(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-19
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極添加剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240412BHJP
C01B 32/174 20170101ALI20240412BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C01B32/174
C01G49/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023569716
(86)(22)【出願日】2022-10-18
(85)【翻訳文提出日】2023-11-09
(86)【国際出願番号】 KR2022015836
(87)【国際公開番号】W WO2023068739
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】10-2021-0139619
(32)【優先日】2021-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0133499
(32)【優先日】2022-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ドンフン・ス
(72)【発明者】
【氏名】ソクヒョン・ユン
【テーマコード(参考)】
4G002
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G002AA06
4G002AB01
4G002AE05
4G146AA11
4G146AB06
4G146CB10
4G146CB35
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA09
5H050EA08
5H050EA12
5H050EA15
5H050EA23
5H050EA30
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、リチウム二次電池用正極添加剤の製造方法に関する。本発明によれば、高い初期不可逆容量を示し、かつ優れた空気安定性を有するリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ、水溶性高分子分散剤および鉄前駆体を混合および熱処理して鉄酸化物-炭素前駆体を形成する段階、
リチウム前駆体および前記鉄酸化物-炭素前駆体を混合および500℃以上で焼成してリチウム-鉄酸化物粒子を形成する段階、および
前記リチウム-鉄酸化物粒子およびリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの混合物を酸素含有気体雰囲気および300℃未満の温度下で熱処理して、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート含有層でコーティングされたリチウム-鉄酸化物を形成する段階を含む、リチウム二次電池用正極添加剤の製造方法。
【請求項2】
前記リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートは、前記リチウム-鉄酸化物粒子に対して5.0重量部~20.0重量部の含有量で混合する、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法。
【請求項3】
前記リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート含有層でコーティングされたリチウム-鉄酸化物を形成する段階は、前記混合物を空気雰囲気および260℃~295℃の温度下で熱処理して行われる、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法。
【請求項4】
前記リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート含有層でコーティングされたリチウム-鉄酸化物を形成する段階は、
前記リチウム-鉄酸化物粒子およびリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの混合物を不活性気体雰囲気および300℃未満の温度下で1次熱処理する工程、および
前記1次熱処理された結果物を酸素含有気体雰囲気および300℃未満の温度下で2次熱処理する工程を含んで行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性高分子分散剤は、ポリビニルピロリドン系高分子、ポリアクリル酸系高分子、ポリビニルアルコール系高分子およびヒドロキシアルキルセルロース系高分子からなる群より選択される1種以上の化合物を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性高分子分散剤は、前記鉄酸化物-炭素前駆体の総含有量に対して0.1重量部~2重量部の含有量で使用される、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブは、前記鉄酸化物-炭素前駆体の総含有量に対して1重量部~10重量部の含有量で使用される、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法。
【請求項8】
前記鉄前駆体は、Fe(III)の硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、ハロゲン化物、およびこれらの水和物からなる群より選択される1種以上の化合物を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法。
【請求項9】
前記鉄酸化物-炭素前駆体の形成段階は、
前記カーボンナノチューブが前記水溶性高分子分散剤の存在下で水溶媒に分散したカーボンナノチューブ分散液を形成する段階、
塩基の存在下で、前記カーボンナノチューブ分散液および鉄前駆体を混合する段階、
混合液内で、前記カーボンナノチューブ分散液および鉄前駆体を50℃~100℃の温度で反応させる段階、および
反応生成物溶液をろ過および乾燥し、200℃~300℃の温度で熱処理する段階を含んで行われる、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法。
【請求項10】
前記リチウム二次電池用正極添加剤は、
前記リチウム-鉄酸化物粒子、
前記リチウム-鉄酸化物粒子上に形成された炭素コーティング層、
前記炭素コーティング層上に形成されたカーボンナノチューブ含有層、および
前記カーボンナノチューブ含有層上に形成されたリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート含有層を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2021年10月19日付の韓国特許出願第10-2021-0139619号、および2022年10月17日付の韓国特許出願第10-2022-0133499号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、リチウム二次電池用正極添加剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電子機器の多機能化に伴う消費電力の増加につれ、リチウム二次電池の容量を増やし、その充放電効率を改善しようとする多くの試みが行われている。
【0004】
一例として、リチウム二次電池の正極にNi80%以上の正極活物質を正極材として適用し、負極にSiO、SiまたはSiCなどの金属または金属系の負極活物質を天然黒鉛または人造黒鉛などの炭素系負極活物質と共に適用する技術が提案されている。
【0005】
金属および金属酸化物系の負極活物質は、炭素系負極活物質より高容量の発現を可能にする。しかし、金属および金属酸化物系の負極活物質は、充放電時の体積変化が黒鉛に比べてかなり大きいので、負極内の金属および金属酸化物の含有量を15%以上に増加させることは難しい。また、金属および金属酸化物を負極内に追加する場合、初期充放電で不可逆的な反応が起こり、リチウムの損失が炭素系負極活物質を適用した場合に比べて大きい。したがって、金属および金属酸化物系の負極活物質を適用した場合、電池の容量が大きくなるほど損失するリチウムの量が増えることになり、これによる初期容量の減少幅も大きくなる。
【0006】
そこでリチウム二次電池の容量を増やすか、または不可逆容量を減らすための多様な方案が研究されてきた。その一つが初期状態でSEI層(solid electrolyte interphase layer)形成で消耗されるリチウムをバッテリ内で補充する概念の予備リチウム化(prelithiation)である。
【0007】
バッテリ内での予備リチウム化のための多様な方法が提案されてきた。
【0008】
一例としては、バッテリ駆動前に負極をあらかじめ電気化学的にリチウム化(lithiation)する方法が挙げられる。しかし、リチウム化された負極は大気中で非常に不安定であり、電気化学的リチウム化方法で工程をスケールアップ(scale-up)することは難しい。
【0009】
別の一例としては、負極にリチウム金属またはリチウムシリサイド(lithium silicide、LixSi)粉末をコーティングする方法が挙げられる。しかし、前記粉末は、反応性が高く大気安定性が低下するので、負極コーティング時の適した溶媒および工程条件を確立することが難しい問題がある。
【0010】
