IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バーサム マテリアルズ ユーエス,リミティド ライアビリティ カンパニーの特許一覧

特表2024-520121超高純度の二塩化二酸化モリブデン、その充填された形態及びその調製方法
<>
  • 特表-超高純度の二塩化二酸化モリブデン、その充填された形態及びその調製方法 図1
  • 特表-超高純度の二塩化二酸化モリブデン、その充填された形態及びその調製方法 図2
  • 特表-超高純度の二塩化二酸化モリブデン、その充填された形態及びその調製方法 図3
  • 特表-超高純度の二塩化二酸化モリブデン、その充填された形態及びその調製方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-21
(54)【発明の名称】超高純度の二塩化二酸化モリブデン、その充填された形態及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 39/04 20060101AFI20240514BHJP
   C01G 39/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C01G39/04
C01G39/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574174
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 US2022072468
(87)【国際公開番号】W WO2022256773
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】63/195,691
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517114182
【氏名又は名称】バーサム マテリアルズ ユーエス,リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン エー.クラウス
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ ブイ.イバノフ
(72)【発明者】
【氏名】ブレント エー.スパーリング
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA06
4G048AB08
4G048AC08
(57)【要約】
開示及び特許請求される対象は、水分(H2O)、塩化水素(HCl)及び/又は残留プロトンを実質的に含有しない超高純度の二塩化二酸化モリブデン(すなわちMoO2Cl2)、その充填された形態、並びにそれを調製する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約30ppm未満のプロトンを有する、超高純度のMoO2Cl2
【請求項2】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で25ppm未満のプロトンを有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項3】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で20ppm未満のプロトンを有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項4】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で15ppm未満のプロトンを有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項5】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で12ppm未満のプロトンを有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項6】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で10ppm未満のプロトンを有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項7】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で6ppm未満のプロトンを有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項8】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で3ppm未満のプロトンを有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項9】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で2ppm未満のプロトンを有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項10】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で1.5ppm未満のプロトンを有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項11】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約250ppm未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項12】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約200ppm未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項13】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約150ppm未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項14】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約125ppm未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項15】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約100ppm未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項16】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約75ppm未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項17】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約50ppm未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項18】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約25ppm未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項19】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約20ppm未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項20】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約15ppm未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項21】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約12.5ppm未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項22】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約10ppm未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項23】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.030wt%未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項24】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.025wt%未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項25】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.015wt%未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項26】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.010wt%未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項27】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.008wt%未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項28】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.005wt%未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項29】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.003wt%未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項30】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.002wt%未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項31】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.001wt%未満のH2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項32】
2Oを実質的に含有しない、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項33】
