(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】ターボバースト超高速レーザパルスによる材料処理
(51)【国際特許分類】
C03B 33/09 20060101AFI20240426BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240426BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20240426BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240426BHJP
【FI】
C03B33/09
B23K26/53
B23K26/064 A
B23K26/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570242
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(85)【翻訳文提出日】2024-01-09
(86)【国際出願番号】 US2022029299
(87)【国際公開番号】W WO2022241282
(87)【国際公開日】2022-11-17
(32)【優先日】2021-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】3050 Bowers Avenue Santa Clara CA 95054 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ホッセイニ, エス. アッバス
【テーマコード(参考)】
4E168
4G015
【Fターム(参考)】
4E168AE02
4E168CB02
4E168DA32
4E168DA37
4E168DA38
4E168DA40
4E168DA45
4E168DA46
4E168DA47
4E168DA54
4E168EA05
4E168EA13
4E168JA14
4G015FA06
4G015FB01
4G015FC14
(57)【要約】
レーザで透明な材料をスクライビングするための方法が提供される。方法は、レーザと透明な材料との間で相対移動を行うことと、透明な材料のスクライビングのスピードを確立するために、kHz範囲内の第1のパルス繰返しレートでレーザをパルス出力することと、MHz範囲内の第2のパルス繰返しレートを有する一連の第2のレーザパルスで、前記第1のレーザパルスのそれぞれを形成することとを含み、前記第2のレーザパルスのそれぞれが、GHz範囲内の第3のパルス繰返しレートを有する一連の第3のレーザパルスから形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザで透明な材料をスクライビングするための方法であって、
前記レーザと前記透明な材料との間で相対移動を行うステップと、
前記透明な材料のスクライビングのスピードを確立するために、kHz範囲内の第1のパルス繰返しレートで前記レーザをパルス出力するステップと、
MHz範囲内の第2のパルス繰返しレートを有する一連の第2のレーザパルスで、第1のレーザパルスのそれぞれを形成するステップとを含み、
前記第2のレーザパルスのそれぞれが、GHz範囲内の第3のパルス繰返しレートを有する一連の第3のレーザパルスから形成される、方法。
【請求項2】
前記レーザを集束させることが、空気中で光学破壊を引き起こすためのレンズ組合せを通過して前記レーザをパルス出力することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザをパルス出力することが、長い焦点深度をもたらすレーザビームにおける球面収差を誘起するためのレンズ組合せを通過して前記レーザをパルス出力することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザをパルス出力することが、長い焦点深度を生じさせる回折光学組合せを通過して前記レーザをパルス出力することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザをパルス出力することが、長い焦点深度を生じさせるアキシコン光学素子を通過して前記レーザをパルス出力することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
kHz範囲内の第1のパルス繰返しレートで前記レーザをパルス出力することが、1kHzと100kHzとの間の第1のパルス繰返しレートで前記レーザをパルス出力することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
