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特表2024-517487微生物培養濃度の予測方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-22
(54)【発明の名称】微生物培養濃度の予測方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
C12M1/00 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570263
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 KR2022012789
(87)【国際公開番号】W WO2023054908
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0128110
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・ギル・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ユ・ビン・クォン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・スー・ソン
(72)【発明者】
【氏名】イェ・フン・イム
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ウォン・チェ
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB01
4B029CC01
4B029FA11
(57)【要約】
本発明は、代謝モデルを司る代謝モデル式が既知の微生物の培養濃度を予測する方法において、代謝モデル式から基質の予測濃度を算出し、培養液のスペクトルデータから基質の実測濃度を算出して、基質の予測濃度と基質の実測濃度とを比較して代謝モデル式のパラメーターを更新することにより、代謝モデル式を用いて微生物培養生成量を予測するに当たって、正確度を向上させた微生物培養生成量の予測システム及び方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物培養器の培養液のスペクトルデータを獲得する分光測定部と、
前記スペクトルデータを濃度実測モデルに入力して、培養液内の実測の基質濃度を算出し、実測の基質濃度を用いて微生物代謝モデルのパラメーターを更新して、微生物の生成濃度を予測する微生物生成量予測部と、
を備えてなる、微生物培養濃度の予測装置。
【請求項2】
前記微生物生成量予測部は、
前記スペクトルデータから実測の基質濃度を算出する基質濃度実測部と、
前記微生物の代謝活動を規定する代謝モデル式から予測の基質濃度を算出する代謝モデル部と、
前記実測の基質濃度と前記予測の基質濃度とから前記代謝モデル式のパラメーターを更新するパラメーター更新部と、
を備えてなる、請求項1に記載の微生物培養濃度の予測装置。
【請求項3】
前記代謝モデル部は、
前記パラメーター更新部において更新されたパラメーターを前記代謝モデル式に適用し、更新されたパラメーターが適用された代謝モデル式から微生物培養濃度の予測値を算出する微生物生成量予測部を備える、請求項2に記載の微生物培養濃度の予測装置。
【請求項4】
前記基質濃度実測部は、
前記スペクトルデータから基質の濃度を算出するようにマシンラーニングされた濃度実測モデルを含み、
前記リアルタイムスペクトルデータを前記濃度実測モデルに入力して実測の基質濃度を算出することを特徴とする、請求項2に記載の微生物培養濃度の予測装置。
【請求項5】
前記代謝モデル式は、
培養液内の大腸菌細胞の濃度を予測する濃度算出モデル式、基質であるグルコースの濃度を算出する基質濃度算出モデル式を含む、請求項2に記載の微生物培養濃度の予測装置。
【請求項6】
微生物培養器の培養液のリアルタイムスペクトルを獲得するスペクトルデータ獲得ステップと、
前記リアルタイムスペクトルデータを既に学習された濃度実測モデルに入力して、培養液内の実測の基質濃度を算出する実測基質濃度算出ステップと、
前記微生物代謝モデル式から基質の予測の基質濃度を算出する予測基質濃度算出ステップと、
