(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池を処理するためのエネルギー効率の高い乾式冶金プロセス
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240517BHJP
C22B 5/02 20060101ALI20240517BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20240517BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B5/02
C22B3/06
H01M10/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572897
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2022063978
(87)【国際公開番号】W WO2022248436
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】レナート・ショイニス
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001DA05
4K001DB02
4K001HA01
4K001HA09
4K001HA11
4K001KA01
4K001KA02
4K001KA06
5H031RR02
(57)【要約】
本開示は、電池および他の供給源からNiおよびCoを回収するための2段階の製錬プロセスに関する。前記プロセスは次のステップで構成される:-酸化レベルOxおよび電池含有冶金装入物を定義するステップ;-定義された酸化レベルOxに達するように溶融物にO2含有ガスを注入することにより冶金装入物を酸化製錬するステップ;および、-熱源と還元剤を使用して、得られたスラグを還元製錬するステップ。前記プロセスは、単一ステップの還元製錬プロセスよりもエネルギー効率が高く、より高純度の合金とよりクリーンな最終スラグを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグ形成剤と、Co、Ni、金属Al、およびCを含むリチウムイオン電池またはその派生製品とを含む冶金装入物から有価金属を回収するためのプロセスであって、
- O
2含有ガスの液中注入手段を備えた冶金製錬炉を提供するステップ;
- 式:
Ox=pCO
2/(pCO+pCO
2)
に従って酸化製錬条件を特徴付ける酸化レベルOxを定義するステップであって、
式中、0.1<Ox<1であり、pCOおよびpCO
2は溶融物と接触しているCOおよびCO
2の分圧である、ステップ;
- 式:
1>Bf>0,3/((1+3.5*Ox)*C)+2.5*Al)
に従って、リチウムイオン電池またはその派生製品の重量分率Bfを含む前記冶金装入物を調製するステップであって、
式中、Oxは前記酸化レベルであり、AlおよびCは前記電池またはその派生製品における金属AlおよびCのそれぞれの重量分率である、ステップ;
- 定義された前記酸化レベルOxに達するように前記溶融物にO
2含有ガスを注入することによって前記冶金装入物を酸化製錬し、それにより、Niの大部分を有する第1の合金と、残りのNiおよびCoを含む第1のスラグとを得るステップ;
- 前記第1のスラグからの前記第1の合金の液体/液体分離ステップ;および
- 熱源および還元剤を使用して前記第1のスラグを還元製錬し、NiおよびCoの還元を確実にする還元電位を維持し、それにより第2の合金、および1重量%未満、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.1%未満のNiを含有する第2のスラグを製造するステップ
を含む、プロセス。
【請求項2】
スラグ形成剤と、Co、Ni、金属Al、およびCを含むリチウムイオン電池またはその派生製品とを含む冶金装入物から有価金属を回収するためのプロセスであって、
- O
2含有ガスの液中注入手段を備えた冶金製錬炉を提供するステップ;
- 前記冶金装入物におけるリチウムイオン電池またはその派生製品の重量分率Bfを使用して前記冶金装入物を調製するステップ;
- 式:
Ox=pCO
2/(pCO+pCO
2)>(((0.3/Bf-2.5*Al)/C)-1)/3.5,
に従って酸化製錬条件を特徴付ける酸化レベルOxを定義するステップであって、
式中、0.1<Ox<1であり、pCOおよびpCO
2は溶融物と接触しているCOおよびCO