MHz範囲内の第2のパルス繰返しレートを有する一連の第2のレーザパルスで、前記第1のレーザパルスのそれぞれを形成することが、30MHzと80MHzとの間の第2のパルス繰返しレートを有する一連の第2のレーザパルスで、前記第1のレーザパルスのそれぞれを形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
一連の第2のレーザパルスで、前記第1のレーザパルスのそれぞれを形成することが、前記第2のレーザパルスのそれぞれをナノ秒間隔を有するように間隔を空けることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
一連の第3のレーザパルスで前記第1のレーザパルスのそれぞれを形成することが、1から10GHzの範囲内の第3のパルス繰返しレートを使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のレーザパルスのそれぞれを間隔を空けることが、前記第3のレーザパルスのそれぞれをピコ秒間隔を有するように間隔を空けることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
レーザで透明な材料をスクライビングするための方法であって、
前記レーザと前記透明な材料との間で相対移動を行うことと、
パルス間がピコ秒間隔である超高速パルスレートで前記レーザをパルス出力することとを含む、方法。
【請求項12】
レーザで透明な材料をスクライビングするための方法であって、
前記レーザと前記透明な材料との間で相対移動を行うことと、
次のバースト内のパルスバーストが、前記透明な材料内の前のパルスバーストを消滅させ、イオン化を通じて自由電子を作り出すことができるように、パルス間がピコ秒間隔であるGHz範囲内の超高速パルスレートで前記レーザをパルス出力することと、を含む、方法。
【請求項13】
透明な材料をスクライビングするためのシステムであって、
超高速レーザと、
前記透明な材料にわたって配置されたレンズ鏡筒とを含み、
前記超高速レーザが、空気中の光学破壊に基づいて前記透明な材料上に集束領域を形成するようにパルス出力される、システム。
【請求項14】
第1の繰返しレートがKHz範囲内にあり、第2の繰返しレートがMHz範囲内にあり、第3の繰返しレートがGHz範囲内にある、3つの異なる繰返しレートで前記超高速レーザがパルス出力する、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記レンズ鏡筒が、レンズの組合せ、回折光学組合せ、またはアキシコン光学素子のうちの1つを含む光学組合せを含む、請求項13に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は一般に、レーザスクライビング産業に関する。より詳細には、本明細書に記述されている実施形態は、GHzおよびMHzbバーストを短い持続時間のレーザパルスと組み合わせて透明な材料をスクライビングするためのシステムおよび方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ガラスは、近代文明が形成されて以来、非常に戦略的な材料である。建築用から自動車および航空宇宙用まで、マイクロエレクトロニクスから半導体まで、ガラスは多くの産業をまたぐ重要なプレーヤである。ガラスは、多くの用途に対して必須の材料であり続けるが、成功するためには精密なレーザスクライビングが必要である。
【0003】
ガラスのレーザスクライビングは数十年の間、課題を残し続けている。一般的に、これまでの手法では、ガラス片をカットするために、可能な限り最も尖鋭なV字形状の表面アブレーションを作ろうとしていた。そのような方法は、ゆっくり進み、しかも、カーフ幅、および、アブレーションラインに沿った亀裂形成が、大きくなる傾向があった。別のさらに後に開発された方法は、CO2レーザ加熱構成と冷却ノズルを利用した。この方法は、破片がわずかしかないか全くない状態で切り口を生じさせ、真っ直ぐな切り口には優れていたが、湾曲ラインをカットするには適していなかった。
【0004】
ステルスダイシングと称されるさらに別の方法では、レーザパルスをきっちりと集束させて、ガラス材料のバルクの内部に光学破壊を作り出す。これにより、ガラスサンプルの内部に恒久的な損傷を引き起こすボイドが作り出される。ガラスなどのより厚い材料をカットするためには、複数の層の内部損傷を作り出す複数のスキャンを行う必要がある。しかしながら、ガラス材料の内部の光学破壊に必要とされるプラズマ量が原因で生じる表面粗さは産業にとって魅力的ではない。したがって、ガラスのレーザスクライビングのための改善されたシステムおよび方法が、当技術分野において必要である。
