(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用の正極活物質としてのリチウムニッケル系複合酸化物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240514BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240514BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572903
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(85)【翻訳文提出日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 EP2022064461
(87)【国際公開番号】W WO2022248696
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ビン-ナ・ユン
(72)【発明者】
【氏名】キョンスブ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジ-ヨン・クウォン
(72)【発明者】
【氏名】ウン-ヒョン・リュ
(72)【発明者】
【氏名】スンファン・リ
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ブランジェロ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AA06
4G048AA07
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、充電式リチウムイオン電池用の正極活物質であって、正極活物質が、Li、M’及び酸素を含み、M’が、M’に対して60.0mol%~95.0mol%の含有量xのNiと、M’に対して0<y<40.0mol%の含有量yのCoと、M’に対して0<z<70.0mol%の含有量zのMnと、M’に対して0<a<2.0mol%の含有量aのDであって、Dが、Li、O、Ni、Co、Mn、F、W及びS以外の元素を含む、Dと、M’に対してb>0、好ましくはbが、0.1mol%~4.0mol%である含有量bのFと、M’に対してc>0、好ましくは0.01≦c≦4.0mol%の含有量cのWと、M’に対してd>0、好ましくは0.01mol%~3.0mol%の含有量dのSと、M’に対して0<e<4.0mol%の含有量eのBと、を含み、x、y、z、a、c、及びdが、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)によって測定され、bは、イオンクロマトグラフィー(IC)によって測定され、x+y+z+a+b+c+dは、100.0mol%であり、正極活物質は、式(I)として定義されるF含有量F
Aと、式(II)として定義される含有量W
Aと、式(III)として定義されるS含有量S
Aと、を有し、正極活物質は、F含有量F
Bと、W含有量W
Bと、S含有量S
Bと、を有し、F
B、W
B、及びS
Bは、X線光電子分光法(XPS)分析によって決定され、F
B、W
B、及びS
Bは、各々、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、F、W及びSのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、比F
B/F
A>1.0であり、比W
B/W
A>1.0であり、比S
B/S
A>1.0である、正極活物質を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電式リチウムイオン電池用の正極活物質であって、
前記正極活物質が、Li、M’及び酸素を含み、M’が、
- M’に対して60.0mol%~95.0mol%の含有量xのNiであって、好ましくはxが、80.0mol%~95.0mol%である含有量xのNiと、
- M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCoと、
- M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMnと、
- M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aのDであって、Dが、Li、O、Ni、Co、Mn、F、W及びS以外の元素を含む、Dと、
- M’に対してb>0、好ましくはbが、0.1mol%~4.0mol%である含有量bのFと、
- M’に対してc>0、好ましくは0.01≦c≦4.0mol%の含有量cのWと、
- M’に対してd>0、好ましくは0.01mol%~3.0mol%の含有量dのSと、
- M’に対して0≦e≦4.0mol%の含有量eのBと、
を含み、及び、
x、y、z、a、c、d、及びeが、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)によって測定され、
- bが、イオンクロマトグラフィー(IC)によって測定され、
- x+y+z+a+b+c+d+eが、100.0mol%であり、
前記正極活物質が、
【数1】
として定義されるF含有量F
Aと、
【数2】
として定義されるW含有量W
Aと、
【数3】
として定義されるS含有量S
Aと、を有し、
前記正極活物質が、F含有量F
Bと、W含有量W
Bと、S含有量S
Bと、を有し、F
B、W
B、及びS
Bが、XPS分析によって決定され、F
B、W
B、及びS
Bが、各々、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、F、W及びSのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比F
B/F
A>1.0であり、
比W
B/W
A>1.0であり、
比S
B/S
A>1.0である、正極活物質。
【請求項2】
前記正極活物質が、e>0、好ましくは0.01mol%≦e≦4.0mol%の含有量eのBを含み、前記正極活物質が、
【数4】
として定義されるB含有量B
Aを有し、
前記正極活物質が、XPS分析によって決定されたB含有量B
Bを有し、B
