前記正極活物質は、バイモーダル粒度分布を有する正極活物質を提供する。
【0015】
(5)本発明は、前記(1)~(4)のいずれか一つにおいて、前記第1リチウム遷移金属酸化物の平均粒径(D50)は、6μm~25μmである正極活物質を提供する。
【0016】
(6)本発明は、前記(1)~(5)のいずれか一つにおいて、前記第2リチウム遷移金属酸化物の平均粒径(D50)は、1μm~12μmである正極活物質を提供する。
【0017】
(7)本発明は、前記(1)~(6)のいずれか一つにおいて、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立して、遷移金属のうちニッケルのモル比が60%以上であるリチウム遷移金属酸化物である正極活物質を提供する。
【0018】
(8)本発明は、前記(1)~(7)のいずれか一つにおいて、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立して、下記の化学式1で表される組成を有する正極活物質を提供する。
[化学式1]
Li1+aNixCoyM1
zM2
wO2
前記化学式1中、
0≦a≦0.30、0.60≦x<1.0、0<y<0.40、0<z<0.40、0≦w≦0.10であり、
M1は、MnおよびAlから選択される1種以上であり、
M2は、W、Mo、Cr、Zr、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上である。
【0019】
(9)本発明は、前記(1)~(8)のいずれか一つにおいて、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物は、60:40~90:10の重量比で含まれる正極活物質を提供する。
【0020】
(10)本発明は、前記(1)~(9)のいずれか一つによる正極活物質を含む正極活物質層を含み、前記正極活物質層に含まれる第1リチウム遷移金属酸化物は、下記式1を満たす正極を提供する。
[式1]
【数1】
前記式1中、AとPは、それぞれ、第1リチウム遷移金属酸化物の粒子の断面の面積と周長である。
【0021】
(11)本発明は、前記(10)において、前記正極活物質層は、空隙率が15体積%~30体積%である正極を提供する。
【0022】
(12)本発明は、前記(10)または(11)による正極を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明による正極活物質は、大粒径のリチウム遷移金属酸化物の粒子強度が特定の値以上であり、大粒径のリチウム遷移金属酸化物と小粒径のリチウム遷移金属酸化物の粒子強度の差が少なく、正極の製造のための圧延時に、リチウム遷移金属酸化物の粒子の割れ現象を効果的に抑制することができる。したがって、本発明による正極活物質を使用する場合、リチウム遷移金属酸化物の粒子の割れによって発生する電解液との副反応の発生を最小化することができ、優れた容量特性および寿命特性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1で製造した正極活物質を用いて製造された正極の断面を示すSEMイメージである。
【
図2】実施例2で製造した正極活物質を用いて製造された正極の断面を示すSEMイメージである。
【
図3】実施例3で製造した正極活物質を用いて製造された正極の断面を示すSEMイメージである。
【
図4】比較例1で製造した正極活物質を用いて製造された正極の断面を示すSEMイメージである。
【
図5】比較例2で製造した正極活物質を用いて製造された正極の断面を示すSEMイメージである。
【
図6】比較例3で製造した正極活物質を用いて製造された正極の断面を示すSEMイメージである。
【
図7】比較例4で製造した正極活物質を用いて製造された正極の断面を示すSEMイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0026】
本明細書および特許請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義し得るという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0027】
本明細書において、「平均粒径(D50)」は、粒子の粒径分布曲線において、体積累積量の50%に該当する粒径と定義することができる。前記平均粒径(D50)は、例えば、レーザ回折法(laser diffraction method)を用いて測定することができる。前記レーザ回折法は、一般的に、数nm領域から数mm程度の粒径の測定が可能であり、高再現性および高分解性の結果を得ることができる。
【0028】
本明細書において、粒子強度(MPa)は、リチウム遷移金属酸化物の粒子のサンプルを採取し、採取したサンプルをガラス(glass)上に位置させた後、サンプルにチップ(Tip)で一定の圧力(100mN)を加えて、粒子が破壊されてチップがサンプルを載せたガラスに接するまでの力を測定して得られた値である。
【0029】
正極活物質
本発明者らは、平均粒径が相違する2種のリチウム遷移金属酸化物を混合して使用し、この際、相対的に平均粒径が大きい大粒径の第1リチウム遷移金属酸化物と、相対的に平均粒径が小さい小粒径の第2リチウム遷移金属酸化物の粒子強度の差を最適化し、粒子強度が140MPa以上である大粒径の第1リチウム遷移金属酸化物を使用することで、高いエネルギー体積密度を有し、且つ粒子の割れ(crack)を抑制することができ、これにより、電池への適用時に、優れた容量特性と長寿命特性を確保することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0030】
