(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-12
(54)【発明の名称】熱的に剥離可能なコーティング組成物及びそれから製造される構造
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240405BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20240405BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240405BHJP
C09D 5/20 20060101ALI20240405BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240405BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
C09D201/00
C09J5/00
C09J201/00
C09D5/20
C09D7/65
B32B27/00 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561905
(86)(22)【出願日】2022-04-07
(85)【翻訳文提出日】2023-12-06
(86)【国際出願番号】 US2022023789
(87)【国際公開番号】W WO2022216904
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】ツァン、 ウェンフア
(72)【発明者】
【氏名】コッラーオ、 リチャード
(72)【発明者】
【氏名】リ、 リン
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK51A
4F100AK52A
4F100AK53A
4F100AL01A
4F100AL05A
4F100AL06A
4F100AT00B
4F100BA01
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100CB00A
4F100CB00C
4F100CC00A
4F100DE01A
4F100JA02A
4F100JB12A
4F100JB12C
4F100JJ03A
4F100JJ03C
4F100JL14A
4F100JL16
4J038CC052
4J038DB061
4J038KA21
4J038NA10
4J038PA18
4J038PC02
4J040EK031
4J040MA02
4J040PA12
4J040PA30
4J040PA42
(57)【要約】
【解決手段】
接着剤組成物と組み合わせてプレコーティング又は表面処理として使用するための硬化性熱膨張性剥離可能なコーティング組成物。剥離可能なコーティング組成物は、特定の温度範囲で膨張するように設計された熱膨張性ミクロスフェアを包含し、それによってコーティング組成物を基材から剥離する。接着剤組成物は、剥離可能なコーティング上に重ねられた後、剥離可能なコーティング組成物とともに基材から剥離される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化した接着剤ボンドラインを基材から熱的に剥離するための接着剤剥離コーティング組成物であって、前記剥離コーティングが、
硬化時に約250℃を超える温度に耐えることができる硬化性接着剤マトリックスであって、約70℃~約250℃の温度にさらされたときに膨張する熱膨張性ポリマー微粒子を約1重量%~約60重量%含む、硬化性接着剤マトリックスを含む、接着剤剥離コーティング組成物。
【請求項2】
前記硬化性接着剤マトリックスが、エポキシ、シリコーン、ポリウレタン、シリコーン変性ポリマー及びコポリマー、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項3】
前記熱膨張性ポリマー微粒子が、前記硬化性接着剤マトリックスの約10%~約30%の量で存在する、請求項1に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項4】
前記熱膨張性ポリマー微粒子が、最大寸法にわたって測定して、約2μm~約50μmの平均サイズを有する、請求項1に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項5】