Bが、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、F、W、S、及びBのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比B
B/B
A>1.0である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
比F
B/F
A>2.0である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
比W
B/W
A>2.0である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
比S
B/S
A>2.0である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項6】
比B
B/B
A>2.0である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
Dが、Al、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn、及びZrからなる群のうちの少なくとも1つの元素を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
Dが、Mに対して0.01mol%~2.0mol%の含有量aを有し、好ましくはaが、0.1mol%~1.8mol%である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項9】
以下の連続した、
工程1)リチウム遷移金属酸化物を、F含有化合物及びW含有化合物と混合して、第1の混合物を得る工程と、
工程2)乾燥粉末を、S含有化合物を含む溶液と混合して、混合物を得る工程と、
工程3)前記混合物を酸化性雰囲気中、250℃以上500℃未満の温度で加熱して、前記正極活物質を得る工程と、を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
工程1)で使用される前記F含有化合物が、PVDFである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程2)で使用される前記S含有化合物が、Al
2(SO
4)
3である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記W含有化合物が、WO
3である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
工程1)においてB含有化合物が、前記F含有化合物及び前記W含有化合物と一緒に添加される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記B含有化合物が、H
3BO
3である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、電池。
【請求項16】
ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動ビークル、又はエネルギー貯蔵システムにおける、請求項15に記載の電池の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素を含むリチウム遷移金属系酸化物粒子を含む、電動ビークル(EV)及びハイブリッド電動ビークル(HEV)用途に好適なリチウムイオン二次電池(LIB)用のリチウムニッケル系酸化物正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
正極活物質は、正極において電気化学的に活性である物質として定義される。活物質とは、所定の時間にわたって電圧変化にさらされたときにLiイオンを捕捉及び放出することができる物質であると理解されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、電気化学セルにおける炭素含有量の低減及び初回放電容量(DQ1)の増大などの1つ以上の改善された特性を有する正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
謝辞
本発明は、大韓民国の通商産業資源部(MOTIE、大韓民国)の資金援助により大韓民国産業技術評価機関を通じて材料/部品技術開発プログラムの支援によってなされたものである。[プロジェクト名:8Cレートクラスの高出力(高放電レート)リチウムイオン二次電池の開発/プロジェクト番号:20011287/拠出率:100%]
【0005】
この目的は、リチウムイオン電池用の正極活物質であって、正極活物質は、Li、M’及び酸素を含み、M’が、
- M’に対して60.0mol%~95.0mol%、好ましくは80.0mol%~95.0mol%の含有量xのNiと、
- M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCoと、
- M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMnと、
- M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aのDであって、Dが、Li、O、Ni、Co、Mn、F、W、B、及びS以外の元素を含み、好ましくはDが、Al、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn、及びZrからなる群の少なくとも1つの元素を含む、Dと、
- M’に対してb>0、好ましくはbが、0.1mol%~4.0mol%である含有量bのFと、
- M’に対してc>0、好ましくは0.01mol%~4.0mol%の含有量cのWと、
- M’に対して0.01≦d≦3.0mol%の含有量dのSと、
- 任意選択的に、M’に対して0≦e≦4.0mol%の含有量eのBと、を含み、x、y、z、a、d及びcは、ICP-OESによって測定され、
- bが、ICによって測定され、
- x+y+z+a+b+c+dが、100.0mol%であり、
正極活物質が、
【0006】
【0007】
として定義されるF含有量FAと、
【0008】
【0009】
として定義されるW含有量WAと、
【0010】
【0011】
