(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-09
(54)【発明の名称】ハロゲンサイクルの能動的管理によるカソードおよびリペラの寿命の延長
(51)【国際特許分類】
H01J 27/14 20060101AFI20240430BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
H01J27/14
H01J37/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567868
(86)(22)【出願日】2022-04-12
(85)【翻訳文提出日】2023-12-22
(86)【国際出願番号】 US2022024407
(87)【国際公開番号】W WO2022235399
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】3050 Bowers Avenue Santa Clara CA 95054 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ライト, グラハム
(72)【発明者】
【氏名】アルバラド, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン, エリック ドナルド
(72)【発明者】
【氏名】リンドバーグ, ロバート
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101CC17
5C101DD03
5C101DD12
5C101DD25
5C101DD27
5C101DD30
5C101DD33
5C101DD38
5C101GG20
5C101LL06
(57)【要約】
IHCイオン源内のカソードおよびリペラの寿命を延長するためのシステムおよび方法が開示される。システムは、既知のパラメータセットを使用して運転すること、および、アーク電圧電源から所望の抽出ビーム電流または所望の電流を生成するために使用されるバイアス電力を測定することにより、カソードの健全性を監視する。測定されたバイアス電力に基づいて、システムは、カソードが薄くなりすぎているかどうかを決定することができ、是正アクションをとることができる。この是正アクションは、オペレータに警報を出すか、所定のパラメータセットを使用してIHCイオン源を運転するか、またはIHC源内で使用される希釈の度合いを変えることであり得る。これらのアクションを行うことにより、カソードの寿命を2倍より大きくすることができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源であって、
複数の壁を備えるチャンバと、
前記チャンバの一方の端部に配置されたカソードと、
前記チャンバ内への1つまたは複数のガスの導入を可能にするガス入口と、
コントローラと
を備え、
前記コントローラが、既知のレシピを使用して前記イオン源を運転し、前記イオン源の第1のパラメータを、第2のパラメータを所定の値に維持するように調整し、前記第1のパラメータの値が、前記カソードの厚さを示し、
前記コントローラが、前記厚さに基づいてアクションを開始する、イオン源。
【請求項2】
前記第2のパラメータが、前記チャンバからの全抽出電流を含む、請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記チャンバに対して前記カソードにバイアスをかけるためのアーク電圧電源を備え、前記第2のパラメータが、前記アーク電圧電源から引き出される電流を含む、請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
前記第1のパラメータが、バイアス電力を含む、請求項1に記載のイオン源。
【請求項5】
前記第1のパラメータが、バイアス電流、バイアス電圧、バイアスインピーダンス、フィラメント電力、フィラメント電流、フィラメント電圧、およびフィラメント抵抗からなる群から選択される、請求項1に記載のイオン源。
【請求項6】
前記アクションが、オペレータへの警報を含む、請求項1に記載のイオン源。
【請求項7】
前記アクションが、前記イオン源を特定のレシピで運転することを含む、請求項1に記載のイオン源。
【請求項8】
前記カソードの前記厚さが所定の厚さ未満であると決定される場合、前記特定のレシピが、低アーク電圧レシピを含む、請求項7に記載のイオン源。
【請求項9】
前記カソードの前記厚さが所定の厚さより大きいと決定される場合、前記特定のレシピが、高アーク電圧レシピを含む、請求項7に記載のイオン源。
【請求項10】
前記アクションが、前記チャンバ内への希釈ガスの流量を調整することを含む、請求項1に記載のイオン源。