【発明の概要】
【0005】
いくつかの実施形態では、レーザで透明な材料をスクライビングするための方法が提供される。方法は、レーザと透明な材料との間で相対移動を行うことを含む。第1のセットのレーザパルスは、透明な材料のスクライビングのスピードを確立するために、kHz範囲内の第1のパルス繰返しレートでパルス出力される。前記第1のレーザパルスのそれぞれは、MHz範囲内の第2のパルス繰返しレートを有する一連の第2のレーザパルスで形成される。前記第2のレーザパルスのそれぞれは、GHz範囲内の第3のパルス繰返しレートを有する一連の第3のレーザパルスから形成される。
【0006】
いくつかの実施形態では、レーザで透明な材料をスクライビングするための方法が提供される。方法は、レーザと透明な材料との間で相対移動を行うことと、パルス間がピコ秒間隔であるGHz範囲内の超高速パルスレートでレーザをパルス出力することと、を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、レーザで透明な材料をスクライビングするための方法が提供される。方法は、レーザと透明な材料との間で相対移動を行うことと、次のバーストにおけるパルスバーストが、透明な材料内の前のパルスバーストを消滅させ、イオン化を通じて自由電子を作り出すことができるように、パルス間がピコ秒間隔であるGHz範囲内の超高速パルスレートでレーザをパルス出力することと、を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、透明な材料をスクライビングするためのシステムが提供される。システムは、超高速レーザと、透明な材料にわたって配置されたレンズ鏡筒とを含み、超高速レーザは、空気中の光学破壊に基づいて透明な材料上に集束領域を形成するようにパルス出力される。
【0009】
本開示の上記で列挙した特徴を詳細に理解することができる様式で、その一部が添付図面に示される実施形態を参照することにより、上記で簡潔に要約した本開示のより具体的な説明を得ることができる。しかしながら、添付図面は例示的実施形態を例証しているに過ぎず、したがって、発明の範囲を限定するものとみなされるべきではなく、他の等しく有効な実施形態を許容することができることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】いくつかの実施形態による、レーザスクライビングシステムの概略設計を示す図である。
【
図2】いくつかの実施形態による、ターボバーストによるレーザパルス列の概略図である。
【
図3】いくつかの実施形態による、光学破壊に基づいて焦点を作り出すための方法を示す図である。
【
図4】いくつかの実施形態による、回折光学素子を使用して焦点を作り出すための方法を示す図である。
【
図5】いくつかの実施形態による、アキシコン素子を使用して焦点を作り出すための方法を示す図である。
【
図6】いくつかの実施形態による、劈開の前にターボバースト超高速パルスを使用してスクライビングした後のガラス材料の上面およびエッジ図を示す概略図である。
【
図7】いくつかの実施形態による、スクライビングおよび劈開の後のガラス材料の概略小面図である。
【
図8】いくつかの実施形態による、従来のバースト超高速パルスを使用してスクライビングした後の粗さ測定の概略小面図である。
【
図9】いくつかの実施形態による、ターボバースト超高速パルスを使用してスクライビングした後の粗さ測定の概略小面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
理解を容易にするため、可能な場合には、図に共通である同一の要素を示すために、同一の参照番号を使用した。1つの実施形態の要素および特徴は、さらなる詳述なく他の実施形態に有益に組み込むことができることが企図されている。
【0012】
本明細書に記述されている実施形態は、GHzおよびMHzバーストを短い持続時間のレーザパルスと組み合わせて透明な材料をスクライビングするためのシステムおよび方法を提供する。システムの1つの実施形態は、超高速レーザと、透明な材料にわたって配置されたレンズ鏡筒とを含み、超高速レーザは、空気中の光学破壊に基づいて透明な材料上に集束領域を形成するようにパルス出力される。1つの例示的な実施形態では、レーザは、透明な材料の出射面と一致する位置において集束される。
【0013】