前記微粒子の膨張開始温度が約50℃~約180℃である、請求項1に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項6】
前記微粒子がミクロスフェアである、請求項1に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項7】
前記ミクロスフェアが、熱膨張性炭化水素を含有するポリアクリロニトリルシェルを含む、請求項6に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項8】
前記熱膨張性炭化水素が液体又は気体である、請求項7に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項9】
前記熱膨張性炭化水素が、ブタン、イソブテン、ペンタン、イソペンタン及びそれらの組み合わせから選択される気体である、請求項8に記載の剥離コーティング組成物。
【請求項10】
基材に剥離可能な接着を形成する方法であって、
前記基材の表面に、
a.接着剤マトリックス及び熱膨張性微粒子を含む第1の剥離層と、
前記微粒子は約70℃~約250℃の温度で膨張することができ、前記接着剤マトリックスは前記膨張温度よりも高い温度に耐えることができる、
b.前記膨張温度を超える温度に耐えることができる硬化性ボンディング接着剤を含む第2の層と、
を含む組成物を塗布する工程と:
前記組成物を前記基材上で硬化させる工程と:
を含み、
前記硬化に続いて、前記膨張温度まで加熱することによって、前記基材を前記接着剤層から分離することができる、方法。
【請求項11】
ラップせん断試験で測定して、前記第1の剥離層が、前記接着層よりも強い接着強度を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の層の堆積前に、前記第1の層が少なくとも部分的に硬化される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記接着剤剥離マトリックスが、エポキシ、シリコーン、ポリウレタン、シリコーン変性ポリマー、並びにそれらの組み合わせ及びコポリマーからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
剥離が30分以内に起こる、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記基材が剥離後に再生利用可能である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの表面を含む構造であって、前記少なくとも1つの表面が、前記表面と直接接触する硬化した剥離コーティング層と、前記剥離コーティング上の追加のボンディング接着剤層とを含む構造であって、
前記剥離層は、約250℃を超える温度に耐えることができる接着マトリックス及び熱膨張性微粒子を含み、前記微粒子を約70℃~約250℃の温度に加熱すると、前記微粒子が膨張して、前記表面から前記コーティング層及び前記ボンディング層の剥離を引き起こす、構造。
【請求項17】
前記構造が再生利用可能(再利用可能)である、請求項16に記載の接着構造。
【請求項18】
基材に剥離可能な接着を形成する方法であって、
前記基材の表面に、
a.前記表面と直接接触する第1の剥離層と、
前記剥離層は、エポキシ、シリコーン、ポリウレタン、シリコーン変性ポリマー及びコポリマー、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される接着剤マトリックスと、約70℃~約250℃の温度で膨張可能な熱膨張性微粒子とを含む、
b.前記剥離層を覆う第2の層と、
前記第2の層は、ラップせん断試験により測定したとき、第1の剥離層よりも低い接着強度を有する硬化性接着剤を含む、
を含む組成物を塗布する工程と:
前記組成物を前記基材上で硬化させる工程と:
を含み、
前記硬化に続いて、前記膨張温度まで加熱することによって、前記基材を前記接着剤層から分離することができる、方法。
【請求項19】
第1の基材表面及び第2の基材表面と、
前記第1の表面及び第2の表面は、それらの間に熱剥離可能な接着剤ボンドラインを形成するように嵌合配置にある、
前記嵌合する表面の少なくとも1つ上の剥離コーティング組成物と、
前記コーティング組成物は、約1重量%~約60重量%の熱膨張性ミクロスフェアを包含するエポキシ接着剤マトリックスを含み、前記ミクロスフェアがアクリロニトリルシェル及び炭化水素コアを含む、
