(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-04
(54)【発明の名称】粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20240328BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240328BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240328BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023555559
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(85)【翻訳文提出日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2022055639
(87)【国際公開番号】W WO2022189307
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】バイアーリンク,トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】ベルク,ラファエル ベンヤミン
(72)【発明者】
【氏名】メッツガー,ルーカス カール
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA29
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA03
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA20
(57)【要約】
TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は炭酸塩又は酸化物の製造方法であって、TMが、ニッケルと、コバルト及びマンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含み、前記方法が、以下の工程:
(a)Niの水溶性塩を含有する水溶液(α1)、及びCoの水溶性塩を含有する水溶液(α2)又はMnの水溶性塩を含有する水溶液(α3)又はAlの水溶性化合物を含有する水溶液(α4)、及びアルカリ金属の水酸化物又は炭酸塩を含有する水溶液(β)、及び任意にアンモニア又は有機酸又はそのアルカリ金属塩を含有する水溶液(γ)を提供する工程と、
(b)連続反応器で、溶液(α1)と、溶液(β)と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)のうちの少なくとも1つと、該当する場合に溶液(γ)とを組み合わせて、それによってTMの水酸化物又は炭酸塩の固体粒子を製造する工程であって、これらの溶液が、異なる位置で前記連続反応器に導入される、工程と、
(c)固液分離法により、工程(b)からの粒子を液相から分離する工程と
を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は炭酸塩又は酸化物の製造方法であって、TMが、ニッケルと、コバルト及びマンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含み、前記方法が、以下の工程:
(a)Niの水溶性塩を含有する水溶液(α1)、及びCoの水溶性塩を含有する水溶液(α2)又はMnの水溶性塩を含有する水溶液(α3)又はAlの水溶性化合物を含有する水溶液(α4)、及びアルカリ金属の水酸化物又は炭酸塩を含有する水溶液(β)、及び任意にアンモニア又は有機酸又はそのアルカリ金属塩を含有する水溶液(γ)を提供する工程と、
(b)連続反応器で、溶液(α1)と、溶液(β)と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)のうちの少なくとも1つと、該当する場合に溶液(γ)とを組み合わせて、それによってTMの水酸化物又は炭酸塩の固体粒子を製造する工程であって、これらの溶液が、異なる位置で前記連続反応器に導入される、工程と、
(c)固液分離法により、工程(b)からの粒子を液相から分離する工程と
を含み、
溶液(α1)の導入位置と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)の導入位置との間の距離が、溶液(α1)の入口の先端の水力直径の6倍以上である、方法。
【請求項2】
工程(b)が連続撹拌タンク反応器で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粒子状混合遷移金属前駆体が、TMの(オキシ)水酸化物及び炭酸塩及び酸化物から選択され、TMが、一般式(I)
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
d (I)
(式中、aは、0.5~0.95の範囲であり、
bは、0又は0.025~0.5の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W及びNbから選択され、
a+b+c=1であり、b+c>0であり、
又はMがAlを含み、d>0である)
による金属の組み合わせである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
タンク反応器の出口と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)の入口の先端との間の距離が、それぞれの入口の先端の水力直径の15倍以下であり、前記反応器の出口と、溶液(α1)の入口の先端との間の距離が、溶液(α1)の入口の先端の水力直径の少なくとも15倍である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)において、溶液(α1)及び(α2)又は(α3)又は(α4)の添加速度が、互いに独立して、0.1~10m/sの範囲で変化する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)において、Mg、Ti、Zr、Mo、W及びNbから選択される金属Mの可溶性化合物が、水溶液(δ)として添加される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
溶液(γ)における前記有機酸が、酒石酸、クエン酸及びグリシンから選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、ロータリーキルン又はフラッシュ焼成炉で工程(c)からの固体残留物を熱処理する追加の工程(d)を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
