IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの特許一覧

特表2024-520356淡水化システムにおいてスケールを抑制するためのアクリル酸のポリマーの使用
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】淡水化システムにおいてスケールを抑制するためのアクリル酸のポリマーの使用
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/06 20060101AFI20240517BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20240517BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20240517BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20240517BHJP
   C02F 5/10 20230101ALI20240517BHJP
   C02F 5/00 20230101ALI20240517BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240517BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20240517BHJP
   B01D 65/06 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C08F20/06
C08F2/38
C08K3/32
C08L33/02
C02F5/10 620B
C02F5/00 620B
C02F1/44 C
C02F5/00 620D
B01D61/02
B01D65/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571861
(86)(22)【出願日】2022-05-23
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 EP2022063836
(87)【国際公開番号】W WO2022248379
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】21175531.9
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウエナー,アーメット
(72)【発明者】
【氏名】ニード,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】デテルイング,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】フェッセンベッカー,アヒム
【テーマコード(参考)】
4D006
4J002
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006KC16
4D006PA01
4D006PB03
4J002BG011
4J002EW126
4J002EW136
4J002HA04
4J011AA05
4J011NA36
4J011NB04
4J011NC02
4J011WA10
4J100AJ02P
4J100AJ02Q
4J100AJ09Q
4J100AK32Q
4J100AM21Q
4J100AP01Q
4J100BA56Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100EA01
4J100FA04
4J100FA19
4J100FA47
4J100JA15
(57)【要約】
本発明は、アクリル酸ポリマーの水溶液の、淡水化システムにおいてスケール生成を抑制するための使用であって、このアクリル酸のポリマーは、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作しながら重合させるプロセスにより得られ、これは、
(i)最初に、水と、次亜リン酸塩水溶液と、任意選択的な非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、任意選択的な開始剤とを投入することと、
(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、フリーラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とを添加することと、
(iii)アクリル酸の供給を停止した後、水溶液に塩基を添加することと、
を含み、
コモノマー含有量は、モノマーの総含有量を基準として30重量%を超えず、アクリル酸、フリーラジカル開始剤水溶液及び次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、xの値が±0.5の範囲で安定し、0.8~2の範囲内になるように添加され、
アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは1000~3000g/molであり、
淡水化システムは、多段フラッシュ法(MSF)、少なくとも1種の多重効用蒸発法(MED)及び逆浸透法(RO)からなる群の少なくとも1種を含む、使用に関する。本発明はまた、淡水化システムにおいて塩水を淡水化するプロセスにも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸ポリマーの水溶液の、淡水化システムにおいてスケール生成を抑制するための使用であって、前記アクリル酸のポリマーは、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作しながら重合させるプロセスにより得られ、これは、
(i)最初に、水と、次亜リン酸塩水溶液と、任意選択的な非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、任意選択的な開始剤とを投入することと、
(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、フリーラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とを添加することと、
(iii)前記アクリル酸の供給を停止した後、前記水溶液に塩基を添加することと、
を含み、
前記コモノマーの含有量は、モノマーの総含有量を基準として30重量%を超えず、前記アクリル酸、前記フリーラジカル開始剤水溶液及び前記次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、前記アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、xの値が±0.5の範囲で安定し、0.8~2の範囲内になるように添加され、
前記アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは1000~3000g/molであり、
前記淡水化システムは、少なくとも1種の多段フラッシュ法(MSF)、少なくとも1種の多重効用蒸発法(MED)及び逆浸透法(RO)からなる群の少なくとも1種を含む、使用。
【請求項2】
前記淡水化システム中に存在するカルシウム塩及び/又はマグネシウム塩に起因するスケール生成を抑制するための、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記淡水化システム中に存在する硫酸カルシウムからの前記スケールの生成を抑制するための、請求項1又は請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記淡水化システムは、高温淡水化システムである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記淡水化システムは、その淡水化システムに採用されている標準的な温度の平均よりも少なくとも10%高く、好ましくは少なくとも15%高い温度で操作される、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記淡水化システムは、少なくとも120℃、好ましくは少なくとも125℃、より好ましくは少なくとも130℃、更に好ましくは少なくとも140℃の温度で操作される少なくとも1種の多段フラッシュ法(MSF)によるプロセスを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記淡水化システムは、少なくとも80℃、好ましくは少なくとも85℃、より好ましくは少なくとも90℃の温度で操作される少なくとも1種の多重効用蒸発法(MED)によるプロセスを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記淡水化システムは、逆浸透法(RO)膜を備える逆浸透法(RO)による淡水化システムである、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
ステップ(i)は開始剤を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
ステップ(i)は、アクリル酸も1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーも含まない、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
アクリル酸を重合させる前記プロセスは、一定の若しくは変化する投入速度で連続的に、又は不連続的に、総量m1のアクリル酸を期間(t1-t1.0)にわたり添加し、総量m2のフリーラジカル開始剤溶液を期間(t2-t2.0)にわたり添加し、総量m3の次亜リン酸塩水溶液を期間(t3-t3.0)にわたり添加することを含み、前記重合は、期間(t4-t4.0)にわたり行われ、前記時点t1.0、t2.0及びt3.0は、各供給の開始を定め、時点t4.0は前記重合の開始を定める、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記次亜リン酸塩溶液の時間平均した投入時点:
【数1】
は、前記アクリル酸の総供給期間(t1-t1.0)の0.3~0.47倍である、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたるアクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]は、1.0±0.5である、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記次亜リン酸塩溶液の総供給期間t3-t3.0は、80~500分間である、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
全ての供給が同時に開始される、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記アクリル酸を重合させる前記プロセスの最中に添加される次亜リン酸塩溶液の次亜リン酸塩の乾燥重量に基づく総量は、アクリル酸の乾燥重量を基準として、少なくとも7.5%である、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸からなる群から選択されるコモノマーが最大30重量%共重合される、請求項1~16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記重合は、不活性ガス雰囲気下に実施される、請求項1~17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
アクリル酸ポリマーの前記水溶液は、有機結合リン及び可能性として無機結合リンの総リン含有量を有し、
(a)前記リンの第1部分は、ポリマー鎖内に結合しているホスフィネート基の形態で存在し、