として定義されるS含有量SAと、を有し、
正極活物質が、F含有量FBと、W含有量WBと、S含有量SBと、を有し、FB、WB、及びSBは、XPS分析によって決定され、FB、WB、及びSBは、各々、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、F、W及びSのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比FB/FA>1.0であり、
比WB/WA>1.0であり、
比SB/SA>1.0である。
【0012】
場合によっては、正極物質が、e>0、好ましくは0.01mol%≦e≦4.0mol%の含有量eのBを含み、正極活物質は、
【0013】
【0014】
として定義されるB含有量BAを有し、
正極活物質が、XPS分析によって決定されたB含有量BBを有し、BBは、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、F、W、S、及びBのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比BB/BA>1.0である。
【0015】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0016】
実施形態1
第1の態様において、本発明は、リチウムイオン電池用の正極活物質であって、正極活物質は、Li、M’及び酸素を含み、M’が、
- M’に対して60.0mol%~95.0mol%の含有量xのNiと、
- M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCoと、
- M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMnと、
- M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aのDであって、Dが、Li、O、Ni、Co、Mn、F、W、B、及びS以外の元素を含み、好ましくはDが、Al、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn、及びZrからなる群の少なくとも1つの元素を含む、Dと、
- M’に対して0.1mol%~4.0mol%の含有量bのFと、
- M’に対して0.01mol%~4.0mol%の含有量cのWと、
- M’に対して0.01≦d≦3.0mol%の含有量dのSと、
- 任意選択的に、M’に対して0≦e≦4.0mol%の含有量eのBと、を含み、
- x、y、z、a、c、d、及びeが、ICP-OESによって測定され、
- bが、ICによって測定され、
- x+y+z+a+b+c+d+eが、100.0mol%であり、
正極活物質が、
【0017】
【0018】
として定義されるF含有量FAと、
【0019】
【0020】
として定義されるW含有量WAと、
【0021】
【0022】
として定義されるS含有量SAと、を有し、
正極活物質が、F含有量FBと、W含有量WBと、S含有量SBと、を有し、FB、WB、及びSBは、XPS分析によって決定され、FB、WB、及びSBは、各々、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、F、W及びSのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比FB/FA>1.0であり、
比WB/WA>1.0であり、
比SB/SA>1.0である、正極活性物質に関する。
【0023】
好ましくは、FB/FA>2.0、より好ましくはFB/FA>5.0、最も好ましくはFB/FA≧30.0である。
【0024】
好ましくは、FB/FA<70.0、より好ましくはFB/FA<60.0、最も好ましくはFB/FA≦65.0である。
【0025】
好ましくは、SB/SA>2.0、より好ましくはSB/SA>5.0、最も好ましくはSB/SA≧30.0である。
【0026】
好ましくは、SB/SA<100.0、より好ましくはSB/SA<90.0、最も好ましくはSB/SA≦95.0である。
【0027】
好ましくは、WB/WA>2.0、より好ましくはWB/WA>5.0、最も好ましくはWB/WA≧60.0である。
【0028】
好ましくは、WB/WA<130.0、より好ましくはWB/WA≦110.0である。
【0029】
好ましくは、Ni含有量は、M’に対してx≧65.0mol%、より好ましくはx≧70.0mol%、更により好ましくは75mol%超である。
【0030】
好ましくは、Ni含有量は、M’に対してx≦93.0mol%、より好ましくはx≦91.0mol%、更により好ましくは87mol%未満である。
【0031】
好ましくは、Co含有量は、M’に対してy>2.0mol%、より好ましくはy≧3.0mol%、更により好ましくはy≧4.0mol%である。
【0032】
一実施形態において、Co含有量は、M’に対してy<20mol%、より好ましくはy<15mol%、更により好ましくはy<12.5mol%である。
【0033】
好ましくは、Mn含有量は、M’に対してz>1mol%、より好ましくは≧3.0mol%、更により好ましくはz≧4.0mol%である。
【0034】
一実施形態において、Mn含有量は、M’に対してy<20mol%、より好ましくはMn<15mol%、更により好ましくは<12.5mol%である。
【0035】
好ましくは、aは、M’に対して0.01mol%~2.0mol%であり、好ましくは、aは、0.1mol%~1.8mol%である。
【0036】
好ましくは、Sは、0.1mol%~2mol%、更により好ましくは0.2mol%~1mol%の含有量bで存在する。
【0037】
好ましくは、Fは、0.1mol%~2mol%、更により好ましくは0.2mol%~1mol%の含有量bで存在する。
【0038】
好ましくは、Wは、0.1mol%~2mol%、更により好ましくは0.2mol%~1mol%の含有量bで存在する。
【0039】
場合によっては、正極活物質は、M’に対して0~4.0mol%、好ましくは0.1mol%~2mol%、更により好ましくは0.2mol%~1mol%の含有量でBを更に含む。
【0040】
好ましくは、正極活物質は、粉末の形態である。
【0041】
