(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-19
(54)【発明の名称】エピタキシャルウェハを形成するための方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240412BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20240412BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
C30B29/06 504E
C30B29/06 502H
C23C16/24
H01L21/205
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567898
(86)(22)【出願日】2022-04-27
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 EP2022061258
(87)【国際公開番号】W WO2022233682
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518112516
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GlobalWafers Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【氏名又は名称】中野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100224627
【氏名又は名称】井上 稔
(72)【発明者】
【氏名】ポッリーニ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルコッツェーナ,ピエトロ
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AA03
4G077AB01
4G077BA04
4G077CF10
4G077DB01
4G077EA02
4G077EB05
4G077EB06
4G077ED06
4G077FG13
4G077GA01
4G077HA12
4G077PB05
4G077TA04
4K030AA03
4K030AA06
4K030AA20
4K030BA29
4K030BB02
4K030CA04
4K030CA12
4K030FA10
4K030JA01
4K030JA09
4K030JA10
4K030LA15
5F045AA04
5F045AA06
5F045AA08
5F045AC01
5F045AC03
5F045AC05
5F045AC08
5F045AD09
5F045AD10
5F045AE15
5F045AE17
5F045DA59
(57)【要約】
エピタキシャルウェハを用意するための方法を開示する。当該方法は、(i)成長速度vおよび/または(ii)軸方向温度勾配Gを、インゴットセグメントの成長中に、v/Gが臨界v/G未満となるように制御することを含む。エピタキシャル層は、シリコンインゴットから切り分けられた基板上に堆積される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板および前記基板上に配置されたエピタキシャル層を備えるエピタキシャルウェハを形成するための方法であって、前記方法は、
多結晶シリコンの初期チャージをるつぼに添加し、
多結晶シリコンの前記初期チャージを含む前記るつぼを加熱して、前記るつぼ内にシリコン融液を形成させ、
前記るつぼにホウ素を添加してドープシリコン融液を製造し、
シリコンシード結晶を前記ドープシリコン融液に接触させ、
前記シリコンシード結晶を引き抜いて、単結晶シリコンインゴットを成長させ、ここで、前記インゴットは、一定直径部を有し、前記インゴットの前記一定直径部は、少なくとも約2.8×10
18atoms/cm
3のホウ素濃度を有しており、
前記インゴットの前記一定直径部のセグメントの成長中に、(i)成長速度v、および/または(ii)軸方向温度勾配Gを、v/Gが臨界v/G未満となるように、制御し、
前記単結晶シリコンインゴットから複数のシリコン基板を切り分け、
前記複数のシリコン基板の1つの表面に、シリコン含有ガスを接触させて、前記シリコン含有ガスが分解して前記シリコン基板上にエピタキシャルシリコン層を形成する
ことを含む、方法。
【請求項2】