正極で予備リチウム化する方法としては、負極で消耗するリチウムの量だけの正極材をさらに多くコーティングする方法がある。しかし、正極材自体の低い容量によって追加される正極材の量が増加するので、増加する正極材の量だけ最終バッテリのエネルギー密度および重量当たりの容量を減らすことになる。
【0011】
したがって、正極でのバッテリの予備リチウム化に適した素材は、最初の充電時のリチウムが既存の正極材より少なくとも2倍以上多く脱離し、その後放電時にはリチウムと反応しない不可逆的な特性を持たなければならない。このような条件を満たす添加剤を犠牲正極材(sacrificial positive electrode material)という。
【0012】
商用バッテリの場合、積層された正極、分離膜、および負極を含むケースに電解質を注入した後、最初に充/放電動作を実行するフォーメーション(formation)工程を経る。この過程で負極上にSEI層形成反応が起こり、電解質の分解によってガスが発生する。前記フォーメーション工程で犠牲正極材はリチウムを出して分解されながら電解質と反応し、その過程で発生したN2、O2、CO2などのガスは、ガスポケット除去工程により回収される。
【0013】
前記犠牲正極材としては、リチウムが豊富な金属酸化物のリチウム過剰正極材(over-lithiated positive electrode material)が多く使用されている。前記リチウム過剰正極材としては、逆蛍石(anti-fluorite)構造であるLi6CoO4、Li5FeO4、およびLi6MnO4などがよく知られている。これらの理論容量は、Li6CoO4が977mAh/g、Li5FeO4が867mAh/g、およびLi6MnO4が1001mAh/gであって、犠牲正極材として使用するのに十分な容量を有している。その中でLi6CoO4の電気伝導度が最も優れており、犠牲正極材として使用するのに良好な電気化学的特性を有している。
【0014】
しかし、前記Li5FeO4の犠牲正極材は、空気安定性(air stability)が劣悪で、空気中に露出する場合、性能が急激に劣化し、電気伝導度が低く不可逆容量が十分でない短所がある。その結果、高容量のリチウム二次電池で大きな不可逆容量を補償するためには、相当量のLi5FeO4を付加しなければならない問題がある。これは、より低い重量およびより向上した容量特性のリチウム二次電池を提供しようとする最近の技術開発に対する阻害要因となっている。したがって、さらに大きな不可逆容量を有するLi5FeO4系犠牲正極材の開発が継続的に求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、高い初期不可逆容量を示し、かつ優れた空気安定性を有するリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、
カーボンナノチューブ、水溶性高分子分散剤および鉄(Fe)前駆体を混合および熱処理して鉄酸化物-炭素前駆体を形成する段階、
リチウム前駆体および前記鉄酸化物-炭素前駆体を混合および500℃以上で焼成してリチウム-鉄酸化物粒子を形成する段階、および
前記リチウム-鉄酸化物粒子およびリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの混合物を酸素含有気体雰囲気および300℃未満の温度下で熱処理して、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート含有層でコーティングされたリチウム-鉄酸化物を形成する段階を含む、リチウム二次電池用正極添加剤の製造方法が提供される。
【0017】
以下、本発明の実施形態による前記リチウム二次電池用正極添加剤の製造方法についてより詳しく説明する。
【0018】
本明細書および特許請求の範囲に使用された用語や単語は通常的や辞書的な意味に限られて解釈されてはならず、発明者は自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に基づいて、本発明の技術的思想に符合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0019】
本明細書で特に定義されない限り、すべての技術的用語および科学的用語は本発明が属する通常の技術者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本発明において説明に使用される用語は単に特定の具体例を効果的に記述したものであり、本発明を限定することを意図しない。
【0020】
本明細書で使用される単数形は、文脈上明らかに反対の意味を示さない限り、複数形も含む。
【0021】
本明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分および/または群の存在や付加を除外させるものではない。
【0022】
本発明は多様な変更を加えることができ、様々な形態を有することができるので、特定の実施例を例示して下記で詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするのではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるすべての変更、均等物または代替物を含むものと理解されなければならない。
【0023】
本明細書において、例えば、「~上に」、「~上部に」、「~下部に」、「~側に」などの二つの部分の位置関係が説明される場合、「直ぐに」または「直接」という表現が使用されない限り、二つの部分の間に一つ以上の他の部分が位置し得る。
【0024】
本明細書において、例えば、「~後に」、「~に続いて」、「~次に」、「~前に」などの時間的な前後関係が説明される場合、「直ぐに」または「直接」という表現が使用されない限り、連続的でない場合を含むこともできる。
【0025】
本明細書において「少なくとも一つ」の用語は、一つ以上の関連項目から提示可能なすべての組み合わせを含むものと理解しなければならない。
【0026】
本明細書で使用される用語「正極添加剤」は、電池の初期充電時のリチウムが既存の正極材より少なくとも2倍以上に多く脱離し、その後放電時にはリチウムと反応しない不可逆的な特性を有する物質を意味する。前記正極添加剤は、犠牲正極材(sacrificial positive electrode material)とも言える。前記正極添加剤はリチウム損失を補償するので、結果的として電池の失われた容量を回復して電池の容量が増加し、ガス発生を抑制することによって電池が爆発することを防止して、電池の寿命特性および安全性を改善することができる。
【0027】
本発明者らはより単純化された方法でLi5FeO4系正極添加剤(犠牲正極材)の電気伝導度および不可逆容量を向上させ、かつ空気安定性を改善するための研究を継続した。
【0028】
このような継続的な研究の結果、Li
5FeO
4系正極添加剤の製造過程で、水溶性高分子分散剤の存在下でカーボンナノチューブが分散した分散液を添加し、焼成することによってLi
5FeO
4系リチウム遷移金属酸化物粒子上に前記水溶性高分子分散剤に由来する炭素コーティング層およびカーボンナノチューブ含有層がそれぞれ形成された二重コーティング層形態の正極添加剤が得られることを確認した。さらに、前記二重コーティング層形態の正極添加剤の表面に酸素含有気体雰囲気下でリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート含有層を形成する。このような一実施形態の正極添加剤の概略的な断面は
図1のような構造を有し得る。
【0029】
前記正極添加剤はLi5FeO4系リチウム遷移金属酸化物粒子上にこれと類似した電気伝導度を有するカーボンナノチューブ含有層が形成され、従来知られているLi5FeO4系正極添加剤に比べて優れた電気伝導度および高い不可逆容量を有し得る。
【0030】
また、前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面に前記水溶性高分子分散剤に由来する均一な炭素コーティング層が形成され、このような炭素コーティング層上にカーボンナノチューブが均一で比較的高い比率で結合されるので、前記一実施形態の正極添加剤はさらに高い電気伝導度および不可逆容量を有し得る。
【0031】
なお、前記正極添加剤は、その表面がリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート含有層でコーティングされることによって、空気中に露出しても水分および二酸化炭素などに対する優れた安定性を示すことができる。
【0032】
これとは異なり、前記高分子分散剤に由来する炭素コーティング層のみが形成された正極添加剤は電気伝導度を向上させにくいため、十分な不可逆容量を有することが難しい。また、前記カーボンナノチューブが添加剤粒子上に直接形成された正極添加剤もまた、このようなカーボンナノチューブが添加剤粒子上に均一で高い比率で結合しにくいため、電気伝導度、不可逆容量および/または充放電時の容量特性の向上が十分でない。
【0033】
前記リチウム二次電池用正極添加剤は、前記炭素コーティング層と前記カーボンナノチューブ含有層の相互作用で、リチウム遷移金属酸化物粒子上に高い比率のカーボンナノチューブが均一に結合するので、電気伝導度、不可逆容量および充放電時の容量特性が大きく向上する。そして、前記カーボンナノチューブ含有層上に形成された前記リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート含有層は空気安定性の向上を可能にし、前記正極添加剤が有する電気伝導度、不可逆容量および充放電時の容量特性を安定して発現することができる。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、
カーボンナノチューブ、水溶性高分子分散剤および鉄(Fe)前駆体を混合および熱処理して鉄酸化物-炭素前駆体を形成する段階、