以下、本発明による正極活物質について具体的に説明する。
【0031】
本発明による正極活物質は、第1リチウム遷移金属酸化物および前記第1リチウム遷移金属酸化物より平均粒径(D50)が小さい第2リチウム遷移金属酸化物を含み、前記第1リチウム遷移金属酸化物の粒子強度は、140MPa以上であり、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物の粒子強度の差は、10MPa以下である。
【0032】
本発明による正極活物質は、平均粒径が相違する第1リチウム遷移金属酸化物および前記第1リチウム遷移金属酸化物より平均粒径(D50)が小さい第2リチウム遷移金属酸化物を含み、バイモーダル粒度分布を有する。
【0033】
例えば、前記第1リチウム遷移金属酸化物は、相対的に平均粒径が大きい粒子であり、第2リチウム遷移金属酸化物は、相対的に平均粒径が小さい粒子であることができる。
【0034】
前記第1リチウム遷移金属酸化物は、平均粒径(D50)が6μm~25μm、具体的には6μm~22μm、さらに具体的には8μm~20μmであることができ、第2リチウム遷移金属酸化物は、平均粒径(D50)が1μm~12μm、具体的には2μm~10μm、さらに具体的には2μm~8μmであることができる。
【0035】
前記第1リチウム遷移金属酸化物および第2リチウム遷移金属酸化物の平均粒径(D50)が前記範囲を満たす場合、前記第1リチウム遷移金属酸化物の粒子の間に第2リチウム遷移金属酸化物の粒子が充填されることにより、これを含む正極活物質のタップ密度(tap density)が向上することができる。前記タップ密度が高いほど電極の充填密度(packing density)が高くなるため、これを用いて電極を製造する時に、正極集電体の表面に前記タップ密度を有する正極活物質を含むスラリーを薄く塗布することができ、コーティング後、電極の厚さが薄く改善し、これを圧延する過程で圧延密度を合わせるための電極の厚さに至るためにかかる圧力が少なくて、圧延による正極活物質の割れ(crack)を改善することができる。さらに、エネルギー体積密度(volumetric energy density)が改善することによって容量特性をより改善することができる。
【0036】
一方、前記第1リチウム遷移金属酸化物の粒子強度は、140MPa以上であり、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物の粒子強度の差は、10MPa以下である。この場合、第1リチウム遷移金属酸化物と第2リチウム遷移金属酸化物の粒子強度が同様に調節されることで、正極の製造のための圧延時にいずれか一方に物理的な力が集中せず分散し、第1リチウム遷移金属酸化物の粒子と第2リチウム遷移金属酸化物の粒子それぞれが最初の形状を維持することができ、粒子の割れが抑制されることができる。
【0037】
一方、前記第1リチウム遷移金属酸化物の粒子強度が140MPa未満である場合、電極の多くの部分を占めている大粒径の第1リチウム遷移金属酸化物の粒子が割れやすく、電解液との反応が可能な比表面積がより広くなる問題がある。また、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物の粒子強度の差が10MPa超である場合、小粒径の第2リチウム遷移金属酸化物の粒子が大粒径の第1リチウム遷移金属酸化物の粒子の間で完全に破壊される可能性があり、電解液との反応が可能な比表面積がより広くなる問題がさらにひどくなり得る。
【0038】
前記第1リチウム遷移金属酸化物の粒子強度は、具体的には140MPa~200MPa、さらに具体的には140MPa~160MPaであることができる。また、前記第2リチウム遷移金属酸化物は、前記第1リチウム遷移金属酸化物より粒子強度が小さいか同一であることができ、具体的には130MPa以上190MPa未満、さらに具体的には130MPa~150MPaであることができる。第1リチウム遷移金属酸化物と第2リチウム遷移金属酸化物の粒子強度が前記範囲を満たす場合、正極の製造のための圧延時に、粒子の割れが緩和することができる。これにより、優れた圧延密度を実現することができ、電池の高温寿命特性を最適化することができる。
【0039】
一方、リチウム遷移金属酸化物の粒子強度は、原料物質である正極活物質用前駆体(遷移金属水酸化物、遷移金属オキシ水酸化物など)の組成および特性と焼成条件に応じて変化するため、正極活物質用前駆体組成および/または特性(表面積、密度、形状など)に応じて焼成条件(温度および時間)を適切に調節することで、所望の粒子強度を有するリチウム遷移金属酸化物を製造することができる。
【0040】
一方、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立して、遷移金属のうちニッケルのモル比が80%以上であるリチウム遷移金属酸化物であることができる。前記高含量のニッケル-含有リチウム遷移金属酸化物は、単位体積当たりの容量が大きいため、これを電池に適用する場合、優れた容量特性を実現することができる。
【0041】
具体的には、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立して、下記の化学式1で表される組成を有することができる。
【0042】