前記剥離コーティング組成物を覆うボンディング接着剤組成物と、
前記ボンディング組成物は、前記剥離組成物と相溶性があり、前記剥離組成物よりも低い接着ラップせん断強度を有する接着剤を含む、
を含む熱剥離可能な接着ジョイントであって:
約70℃~約250℃の温度で活性化すると、熱膨張性ミクロスフェアは前記基材を互いに剥離させる、熱剥離可能な接着ジョイント。
【請求項20】
前記ポッティング接着剤組成物が、膨張温度を超える温度に耐えることができる、請求項19に記載の熱剥離可能な接着ジョイント。
【請求項21】
前記剥離コーティング組成物が、ラップせん断試験によって測定される場合、前記ボンディング接着剤組成物の接着強度よりも大きな接着強度を有する、請求項19に記載の熱剥離可能な接着ジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボンディング接着剤、ポッティング接着剤又はコーティング接着剤を塗布する前に基材上の表面処理として使用される剥離コーティング組成物に関する。剥離コーティングは、ボンディング接着剤が接着できる剥離可能な表面を提供し、接着剤の強度と特性を維持する。剥離コーティングは、熱にさらされると基材から剥離(分離又は容易に除去)され、その結果、その上に重ねられたボンディング接着剤も基材から剥離することができる。
【背景技術】
【0002】
接着剤を剥離可能にするために、熱膨張性粒子(TEP)が使用されてきた。この取り組みでは、しばしば、TEPと相性が良い化学物質のみを再配合して使用するという多大な労力が必要である。例えば、欧州特許第1141104号明細書は、グラファイト、バーミキュライト、パーライト、マイカ、ヴェルムランダイト、タンマサイト及びハイドロタルサイト等の熱膨張性無機粒子の使用を開示しており、エポキシ樹脂に添加されている。加熱すると粒子が膨張し、基材から接着剤が剥離する。ヘンケルAGの米国特許第10800956号は、有機塩又は無機塩を含有する剥離可能な反応性ホットメルトを開示しており、加熱するとホットメルトが溶融し、基材から剥離できる。
【0003】
現在、ボンディング、ポッティング、及びコーティング等の様々な用途において様々な接着剤と共に使用でき、非相溶性の懸念による再配合を必要としない、汎用の剥離コーティングが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第1141104号明細書
【特許文献2】米国特許第10800956号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様では、硬化した接着剤ボンドラインを基材から熱的に剥離するための接着剤剥離コーティング組成物であって、前記剥離コーティングが、
硬化時に約250℃を超える温度に耐えることができる硬化性接着剤マトリックスであって、約70℃~約250℃の温度にさらされたときに膨張する熱膨張性ポリマー微粒子を約1重量%~約60重量%包含する硬化性接着剤マトリックスを包含する、接着剤剥離コーティング組成物が提供される。
【0006】
本発明の別の態様では、基材に剥離可能な接着を形成する方法であって、
前記基材の表面に、
a.接着剤マトリックス及び熱膨張性微粒子を含む第1の剥離層と、
前記微粒子は約70℃~約250℃の温度で膨張することができ、前記接着剤マトリックスは前記膨張温度よりも高い温度に耐えることができる、
b.前記膨張温度を超える温度に耐えることができる硬化性ボンディング接着剤を含む第2の層と、
を含む組成物を塗布する工程と:
前記組成物を前記基材上で硬化させる工程と:
を含み、
前記硬化に続いて、前記膨張温度まで加熱することによって、前記基材を前記接着剤層から分離することができる、方法が提供される。
【0007】
本発明の別の態様では、少なくとも1つの表面を包含する構造であって、前記少なくとも1つの表面が、前記表面と直接接触する硬化した剥離コーティング層と、前記剥離コーティング上の追加のボンディング接着剤層と、を含む構造であって、
前記剥離層は、約250℃を超える温度に耐えることができる接着マトリックス及び熱膨張性微粒子を含み、前記微粒子を約70℃~約250℃の温度に加熱すると、前記微粒子が膨張して、表面からコーティング層及びボンディング層の剥離を引き起こす、構造が提供される。
【0008】
本発明のさらに別の態様では、基材に剥離可能な接着を形成する方法であって、
前記基材の表面に、
a.前記表面と直接接触する第1の剥離層と、