2Oを含有しない、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項34】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約1000ppm未満のHClの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項35】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約750ppm未満のHClの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項36】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約500ppm未満のHClの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項37】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約400ppm未満のHClの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項38】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約300ppm未満のHClの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項39】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約200ppm未満のHClの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項40】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約100ppm未満のHClの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項41】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約90ppm未満のHClの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項42】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約75ppm未満のHClの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項43】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約50ppm未満のHClの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項44】
HClを実質的に含有しない、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項45】
HClを含有しない、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項46】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.30wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項47】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.25wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項48】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.20wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項49】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.15wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項50】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.12wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項51】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.10wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項52】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.09wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項53】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.06wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項54】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.03wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項55】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.025wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項56】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.02wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項57】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.015wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項58】
1H NMRによって測定した場合に、物理吸着又は化学吸着した状態で約0.01wt%未満のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項59】
MoO2Cl2×H2Oを実質的に含有しない、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項60】
MoO2Cl2×H2Oを含有しない、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項61】
約0.20wt%未満の物理吸着又は化学吸着された状態のMoO3の残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項62】
約0.15wt%未満の物理吸着又は化学吸着された状態のMoO3の残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項63】
約0.10wt%未満の物理吸着又は化学吸着された状態のMoO3の残留合計含有量を有する、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項64】
MoO3を実質的に含有しない、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項65】
MoO3を含有しない、請求項1に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項66】
約2.0g/cm3超のバルク密度を有する、請求項1~65のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項67】
約2.1g/cm3超のバルク密度を有する、請求項1~65のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項68】
約2.2g/cm3超のバルク密度を有する、請求項1~65のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項69】
約2.3g/cm3超のバルク密度を有する、請求項1~65のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項70】
約2.4g/cm3超のバルク密度を有する、請求項1~65のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項71】
約2.5g/cm3超のバルク密度を有する、請求項1~65のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項72】
約2.6g/cm3超のバルク密度を有する、請求項1~65のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項73】
約2.7g/cm3超のバルク密度を有する、請求項1~65のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項74】
約2.8g/cm3超のバルク密度を有する、請求項1~65のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項75】
約2.9g/cm3超のバルク密度を有する、請求項1~65のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項76】
約3.0g/cm3超のバルク密度を有する、請求項1~65のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2
【請求項77】
a.低純度のMoO2Cl2を圧力容器中に充填する工程;
b.前記低純度のMoO2Cl2を溶融するために十分な温度に前記容器を加熱する工程;
c.任意選択で、溶融したMoO2Cl2をろ過する工程;
d.前記容器をベントして、不純物を除去する工程;
e.前記容器を冷却する工程;及び
f.任意選択で、前記容器を再度ベントする工程
を含む、超高純度のMoO2Cl2を調製する方法。
【請求項78】
工程a~fのうち1つ又は複数が繰り返される、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
工程bの加熱する工程が、前記容器を約180℃~約200℃の温度に加熱することを含む、請求項77に記載の方法。
【請求項80】
約0.7kg/L~約1.5kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2のコンテナを含む、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項81】
約0.7kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2のコンテナを含む、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項82】
約0.8kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2のコンテナを含む、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項83】
約0.9kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2のコンテナを含む、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項84】
約1.0kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2のコンテナを含む、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項85】
約1.1kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2のコンテナを含む、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項86】
約1.2kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2のコンテナを含む、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項87】
約1.3kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2のコンテナを含む、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項88】
約1.4kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2のコンテナを含む、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項89】