2の分圧であり、AlおよびCは前記電池またはその派生製品における金属AlおよびCのそれぞれの重量分率である、ステップ;
- 定義された前記酸化レベルOxに達するように前記溶融物にO
2含有ガスを注入することによって前記冶金装入物を酸化製錬し、それにより、Niの大部分を有する第1の合金と、残りのNiおよびCoを含む第1のスラグとを得るステップ;
- 前記第1のスラグからの前記第1の合金の液体/液体分離ステップ;および
- 熱源および還元剤を使用して前記第1のスラグを還元製錬し、NiおよびCoの還元を確実にする還元電位を維持し、それにより第2の合金、および1重量%未満、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.1%未満のNiを含有する第2のスラグを製造するステップ
を含む、プロセス。
【請求項3】
前記酸化製錬のステップが自家的である、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記第1のスラグが、延期液体/液体分離ステップと前記還元製錬のステップとの間で液体状態に維持される、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記O
2含有ガスが富化空気または純粋なO
2である、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
Ox<0.98、好ましくはOx<0.95である、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記スラグ形成剤が、重量で50%までのCaO、55%までのAl
2O
3、および65%までのSiO
2を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
分離された前記第1のスラグを、還元製錬のステップを実行するのに適した第2の炉に移送するステップをさらに含み、それによって、第2のNiおよびCo含有合金と、枯渇した第2のスラグを得る、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記第2の炉が電気炉である、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記第2のスラグから前記第2の合金を液体/液体分離するステップをさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
分離された前記第2の合金を、好ましくは液体状態で、自家製錬のステップに再循環するステップをさらに含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
以下のステップをさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロセス:
- 前記第1の合金を噴霧するステップ;および、
- 噴霧された合金を酸性条件で溶解し、それによってさらなる湿式冶金精製に適した金属含有溶液を得るステップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池および他のソースからNiおよびCoなどの有価金属を回収するプロセスに関する。Ni-Co合金およびスラグが生成される。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車は前例のない成長をしており、とりわけ、ヨーロッパと中国では、車両のCO2フットプリントを段階的に削減し、都市における大気汚染を制限するために作られた新しい法律によって推進されている。この成長は今後数十年間続くと予想される。電気自動車の導入は、電気エネルギーを貯蔵するために使用される電池の性能に大きく依存する。コストを制御しながら最高のエネルギー密度を得るには、リチウムイオン電池が使用される。これらの電池の多くは、遷移金属Ni、MnおよびCoを基にしたカソードを含み、したがってNMC電池としても知られる。電動モビリティ市場の成長に伴い、これらの金属の需要は著しく増加すると予想される。
【0003】
NiとCoの需要は世界の生産能力を上回る可能性さえある。Coは現在、NiおよびCu産業の副産物としてのみ生産されているため、特に危機的である。Ni市場はCo市場よりも著しく大きい。Niの大部分はステンレス鋼の製造に使われるが、そこでは純度は比較的重要でない。しかしながら、高純度のNiおよびCo金属または化合物はすでに不足している。上記を考慮すると、使用済み電池からNiおよびCoを回収することは魅力的な提案である。