本明細書において全体的に記述されている超高速レーザは、ピコ秒の持続時間で超短波パルスを発生させることができるレーザである。本明細書において全体的に記述されている光学破壊は、レーザ強度がイオン化しきい値よりも高いレベルに到達するようにさせる光イオン化プロセスである。この現象は、超高速レーザが透明な材料において集束され、光イオン化によってプラズマを作り出すときに起こる。いくつかの実施形態では、光イオン化プロセスにおいて、自由電子の密度が臨界クランプ強度値を通過すると、レーザパルスエネルギーは、透明な材料によって十分に吸収され、作り出されたプラズマの量は、パルスエネルギーの増加と共に増加し始める。さまざまな例では、クランプ強度値は、約1020W/cm3である。
【0014】
いくつかの実施形態では、レンズ鏡筒は、レンズの組合せ、回折光学組合せ、またはアキシコン光学素子を含み得る光学組合せを含む。第1のセットのレーザパルスは、透明な材料のスクライビングのスピードを確立するために、kHz範囲内の第1の繰返しレートでパルス出力される。前記第1のレーザパルスのそれぞれは、MHz範囲内の第2のパルス繰返しレートを有する一連の第2のレーザパルスで形成される。前記第2のレーザパルスのそれぞれは、GHz範囲内の第3のパルス繰返しレートを有する一連の第3のレーザパルスから形成される。
【0015】
いくつかの実施形態では、第1のレーザ繰返しレートは、1kHzと100kHzの間である。第2のパルス繰返しレートは、30MHzと80MHzの間である。第2のレーザパルスの間隔は、ピコ秒範囲内である。
【0016】
一般に、強烈なレーザパルスの相互作用には、2つの明確な方式、すなわち、レーザフィラメンテーションおよび光学破壊がある。透明な媒体の内部できっちりと集束されたレーザビームは、幾何学的な焦点の周りに局所的な高密度のプラズマを形成するものであり、結果として光学破壊をもたらす。プラズマ発生のメカニズムは、最初の電子の多光子励起、それに続く逆制動放射線、衝撃イオン化、および電子なだれプロセスに基づく。そのようなプロセスは、屈折率およびボイド形成プロセスを強調するものであり、アブレーションなどの材料処理のほとんどの短パルスレーザ用途の基礎を形成する。従来のレーザパルスを使用する光学破壊方式では、透明な材料の個片化、ダイシング、スクライビング、劈開、カッティング、および小面処理は、ゆっくりとした処理スピード、亀裂の発生およびアブレーション破片による汚染、ならびに大きなカーフ(溝)幅などの欠点を有する。
【0017】
対照的に、レーザフィラメンテーション方式は、アブレーションまたは表面損傷を回避し、劇的にカーフ幅を低減し、亀裂の発生を回避し、そのようなスクライビング用途での処理時間を迅速化することができる透明な材料の内部レーザ処理のための新たな方向を提供する。さらに、高い繰返しレートのレーザは、焦点体積からの熱拡散よりも速い時間スケールで、材料の熱蓄積および他の過渡応答を伴うレーザビームフィラメントの形成を高める新たな方向を規定する。
【0018】
本明細書で提示されるさまざまな実施形態は、短い持続時間のレーザパルス(例えば、<100ps)を利用して、透明な材料または媒体の内部に1ミクロン未満の局所的な損傷ゾーンを発生させる。超高速レーザは、典型的にはフェムト秒レーザ加工において適用および使用される厳しい光学集束条件において、容易に生じさせることができる透明な媒体ターゲットの上面での光学破壊などの、高密度のプラズマ発生を回避する。光学破壊方式が超高速MHz-GHzレーザパルスと組み合わせて使用され、レーザの焦点がターゲット材料の出射面で調整される場合、材料を単一化したときにアブレーションの破片および亀裂が回避される。
【0019】
このプロセスは、いかなるターゲットもない空気中で光学破壊を作り出すために集束される第1の組合せ超高速MHz-GHzレーザパルスによって、調整される。光学破壊の位置は、ターゲットの出射面で重なるように調整される。超高速レーザビームがターゲット上面に入るやいなや非線形のカー効果が発生する。レーザの自己集束メカニズムは、ビームを自然に集束させて、ターゲットの上部から底部までをカバーするおおよそ200nm未満で集束する。非線形のカー効果により、従来の焦点深度を大幅に超える拡張されたレーザ相互作用の焦点体積が作り出されて、通常は小さな自己集束ビームウェストからビームを発散させる光回折を克服する。
【0020】
そのような高い繰返しレートでの1つの非限定的な発現では、吸収されたレーザエネルギーを熱拡散が除去するためのレーザパルス間の時間(例えば、10から200ns)は十分ではないため、熱が各レーザパルスで局所的に蓄積される。このようにして、相互作用体積の温度は、その後のレーザパルス中に上昇して、より効率的な加熱およびより少ない熱サイクルでレーザ相互作用がもたらされる。この領域では、もろい材料はより延性が高くなって亀裂形成を軽減し、細長いボイドゾーンにおいて局所的に滑らかな溶融が起こる。
【0021】