完全性のために、本発明の定義において、元素の含有量が記号「0≦」を使用して述べられる場合、これは、当該元素の存在が任意選択であることを意味することに留意されたい。
【0042】
実施形態2
第2の態様において、本発明は、本発明の正極活物質を含む電池を提供する。
【0043】
実施形態3
第3の態様において、本発明は、ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動ビークル、又はエネルギー貯蔵システムにおける、本発明による電池の使用を提供する。
【0044】
実施形態4:
第4の実施形態cリチウムイオン電池用の正極活物質であって、正極活物質が、Li、M’及び酸素を含み、M’が、
- M’に対して60.0mol%~95.0mol%の含有量xのNiと、
- M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCoと、
- M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMnと、
- M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aのDであって、Dが、Al、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn、及びZrからなる群のうちの少なくとも1つの元素を含む、Dと、
- M’に対して0.1mol%~4.0mol%の含有量bのFと、
- M’に対して0.1mol%~4.0mol%の含有量cのWと、
- M’に対して0≦d≦3.0mol%の含有量dのSと、
- M’に対して0≦e≦4.0mol%の含有量eのBと、を含み、
- x、y、z、a、d、e及びcは、ICP-OESによって測定され、
- bは、ICによって測定され、
- x+y+z+a+b+c+d+eが、100.0mol%であり、
【0045】
【0046】
正極活物質が、として定義されるF含有量FAと、
【0047】
【0048】
として定義されるW含有量WAと、を有し、
正極活物質が、F含有量FBと、W含有量WBとを有し、FB及びWBは、XPS分析によって決定され、FB及びWBは、各々、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、F、W、B及びSのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比FB/FA>1.0であり、
比WB/WA>1.0である。
好ましくは、FB/FA>2.0である。
好ましくは、WB/WA>1.0である。
【0049】
完全性のために、本発明の定義において、元素の含有量が記号「0≦」を使用して述べられる場合、これは、当該元素の存在が任意選択であることを意味することに留意されたい。
【0050】
実施形態5
第5の実施形態において、好ましくは実施形態4に従って、当該物質が、0.01mol%≦d≦3.0mol%の含有量dのSを含み、正極活物質が、
【0051】
【0052】
として定義されるS含有量SAを有し、
正極活物質が、XPS分析によって決定されたS含有量SBを有し、SBは、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、F、W、S、及びBのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比SB/SA>1.0である。
好ましくは、SB/SA>2.0である。
【0053】
実施形態6
第6の実施形態において、好ましくは実施形態4又は5に従って、当該物質が、0.01mol%≦e≦4.0mol%の含有量eのBを含み、正極活物質が、
【0054】
【0055】
として定義されるB含有量BAを有し、
正極活物質が、XPS分析によって決定されたB含有量BBを有し、BBは、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、F、W、S、及びBのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比BB/BA>1.0である。
好ましくは、BB/BA>2.0である。
【0056】
実施形態7
第7の実施形態において、本発明は、Li、M’及び酸素を含む正極活物質であって、M’が、
- M’に対して60.0mol%~95.0mol%の含有量xのNiと、
- M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCoと、
- M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMnと、
- M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aのDであって、Dが、Al、B、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、S、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn、及びZrからなる群のうちの少なくとも1つの元素を含む、Dと、
- M’に対して0.1mol%~4.0mol%の含有量bのFと、
- M’に対して0.0mol%~4.0mol%の含有量cのWと、
- M’に対して0.01mol%~3.0mol%の含有量dのSと、
- 0≦e≦4.0mol%の含有量eのBと、を含み、
- x、y、z、a、c、d、及びeが、ICP-OESによって測定され、
- bは、ICによって測定され、
- x+y+z+a+b+c+d+eが、100.0mol%であり、
【0057】
【0058】
正極活物質が、として定義されるF含有量FAと、
【0059】
【0060】
として定義されるS含有量SAと、を有し、
正極活物質が、F含有量FBを有し、FBは、XPS分析によって決定され、FB及びSBは、各々、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、F、W、B及びSのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、比FB/FA>1.0であり、
比SB/SA>1.0である、正極活物質に関する。
好ましくは、FB/FA>2.0である。
