(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-04
(54)【発明の名称】スフィンゴシン-1-リン酸受容体アゴニストの結晶形
(51)【国際特許分類】
C07D 401/12 20060101AFI20240328BHJP
A61K 31/454 20060101ALI20240328BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240328BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240328BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240328BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240328BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240328BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240328BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240328BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240328BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240328BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240328BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
C07D401/12 CSP
A61K31/454
A61P25/00
A61P37/06
A61P43/00 111
A61P37/02
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P29/00
A61P1/04
A61P21/04
A61P9/10 101
A61P9/10
A61P17/00
A61P1/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563071
(86)(22)【出願日】2022-04-13
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 KR2022005374
(87)【国際公開番号】W WO2022220597
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】10-2021-0048825
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ユン・キム
(72)【発明者】
【氏名】スル・ア・チュン
(72)【発明者】
【氏名】スン・ウク・キム
(72)【発明者】
【氏名】スン・ウォン・キム
(72)【発明者】
【氏名】キ・デ・キム
(72)【発明者】
【氏名】スー・ミン・イ
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB08
4C063CC22
4C063DD10
4C063EE01
4C086AA01
4C086AA03
4C086BC37
4C086GA07
4C086GA13
4C086GA15
4C086MA01
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4C086ZA01
4C086ZA45
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4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZA96
4C086ZB07
4C086ZB08
4C086ZB11
4C086ZB15
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、スフィンゴシン-1-リン酸受容体アゴニストの結晶形に関し、より具体的には、式(1)の1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のX線回折パターンスペクトルから選択される3個以上の特性ピーク(2θ)を有する1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形:
9.15±0.2°、12.19±0.2°、13.68±0.2°、14.48±0.2°、15.37±0.2°、15.93±0.2°、17.32±0.2°、19.53±0.2°、21.56±0.2°、22.64±0.2°、23.20±0.2°、23.66±0.2°、24.51±0.2°、27.12±0.2°、27.60±0.2°及び30.87±0.2°。