いくつかの実施形態では、おおよそ400ピコ秒間隔(2.5GHz)の超高速パルスのバーストが使用される。ガラスなどの透明な材料と相互作用するためにGHzバーストの超高速パルスを使用することにより、極端なスピードの入力パルス、および、MHzバースティングと比較してより速く起こる多光子イオン化がもたらされる。一般に、材料内の電子の多光子イオン化は、約10フェムト秒の時間スケールで発生する。電子と電子の相互作用は、100フェムト秒未満で起こる。自由発生電子は、1ピコ秒の時間スケールでフォノンと相互作用する。さらに、フォノンとフォノンの相互作用は、100ピコ秒の時間スケールで発生する。自由電子の寿命は、数ナノ秒の桁である。これは、材料を400ピコ秒ステップで衝撃を与えることが重要であることを明確に示している。バーストの第1のパルスによって発生した自由電子がバーストの最後のパルスを消滅させる前に、最後のパルスは既にターゲット内に到達し、イオン化を通じてより多くの自由電子を作り出している。これらのフォノンとフォノンの相互作用の超高速時間スケールにより、ナノメートルのスケールの溶融形成をもたらす非常に局所的なプラズマの発生に向かわせる、効率的なパルスエネルギーが発生する。超高速レーザビームの真下に透明な材料のターゲットを移動させることにより、異なるスクライビング経路を作り出すことができる。溶融ゾーンは、内部スクライビングとして使用することができるレーザ伝播経路内に弱い結合を作り出す。
【0022】
別の実施形態では、透明な材料の内部にさらなるパルスエネルギーを堆積させるために、MHz範囲内のパルスのバーストが、おおよそ15nsのパルスとパルスの間隔で使用される。このバーストにおける各パルスは、約400psの間隔の約2から10のパルスからなる。3つの異なる繰返しレートで超高速レーザがパルス出力することに留意されたい。レーザの第1および基本の繰返しレートは、おおよそ100kHzに設定される。これはスクライビングスピードに影響する。例えば、スクライビングスピードが250mm/sに設定され、レーザの繰返しレートが100kHzに設定された場合、2.5ミクロンごとにレーザパルスがターゲットに当たることになる。第2の繰返しレートは、MHzのバーストレートである。商用レーザは典型的には40から80MHzのシーダを有し、すなわち、パルスとパルスの間隔は、12.5nsから25nsの範囲内となることに留意されたい。第3の繰返しレートは、GHzバーストの繰返しレートである。再生式増幅器を備える超高速レーザは、そのような高周波バーストを発生させるように設定されることが可能である。いくつかの実施形態では、範囲は約1から10GHzであり、例えば、400psのパルスとパルスの間隔となる2.5GHzである。
【0023】
本明細書に記述されているシステムおよび方法は、ガラス、結晶、セラミック、ポリマー、液封入デバイス、多層材料またはデバイス、および複合材料のアセンブリを含む任意の透明な媒体に適用可能である。本開示では、全般的に記述されている透明性は、可視スペクトルに限定されるものではなく、真空紫外、紫外、可視、近赤外、または赤外スペクトルのレーザ波長にも透明な任意の材料を表すことをさらに理解されたい。
【0024】
以下の詳細な説明をより良好に理解することができるように、上述により、本開示のより適切かつ重要な特徴をかなりおおまかに説明してきた結果、当技術分野に対する本貢献をより完全に理解することができる。開示された概念および特定の実施形態を、本開示の同じ目的を成し遂げるための他の構造を修正または設計するための基礎として容易に利用することができることが当業者によって理解されるべきである。そのような等価の構造物が添付の特許請求の範囲に明記された本開示の趣旨および範囲から逸脱しないことも、当業者によって理解されるべきである。
【0025】
図1は、いくつかの実施形態による、レーザスクライビングシステムの概略設計である。短い持続時間のターボバーストレーザパルス1.1は、透明な材料またはプレート1.3の内部で、レンズ鏡筒1.2を用いて集束される。適切なレーザパルスエネルギーで、細長い集束領域1.4が形成される。この領域は、透明な材料の底面からプレート1.3の上面までをカバーし、相互作用ゾーンとして知られている。例として、1mm厚のガラスをスクライビングするために、相互作用ゾーンは、スクライブラインに沿って200nm未満の幅と、1mmの高さを有する。ガラスの特性は、強力なプラズマの発生により、この領域において修正されて、ガラスを切り開きやすくする。劈開は、熱または化学的強化ガラスに対して自然に行うことができるが、ソーダ石灰のようないくつかのガラスは、機械的な曲げ、または、炎もしくはCO2レーザビームによって発生した熱、によって切り開くことができる。
【0026】