(b)前記リンの第2部分は、ポリマー鎖末端に結合しているホスフィネート基及び/又はホスホネート基の形態で存在し
(c)可能性として、前記リンの第3部分は、溶解しているリンの無機塩の形態で存在し、
前記総リン含有量の少なくとも86%は、前記アクリル酸ポリマーのポリマー鎖内又は鎖末端に結合しているホスフィネート基又はホスホネート基の形態で存在する、請求項1~18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記アクリル酸ポリマーのK値は18以下である、請求項1~19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
溶解しているリンの無機塩の量は、前記ポリマー含有量を基準として≦0.5%である、請求項1~20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記アクリル酸ポリマーの多分散指数Mw/Mnは、≦2.0である、請求項1~21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
前記アクリル酸のポリマーは、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作しながら重合させるプロセスにより得られるものであり、これは、
(i)最初に水及び次亜リン酸塩水溶液及び任意選択的な開始剤を投入することと、
(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、フリーラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とを添加することと、
(iii)前記アクリル酸の供給を停止した後、前記水溶液に塩基を添加することと、
を含み、
前記コモノマーの含有量は、モノマーの総含有量を基準として30重量%を超えず、前記アクリル酸、前記フリーラジカル開始剤水溶液及び前記次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、前記アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、xの値が±0.5の範囲で安定し、0.9~1.1の範囲内、好ましくは1.0になるように添加され、
前記アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは1000~2500g/molであり、
前記淡水化システムは、
少なくとも112℃、好ましくは少なくとも120℃の温度で操作される少なくとも1種の多段フラッシュ法(MSF);
少なくとも70℃、好ましくは少なくとも80℃の温度で操作される少なくとも1種の多重効用蒸発法(MED);及び
逆浸透(RO)膜を備える逆浸透法(RO);
からなる群の少なくとも1種を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記アクリル酸のポリマーは、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作しながら重合させるプロセスにより得られるものであり、これは、
(i)最初に水及び次亜リン酸塩水溶液及び開始剤を投入することと、
(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、フリーラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とを添加することと、
(iii)前記アクリル酸の供給を停止した後、前記水溶液に塩基を添加することと、
を含み、
前記コモノマーの含有量は、モノマーの総含有量を基準として、30重量%を超えず、前記アクリル酸、前記フリーラジカル開始剤水溶液及び前記次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、前記アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、x値が±0.25の範囲で安定し、1.0となるように添加され、前記アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは、1000~2500g/molであり、前記淡水化システムは、少なくとも120℃の温度で操作される多段フラッシュ法(MSF);少なくとも80℃の温度で操作される少なくとも1種の多重効用蒸発法(MED);及び逆浸透(RO)膜を備える逆浸透法(RO)からなる群の少なくとも1種を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
淡水化システムにおいて塩水を淡水化するプロセスであって:
a)前記淡水化システムにおいてスケール生成を抑制するためにアクリル酸ポリマーの水溶液を添加することと;
b)前記塩水を少なくとも1つの淡水化ステップに付すことと;
を含み、
前記アクリル酸のポリマーは、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作しながら重合させるプロセスにより得られるものであり、これは、
(i)最初に、水と、次亜リン酸塩水溶液と、任意選択的な非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、任意選択的な開始剤とを投入することと、
(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、フリーラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とを添加することと、
(iii)前記アクリル酸の供給を停止した後、前記水溶液に塩基を添加することと、
を含み、
前記コモノマーの含有量は、モノマーの総含有量を基準として30重量%を超えず、前記アクリル酸、前記フリーラジカル開始剤水溶液及び前記次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、前記アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、xの値が±0.5の範囲で安定し、0.8~2の範囲内となるように添加され、
前記アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは1000~3000g/molであり、
前記淡水化システムは、多段フラッシュ法(MSF)、少なくとも1種の多重効用蒸発法(MED)及び逆浸透法(RO)からなる群の少なくとも1種を含む、プロセス。
【請求項26】
請求項2~24のいずれか一項に記載のいずれかの特徴を含む、請求項25に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、淡水化システムにおけるスケール生成防止の分野にあり、特定の重合プロセスにより得られるアクリル酸ポリマーの、この目的を達成するための使用に関する。このような使用により、高温淡水化システムを非常に高い温度で操作することが可能になり、それによって効率が向上する。更に、このような使用により、逆浸透(RO)膜のスケール生成防止及びファウリング抑制が改善された逆浸透(RO)淡水化システムを操作することが可能になる。
【背景技術】
【0002】
淡水化は、塩水から塩及び他の電解質を除去するプロセスである。このプロセスは高温を利用するため、概してエネルギー消費量が高く、したがって、淡水化水は、天然の淡水源よりも製造コストが高くなるのが通常である。そのため、淡水化は、天然の淡水源が不足している状況下で利用される。これは例えば、船や潜水艦の場合もあるが、主に淡水化が採用されているのは、陸上の、河川、湖沼及び地下水からの淡水が利用できない場所である。淡水化水のほとんどは、人間の消費用又は農業における灌漑用に使用されている。
【0003】
淡水化には高温が用いられるため、淡水化設備の高温表面でスケールが生成する可能性がある。その原因は、大部分の物質の水に対する溶解度が限られていることにある。炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム及び硫酸バリウム並びにリン酸カルシウムなどの無機物質及び塩は、水に対する溶解度が低い。水性系に溶解しているこれらの成分が濃縮されると(高濃度化)、溶解度積を超過し、その結果としてこれらの物質が析出し(fail)、沈着する。更にこの物質の溶解度は、温度及びpH値にも依存する。特に、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、又は水酸化マグネシウムなどの多くの物質は、逆溶解性を示す。これは、温度の上昇と共に溶解性が低下することを意味する。
【0004】
析出及び沈着した無機物質及び塩は、多大な労力をかけないと除去できないため、特に、水を輸送する系では回避する必要がある。機械的洗浄及び乾式洗浄(dry cleaning)は費用及び時間がかかり、必然的に生産に不具合が生じる(production failure)。
【0005】
蒸留及び逆浸透法や又は電気透析などの膜プロセスによる海水淡水化においては、こうした固体による被覆物を生成させないための努力が払われている。特に、高温の海水淡水化プラントにおいては、一方では水が蒸発することによる濃縮と、他方では高いプロセス温度との両方の作用が重要な影響を及ぼす。
【0006】
採用されている多くの高温淡水化プラントには、多重効用蒸発法(MED)又は多段フラッシュ法(MSF)による蒸留が関与しており、どちらも水を高温に加熱することが含まれる。
【0007】
多重効用蒸発法(MED)には、流入する塩水を加熱された配管上に散布することを含む多重効用が関与する。水の一部は蒸発し、こうして生成した水蒸気は次の効用段階の管に流入し、ここで更なる水を加熱して蒸発させる。つまり、この水蒸気は、後続のバッチに流入する塩水の加熱に利用される。最も高温の段は、通常、最初の段であり、典型的には、スケールを生成させないように70~75℃未満の温度で操作される。
【0008】
多段フラッシュ法(MSF)による蒸留は、多段階の効率的な向流式熱交換器内で水の一部をフラッシュ蒸発させて水蒸気にすることによって海水を蒸留することを含む。MSF蒸留の通常の操作温度は、普通は約90~110℃である。温度が上昇するとスケール生成及び腐食が誘発される可能性があるため、最大温度は通常110~120℃であるが、多くの状況下では、スケール生成を回避するために、それよりもはるかに低い、例えば、70℃未満の温度を用いることが必要となる。
【0009】
高温の淡水化プラントの生産性はプロセス温度の上限により制限される。高温海水淡水化プラントにおいて可能な限り高いプロセス効率を達成するためには、最大限可能な蒸発温度で操作を行うことが望ましい。
【0010】
つまり、淡水を生成するために必要なエネルギーは最小限に抑えたい。多くの場合、この目的のためには、kWh/m水単位の特性値(characteristic)が用いられる。そのためには、プロセス温度を可能限り高くすることが必要である。しかしながら、これは主として、温度の上昇と共に沈着物(plaque)の生成が増加するという理由により制限される。特に、高温淡水化プラント内での水酸化マグネシウム(水滑石)や炭酸水酸化マグネシウム(magnesium hydroxide magnesium carbonate)(水苦土石)などの塩基性マグネシウム塩並びに炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムの沈着は重大な影響を及ぼすことが知られている。
【0011】