【請求項11】
前記カソードの前記厚さが所定の厚さ未満であると決定される場合、希釈ガスの前記流量を減少させる、請求項10に記載のイオン源。
【請求項12】
前記カソードの前記厚さが所定の厚さより大きいと決定される場合、希釈ガスの前記流量を増大させる、請求項10に記載のイオン源。
【請求項13】
間接加熱カソード(IHC)イオン源内のカソードの寿命を監視し、延長する方法であって、
既知のレシピを使用して前記IHCイオン源を運転することと、
第2のパラメータを所定の値に維持するために使用される第1のパラメータを監視することであって、前記第1のパラメータの値が、前記カソードの厚さを示す、第1のパラメータを監視することと、
前記第1のパラメータを所定の上限値および所定の下限値と比較することと、
前記比較に基づいてアクションを行うことと
を含む、方法。
【請求項14】
前記第2のパラメータが、前記IHCイオン源のチャンバからの全抽出電流を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記IHCイオン源が、前記IHCイオン源のチャンバに対して前記カソードにバイアスをかけるためのアーク電圧電源を備え、前記第2のパラメータが、前記アーク電圧電源から引き出される電流を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1のパラメータが、バイアス電力を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記アクションが、オペレータに警報を出すことを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記アクションが、前記IHCイオン源を特定のレシピで運転することを含み、前記カソードの前記厚さが所定の厚さ未満であると決定される場合、前記特定のレシピが、低アーク圧力レシピを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記アクションが、前記IHCイオン源を特定のレシピで運転することを含み、前記カソードの前記厚さが所定の厚さより大きいと決定される場合、前記特定のレシピが、高アーク電圧レシピを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記アクションが、前記IHCイオン源のチャンバ内への希釈ガスの流量を調整することを含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年5月5日に出願された米国特許出願第17/308,732号の優先権を主張するものであり、この米国特許出願の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、イオン源内のカソードおよびリペラの寿命を延長するためのシステムおよび方法に関し、より詳細には、これらの構成要素の寿命を延長するためにハロゲンサイクルを能動的に管理することに関する。
【背景技術】
【0003】
半導体装置は複数のプロセッサを使用して製造され、プロセッサのうちのいくつかはイオンをワークピース内に注入する。イオンを作り出すために使用され得る1つの機構は、間接加熱カソード(IHC)イオン源である。IHCイオン源は、カソードの背後に配置されたフィラメントを備える。カソードは、フィラメントより高い正電圧に維持され得る。電流がフィラメントに通されると、フィラメントは熱電子を放出し、熱電子は、より高い正電荷を帯びたカソードに向けて加速される。これらの熱電子はカソードを加熱する働きをし、それによりカソードに電子をイオン源のチャンバ内へ放出させることになる。カソードはチャンバの一方の端部に配置される。リペラは通常、カソードの反対側のチャンバの端部に配置される。
【0004】
特定の実施形態では、イオン源は、一価イオンを生成するように構成される。他の実施形態では、イオン源は、P2+やP3+などの多価イオンを生成するように構成される。多価イオンの生成は、カソードの侵食および最終的なパンクチャリングの一因となり得ることが見いだされている。具体的には、荷電イオンはカソードに向かって加速して、カソードをスパッタさせる。同様の現象はリペラに対しても起こり得る。したがって、カソードおよびリペラの寿命は、多価イオンを生成する構成にとってソース寿命の制限因子であり得る。
【0005】
したがって、カソードの寿命を延長することができるシステムおよび方法があれば有益であろう。さらに、このシステムおよび方法が新たな構成要素または再設計された構成要素を全く利用せず、既存のIHCイオン源に即座に採用されることができれば、有利であろう。
【発明の概要】
【0006】