約1.5kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2のコンテナを含む、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項90】
前記コンテナがシリンダー形状を有する、請求項80~89のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項91】
前記コンテナが、少なくとも2/1の高さ/直径の比を有する、請求項80~89のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項92】
前記コンテナが、少なくとも3/1の高さ/直径の比を有する、請求項80~89のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項93】
前記コンテナが、少なくとも4/1の高さ/直径の比を有する、請求項80~89のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項94】
前記コンテナが、少なくとも5/1の高さ/直径の比を有する、請求項80~89のいずれか1項に記載の超高純度のMoO2Cl2の充填された形態。
【請求項95】
ガス状HClを含有しないか、又は実質的に含有しない、MoO2Cl2を含む気相。
【請求項96】
ガス状HClを実質的に含有しない、MoO2Cl2を含む気相。
【請求項97】
300ppm体積未満のガス状HClを有する、MoO2Cl2を含む気相。
【請求項98】
150ppm体積未満のガス状HClを有する、MoO2Cl2を含む気相。
【請求項99】
100ppm体積未満のガス状HClを有する、MoO2Cl2を含む気相。
【請求項100】
60ppm体積未満のガス状HClを有する、MoO2Cl2を含む気相。
【請求項101】
30ppm体積未満のガス状HClを有する、MoO2Cl2を含む気相。
【請求項102】
15ppm体積未満のガス状HClを有する、MoO2Cl2を含む気相。
【請求項103】
3ppm体積未満のガス状HClを有する、MoO2Cl2を含む気相。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示及び特許請求される対象は、水分(例えばH2O)、塩化水素(HCl)及び/又は残留プロトンを実質的に含有しない超高純度の二塩化二酸化モリブデン(すなわちMoO2Cl2)、その充填された形態、並びにその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜、特に金属含有薄膜は、種々の重要な用途、例えばナノテクノロジー及び半導体装置の製造等、を有する。実際のこととして、半導体産業は、先進ノード適用のために、連続的かつコンフォーマルな金属含有薄膜の堆積が進められ続けている。このような適用の例は、高屈折率光学コーティング、腐食保護コーティング、光触媒性自己洗浄ガラスコーティング、生体適合性コーティング、電界効果トランジスタ(FET)における誘電体キャパシタ層及びゲート電極絶縁膜、キャパシタ電極、ゲート電極、接着剤拡散バリア並びに集積回路を含む。さらに、金属薄膜及び誘電体薄膜は、マイクロエレクトロニクス用途、例えばダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)のための高k誘電体酸化物、並びに赤外検出器及び非揮発性ランダムアクセスメモリ(NV-FeRAM)において使用される非強誘電体ペロブスカイト、において使用される。
【0003】
このような技術は、反応性スパッタリング、イオンアシスト堆積、ゾルゲル堆積、化学気相堆積(CVD)(有機金属CVD又はMOCVDとしても知られている)及び原子層堆積(原子層エピタキシー(epitaxy)としても知られている)を含む。CVD及び原子層堆積ALDは、基材上に、例えばケイ素、窒化ケイ素、金属酸化物及び他の金属含有層の上に、金属含有前駆体を使用してコンフォーマルな金属含有膜を製造するために使用されるものであり、向上した組成制御、高い膜均一性及びドープの有効な制御という利点を有する。
【0004】
一般に、CVD及びALDの両方は、揮発性金属錯体の蒸気を利用するものであり、揮発性金属錯体の蒸気は、プロセスチャンバー内に導入され、プロセスチャンバー内でウェハの表面と接触し、その表面において化学反応が起こり、高純度の金属又は金属化合物の薄膜が堆積される。
【0005】
従来のCVDは、前駆体が使用されて基材表面に薄膜を形成する化学的なプロセスである。典型的なCVDプロセスにおいて、前駆体は、低圧又は周囲圧力の反応チャンバーにおいて、基材(例えばウェハ)の表面上を通過する。前駆体がウェハ表面において熱的に反応するか、又はプロセスチャンバー内に同時に添加された試剤と反応する場合に、CVDが起こり、定常状態の堆積で膜成長が起こる。言い換えれば、前駆体は、基材表面で反応及び/又は分解し、堆積材料の薄膜を形成する。反応チャンバーを通るガスフローによって、揮発性副生成物除去される。CVDを連続又はパルスモードで適用して、所望の膜の厚さを達成することができる。しかしながら、幾つかの適用において、堆積された膜の厚さは、温度、圧力、ガスフローの容積及び均一性、化学的枯渇効果並びに時間等の多くのパラメータの共同作用に依存するため、制御するのは困難である場合がある。
【0006】
ALDもまた、薄膜の堆積のための方法である。ALDは、正確な厚さの制御を提供することができ、かつ種々の組成の表面基材上に前駆体によって提供される材料のコンフォーマルな薄膜を堆積することができる表面反応に基づいて、自己制御的で、連続的で、ユニークである膜成長技術である。ALDにおいて、前駆体は、反応の間に分離される。第一の前駆体が、基材表面上を通過し、化学表面上に化学吸着し、基材表面上に単層を形成する。任意の過剰の未反応の前駆体が、反応チャンバーからポンプ引きされるか、又は(不活性ガスによって)パージされる。次いで、第二の前駆体が、基材表面上を通過し、第一の前駆体と反応し、基材表面上で、膜の第一の形成された単層の上に、膜の第二の単層を形成する。次いで、このサイクルを複数回繰り返して、金属又は金属化合物を、原子レベルの正確さで所望の厚さに重ねることができる。これは、前駆体及び試剤の化学吸着が自己制御的だからである。ALDは、膜の厚さの正確な制御、膜の厚さの優れた均一性、及び著しくコンフォーマルな膜成長で、非常に薄いが、連続的である金属含有膜の堆積を提供して、深くエッチングされ、高度に複雑化された構造、例えば相互接続ビア及びトレンチ、を平らにコーティングすることができる。しかしながら、膜の厚さの厳しい制御のために、堆積プロセスにおいて使用される前駆体中に存在し得る潜在的な不純物との、制御できない反応を回避することが重要である。微量不純物が、膜の核形成、膜の成長、膜のエッチング、及び堆積プロセスの要素工程に影響を与える場合がある。
【0007】
従来の化学気相堆積(CVD)プロセスについて、前駆体及び共反応剤が、気相を介して堆積チャンバーに導入されて、ある厚さの膜が基材上に堆積される。一方で、原子層堆積(ALD)又はALDに類似のプロセスにおいて、前駆体及び共反応剤は連続的に堆積チャンバー内に導入され、それによって、表面制御されたレイヤーバイレイヤー(layer-by-layer)の堆積及び重要なことには自己制御的な表面反応を可能として、薄膜の原子レベルの成長を達成する。良好なALD堆積プロセスのための鍵は、前駆体を用いて、分離、自己限定的吸着及び反応工程からなる反応スキームを発明することである。ALDプロセスの1つの重大な利点は、CVDよりも例えば8超高いアスペクト比を有する、基材についてのかなり高いコンフォーマル性を提供することである。
【0008】
金属含有薄膜を形成するために種々の前駆体が使用される場合があり、種々の堆積技術が用いられる場合がある。このことに関連して、モリブデン金属は低いバルク抵抗、短い電子平均自由行程を有し、誘電体及びモリブデン層間のバリアを要しなくてもよいため、半導体産業における種々の用途のために非常に有望な伝導性金属である。
【0009】
二塩化二酸化モリブデンは、高い蒸気圧力、良好な熱的安定性を有し、水素によって還元されてモリブデン膜を形成することができるため、化学気相堆積又は原子層堆積プロセスによるモリブデン含有膜の堆積のために魅力的な前駆体である。例えば、米国特許出願公開第2019/027573号、2019/067003号、2019/067014号、2019/067016号、2019/067094号及び2019/67095号明細書を参照されたい。二塩化二酸化モリブデンを使用するCVDは、半導体産業によって非常に所望されている低い酸素含有量を有するモリブデン金属膜を提供する。K.A Gesheva、K.Seshan、B.O.SeraphinのThin Solid Films、79、39~49(1981)を参照されたい。
【0010】
堆積プロセスにおける使用のためのその魅力のために、第一の金属層とケイ素基材の装置との間の相互接続、ビア及び接触のために、並びにDRAM及び3D NANDにおけるワード線用途のために、低い抵抗のモリブデン含有膜についての高純度の二塩化二酸化モリブデン(MoO2Cl2)が所望されている。
【0011】
幾つかの異なる経路によって、二塩化二酸化モリブデンを製造することができる。例えば、150~350℃でMoO2を塩素元素と反応させることによって、MoO2Cl2を調製することができる。R.Graham及びL.HeplerのJournal of Physical Chemistry、723(1959)を参照されたい。粗生成物は十の昇華によって精製された。著者らは、材料の純度及び水汚染物質に基づいて、異なる色の材料が得られたことを報告している。
【0012】
Graham及びHeplerによって提案された1つの他のプロセスは、MoO3の乾燥HClとの反応を包含するが、この経路によっては、二塩化二酸化モリブデン水和物(MoO2Cl2 x H2O又はMoO(OH)2Cl2)のみが得られる。著者らは、過剰のHClの存在の下で、分解することなく、その水和物を昇華することができると報告している。
【0013】
先述の文献に記載される1つの他のプロセスは、MoO3のNaClとの反応を包含し、MoO2Cl2及びNa2MoO4を得る。Zelikmanら、Zhurnal Obshchei Khimii、24、1916~20(1954)を参照されたい。しかしながら、このプロセスは、比較的高い温度(500℃)を必要とし、有意な量の固体副生成物Na2MoO4/Na2Mo27を生成する。加えて、アルカリ金属ハロゲン化物は残留水分を含有し、残留水分は、固体凝縮工程の間に、所望されるMoO2Cl2を汚染する場合がある。
【0014】
全ての公知のMoO2Cl2の合成に伴う共通の問題は、それらがエレクトロニクス/半導体産業における使用のために十分な純度でMoO2Cl2を提供することができないことである。特に、公知のプロセスによって提供されるMoO2Cl2は、高いレベルの水和物(1wt%超)並びに他の不純物を有する。例えば、残留二塩化二酸化モリブデン水和物(すなわちMoO2Cl2 x H2O又はH2MoO3Cl2)は、ALDツールにおける前駆体の性能に対して有害な影響を与える。水和物は、室温で比較的安定であり、アンプル操作温度で部分的に分解して、MoO3及びHClを形成する。ALDツールにおけるアンプル加熱の間のHClガスの形成は、輸送の間のより低く不安定なMoO2Cl2の分圧を引き起こす。さらに、水和物の熱分解は加熱の間に水分を放出する場合があり、それは高い腐食性の「湿式(wet)」HClを引き起こす。高い腐食性の「湿式」HClの放出は、鉄及びクロムの塩化物及び酸塩化物等の金属汚染物質を伴う前駆体蒸気の汚染物質を引き起こす場合がある。
【0015】