【請求項2】
以下のX線回折パターンスペクトルから選択される3個以上の特性ピーク(2θ)を有することを特徴とする請求項1に記載の結晶形:
9.15±0.1°、12.19±0.1°、13.68±0.1°、14.48±0.1°、15.37±0.1°、15.93±0.1°、17.32±0.1°、19.53±0.1°、21.56±0.1°、22.64±0.1°、23.20±0.1°、23.66±0.1°、24.51±0.1°、27.12±0.1°、27.60±0.1°及び30.87±0.1°。
【請求項3】
以下のX線回折パターンスペクトルから選択される3個以上の特性ピーク(2θ)を有する1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形:
8.87±0.2°、12.53±0.2°、13.40±0.2°、14.10±0.2°、15.22±0.2°、15.64±0.2°、16.09±0.2°、17.06±0.2°、17.62±0.2°、18.91±0.2°、20.67±0.2°、21.05±0.2°、22.64±0.2°、23.59±0.2°、24.22±0.2°、25.52±0.2°、26.05±0.2°及び27.09±0.2°。
【請求項4】
以下のX線回折パターンスペクトルから選択される3個以上の特性ピーク(2θ)を有するのを特徴とする請求項3に記載の結晶形:
8.87±0.1°、12.53±0.1°、13.40±0.1°、14.10±0.1°、15.22±0.1°、15.64±0.1°、16.09±0.1°、17.06±0.1°、17.62±0.1°、18.91±0.1°、20.67±0.1°、21.05±0.1°、22.64±0.1°、23.59±0.1°、24.22±0.1°、25.52±0.1°、26.05±0.1°及び27.09±0.1°。
【請求項5】
前記薬学的に許容される塩が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項1又は3に記載の結晶形。
【請求項6】
前記薬学的に許容される塩が、塩酸であることを特徴とする請求項5に記載の結晶形。
【請求項7】
請求項1又は3に記載の1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形を、薬学的に許容される担体とともに含む、多発性硬化症を含む自己免疫疾患の治療用医薬組成物。
【請求項8】
請求項1又は3に記載の1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形を、薬学的に許容される担体とともに含む、スフィンゴシン-1-リン酸に関連する好ましくないリンパ球浸潤によって引き起こされる疾患の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項9】
請求項1又は3に記載の1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形を、薬学的に許容される担体とともに含む、免疫調整障害の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項10】
前記免疫調整障害が、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、強皮症及び自己免疫性肝炎からなる群から選択される自己免疫又は慢性炎症疾患であることを特徴とする請求項9に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スフィンゴシン-1-リン酸受容体アゴニストの結晶形に関し、より具体的には、下記式(1)
【化1】
で示される1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は、セラミドを出発物質とする細胞内セラミド経路を介して産生される。セラミドは、2つの経路で産生され、その1つ目はデノボ生合成経路である。セラミドはまた、細胞膜構成物質であるスフィンゴミエリンが細胞内で分解されることによって産生される。各組織のS1Pレベルは、2つの生合成スフィンゴシンキナーゼ(SphKs)と2つの生分解性S1Pホスファターゼ(S1Pリアーゼ及びリゾリン脂質ホスファターゼ)によって制御されている。スフィンゴシンキナーゼによるスフィンゴシンのリン酸化を介して産生されるS1Pは、細胞増殖、細胞骨格の形成と遊走、接着及びタイトジャンクションの構築、形態形成など様々な細胞反応を媒介すると知られている。S1Pは、血漿中ではアルブミンを含む血漿タンパク質と結合した形で高濃度(100~1000nM)で存在し、組織中では低濃度で存在している。
【0003】
S1Pは、G-タンパク質共役受容体であるS1P受容体に結合して、様々な生物学的機能を示す。S1P受容体のサブ-タイプとしては、現在までにS1P1~S1P5が知られており、それぞれ内皮分化遺伝子受容体(EDG)1、5、3、6及び8と名付けられている。S1P受容体は、白血球再循環、神経細胞増殖、形態変化、遊走、内皮機能、血圧調節及び心血管系の発達など、様々な生物学的機能に関与していることが知られている。