IHCイオン源内のカソードおよびリペラの寿命を延長するためのシステムおよび方法が開示される。システムは、既知のパラメータセットを使用して運転すること、および、アーク電圧電源から所望の抽出電流または所望の電流を生成するために使用されるバイアス電力を測定することにより、カソードの健全性を監視する。システムは、測定されたバイアス電力に基づいて、カソードが薄くなりすぎているかどうかを決定することができ、是正アクションをとることができる。この是正アクションは、オペレータに警報を出すか、所定のパラメータセットを使用してIHCイオン源を運転するか、またはIHC源内で使用される希釈の度合いを変えることであり得る。これらのアクションを行うことにより、カソードの寿命を2倍より大きくことができる。
【0007】
一実施形態によれば、イオン源が開示される。イオン源は、複数の壁を備えるチャンバと、チャンバの一方の端部に配置されたカソードと、チャンバ内への1つまたは複数のガスの導入を可能にするガス入口と、コントローラと、を備え、コントローラは、既知のレシピを使用してイオン源を運転し、イオン源の第1のパラメータを、第2のパラメータを所定の値に維持するように調整し、第1のパラメータの値は、カソードの厚さを示し、コントローラは、厚さに基づいてアクションを開始する。特定の実施形態では、第2のパラメータは、チャンバからの全抽出電流を含む。いくつかの実施形態では、イオン源は、チャンバに対してカソードにバイアスをかけるためのアーク電圧電源を備え、第2のパラメータは、アーク電圧電源から引き出される電流を含む。特定の実施形態では、第1のパラメータは、バイアス電力を含む。いくつかの実施形態では、第1のパラメータは、バイアス電流、バイアス電圧、バイアスインピーダンス、フィラメント電力、フィラメント電流、フィラメント電圧、およびフィラメント抵抗からなる群から選択される。特定の実施形態では、アクションは、オペレータへの警報を含む。いくつかの実施形態では、アクションは、イオン源を特定のレシピで運転することを含む。いくつかの実施形態では、カソードの厚さが所定の厚さ未満であると決定される場合、特定のレシピは、低アーク電圧レシピを含む。特定の実施形態では、低アーク電圧レシピは、希釈なしで運転される。いくつかの実施形態では、カソードの厚さが所定の厚さより大きいと決定される場合、特定のレシピは、高アーク電圧レシピを含む。特定の実施形態では、アクションは、チャンバ内への希釈ガスの流量を調整することを含む。いくつかの実施形態では、カソードの厚さが所定の厚さ未満であると決定される場合、希釈ガスの流量を減少させる。いくつかの実施形態では、カソードの厚さが所定の厚さより大きいと決定される場合、希釈ガスの流量を増大させる。
【0008】
別の実施形態によれば、間接加熱カソード(IHC)イオン源内のカソードの寿命を監視し、延長する方法が開示される。方法は、既知のレシピを使用してIHCイオン源を運転することと、第2のパラメータを所定の値に維持するために使用される第1のパラメータを監視することであって、第1のパラメータの値が、カソードの厚さを示す、監視することと、第1のパラメータを所定の上限値および所定の下限値と比較することと、比較に基づいてアクションを行うことと、を含む。特定の実施形態では、第2のパラメータはIHCイオン源からの全抽出電流を含む。いくつかの実施形態では、IHCイオン源は、IHCイオン源のチャンバに対してカソードにバイアスをかけるためのアーク電圧電源を備え、第2のパラメータは、アーク電圧電源から引き出される電流を含む。特定の実施形態では、第1のパラメータは、バイアス電力を含む。いくつかの実施形態では、第1のパラメータは、バイアス電流、バイアス電圧、バイアスインピーダンス、フィラメント電力、フィラメント電流、フィラメント電圧、およびフィラメント抵抗からなる群から選択される。特定の実施形態では、アクションは、オペレータに警報を出すことを含む。いくつかの実施形態では、アクションは、イオン源を特定のレシピで運転することを含む。いくつかの実施形態では、カソードの厚さが所定の厚さ未満であると決定される場合、特定のレシピは、低アーク圧力レシピを含む。特定の実施形態では、低アーク電圧レシピは、希釈なしで運転される。いくつかの実施形態では、カソードの厚さが所定の厚さより大きいと決定される場合、特定のレシピは、高アーク電圧レシピを含む。特定の実施形態では、アクションは、チャンバ内への希釈ガスの流量を調整することを含む。いくつかの実施形態では、カソードの厚さが所定の厚さ未満であると決定される場合、希釈ガスの流量を減少させる。いくつかの実施形態では、カソードの厚さが所定の厚さより大きいと決定される場合、希釈ガスの流量を増大させる。
【0009】