リチウム前駆体および前記鉄酸化物-炭素前駆体を混合および500℃以上で焼成してリチウム-鉄酸化物粒子を形成する段階、および
前記リチウム-鉄酸化物粒子およびリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの混合物を酸素含有気体雰囲気および300℃未満の温度下で熱処理して、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート含有層でコーティングされたリチウム-鉄酸化物を形成する段階を含む、リチウム二次電池用正極添加剤の製造方法が提供される。
【0035】
具体的な一例として、前記鉄酸化物-炭素前駆体を形成する段階は、前記カーボンナノチューブが前記水溶性高分子分散剤の存在下で水溶媒に分散したカーボンナノチューブ分散液を形成する段階、塩基の存在下で、前記カーボンナノチューブ分散液および鉄(Fe)前駆体を混合する段階、前記混合液内で、前記カーボンナノチューブ分散液および鉄(Fe)前駆体を50℃~100℃の温度で反応させる段階、および前記反応生成物溶液をろ過および乾燥し、200℃~300℃の温度で熱処理する段階を含んで行うことができる。
【0036】
前記鉄酸化物-炭素前駆体をリチウム前駆体と混合および高温焼成してLi5FeO4系リチウム遷移金属酸化物粒子(つまり、前記リチウム-鉄酸化物粒子)が形成される。それと同時に、前記リチウム-鉄酸化物粒子の表面で前記水溶性高分子分散剤が焼成されて均一な炭素コーティング層が形成される。前記炭素コーティング層上にはカーボンナノチューブが結合する。そして、前記リチウム-鉄酸化物粒子およびリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)を混合し、これを酸素含有気体雰囲気および300℃未満の温度で焼成して、LiDFOB含有層でコーティングされたリチウム-鉄酸化物粒子が得られる。
【0037】
以下、前記一実施形態のリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法を各段階別に説明する。
【0038】
カーボンナノチューブ、水溶性高分子分散剤および鉄(Fe)前駆体を混合および熱処理して、鉄酸化物-炭素前駆体を形成する段階が行われる。
【0039】
前記水溶性高分子分散剤としてはカーボンナノチューブを水溶媒中で均一に分散させることができ、焼成によって前記炭素コーティング層を形成することができるものであればいかなる水溶性高分子も使用することができる。好ましくは、前記水溶性高分子分散剤としてはポリビニルピロリドン系高分子、ポリアクリル酸系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、およびヒドロキシアルキルセルロース系高分子からなる群より選択される1種以上の化合物を含み得る。
【0040】
前記水溶性高分子分散剤およびカーボンナノチューブは、例えば、超音波噴射などの方法で水溶媒中で分散および混合され、カーボンナノチューブ分散液を形成することができる。その後、前記カーボンナノチューブ分散液は鉄前駆体またはその水溶液と混合し、水酸化アンモニウムなどの塩基と一緒に混合することができる。
【0041】
適切な厚さおよび含有量の炭素コーティング層が形成されるようにするために、前記水溶性高分子分散剤は、前記鉄酸化物-炭素前駆体の総含有量に対して0.1重量部~2重量部、あるいは0.5重量部~2重量部、あるいは0.5重量部~1.5重量部の含有量で使用することができる。
【0042】
そして、前記炭素コーティング層上に適切な含有量のカーボンナノチューブ含有層が形成されるようにするために、前記カーボンナノチューブは、前記鉄酸化物-炭素前駆体の総含有量に対して1重量部~10重量部、あるいは2重量部~10重量部、あるいは2重量部~7重量部の含有量で使用することができる。
【0043】
前記鉄(Fe)前駆体は、Fe(III)の硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、ハロゲン化物、およびこれらの水和物からなる群より選択される1種以上の化合物を含み得る。
【0044】
上述のように、カーボンナノチューブ分散液および鉄前駆体を混合した後、前記カーボンナノチューブ分散液および鉄前駆体を攪拌し、水酸化アンモニウム(NH4OH)などの塩基を前記鉄前駆体の当量比だけ入れ、50℃~100℃、あるいは70℃~90℃の温度で1時間~10時間反応させ、前記反応生成物溶液をろ過および乾燥した後、200℃~300℃、あるいは220℃~280℃の温度で2時間~15時間あるいは6時間~12時間さらに熱処理して不純物を除去することができる。この時、前記乾燥段階は、一般的なオーブンなどを用いて行うことができ、このような工程によって鉄酸化物-炭素前駆体を形成することができる。
【0045】
次に、リチウム前駆体および前記鉄酸化物-炭素前駆体を混合および500℃以上で焼成して、リチウム-鉄酸化物粒子を形成する段階が行われる。
【0046】
前記鉄酸化物-炭素前駆体はリチウム前駆体と混合した後、500℃以上、あるいは500℃~1000℃、あるいは550℃~700℃の温度で焼成され、リチウム-鉄酸化物を形成することができる。
【0047】
この時、前記鉄酸化物-炭素前駆体およびリチウム前駆体の反応は当量反応で行うことができる。例えば、前記リチウム前駆体がLi2Oなどのリチウム酸化物である場合、前記鉄酸化物-炭素前駆体:リチウム前駆体が1:5のモル比となるように混合して高温焼成を行うことができる。
【0048】
前記リチウム前駆体としては、前記リチウム酸化物(Li2O)以外に本発明の属する技術分野においてよく知られているリチウム前駆体を使用することができる。
【0049】
次に、前記リチウム-鉄酸化物粒子およびリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(以下、「LiDFOB」という)の混合物を酸素含有気体雰囲気および300℃未満の温度下で熱処理して、LiDFOB含有層でコーティングされたリチウム-鉄酸化物を形成する段階が行われる。
【0050】
前記リチウム-鉄酸化物粒子およびLiDFOBの混合は、通常のミキサーを用いた固相混合で行うことができる。
【0051】
特に、前記混合物に対する熱処理は、酸素含有気体雰囲気および300℃未満の温度下で行うことができる。
【0052】
好ましくは、前記酸素含有気体は空気であり得る。
【0053】
Li5FeO4などのリチウム-鉄酸化物は空気中に露出する場合、空気中の二酸化炭素(CO2)および水分(H2O)と反応してLi2CO3またはLiOHなどに変化する化学的特性を有する。したがって、前記段階で前記リチウム-鉄酸化物粒子を酸素含有気体である空気中で熱処理することが好ましくないことを予想することができる。しかし、前記予想とは異なり、前記リチウム-鉄酸化物粒子とLiDFOBの混合物を空気雰囲気および300℃未満の温度下で熱処理することによって、空気安定性に優れたLiDFOB含有層でコーティングされたリチウム-鉄酸化物が得られる。
【0054】
好ましくは、前記LiDFOB含有層でコーティングされたリチウム-鉄酸化物を形成する段階は、前記混合物を空気雰囲気および300℃未満、あるいは260℃~295℃、あるいは260℃~290℃、あるいは265℃~285℃、あるいは270℃~280℃の温度下で熱処理して行うことができる。
【0055】
前記混合物に対する熱処理が酸素含有気体雰囲気下で行われることによって、通常の不活性気体雰囲気下で行われる場合に比べて、さらに向上した空気安定性を有するリチウム二次電池用正極添加剤が得られる。
【0056】
選択的に、前記混合物に対する熱処理は前記混合物を不活性気体雰囲気下で1次熱処理し、次に、前記1次熱処理された結果物を酸素含有気体雰囲気下で2次熱処理する方法で行うことができる。
【0057】
具体的な一例として、前記LiDFOB含有層でコーティングされたリチウム-鉄酸化物を形成する段階は、前記リチウム-鉄酸化物粒子およびLiDFOBの混合物を不活性気体雰囲気および300℃未満の温度下で1次熱処理する工程、および前記1次熱処理された結果物を酸素含有気体雰囲気および300℃未満の温度下で2次熱処理する工程を含んで行うことができる。
【0058】
ここで、前記1次熱処理工程および前記2次熱処理工程の温度はそれぞれ独立して、300℃未満、あるいは260℃~295℃、あるいは260℃~290℃、あるいは265℃~285℃、あるいは270℃~280℃の温度下で調節することができる。
【0059】
前記LiDFOBは前記リチウム-鉄酸化物粒子の総含有量に対して5.0重量部~20.0重量部、あるいは5.5重量部~19.0重量部、あるいは6.0重量部~18.5重量部、あるいは6.5重量部~18.0重量部、あるいは7.0重量部~17.5重量部、あるいは7.5重量部~17.0重量部、あるいは8.0重量部~16.5重量部、あるいは8.0重量部~16.0重量部、あるいは8.0重量部~15.5重量部、あるいは8.0重量部~15.0重量部の含有量で使用することができる。
【0060】
前記LiDFOBと共にヘキサフルオロリン酸リチウム(lithium hexafluorophosphate)、リチウムトリフラート(lithium triflate)、およびジフルオロリン酸リチウム(lithium difluorophosphate)などの添加剤をさらに混合することができる。ただし、前記LiDFOB含有層の導入による空気安定性の向上効果が十分に発現できるようにするために、前記LiDFOB含有層はLiDFOBを少なくとも50モル%以上、あるいは70モル%以上、あるいは90モル%以上で含むことが好ましい。
【0061】
必要に応じて、前記LiDFOB含有層でコーティングされたリチウム-鉄酸化物を洗浄し、乾燥する段階を行うことができる。
【0062】