ウェハ表面上の金属汚染物質は、CMOSベースの集積回路の製造量及び信頼性に対する重大な限定因子であることが知られている。このような汚染物質は、個別のトランジスタの中心部を形成する超薄型SiO2ゲート誘電体の性能を低下させる。鉄は、IC産業において最も困難を引き起こす汚染物質の1つである。鉄は、自然界において非常に一般的な元素であり、製造ラインにおいて排除することが困難である。鉄汚染物質は、ゲート酸化物のブレークダウン電圧を有意に減少させることが見出された。鉄汚染物質からの電界ブレークダウン欠陥についての一般に報告されているメカニズムは、SiO2界面における鉄沈殿物の形成であり、それは、しばしば二酸化ケイ素を貫通する。ケイ素中に溶解されるとき、高いレベルの鉄の形態は、逆バイアス空乏領域におけるキャリアの発生によって、接合素子を劣化させるように作用する。バイポーラジャンクショントランジスタにおいて、溶解された鉄によって形成される形成-再結合中心は、一般に、ベース電流を増加させ、エミッタ(emitter)効率及びベース輸送効率を減少させる。IstratovらのAppl.Phys.A、70、489(2000)を参照されたい。このように、極度に低いレベルの鉄汚染物質を有する前駆体が、非常に望まれている。極度に低い鉄汚染物質を有するMoO2Cl2等の前駆体を製造する精製方法もまた望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記のとおり、エレクトロニクス/半導体産業における使用のために、水及び他のプロトン含有不純物を含有しないか、及び/又は実質的に含有しない超高純度のMoO2Cl2についての要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
1つの態様において、開示及び特許請求される対象は、エレクトロニクス/半導体産業における使用のための、水及び他の不純物を含有しないか、及び/又は実質的に含有しない(ppmレベル又はより低いレベルである)超高純度のMoO2Cl2に関する。
【0018】
1つの他の態様において、開示及び特許請求される対象は、エレクトロニクス/半導体産業における使用のための、水及び他の不純物を含有しないか、及び/又は実質的に含有しない(ppmレベル又はより低いレベルである)超高純度のMoO2Cl2を調製する方法に関する。
【0019】
1つの他の態様において、開示及び特許請求される対象は、高いバルク密度及び高い充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2の充填された形態に関する。このような形態は、エレクトロニクス/半導体産業における使用のための、水及び他の不純物を含有しないか、及び/又は実質的に含有しない(ppmレベル又はより低いレベルである)超高純度のMoO2Cl2を含有するコンテナを充填することによって提供される。
【0020】
このサマリーのセクションは、開示及び特許請求される対象のうち全ての実施態様及び/又は増分の新規の態様を特定するものではない。むしろ、この概要は、単に、従来技術及び公知技術に対して新規である異なる実施態様及び対応する点の予備的な議論を提供するものである。開示及び特許請求される対象並びに実施態様のさらなる詳細及び/又はあり得る全体像については、さらに以降で議論される詳細な説明のセクション及び本開示の対応する図面を参照されたい。
【0021】
本明細書において説明される異なる工程の議論の順序は、明確にする目的で提供されている。一般に、本明細書において開示される工程は、任意の適した順序で行うことができる。さらに、本明細書において開示される異なる特徴、技術、構成等のそれぞれは本開示の異なる箇所で議論される場合があるが、それらの構想のそれぞれは、互いに独立して、又は適当に互いに組み合わせて実行することができる。したがって、開示及び特許請求される対象は、多くの異なる仕方で具体化及び検討され得る。
【0022】
図面の詳細な説明
開示される対象のさらなる理解を提供するために含められ、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、開示される対象の実施態様を例示し、本明細書とともに開示される対象の原理を説明するために供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】709ppmの水分を含有する粗製のMoO2Cl2(a)及び126ppmのH2Oを含有する超高純度のMoO2Cl2(b)の1H NMRスペクトルを示す。MoO2Cl2におけるプロトン及び内部標準におけるプロトンの1H NMR信号の積分に基づいて水分の量を決定した。
図2】内部標準でスパイクされたNMR溶媒(a)及び20ppm未満のH2Oを含有する超高純度のMoO2Cl2(b)の1H NMRスペクトルを示す。ブランク減算法を使用して、MoO2Cl2におけるプロトン及び内部標準におけるプロトンの積分に基づいて水分の量を決定した。
図3】NMR溶媒中のスパイクされた水分(水ブランク)の量に対するMoO2Cl2におけるプロトンのNMR信号の依存性を示す。チャートは、NMR溶媒におけるMoO2Cl2の溶液に添加される水の量に対するNMR信号の線形の依存性を示す。
図4】MoO2Cl2及び残留HClを含む蒸気のIRスペクトルを示す。下段のスペクトルはMoO2Cl2を含む190℃の蒸気のIRを示していて、2799cm-1のHClピークの吸光度は、0.5cm-1の分解能で86.3×10-4AU/メートルである。中段のスペクトルはMoO2Cl2を含む190℃の蒸気のIRを示していて、2799cm-1のHClピークの吸光度は、7.4×10-4AUである。上段のスペクトルは、MoO2Cl2を含む150℃における蒸気のIRを示していて、2799cm-1のHClピークの吸光度は、0.8×10-4AUである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
他に記載のない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用される以下の用語は、本出願について以下の意味を有する。
【0025】
開示及び特許請求される対象に関して、周期表のグループについてのナンバリングのスキームは、IUPACの元素の周期表に従う。
【0026】
本明細書において、「A及び/又はB」等の句において使用される場合の用語「及び/又は」は、「A及びB」、「A又はB」、「A」並びに「B」を含むことが意図される。
【0027】
用語「置換基」、「ラジカル」、「基」及び「部分(moiety)」は、相互交換可能に使用される場合がある。
【0028】
本明細書において使用されるとき、用語「金属含有錯体」(又は単に「錯体」)及び「前駆体」は、相互交換可能に使用され、気相堆積プロセスによって、例えばALD又はCVDによって、金属含有膜を調製するために使用することができる金属含有分子又は化合物をいう。金属含有錯体は、基材若しくは基材表面に堆積されるか、基材若しくは基材表面に吸着されるか、基材若しくは基材表面で分解されるか、基材若しくは基材表面に輸送されるか、及び/又は基材若しくは基材表面の上を通過して、金属含有膜を形成することができる。
【0029】
本明細書において使用されるとき、用語「金属含有膜」は、以下でより十分に画定する元素金属膜のみでなく、1つ又は複数の元素とともに金属を含む膜、例えば金属酸化物膜、金属窒化物膜、金属ケイ化物膜、金属炭化物膜等も含む。本明細書において使用されるとき、用語「元素金属膜」及び「純金属膜」は、相互交換可能に使用され、純金属からなるか、又は純金属から本質気になる膜をいう。例えば、元素金属膜は100%純金属を含んでよく、又は元素金属膜は1つ又は複数の不純物とともに少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約99.9%若しくは少なくとも約99.99%の純金属を含んでよい。他に記載のない限り、用語「金属膜」は元素金属膜を意味すると解釈されるべきである。
【0030】
本明細書において使用されるとき、用語「気相堆積プロセス」は、以下に限定するものではないが、CVD及びALDを含む任意の種類の気相堆積技術を指すために使用される。種々の実施態様において、CVDは、従来の(すなわち連続流動の)CVD、液体注入CVD又は光補助CVDの形態であってよい。CVDは、パルス技術の形態、すなわちパルスCVDであってもよい。ALDは、本明細書において開示される少なくとも1つの金属錯体を気化することによって、及び/又は基材表面上を通過させることによって金属含有膜を形成するために使用される。従来のALDプロセスについては、例えばGeorge S.M.らのJ.Phys.Chem.、1996、100、13121~13131を参照されたい。他の実施態様において、ALDは、従来の(すなわちパルス注入の)ALD、液体注入ALD、光補助ALD、プラズマ補助ALD又はプラズマ強化ALDの形態であってよい。用語「気相堆積プロセス」は、Chemical Vapour Deposition:Precursors,Processes,and Applications;Jones,A.C.;Hitchman,M.L.編集 The Royal Society of Chemistry:Cambridge、2009;Chapter 1、pp.1~36において記載される種々の気相堆積技術をさらに含む。
【0031】
用語「約(about)」及び「おおよそ(approximately)」は、測定可能な数値変数に関して使用されるとき、その変数の指定された値、及び指定された値の実験誤差(例えば平均についての95%信頼限界)内にある変数の全ての値、又は指定された値のある割合(例えば±10%、±5%)内にある変数の全ての値のうち広い方をいう。
【0032】
好ましくは、開示及び特許請求される前駆体は、プロトン源不純物を実質的に含有しない。本明細書において使用されるとき、用語「実質的に含有しない」は、プロトン源不純物に関するとき、以下でより詳細に説明される1H NMRによって決定した場合に、任意のこれらの不純物から個別に起因する、個別に又は全体で約30ppm以下のプロトンをもたらすこのような不純物の量を意味する。
【0033】
好ましくは、開示及び特許請求される前駆体はまた、金属イオン又は金属、例えばLi+(Li)、Na+(Na)、K+(K)、Mg2+(Mg)、Ca2+(Ca)、Al3+(Al)、Fe2+(Fe)、Fe3+(Fe)、Ni2+(Fe)、Cr3+(Cr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)又は亜鉛(Zn)を実質的に含有しない。これらの金属イオン又は金属は、前駆体を合成するために用いられる出発材料/反応器から潜在的に存在する。本明細書において使用されるとき、用語「実質的に含有しない」は、Li、Na、K、Mg、Ca、Al、Fe、Ni、Cr、Ti、V、Mn、Co、Ni、Cu又はZnに関するとき、ICP-MSによって測定した場合に、(重量で)5ppm未満、好ましくは3ppm未満、より好ましくは1ppm未満、最も好ましくは0.1ppm未満を意味する。
【0034】
ハロ又はハライドは、1つの結合によって有機部分に連結されたハロゲン、F、Cl、Br又はIをいう。幾つかの実施態様において、ハロゲンはFである。他の実施態様において、ハロゲンはClである。
【0035】
ハロゲン化されたアルキルは、十分に又は部分的にハロゲン化されたC1~C20アルキルをいう。
【0036】
ペルフルオロアルキルは、水素がフッ素によって全て置換された、上で画定される直鎖、環状又は分岐鎖の飽和アルキル基(例えばトリフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロイソプロピル、ペルフルオロシクロヘキシル等)をいう。
【0037】
MoO2Cl2は、合成の間に用いられる出発材料又は合成の間に発生する副生成物のいずれかに起因する有機不純物を実質的に含有しない。例としては、以下に限定するものではないが、アルカン、アルケン、アルキン、ジエン、エーテル、エステル、アセテート、アミン、ケトン、アミド、芳香族化合物が挙げられる。本明細書において使用されるとき、用語有機不純物を「含有しない」は、GCによって測定した場合に1000ppm以下、好ましくはGCによって測定した場合に(重量で)500ppm以下、最も好ましくはGC又は他のアッセイについての分析方法によって測定した場合に(重量で)100ppm以下を意味する。重要なことには、前駆体は、ルテニウム含有膜を堆積するための前駆体として使用されるとき、GCによって測定した場合に、好ましくは98wt%以上、より好ましくは99wt%以上の純度を有する。
【0038】