本開示をより良く理解するために、添付図面を参照し、添付図面では、類似の要素が類似の符号で参照される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態によるIHCイオン源を示すブロック図である。
【
図2】
図1のIHCイオン源を使用するイオン注入システムのブロック図である。
【
図3】運転時間と比べたバイアス電力の変化を示す図である。
【
図4】第1の実施形態による、カソードの健全性をチェックする順序を示すフローチャートである。
【
図5】第2の実施形態による、カソードの健全性をチェックする順序を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、これらの問題を解決するIHCイオン源10を示す。IHCイオン源10は、2つの反対側端部とこれらの端部につながる壁101とを備えるチャンバ100を含む。これらの壁101は、側壁、抽出板103、および抽出板103の反対側の底壁を含む。抽出板103は抽出開孔140を含み、イオンは抽出開孔を通って抽出される。チャンバ100の壁101は、導電性材料で構成されてもよく、互いに電気通信することができる。カソード110がチャンバ100内に、チャンバ100の第1の端部104に配置される。フィラメント160がカソード110の背後に配置される。フィラメント160はフィラメント電源165と電気通信する。フィラメント電源165は、フィラメント160に電流を通し、したがってフィラメント160が熱電子を放出するように構成される。カソードバイアス電源115がカソード110に対してフィラメント160に負のバイアスをかけるので、これらの熱電子は、フィラメント160からカソード110に向けて加速され、熱電子がカソード110の後面に衝突するときにカソード110を加熱する。カソードバイアス電源115は、フィラメントが、カソード110の電圧より負の電圧、例えば200V~1500Vを有するように、フィラメント160にバイアスをかけることができる。次いで、カソード110は、熱電子をカソードの前面からチャンバ100内へ放出する。
【0012】
したがって、フィラメント電源165はフィラメント160に電流を供給する。カソードバイアス電源115は、フィラメント160に、フィラメントがカソード110より負になるようにバイアスをかけ、その結果、電子がフィラメント160からカソード110に向かって引き付けられる。カソード110はアーク電圧電源111と通信する。アーク電圧電源111は、チャンバ100に対してカソードに電圧を供給する。このアーク電圧は、中性ガスをイオン化するために、カソードでアークチャンバ内へ放出された熱電子を加速させる。このアーク電圧電源111によって引き出される電流は、プラズマを介して駆動されている電流の量の測定結果である。特定の実施形態では、壁101は他の電源に接地基準を提供する。
【0013】
この実施形態では、リペラ120がチャンバ100内に、カソード110の反対側のチャンバ100の第2の端部105に配置される。リペラ120は、リペラ電源123と電気通信することができる。その名称が示すように、リペラ120は、カソード110から放出された電子に反発してチャンバ100の中心の方へ戻す働きをする。例えば、特定の実施形態では、リペラ120には、電子に反発するためにチャンバ100に対して負電圧でバイアスをかけることができる。例えば、特定の実施形態では、リペラ120に、チャンバ100に対して0~-150Vでバイアスをかけられる。特定の実施形態では、リペラ120はチャンバ100に対して浮遊させられ得る。言い換えれば、浮遊させられると、リペラ120はリペラ電源123またはチャンバ100に電気的に接続されない。この実施形態では、リペラ120の電圧は、カソード110の電圧に近い電圧にドリフトしがちである。あるいは、リペラ120は壁101に電気的に接続されてもよい。
【0014】
特定の実施形態では、チャンバ100内に磁界190が生成される。この磁界は、電子を一方向に沿って制限するためのものである。磁界190は、典型的には、壁101と平行に第1の端部104から第2の端部105へ走る。例えば、電子は、カソード110からリペラ120への方向(すなわち、y方向)に平行な円柱に閉じ込められ得る。したがって、電子は、y方向に動くための電磁力を受けない。しかしながら、電子の他の方向の動きは電磁力を受け得る。
【0015】
1つまたは複数のガス容器108が、ガス入口106を経由してチャンバ100と流通することができる。各ガス容器108は、各ガス容器からガスの流れを調整するために質量流コントローラ(MFC)を含むことができる。
【0016】
ビームライン内の構成要素の残り部分に対してIHCイオン源10にバイアスをかけるために、抽出電源170が使用され得る。例えば、プラテン260(