[化学式1]
Li1+aNixCoyM1
zM2
wO2
【0043】
前記化学式1中、前記M1は、MnおよびAlから選択される1種以上であり、具体的にはMnおよびAlを同時に含むことができる。
【0044】
前記M2は、W、Mo、Cr、Zr、Ti、Mg、TaおよびNbから選択される1種以上であることができる。
【0045】
前記1+aは、リチウム遷移金属酸化物内のリチウムのモル比を示し、0≦a≦0.30、好ましくは0≦a≦0.20であることができる。
【0046】
前記xは、全体の遷移金属のうちニッケルのモル比を示し、0.60≦x<1.0、0.60≦x≦0.99、0.60≦x≦0.95、0.60≦x≦0.90または0.60≦x≦0.85であることができる。ニッケル含有量が前記範囲を満たす場合、優れた容量特性を実現することができる。
【0047】
前記yは、全体の遷移金属のうちコバルトのモル比を示し、0<y<0.40、0<y<0.30、または0.01≦y≦0.20であることができる。
【0048】
前記zは、全体の遷移金属のうちM1のモル比を示し、0<z<0.40、0<z<0.30、または0.01<z<0.20であることができる。
【0049】
前記wは、全体の遷移金属のうちM2のモル比を示し、0≦w≦0.10、または0≦w≦0.05であることができる。
【0050】
より具体的には、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立して、下記の化学式2で表される組成を有することができる。
【0051】
[化学式2]
Li1+aNixCoyMnz1Alz2M2
wO2
【0052】
前記化学式2中、a、x、y、w、M2は、前記化学式1で定義されたとおりである。
【0053】
すなわち、前記M2は、W、Mo、Cr、Zr、Ti、Mg、TaおよびNbからなる群から選択される1種以上であることができる。
【0054】
前記1+aは、リチウム遷移金属酸化物内のリチウムのモル比を示し、0≦a≦0.30、好ましくは0≦a≦0.20であることができる。
【0055】
前記xは、全体の遷移金属のうちニッケルのモル比を示し、0.60≦x<1.0、0.60≦x≦0.99、0.60≦x≦0.95、0.60≦x≦0.90または0.60≦x≦0.85であることができる。ニッケル含有量が前記範囲を満たす場合、優れた容量特性を実現することができる。
【0056】
前記yは、全体の遷移金属のうちコバルトのモル比を示し、0<y<0.40、0<y<0.30、または0.01≦y≦0.20であることができる。
【0057】
前記wは、全体の遷移金属のうちM2のモル比を示し、0≦w≦0.10、または0≦w≦0.05であることができる。
【0058】
一方、前記z1は、遷移金属のうちMnのモル比を示し、0<z1<0.40、0<z1<0.30、または0<z1<0.20であることができる。
【0059】
前記z2は、遷移金属のうちAlのモル比を示し、0<z2<0.20、0<z2<0.15、または0<z2<0.10であることができる。
【0060】
前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物は、組成が同一であるか、相違することができる。例えば、前記第1リチウム遷移金属酸化物は、遷移金属のうちニッケルのモル比が85モル%以上であるリチウム遷移金属酸化物であることができ、第2リチウム遷移金属酸化物は、遷移金属のうちニッケルのモル比が80モル%~85モル%であるリチウム遷移金属酸化物であることができる。
【0061】
一方、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物は、必要に応じて、前記リチウム遷移金属酸化物の表面に、Al、Ti、W、B、F、P、Mg、Ni、Co、Fe、Cr、V、Cu、Ca、Zn、Zr、Nb、Mo、Sr、Sb、Bi、Si、およびSからなる群から選択される1種以上の元素(以下、「コーティング元素」とする)を含むコーティング層をさらに含むことができる。前記のようなコーティング層を含む場合、リチウム遷移金属酸化物と電解液の接触が遮断されて、電解液との副反応によるガスの発生および遷移金属の溶出を効果的に抑制することができる。
【0062】
前記コーティング層は、リチウム遷移金属酸化物と前記コーティング元素を含む原料物質を混合した後、200℃~500℃の温度で熱処理する方法により形成されることができる。
【0063】
本発明による正極活物質は、前記第1リチウム遷移金属酸化物と前記第2リチウム遷移金属酸化物が、60:40~90:10の重量比、具体的には60:40~90:10の重量比、さらに具体的には70:30~90:10の重量比で含まれたことができる。この場合、正極活物質のタップ密度の向上効果を得ることができる。
【0064】
正極
また、本発明は、前記正極活物質を含む正極活物質層を含む正極を提供する。具体的には、前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一面に位置し、前記正極活物質を含む正極活物質層とを含む。前記正極活物質層は、空隙率が15体積%~30体積%、具体的には18体積%~30体積%、さらに具体的には20体積%~30体積%であることができる。
【0065】