本明細書において使用されるセクションの標題は、系統立てることを目的とすることであり、説明される対象を限定すると解釈されるものではない。以下に限定するものではないが、特許、特許出願、記事、書物及び論文を含む、本出願において引用される全ての文献又は文献の一部は、任意の目的で、参照することによって、それらの全体が、明確に本明細書に組み込まれる。組み込まれた文献及び類似の資料のうち任意のものが、本出願における用語の定義に反するように用語を定義している場合、本出願が用語を制御する。
【0039】
詳細な説明
先述の一般的な説明及び以下の詳細な説明の両方は例示及び説明のためのものであり、特許請求される対象を限定するものではないと理解されるべきである。開示される対象の対象物、特徴、利点及びアイデアは、本明細書において提供される説明から当業者にとって明らかとなり、開示される対象は、本明細書に見られる説明に基づいて、当業者にとって容易に実施可能となる。開示される対象を実施するための好ましいモードを示す任意の「好ましい実施態様」及び/又は例の説明は、説明の目的で含められており、特許請求の範囲を限定すると意図されるものではない。
【0040】
本明細書において開示される対象の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書において説明される態様に基づいてどのように開示される対象が実施されるかにおいて種々の改造をすることができることもまた、当業者にとって明らかとなる。
【0041】
上記のとおり、開示及び特許請求される対象は、エレクトロニクス/半導体産業における使用のための、水及び他の不純物を含有しないか、及び/又は実質的に含有しない(ppmレベル又はより低いレベルである)超高純度のMoO2Cl2に関する。
【0042】
1つの他の態様において、開示及び特許請求される対象は、エレクトロニクス/半導体産業における使用のための、水及び他の不純物を含有しないか、及び/又は実質的に含有しない(ppmレベル又はより低いレベルである)超高純度のMoO2Cl2を調製する方法に関する。
【0043】
1つの他の態様において、開示及び特許請求される対象は、高いバルク密度及び高い充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2の充填された形態に関する。このような形態は、エレクトロニクス/半導体産業における使用のための、水及び他の不純物を含有しないか、及び/又は実質的に含有しない(ppmレベル又はより低いレベルである)超高純度のMoO2Cl2を含有するコンテナを充填することによって提供される。
【0044】
モリブデン含有膜の堆積のためのツールへのバルク輸送のために、超高純度のMoO2Cl2を1つの他の容器に移動することができる。加えて、超高純度のMoO2Cl2は、蒸気として使用されるとき、鋼(例えばSS316)及び合金において実質的により低い腐食速度を示す。
【0045】
超高純度のMoO2Cl2、その調製の方法及びそれのためのコンテナが、以下で説明される。
【0046】
I.超高純度のMoO2Cl2
A.不純物
開示及び特許請求される対象は、モリブデン含有膜の堆積におけるこの前駆体の使用のために望ましくない残留H2O、HCl、他の不純物及び他のプロトン源を含有しないか、又は実質的に含有しない超高純度のMoO2Cl2を含む。さらに、これに関連して、開示及び特許請求される対象は、MoO2Cl2中の少量の残留MoO2Cl2水和物、他のプロトン源不純物を検出するための分析方法を提供する。MoO2Cl2及びその水和物の結晶構造は公知であるが(例えばL.O.Atovmyan、Z.G.Aliev及びB.M.TarakanovらのJ.ofStructuralChemistry、9、985~986(1969)、並びにVon F.A.Schroeder及びA.N.ChristensenのZ.Anorg.Allg.Chem.、392、107~123(1972)を参照されたい)、X線粉末回折分析方法の検出限界は、MoO2Cl2中の低濃度のMoO2Cl2水和物及び他のプロトン源不純物を検出するために十分ではない。したがって、MoO2Cl2中の残留水分、他の不純物(例えばMoO2Cl2水和物)及び他のプロトン源不純物(例えばHCl)を測定するためのより感度の高い分析方法が求められている。
【0047】
検出方法に関係なく、超高純度のMoO2Cl2の合成又は利用可能性は報告されておらず、これは、現在まで、このような材料が当分野において公知のものではなく、得られるものでもなかったためである。当業者が認識しているとおり、MoO2Cl2中の主要なプロトン不純物源は、以下のMoO2Cl2の水との反応に起因する。
MoO2Cl2×H2O=MoO2Cl2+H2
MoO2Cl2×H2O=MoO3+2HCl
ここで、これらの反応の構成成分は以下の分子量(MW)と、MoO2Cl2水和物の分解によって生成される最大相対量とを有する。
【表1】
【0048】
上記の値に基づいて、1H NMR分析によって、最大合計プロトン源不純物のレベルをppmレベルで計算することができる。特に記載のない限り、ppmは「百万分の一の重量(すなわち「ppmw」)」を意味する。
【表2】
【0049】
開示及び特許請求される対象は、プロトン不純物のレベルが2ppm未満程度である超高純度のMoO2Cl2を提供する。これは、公知の「高純度の」MoO2Cl2及び/又はMoO2Cl2を調製するための公知のプロセスによって提供されるMoO2Cl2と比較して、純度がほぼ100分の1となることを意味する。
【0050】
1.合計のプロトン
上記のとおり、開示及び特許請求される対象の超高純度のMoO2Cl2は、物理吸着又は化学吸着された、以下で説明する1H NMR技術によって検出可能なプロトンを含有しないか、又は実質的に含有しない。このようなプロトンは、MoO2Cl2水和物、HCl、モリブデン酸等に由来するプロトンを含む。
【0051】
1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約50ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約40ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約30ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約25ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約20ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約15ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約10ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約9ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約8ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約7ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約6ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約5ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約4ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約3ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約2.5ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約2ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約1.5ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に、約1ppm未満の物理吸着又は化学吸着された状態のプロトンを有する。
【0052】
1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に検出可能なプロトンを含有しない。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合にプロトンを含有しない。
【0053】
2.水分(H2O)
上記のとおり、開示及び特許請求される対象の超高純度のMoO2Cl2は、(本明細書において説明されるように)1H NMRによって測定した場合に、残留H2Oを含有しないか、又は実質的に含有しない。
【0054】
1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約250ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約200ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約150ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約100ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約75ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約50ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約25ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約20ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約15ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約12.5ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約10ppm未満である。
【0055】
1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.030wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.025wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.020wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.015wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.014wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.013wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.012wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.011wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.010wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.009wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.008wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.007wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.006wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.005wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.004wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.003wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.002wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のH2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.001wt%未満である。