前記臨界v/Gは、前記シリコンインゴットの前記ホウ素濃度によって変化する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記臨界v/Gは、前記単結晶シリコンインゴットの目標ホウ素濃度に基づいて決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記単結晶シリコンインゴットは、12nppma未満の酸素濃度を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記一定直径部は、長さDを有しており、前記セグメントの長さは、少なくとも0.5*Dである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記一定直径部は、長さDを有しており、前記セグメントの長さは、少なくとも0.9*Dである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記セグメントの長さは、前記インゴットの前記一定直径部全体である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記融液は、炭素でドープされていない、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記複数のシリコン基板のそれぞれは、表面、裏面、および前記表面および前記裏面の間に略等距離の中心面を有し、
前記複数のシリコン基板のそれぞれは、
前記表面と距離D1との間の前記ウェハの領域を有し、前記距離D1は、前記表面から前記中心面に向かって計測され、少なくとも約15μmである、表面層と、
前記表面層から前記裏面に向かって延びたバルク層と
を備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
約700度を超える温度で酸素析出熱処理を施されると、前記シリコン基板は、前記表面層にデヌードゾーンを有し、前記表面層は、約1×10
6個/cm
3未満の酸素析出物を有し、前記バルク層は、約1×10
6個/cm
3を超える酸素析出物を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記バルク層は、約1×10
8個/cm
3を超える酸素析出物を有する、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記表面層は、12nppma未満の格子間酸素濃度を有する、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記表面層は、前記表面と距離D1との間の前記ウェハの領域を有し、前記距離D1は、前記表面から前記中心面に向かって計測され、少なくとも約20μm、少なくとも30μm、少なくとも40μm、または少なくとも50μm、約15μmから約100μm、約20μmから約100μm、約30μmから約100μmである、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年5月5日に出願された米国仮特許出願第63/184424号に基づく優先権を主張する。なお、優先権の基礎とした出願は、全体として参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
本開示の分野は、エピタキシャルウェハを形成するための方法に関し、特に、エピタキシャル層と基板との間の界面より下の基板に比較的厚いデヌードゾーン(無欠陥層)を有するエピタキシャルウェハを形成することを含む方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エピタキシャルウェハは、基板の表面上に堆積されたエピタキシャル層を有する単結晶シリコン基板を含む。エピタキシャルウェハは、マイクロエレクトロニクス(集積回路または電力用途)または光起電力用途に適した電子デバイスを形成するために使用されることがある。
【0004】
エピタキシャルウェハは、性能を低下させる表面欠陥を有することがある。高濃度にドープされたエピタキシャルウェハ(例えばp/p+)は、高濃度にドープされたシリコンへの金属溶解度の向上と、高濃度のホウ素により促進される内部ゲッタリングとにより、ラッチアップに対する良好な保護、良好なスリップ抵抗、および良好なゲッタリング特性を提供する。高濃度にドープされたホウ素基板は、高密度の酸素析出物(BMD)の形成が生じやすい。酸素析出物は、絶縁のために深いトレンチを使用するパワー半導体デバイスなどで、転位およびスリップを悪化させる。
【0005】
後続の高温アニール中にエピタキシャル層の下方に比較的厚いデヌードゾーンを形成する、高濃度にドープされたエピタキシャルウェハに対するニーズが存在する。
【0006】