【0004】
一方、新薬の開発を効率的かつ成功させるためには、新薬の物理的および化学的特性の調査が必要である。特に、薬物の多形(polymorph)及び擬似多形(pseudopolymorph)の存在、各多形間の物理的・化学的性質の相違を検討することにより、薬学的観点から好ましい薬物の結晶形を選択することができる(非特許文献1、2)。多形体が溶液中に存在する場合、それらは化学的に同一であるが、固体状態ではそれぞれX線回折パターンが明確に異なり、様々な物理的・化学的性質の違いを示す。特に、ぞれぞれの各多形は、溶解速度の違いにより生体利用率に差が生じ、熱力学的安定性の面で予期せぬ特性を示す可能性がある。
【0005】
特定の薬物が結晶多形で存在する場合、その薬物を調製する際の再結晶溶媒、薬物濃度、加熱冷却速度、温度、撹拌速度などの再結晶条件に応じて、異なる構造を有する結晶が得られる。従って、同じ結晶形を得るためには、製造工程の管理に特別な注意を払う必要がある。結晶構造の違いはX線回折パターンで区別できる。水和物は、薬理効果をもたらす化学的な性質は変化せず、結晶性、吸湿性、融点、溶解性、溶解速度などの物理的な性質のみが変化するため、結晶多形と同様に薬学上非常に重要な意味を有している(非特許文献3)。
【0006】
本発明が属する技術分野に関連する種々文献から現在までに理解されている知見によると、薬物の安定性、吸湿性などを含む医薬特性が改善される一般的な傾向はないとうことである。結局のところ、それぞれの薬物にとって最適な薬学的特性を有する形態を経緯呈することは、ケースバイケースの継続的nア研究によって決定される必要があり、それは期待できず、実験を繰り返して初めて確認できる実験領域に属する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Remington’s Pharmaceutics, Chapter 75 Preformulation
【非特許文献2】Byrn, S.R., Solid State Chemistry of Drugs, Academic Press, New York, 1982
【非特許文献3】Morris, K. R. et al., Int. J. Pharm., 108, 1994, 15-206
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、下記式(1)
【化2】
で示される1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の薬学的優秀性を有する結晶形を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題解決のために、本発明は、本発明は1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形を提供する。
【0010】
また、本発明は、有効成分として前記1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形を、薬学的に許容される担体とともに含む医薬組成物を提供する。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の一側面によれば、以下のX線回折パターンスペクトルから選択される3個以上、5個以上、7個以上、9個以上又は10個以上の特性ピーク(2θ)を有する1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形が提供される:
9.15±0.2°、12.19±0.2°、13.68±0.2°、14.48±0.2°、15.37±0.2°、15.93±0.2°、17.32±0.2°、19.53±0.2°、21.56±0.2°、22.64±0.2°、23.20±0.2°、23.66±0.2°、24.51±0.2°、27.12±0.2°、27.60±0.2°及び30.87±0.2°。以下、前記結晶形を「結晶形A」という。
【0013】
本発明による一実施形態において、前記結晶形Aは、以下のX線回折パターンスペクトルから選択される3個以上、5個以上、7個以上、9個以上又は10個以上の特性ピーク(2θ)を有する:
9.15±0.1°、12.19±0.1°、13.68±0.1°、14.48±0.1°、15.37±0.1°、15.93±0.1°、17.32±0.1°、19.53±0.1°、21.56±0.1°、22.64±0.1°、23.20±0.1°、23.66±0.1°、24.51±0.1°、27.12±0.1°、27.60±0.1°及び30.87±0.1°。
【0014】
前記結晶形Aを熱重量分析にかけると、周辺温度から100℃までで約0.7%の重量損失が観察され、約230℃でTGAサーモグラムの傾きの劇的な変化が観察されることから、おそらく物質の分解に関係している可能性が高い(