【0056】
1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に検出可能なH2Oを含有しない。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合にH2Oを含有しない。
【0057】
3.塩酸(HCl)
A.物理吸着又は化学吸着された状態のHCl
1つの実施態様において、開示及び特許請求される対象の超高純度のMoO2Cl2は、(本明細書において説明されるように)1H NMRによって測定した場合に、残留HClを含有しないか、又は実質的に含有しない。
【0058】
1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約1000ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約900ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約800ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約700ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約600ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約550ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約500ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約450ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約400ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約350ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約300ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約250ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約200ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約150ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約125ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約90ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約80ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約70ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約60ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約50ppm未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のHClの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約40ppm未満である。
【0059】
1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に検出可能なHClを含有しない。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合にHClを含有しない。
【0060】
B.気相状態のHCl
1つの実施態様において、開示及び特許請求される対象の超高純度のMoO2Cl2は、赤外分光法(IR)又は可変ダイオードレーザー吸収分光法(TDLAS)によって測定した場合に、残留HClを含有しないか、又は実質的に含有しない。1つの実施態様において、例えば、超高純度のMoO2Cl2気相は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)によって測定した場合にHClを含有しない。
【0061】
1つの実施態様において、開示及び特許請求される対象によって調製された超高純度の固体MoO2Cl2から製造された超高純度のMoO2Cl2気相は、ガス状HClに起因する2600~3100cm-1のFT-IRピークによって測定した場合に検出可能なHClを含有しない。1つの実施態様において、2799cm-1におけるHClピークを使用して、MoO2Cl2気相中のHClの量を定量化する。
【0062】
1つの実施態様において、MoO2Cl2気相における2799cm-1のHClピークの吸光度は、0.5cm-1の分解能で100×10-4吸光度単位/メートル未満である。1つの実施態様において、MoO2Cl2気相における2799cm-1のHClピークの吸光度は、0.5cm-1の分解能で50×10-4吸光度単位/メートル未満である。1つの実施態様において、MoO2Cl2気相における2799cm-1のHClピークの吸光度は、0.5cm-1の分解能で10×10-4吸光度単位/メートル未満である。1つの実施態様において、MoO2Cl2気相における2799cm-1のHClピークの吸光度は、0.5cm-1の分解能で5×10-4吸光度単位/メートル未満である。1つの実施態様において、MoO2Cl2気相における2799cm-1のHClピークの吸光度は、0.5cm-1の分解能で1×10-4吸光度単位/メートル未満である。
【0063】
1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、IRによって測定した場合に検出可能なHClを含有しない。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、IRによって測定した場合にHClを含有しない。
【0064】
1つの実施態様において、開示及び特許請求される対象は、MoO2Cl2を含むか、から本質的になるか、又はからなる気相(すなわちガス)を含み、気相は、ガス状HClを含有しないか、又は実質的に含有しない。1つの実施態様において、MoO2Cl2気相中のガス状HClの濃度は、IRによって測定した場合に300ppm体積未満である。1つの実施態様において、MoO2Cl2気相中のガス状HClの濃度は、IRによって測定した場合に150ppm体積未満である。1つの実施態様において、MoO2Cl2気相中のガス状のHClの濃度は、IRによって測定した場合に100ppm体積未満である。1つの実施態様において、MoO2Cl2気相中のガス状のHClの濃度は、IRによって測定した場合に60ppm体積未満である。1つの実施態様において、MoO2Cl2気相中のガス状のHClの濃度は、IRによって測定した場合に30ppm体積未満である。1つの実施態様において、MoO2Cl2気相中のガス状のHClの濃度は、IRによって測定した場合に15ppm体積未満である。1つの実施態様において、MoO2Cl2気相中のガス状のHClの濃度は、IRによって測定した場合に3ppm体積未満である。
【0065】
4.MoO2Cl2水和物
上記のとおり、開示及び特許請求される対象の超高純度のMoO2Cl2は、(本明細書において説明される)1H NMRによって測定した場合に、残留MoO2Cl2水和物を含有しないか、又は実質的に含有しない。水和物を記載する化学式として、MoO2Cl2×H2O、MoO(OH)2Cl2及びH2MoO3Cl3が一般的に使用される。
【0066】
1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.30wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.25wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.20wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.15wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.14wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.13wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.12wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.11wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.10wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.09wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.08wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.07wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.06wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.05wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.04wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.03wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.02wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.015wt%未満である。1つの実施態様において、1H NMRによって測定した場合のMoO2Cl2×H2Oの残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.01wt%未満である。
【0067】
1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合に検出可能なMoO2Cl2×H2Oを含有しない。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、1H NMRによって測定した場合にMoO2Cl2×H2Oを含有しない。
【0068】
4.MoO3
上記のとおり、開示及び特許請求される対象のMoO2Cl2は、残留MoO3を含有しないか、又は実質的に含有しない。1つの実施態様において、MoO3の残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.20wt%未満である。1つの実施態様において、MoO3の残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.15wt%未満である。1つの実施態様において、MoO3の残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.14wt%未満である。1つの実施態様において、MoO3の残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.13wt%未満である。1つの実施態様において、MoO3の残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.12wt%未満である。1つの実施態様において、MoO3の残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.11wt%未満である。1つの実施態様において、MoO3の残留合計含有量は、物理吸着又は化学吸着された状態で約0.10wt%未満である。
【0069】