図2は、いくつかの実施形態による、ターボバーストによるレーザパルス列の概略図である。レーザパルス列20は、3つの異なるレーザ繰返しレートを有する。第1の繰返しレートは、標準のレーザ繰返しレートである。このレートは、スクライビングスピードに影響する。いくつかの実施形態では、繰返しレートが1kHzから100kHzの超高速レーザが使用されてもよい。2.5ミクロンに相互作用ステップを設定すると、1kHzは2.5mm/secのスクライビングスピードと等価であり、100kHzは250mm/secのスクライビングスピードと等価である。250mm/secのスクライビングスピードは、ラインスクライビングまたは全体的により大きなサイズのスクライビングに特に有用であるが、より遅いスピードは、より小さい形状のスクライビングに適している。レーザ繰返しレートは、一般に、100kHzに設定することができる。レーザと一体化された運動ステージエンコーダは、パルスを採取するためのゲート信号を発生させる。例として、スクライビングスピードが100mm/secに設定されると、ゲート信号は、1つのレーザパルスを採取し、次のレーザパルスを無視する。スマートガラスレンズなどのスプライン形状を作るために、角部における運動を減速させ、エンコーダは位置を読み取り、ポジション同期出力すなわちPSO信号として知られるレーザファイア信号を発生させる。このようにして、パルスは角部で重ならないが、同じ設定距離でとどまる。上記の例では、スピードが角部で50mm/secに低減されると、自動的に1つのレーザパルスが捕捉され、次の4つのパルスは無視される。
【0027】
2次の繰返しレートは、レーザシーダレートである。これは一般に、レーザ製造者次第で30MHzから80MHzのばらつきがある。例として
図2に示されるように、この繰返しレートは、パルスとパルスの間隔が15nsであるバースト内の3つのパルスを用いて、60MHzに設定することができる。近ごろ、いくつかのレーザは、3次の繰返しレートモードで働くように設定することができ、再生式増幅器内でGHzのバースティングを行うことができる。
図2に示されるように、4つのパルスが、超高速パルスのバーストに対して400ピコ秒間隔(2.5GHz)に設定されている。ガラスなどの透明な材料と相互作用するためにGHzバーストの超高速パルスを使用することにより、極端なスピードの入力パルス、および、MHzバースティングと比較してより速く起こる多光子イオン化がもたらされる。
【0028】
異なるレーザバーストパルス構成がテストされ得るが、ここでは、MHzバーストのみが使用され、続いてGHzバーストパルスが使用され、各バーストにおいて単一から10個のパルスまでで各テストが行われる。MHzとGHzパルスとの両方の組合せも、スクライビング結果を改善するために使用することができる。MHz-GHzバースト組合せは本明細書では全般的にターボバーストパルスと称される。
【0029】
100kHzのレーザ周波数における、60MHzの2次の繰返しレートおよび2.5GHzの3次の繰返しレートでのターボバースト繰返しレートの本方法は、250fsから10psの範囲でテストされるパルス持続時間のガラスに効果的である。250fsパルスは限定的に変換されるが、レーザの出力で圧縮器グレーティングを変化させることによって、パルスをより長いパルス持続時間に刻む(チャープする)ことができる。一般性が失われることさえなく、刻まれたパルスもまた、変換限定パルスと同様にスクライビングに適している。本開示は、ほとんどの透明な媒体内でカーレンズ自己集束を駆動するための適切に高い強度を必要とし、以て、透明な材料内にプラズマの発生を引き起こす。したがって、50フェムト秒から25psの範囲内のレーザパルス持続時間は、本開示の実際的な処理領域であると考えられる。他のレーザパルス持続時間も、本開示の範囲から逸脱することなく使用することができる。
【0030】
図2の例のパルス列に基づいて、レーザが40Wの平均電力を有し、100kHzの1次繰返しレートに設定された場合、各パルスは400μJを有する。ターボバーストが、2次繰返しレートで4つのバーストパルスで使用され、3次繰返しレートで5つのバーストパルスで使用されるとき、パルスエネルギーは、以下のように分布される:400μJを4で除算すると、各MHzバーストあたり100μJとなり、100を5つに分割するとパルスあたり20μJとなる。全てのパルスが実質的に同等の、パルスあたりのエネルギーを有すると想定することができる。パルスは、ランプアップまたはランプダウンバースト形状として成形することができる。200フェムト秒のパルス持続時間の場合、パルスピーク電力は、20μJ/200fs=100MWと計算することができ、ガラスなどのカー媒体内にプラズマ相互作用ゾーンを作るためには十分である。
【0031】