図2)。前記結晶形Aを示差走査熱量測定(DSC)で分析すると、約221℃(開始)で吸熱が観察された(
図3)。ホットステージ顕微鏡(HSM)観察(溶融範囲217.1~226.4℃)に基づいて、前記吸熱は物質の融点に起因すると考えられた(
図5)。HSM観察によれば、溶融は分解と同時に起こっていることが分かった。前記結晶形Aを動的蒸気吸着(DVS)分析の結果、5%から95%RHへの収着中に2.58%の重量増加、95%から5%RHへの脱着中に2.49%の重量減少が観察された(
図6)。DVS後に回収された固体は、初期のものと同様のXRPDパターンを示す。加速及び苛酷条件下で、結晶形Aは2週間物理/化学的に安定した。
【0015】
本発明の他の側面によれば、以下のX線回折パターンスペクトルから選択される3個以上、5個以上、7個以上、9個以上又は10個以上の特性ピーク(2θ)を有する1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形が提供される:
8.87±0.2°、12.53±0.2°、13.40±0.2°、14.10±0.2°、15.22±0.2°、15.64±0.2°、16.09±0.2°、17.06±0.2°、17.62±0.2°、18.91±0.2°、20.67±0.2°、21.05±0.2°、22.64±0.2°、23.59±0.2°、24.22±0.2°、25.52±0.2°、26.05±0.2°及び27.09±0.2°。以下、前記結晶形を「結晶形D」という。
【0016】
本発明による一実施形態において、前記結晶形Dは、以下のX線回折パターンスペクトルから選択される3個以上、5個以上、7個以上、9個以上又は10個以上の特性ピーク(2θ)を有する:
8.87±0.1°、12.53±0.1°、13.40±0.1°、14.10±0.1°、15.22±0.1°、15.64±0.1°、16.09±0.1°、17.06±0.1°、17.62±0.1°、18.91±0.1°、20.67±0.1°、21.05±0.1°、22.64±0.1°、23.59±0.1°、24.22±0.1°、25.52±0.1°、26.05±0.1°及び27.09±0.1°。
【0017】
本発明による一実施形態において、前記前記薬学的に許容される塩は塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸からなる群から選択することができる。本発明による一実施形態において、前記薬学的に許容される塩は塩酸であってもよい。
【0018】
本発明の他の側面によれば、前記1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形A及び/又は結晶形Dを、薬学的に許容される担体とともに含む医薬組成物が提供される。
【0019】
本発明において、「医薬組成物」は、本発明による有効化合物に加えて、担体、希釈剤、賦形剤などとの他の化学成分を含んでいてもよい。従って、前記医薬組成物は、必要に応じて、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、又はそれらの組み合わせが含まれてもよい。医薬組成物は、体内への化合物の投与を容易にする。化合物を投与するための様々な方法には、経口、注射、エアロゾル、非経口、及び局所投与が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書において、「担体(carrier)」とは、細胞又は組織への化合物の投与を容易にする化合物を意味する。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、生物体の細胞又は組織への多くの有機化合物の投与を容易にする従来の担体である。
【0021】
本明細書において、「希釈剤(diluent)」とは、生物学的に活性な形態を安定化させるだけでなく、化合物を溶解する溶媒中で希釈される化合物を意味する。この分野では、緩衝液に溶解した塩が希釈剤として使用される。従来使用される緩衝液は、体液中の塩の形を模倣したリン酸緩衝食塩水である。緩衝液は低濃度で溶液のpHを制御できるため、緩衝希釈剤は化合物の生物学的活性を変化させない。
【0022】
本明細書において、「薬学的に許容される」とは、化合物の生物学的活性と物性を損なわない性質を意味する。
【0023】
本発明による化合物は、様々な薬学的に投与される剤形として製剤化することができる。本発明による医薬組成物の調製において、有効成分、具体的には、式(1)の化合物又はその薬学的に許容される塩の結晶形A及び/又は、結晶形Dを、調製される剤形を考慮して選択された薬学的に許容される担体と混合される。例えば、本発明による医薬組成物は、必要に講じて注射剤、経口剤などに製剤化することができる。
【0024】