主にブルーサイト構造を有するTMの粒子状(オキシ)水酸化物であって、TMが、ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含有し、前記粒子状(オキシ)水酸化物がコア-シェル構造を有し、その中で、コバルト、マンガン及びアルミニウムのうちの少なくとも1種がシェルで濃縮し、前記ブルーサイト構造が、水、炭酸塩、硫酸塩から選択される結晶格子に挿入された分子又はイオン、及び酒石酸、クエン酸、及びグリシンから選択される有機酸の対イオンによって誘導される局所的なCdCl
2構造領域をもたらすC19積層欠陥を示し、挿入層の転移確率が2~10%の範囲であり、前記(オキシ)水酸化物が0.9~2.0の範囲のスパンを有する粒径分布を有する、粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項10】
TMが、一般式(I)
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
d (I)
(式中、aは、0.5~0.95の範囲であり、
bは、0又は0.025~0.5の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W及びNbから選択され、
a+b+c=1であり、b+c>0であり、
又はMがAlを含み、d>0である)
による金属の組み合わせである、請求項10に記載の粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項11】
コバルト、マンガン及びアルミニウムのうちの少なくとも1種が、二次粒子のシェルで、コアと比較して、ニッケル、コバルト、マンガン及びアルミニウムの合計に対して少なくとも5モル%濃縮されている、請求項9又は10に記載の粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項12】
二次粒子の少なくとも60体積%が、本質的に半径方向に配向した一次粒子からなる、請求項9から11のいずれか一項に記載の粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項13】
100~5,000ppmの範囲の、カールフィッシャー滴定によって決定された含水率を有する、請求項9から12のいずれか一項に記載の粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項14】
TMの粒子状酸化物であって、TMが、ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含有し、前記粒子状酸化物が、コア-シェル構造を有し、その中で、コバルト、マンガン及びアルミニウムのうちの少なくとも1種がシェルで濃縮され、0.9~2.0の範囲のスパンを有する粒径分布、20~200m
2/gの範囲の比表面(BET)及び100~300Åの範囲の平均結晶子径を有する、粒子状酸化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は炭酸塩又は酸化物の製造方法に関し、ここで、TMが、ニッケルと、コバルト及びマンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含み、前記方法が、以下の工程:
(a)Niの水溶性塩を含有する水溶液(α1)、及びCoの水溶性塩を含有する水溶液(α2)又はMnの水溶性塩を含有する水溶液(α3)又はAlの水溶性化合物を含有する水溶液(α4)、及びアルカリ金属の水酸化物又は炭酸塩を含有する水溶液(β)、及び任意にアンモニア又は有機酸又はそのアルカリ金属塩を含有する水溶液(γ)を提供する工程と、
(b)連続反応器で、溶液(α1)と、溶液(β)と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)のうちの少なくとも1つと、該当する場合に溶液(γ)とを組み合わせて、それによってTMの水酸化物又は炭酸塩の固体粒子を製造する工程であって、これらの溶液が、異なる位置で前記連続反応器に導入される、工程と、
(c)固液分離法により、工程(b)からの粒子を液相から分離する工程と
を含む。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン電池の電極活物質としてリチウム化遷移金属酸化物が使用されている。充電密度、比エネルギーのような特性だけでなく、リチウムイオン電池の寿命又は適用性に悪影響を及ぼす可能性のあるサイクル寿命の低下及び容量損失のような他の特性も改善するために、過去何年にもわたって広範な研究と開発が行われてきた。また、製造方法を改善するためにさらなる努力を注いできた。
【0003】
リチウムイオン電池のためのカソード材料の典型的な製造方法において、まず、遷移金属を炭酸塩、酸化物として、又は好ましくは塩基性であってもなくてもよい水酸化物、例えばオキシ水酸化物として共沈させることにより、いわゆる前駆体を形成する。次に、この前駆体を、リチウム源、例えばLiOH、Li2O又はLi2CO3(これらに限定されるものではない)と混合して、高温で焼成(か焼)する。リチウム塩(単数又は複数)は、水和物(単数又は複数)として、又は脱水形態で使用することができる。しばしば前駆体の熱処理又は加熱処理とも呼ばれる焼成又はか焼は通常、600~1000℃の範囲の温度で行われる。熱処理中に、固相反応が起こり、電極活物質を形成する。熱処理は、オーブン又はキルンの加熱ゾーンで実行される。
【0004】
高エネルギー密度を提供するカソード活物質の典型的なクラスは、大量のNi(Niリッチ)、例えば非リチウム金属の含有量に対して少なくとも80モル%のNiを含有する。カソード活物質(「CAM」)の特性、例えば容量及び特にサイクル寿命は、それぞれの電気化学セルにおけるCAMと電解液との相互作用に強く影響される。ここでは、特にNiは非常に反応性が高く、サイクル中に電池の容量を低下させる副生成物の形成につながる傾向がある。これを克服するために、電気化学セルにおける不要な副反応を大幅に抑制するアルミニウム又はコバルトの化合物でCAMをコーティングすることが提案されている。このようなコーティングは通常、焼成の後に別の後処理工程で行われる。このような処理工程は高価であり、CAMの具体的な製造コストを大幅に増加させる。
【0005】
多くの場合、前駆体の特性は、粒径分布、それぞれの遷移金属の含有量など、ある程度の、それぞれの電極活物質の特性に反映される。したがって、前駆体の特性を操作することによって、電極活物質の特性に影響を与えることが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、非常に柔軟性が高く、簡単で汎用性のある装置を使用して、多種多様な前駆体を製造することができる方法を提供することである。特に、本発明の目的は、非常に柔軟性が高く、簡単で汎用性のある装置を使用して、多種多様な前駆体を製造することができる、粒子中の元素の勾配又はコーティングなどを示す前駆体を製造する連続プロセスを提供することである。本発明のさらなる目的は、容易に製造することができ、勾配又はコーティングを示す電極活物質の前駆体を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、以下で「本発明の方法」又は「(本)発明による方法」とも呼ばれる、冒頭で定義された方法が見出された。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の方法は、TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物又は炭酸塩の製造方法である。したがって、前記粒子状(オキシ)水酸化物又は酸化物又は炭酸塩は、電極活物質の前駆体として機能するため、前駆体とも呼ばれる。