好ましくは、SB/SA>2.0である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明による正極活物質は、典型的には、炭素含有量の低減及びサイクル寿命の増大という以下の利点のうちの1つ以上を有する。これは、フッ素、硫黄及びタングステンを含む正極物質によって達成されると考えられる。
【0062】
典型的には、本発明の正極物質は、レーザー回折粒子径分析によって決定したときに、少なくとも2μm、好ましくは少なくとも3μmのメジアン径D50を有する二次粒子を含む。
【0063】
好ましくは、当該物質は、レーザー回折粒子径分析によって決定したときに、多くとも16μm、好ましくは多くとも15μmの二次粒子メジアン径D50を有する。
【0064】
本発明による更なる生成物の実施形態は、前述の様々な生成物の実施形態により網羅される特徴を組み合わせることにより提供され得ることは明白である。
【0065】
本発明の更なる態様において、本発明の正極物質は、以下の:
工程1)リチウム遷移金属酸化物を、F含有化合物及びW含有化合物と混合して、第1の混合物を得る工程と、
工程2)乾燥粉末を、S含有化合物を含む溶液と混合して、混合物を得る工程と、
工程3)混合物を酸化性雰囲気中、250℃以上500℃未満の温度で加熱して、正極活物質を得る工程と、を含む方法によって作製されてもよい。
【0066】
好ましくは、工程1)で使用されるF含有化合物は、PVDFである。
【0067】
好ましくは、工程1)で使用される当該Fの量は、リチウム遷移金属酸化物の重量に対して300ppm~3000ppmである。より好ましくは、工程1)で使用される当該Fの量は、500ppm~2000ppmである。
【0068】
好ましくは、工程1)において、W含有化合物は、リチウム遷移金属酸化物の重量に対して2000ppm~9000ppmのWの量で、F含有化合物と一緒に添加される。
【0069】
好ましくは、工程1)で使用されるW含有化合物は、WO3である。
【0070】
好ましくは、工程1)で使用される当該Wの量は、3000ppm~8000ppmである。
【0071】
好ましくは、工程2)で使用される当該溶液は、リチウム遷移金属酸化物の重量に対して500ppm~5000ppmの量のSを含む。より好ましくは、工程2)で使用される当該溶液は、乾燥粉末の重量に対して700ppm~3000ppmの量のSを含む。
【0072】
好ましくは、工程2)で使用されるS含有化合物は、Al2(SO4)3である。
【0073】
任意選択的に、Li、O、Ni、Co、Mn、F、W及びS以外の元素含有化合物を正極物質に添加することができ、好ましくは、当該元素は、Al、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn、及びZrからなる群からの元素のうちの少なくとも1つを含む。好ましくは、当該元素含有化合物は、遷移金属酸化物を調製する場合にリチウム源と一緒に混合工程で添加される。あるいは、当該元素含有化合物は、前駆体作製において添加されてもよい。
【0074】
本発明の枠組みにおいて、ppmは、濃度の単位についての百万分率を意味し、1ppm=0.0001重量%を表す。
【0075】
以下の詳細な記述では、本発明の実施を実現するために、好ましい実施形態を記載している。本発明は、これらの特定の好ましい実施形態を参照して記載されているが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されよう。本発明は、以下の詳細な説明及び付随する図面の考察から明らかである多くの代替、改変、及び均等物を含む。
【0076】
A)ICP-OES分析
正極活物質粉末のLi、Ni、Mn、Co、Al、及びS、任意選択的にB含有量は、Agillent ICP 720-OESを使用することにより、誘導結合プラズマ発光分光分析(Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry、ICP-OES)法を用いて測定する。三角フラスコ中で、2グラムの生成物粉末サンプルを10mLの高純度塩酸に溶解させる。前駆体を完全に溶解させるまで、フラスコをガラスでカバーし、380℃のホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、三角フラスコの溶液を250mLメスフラスコに注ぐ。その後、メスフラスコの250mLの標線まで脱イオン水を充填し、続いて、完全に均質化する。ピペットで適切な量の溶液を取り出し、2回目の希釈のために250mLメスフラスコに移し、メスフラスコの250mLの標線まで内部標準物質及び10%塩酸を充填した後、均質化させる。最後に、この50mL溶液をICP-OES測定に使用する。
【0077】
B)PSD
正極活物質粉末の粒子径分布(particle size distribution)(PSD)は、各々の粉末サンプルを水性媒体中に分散させた後、Hydro MV湿式分散付属品を備えたMalvern Mastersizer 3000を使用して、レーザー回折粒子径分析によって測定される。粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を適用し、適切な界面活性剤を導入する。D50は、Hydro MV測定値によるMalvern Mastersizer 3000から得られた累積体積%分布の50%における粒子径として定義される。
【0078】
C)イオンクロマトグラフィー(IC)分析
正極活物質粉末中のF量は、Dionex ICS-2100(Thermo scientific)を使用することによりイオンクロマトグラフィー(Ion Chromatography)(IC)法を用いて測定される。250mLメスフラスコ及び100mLメスフラスコを、使用前に65 wt%のHN03と脱イオン水との体積比1:1の混合溶液ですすいだ後、フラスコを脱イオン水で少なくとも5回すすぐ。2mLのHNO3、2mLのH2O2、及び2mLの脱イオン水を溶媒として混合する。0.5グラムの粉末サンプルを混合溶媒中に溶解させる。溶液を容器から250mLメスフラスコに完全に移し、フラスコの250mLの標線まで脱イオン水を充填する。充填したフラスコを十分に振盪して溶液の均質性を確保する。250mLフラスコから9mLの溶液を100mLメスフラスコに移す。100mLメスフラスコの100mLの標線まで脱イオン水を充填し、希釈溶液を十分に振盪して均一なサンプル溶液を得る。2mLのサンプル溶液を、IC測定のためにsyringe-OnGuardカートリッジを介して5mLのICバイアルに挿入する。