前記剥離層は、エポキシ、シリコーン、ポリウレタン、シリコーン変性ポリマー及びコポリマー、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される接着剤マトリックスと、約70℃~約250℃の温度で膨張可能な熱膨張性微粒子とを包含する、
b.前記剥離層を覆う第2の層と、
前記第2の層は、ラップせん断試験により測定したとき、第1の剥離層よりも低い接着強度を有する硬化性接着剤を包含する、
を含む組成物を塗布する工程と:
前記組成物を前記基材上で硬化させる工程と:
を含み、
前記硬化に続いて、前記膨張温度まで加熱することによって、前記基材を前記接着剤層から分離することができる、方法が提供される。
【0009】
本発明のさらに別の態様では、
第1の基材表面及び第2の基材表面と、
前記第1の表面及び第2の表面は、それらの間に熱剥離可能な接着剤ボンドラインを形成するように嵌合配置にある、
前記嵌合する表面の少なくとも1つ上の剥離コーティング組成物と、
前記コーティング組成物は、約1重量%~約60重量%の熱膨張性ミクロスフェアを包含するエポキシ接着剤マトリックスを包含し、前記ミクロスフェアがアクリロニトリルシェル及び炭化水素コアを含む、
前記剥離コーティング組成物を覆うボンディング接着剤組成物と、
前記ボンディング組成物は、前記剥離組成物と相溶性があり、前記剥離組成物よりも低い接着ラップせん断強度を有する接着剤を含む、
を包含する熱剥離可能な接着ジョイントであって:
約70℃~約250℃の温度で活性化すると、熱膨張性ミクロスフェアは前記基材を互いに剥離させる、熱剥離可能な接着ジョイントが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、シリコーン接着剤(ロックタイト(登録商標)SI6900)ジョイントの(アルミニウムラップせん断上の)プレコーティングとして使用される、(剥離コーティング全体の重量で)約20重量%のエクスパンセル(登録商標)ミクロスフェアを組み込んだ市販の接着剤ロックタイトE-120HPから作製された、剥離コーティングを示している。剥離コーティングは、室温でシリコーン接着剤の通常の接着強度を妨げなかったが、比較的穏やかな熱条件下でラップせん断の剥離を可能にした。
【
図2】
図2は、シリコーン接着剤(ロックタイト(登録商標)SI5600)ジョイントのアルミニウム表面上のプレコーティングとして使用される、(剥離コーティング全体の重量で)約20重量%のエクスパンセル(登録商標)ミクロスフェアを組み込んだ市販の接着剤ロックタイトE-90Fから作製された、剥離コーティングを示している。剥離コーティングは、室温でシリコーン接着剤の通常の接着強度を妨げなかったが、比較的穏やかな熱条件下でラップせん断の剥離を可能にした。
【
図3】
図3は、剥離可能なコーティング及びボンディング接着剤層をそれぞれ示す剥離可能な構造の側面図である。
【
図4】
図4は、剥離可能なコーティング層及びポッティング接着剤層をそれぞれ示す剥離可能な構造の側面図である。
【
図5】
図5は、基材及びボンディング接着剤層をそれぞれ本質的に封入している剥離コーティングを示す剥離可能な構造の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、硬化性接着マトリックスを使用して、様々な異なる接着剤組成物を剥離可能にするためのプレコーティングとして普遍的に使用できる剥離可能なコーティングを形成する。まず剥離コーティングを基材に塗布して剥離可能な界面を形成し、続いてボンディング接着剤組成物を塗布する。剥離コーティングは、ボンディング接着剤を塗布する前に基材上で硬化され、ボンディング接着剤の接着特性には影響を与えない。
【0012】
本開示の利点の中には、次のようなものがある:単一のコーティングを多種多様な接着剤配合物に使用することができ、それによって従来技術で一般的であった相溶性の問題が解消される;ボンディング、ポッティング、及びコーティングされた部品は、例えば剥離による交換又はアップグレード等、簡単に維持及び保守できる;再コーティング層及び接着層の剥離及び除去により、部品の再生が大幅に容易になる;一時的な固定物を形成し、簡単に分離できる;並びに部品の寿命が来ても交換で簡単に対応可能である。さらに、剥離コーティングにより、温度制御による剥離の制御が可能になる。
【0013】
剥離コーティングには、エポキシ、シリコーン、ポリウレタン及びシリコーン変性ポリマー、ならびにコポリマー及びこれらのポリマーの組み合わせから選択できる硬化性マトリックスが包含される。望ましくは、硬化性マトリックスは、ボンディング接着剤よりも高い温度に耐えることができ、例えば、少なくとも約250℃の温度に耐えることができる。