本セクションは、以下に説明および/またはクレームされる本開示の様々な態様に関連し得る技術の様々な態様を読者に紹介することを意図している。本議論は、本開示の様々な態様をより理解するための背景情報を読者に提供する上で有用であると考えられる。したがって、これらの記述は、この観点で読まれるべきであり、先行技術を認めるものではないことを理解されたい。
【発明の概要】
【0007】
本開示の一態様は、基板および基板上に配置されたエピタキシャル層を備えるエピタキシャルウェハを形成するための方法に関する。多結晶シリコンの初期チャージがるつぼに添加される。多結晶シリコンの初期チャージを含むるつぼが加熱され、るつぼ内にシリコン融液を形成させる。るつぼにホウ素が添加され、ドープシリコン融液を製造する。シリコンシード結晶がドープシリコン融液に接触される。シリコンシード結晶が引き抜かれて、単結晶シリコンインゴットを成長させる。インゴットは、一定直径部を有する。インゴットの一定直径部は、少なくとも約2.8×1018atoms/cm3のホウ素濃度を有する。インゴットの一定直径部のセグメントの成長中に、成長速度v、および/または軸方向温度勾配Gが、v/Gが臨界v/G未満となるように制御される。単結晶シリコンインゴットから複数のシリコン基板が切り分けられる。複数のシリコン基板の1つの表面が、シリコン含有ガスに接触される。シリコン含有ガスが分解して、シリコン基板上にエピタキシャルシリコン層を形成する。
【0008】
本開示の上述した態様に関連して記載された特徴には、様々な改良が存在する。同様に、更なる特徴が、本開示の上述した態様に組み込まれてもよい。これらの改良および追加の特徴は、個別に存在してもよく、任意の組み合わせで存在してもよい。例えば、本開示の図示された実施形態のいずれかに関連して後述される様々な特徴は、本開示の上述した態様のいずれかに、単独または任意の組み合わせで、組み込まれてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、シリコンインゴット成長前のインゴット引き上げ装置の断面図である。
【
図2】
図2は、シリコンインゴット成長中の
図1に示すインゴット引き上げ装置の断面図である。
【
図3】
図3は、3つのホウ素ドープレベル((a)から(c)へ増加)での、空孔リッチ領域および格子間原子リッチ領域の軸方向の傾向を示す単結晶シリコンインゴットの模式的な断面視である。
【
図4】
図4は、シリコンインゴットから切り分けられたシリコン基板の断面図である。
【
図5】
図5は、表面に形成されたデヌードゾーンを有するシリコン基板の断面図である。
【
図6】
図6は、表面に形成されたデヌードゾーンを有するエピタキシャルシリコンウェハの断面図である。
【
図7】
図7は、Δ(すなわち、v/G-(v/G)
crit)の関数としてのデヌードゾーン厚さを示すグラフであり、黒シンボルは、20mΩ*cmを超える抵抗率を有し、開シンボルは、20mΩ*cm未満の抵抗率を有する。
【0010】
図面を通して、対応する参照符号は、対応する部品を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の提供は、エピタキシャル層の下方に配置された比較的深いデヌードゾーンを有する高濃度にドープされたエピタキシャルウェハを形成するための方法に関する。本開示の実施形態によれば、成長速度(v)と軸方向温度勾配(G)の比(v/G)は、単結晶シリコンインゴットの一定直径部のセグメントまたは全体の成長中に、基板の所定のホウ素濃度に対して臨界v/G未満となるように制御されてもよい。エピタキシャル層は、そのようなインゴットから切り分けられた基板上に堆積され、結果として生じた高濃度にドープされたエピタキシャルウェハは、デバイス製造中など後続の高温アニール中に比較的厚いデヌードゾーンを形成することができる。
【0012】
本開示の方法は、一般に単結晶シリコンインゴットを引き上げるように構成された任意のインゴット引き上げ装置により実行され得る。インゴット引き上げ装置(より単純に「インゴットプラー」)の一例は、
図1において全体として「100」で示される。インゴット引き上げ装置100は、サセプタ106により支持され、シリコンなどの半導体またはソーラーグレード材料の融液104を保持するためのるつぼ102を含む。インゴット引き上げ装置100は、引き上げ軸Aに沿って融液104からシリコンインゴット113(
図2)を引き上げるための成長チャンバ152を画定する結晶引き上げハウジング108を含む。
【0013】
るつぼ102は、フロア129と、フロア129から上方に延びた側壁131とを含む。側壁131は、概ね垂直である。フロア129は、側壁131の下方に延びたるつぼ102の湾曲部分を含む。るつぼ102内には、融液表面111(すなわち、融液-インゴット界面)を有するシリコン融液が存在する。
【0014】