膜プロセスの生産性は、特に、淡水化プロセス中における無機析出物の生成により制限される。プロセス効率を可能な限り高くするために、休止時間を可能な限りなくして膜プロセスを操作することが重要である。つまり、膜システムを、無機析出物を除去するために中断することなく、可能な限り長い時間操作することが必要である。特に、逆浸透淡水化プラントにおける炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムの沈着は重大な影響を及ぼす。逆浸透プロセスは、一般に、それぞれスペーサで隔てられた複数の膜の層から構成されるスパイラル型エレメントを利用している。浄化された水が各膜を通過し、巻回されたエレメントから浄化された水として移動する。いずれかの膜を通過しなかった不純物はスペーサ内に回収される。一般に、不純物は濃縮物として保持されることになる。典型的には、阻止されて濃縮された高濃度の塩、特に多価金属塩、例えばカルシウム塩は、スペーサ内で析出してスケールを生成する可能性がある。このようなスケール生成は、スパイラル型エレメント内の水の通過を妨げるか又は遮断し、逆浸透プロセスの性能を損なう可能性がある。この問題を克服するための処理を提供することが望ましいであろう。
【0012】
海水淡水化システムに用いるための様々なスケール抑制処理が長年にわたり提案されてきた。
【0013】
英国特許第1218952号明細書には、蒸発器内において、スケールを実質的に沈着させることなく、塩水を蒸発させることにより淡水化するためのプロセスが記載されている。ポリアクリル酸として算出した平均分子量が1000~19,000であるポリアクリル酸又はその水溶性塩が、スケール抑制濃度で塩水中に維持される。水を蒸発させ、それにより生成した水蒸気は凝縮されることによって回収される。この参考文献には、85°F~350°F(29.44℃~176.7℃)の温度で連続的な蒸発が達成されることが示されており、温度を260°F(126.7℃)以下にすることで沈着物を最小限に抑えながら優れた結果が得られるとされている。
【0014】
米国特許第4164521号明細書には、淡水化用蒸発装置で処理される塩水を、スケール生成及びスラッジ生成を低減することを目的として処理するための組成物が記載されている。この組成物は、(1)アクリル酸から誘導された繰り返し単位を少なくとも約50mol%と、その残余である、それらと適合性がある1種又は複数種のモノマーから誘導された繰り返し単位とを含む多価アニオン性ポリマーであって、その酸単位が、遊離酸基、アンモニウム塩及びアルカリ金属塩から選択される、多価アニオン性ポリマーと、(2)様々な形態のカチオン性ポリマーから選択される多価カチオン性ポリマーと、を含むものとされている。この組成物はマグネシウムスケールを抑制するとされている。
【0015】
米国特許第4175100号明細書には、ポリマーの約60%の分子量が約500~2000であり、ポリマーの約10%の分子量が約4000~12,000である偏った(skewed)分子量分布を有するアクリルアミドのアニオン性ポリマーが示されている。このポリマーは、循環水系、ワイヤレス(wireless)並びに蒸発淡水化及び逆浸透淡水化システムに有用であるとされている。
【0016】
米国特許第4634532号明細書には、高温淡水化プラントにおいて、海水と接触する少なくとも約200°F(93℃)の温度の伝熱面上における炭酸カルシウムなどの海水スケールの生成及び沈着を制御するためのプロセスが教示されている。提案されている処理は、(a)オルトリン酸(塩)の水溶性源と;(b)次に示すもののいずれか:(1)重量平均分子量が25,000未満であるマレイン酸又は無水物のポリマー;(2)ヒドロキシエチリデンジホスホン酸及び2-ホスフィノ-1,2,4-トリカルボキシブタンのいずれかから選択されるホスホン酸化合物(phosphonate);(3)(i)アクリル酸又はメタクリル酸と、(ii)2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とを含み、重量平均分子量が約66,000未満であり、(i):(ii)のモル比が約98:2~約10:90の範囲にあるポリマー;並びに(4)重量平均分子量が約25,000未満であるポリアクリル酸;から選択される少なくとも1種の水溶性成分と;を含む。成分(a):成分(b)の比は約0.1:1~約10:1の範囲にあり、淡水化される水のpHは約6.5~約9.5の範囲にある。
【0017】
ラジカル重合により生成した低分子量ポリアクリル酸及びその塩が、分散性及び結晶成長抑制性を有することから、工業用水処理及び海水淡水化における表面用抑制剤(surface preventer)に使用されることは知られている。
【0018】
十分なスケール抑制効果を得るために、ポリアクリル酸ポリマーの平均分子量(M)は<50,000g/molとすることが必要である。M<10,000g/molであるポリアクリル酸が特に有効であると説明されていることが多い。低分子量ポリアクリル酸を製造するために、アクリル酸をラジカル重合させる際に分子量調節剤又は連鎖担体が添加される。これらの調節剤は、このポリマーが可能な限り効果的に製造されるように、重合開始剤のみならず重合プロセスにも合わせなければならない。開始剤は、例えば、無機及び有機過酸化合物(per-compound)、例えば、ペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、ヒドロペルオキシド及び過酸化エステル、アゾ化合物、例えば、2,2’アゾビスイソブチロニトリル、無機及び有機成分を含む酸化還元系である。調節剤としては、無機硫黄化合物、例えば、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩及び亜ジチオン酸塩、有機硫化物、スルホキシド、スルホン及びメルカプト化合物、例えば、メルカプトエタノール、メルカプト酢酸並びに無機リン化合物、例えば、次リン酸(ホスフィン酸)及びこれらの塩(例えば、次亜リン酸ナトリウム)が使用されることが多い。
【0019】
米国特許出願公開第2012/199783号明細書には、低分子量含有ポリアクリル酸及び水輸送系におけるスケール抑制剤としてのその使用が記載されている。本発明は、溶媒としての水中において、次亜リン酸塩の存在下に、開始剤としてのペルオキソ二硫酸塩と一緒にアクリル酸を供給する方式で重合させることにより得ることができるアクリル酸ポリマーの水溶液に関するものとされている。これは、(i)水及び任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーを最初に投入することと、(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマー、ペルオキソ二硫酸塩水溶液及び次亜リン酸塩水溶液を連続的に添加することと、(iii)アクリル酸の供給が完了したら、水溶液に塩基を添加することと、を含み、コモノマー含有量は、モノマーの総含有量を基準として30重量%を超えない。
【0020】
国際公開第2012/104325号パンフレットには、米国特許出願公開第2012/199783号明細書と同様の開示がなされている。
【0021】
国際公開第2017134128号パンフレットには、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、ラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給する方式で重合させることによる、アクリル酸ポリマーの水溶液を製造するための方法が記載されている。水及び任意選択的な非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、任意選択的な次亜リン酸塩水溶液と、任意選択的な開始剤とが導入される。非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、ラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とが添加される。アクリル酸の供給が完了した後、水溶液に塩基が添加される。コモノマー含有量は、モノマーの総含有量に対し30重量%を超えない。アクリル酸、ラジカル開始剤水溶液及び次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]の値xが±0.5で一定となり、0.8~2の範囲内となるように添加される。この参考文献は、様々な工業プロセスに使用することができる顔料スラリーを製造するための分散剤を提供する必要性について記載している。一方、この参考文献には、このポリマーを水輸送系におけるスケール抑制剤として使用できることも間違いなく記載されている。更に、この参考文献では、高温海水淡水化において、このポリマーを、好ましくは0.5mg/l~10mg/lで使用することが好ましいと考えられている。しかしながら、この参考文献は、この種の高温海水淡水化が少なくとも80℃の温度の蒸留ステップを含むことになることは開示しておらず、そのようなシステムに通常採用される温度よりも大幅に高い温度で操作されるそのような蒸留ステップも開示されておらず、逆浸透法についても述べられていない。
【0022】
米国特許出願公開第2020/299426号明細書は、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作して重合させることにより、アクリル酸ポリマーの水溶液を製造するためのプロセスに関する。このプロセスは、(i)まず水及び任意選択的な非中和酸性形態にあるアクリル酸、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマー、任意選択的な次亜リン酸塩水溶液及び任意選択的な開始剤を投入することと;(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマー、フリーラジカル開始剤水溶液、次亜リン酸塩水溶液を添加することと;(iii)アクリル酸供給を停止した後、この水溶液に塩基を添加することと;を含む。この開示には、コモノマー含有量がモノマーの総含有量を基準として30重量%を超えないことが必要である。アクリル酸、フリーラジカル開始剤水溶液、次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、xの値が±0.5の範囲で安定しており、0.8~2の範囲内となるように添加される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
淡水化システムのスケール生成を抑制するのに有効な生成物を、特にこの種の生成物がスケールを抑制し、ファウリングを抑制する状況で提供することが望ましいであろう。更なる目的は、高温淡水化システムにおけるスケール抑制剤として効果を示すであろうこの種の生成物を提供することにある。この種の生成物を、多重効用蒸発(MED)及び多段フラッシュ蒸留(MSF)システムに有利に使用することが特に望ましいであろう。これに加えて、逆浸透(RO)淡水化システムにおける有効なスケール抑制剤となり、スケール生成及びファウリングを有利に防ぐことになる生成物も望まれている。更なる目的は、淡水化システムにおいて、粒子、塩又は無機物質を分散する能力に悪影響を及ぼすことなく有効な又は改善されたスケール抑制を達成する生成物を提供することにもある。分散能力が低下すると、均一に形成された結晶と相互作用し、その結果として、スケール抑制性能をもたらす(effect)可能性がある。したがって、更なる目的は、他の公知のポリアクリル酸スケール抑制剤と比較して、スケール生成を有利に抑制することになると同時に、水中に存在する粒子、塩又は無機物を分散する能力が同等であるか又は向上しているかのいずれかである、生成物を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の第1の態様は、アクリル酸ポリマーの水溶液の、淡水化システムにおいてスケール生成を抑制するための使用であって、このアクリル酸のポリマーは、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩(hypophosphite)の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作しながら重合させるプロセスにより得られ、このプロセスは、