B.バルク密度
上記のとおり、開示及び特許請求される対象の超高純度のMoO2Cl2は、3.0g/cm3以上に近い予想外に高いバルク密度を示す。MoO2Cl2のバルク密度は、MoO2Cl2の質量/サンプルによって占められる体積によって規定され、g/cm3で表現される。典型的には、MoO2Cl2は、1g/cm3未満の低いバルク密度及び大きい表面積を有する粉末又は結晶の形態で製造される。例えば、開示及び特許請求されるMoO2Cl2のバルク密度は、国際公開第2020/021786号明細書において記載される先に報告されたMoO2Cl2についてのバルク密度の値(0.8~1.2g/cm3)の2倍より高い。
【0070】
1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、約2.0g/cm3超のバルク密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、約2.1g/cm3超のバルク密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、約2.2g/cm3超のバルク密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、約2.3g/cm3超のバルク密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、約2.4g/cm3超のバルク密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、約2.5g/cm3超のバルク密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、約2.6g/cm3超のバルク密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、約2.7g/cm3超のバルク密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、約2.8g/cm3超のバルク密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、約2.9g/cm3超のバルク密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2は、約3.0g/cm3超のバルク密度を有する。
【0071】
II.超高純度のMoO2Cl2を調製する方法
上記のとおり、開示及び特許請求される対象は、超高純度のMoO2Cl2を調製する方法であって、密封された容器中で、(例えば二塩化二酸化モリブデン水和物、H2MoO3Cl2を含む)低純度の二塩化二酸化モリブデンをその融点超に加熱する方法に関する。この実施態様の1つの態様において、コンテナのヘッドスペースを少なくとも一度ベントして、粗製に塩化二酸化モリブデン中に存在する塩化水素及び他の副生成物が除去される。
【0072】
理論によって拘束されることを望むものではないが、低純度のMoO2Cl2をその融点超に加熱することは、MoO2Cl2水和物及び他の不純物(例えば塩化水素及び水分子)の分解をもたらす。このことは、MoO2Cl2がその融点超で処理されないプロセスにおいては起こらないと考えられる。溶解プロセスの間に、三酸化モリブデン副生成物が容器の底部に沈殿して、塩化水素副生成物からのより良い分離を可能とする。注目すべきことには、この手法は、これらの種類の前駆体を精製するための公知の手順とは対照的なものである。例えば、国際公開第2019/115361号は、種々の前駆体を、それらの融点未満の温度で精製するための方法を記載している。しかしながら、予期されなかったことに、従来は得ることができなかった純度レベルを有する超高純度のMoO2Cl2を達成するために、溶融工程を行うことが、固体中にトラップされた残留する微量のH2O及びHClを除去するために非常に有効かつ重要であることが分かった。実際に、開示及び特許請求されるプロセスのさらなる利点は、溶融MoO2Cl2をろ過して、不溶性不純物、例えばMoO3及びMoO2を除去可能であることである。
【0073】
上記のとおり、1つの実施態様において、超高純度のMnO2Cl2を調製するための開示及び特許請求されるプロセスは、
a.低純度のMoO2Cl2を圧力容器中に充填する工程;
b.低純度のMoO2Cl2を溶融するために十分な温度(およそ、約180℃~約200℃)に容器を加熱する工程;
c.任意選択で、溶融したMoO2Cl2をろ過して、不溶性不純物(例えばMoO3及びMoO2)を除去する工程;
d.容器をベントして不純物(例えばHClガス)を除去する工程;
e.容器を冷却する工程;
f.任意選択で、容器を再度ベントする工程
を含む。
この実施態様の1つの態様において、工程a~fは、容器が満たされるまで繰り返される。この実施態様の1つの態様において、工程a~fのうち1つ又は複数は、容器が満たされるまで繰り返される。この実施態様の1つの態様において、容器は非腐食性材料、例えばステンレス鋼、ニッケル、モネル、ハステロイ、ニッケルコーティングされたステンレス鋼等、で構成される。この実施態様の1つの他の態様において、容器は少なくとも1つのバルブを備え、圧力ゲージ及び第二のバルブを備える金属システムに接続される。
【0074】
1つの実施態様において、低純度のMoO2Cl2粉末が、圧力容器中に充填される。MoO2Cl2を有する容器は、約180℃~約200℃に加熱されて、低純度のMoO2Cl2を完全に溶融する。容器は周囲温度に冷却されて、容器のヘッドスペースは真空引きされるか、不活性ガスでパージされて、気相中に存在する残留塩化水素ガス及び他のあり得る不純物を除去する。この実施態様の1つの態様において、容器は非腐食性材料、例えばステンレス鋼、ニッケル、モネル、ハステロイ、ニッケルコーティングされたステンレス鋼等、で構成される。この実施態様の1つの他の態様において、容器は少なくとも1つのバルブを備え、圧力ゲージ及び第二のバルブを備える金属システムに接続される。
【0075】
1つの他の実施態様において、低純度のMoO2Cl2粉末は、少なくとも1つのバルブを備え、圧力ゲージ及び第二のバルブを備える金属システムに接続された圧力容器中に充填される。低純度のMoO2Cl2を有する容器は、約180℃~約200℃に加熱されて、MoO2Cl2粉末を完全に溶融する。この温度において、容器のヘッドスペースは、MoO2Cl2を有する容器と比較して、より低い圧力で、(不活性ガスを含む)第二の容器にベントされる。この工程は、MoO2Cl2容器の圧力が、容器の温度において予想されるMoO2Cl2気相の圧力から20%以内となるまで繰り返されてよい。この実施態様の1つの態様において、容器は非腐食性材料、例えばステンレス鋼、ニッケル、モネル、ハステロイ、ニッケルコーティングされたステンレス鋼等、で構成される。この実施態様において、低純度のMoO2Cl2を有する容器は、代わりに、より低い温度においてベントされるか、又は真空引きされてよいことに注意されたい。
【0076】
上記のとおり、方法は、溶融したMoO2Cl2をろ過して、溶融物中の不溶性固形分を除去する工程を含んでよい。溶融物のろ過は、存在する場合には、加熱の間に形成された分解副生成物及び不純物の除去を可能とし、これは溶融点未満の温度で前駆体が処理されたときにはできないことである。
【0077】
III.超高純度のMoO2Cl2の充填された形態
上記のとおり、開示及び特許請求される対象は、高いバルク密度及び高い充填密度を有する超高純度のMoO2Cl2の充填された形態に関する。このような形態は、エレクトロニクス/半導体産業における使用のための水及び他の不純物を含有しないか、並びに/又は実質的に含有しない(ppmレベル若しくはより低いレベルである)超高純度のMoO2Cl2を含有するコンテナを充填することによって提供される。
【0078】
大きい表面積を有する低いバルク密度の粉末の取り扱いは、水分汚染物質の原因となる場合がある。さらに、大きい表面積を有する低いバルク密度の粉末を、半導体製造のために設計されたコンテナ中に充填することは、粉末によるコンテナ部品の散布及び汚染を引き起こす場合がある。さらに、半導体産業において、製造施設(fab)の床面積は費用がかかるため、最小のスペース/設置面積の要求で、コンテナ中に前駆体材料を供給することが望まれる。したがって、小さい設置面積及び高い充填密度を有するコンテナが、化学輸送キャビネットのために好ましい。
【0079】
これに関連して、国際公開第2020/021786号は、粗製酸塩化モリブデンを減圧雰囲気中で昇華及び再凝集することを含む、MoO2Cl2を製造するためのプロセスを記載している。しかしながら、このプロセスによって製造されたMoO2Cl2は、比較的低いバルク密度(例えば1.2g/cm3未満)を有していた。前駆体の気化設備は公知である(例えば、気化及び気相を堆積ツールに輸送するための気化器を提供している米国特許出願公開第2019/0186003号明細書を参照されたい)が、このような設備は複数のトレーを含有するものであり、気化器を溶融固体で充填して最適な(すなわち可能な限り高い)充填密度を達成するために適したものではない。
【0080】
上記のとおり、開示及び特許請求される対象の超高純度のMoO2Cl2は、3.0g/cm3に及ぶ予期せず高いバルク密度を示す。このように、超高純度のMoO2Cl2は、充填された形態で(例えば、圧力が、二塩化二酸化モリブデンの分圧と、キャニスタのヘッドスペースを充填するのに使用される不活性ガスの分圧との合計を超過しないキャニスタコンテナで)提供することができる。上で説明したとおり、MoO2Cl2のバルク密度は、MoO2Cl2サンプルの質量/サンプルによって占められる体積で規定され、g/cm3で表現される。超高純度のMoO2Cl2の充填された形態の充填密度は、バルブ多岐菅を除く、超高純度のMoO2Cl2を含有する充填された形態の合計の外部体積の割合として規定され、MoO2Cl2のkg/リットル(外部体積)で表現される。予期されない高いバルク密度の超高純度のMoO2Cl2を与えるため、その充填された形態も同様に予期されない充填密度を有する。
【0081】
1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、約0.7kg/L~約1.5kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、約0.7kg/L~約1.0kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、約1.0kg/L~約1.5kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する。
【0082】
1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、約0.7kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、約0.8kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、約0.9kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、約1.0kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、約1.1kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、約1.2kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、約1.3kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、約1.4kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する。1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、約1.5kg/L(コンテナ外部体積)の充填密度を有する。
【0083】