非限定的な例として、前記洗浄工程は、前記リチウム-鉄酸化物粒子および洗浄液を1:2~1:10の重量比で混合し、攪拌する方法で行うことができる。前記洗浄液としては蒸留水、アンモニア水などを使用することができる。前記乾燥は、100℃~200℃あるいは100℃~180℃の温度で1時間~10時間熱処理する方法で行うことができる。
【0063】
一方、上記の製造方法で得られるリチウム二次電池用正極添加剤は、前記リチウム-鉄酸化物粒子;前記リチウム-鉄酸化物粒子上に形成された炭素コーティング層;前記炭素コーティング層上に形成されたカーボンナノチューブ含有層;および前記カーボンナノチューブ含有層上に形成されたリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート含有層を含む。
【0064】
前記正極添加剤は基本的にLi5FeO4化合物を含むリチウム-鉄酸化物粒子を含む。Li5FeO4などのリチウム遷移金属酸化物粒子は、化学量論比より高い比率のリチウムが含まれたものである。過剰のリチウムイオンが初期充放電過程で負極に移動して不可逆的な容量損失を補償することができる。
【0065】
前記正極添加剤は、Li5FeO4であるリチウム-鉄酸化物以外に従来知られているLi2NiO2およびLi6CoO4などのリチウム遷移金属酸化物をさらに含むこともできる。ただし、正極添加剤の製造費用や物性などを考慮して、前記正極添加剤はリチウム遷移金属酸化物としてLi5FeO4を少なくとも50モル%以上、あるいは70モル%以上、あるいは90モル%以上で含むことが好ましい。
【0066】
前記リチウム-鉄酸化物粒子は0.5μm~45μm、あるいは1μm~25μm、あるいは5μm~15μmの体積平均粒径(D50)を有する1次粒子、または前記1次粒子が凝集した2次粒子の形態を有することができる。前記粒径範囲で前記リチウム-鉄酸化物粒子は正極活物質と均一に混合され、正極内で適切な特性を示すことができる。
【0067】
適切な粒度分布および体積平均粒径を有するために、前記リチウム-鉄酸化物粒子を合成した後、所望の粒度分布に対応する目の大きさを有する標準ふるいを用いて、前記リチウム-鉄酸化物粒子を通過させることができる。前記リチウム-鉄酸化物粒子の粒度分布および体積平均粒径(D50)は、よく知られたレーザ粒度分析装置などを用いて測定および算出することができる。
【0068】
前記正極添加剤で、前記リチウム-鉄酸化物粒子上には炭素コーティング層と、前記炭素コーティング層上に物理的または化学的に結合したカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ含有層を形成することができる。前記炭素コーティング層および前記カーボンナノチューブ含有層の形成は前記正極添加剤の電子顕微鏡分析またはXRD分析で確認することができる。
【0069】
本発明の実施形態によれば、前記炭素コーティング層および前記カーボンナノチューブ含有層の含有量の合計は、前記正極添加剤の総含有量100重量部を基準にして0.5重量部~6.0重量部、あるいは1.0重量部~6.0重量部、あるいは1.0重量部~5.9重量部、あるいは1.5重量部~5.9重量部、あるいは1.5重量部~5.8重量部であり得る。
【0070】
そして、前記炭素コーティング層:前記カーボンナノチューブ含有層は1:4~1:50、あるいは1:8~1:50、あるいは1:8~1:30、あるいは1:10~1:30、あるいは1:10~1:20の重量比で含まれる。
【0071】
前記炭素コーティング層および前記カーボンナノチューブ含有層の全体含有量およびこれらの重量比が上記の範囲内で制御されることによって、前記炭素コーティング層によって前記リチウム-鉄酸化物粒子が有する不可逆容量などの特性を阻害せずとも、前記炭素コーティング層上に高い比率のカーボンナノチューブが均一に結合して正極添加剤の電気伝導度、不可逆容量、充放電時の容量特性をさらに向上させることができる。
【0072】
具体的な一実施形態で、前記炭素コーティング層は前記正極添加剤の総含有量100重量部を基準にして0.05重量部~2.0重量部、あるいは0.06重量部~2.0重量部、あるいは0.06重量部~1.9重量部の含有量で含まれ;前記カーボンナノチューブ含有層は前記正極添加剤の総含有量100重量部を基準にして0.4重量部~4.0重量部、あるいは0.8重量部~4.0重量部、あるいは0.8重量部~3.95重量部、あるいは1.0重量部~3.95重量部、あるいは1.0重量部~3.90重量部の含有量で含まれる。
【0073】
前記炭素コーティング層および前記カーボンナノチューブ含有層の各含有量の範囲やこれらの総含有量の範囲はよく知られている元素分析により正極添加剤の表面の炭素含有量を分析するか、原料として使用された水溶性高分子分散剤およびカーボンナノチューブの含有量に基づいて測定および算出することができる。
【0074】
前記正極添加剤で、前記炭素コーティング層は10nm~300nmの厚さを有することができる。そして、前記炭素コーティング層上に、前記カーボンナノチューブ含有層のカーボンナノチューブが物理的に均一に吸着するか、または化学的に結合する。このような炭素コーティング層の厚さおよびカーボンナノチューブの結合形態によって、一実施形態の正極添加剤は最適化した不可逆容量および充放電時の容量特性を示すことができる。
【0075】
前記炭素コーティング層の厚さは、前記正極添加剤のBET比表面積および上述した炭素含有量の分析結果に基づいて算出するか、前記正極添加剤を透過電子顕微鏡(TEM)や走査透過電子顕微鏡(STEM)で分析して測定することができる。
【0076】
一方、前記正極添加剤は、前記カーボンナノチューブ含有層上に形成されたLiDFOB含有層を含む。
【0077】
前記正極添加剤は、その表面が前記LiDFOB含有層でコーティングされている。
図1を参照すると、前記正極添加剤は、前記リチウム-鉄酸化物粒子10上に形成された前記炭素コーティング層20、前記炭素コーティング層20上に形成されたカーボンナノチューブ含有層30、および前記カーボンナノチューブ含有層30上に形成された前記LiDFOB含有層40を含む。前記LiDFOB含有層40は、前記炭素コーティング層20上に形成された前記カーボンナノチューブ含有層30に物理的または化学的に結合した状態で含まれる。
【0078】
本発明の一実施形態によれば、前記LiDFOB含有層はLiDFOBのみからなる。また、前記LiDFOB含有層にはリチウム二次電池分野で知られているヘキサフルオロリン酸リチウム(lithium hexafluorophosphate)、リチウムトリフラート(lithium triflate)、およびジフルオロリン酸リチウム(lithium difluorophosphate)などの添加剤をLiDFOBと共に含み得る。ただし、前記LiDFOB含有層の導入による空気安定性の向上効果が十分に発現できるようにするために、前記LiDFOB含有層はLiDFOBを少なくとも50モル%以上、あるいは70モル%以上、あるいは90モル%以上で含むことが好ましい。
【0079】
前記LiDFOB含有層の形成は、前記正極添加剤の電子顕微鏡分析またはXRD分析で確認することができる。
【0080】
本発明の実施形態によれば、前記LiDFOB含有層は、前記正極添加剤の総含有量100重量部を基準にして5.0重量部~15.0重量部、あるいは5.5重量部~15.0重量部、あるいは5.5重量部~12.0重量部、あるいは5.5重量部~10.0重量部、あるいは6.0重量部~10.0重量部、あるいは6.0重量部~9.0重量部の含有量で含まれる。
【0081】
前記正極添加剤の空気安定性の向上効果が十分に発現できるようにするために、前記LiDFOB含有層の含有量は、前記正極添加剤の総含有量100重量部を基準にして5.0重量部以上であることが好ましい。ただし、前記LiDFOB含有層の含有量が過度に高い場合、前記正極添加剤の不可逆容量および充放電時の容量特性が低下する。したがって、前記LiDFOB含有層の含有量は、前記正極添加剤の総含有量100重量部を基準にして15.0重量部以下であることが好ましい。
【0082】
上述した正極添加剤は別途の正極活物質と混合して、リチウム二次電池の初期充放電過程で負極の不可逆容量を補償する犠牲正極材として作用することができ、このような不可逆容量補償後には前記正極活物質が作用する。しかも、前記正極添加剤は充放電時の容量特性も向上した特性を有するので、追加的な正極活物質としても好ましく適用され得る。
【0083】
本発明のさらに他の一実施形態によれば、リチウム二次電池用正極が提供される。
【0084】
前記リチウム二次電池用正極は、正極活物質、バインダー、導電材、および前記正極添加剤を含み得る。
【0085】
前記正極添加剤は、リチウム二次電池の充放電時、不可逆的にリチウムを出す特性を有する。したがって、前記正極添加剤は、リチウム二次電池用正極に含まれ、予備リチウム化(prelithiation)のための犠牲正極材(sacrificial positive electrode materials)の役割を果たすことができる。
【0086】
好ましくは、前記リチウム二次電池用正極は、正極活物質、導電材、前記正極添加剤、およびバインダーを含む正極材;および前記正極材を支持する集電体を含む。
【0087】
高容量電池となるほど電池の容量を増やすためには、負極内の負極活物質の比率をさらに高くしなければならず、これにより、SEI層で消耗されるリチウムの量もともに増加する。したがって、負極のSEI層で消耗されるリチウムの量を計算した後、正極側に適用される犠牲正極材の量を逆算して電池の設計容量を定めることができる。
【0088】
一実施形態によれば、前記正極添加剤は、前記正極材の総重量に対して0重量%超15重量%以下で含まれる。
【0089】
前記SEI層形成で消耗される不可逆的リチウムを補償するために、前記正極添加剤の含有量は、前記正極材の総重量に対して0重量%超であることが好ましい。