【0079】
D)コインセル試験
D1)コインセルの作製
正極の作製に関しては、溶媒(NMP,Mitsubishi)中に正極活物質粉末、コンダクタ(Super P,Timcal)、バインダー(KF#9305,Kureha)を、重量比96.5:1.5:2.0の配合で含有するスラリーを、高速ホモジナイザーによって作製する。均質化したスラリーを、170μmのギャップでドクターブレードコータを使用してアルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングした箔をオーブン内で、120℃で乾燥させ、次いでカレンダーツールを使用してプレスする。次いで、これを真空オーブン内で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に除去する。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard 2320)を、正極と、負極として使用するリチウム箔片との間に配置する。EC/DMC(1:2)中1MのLiPF6は、電解質として使用され、セパレータと電極との間に滴下される。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0080】
D2)試験方法
試験方法は、従来の「定カットオフ電圧」試験である。本発明における従来のコインセル試験は表2に示したスケジュールに従う。各セルを、Toscat-3100コンピュータ制御定電流サイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(Toyo製)を使用して、25℃でサイクル試験する。スケジュールは、4.3V~3.0V/Li金属窓範囲における220mA/gの1C電流定義を使用する。容量低下率(QF)は、以下の式によって求められる。
【0081】
【0082】
式中、DQ1は1サイクル目の放電容量であり、DQ7は7サイクル目の放電容量であり、DQ34は34サイクル目の放電容量である。
【0083】
【0084】
E)X線光電子分光(XPS)分析
本発明では、X線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy)(XPS)を使用して、正極活物質粉末粒子の表面を分析する。XPS測定では、シグナルは、サンプルの最上部、すなわち、表面層の最初の数ナノメートル(例えば、1nm~10nm)から取得される。したがって、XPSによって測定される全ての元素は、表面層に含有されている。
【0085】
正極活物質粉末粒子の表面分析では、XPS測定は、Thermo K-α+分光計(Thermo Scientific,https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/IQLAADGAAFFACVMAHV)を使用して行われる。
【0086】
単色Al Kα放射線(hv=1486.6eV)は、400μmのスポットサイズ及び45°の測定角度で使用される。表面に存在する元素を同定するための広範な調査スキャンを、200eVのパスエネルギーで実施する。284.8eVの結合エネルギーに最大強度(又は中心)を有するClsピークは、データ収集後のキャリブレーションピーク位置として使用される。
【0087】
その後、同定された各元素に対して、50eVにて正確なナロースキャンが少なくとも10回スキャンされ、正確な表面組成が決定される。
【0088】
曲線のフィッティングは、CasaXPSバージョン2.3.19PR1.0(Casa Software,http://www.casaxps.com/)により、シャーリー型バックグラウンド処理及びスコフィールド感度係数を使用して行う。当てはめパラメータは表2aに従う。線形状GL(30)は、70%ガウス線及び30%ローレンツ線におけるガウス/ローレンツ積公式である。
【0089】
LA(α、β、m)は非対称な線形状であり、式中、α及びβはピークのテール広がりを定義し、mは幅を定義する。
【0090】
【0091】
Co、W、S又はBピークについては、表2bに従って各々定義されたピークに関する制限が、設定される。W5p3は定量化されない。
【0092】
【0093】
F、W、S及びBの表面含有量は、XPSによって決定したときに、粒子の表面におけるF、W、S及びBのモル分率を、当該表面におけるNi、Mn、Co、W、B及びSの合計含有量で割ったものとして表される。それらは以下のように計算される。
【0094】
【0095】
F)炭素分析器
正極活物質粉末の炭素含有量は、堀場製作所製Emia-Expert炭素/硫黄分析装置によって測定する。1gの正極活物質粉末を、高周波誘導電気炉内のセラミック坩堝に入れる。促進剤としての1.5gのタングステン及び0.3gのスズを坩堝の中へ加える。粉末をプログラム可能な温度で加熱し、次いで、燃焼中に生成されたガスを赤外線検出器によって分析する。CO2及びCOの分析により、炭素濃度を決定する。
【0096】
本発明を以下の(非限定的な)実施例によって更に説明する。
【0097】
比較例1.1
CEX1.1を、以下のように行われる、リチウム源と遷移金属系源前駆体との間の固相反応によって得た。
1)共沈:大型連続撹拌槽反応器(CSTR)に混合したニッケル-マンガン-コバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを入れた共沈プロセスにより、金属組成Ni0.80Mn0.10Co0.10を有する遷移金属系酸化水酸化物前駆体を作製した。
2)ブレンド:工程1)で作製した前駆体と、リチウム源としてのLiOHとを、工業用ブレンド装置において1.00のリチウム対金属M’(Li/M’)比で均質にブレンドした。
3)第1の加熱:工程2)からのブレンドを、酸素雰囲気下で805℃にて12時間焼結した。生成物を粉砕し、分級し、篩い分けすることにより、第1の加熱粉末を得た。
4)湿式混合:工程3)からの第1の加熱粉末を、第1の加熱粉末の重量に対して3.5重量%の脱イオン水に約3800ppmのAl2(SO4)3粉末を溶解することによって調製された硫酸アルミニウム溶液と混合した。