【0014】
剥離コーティングマトリックスとして使用するのに有用なエポキシ組成物の非限定的な例としては、エポキシ樹脂と、一緒に混合するとエポキシを硬化させるポリアミド等の硬化剤とを有する二液型接着剤組成物が挙げられる。有用な市販のエポキシ組成物の例は、ヘンケル社によって販売されている、ロックタイトハイゾル E-90FL、ロックタイトハイゾル E-120HP、ロックタイトE-30CL、ロックタイトE-00CL等である。
【0015】
剥離コーティングマトリックスとして使用するのに有用なシリコーン組成物の非限定的な例としては、湿気硬化、UV硬化、UV/湿気硬化、熱硬化、及び湿気/熱硬化組成物が挙げられる。シリコーン組成物の組み合わせ(混合物及びコポリマー)も使用してよい。有用な市販のシリコーン組成物の例は、ヘンケル社によって販売されている、ロックタイトSI5600、ロックタイトSI5607、ロックタイト5900等である。
【0016】
剥離コーティングマトリックスとして使用するのに有用なポリウレタン組成物の非限定的な例としては、1部湿気硬化ポリウレタン、2部ポリウレタン、ポリ尿素、及びそれらの組み合わせ等のポリウレタン組成物が挙げられる。有用な市販のポリウレタン組成物の例は、ヘンケル社によって販売されている、ロックタイトUK1351、ロックタイトUK1366、ロックタイトUKU-09FL、ロックタイトUKU-05FL、ロックタイトUK3364等である。これらのポリウレタンポリマー組成物の組み合わせは有用である。
【0017】
剥離コーティングマトリックスとして使用するのに有用なシリコーン変性ポリマー組成物の非限定的な例としては、ヘンケル社によって販売されている、ロックタイトMS939、ロックタイトMS930、ロックタイトMS9399及びロックタイトMS647等の市販のシリコーン変性組成物が挙げられる。これらのシリコーン変性ポリマー組成物の組み合わせは有用である。
【0018】
剥離コーティングは、約1%~約60%、又は10%~約20%、又は約15%~約30%、又は約30%~約40%、又は約20%~約50%、又は約25%~約60%の熱膨張性微粒子の接着剤マトリックスへの組み込みを包含する。微粒子は、望ましくはミクロスフェアであり、特定の温度を加えるとマトリックス内で膨張し、硬化したマトリックスをそれが硬化された基材の表面から剥離させる。
【0019】
マトリックス中に存在する熱膨張性微粒子の量は、剥離を調整及び制御するために選択されてよい。例えば、特定の剥離マトリックスには、より多量の微粒子が必要となる場合がある。加熱により膨張性粒子が容易に膨張できる柔軟なコーティングマトリックスの場合、必要な膨張性粒子の量は少なくなる。その一方で、硬くて脆いコーティングでは、少量の膨張で亀裂及び表面からの剥離を引き起こすのに十分なため、必要な剥離性粒子がより少量である場合もある。丈夫なコーティングマトリックスの場合、より多くの量の発泡性粒子がしばしば必要である。そうしないと、熱膨張後にコーティングが泡状であるが依然として強力なコーティングになる場合がある。また、膨張温度も剥離を制御する際の決定要因である。本発明の一態様では、剥離コーティング組成物が、その上に堆積されたボンディング接着剤の硬化中に実質的に無傷のままであり得る。これには、ボンディング接着剤の硬化温度がコーティングの剥離温度よりも低い必要がある。したがって、硬化した剥離コーティング組成物は、ボンディング接着剤の硬化温度によって実質的に影響を受けず、また、ボンディング接着剤と相溶性があり、ボンディング接着剤の接着特性を妨げない。
【0020】
特に有用な熱膨張性ミクロスフェアの1つは、商品名デュアライト(登録商標)及びエクスパンセル(登録商標)で販売されているもののような、ポリアクリロニトリルシェル及び炭化水素コアから作製される。膨張可能なミクロスフェアは、直径約5ミクロン~約40ミクロンを包含する任意の膨張したサイズを有してよい。熱の存在下では、ミクロスフェアは、その直径の約3倍~約80倍、望ましくは約20倍~約80倍、より望ましくは約60倍~約80倍に増大する可能性がある。ミクロスフェアは直径約5~約40の小さなピンポン玉に似ており、発泡剤(blowing agent)をカプセル化したポリマーシェルから成る。ミクロスフェアが加熱されると、発泡剤の圧力が上昇し、同時にポリマーシェルが柔らかく延性になり、これによりミクロスフェアが膨張する。ミクロスフェアが膨張すると、冷却後も膨張した体積が保持される。膨張したミクロスフェアの密度は特に低い(15~70kg/m3)。ミクロスフェアは、断熱、遮音、太陽光反射の増加、表面の摩擦の増加等、他の有用な機能も提供する。熱膨張により、膨張剤(expanding agent)又は起泡剤(foaming agent)としての使用に適しており、他の起泡剤と比べてより制御された均一な発泡構造が得られる。