【0090】
ただし、前記正極添加剤を過剰に含む場合、可逆的な充放電容量を示す前記正極活物質の含有量が減り、バッテリの容量が減少し、電池内の残存リチウムが負極でプレーティングされて電池のショートを誘発するか、または安全性を阻害し得る。したがって、前記正極添加剤の含有量は、前記正極材の総重量に対して15重量%以下であることが好ましい。
【0091】
具体的には、前記正極添加剤の含有量は、前記正極材の総重量に対して0重量%超、あるいは0.5重量%以上、あるいは1重量%以上、あるいは2重量%以上、あるいは3重量%以上;および15重量%以下、あるいは12重量%以下、あるいは10重量%以下であり得る。
【0092】
好ましくは、前記正極添加剤の含有量は、前記正極材の総重量に対して0.5重量%~15重量%、あるいは1重量%~15重量%、あるいは1重量%~12重量%、あるいは2重量%~12重量%、あるいは2重量%~10重量%、あるいは3重量%~10重量%であり得る。
【0093】
前記正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にインターカレーションおよびデインターカレーションすることができる物質であれば特に制限なく使用することができる。例えば、前記正極活物質としてはコバルト、マンガン、ニッケル、鉄、またはこれらの組み合わせの金属とリチウムを含む複合酸化物またはリン酸塩であり得る。
【0094】
非限定的な例として、前記正極活物質は、下記化学式のうちのいずれか一つで表される化合物であり得る。
【0095】
LiaA1-bRbD2(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5);LiaE1-bRbO2-cDc(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05);LiE2-bRbO4-cDc(0≦b≦0.5、0≦c≦0.05);LiaNi1-b-cCobRcDd(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<d≦2);LiaNi1-b-cCobRcO2-dZd(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<d<2);LiaNi1-b-cCobRcO2-dZ2(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<d<2);LiaNi1-b-cMnbRcDd(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<d≦2);LiaNi1-b-cMnbRcO2-dZd(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<d<2);LiaNi1-b-cMnbRcO2-dZ2(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<d<2);LiaNibEcGdO2(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0.001≦d≦0.1);LiaNibCocMndGeO2(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5、0.001≦e≦0.1);LiaNiGbO2(0.90≦a≦1.8、0.001≦b≦0.1);LiaCoGbO2(0.90≦a≦1.8、0.001≦b≦0.1);LiaMnGbO2(0.90≦a≦1.8、0.001≦b≦0.1);LiaMn2GbO4(0.90≦a≦1.8、0.001≦b≦0.1);QO2;QS2;LiQS2;V2O5;LiV2O5;LiTO2;LiNiVO4;Li(3-f)J2(PO4)3(0≦f≦2);Li(3-f)Fe2(PO4)3(0≦f≦2);およびLiFePO4。
【0096】
前記化学式中、AはNi、Co、Mnまたはこれらの組み合わせであり;RはAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、希土類元素またはこれらの組み合わせであり;DはO、F、S、Pまたはこれらの組み合わせであり;EはCo、Mnまたはこれらの組み合わせであり;ZはF、S、Pまたはこれらの組み合わせであり;GはAl、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、Vまたはこれらの組み合わせであり;QはTi、Mo、Mnまたはこれらの組み合わせであり;TはCr、V、Fe、Sc、Yまたはこれらの組み合わせであり;JはV、Cr、Mn、Co、Ni、Cuまたはこれらの組み合わせである。
【0097】
もちろん、前記正極活物質の表面にコーティング層を有するものを使用することもでき、または前記正極活物質とコーティング層を有する正極活物質を混合して使用することもできる。前記コーティング層に含まれるコーティング元素としてはMg、Al、Co、K、Na、Ca、Si、Ti、V、Sn、Ge、Ga、B、As、Zrまたはこれらの混合物を使用することができる。
【0098】
一実施形態によれば、前記正極活物質は、前記正極材の総重量に対して80重量%~95重量%で含まれる。
【0099】
具体的には、前記正極活物質の含有量は、前記正極材の総重量に対して80重量%以上、あるいは82重量%以上、あるいは85重量%以上;および95重量%以下、あるいは93重量%以下、あるいは90重量%以下であり得る。
【0100】
好ましくは、前記正極活物質の含有量は、前記正極材の総重量に対して82重量%~95重量%、あるいは82重量%~93重量%、あるいは85重量%~93重量%、あるいは85重量%~90重量%であり得る。
【0101】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために用いられる。
【0102】
前記導電材としては、電池の化学変化を引き起こさず、かつ電子伝導性を有するものであれば特に制限なく使用することができる。非限定的な例として、前記導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの導電性高分子などであり得る。前記導電材として、上記の例の中で1種あるいは2種以上の混合物を使用することができる。
【0103】
前記導電材の含有量は、適切な水準の導電性を発現しながらもバッテリの容量減少を誘発しない範囲で調節される。好ましくは、前記導電材の含有量は、前記正極材の総重量に対して1重量%~10重量%あるいは1重量%~5重量%であり得る。
【0104】
前記バインダーは、前記正極材を前記集電体によく付着させるために使用される。
【0105】
非限定的な例として、前記バインダーは、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化ポリ塩化ビニル、ポリビニルフルオライド、エチレンオキシド含有ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン-ブタジエンゴム、アクリル化スチレン-ブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ナイロンなどであり得る。前記バインダーとして、上記の例の中で1種あるいは2種以上の混合物を使用することができる。
【0106】
前記バインダーの含有量は、適切な水準の接着性を発現しながらもバッテリの容量減少を誘発しない範囲で調節される。好ましくは、前記バインダーの含有量は、前記正極材の総重量に対して1重量%~10重量%あるいは1重量%~5重量%であり得る。
【0107】
前記集電体としては、本発明の属する技術分野においてリチウム二次電池の正極に適用可能な素材であれば特に制限なく使用することができる。
【0108】
非限定的な例として、前記集電体としては、ステンレススチール;アルミニウム;ニッケル;チタン;焼成炭素;またはアルミニウムやステンレススチール表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどを使用することができる。
好ましくは、前記集電体は3μm~500μmの厚さを有する。前記正極材の接着力を高めるために、前記集電体は、その表面に微細な凹凸が形成されたものであり得る。前記集電体は、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態を有することができる。
【0109】
前記リチウム二次電池用正極は、前記正極活物質、前記導電材、前記正極添加剤およびバインダーを含む正極材を前記集電体上に積層して形成される。
【0110】
本発明のさらに他の一実施形態によれば、前記リチウム二次電池用正極、負極、分離膜、および電解質を含む、リチウム二次電池が提供される。
【0111】
前記リチウム二次電池は、前記正極添加剤を含む正極を備える。これにより、前記リチウム二次電池は充放電の間正極でのガス発生を抑制することができ、向上した安全性と寿命特性を示すことができる。そして、前記リチウム二次電池は、高い放電容量、優れた出力特性および容量維持率を示すことができる。
【0112】
したがって、前記リチウム二次電池は、携帯電話、ノートパソコン、タブレットコンピュータ、モバイルバッテリ、デジタルカメラなどの携帯用電子機器分野;および電気自動車、電気バイク、パーソナルモビリティデバイスなどの移動手段分野で向上した性能と安全性を有するエネルギー供給源として用いられる。
【0113】
前記リチウム二次電池は、正極と負極の間に分離膜を介して巻き取られた電極組立体と、前記電極組立体が内蔵されるケースとを含む。そして、前記正極、前記負極および前記分離膜は電解質で含浸されている。
【0114】
前記リチウム二次電池は、角型、円筒形、パウチ型など多様な形態を有することができる。