図2参照)は、接地などの第1の電圧にあり得るが、IHCイオン源10には正電圧が印加されて、IHCイオン源10に、プラテン260より正にバイアスをかけられるようにする。したがって、抽出電源170によって供給される電圧は、抽出電圧と呼ばれ、IHCイオン源10から抽出されるイオンのエネルギーを決定する。さらに、抽出電源170によって供給される電流は、全抽出ビーム電流の尺度である。
【0017】
特定の実施形態では、カソードバイアス電源115と抽出電源170との間にフィードバックループがある。具体的には、抽出されたビーム電流を一定の値に維持することが望ましいことがある。したがって、抽出電源170から供給される電流は監視されてもよく、カソードバイアス電源115の出力は、定抽出電流を維持するように調整されてもよい。このフィードバックループはコントローラ180によって実行されてもよく、あるいは別の方法で実行されてもよい。
【0018】
コントローラ180は、これらの電源によって供給される電圧または電流が監視および/または修正され得るように、電源のうちの1つまたは複数と通信することができる。さらに、コントローラ180は、チャンバ100内への各ガスの流れを調整するために、各ガス容器108のMFCと通信することができる。コントローラ180は、マイクロコントローラ、パーソナルコンピュータ、専用コントローラ、別の適切な処理装置などの処理装置を含むことができる。コントローラ180は、半導体メモリ、磁気メモリ、別の適切なメモリなどの非一時的記憶素子も含むことができる。この非一時的記憶素子は、コントローラ180が本明細書に記載の機能を実施することを可能にする命令および他のデータを含むことができる。例えば、コントローラ180は、IHCイオン源10がフィラメント160に対してカソードに印加される電圧を変化させることを可能にするために、カソードバイアス電源115と通信することができる。コントローラ180は、リペラにバイアスをかけるために、リペラ電源123と通信することもできる。さらに、コントローラ180は、カソードバイアス電源115によって供給される電圧、電流および/または電力を監視することが可能であり得る。
【0019】
図2は、
図1のIHCイオン源10を使用するイオン注入システムを示す。IHCイオン源10の抽出開孔の外側および近傍に、1つまたは複数の電極200が配置される。
【0020】
電極200の下流側に、質量分析器210が位置する。質量分析器210は、抽出されたイオン1の経路を案内するために磁界を使用する。磁界は、イオンの質量および電荷に応じてイオンの飛行経路に作用する。分解開孔221を有する質量分解装置220は、質量分析器210の出力、すなわち遠位端に配置される。磁界を適切に選択することにより、選択された質量および電荷を有するイオン1だけが、分解開孔221を通って方向付けられる。他のイオンは、質量分解装置220または質量分析器210の壁に衝突し、システム内をこれ以上進むことはない。
【0021】
コリメータ230が質量分解装置220の下流側に配置され得る。コリメータ230は、分解開孔221を通過したイオン1を受け入れ、複数の平行またはほぼ平行なビームレットで形成されたリボンイオンビームを作り出す。質量分析器210の出力、すなわち遠位端、およびコリメータ230の入力、すなわち近位端は、固定距離を隔てている。質量分解装置220は、これら2つの構成要素の間の空間に配置される。
【0022】
コリメータ230の下流側に、加速/減速段240が位置し得る。加速/減速段240は、エネルギー純度モジュールと呼ばれることがある。エネルギー純度モジュールは、イオンビームの偏向、減速、および焦点を独立して制御するように構成されたビームラインレンズ構成要素である。例えば、エネルギー純度モジュールは、垂直静電エネルギーフィルタ(VEEF)または静電フィルタ(EF)とすることができる。加速/減速段240の下流側に、プラテン260が位置する。ワークピースは、処理中にプラテン260上に配置される。
【0023】
ある種の運転パラメータセットは、レシピとも呼ばれ、所望の電荷のイオンを生成するために利用され得る。例えば、より低いアーク電圧を含むレシピは、低いカソード侵食率、場合によっては、カソードの成長さえ引き起こす、荷電イオンの第1の分布を作り出すことができる。一実施形態では、アーク電圧は、そのようなレシピでは80V以下である。これは、低アーク電圧レシピと呼ばれることがある。より高いアーク電圧を含むレシピは、高いカソード侵食率を引き起こす、荷電イオンの第2の分布を作り出すために使用され得る。例えば、一実施形態では、アーク電圧は80Vより大きくなり得る。これは、高アーク電圧レシピと呼ばれることがある。特定の実施形態では、第1の分布と第2の分布との間の1つの違いが多価イオンのパーセンテージであり得る。