5)第2の加熱:工程4)から得られた混合物を、酸素雰囲気下、385℃で8時間加熱し、続いて、粉砕及び篩い分けした。得られたCEX1.1は、上記のPSD方法Bによって決定したときに、約13μmのD50を有していた。
【0098】
比較例1.2
工程4)の湿式混合工程の前に乾式混合工程を加えたことを除いて、CEX1.1と同じ方法に従ってCEX1.2を作製した。乾式混合工程において、WO3粉末からの4000ppmのWを第1の加熱粉末と混合した。CEX1.2は、上記のPSD方法Bによって決定したときに、13μmのD50を有していた。
【0099】
実施例1.1
工程4)の湿式混合工程の前に乾式混合工程を加えたことを除いて、CEX1.1と同じ方法に従ってEX1.1を作製した。乾式混合工程において、PVDF粉末からの650ppmのF及びWO3粉末からの4000ppmのWを、第1の加熱粉末と混合した。EX1.1は、上記のPSD方法Bによって決定したときに、13μmのD50を有していた。
【0100】
実施例1.2
工程4)の湿式混合工程の前に乾式混合工程を加えたことを除いて、CEX1.1と同じ方法に従ってEX1.2を作製した。乾式混合工程において、PVDF粉末からの650ppmのF及びWO3粉末からの6000ppmのWを、第1の加熱粉末と混合した。EX1.2は、上記のPSD方法Bによって決定したときに、13μmのD50を有していた。
【0101】
実施例1.3
工程4)の湿式混合工程の前に乾式混合工程を加えたことを除いて、CEX1.1と同じ方法に従ってEX1.3を作製した。乾式混合工程において、PVDF粉末からの980ppmのF及びWO3粉末からの4000ppmのWを、第1の加熱粉末と混合した。EX1.3は、上記のPSD方法Bによって決定したときに、13μmのD50を有していた。
【0102】
実施例1.4
工程4)の湿式混合工程の前に乾式混合工程を加えたことを除いて、CEX1.1と同じ方法に従ってEX1.4を作製した。乾式混合工程において、PVDF粉末からの650ppmのF及びWO3粉末からの3000ppmのWを、第1の加熱粉末と混合した。EX1.4は、上記のPSD方法Bによって決定したときに、13μmのD50を有していた。
【0103】
実施例1.5
工程4)の湿式混合工程の前に乾式混合工程を加えたことを除いて、CEX1.1と同じ方法に従ってEX1.5を作製した。乾式混合工程において、PVDF粉末からの1300ppmのF及びWO3粉末からの4000ppmのWを、第1の加熱粉末と混合した。EX1.5は、上記のPSD方法Bによって決定したときに、13μmのD50を有していた。
【0104】
実施例1.6
工程4)の湿式混合工程において6350ppmのAl2(SO4)3を混合し、工程4)の前に乾式混合工程を加えたことを除いて、CEX1.1と同じ方法に従ってEX1.6を作製した。乾式混合工程において、PVDF粉末からの650ppmのF及びWO3粉末からの4000ppmのWを、第1の加熱粉末と混合した。EX1.6は、上記のPSD方法Bによって決定したときに、13μmのD50を有していた。
【0105】
比較例2.1
工程4)の湿式混合工程の前に乾式混合工程を加えたことを除いて、CEX1.1と同じ方法に従ってCEX2.1を作製した。乾式混合工程において、PVDF粉末からの650ppmのFを第1の加熱粉末と混合した。CEX2.1は、上記のPSD方法Bによって決定したときに、13μmのD50を有していた。
【0106】
比較例2.2
工程4)の湿式混合工程において6350ppmのAl2(SO4)3を混合し、工程4)の前に乾式混合工程を加えたことを除いて、CEX1.1と同じ方法に従ってCEX2.2を作製した。乾式混合工程において、PVDF粉末からの650ppmのFを第1の加熱粉末と混合した。CEX2.2は、上記のPSD方法Bによって決定したときに、13μmのD50を有していた。
【0107】
EX1.1、EX1.2、EX1.3、EX1.4、EX1.5、及びEX1.6の作製におけるPVDF、WO3及びAl2(SO4)3化合物の使用は、それぞれ、FB/FA>1.0、WB/WA>1.0、及びSB/SA>1.0をもたらし、FB、WB、及びSBは、XPS測定によって得られ、FA、WA、及びSAは、ICP-OES測定によって得られる。
【0108】
【0109】
0より大きいFB、SB、及びWBは、シグナルがサンプルの最上部、すなわち表面層の最初の数ナノメートル(例えば1nm~10nm)から取得されるXPS測定と関連して、当該元素が正極活物質の表面に存在することを示す。他方、ICP-OES測定から得られたFA、SA、及びWAの原子比は、粒子全体からのものである。FB/Fa、SB/SA、及びWB/WAのICP-OESに対するXPSの比が1より大きいことは、F、S及びW元素が正極活物質の表面に主に存在することを示す。
【0110】
上記表3は、本発明によるS、F及びWをそれぞれ含む正極活物質EX1.1~EX1.6が、電気化学セルに使用された場合、比較例CEX1.1、CEX1.2、CEX2.1、及びCEX2.2よりも改善された炭素含有量の低減及びDQ1の増大の特性を有することを示す。
【0111】
比較例3
CEX3を、以下のように行われる、リチウム源と遷移金属系源前駆体との間の固相反応によって得た。
1)共沈:2勾配完全濃度勾配(TSFCG)前駆体として知られる濃度勾配を有する遷移鉄系酸化水酸化物前駆体を、J.Mater.Chem.A,2015,3,22183に従って作製した。全金属組成は、Ni0.85Mn0.10Co0.05であった。
2)ブレンド:工程1)で作製した前駆体と、リチウム源としてのLiOHとを、工業用ブレンド装置において1.005のリチウム対金属M’(Li/M’)比で均質にブレンドした。
3)第1の加熱:工程2)からのブレンドを、酸素雰囲気下で765℃にて10時間焼結した。生成物を粉砕し、分級し、篩い分けすることにより、10.5μmのD50を有するCEX3を得た。
【0112】
実施例3.1
EX3.1は、CEX3をPVDF粉末及びWO3粉末と混合し、続いて385℃で加熱することによって作製した。EX3.1は、1300ppmのF及び4500ppmのWを含む。
【0113】
実施例3.2