【0010】
本発明の一実施態様において、得られる前駆体は、一次粒子の凝集体である二次粒子から構成されている。
【0011】
本発明の一実施態様において、得られる前駆体の比表面積(BET)は、例えばDIN-ISO 9277:2003-05に従って、窒素吸着によって決定され、2~70m2/gの範囲である。ガス放出温度は120℃である。
【0012】
前駆体はTMの(オキシ)水酸化物であり、ここで、TMが、Niと、Co及びMn及びAlから選択される少なくとも1つと、任意にTi、Zr、Mo、W、Mg及びNbから選択されるすくなくとも1種のさらなる金属とを含む。
【0013】
本発明の一実施態様において、TMは、一般式(I)
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.5~0.95、好ましくは0.8~0.92の範囲であり、
bは、0又は0.025~0.5、好ましくは0.025~0.15の範囲であり、
cは、0~0.2、好ましくは0~0.15の範囲であり、
dは、0~0.1、好ましくは0~0.05の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W及びNbから選択され、
a+b+c=1であり、b+c>0であり、
又はMがAlを含み、d>0である)
による金属の組み合わせである。
【0014】
TMは、微量のさらなる金属イオン、例えば微量の、ナトリウム、鉄、カルシウム又は亜鉛などの遍在金属を含有してもよいが、このような微量は本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、TMの全金属含有量に対して0.05モル%以下の量を意味する。
【0015】
前駆体は粒子状材料である。本発明の一実施態様において、前駆体は、3~20μm、好ましくは4~16μmの範囲の平均粒径D50を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法(electroacoustic spectroscopy)によって決定することができる。粒子は一次粒子から構成され、特に一次粒子の凝集体であり、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0016】
本発明の一実施態様において、前駆体の粒径分布のスパンは、0.9~2.0の範囲である。このスパンは、[(D90)-(D10)]/(D50)として定義され、(D90)、(D50)及び(D10)の値は動的光散乱により決定される。
【0017】
前記粒子状材料は不規則な形状を有してもよいが、好ましい実施態様では、前記粒子状材料は規則的な形状、例えば楕円状又はさらには球状を有する。アスペクト比は、1~10、好ましくは1~3、さらにより好ましくは1~1.5の範囲であってもよい。アスペクト比は、幅と長さの比、具体的には最長寸法の粒径と最短寸法の粒径の比として定義される。完全な球状粒子は1のアスペクト比を有する。
【0018】
本発明の方法は、以下でそれぞれ工程(a)、工程(b)及び工程(c)とも呼ばれる、3つの工程を含み、さらなる(任意の)工程を含んでもよい。工程(a)~(c)については、以下でより詳細に説明する。
【0019】
工程(a)は、Niの水溶性塩を含有する水溶液(α1)、及びCoの水溶性塩を含有する水溶液(α2)又はMnの水溶性塩を含有する水溶液(α3)又はAlの水溶性化合物を含有する水溶液(α3)、及びアルカリ金属の水酸化物又は炭酸塩を含有する水溶液(β)、及び任意にアンモニア又は有機酸又はそのアルカリ金属塩を含有する水溶液(γ)を提供することを含む。前記水溶液を簡潔に溶液と呼ぶ。
【0020】
コバルト及びニッケルの、又はマンガンの、又はニッケル及びコバルト及びマンガン以外の金属の水溶性塩という用語は、25g/l以上の25℃での蒸留水中の溶解度を示す塩を指し、塩の量は結晶水及びアクオ錯体から生じる水の省略下で決定される。ニッケル及びコバルト及びマンガンの水溶性塩は、好ましくはNi2+及びCo2+及びMn2+のそれぞれの水溶性塩であり得る。ニッケル及びコバルトの水溶性塩の例は、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩及びハロゲン化物、特に塩化物である。好ましいのは硝酸塩及び硫酸塩であり、このうち硫酸塩がより好ましい。
【0021】
したがって、「アルミニウムの水溶性化合物」という用語は、Al2(SO4)3、Al(NO3)3、KAl(SO4)2、NaAlO2及びNaAl(OH)4などの化合物を指す。アルミニウムの水溶性化合物の選択に応じて、水溶液(α4)のpH値は、1~3又は13超の範囲であってもよい。
【0022】
溶液(α1)は2~5の範囲のpH値を有してもよい。より高いpH値が望まれる実施態様では、アンモニアを溶液(α1)に添加してもよい。しかしながら、好ましくは、アンモニアを溶液(α1)に添加しない。溶液(α2)及び(α3)も2~5の範囲のpH値を有してよい。
【0023】
本発明の一実施態様において、溶液(α1)におけるニッケルの濃度、溶液(α2)におけるコバルドの濃度、溶液(α3)におけるマンガンの濃度、及び溶液(α4)におけるアルミニウムの濃度は、場合に応じて、広い範囲内で選択することができる。好ましくは、それぞれの金属濃度は、1kgの溶液あたり1~1.8モルの金属、より好ましくは1kgの溶液あたり1.5~1.7モルの金属の範囲内になるように選択される。
【0024】
工程(a)では、以下で溶液(β)とも呼ばれる、アルカリ金属の水酸化物又は炭酸塩の水溶液がさらに提供される。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化リチウムが挙げられ、好ましいのは水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの組み合わせであり、さらにより好ましいのは水酸化ナトリウムである。アルカリ金属炭酸塩の例としては炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムが挙げられ、炭酸ナトリウムが好ましい。
【0025】