【0024】
したがって、特定の実施形態では、高アーク電圧レシピは、所定の閾値を上回るアーク電圧を利用するレシピと定義され得るが、低アーク電圧レシピは、この所定の閾値を下回るアーク電圧を利用する。特定の実施形態では、この所定の電圧は80Vとすることができるが、特定の閾値は、IHCイオン源10上で実行されている種のタイプとレシピのタイプに依存することができる。
【0025】
いくつかの高アーク電圧レシピは、多価イオンを作り出すために使用され得るものであり、ハロゲン系ガスを利用する。例えば、PF3を使用してリンが注入され得る。NF3を使用して窒素が注入され得る。BF3を使用してホウ素が注入され得る。元素アルミニウムおよびNF3を使用することによりアルミニウムが注入され得る。元素ガリウムおよびNF3を使用してガリウムが注入され得る。SbF5を使用してアンチモンを注入することができる。もちろん、ハロゲン系ガスを使用して他の種が注入され得る。
【0026】
これらの高アーク電圧レシピはまた、カソード110からの材料をスパッタして、カソード110を経時的に薄くさせる傾向があり得る。これは、イオンがカソード110と衝突して、カソードをスパッタさせることによるものであり、アーク電圧および荷電状態によって決定されるイオンのエネルギーが高いほど、スパッタリング率は大きくなる。検査を受けないでいると、これは、最終的にカソードのパンチスルーを引き起こす可能性があり、そこにカソード110を完全に貫通する孔が作られる。これが起こると、カソード110は取り替えられるので、IHCイオン源10はある期間運転できなくなる。特定の実施形態では、これは、多価イオンを生成するレシピで100時間未満の運転をした後で起こり得る。
【0027】
さらに、主に一価イオンを作るために使用され得る低アーク電圧レシピ、特にハロゲンを含むレシピは、IHCイオン源10の壁からタングステンを除去し、このタングステンをカソード110およびリペラ120上に堆積させる傾向がある。例えば、イオン化フッ素は、イオン源の壁と反応して六フッ化タングステンを形成することができ、次いで、六フッ化タングステンはカソード110上に堆積される。これを緩和するために、これらのレシピは、希釈を用いて、例えば水素をチャンバ100内に導入することにより運転されることが多い。水素はイオン化フッ素の一部と反応して、フッ素イオンとタングステン壁との間の相互作用を低減する。
【0028】
言い換えると、ハロゲン系高アーク電圧レシピが連続的に使用される場合、カソード110は侵食し、最終的にパンチスルーのために機能しなくなる。逆に言えば、ハロゲン系低アーク電圧レシピが希釈なしで連続的に使用される場合、カソード110は、カソード上にさらにタングステンが堆積されるので、厚くなる。ある時点で、カソード110の厚さは厚くなりすぎて、カソードバイアス電源115によって十分には調整されない。
【0029】
カソード110が薄くなるにつれて、所望の抽出ビーム電流を達成するためのバイアス電力の量は減少することが見いだされた。バイアス電力は、カソードバイアス電源115によって供給される電圧にそのカソードバイアス電源115によって供給される電流を乗じたものと定義される。逆に言えば、カソード110が厚くなるにつれて、所望の抽出ビーム電流を達成するためのバイアス電力の量は増大する。この一例が
図3に示されている。抽出電流は、この間、一定に保たれる。運転時間の67%である、第1の期間300中、イオン源は高アーク電圧レシピで運転されたことに留意されたい。この高アーク電圧のハロゲン系レシピは、カソード110から材料を除去させる。バイアス電力はこの期間中、カソードが薄くなるにつれて減少することに留意されたい。運転時間のわずか42%である、第2の期間310中、イオン源は高アーク電圧レシピで運転していて、運転時間の残りは低アーク電圧レシピであった。バイアス電力はこの期間中、増大することに留意されたい。これは、低アーク電圧レシピからのハロゲンサイクルによるものであり、ハロゲンサイクルでは、壁からのタングステンがプラズマ中のハロゲンによって除去され、カソード110およびリペラ120上に再堆積されて、それらの構成要素を厚くする。
【0030】
したがって、カソード110の健全性を決定する一方法は、
図4に示されているように、バイアス電力を監視することによるものであり得る。
【0031】
この実施形態では、ボックス400に示されているように、既知のレシピがIHCイオン源10内で使用される。この既知のレシピは、一般的に使用されるレシピでもよいし、あるいはアイドル時間中に使用されるレシピでもよい。このレシピは、ハロゲン系レシピでもよく、あるいはハロゲンを含まないレシピでもよい。この既知のレシピは、カソード健全性レシピと呼ばれることもある。レシピは、使用されるべき種、種の流量、所望の抽出電圧、所望のアーク電圧、および他のパラメータを含むことができる。