(i)最初に、水と、次亜リン酸塩水溶液と、任意選択的な非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、任意選択的な開始剤とを投入することと、
(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、フリーラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とを添加することと、
(iii)アクリル酸の供給を停止した後、水溶液に塩基を添加することと、
を含み、
コモノマー含有量は、モノマーの総含有量を基準として30重量%を超えず、アクリル酸、フリーラジカル開始剤水溶液及び次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、xの値が±0.5の範囲で安定し、0.8~2の範囲内になるように添加され、
アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは、1000~3000g/mol、好ましくは1000~2500g/molであり、淡水化システムは、多段フラッシュ法(MSF)、少なくとも1種の多重効用蒸発法(MED)及び逆浸透法(RO)からなる群の少なくとも1種を含む、使用を提供する。
【0025】
本発明の第2の態様によれば、本発明者らは、淡水化システムにおいて塩水を淡水化するプロセスであって:
a)淡水化システムにおいてスケール生成を抑制するためにアクリル酸ポリマーの水溶液を添加することと;
b)塩水を少なくとも1つの淡水化ステップに付すことと;
を含み、
このアクリル酸のポリマーは、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作しながら重合させるプロセスにより得られ、これは:
(i)最初に、水と、次亜リン酸塩水溶液と、任意選択的な非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、任意選択的な開始剤とを投入することと、
(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、フリーラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とを添加することと、
(iii)アクリル酸の供給を停止した後、水溶液に塩基を添加することと、
を含み、
コモノマー含有量は、モノマーの総含有量を基準として30重量%を超えず、アクリル酸、フリーラジカル開始剤水溶液及び次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、xの値が±0.5の範囲で安定し、0.8~2の範囲内になるように添加され、
アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは、1000~3000g/mol、好ましくは1000~2500g/molであり、淡水化システムは、多段フラッシュ法(MSF)、少なくとも1種の多重効用蒸発法(MED)及び逆浸透法(RO)からなる群の少なくとも1種を含む、プロセスを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明者らは、発明の概要に記載した手順により得られるアクリル酸のポリマーであって、極めて重要なこととして、重量平均分子量Mwが1000~3000g/mol、好ましくは1000~2500g/molであるアクリル酸のポリマーが、淡水化プロセスにおけるスケール生成の抑制に特に有効であることを見出した。代替的な一形態において、重量平均分子量Mwは、1500~3000g/molであり得、好適には1500~2500g/molであり得る。これは、淡水化プロセスが高温、特に蒸留ステップを採用している場合の高温表面において特に適している。それにより、本発明の使用及び方法が、このような淡水化プロセスを、当該産業で実施されている典型的な温度よりも高い温度で容易に操作できるようになる。本発明はまた、他の淡水化プロセス、例えば、スパイラル型エレメントのスケール生成、典型的にはスペーサ内のスケール沈着及び濾過膜がファウリングする危険性を防止するためにスケール生成を抑制することが重要である、逆浸透法(RO)にも有用である。
【0027】
海水中に存在する無機塩などの無機物質は析出しやすく、したがって淡水化プロセスの最中にスケールが生成しやすい。本発明は、スケール生成を低減するか又は最小限に抑える有効な方法を提供する。これは、海水中に溶解した多種多様な無機物質、例えば、無機塩、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム及びシリカに当てはまる。好適には、本発明は、淡水化システム中に存在するカルシウム塩及び/又はマグネシウム塩に起因するスケール生成を抑制することができる。これは特に、淡水化システムにおいて硫酸カルシウムに起因するスケール生成を抑制する場合に適している。
【0028】
本発明の使用及び方法は、淡水化システムが高温淡水化システムであり、具体的には、淡水化システムが、多段フラッシュ法(MSF)、多重効用蒸発法(MED)からなる群の少なくとも1種を含む場合に特に有用である。一般に、高温の淡水化プラントの生産性はプロセス温度の上限により制限される。低分子量ポリアクリル酸をベースとするスケール抑制剤は知られているが、本発明の概要に示すプロセスに厳密に従い調製される、具体的には重量平均分子量Mwが1000~3000g/mol、好ましくは1000~2500g/molであるアクリル酸のポリマーは、このような高温淡水化システム及び逆浸透淡水化システムに特に有効であることをここに見出した。或いは、重量平均分子量Mwは、1500~3000g/mol、好ましくは1500~2500g/molとなり得る。
【0029】
具体的には、本発明による使用及び方法はまた、淡水化システムが逆浸透法(RO)を含む場合も特に有効である。
【0030】
この使用及び方法により、スケール生成を著しく増加させることなくプロセスの上限温度をより高くすることが可能になり、したがって、淡水化プロセスをより効率的に操作することが可能になる。これは、淡水化システムにおいて、多段フラッシュ法(MSF)及び多重効用蒸発法(MED)に特に当てはまる。この淡水化システムは、淡水化システムに採用されている標準的な温度の平均よりも10%高い、好ましくは少なくとも50%高い温度で操作することができる。選択される正確な温度は、概して、具体的な淡水化システムに依存することになる。多段フラッシュ法(MSF)は、多重効用蒸発法(MED)の温度よりも幾分高い温度で操作される傾向にある。淡水化システムの1つの分類の中でさえも、プラントが異なれば操作温度が僅かに異なる場合もあり、これは、そのシステムの具体的な確認及び配置に依存し得る。
【0031】
多段フラッシュ法(MSF)による淡水化プロセスは、通常、約110℃の温度で操作される。本発明の使用及び方法により、このような多段フラッシュ法(MSF)によるプロセスを大幅に高い温度で操作することが可能になる。望ましくは、多段フラッシュ法(MSF)は、少なくとも112℃、好適には少なくとも120℃の温度で操作することができる。これは、更に高く、例えば、少なくとも125℃、より望ましくは少なくとも130℃、それどころか少なくとも約140℃とすることさえできる。例えば、通常、110℃で操作されるであろうMSFプロセスを、本発明を用いて140℃の温度で操作することができる可能性がある。これらの温度は、有害なスケールを著しく生成させることなく維持することができる。これは特に、カルシウム塩、例えば、炭酸カルシウム及び特に硫酸カルシウムを回避する。
【0032】
多重効用蒸発法(MED)による淡水化プロセスは、通常、約65℃の温度で操作される。本発明の使用及び方法により、このような多重効用蒸発法(MED)プロセスを少なくとも70℃、好適には少なくとも75℃、より好適には少なくとも80℃、好ましくは少なくとも85℃で操作することが容易になり、90℃付近又はそれを超える温度でさえも全く問題なく操作することができる。このような高温で操作しながらも、スケール生成の有害な影響は回避することができる。これは特に、カルシウム塩、例えば、炭酸カルシウム及び特に硫酸カルシウムに当てはまる。
【0033】
他の重要な実施形態において、本発明は、逆浸透法(RO)による淡水化システムに使用することができる。逆浸透法は、逆浸透(RO)膜を備える傾向がある。典型的には、RO膜プロセスは、半透膜を使用し、膜を介して、塩を阻止すると同時に水が優先的に浸透するように膜の供給側に圧力を印加する。逆浸透法システムは、高温淡水化プロセスよりも使用されるエネルギーが少なくなる傾向にある。そのため、逆浸透淡水化システムのエネルギーコストは高温淡水化システムよりも低く抑えることができる。しかしながら、RO膜エレメントはファウリングしやすい。典型的には、RO膜エレメントは、それぞれスペーサで隔てられた複数の膜の層から構成されるスパイラル型エレメントとして知られている。一般に、スケール生成は、スペーサ内で発生するか又は膜表面をファウリングさせる可能性があり、それにより、スパイラル型エレメントの水の通過が妨げられ、したがって逆浸透法プロセスの性能が損なわれる可能性がある。これを回避するために慣用されている手法は、スケール抑制剤の利用であり、この目的に利用される一般的なスケール抑制剤には、低分子量ポリアクリル酸が含まれる。それにも関わらず、特に多価金属塩、特に炭酸カルシウムなどのカルシウム塩、その中でも特に硫酸カルシウムを含むスケール生成は依然として発生する可能性がある。
【0034】
本発明の使用及び方法は、逆浸透法(RO)による淡水化システムにおけるスケール生成を著しく抑制する。これは特にカルシウム塩に当てはまり、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウムに特に有効である。
【0035】
この使用は、本明細書の記載に従い定義されたアクリル酸のポリマーを利用するものである。このアクリル酸のポリマーは、単独のスケール抑制用添加剤として使用することも、他のスケール抑制用薬品と併用することもできる。多くの場合、本発明によるアクリル酸のポリマーを、単独の添加剤として使用するか、又は少なくとも主要なスケール抑制用添加剤として使用することが適しているであろう。しかしながら、場合によっては、他のスケール抑制剤を共添加剤(co-additive)として本発明のアクリル酸ポリマーと一緒に使用することが望ましいこともある。典型的なスケール抑制剤の共添加剤としては、ペンダントポリアルキレンオキシド基を有する(メタ)アクリル酸コポリマーであり得る櫛型ポリマー;スルホン酸基を有するポリマー、例えば、アクリル酸及び/若しくはアクリルアミドと2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とのコポリマー;アクリル酸のホモポリマー又はアクリル酸とアクリルアミドとのコポリマーを挙げることができる。通常、この種の共添加剤ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、12,000g/mol未満となり、典型的には2500g/mol~10,000g/molの範囲にある。
【0036】
共添加剤のスケール抑制剤は、本発明によるアクリル酸ポリマーと併用され、これらは、順次又は別々に同時に添加することができる。しかしながら、共添加剤のスケール抑制剤及び本発明のアクリル酸ポリマーをブレンド物として用いることが特に望ましいこともある。
【0037】
本発明には、アクリル酸のポリマーが、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作しながら重合させるプロセスにより得られるものであることが必須である。このプロセスは:
(i)最初に、水と、次亜リン酸塩水溶液と、任意選択的な非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、任意選択的な開始剤とを投入するステップと、