本発明の一実施態様において、溶液(β)は、主にアルカリ金属水酸化物を含有し、ある程度の量、例えばそれぞれのアルカリ金属水酸化物の量に対して0.1~2質量%の、意図的に添加されるか、又は溶液又はそれぞれのアルカリ金属水酸化物のエージングによって添加される炭酸塩を含有する。
【0026】
溶液(β)は、0.1~12mol/l、好ましくは6~10mol/lの範囲の水酸化物の濃度を有してもよい。
【0027】
溶液(β)のpH値は、好ましくは11.5以上であり、アルカリ金属水酸化物を有する実施態様において、pH値は、好ましくは13以上、例えば14.5である。
【0028】
本発明の方法では、アンモニアを使用するが、それを溶液(γ)として、又は溶液(β)で別々に供給し、溶液(α)では供給しないことが好ましい。
【0029】
工程(a)では、任意に、アンモニア又はカルボン酸、好ましくは低い揮発性のカルボン酸を含有する水溶液(γ)を提供してもよい。この文脈における低い揮発性とは、常圧での沸点又は分解温度が200℃を超えることを意味する。例としては、アミノ酸、例えばグリシン、ジカルボン酸、例えば酒石酸、及びトリカルボン酸、例えばクエン酸、又はそれぞれのアルカリ金属塩が挙げられる。濃度は、アルカリ金属対イオンを除いて計算して、それぞれのカルボン酸の1~150gの範囲であってもよい。溶液(γ)がアンモニアを含有する実施態様において、アンモニアの濃度は、10~250g/lの範囲であってよい。
【0030】
工程(a)では、任意二、Mg、Ti、Zr、Mo、W、及びNbから選択される金属Mの少なくとも1種の水溶性化合物を含有する水溶液(δ)を提供してもよい。
【0031】
Mgの好適な化合物の例としては、MgSO4、Mg(NO3)2、酢酸マグネシウム及びMgCl2が挙げられ、MgSO4が好ましい。
【0032】
Tiの好適な化合物の例としては、Ti(SO4)2、TiOSO4、TiO(NO3)2、Ti(NO3)4が挙げられ、Ti(SO4)2が好ましい。
【0033】
Zrの好適な化合物の例としては、酢酸ジルコニウム、Zr(SO4)2、ZrOSO4、ZrO(NO3)2、Zr(NO3)4が挙げられ、Zr(SO4)2が好ましい。
【0034】
Nbの好適な化合物の例としては、(NH4)Nb(C2O4)3及び(NH4)NbO(C2O4)2が挙げられる。Moの好適な化合物の例としては、MoO3、Na2MoO4及び(NH4)2MoO4が挙げられる。
【0035】
Wの好適な化合物の例としては、WO3、WO3・H2O、Na2WO4、タングステン酸アンモニウム及びタングステン酸が挙げられる。
【0036】
工程(b)は、連続反応器で、溶液(α1)と、溶液(β)と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)のうちの少なくとも1つと、該当する場合に溶液(γ)とを組み合わせて、それによってTMの水酸化物又は炭酸塩の固体粒子を製造することを含み、ここで、これらの溶液が、異なる位置で連続反応器に導入される。
【0037】
連続反応器の例は、プラグフロー反応器、特に連続攪拌タンク反応器である。連続反応器には、反応器から反応混合物、すなわち母液中でスラリー化された前駆体が取り出される出口がある。連続攪拌タンク反応器の場合、オーバーフローが出口の好ましい実施態様である。
【0038】
一実施態様において、工程(b)におけるpH値は10~14の範囲である。別の実施態様において、特に本発明の方法に従って炭酸塩を製造する場合、工程(b)におけるpH値は7~9の範囲である。
【0039】
すなわち、工程(b)において、溶液(α1)は、溶液(β)と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)のうちの少なくとも1つと、該当する場合に溶液(γ)又は(δ)のいずれかと、反応器で組み合わされる。前記組み合わせは、反応器で行われ、溶液(α1)と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)のうちの少なくとも1つと、該当する場合に溶液(γ)とが、異なる位置で反応器に導入される方法で行われる。このような実施態様では、溶液(α1)と、溶液(β)と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)のうちの少なくとも1つと、該当する場合に溶液(γ)又は(δ)のいずれかとが、異なる入口から導入されることが好ましい。
【0040】
本発明の一実施態様において、工程(b)は連続攪拌タンク反応器で行われる。このような実施態様では、溶液(α1)と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)のうちの少なくとも1つと、該当する場合に溶液(γ)又は(δ)のいずれかが異なる入口から、例えば異なるノズルから導入されることが好ましい。このような入口は、攪拌タンク反応器の蓋に取り付けることができる。したがって、入口は攪拌器の周りに回路状に配置されることが好ましい(
図1参照)。
【0041】
本発明の一実施態様において、添加される溶液(α1)の導入位置と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)の導入位置との間の距離は、溶液(α1)の入口の先端の水力直径の6倍以上である。
【0042】
水力直径は、入口先端の断面積の4倍を入口先端の濡れ縁長さ(wetted parameter)で除したものとして定義される。
【0043】
本発明の一実施態様において、タンク反応器の出口と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)の入口の先端との間の距離は、それぞれの入口の先端の外水力直径の15倍以下、好ましくは10倍以下、より好ましくは6倍以下、さらにより好ましくは4倍以下であり、反応器の出口と、溶液(α1)の入口の先端との間の距離は、溶液(α1)の入口の先端の外水力直径の少なくとも15倍、例えば100~200倍である。好ましくは、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)の入口の先端は、それぞれの入口の先端の外水力直径の少なくとも2倍である。
【0044】
タンク反応器に溶液(β)を添加するにはさまざまな方法がある。
【0045】
一実施態様において、溶液(β)の入口の先端と、溶液(α1)及び(α2)及び(α3)及び(α4)のそれぞれの入口との間の距離は、溶液(α1)及び(α2)及び(α3)及び(α4)の入口の最大水力直径の少なくとも10倍である。比較される先端が異なる水力直径を有する実施態様では、データは大きい方の水力直径を参照する。
【0046】
別の実施態様において、溶液(α1)の導入位置と溶液(β)の導入位置との距離は、アルカリ金属水酸化物の入口パイプの先端の水力直径の12倍以下である。好ましい実施態様において、溶液(α1)及び(β)は同軸ミキサーによって導入される。
【0047】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、10~85℃の範囲の温度、好ましくは20~60℃の範囲の温度で行われる。