【0004】
廃電池からの金属の回収を可能にする多くの製錬プロセスが提案されている。そのようなプロセスは、一般に合金およびスラグを生成する。合金は、十分に純粋であれば、例えばリチウムイオン電池用のカソード材料の調製に適している可能性があり、したがってループを閉じる。スラグは、重金属が十分に枯渇していれば、建設産業での使用または安全な廃棄に適している可能性がある。
【0005】
しかしながら、エネルギーを節約しつつ、純粋な合金および高度に枯渇したスラグを得ることは難しい。
【0006】
ヨーロッパでは、分類、表示および包装(CLP)法EC No 1272/2008により、NiおよびCoのうちのいずれか1つを0.1%より多く有する全てのスラグの、有害な可能性のある材料としてのラベリングが要求されている。そのため、材料のエンドユーザはリスク分析を実行するよう要求される:これにより、ほとんどの既知の用途でのそのようなスラグの再利用が妨げられ、禁止されさえする。
【0007】
Coおよび/またはNiを含む冶金装入物(charge)を製錬する際、スラグは典型的には上記の制限よりも多くの重金属を含むだろう。これは、例えば、Elwertらによって例示され(World of Metallurgy-Erzmetall、GDMB-Medienverlag、Clausthal-Zellerfeld、Vol.65、no.3、163-171、2012)、3つの典型的なスラグおよびそれらの詳細な相組成が議論されている。
【0008】
還元レベルを高めることにより、スラグのNiおよびCo含有量の合計を0.1%未満までさらに低減することが可能である。しかしながら、これらの還元反応は吸熱性であり、さらに重要なことに、ほとんどの場合炭素系である還元剤を必要とする。必要な還元レベルは、Cが燃焼してCO2ではなくCOになることを伴う。これにより、冶金装入物の加熱および溶融に利用できるエンタルピーが大きく制限され、追加の加熱手段の使用が必要となる。
【0009】
WO2018073145は、電池などのCo含有材料のCuまたはNi転炉への追加を教示している。装入物は本質上、マット(matte)、すなわち金属硫化物を含む。転炉で典型的なように、SO2へのSの酸化によって製錬熱が生み出される。この反応のエンタルピーが、硫化物装入物とともに電池の限られた部分を製錬するために使用される。
【0010】
WO2011035915には、Co、Ni、およびCu含有合金およびスラグを生成する、廃リチウムイオン電池の処理のための高温プロセスが記載されている。エネルギーは、そのような電池内のAlおよびCの酸化によって供給され、これは自家製錬プロセス(autogenous smelting process)に相当する。そのような自家プロセスを確実にするために、WO2011035915は、総装入物に占める廃電池のパーセンテージが153%-3.5(Al+0.6C)よりも高くなければならないと教示しており、ここで、AlおよびCは電池中のAlおよびCの重量%である。電池内のAlの主な供給源は包装材料に由来する。その開示による自家製錬は、電池が総装入物中に主として存在する場合、および電池が高濃度のAlおよび/またはCを含む場合にのみ達成され得る。
【0011】
最近、いわゆるセルツーパック技術(cell-to-pack technology、CTP)を備えた電池パックの新しい設計が市場で目立つようになった。この技術を使用した電池パックは、顕著に低いAl含有量によって特徴づけられる。上記の式では、数学的には装入物中で100%を超える電池の追加を必要とする。したがって、このようなAlが乏しい電池では自家製錬は可能ではない。
【0012】
このタイプの電池を製錬するには、他のプロセスも利用できる。例えば、WO2016023778では、電池の製錬に必要な追加のエネルギーを供給するために電気プラズマが使用されている。当然、追加のエネルギーは結果としてより高いコストをもたらす。このプロセスのさらなる欠点は、合金中のより高い不純物レベルである。これは、WO2011035915にも見られる。
【0013】
廃リチウムイオン電池から金属を回収するための2段階の製錬プロセスがEP2677048から知られている。それは、強力な還元の第1のステップで不純な合金を形成し、続いて酸化的な第2のステップで精製することを教示する。第1のステップは、エネルギー効率が高くなく、自家的でもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2018/073145号
【特許文献2】国際公開第2011/035915号
【特許文献3】国際公開第2016/023778号