(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、フリーラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とを添加するステップと、
(iii)アクリル酸の供給を停止した後、水溶液に塩基を添加するステップと、
を含む。
【0038】
コモノマー含有量は、モノマーの総含有量を基準として30重量%を超えるべきではない。重要なことは、アクリル酸、フリーラジカル開始剤水溶液及び次亜リン酸塩水溶液を、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、アクリル酸の少なくとも75%、好適には少なくとも80%、望ましくは少なくとも85%が転化している期間にわたり、xの値が±0.5の範囲で安定し、且つ0.8~2の範囲内になるように添加することである。決定的に重要なことは、アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwが1000~3000g/mol、好ましくは1000~2500g/molとなることである。或いは、重量平均分子量Mwは、1500~3000g/mol、好ましくは1500~2500g/molとすることができる。
【0039】
本発明者らは、特定の調製プロセスの結果として得られる特定の分子構造を有するポリアクリル酸と、特定の狭い分子量範囲とを組み合わせることにより、淡水化プロセスにおけるスケール抑制効果が大幅に向上すると考えている。
【0040】
好ましくは、本プロセスに使用される次亜リン酸塩水溶液全体のうちの一部は、任意のモノマーを導入する前、且つ任意選択的な開始剤を導入する前の初期投入物(preload)としてプロセスに含まれる。したがって、好ましくは、ステップ(i)は、アクリル酸も1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーも含まないことになる。ステップ(i)は、最初に水及び次亜リン酸塩水溶液及び任意選択的な開始剤のみを投入することと定義することができる。より好ましくは、ステップ(i)は、アクリル酸の非存在下且つ1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーの非存在下に、水、次亜リン酸塩水溶液及び開始剤を投入することを含む。
【0041】
好適には、初期投入物としてステップ(i)に含まれる、次亜リン酸塩水溶液全体のうちの一部は、添加される次亜リン酸塩全体の乾燥重量を基準として0.5%~10.0%の範囲とすることができる。望ましくは、これは、1.0%~6.0%の範囲、より望ましくは、2.0%~5.0%の範囲とすることができる。
【0042】
好ましくは、開始剤は、ステップ(i)に、初期投入物として、次亜リン酸塩と一緒に含めることできる。通常、この開始剤は、ステップ(ii)において使用されるフリーラジカル開始剤と同一の化合物とすることができる。初期投入物に添加される開始剤の量は、開始剤の乾燥重量及びフリーラジカル開始剤の乾燥重量を基準として、ステップ(ii)に使用されるフリーラジカル開始剤の総量の0.25~5%とすることができる。望ましくは、開始剤の量は、フリーラジカル開始剤の総量の0.5~3%、より望ましくは1%~2%とすることができる。
【0043】
本発明の第1の態様の好ましい形態は、アクリル酸ポリマーの水溶液の、淡水化システムにおいてスケール生成を抑制するための使用であって、このアクリル酸のポリマーは、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作しながら重合させるプロセスにより得られ、このプロセスは、
(i)最初に水及び次亜リン酸塩水溶液及び任意選択的な開始剤を投入することと、
(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、フリーラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とを添加することと、
(iii)アクリル酸の供給を停止した後、水溶液に塩基を添加することと、
を含み、
コモノマー含有量は、モノマーの総含有量を基準として30重量%を超えず、アクリル酸、フリーラジカル開始剤水溶液及び次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、xの値が±0.5の範囲で安定し、0.8~2の範囲内になるように添加され、
アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは、1000~3000g/mol、好ましくは1000~2500g/molであり、淡水化システムは、多段フラッシュ法(MSF)、少なくとも1種の多重効用蒸発法(MED)及び逆浸透法(RO)からなる群の少なくとも1種を含む、使用を提供する。
【0044】
本発明の第2の態様の好ましい形態は、淡水化システムにおいて塩水を淡水化するプロセスであって:
a)淡水化システムにおいてスケール生成を抑制するためにアクリル酸ポリマーの水溶液を添加することと;
b)塩水を少なくとも1つの淡水化ステップに付すことと;
を含み、
このアクリル酸のポリマーは、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作しながら重合させるプロセスにより得られるものであり、これは、
(i)最初に水及び次亜リン酸塩水溶液及び任意選択的な開始剤を投入することと、
(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、フリーラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とを添加することと、
(iii)アクリル酸の供給を停止した後、水溶液に塩基を添加することと、
を含み、
コモノマー含有量は、モノマーの総含有量を基準として30重量%を超えず、アクリル酸、フリーラジカル開始剤水溶液及び次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、xの値が±0.5の範囲で安定し、0.8~2の範囲内になるように添加され、
アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは、1000~3000g/mol、好ましくは1000~2500g/molであり、淡水化システムは、多段フラッシュ法(MSF)、少なくとも1種の多重効用蒸発法(MED)及び逆浸透法(RO)からなる群の少なくとも1種を含む、プロセスを提供する。
【0045】
したがって、アクリル酸対フリーラジカルにより引き抜き可能な(free-radically abstractable)リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]は、本発明に従い、アクリル酸の少なくとも75%、好適には少なくとも80%、望ましくは少なくとも85%が転化されている期間にわたり、0.8±0.5(即ち、この期間にわたり0.3から1.1まで変化してもよい)以上且つ2.0±0.5(即ち、この期間にわたり1.5から2.5まで変化してもよい)以下である。
【0046】
本発明の好ましい実施形態において、アクリル酸対フリーラジカルにより引き抜き可能なリンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]は、1.0±0.5である。フリーラジカルにより引き抜き可能なリンに結合している水素とは、使用された次亜リン酸ナトリウム(1)又はポリマー鎖の末端に結合している次亜リン酸ナトリウム(2)中に存在する、共有結合している水素-リン結合を意味すると理解されたい。
【化1】
【0047】
次亜リン酸ナトリウム及び組み込まれた次亜リン酸ナトリウムは、水中では、対イオンとしてナトリウムを含まない解離した形態で、及びプロトン化した形態で存在することができる。
【0048】
このプロセスは、概して、次亜リン酸塩水溶液及び任意選択的な開始剤を含む溶媒としての水を含む初期投入物に、一定の若しくは変化する投入速度で連続的に、又は不連続的に(少量ずつ)、総量m1のアクリル酸を期間(t1-t1.0)にわたり投入し、総量m2のフリーラジカル開始剤溶液を期間(t2-t2.0)にわたり投入し、総量m3の次亜リン酸塩水溶液を期間(t3-t3.0)にわたり投入することを含む。重合は、撹拌槽内で、期間(t4-t4.0)にわたり実施され、時点t4.0は重合の開始を定める。時点t1は、アクリル酸添加の終了を定め、t2は、開始剤添加の終了を定め、t3は、調節剤添加の終了を定め、t4は、t1からt4までの期間内の後重合を含む重合反応の終了を定める。
【0049】
次亜リン酸塩の存在下におけるアクリル酸の共重合の速度論モデルを用いて、次亜リン酸塩の投入を変化させることにより、それ以外のプロセスは変化させずに、重合終了時t4においてポリマーに組み込まれない調節剤の残量m3’をどのように減らすことができるかを計算した。調節剤m3’の残量はポリマーと共有結合(C-P結合)しておらず、したがって、以後、無機リンと呼ぶ。
【0050】
これは、使用した調節剤(1)の形態で、又は次亜リン酸塩の他の酸化状態、例えば、ホスホン酸若しくはリン酸などの形態で存在し得る。各酸化状態の解離した形態、プロトン化された形態及び構造異性化した形態も可能である。
【化2】
【0051】
無機リンの量、m3’及び比率m3’/m3は、次亜リン酸塩調節剤の選択された供給時間t3-t3.0が短くなるに従い低下する。同様に、無機リンの量m3’は、調節剤の総投入時間t3-t3.0の中で、早期に添加される次亜リン酸塩調節剤の量の比率が増加するに従い低下する。同様に、m3’は、配合物中に添加された調節剤の総量m3が低下するに従い低下する。調節剤の時間平均した投入時点(time averaged dosing time point)の好適な指標は次に示すパラメータで与えられる:
【数1】
ここで、tは、t3.0からt3までの時間であり、d(t)は、時点tにおける調節剤の投入速度(単位:質量/時間)である。時間平均した投入時点は、調節剤の総量の添加を時間に基づく平均として表したものである。
【0052】
これを説明するために、特定の投入時間(t3-t3.0)において調節剤の初期投入量を含む特定の量m3の調節剤を投入する、2種類の異なる調節剤投入の例を示す:
a)例えば、調節剤を投入する時間(t3-t3.0)全体にわたり調節剤を一定の投入速度で添加した場合、平均投入時点は(
【数2】
)となる。
b)例えば、区間[t3.0~(t3-t3.0)/2]の投入速度をより速く(a)の投入速度と比較して)し、区間[(t3-t3.0)/2~t3]は投入速度をそれと同じ量だけ低下させると、平均投入時点は(
【数3】
)となる。
【0053】
本発明の好ましい実施形態において、全ての供給は同一時点であるt0、即ち、t1.0=t2.0=t3.0=t0に開始される。
【0054】
この具体的な例において、アクリル酸の総投入時間(t1-t1.0)に対する調節剤の時間平均した投入時点の比は、<0.49、好ましくは<0.47、特に好ましくは0.3~0.47である。
【0055】
更に、調節剤の総投入時間に対する時間平均した調節剤の投入時点の比は、概して<0.5、好ましくは約0.45、特に好ましくは0.3~0.45である。
【0056】
次亜リン酸塩調節剤の供給は、連続的に実施してもよいし、又は不連続的に、不連続な量m31、m32、m33などで、不連続な時点t31、t32、t33などにおいて、時点t3まで実施してもよい。
【0057】