前記実測基質濃度算出部において算出された実測の基質濃度と、前記代謝モデル部において算出される予測の基質濃度と、を比較して、前記予測の基質濃度が実測の基質濃度と合致するように前記代謝モデル式のパラメーターを更新するパラメーター更新ステップと、
前記更新されたパラメーターを適用した前記代謝モデル式から微生物の生成量を予測する微生物生成量予測ステップと、
を含む、培養工程における微生物生成量の予測方法。
【請求項7】
前記予測基質濃度算出ステップは、
既に獲得した培養液内の各成分の濃度データから代謝モデル式のパラメーターを推定し、
前記推定されたパラメーターを適用して、前記代謝モデル式から予測の基質濃度を算出することを特徴とする、請求項6に記載の培養工程における微生物生成量の予測方法。
【請求項8】
前記代謝モデル式は、
培養液内の大腸菌細胞の濃度を予測する濃度算出モデル式、基質であるグルコースの濃度を算出する基質濃度算出モデル式を含むことを特徴とする、請求項7に記載の培養工程における微生物生成量の予測方法。
【請求項9】
培養液内において微生物を培養する培養器と、
前記培養液のリアルタイムスペクトルを取得するスペクトル取得部と、
スペクトルデータから実測の基質濃度を算出するように学習された人口知能モデルである濃度実測モデル、前記微生物の代謝活動を規定する代謝モデル式を記憶させたメモリー装置と、
前記濃度実測モデルと代謝モデル式とから微生物生成量の予測値を算出する制御部と、
を備えてなり、
前記制御部は、
前記スペクトル取得部からスペクトルデータを転送されて前記濃度実測モデルに入力して実測の基質濃度を算出し、前記代謝モデル式から予測の基質濃度を算出して、実測の基質濃度と予測の基質濃度のデータから代謝モデル式のパラメーターを更新し、パラメーターの更新された代謝モデル式から微生物生成量の予測値を算出することを特徴とする、微生物培養生成量の予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の培養工程中に微生物の培養濃度をリアルタイムにて予測する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の環境にやさしい生産品を強調する世界的な流れの増加には目を見張るものがあり、これに伴い、石油、天然ガスなどの化石燃料に基づく単量体ではなく、リサイクル可能な原材料から作製されるバイオプラスチックの生産が増えつつある。
【0003】
バイオプラスチックは、生産過程における二酸化炭素の排出量が石油に基づくプラスチックよりも少なく、素材や製品によっては、数年以内に自然に分解されることにより、廃棄物の問題からも自由であるという長所がある。
【0004】
バイオプラスチックの生産のためには、微生物の増殖環境を整え、培養を用いて微生物の数を増やした後、細胞代謝を用いてバイオプラスチック原料を生産する段階を経る。このような過程において、微生物の増殖と物質代謝のための最適な成長環境を整えることが肝要である。
【0005】
微生物の餌として用いる基質の濃度、酸素の濃度、フィード注入方式、温度、pHなど微生物の種類に応じて色々な条件を考慮する必要があり、従来、これらの条件は、主として実験を通じて探り出していく方式を利用していた。しかしながら、実際の実験を通じてこれらの工程変数を合わせるのには多大な時間とコストがかかるという非効率性が問題として取り上げられている。
【0006】
かような背景の下で、培養工程中に微生物の濃度を測定するために、代謝モデル式を用いて、代謝モデル式のパラメーターを培養実験により推定したり、任意の初期値を設定し、代謝モデル式から工程中に微生物の濃度を予測したりする方法がある。
【0007】
しかしながら、このような従来の技術の場合、工程中の条件の変化などによって正確な推定を行うことができないという問題があり、このような問題を改善する方法が望まれるのが現状である。
【0008】
下記の特許文献には、関連する従来の技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】大韓民国特許出願第10-2020-7013036号公報