【特許文献4】欧州特許出願公開第2677048号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Elwert他、World of Metallurgy-Erzmetall、GDMB-Medienverlag、Clausthal-Zellerfeld、Vol.65、no.3、163-171、2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、エネルギー必要量を最適化する代替の2段階製錬プロセスを開示する。製錬条件により、廃電池のAlおよびC含有量が低い場合でも、第1のステップで自家製錬が可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この結果は、廃電池の化学エネルギーをより良く利用することによって達成される。このため、第1の製錬ステップのプロセス条件は、CをCO2に酸化するように選択される。これは、強力な還元条件が、CがCOのみに酸化されることを意味する既知のプロセスとは対照的である。実際、CO2への酸化ははるかに多く発熱し、廃電池以外の成分が含まれている場合でも、完全な装入物を溶かすのに必要なエネルギーを供給する。
【0018】
第1のステップの酸化的な条件に起因して、一部のNiとCoがスラグに行く。したがって、還元的なスラグ洗浄の第2のステップが必要となる。この第2のステップはスラグのみに対して実行され、スラグは好ましくは液体状態に保たれ、最小限の量のエネルギーのみを必要とする。したがって、2つのステップの組み合わせの総エネルギー必要量は、単一ステップの製錬プロセスよりも有利である。
【0019】
第1の実施形態によれば、スラグ形成剤と、Co、Ni、金属Al、およびCを含むリチウムイオン電池またはその派生製品とを含む冶金装入物からの有価金属の回収は、以下のステップを含む;
- O2含有ガスの液中注入手段を備えた冶金製錬炉を提供するステップ;
- 以下の式に従って酸化製錬条件を特徴付ける酸化レベルOxを定義するステップ:
Ox=pCO2/(pCO+pCO2),
式中、0.1<Ox<1であり、pCOおよびpCO2は溶融物と接触しているCOおよびCO2の分圧である;
- 以下の式に従って、リチウムイオン電池またはその派生製品の重量分率Bfを含む冶金装入物を調製するステップ:
1>Bf>0,3/((1+3.5*Ox)*C)+2.5*Al),
式中、Oxは酸化レベルであり、AlおよびCは前記電池またはその派生製品における金属AlおよびCのそれぞれの重量分率である;
- 定義された酸化レベルOxに達するように溶融物にO2含有ガスを注入することによって冶金装入物を酸化製錬し、それにより、Niの大部分を有する第1の合金と、残りのNiおよびCoを含む第1のスラグとを得るステップ;
- 第1のスラグからの第1の合金の液体/液体分離ステップ;および
- 熱源および還元剤を使用して第1のスラグを還元製錬し、NiおよびCoの還元を確実にする還元電位を維持し、それにより第2の合金、および1重量%未満、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.1%未満のNiを含有する第2のスラグを製造するステップ。
【0020】
「スラグ形成剤」とは、例えばCaO、Al2O3およびSiO2のうちの1つ以上を意味する。当業者に周知の他のスラグ形成剤もまた存在してもよい。スラグ形成化合物はそのまま添加されてもよいし、装入物中に存在する容易に酸化される金属からその場で(in situ)得られてもよい。
【0021】
「リチウムイオン電池またはその派生製品」とは、新品電池または廃電池、使用済み電池、生産スクラップ、細断後または分別後などの前処理された電池材料を意味する。しかしながら、前記製品は依然としてかなりの量のCo、Ni、金属Al、およびCを含むだろう。
【0022】
元素の「大部分」とは、冶金装入物中に存在する元素量の50重量%超を意味する。
【0023】
酸化レベルOxについての0.1の最小値は、冶金装入物を加熱して溶融するのに十分な量のCO2の生成の必要性によって決定される。一般に、COの生成だけでは十分ではないからである。1未満という上限は、製錬ステップにおいてNiの大部分が合金に行くのを妨げる極端な酸化条件の回避に対応する。ここでは、COおよびCO2が溶融物と接触し、それによって酸化還元条件の制御が確実に行われると仮定する。
【0024】