本発明の式(1)の化合物の結晶形は、公知の医薬用担体及び賦形剤を用いて常法により製剤化し、単位容量又は多用量容器に挿入することができる。製剤の形態は、油又は水性溶媒中の溶液、懸濁液又はエマルジョンであってもよく、従来の分散剤、懸濁剤又は安定化剤を含む。さらに、化合物は、例えば、使用前に無菌発熱物質を含まない水に溶解される乾燥粉末の形態であってもよい。本発明の式(1)の化合物のカリウム塩又はメタンスルホン酸塩は、ココアバター又はその他グリセリドなどの従来の坐剤基剤を使用することによって坐剤に製剤化することができる。経口投与用の固体形態には、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉末及び顆粒が含まれる。特にカプセル剤と錠剤が好ましい。錠剤及び丸剤は腸溶コーティングされていることが好ましい。固体形態は、本発明の式(1)の化合物の結晶形を、スクロース、ラクトース、デンプンなどの不活性希釈剤、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、崩壊剤、結合剤などから選択される少なくとも1つの担体と混合することによって製造される。さあに、経皮投与形態、例えば、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、パッチ又は噴霧剤として製剤化することもできる。
【0025】
本発明による医薬組成物は、スフィンゴシン-1-リン酸受容体に関連する疾患の予防又は治療に適している。本発明の一実施形態において、前記医薬組成物は、多発性硬化症を含む自己免疫疾患の治療に使用することができる。本発明による一実施形態において、前記医薬組成物は、スフィンゴシン-1-リン酸に関連する望ましくないンパ球浸潤によって引き起こされる疾患の予防又は治療に使用することができる。本発明による一実施形態において、前記医薬組成物は、免疫調節障害の予防又は治療に使用することができる。本発明による一実施形態には、前記免疫調節障害は、例えば、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、強皮症(scleroderma)及び自己免疫性肝炎からなる群から選択される自己免疫又は慢性炎症疾患であってもよいが、これらに限定ない。
【0026】
本明細書において、「予防」という用語は、疾患に罹患する可能性を低減又は排除することを指す。
【0027】
本明細書において、「治療」という用語は、疾患の症状を示す対象における疾患の進行を阻止、遅延、又は緩和することを意味する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸又はその薬学的に許容される塩の結晶形A及び/又は結晶形Dは、スフィンゴシン-1-リン酸受容体アゴニストとしての薬理活性を有すると同時に、安定性、例えば、熱安定性及び保存安定性などの薬学的特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】結晶形AのX線粉末回折(XRPD)スペクトルである。
【
図2】結晶形Aの熱重量分析(TGA)の結果である。
【
図3】結晶形Aの示差走査熱量測定(DSC)分析結果である。
【
図5】結晶形Aのホットステージ顕微鏡検査の結果である。
【
図7】結晶形Aの物理的安定性(XRPD)分析の結果である。
【
図8】結晶形DのX線粉末回折(XRPD)スペクトルである。
【
図9】アモルファスのX線粉末回折(XRPD)スペクトルである。
【
図10】アモルファスの熱重量分析(TGA)/示差走査熱量測定(DSC)分析結果である。
【
図11】アモルファス形態の温度サイクルDSC結果である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施例を挙げて本願発明をより詳細に説明する。しかしながら、本発明の保護範囲は、これらの実施例に限定されるものではないことを理解されたい。
【実施例】
【0031】
製造例:1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸塩酸塩の合成
WO2014/129796 A1号の製造例153-1に記載された方法に準じて、1-[1-クロロ-6-(3-クロロ-1-イソプロピル-1H-インダゾール-5-イルメトキシ)-3,4-ジヒドロ-ナフタレン-2-イルメチル]-ピペリジン-4-カルボン酸エチルエステルを合成し、エステルをNaOHで加水分解し、HClで酸性化した後、結晶化して塩酸塩(以下、「化合物1」という)を得た。
【0032】
実施例1:結晶形Aの調製
化合物1(226g、0.46mol)、エタノール(1.13L、5倍)、水(0.57L、2.5倍)及びNaOH(32g、0.80mol)を反応器に加えた。内温45℃で60分間加熱した後、内温を28℃に冷却した。反応混合物にジクロロメタン(DCM)(340mL、1.5倍)を加えた後、6N HCl(167mL、1.00mol)を50分かけてゆっくり滴加して溶液のpHを2.5に酸性化し、次いで酢酸エチル(EtOAc)(0.23L、1倍)を加えて結晶化を進めた。内温を5℃に冷却したあと、得られた生成物を30分間静置し、ろ過し、水(1.13L、5倍)で2回、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)(0.50L、3倍)で1回洗浄して、結晶形A(156g、2段階収率:69.0%)を得た。