【特許文献2】大韓民国特許出願第10-2020-7004943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した問題を解決するために案出されたものであって、微生物の培養工程中にリアルタイムにて微生物の濃度情報を予測する方法及びシステムを提供するところにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明は、培養液内において微生物を培養する培養器と、前記培養液のリアルタイムスペクトルを取得するスペクトル取得部と、スペクトルデータから実測の基質濃度を算出するように学習された人口知能モデルである濃度実測モデル、前記微生物の代謝活動を規定する代謝モデル式を記憶させたメモリー装置と、前記濃度実測モデルと代謝モデル式とから微生物生成量の予測値を算出する制御部と、を備えてなり、前記制御部は、前記スペクトル取得部からスペクトルデータを転送されて前記濃度実測モデルに入力して実測の基質濃度を算出し、前記代謝モデル式から予測の基質濃度を算出して、実測の基質濃度と予測の基質濃度のデータから代謝モデル式のパラメーターを更新し、パラメーターの更新された代謝モデル式から微生物生成量の予測値を算出することを特徴とすることを特徴とする微生物培養生成量の予測システムを提供する。
【0012】
また、本発明は、微生物培養器の培養液のスペクトルデータを獲得する分光測定部と、前記スペクトルデータを濃度実測モデルに入力して、培養液内の実測の基質濃度を算出し、実測の基質濃度を用いて微生物代謝モデルのパラメーターを更新して、微生物の生成濃度を予測する微生物生成量予測部と、を備えてなる微生物培養濃度の予測装置を提供する。このとき、前記微生物生成量予測部は、前記スペクトルデータから実測の基質濃度を算出する基質濃度実測部と、前記微生物の代謝活動を規定する代謝モデル式から予測の基質濃度を算出する代謝モデル部と、前記実測の基質濃度と前記予測の基質濃度とから前記代謝モデル式のパラメーターを更新するパラメーター更新部と、を備えてなり、前記代謝モデル部は、前記パラメーター更新部において更新されたパラメーターを前記代謝モデル式に適用し、更新されたパラメーターが適用された代謝モデル式から微生物培養濃度の予測値を算出する微生物生成量予測部を備えていてもよい。
【0013】
さらに、前記基質濃度実測部は、前記スペクトルデータから基質の濃度を算出するようにマシンラーニングされた濃度実測モデルを含み、前記リアルタイムスペクトルデータを前記濃度実測モデルに入力して実測の基質濃度を算出することを特徴とする。このとき、前記代謝モデル式は、培養液内の大腸菌細胞の濃度を予測する濃度算出モデル式、基質であるグルコースの濃度を算出する基質濃度算出モデル式を含む。
【0014】
さらにまた、本発明は、微生物培養器の培養液のリアルタイムスペクトルを獲得するスペクトルデータ獲得ステップと、前記リアルタイムスペクトルデータを既に学習された濃度実測モデルに入力して、培養液内の実測の基質濃度を算出する実測基質濃度算出ステップと、前記微生物代謝モデル式から基質の予測の基質濃度を算出する予測基質濃度算出ステップと、前記実測基質濃度算出部において算出された実測の基質濃度と、前記代謝モデル部において算出される予測の基質濃度と、を比較して、前記予測の基質濃度が実測の基質濃度と合致するように前記代謝モデル式のパラメーターを更新するパラメーター更新ステップと、前記更新されたパラメーターを適用した前記代謝モデル式から微生物の生成量を予測する微生物生成量予測ステップと、を含む培養工程における微生物生成量の予測方法を提供する。
【0015】
このとき、前記予測基質濃度算出ステップは、既に獲得した培養液内の各成分の濃度データから代謝モデル式のパラメーターを推定し、前記推定されたパラメーターを適用して前記代謝モデル式から予測の基質濃度を算出することを特徴とし、前記代謝モデル式は、培養液内の大腸菌細胞の濃度を予測する濃度算出モデル式、基質であるグルコースの濃度を算出する基質濃度算出モデル式を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、代謝モデル式に従って微生物の培養濃度を算出するに当たって、リアルタイムの基質の濃度を用いて代謝モデル式のパラメーターを更新することにより、微生物の培養濃度の算出の正確度を向上させるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る微生物濃度予測システムのブロック図である。
図2】本発明に係る微生物濃度の予測の各手順を説明する図である。
図3】大腸菌の培養及び生成の代謝関係を示す代謝モデルである。
図4】本発明の実施形態における予測の基質濃度値と実測の基質濃度値を示す図である。