電池の割合Bfによって酸化Oxレベルを定義するステップでは、前述の式に従う条件が結果として得られる必要がある。電池の組成に基づいて、Bfの計算値が物理的に実現可能であること、つまりBf<1であることを検証する必要がある。そうでない場合、1未満の値までのより高いOxを定義すべきである。
【0025】
上記の動作条件は、0.3を超える電池分率Bfの場合に有効であることがわかっている。この値を下回ると、電池は冶金装入物全体の自家製錬を可能にするのに十分なエネルギーを供給できない可能性がある。
【0026】
クリーンスラグは、経済的および環境的な観点から重要である。Niの1重量%と0.5重量%の制限は経済面に基づくが、0.1%は他の有用な用途でスラグを再利用するために一般に受け入れられている上限を表す。
【0027】
式の基準が満たされていれば、酸化レベルOxを定義するステップと冶金装入物を調製するステップの順序は重要ではない。したがって、所与の電池分率Bfから開始して、最小酸化レベルOxを決定することができる。この逆の順序が第2の実施形態の目的である。
【0028】
第2の実施形態によれば、スラグ形成剤と、Co、Ni、金属Al、およびCを含むリチウムイオン電池またはその派生製品とを含む冶金装入物からの有価金属の回収は、以下のステップを含む;
- O2含有ガスの液中注入手段を備えた冶金製錬炉を提供するステップ;
- 冶金装入物におけるリチウムイオン電池またはその派生製品の重量分率Bfを使用して冶金装入物を調製するステップ;
- 以下の式に従って酸化製錬条件を特徴付ける酸化レベルOxを定義するステップ:
Ox=pCO2/(pCO+pCO2)>(((0.3/Bf-2.5*Al)/C)-1)/3.5,
式中、0.1<Ox<1であり、pCOおよびpCO2は溶融物と接触しているCOおよびCO2の分圧であり、AlおよびCは前記電池またはその派生製品における金属AlおよびCのそれぞれの重量分率である;
- 定義された酸化レベルOxに達するように溶融物にO2含有ガスを注入することによって冶金装入物を酸化製錬し、それにより、Niの大部分を有する第1の合金と、残りのNiおよびCoを含む第1のスラグとを得るステップ;
- 第1のスラグからの第1の合金の液体/液体分離ステップ;および
- 熱源および還元剤を使用して第1のスラグを還元製錬し、NiおよびCoの還元を確実にする還元電位を維持し、それにより第2の合金、および1重量%未満、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.1%未満のNiを含有する第2のスラグを製造するステップ。
【0029】
この実施形態では、酸化レベルOxは装入物を調製した後に決定される。所望の酸化および自家製錬条件を可能にするOxの計算値が、酸化レベルOx<1と適合することを検証する必要がある。
【0030】
Oxから開始するBfの決定式と、Bfから開始するOxの決定式は同等であることが示されることができる。
【0031】
第1または第2の実施形態の式を適用すると、自家チャージが生じ、これは、電池またはその派生製品に含まれるエネルギーのみを利用して酸化製錬ステップを実行できることを意味する。追加のエネルギーを、燃料、コークス、もしくはその他の炭素源として、または冶金装入物の残りの反応性化合物として追加する必要はない。
【0032】
しかし、実際の操業では、たとえば、特定の炉の非常に高い熱損失の補償など、さまざまな理由で少量のエネルギーが供給され得る。このような少量は、好ましくは、第1の製錬ステップの総エネルギー必要量の50%未満、より好ましくは10%未満に制限されるべきである。
【0033】
炉の種類および正確な操作温度は重要ではないが、冶金装入物を完全に製錬し、第1の合金および第1のスラグを得ることができる温度であるべきである。1350℃~1800℃などの温度で動作する一般に知られている炉は、リチウムイオン電池またはその派生製品を含む装入物の製錬に適している。以下の例に示すように、幅広い投入材料の溶融を確実にするには1450℃を超える温度が好ましく、エネルギー消費を制限するには1550℃未満の温度が好ましい。
【0034】
前述のいずれかによるさらなる実施形態は、自家酸化製錬ステップ、すなわち電池またはその派生製品に含まれるエネルギーのみを使用することによって特徴づけられる。
【0035】
合金とスラグとの液体/液体分離は冶金産業では非常に一般的であり、たとえば炉から液相をいわゆる「タッピング」することによって達成される。
【0036】
前述のいずれかによるさらなる実施形態では、スラグは、液体/液体分離のステップと還元製錬のステップとの間で液体状態に維持される。
【0037】