図3は、いかなるターゲットもない空気中で、光学破壊を引き起こすレーザビームをきっちりと集束させる収束光学系の概略図を提示する。光学破壊の位置は、ターゲットの出射面で重なるように調整される。レーザビームがターゲットに入るやいなや非線形のカー効果が発生する。自己集束メカニズムは、ビームをターゲットの上部から底部までをカバーする200nm未満に自然に集束させる。
【0032】
球面収差を向上させるレンズ組合せもまた例に過ぎないことに留意されたい。多少のレンズの異なる組合せが、ビームにおける球面収差を誘起するように使用される可能性がある。中央の光線が材料内の深部で集束する間に、周辺の光線は、レンズのより近傍で集束する。レンズ組合せは、ビームにおける球面収差を誘起し、以て、焦点深度が長くなる。
【0033】
図4に示される本開示の別の実施形態では、レーザビーム4.1は、回折光学素子(DOE)4.2を使用して集束されて、おおよそ同じ時刻に複数の焦点ポイント4.3から4.5を作り出す。焦点の数および位置は、集束ラインに沿って複数の集束を作り出すように設計される。一般性を失うことなく、レーザビームは、DOEに入る前に、ガウシアンビームであるか、または、平坦上部形状ビームとすることができる。
【0034】
図5は集束の別のスキームを提示している。レーザビーム5.1は、アキシコン5.2を使用して集束される。アキシコン5.2はベッセルビームを作り出す。これもまた焦点5.3深度が長くなる。
【0035】
全体として、上述の集束のための全ての3つの方法では、レーザのスポットサイズは、ターゲット面上で約100から200ミクロンである。焦点深度は、臨界電力よりも小さいピーク電力を有するレーザパルスが使用されると、数mm延長することができる。そのようなビームを使用することにより、非線形の効果が生じることはなく、ビームは線形の光学法則に基づいて集束することになる。そのような光学系を使用して、数mmの焦点深度を有しながらビームを1ミクロンに集束させるのは困難である。1ミクロンの波長を有するビームを1ミクロンのスポットサイズに集束させるために、NAが1である対物レンズを使用することができる。そのような対物(すなわち、100倍の対物)レンズは、数ミクロンの焦点深度を有することになる。静止ビームをきっちりと集束させることができるものの、ターゲットの出射面では、非線形効果により、焦点が、非常に狭く、例えば、200nm程度の幅、および、2mmもの長さになるように修正されることが理解される。より長い焦点深度が必要である場合、1つのオプションは、非常にNAが低いレンズ(例えば、0.2から0.4のNA)を使用することであるが、スポットサイズはより大きくなる。
【0036】
レーザパルス電力が臨界電力を超えると自己収束が始まることに留意されたい。ピーク電力が臨界電力を超えるやいなや、200ミクロンのスポットサイズを有したパルスは、1ミクロンのスポットサイズに収縮する。
【0037】
透明な光学媒体内の超高速パルス(例えば、>約5MWのピーク電力)の伝播は、群速度分散(GVD)、線形回折、自己位相変調(SPM)、自己集束、価電子帯から伝導帯への電子の多光子/トンネルイオン化(MPI/TI)、プラズマデフォーカス、および自己急峻化などの線形および非線形効果の複合作用を通じてレーザパルスの空間的および時間的プロファイルが強く再形成されることにより、複雑になる。
【0038】
図3から
図5の任意の集束条件の下で、ガラスなどのカー材料内でビームが集束すると、周辺よりもはるかに高い強度を有する中心のパルスが、より大きな屈折率に変換され、以て、パルス中心が遅くなり、周辺が速くなって、パルスが崩壊することになる。この現象は非線形自己集束として知られている。集束領域では、非常に高いピーク強度のために、媒体の多光子イオン化、フィールドイオン化、および電子衝撃イオン化が始まって、レーザビームの高強度部分内に低密度のプラズマが作り出される。全てのGHzバーストパルスエネルギーを、
図2のバースト構成を使用して材料に堆積させるための総時間は、約3×400ps=1.2nsである。自由発生電子は、数nsの寿命およびプラズマシールドを有し、この時間の期間中には、レーザパルスは放射されない。この物理的理由により、パルスエネルギーはプラズマシールドを回避する。MHzバーストを使用することと比較して、MHzバーストにおけるパルスの数は増加するので、遅く到達したパルスは、プラズマシールド効果を感じることになる。このプラズマは一時的に、ビーム経路の中心の屈折率を低下させ、以て、ビームに、デフォーカスと、プラズマチャネル(フィラメント)の分解とを行わせる。このGHzバースティングを使用する効果は観測されず、プラズマチャネルは非常に滑らかかつ均一である。
【0039】