いくつかの実施形態では、るつぼ102は、層状である。例えば、るつぼ102は、石英ベース層と、石英ベース層上に配置された合成石英層とで作製されてもよい。
【0015】
サセプタ106は、シャフト105により支持されている。サセプタ106、るつぼ102、シャフト105、およびインゴット113(
図2)は、共通の長手方向軸Aまたは「引き上げ軸」Aを有する。
【0016】
引き上げ機構114が、インゴット113を成長させ、融液114から引き上げるためにインゴット引き上げ装置100内に設けられている。引き上げ機構114は、引き上げケーブル118と、引き上げケーブル118の一端に結合したシードホルダまたはチャック120と、結晶成長を始めるためにシードホルダまたはチャック120に結合されたシリコンシード結晶122とを含む。引き上げケーブル118の一端は、プーリ(図示せず)もしくはドラム(図示せず)、または任意の他の適切な種類の昇降機構、例えば、シャフトに接続されており、他端は、シード結晶を保持するチャック120に接続されている。動作中、シード結晶は、下降して、融液114に接触する。引き上げ機構114は、シード結晶122が上昇するように動作される。これにより、単結晶インゴット113(
図2)が融液104から引き抜かれる。
【0017】
加熱および結晶の引き上げ中、るつぼ駆動ユニット107(例えば、モータ)は、るつぼ102およびサセプタ106を回転させる。昇降機構112は、成長プロセス中に引き上げ軸Aに沿ってるつぼ102を上昇および下降させる。例えば、
図1に示すように、るつぼ102は、最下位置(底部ヒータ126の近く)にあってもよく、最下位置では、予めるつぼ102に添加された固相多結晶シリコンの初期チャージが溶融する。結晶成長は、融液104がシード結晶122に接触し、引き上げ機構114によりシード結晶122が上昇することにより開始する。インゴットが成長すると、シリコン融液104は、消費され、るつぼ102中の融液の高さは減少する。るつぼ102およびサセプタ106は、融液表面111をインゴット引き上げ装置100(
図2)に対して同じ位置にまたはその近くに維持するように上昇されてもよい。
【0018】
結晶駆動ユニット(図示せず)は、るつぼ駆動ユニット107がるつぼ102を回転させる方向と反対の方向に引き上げケーブル118およびインゴット113(
図2)を回転させてもよい(例えば、逆回転)。等回転を使用する実施形態では、結晶駆動ユニットは、るつぼ駆動ユニット107がるつぼ102を回転させる方向と同じ方向に引き上げケーブル118を回転させてもよい。また、結晶駆動ユニットは、成長プロセス中に、所望に応じて、インゴット113を融液表面111に対して上昇および下降させる。
【0019】
インゴット引き上げ装置100は、アルゴンなどの不活性ガスを成長チャンバ152に導入し、成長チャンバ152から引き抜くための不活性ガスシステムを含んでもよい。インゴット引き上げ装置100は、ドーパントを融液104内に導入するためのドーパント供給システム(図示せず)を含んでもよい。
【0020】
チョクラルスキー単結晶成長プロセスによれば、多量の多結晶シリコン、すなわちポリシリコンがるつぼ102にチャージされる。るつぼ内に導入された初期半導体またはソーラーグレード材料は、1または複数の加熱要素から提供された熱により融解し、るつぼ内にシリコン融液を形成する。インゴット引き上げ装置100は、引き上げ装置内の熱を保持するための底部断熱材110および側部断熱材124を含む。図示された実施形態では、インゴット引き上げ装置100は、るつぼフロア129の下方に配置された底部ヒータ126を含む。るつぼ102は、底部ヒータ126に近接して、比較的近くに位置するように移動して、るつぼ102にチャージされた多結晶シリコンを融解してもよい。
【0021】
インゴットを形成するために、シード結晶122は、融液104の表面111と接触される。引き上げ機構114は、シード結晶122を融液104から引き上げるように動作される。
図2を参照すると、インゴット113は、クラウン部142を含み、クラウン部142では、インゴットがシード結晶122から外側に移行してテーパし、目標直径に到達する。インゴット113は、引き上げ速度を上昇することにより成長する結晶の一定直径部145または円筒状の「本体」を含む。インゴット113の本体145は、比較的一定の直径を有する。インゴット113は、インゴットは本体145の後で直径がテーパするテールまたはエンドコーン(図示せず)を含む。直径が十分に小さくなったとき、インゴット113は、融液104から分離される。
【0022】