これにより、第1の製錬ステップで装入物を加熱して溶融するために費やされるエネルギーが最大限保存されることが保証される。スラグを冷えて固まらせると、還元製錬のステップでそれを再溶融するために追加のエネルギーが必要になる。この余分なエネルギーは、特に第1のスラグの量が冶金装入物の総量よりも大幅に少ない場合には、許容されることがしばしばある。
【0038】
前述のいずれかによるさらなる実施形態では、O2含有ガスは富化空気または純粋なO2である。
【0039】
この実施形態では、空気をO2含有ガスとして使用する場合よりも結果として熱損失が少なくなる。
【0040】
前述のいずれかによるさらなる実施形態では、Ox<0.98、好ましくはOx<0.95である。
【0041】
これらの条件は、酸化レベルがいくらか低下したことに相当する。これらは、第1の合金における直接のNiおよびCoの収率を向上させながら、自家製錬を確実にするのに依然として適切である可能性があり得る。
【0042】
前述のいずれかによるさらなる実施形態では、前記スラグ形成剤は、重量で50%までのCaO、55%までのAl2O3、および65%までのSiO2を含む。
【0043】
これらのガイドラインを使用すると、当業者は、デカンテーションおよび相の分離を可能にする操業温度で十分に低い粘度を有するスラグを容易に得ることができる。スラグ形成剤は、そのまま添加されてもよいし、装入物中に存在する金属、例えば、SiまたはAlなどの酸化によってその場で生成されてもよい。
【0044】
前述のいずれかによるさらなる実施形態では、プロセスは、分離された第1のスラグを、還元製錬のステップを実行するのに適した第2の炉に移送するステップを含み、それによって、第2のNiおよびCo含有合金と、枯渇した第2のスラグを得る。
【0045】
したがって、製錬ステップは、Ni-Co合金の中間タッピングを伴うバッチ式で実行されるか、または2つの異なる炉で実行されることができる。
【0046】
前述のいずれかによるさらなる実施形態では、前記第2の炉は電気炉である。
【0047】
電気炉は、高温で強い還元条件が必要とされる際に実に適している。
【0048】
前述のいずれかによるさらなる実施形態では、プロセスは、第2のスラグから第2の合金を液体/液体分離するステップを含む。
【0049】
この第2の合金は、湿式冶金によってさらに処理され、金属が分離および精製される。これは浸出ステップを意味し、好ましくは合金を噴霧した後に実行される。
【0050】
前述のいずれかによるさらなる実施形態では、プロセスは、分離された第2の合金を、好ましくは液体状態で、冶金装入物を酸化製錬するステップに再循環するステップを含む。
【0051】
この実施形態は、第1の合金への直接収率が低い場合でも、第1の合金における優れたNiおよびCoの全体収率をもたらす。
【0052】
前述のいずれかによるさらなる実施形態では、プロセスは以下のステップを含む:
- 第1の合金を噴霧するステップ;および、
- 噴霧された合金を酸性条件で溶解し、それによってさらなる湿式冶金精製に適した金属含有溶液を得るステップ。
【0053】
第1のステップの酸化レベルは、パラメータOx、すなわち(pCO+pCO2)に対するpCO2の比によって定義される。実際には、このレベルは、Niの大部分が第1の合金に行く結果をもたらす。残留Niは第1のスラグに行き、2重量%を超える濃度になり、好ましくは5%を超える。この残留スラグ化したNiは、スラグ化したCoと共に、第2の合金において回収される。
【0054】
上記の実施形態によれば、第1のステップの酸化操業条件は、結果としてSi、Fe、またはMnなどの他の金属をほとんどまたは全く含まない、比較的純粋なNiおよびCoの第1の合金の大量の生産をもたらす。これらの条件は、Cの少なくとも一部のCO2への完全な酸化を可能にし、装入物を溶融させるのに必要なエネルギーを生産する。
【0055】
第2のステップの還元操業条件は、少量の第2合金中のNiおよびCoの完全な回収を確実にする。この合金はさらに処理されるか、または第1のステップにリサイクルされることができ、NiおよびCoの優れた全体収率を確実にする。この第2のステップでは、1重量%未満のNiを有するクリーンな第2のスラグが生成される。特に第1のスラグが液体に保たれている場合、熱損失の補償を超える大きなエネルギーは必要ない。
【0056】
第2のステップでの強すぎる還元条件は重大な悪影響を有さないが、望ましくない多量のSiおよびMnを含む合金を結果としてもたらす可能性がある。Siは合金の湿式冶金処理における濾過の問題と関連しているため、合金の下流処理中に問題を発生させる可能性がある。Mnの還元は、第2のステップで追加のエネルギーを必要とし、したがって、クリーンなスラグの生産を超えて望ましくない。