【0115】
前記正極に関する事項は、上述した内容で代える。
【0116】
前記負極は、負極活物質、導電材およびバインダーを含む負極材;並びに前記負極材を支持する集電体を含み得る。
【0117】
前記負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にインターカレーション(intercalation)およびデインターカレーション(deintercalation)することができる物質、リチウム金属、リチウム金属の合金、リチウムにドープおよび脱ドープ可能な物質、および遷移金属酸化物を含み得る。
【0118】
前記リチウムイオンを可逆的にインターカレーションおよびデインターカレーションすることができる物質としては炭素質物質であって、結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらの混合物が挙げられる。具体的には、前記炭素質物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソフェーズピッチ(mesophase pitches)、メソフェーズピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、石油または石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)、ソフトカーボン(soft carbon)、およびハードカーボン(hard carbon)などであり得る。
【0119】
前記リチウム金属の合金はNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Si、Sb、Pb、In、Zn、Ba、Ra、Ge、Al、Sn、Bi、Ga、およびCdからなる群より選択される金属とリチウムとの合金であり得る。
【0120】
前記リチウムにドープおよび脱ドープ可能な物質はSi、Si-C複合体、SiOx(0<x<2)、Si-Q合金(前記Qはアルカリ金属、アルカリ土類金属、第13族元素、第14族元素、第15族元素、第16族元素、遷移金属、希土類元素、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される元素である;ただし、Siは除く。)、Sn、SnO2、Sn-R合金(前記Rはアルカリ金属、アルカリ土類金属、第13族元素、第14族元素、第15族元素、第16族元素、遷移金属、希土類元素、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される元素である;ただし、Snは除く。)などであり得る。そして、前記リチウムにドープおよび脱ドープ可能な物質としては、上記の例中の少なくとも一つとSiO2を混合して使用することができる。前記QおよびRは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Rf、V、Nb、Ta、Db、Cr、Mo、W、Sg、Tc、Re、Bh、Fe、Pb、Ru、Os、Hs、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、B、Al、Ga、Sn、In、Tl、Ge、P、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Poなどであり得る。
【0121】
そして、前記遷移金属酸化物は、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物、リチウムチタン酸化物などであり得る。
【0122】
好ましくは、前記負極は、炭素質物質およびケイ素化合物からなる群より選択される1種以上の負極活物質を含む。
【0123】
つまり、本発明の他の一実施形態によれば、前記リチウム二次電池用正極;炭素質物質およびケイ素化合物からなる群より選択される1種以上の負極活物質を含む負極;分離膜;および電解質を含む、リチウム二次電池が提供される。
【0124】
ここで、前記炭素質物質は、上述した天然黒鉛、人造黒鉛、キッシュ黒鉛、熱分解炭素、メソフェーズピッチ、メソフェーズピッチ系炭素繊維、炭素微小球体、石油または石炭系コークス、ソフトカーボン、およびハードカーボンからなる群より選択される1種以上の物質である。そして、前記ケイ素化合物は、上述したSiを含む化合物、つまり、Si、Si-C複合体、SiOx(0<x<2)、前記Si-Q合金、これらの混合物、またはこれらのうちの少なくとも1つとSiO2の混合物であり得る。
【0125】
また、前記負極はマイクロシリコンを含み得る。前記負極は、マイクロシリコンを含む場合、炭素質物質を負極活物質として使用する場合に比べて優れた容量を実現することができる。具体的には、前記ケイ素化合物において特定のマイクロシリコンを使用する場合、500回以上の充電と放電の後にも80%以上の残存容量を維持することができ、従来のリチウム二次電池と比較して顕著に優れたエネルギー密度を実現することができる。また、前記負極がマイクロシリコンを含む場合、固体電解質を使用する固体バッテリの充放電寿命を大きく高めることができ、常温で充電速度を大きく向上させることもできる。
【0126】
前記マイクロシリコンの大きさは特に限定されるものではないが、例えば、前記マイクロシリコンは100μm以下の直径、または1μm~100μmの直径、または1μm~20μmの直径を有し得る。
【0127】
一実施形態によれば、前記負極活物質は、前記負極材の総重量に対して85重量%~98重量%で含まれる。
【0128】
具体的には、前記負極活物質の含有量は、前記負極材の総重量に対して85重量%以上、あるいは87重量%以上、あるいは90重量%以上;および98重量%以下、あるいは97重量%以下、あるいは95重量%以下であり得る。
【0129】
好ましくは、前記負極活物質の含有量は、前記負極材の総重量に対して85重量%~97重量%、あるいは87重量%~97重量%、あるいは87重量%~95重量%、あるいは90重量%~95重量%であり得る。
【0130】
前記負極材に含まれる前記導電材、前記バインダー、および前記集電体については、前記リチウム二次電池用正極について説明した内容で代える。
【0131】
前記分離膜は、正極と負極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供する。前記分離膜としては、本発明の属する技術分野においてリチウム二次電池のセパレータに適用可能なものであれば特に制限なく使用することができる。前記分離膜は、電解質のイオン移動に対して低い抵抗を有し、かつ電解質に対する濡れ性に優れたものが好ましい。
【0132】
具体的には、前記分離膜は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子で製造された多孔性高分子フィルムであり得る。前記分離膜は、前記多孔性高分子フィルムが2層以上積層された多層膜であり得る。前記分離膜は、ガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などを含む不織布であり得る。そして、前記分離膜は、耐熱性または機械的強度の確保のためにセラミック成分または高分子物質がコートされたものであり得る。
【0133】
一方、前記電解質としては、本発明の属する技術分野においてリチウム二次電池に適用可能なものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、前記電解質は、有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体ポリマー電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などであり得る。
【0134】
具体的には、前記電解質は、非水性有機溶媒およびリチウム塩を含み得る。
【0135】
前記非水性有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動できる媒質の役割を果たすことができるものであれば、特に制限なく使用することができる。
【0136】
具体的には、前記非水性有機溶媒は、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、およびε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)およびテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、およびフルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methyl ethyl carbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethyl methyl carbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、およびプロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコールおよびイソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R-CN(Rは炭素数2~20の直鎖状、分枝状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含む。)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3-ジオキソランなどのジオキソラン類;およびスルホラン(sulfolane)などであり得る。
【0137】
前記例の中でも、前記非水性有機溶媒としてはカーボネート系溶媒を使用することが好ましい。
【0138】