インゴット引き上げ装置100は、側部ヒータ135と、結晶成長中に融液104の温度を維持するためにるつぼ102を取り囲むサセプタ106とを含む。側部ヒータ135は、るつぼ102が引き上げ軸Aを上下に移動するときに、るつぼ側壁131の径方向外側に配置されている。側部ヒータ135と底部ヒータ126とは、側部ヒータ135と底部ヒータ126とが本明細書で説明されたように動作することを可能にする任意の種類のヒータであってもよい。いくつかの実施形態では、ヒータ135,126は、抵抗ヒータである。側部ヒータ135と底部ヒータ126は、融液104の温度が成長プロセスを通して制御されるように、制御システム(図示せず)により制御されてもよい。
【0023】
インゴット引き上げ装置100は、熱シールド151を含んでもよい。熱シールド151は、インゴット113を覆ってもよく、結晶成長中にるつぼ内に配置されてもよい(
図2)。
【0024】
いくつかの実施形態では、本明細書で説明した方法により製造されたシリコン基板は、ホウ素でドープされている(例えば、比較的高濃度にドープされている)。例えば、シリコン融液は、少なくとも2.8×1018atoms/cm3のホウ素濃度を有するドープされたシリコンインゴット(または少なくともそのセグメント)を製造するためにホウ素でドープされてもよい。少なくとも3.8×1018atoms/cm3の濃度で融液にホウ素をドープすることにより、シード端で少なくとも2.8×1018atoms/cm3の濃度を有するインゴットを得ることができる。結果として生じたインゴット(および切り分けられたウェハ)は、少なくとも2.8×1018atoms/cm3のホウ素濃度を有することができる。いくつかの実施形態では、融液は、炭素でドープされていない(いくつかの実施形態では、ホウ素以外のドーパントは使用されていない)。いくつかの実施形態では、インゴットは、12nppma未満の酸素濃度を有する。
【0025】
本開示の実施形態によれば、(i)成長速度v、および/または(ii)軸方向温度勾配Gは、v/Gがv/Gの臨界値未満となるように、少なくともインゴットの軸方向セグメントの成長中に制御される。別の言い方をすると、成長速度vおよび/または(ii)軸方向温度勾配G、v/Gは、以下に規定するΔが負になるように制御される。
Δ=(v/G)-(v/G)crit (1)
さらに別の言い方をすると、成長速度v、および/または(ii)軸方向温度勾配Gは、以下に規定するv/Gと臨界v/Gとの比(R)が1未満となるように、制御される。
R=(v/G)/(v/G)crit (2)
【0026】
シリコン成長中にv/Gの比を制御することにより、支配的な欠陥の種類が制御され得る。v/Gが高い場合、点欠陥の対流が拡散に対して優位であり、界面での空孔濃度が格子間物質濃度よりも高いため、空孔は支配的な点欠陥のままである。v/Gが低い場合、拡散が対流に対して優位であり、拡散の速い格子間物質を支配的な点欠陥として取り込むことができる。v/Gが臨界値に近い場合(すなわち空孔が支配的な材料と格子間物質が支配的な材料との間の遷移)、点欠陥の両方が非常に低く、同等の濃度で取り込まれる。
【0027】
本開示の実施形態によれば、(i)成長速度v、および/または(ii)軸方向温度勾配Gは、インゴット中の空孔濃度を低減または除去するために、比v/Gが(例えば半径全体にわたって)v/Gの臨界値を下回るように、インゴットの一定直径部の軸方向セグメントの成長中に制御されてもよい。v/Gは一般にインゴットの中心で最も高いため、いくつかの実施形態では、インゴットの半径全体がv/Gの臨界値を下回るように、中心でのv/Gがv/Gの臨界値を下回るように制御される(例えば計算される)。
【0028】
臨界v/Gは、一般に、ドープされたホウ素の量に基づいて変化する(例えば、全ての関連する一貫した目的のために本明細書に参照により組み込まれるDornberger et al.,「Influence of Boron Concentration on the Oxidation-induced Stacking Fault Ring in Czochralski Silicon Crystals」,Journal of Crystal Growth,180,pp. 343-352 (1997)を参照)。ホウ素は、平衡を格子間物質のレジームに移行させる。ホウ素濃度が高くなると(すなわち抵抗率が低下すると)、空孔が支配的な領域が縮小し、結晶中心で完全に消滅する(
図3B-3C)。これに関して、臨界v/Gは、単結晶シリコンインゴットの目標ホウ素濃度に基づいて、所定のホウ素濃度に対する臨界v/Gの文献値(例えば、Dornberger et al.を参照して)と比較して、および/または以下の等式に従って決定されてもよい。
(v/G)
crit=1.34×10
-3+1.2×10
-22*C
B (cm
2/min*K) (3)
ここで、C