【0057】
当業者であれば、Co、NiおよびMnの観察された挙動を基に、石炭または天然ガスなどの還元剤を添加することによって、還元の程度を容易に制御することができるであろう。
【0058】
本発明は以下の例において例示される。
【0059】
例1
表1による冶金装入物は、500kgの電池、80kgの石灰石および20kgのシリカを用いて調製される。200mmのマグネシアクロムレンガで裏打ちされ、1mの直径を有する円筒形の炉が使用される。
【0060】
追加のコークス、天然ガス、または電気エネルギーを必要とせずに1450℃の浴温度を維持しながら、装入物は500kg電池/hの速度で炉に連続的に追加される。熱は、77Nm3/hの速度での液中O2注入を使用して、電池内のAlおよびCの酸化によって供給される。これらの条件は、(CO+CO2)に対するCO2の比の0.30に相当する。
【0061】
1時間後、合金(1.1)を放冷しながら、スラグ(1.1)を炉からタッピングする。このスラグは188kgあり、依然として液体のまま、第2の炉に供給される。この第2のステップでは電気炉が使用される。
【0062】
【0063】
電気炉は1500℃の温度で操業され、3.5kgのコークスが還元剤としてスラグに加えられる。浴の温度を維持するために、30kWhの正味の電力が電気炉に供給される。
【0064】
1時間の還元の後、そしてデカンテーションの後、スラグ(1.2)および合金(1.2)を炉からタッピングし、放冷する。詳細なマテリアルバランスは表2において与えられる。
【0065】
【0066】
例2(比較)
表3による冶金装入物は、500kgの電池、80kgの石灰石および20kgのシリカを用いて調製される。200mmのマグネシアクロムレンガで裏打ちされ、1mの直径を有する円筒形の炉が使用される。
【0067】
追加のコークス、天然ガス、または電気エネルギーを必要とせずに1450℃の浴温度を維持しながら、装入物は500kg電池/hの速度で炉に連続的に追加される。高い金属収率のために所望の還元度に達するように、42Nm3/時間のO2が注入される。適用された条件は、(CO+CO2)に対するCO2の比0.0に相当し、すなわち、本質的にCOのみが存在し、CO2は存在しない。所望の温度を維持するには、220kWhの正味電力が必要となる。
【0068】
1時間の還元後、そしてデカンテーションの後、スラグ(2)および合金(2)を炉からタッピングし、放冷する。詳細なマテリアルバランスは表3において与えられる。
【0069】
【0070】
例1と例2の比較
例1で製造された第1の合金(1.1)は、比較例2の合金(2)よりも少ない不純物を含む。これは、特にCおよびMnの場合に当てはまり、例1の濃度は、1.2%のCおよび6.6%のMnと比較して検出限界の0.1%を下回った。これはFeの場合にも当てはまり、比較例による合金(2)における6.6%と比較して、第1の合金(1.1)における濃度は4%である。例1に従って得られた高い純度により、合金の任意の湿式冶金フォローアップ処理が容易かつ安価になる。
【0071】
さらに、両方のステップにわたって必要な電気エネルギーも例1と例2との間で異なる。例1では、還元プロセスを実行するのに必要なエネルギーは30kWhのみであるのに対し、比較例2では220kWhである。例1の2ステップの製錬プロセスは、比較例2による電気エネルギーの14%のみを必要とした。
【0072】
より大きく、工業スケールの炉を使用すると、還元ステップで必要な具体的な電気エネルギーがさらに低くなるであろうことに留意されたい。炉の面積に対する体積の比が増加するにつれ、ヒース損失が減少し、さらに大きな利点が得られる。
【0073】
例3
表4による冶金装入物は、500kgの電池、80kgの石灰石および20kgのシリカ、ならびに、例えば他の電池リサイクル操業から得られる500kgのスラグおよび100kgの合金を用いて調製される。200mmのマグネシアクロムレンガで裏打ちされ、1mの直径を有する円筒形の炉が使用される。
【0074】
【0075】
追加のコークス、天然ガス、または電気エネルギーを必要とせずに1450℃の浴温度を維持しながら、装入物は500kg電池/hの速度で炉に連続的に追加される。熱は、液中の140Nm3/hのO2を使用して、電池からのAlおよびCの酸化によって供給される。これらの条件は、(CO+CO2)に対するCO2の比0.85に相当する。
【0076】