【0048】
本発明の一実施態様において、液相のpH値は、10.0~14.0の範囲である。本発明の方法の文脈において、pH値は23℃でのそれぞれの溶液又はスラリーのpH値を指す。
【0049】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、一定圧力、例えば常圧で行われる。他の実施態様において、工程(b)は、例えば50バール以下の高圧で行われる。
【0050】
本発明の一実施態様において、工程(b)は、溶液(α1)と、溶液(β)と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)のうちの少なくとも1つと、該当する場合に又は(δ)のいずれかとの添加と同時に、定常状態で行われ、得られたスラリーは、例えばオーバーフローによって反応器から除去される。
【0051】
別の実施態様において、工程(b)は、動的状態で行われ、溶液(α1)と、溶液(β)と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)のうちの少なくとも1つとの添加速度は、工程(b)の間に変更される。
【0052】
本発明の一実施態様において、工程(b)の過程で、攪拌は、0.1W/kg~10W/kg、好ましくは0.5W/kg~7W/kgの範囲の媒体散逸速度を提供する速度で行われる。例えば、容積3.2リットルの攪拌タンク反応器の場合、典型的な攪拌速度は400rpm~1000rpm(回転毎分)の範囲である。
【0053】
本発明の一実施態様において、平均滞留時間は30分~12時間の範囲、好ましくは1~8時間の範囲、より好ましくは2~6時間の範囲である。
【0054】
本発明の一実施態様において、余分な母液は連続反応器から取り出される。母液は水及びアルカリ金属塩を含有する。したがって、対イオンは、ニッケルの対イオン及びニッケル以外の金属の対イオンである。例えば、溶液(α1)におけるニッケルの水溶性塩として硫酸ニッケルを使用し、溶液(β)において水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウムを使用した場合、母液は硫酸ナトリウムを含有する。母液は、アンモニア及び/又はカルボン酸のアルカリ金属塩をさらに含有してもよい。
【0055】
工程(b)を実行することにより、水酸化物又は炭酸塩又はオキシ水酸化物の固体粒子が生成され、前記固体粒子はスラリー化される。したがって、スラリーが得られる。
【0056】
工程(c)において、工程(b)からの粒子は、固液分離法、好ましくは濾過又は遠心分離により液相から分離される。液相は母液とも呼ばれる。濾過は、例えばベルトフィルター上又はフィルタープレスで行うことができる。
【0057】
母液を除去するために、例えば水又はアルカリ金属水酸化物溶液又はアルカリ金属炭酸塩溶液で、濾過ケーキを洗浄することが好ましい。
【0058】
濾過は吸引又は圧力によってサポートされてもよい。
【0059】
工程(c)は、水が液体状態である温度、例えば5~95℃で行われてもよく、20~60℃が好ましい。
【0060】
工程(c)を実行することにより、TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は炭酸塩又は酸化物である固体材料が得られる。前記材料は、通常、高い含水率、例えば1~30質量%の含水率を有し、例えば空気中、80~150℃の範囲の温度で、又は減圧下(「真空」)で、100~5,000ppmの範囲の含水率まで乾燥させることができ、ppmは質量ppmである。含水率は、100℃の温度で質量が変化しなくなるまで真空中で乾燥させることによって決定することができる。含水率は、カールフィッシャー滴定によって決定されてもよい。
【0061】
工程(c)又は乾燥に続いて、TMの前記粒子状(オキシ)水酸化物又は炭酸塩又は酸化物は、工程(d)に供されてもよい。工程(d)は、ロータリーキルン又はフラッシュ焼成炉で工程(c)からの固体を熱処理することを含む。
【0062】
工程(d)の一実施態様において、湿潤の固体材料は、シュート又は振動シュートによって、スパイラルコンベヤ又はスクリューコンベヤによって、好ましくは単一のスクリュー又は複数のスクリューを備えたスクリューコンベヤによって、ロータリーキルンに導入される。
【0063】
湿潤の粒子状固体は、次にロータリーキルンを通過する。湿潤の粒子状固体を移動させると、含水率は減少する。好ましくは、本発明の方法の終了時に、残留含水率は50ppm~1.5質量%、好ましくは100~300質量ppmの範囲である。ppmは、百万分の一であり、質量に対するものである。残留含水率は、カールフィッシャー滴定によって決定することができる。
【0064】
本発明の一実施態様において、ロータリーキルンのレトルト長さは、1~50m、好ましくは5~25メートルの範囲である。
【0065】
本発明の一実施態様において、ロータリーキルンのレトルト直径は、0.2~4メートル、好ましくは1~2メートルの範囲である。
【0066】
本発明の一実施態様において、レトルト長さのレトルト直径に対する比は、5~50、好ましくは10~25の範囲である。
【0067】
本発明の一実施態様において、ロータリーキルンは正確に水平である。別の実施態様において、ロータリーキルンは、例えば0.2~7°の傾斜角度で傾斜しており、ロータリーキルンを通る粒子状固体の移動は重力によってサポートされる。
【0068】
本発明の一実施態様において、ロータリーキルンは、毎分0.01~20回転で運転され、好ましくは毎分0.5~5回転であり、いずれの場合も連続的に又は間隔で運転される。間隔モードでの運転が必要である場合、例えば、1~5回転で1~60分間停止し、再び1~5回転で1~60分間停止するといった運転が可能である。
【0069】
前記粒状材料は、ガス流と共にロータリーキルンを通って移動される。
【0070】
工程(d)の一実施態様において、ガス流は、0~1400℃の範囲の入口温度を有し、20又は200~1000℃が好ましい。ガス入口温度が1000℃以上である実施態様において、予熱システムが必要である。予熱システムを必要としない実施態様において、入口温度は周囲温度に対応する。
【0071】
好ましい実施態様において、第1温度ゾーンにおいて、前記粒子状材料の温度は80~130℃の範囲であり、第2温度ゾーンにおいて、温度は200~500℃、好ましくは200~450℃、より好ましくは220~300℃の範囲である。前記温度はセンサーで測定することができる。200℃を超える温度では、それぞれの固体材料の化学的性質に応じて、炭酸塩から二酸化炭素が切り離され、及び/又は水酸基が水として除去される。二酸化炭素及び/又は水の除去は、完全であっても部分的であってもよく、部分的な除去が好ましい。二酸化炭素の部分的な除去の好ましい範囲は60~99%であり、水の部分的な除去の好ましい範囲は68~99%である。