プロセスパラメータを制御することにより、モノマーの転化率が少なくとも75%、好適には少なくとも80%、望ましくは少なくとも85%である期間内に、反応槽内に瞬間的に存在する、フリーラジカルにより引き抜き可能なリンに結合している水素及びアクリル酸の濃度のモル比[AA]/[P-H]を、0.8~2.0±0.5の範囲内、好適には0.9~1.1±0.5の範囲内、好ましくは1.0±0.5の範囲内で一定に維持した場合、無機リン(m3’)の量が低減されているにも関わらず、分子量分布が保存されることは明らかである。アクリル酸対リンに結合している水素の比が一定に維持されている間に転化率の範囲が低下すると、その結果として分子量分布が広がる可能性がある。分子量分布を狭くするためには、たとえ、モノマー転化率の限界値である少なくとも75%、好適には少なくとも80%、望ましくは少なくとも85%を外れている場合であってさえも、好ましい値である[AA]/[P-H]=1.0±0.5からの逸脱は、可能な限り小さくすべきである。転化率の範囲が75%を外れている場合の[AA]/[P-H]の値は、必ず[AA]/[P-H]=4.5未満としなければならない。
【0058】
好ましい実施形態において、アクリル酸の少なくとも80%が転化されている期間にわたるアクリル酸対リンに結合している水素のモル比[AA]/[P-H]は、1.0±0.5である。
【0059】
アクリル酸の転化率が80%の範囲を外れた場合の[AA]/[P-H]の最大値は4.5以下である。
【0060】
特に好ましい実施形態において、アクリル酸の転化率が少なくとも80%、望ましくは少なくとも85%である期間にわたるアクリル酸対リンに結合した水素[AA]/[P-H]のモル比は、好適には0.9~1.1±0.25、より好ましくは1.0±0.25である。アクリル酸転化率が80%の範囲を外れている場合の[AA]/[P-H]の最大値は4.5以下である。
【0061】
望ましくは、数平均モル質量Mnが2000g/mol未満になるようにするためには、モル比[AA]/[P-H]の値は1.5未満にすることが必要である。
【0062】
ポリマー分布の平均モル質量Mnが、比[AA]/[P-H]と共に直線的に増加することと、モノマーの大部分(>75%)、好適には少なくとも80%、望ましくは少なくとも85%が転化している期間中、特定の比[AA]/[P-H]が一定に維持されなかった場合、分布の幅(PDI=Mw/Mnとして測定)が広がり、PDI=1.7を超える値になることも、明らかである。この濃度比は、運動論的モデリングによるか又は実験的方法によって得ることができる。
【0063】
比[AA]/[P-H]は、実験的に求めることができる。数平均モル質量Mnが約2000g/mol未満となることが好ましい。
【0064】
パラメータ[AA]/[P-H]によってポリマーの速度論的連鎖長が決まるため、このパラメータを介して重合プロセスを制御することが、分子量分布調整の決め手となる。[AA]/[P-H]を制御するための方法には、モデリング法のみならず、分光法:NMR、赤外振動分光法及びインラインラマン分光法などの実験的方法も含まれる。重合中にサンプルを採取して分析することも好適である。
【0065】
この場合、サンプルは、準備した抑制剤溶液中に採取する。存在するアクリル酸の濃度はHPLC、NMR分光法又はGCで測定することができる。存在するP-H官能基の濃度は31-P{1H}NMR分光法で測定することができる。
【0066】
アクリル酸の総供給時間は、概して80~500分間、好ましくは100~400分間である。
【0067】
コモノマーは、反応バッチに最初に投入してもよく、一部を最初に投入して一部を供給物として添加しても、又は供給物のみとして添加してもよい。前記コモノマーの一部又は全部を供給物として添加する場合、これらは通常、アクリル酸と同時に添加される。
【0068】
水は、通常、添加され、少なくとも75℃、好ましくは90℃~115℃、特に好ましくは95℃~105℃の反応温度に加熱される。
【0069】
腐食抑制剤としてのリン酸の水溶液も最初に投入してもよい。
【0070】
次いで、アクリル酸、任意選択的なエチレン性不飽和コモノマー、開始剤及び調節剤の連続供給が開始される。アクリル酸は、非中和酸性形態で添加される。供給は、通常、同時に開始される。開始剤としてのペルオキソ二硫酸塩及び調節剤としての次亜リン酸塩は、両方共、それらの水溶液の形態で使用される。
【0071】
次亜リン酸塩は、次亜リン酸(ホスフィン酸)の形態又は次亜リン酸の塩の形態で使用することができる。次亜リン酸塩は、特に好ましくは、次亜リン酸として又はナトリウム塩として使用される。次亜リン酸塩は、供給物としてのみ添加してもよいし、又は一部を最初に投入してもよい。次亜リン酸塩水溶液中の次亜リン酸塩の含有量は、好ましくは35~70重量%である。
【0072】
モノマー全体の乾燥重量を基準として、次亜リン酸塩の乾燥重量が少なくとも7.5重量%となる量の次亜リン酸塩を使用することが好ましい。好ましくは、モノマー全体の乾燥重量を基準として、次亜リン酸塩の乾燥重量は、7.5~20.0重量%、より好ましくは8.0~17.0重量%、特に好ましくは8.5~14.0重量%、とりわけ9.0~12.0重量%となる。
【0073】
好ましいフリーラジカル開始剤は、ペルオキソ二硫酸塩である。ペルオキソ二硫酸塩は、通常、ナトリウム、カリウム又はアンモニウム塩の形態で使用される。好ましく使用されるペルオキソ二硫酸塩水溶液の濃度は5~10重量%である。
【0074】
ペルオキソ二硫酸塩は、好ましくは、モノマー全体(アクリル酸及び任意選択的なコモノマー)の乾燥重量を基準として、0.05~10重量%又は0.1~10重量%、より好ましくは0.3~5重量%、特に好ましくは0.5~3重量%、例えば0.5~2重量%の量で使用される。他の特に好ましい範囲は、0.1~1.5重量%、例えば、0.1~1重量%とすることができ、0.1~0.3重量%が含まれる。
【0075】
更に、過酸化水素をフリーラジカル開始剤として、例えば、50%水溶液の形態で使用することも可能である。過酸化物及びヒドロペルオキシド及び還元性化合物をベースとする酸化還元開始剤、例えば、硫酸鉄(II)及び/又はヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムの存在下における過酸化水素も適している。
【0076】
開始剤を供給する期間は、アクリル酸の供給期間よりも最大50%長くすることができる。開始剤供給期間は、好ましくは、アクリル酸の供給期間よりも約3~20%長い。調節剤の総供給期間は、好ましくは、アクリル酸供給期間と等しい。調節剤の総供給期間は、通常、アクリル酸供給期間と等しい期間からアクリル酸供給期間よりも50%短い又は長い期間までである。
【0077】
モノマー供給期間又はコモノマーが使用される場合はモノマーの供給期間は、例えば2~5時間である。例えば、全ての供給を同時に開始した場合、調節剤の供給は、モノマー供給が終了する10~30分前に終了し、開始剤の供給は、モノマー供給が終了した10~30分後に終了する。
【0078】
塩基は、通常、アクリル酸の供給を停止した後に水溶液に添加される。こうすることにより、生成したアクリル酸ポリマーの少なくとも一部が中和される。一部中和されたとは、アクリル酸ポリマー中に存在するカルボキシル基の一部のみが塩形態にあることを意味する。通常、pHを実質的に3~8.5の範囲、好ましくは4~8.5の範囲、特に4.0~5.5の範囲(一部が中和される)又は6.5~8.5の範囲(完全に中和される)に確保するために十分な塩基が添加される。使用される塩基は、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。アンモニア又はアミン、例えば、トリエタノールアミンを使用することも可能である。こうして達成された、得られたポリアクリル酸の中和度は、15%~100%の間、好ましくは30%~100%の間にある。中和は、通常、中和熱が容易に除去できるように、比較的長い時間をかけて、例えば、1/2~3時間実施される。
【0079】
反応は、通常、不活性ガス雰囲気下に実施される。典型的には、これは窒素雰囲気とすることができる。こうすることにより、アクリル酸ポリマーの末端に結合しているリンが、実質的に(一般に、少なくとも90%程度)ホスフィネート基の形態で存在する。
【0080】
更なる変形形態においては、重合を停止した後に、酸化ステップが実施される。酸化ステップにより、末端のホスフィネート基が末端ホスホネート基に変換される。酸化は、通常、アクリル酸ポリマーを酸化剤、好ましくは過酸化水素水溶液で処理することにより実施される。
【0081】
固形分含有量が、概してポリマーの少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも35重量%、特に好ましくは40~70重量%、特に50~70重量%であるアクリル酸ポリマーの水溶液が得られる。
【0082】
本発明に従い得ることができるアクリル酸ポリマーは、有機結合リン及び可能性として無機結合リンの総リン含有量を有し、
(a)リンの第1部分は、ポリマー鎖内に結合しているホスフィネート基の形態で存在し、
(b)リンの第2部分は、ポリマー鎖末端に結合しているホスフィネート基及び/又はホスホネート基の形態で存在し
(c)可能性として、リンの第3部分は、溶解しているリンの無機塩の形態で存在し、
概して、総リン含有量の少なくとも86%は、ポリマー鎖内又はポリマー鎖末端に結合しているホスフィネート基又はホスホネート基の形態で存在する。
【0083】
好ましくは総リン含有量の少なくとも88%、特に好ましくは少なくとも90%が、ポリマー鎖内又はポリマー鎖末端に結合しているホスフィネート基の形態で存在する。本発明に従う供給操作により、ポリマー鎖内に結合しているリンの含有量が特に高くなる。
【0084】
概して、リンの15%以下、好ましくは10%以下が、溶解している無機リン塩の形態で存在する。溶解している無機リン塩の形態で存在するリンは、好ましくは0%~10%、特に0%~6%である。
【0085】
溶解している無機リン塩の量は、ポリマーの質量を基準として、好ましくは≦0.5重量%である。
【0086】
アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは、1000~3000g/mol、好ましくは1000~2500g/mol、より好ましくは1000~2300g/mol、特に好ましくは1000~2100g/mol、特に1000~2000g/mol、具体的には1000~1900g/molとすることが必要である。分子量は、これらの範囲内で、採用した調節剤の量を介して選択的に調節することができる。
【0087】
或いは、アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは、1500~3000g/mol、好適には1500~2500g/mol、より好適には1500~2300g/mol、例えば、1600~2100g/mol又は1600~2000g/mol、具体的には1700~1900g/molとすることができる。同様に、分子量は、これらの範囲内で、採用した調節剤の量を介して選択的に調節することができる。
【0088】
重量平均分子量Mwが>40,000g/molであるポリマーの比率は、概して、ポリマー全体を基準として、3重量%未満、好ましくは1重量%未満、特に好ましくは0.5重量%未満である。
【0089】
アクリル酸ポリマーは、概して、多分散指数Mw/Mnが<2.0、好ましくは1.3~1.8、例えば、1.4~1.7である。
【0090】
アクリル酸ポリマーは、そのK値という観点で特徴付けることができる。典型的には、K値は18以下となり得る。例えば、K値は12~18、13~17、好適には14~16となり得る。アクリル酸ポリマーのK値は、H.Fikentscher,Cellulose-Chemie,volume 13,58-64及び71-74(1932)に従い、濃度5%、pH7の塩化ナトリウム水溶液中で、ポリマー濃度を0.5重量%とし、25℃の温度で測定することができる。
【0091】
アクリル酸ポリマーは、共重合したエチレン性不飽和コモノマーを、全てのエチレン性不飽和モノマーを基準として、最大30重量%、好ましくは最大20%、特に好ましくは最大10重量%含む。好適なエチレン性不飽和コモノマーの例は、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)並びにこれらの塩である。これらのコモノマーの混合物も存在してもよい。