EX3.2は、CEX3をH3BO3、PVDF粉末、及びWO3粉末と混合し、続いて385℃で加熱することによって作製した。EX4.2は、500ppmのB、1300ppmのF、及び4500ppmのWを含む。
【0114】
EX3.1及びEX3.2におけるPVDF、WO3及びH3BO3化合物混合、続いて熱処理の工程は、それぞれ、FB/FA>1.0、WB/WA>1.0、及びBB/BA>1.0をもたらし、FB、WB、及びBBは、XPS測定によって得られ、FA、WA、及びBAは、ICP-OES測定によって得られる。
【0115】
【0116】
0より大きいFB、SB、Bb、及びWBは、シグナルがサンプルの最上部、すなわち表面層の最初の数ナノメートル(例えば1nm~10nm)から取得されるXPS測定と関連して、当該元素が正極活物質の表面に存在することを示す。他方、ICP-OES測定から得られたFA、SA、Ba、及びWAの原子比は、粒子全体からのものである。FB/Fa、SB/SA、BB/BA、及びWB/WAのICP-OESに対するXPSの比が1より大きいことは、F、S、B、及びW元素が主に正極活物質の表面に存在することを示す
【手続補正書】
【提出日】2023-11-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電式リチウムイオン電池用の正極活物質であって、
前記正極活物質が、Li、M’及び酸素を含み、M’が、
- M’に対して60.0mol%~95.0mol%の含有量xのN
iと、
- M’に対して0≦y≦40.0mol%の含有量yのCoと、
- M’に対して0≦z≦70.0mol%の含有量zのMnと、
- M’に対して0≦a≦2.0mol%の含有量aのDであって、Dが、Li、O、Ni、Co、Mn、F、W及びS以外の元素を含む、Dと、
- M’に対してb>
0である含有量bのFと、
- M’に対してc>
0の含有量cのWと、
- M’に対してd>
0の含有量dのSと、
- M’に対して0≦e≦4.0mol%の含有量eのBと、
を含み、及び、
x、y、z、a、c、d、及びeが、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)によって測定され、
- bが、イオンクロマトグラフィー(IC)によって測定され、
- x+y+z+a+b+c+d+eが、100.0mol%であり、
前記正極活物質が、
【数1】
として定義されるF含有量F
Aと、
【数2】
として定義されるW含有量W
Aと、
【数3】
として定義されるS含有量S
Aと、を有し、
前記正極活物質が、F含有量F
Bと、W含有量W
Bと、S含有量S
Bと、を有し、F
B、W
B、及びS
Bが、XPS分析によって決定され、F
B、W
B、及びS
Bが、各々、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、F、W及びSのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比F
B/F
A>1.0であり、
比W
B/W
A>1.0であり、
比S
B/S
A>1.0である、正極活物質。
【請求項2】
前記正極活物質が、e>
0の含有量eのBを含み、前記正極活物質が、
【数4】
として定義されるB含有量B
Aを有し、
前記正極活物質が、XPS分析によって決定されたB含有量B
Bを有し、B
Bが、XPS分析によって測定されたCo、Mn、Ni、F、W、S、及びBのモル分率の合計と比較したモル分率として表され、
比B
B/B
A>1.0である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
比F
B/F
A>2.0である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
比W
B/W
A>2.0である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
比S
B/S
A>2.0である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項6】
比B
B/B
A>2.0である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
Dが、Al、Ba、Ca、Cr、Fe、Mg、Mo、Nb、Si、Sr、Ti、Y、V、Zn、及びZrからなる群のうちの少なくとも1つの元素を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
Dが、Mに対して0.01mol%~2.0mol%の含有量aを有
する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項9】
以下の連続した、
工程1)リチウム遷移金属酸化物を、F含有化合物及びW含有化合物と混合して、第1の混合物を得る工程と、
工程2)乾燥粉末を、S含有化合物を含む溶液と混合して、混合物を得る工程と、
工程3)前記混合物を酸化性雰囲気中、250℃以上500℃未満の温度で加熱して、前記正極活物質を得る工程と、を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
工程1)で使用される前記F含有化合物が、PVDFである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程2)で使用される前記S含有化合物が、Al
2(SO
4)
3である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記W含有化合物が、WO
3である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
工程1)においてB含有化合物が、前記F含有化合物及び前記W含有化合物と一緒に添加される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記B含有化合物が、H
3BO
3である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、電池。
【請求項16】
ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動ビークル、又はエネルギー貯蔵システムにおける、請求項15に記載の電池の使用。
【国際調査報告】