【0072】
本発明のさらなる態様は、以下で本発明の(オキシ)水酸化物又は本発明の前駆体とも呼ばれる粒子状(オキシ)水酸化物に関する。本発明の(オキシ)水酸化物は、ブルーサイト構造を有するTMの粒子状(オキシ)水酸化物であり、ここで、TMがニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含有する。好ましくは、TMはニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムのうちの少なくとも2種とを含有する。
【0073】
本発明の前駆体は、コア-シェル構造を有し、その中で、コバルト、マンガン及びアルミニウムのうちの少なくとも1種が、コアと比較してシェルで、例えばニッケル、コバルト、マンガン及びアルミニウムの合計に対して少なくとも5モル%、好ましくは30モル%以下濃縮されている。
【0074】
本発明の前駆体は、主に、炭酸塩、硫酸塩から選択される結晶格子に挿入された分子又はイオン、及び酒石酸、クエン酸、及びグリシンから選択される有機酸の対イオンによって誘導される局所的なCdCl2構造領域をもたらすC19積層欠陥を示すブルーサイト構造を有し、挿入層の転移確率は2~10%、好ましくは4~8%の範囲である。転移確率を含む積層欠陥は、X線回折によって検出及び定量化することができる。
【0075】
さらに、本発明の(オキシ)水酸化物は、0.9~2.0の範囲のスパンを有する粒径分布を有する。粒径(D10)、(D40)及び(D90)は動的光散乱により決定される。
【0076】
本発明の一実施態様において、TMは、一般式(I)
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.5~0.95、好ましくは0.8~0.92の範囲であり、
bは、0又は0.025~0.5、好ましくは0.025~0.15の範囲であり、
cは、0~0.2、好ましくは0~0.15の範囲であり、
dは、0~0.1、好ましくは0~0.05の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W及びNbから選択され、
a+b+c=1であり、b+c>0であり、
又はMがAlを含み、d>0である)
に対応する。
【0077】
TMは、微量のさらなる金属イオン、例えば微量の、ナトリウム、鉄、カルシウム又は亜鉛などの遍在金属を含有してもよいが、このような微量は本発明の明細書において考慮されない。この文脈における微量とは、TMの全金属含有量に対して0.05モル%以下の量を意味する。
【0078】
本発明の前駆体は、TMの粒子状(オキシ)水酸化物である。本発明の文脈において、「(オキシ)水酸化物」は、水酸化物を指し、化学量論的に純粋な水酸化物だけでなく、特に、遷移金属カチオン及び水酸化物イオンと同様に、水酸化物イオン以外のアニオン、例えば酸化物イオン及び炭酸イオン、又は遷移金属出発材料に由来するアニオンを有する化合物、例えば酢酸塩又は硝酸塩、特に硫酸塩も含む。酸化物イオンは、部分的酸化、例えば乾燥中の酸素取り込みに由来する。炭酸塩は、工業グレードのアルカリ金属水酸化物の使用に由来する。
【0079】
本発明の前駆体は粒子状材料である。本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、3~20μm、好ましくは4~16μmの範囲の平均粒径D50を有する。平均粒径は、例えば光散乱又はレーザー回折又は電気音響分光法によって決定することができる。粒子は一次粒子から構成され、特に一次粒子の凝集体であり、上記の粒径は二次粒子の粒径を指す。
【0080】
前駆体の粒径分布のスパンは、0.9~2.0の範囲である。このスパンは、[(D90)-(D10)]/(D50)として定義され、(D90)、(D50)及び(D10)の値は動的光散乱により決定される。好ましくは、粒径分布は単峰性である。
【0081】
本発明の前駆体は不規則な形状を有してもよいが、好ましい実施態様では、規則的な形状、例えば楕円状又はさらには球状を有する。アスペクト比は、1~10、好ましくは1~3、さらにより好ましくは1~1.5の範囲であってもよい。アスペクト比は、幅と長さの比、具体的には最長寸法の粒径と最短寸法の粒径の比として定義される。完全な球状粒子は1のアスペクト比を有する。
【0082】
本発明の(オキシ)水酸化物は、例えば、水酸化リチウム又は炭酸リチウムなどのリチウム源と直接混合し、次いで熱処理することによって、又はリチウム源の非存在下でまず300~550℃に加熱し、次いで室温でリチウム源と混合し、得られた混合物を熱処理するという2段階プロセスによって、リチウムイオン電池用のカソード活物質を製造するのに非常に適している。このような熱処理は、600~1000℃で行われてもよい。
【0083】
本発明の一実施態様において、TMは、一般式(I)
(NiaCobMnc)1-dMd (I)
(式中、aは、0.5~0.95範囲であり、
bは、0又は0.025~0.5の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W、Nb及びTaから選択され、
a+b+c=1であり、b+c>0であり、
又はMがAlを含み、d>0である)
に対応する。
【0084】
半径方向に配向した一次粒子の割合は、例えば、少なくとも5個の二次粒子の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)によって決定することができる。
【0085】
「本質的に半径方向に配向した」とは、完全な半径方向の配向を必要としないが、SEM分析において、完全な半径方向の配向に対する偏差が最大11度、好ましくは最大5度であることを含む。
【0086】
本発明の一実施態様において、本発明の前駆体は、2~70m2/gの範囲、好ましくは4~50m2/gの範囲のBETによる比表面積(以下、BET表面積とも呼ばれる)を有する。BET表面積は、DIN ISO 9277:2010に従って、120℃で30分、及びこれを超えてサンプルをガス放出した後の窒素吸着によって決定することができる。
【0087】
本発明の前駆体は、本発明の方法によって製造することができる。
【0088】
本発明の前駆体は、直接に又は予備脱水後に、優れたサイクル挙動を有するカソード活物質を製造するのに非常に適している。このようなカソード活物質は、本発明の前駆体を、リチウム源、例えばLi2O又はLiOH又はLi2CO3と、それぞれ水を含まないか又は水和物として混合し、例えば600~1000℃の範囲の温度で焼成することによって製造することができる。したがって、本発明のさらなる態様は、リチウムイオン電池用のカソード活物質の製造のための本発明の前駆体の使用方法であり、本発明の別の態様は、リチウムイオン電池用のカソード活物質の製造方法(以下、本発明の焼成とも呼ばれる)であり、前記方法は、本発明の粒子状遷移金属(オキシ)水酸化物をリチウム源と混合する工程と、600~1000℃の範囲の温度で前記混合物を熱処理する工程とを含む。好ましくは、このような方法における本発明の前駆体とリチウム源の比は、LiとTMのモル比が0.95:1~1.2:1、より好ましくは0.98~1.05の範囲となるように選択される。