【0021】
ミクロスフェアは、熱可塑性ポリマーシェルから作製されてよく、内部に揮発性炭化水素を含有するコアを取り囲む。ミクロスフェアが加熱されると、炭化水素が蒸発し、ミクロスフェア内の内圧が上昇する。同時に、ポリマーシェルはガラス転移温度(Tg)に達すると柔らかくなり、延性が高くなる。炭化水素ガスの内圧がポリマーの降伏強度を超えるとミクロスフェアは膨張し始め、体積が大幅に増加しても質量は変わらないため、密度が大幅に減少する。炭化水素は発泡剤として機能し、膨張はカプセル化された発泡剤の種類及び量、並びにポリマーのTgによって制御される。内圧がポリマーシェルの降伏強度を超える限り、又はシェルが破損する、若しくは炭化水素がシェルを通って拡散してミクロスフェアの体積が減少するほど薄くなるまで、膨張は継続する。
【0022】
本発明において特に有用なミクロスフェアは、アクリロニトリル(ACN)、メタクリロニトリル(MAN)及びアクリル酸メチル(MA)のコポリマーから作製されるシェルを有する。ACNは主成分であり、その半結晶構造及び高い凝集力による優れたバリア性と耐薬品性により使用されている。バリア特性は、膨張に有害なポリマーシェルを通した拡散によって失われる発泡剤の量を決定するため、ミクロスフェアの膨張にとって非常に重要である。MAを添加するとTgが下がり、その結果、シェルの延性が高まる。ポリマーシェルの特性を変更する別の方法は、架橋剤を導入することであり、これにより、ポリマー鎖の移動性が低下し、Tgが増加する。構造がより緻密になり、シェルの耐薬品性が向上する。シェルの架橋は、膨張特性、特に最大膨張が起こる温度であるTmaxに大きな影響を与えることが知られている。ミクロスフェアの膨張特性は、発泡剤として異なる炭化水素を使用することによって変えることができる。ミクロスフェアが膨張し始める温度は、炭化水素の沸点に関係する。沸点が低いほど膨張温度は低くなり、その逆も同様である。
【0023】
膨張性ミクロスフェアは、膨張し始める特定の温度(初期膨張温度)と、最大膨張に達する第2の温度とを有する。ミクロスフェアグレードは、典型的に、特定の膨張温度範囲(Texp)、初期膨張温度(Ti)及び最大膨張温度(Tmax)で販売される。初期膨張温度(Ti)はミクロスフェアが膨張し始める典型的な温度であり、最大膨張温度(Tmax)はミクロスフェアの約80%が膨張した温度である。
【0024】
ポリアクリロニトリル(PAN)は、ポリビニルシアン化物及びクリスラン61としても知られ、直鎖式(C3H3N)nを有する合成の半結晶性有機ポリマー樹脂である。熱可塑性であるが、通常の状態では融解しない。融解前に分解する。加熱速度が毎分50度以上の場合、300℃以上で融解する。ほとんど全てのPAN樹脂は、主モノマーとしてアクリロニトリルを含むモノマーの混合物から作られたコポリマーである。限外濾過膜、逆浸透用中空糸、布地用繊維、酸化PAN繊維等、多種多様な製品の製造に使用される多用途ポリマーである。PANは、スチレン-アクリロニトリル(SAN)やアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)プラスチック等、いくつかの重要なコポリマーの構成要素の繰り返し単位である。
【0025】
本開示の剥離可能なコーティング組成物は、以下の特徴を包含する。
【0026】
【0027】
本発明の剥離可能なコーティング組成物は、必要に応じて、任意の可塑剤、粘着付与剤、保湿剤、充填剤、顔料、染料、安定剤、レオロジー調整剤、ポリビニルアルコール、防腐剤、例えば、酸化防止剤、殺生剤;及びそれらの混合物をさらに包含してもよい。これらの成分は、剥離可能なコーティング組成物の約0.05重量%~約15重量%の量で包含されることができる。
【0028】