1時間後、形成された合金(3.1)を炉からタッピングし、放冷する。合計922kgのスラグ(3.1)がタッピングされ、液体のままであるうちに、第2の炉に供給される。このステップには電気炉が使用される。
【0077】
電気炉は1500℃の温度で操業され、45kgのコークスがスラグに追加される。1時間の還元の後、そしてデカンテーションの後、合金(3.2)およびスラグ(3.2)を炉からタッピングし、放冷する。詳細なマテリアルバランスは表5において与えられる。浴の温度を維持するために、190kWhの正味の電力が電気炉に供給される。
【0078】
【0079】
この例は、装入物のかなりの量が電池以外の他の成分を含む場合でも、プロセスは自家操業を可能にすることを示す。しかしながら、より高い酸化度が必要である:例1の0.30と比較して、例3では0.85。このことは、Niが豊富でFeが枯渇した第1の合金(3.1)を結果としてもたらす。この仕様は有利である。しかし、第1の製錬ステップのNiおよびCoの収率はより低い。この低い収率は、第2の製錬ステップからの合金を第1の製錬ステップにリサイクルすることで完全に補償することができる。
【0080】
例4
表6に示される組成を有するリチウムイオン電池は、本発明に従って、200mmのマグネシアクロムレンガで裏打ちされた直径1メートルの円筒形炉内で製錬される。
【0081】
融剤として180kgの石灰石および150kgのシリカを含み、500kgのリチウムイオン電池を含む冶金装入物を調製する。
【0082】
混合物は連続的に500kg電池/hの速度で炉に追加され、コークス、天然ガス、または電気エネルギーを必要とせずに1350℃の浴温度が維持される。エネルギーは、液中O2注入を使用した、電池からのAlおよびCの酸化によって供給される。表6に示す装入物に対して91Nm3/時間のO2が注入される。これらの条件は、0.45のCO2/(CO+CO2)比に相当する。
【0083】
1時間後、相を炉からタッピングする。合金(4.1)は放冷される。スラグ(4.1)は400kgあり、まだ液体である間に、第2の炉に供給される。この第2のステップでは電気炉が使用される。
【0084】
【0085】
第1のステップの後、スラグは分離され、電気炉に移送され、そこでは1500℃の温度が適用され、1時間ごとに10kgのコークスが400kgのスラグとともに加えられる。1時間の還元およびデカンテーションの後、合金およびスラグは炉からタッピングされ、放冷される。詳細なマテリアルバランスは表7において与えられる。
【0086】
【0087】
例5
表8による冶金装入物は、500kgのリチウムイオン電池、100kgの石灰石および40kgのシリカを用いて調製される。200mmのマグネシアクロムレンガで裏打ちされた直径1mの円筒形の炉が使用される。
【0088】
追加のコークス、天然ガス、または電気エネルギーを必要とせずに、1550℃の浴温度を維持しながら、装入物は500kg電池/hの速度で炉に連続的に追加される。熱は、77Nm3/hの速度での液中O2注入を使用して、電池内のAlおよびCの酸化によって供給される。これらの条件は、(CO+CO2)に対するCO2の比0.30に相当する。
【0089】
1時間後、合金(5.1)を放冷しながら、スラグ(5.1)を炉からタッピングする。このスラグは188kgあり、まだ液体である間に、第2の炉に供給される。この第2のステップでは電気炉が使用される。
【0090】
【0091】
電気炉は1500℃の温度で操業され、3.5kgのコークスが還元剤としてスラグに追加される。
【0092】
1時間の還元の後、そしてデカンテーションの後、スラグ(5.2)および合金(5.2)を炉からタッピングし、放冷する。詳細なマテリアルバランスは表9において与えられる。
【0093】
【0094】
結論:
例4および例5は、第1の製錬ステップの異なる温度を有する自家プロセスを示す。
【0095】
バッテリー組成と酸化レベル、Ox=pCO2/(pCO+pCO2)
1>Bf>0,3/((1+3.5*Ox)*C)+2.5*Al)
を使用して、フィードの使用済み電池分率を、自家製錬に必要な最小限の電池分率(Bf)と比較する。
【0096】
例4は60%の電池分率を有するが、自家製錬には59%が必要である。したがって、例4は、所与の電池組成および選択された酸化レベルについての自家製錬のための最小の必要電池分率を示す。このプロセスは、スラグと合金の両方を液体に保つのに十分な1350℃で操業される。
【0097】
例5は78%の電池分率を有するが、自家製錬には69%が必要である。したがって、例5は、自家製錬に必要な最小値よりも高い電池分率を使用し、プロセスは1550℃で操業される。
【国際調査報告】