図5】本発明に係るパラメーターの更新された代謝モデル式に従った各成分の予測濃度値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、添付図面に基づいて、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように本発明の実施の形態について詳しく説明する。しかしながら、本発明は、種々の異なる形態に具体化可能であり、ここで説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。なお、図中、本発明を明確に説明するために、説明とは無関係な部分は省略し、明細書の全般に亘って、類似の部分には類似の図面符号を付している。
【0019】
本発明において、学習または訓練とは、人口知能の技術分野において入力値に対して所定の出力値を有するようにするコンピューターアルゴリズムまたはそのようなアルゴリズムがニューラルネットワークの形態として実現されたニューラルネットワークを学習させることを意味し、コンピューター演算装置によるニューラルネットワークアルゴリズムを行う過程の一つのことをいう。また、本発明において所定の「モデルの生成」とは、前記学習される前のニューラルネットワークまたはそれを実現したコンピューターアルゴリズムを学習して、入力値に対して所望の出力値を生成するように学習が完了したコンピューターアルゴリズムを生成することを意味する。
【0020】
本発明は、培養器における微生物培養濃度の予測方法及びシステムに関する。
【0021】
より具体的には、本発明は、遺伝子操作を通じて物質代謝の経路が把握された微生物の培養濃度の予測に関し、微生物の餌として用いられる基質を培養器に供給し、培養液内の基質のリアルタイムスペクトルが得られる分光測定器を備える。また、分光測定器のリアルタイムスペクトルデータを学習して基質の実測の濃度が算出可能な既に学習されたマシンラーニングアルゴリズムを含んでなり、把握された物質代謝の経路に基づく代謝モデル式を用いて、基質の濃度及び微生物の濃度を予測するコンピューターアルゴリズムを含む。本発明は、前記算出した基質の実測の濃度を前記代謝モデル式を用いた基質濃度の予測値と比較して、最適化アルゴリズムを用いて代謝モデル式のパラメーターを更新し、更新されたパラメーターを代謝モデル式に適用して微生物の濃度を予測する方法及びシステムを含む。
【0022】
本発明によれば、代謝モデル式に基づいて微生物の濃度を予測する場合、パラメーターの設定値が初期の設定値に固定されることを改善して、スペクトルデータを用いた基質の濃度をリアルタイムにて測定して、これに基づいて、代謝モデル式のパラメーターを更新することにより、より正確な代謝モデル式に基づく濃度の予測技法を提供する。
【0023】
以下、添付図面に基づいて、本発明について詳しく説明する。
【0024】
1.本発明に係る微生物培養濃度の予測システム
図1に基づいて、本発明に係る微生物培養濃度の予測システムについて説明する。
【0025】
本発明の微生物培養濃度の予測システムは、微生物培養器10をはじめとして、微生物培養器の培養液のリアルタイムスペクトルデータを獲得する分光測定器20と、前記リアルタイムスペクトルデータを既に学習された濃度予測モデルに入力して、培養液内の実測の基質濃度を算出する基質濃度実測部31と、前記微生物代謝モデルを搭載し、代謝モデルに従った基質の濃度を算出する代謝モデル部32と、前記実測基質濃度算出部において算出された実測の基質濃度と、前記代謝モデル部において算出される予測の基質濃度と、を比較して、前記予測の基質濃度が実測の基質濃度と合致するように前記代謝モデル部の代謝モデルのパラメーターを算出しかつアップデートするパラメーター算出部33と、を備えてなり、前記アップデートされたパラメーターを適用して、前記パラメーターのアップデートされた代謝モデルから微生物の生成量を予測する微生物生成量予測部30と、を備えてなる。
【0026】
本発明の実施形態における微生物は、大腸菌を意味することがある。
【0027】
1.1.培養部10
本発明の微生物培養部は、通常の培養器の各構成要素に加えて、培養が行われる培養室内の溶存酸素の濃度を測定する溶存酸素センサー11と、グルコースのフィード量を測定するフィード量測定部12と、培養液のボリュームを測定するボリューム測定部13と、を備えてなる。
【0028】
(1)溶存酸素センサー11
溶存酸素センサーは、培養室内の溶存酸素の濃度を測定して制御部に伝送する。