特に、電池の充放電性能および前記犠牲正極材との相溶性を考慮して、前記非水性有機溶媒としては、高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート)および低粘度の線状カーボネート(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)の混合物を使用することが好ましい。この場合、前記環状カーボネートと前記線状カーボネートを1:1~1:9の体積比で混合して使用することが上述した性能の発現に有利である。
【0139】
また、前記非水性有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を1:2~1:10の体積比で混合したもの;またはエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)を1~3:1~9:1の体積比で混合したものを使用することが好ましい。
【0140】
前記電解質に含まれる前記リチウム塩は、前記非水性有機溶媒に溶解して電池内でリチウムイオンの供給源として作用して基本的なリチウム二次電池の作動を可能にし、正極と負極の間のリチウムイオンの移動を促進する役割を果たす。
【0141】
具体的には、前記リチウム塩としては、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAl04、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(SO2F)2、(LiFSI、lithium bis(fluorosulfonyl)imide)、LiCl、LiI、およびLiB(C2O4)2などであり得る。好ましくは、前記リチウム塩はLiPF6、LiFSI、およびこれらの混合物であり得る。
【0142】
前記リチウム塩は、前記電解質に0.1M~2.0Mの濃度で含まれる。上記の濃度範囲で含まれるリチウム塩は、前記電解質に適切な伝導度と粘度を付与することによって優れた電解質性能を示すことができる。
【0143】
選択的に、前記電解質には電池の寿命特性の向上、電池容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的とした添加剤が含まれる。
【0144】
例えば、前記添加剤としては、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(n-glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール、三塩化アルミニウムなどであり得る。前記添加剤は、前記電解質の総重量に対して0.1重量%~5重量%で含まれる。
【発明の効果】
【0145】
本発明によれば、高い初期不可逆容量を示し、かつ優れた空気安定性を有するリチウム二次電池用正極添加剤の製造方法が提供される。上記方法で製造された正極添加剤は、高容量リチウム二次電池の不可逆的な容量損失を補償することができ、かつ電池のガス発生やこれによる火災および爆発などを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【
図1】本発明の一実施形態によるリチウム二次電池用正極添加剤粒子の断面を簡略化して示す模式図である。
【
図2】実施例1で製造された正極添加剤に対する走査型電子顕微鏡(SEM)イメージである。
【
図3】比較例3で製造された正極添加剤に対する走査型電子顕微鏡(SEM)イメージである。
【
図4】実施例および比較例で製造された正極添加剤に対するX線回折(XRD)分析結果である。
【
図5】実施例および比較例で製造された正極添加剤に対するX線回折(XRD)分析結果である。
【
図6】実施例および比較例で製造された正極添加剤に対するX線回折(XRD)分析結果である。
【
図7】実施例および比較例で製造された正極添加剤に対するX線回折(XRD)分析結果である。
【
図8】実施例および比較例で製造された正極添加剤に対するX線回折(XRD)分析結果である。
【
図9】実施例および比較例で製造された正極添加剤に対するX線回折(XRD)分析結果である。
【
図10】実施例および比較例で製造された正極添加剤に対するX線回折(XRD)分析結果である。
【
図11】実施例および比較例で製造された正極添加剤に対するX線回折(XRD)分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0147】
以下、発明の具体的な実施形態により発明の作用と効果をより具体的に説明する。ただし、これは発明の理解を助けるための例示として提示される。以下の実施形態により発明の権利範囲がいかなる意味でも限定されることを意図するものではなく、本発明の範疇および技術思想の範囲内で多様な変更および修正が可能であることは通常の技術者にとって明白である。
【0148】
実施例1
(1)正極添加剤の製造
0.2L反応器およびメカニカルスターラー(mechanical stirrer)を使用し、下記方法により実施例1の正極添加剤を製造した。
【0149】
LG化学製のカーボンナノチューブ水分散液を使用した。前記水分散液はカーボンナノチューブ(CNT)および水溶性高分子分散剤であるポリビニルピロリドン(Acros organics社、Mw50、000g/mol)の含有量をそれぞれ5.83重量%および1.0重量%にし、これらをDI水(DI water)200mlに入れて超音波チップ(tip)で10分間混合して製造したものである。
【0150】
硝酸鉄(III)九水和物(Iron(III)nitrate nonahydrate)0.6mol(テジョン・ケミカルズ・アンド・メタルズ、242.328g)をDI水600mlに溶かし、これを28gの前記CNT水分散液(その後の工程で形成される鉄酸化物-炭素前駆体(Fe2O3-CNT前駆体)に対するCNT含有量=3.3重量%)が入っているフラスコ(flask)にゆっくり入れて30分間攪拌した。次いで、NH4OH 1.8mol(252.36g)を前記フラスコにゆっくり注いで30分間攪拌し、80℃で6時間反応させた。
【0151】
反応終了後、30分間静置して上層溶液を捨ててろ過を行い、120℃のコンベクションオーブン(convection oven)で12時間乾燥を行った。乾燥されたパウダーを空気雰囲気下で250℃で6時間熱処理して不純物を除去し、鉄酸化物-炭素前駆体(Fe2O3-CNT前駆体)を得た。
【0152】
Li2O(Ganfeng Lithium社)および前記Fe2O3-CNT前駆体を5:1のモル比で均一に混合し、熱処理炉でAr雰囲気下で600℃(2時間昇温、6時間維持)で焼成してリチウム-鉄酸化物を得た。
【0153】
前記リチウム-鉄酸化物粒子100重量部に対して8.0重量部のリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(Sigma-Aldrich社)をミキサーを用いて混合した。前記混合物を熱処理炉で空気雰囲気および270℃下で1時間焼成した後、クエンチング(quenching)して実施例1の正極添加剤を得た。
【0154】
(2)リチウム二次電池の製造
前記リチウム遷移金属酸化物、導電材としてカーボンブラック、およびバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を90:4:6の重量比で有機溶媒(N-メチルピロリドン)に混合して正極材スラリーを製造した。厚さ15μmのアルミニウム箔である集電体の一面に前記正極材スラリーを塗布し、圧延および乾燥して正極を製造した(打抜サイズ:Φ14mm)。
【0155】
前記正極、負極、分離膜、および電解液を準備してコインセル形態のリチウム二次電池を製造した。この時、前記負極としては300μmの厚さのLi金属(Li-metal)(打抜サイズ:Φ14mm)を使用した。前記電解液としてはエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)およびジエチルカーボネート(DEC)を1:2:1の体積比で混合した非水性有機溶媒に1.0MのLiPF6および2重量%のビニレンカーボネート(VC)を溶解したものを使用した。そして、前記分離膜としてはPE樹脂材分離膜(W-scope社製、WL20C、20μm)を使用した。
【0156】
実施例2
前記リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの含有量を前記リチウム-鉄酸化物100重量部に対して15.0重量部に増量したことを除いて、前記実施例1と同様の方法で実施例2の正極添加剤およびこれを含むリチウム二次電池を製造した。
【0157】
実施例3
前記CNT水分散液の含有量を34gに増量(その後の工程で形成されるFe2O3-CNT前駆体に対するCNT含有量=4.0重量%)したことを除いて、前記実施例1と同様の方法で実施例3の正極添加剤およびこれを含むリチウム二次電池を製造した。
【0158】
実施例4
前記実施例1と同様の方法でリチウム-鉄酸化物粒子を得た。前記リチウム-鉄酸化物粒子100重量部に対して15.0重量部のリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(Sigma-Aldrich社)をミキサーを用いて混合した。
【0159】
前記混合物を熱処理炉で空気雰囲気および280℃下で1時間焼成した後、クエンチングして実施例4の正極添加剤を得た。
【0160】
前記正極添加剤を使用して前記実施例1と同様の方法でリチウム二次電池を製造した。
【0161】
実施例5
前記実施例1と同様の方法でリチウム-鉄酸化物粒子を得た。前記リチウム-鉄酸化物粒子100重量部に対して15.0重量部のリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(Sigma-Aldrich社)をミキサーを用いて混合した。
【0162】