ここで、前記正極活物質層に含まれる第1リチウム遷移金属酸化物は、下記式1を満たす。すなわち、本発明による正極活物質を使用して正極を製造する場合、第1リチウム遷移金属酸化物の粒子の割れが少なく、Form Factor値が0.4以上、具体的には0.4~1であることができる。これに対し、本発明を満たすことができない正極活物質を使用して正極を製造する場合、正極の製造のための圧延時に、第1リチウム遷移金属酸化物の粒子が割れ、これによって第1リチウム遷移金属酸化物の粒子の周長、すなわち、境界の長さが増加し、Form Factor値が0.4以上を満たすことができず、低くなる。
【0066】
【0067】
前記式1中、
AとPは、それぞれ、第1リチウム遷移金属酸化物の粒子の断面の面積と周長である。
【0068】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したものなどが使用されることができる。また、前記正極集電体は、通常、3~500μmの厚さを有することができ、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など、様々な形態で使用されることができる。
【0069】
前記正極活物質層は、上述の本発明による正極材とともに、導電材およびバインダーを含むことができる。
【0070】
前記正極材は、正極活物質層の全重量に対して80~99重量%、より具体的には85~98重量%の含量で含まれることができる。前記の含量範囲で含まれる時に、優れた容量特性を示すことができる。
【0071】
前記導電材は、電極に導電性を与えるために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こさず、電子伝導性を有するものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記導電材は、正極活物質層の全重量に対して1~30重量%含まれることができる。
【0072】
前記バインダーは、正極活物質粒子の間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの様々な共重合体などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記バインダーは、正極活物質層の全重量に対して1~30重量%含まれることができる。
【0073】
前記正極は、本発明による正極活物質を用いる以外は、通常の正極の製造方法により製造されることができる。具体的には、上記の正極活物質、および、選択的に、バインダーおよび導電活物質を溶媒の中に溶解または分散させて製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造されることができる。この際、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類および含量は、上述のとおりである。
【0074】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であることができ、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造歩留まりを考慮して、前記正極活物質、導電材およびバインダーを溶解または分散させ、以降、正極の製造のための塗布時に、優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0075】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されることもできる。
【0076】
リチウム二次電池
また、本発明は、前記正極を含む電気化学素子を製造することができる。前記電気化学素子は、具体的には、電池、キャパシタなどであることができ、より具体的には、リチウム二次電池であることができる。
【0077】
前記リチウム二次電池は、具体的には、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と負極との間に介在されるセパレータと、電解質とを含み、前記正極は、上述のとおりであるため、具体的な説明を省略し、以下、残りの構成についてのみ具体的に説明する。
【0078】
また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0079】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含む。
【0080】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使用されることができる。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有することができ、正極集電体と同様、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して、負極活物質の結合力を強化することもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など、様々な形態で使用されることができる。
【0081】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的に、バインダーおよび導電材を含む。