【0029】
(2)フィード量測定部12
培養室に供給されるグルコースのフィード量を制御部に伝送する。
【0030】
(3)ボリューム測定部13
培養室内の培養液の体積を測定して制御部に伝送する。
【0031】
1.2.分光測定部20
培養器内の培養液のスペクトルデータを獲得する構成要素であって、公知の分光測定器を用いて培養液のスペクトルデータを獲得する。
【0032】
1.3.微生物生成量予測部30
微生物生成量予測部は、前記スペクトルデータから算出する実測の基質濃度から微生物代謝モデルを定義する代謝モデル式のパラメーターを算出し、算出したパラメーターを適用して微生物代謝モデル式から微生物の濃度を予測することにより、微生物の生成量を予測する。微生物生成量予測部は、予測した微生物の濃度としての生成量を出力し、これを活用して培養器の工程制御変数を調整して出力する。
【0033】
微生物生成量予測部30は、物理的には、濃度実測モデル、代謝モデル式、最適化アルゴリズムを記憶させるメモリー装置及びこれらから実測の基質濃度の算出、微生物濃度の算出、パラメーターの算出/更新などの演算を行う制御部プロセッサーを備えてなり得る。
【0034】
(1)基質濃度実測部31
培養液のスペクトルデータから実測の基質濃度を実測する構成要素である。基質濃度実測部は、培養液のスペクトルデータから基質の濃度を算出するようにマシンラーニングされた濃度実測モデルを搭載し、これから実測の基質濃度を算出する。
【0035】
基質濃度実測部は、培養液のスペクトルデータから基質の濃度を算出する部分的最小二乗(PLS:Partial Least Squares)モデルなどの公知の予測モデルを濃度実測モデルとして搭載することにより、スペクトルデータを入力されてこれから基質の濃度を算出する。本発明においては、スペクトルデータから濃度実測モデルを用いて算出した基質の濃度値を実測の基質濃度と定義する。
【0036】
(2)代謝モデル部32
微生物生成量予測部30は、代謝モデル部32を備える。代謝モデル部は、微生物培養の代謝活動を規定する代謝モデル式に従った基質の濃度を算出するコンピューターにて起動可能なアルゴリズムを代謝モデル式として搭載する。代謝モデル部に搭載された代謝モデル式としての基質濃度算出モデル式は、所定のパラメーターを含み、微分方程式により表わされる物質均衡方程式を含み、代謝モデル部において算出される培養液の各成分の濃度は、本発明において予測濃度と定義する。
【0037】
代謝モデル部は、2種類の出力値を出力する。
【0038】
まず、第一番目は、培養実験を通じて獲得した各成分の濃度値から代謝モデル式のパラメーターを推定し、推定されたパラメーターを基質濃度算出モデル式に適用して演算した予測の基質濃度値を出力する。予測の基質濃度値は、後述するパラメーター更新部において実測の基質濃度と比較されてパラメーターの更新に適用される。
【0039】
第二番目は、後述するパラメーター更新部から更新されたパラメーターを受信して代謝モデル式の微生物細胞濃度モデル式に適用して、更新されたパラメーターを有する微生物細胞濃度モデル式による微生物濃度の予測値を微生物の生成量として算出して出力する。
【0040】
(3)パラメーター更新部33
パラメーター更新部は、前記算出した実測の基質濃度と予測の基質濃度を用いて代謝モデル式の各パラメーターを更新し、更新されたパラメーターを代謝モデル部に転送する。代謝モデル式のパラメーターの更新は、実測の基質濃度値と予測の基質濃度値とが最大限に合致するように更新され、その方法の詳細については、後述する本発明の微生物培養濃度の予測方法の欄において説明する。
【0041】
2.本発明に係る培養液内の微生物培養濃度の予測方法
本発明に係る培養液内の微生物培養濃度の予測方法は、前述した微生物培養濃度の予測システムの各構成部が行う手順から構成される。図2に基づいて、各手順について説明する。
【0042】
(1)リアルタイムスペクトルデータ獲得ステップ(S10)
分光測定部20において培養部の培養液からリアルタイムのスペクトルデータを獲得するステップである。
【0043】
(2)実測基質濃度算出ステップ(S20)
獲得したリアルタイムスペクトルデータを基質濃度実測部に入力して、基質の濃度を実測するステップである。リアルタイムスペクトルデータは、基質濃度実測部31の既に学習された濃度実測モデルに入力され、実測の基質濃度値を出力する。