【0089】
特に有利なのは、工程(d)を実施した後の前駆体(以下、本発明の酸化物とも呼ばれる)である。本発明のさらなる態様は、TMの粒子状酸化物に関し、ここで、
TMがニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含み、そのような粒子状酸化物がコア-シェル構造を有し、その中で、コバルト、マンガン及びアルミニウムの少なくとも1種がシェルで濃縮され、0.9~2.0の範囲のスパンを有する粒径分布、20~100m2/gの範囲の比表面(BET)及び100~300Åの範囲の平均結晶子径を有する。
【0090】
TMは、平均粒径D50)及びスパンなどの特性と同様に、上記のように定義される。本発明の酸化物は、ブルーサイト構造の代わりに岩塩構造を有する。
【0091】
比表面積(BET)は、20~200m2/g、好ましくは40~120m2/gの範囲であり、DIN ISO 9277:2010に従って、200℃で40分、及びこれを超えてサンプルをガス放出した後の窒素吸着によって決定することができる。
【0092】
本発明は、実施例及び図(
図1参照)によってさらに説明される。
【実施例】
【0093】
特に明記しない限り、パーセンテージは質量%を指す。すべてのpH値は23℃で決定した。
【0094】
共沈反応は、オーバーフローシステム、4つの投与入口、及びpH値調整回路(図面には示されていない)を備えた250mlの攪拌タンク反応器(反応器1)(
図1参照)で行った。4つの投与入口を、撹拌機の周りで回路状に配置した。供給入口Cはオーバーフローに最も近接していた。入口パイプCとFの両方を、入口パイプから測定した水力直径の100倍の距離に配置した。
【0095】
粒径の元素分布を測定するために、本発明の前駆体をEpofix樹脂(Struers,Copenhagen,Denmark)に埋め込んだ。透過型電子顕微鏡(TEM)用の極薄サンプル(~100nm)を超薄切片法で作製し、TEM試料キャリアグリッドに移した。HAADF-STEM条件下200/300keVで動作する、Tecnai Osiris及びThemis Z3.1装置(Thermo-Fisher,Waltham,USA)を用いて、サンプルをTEMによって画像化した。SuperX G2検出器を用いたエネルギー分散型X線分光法(EDXS)によって、化学組成マップを取得した。Velox(Thermo-Fisher)及びEsprit(Bruker,Billerica,USA)ソフトウェアパッケージを使用して、画像及び元素マップを評価した。
【0096】
工程(a.1):それぞれの化合物を水に溶解させることにより、以下の水溶液を提供した:
溶液(α1.1):NiSO4、水中1.65ml/kg
溶液(α1.2):CoSO4、水中1.65ml/kg
溶液(β.1):水中25質量%のNaOH
溶液(γ.1):水中25質量%のNH3。
【0097】
工程(b.1):
反応器1に6mLの溶液(γ.1)を入れた。次に、溶液(β.1)を用いて溶液のpH値を12.10(23℃で測定した場合)に調整した。次に、反応器1の温度を55℃に設定した。攪拌器は700rpmで常時運転した。同時に、溶液(α1.1)を入口Cから、(α2.1)含有溶液を入口Fから、溶液(β.1)を入口Eから、溶液(γ.1)を注入口Dから導入した。ニッケルとコバルトのモル比を55:45に調整した。
【0098】
アンモニアとニッケル及びコバルトの合計とのモル比を0.25に調整した。体積流量の合計を、平均滞留時間が2.5時間に調整されるように設定した。(β.1)の流速は、容器内のpH値を12.10の一定値に保つようにpH調整回路で調整した。反応器1は容器内の液面を一定に保ちながら連続運転した。NiとCoの混合水酸化物(TM-OH.1)を容器からオーバーフローによって集めた。得られた生成物スラリーは、約120g/lの混合水酸化物TM-OH.1を含有し、平均粒径(D50)は8.14μmであり、スパンは1.26であった。
【0099】
オーバーフローに近いCoの添加により、Coは、シェルではなく、TM-OH.1の粒子の外側に濃縮している。
【0100】
工程(c.1):TM-OH.1粒子を集め、濾過し、脱イオン水で洗浄し、乾燥させ、30μmのメッシュサイズでふるい分けした。乾燥したTM-OH.1の残留硫黄含有量は0.21質量%であり、TM-OH.1は4.41m
2/gの比表面(BET)を示した。さらに、TM-OH.1の粒子は、TEM-EDXで確認したように、Niリッチのコア、次にCoリッチの遷移シェル、及びCoリッチの遷移シェル中のNi含有量と比較して、約5~7モル%多いNiが濃縮している再びNiリッチの終端シェルを示した(
図2及び3参照)。測定したX線回折パターンに積層欠陥モデリングを適用することにより、決定した平均結晶子径は177Åであった。
図4の対応するX線回折パターンに基づいて決定した、硫酸イオンからなるブルーサイト層間の挿入層によってC19積層欠陥が発生する転移確率p
carはp
car=6.2%であった。積層欠陥は局所的なCdCl
2構造領域をもたらす。
【0101】
脱水前駆体に変換するため、TM-OH.1をリチウム源の非存在下で、500℃のリン炉での熱処理に供し、混合酸化物粒子TMO.1を得た。TMO.1の比表面(BET)は46.19m
2/gであった。TMO.1は、
図5のXRDパターンから得られた152Åの平均結晶子径を示した。TMO.1の二次粒子内の前述の濃度勾配は、熱処理にもかかわらず保持されていた。TMO.1は、TEM-EDXで確認したように、Niリッチのコア、次にCoリッチの遷移シェル、そして再びNiリッチのシェルを示した(
図6及び7参照)。
【符号の説明】
【0102】
図面の簡単な説明:
A:反応容器
B:撹拌ブレード
C:水溶液(α1.1)の供給入口
D:アンモニアの供給入口
E:水酸化ナトリウムの供給入口、溶液(β.1)
F:硫酸コバルド水溶液の供給入口、溶液(α2.1)
G:バッフル
【手続補正書】
【提出日】2022-08-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TMの粒子状(オキシ)水酸化物又は炭酸塩又は酸化物の製造方法であって、TMが、ニッケルと、コバルト及びマンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含み、前記方法が、以下の工程:
(a)Niの水溶性塩を含有する水溶液(α1)、及びCoの水溶性塩を含有する水溶液(α2)又はMnの水溶性塩を含有する水溶液(α3)又はAlの水溶性化合物を含有する水溶液(α4)、及びアルカリ金属の水酸化物又は炭酸塩を含有する水溶液(β)、及び任意にアンモニア又は有機酸又はそのアルカリ金属塩を含有する水溶液(γ)を提供する工程と、