【0092】
コモノマーを含まない、アクリル酸ホモポリマーが特に好ましい。
【0093】
本発明による使用の好ましい一実施形態において、アクリル酸のポリマーは、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作しながら重合させるプロセスにより得られ、このプロセスは、
(i)最初に水及び次亜リン酸塩水溶液及び任意選択的な開始剤を投入することと、
(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、フリーラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とを添加することと、
(iii)アクリル酸の供給を停止した後、水溶液に塩基を添加することと、
を含み、
コモノマー含有量は、モノマーの総含有量を基準として30重量%を超えず、アクリル酸、フリーラジカル開始剤水溶液及び次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、xの値が±0.5の範囲で安定し、0.9~1.1の範囲内、好ましくは1.0になるように添加され、
アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは1000~2500g/molであり、
淡水化システムは、
少なくとも112℃、好ましくは少なくとも120℃の温度で操作される少なくとも1種の多段フラッシュ法(MSF);
少なくとも70℃、好ましくは少なくとも80℃の温度で操作される少なくとも1種の多重効用蒸発法(MED);及び
逆浸透(RO)膜を備える逆浸透法(RO);
からなる群の少なくとも1種を含む。これは、アクリル酸も1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーも含まないステップ(i)と解釈することができる。したがって、ステップ(i)は、最初に水及び次亜リン酸塩水溶液及び任意選択的な開始剤のみを投入することと定義することができる。
【0094】
本発明による使用の他の好ましい一実施形態において、アクリル酸のポリマーは、溶媒としての水中で、次亜リン酸塩の存在下に、フリーラジカル開始剤と一緒にアクリル酸を供給操作しながら重合させるプロセスにより得られ、このプロセスは、
(i)最初に水及び次亜リン酸塩水溶液及び開始剤を投入することと、
(ii)非中和酸性形態にあるアクリル酸と、任意選択的な1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーと、フリーラジカル開始剤水溶液と、次亜リン酸塩水溶液とを添加することと、
(iii)アクリル酸の供給を停止した後、水溶液に塩基を添加することと、
を含み、
コモノマー含有量は、モノマーの総含有量を基準として、30重量%を超えず、アクリル酸、フリーラジカル開始剤水溶液及び次亜リン酸塩水溶液は、アクリル酸対リンに結合している水素のモル比x、すなわち[AA]/[P-H]が、アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、x値が±0.25の範囲で安定し、1.0となるように添加され、アクリル酸ポリマーの重量平均分子量Mwは、1000~2500g/molであり、淡水化システムは、少なくとも120℃の温度で操作される多段フラッシュ法(MSF);少なくとも80℃の温度で操作される少なくとも1種の多重効用蒸発法(MED);及び逆浸透(RO)膜を備える逆浸透法(RO)からなる群の少なくとも1種を含む。これは、アクリル酸も1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマーも開始剤も含まないステップ(i)と解釈することができる。したがって、ステップ(i)は、最初に水及び次亜リン酸塩水溶液及び開始剤を投入することと定義することができる。
【0095】
以下の実施例によって本発明を説明する。
【実施例
【0096】
実施例1及び2に使用するポリマー
国際公開第2017134128号パンフレットの13~15頁に記載されている実施例に詳述されているプロセスにより、アクリル酸を重合させることによって以下に示すアクリル酸ポリマー試料を調製した。アクリル酸、次亜リン酸ナトリウム(SHP)及び過硫酸ナトリウムの質量を以下の表1に示し、具体的な手順のパラメータ及びポリマーの特性を以下の表2に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
生成物A及び生成物Bはいずれも請求項1の範囲に含まれることになるアクリル酸のポリマーである。生成物Aは、ラマンプローブを用いてアクリル酸供給を制御することにより調製し、生成物Bは、アクリル酸を線形速度で供給することにより調製した。生成物A及び生成物Bの調製に関する具体的な詳細を以下の表2の後に示す。
【0099】
残りの3種のポリマー試料である生成物C、生成物D及び生成物Eは比較用である。
【0100】
【表2】
【0101】
生成物Aを調製するための具体的なプロセスの説明
使用した装置:
アンカー型撹拌羽根を備える金属製反応器;反応器容量:2.2L
Huber恒温器
添加量制御用ダイヤフラムポンプ3台
ラマンプローブ
【0102】
手順:
水(420.3g)を反応器に注ぎ、反応器に5barの窒素を3回流した。次いで、水を所望の反応温度である95℃に加熱した。水が所望の温度に到達したら、次亜リン酸ナトリウム溶液(40%w/w)10.0gを反応器に投入した。次亜リン酸ナトリウムを反応器に投入した後、過硫酸ナトリウム2.7g(7%w/w)を反応器に投入した。この次亜リン酸ナトリウム及び過硫酸ナトリウムの投入を初期投入と称する。次いで、次亜リン酸ナトリウム溶液(40%w/w)298.9gを、供給口1を介して反応器に5時間35分かけて供給し、アクリル酸1251.0gを、供給口2を介して反応器に6時間5分かけて供給し、硫酸ナトリウム溶液(7%w/w)188.0gを、供給口3を介して反応器に6時間20分かけて供給した。この3つの供給は同時に開始した。次亜リン酸ナトリウム溶液の供給はラマンプローブを介して制御し、投入期間にわたり確実に一定に投入されるようにした。アクリル酸の投入は、アクリル酸を反応器に供給する期間にわたり、次亜リン酸塩含有量の比が58.5%に制御されるように設定した。過硫酸ナトリウムの投入計画は、過硫酸ナトリウムを投入する期間にわたり、アクリル酸含有量に対する比が14.36%に制御されるように設定した。プロセス全体を通して温度を95℃に維持した。撹拌器の速度は、アクリル酸の供給を停止するまでは150rpmに維持し、その後、撹拌速度を210rpmに上昇させた。
【0103】
生成物Bを調製するための具体的なプロセスの説明
使用した装置:
アンカー型撹拌羽根を備える金属製反応器;反応器容量:2.2L
Huber恒温器
添加量制御用ダイヤフラムポンプ3台
【0104】
手順:
水(421.0g)を反応器に注ぎ、反応器に5barの窒素を3回流した。次いで、水を所望の反応温度である95℃に加熱した。水が所望の温度に到達したら、次亜リン酸ナトリウム溶液(40%w/w)10.2gを反応器に投入した。次亜リン酸ナトリウムを反応器に投入した後、過硫酸ナトリウム2.7g(7%w/w)を反応器に投入した。この次亜リン酸ナトリウム及び過硫酸ナトリウムの投入を初期投入と称する。次いで、次亜リン酸ナトリウム溶液(40%w/w)298.8gを、供給口1を介して反応器に5時間36分かけて供給し、アクリル酸1251.4gを、供給口2を介して反応器に6時間5分かけて供給し、硫酸ナトリウム溶液(7%w/w)188.0gを、供給口3を介して反応器に6時間20分かけて供給した。この3つの供給は同時に開始した。次亜リン酸ナトリウム溶液、アクリル酸及び過硫酸ナトリウムを、それぞれの投入期間にわたり一定の供給速度を維持しながら、それぞれ反応器に供給した。プロセス全体を通して温度を95℃に維持した。撹拌器の速度は、アクリル酸の供給を停止するまでは150rpmに維持し、その後、撹拌速度を180rpmに上昇させた。
【0105】
生成物C~Eは生成物Bと同様にして調製した。
【0106】
異なるプロセスにより、更なるポリマー試料を、アクリル酸、亜硫酸水素ナトリウム及び過硫酸ナトリウムを使用して調製した。アクリル酸、亜硫酸水素ナトリウム及び過硫酸ナトリウムの質量を表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
生成物F、生成物G及び生成物Hの3種のポリマー試料は全て比較用である。
【0109】
更なる比較用ポリマー試料は、次亜リン酸塩を使用し、本発明により必要とされるプロセスで調製していないポリアクリル酸であり、Mnが約1250g/molであり、Mwが約2460g/molであり、PDIが約2.0である市販の製品(生成物X)を含むものとした。
【0110】
更なる比較用ポリマー試料は、亜硫酸塩を使用し、本発明により必要とされるプロセスで調製していないポリアクリル酸であり、Mnが約1050g/molであり、Mwが約2050g/molであり、PDIが約2.0である、市販の製品(生成物Y)を含むものとした。
【0111】
実施例1
適用性試験の作業
全てのポリマー試料から、ストック溶液を、脱イオン水中で活性成分の濃度が0.1%になるように調製し、希水酸化ナトリウム溶液でpH7.0に調整した。
【0112】
試験1-硫酸カルシウムスケール抑制試験
NaCl、NaSO、CaCl及びポリマーの溶液を70℃の水浴中で24時間振盪した。溶液がまだ温かいうちに0.45ミクロンのマイレクスフィルターで濾過した後、濾液のCa含有量を、錯滴定で又はCa2+選択電極により決定し、前/後の比較を行うことにより、CaSO抑制率(%)を決定する(式I参照)。
【0113】
条件
Ca 2-2940mg/l
SO 2- 7200mg/l
Na 6400mg/l
Cl 9700mg/l
ポリマー 5mg/l(100%ig)
温度 90℃
時間 24時間
pH 8.0~8.5
【数4】
【0114】
試験2-炭酸カルシウムスケール抑制試験
NaHCO、MgSO、CaCl及びポリマーの溶液を70℃の水浴中2時間振盪した。溶液がまだ温かいうちに0.45ミクロンのマイレクスフィルターで濾過した後、濾液のCa含有量を錯滴定で又はCa2+選択電極を用いて決定し、前/後の比較を行うことにより、CaCO抑制率(%)を決定する(式II参照)。
【0115】
Ca 2-215mg/L
Mg2+ 43mg/L
HCO 1220mg/L
Na 460mg/L
Cl 380mg/L
SO 2- 170mg/L
ポリマー 3mg/L(100%ig)
温度 70℃
時間 2時間
pH 8.0~8.5。
【数5】
【0116】
分散性に悪影響が及ぼされないことを確認するために、以下に示す試験3~6により、特定の結晶性粒子の水中分散能力を評価する。
【0117】
試験3-炭酸カルシウム分散試験
まず、溶液及びCaCl・6HOを100.00g/L及びNaCOを48.40g/Lを合わせることによって純粋な炭酸カルシウムを析出させた後、これをホワイトバンド(white-band)濾紙で分離した。
【0118】
CaCO(<100ミクロン)10.0gを、被験ポリマー12.5ppmを含む10°dHの水道水に混ぜて10分間撹拌した。1Lのメスシリンダー内で、直後及び3時間後に、限界値(limit)、すなわち清澄な水に対する濁りを読み取った。
【数6】
【0119】
試験4-酸化鉄分散試験
Feを0.1gを、被験ポリマー20ppmを含む10°dHの水道水に混ぜて10分間撹拌した。100mLのメスシリンダー内で、直後及び1時間後に濁度測定器具を用いて濁度をNTU単位(比濁計濁度単位(Nephelometric Turbidity Unit))で求めた。
【数7】
【0120】
試験5-カオリン分散試験
カオリン0.1gを、被験ポリマー20ppmを含む完全脱塩水に混ぜて10分間撹拌した。100mLのメスシリンダー内で、直後及び1時間後に濁度測定器具を用いて濁度をNTU単位(比濁計濁度単位)で求めた。