有用なボンディング接着剤は、剥離コーティング組成物に接着できる任意の接着剤組成物から選択されてよい。ボンディング接着剤の種類の非限定的な例としては、アクリル系接着剤、エポキシ接着剤、ポリウレタン(PU)接着剤、シリコーン変性接着剤、シアノアクリレート接着剤、ホットメルト接着剤、PU/アクリル、エポキシ/アクリル、シリコーン/アクリル等のコポリマー接着剤及びこれらの接着剤の組み合わせが挙げられる。ボンディング接着剤の選択に関する制限は、ボンディング接着剤の硬化温度が、剥離可能なコーティングの剥離可能な温度よりも高くできないことである。より高い硬化温度が必要な場合は、より高温の剥離可能なコーティングを使用する必要がある(例えば、より高温で膨張する粒子を使用したコーティング)。
【0029】
剥離可能なコーティング組成物は、
図3に示すようなボンディング接着用途に使用してよい。
図3は、基材12及び16が互いに接合された剥離可能な構造10を示す。剥離可能なコーティング組成物14及び18は、図に示されているように、嵌合する基材の対向する表面にプレコーティングとして塗布され、硬化された後、ボンディング接着剤20が塗布され、さらに硬化されて、基材のボンディングが完了する。剥離コーティング組成物は、必要に応じて、嵌合する基材の一方にのみ塗布されてもよい。剥離可能なコーティング14及び18は、本明細書で前述したように、エポキシ、シリコーン、ポリウレタン及びシリコーン変性ポリマー、並びにコポリマー及びこれらのポリマーの組み合わせから選択されてよい。剥離性コーティングは、各基材表面上で同じ組成物であってもよく、又は剥離性コーティング組成物は、一方の表面と反対側の表面とで異なっていてもよく、これにより、一方の基材表面での剥離を、反対側の表面とは異なる条件、すなわち異なる温度で行うことが可能である。約70℃~約250℃の温度で熱を加えると、剥離用接着剤が膨張し、基材から剥離が生じる。上述したように、剥離コーティング組成物は、エポキシ、シリコーン、ポリウレタン及びシリコーン変性ポリマー、ならびにコポリマー及びこれらのポリマーの組み合わせから選択されてよい。
【0030】
また、本明細書に記載されるように、ボンディング接着剤20は、剥離コーティングにボンディングすることができ、アクリル系接着剤、エポキシ接着剤、ポリウレタン(PU)接着剤、シリコーン変性接着剤、シアノアクリレート接着剤、ホットメルト接着剤、PU/アクリル、エポキシ/アクリル、シリコーン/アクリル等のコポリマー接着剤及びこれらの接着剤の組み合わせを包含する任意の接着剤組成物から選択されてよい。接着剤は、剥離可能なコーティングの剥離温度を超える硬化温度を必要とする接着剤であってはならない。理想的には、ユーザーが予期しない接着不良に遭遇しないように、使用温度範囲での剥離コーティングの強度は、ボンディング接着強度よりも高くなければならない。
【0031】
図4は、基材46上に剥離可能なコーティング42を有し、剥離可能なコーティング42上にポッティング接着剤44を有する剥離可能なポッティング構造40の断面を示す。本明細書に記載の任意の剥離コーティング組成物を、ポッティング接着剤として本明細書に記載の任意の接着剤と組み合わせて使用してもよい。
【0032】
図5は、基材56上に剥離可能なコーティング54を有し、剥離可能なコーティング54上にボンディング接着剤52を有する剥離可能なコーティング構造50の断面を示す。ボンディング接着剤52は、周囲環境からの保護を必要とする電子部品又は他の敏感な部品等の基材56を全体的に保護するように機能する。本明細書に列挙される任意の剥離コーティング組成物は、ボンディング保護接着剤として本明細書に列挙される任意のボンディング接着剤と組み合わせて使用されてよい。
【0033】
剥離コーティングの厚さは、基材及び選択した用途に応じて異なり、約1ミル(0.00254cm)~約20ミル(0.0508cm)、又は約2ミル(0.00508cm)~約10ミル(0.0254cm)、又は約3ミル(0.00762cm)~約5ミル(0.0127cm)の範囲であってよい。
【実施例】
【0034】
実施例1
20重量%のポリマーミクロスフェア(エクスパンセル(登録商標)031DU40として市販されている)を、室温で硬化するように設計された急速硬化工業用グレードのエポキシ樹脂である、市販のエポキシ組成物ロックタイトE-120Hに混合することによって、本発明の剥離コーティング組成物を配合した。このエポキシは、プラスチック、金属、ガラス、木材、及びセラミック基材を包含する様々な基材のボンディング、ポッティング、又はカプセル化に特に使用される。本発明の剥離コーティング組成物を、アルミニウムラップせん断(1”×1/2”)に塗布した。いくつかのラップせん断ペアは、嵌合するラップせん断の両方にコーティングを有し、他のラップせん断ペアは、嵌合するラップせん断の片方のみに剥離コーティングを有する。剥離コーティング組成物を室温で硬化させた。