ここで、フォノンとフォノンの相互作用の時間スケールでは、第1のGHzバーストパルスは材料を加熱したが、第2のセットのGHzバーストパルスはターゲットに到達し(例えば、約15ns後)、以て、新たなイオン化およびプラズマチャネル形成を作り出す。
図2のパルス列の例に基づいて、同じ位置が毎回4GHzのパルスによって5回衝撃を与えられてもよい。表面アブレーション、および、もろい材料の内部の微小亀裂形成を招く400μJの単一パルスをターゲットに集束させる代わりに、パルスを、十分に順序付けられた時間スケールで配置される20のサブパルスに分割することができる。全てのパルスが、GHzの時間スケールで堆積されるように設計される場合、効果的なフィラメンテーションを行うために8つまでのパルスのみが必要とされ、残りは初期のパルスによって発生したプラズマシールドによって遮断される可能性がある。
【0040】
MHzバーストパルスのみが堆積される場合(すなわち、バースト内に4つのパルス)、平均電力が40Wであると仮定すると、毎回100μJが材料に放射される。これにより、やはり精巧なフィラメントが作られるが、ピーク電力が高いため、ガラス表面粗さは約1ミクロンにとどまる。本開示のターボバーストパルスの場合、表面粗さは120nmに降下する。これにより、かなり滑らかな切断小面品質が得られる。
【0041】
図6は、1mmのガラスのスクライビングされたラインの斜視図である。
図6は、表面スクライビングラインおよび側小面図を示している。サンプルは、小さい機械力によって切り開かれる。
【0042】
図7は、従来のMHzバースト超高速パルスフィラメンテーション(右側画像)、または、ターボバースト超高速パルス(左側画像)が使用されたときの上面エッジ粗さを比較している。従来のフィラメンテーションを使用するサンプルのエッジは、ターボバーストプロセスと比較して粗い。ピークと谷との間の差は、5ミクロン未満であるものの、数ミクロンに達する。ターボバーストを使用している間に、エッジ粗さは300nm未満に降下する。
【0043】
フィラメントが形成され始めるレーザの入口でのMHzバーストのピーク電力がより高い(ターボバーストと比較して)ため、ガラスの表面は、非常に微細なアブレーション効果を得ることができる。顕微鏡によるエッジの調査によって、サンプルのエッジでのへこみ効果が、右画像に示すように観察可能である。このへこみ効果は、本開示のターボバーストが使用されているとき(左画像)は、観察されないことに留意されたい。
【0044】
図8は、従来のMHzバーストフィラメンテーションを使用して、切り開かれたサンプルの小面の表面Sa測定を提示している。
図8は、平均で680nmのSaを示している。
【0045】
図9は、ターボバーストパルスによってスクライビングされた切り開かれたサンプルの小面を示している。キーエンスのデジタル顕微鏡による表面Sa粗さの測定を行った後、表面粗さが140nmである従来のフィラメンテーションと比較して、驚くほどの改善が得られることは明らかである。したがって、本明細書で提供されるシステムおよび方法により、ターボパルスによって透明な材料のスクライビングができるようになり、以て、著しく表面粗さが小さくなり、はるかにより滑らかな切断小面品質が得られる。溶融シリカまたは石英などのいくつかの高品質ガラスでは、ターボバーストは、約80nmのSaを達成する。これは4つの曲げ強度の数値が少なくとも25%から50%向上することを意味する。
【0046】
本明細書において上述のように、本開示は、カー材料の内部の出射面で集束するGHzおよびMHz超高速レーザパルス(ターボバースト)の混合物を印加する。したがって、パルスは、ターボバーストプロセスフィラメントとして定義された非線形効果を介してプラズマ修正領域(フィラメント)を発生させる。焦点体積の修正ダイナミクスは、熱蓄積、一時的および恒久的なナノ溶融、カラーセンター、ストレス、ならびにパルス列中に蓄積する材料欠陥、のうちの1つまたは複数を含む過渡効果の組合せを通じて劇的に高められて、一連のパルス間相互作用を修正する。そのようなターボバースト列によって形成されるレーザスクライビングは、修正されるゾーン形成に対するエネルギーしきい値の低減と、このゾーン幅が低減される間のゾーン深度の増大とにおいてかなり大きい利点を提供する。この現象により、カーフ幅がほとんどゼロになり、破片がなくなり、はるかに高い曲げ強度数値がもたらされる。ターボフィラメンテーションバーストレーザプロセスは、標準のフィラメンテーションプロセスの使用と比較して、切り開かれたサンプルエッジ品質、および、小面粗さ品質を高める。
【0047】
上記は本開示の実施形態を対象とするが、本開示の基本的範囲から逸脱することなく、本開示の他の実施形態およびさらなる実施形態が考案され得、本開示の範囲は、以下の特許請求の範囲によって決定される。
【国際調査報告】