【数8】
【0121】
試験6-ハイドロキシアパタイト分散試験
Ca(POOHを0.6gを、被験ポリマー100ppmを含む10°dHの水道水に混ぜて10分間撹拌した。100mLのメスシリンダー内で、直後及び1時間後に濁度測定器具を用いて濁度をNTU単位(比濁計濁度単位)で求めた。
【数9】
【0122】
試験1~6の結果を表4に示す。
【0123】
【表4】
【0124】
試験1~6の概括
本発明によるポリマーである生成物A及び生成物Bは、分子量Mwが1500~3000g/molであり、次亜リン酸塩を使用し、アクリル酸の少なくとも75%が転化している期間にわたり、モル比[AA]/[P-H]を表す値xを±0.5の範囲で一定とし、且つ0.8~2の範囲内とするプロセスによって調製されたものであり、これらは、硫酸カルシウム及び炭酸カルシウムの抑制率が、次亜リン酸塩を使用する類似のプロセスステップにより調製されているが、分子量Mwが特許請求されている範囲である3000g/molを超えているポリマー又は本発明と類似のプロセスステップにより調製されたものではないポリマーと比較して、大幅に改善されている。本発明によるポリマーである生成物A及び生成物Bは、比較試験と比較して、Feの分散性が向上していることも明らかである。他の全ての試験においては、本発明ポリマーである生成物A及び生成物Bは、比較用ポリマーと同程度の良好な効果を示す。
【0125】
実施例2
塩水系において塩基性Ca/Mg塩の沈着を抑制するための実験(DSL法)
本発明ポリマーの沈着物抑制効果を、PSL Systemtechnikの「Differential Scale Loop(DSL)」装置の改良型を利用して実施する。これはパイプライン及び送水管内の塩の析出及び沈着を調査するための完全自動化された実験室用システムである、「管内閉塞システム(tube blocking system)」である。この装置において、塩化カルシウム/マグネシウム溶液Aを、被験ポリマーを含む炭酸水素ナトリウム溶液Bと、改変した操作方式で、110℃の温度及び面圧2barで、混合点において体積比1:1で混合し、ステンレス鋼製試験用キャピラリーに、一定の温度、一定の流速でポンプ送液した。ここでは、混合点(キャピラリーの始点)とキャピラリーの終点との差圧を測定する。差圧が上昇することは、塩基性カルシウム/マグネシウム塩(アラゴナイト、ハイドロマグネサイト、ブルーサイト)がキャピラリー内に沈着することを示唆している。圧力が規定の高さ(0.1bar)の上昇を示すまでに測定された時間が、使用したポリマーの沈着物抑制作用の指標である。
【0126】
具体的な試験条件を以下に示す:
試験液A:
CaCl・2HO 4.41g/L
MgCl・6HO 30.16g/L
KCl 1.13g/L
NaCl 29.466g/L
試験液B:
NaHCO 1.01g/L
NaCO 0.491g/L
KCl 1.13g/L
NaSO 11.63g/L
NaCl 29.466g/L
得られた生成物:
塩度:45,000ppm
Ca2+ 600ppm
Mg2+ 1800ppm
HCO 370ppm
pH 8.5
A及びBを混合した後のポリマー濃度:2mg/l(100%)
キャピラリーの長さ:2m
キャピラリーの直径:0.75mm
キャピラリーの材料:ステンレス鋼
温度:110℃
総流量:5ml/分
系内圧力:2bar
圧力上昇の閾値:0.1bar
最大試験時間:300分
【0127】
結果:
各試験において圧力上昇までに要した時間を示した結果を表5に示す。
【0128】
【表5】
【0129】
本発明によるポリマー試料である生成物Aは、ブランク又は比較用生成物と比較すると、最大試験時間である300分間に達したことから、スケールによる被覆物形成を最も抑制することを示している。
【0130】
実施例3で使用したポリマー
国際公開第2017134128号パンフレットの13~15頁に記載されている実施例に詳述されているプロセスによってアクリル酸を重合させることにより、以下に示すアクリル酸ポリマー試料を調製した。次亜リン酸ナトリウム(SHP)及び過硫酸ナトリウムを表1に示し、具体的な手順のパラメータ及びポリマーの特性を表2に示す。
【0131】
【表6】
【0132】
生成物A及び生成物Jはいずれも請求項1の範囲に含まれることになるアクリル酸のポリマーである。生成物Jは、生成物Aと同様にして、ラマンプローブを用いてアクリル酸の供給を制御することにより調製した。生成物Jは、生成物Aの製造に用いた温度よりも高い108℃で調製し、その結果として重量平均分子量(Mw)が低下した。生成物Jの場合、アクリル酸の少なくとも75%が転化している間の[AA]/[P-H]比は、0.8~2.0の範囲となることを期待した。
【0133】
残りの2種のポリマー試料である生成物K及び生成物Dは比較用である。
【0134】
異なるプロセスにより、更なるポリマー試料を、アクリル酸、亜硫酸水素ナトリウム及び過硫酸ナトリウムを使用して調製した。アクリル酸、亜硫酸水素ナトリウム及び過硫酸ナトリウムの質量を表7に示す。
【0135】
【表7】
【0136】
ポリマー試料である生成物Lは比較用である。
【0137】
更なる比較用ポリマー試料は、亜硫酸水素塩を使用し、本発明に従い必要とされるプロセスにより調製されていない、Mwが約5000g/molであり、PDIが約2.4であるポリアクリル酸である市販品(生成物Z)を含むものとした。
【0138】
実施例3
適用性試験の作業
ポリマー試料のストック液を実施例1に従い調製した。
【0139】
試験1-硫酸カルシウムスケール抑制試験
試験液:水は全て超純水を使用した。
0.1%のポリマー溶液をNaOH又はHClでpH7.0に調整した。
溶液I
15.00g NaCl
42.60g NaSO
水2Lを加えた。
溶液II
15g NaCl
43.22g CaCl・2 H
水2Lを加えた。
緩衝液 pH10
108g NHCl
700mL NH4OH(25%ig)
水2Lを加えた。
コンディショニング液 Ca-ISE
0.277g CaCl2
水250mlを加えた。
【0140】
性能
各ポリマーごとに3種の測定を実施した。溶液Iを50gを180mLのPEカップに入れた。0.1%のポリマー溶液500μLを加え(最終試験液中5ppm)、溶液IIを50gを加えた。この試料溶液1mLを超純水100mLに加え、Ca2+の量を滴定により求めた。試料を密閉し、所望の試験温度下で24時間、70rpmで保管した。24時間後、カップを水浴から取り出し、この温かい溶液約10mLを即座に使い捨てシリンジを用いてマイレクスフィルター(0.45μm)で濾過し、ペニシリン瓶に入れた。濾過した溶液1mLを滴定により分析した。
【数10】
【0141】
試験2-炭酸カルシウムスケール抑制試験
試験液:水は全て超純水を使用した。
0.1%のポリマー溶液をNaOH又はHClでpH7.0に調整した。
溶液I
3.154g CaCl・2 H
1.76g MgSO・7 HO水2Lを加えた。
溶液II
6.72g NaHCO水2Lを加えた。
緩衝液 pH10
108g NHCl
700mL NHOH(25%ig)
水2Lを加えた。
コンディショニング液 Ca-ISE
0.277g CaCl
水250mlを加えた。
【0142】
性能
各ポリマーごとに3種の測定を実施した。溶液Iを50g、180mLのPEカップに入れた。0.1%のポリマー溶液300μLを加え(最終試験液中3ppm)、溶液IIを50g加えた。この試料溶液5mLを超純水100mLに加え、Ca2+の量を滴定により求めた。試料を密閉し、所望の試験温度下で2時間、毎分70回振盪しながら保管した。2時間後、カップを水浴から取り出し、この温かい溶液約10mLを即座に使い捨てシリンジを用いてマイレクスフィルター(0.45μm)で濾過し、ペニシリン瓶に入れた。濾過した溶液5mLを滴定により分析した。
【0143】
試験3-炭酸カルシウム分散試験
析出させた炭酸カルシウムの分散液の作製
溶液A:CaCa・2HOを67.12g、超純水400mLに溶解した。溶解後、この溶液を超純水で1000gにした。
溶液B:Na2CO3を48.40g、超純水400mLに溶解した。溶解後、この溶液を超純水で1000gにした。
【0144】
析出:溶液Aを3Lのビーカーに注ぎ、約600rpmで撹拌した。これを溶液Bに加えた。合わせた溶液をホワイトバンド濾紙で濾過した。こうして形成された濾過ケークを125℃で少なくとも2時間乾燥させた。その後、濾過ケークを砕いた。粉末を400μm、200μm、100μmの一連の篩を用いて10分間(振幅1.50)かけて篩別した。
【0145】
方法:水(10°dH)1000gを2Lのビーカーに注いだ。この水に1%ポリマー溶液(CaCO3を基準として12.5ppm)1.25mLを加えた。この水にCaCO3を加え、約500rpmで10分間撹拌した。この時間が経過した後、溶液を1Lのメスシリンダーに移し替えた。3時間経過した直後に、水の濁度の限界値を測定した。
【数11】
【0146】
試験4-酸化鉄分散試験
方法:酸化鉄(III)0.1gを150mLのビーカーに入れ、水(10°dH)98mLを加えた。ビーカーをマグネチックスターラーの上に置き、内容物を700rpmで撹拌した。被験ポリマーの溶液を加えた(ポリマー20ppm又は0.1%の溶液を2.0mL)。この溶液を10分間撹拌した。この時間が経過する少し前に試料溶液1mLを取り出し、10mLの円筒状キュベット(11mm)に移し、4mLの超純水を加えた。その直後にHach Lange 2100AN Turbidmeterを用いて濁度を測定した。溶液を100mLの有栓メスシリンダーに移し替えて密閉した。1時間後、80mLの位置から1mLの試料を採取した。
【数12】
【0147】
試験5-カオリン分散試験
方法:カオリン(「Speswhite」)/(「OT 82」)0.1gを150mLのビーカー(Haiphong)に入れ、超純水98mLを加えた。ビーカーをマグネチックスターラーの上に置き、内容物を700rpmで撹拌した。被験ポリマーの溶液(20ppm又は0.1%ポリマー溶液を2.0mL)を混合物に加えた。これを10分間撹拌した。この時間が経過する少し前に試料混合物1mLを取り出し、10mLの円筒状キュベット(11mm)に移し、4mLの超純水を加えた。その直後にHach Lange 2100AN Turbidmeterを用いて濁度を測定した。溶液を100mLの有栓メスシリンダーに移し替えて密閉した。1時間後、80mLの位置から1mLの試料を採取した。
【数13】
【0148】
試験6-ハイドロキシアパタイト分散試験
ハイドロキシアパタイト0.6gを150mLのビーカー(トール)に入れ、水(10°dH)99mLを加えた。ビーカーをマグネチックスターラーの上に置き、内容物を700ppmで撹拌した。被験ポリマーの溶液(100PPM又は1.0%ポリマー溶液を1.0mL)を混合物に加えた。この混合物を10分間撹拌した。この時間が経過する少し前に試料混合物1mLを取り出し、10mLの円筒状キュベット(11mm)に移し、4mLの超純水を加えた。その直後にHach Lange 2100AN Turbidmeterを用いて濁度を測定した。溶液を100mLの有栓メスシリンダーに移し替えて密閉した。1時間後、80mLの位置から1mLの試料を採取した。
【数14】
【0149】
試験1~6の結果を表8~14に示す。
【0150】
【表8】
【0151】
【表9】
【0152】
【表10】
【0153】
【表11】
【0154】
【表12】
【0155】
【表13】
【0156】
【表14】
【0157】
表8及び9に示した結果から、本発明のコポリマー生成物A及びJは、比較用生成物と比較して、硫酸カルシウムに対しても炭酸カルシウムに対しても、それぞれ70℃、80℃、90℃及び95℃の各温度で改善されたスケール抑制性を示すことが分かる。この傾向は本発明の生成物の両方で明らかに認められる。
【0158】
表10~14に示す結果は、本発明の生成物である生成物A及びJが一連の無機物質に対し良好な分散性を示し、比較用生成物と同等であることも示している。
【国際調査報告】