【0082】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用されることができる。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金など、リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のように、リチウムをドープおよび脱ドープすることができる金属酸化物;またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されることができる。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が使用されることもできる。また、炭素質材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素などがいずれも使用可能である。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)および硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0083】
前記負極活物質は、負極活物質層の全重量100重量部に対して80重量部~99重量部含まれることができる。
【0084】
前記バインダーは、導電材、活物質および集電体の間の結合を容易にする成分であり、通常、負極活物質層の全重量100重量部に対して0.1重量部~10重量部添加されることができる。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの様々な共重合体などが挙げられる。
【0085】
前記導電材は、負極活物質の導電性をより向上させるための成分であり、負極活物質層の全重量100重量部に対して、10重量部以下、具体的には5重量部以下添加されることができる。このような導電材は、当該電池において化学的変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用されることができる。
【0086】
例えば、前記負極活物質層は、負極集電体上に、負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した負極合材を塗布し乾燥することで製造されるか、または前記負極合材を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されることができる。
【0087】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであり、通常、リチウム二次電池においてセパレータとして使用されるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗であるとともに、電解液含湿能に優れたものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用されることができる。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が使用されることもできる。また、耐熱性または機械的強度の確保のために、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされたセパレータが使用されることもでき、選択的に、単層または多層構造で使用されることができる。
【0088】
また、本発明で使用される電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0089】
具体的には、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0090】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関わるイオンが移動することができる媒質の役割を果たすものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R-CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3-ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが使用されることができる。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと直鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用することが、電解液が優れた性能を示すことができる。
【0091】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記リチウム塩としては、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiCl、LiI、またはLiB(C2O4)2などが使用可能である。前記リチウム塩は、0.1~2.0Mの濃度範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度および粘度を有することから、優れた電解質の性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0092】
前記電解質には、前記電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエチルアルコールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエチルアルコールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれることもできる。ここで、前記添加剤は、電解質の全重量100重量部に対して0.1~5重量部含まれることができる。