前記混合物を熱処理炉でアルゴンガス雰囲気および270℃下で1時間1次焼成し、その結果物を空気雰囲気および270℃下で1時間2次焼成した後、クエンチングして実施例5の正極添加剤を得た。
【0163】
前記正極添加剤を使用して前記実施例1と同様の方法でリチウム二次電池を製造した。
【0164】
比較例1
1.494gのLi2O(Ganfeng Lithium社)および1.597gのFe2O3(Sigma-aldrich)を固相混合した(モル比Li2O:Fe2O3=5:1)。前記混合物をプレスを用いてペレット形態に製造し、熱処理炉で空気雰囲気および270℃下で1時間焼成して、比較例1の正極添加剤を製造した。
【0165】
前記正極添加剤を使用したことを除いて、前記実施例1と同様の方法で比較例1のリチウム二次電池を製造した。
【0166】
比較例2
1.494gのLi2O(Ganfeng Lithium社)および1.597gのFe2O3(Sigma-aldrich)を固相混合した(モル比Li2O:Fe2O3=5:1)。前記混合物にポリビニルピロリドン(Acros organics社、Mw50、000g/mol)0.4gを入れて混合した(生成される正極添加剤(Li5FeO4)0.1molを基準にしてポリビニルピロリドン4gを添加)。前記混合物をプレスを用いてペレット形態に製造し、熱処理炉で空気雰囲気および270℃下で1時間焼成して、比較例2の正極添加剤を製造した。
【0167】
前記正極添加剤を使用したことを除いて、前記実施例1と同様の方法で比較例2のリチウム二次電池を製造した。
【0168】
比較例3
1.494gのLi2O(Ganfeng Lithium社)および1.597gのFe2O3(Sigma-aldrich)を固相混合した(モル比Li2O:Fe2O3=5:1)。前記混合物に対してカーボンナノチューブ(CNT)10重量%を入れて混合した。前記混合物をプレスを用いてペレット形態に製造し、熱処理炉で空気雰囲気および270℃下で1時間焼成して、比較例3の正極添加剤を製造した。前記正極添加剤を使用したことを除いて、前記実施例1と同様の方法で比較例3のリチウム二次電池を製造した。
【0169】
比較例4
前記実施例1と同様の方法でリチウム-鉄酸化物粒子を得た。前記リチウム-鉄酸化物粒子100重量部に対して15.0重量部のリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(Sigma-Aldrich社)をミキサーを用いて混合した。
【0170】
前記混合物を熱処理炉でアルゴンガス雰囲気および270℃下で1時間焼成した後、クエンチングして比較例4の正極添加剤を得た。
【0171】
前記正極添加剤を使用して前記実施例1と同様の方法でリチウム二次電池を製造した。
【0172】
比較例5
前記実施例1と同様の方法でリチウム-鉄酸化物粒子を得た。前記リチウム-鉄酸化物粒子100重量部に対して15.0重量部のリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(Sigma-Aldrich社)をミキサーを用いて混合した。
【0173】
前記混合物を熱処理炉で空気雰囲気および320℃下で1時間焼成した後、クエンチングして比較例5の正極添加剤を得た。
【0174】
前記正極添加剤を使用して前記実施例1と同様の方法でリチウム二次電池を製造した。
【0175】
比較例6
前記実施例1と同様の方法でリチウム-鉄酸化物粒子を得た。前記リチウム-鉄酸化物粒子100重量部に対して6重量部のシュウ酸(oxalic acid)、4重量部のホウ酸(boric acid)、および11重量部のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Li-FSI、Nippon Shokubai社)をミキサーを用いて混合した。
【0176】
前記混合物を熱処理炉で空気雰囲気および270℃下で1時間焼成した後、クエンチングして比較例6の正極添加剤を得た。
【0177】
前記正極添加剤を使用して前記実施例1と同様の方法でリチウム二次電池を製造した。
【0178】
比較例7
前記実施例1と同様の方法でリチウム-鉄酸化物粒子を得た。前記リチウム-鉄酸化物粒子100重量部に対して6重量部のシュウ酸(oxalic acid)、4重量部のホウ酸(boric acid)、および6重量部のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li-TFSI、J&H Chemical社)をミキサーを用いて混合した。
【0179】
前記混合物を熱処理炉で空気雰囲気および270℃下で1時間焼成した後、クエンチングして比較例7の正極添加剤を得た。
【0180】
前記正極添加剤を使用して前記実施例1と同様の方法でリチウム二次電池を製造した。
【0181】
実験例1
実施例1および比較例3で製造された正極添加剤に対する走査型電子顕微鏡(SEM)イメージを
図2(実施例1)および
図3(比較例3)に示す。
【0182】
実施例および比較例で製造された正極添加剤に対するX線回折分析(D8 Endeavor、Bruker)結果を
図4(実施例1)、
図5(実施例2)、
図6(実施例3)、
図7(実施例5)、
図8(比較例1)、
図9(比較例2)、
図10(比較例3)、および
図11(比較例4)に示す。
【0183】
前記走査透過顕微鏡およびXRDの分析結果から、実施例の正極添加剤でLi5FeO4のリチウム遷移金属酸化物が形成されたことが確認され、前記リチウム遷移金属酸化物粒子上にポリビニルピロリドン(PVP)に由来する炭素コーティング層およびカーボンナノチューブ含有層の二重コーティング層が10nm~300nmの範囲内の厚さに形成されたことが確認された。そして、前記リチウム遷移金属酸化物の表面にはリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート含有層が形成されたことが確認された。
【0184】
そして、
図5(実施例2)および
図11(比較例4)を参照すると、空気雰囲気下で焼成された実施例2では2θ値が26度~28度の範囲でピークはほとんど現れなかったが、アルゴンガス雰囲気下で焼成された比較例4では前記2θ値の範囲で相対的に強く、多くのピークが現れた。このような結果により空気雰囲気下で熱処理する場合、不純物が殆どないより良好なLiDFOBコーティング効果を得ることができることが確認された。
【0185】
実験例2
(1)充放電容量
前記実施例および比較例で製造されたリチウム二次電池を45℃下の定電流(constant current)60mA/gおよび定電圧(constant voltage)30mA/g下で4.25Vになるまで充電し、定電流10mA/g下で2.5Vまで放電して充放電実験を行った。前記充放電実験により充電容量および放電容量をそれぞれ算出した。
【0186】
(2)経時変化後充電容量維持率
前記実施例および比較例で製造されたリチウム二次電池を30℃の温度および33%の相対湿度(33RH%)に維持する空気雰囲気下のチャンバーに6時間保管した。その後、前記リチウム二次電池に対して前記充放電実験を同じ条件下で行った。前記チャンバーに保管する前の充電容量を基準にして、前記チャンバーに保管した後の充電容量の比率(容量維持率、%)を計算した。
【0187】
【0188】
上記表1を参照すると、実施例のリチウム二次電池は550mAh/g以上の充電容量を示し、かつ経時変化後85%以上の高い充電容量維持率を示し、経時変化前の電極膜の色相と類似した水準の色相を維持し、優れた空気安定性を有することが確認された。
【0189】
これに対し、比較例1のリチウム二次電池は相対的に高い充電容量を示したが、経時変化後充電容量維持率が顕著に低かった。比較例2のリチウム二次電池は劣悪な充電容量を示し、経時変化の実験過程で電極膜が歪むことで充電容量維持率の測定が不可能であった。比較例3のリチウム二次電池は良好な充電容量を示したが、経時変化の実験過程で性能測定が不可能であるほど電極膜が歪んでいる。比較例4のリチウム二次電池は良好な充電容量を示したが、経時変化後充電容量維持率が相対的に低下することが確認された。
【0190】
比較例5のリチウム二次電池は、相対的に高い温度で熱処理された正極添加剤を含むことで充電容量が顕著に減少した。これは高い温度での熱処理によって炭素成分(炭素コーティング層、カーボンナノチューブ含有層)の消失によることが確認された。ただし、比較例5のリチウム二次電池では経時変化後充電容量維持率が小幅に上昇した。これは前記炭素成分の消失によって正極添加剤の比表面積が減少して相対的にリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートのコーティング効率が良くなることが予測される。
【0191】
比較例6および比較例7のリチウム二次電池にはリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの代わりにこれと類似した対応構造を有する化合物の組み合わせが添加されたが、充電容量が相対的に低く、経時変化後充電容量維持率もまた、顕著に低いことが確認された。
【0192】
以上、本発明は限定された実施形態と図面によって説明されたが、本発明はこれによって限定されず、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって本発明の技術的思想と下記に記載される特許請求の範囲の均等範囲内で多様な修正および変形が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0193】
10 リチウム-鉄酸化物粒子
20 炭素コーティング層
30 カーボンナノチューブ含有層
40 リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート含有層
【国際調査報告】