Bはホウ素濃度である。
【0029】
上述したように、v/Gは、インゴットの少なくとも1つのセグメント(例えば軸方向セグメント)に対して格子間物質が支配的な固有点欠陥となるように、制御されてもよい。インゴットのこのセグメントは、インゴットの一定直径部の長さ(D)の少なくとも0.5倍(0.5*D)である長さを有してもよい。他の実施形態では、セグメントの長さは、少なくとも0.75*Dまたは少なくとも0.9*Dである。いくつかの実施形態では、セグメントは、インゴットの一定直径部全体である。
【0030】
インゴットが成長すると、インゴットは、複数のシリコン基板(すなわち、ウェハ)に切り分けられる。
図4を参照すると、各シリコン基板1は、表面3と、裏面5と、表面と裏面との間の仮想的な中心面7と、表面と裏面との間のウェハ体積を有するウェハバルク9とを有する。
【0031】
結果として生じた基板1は、インゴット冷却中に形成される成長した酸素析出核の分布を有する。一般に、p+インゴットでは、成長した析出物の密度は、比較的均一である。その後の熱処理中、これらの成長した析出物は、成長または分解することがある。これらの析出物の安定性は、固有点欠陥の分布と濃度に影響される。特定の理論に束縛されることなく、空孔は、(応力緩和により)酸素析出物の安定化および成長を促し、酸素析出物が分解することをより難しくし、これによりデヌードゾーンの深さを低減する。v/Gが臨界値を僅かに上回ったとき、残留空孔濃度が高くなり(初期濃度が低いためボイドによって効果的に消費されない空孔が成長する)、酸素核がより安定化する。インゴット成長パラメータは、表面に地下領域でのデヌードゾーンの形成およびウェハバルクでの酸素析出物の形成に適した残留欠陥点分布を形成するように制御されてもよい。このような基板は、内部ゲッタリングが可能である一方で、深いデヌードゾーンを有し、これにより、その後のデバイス製造中(例えば、深いトレンチの製造時)での転位およびスリップを低減または除去することができる。
【0032】
例えば、
図5を参照すると、(例えば1150℃を上回る)比較的高温のステップを含む後続の熱処理(例えば典型的な顧客熱処理)の後、結果として生じたウェハでの酸素析出物の深さ分布は、表面3および裏面5からそれぞれ深さt,t’まで延びた酸素析出物を含まない材料の明確な領域(析出物のないゾーンまたは「デヌードゾーン))13,13’により特徴付けられる。別の言い方をすると、デヌードゾーンは、表面3と距離D1との間のウェハ1の領域を有する表面層13であり、距離D1は、表面3から中心面7に向かって計測される。これらの酸素析出物のない領域13,13’の間に、実質的に均一な酸素析出物の密度を含む析出物ゾーン15がある。一般に、析出物の密度は、約1×10
8より大きく、約1×10
11個/cm
3未満であり、1cm
3当たり約5×10
9または5×10
10の析出物の密度がいくつかの実施形態では典型的である。
【0033】
表面および裏面のそれぞれからの酸素析出物のない材料(すなわちデヌードゾーン13,13’)の距離t,t’(本明細書では距離D1として参照される場合がある)は、部分的に、酸素濃度、抵抗率(例えば、ドーパント濃度)、他のインゴット成長条件(例えば残留点欠陥濃度)、および熱処理温度の関数である。いくつかの実施形態では、深さt,t’(すなわちデヌードゾーン深さD1)は、少なくとも15μm、または他の実施形態と同様に、少なくとも約20μm、少なくとも30μm、少なくとも約40μm、または少なくとも50μm(例えば、約15μmから約100μm、約20μmから約100μm、約30μmから約100μm)である。
【0034】
これに関して、一般的にデヌードゾーンは、(i)現在の検出限界(現在、約106個の酸素析出物/cm3)を超える酸素析出物が存在せず、(ii)酸素析出熱処理を受けると酸素析出物に変換される酸素析出物中心が低濃度、好ましくは実質的に存在しないウェハの表面の近くの領域を占めるゾーンであることに留意されたい。酸素析出物核中心の存在(または密度)は、現在利用可能な技術を用いて直接的に測定することができない。しかしながら、シリコンに酸素析出熱処理を施すことにより、酸素析出物核中心が安定化され、酸素析出物がこれらの場所で成長している場合には、間接的に測定することができる。約700℃を超える温度で酸素析出熱処理が施されると、デヌードゾーンが約1×106cm-3未満の酸素析出物密度を有する一方で、バルク層は、約1×106cm-3を超える酸素析出物密度を有する。いくつかの実施形態では、800℃の温度で4時間、その後1000℃の温度で16時間アニールされると、デヌードゾーンは、約106個/cm3未満の酸素析出物を有する。
【0035】