1つの実施態様において、超高純度のMoO2Cl2の充填された形態は、ガスシリンダーの形状に類似したコンテナに提供される。この実施態様の1つの態様において、コンテナは、少なくとも2/1の高さ/直径の比を有する。この実施態様の1つの態様において、コンテナは、少なくとも3/1の高さ/直径の比を有する。この実施態様の1つの態様において、コンテナは、少なくとも4/1の高さ/直径の比を有する。この実施態様の1つの態様において、コンテナは、少なくとも5/1の高さ/直径の比を有する。この実施態様のさらなる態様において、コンテナは少なくとも1つのバルブと、溶融した超高純度のMoO2Cl2を充填するための入口チューブとを備え(又は備えてよく)、入口チューブは充填された材料の上のヘッドスペースに属する。
【実施例
【0084】

ここでは、このような実施態様についてのサポートを提供する、本開示及び実験結果のより具体的な実施態様が参照される。例は、開示される態様をより十分に例示するために以下で与えられるものであり、いかようにも開示される対象を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0085】
当業者にとって、開示される対象の趣旨又は範囲から逸脱することなく、開示される対象及び本明細書において提供される具体的な例において種々の改造及び変形をすることができることは明らかである。したがって、以下の例によって提供される記載を含む開示される対象は、いずれかの請求項及びそれらの均等物の範囲内にある開示される対象の改造及び変形をカバーするものである。
【0086】
方法
1H NMR解析
超高純度のMoO2Cl2中の低レベル(すなわち0.1wt%以下)の水分及び残留水素原子を検出するための分析方法として、プロトンNMRを使用する。この方法において、超高純度のMoO2Cl2サンプル中の水分及び合計のプロトン含有量を、内部標準としてのエチレンカーボネート及びブランク減算を使用して、CD3CNにおける5wt%の超高純度MoO2Cl2溶液の水のピークの積分によって測定した。
【0087】
5mmのWilmad低圧/真空NMRチューブを、N2雰囲気の下で、エチレンカーボネート(0.008g)及びCD3CN(1.000g)で充填した。Bruker Ascend 500MHz NMRにおいて、512スキャン、1秒の緩和時間を使用して、1H NMRスペクトルを収集した。次いで、MoO2Cl2(0.050g)を、N2雰囲気中で溶液に溶解した。先に行ったのと同一の条件の下で、1H NMRスペクトルを収集した。
【0088】
MestReNovaソフトウェアを使用して、エチレンカーボネート中の-CH2-基に対応する4.45ppmにおけるピークと、ブランク中のH2Oに対応する2.13ppmにおけるピークとを積分した。MoO2Cl2サンプルにおいて、4.45ppmにおける内部標準と、5.24ppmにおけるブロードな超高純度のMoO2Cl2・×H2Oのピークを積分し、ブランク減算を利用して、超高純度のMoO2Cl2中の水分含有量を決定した。この方法による方法検出限界は、超高純度のMoO2Cl2において10ppmのH2Oであると見積もられ、これはMoO2Cl2中の1.1ppmの合計のプロトンと同等である。
【0089】
処理した開示及び特許請求される対象によって調製された全てのMoO2Cl2サンプルに対して、この分析を使用した。
【0090】
例1:超高純度のMoO2Cl2の調製
低いバルク密度及び高い水分含有量を有する低純度のMoO2Cl2サンプルを、上記の1H NMR方法によって分析した。サンプル中の水分は709ppm(低純度のMoO2Cl2中の78.8ppmの合計の残留プロトンと同等)であり、バルク密度は0.3g/cm3であった。低純度のMoO2Cl2(5.7kg)を21のC-22ハステロイ容器に充填して、200℃に加熱して、MoO2Cl2を完全に溶解した。容器を200℃で24時間加熱して、残留水和物を分解して、塩化水素を放出した。次いで、容器を室温に冷却して、窒素パージの下で残留ガスを除去した。次いで、さらに5.0kgの低純度のMoO2Cl2を、21LのC-22ハステロイ容器中の固化したMoO2Cl2溶融物の頂部に充填して、200℃に加熱して、低純度のMoO2Cl2を完全に溶融した。200℃で24時間容器を加熱して、残留水和物を分解して、塩化水素を放出した。上記の工程をさらに2回繰り返して、20.6kgの超高純度のMoO2Cl2で21Lのコンテナを満たした。
【0091】
分析:
超高純度のMoO2Cl2のバルク密度は、コンテナのボイド体積の測定によって決定して、2.6g/cm3であった。コンテナからの代表的なサンプルを上で説明した1H NMRによって分析し、超高純度のMoO2Cl2中の残留水分は126ppm(超高純度のMoO2Cl2中の14ppmの合計の残留プロトンと同等)を示した。
【0092】
例2:超高純度のMoO2Cl2のバルク密度
低密度のMoO2Cl2粉末(4.2g)を、10mmの内部直径(ID)を有するSS316チューブに充填した。低純度のMoO2Cl2粉末を有するチューブを、SS316 VCRキャップで蓋をして、185℃で22時間加熱した。チューブを室温に冷却して、窒素パージによって残留ガスを除去した。超高純度のMoO2Cl2は、10mmの直径及び19mmの高さで、容器の底部に固体ブロックを形成した。超高純度のMoO2Cl2のバルク密度は2.8g/cm3であった。比較として、国際公開第2020/021786号において記載される低純度のMoO2Cl2のバルク密度は約0.8~1.2g/cm3であることが報告されている。
【0093】
例3:高い充填密度のMoO2Cl2を有するコンテナ/気化器
例1に示すように調製した低純度のMoO2Cl220kgを有するコンテナを200℃で加熱して、低純度のMoO2Cl2を完全に溶解した。溶融した液体を、バルブ及び入口チューブを備える、9.2インチの外部直径及び51インチの高さ(5.5のアスペクト比)を有するコンテナ/気化器に移動した。移動を少なくとも1回繰り返して、44Lのコンテナ中を40kgのMoO2Cl2で満たした。冷却の間、コンテナ/気化器をベントして、低純度のMoO2Cl2粉末中に初期に存在したプロトン含有種の分解により形成した塩化水素による余剰の圧力を開放した。コンテナ/気化器からの超高純度のMoO2Cl2のサンプルを、160℃~180℃におけるMoO2Cl2の気化によって収集して、低温の表面においてそれを凝縮させた。上で説明した1H NMRによってサンプルを分析した。超高純度のMoO2Cl2中の残留水分は約20ppm未満(超高純度のMoO2Cl2中の約2.2ppm未満の合計残留プロトンと同等)であった。
【0094】
例4:超高純度のMoO2Cl2の調製
低いバルク密度及び高い水分含有量を有する低純度のMoO2Cl2サンプルを、上で説明した1H NMR方法によって分析した。サンプル中の水分は1074ppm(低純度のMoO2Cl2中の119.4ppmの合計残留プロトンと同等)であり、バルク密度は0.3g/cm3であった。低純度のMoO2Cl2(6.4kg)を21LのC-22ハステロイ容器中に充填し、200℃に加熱して、MoO2Cl2を完全に溶解した。容器を200℃で12時間加熱して、残留水和物を分解して、塩化水素を放出した。次いで、容器を室温に冷却して、窒素パージの下で残留ガスを除去した。次いで、さらなる4.0kgの低純度のMoO2Cl2を21LのC-22ハステロイ容器中固化したMoO2Cl2溶融物の頂部に充填して、200℃に加熱して、低純度のMoO2Cl2を完全に溶解した。容器を200℃で12時間加熱して、残留水和物を分解して、塩化水素を放出した。冷却の後、この21Lのコンテナは、10.4kgの超高純度のMoO2Cl2を含有していた。
【0095】
分析
超高純度のMoO2Cl2のバルク密度は、コンテナのボイド体積の測定によって決定した場合に、3.0g/cm3であった。コンテナからの代表的なサンプルを、上で説明した1H NMRによって分析した結果、超高純度のMoO2Cl2中の残留水分は15ppm未満(超高純度のMoO2Cl2中の2ppm未満の合計残留プロトンと同等)であった。
【0096】
例5:超高純度のMoO2Cl2のバルク密度
低純度のMoO2Cl2粉末(10.4kg)を21LのC-22ハステロイ容器中に充填して、200℃に加熱して、MoO2Cl2を完全に溶解した。次いで、200℃である間に、9.8kgの液体MoO2Cl2を8.8LのC-22ハステロイ容器中に移動した。8.8Lの容器を、まず底部を4時間冷却し、容器が周囲温度となるまで容器の頂部を冷却することによって徐々に室温に冷却した。周囲温度において、真空によって残留ガスを除去した。222mmの直径及び85.6mmの高さを有する容器の底部に、超高純度のMoO2Cl2が固体のブロックを形成した。超高純度のMoO2Cl2のバルク密度は2.96g/cm3であった。比較のために、国際公開第2020/021786号において記載される低純度のMoO2Cl2のバルク密度は、約0.8~1.2g/cm3であると報告されている。
【0097】
比較例6:低純度のMoO2Cl2から収集したMoO2Cl2
この比較例において、MoO2Cl2は、開示される方法によって精製されておらず、充填もされていない。390ppmの水分レベル(低純度のMoO2Cl2中の43.4ppmの合計残留プロトンと同等)を有する5.7kgの低純度のMoO2Cl2を有するコンテナを、例1に示すように用意し、MoO2Cl2の融点未満である150℃に加熱した。高温の固体のうち少量を、周囲内部表面温度を有する真空引きしたコンテナに、30秒で気相輸送した。150℃における低純度のMoO2Cl2は、1.5時間で再平衡した。同じ真空引きしたコンテナに、30秒の気相輸送をした。1.5時間で再平衡したものによるこの30秒の輸送を、さらに4回繰り返し、合計で6回の高温気相輸送とした。全ての容器を周囲温度に冷却した。真空引きした受け取り容器に収集した材料135gは、373ppm(超高純度のMoO2Cl2中の約41.5ppm未満の合計残留プロトンと同等)の水分レベルを有していた。この例は、低純度の材料から収集したMoO2Cl2が、超高純度のMoO2Cl2(20ppm未満)から収集したMoO2Cl2と比較して有意な量の水分(373ppm)を含有することを示した。
【0098】
例7:MoO2Cl2気相中のHCl濃度の測定
ハステロイC22容器をMoO2Cl2で満たした。容器をハステロイ空気圧バルブ及びSS真空多岐菅に接続した。MoO2Cl2を有する容器を190℃に加熱して、MoO2Cl2を溶融して、微量の残留HClを気相に放出した。精製したN2によってMoO2Cl2上のヘッドスペースから残留HClをパージして、超高純度のMoO2Cl2を得た。パージの間、MoO2Cl2気相を含有するN2キャリアガスを、150℃に加熱したFT-IR分光計(MKS Multigas 2030)の5.33メートルのIRセルを介して流動させた。MoO2Cl2における2799cm-1のHClのピークの吸光度は、0.5cm-1の分解能で0.0088から少なくとも7.4×10-4吸光度単位/メートルHClに減少した。図4は、MoO2Cl2を含有する気相及び残留HClのIRスペクトルを示していて、MoO2Cl2における2799cm-1のHClのピークの吸光度は、86.3×10-4及び7.4×10-4AU/メートルである。パージが完了した後、超高純度のMoO2Cl2を有する容器を135℃に冷却して、MoO2Cl2気相を、FT-IR分光計の5.33メートルのIRセルを介して連続的に流動させた。MoO2Cl2を含有するガスにおける2799cm-1のHClのピークの吸光度は、0.8×10-4吸光度単位/メートルであった。ガス相中のHClの計算した濃度は3.4ppmであった。上記のとおり、図4は、MoO2Cl2における2799cm-1のHClのピークの吸光度が約0.8×10-4AU/メートルであることを示している。
【0099】
まとめ
従来報告されていた純度レベルよりも、ほぼ100倍高い純度で、超高純度のMoO2Cl2を調製することができること、及びこの高純度のMoO2Cl2が、その非常に高い密度の充填形態を提供する予期しない特性を有することが示された。
【0100】
開示及び特許請求される対象が、ある程度の具体性をもって説明及び例示されたが、開示は例示のためにのみされるものであり、開示及び特許請求される対象の趣旨及び範囲から逸脱することなく、工程の条件及び順序における多くの変更が当業者に想起され得ると理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】