【0033】
実施例2:結晶形Aの分析
(1)XRPD(粉末X線回折)
XRPD分析は、PANalytical社製のX’pert Pro MPD回折計を使用し、Cu放射線の入射ビームを使用して行った。試料約20~30mgをガラス製試料ホルダー上で平坦に圧縮した後、装置の発電機45kV(加速電圧)、40mA(フィラメント発光)に設定し、反射モード(ノンスピン)で測定を行った。4~40°範囲のブラッグ角(2θ)を、ステップサイズ0.026°及びステップ当たりの時間51秒の条件で測定した。XRPDパターンは、HighScore Plus2.2cソフトウェアで分類及び処理さし、結果を
図1及び表2に示した。
【0034】
(2)TGA(熱重量分析)
TGAは、TA Instruments Q5000 IR熱重量分析装置を使用して行われた。試料を密封し、密封キャプにピンホールを開け、次に調整した試料をTG炉(furnace)に挿入し、窒素雰囲気下で、25℃から最大350℃まで10℃/分の速度で加熱した。結果を
図2に示した。
【0035】
(3)DSC(示差走査熱量測定)
DSCは、メトラー・トレドDSC 3+ 示差走査熱量計を使用して行った。試料を密閉したアルミニウム製DSCパンに入れ、重量を正確に記録した。その後、パンの蓋に穴を開け、飼料を測定するためにDSCセルに入れた。窒素下で10℃/分の速度で30℃から最大250℃まで加熱した。結果を
図3に示した。
【0036】
(4)NMR(
1H核磁気共鳴分光法)
プロトンNMRスペクトルは、Bruker 500MHz NMR分光器を使用して、重水素化DMSOに溶解した溶液状態で収集した。各試料の測定パラメータはNMRスペクトルに示した(
図4)。
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ: 1.47 (d, 6H), 1.80-2.10 (m, 4H), 2.55-2.70 (m, 3H), 2.80 (m, 2H), 3.10 (m, 2H), 3.50 (m, 2H), 4.00 (m, 2H), 5.00 (m, 1H), 5.30 (s, 2H), 7.0 (s, 2H), 7.55-7.66 (m, 2H), 7.80(m, 2H), 10.2 (br, 1H), 12.6 (br, 1H)
【0037】
(5)HSM(ホットステージ顕微鏡)
ホットステージ顕微鏡検査は、TMS93コントローラ及びLinkmanホットステージ(モデル:FTIR 600)を備えたライカDMLP顕微鏡を使用して行った。試料は、交差偏光子を備えたラムダプレートを使用して、10×0.22又は20×0.40の倍率で観察された。試料をカバースリープ上に置き、別のカバースリープを試料上に置いた。ステージを加熱しながら試料を目視観察した。ガス放出を調査するために、場合によっては試料に鉱油を一滴加えることもある。画像は、SPOTソフトウェアV.4.5.9とSPOT Insightカラーデジタルカメラを使用してキャプチャーした(
図5)。
【0038】
(6)DVS(動的蒸気収着)
水分吸着/脱着データは、DVS Intrinsic機器(Surface Measurement System社製)で収集した。試料は分析前に乾燥させなかった。収着及び脱着データは、窒素下で5%~95%RH範囲で10%RHずつ増加して収集した。分析に使用された平衡基準は、最大平衡時間3時間で5分間の重量変化が0.0100%未満であった。試料の初期含水率データは、修正していない。結果を
図6に示した。
【0039】
(7)安定性試験(XRPD、肉眼観察、HPLC)
結晶形Aの化学的安定性を確認するために、加速条件(40℃/75%RH)及び苛酷条件(80℃)で2週間保管した後、肉眼観察及びXRDを測定によって物理的安定性を確認した(
図7)。化学的安定性は、HPLCを使用した試料の純度を分析によって確認された(表3)。HPLC装置及び分析方法を表1に示した。
【表1】
【0040】
(8)結果
XRPD分析の結果、化合物が結晶形であることが確認され、具体的な値は下記表2に示した。
【表2】
【0041】
TGAによれば、周辺温度から100℃までで約0.7%の重量損失が観察された。TGAサーモグラムの傾きの劇的な変化が約230℃で観察されたが、これは物質の分解に関連している可能性が高い。
【0042】
DSCの結果、約221℃(オンセット)に吸熱が観察されたが、これはHSM観察(溶融範囲217.1-226.4℃)に基づく物質の融点によるものである。HSMの観察によると、溶融は分解と同時に起こった。
【0043】
DVSの結果、5%から95%RHへの収着中に、2.58%の重量増加をあり、95%から5%RHへの脱着中に2.49%の重量減少があった。DVS後に回収された固体は、初期のものと同様のXRPDパターンを示した。
【0044】
本発明による結晶形Aは、加速条件(40℃、75%RH)及び苛酷条件(密閉状態、80℃)において2週間化学的安定性をし、