【0044】
(3)予測基質濃度算出ステップ(S30)
代謝モデル部に搭載された基質濃度代謝モデル式に従って、予測の基質濃度を算出する。予測の基質濃度は、後述する培養実験を通じて既に獲得した培養液内の各成分の濃度データを微分方程式と速度方程式とから構成される代謝モデル式に代入し、公知の最適化技法を用いて代謝モデル式のパラメーターを推定する。
【0045】
最適化アルゴリズムとしては、最小二乗法&重み付き最小二乗法、最急降下法(Gradient Descent)探索法、ニュートン法(ニュートン・ラフソン法)、ガウス・ニュートン法、レーベンバーグ・マルカート(Levenberg-Marquardt)法、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)、アントコロニー最適化(Ant Colony Optimization;ACO)、焼きなまし法(Simulated Annealing;SA)、メメティックアルゴリズム(memetic algorithm;MA)、進化演算法、進化戦略(Evolutionary Strategy)法、進化的プログラミング(Evolutionary Programming)などが知られており、本発明は、特定のアルゴリズムに限定して適用するものと何ら解釈されない。
【0046】
この後、推定されたパラメーターを代謝モデル式に代入して、基質濃度代謝モデル式から予測の基質濃度を算出する。
【0047】
(4)パラメーター更新ステップ(S40)
実測の基質濃度値と前記算出された予測の基質濃度値を用いて、代謝モデル部32の代謝モデル式のパラメーター値を更新する手順である。
【0048】
パラメーターの更新は、時系列的な実測の基質濃度値を前記予測の基質濃度値と比較して、遺伝的アルゴリズムなどの公知の最適化アルゴリズムを適用して代謝モデルに従った予測の基質濃度と実測の基質濃度とが最適に合致されるように、先に予測基質濃度算出ステップにおいて推定された代謝モデル式の各パラメーター値を更新するステップである。
【0049】
(4)微生物生成量予測ステップ(S50)
パラメーター値が更新された微生物細胞濃度代謝モデル式から微生物の濃度を算出することにより、微生物生成量の予測値を出力する手順である。
【0050】
<実施例>
本発明に係る実施例について説明する。
【0051】
(1)スペクトルデータの獲得及び実測の濃度の算出
まず、培養器から取得したスペクトルデータから、公知のPLSモデルまたは培養実験を通じて確保した培養液内の基質の濃度値とスペクトルデータを学習データとしてマシンラーニングを行った実測基質濃度算出モデルに時系列的に獲得するスペクトルデータを入力して、基質の実測濃度を時系列的に算出する。
【0052】
前記培養実験は、下記のような培養実験条件を有する実験として行われた。
【0053】
<パラメーターの推定及び実測基質濃度算出モデルの学習のための培養実験条件>
Strain(菌株):E.Coli W3110
初期の乾燥菌体重量(DCW:Dry Cell Weight):0.1887g/L
初期の基質の濃度:20g/L
培養温度:35℃、
培養器の回転数:500~900rpm
培養液pH:6.95(22.2% NHOH(アンモニア水:pH調節用液))
フィード速度:10hr後に50ml/hにて連続フィード(/10hrの以前にはフィードしない)
フィード溶液:グルコース700g/L、MgSO(硫酸マグネシウム)15g/L、微量金属溶液10ml/L
【0054】
(2)代謝モデル式パラメーターの算出及び予測の基質濃度の算出
<本発明に適用した代謝モデル式>
本発明の実施例においては、大腸菌代謝モデル式が代謝モデル部に搭載され、代謝モデル式は、培養液内の大腸菌細胞濃度算出モデル式(数式1)、基質であるグルコースの濃度を算出する基質濃度算出モデル式(数式2)、生成されるアセテート濃度算出モデル式(数式3)、溶存酸素量を算出する溶存酸素濃度算出モデル式(数式4)を含み、前記大腸菌、グルコース、アセテートの濃度、溶存酸素量を算出する均衡方程式及び速度方程式から構成される。
【0055】
本発明の実施例において適用した大腸菌代謝モデル式は、Modelling overflow metabolism in Escherichia coli by acetate cycling, Biochemical Engineering Journal 125 (2017) 23-30, Emmanuel Anane, et, al.において提案された大腸菌の培養と関係している巨視動力学的なモデル(図3(a))及びアセテート循環システムモデル(図3(b))に基づく。