ウェハがインゴットから切り分けられ、処理されると(例えば、平滑化および/または表面粗さを低減する様々なステップ)、分解して基板1上にエピタキシャル層25を形成するシリコン含有ガスに表面3を接触させることにより、エピタキシャル層25(
図6)を、基板1の表面3(
図5)上に配置することができる。一般的に、シリコン基板上にシリコンエピタキシャル層を堆積するための当業者に利用可能な任意の方法は、別段の記載がない限り、使用可能である。シリコンは、デバイスの用途に応じて、エピタキシにより任意の適切な厚さに堆積されてもよい。例えば、シリコンは、金属有機化学気相堆積(MOCVD)、物理気相堆積(PVD)、化学気相堆積(CVD)、低圧化学気相堆積(LPCVD)、プラズマ加速化学気相堆積(PECVD)、または分子ビームエピタキシ(MBE)を用いて、堆積されてもよい。LPCVDまたはPECVD用のシリコンの前身(すなわちシリコン含有ガス)は、メチルシラン、四水素化ケイ素(シラン)、トリシラン、ジシラン、ペンタシラン、ネオペンタシラン、テトラシラン、ジクロロシラン(SiH
2Cl
2)、トリクロロシラン(SiHCl
3)、四塩化ケイ素(SiCl
4)等を含む。例えば、約550℃から約690℃の間、例えば約580℃から約650℃の間の温度範囲でシラン(SiH
4)を熱分解することにより、シリコンを表面上に堆積させることができる。チャンバ圧力は、約70から約400mTorrの範囲であってもよい。
【0036】
ホウ素含有ガスがエピタキシャルリアクタ内に導入され、エピタキシャル層にホウ素をドープしてもよい。例えば、B2H6は、堆積ガスに添加されてもよい。所望の特性(例えば抵抗率)を得るために使用される雰囲気中のB2H6のモル分率は、エピタキシャル堆積中の特定の基板からのホウ素の外方拡散量、汚染物質としてリアクタおよび基板に存在するp型ドーパントおよびn型ドーパントの量、リアクタの圧力および温度などのいくつかの要因に依存する。いくつかの実施形態では、結果として生じたエピタキシャル構造(すなわち、基板およびエピタキシャル層)は、p/p+エピタキシャルウェハ(例えば、2×1016atoms/cm3のホウ素濃度を有するエピタキシャル層)を達成するために十分な濃度で、ホウ素がドープされる。
【0037】
結果として生じたエピタキシャルウェハ20(
図6)は、エピタキシャル層の下方(すなわち基板とエピタキシャル層との間の界面の下方)に、中心面に向かって延びた比較的厚いデヌードゾーン13を有する(例えば、少なくとも約15μmの厚さ、少なくとも約20μmの厚さ、少なくとも約30μmの厚さ、少なくとも約40μmの厚さ、または少なくとも約50μmの厚さ)。
【0038】
エピタキシャルウェハを形成するための他の方法と比較すると、本開示の方法は、いくつかの利点を有する。基板にホウ素を高濃度にドープする(例えば、2.8×1018atoms/cm3以上のホウ素濃度)ことにより、格子間型転位ループの形成を抑制することが判明している。基板にホウ素を高濃度にドープすることにより、酸素析出が促進されることも判明している。比較的高濃度にドープされた基板において、v/Gを臨界値を下回るように維持することで、空孔が実質的に除去され、酸素析出熱処理(例えば、1150℃を上回る高温ステップ)後に形成されるデヌードゾーンの深さが増加することができる。そのようなデヌードゾーンは、比較的高い酸素濃度(例えば、最大12nppma)であっても形成され得る。
【0039】
(実施例)
本開示のプロセスは、以下の実施例によりさらに説明される。これらの実施例は、限定的な意味で捉えられるべきではない。
【0040】
実施例1:Δ(v/G-(v/G)
crit
)の関数としてのデヌードゾーン深さ
ホウ素をドープした単結晶シリコンインゴット試験結晶(200mm)を、
図1-2に示されたインゴットプラーに類似したインゴットプラーでチョクラルスキー法により成長させた。インゴットを、2.7×10
18atoms/cm
3から4.0×10
18atoms/cm
3の範囲(抵抗率は、それぞれ22.42mΩ*cmから17.2mΩ*cm)でドープした。単結晶シリコンインゴットの酸素濃度は、10.01から11.8nppmaであった。
【0041】
パラメータΔ(すなわち、(v/G)-(v/G)crit)の広範囲の値を探索するために、結晶を異なるプロセス条件下で成長させた。これは、同一のホットゾーンで引き上げ速度を変化させ、(軸方向温度勾配Gの異なる値を有する)異なるホットゾーンを選択することにより達成した。結晶を、ウェハに切り分け、研磨した。標準的な条件下で研磨されたウェハ上にエピタキシャル層を成長させた。その後、エピタキシャルウェハを、シリコン半導体装置製造の典型的な熱サイクル、特に1150℃での高温デヌーディングステップを含む熱サイクルを施した。熱サイクルの後、デヌードゾーン(DZ)を劈開エッチ法により評価した。