【0093】
前記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および寿命特性を安定的に示すことから、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどのポータブル機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などにおいて有用である。
【0094】
したがって、本発明の他の一実現例によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびこれを含む電池パックが提供される。
【0095】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのいずれか一つ以上の中大型デバイスの電源として用いられることができる。
【0096】
本発明のリチウム二次電池の外形は、特に制限されないが、缶を使用した円筒型、角型、パウチ(pouch)型またはコイン(coin)型などであることができる。
【0097】
本発明によるリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用されるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく使用されることができる。
【0098】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例をあげて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が以下で詳述する実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0099】
実施例および比較例
実施例1
-第1リチウム遷移金属酸化物の製造
NiSO4、CoSO4、MnSO4を、ニッケル:コバルト:マンガンのモル比が88:5:7になるようにする量で水に溶解し、濃度2Mの遷移金属含有溶液を準備した。
【0100】
前記遷移金属含有溶液で満たされている容器と、さらに濃度25重量%のNaOH水溶液と濃度15重量%のNH4OH水溶液を55℃に設定された200Lのバッチ(batch)式反応器にそれぞれ連結した。
【0101】
次いで、前記バッチ式反応器に脱イオン水を入れた後、窒素ガスをパージして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気にした。その後、NaOHを投入した後、250rpmの撹拌速度で撹拌し、共沈反応器内のpHを11.7に維持した。
【0102】
次に、前記共沈反応器内に、前記遷移金属含有溶液を250mL/hrの速度で投入し、NH4OH水溶液を40mL/hrの速度で、NaOH水溶液を反応溶液のpHが11.7に維持される速度で投入し、6時間反応後、撹拌を中断し、上澄み液を除去することで濃縮した。このような過程を4~5回繰り返し、平均粒径(D50)が約10μmになるまで粒子を成長させた。
【0103】
このように製造された粒子をフィルタープレスで濾過した後、130℃で24時間乾燥し、Ni0.88Co0.05Mn0.07(OH)2組成の第1正極活物質用前駆体を取得した。
【0104】
次いで、前記第1正極活物質用前駆体に対して、LiOH・H2Oが1.06当量になるように添加し、Al(OH)3を混合して、酸素雰囲気で775℃で13.5時間焼成し、ニッケル:コバルト:マンガン:アルミニウムのモル比が86:5:7:2であるリチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0105】
前記リチウム遷移金属酸化物を蒸留水と1:1.1の重量比で撹拌し、水洗した。
【0106】
水洗が完了したリチウム遷移金属酸化物にH3BO3を混合し、295℃で5時間熱処理して、Bコーティングされた第1リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0107】
-第2リチウム遷移金属酸化物の製造
NiSO4、CoSO4、MnSO4を、ニッケル:コバルト:マンガンのモル比が83:5:12になるようにする量で水に溶解して濃度2Mの遷移金属含有溶液を使用し、前駆体の製造時に、濃縮過程を2~3回だけ繰り返すことで、平均粒径(D50)が約5μmになるまで粒子を成長させた以外は、前記第1正極活物質用前駆体の製造方法と同じ方法で第2正極活物質用前駆体を製造した。
【0108】
製造された第2正極活物質用前駆体の平均粒径(D50)は約5μmであり、組成はNi0.83Co0.05Mn0.12(OH)2であった。
【0109】
その後、前記第2正極活物質用前駆体に対して、LiOH・H2Oが1.06当量になるように添加し、Al(OH)3を混合して、酸素雰囲気で790℃で13.5時間焼成し、ニッケル:コバルト:マンガン:アルミニウムのモル比が81:5:12:2であるリチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0110】
前記リチウム遷移金属酸化物を蒸留水と1:1.1の重量比で撹拌し、水洗した。
【0111】
水洗が完了したリチウム遷移金属酸化物にH3BO3を混合し、295℃で5時間熱処理して、Bコーティングされた第2リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0112】
-正極活物質の製造