【0056】
【数1】
【0057】
【数2】
【0058】
【数3】
【0059】
【数4】
【0060】
(Xは、大腸菌細胞の濃度、Sは、基質であるグルコース(substrate:Glucose)の濃度、Aは、アセテート(acetate)の濃度、Fは、供給量(feed)、Vは、体積(volume)、μは、増殖速度定数、qsoxは、酸化代謝を通じたグルコースの摂取速度、qsofは、過剰代謝を通じたグルコースの摂取速度、qsAは、アセテート代謝を通じたグルコースの摂取速度、qは、細胞保持定数、Yemは、細胞保持を除いた収率、Yxsofは、細胞/グルコースの過剰代謝の経路を通じた生成収率、Yxaは、アセテート/細胞の生成収率、qsmaxは、最大グルコース摂取速度定数、Kia、Kは、それぞれアセテートによるグルコースの摂取阻害定数、グルコースによるアセテートの摂取阻害定数、qsoxは、酸化代謝を通じたグルコースの摂取速度、qsofは、過剰代謝を通じたグルコースの摂取速度、PAmaxは、最大アセテート生成速度定数、Kは、酸素消費の親和定数、Kapは、細胞内のアセテートの生産の飽和定数(モノッドタイプ)、qは、アセテートの消費速度、pは、アセテートの生成速度、qsAは、アセテート代謝を通じたグルコースの摂取速度、qsofは、過剰代謝を通じたグルコースの摂取速度、Yasは、過剰代謝を通じたアセテートの生成収率(アセテート/グルコース)、qAmaxは、最大アセテート摂取速度定数、Kisは、グルコースによるアセテートの摂取阻害定数、Ksaは、アセテート消費の親和定数、DOTは、酸素飽和度(%)=DO/DO DOは、溶存酸素の濃度(mg/L)、DOは、与えられた工程条件における培養液の飽和溶存酸素の濃度(mg/L)、KLaは、酸素移動係数、qは、酸素の消費速度、Hは、ヘンリーの法則定数(Henry’s law constant)、Yosは、グルコース/酸素の消費比率(収率)、Yoaは、アセテート/酸素の生成収率、qsoxは、酸化代謝を通じたグルコースの摂取速度、qは、細胞保持定数を示す。)
【0061】
他の実施例として、上記の数式のうち、数式3において、
【数5】
は、
【数6】
に置き換え可能である。
【0062】
<代謝モデル式パラメーターの算出>
前記培養実験を通じて獲得したデータを前記大腸菌代謝モデル式に代入し、公知の最適化技法のうち、遺伝的アルゴリズム(genetic algorithm)を適用して推定した。推定した各パラメーター値は、下記の表の通りである。
【0063】
【表1】
【0064】
<予測の基質濃度の算出>
前記推定したパラメーターを上記の数式2に適用して、予測の基質濃度を算出した。
【0065】
(3)パラメーターの更新
培養液のスペクトルデータから獲得した実測の基質濃度と、前記代謝モデル式から算出した予測の基質濃度と、を比較して、代謝モデル式のパラメーターを更新した。実測の基質濃度と数式2による基質代謝モデル式に従った基質の濃度との差が最小になるように、公知の最適化アルゴリズムのうち、遺伝的アルゴリズム(genetic algorithm)を適用して、代謝モデル部の数式1~4の代謝モデル式のパラメーターを更新した。
【0066】
図4は、培養実験データから推定したパラメーターを用いた予測の基質濃度値Estimated_Sと、スペクトルデータから獲得した実測の基質濃度値Meaured_Sを示すグラフである。
【0067】
(4)大腸菌細胞の濃度の予測値の算出
パラメーター値を更新した後、パラメーターの更新された細胞濃度代謝モデル式から大腸菌細胞の濃度を予測した。図5は、パラメーターを更新した代謝モデル式から予測した予測の基質濃度Predicted_S、予測のアセテート濃度Predicted_A、予測の大腸菌細胞濃度Predicted_Xの値を示したグラフである。
【0068】
以下には、本発明の説明の欄及び図面において用いられた各部の名称を記す。
【符号の説明】
【0069】
10…培養部
20…分光測定部
30…生成量予測部
31…基質濃度実測部
32…代謝モデル部
33…パラメーター更新部
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】