【0042】
測定結果を、パラメータΔの関数として、
図7に示す(黒色のシンボルは、20mΩ*cmより大きい抵抗率を有し、開シンボルは、20mΩ*cmより小さい抵抗率を有する)。20mΩ*cmより低い抵抗率を有するサンプル群(開シンボル)では、Δが負のとき、デヌードゾーンが最も厚くなった(28-40μm)。Δが正の場合、デヌードゾーンは、全体的に小さくなり、Δが0.02mm
2/K*min近傍のときに最小平均厚さ(10-12μm)に達した。特定の理論に拘束されることなく、このΔの値は、残留空孔濃度(格子間物質の消滅およびボイドによる消費の後)が最大となる条件を表していると考えられる。高い残留空孔濃度が酸素析出を促進し、これらの条件下で、デヌードゾーンがより形成され難くなると考えられる。Δが非常に小さいが正の場合(≒0.005-0.025mm
2/K*min)、デヌードゾーン厚さがより散らばり、大きなデヌードゾーンと狭いデヌードゾーンの両方を示した。デヌードゾーンの厚さについての最良条件と最悪条件との間の移行が起こる狭いΔ範囲に起因すると考えられる。データがばらつく要因は少なくとも3つある:(i)実際の引き上げ速度の小さな変動が、推定されたΔから僅かな偏差を与える可能性がある(さらに、推定されたΔは、インゴットごとに推定された平均Δであり、定時的な値ではない);(ii)温度勾配Gが、v/GおよびΔの値に影響を及ぼす精度を制限するいくつかの単純化を必要とするFEMシミュレーションによって計算される;(iii)酸素濃度は、10.01から11.8nppmaの比較的狭い範囲でさえ、強い影響を及ぼし、酸素が少ないウェハほど、より大きなデヌードゾーンを有する。デヌードゾーン幅を大きくする(かつ、ばらつきを小さくする)ために、臨界値0.02mm
2/K*minから比較的離れたパラメータΔの値を選択することができ、好ましくは、パラメータΔの負の値を選択する。
【0043】
20mΩ*cmより大きい抵抗率を有するサンプル群(黒丸)では、先のサンプル(20mΩ*cmを下回る抵抗率を有するもの)と比較して、酸素の析出が少なくなりやすい低いホウ素濃度のため、デヌードゾーン厚さが全体的に厚くなっている。このサンプル群は、パラメータΔの関数として同一の傾向を示す。この場合、パラメータΔが負またはゼロのとき、デヌードゾーンの最大厚さに達し、これは過度な空孔の取り込みがないことを示しており、Δの同一の臨界値である0.02mm2/K*minに対応して最小に達しており、これにより、第1サンプル群から導かれた結論が確認される(上述のばらつきの考察が適用可能)。
【0044】
様々なΔ(すなわち(v/G)-(v/G)crit)の範囲に対する平均デヌードゾーン厚さを、以下の表1に示す。
【0045】
【表1】
表1:20mΩ*cmを超える抵抗率を有するサンプル、および20mΩ・m未満の抵抗率を有するサンプルでの平均デヌードゾーン厚さ。
【0046】
比率(R)を考慮しても、同一の結論が導かれる。この場合、R<1のとき、結晶は、格子間物質リッチレジームで成長し、R>1のとき、結晶は空孔レジームで成長する。デヌードゾーン厚さにとっての最悪条件(最大残留空孔濃度)は、R≒1.13であった。
【0047】
本明細書で使用されるように、「約(about)」、「実質的に(substantially)」、「本質的に(essentially)」、および「約(approximately)」の用語は、寸法、密度、温度、または他の物理的または化学的な性質もしくは特徴の範囲と関連して使用されるとき、性質または特徴の範囲の上限および/または下限に存在し得る変動を包含することを意味する。当該変動は、例えば、丸め、測定方法、または他の統計的変動から生じる変動を含む。
【0048】
本開示または本開示の実施形態の要素を紹介するとき、冠詞「a」、「an」、「the」、および「said」は、要素が1以上存在することを意味することを意図している。用語「備える(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」、および「有する(having)」は、包括的であることを意図しており、列挙された要素以外の追加の要素が存在してもよいことを意味している。特定の向きを示す用語(例えば「上部(top)」、「底部(bottom)」、「側部(side)」)の使用は、説明の便宜上のものであり、説明された物品の特定の向きを必要とするものではない。
【0049】
本開示の範囲から逸脱することなく、上述の構造および方法において、様々な変更が可能であるため、上述の説明に含まれ、添付の図面に示される全ての事項は、限定的な意味ではなく例示として解釈されることが意図される。
【国際調査報告】