(b)連続反応器で、溶液(α1)と、溶液(β)と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)のうちの少なくとも1つと、該当する場合に溶液(γ)とを組み合わせて、それによってTMの水酸化物又は炭酸塩の固体粒子を製造する工程であって、これらの溶液が、異なる位置で前記連続反応器に導入される、工程と、
(c)固液分離法により、工程(b)からの粒子を液相から分離する工程と
を含み、
溶液(α1)の導入位置と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)の導入位置との間の距離が、溶液(α1)の入口の先端の水力直径の6倍以上である、方法。
【請求項2】
工程(b)が連続撹拌タンク反応器で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粒子状混合遷移金属前駆体が、TMの(オキシ)水酸化物及び炭酸塩及び酸化物から選択され、TMが、一般式(I)
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
d (I)
(式中、aは、0.5~0.95の範囲であり、
bは、0又は0.025~0.5の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W及びNbから選択され、
a+b+c=1であり、b+c>0であり、
又はMがAlを含み、d>0である)
による金属の組み合わせである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
タンク反応器の出口と、溶液(α2)又は(α3)又は(α4)の入口の先端との間の距離が、それぞれの入口の先端の水力直径の15倍以下であり、前記反応器の出口と、溶液(α1)の入口の先端との間の距離が、溶液(α1)の入口の先端の水力直径の少なくとも15倍である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)において、溶液(α1)及び(α2)又は(α3)又は(α4)の添加速度が、互いに独立して、0.1~10m/sの範囲で変化する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)において、Mg、Ti、Zr、Mo、W及びNbから選択される金属Mの可溶性化合物が、水溶液(δ)として添加される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
溶液(γ)における前記有機酸が、酒石酸、クエン酸及びグリシンから選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、ロータリーキルン又はフラッシュ焼成炉で工程(c)からの固体残留物を熱処理する追加の工程(d)を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
主にブルーサイト構造を有するTMの粒子状(オキシ)水酸化物であって、TMが、ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含有し、前記粒子状(オキシ)水酸化物がコア-シェル構造を有し、その中で、コバルト、マンガン及びアルミニウムのうちの少なくとも1種がシェルで濃縮し、前記ブルーサイト構造が、水、炭酸塩、硫酸塩から選択される結晶格子に挿入された分子又はイオン、及び酒石酸、クエン酸、及びグリシンから選択される有機酸の対イオンによって誘導される局所的なCdCl
2構造領域をもたらすC19積層欠陥を示し、挿入層の転移確率が2~10%の範囲であり、前記(オキシ)水酸化物が0.9~2.0の範囲の
、[(D90)-(D10)]/(D50)として定義されたスパンを有する粒径分布を有する、粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項10】
TMが、一般式(I)
(Ni
aCo
bMn
c)
1-dM
d (I)
(式中、aは、0.5~0.95の範囲であり、
bは、0又は0.025~0.5の範囲であり、
cは、0~0.2の範囲であり、
dは、0~0.1の範囲であり、
Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、W及びNbから選択され、
a+b+c=1であり、b+c>0であり、
又はMがAlを含み、d>0である)
による金属の組み合わせである、請求項10に記載の粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項11】
コバルト、マンガン及びアルミニウムのうちの少なくとも1種が、二次粒子のシェルで、コアと比較して、ニッケル、コバルト、マンガン及びアルミニウムの合計に対して少なくとも5モル%濃縮されている、請求項9又は10に記載の粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項12】
二次粒子の少なくとも60体積%が、本質的に半径方向に配向した一次粒子からな
り、本質的に半径方向に配向した一次粒子が、半径方向に配向した一次粒子、及びSEM分析において最大11度の完全な半径方向の配向に対する偏差を示す一次粒子から選択される、請求項9から11のいずれか一項に記載の粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項13】
100~5,000ppmの範囲の、カールフィッシャー滴定によって決定された含水率を有する、請求項9から12のいずれか一項に記載の粒子状(オキシ)水酸化物。
【請求項14】
TMの粒子状酸化物であって、TMが、ニッケルと、コバルト、マンガン及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属とを含有し、前記粒子状酸化物が、コア-シェル構造を有し、その中で、コバルト、マンガン及びアルミニウムのうちの少なくとも1種がシェルで濃縮され、0.9~2.0の範囲の
、[(D90)-(D10)]/(D50)として定義されたスパンを有する粒径分布、20~200m
2/gの範囲の比表面(BET)及び100~300Åの範囲の平均結晶子径を有する、粒子状酸化物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0097
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0097】
工程(b.1):
反応器1に6mLの溶液(γ.1)を入れた。次に、溶液(β.1)を用いて溶液のpH値を12.10(23℃で測定した場合)に調整した。次に、反応器1の温度を55℃に設定した。攪拌器は700rpmで常時運転した。同時に、溶液(α1.1)を入口Cから、(α1.2)含有溶液を入口Fから、溶液(β.1)を入口Eから、溶液(γ.1)を注入口Dから導入した。ニッケルとコバルトのモル比を55:45に調整した。
【国際調査報告】