【0032】
次いで、ボックス410に示されているように、コントローラ180は、例えば抽出電源170を使用して全抽出ビーム電流を監視する。ボックス420に示されているように、コントローラ180は、全抽出電流が所定の値を維持するようにカソードバイアス電源115からの出力を修正することにより、バイアス電力を変化させる。次いで、コントローラ180は、ボックス430に示されているように、所定の抽出電流を生成するために使用されたバイアス電力を記録する。あるいは、アーク電圧電源、すなわちチャンバ接地に対してカソードにバイアスをかける電源によるバイアス電流のフィードバックとしてソース内の全アークまたはプラズマ電流を使用することもできる。これは
図5に示されている。
【0033】
次いで、コントローラ180は、ボックス440に示されているように、このバイアス電力を所定の上側閾値および下側閾値と比較する。これらの上側閾値および下側閾値は、経験的に、または別の技法を用いて計算され得る。例えば、下側閾値は、パンチスルーが起こるバイアス電力を決定すること、および、この値に安全マージンを加算することよって確立され得る。上側閾値は、抽出電流を調整することがもはや不可能であるバイアス電力を決定すること、および、その値から安全マージンを減算することによって確立され得る。これらの上側閾値および下側閾値は、カソード健全性レシピの関数とすることができる。
【0034】
この比較の結果に基づいて、コントローラ180は、ボックス450に示されているようにアクションを開始することができる。具体的には、バイアス電力が下側閾値付近もしくは下側閾値未満であるか、または上側閾値付近もしくは上側閾値より大きい場合、アクションを開始することができる。あるいは、バイアス電力が2つの閾値の間にある場合、ボックス460に示されているようにアクションを行わなくてよい。
図4に示されている順序は、例えば、8時間ごとを含む一定時間間隔で、または特定のレシピ移行で繰り返すことができる。このようにして、カソード110の健全性は経時的に監視され得る。この監視の理想的な頻度は、イオン源内で利用されるレシピ混合の関数である。
【0035】
したがって、本開示は、既知のレシピを使用して所定の抽出ビーム電流を送達しながらバイアス電力を追跡することによりカソード110の状態を監視するシステムおよび方法を提示する。上記開示はカソード健全性を監視するためのバイアス電力の使用を説明しているが、他のパラメータが使用されてもよい。例えば、バイアス電圧、バイアス電流、バイアス電圧をバイアス電流で除したものと定義されるバイアスインピーダンス、フィラメント電力、フィラメント電流、フィラメント電圧、またはフィラメント抵抗などのパラメータが、カソード健全性を追跡するために使用され得る。
【0036】
カソード110の健全性を決定する第2の方法は、
図5に示されているように、アーク電圧電源111から引き出される定電流を維持しながらバイアス電力を監視することによるものであり得る。この実施形態では、定抽出ビーム電流を維持しようとするのではなく、アーク電圧電源111からの電流は一定の値に維持される。
【0037】
したがって、この順序は、
図4に示されている順序に非常に類似している。しかしながら、コントローラ180は、抽出ビーム電流を監視する代わりに、ボックス470に示されているように、アーク電圧電源111によって引き出された全電流を監視する。シーケンスの残り部分は上述した通りである。
【0038】
したがって、両実施形態では、コントローラは、第2のパラメータを所定の値に維持するために第1のパラメータを調整し、第1のパラメータの値はカソードの厚さを示す。
図4および
図5は、第1のパラメータをバイアス電力であるものとして示しているが、第1のパラメータはこのパラメータに限定されるものではない。例えば、上述したように、第1のパラメータは、バイアス電流、バイアス電圧、バイアスインピーダンス、フィラメント電力、フィラメント電流、フィラメント電圧、またはフィラメント抵抗であり得る。第2のパラメータは、全抽出電流またはアーク電圧電源から引き出される電流であり得る。
【0039】
カソード110の健全性を監視するこの技法は複数の方法で使用され得る。
【0040】