前記で製造した第1リチウム遷移金属酸化物と第2リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合し、正極活物質を製造した。
【0113】
実施例2
-第1リチウム遷移金属酸化物の製造
実施例1と同じ方法で第1リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0114】
-第2リチウム遷移金属酸化物の製造
焼成を790℃ではなく、795℃で行った以外は、実施例1と同じ方法で第2リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0115】
-正極活物質の製造
前記で製造した第1リチウム遷移金属酸化物と第2リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して正極活物質を製造した。
【0116】
実施例3
-第1リチウム遷移金属酸化物の製造
焼成を775℃ではなく、780℃で行った以外は、実施例1と同じ方法で第1リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0117】
-第2リチウム遷移金属酸化物の製造
焼成を790℃ではなく、805℃で行った以外は、実施例1と同じ方法で第2リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0118】
-正極活物質の製造
前記で製造した第1リチウム遷移金属酸化物と第2リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して正極活物質を製造した。
【0119】
比較例1
-第1リチウム遷移金属酸化物の製造
焼成を775℃ではなく、785℃で行った以外は、実施例1と同じ方法で第1リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0120】
-第2リチウム遷移金属酸化物の製造
実施例1と同じ方法で第2リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0121】
-正極活物質の製造
前記で製造した第1リチウム遷移金属酸化物と第2リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合して正極活物質を製造した。
【0122】
比較例2
-第1リチウム遷移金属酸化物の製造
NiSO4、CoSO4、MnSO4を、ニッケル:コバルト:マンガンのモル比が88:5:7になるようにする量で水に溶解して、濃度2Mの遷移金属含有溶液を準備した。
【0123】
前記遷移金属含有溶液で満たされている容器と、さらに濃度25重量%のNaOH水溶液と濃度15重量%のNH4OH水溶液を55℃に設定された200Lのバッチ(batch)式反応器にそれぞれ連結した。
【0124】
次いで、前記バッチ式反応器に脱イオン水を入れた後窒素ガスをパージして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気にした。次に、NaOHを投入した後、250rpmの撹拌速度で撹拌し、共沈反応器内のpHを11.7に維持した。
【0125】
次に、前記共沈反応器内に、前記遷移金属含有溶液を250mL/hrの速度で投入し、NH4OH水溶液を40mL/hrの速度で、NaOH水溶液を反応溶液のpHが11.7に維持される速度で投入し、6時間反応後、撹拌を中断し、上澄み液を除去することで濃縮した。このような過程を4~5回繰り返して、平均粒径(D50)が約10μmになるまで粒子を成長させた。
【0126】
このように製造された粒子をフィルタープレスで濾過した後、130℃で24時間乾燥して、Ni0.88Co0.05Mn0.07(OH)2組成の第1正極活物質用前駆体を取得した。
【0127】
次いで、前記第1正極活物質用前駆体に対して、LiOH・H2Oが1.06当量になるように添加し、Al(OH)3を混合して、酸素雰囲気で795℃で13.5時間焼成し、ニッケル:コバルト:マンガン:アルミニウムのモル比が86:5:7:2であるリチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0128】
前記リチウム遷移金属酸化物を蒸留水と1:1.1の重量比で撹拌し、水洗した。
【0129】
水洗が完了したリチウム遷移金属酸化物にH3BO3を混合し、295℃で5時間熱処理して、Bコーティングされた第1リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0130】
-第2リチウム遷移金属酸化物の製造
焼成を790℃ではなく、780℃で行った以外は、実施例1と同じ方法で第2リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0131】
-正極活物質の製造
前記で製造した第1リチウム遷移金属酸化物と第2リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合し、正極活物質を製造した。
【0132】
比較例3
-第1リチウム遷移金属酸化物の製造
焼成を775℃ではなく、770℃で行った以外は、実施例1と同じ方法で第1リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0133】
-第2リチウム遷移金属酸化物の製造