図7に示すように、XRPDにおいて結晶形態に変化がないことから、物理/化学的安定性が確認された。
【0045】
実施例3:結晶形Dの調製
以下の3つ方法で結晶形Dを調製した。
(1)結晶形Aを60℃でメタノール溶媒に溶解して溶液を調製し、次いで冷メチルtert-ブチルエーテルを用いて0.2μmナイロンフィルターを通してろ過した。このとき、使用されたメタノールとメチルtert-ブチルエーテルの比率は1:4であった。貧溶媒でろ過した後、固体は生成せず溶液状態を維持し、この溶液を冷凍状態で5日間保存して白色固体を得た。
【0046】
(2)60℃でメタノール溶媒に結晶形Aを溶解して飽和又は濃縮溶液を調製し、予熱した0.2μmナイロンフィルターを通してろ過し、同じ温度で予熱したバイアルに入れた。次いで、得られた生成物を加熱プレート上で火を止めて室温までゆっくり冷却した。この状態で固体が生成されなった。従って、2~8℃に3日間冷却した後、得られた生成物を冷凍庫に19日間置いて固体を得た。
【0047】
(3)結晶形Aの入ったガラス製のバイアルをメタノール溶媒の入ったバイアルに入れ、蓋をした。その後、バイアルを室温で21日間保管して、白色固体を得た。
【0048】
実施例4:結晶形Dの分析
実施例2と同様の方法でXRPD分析を行った(
図8)。
【表3】
【0049】
XRPD分析の結果、化合物は結晶形であることが確認された。
【0050】
実施例5:アモルファスの製造
以下の3つ方の法でアモルファスを製造した。
【0051】
(1)結晶形A60mgを10mLのTFE(2,2,2-トリフルオロエタノール)に溶解し、0.2μmのPVDFフィルターでろ過して透明な丸底フラスコに入れた。フラスコをロータリーエバポレータに取り付け、60℃の水浴に浸し、溶媒を真空下で急速に蒸発乾燥した。XRPD試験の前に、飼料を真空オーブンで1日間室温乾燥させた。
【0052】
(2)結晶形A810mgを120mLのTFE(2,2,2-トリフルオロエタノール)に溶解し、0.2μmPVDFフィルターでろ過して透明な丸底フラスコに入れた。フラスコをロータリーエバポレータに取り付け、60℃の水浴に浸し、溶媒を真空下で急速に蒸発乾燥させた。XRPD試験の前に、試料を真空オーブンで1日間室温乾燥させた。
【0053】
(3)結晶形A 1.03gを150mLのTFE(2,2,2-トリフルオロエタノール)に溶解し0.2μmPVDFフィルターでろ過して透明な丸底フラスコに入れた。フラスコをロータリーエバポレータに取り付け、60℃の水浴に浸し、溶媒を真空下で急速に蒸発乾燥させた。XRPD試験の前に、飼料を40℃真空オーブンで1日間乾燥させた。
【0054】
実施例6:アモルファスの分析
(1)XRPD(粉末X線回折)
実施例2と同様の方法でXRPD分析を行った(
図9)。
【0055】
(2)TGA/DSCの組み合わせ(熱重量分析/示差走査熱量測定)
TGA/DSC組み合わせ分析は、メトラー・トレドTGA/DSC 3+分析装置を使用して行われた。試料をアルミニウム製のパンに入れ、パンを密封した。パンの蓋に穴を開けた後、試料をTG炉に挿入した。窒素下で、30℃から最大250℃まで10℃/分の速度で加熱を行った。結果を
図10に示した。
【0056】
(3)温度サイクルDSC(示差走査熱量測定)
温度サイクルDSCは、メトラー・トレドDSC 3+ 示差注射熱量計を使用して行われた。試料を密閉されたアルミニウム製のDSCパンに入れ、重量を正確に記録した。次にパンの蓋に穴を開け、試料の測定のためにフDSCセルに入れた。試験は窒素下に以下の方法で行った。-30℃から140℃まで20℃/分の速度で加熱した後、140℃から-30℃まで20℃/分の速度で冷却し、再度-30℃から200℃まで20℃/分の速度で加熱した。結果を
図11に示した。
【0057】
(4)安定性試験(XRPD、肉眼観察、HPLC)
実施例2と同様の方法で安定性試験を行った。
【0058】
(5)結果
XRPDの結果上、鋭いピークのない典型的なアモルファス形態を示すハローパターンが観察された(
図9)。
【0059】
TGAの結果、試料は49℃から160℃まで約4.3%の重量損失を示した。221℃(オンセット)での段階的な重量減少は、はHClの損失を示している可能性がある。段階周辺の重量損失は約6.4%で、揮発性物質がHClであると仮定すると、約1モルのHClに相当する。
【0060】
Tgを測定するために、温度サイクルDSCを行った。最初の加熱サイクル中に約69℃のブロードな吸熱(ピーク)が観察されたが、これは残留溶媒/水分損失によるものと予想された。通常、Tgを示す熱流信号の段階的変化が、最終加熱サイクル中に約89℃で観察された。
【0061】
アモルファス形態は、苛酷条件(80℃)で2週間放置した後の肉眼観察では、叩くと壊れる自由流動性の粒子と、気泡状の黄色の塊の形で観察された。アモルファス形態は、80℃で少なくとも2週間は物理的に安定であるように見えたが、この条件では試料中の不純物の量が増加した(表4)。
【表4】
【国際調査報告】