【0035】
剥離コーティングの硬化に続いて、本明細書では「ボンディング接着剤」とも呼ばれる、市販のシリコーン接着剤組成物(ロックタイトSI5600)を剥離コーティング上に塗布し、ラップせん断を嵌合して硬化させた。シリコーン接着剤が完全に硬化したら、いくつかのラップせん断を室温で引っ張り、他のラップせん断を比較的穏やかな温度(150℃で30分間)で加熱した後に引っ張り、引張強度をポンド/平方インチ(psi)で記録した。
図1は、ラップせん断の初期の室温(RT)強度と、150℃での短い暴露時間(30分)後の剥離強度を示している(片面剥離コーティングと両面剥離コーティングの両方)。
図1に示すように、270psiの初期接着強度は、通常のRT条件下でシリコーン接着剤から予想される範囲内にあるため、シリコーン接着強度は剥離コーティングの存在による影響を受けなかった。しかしながら、剥離コーティングを150℃の温度に30分間さらすと、片面のみに剥離コーティングを有するラップせん断強度(68.2psi)は、初期のRTラップせん断強度(270psi)よりも大幅に低い(75%低い)ことを示し、これは、剥離コーティングにより、比較的穏やかな熱処理を適用するだけで、ボンディング接着剤(シリコーン)本来の接着強度を損なうことなく、実質的に少ない力(力の約25%)で接着部品を分離できることを示している。ラップせん断の両方の嵌合面が剥離コーティングでコーティングされている場合、剥離強度(11.4psi)は実際のRT強度(270°)よりさらに低下した(約95%低い)。さらに、ラップせん断の加熱と試験の後、剥離コーティングは表面から簡単に除去され、シリコーン接着剤も一緒に取り除かれた。したがって、ラップシェア試験では、コーティングの剥離により部品が容易に分離できるだけでなく、基材表面を破壊することなく表面から剥離コーティングとシリコーン接着剤を簡単に除去できるため、基材が再生利用可能(再利用可能)であることが実証された。
【0036】
実施例2
20重量%のポリマーミクロスフェア(エクスパンセル(登録商標)031DU40として市販されている)を、室温で硬化するように設計された急速硬化工業用グレードのエポキシ樹脂である、市販のエポキシ組成物ロックタイトE-90-Fに混合することによって、本発明の剥離コーティング組成物を配合した。本発明の剥離コーティング組成物を、ボンディング接着剤(シリコーン)を塗布する前にプレコーティングとしてラップシャーに塗布し、硬化させた。いくつかのラップせん断は、嵌合するラップせん断の一方のみに剥離コーティングを施し、他のラップせん断は、ラップせん断の両方の嵌合面に剥離コーティングを施した。
【0037】
剥離コーティングの硬化に続いて、市販のシリコーン接着剤組成物(ロックタイトSI5600)を剥離コーティング上に塗布し、硬化させた。ラップせん断は室温と比較的穏やかな加熱下(150℃で30分間)の両方で引っ張られ、強度をポンド/平方インチ(psi)で記録した。
図2は、片面及び両面剥離コーティングのラップシャーの初期室温(RT)強度と、短い暴露時間(150℃で30分)後の剥離強度を示している。
図2に示すように、252psiの初期強度は通常のRT条件下でシリコーン接着剤から予想される範囲内であるため、シリコーン接着強度は剥離コーティングの存在による影響を受けなかった。しかしながら、剥離コーティングを150℃の温度に30分間さらすと、片面のみに剥離コーティングを有するラップせん断強度は11.6psiであり、初期のRTラップせん断強度252psiよりも大幅に低い(約96%低い)ことを示し、これは、剥離コーティングにより、比較的穏やかな熱処理を適用するだけで、ボンディング接着剤(シリコーン)の初期の接着強度を損なうことなく、実質的に少ない力で接着部品を分離できることを示している。ラップせん断の両方の嵌合面が剥離コーティングでコーティングされている場合、剥離強度は測定できないほど低く、力をほとんど又は全く必要とせずにラップせん断は簡単に分離された。さらに、ラップせん断の加熱及び試験の後、剥離コーティングは表面から簡単に除去され、シリコーン接着剤も一緒に取り除かれた。したがって、ラップせん断試験では、剥離コーティングにより部品を簡単に分離できるだけでなく、基材表面を破壊することなく表面から剥離コーティングを簡単に除去できるため、基材を再生利用可能(再利用可能)にすることが実証された。
【国際調査報告】