焼成を790℃ではなく、780℃で行った以外は、実施例1と同じ方法で第2リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0134】
-正極活物質の製造
前記で製造した第1リチウム遷移金属酸化物と第2リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合し、正極活物質を製造した。
【0135】
比較例4
-第1リチウム遷移金属酸化物の製造
焼成を775℃ではなく、780℃で行った以外は、実施例1と同じ方法で第1リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0136】
-第2リチウム遷移金属酸化物の製造
実施例1と同じ方法で第2リチウム遷移金属酸化物を製造した。
【0137】
-正極活物質の製造
前記で製造した第1リチウム遷移金属酸化物と第2リチウム遷移金属酸化物を8:2の重量比で混合し、正極活物質を製造した。
【0138】
【0139】
実験例1:Form factor(F)の確認
実施例1~3および比較例1~4で製造したそれぞれの正極活物質を用いて正極を製造した。具体的には、実施例1~3および比較例1~4で製造したそれぞれの正極活物質、導電材(FX35)およびバインダー(KF9700とBM73OHを1.35:0.15重量比で混合)を、97.5:1:1.5の重量比でN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒の中で混合して正極スラリーを製造した。前記正極スラリーをアルミニウム集電体の一面に塗布し、130℃で乾燥した後、孔隙率(porosity)が24体積%になるように圧延し、正極を製造した。
【0140】
実施例1~3および比較例1~4で製造したそれぞれの正極活物質を用いて製造した正極をCross-Section Polisher(HITACHI IM5000;加速電圧:7kV)を用いて、Ar-beamで切断し、各正極の断面SEMイメージを
図1~
図7に示した。
【0141】
そして、
図1~
図7のSEMイメージをイメージプロセシング処理(Mountains Software利用)して、正極に含まれる第1リチウム遷移金属酸化物および第2リチウム遷移金属酸化物の粒子を検出し、このうち第1リチウム遷移金属酸化物の粒子のForm Factor値を抽出し、各正極でのForm Factorの平均値を下記表2に示した。
【0142】
【0143】
表2に示されているように、実施例1~3で製造した正極活物質を用いた場合、Form Factorの平均値が比較例に比べて相対的に大きいことから、圧力を加えて正極を製造した時に、正極活物質粒子の割れ現象が相対的に少なく発生することを確認することができる。
【0144】
実験例2
実験例1で製造した実施例1~3および比較例1~4の正極活物質を含む正極を用いてリチウム二次電池を製造し、それぞれのリチウム二次電池の寿命特性を評価した。
【0145】
ここで、負極としては、リチウムメタルディスク(Li metal disk)を使用しており、正極と負極との間にセパレータを介在して電極組立体を製造した後、これを電池ケース内部に位置させてから、前記ケースの内部に電解液を注入してリチウム二次電池を製造した。ここで、電解液としては、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジエチルカーボネートを3:3:4の体積比で混合した有機溶媒に1MのLiPF6を溶解させた電解液を使用した。
【0146】
次いで、製造したリチウム二次電池にそれぞれに対して、25℃で0.1Cの定電流で4.25VまでCC/CVモード充電を実施した後(CV0.05C)、3.0VになるまでCCモード放電を実施し、1回目の初期充電容量および放電容量を測定した。
【0147】
また、45℃、3.0~4.25Vの範囲で、0.33Cの定電流で充放電サイクルを30回繰り返して実施し、それぞれのリチウム二次電池の30回サイクルでの容量維持率(30回サイクルでの放電容量/初期放電容量×100)および抵抗増加率(30回サイクルでの抵抗/初期抵抗×100)を測定した。測定結果は、下記表3に示した。
【0148】
【0149】
表3を参照すると、実施例1~3で製造した正極活物質を電池に適用した場合、初期充放電容量に優れるだけでなく、電池の容量維持率が高く、抵抗増加率が低いことから、寿命特性にも優れることを確認することができる。
【0150】
一方、
図4~
図7と表3を参照すると、大粒径のリチウム遷移金属酸化物と小粒径のリチウム遷移金属酸化物の粒子強度の差が10MPa超である比較例1、2、4の場合には、小粒径のリチウム遷移金属酸化物の粒子が割れる問題が発生し、大粒径のリチウム遷移金属酸化物の粒子強度が140MPa未満である比較例2、3の場合には、大粒径のリチウム遷移金属酸化物の粒子が割れる問題が発生して、副反応によって寿命特性が低下することを確認することができる。
【0151】
結果、本発明のように、平均粒径が相違する2種のリチウム遷移金属酸化物を混合して使用し、この際、大粒径のリチウム遷移金属酸化物の粒子強度が140MPa以上であり、大粒径のリチウム遷移金属酸化物と小粒径のリチウム遷移金属酸化物の粒子強度の差が10MPa以下である場合に、特に、高いエネルギー体積密度を有し、且つ粒子の割れ(crack)を抑制することができ、リチウム遷移金属酸化物の粒子の割れによって発生する副反応の発生が最小化し、容量特性と寿命特性に優れる電池を実現することができることを確認することができる。
【国際調査報告】