一実施形態では、ボックス450で開始されるアクションは、カソード110がほぼ故障しており、是正アクションがとられるべきであることをオペレータに知らせる、オペレータへの警報とすることができる。例えば、バイアス電力が下側閾値付近にある場合、是正アクションは、オペレータに知らせて低アーク電圧レシピを使用してイオン源を運転するようにしてもよい。逆に言えば、バイアス電力が上側閾値付近にある場合、是正アクションは、高アーク電圧レシピを使用して運転するようにしてもよい。この是正アクションをある期間にわたって、例えば、1時間以上、1時間~6時間などにわたって実行することは、バイアス電力を許容範囲に戻すために、カソード110に材料を加えるか、カソード110から材料を除去するかのどちらかにより健全性を改善する働きをすることができる。この手法は、オペレータが是正アクションをいつ行うべきかの決定の柔軟性を最大にする。
【0041】
別の実施形態では、ボックス450で開始されるアクションは、コントローラ180が所定の是正アクションを自動的に行うことを可能にすることであり得る。例えば、監視されるバイアス電力が下側閾値に近づいた場合、コントローラ180は、カソード110を再生するために低アーク電圧レシピを開始することができる。最速成長を達成するために、このハロゲン系低アーク電圧レシピは、カソード110のハロゲン成長を最大にするために希釈なしで運転され得る。逆に言えば、監視されるバイアス電力が上側閾値に近づいた場合、コントローラ180は、カソード110を薄くするために高アーク電圧レシピを開始することができる。この是正アクションは直ちに開始されてもよく、または、コントローラ180は、オペレータに、都合の良いときに是正アクションをスケジュールする選択肢を与えることができる。
【0042】
第3の実施形態では、ボックス450で開始されるアクションは、コントローラ180によるハロゲンサイクルの能動的調節であり得る。上述したように、ハロゲンサイクルを短縮して壁から材料があまり除去されず、カソード110上に堆積されないようにするために、希釈が使用されることが多い。いくつかの実施形態では、希釈ガスは、水素または水素を含有するPH
3やNH
3などのガスでよい。特定の実施形態では、水素は第1の流量で加えられ、第1の流量は、例えば、おおよそ0.5sccmでよいが、他の流量も可能である。水素の導入は、ハロゲン系低アーク電圧レシピのためのハロゲンサイクルを短縮する働きをする。したがって、一実施形態では、コントローラ180は、例えば
図4または
図5に記述されているように、カソード110の厚さを監視することができる。次いで、コントローラ180は、それに応答して希釈ガスの流量を能動的に調節する。例えば、カソード110がカソードの下限(厚さまたはバイアス電力に関して)に近づくかまたは達すると、コントローラ180は、ハロゲン系低アーク電圧レシピのために希釈ガスの流量を減少させるかまたは使用不可にすることを選ぶことができる。このアクションは、カソード110上に材料を成長させる傾向がある。逆に言えば、カソードがカソードの上限(厚さまたはバイアス電力に関して)に近づくかまたは達すると、コントローラ180は、ハロゲンサイクルをさらに遅くするために希釈ガスの流量を増大させ、したがってバイアス電力が増大し続けるのを妨げることを選ぶことができる。特定の実施形態では、希釈ガスの流量は、カソードが上側閾値または下側閾値に達しないようにカソードの厚さの関数として変化させられる。希釈ガスの流量は、制御信号をコントローラ180から希釈ガスに関連するMFCに提供することにより、コントローラ180によって修正され得る。
【0043】
本システムおよび方法は多くの利点を有する。現在、IHCイオン源が高アーク電圧レシピで長期間運転されると、カソードの厚さは減少する。検査を受けないでいた場合、カソードは機能しなくなり、修理の手続きが必要になる。カソードの健全性を監視することにより、カソードの寿命を延長するために未然防止策を講じることができる。有利には、本明細書に記載のシステムおよび方法は、ハードウェア構成のいかなる修正も必要としない。むしろ、エンハンスメントがソフトウェアに完全に実装されて、このシステムおよび方法を既存のシステム上に後付けすることが可能になり得る。カソードの健全性を監視し、イオン源に使用されるレシピを調整することにより、カソードの寿命は2倍より大きくすることができる。
【0044】
本開示は、本明細書に記載の特定の実施形態により範囲が限定されるべきではない。実際、本開示の他の様々な実施形態および修正形態は、本明細書に記載のものに加えて、前述の説明および添付図面から当業者には明らかになるであろう。したがって、そのような他の実施形態および修正形態は、本開示の範囲内にあることを意図している。さらに、本開示は、特別な目的のために特定の環境での特定の実施形態の状況で本明細書に記述されているが、当業者は、本開示の有用性はその実施形態に限定されないこと、および、本開示は任意の数の目的のために任意の数の環境で有益に実施され得ることを認識するであろう。したがって、以下に記載の特許請求の範囲は、本明細書に記載されているように、本開示の全範囲および精神を考慮して解釈されるべきである。
【国際調査報告】